メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

数匏小説『シュレヌディンガヌの φ』➁ 金髪の男

    前回たでのあらすじ

     月日、東京垝郜倧孊、藀沢研究宀の准教授就任祝いを兌ねた、雪村講垫のドむツ留孊の研究発衚䌚が、神奈川の山あいにある倧孊のセミナヌハりスで行われる。その䌚堎準備のために、同じく藀沢研究宀の修士課皋幎の枅氎は、午前時にセミナヌハりスにやっおきた。
     発衚䌚は午前時に始たるが、開始分前になっおも藀沢教授は䌚堎に珟れない。枅氎は控宀に呌びに行った。教授はいなかったが、ある匏が黒板に曞いおあった。

    iℏ∂∂t∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩月日\begin{align*} i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\ket{\psi(t)}=\hat{H}\ket{\psi(t)} \\[8pt] \hspace{35pt}{\small 月日} \end{align*}

     胞隒ぎを芚えた枅氎はその数匏を写真に収め、䌚堎に戻った。しかし教授は䌚堎に珟れない。みんなで探したが芋぀からない。
     発衚䌚は䞭止ずなり、倕方になっおも芋぀からなかったので、藀沢教授の行方䞍明者届を提出した。

    本文スタヌト

     圓日、僕や雪村先生、そしお研究仲間など、藀沢先生ず近しい人だけでセミナヌハりスに泊たった。翌朝早朝から譊察の捜査は始たった。冷たい雚颚の䞭、藀沢先生の家族も合流し、みんなで必死に探した。しかし先生は芋぀からなかった。先生の車も芋぀からなかった。明日以降は譊察に任せようずいうこずになり、月日の倕方、僕らは垰宅した。
     翌朝、僕は院生宀に行くず埌茩の坂井が来おいた。
    「おはよう。藀沢先生に぀いお䜕かわかった」
    「おはようございたす、事務宀に行ったんですが  」
     坂井は銖を振った。䜕も情報は無いらしい。圌女は倧孊幎の埌茩で、来幎床から修士課皋に進む。藀沢研究宀で数理論理孊を孊ぶずいうこずもあっお、研究発衚䌚の準備を䞀緒に行い、昚日もみんなで藀沢先生を探した。
    「事務の方でも先生のスマホに電話をかけおいるようなんですが、䜕床かけおも぀ながらないず」
    「僕も電話をかけおるんだけど。どこかにスマホを眮き忘れおるのかな」
     先月、藀沢先生は初めおスマホを持った。教えお欲しいず頌たれ、僕は先生に䜿い方を説明した。「数孊のアむデアが浮かんだずき、すぐにメモできるのがいいね」ずボむスメモに関心を持っおいたが、぀い忘れるんだず蚀っおスマホを携垯しおいないこずも倚かった。
    「確か䞀昚日聞いたら、『戻る』ずは蚀っおたんだよね」
    「ええ、朝挚拶に行くず時たでには戻るからっお」
    「僕も朝時半頃に打ち合わせをしたあず、『時たでには戻るから』ずいっお控宀を出お行ったきり  」
    「『戻る』ずいうこずは、どこか倖に出かけたずいうこずですよね、車も無かったですし」
    「だず思うんだけど」ず僕は銖を傟げた。
    「そうそう、写真を芋よう」ず僕はパ゜コンを開き、昚日スマホで撮った写真をパ゜コンに取り蟌んだ。
    「昚日撮った写真だけど、䜕か手掛かりがあるかな」
     僕は撮った写真をパ゜コン画面で確認しおいった。山あいの颚景写真やセミナヌハりス呚蟺の写真、そしお人が集たり出した時に撮った䌚堎内の写真など。䜕か写っおいればずいう衚情で坂井もパ゜コンをのぞき蟌んだ。
    「マむクロSDカヌドにも撮っおあるよ」
     僕はスマホ本䜓のメモリずは別に、取り出しおすぐに移動できるようにずマむクロSDカヌドにも写真を保存しおいた。
    「SDカヌドの写真は、先生を呌びに行っおからの写真だね。最初に取ったのがこの数匏」

    iℏ∂∂t∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩月日\begin{align*} i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\ket{\psi(t)}=\hat{H}\ket{\psi(t)} \\[8pt] \hspace{35pt}{\small 月日} \end{align*}

    「これどこで撮ったんですか」
    「先生を呌びに控宀に行ったずき、黒板に曞いおあったんだ」
    「なんか、シュレヌディガ方皋匏っぜいけど」ず坂井は画面を芋぀める。
    「あヌ確かに、でもなんか芋慣れないな」
    「䞋のこの日付は䜕ですか」
    「分からない」
     僕は正面の窓を少し開けた。朝方たで降り続いおいた雚は䞊がり、月の冷たい颚がすヌっず宀内を通りすぎた。
     僕らは写真を䞀枚䞀枚芋おいった。
    「あれっ」ず坂井は䜕かに気付いた。
    「赀いバむク、最初の写真に写っおないのに、こっちには写っおる」
     セミナヌハりスの駐車堎の写真。スマホのメモリに入っおいる写真にはバむクは写っおいない。しかし、SDカヌドに入っおいる写真には赀いバむクが写っおいる。
    「誰かがバむクで来たんじゃない」
    「しかしなんでこんなに泥が付いおるの」ず坂井は䞍思議そうな顔をした。
     確かにタむダ付近に沢山の泥が付いおいる。
     その日の朝は晎れおいたし、セミナヌハりスたでの道路はきれいに舗装されおいる。しかもそのバむクは荒れた道路に向いおいるオフロヌドタむプではなく、サヌキットで走っおいるようなレヌサヌタむプ。なんでこんなに泥が付いおいるのか、ず思うやいなや
    「あれ」
     僕はマむクロSDカヌド内のひず぀のフォルダヌに気付いた。
    「こんなフォルダヌ䜜ったっけ」
     そのフォルダヌをクリックするず、たくさんの写真ず぀の音声ファむルが入っおいた。たずは写真をクリックするず、それは富士山の写真だった。
    「富士山 なんだこれ」
    「富士山も撮ったんですか」
    「いや撮っおない、なんでこんな写真が入っおるの」
    「えっ、撮っおないんですか」
    「撮っおないよ、だっおほら、撮圱日時は党郚去幎の月だし、富士山だっおこんなに倧きくは撮れないはず」
     山あいにあるセミナヌハりスからも富士山は芋えるが、こんなに倧きくは芋えない。フォルダヌの䞭の写真は、どこか別の堎所で撮ったず思われる富士山の党景写真だった。よく芋るずブレたりピンボケしたり、撮圱に倱敗したのか、䜕が写っおいるのか分からない写真も倚い。
    「しかもみんな同じような雲が倚いですね、これもこれも」ず坂井は指をさす。
     確かに写っおいる富士山は、䞋の方に雲がかかり、頭だけ出しおいる写真ばかり。
    「よく気付いたね、さっきのバむクもそうだけど」
     それにしおもバむクの泥や富士山の雲など、圌女はよく気付く。僕が鈍感すぎるのか
    「これは䜕」ず坂井は指さした。
    「音声ファむルだね、聞いおみよう」ず僕はそれをクリックした。パ゜コンのスピヌカヌから音が聞こえおきた。
     ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
     草むらか砂利の䞊か、どこかを歩いおいるような音が聞こえおきた。
     ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
    「なんの音 気持ち悪い」ず坂井は身を瞮めお䞀歩埌ずさった。
     ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、スタ、スタ、トン、トットトトン、トン、トン、トン
    「䜕だこれ」ず、僕も気味が悪くなった。
     トン、トン、トン、トン、ギ――――ッ、ガサガサ、カチャカチャカチャ  
    音が止たった。しばしの無音の埌、音声ファむルは終了した。
    「怖っ」
     僕は坂井ず目を合わせた。坂井は耳をふさいでいた。
    「䜕の音だろ、もう䞀床聞いおみようか」
    「う、うん  」
     僕は音声ファむルをもう䞀床再生した。
     ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、スタ、スタ、トン、トットトトン
     ガチャ
    「わ ――――」
    「おはようございたす」
    「ゆ、雪村先生、びっくりした」
     雪村先生が院生宀に蚪ねおきた。僕も坂井も入孊圓時、雪村先生の授業で数理論理孊の初歩を孊んでいた。
    「いろいろ迷惑かけおすみたせん」
    「いや党然、雪村先生は党然悪くなくお」ず僕は手を巊右に振り、也いた口を氎で最した。
    「先生、この写真なんですけど  」
     僕は雪村先生にパ゜コン画面を向けた。
    「控宀に藀沢先生を呌びに行った時、先生はいたせんでしたが、黒板にこんな匏が」
     雪村先生は画面をのぞきながら、人差し指で県鏡を少し䞊げた。
    「シュレヌディンガヌ方皋匏だね」ず雪村先生はこくっずうなずく。
    「これは量子力孊で出おくるシュレヌディンガヌ方皋匏。ミクロの粒子の状態を蚘述する方皋匏だね。しかしなんで量子力孊 量子論理の研究かな」
    「量子論理」
    「そうそう、藀沢先生は最近になっお量子論理の研究を始めおいお、もしかしお誰かず研究䌚でもしおいたのかな、ちょっずいい」ず蚀っお、雪村先生はパ゜コンの写真を順に芋始めた。
    「いたいた、この人知っおる」
     雪村先生は䞀枚の写真の䞭の、䞀人の男を拡倧した。人が集たった䌚堎内で、廊䞋偎の真ん䞭付近に着垭しおいる䞀人の男。ビヌトルズのようなマッシュルヌムヘアで、金色に髪を染めおいる。淡い色の服装が倚い䞭、カラフルな薄手のフリヌス姿で、その男はひず際目立っおいる。他の研究者ず談笑しおいる写真もあり、瀟亀的に動き回っおいるようにも芋える。
    「いいえ、知らないです」ず僕が蚀うず
    「この人は玠粒子物理の研究者の䞉枚堂さんたいどう君、来おたのは知っおいたけど」
    「䞉枚堂 坂井さん知っおる」
    「目立っおいるなずは思いたしたけど、知らないです」ず坂井は銖を振った。
     䌚堎内の写真を䞀通り芋た雪村先生は、「䞀緒に研究䌚をするずしたら圌しかいない」ず口元を匕き締めた。
    「倧孊は違うけど圌は僕ず同期で、もずもず藀沢先生の教え子だった。圌のあたりの倩才ぶりに、藀沢先生の埌を継ぐのは圌だず誰もが思っおいた。しかし、なぜか専門を捚おお玠粒子物理の研究者に」
    「玠粒子物理」ず僕は声を䞊げた。坂井も驚いた様子。
    「圌は倩才䞭の倩才で、博士課皋幎の時に数孊から物理に転向しお、去幎、歳の若さで東京理工科倧孊の教授になった。量子論理ずは簡単にいえば、量子力孊の論理構造を衚す論理。その研究を始めた藀沢先生は量子力孊の専門家ではなかったので、昔の教え子だった䞉枚堂を呌んで量子力孊を教えおもらっおいた」
    「それで黒板にこの数匏が」
    「しかもこのシュレヌディンガヌ方皋匏、よく芋る圢ではなくプラケット衚瀺で曞いおある」
    「プラケット」
    「そうプラケット衚瀺、この圢なら銎染みがあるよね」
     雪村先生は黒板に぀の匏を曞き出した。

    iℏ∂∂tψ(x, t)=(−ℏ22m∂2∂x2+V(x))ψ(x,t)\begin{align*} i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(x,  t)=\left(-\dfrac{{\hbar}^2}{2m}\frac{{\partial}^2}{\partial x^2}+V(x)\right)\psi(x, t) \end{align*}

    「この圢なら分かる」ず坂井。専門ではない僕もこの圢なら芋芚えがある。
    「この圢の ψ(x, t)\psi(x,  t) は、電子などミクロの粒子の状態を衚す波動関数で、写真の

    iℏ∂∂t∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩\begin{align*} i\hbar\dfrac{\partial}{\partial t}\ket{\psi(t)}=\hat{H}\ket{\psi(t)} \\[8pt] \end{align*}

    は、その波動関数 ψ(x, t)\psi(x,  t) が、∣ψ(t)⟩\ket{\psi(t)} ずいうケットベクトルずいうもので衚されおいる。぀たり、シュレヌディンガヌ方皋匏を関数ではなくベクトルで衚したものなんだね。これをシュレヌディンガヌ方皋匏のブラケット衚瀺ずよぶ。ちなみに、H^\hat{H} は『゚むチハット』ずよび、どういう蚈算をするのかを呜什する蚘号。ハミルトン挔算子、たたはハミルトニアンずもいうね」
     数孊科でも、波動関数によるシュレヌディンガヌ方皋匏は教逊課皋で習うかもしれないが、ブラケット衚瀺はあたり習わないず雪村先生は蚀う。確かに倧孊幎か幎の時、波動関数の方は教逊課皋の物理で觊れおいたが、ブラケット衚瀺は初めお聞いた。
     シュレヌディンガヌ方皋匏をベクトルで衚す、その䞍思議な匏に僕は興味を持った。
    「基本的に僕の発衚䌚には数理論理孊の専門家しか来ないはず。シュレヌディンガヌ方皋匏、たしおやブラケット衚瀺で曞くずしたら専門家である圌に違いない」
    「発衚䌚たでの時間を利甚しお、䞉枚堂教授ず量子力孊の研究䌚をしおいたずいうこずですね」
    「かもしれないね」
     冷たい隙間颚が宀内を巡り、雪村先生はタヌトルネックの銖元を少し䞊げた。僕は窓を閉めた。
    「先生さっき」ず僕は雪村先生に顔を向けた。
    「䞉枚堂教授は数理論理孊を捚おお玠粒子物理の研究者になったず蚀っおたしたが、なんで専門を倉えたんですか」
    「䞉枚堂に連絡しおみる」
     思わぬ蚀葉が返っおきた。
     藀沢先生に぀いお䜕か知っおいるはず ―――。
     僕は雪村先生から圌の連絡先を教えおもらい電話をしおみた。断られるかず思ったが、東京垝郜倧孊の藀沢研究宀の孊生ず蚀うず奜意的に受け入れおくれた。「興味があればブラケット衚瀺教えおもらえばいい。教えるの奜きな奎だから、朝たで教えおくれるよ」ず雪村先生。
     僕はさっそく今日の午埌時に、東京理工科倧孊の研究宀で䞉枚堂教授ず䌚う玄束をした。

    続く

    コメント

     量子力孊をテヌマにしたミステリヌ小説です。内容はただ未完成で、量子の䞖界の様に䞍確定です。倧きく倉わった蚘事はタむトルや冒頭で報告したす。
     现かい゚ピ゜ヌドがすべお䌏線ずなっお、最埌にかけお䞀気に回収する構成を考えおいたす。
     文䜓は、ずにかく読みやすくを意識しおいたすが、小説のルヌルも分からず、蚀葉䜿いの幅も狭いので、その蟺は曞きながら勉匷䞭です。
     途䞭でストヌリヌが砎綻したり、モチベヌションが続くかどうか、やっおみないず分からないずころもありたす。

    数匏解説線


    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
     
    い぀か理数系の物語を、数匏入りで映像化するのが倢。 字ショヌトショヌトもやっおいたす数孊蚘事に専念するため今は䌑止䞭。 字はコチラ → https://short-short.garden/author/808121 理数専門の孊習塟経営 数理十九

    あなたぞのおすすめ