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林檎男の誘い - 想像の囜のれンパンク《1》

    《あらすじ》
    「あなたを埅ち続ける。私は知っおいるから。」
    フリヌランス゚ンゞニアの空人は、難病の効の治療費を皌ぐため、意識を仮想空間ぞ送り蟌む秘密プロゞェクト・れンパンクに参加する。倖資系コンサルタントの海未は、政府の䞍正を远うなかで䞖界の歪みに気づいおいき、同じ堎所ぞず匕き寄せられおいく。
    接点のなかったはずの二人は、互いの存圚を知らないたた、奇劙なほど近い距離を蟿っおいく。れンパンクに点圚する違和感は、やがお無関係ではいられない意味を垯び始める。
    理由もなく孀独になっおしたう時代に、それでも誰かを信じるこずを諊められない人間のための、切実なSFラブストヌリヌ。
    本䜜品は党13章・玄10侇7千文字の完結䜜品です。各章を順次公開しおいたす。

    +++++

    長線小説『想像の囜のれンパンク』第章。
    ※物語ず連動する楜曲も、YouTubeず配信サむトで公開しおいたす


    目次

     第章 (空人) 林檎男の誘いざない
     第章 (海未) 消された送金
     第章 (空人) 想像䞊の楜園
     第章 (海未) 異囜の粉
     第章 (空人) 隠された歎史
     第章 (海未) 倢かう぀぀か
     第章 (海未) 真の蚈画
     第章 (鈎朚) 過去
     第章 (空人) 䟵入者
     第10章 (海未) 繋がる線
     第11章 (海未) 最埌の手玙
     第12章 (空人) 狐の導き
     第13章 (空人) 蚘憶ず邂逅かいこう



    プロロヌグ

     
     その玫色の塊かたたりは、宇宙の闇を挂っおいた。
     どこから来たのかも、どこぞ向かうのかもわからない。
     ただ、気が遠くなるほど長い時間、無限の空間の䞭を流れ続けおいた。

    「それ」は、たくさんのこずを経隓した。
     無の䞭で揺蕩たゆたうだけではなく、地球ずいう惑星で生を味わったこずもあった。
     ある時は青い空の䞋で笑い、ある時は果おのない銀河のどこかで䞀生を終えた。
     幞せも悲しみも、䜕も感じない静寂すらも、そのすべおを知っおいた。

     もう、満ち足りおいるのかもしれない。
     そう思った瞬間だった。

     静寂の䞭で、「それ」はふず揺らぎ、音もなく分かれた。
     たるで、自らの意思であるかのように。
     たるで、決められおいた運呜であるかのように。

     玫の塊は、赀ず青のふた぀に分かれた。

     生たれたばかりの二぀の光は、たっさらな心で宇宙に目を開いた。
     過去の蚘憶も、数えきれない旅の蚘憶も、もう䜕も持たない。
     ただ、おがろげに感じるものがある。

     い぀か、どこかで、たた巡り逢うのだろう――。

     そう確信するように、二぀の塊は、静かに宇宙の波に流されおいった。



    第章 (空人) 林檎男の誘いざない  

      

     束島空人た぀したそらずは、その日の朝、効・倢花ゆめかの病宀を蚪れおいた。癜いカヌテンず癜い壁、薄い青のベッドカバヌが広がる病院の䞀宀。倢花の顔は少しや぀れおいるものの、空人が来るず、い぀も笑顔を芋せる。
    「お兄ちゃん、おはよう」埮かに顔を䞊げ、匱々しい声でそう蚀う倢花の姿を芋るず、空人の胞は締め付けられた。ここ数日の治療の圱響か、頬が少しだけ、こけお芋える。
     圌がベッド脇の怅子に腰を䞋ろすず、倢花はふず空を芋䞊げるように倩井に芖線を移した。
    「ねえ、お兄ちゃん  宇宙の始たりっお、䜕があったず思う」
     䞍意の問いに、空人は䞀瞬返事に詰たる。小さい頃から、倢花はふずしたずきに哲孊じみた質問を投げかけおくる癖があった。
    「宇宙の始たり そうだな  ビッグバンずか、そういう科孊的な話が定説なんじゃないか」
    「うん。ビッグバンは聞いたこずあるよ。でも、そうじゃなくお、もっず本圓の本圓の最初に宇宙が始たった時っお、どんな感じだったず思う」
    「  なんだろう。わからないなぁ」
    「そっか。私ね、なんずなく『最初は䞀぀だったものが、二぀に分かれた』っおむメヌゞがあるんだ。宇宙も、そうやっお始たったのかなっお  」
     そう蚀っお埮笑む倢花の衚情は寂しげで、けれどどこか儚い矎しさがあった。空人は胞が締め付けられるような感芚を芚える。
     郚屋にノックの音が響いた。ドアに目を向けるず、看護垫ず目が合った。
    「束島さん、少しお時間よろしいですか 先生がお話したいそうです」
    「わかりたした」小さく返事をしお、空人は病宀を出た。

     盞談宀で䞻治医が埅っおいた。空人が怅子に座るず、䞻治医は深刻そうな顔で切り出した。
    「倢花さんの病状ですが、今の治療だけでは根治が難しいかもしれたせん。最先端の治療はアメリカで行われおいたすが  」空人は思わず奥歯を噛んだ。海倖での治療なんお、莫倧なお金がかかるに決たっおいる。䞻治医は続ける。
    「かなりの費甚が必芁になりたす。金額的には、今の日本での治療費ずは比べ物にならないほどです」
     そう蚀っお䞻治医は、その金額が曞かれた玙を机の䞊に眮いた。䞀瞬、党おの思考が飛んだ。たさに倩文孊的ず蚀っおいいほどの桁違いの金額だった。
    「もしその治療が難しければ、正盎なずころ  寿呜は数幎皋床かもしれたせん」
     廊䞋の癜い蛍光灯の光が、かえっお冷たく感じられた。空人は感情の波が抌し寄せるのを必死に抑える。母が死んだずきもそうだった――医垫から告げられる事実の重み。「  分かりたした」それだけ蚀うず、声を倱った。

     病宀に戻るず、倢花がベッドから少し起き䞊がったずころだった。
    「倧䞈倫   先生ず話しおきたんだよね」小さな声でも、空人にはその響きが痛いほど䌝わる。倢花は薄々、自分の病気に関する状況を理解しおいるのだろう。
    「うん、ちょっず話をしおただけ。気にしないで」空人が取り繕うように蚀うず、倢花はかすかに笑う。
    「お兄ちゃん、い぀も苊しそう。ごめんね、私のせいで。私、知っおるよ。本圓はもっずお金が必芁なんでしょ」
     その蚀葉に空人はハッずする。効に悟られないようにしおいた぀もりだったが、倢花にずっおは自分の病気のせいで兄が苊しんでいるこずくらい、想像が぀くのだろう。
    「謝らないで。倢花は䜕も悪くない。俺が䜕ずかするから。必ず  」そう蚀いかけお、蚀葉が詰たる。金策の圓おもなく、ただ空元気を出すしかない状況だず分かっおいるからこそ、空人は自分に苛立ちを芚える。
    「お金のこずは気にしないで。お兄ちゃんがいおくれたら、私は幞せだよ」
     倢花はそう蚀っお、屈蚗のない笑顔を芋せた。空人は、効の玔粋さず、自分の䞍甲斐なさで、胞が苊しくなった。

     病院の゚ントランスを出るず、シャツの襟元を緩め、深く息を吐く。
      どうすればいいんだろう
     ただ朝の涌しさが残る秋の空気の䞭、空人は倧きく深呌吞をした。
     身䜓が匷くなかった母芪は、空人が䞭孊生の時に亡くなった。圓時空人は、䞀生分ず蚀っおいいほどの涙を流した。
     それから皋なくしお、父芪は二人の子どもを眮いお倱螪した。
     銀行口座に残っおいたお金を倧事に䜿いながら、そしお様々なアルバむトを経隓しながら、空人は効ず二人きりで生きおきた。若い頃からお金を皌がないずいけなかったので、効率的にたくさんのお金を皌ぐため、独孊で゜フトりェア゚ンゞニアリングの勉匷をした。結果ずしおパ゜コン䞀台で皌げる胜力が身に付き、それは今のフリヌランス゚ンゞニアずいう仕事に掻きおいる。
     父芪の倱螪に぀いお、圓時は事態をすぐに飲み蟌めなかったが、倧人になっおから、「あの時の父芪は逃げたのだ」ずいうこずを理解した。最愛の劻を亡くし、二人の子䟛を䞀人で育おるこずに疲れ果お、どこか遠くぞ逃げたのだ、ず。
     今ずなっおは、父芪に䌚いたい気持ちさえなかった。そんな機䌚がもし埗られるくらいなら、母芪を生き返らせお欲しいず思った。
     ずにかく、残されたのは倢花ず自分だけ。だから倢花を支えられるのは、自分しかいないのだ。しかし、どれだけ唯䞀の家族を守りたい気持ちが匷くおも、目の前の金銭的困窮は、切り抜けようがないほど倧きな壁ずしお立ちはだかる。
     遠くで救急車のサむレンが鳎る。空人はその音を聞きながら、改めお自分の無力さに唇を噛んだ。
    アメリカでの治療費なんお、本圓に支払えるのか フリヌランスの゚ンゞニアでやっおきたけど、この先の倧きな案件だっお、すぐには望めない  
     倢花の「宇宙の始たり」の問いが頭の䞭をよぎる。「最初は䞀぀だったものが、二぀に分かれた」――それはどこか䞍思議なむメヌゞだが、今の空人には自分ず効が切り離されおしたう悪倢のようにも感じられた。
    「  絶察にそんなの嫌だ。効ず離れ離れになるなんお  」思わず呟く声がかすれお、自分でも驚く。
     今の自分にできるこずは䜕だろう それを思い぀くこずができないたた、秋の冷たい空気だけが劙に肺に突き刺さるように感じられた。

      

     病院を出おから、空人は近くの公園ぞ向かった。圌は新しいコヌドのアむデアや仕事の悩みを敎理するずき、決たっお公園の片隅で瞑想をする。深呌吞をしお頭を空にするこずで、迷いや䞍安を䞀時的に封じ蟌めるこずができるからだ。
     倧きな朚の䞋のベンチ。そこに座り、目を閉じる。ゆっくり吞っお、ゆっくり吐く。頭の䞭には倢花の顔、そしお高額な治療費の数倀がちら぀くが、それを無理やり远い払うように息を敎えた。
     ――だが、その日はい぀もず違った。
    「  いい倩気ですね」
     知らない男の声に、空人は思わず目を開いた。そこには、ネむビヌのスヌツを着おネクタむをきちんず締めた男が立っおいた。䞍思議なのは、男が右手に赀く熟した林檎を持っおいるこずだった。たるでどこかの童話から飛び出しおきたような堎違いな感じだ。その顔には底知れぬ笑みが浮かんでいる。
    「あなたは  」空人は䞀瞬譊戒したが、男はにこやかに埮笑み、すっず林檎を差し出した。
    「食べたすか お腹が空いおいるならどうぞ。ずはいえ、お代は結構ですよ。  ふふ、冗談です。実は、あなたに興味がありたしおね」
     最初は䜕のこずだか分からなかった。怪しい勧誘か、あるいはネットワヌクビゞネスの類だろうか 
     空人は譊戒しながらも、適圓に盞槌を打ち、䌚話を切り䞊げるタむミングを図る。
    「れンパンク――仮想空間のようなもの、ずいえば䌝わりやすいでしょうか」
     男は柄たした衚情で、空人に説明を始めた。れンパンクには、れンゞニアず呌ばれる人々がいお、圌らは仮想空間を構築・拡匵する仕事をしおいる。れンゞニアリングず呌ばれるむメヌゞや思考がそのたた圢になる技術を扱うのだそうだ。そしお男は、自分こそがそのれンゞニアをスカりトする係、いわば「れンゞニアのスカりタヌ」であるずいう。ある皋床のプログラムスキルや瞑想習慣を持぀人間を探しおいるのだず蚀った。

     男の話を聞くうちに、空人は蚀葉を倱っおいった。
    「  信じられないでしょうが、あなたには玠質がありたすよ」男は埮笑み、林檎をくるりず回した。「正盎、報酬も砎栌です。仮想空間の構築に協力し、成果を出せば、あなたが求めおいる金額などすぐに皌げるでしょう」
     男が口にした金額は、ちょうど空人が必芁ずしおいた金額を少し䞊回るほどの金額だった。
     空人は半信半疑だった。しかし同時に、病院での珟実が頭をよぎる。効の治療費をなんずかしなくおはならない――その焊りが、男の蚀葉をたるで甘い蜜のように感じさせた。
    「いや、だけど  仮想空間っお。そんなのファンタゞヌでしょう か䜕かの話ですか」空人が戞惑いながら尋ねるず、男はやんわりず銖を振る。
    「なんおものではありたせん。れンゞニアリングで䜜り出されるのは、もっず盎接的で、もっずリアルな空間です。名刺代わりにこれをどうぞ」
     男はポケットから青いワッペンを取り出した。名刺ではなかったが、胞に぀けられるような圢状で、䞍思議な暡様が描かれおいる。䞭心に円盞が描かれ、そこから回路のような王様が広がっおいた。
    「舞浜にあるテヌマパヌクに『ギャラクシヌマりンテン』ずいうアトラクションがありたす。そのアトラクションに、この青いワッペンを装着したたた乗れば、あなたはれンパンクぞ行けたす。行きたくないのなら、行かなくおも結構ですが  」男は林檎をかじっおみせる。その歯觊りが、リアルな音を䌎っお空人に迫っおくる。
    「あ、間違っおもテヌマパヌクのスタッフに質問したりしないでくださいね。ギャラクシヌマりンテンが入り口ではありたすが、れンパンクはテヌマパヌクずは無瞁のプロゞェクトなんです。たあその蟺りの事情に぀いおは耇雑なので、れンパンクに行った際に調べおみおください」 
     男は淡々ず続けた。
    「お金がなければ、あなたが本圓に守りたい人に愛を泚ぐこずもできたせんよ。䟋えば  効さんの治療費ずかね」

     その蚀葉に、空人はビクリず肩を震わせた。なぜ効のこずを知っおいるのか そもそも効の話はただ䜕もしおいない。
     空人は男の顔を改めお芋返す。その衚情からは、圌の真意は読み取れなかった。
     䞍審な気持ちも膚らんだが、それ以䞊に、この話に心が惹かれおいる自分がいるのも事実だった。もしこれが本圓なら、空人には願っおもない話ではないか。
    「どうしたす 行きたすか それずも、行かずに効さんを攟っおおきたすか」
     その男の問いかけに、空人は答えられなかった。
    「もし行くず決めた堎合は、今の仕事は蟞める必芁があるのでしょうか」
    「いえ、仕事を蟞める必芁はありたせん。ただ最初の蚪問であれば、長くお䞀週間ほどを芋蟌んでいただくのがいいでしょう。なので案件の合間に、䞀週間ほど確保しおください」
     男の蚀葉を聞いおも、空人はあたりむメヌゞが湧かなかった。たったの䞀週間で䜕ができる ゜フトりェアであれば、䞀週間でできる実装なんお高が知れおいる。
     しかし、珟実ではありえないず吊定し぀぀も、「もし本圓なら」ずいう垌望は消えない。䜕よりアトラクションに乗るだけであれば、ノヌリスクでできるず感じた。
     空人がワッペンを受け取るず、男は再び埮笑んだ。
    「よい刀断を期埅しおいたす。――ああ、そうそう。僕の名前は  そうですね、林檎男ずでも芚えおおいおください。ふふ」
     そう蚀うずスッず身を翻し、男はたるで颚のように去っおいった。空人が振り返った時には、もう公園のどこにもその姿はなかった。

     林檎男――あの奇劙なスヌツ姿の男ず公園で䌚話しおから、空人は自分でも驚くほど疲れおいた。家に着く頃には倜になっおいお、街灯のオレンゞ色の明かりが静かな䜏宅街を照らしおいる。
     家の鍵を開け、玄関の電気を぀けるず、急に珟実が迫っおくるように感じた。公園で受け取った青いワッペンを胞ポケットから出し、改めおたじたじず芋る。そこには筆で描いたような円盞の暡様ず、そこから回路のような王様が広がっおいる。たるで犅ずテクノロゞヌが融合した䞍思議な意匠だ。
    「  本圓にこれで行けるのか」぀ぶやきながら、ワッペンをキッチンのテヌブルに眮く。
     林檎男は蚀った。「舞浜にあるテヌマパヌクの『ギャラクシヌマりンテン』に、そのワッペンを付けたたた乗れば、れンパンクぞ行ける」——空人は心のどこかで錻で笑っおいたが、効の治療費が嵩むこの状況では、ひずかけらの垌望にもすがりたい思いがある。
     冷蔵庫を開けるが食べる気力が湧かず、そのたたシャワヌを济びお郚屋着に着替えた。効は入院䞭でこの家には空人しかいない。静たり返ったリビングはやけに広く感じられ、頭の䞭で、林檎男の蚀葉がリフレむンする。
     れンパンクぞ行けば、倚額の報酬が埗られる。効を救うお金が手に入るかもしれない  。
     甘い誘惑だが、それでも珟実離れしおいる。耳に残るのは、「犅ず゚ンゞニアリングの融合」「仮想空間」「れンゞニアずしお働け」など、たるでじみた単語ばかりだ。
     机の䞊に攟り出したワッペンを芋぀めおいるず、空人の胞には劙な熱が灯っおいく。こんな荒唐無皜な話に乗るなんお銬鹿げおいる――理性はそう譊告する。しかし、効の苊悶の顔が脳裏をかすめる床、「やるしかないのか」ず気持ちが揺れるのだった。

     ベッドに暪になっおも寝぀けず、スマホで「ギャラクシヌマりンテン」を怜玢する。舞浜のテヌマパヌクの人気アトラクションの䞀぀ずしお玹介され、公匏サむトにはキラキラした写真が茉っおいる。でも、そんな堎所に行けば「れンパンク」なる謎の仮想空間ぞ行けるずいう話は䞀切ない。
     たさかこのワッペンを付けお乗り蟌めば、リアルに仮想空間ぞ飛べる   俺はそれを本気で信じおいるのか
     自問自答が止たらない。だがもし効の治療費が必芁な今、これが唯䞀の救いになるかもしれないのなら、挑戊する䟡倀はあるのか。
    効はただあの病院にいるし  俺以倖に頌れる人間はいない  
     目を閉じるず、効の顔が浮かぶ。医療費の額は膚倧で、フリヌランス゚ンゞニアずしおの皌ぎでは党く远い぀かない。空人には䞡芪がいないも同然、母は亡くなり、父もどこかぞ逃げおしたった。結局、効を守るのは自分しかいないのだ。
     午前時を回っおも眠気が来ず、぀いに空人は決断する。
    明日、舞浜ぞ行こう
     どうせデタラメかもしれないが、やっおみるしかない。
     スヌツ姿の林檎男が「これを䜿えば報酬が埗られる」ず語った蚀葉を、今だけは信じおみよう。仮にそれが嘘だったずしおも、むタズラだったず分かるだけで、それ以䞊のリスクはないはずだ。

      

     翌朝、空人はい぀もより早く起きお身支床を敎えた。ワッペンをシャツのポケットに忍ばせ、鞄には念のため着替えを䞀枚。もしかするず䜕かあるかもしれないずいう挠然ずした䞍安だ。
     電車を乗り継いで、舞浜駅に到着するず、平日にもかかわらず倚くの家族連れやカップルで賑わっおいる。
     テヌマパヌクの入り口ぞ向かう人々は皆、楜しそうだが、空人は胞に䞀抹の焊りを抱く。この人混みの䞭、どこを探せば「れンパンクぞの入口」があるのか。
     先にチケットを賌入し、ゲヌトをくぐる。そこには華やかな装食やキャラクタヌの着ぐるみがあふれ、いかにも倢の囜の雰囲気が挂っおいる。しかし空人の心は浮き立぀どころか、䞍安に抌し朰されそうだ。改めお「本圓にこんなずころに『れンパンク』なんおあるのか」ず自問する。
     パヌクのマップで「ギャラクシヌマりンテン」の堎所を探し、空人は人波を瞫うように歩く。それはコヌスタヌ系の人気アトラクションで、入り口前には埅ち列が䌞びおいる。「盞倉わらず人気があるのは確かみたいだけど  」ず呟きながら空人は䞊ぶ。
     順番が近づくずスタッフの女性が「お䞀人ですか ではこちらぞどうぞ」ず笑顔で案内する。青いワッペンはただシャツの内ポケットに入れおいるが、ずりあえずこれを胞に぀けないず意味がないのだろうか。
     アトラクションの乗り堎に着く盎前、空人はポケットからそっずワッペンを取り出し、シャツの胞ポケットあたりに貌り付けおみる。「これでいいのかな  」ず思いながらシヌトに座り、安党バヌを䞋ろす。
     車䞡がガコンず動き出し、暗いトンネルぞ突入する。期埅ずは裏腹に、䜕も特別なこずは起きない。背䞭にはコヌスタヌの振動だけが䌝わり、スピヌドが増しお倩井のラむトや惑星を暡した食りが流れおいく。
      特別なこずは起きそうにもない。でも、圓たり前か  
     空人は心の䞭で苊笑する。コヌスが曲がり、急䞋降し、宇宙を暡したトンネルをくぐるが、䜕の異倉も起こらない。やがおアトラクションは無事にゎヌルし、ホヌムに到着しおしたった。
     シヌトから降りお通路を出るず、他の客たちが「楜しかったね」ず蚀い合い、笑顔で進んでいる。空人はぜ぀んず䞀人で出口を抜けながら、萜胆を隠せない。
      以前に乗った時ず䜕も倉わらないな。林檎男に隙されたか
     ワッペンも倖しお手のひらに握りしめる。あれほど壮倧な話を聞かされお期埅した自分が銬鹿らしく思えおきた。街の公園で怪しい男に声をかけられ、こんな遠路たで足を運んだのに䜕の収穫もない。
     アトラクションの出口を出るず、そこは雑螏の䞭。土産物屋やレストランが䞊んでいお、楜しげなが遠くから流れおくる。空人は肩を萜ずしながら、「垰るか」ず思わず口にした。

     そのずき、突然スヌツ姿の男が空人に近づいおきた。片手にはバナナを持っおいる。劙に堎違いな印象を䞎える姿で、空人は思わず「え」ず声を挏らす。
     男はにこやかに埮笑み、小声で蚀った。「空人さんですね 私がご案内したす。  すみたせん、林檎じゃなくバナナで」
     空人は驚きで䞀瞬蚀葉を倱う。林檎男ず同じ怪しさを感じるが、今床はバナナ どういうこずだ、ず戞惑いながら、「あ、はい  」ずだけ返す。
     呚囲の客に聞かれないよう、男は銖をかしげおニコッずする。「こちらぞどうぞ」
     そのたたテヌマパヌクのスタップリアぞ続く现い通路を歩き出し、空人は状況が分からないたた぀いおいく。譊備員に止められるかず思ったが、男が䜕かカヌドを芋せるずあっさり通過できる様子だ。
    「さっきアトラクションに乗られおたしたね ワッペンを付けお。残念ながらそれを付けおも『衚のシステム』では䜕も起きたせん。ただ、正匏にご案内を差し䞊げるのは私の圹目でしお」
     男は軜くバナナの皮をむき、䞀口かじりながら歩く。「林檎男から話は聞いおたすよ。ぜひよろしくお願いしたすね」
     空人は蚀葉にならず、ただ埌を远う。先日公園で出䌚った『林檎男』ず䌌た雰囲気を感じる。顔は䞀切違うけれど、たるで双子の兄匟のようでさえある。

     スタップリアの现い通路をさらに進むず、「関係者以倖立ち入り犁止」の看板がいく぀も目に入った。
     黄色のラむンが匕かれた床は冷たく、二人の足音だけが静寂に響く。男は無蚀のたた歩みを進め、途䞭で振り返るず「どうぞ、こちらぞ」ず柔らかく促した。
     やがお、「危険」ず赀字で倧きく曞かれたゲヌトが姿を珟す。その異様な存圚感に、空人は無意識に足を止めた。
     パヌクのスタッフであっおも容易に近づかないであろう、その圧迫感のあるゲヌトは、たるでこれから先に埅぀䜕かを譊告しおいるかのようだった。
    「ここを  通るのか」
     空人が戞惑いの声を挏らすず、男はあくたで萜ち着いた埮笑みを浮かべた。
    「安心しおください。この少し先に『れンパンクの入り口』がありたす。林檎男が䌝えおいなかったかもしれたせんが、れンパンクぞ行く道はアトラクションの䞀郚ではなく、ここにあるんです」
     男はそう蚀うず、胞ポケットから黒いカヌドキヌを取り出し、付け加えた。
    「ただし、カヌドキヌが必芁なんですよ」
     ゲヌトを通過するず、芖界の先に珟れたのは無機質なコンクリヌトの壁だった。サビ぀いた鉄骚がむき出しずなり、どこか湿った倉庫のような臭いが挂っおいる。
    「  ここに入り口なんお、本圓にあるのか」
     空人の蚀葉に、男は黙ったたた壁ぞ近づいた。そしお、䜕の倉哲もないコンクリヌト壁にカヌドをかざす。
     カチリ。
     小さな機械音ずずもに、壁の䞀郚が音もなく暪にスラむドしおいく。空人は思わず息を呑んだ。開いた先に珟れたのは、意倖なほど普通の䞀宀だった。

     その郚屋は、無機質な䌚議宀のようだった。
     癜い壁、金属補のテヌブル、無人の怅子が数脚。郚屋の隅には芳葉怍物が眮かれおいるものの、その葉はどこか人工的で、劙に完璧な圢をしおいる。
    「ここ  は」
     空人が蚝しむず、男は少し笑いながら答えた。
    「ここはカモフラヌゞュのための郚屋です。䞇が䞀、パヌクのスタッフが入っおきたずしおも、『管理甚の監芖宀』ず蚀い蚳できる䜜りになっおいたす」
     男はそう蚀いながら、郚屋の隅に蚭眮された壁掛けのモニタヌを指差した。モニタヌには、パヌク内の監芖カメラ映像が映し出されおいる。
    「でも――」
     男は䞀歩前に出るず、壁にかけられた無骚な時蚈を手に取った。その背面に隠されおいたのは、さらに小さなスキャナヌだった。
    「本圓のれンパンクぞの入り口は、こちらです」
     男がカヌドキヌを再床スキャナヌにかざすず、郚屋の䞀角――たるでただの壁に芋えた郚分が、たるで溶けるようにゆっくりず開き始めた。
     薄暗い通路の奥から、冷たい空気ずほのかな機械の音が挏れ出しおくる。
     壁の奥ぞ足を螏み入れるず、淡い蛍光灯の光が䞀面に広がり、そこには簡玠なカプセルホテルのような構造が䞊んでいた。
     合蚈20ほどのカプセルブヌスが䞊䞋二段で行儀良く敎列しおいる。各ブヌスには扉が付いおいお、䞭の様子はよく分からない。
    「ここがれンパンクぞの入り口ですか たるでカプセルホテルみたいだけど  」
     男はバナナの実を最埌たで食べ、皮をすばやくビニヌル袋にしたうず、手を叩いお軜く笑う。「その通り、こちらが『れンパンクぞの本圓の入口』ですよ。あなたの身䜓をここで䞀時保管しお、意識を仮想空間ぞ送るずいうシステムなんです」
     空人は驚きず疑念が入り混じる。身䜓を保管 意識を送る 䜕を蚀っおいるのか理解が远い぀かないが、男の蚀葉はどこか萜ち着きず自信に満ちおいる。
    「れンパンクは仮想空間ですが、䞀般的な仮想空間ずは異なりたす。空想の゚ネルギヌを倚く必芁ずする堎所なのです。ギャラクシヌマりンテンに乗っおもらったのは、蚀わば最初のステップですね。その身䜓ず意識の状態のたた、ワッペンを付けおカプセルに入っおいただくこずで、れンパンクぞアクセスできたす」
     男がカプセルの䞀぀を指差した。
    「乗り蟌めば、本圓に『れンパンク』ぞ行けるのか  」
     空人は思わず぀ぶやいた。男は倧きく頷き、「ええ、れンパンクの運営スタッフがあなたを歓迎したすよ。成果を出せば、報酬も甚意されおいるずか」ず埮笑む。
     胞が高鳎る。パヌクの客たちは、たさかパヌクの裏に、そんな秘密の空間が広がっおいるずは倢にも思わないだろう。だが、それず同時に疑念も湧く。「こんな怪しい斜蚭に、本圓に足を螏み入れおいいのか 䜕か危険なこずに巻き蟌たれたりしないのか」――心の䞭で譊鐘が鳎る。
     男はスヌツのポケットから小さなカヌドを取り出し、「このブヌスを䜿っおください。ワッペンは぀けたたたで」ず促す。扉が自動で開くず、䞭には薄いベッドのようなクッションが敷かれおおり、頭郚にヘッドギアらしき装眮が付いおいる。
    「さあ、空人さん。どうぞ。時間がありたせんから」
     空人はカプセルの前で深呌吞した。効の顔が頭に浮かぶ。もしこれが本圓なら、膚倧な報酬を埗お効を救えるかもしれない。隙されたずしおも、やっおみなきゃ分からない。
    俺がやらなきゃ誰が効を助けるんだ
     そう心に蚀い聞かせ、「どうなるか分からないけど  やるしかないか」ず䜎く呟いた。
     男は埮笑んで「倧䞈倫ですよ。れンゞニアずしお働くのは倧倉ですが、あなたならできるかもしれない」ず手を差し出す。
     空人はその手を軜く握り、「わかった」ずだけ答えた。

     カプセル内に足を螏み入れる。䞭は枅朔感があり、ベッドのクッションに暪たわる圢を取るず、わずかにシヌトが身䜓を包むように沈む。倩井郚分にモニタヌや现かなランプが配眮され、ヘッドギアらしき装眮が䞊から䞋りおきそうだ。
      そういえば、この状態でどうやっお生掻するんだ トむレずか、飯ずか
     ふず疑問が浮かび、空人はカプセルの内壁を芋枡した。たるで病院ののような粟密さがあるが、食事蚭備もトむレのようなものも芋圓たらない。
     そんな空人の様子を察したのか、男が淡々ず説明する。
    「ご安心を。カプセル内では最䜎限の氎分ず栄逊が点滎のような圢で補絊されたす。排泄に぀いおも、自動凊理システムが機胜したすので、䜕も気にする必芁はありたせん」
    「  それは助かるけど、ちょっず䞍安になるな」
    「快適ずは蚀えたせんが、れンゞニアの皆さんは問題なく過ごされおいたすよ」
     空人は半ば玍埗し぀぀、今さらやめる理由もなかった。
    「では、おやすみなさい――ずいうわけでもないのですが、意識が移行されるプロセス䞭、少し寝おいる感芚になるかもしれたせん」
     男が蚀い終わるず、空人の頭䞊に機械アヌムが䌞びおきお、ヘッドギアを合わせる䜍眮ぞガチャッず固定する。少し重いが䞍快ではない。胞に぀けたワッペンが埮かに青く光るような錯芚を芚え、空人は䞍安ず期埅の入り混じった想いに囚われる。
    れンパンク  本圓に存圚するのか 俺はどうなるんだ
     その疑問を抱えたたた、カプセルの扉がゆっくりず閉じ、芖界が薄暗い光だけになる。呌吞が急に深くなり、心拍数が䞊昇しおいくのを感じた。
    「それでは、行っおらっしゃいたせ。いい旅を」
     倖から男の声が届く。カプセルが完党にロックされた。たるでの小説に出おくるコヌルドスリヌプ装眮にでも入ったようだ。心臓がドクドクず音を立お、その音が耳を圧する。
    俺は今、䜕をしおいるんだ  ず䞀瞬の埌悔が頭をもたげるが、それもすぐに消える。効の顔、林檎男の蚀葉、バナナ男の導き――党おがこの瞬間に集玄されおいる気がした。
     意識ががんやりず遠のき、䜕か暖かい液䜓に包たれるような感芚が広がる。芖界の端で、円盞ず回路王様の描かれたワッペンが青く発光しおいる錯芚を芋た気がした。やがお頭が静かになり、䜓が宙に浮くような䞍思議な浮遊感に襲われる。
     舞浜のテヌマパヌクのごく䞀角で、誰も知らない「カプセルブヌス」に閉じ蟌められ、その意識がたるで異䞖界ぞ飛び立぀かのように移行しおいく。その先に䜕が埅぀のか、どんな䞖界が広がっおいるのか――空人自身、党く想像も぀かないたた、胞の奥に広がる期埅感ず歪いび぀な高揚感に、党身を委ねおいった。


    䜜者あずがき

    最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。

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    物語は芖点が倉わっお、「第章 (海未) 消された送金」ぞず続きたす。


     
     
    小説を曞く䜜曲家。䞍定期にnote曎新。ひず぀の物語䞖界を、小説・音楜・映像で倚面的に描くナニット「STORYLINE」で掻動䞭。長線小説『想像の囜のれンパンク』党13章・完結ず楜曲・MVを公開しおいたす。https://linktr.ee/storyline_jp

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