
邪 7話「静寂」
カチ、カチ、と尊臣がマウスをクリックする音が小気味いい。
康太はスマホゲームで時間をつぶしていた。
何もすることがないというのはかなり暇なのだと、今更ながら気が付く。
時間は午後10時を回る。監禁されてから4時間経とうとしていた。
「康太、飯食えよ」
一言だけ。
冷蔵庫を開けると様々な食事が詰め込まれていた。
タッパーを一つ取り、開けるとお弁当のようになっていて、レンジでチンしてね。と付箋が貼ってあった。
この社の設備は驚くほどで、時計、トイレ、冷蔵庫、電子レンジ、電気ケトル、Wi-Fiまで完備されている。
「なぁ、尊臣。こんなに快適で大丈夫なのかよ…」
対応が良すぎると怖い。
こちらをちらりとも見ず、山の神さんとは関係ない部分は普通にしてあるんだよ。と、興味なさそうにつぶやいた。
ふーんと気のない返事をしながら、弁当をレンチンする。
「尊臣は食わねーの?」
静かに顔をあげて、俺はなるべく食わない。と宣言した。
…?こんなにあるのに食わない理由があるのか謎だったが、何も食べないのは心配なのでゼリー飲料だけ渡した。
「な、康太これ見てみ」
尊臣がパソコンの画面を指さす。
康太がのぞき込むとそこには村の様子が映りこんだ。
「…おまえ、なにしてんの?」
呆れた顔で康太が尊臣を見下ろす。
「いやさ、暇すぎて。ちょっと本気出した。」
こちらをちらりとも見ず、カチッっとクリックすると次の画面に切り替わる。
「これ、外部との接触にあたらんの?」
素朴な疑問だった。
「カメラの画像見るだけだしね。」
…曖昧過ぎて頭を抱えた。
「てかそもそもこの村に監視カメラなんて必要なのか?」
人口数百人の村に監視カメラ。転々とあるようでカチッとなるたびに移り変わる。
「俺がつけさせた。」
なんでもない事のように言う。
「はぁ?なんでそんなことするんだよ。」
心底呆れた。何のために必要なのか。
「この村の管理してやってるんだから、このくらいのわがまま聞いてもらわないと割に合わないよ。」
表情はいつも通り。ただ…目の奥に何か暗い影を落としているように見えた。
そっか。それだけ言って言及をやめた。
それから二人は口を開かず、村の様子を観察し始めた。
催事の準備が着々と進められているようで、たくさんの食べ物があちらの山へ運ばれていくのが見える。
白の装束に着替えた村人達が固まって動く姿は、どこからどう見ても異様でしかなく事態の深刻さが垣間見えた。
「外忙しそうだな。」
尊臣が他人事のように言う。
「まじでな。」
康太も同じだった。
午後11時。
時計の針を見た。こんな時間なのに催事の支度をする白装束の村人。異常性が跳ね上がった。
しばらく監視カメラの映像を確認していたが、
村人たちの動きもまばらになってきたので、見るのをやめた。
午前0時。
康太がイヤホンで村長の話を聞き始める。
この村の因習に関する説明。
「なぁ、尊臣。これ一緒に聞こ」
イヤホンの一つを尊臣に渡した。
最初から聞き直していた。
村長が冴島家の話を始めるとノイズが入る。
哀しい過去。優しさの代償。他の説明では全く入らなかったノイズ。
尊臣と目が合う。
「も一回同じとこ。」
…何か本当にわずかな違和感がある。
「なんだこれ?」
もう一回。
「…た」
…尊臣を見る。顔色が悪い。
「聞いた…?」
尊臣は頷くだけだった。
もう一度聞こうとする手を尊臣が止める。
「待って。これって録音だよね?」
…康太の顔色もスーッとひいていく。
再生ボタンを押す手が拒否している…もう一度だけ、聞きたい。恐怖が消えずに聞けない。葛藤の末、横から伸びてきた手が再生ボタンを押した。
「…は…た」
尊臣を睨む。ほら言わんこっちゃないと睨む。
「これ夜聞くもんじゃねぇ…」
因習について調べるのは明日の昼間にすることにした。意味があるのかはわからないけれど。
午前1時。
先ほどの違和感を払拭できないまま時間は刻々と過ぎていく。
次にご飯を食べる時間は午前2時。
少し眠くなってきた康太が目をこする。
「康太、早いけどご飯食べて一度寝よう。」
尊臣のナイスアイディアだと思った。確かに4時間以上空けないとは言われているが、3時間で食べてはいけないルールはなかったはずだ。
冷蔵庫を開けたが、なんだか食べたいものもない。食欲がない。眠い。
尊臣はもう布団の中で目をつぶっている。
食べるのをあきらめて、午前2時に起きれるようにアラームをセットした。
意識が沈んでいく。気持ちいい。康太は久しぶりに安心して夢に落ちた。
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