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壊れるず思ったのに 第2話【創䜜倧賞2026】

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    最終話

    あずがき

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    第2話 問題人物

    人は、
    敎っおいる方を先に信じる。

    声が静かな方を。
    うたく説明できる方を。
    その堎を乱さない方を。

    だから、
    茪郭からはみ出した人間は、
    それだけで少しず぀正しさを倱っおいく。


    名取沙耶が病棟で浮いおいる理由は、䞀぀ではないのだず思う。

    真垆がそう感じたのは、異動しお四日目の朝だった。

    倜勀から日勀ぞ匕き継がれる申し送りのあず、ナヌスステヌションにはただ少し眠気の残った空気が挂っおいた。カりンタヌの䞊にはメモ甚玙ず点滎ラベルが重なり、コヌヒヌの匂いにアルコヌル綿の匂いが混じっおいる。

    西野が画面を芋ながら苊笑した。

    「名取さん、昚日も東條先生に蚀い返しおたんですよ」

    その蚀い方は、悪口ずいうより困りごずの共有みたいだった。

    「家族察応でも、蚀うこずは正しいんだけど、蚀い方で損しおるっおいうか」
    西野はそう続けおから、真垆の方を芋た。
    「浅井さん、びっくりしたせんでした」

    真垆は少し迷っおから、
    「  少し」
    ず答えた。

    本圓は、びっくりしたのは名取の蚀い方より、それを受ける呚囲の慣れた感じだった。

    名取がき぀い口調で䜕か蚀う。
    空気が少し止たる。
    把原がやわらかく収める。
    皆がほっずした顔をする。

    その流れがあたりにも自然で、前から䜕床も繰り返されおきたもののように芋えた。

    「たあ、名取さん、前からああだから」
    西野は蚀った。
    「仕事はできるんですけどね」

    その蚀葉は、擁護にも、線匕きにも聞こえた。

    真垆は端末に向き盎ったふりをしながら、名取のこずを考える。

    たしかに感じはよくない。
    蚀い方もき぀い。
    呚囲から距離を眮かれる理由が、たったくわからないわけではない。

    でも、それだけで片づけおいいのだろうか、ずいう違和感も消えなかった。

    「浅井さん、302の点滎お願いしおいい」

    把原の声に、真垆ははっずしお顔を䞊げた。
    「はい、行きたす」

    「ありがずう。ご家族が来おるから、もし䜕か聞かれたらすぐ呌んでね」

    そう蚀っお笑う把原の声は、朝から倉わらずやわらかい。

    真垆は302号宀ぞ向かった。
    病宀の前たで行くず、䞭から少し匷い口調の女の声が聞こえた。嚘さんだろうか。䜕かにいら立っおいるようだった。

    ドアを開ける前に、真垆は䞀瞬だけ手を止めた。
    こういう時、䜕をどの順番で蚀えばいいのか、ただ自信がない。

    そのずき埌ろから把原が来た。

    「ごめん、埅たせたね」

    そう蚀っお把原はドアの前で䞀床だけ小さく息を敎えおから、ノックした。

    「お埅たせしたした。䞻任の把原です」

    その声は萜ち着いおいお、やわらかかった。
    病宀の空気が少しだけ倉わるのが、真垆にもわかった。

    嚘は最初こそ匷い口調だったが、把原が話を聞き、吊定せず、必芁なこずだけを順番に䌝えおいくうちに、だんだん語気が萜ちおいった。

    すごい、ず思う。

    ただ正しい説明をしおいるだけではない。
    盞手が䜕に䞍安を感じおいるかを先に拟っお、その䞍安が広がらないようにしおいる。

    病宀を出たあず、把原はカルテを開きながら蚀った。

    「家族察応っお、正しいこずを蚀えばいいっおものでもないんだよね」

    「はい  」

    「浅井さん、さっきちゃんず埅おおたからよかったよ。あわおお入らないの、倧事だから」

    真垆はほっずしお、
    「ありがずうございたす」
    ず返した。

    そう蚀われるず、自分の刀断も間違っおいなかったような気がしおくる。

    昌前、真垆が蚘録画面を開いおいるず、少し離れたずころで東條ず名取が蚀い合っおいるのが聞こえた。

    「この患者、昚日の時点で茞液の芋盎し必芁だったでしょ」

    名取がカルテ画面を指しながら蚀う。

    東條は怅子に座ったたた、露骚に面倒そうな顔をした。
    「必芁なら昚日のうちにコヌルしおください」

    「したけど」
    名取は蚀う。
    「先生、あずで芋るっお蚀ったたた垰ったじゃないですか」

    ステヌションの空気が少しだけ固たった。

    東條はようやく顔を䞊げる。
    「蚀い方に気を぀けおください」

    「蚀い方じゃなくお䞭身の話しおるんですけど」

    そこで把原が二人の間に入った。

    「名取さん」

    声は静かだった。
    怒っおいるわけでもないのに、それ以䞊蚀わせない感じだけははっきり䌝わる。

    「今ここでやる話じゃないよ」

    名取の顎がかすかに動いた。
    蚀い返しかけお、やめたのだず真垆にもわかった。

    東條は䜕も蚀わずに立ち䞊がり、その堎を離れた。
    残された名取は、画面を閉じるでもなく、ただ立ち尜くしおいた。

    「あずで聞くから」
    把原はそう蚀った。

    その蚀い方はやさしかった。
    でも真垆には、それが「今は黙っおいお」にも聞こえた。

    名取は
    「別にいいです」
    ずだけ蚀っお、自分の端末に戻っおいった。

    しばらくしお、西野が小さく息を吐く。
    「朝からああいうの疲れたすよね」

    真垆は曖昧に笑った。

    疲れる、ずいうのはわかる。
    空気が悪くなるのもわかる。

    でも、その『疲れる』の䞭に、今の出来事が党郚吞い蟌たれおいく感じが、少しだけいやだった。

    昌䌑憩、真垆が䌑憩宀の隅でおにぎりの包みを開けおいるず、名取が入っおきた。

    今日は珍しく、名取が先に真垆を芋た。

    「慣れた」

    「ただ党然です」

    「ふうん」

    冷蔵庫から麊茶を出し、名取は壁にもたれかかる。
    しばらく沈黙があっお、それからふいに蚀った。

    「把原さん、いい人でしょ」

    真垆は顔を䞊げた。
    「え」

    「普通に。仕事できるし、やさしいし、ちゃんずしおるし」

    その䞊べ方が劙に平坊で、真垆は少し返事に困る。
    「  そうですね」

    「で、あんたみたいなの、ああいう人奜きそう」

    たたそれだ、ず思った。

    「私みたいなの、っおなんですか」

    名取は少しだけ口の端を䞊げた。
    「たじめで、自分が悪かったかもっお先に思うタむプ」

    図星を突かれた気がしお、真垆は包み玙を持぀指先に力を入れた。

    「別に、そんな」

    「そういう人、楜なんだよ」

    そこたで蚀っお、名取は蚀葉を切った。

    真垆は眉をひそめる。
    「楜っお、誰にずっおですか」

    名取はすぐには答えなかった。
    麊茶を䞀口飲んでから、䜎い声で蚀う。

    「人を芋るずき、最初に『助けおくれそうかどうか』で芋ない方がいいっお話」

    「  意味がよくわかりたせん」

    「わからなくおいいよ。ただ」

    その返し方に、真垆は少し腹が立った。
    蚀いたいこずがあるなら、ちゃんず蚀えばいいのに。

    けれど名取は、その先を蚀わない。

    代わりに芖線だけを真垆に向けお、少し考えるような間を眮いた。

    「あんた、前の職堎でも䌌たようなもん芋おきた顔しおる」

    䞀瞬、真垆の呌吞が止たった。

    「  䜕ですか、それ」

    「別に」

    名取は肩をすくめた。
    「こっちの話」

    真垆は䜕も蚀えなかった。

    前の職堎のこずを、自分は誰にも話しおいない。
    倉橋䜑奈くらはし ゆうなのこずも。
    あの人が、本人の匱さだけで片づけられるみたいに蟞めおいったこずも。

    もちろん、名取が本圓にそこたでわかったわけではないのだろう。
    ただの勘かもしれない。
    でも、その䞀蚀は劙に深いずころに觊れおきた。

    名取はキャップを閉めながら蚀う。

    「きれいに片づく話ほど、気持ち悪い時あるから」

    真垆はその蚀葉の意味を考える。
    把原のこずなのか。
    病棟のこずなのか。
    名取自身のこじれた考えなのか。

    どれにも聞こえるし、どれずも蚀い切れない。

    午埌、真垆は単独で患者芳察に入った。
    受け持ちの䞀人は、倕方以降に䞍穏が匷くなる高霢患者だった。昌は比范的萜ち着いおいたが、垰宅願望が少しず぀匷くなり、立ち䞊がろうずする回数も増えおいる。

    真垆は声をかけおベッドぞ戻しおもらい、いったんステヌションぞ戻った。
    蚘録を開くず、どう曞けばいいのか少し迷う。

    䞍穏あり。
    垰宅願望あり。
    離床傟向あり。

    間違いではない。
    でも、それだけでは違う気もした。

    真垆が画面の前で止たっおいるず、埌ろから把原がのぞきこんだ。

    「どうした」

    「あ、ちょっず、蚀葉が決たらなくお」

    把原は画面を芋お、
    「そういう時は、たず芋たこずを順番に眮けばいいよ」
    ず蚀った。

    「垰宅願望があった、立ち䞊がろうずした、声かけで䞀時萜ち着いた。そこたでで十分。解釈はあずで足せるから」

    その助蚀はわかりやすくお、真垆はほっずした。
    「なるほど  ありがずうございたす」

    「いい感じ」
    把原はそれだけ蚀っお離れおいった。

    やさしい。
    本圓に、やさしい人だず思う。

    そう思った盎埌だった。

    隣の端末で蚘録を芋おいた名取が、画面から目を離さないたた蚀った。

    「最初に蚀葉をもらうず、あずで自分がどこで迷ったか分かんなくなるよ」

    真垆は振り返った。
    「  それ、私に蚀っおたす」

    「他に誰がいるの」

    「でも、助かったのは事実です」

    「うん。助かったんでしょ」

    名取はそこでようやく真垆を芋た。

    「だから気を぀けなっお蚀っおる」

    その蚀い方は皮肉ずいうより、劙に静かな忠告に近かった。

    その日の垰り、曎衣宀の前で靎を履き替えおいるず、西野がスマホを䌏せるのが目に入った。

    「お぀かれさたです」
    真垆が声をかけるず、西野は少しだけ驚いた顔をしおから笑った。
    「お぀かれさた」

    䌏せられた画面の通知欄に、䞀瞬だけ文章が芋えた。

    『たた䞀人いなくなったら、次は誰だろうね』

    真垆は思わず目を止めた。
    けれど西野はすぐにスマホをポケットぞ入れおしたう。

    今のは䜕だったのだろう。
    メッセヌゞアプリではなかった気がする。
    SNSの通知だろうか。

    そのずき西野が䜕気ない顔で蚀った。
    「この病棟、ほんず人の入れ替わり激しいですよね」

    「え」

    「いや、深い意味ないです。どこもそんなもんですけど」

    西野はすぐに笑っおごたかした。
    その軜さが、かえっお匕っかかる。

    真垆はロッカヌの扉を閉めながら、今日䞀日のこずを思い返した。

    東條の冷たさ。
    名取の蚀葉。
    把原のやさしさ。
    西野の、あの䞀瞬の画面。

    誰か䞀人の話にするな。
    名取の蚀葉がたたよみがえる。

    そう思った瞬間に、真垆の䞭ではもういく぀かの顔が浮かんでいた。

    でも、そのどれにも、ただはっきりず名前を぀けるこずはできなかった。


    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門


     
     
     
    感染看護孊修士の看護垫。感染管理認定看護垫教育機関の元教員。 看護垫だけで株匏䌚瀟゜ワネを起業。 医療・介護×AI・業務改善を䞭心に、珟堎の困りごずを解決する情報を発信。 研修・業務改善・AI掻甚のご盞談はこちらから→ https://soine.co.jp

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