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邪 4話「子消」

    村長はどこにでもいそうな普通のおじいさんだった。

    尊臣に目をやると俯いている。叔父さんも同じ。

    俺はおにぎりを食べている。家を出るとき、おばさんが紙袋いっぱいのおにぎりを渡してきたのだ。

    「食べれるだけ食べとけば大丈夫」

    というか食べないとヤバいらしい。だから少しずつペース配分をして食べ続けている。腹は満たされない。

    村長の声が場の空気を一瞬で静かに整えた。

    「まずは謝らないといけないね…」
    と静かに話し始めた。みんな静かに聞いていた。

    大人が隠していた…というより言わなくても良いだろうと、省略してしまった事で今回の事態が起きてしまったこと。

    外部の人間に対しての警戒心をもっと持つべきだったこと。

    そして、なにより尊臣に対して、きちんと説明できていなかったこと。

    全て自分たちの怠慢だと頭を下げた。

    そのうえで、村の慣習について手短に話をするといった。

    この世孤島村の悲しい過去の話。尊臣の先祖の優しさが招いた災難。

    時代は過去ずっと昔に遡る。
    この村では不作が続いており、口減らしの為に「こけし」が行われていた。
    長子だけを保護し、第二子からは山のお社の神様へ贄として奉納していた。

    なるべく二子を授からないようにしていたが、やはり時代のせいもあり避妊は難しかった。

    尊臣の先祖「冴島家」に当たる夫婦も同じで、気を付けていたが授かってしまった。
    待望の男の子だった。長子であった姉ももちろん大切だったし、男の子を贄にするなど考えたくもなかった。

    康太がおにぎりを取るガサゴソという音がやけに響く。

    夫婦は話し合い、山の神様へお願いすることにした。

    なんでもするから、この子を連れて行かないでくれ。この子の命を奪わないでくれ。と。
    山の神様はその要望を受け入れる。その代わり、その男の子が大人になったら月に一度は必ず社を掃除すること。社に来る際、馳走を持参すること。そして、今後未来永劫第二子は村から出さず、社の世話をさせること。

    その無茶苦茶な要求を夫婦は受け入れてしまった。

    村人からの反発はあったが、飢饉を脱したことで「こけし」の慣習もいつの間にか途絶えた。飢饉も山神のおかげだったのかもしれない。

    赤子が大人になるには20年。両親は大切に育ててきた。成人を迎えるわが子に両親は言ってしまう。この村に縛られる必要はない。外で暮らしなさい。男性になったその子は迷わず村を出た。
    両親は約束をすっかり忘れてしまっていたのだった。

    その後、村には異変が次々と起こる。
    第二子以降の子が、奇病によって亡くなる。

    子がいなくなると次は村人が一人、また一人と亡くなっていく。

    異変に気が付いた村長は、冴島家を訪ねる。

    何度呼び掛けても返事がなかった。恐る恐る扉を開ける。

    するとそこには今まさに食事をとろうとしている両親と姉のミイラ化した姿があった。

    明らかに村人とは違った死に様。恐怖で腰を抜かした。

    あまりの恐怖に村長は、今でいう「きれいなところ」に住む神様に助けを求める。

    すると、冴島家の二子を呼び戻し、あちら側の社の掃除と馳走の奉納を月に一度行うように言われた。

    しかし、両親と姉の訃報を聞いた男は帰郷を拒んだ。家族のいない、わけわからないことが起きる村への帰郷など、断るのは当然であった。

    悩んだ村人たちはお金を出し合って雇う。という方法を思いつく。さらに村で一番の美人を用意した。

    それを説得材料に。東京まで娘を連れて説得に行った。男はそれでも首を縦に振らなかったが、給料の額を提示したとき男は帰郷を決めた。

    帰郷するとすぐに社の掃除に向かう。はじめは何人かの村人を連れて行ったが、村人の何人かが山から戻ると、気が狂ったように食べ物を食べつくすようになり、一人で清掃をすることになったのだそう。


    おにぎりを食べながら康太が手を挙げる。
    村長が康太君どうした?と聞く。

    ちゃんと名前を知っていることにびっくりした。

    「あのー俺って助かるんですか?」

    村長の顔が険しくなる。

    「助けたいと思っているよ。君が小さいころから知っているからね。だから康太君も協力してほしい」

    村長は頭を下げた。

    今の話の流れから考えると、村全体の存続の危機なのかもしれない。

    「自分に出来ることなら…何でもします!」

    おにぎりを食べることに誰も何も言ってこない。パンパンだった紙袋はもう半分無くなっている。

    尊臣も手を挙げていた。
    「恐らく、自分もちょっとやらかしてしまっています。康太を止めるのに降りてきているところに触れてしまいました。」

    室内がざわつく…
    視線が尊臣に集まる。口々にアレが降りたと繰り返している。

    康太には全く理解できないが、多分ヤバい事なんだろう。
    そんなことより村の慣習をスマホで録音できたのは収穫だと思った。


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