
Time after time―蒼井みゆるのさとみの記憶 ◇13 悪戯
◇13 悪戯
何か夢を見ていたようだよ。
それとも、あの声と同じところから語りかけてくれていた、遠い記憶を思い出したのかな。
目覚めた時に気持ちが少し固まったような気がした。
変な朝だよ。
午前中の休み時間。
何の発想もなかったのに手が動き出した。
ロルバーンの方眼のノートを2枚、破線のところで切り取って、5ミリ四方の薄い線にそって細かく刻む。
どうするのかって?
それはもう決まってる。
あーこれって、思ってたより地味な作業だ。
重ねて切るとずれてくる。
でもね、そんなに沢山いらないし。
ククク。
矢本さんの視線を感じる。
「ね、矢本さんって、昨日はどれくらいまで残ってたの?」
ククク。
『7時。』
「そんなに遅く?」
『2人が残ってたから。』
へぇ。
ほんとに、黒田さんに追いつくつもりなのかな。
ククク。
「一緒に練習すればよかったじゃん。」
『なんか、やだ。』
気持ちはわかるけどさ。
ク、ク、ク。
「一緒に帰ったの?」
ク、ク、ク。
『先に1人で帰った。ねぇ、それ何やってるの?』
なにをって言われると、とても説明がしにくいことなんです。
あ、そうだ。
「今日、お昼一緒に食べない?」
『いいけど。』
ク、ク、ク。
「黒田さんも一緒でいいよね?」
『・・・別にいいけど。』
ク、ク、ク、ク、クっと。これで完了。ビニール袋に入れてしまっとこ。
3限目終了。
「黒田さん。お昼一緒に食べよ。そっち行くから。」
「はい。ここ?」
そうです。
黒田さんの席です。
そして私は黒田さんと向かい合う。
これでいいね。
矢本さんは、横でごめんなさい。
『これ狭くない?』
ですよね。でもこれでいいの。
こうしないと、春木君の様子が分からないからね。
こほん。
では先程の5ミリ四方に切り刻んだノートの紙を、春木君の頭の上にぱらぱらーっと。
『なに。悪戯?』
「違います。」
これは教育です。
『・・・蒼井さんって、ほんと面白いね。』
どこが。
「あっ、あれは。」
え?
「黒田さん、ちょっと待って。席に座ってて。」
まだ教えるのには早すぎるから。
「あの、私。いじめには反対です。」
「これは、いじめじゃないから。」
「じゃあ、なんで・・・。」
「だーれが誰をいじめてるって?」
あーめんどくさいの来た。
「よっこらしょっと。」
おばさんかよ。え、ここで矢本さんをひざ抱っこ?・・・うらやましい。
どうしてそういう事が自然にできるのかな。
『ちょっと。』
「席がないから、しょうがないよー。」
もう、狭いのに勝手にお弁当広げて。
お弁当包みが私のごはんにかかってるし。
カレーのとこでなくてよかったけど。
あ、おかず唐揚げ。
「でー、あれをやったのがゆるみなの?」
『そう。』
あ、こら教えるな。
これ、ゆいに突っ込まれるとちょっと厄介なんだから。
「へー。ゆるみがそんないじめをね。春木君にねぇ。」
ほら来た。
「い、いじめじゃないし。」
ここ掘って来られると、春木君が私のその人だって、ばれちゃう可能性が・・・。
「おー、黒田さんのお弁当はおにぎりだ。でっかぁ。こんなのどこで売ってるの?見たことない。」
あれ?スルーした。
めずらしいな・・・。
黒田さんのお弁当はおにぎりとゆでたまごだけ。
なんかあっさり。
「これは私がにぎって来てるよ。」
「へー、えっ。黒田さん手もでかい。男子並みじゃない?これならおにぎりの大きさも納得だね。」
ゆい。
それは微妙にハラスメント。
ほら、黒田さん複雑な顔してるでしょ。
ガタッ。
「・・・やっぱり私、教えてきます!」
「ちょっと待つの。」
春木君を気にしていたのかぁ。
「昼休みの間だけああしておいて。春木君が怒っちゃったら、私が謝るから。ね?」
うわぁ、非難の目つき。
なんかこわい。
黒田さんは敵に回しちゃいけない人だ。
「黒田さんは昨日この高校に来たばかりでしょ?事情を知らないかもしれないけど、春木君ってね、いっつもああなの。休み時間はずっと眠ってるの。私なんてね、昨日初めて春木君と話しをしたくらいなんだから。そういうのって良くないと思わない?」
まあ私も、実質的には昨日転校してきたようなものだけど。
「あんなことじゃ友達だってできないし、本来入学してクラスが同じになった時点で、で、で、出会ってたはずの女の子とも出会えないでしょ?そういうのって人生の損失。運命をねじ曲げようとする行為なの。あってはならないこと。そうでしょ?そ、その女の子だって、ほ、ほんのちょっとしたことでもさ、優しくされたら、お礼くらいは言いたいでしょ?なのにあんな風にいつも眠っていたら、昨日はありがとうとか言えないし、か、顔だってよく分からないままだし・・・。」
そうだよ。春木君と少しくらい、お話だってしたいのに。
「これからだって、もっとよく知り合えないかもしれない・・・でしょ?」
こんなに近くにいるのに・・・・・。
「だからね。いつも寝てばっかりいたら、こんな他愛もなく、罪もなくていじめでもない、善意に満ちた悪戯をされちゃうんだってことがわかれば、春木君だって休み時間の間、ずっと寝てるなんてことは無くなると思うの。だからこれは春木君のため。そういうことなの。」
ふぅ。
これくらい説明すればわかってもらえたかな。
え?
なんか3人とも、よく分かりましたって顔してるけど。
まぁ、私の説明力ってこんなものよ。
どう?
「わかったよ。蒼井さんがそう言うなら。」
わかってくれればいいの。
「うほー、矢本さんのお弁当箱ちっさ。でもなんかいろいろ詰め込んであってかわいいー。このおかずなに?」
『あげない。あっ。』
「私の唐揚げの衣と交換しよ。」
人の言っていることを聞きなさいよほんとに。あげないっていってるのに。でもよかった。平常運転に戻った。
「ほらほら、鶏皮の最高に美味しいところだよー?」
そこ欠けて落ちてただけでしょ。でも美味しそう。
『別にいいけど。』
いいんだ。あ、あのつくねみたいなのも美味しそう。
「私もゆみちゃんのつくね、貰っていい?」
『ゆみちゃん?』
しまった。妄想で呼んでたのがそのまま出ちゃった。
「お。そうそう。これだけ仲よくなれば、そろそろ名前で呼び合ってもいいんじゃない?」
そんなの仕切ってやることじゃないでしょ。
それにそろそろってなに?
お前以外は昨日出会ったばかりって感じなんだけど。
それに矢本さんと黒田さんは、仲がいいとは思えない。
まぁいいか。
ゆいのこういうところは、ずっと前から変わらないし。
「じゃ、改めて紹介しちゃおっかなー。最初は私の幼馴染にして第4空間次元の住人、蒼井ゆるみを紹介しまーす。」
誰だよそれは。
黒田さん、勘違いするでしょ。
もうめんどくさいったらない。
「そしたら次は私が。私の幼馴染にして、人の話に聞く耳を持たない湊ゆいを紹介しますよ。ほんっとに人の話を聞いていないからね。びっくりするよ。」
「それはー。あんたもかわらないでしょ。じゃ次も私が。このかわいい女の子は、フェンシング部に最初から私と一緒に入った、矢本ゆみちゃんです!まぁ知ってるよねー。」
自分のものみたいに。
ゆみちゃんは、私のものでもあるんだからね。
『ちょっとお腹くすぐらないで。それからそこは胸。』
「あ、ごめん。お腹だと思って。」
それセクハラ!
まだ胸触ってるし・・・。
「じゃ、じゃあ、黒田さんは私が・・・。」
「自分でするよ。私は、黒田・・・。」
「だそうでーす。」
最後まで聞きなさいよ。
そういえば黒田さんの名前って何だっけ。
ちょっとふんわりしてた気がする。
「んでー黒田。そのおにぎりの中身はなに?」
「ちょっと待ってよ。黒田さんは黒田でいいの?」
なんなの。その悦に入った微笑みは。
「私、大人だから・・・。」
いや、信じないそれ。だもんとか言ってたし。
「これは・・・、アジの開きです。」
「アジの開き・・・。」
「ええ。魚屋さんでこれをどう調理するのか聞いたら、焼くっていったので焼いて入れてきました。塩気があって美味しいです。」
「あの黒田さー。ため口でいいんじゃない。」
「そうですか。で、その魚屋がこっちの方じゃ、焼いたら頭も骨も食べるって言ってたから・・・。」
魚屋には、さんつけていいんじゃないの。
「4等分にして入れてきた。なかなかおにぎりに入らなくて。」
「そんなの普通に入れないよ。それにこっちでも、女の子は、あんまり頭と骨は食べないかな。」
こういうことは、ちゃんと教えてあげないとね。
「そうなの?」
そうですとも。
『ゆるみ。黒田は私達をおちょくってるだけ。何を真面目に相手してるの。アジの開き一匹おにぎりに入れる人が、どこにいるの。』
あ、あぁそういうこと。
「そ・・・そうですよ・・・だよ。」
「・・・。」
「・・・。」
『ちょっと中見せろ。』
「いやっ。」
「あ、黒田!食べないで中見せてよー。その大きさ、絶対中にアジ一匹入ってるでしょ。」
『ゆい、手押さえてっ。すごい力なんだから。』
「あ、あの黒田さん。アジの背びれはとった方がいいんだよ。のどに刺さったら大変なんだから。取ってあるよね?ちょっと、取ってないんだったら食べない方が・・・。あぁそんなにがっついちゃって。」
「ふぉんふぁふぉふぉ、ふぃぃまふぇん。」
あぁ。
なんなの?
これは。
お昼一緒に食べるだけでこの騒ぎ。これ毎日やるとか?ありえないでしょ。疲れるわ。・・・今のうちにゆみのつくねもらっとこ。それで春木君は悪戯にようやく気づいてるとか・・・。
あれ・・・。
え?
ちょっと。
春木君、いつの間にゼリー食べたの。
まさかお昼ごはんそれだけってこと?
それで、また寝てるってことなの?
手にゼリーのパック握って?
んー、この紙吹雪の髪の毛、引っ張り上げてやりたいっ。こういうのって絶対よくない。良くないよ。私達なんてすごくおしゃべりしてお互いの事話してるのに、こういう感じじゃ、いつまでたっても会話できないじゃん。私、春木君の事、いつ知ればいいの?私、昨日のお礼だって言ってないし。今日言えなかったら次は月曜日だよ?もうお礼とかのタイミングじゃないでしょ。
こんなんじゃいつまでたっても、春木君の顔もわからないままだよ。
そういうの、ちょっとくらい、分かってくれないのかな・・・。
これじゃ、私と話できなくても・・・いいみたいじゃん。
「みゆる、これ見てー。ほら、やっぱり開き一匹入れてたよ。ここ、頭と尻尾のところ映ってるでしょ、・・・みゆる?」
「は、春木君。お昼ゼリーだけみたい。」
『あぁ、それいつもだから。それでほっそいんじゃない?っていうか、それ有名な話。』
「有名って、私は知らないし。」
そんな事で有名になっちゃうなんて。恥ずかしくないの?
「ゆるみのはカレー弁当か。ふつーカレーをお弁当にする?あまりしないでしょ。ね、カレー弁当ってする?」
『しない。』
「私はおにぎりに入れる。」
「うそでしょ。具も入れるの?ジャガイモとか。」
ほら、みんな通りすがりに笑ってる。
「入れるよ。入れなきゃカレーじゃないもん。ジャガイモとニンジンとお肉入れて握る。」
『それ、どんだけの大きさよ。』
「・・・これ、くらいかな。」
「でかっ。そんなの鞄で潰れたら大惨事だよね。」
いい気味ね。ずっとそうやって笑われてれば?
ずっと寝てたら、そういう事になるんだって、理解すればいいのよ。
「そういう時はお弁当箱に入れてくるから。」
『どんなお弁当箱よ。鞄より大きいんじゃないの。』
「そんなお弁当箱は存在しない。」
『冗談よ。真に受けちゃって、子供。』
でも、ゼリー1パックだけって少ないんじゃないの?だから痩せてるって・・・。ひょっとして朝ごはんもなし・・・とか?健康状態が心配なくらいなんだけど。
「私、子供じゃない。」
『おにぎりにするほどカレー好きって、子供でしょ?』
「小さな子供弁当持ってくる人に、言われたくないです。」
『これは、ぎゅって中身が詰まってるの!見た目よりたくさん入ってるんだから。』
もっとちゃんとして欲しいな。今は大丈夫かもしれないけど、大人になるまでにどこか悪くなったりしない?・・・あぁ、私ってばかなの?健康おばさんみたい。
「まぁた2人で親睦深めてるな。それよかゆるみのカレー弁当、付け合わせが煮豆なんだけどー。ありえなくない?」
『確かに。あのポジション、普通は福神漬け。』
「黒田はカレーおにぎりの時に、福神漬けはどうするの?」
「一緒に握る。混ざった方が美味しいもん。」
わかってるけどさ。私のその人、なんて。私だけの事情だし。健康なんて、そんなの余計なお節介だって、そうだってことくらい。昨日初めて名前おぼえたばかりの人に、そんなこと言われたら私だってうざいって思うし。
『どやっちゃって。福神漬けが入って、またおにぎりでかくなってるし。』
「誤差の範囲。」
『もともとでかいって認めた。草っ。』
「ぎゅうぎゅうに詰めた子供弁当じゃ、福神漬けを入れるのも苦労しそうですね。」
『うっさい。』
でもさ、ちょっとくらい話ができたって・・・いいじゃん。そういうチャンスを、私に与えてくれたっていいじゃん。それとも、誰とも話をしなくていいって事なの?
「そうだ、黒田さー。その煮豆は食べちゃってもいいと思うよ。」
「ほ、ほんとう?」
「いつも残してたからねー。高校に入っていきなり食べ始めるとかないでしょ。」
「なら、いただいちゃおうかな。」
『その食欲にしてその身体ってことね。・・・。なによ。私が小さいのは子供弁当のせいじゃないっ。』
どうしてそんなに、閉じこもってるの?そういうことだからさ、悪戯されても誰にも教えてもらえないんだよ。ほら、また笑って通り過ぎてるでしょ?
誰も春木君に教えてなんて・・・くれない。
「何も言ってません。」
『その目が語ってるの!』
「それじゃ、いただきます。タンパク質は貴重なの。」
『残念でした。それは大豆じゃないから、ほとんど炭水化物です。また体重が増えちゃいましたね。』
「お心遣いに感謝します。でもこの程度のカロリーはすぐに使いきりますから、御心配には及びません。」
誰も・・・教えてあげないの?笑って通り過ぎてるだけって・・・。
「ほらほら、2人ともまた敬語に戻ってるよ?ため口でいいじゃん。仲いいんだし。」
『あぁ?・・・ゆい、そういう人。』
「あの、さっきからゆるみさんが、ずっと春木君を見つめたままです。」
「あれわぁ。また異次元にトリップしてるだけ。だから大丈夫。あーもうこんな時間。お昼休み終わっちゃうよ。みゆる食べないのー?みゆる!」
「え?」
「え、じゃなくて。そろそろお昼休みが終わっちゃうよ。食・べ・な・い・の?」
『まぁ、春木に見とれる気持ちは、分からなくもないけど。』
「どーいう意味?」
休み時間が終わっちゃう。このままじゃ春木君の頭はあのまま・・・授業が始まっちゃう。
どうしよう。・・・これ、やっぱり教えてあげないとっ。
『春木、イケメン、これも有名。』
「へぇ、有名なんだ。でもみゆるがそういう趣味って・・・・・、ん?」
ガタッ。
『どうしたの?』
「みゆる?」
「お弁当食べちゃうよ?」
「まーったく、みゆるがイケメン好きだったなんて、知らなかったよ。」
「え、誰がイケメン?」
「話聞いてた?」
イケメンって・・・春木君が?
でも昨日はっきり見たのって、あごのラインくらいだし。
それは気に入ってはいたけど・・・、どのくらいの?
なんか、ちょっとドキドキしてきた。まさか、か、か、傾いてたりしたら、私、また倒れちゃうかも。でも、それは置いといて、こういうのはだめ。授業中もこの悪戯が残ってるなんて。そんなさらし者になって欲しくない。どうしよう、どうやって起こせば・・・。肩を、つ、つつくくらいならいいよね。それくらいなら・・・触っても。理由があるわけだし。
つん。
・・・起きない。
どうしてこうも堂々と寝ていられるの。
なんか・・・イライラしてきた。
今度はあばらのあたりを・・・。
ぐりっ。
「うわっ。」
寝起きの春木君。
なんて・・・情けない顔。
そういう顔はね、私以外には見せちゃいけないやつなんだから。
えっと、・・・ただの普通のイケメンだ。
脅かさないでよね。
こっち。
「えっと、蒼井さん?」
ついてきなさいよ。
「あれ、何だこれ。」
それ、について教えてあげようっていうの。
トイレに行ってね。
はいっ。ここ、トイレ!
「あ、頭に。なんか、つ、ついてるから。トイレで・・・落としてきて。」
「そうなんだよね。なんか落ちてきたからさ。なんだこれ?誰がやったんだ・・・。」
だ、誰がって。
それは私なんだけど。
でもそれはね、春木君がいつもぐうすか寝てるから悪いの・・・だけど。
どうしよう、どうやって説明しよう。
「ありがとう!蒼井さん。教えてくれて。」
そんな明るい顔で・・・お礼を言われる事じゃ・・・。
「あのまま寝てたら、あれ付けて授業になってたね。ほんと感謝。」
合掌しなくていい。
それはほんと、その通りなんだから。
でもこのままとぼけてもいいけど・・・。
やっぱり、そういうのって良くないよね。
こういうところはちゃんと、正直になっておかないと。
「私がやったの。」
「ん、何を?」
「その、あ、あの紙をぱらぱらってやったの・・・私です。」
「・・・。」
な、何言ってんだろ、私。
「・・・蒼井さんが、あれをぱらぱらってやって・・・。それを、俺に教えてくれたってこと?」
「そう・・・です。」
ほんと、ばかみたい。ほんと、なんでこんなばかみたいなことやってるの。
「蒼井さんって。・・・やっぱり面白いね!」
私、・・・面白い。
は?
面白くないよ。
私、これだけ春木君に対して努力してるの。いつも寝てばかりいるあなたを起こしてあげて、こんな風に会話できるようにしてあげてるの。いつもうつ伏せで寝ているせいで、おでこにシャツの後つけてる、平凡で普通のイケメンなあなたの顔を、私が認識できるようにしてあげてるの。そしてこれは傾くほどじゃないかなって評価も、今してあげたところなの。これって私の行動の結果だよね。あなたは何?ただ寝ているだけでしょ。
それにやっぱりって・・・何?
やっぱりなんて言われるほど、あなたの前でピエロを演じた覚えはないんですけど。私、一昨日まではとっても真面目な、進学校の女子だったんですけど。私、貴方とお話をしたのは、昨日が初めてなんですけど?
それから・・・。
その笑顔は何?
どうしてそんな子供みたいに笑えるの。私は今沸点に近づきつつあるの。私のその人としてそんな事も察することができないんでしょうか?ただ無防備な笑顔を振りまいていれば、誰にも危害を与えられないだろう、なんて考えは持ってはいけないの。私のその人なら、私が今何を感じているかっていうことくらい、理解していなければならないの。
そうでしょ?
なのに・・・。
なのに、その髪は何よ。
「いやさ、じゃあの授業の時にやってくれたじゃん。あれ可笑しくて、読みながらふき出すの、こらえるのが大変だったって。何回も思い返しちゃって、1人で思い出し笑いが止まらなくなる。」
何のこと言ってんの、この人。私が古文読めなかったことが、そんなにおかしいのかな。
でも、そんなに何度も私の事を思い出してくれてた・・・ってこと?
・・・いえ、それよりもっ。
どうしてこういうこと、ちゃんとできないの?
「あの、ちょっとしゃがんで。」
「えっと、なんで?」
「いいから。」
髪の毛がくしゃくしゃじゃない。
「紙を振り落としてそのままでしょ。何のために鏡のあるトイレに、連れてきたと思ってるのかな。」
ほんとだらしがない。
ああ、もうなんか我慢できなくなってきた。
沸き上がりそうだよ。
髪の毛、私が直すとか・・・だらしがなさすぎる。
なにか言ってやんないと気が済まない。
「あの、春木君。休み時間にずっと寝てるでしょ。ああいうの良くないんだよ。印象が悪い。ものすごく暗く見える。コミュニケーション拒否してるように見える。誰かが話しかけたいって思っても、話しかけられないでしょ?はた目から見ると人生諦めてるみたいに見えるよ。あんなんじゃ、明日春木君が自殺したって聞いても、みんなやっぱりねっていうだけなんだから。次の日、席からいなくなっても気にする人はいないと思うな。1輪挿しだってそなわらないよ。それくらい誰にも気にも止められていないってこと。だって悪戯されても誰も教えてくれなかったでしょ?」
あぁ、話しはじめたら止まらなくなってきた。
「それから朝ごはん、食べてないでしょ。絶対食べてないよね。それでお昼ご飯がゼリー1パックとかありえないし。あのね、高校男子の1日の栄養摂取量って、そんなもんじゃぜっんぜん足りないし・・・、あ、晩御飯は食べてるよね?」
「さすがに家で。」
「だからべつに、春木君がちょっと細いのはそれはいいんだけど、せ、背が高いのもそれはそれでいいんだけど。ちゃんとお家で夕ご飯をしっかり食べてるなら・・・、いいんだけど。でもね。朝ご飯を食べないと午前中のエネルギーが足りなくなるって聞いたよ。だから眠っちゃうんじゃないの?もしかして授業中も寝てるとか?それって深夜まで勉強してるとか?そんな真面目そうに見えないけど。それからお昼だってあれだけじゃ、授業時間はもっても部活までにはエネルギー無くなるでしょ?午後だって居眠りするだけじゃない。」
・・・そういえば、春木君って何部に入っているのかな。
「えーと、蒼井さん。とっても感謝してるけど、前髪は右に流したいかなぁ。」
はぁ?
私がかっこよくしてあげてるのに、文句つけるとか。
こっちの方がいいに決まってるでしょ。
でも、どうかな。右側・・・・・?
ゴンッ。
「痛ったぁ!!」
なに?
うわ、歴史の芹沢。
「そういうことをやるなとは言わないが、休み時間までにしておけ。」
教科書で頭殴るとか、暴力教師め。
しかも縦でだよ。
痛い。
はぁ、休み時間終わってたんだ。
でも・・・。
「なんで私が・・・。」
「レディーファーストかな。」
は?
春木君何言ってんの。
だけど、なんか・・・、面白い。
まぁいいか。
やっぱり春木君は私のその人。
一緒にいるとすごく・・・幸せな感じ。
なんか、世界がいつも・・・小さく振動して、輝いているみたい。
今は顔もよく見える。
でもね、芹沢は・・・。
「そんな紳士な先生とは、思えないけど。」
ゴッ。
「痛い、先生。」
「黙って早く教室に入れ。」
あ、お弁当食べてなかった。
『黒田が置いてくれてたよ。豆は食べたって。』
黒田さんはなんか優しいよね。こういうところ。
「蒼井。弁当箱をしまって教科書を出せ。」
・・・なんか屈辱。
『芹沢の集中砲火すごかったね。』
「あの先生、もう一度ゆるみにやったら、教育委員会に報告します。」
「いいの、黒田さん。こっちが悪いから。」
『ゆるみの年号の間違えっぷりも見事だったけど、春木の関連人物も適当過ぎて笑った。』
「なにか、あったんですか。ゆるみと春木君。」
「別に・・・。」
ふふ。
なにもないもんね。
「えっと今日はさ。部活が始まる前に先生と話がしたいんだ。だから私は先に行ってる・・・。」
痛ぁ。その腕の掴み方は痛すぎるよ、黒田さん。
「私も、一緒に行きます!」
あーそうだね、その方が疑惑は生じない。
『あの聞くけどさ、黒田。コーチとできてるの?」
あっ、直球。でもどうなの?
「はい?ど、ど、どうして私があのしわくちゃ中年コーチと出来てるんですか?」
ですよね。でも疑いも残るしゃべり方。
『ならいい。』
もういいの?もうちょっと微妙なところも確認したいけど。もういいんだ。そうなの。
あれ、春木君はもういない・・・。
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◇1 さとみの記憶 白い世界、声
◇2 幼小期 小学校
◇3 中学校
◇4 リスタート
◇5 さとみの記憶 出会い
◇6 すべてが変わる
◇7 私のその人(未確認)
◇8 長い午後① 保健室
◇9 長い午後② 授業中
◇10 長い午後③ 邂逅、疑いあり
◇11 長い午後④ 抱き枕記念日
◇12 さとみの記憶 後悔、決意
◇13 悪戯(本文)
つづく
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