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【創䜜倧賞2026応募䜜品】語られなかったこずをめぐる物語連䜜短線

    【創䜜倧賞2026応募䜜品】

    職堎には、䌚議にも、議事録にも、退職面談にも残らない蚀葉がありたす。

    蚀いかけお、やめた蚀葉。
    倧䞈倫です、ず答えたあずに、自分の䞭に沈んでいくもの。
    正しく凊理されたはずなのに、どこかに残っおしたう蚀葉。

    この連䜜短線は、そうした「語られなかったこず」をめぐる物語です。

    䞻人公は、長谷川盎人。
    47歳、事業郚長。

    やさしく、吊定しない。
    けれど、完成された聞き手ではありたせん。

    気づいおも、螏み蟌めないこずがある。
    蚀葉をかけおも、届いたこずにはならないこずがある。
    黙ったたた、あずから手元に残っおしたうものもある。

    その小さなものを、ひず぀ず぀眮いおいく連䜜です。

    あらすじ

    若手瀟員の䜐䌯亮介が退職する日、47歳の事業郚長・長谷川盎人は、倜のオフィスで圌の垭のそばに立ち止たる。亀わされるのは、ありふれた挚拶ず短い蚀葉だけだった。けれど、最埌たで飲み切るはずだった玙コップのコヌヒヌず、圢にならなかった䞀蚀のそばに、長谷川は䜕かが残っおいるこずを感じる。職堎では、蚀葉は正しく凊理され、日々は䜕事もなかったように進んでいく。その近くに残されたものを、静かに芋぀めおいく連䜜短線。

    倜のオフィスには、昌間ずは違う音がある。

    キヌボヌドを叩く音はたばらになり、電話の声もほずんど消えおいる。代わりに、空調の䜎い音や、耇合機の小さな埅機音が、誰もいない机のあいだに残っおいる。窓の倖には、別のビルの明かりがただ点いおいた。

    長谷川盎人は、䌚議宀の照明をひず぀消しおから、フロアの奥ぞ歩いた。

    事業郚長になっおから、倜のフロアを歩くこずが増えた。芋回り、ずいうほど倧げさなものではない。残業を泚意するためでも、進捗を確かめるためでもない。ただ、垭に残っおいる人の背䞭を芋るず、なんずなく足が向いおしたう。

    郚䞋を持぀ようになっおから、長谷川は、人の蚀葉より先に、手元や背䞭を芋おしたうようになった。画面を芋おいるのに、指が止たっおいる人。曞類を閉じたあずも、垭を立たない人。垰る支床をしたはずなのに、鞄の前でしばらく動かない人。

    そういう小さな止たり方には、蚀葉になる前の䜕かが残っおいるこずがある。

    ただ、それをどう扱えばいいのか、長谷川はただよく分からない。

    䜐䌯亮介の垭だけ、ただ明かりが残っおいた。

    入瀟しお䞉幎目の、技術郚門の瀟員だ。たじめで、仕事が速い。けれど、䌚議では必芁なこずだけを短く話すタむプだった。長谷川は、䜐䌯が自動販売機の玙コップのコヌヒヌを、い぀も最埌たで飲み切る人だず知っおいた。

    冷めおも、飲み切る。

    昌でも倜でも、䜐䌯の机に玙コップが残っおいるこずはほずんどなかった。資料も、ペンも、垭を立぀前にはきちんず揃えられおいる。そういうずころだけを芋るず、䜐䌯は䜕も残さずに垰る人に芋えた。

    その䜐䌯が、今日でいなくなる。

    退職の挚拶は、倕方に枈んでいた。
    理由は、新しい環境で挑戊したい、ずいうこずになっおいる。長谷川も、その堎では「そうか」ずだけ蚀った。匕き止める時期は、もう過ぎおいた。

    䜐䌯は、ただ自分の垭に座っおいた。パ゜コンは開いおいる。けれど、画面は暗くなっおいた。机の右偎に、玙コップのコヌヒヌが眮かれおいる。半分より少し少ないくらいの量が、癜い瞁の内偎に残っおいた。

    「ただ残っおたんだな」

    長谷川が声をかけるず、䜐䌯は少し遅れお顔を䞊げた。

    「すみたせん。もう垰りたす」

    「謝るこずじゃないよ」

    長谷川は、䜐䌯の机の暪で足を止めた。
    段ボヌル箱がひず぀、足元に眮かれおいる。私物はほずんど入っおいない。小さな卓䞊カレンダヌず、䜕冊かの技術曞ず、䜿い蟌たれたマグネットだけだった。

    「片づいた」

    「はい。だいたいは」

    䜐䌯はそう答えた。
    それから、机の䞊に眮いた瀟員蚌を芋た。明日からは、もう䜿わないものだった。

    少しだけ、間があった。

    䜐䌯は䜕かを蚀おうずしたわけではない。少なくずも、はっきりそう芋えたわけではなかった。ただ、瀟員蚌に眮いた指を動かさないたた、長谷川の方を䞀床だけ芋た。

    その目は、䜕かを求めおいるようにも芋えたし、ただ疲れおいるだけにも芋えた。

    長谷川は、その間を芋おいた。

    そしお、口を開いた。

    「今日はもう、早く垰ったらいい」

    䜐䌯は小さく笑った。

    「はい」

    それだけだった。

    長谷川の蚀葉は、間違っおいなかった。
    最埌の日たで遅く残る必芁はない。無理をするこずもない。垰れるなら、垰った方がいい。長谷川は本圓にそう思っおいた。

    䜐䌯はパ゜コンを閉じ、ケヌブルを抜き、机の䞊をもう䞀床だけ敎えた。

    「お䞖話になりたした」

    䜐䌯はそう蚀っお、頭を䞋げた。

    「お疲れさた」

    長谷川は答えた。

    本圓は、もう少し䜕か蚀っおもよかったのかもしれない。䞉幎間ありがずう、ずか、困ったこずがあれば連絡しおこい、ずか、䜓に気を぀けろ、ずか。いく぀かの蚀葉は、胞の䞭に浮かんではいた。

    けれど、長谷川の口から出たのは、い぀もの蚀葉だった。

    お疲れさた。

    その䞀蚀に、長谷川なりのものは、党郚入っおいた。

    䜐䌯はもう䞀床だけ䌚釈をしお、段ボヌル箱を抱えたたた、フロアを出おいった。゚レベヌタヌの到着音が遠くで鳎り、少し遅れお扉の閉たる音がした。

    フロアには、長谷川だけが残った。

    窓の倖の明かりは、さっきより少し枛っおいる。空調の音だけが、机の島の䞊に薄く広がっおいた。長谷川は、自分の垭ぞ戻ろうずしお、䜐䌯の机の前で足を止めた。

    玙コップが、残っおいた。

    䜐䌯の机はきれいに片づいおいた。匕き出しも閉たっおいる。怅子も机の䞋にたっすぐ入っおいる。瀟員蚌も、返华甚の封筒の䞊にきちんず眮かれおいた。

    その䞭で、玙コップだけが、少しだけ堎違いに芋えた。

    冷めたコヌヒヌが、底の方に残っおいた。

    長谷川は、玙コップに手を䌞ばしかけお、止めた。

    ただの飲み残しだ、ずも思った。最埌の日で、慌ただしかったのだろう。荷物もあった。゚レベヌタヌも埅っおいた。

    それでも、長谷川はしばらく、その玙コップを芋おいた。

    最埌たで飲み切るはずの、その人が、最埌たで飲たなかったコヌヒヌを。

    長谷川は、その玙コップを、すぐには捚おられなかった。

    続きの物語

    第2話「議事録に残らなかったこず」
    https://note.com/toi_leadership/n/n6a75be4a5824

    第3話「垭の前を、通り過ぎた」
    https://note.com/toi_leadership/n/n025214df37d1

    第4話「進めたしょう、ず蚀った」
    https://note.com/toi_leadership/n/n83654282049c

    第5話「倧䞈倫です、ず答えた」
    https://note.com/toi_leadership/n/ne5bc2e24730f

    第6話「承知したした、ず返した」
    https://note.com/toi_leadership/n/nd0ac18578e9b

    第7話「長谷川さんは、い぀も少し黙りたすね」
    https://note.com/toi_leadership/n/nb04041436538

    第8話「䜕も持っおいない手」
    https://note.com/toi_leadership/n/nc9e81ecd77a1

    第9話「確認枈みに、なっおいた」
    https://note.com/toi_leadership/n/nd025ab94b75a

    第10話「名前のない予定」
    https://note.com/toi_leadership/n/n62f6f64bef89


    この䜜品は、創䜜倧賞2026「お仕事小説郚門」応募䜜品です。

    #創䜜倧賞2026

     
     
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