
邪 10話「困惑」
午後0時。
結局11時までかかって康太の食事を終わらせ、康太にはまた寝てもらった。
時計がずれることは想定外で、今の時間を確認する方法はネットで外部へつなげることしかなかった。
しかし、尊臣自身がそれの危険性をよく知っていた。
自分に降りかかるのではない。受け取った誰かが被害者になる。
見ず知らずの誰かならいいかもしれないと感じたが、それは違うと思ってあきらめた。
一方山の神さんの方でも怪奇に悩まされていた。
供えたものがことごとく腐る。何を供えても腐る。
気に入らないから腐る。
違うこんなんじゃない、もっと違うものを寄越せと腐らせる。
尊臣の父も母も頭を抱えていた。
この日はどの時計も合わないということ以外何も起きなかった。
はずだった…
午後8時。
時計があってないので、20分前から食べ始める作戦にした。
何かを食べていればいいと解釈すれば少しずつ食べながら過ごすのが一番効率的と思い至った。
7時40分にお菓子を食べ始め、ゆっくり食べ進めながら8時20分まで食べる。
すると康太の症状は安定することに気が付いたのは良かったともう。
尊臣も睡眠不足が顕著だったので、午後8時から11時までは布団で休むことになった。
康太はその間、何をしようかと考えていた。
夜の時間帯ではあるが、録音を聞き返すか、どうするかの瀬戸際にいた。
怯えているだけでは守り切れない。先に進まなければ何も得られない。
喰い殺されるのだけはごめんだと本能だけが突き動かしていた。
意を決してスマホの録音を聞き始めた。
尊臣と一緒に聞いてたはずのノイズ…。
無い…
「どうしてだろう?」
つぶやきながらもう一度聞く。
村長の話を何度も聞き返す。
冴島家の呪い。村の飢饉、そしてコケシ。
どれも聞けば聞くほど、神とは思えなかった。
冴島家が呪いを被ったあと、飢饉を脱した。
コケシの因習もなくなった。
そしてなにより、その呪いがいまだに冴島家一点に集中している歪み。
冴島家の先祖がもたらした災いとはいえ、それが現代においても続けられている原因はなんだろうか?
いくら考えても神があのようなめちゃくちゃな条件を付けてくるとは思えないのだ。
等価交換ならまだまし、それ以上の何かを求める存在。
5回目、録音を聞こうと再生ボタンを押したとき、尊臣の声が聞こえた気がしてイヤホンを片耳だけ外した時、耳元に響いた声に全身の毛穴から汗が噴き出した。
「はらがへった!かえせ!」
地の底から響くような、この世のものではない何かの声が耳に届いた。
「うわぁ…」
スマホを放り投げて後ずさる。
心臓が飛び出るのではないかと思った。
イヤホンからのノイズではなかった…?
となるとこの社の外に何かがいる…?
急激に体温が下がる気がする。
尊臣はよほど疲れていたのかぐっすり寝ているが、この状況は起こした方がいいのかもわからない。
あの声の正体は山のアレなのか、神さんなのか?
分からないことが増えていく。考えれば考えるほど康太の頭の中は混乱を招いていた。
午後9時
意を決して尊臣を起こす。
眠そうに眼をこすりながらも、康太の顔色の悪さに何かを感じ取ったようだった。
康太は尊臣に今あったことを報告した。
ノイズが入っていたのは動画ではなく、別のものだったこと。
イヤホンの片耳を外したら聞こえてきたこと。
心臓が止まりそうになったこと、全部話した。
矢継ぎ早に話したせいもあり、尊臣のからはまるで反応がなかった。
尊臣からすれば、そんな大きな声が出ているならどうして自分は起きなかったのか?そちらの方が不思議だった。
「その録音、もう一度俺が一人で聞いていいか?」
康太は怯えながらも了承した。
尊臣が両耳にイヤホンをつける。再生する。
「聞こえないな。消えてる。」
録音を聞いていない康太にも何も聞こえなかった。
もう一度最初から聞く。途中でイヤホンを片耳だけ外す。
尊臣から声が漏れた「ヒュッ」と喉を鳴らして震えている。
そして、康太に向き直り、
「はらがへった、社へ戻れ」
そういわれたといった。
…言われていることが違った。
康太は
「はらがへった。かえせ。」
尊臣は
「はらがへった。戻れ」
声の主は誰かわからないが、目的は尊臣なのではないか…?
夜が更け行く中…
録音を聞かなければ声は聞こえないことにも気が付いた。
両耳イヤホンをしていれば聞こえないし、片耳で聞かなければそこまでの恐怖ではない。と、康太がバッサリ切り捨てる横で、自分が目的だと言われた尊臣の顔色は一層悪く見えるのだった。