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邪 6話「監禁」

    尊臣が手を振る。

    「康太ー!!」

    正常性バイアスが働いているのかもしれない。

    一方、康太は普段よりずっと静かになっていた。

    康太の頭の中は急速に回り始める。
    回転が速い。頭が良い。そしてなにより勘がいい。

    それにしても、俺に降りてきたと言っていた。
    今こうしておにぎりを食べ続けているのに腹も減らない。
    俺に何かが憑依していると想定すると、社に閉じ込めるということは怪異を閉じ込めるに等しい行為。さらにもしそれが怪異ではなく神だった場合。

    …別の社に住まう神を別の神の御前に閉じ込める?
    さすがに罰当たりだろう。

    さすがに考えにくい。

    そうなった場合、一体何に自分は侵されている?
    その何者かと社に閉じこもる?一体何のため?

    山の禁忌。良くないものと想定した場合。
    自分に憑いているまま社へ入らなければならない理由がわからなくなる。
    そもそも降りてきているって何のことなのだろうか?

    村のルールも曖昧。
    村民は話したがらない。

    問題がおきているというのに、まるで他人事。

    …まぁ、俺部外者だもんな…

    考えてもわからない…
    はぁ…と大きなため息が漏れる。

    それを見た尊臣が不思議そうな顔でこちらを見つめていた。

    林さんが戻ってきた。
    両手いっぱいに食べ物を準備してきた。

    「社へ入る前に少しだけ話しておきますね。」

    康太に降りてきたものは憑代としての役目を果たさなければいけない。
    今回降りてきたと言われてるのは、しるしの一つで、山の何かを引き寄せる効果がある。
    それを間接的に触れてしまった尊臣にも降りかかる可能性がある。

    何かから守るためには三日間の籠りが必要。この間にしるしの痕跡を消す。

    臭いが付くんだそうだ。その臭いが消えるのが三日間。

    この臭いがどうやら厄介で、それこそ水や着るもの、最悪電波を通じて外へ漏れ出す。
    腹が減ると臭いが強くなる。だから定期的に食べ物を食べなければならない。さっきから食べても満腹にならないのは餓鬼が悪さをしている。単体ではないが。

    …現代社会において非合理的だと思った。

    それだけ説明すると最終調整があると神社のほうへ去っていった。


    そうこうしていると尊臣のスマホが震える。
    尊臣の父が荷物を持ってきたようだった。

    「取りにいってくる。」
    一言いい残し、その場を離れる。

    手持無沙汰になった康太はスマホを見る。
    通知がいくつかあった。

    その一通で康太の指先が止まる。

    無事、帰っておいで。

    短い。たった一文。それだけなのに康太の足元にしずくが一つ落ちた。

    母からだった。恐らくしばらく帰れないことを、おばさんが連絡してくれたのだと思う。

    もう一通。

    どこにいるの?いい加減連絡取れないのいやなんだけど?

    ー彼女からだった。連絡すればこの状況の説明を求められるに違いないと、返信は後回しにした


    それからすぐ社へ監禁される生活が始まる。
    扉には釘を打ち付ける。聞いてない。

    メリットは何かが入り込めないこと。デメリットは突破されたら対応不能。

    なにがあっても出られない。

    入る直前に説明をされて苛立つ。かなり重要な情報なのになぜ隠したのか?

    逃げないため。それ以外の理由が見つからなかった。

    この場所は神聖な場所として、村人たちでさえ簡単に近寄れない場所。

    林さんは巫女の姿をしていた。少しだけ、ほんの少しだけ笑いそうになったのは許してほしかった。

    渡されたのは、注意事項を紙にまとめたもの。

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    ところどころ、そもそも釘打ち付けられてるのに外出れるわけないとか、食事は冷蔵庫にみちみちに詰められてるだけだろうとか、突っ込みどころは多かったが、適当な紙にコピーしてあるマニュアルみたいなものだった。

    いよいよ社へ足を踏み入れる。思った以上に空気が澄んでいる。

    尊臣と康太。
    二人は目を合わせて頷く。荷物も持った。気合は十分。

    コン、コン、コンとリズムよく釘が差し込まれる。
    もう後戻りできない。

    今から三日間。ここから出ることが出来なくなった。


    しばらくすると、外にあった気配が消える。
    話し声が遠ざかる。

    「なぁ、尊臣よ。この監禁、どう見てる?」

    二人の考察が始まった。

    「どうもこうも……昔からの風習みたいなものじゃないの?」
    村から出たことない極めて純粋な考えだった。

    …風習というには異常性が高すぎる。そもそも印の概念も、飢えへの概念もわかるようで曖昧過ぎる。
    それになにより、釘で打ち付ける意味。
    逃げれなくする?開けないように?それなら鍵ではだめなのか?
    考えれば考えるほど疑問符が増えていく。
    素直に尊臣に尋ねる。

    「釘で打ち付ける理由は?」

    自分は詳しくは知らないけれど。と前置きしたうえで尊臣が話し出す。
    「山の神さんは、狡猾だと思う。例えば、供え物が気に入らないとき、何度お供えしても、数時間後には腐ってしまっていた。」

    気に入るまで繰り返された。


    食に対するこだわりが強い。そしてやり方が狡猾。そして繰り返される。
    本当に神なのか?
    何度考えても神だとは思えない。

    康太は考えを巡らせながらも、これからの3日間をどう過ごすか計画を立て始めていた。

    空が静かに帳を下す。

    シン…

    と音を失った。



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