
Time after time―蒼井みゆるのさとみの記憶 ◇5 さとみの記憶 出会い
◇5 さとみの記憶 出会い
武蔵小金井駅に停車していた電車は、ゆっくりと走り出した。
ドアの窓から目を凝らして外を見る。
昨日と同じ時刻に発車した電車は、白い柵を置き去りにしながら速度を上げていった。
彼は、シャッターの下りた建物の前に立っていた。
手にはモスバーガーの紙袋を持っている。隣で買ったお昼ごはんだと思う。小食なのかな?袋が小さい。ちらりとそんな疑問が頭をよぎる。電車は速度をさらに上げ、彼を私の視界の端に追いやっていき、ほどなく見えなくなってしまった。
胸の奥に、砂粒がいくつか揺らいでいるような感じが残った。
『明日行ってみよう。』
心の中でそう決める。
ドアの窓に、ほっぺたをくっつけていた跡が残っていた。シャツの裾で拭いた。
今日も暑い日だ。武蔵小金井駅で電車を降りたことがなかった。目の前に見えた改札を出る。ここはあのレンタルビデオ店とは反対側、駅の南側に出てしまったみたい。
ホーム脇の道路で踏切を待つ。急ぎの男の人が下りているワイヤーをくぐって、こちら側に小走りで抜けていった。あまり行儀のいい街とはいえない。そう思ったけれど、理由があった。
ここが開かずの踏切だとは知らなかった。
改札を出てから何本の電車が通り過ぎただろうか。各駅停車がすれ違っても踏切が開かない。特快がやってくるからだ。便利に使っていた特快だけど、こうなると恨みを覚えてしまう。やっと踏切が開いた。と思ったら渡り始めた途端にまた警報機が鳴りだした。みんな急いで渡っている。おばあさんがのろのろと歩いていて心配になってしまう。
踏切待ちで、いらいらした気持ちが残っている。モスバーガーで少し気分を変えてからにしようか。でも今日、彼がこの店にいるのかどうかわからない。無駄なお金は使いたくない。
モスの隣はレンタルビデオ店。入口は建付けの悪そうなアルミの引き違い戸。ガラスのところに、トップガンのポスターが貼られていて、中が見えにくい。外側には、アルバイト募集の張り紙があった。
中に入るのはちょっと緊張する。
でも彼がいないのなら、お客のようにして出てくればいいだけ。
思い切って扉を開ける。
店内に入って顔を見上げると、カウンターの中にいた彼と目が合った。
ああ、この人だ。
ひと目見てわかった。
世界が光り出したみたいだ。
何かが膨らんでいくような期待。
時間が止まってしまったようだ。
私はこれから・・・。
ずっと、この人と・・・・・。
もう、以前の私に戻ることはできない。
それがわかった。
電車から彼を見つけた。
もしかしてっていう予感は間違ってなかった。
この人となら・・・。
あぁ。
鼓動がおさまらない。
じっと私を見ている目は、驚きを含んでいるみたいだ。
「あの、アルバイトの張り紙を、見てきたんですけど・・・。」
そんなことを口走っていた。
これでいい?
いいよね、何も問題はない。
ちょうどバイトをしなくちゃと思っていたところだし。
そう、大丈夫。
出会ってしまったなら、後は何も考えなくていい。
あなたが、そうしたいと思うことをすればいい。
躊躇する必要は、どこにもないよ。
その人はあなたの、全てを受け入れてくれるんだから!
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◇1 さとみの記憶 白い世界、声
◇2 幼小期 小学校
◇3 中学校
◇4 リスタート
◇5 さとみの記憶 出会い(本文)
◇6 すべてが変わる
◇7 私のその人(未確認)
◇8 長い午後① 保健室
◇9 長い午後② 授業中
◇10 長い午後③ 邂逅、疑いあり
◇11 長い午後④ 抱き枕記念日
◇12 さとみの記憶 後悔、決意
◇13 悪戯
つづく
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