
邪 11話「仮説」
のんきにポテトチップスを食べながら、康太が「村の因習について、尊臣が寝てる間にまとめておいた。」
ノートの1ページを見せる。

「俺がまとめた。現状わかっていることはこれだけ。」
尊臣がつぶやく「お前、字きれいなんだな。」
へへっと康太は照れた。この何でもないやり取りが二人の影を少しだけ薄くした。
ノートを眺めていた尊臣をまとう空気が重くなる。康太に向って
「やっぱりお前もこう思うよな…どうしてうちだけこんな目に合わなければいけないのか…」
康太は黙って聞いていた。
「自分たちは何もしていないのに、冴島家というだけでこの村のすべてを押し付けられる。」
怒りの色が見える。尊臣から感じる感情の色。少なくとも康太は見たことのない色だった。
「…どうして俺だけが我慢をしいられなければいけない?」
当然の問いだった。
康太には答えることが出来ない。村に閉じ込められ、好きな職業にも就けず、やりたいことも出来ない。小さいころから押さえつけられていた感情が爆発したのだ。
今までは心を乱すものがなかったから、心を揺さぶるものがなかったから穏やかでいられただけだった。
決心したように康太が口を開く。「この連鎖は終わらせるべきだと思ってる。ただ、終わらせ方が全く分からない。」で、だ。と尊臣をまっすぐ見る。
「ちょっといろいろ考えてみたんだが、この社から無事に出られたら、一緒に東京に来ないか?」
仮説を話す。
「冴島家の人間がこの村からいなくなったらどうなると思う?」
尊臣が唾をのむ音が聞こえた。考えたこともなかったんだと思う。目を見開きそんなことがあっていいのか?の問いが目の奥に見える気がする。
やっと出た答えは「そんなこと…考えたこともなかった…」
今まで色々な可能性をつぶされてきた彼にとって、家族で村を出る選択肢など存在しなかったのだ。自分一人が出る未来は幾度となく見てきたが、それこそ全員で村から脱出するなどあってはならない事だった。
でも、現実的に考える。今までさんざん自分とその両親をぞんざいに扱ってきた村人を助けるためにここに残る理由があるというのか?
…康太はじっと尊臣を見ていた。動揺をしているのがわかったから。尊臣本人が答えを出さなければいけない問題だった。
お握りの最後の一口を食べ終わると、カップ麺を作った。そしてそれを尊臣に差し出し、食えと言った。
午前0時。
72時間中30時間目。
あれから尊臣は話さなくなってしまった。康太は自分の仮説を話して意見が欲しかったが、それどころではないと空気を読んだ。珍しかった。
スマホを開く。メッセージがいくつか届いていた。
彼女の夏葉からのメッセージ。
「いい加減連絡くれないなら別れる」
康太が叫ぶ「嘘だ!!!」
頭を抱え込んだ。
さすがの尊臣も心配になったようで、どうした?と康太のスマホをのぞき込んで、神妙な面持ちになった。
夏葉ちゃん!いやだ!と叫ぶ康太。連絡を取れないと閉じこもる前に言うべきだった。
メッセージは送れない。
残り時間42時間。
社から出られない恐怖より、夏葉ちゃんと別れなければいけないショックのほうがよほど辛いと泣いた。
尊臣は康太の優先順位のおかしさに少しだけ心が軽くなった。
康太は泣き止むと、早く出るためにも解決に向けた動きをすると宣言した。
午前1時。
康太と尊臣は仮説を少しずつ掘り下げることにした。
まず、一番は自分に憑いている?降ろした?という怪異の話になる。そもそも神さんと言われているが、神様なのか?
「それに関しては俺もずっと疑問に思ってたよ。お供え物が気に入らないと腐らせる神様なんていないと思う。」
尊臣なりの仮説。康太は頷く。
「冴島家への条件提示もおかしすぎると思う。せめて等価交換、もしくは見返りは信仰心。そういった神様なら全国にごろごろいる。」
そうなってくると正体が気になる。もともとは野良の妖怪か何かだったのではないか?そうすると辻褄が合うところがいくつも出てくる。
康太が関係ないとは思うけど。と前置きして、昨日夢で見た話があると話し始めた。
一人の妖怪がいた。
その妖怪は寂しがり屋で臆病者だった。
まず自分の力をつけるために、道端のお地蔵さんの団子でも食べていた。
だんだんと力をつけていく中で誰かが妖怪にお供えをした。
妖怪はそれがうれしくて、そこに社を立てることにした。
そうすると毎日人間が食べ物を運んでくれるようになった。
ある日、小さな女の子が社の近くに迷い込む。
妖怪は遊んでやっていたが、女の子は足を滑らせ崖の下まで落ちて亡くなってしまった。
その子を助けようとあれこれ試すが、助けられなかった。
妖怪はその子を隠すことにした。
人間に見つかって自分のせいにされるのは許せなかった。純粋が故の行動だった。
妖怪はその子を腹に隠そうと思った。
口に入れる。
…うまい。
それまでかわいいと思っていた子がうまそうに変わった瞬間だった。
うまいうまい。と貪り、骨まで丸ごと飲み込んだ。妖怪は小さな人間の味を知ってしまった。
最初は我慢していた気持ちもどんどんブレーキが壊れていった。
最終的に子供を贄として差し出させるために飢饉を起こす。
力をつけていた妖怪にはたやすい事だった。
そんな中村人たちは口減らしが必要になった。
結果、社へ贄として差し出すことで雨ごいしようと動いてしまう。
優しかった妖怪はどんどん自我を失っていく。食い物が欲しい。
腹いっぱい食いたい。と。
自分が目を付けた人間にはしるしをつけた。自分だけが探せる印。
しかしそれを使うこともあまりなかった。
定期的に人間の赤子がおきざりにされ、贄として奉げられる。
そんな時、ある夫婦が尋ねてくる。
子を殺したくないと。贄として与えたくないと。
妖怪は混乱した。飢饉にしたのは自分のせいかもしれない。
けれど赤子を勝手に捨て始めたのは人間の方だった。
夫婦のお願いを聞くことにした。
ついでに村の飢饉も救ってやった。だから、その子を私の従属として遊び相手にする。だから差し出せと。守らなければ村に災害を起こし、守ってくれれば平和をくれてやると…そうして妖怪は完全に化け物になってしまった…
この社に入ってから見た夢だった。
あくまで夢の話ではあったが、妙にリアルでどこか悲しい話だった。