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Time after time―蒼井みゆるのさとみの記憶 ◇10 長い午後③ 邂逅、疑いあり

    ◇10 長い午後③ 邂逅、疑いあり

     もう練習始まってる。
     とりあえず、体育ジャージに着替えておく?

     まったくさ、舞台幕の操作階が着替えスペースとか、これ角度によっちゃ下から見えるよね。こっちから下が見えるんだから。あ、ゆいいるじゃん。待ち合わせ忘れてたのかな。っと、なんかあった気がする。ゆいに聞くべきことが・・・、なんだっけ。思い出せない。

     あ、矢本さんはもう着替えてる。やっぱり細いなぁ。
     『黒田さん、もっとこっち。』
     確かにそこじゃ普通に下から見えると思う。着替えてるとこ。
     あれ?黒田さん練習着・・・。そりゃそっか。強化選手が持ってないわけない。お面もシューズも・・・あれ靴下ってやっぱり専用なのかな。それと、上に着てるのなんだろう。あープロテクターって言ってたやつ?あれも自前かぁ。えーっとこれは、結構初期投資が必要なのでは?卓球のユニフォームと比べると豪華さが全然違う気が・・・。いくらかかるのこれ。小遣いじゃ買えないよね。
     聞いてみる?

     「えーっと、黒田さん。そのお面って自前の?」
     「うん。でもこれはお面じゃなくてマスケって呼んだ方がいいよ。剣道じゃないから。」
     んー、立場逆転。
     あっ、ちょっと待って。
     行かないで。
     くー、ひじに抱きつく黒田さんの気持ちが、今分かりました。
     とりあえず、全部聞こう。
     「で、そのユニフォームなんだけど・・・。あと・・・、それから・・・。」
     剣もグローブも自前かぁ。
     「それで、それ全部買うとどのくらいなの?」
     分かりますよー。早く練習に行きたい気持ちはね。
     ちょっと、腰に抱きついておかないと、行かれてしまう。
     「詳しくは分からないけど、たぶん5万円くらいあれば全部そろうと思う。」
     「へー。」
     5万?
     「でも・・・。」
     でも?
     「3セットくらいはあった方がいいと思う。汗、結構かくからね。」
     3セット、15万?・・・これは部活変えた方がいいかも。
     そうだ。
     私は汗をかかない。
     そりゃあ黒田さんみたいに筋肉があったら暑いんだろうけど、私は矢本さんほどではないけど痩せてるしね。そうそう。卓球のも1週間着まわしてたけど全然匂ってなかった。うん、1セットで大丈夫。私の汗は臭くない。5万くらいなら一応お年玉の貯金があるからね。

     でもこんなウェアとか、売ってるところ見たことないよ。
     「それで、こういうのってどこで買えるの?」
     わかりますよー。面倒臭いって思う気持ちはわかります。でも、教えて!
     「私は、クラブで寸法を伝えれば揃えてもらえてたから、どこでとかは。あ、でもブレードは吉祥寺で注文したかな。手に持ってみないと分からないっていわれて、連れて行ってもらった。」
     きちじょうじって、どこ?注文って、カスタム?高そうな気配しかしない。
     「でも。」
     でも?
     「普通は共用の防具も・・・。いえ、何でもない。」
     気になるなぁ。

     あれ?そういえば黒田さんが着替えてるとき、アンダーはスポーツブラだったような・・・。えっと確かそれって5千円くらいしてたよね。さすがにアンダーを1週間とかない。それが3セットで・・・。あ、下は?フェンシングって確かガニ股みたいな恰好でするってことは、下も専用の・・・ってことはそれだけで3万?くー、お小遣いの限界すれすれをついてくるなぁ。ウェア揃えて破産とか、ちょっと勘弁なんですけど?

     あー、黒田さん行っちゃった。
     まぁ引きずられそうになって、腕を離したのは私なんだけど。

     今日は私だけジャージか。ふぅ。ま、それはいいとしても、これから私は何をするんだろう。昨日は挨拶だけでお茶を濁せたけど、さすがに今日は何かに参加しないとね。基礎トレは今から行っても中途半端だし・・・パスだね。

     マルシェ、マルシェ、ロンぺ、マルシェ・・・ユンドゥ。1,2,3,4,・・・・・。
     あれ毎日やるのかな。
     それから1対1で突き合って練習?
     今日はここで練習の流れを一通り見ておくっていうのも・・・。
     「みゆるー。早く降りて来なよっ!」
     そうだよね。
     はいはい、行きますよっと。
     そうだ。
     思い出した。
     ゆいには黒田さんのおにぎりを、食べちゃった疑惑があったんだっけ。
     それを聞いておかないと。

     「みゆるさー。ちゃんと一緒に行動してよ。今日から私達にコーチがついてくれるらしいんだ。挨拶しとかないとでしょ?」
     「あ、ごめん。」
     って謝ったけど、それなら昼休みに伝えてくれればいいじゃない。
     放課後すぐに来てくれても良かったよね。
     まぁたマウントとろうとして・・・。
     でも私は心が広いので、そんなことは気に掛けませんよーだ。
     くっそむかつく!
     だいたい私達にコーチっていう、私達って誰から誰までの私達よ。
     私達フェンシング部員なの?
     私達1年生なの?
     私達素人3人衆なの?
     ファジーな情報垂れ流しちゃってお笑いですことよ。
     それで、コーチっていうのは?

     「コーチ?」
     黒田さん?
     「伸司コーチ?!」
     え、黒田さんの知り合い?
     シンジコーチって誰?
     走り寄って行ったけど。
     「コ、コーチだよね?」
     「ん。」
     あの背の小さい人、先輩じゃなかったんだ。
     よくマスケ越しに分かるよね。
     「黒田か?おいちょっと待て。」
     あー、黒田さん、抱きついちゃった。
     ・・・黒田さんのほうが背がぜんぜん高い。
     マスケ取ると、みすぼらしいおじさん。
     あの人背筋伸ばしてるけど、顔が胸に埋まっちゃってる。
     でも、これって見てていいやつ?

     「伸司コーチ。どうして・・・。」
     「どうしてって、それはだな・・・。ちょっと離れろ。抱きつくな。俺を抱くな!これじゃしゃべれん。」
     しゃべれませんよね、あんなに大きな胸に埋もれてちゃね。
     『黒田、あいつと出来てる。』
     だよねー。
     あれが噂に聞いたセクハラコーチってことか。
     こんなことしてたら、そりゃあ部員もいなくなるよ。
     私もよく考えたほうがいいかも。
     「とにかく離れろ。誤解を招くぞ、は・な・れ・ろ。」
     んー、でも出来てるって決まったわけじゃないよね、
     矢本さん。私も疑わしいと思うけど。

     「あ、失礼しました。」
     そうだよ、もうちょっと理性を保ってね。
     そういうのは周りにわからないようにやらないと。
     「だってこっちに来て、誰も知り合いがいなかったんだもん。」
     だもん?
     「コーチの顔見たら、すごくうれしくなっちゃったんだもん。」
     まただもん?
     「だって・・・、寂しかったんだもん。」

     あー泣き出しちゃったよ。これはあれだ。個人の自由っていうのだよ、うん。そう。黒田さんがあの人と、そういう関係だったとしても、それは個人の自由。認められるべきことだよ、うん。これだけ求め合ってるのならね。たとえ黒田さんが・・・中学生だったとして12歳くらいに?そういうことになってたとしても、ね。10歳以上なら大丈夫。古典でも認めたられているし。そういうのって日本の文化だから・・・。

     「しょうがねぇなぁ。えーと、フルーレの女子!1年!こいつを離せ。」
     「はい!」
     『なんで私が。』
     う、全然動かない。
     「ちょっと、みゆるも手伝って。」
     えー私も?
     てか、フルーレって何?
     う、硬っ。
     黒田さんはほんとに筋肉が・・・体重やばそう!
     うっかり聞かないように注意しとかないと。
     「俺は触ってないぞ。触ってないからな!」
     いや触っていいから、この子突き飛ばしてくれていいから。

     「きゃ。」
     ・・・いたっ。
     こけちゃった。
     もう急に動くから。
     転んだのは私だけ?恥ずかしい。
     ほら先輩達が笑ってるし。
     部活2日目にしてこの醜態。
     「す、すみません!急にくすぐられたから。ごめんなさい。」
     あ、それで手を離したって。
     「うん。ありがとう。」
     やっぱり優しいな。手を貸してくれるなんて黒田さんは。

     それにしても、この小さな人がコーチ。黒田さんに押し倒された、しょんぼりした中年のおじさん。起き上がる姿に哀れを感じる。
     「ふう。で、今黒田をくすぐったのは誰だ?」
     うわ、あの目。報復ってこと?俺様の黒田さんをくすぐったりしたのは誰なんだってこと?
     『はい。』
     矢本さんだ。手を上げちゃってるところが、なんかかわいい。でも大丈夫?
     「ほう。」
     『湊さんにやれって言われました。』
     「なるほど。よし、湊?今のはいい判断だ。」
     「はいっ。」
     何に返事してるのか分かってるのかな、ゆいは。
     「えーっとだな。そうしたら確認するぞ。1年の女子ででフルーレを始めるのは誰だ?」
     「はい!」
     「黒田、お前はわかってる。」
     「はいっ!あと矢本さんと蒼井さんです。ちなみに私は湊ゆみでーす。」
     何いってんの、ゆいのやつ。
     『私はまだ種目決めてない。』
     「そしてこの小さい子が矢本ゆい。それからジャージが・・・。」
     あー読めた。
     でも初対面のコーチにおふざけが・・・。
     私は知らないから。
     「蒼井ゆるです。」
     「ゆるじゃない!」
     「ゆみ、ゆい、ゆるだな?覚えやすいじゃないか。何とか3兄弟みたいだな。」
     それをいうなら・・・。
     『3姉妹。』
     だよね。

     「あの、コーチ。」
     「なんだ黒田?」
     「いじられてます。」
     コホン。
     「蒼井さんはゆるじゃありません。確か・・・。」
     そう、黒田さんは私の味方。
     「ゆるみさんです。」
     こっちがはまってる!

     私は知らない。
     何も関係がない。
     あっと、思い出した。
     「あのさ、ゆみ。黒田さんのおにぎり食べたの?」
     いけない。乗っかっちゃった。
     「食べてないです。」
     あぶなー。本人が答えてくれた。でも声が小さくて誰にも聞こえてないような・・・。
     「わ・た・し・は、食べてないよー。おにぎりなんて。」
     まずい、かぶせられた。
     これで共犯者確定だよ。
     ならばここは押しで。
     「黒田さんがさ、大変だったんだよ?低血糖起こして震えちゃって。どうしてそういうことするのかな。私のお弁当食べておいて、さらに黒田さんのおにぎりまで?食いしん坊にもほどがあるんだけど。矢本さんがゼリーを調達してくれたからよかったけど、あのままだったら、今こうして黒田さんは部活できないでしょうね。」
     「だから食べてないっていうのー。」
     「じゃあ、ゆい以外の誰が食べたの?」
     ここでさり気なく軌道修正・・・え?
     『・・・。』
     「・・・。」
     「・・・黒田さん?」
     手上げてるよ。
     「私が・・・食べました。すいません。」
     いえ、あなたが食べたっていうのなら、あやまる必要はないけど。
     「今日は朝忙しくて、朝食摂れなかったので、・・・ここに来てすぐに食べました。それを忘れてて・・・。」
     ありがちな落ち。

     「はいはい、そこまでだ。」
     おー、ここでセクハラコーチの助け舟ですね。
     「お前たちの年齢は特に食事が重要だ。育ち盛りだからな。身体は食べたもので作られている。すべからくしっかりしたものを食べておくべきだぞ。ちょうちな・・・。」
     こほん。
     「そうしないと故障しやすくなったり、自律神経に障害が出てきやすくなったりするから、気を付けておけよ。」
     まぁコーチも少し緊張してるってことだよね。
     黒田さんとの関係暴露で、動揺もあるのかも。
     「そしたらちょっと待ってろ。」

     ん、あのコーチ誰と?へぇ、あの体格のいい人もコーチ?大人だ。やっぱりコーチってああいう感じだよね。凛々しい大人。でもなんか線を引かれてるような。先輩たちと区別してる?まぁ初心者だし仕方ないかな。でも黒田さんもこっち側って変な気もする。
     「今確認してきたが、フルーレをプレイするのは、フェンシング部ではお前たち4人だけだそうだ。男子部員もいないんだな。俺が教えるのはフルーレだから、お前たちを教えるのは必然的に俺だ。」
     痛ったぁ。黒田さん凄い握力だ。まぁ嬉しいのはわかるよ。よしよし。けなげな子。

     「説明が必要だな。この街はフェンシングに力を入れているが、エペとサーブルに特化してる。日本ではフルーレを選択してエペとサーブルに別れていくのが一般的だが、ここはその例に当てはまらない。この高校も今の部員はエペとサーブル。小中学校からの経験者ぞろいだな。まぁ高校から始めてもなかなか追いつけない。」

     あ、フルーレって競技種目のことか。
     「フルーレに関してはそもそも指導者がいなかったからな。それに他の種目と掛け持ちでやっても強くはなれない。フェンシング人口は少ないが、今はだんだん競技スキルも全国的に上がってきてるからだ。そういうわけで頭のいいこの高校の生徒たちは、初心者の入部が少ないらしいな。」

     それで入った子も止めちゃってるってこと。でも何?今ここにいる素人の私達が頭悪いみたいに・・・。でも私は強くなるために入部したんじゃないからね。あくまで高校生活の彩としての意味だしね。

     「でも、じゃあどうして伸司コーチはここに?もしかして私が転校したから・・・。」
     「違う。」
     凄い否定。それはどうかな。黒田さんの気持ちに対してどうかな。でもこれは冷静に考えると黒田さんが一方的に好意を寄せてるだけなんじゃない?その方が自然な気もするよね。
     「俺はコーチがいないからと頼まれて来ただけだ。まったく、来てみれば選手がいねえじゃねーか。」
     「私がいます!」
     「そうだな。それが救いでやりがいだな。」
     飛び跳ねないでよ。床が揺れてる。

     「そういえば部員は2人って聞いていたが、増えてるな。」
     「そうです。ゆるみと黒田さんが今日入部で、この4人で団体戦出ます!」
     「みゆるです。」
     「団体戦か。」
     「え?」
     「なんだ、黒田。」
     「私は嫌です。」
     ・・・・・。
     「えー、せっかく4人になったんだから出ようよ。」
     「やだ。・・・だって。」
     だって?
     「負けたくないもん。」

     そうですよね。私達がいたら勝てませんよね。私も無理して頑張る必要はないと思うな。私としては練習後にお茶しに行ったり、美味しいもの食べに行ったり、休日にどこかに遊びに行ったり・・・ね。そういうのが求めているものだし。
     「ふん。それは俺の決めることじゃない。話し合っておけ。それで、経験者はいるのか?」
     「はいっ!」
     「お前はわかってる。他にはいないんだな?なら黒田は別メニュー、お前たち3人は基礎練習からだ。ちょっと待ってろ。」

     『あの、コーチ。』
     「ん。」
     『私と湊さんは1カ月基礎連してます。』
     「だから?」
     『もう少し、先の練習をしてみたいです。』
     そうだよね。黒田さんに勝とうっていうんだから、先に進めたいよね。
     「そうか。なら、えーっと・・・。」
     『矢本です。』
     「なら矢本。防具をつけろ。それで俺のアタックをパラードしてみろ。」
     パラード?
     『はい。あの、パラードって・・・』
     「行くぞ。」
     ダン!
     ・・・。あぁ、矢本さん普通に決められてる。当たり前か。
     ダン!
     「もう一本。」
     ダン!  
     速っ!剣の動きが見えないんだけど?矢本さん突かれてから対応・・・っていうか全部矢本さんの剣の反対側をいつも突いてるよね・・・。それも3回とも違う場所を・・・。これなに?結果しか分からない。何が起こったの。

     「だめだな。反射神経が出来上がってない。基礎連だ。」
     そりゃ呆然とするよね。
     どうして突かれたか分かってないのかも。
     「伸司コーチ。ずるいです。」
     あれ、黒田さんが矢本さんの肩を?
     「何がだ。」
     「あの距離じゃ、反応できません。」
     「だろうな。だが俺は動くなとは言っていない。」
     「そうですけど。」
     なになに。
     どういう意味の会話?

     「しょうがねぇな。黒田。」
     「はい!」
     「相手しろ。」
     「はいっ。アタック権を取ればいいんですか?」
     「そうだ。とったら剣は上に。そのままファントして突けるところを突け。俺はコントルを狙うからな。」
     ・・・ダン!チッ、ダン!
     黒田さんの最後の突き、スローモーションみたい。触っただけ?コーチの方がずいぶん先に突いてたよ。これが差なのかな。代表っていってもやっぱりコーチの方がぜんぜん上ってことだよね。その前に何が起こってたのかは・・・。あ、なんとなく憶えてる。コーチの剣が残ってて黒田さんの肩を突いてたよね、・・・たしか。残像でしか判断できないって、こんなの無理だわ。黒田さんのは最後の突きしかよくわからないし。
     「おう。いいじゃねぇか。鈍ってなくて安心したぞ。」

     褒めてるの?でもコーチが勝ったんじゃないの、今のは。でも黒田さんも喜んでるし・・・。よく分かんないけど、これが選抜メンバーのレベルって事か。世界が違い過ぎてさっぱりわかりませんですよ。
     あそこには・・・、まさかたどり着けないよね。遥か遠い道を黒田さんは歩んでいるんだ。人によって世界がいろいろあるんだなぁ。私ももう少し楽しめそうな部活に、変えた方がいいのかも。あ、そうか。やめた人ってこういう気持ちだったのかもね。

     基礎連のさらに初歩メニューか。
     何も知らないから仕方がないよね。
     左手はたまごをねぇ、潰れないくらいに握る。
     ・・・こう?なんか指がつりそう。
     どちらかというと、小鳥を手の平で抱くっていう方がいい感じかな。
     構え方、基本的な動き。前進、後退。
     これって剣を持ってないと、ぜんぜん様にならない。
     かなりぎくしゃくする。
     ひざが中に入っちゃうな。
     結構苦痛。
     右の太ももの付け根に変な力が・・・。
     この姿勢を保つだけでかなりしんどい。
     これを・・・どのくらい?
     初心者が聞く事じゃないか。
     なんかケチつけてるようにとられるのもね。
     本意じゃないし。

     早くゆいと竹本さんのメニューに入りたいなぁ。1人だけジャージっていうのもモチベ下がる。2人はこれを1か月してきたんだよね。まぁ、こういうものなら仕方がないか。かなり特別な動きだもんね。でも先輩たちは自然に動いてるな。慣れってこと?だよね。
     あれ、でも練習着っていつ揃えるんだろう。んーでも本当にこのままフェンシングって・・・疑問もあるし、焦る必要はないか。無駄な投資になる可能性が無い訳ではないよ。あんなの、他に使い道はないもんね。
     これをずっとやっていろと。無理だぁ。見てたほうがいいか。
     二人一組になって突いたり突かれたり・・・。どういうルールの練習だろう。

     この後は入れ替わりで模擬戦か。
     ん?
     あの身体をポンって叩いてるのは、ここを突かれましたって自分で言うってことか。
     へぇ。
     嘘つく人っていないのかな。
     まあ練習でそんなケチな人はいないよね。
     あとは、割と自由に対戦してる感じ?
     あれ?
     もう終わりなんだ。
     結構早いね、終わるの。

     「みゆる、今日一緒に帰る?」
     「部活、終わるの早いんだね。」
     「うん。先輩たちはこれかららしいけど。」
     「これから?」
     「春木君に聞いたけら分かったけど、クラブに行って練習するのかもね。」
     「そうなんだ。まさかゆい?」
     「私は入ってないって。入る気もない。部活だけで十分だよ。」
     十分か。少し足りないような気もするけど。
     「矢本さんは?」
     『ちょっと見てく。』

     確かにあの残ってる2人は気になるよね。こんな2階から見てないで下で一緒に練習すればいいのに。・・・いや、無理か。レベルが違いすぎる。剣が見えないし。上から見てると余計わからないな。


     いつまで、2人で練習していくんだろう。


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    ◇1 さとみの記憶 白い世界、声
    ◇2 幼小期 小学校
    ◇3 中学校
    ◇4 リスタート
    ◇5 さとみの記憶 出会い
    ◇6 すべてが変わる
    ◇7 私のその人(未確認)
    ◇8 長い午後① 保健室
    ◇9 長い午後② 授業中
    ◇10 長い午後③ 邂逅、疑いあり(本文)
    ◇11 長い午後④ 抱き枕記念日
    ◇12 さとみの記憶  後悔、決意
    ◇13 悪戯

    つづく

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    スキルス胃がんのステージ4と診断された妻は、1年と2か月の通院生活を終えて他界してしまいました。これは2人で考え2人で悩み2人で遊び、2人で夢を見続けた、―妻の言葉を借りれば「キラキラしていた」―日々を記した日記です。誰かの励みになってくれればと思います。

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