メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo byreiarrive

蘇軟《卜算子》孀独の冷たさ──ひずり立ち぀くす倜に響く詞

    1この䞖界に独りきり


    『この広い䞖界に独りきり──』

    そんな蚀葉が、ふず頭に浮かびたす。

    実際には、完党に䞀人になるこずなど、そう簡単ではありたせん。
    街には人がいる。
    店員は䞁寧に応察しおくれる。
    誰かず軜く蚀葉を亀わすこずだっおある。

    けれど、人に囲たれおいるこずず、孀独ではないこずは、同じではありたせん。

    むしろ、人が倚い堎所ほど、自分だけが䞖界から切り離されおしたったような感芚に襲われるこずがありたす。

    長幎連れ添った盞手ずの別れ。
    突然倱われた倧切な存圚。
    あるいは、誰にも自分の気持ちを理解しおもらえないず感じた瞬間。

    自分を䞖界に぀なぎ止めおいたアンカヌが倖れ、広い海ぞ独り投げ出されたような、䞍安ず冷たさが胞に広がっおいきたす。

    呚りは笑っおいるのに、自分だけがその茪の䞭ぞ入っおいけない。
    賑やかな堎所にいるほど、心の奥だけが静たり返っおいく。

    気が぀けば、独り、倜の闇を芋぀めおいたす。

    宋代の詩人・蘇軟もたた、そんな倜を歩いた䞀人でした。

    今回は、蘇軟《卜算子・黄州定慧院寓居䜜》をご玹介したす。

    冷たい倜気の䞭を、たった䞀矜で飛んでいく孀鎻のような孀独を、ただ静かに味わっおみおください。

    蘇軟が過ごした暗闇


    宋代を代衚する文孊者・蘇軟。
    同時に、将来を嘱望された゚リヌト官僚でもありたした。

    その人生が倧きく暗転したのが、1079幎の「烏台詩案うだいしあん」です。

    圓時の宋では、王安石による倧芏暡な改革が進められおいたした。
    蘇軟は、その政策に距離を眮き、詩文の䞭にも、民衆の苊しみや政治ぞの違和感を滲たせおいたした。

    やがお、それらの衚珟が朝廷批刀ず芋なされたす。

    蘇軟は突然捕らえられ、埡史台で厳しい取り調べを受けるこずになりたした。

    蘇軟は、およそ104日間にわたっお拘束されたした。

    この事件では、本人だけでなく、芪族や友人たちにも凊分が及んでいたす。
    蘇軟自身も、獄䞭で死を芚悟しおいたず蚀われたす。

    その埌、蘇軟に䞋された凊分は、黄州ぞの巊遷でした。

    もっずも、それは名ばかりの圹職でした。
    郜から遠く離れた黄州で、仕事もなく、生掻は困窮しおいきたす。

    黄州ぞたどり着いた蘇軟は、定慧院ずいう寺で日々を過ごしたした。

    そんなある倜。
    眠れぬたた倖ぞ出た蘇軟は、自らの孀独を䞀篇の詞に残したす。

    それが、《卜算子・黄州定慧院寓居䜜》です。

    たずは、党文をご芧ください。

    猺 月 挂 疏 桐 挏 断 人 初 静。
    quē yuÚ guà shÅ« tónglòu duàn rén chÅ« jìng
    残月は、葉を萜ずした梧桐の梢にかかる。
    挏壺の氎音も尜き、人々のざわめきも静たり返っおいく。

    谁 见 幜 人 独 埀 来 猥 猈 孀 鞿 圱。
    shuí jiàn yōu rén dú wǎng láipiāo miǎo gÅ« hóng yǐng
    倜の䞭を独り行き来する私に、目を留める者はいない。
    ただ遥か空には、䞀矜の孀鎻の圱だけが挂っおいる。

    惊 起 华 回 倎 有 恚 无 人 省。
    jÄ«ng qǐ quÚ huí tóuyǒu hÚn wú rén xǐng
    ふず振り返る。
    けれど、この胞の思いを分かっおくれる人は、誰もいない。

    拣 尜 寒 枝 䞍 肯 栖 寂 寞 沙 掲 冷。
    jiǎn jìn hán zhÄ« bù kěn qījì mò shā zhōu lěng
    冷たい枝を探し続けおも、孀鎻はそこぞ身を䌑めようずはしない。
    芋枡せば、人気のない沙掲だけが、冷たく広がっおいる。

    《卜算子・黄州定慧院寓居䜜》蘇軟

    冷たく広がる沙掲


    わずか44文字。
    けれど、《卜算子》には、倜気の冷たさが静かに滲み出おいたす。

    现かく芋おいきたしょう。

    猺月掛疏桐挏斷人初靜。
    残月は、葉を萜ずした梧桐の梢にかかる。
    挏壺の氎音も尜き、人々のざわめきも静たり返っおいく。

    冒頭二句は、静かな倜景描写から始たりたす。

    「猺月」は、倜曎けの空に残る欠けた月です。

    その月が掛かるのは、「疏桐そずう」──葉を萜ずし、枝がたばらになった梧桐あおぎりの朚。

    欠けた月。
    葉を萜ずした朚。
    静たり返った倜。

    蘇軟は、自分の孀独を盎接語るこずなく、その景色だけを眮いおいきたす。

    誰芋幜人獚埀䟆瞹緲孀鎻圱。
    倜の䞭を独り行き来する私に、目を留める者はいない。
    ただ遥か空には、䞀矜の孀鎻の圱だけが挂っおいる。

    ここから、詞は蘇軟自身の内面ぞ深く入っおいきたす。

    「幜人ゆうじん」ずは、俗䞖から距離を眮いお生きる人のこずです。

    その幜人である蘇軟が、静たり返った倜の䞭を独り歩いおいる。

    しかも、その姿を芋おいる者すらいたせん。

    ふず空を芋䞊げるず、䞀矜の「孀鎻ここう」。

    広い倜空を挂う孀鎻の姿は、蘇軟自身にも重なっお芋えたす。

    驚起卻回頭有恚無人省。
    ふず振り返る。
    けれど、この胞の思いを分かっおくれる人は、誰もいない。

    ここで蘇軟は、䜕かに驚いたように、ふず振り返りたす。

    誰かが自分を呌んだ気がしたのかもしれたせん。
    あるいは、孀独のあたり、無意識に人の気配を探しおしたったのかもしれたせん。

    しかし、そこには誰もいない。

    続く「恚こん」は、単なる怒りではありたせん。

    「恚」ずいう字には、怒りだけでは蚀い切れない感情がありたす。

    政治の䞖界から远われ、自らの蚀葉によっお人生が暗転した蘇軟。

    その胞には、蚀葉にしきれない思いが残っおいたのでしょう。

    それでも、振り返っおしたう。

    けれど、その先には、ただ冷たい倜だけが広がっおいたす。

    揀盡寒枝䞍肯棲寂寞沙掲冷。
    冷たい枝を探し続けおも、孀鎻はそこぞ身を䌑めようずはしない。
    芋枡せば、人気のない沙掲だけが、冷たく広がっおいる。

    そしお、《卜算子》は、この二句によっお静かに閉じられたす。

    「寒枝」ずは、冬の冷気の䞭に立぀、葉を萜ずした朚の枝です。
    孀鎻は、その枝を探し続けたす。

    けれど、「䞍肯棲」。
    どこかぞ安易に身を寄せようずはしない。

    そこには、郜を远われ、孀独の䞭ぞ投げ出されながらも、簡単には䞖間ぞ迎合しようずしない蘇軟自身の姿が重なりたす。

    最埌に眮かれるのは、「寂寞沙掲冷」。

    たった5文字です。

    蘇軟のこずも、この詞のこずも䜕も知らなくおも、この5文字を目にした瞬間、その冷たさは䌝わっおくるこずでしょう。

    「寂寞」ずいう字の圢そのものが寂しく、「冷」ずいう䞀字が最埌に眮かれるこずで、倜の底ぞ沈み蟌んでいくような感芚がありたす。

    挢字ずいう文字が持぀力を、蘇軟はここで最倧限に䜿っおいたす。
    その卓越した衚珟力には感動すら芚えたす。


    呚囲を氎に囲たれた、人気のない沙掲。

    この詞は、その景色だけを残しお終わりたす。

    慰めもありたせん。
    救いもありたせん。

    ただ、冷たい倜ず孀独だけが残る。

    けれど蘇軟は、その孀独から目を逞らさず、そこに居続けるのです。

    寒枝には止たらない


    《卜算子・黄州定慧院寓居䜜》は、蘇軟が最も深い孀独の䞭にいた時期に曞かれた䞀銖です。

    この詞に向き合っおいるず、冷たい倜の空気の䞭ぞ、静かに立たされるような気持ちになりたす。

    蘇軟は、この埌もしばらく黄州で鬱屈した日々を過ごしたした。

    「誰芋幜人獚埀䟆」──。

    あの「誰」の䞭には、か぀お自分を取り巻いおいた人々の姿も含たれおいたのかもしれたせん。

    呌ばれおもいないのに、思わず振り返っおしたう。
    けれど、その先には誰もいない。

    そんな倜を、蘇軟は繰り返し歩いおいたのでしょう。

    それでも、《卜算子》の最埌で描かれる孀鎻は、「寒枝」を探し続けながらも、そこぞ安易に身を寄せようずはしたせんでした。

    孀独の䞭に沈み蟌みながらも、どこかで、自分を倱いたくはなかった。

    だから蘇軟は、冷たい沙掲を芋぀めながら、なお、そこに立っおいたす。

    残月が浮かぶ静かな倜。

    『この広い䞖界に独りきり──』

    そうしお芋䞊げた空は、あの日、蘇軟が芋䞊げた空ず、どこか぀ながっおいるのかもしれたせん。

    《卜算子・黄州定慧院寓居䜜》は、孀独を消しおくれる詞ではありたせん。

    けれど、冷たい倜の䞭で、なお立ち尜くしおいる人間の姿を、静かに照らしおいたす。



    蘇軟は、この埌、少しず぀自分自身を取り戻しおいきたす。

    その転機ずなった《定颚波》に぀いおは、䞋の蚘事で玹介しおおりたす。

    よろしければ、ぜひ、匕き続き蘇軟の䞖界を味わっおみおください。



    もしこの蚘事を楜しんでいただけたら、マガゞンをフォロヌしおいただけるず嬉しいです。

    《 その他の「蘇軟」シリヌズ 》


     
     
    犏岡圚䜏䞭囜滞圚歎10幎䞭囜党省・自治区・盎蜄垂・特別行政区を螏砎。 『犏岡人、䞭囜をゆく』運営。 䞭囜、犏岡、東アゞアの街を歩きながら、歎史・挢詩・文化・食・人々の営みを綎っおいたす。 䞭囜ず犏岡、その぀ながりの䞭にある物語を探しおいたす。

    あなたぞのおすすめ