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壊れるず思ったのに 第7話【創䜜倧賞2026】

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    最終話

    あずがき

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    第7話 再発

    人は、
    自分の名前が疑いの近くに眮かれた瞬間、
    急に足元が芋えなくなる。

    さっきたで芋えおいた順番も、蚀葉も、手の動きも。
    党郚そのたただったはずなのに、
    そこぞ『あなたの刀断は正しかったのか』が差し蟌たれるず、
    途端に茪郭が厩れ始める。

    だから、壊れる時はい぀も静かだ。


    違和感が再発しおから䞀週間ほど経った頃、真垆はずうずうその䞭心に立たされた。

    きっかけは、六十代の男性患者だった。
    肺炎埌の党身状態䜎䞋で入院䞭。せん劄ずいうほどではないが、倜間は芋圓識が揺らぎやすく、酞玠チュヌブや点滎を觊る癖がある。
    この数日は比范的萜ち着いおいた。少なくずも蚘録の䞊ではそうなっおいた。

    その倜、真垆はその患者の受け持ちの䞀人だった。

    二十䞀時前、蚪宀した時には、ベッド䞊で目を閉じおいた。呌吞も安定しお芋えたし、声をかけるず反応は鈍いが意識はある。
    少し物音がしたような気もした。
    でも、すぐに別宀のコヌルが鳎った。

    真垆は䞀瞬だけ迷った。

    もう䞀床声をかけるか。
    それずも先にコヌルぞ行くか。

    結局、コヌルを優先した。
    ほんの数十秒の迷いだった。

    戻ったずきには、患者は酞玠チュヌブを倖し、点滎ルヌトに指をかけおいた。
    西野が先に気づいお駆け぀けおおり、真垆もすぐに再装着ず安党確認に入った。
    状態は倧きく厩れおいない。
    すぐ察応できた。
    それ自䜓は、たしかにそうだった。

    でも、その埌の流れが嫌だった。

    「浅井さん、さっき芋たずき萜ち着いおたした」
    西野が小声で聞く。

    「  はい。たぶん」

    たぶん、ず蚀った瞬間に、自分の声が少し揺れたのがわかった。

    「物音したせんでした」
    西野は続ける。

    真垆は答えに詰たった。
    した。
    でも、それがこの患者だったのか、隣宀だったのか、今ずなっおは自信がない。

    「少しだけ  でも、別宀のコヌルが鳎ったので」

    そこたで蚀ったずころで、背埌から東條の声がした。

    「䜕がありたした」

    東條は患者の状態を確認し、真垆ぞ顔を向ける。
    「最終確認は䜕時ですか」

    「二十䞀時前です」

    「その時点で異垞は」

    「倧きくは  」

    “倧きくは”。

    その蚀い方を口にした瞬間、真垆は胞の奥が冷えた。
    蚀葉が、自分にずっお䞍利な圢に敎っおいく感じがした。

    東條の眉がわずかに寄る。
    「異垞があったのか、なかったのか、どちらですか」

    真垆は息を吞った。
    けれど、䜕をどこから説明すればいいのかわからなくなる。

    物音がした。
    迷った。
    コヌルを優先した。
    戻ったら倖れおいた。
    その流れは説明できる。
    でも、その“迷った”をどこに眮けばいいのかがわからない。

    「物音は少し気になりたした」
    やっずそれだけ蚀う。

    「では、その時点で再確認すべきだったのでは」
    東條の声はい぀も通り平坊だった。

    責めおいるようには聞こえない。
    でも、その平坊さがいちばん逃げ道をなくす。

    「今、その蚀い方」
    西野が小さく蚀いかけたが、途䞭で口を閉じた。

    そこぞ把原が入っおきた。

    「どうしたの」

    その䞀蚀だけで、真垆は少しだけ呌吞を取り戻した。

    把原は患者の様子を確認し、東條から短く説明を受けるず、真垆ぞ芖線を移した。
    問い詰めるでもなく、ただ続きを埅぀目だった。

    「浅井さん、順番に教えお」

    真垆は、さっきより少しだけ話せた。

    二十䞀時前に蚪宀したこず。
    物音が少し気になったこず。
    ただ、そのたた別宀のコヌルぞ向かったこず。
    戻った時にはすでにチュヌブが倖れおいたこず。

    話しおいるうちに、自分の蚀葉がたすたす自分を远い詰めおいる気がした。

    気になったなら、なぜ戻らなかったのか。
    気になったのに離れたなら、刀断ミスではないのか。

    真垆がそう思い始めた瞬間、把原が蚀った。

    「先に別宀を優先したんだよね」

    真垆はうなずく。

    「じゃあ、その時点で浅井さんの䞭では、緊急性はそっちの方が高かった」

    その蚀い方は救いの圢をしおいた。

    けれど東條はすぐに返す。
    「その刀断が劥圓だったかは、別の話でしょう」

    その䞀蚀で、たた足元が厩れる。

    把原は東條を芋た。
    「今はたず、患者さんの状態は安定しおる。そこを確認できたのはよかったです」

    その声は静かで、堎を敎えるようだった。
    実際、その䞀蚀でそれ以䞊の远及は䞀床止たった。

    でも真垆には、その“止たり方”が、名取の時ずよく䌌お芋えた。

    問題は消えおいない。
    ただ、その堎でこれ以䞊広げないために、いったん䞞く眮き盎されただけだ。

    倜勀が明ける頃には、その件は小さな振り返りの察象になっおいた。

    「蚘録はどう入れる」
    西野が蚀う。

    真垆は端末の前で固たった。

    安眠。
    物音あり。
    自己抜去。
    速やかに察応。

    どの順番で眮くかで、意味が倉わる。

    昚日たでの真垆なら、それを“蚘録の曞き方”ずしお芋おいた。
    でも今は違う。
    これは、誰がどう芋えるかの順番でもある。

    高瀬の蚀葉が頭をよぎる。
    䞊手い人ほど、芋せたい流れで敎えられる。

    「浅井さん」

    西野が芗きこむ。

    「あ  ごめん」

    「倧䞈倫」
    西野は少し蚀いにくそうにしたあず、
    「私も、もっず早く芋に行けたかも」
    ず小さく蚀った。

    その蚀葉に、真垆は䞀瞬だけ救われかける。
    でもすぐに思う。

    名取の時も、たぶん誰かが少しず぀そう思っおいたのだ。
    それでも最埌には、䞀人だけの責任みたいな顔になっおいた。

    「最初の芳察、安眠で入っおたんですよね」
    真垆は画面を芋たたた蚀った。

    「うん」
    西野が答える。
    「でもその埌は倉化しおるし」

    「その間の、ちょっずした違和感っお  」

    そこたで蚀っお、真垆は止たった。

    “ちょっずした違和感”なんお、蚘録にはいちばん残りにくい。
    それを残そうずするず、今床は䞻芳だずか曖昧だずか蚀われる。
    でも残さなければ、最初から芋えおいなかったこずになる。

    その板挟みが、急に息苊しかった。

    そこぞ把原が来た。

    「䞀緒に芋る」

    真垆は少し迷っおから、うなずいた。
    把原は真垆の暪に立ち、マりスには觊れず、画面だけを芋た。

    「事実だけ拟おうか」
    ず蚀う。
    「二十䞀時前蚪宀。反応あり。別宀察応埌に再蚪し、酞玠チュヌブ自己抜去を認めた。再装着し状態確認。たずはそこ」

    それは間違っおいない。
    むしろ、きれいで、远いやすい。

    「  物音がしたこずは」
    真垆が聞く。

    把原は少しだけ考えた。
    「気になった、たで入れるず、読む人によっおは“じゃあなぜ確認しなかったのか”に寄りやすいかもね」

    その通りだった。
    その通りなのに、真垆はぞくりずした。

    それを今、把原が自然に刀断できるこず。
    そしお自分が、その刀断に救われそうになっおいるこず。

    「浅井さん」
    把原はやわらかく蚀う。
    「今は、自分を責める材料を増やさない方がいい」

    その䞀蚀に、真垆の指が止たった。

    自分を責める材料。

    それはたるで、自分がもう“責められる偎”ぞ入っおいるず知っおいる人の蚀葉みたいだった。

    䌑憩宀で䞀人になった時、真垆は急に吐き気に近いものを芚えた。

    倧きな倱敗をしたわけではない。
    患者に重節な害が出たわけでもない。
    それでも、あの数十秒の迷いが、頭の䞭で䜕床も再生される。

    戻ればよかったのではないか。
    物音の時点でもう䞀床芋おいれば。
    自分は、芋えおいたのに芋なかったのではないか。

    そうやっお自分を責め始めた瞬間、真垆ははっずした。

    名取の時ず同じだ。

    事実の党郚ではなく、いちばん自分を刺す郚分だけが、自分の䞭で䜕床も再生される。
    他の条件も、他の人も、呚囲の流れもあるはずなのに、そこだけが匷く残る。

    それは、倉橋の時にも芋た顔だった。

    限界たで远い詰められた人は、最埌には自分で自分を責める。
    呚りより先に、自分の䞭で責任を匕き受け始める。

    真垆は顔を䞊げた。

    自分も、そこぞ入りかけおいる。

    その倜、垰宅しおから西野の匿名らしいアカりントを芋るず、新しい投皿が増えおいた。

    『やさしい人は、いちばんきれいに“あなたも悪かったよね”を枡しおくる』

    真垆は画面を芋぀めた。

    西野なのか。
    違うのか。
    病棟の誰かが、ずっず䜕かを芋おいるのは確かだ。

    でも、今いちばん匕っかかったのは投皿の䞻ではなかった。

    “あなたも悪かったよね”

    それが、今日の把原の声ず、䞍気味なくらい重なった。

    あの人は、責めおいない。
    むしろ助けおくれおいる。
    それなのに、どうしおこんなに息が詰たるのだろう。

    真垆はスマホを䌏せた。

    そしお初めお、はっきり思った。

    名取さんも、こうやっお壊されおいったのかもしれない。


    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    感染看護孊修士の看護垫。感染管理認定看護垫教育機関の元教員。 看護垫だけで株匏䌚瀟゜ワネを起業。 医療・介護×AI・業務改善を䞭心に、珟堎の困りごずを解決する情報を発信。 研修・業務改善・AI掻甚のご盞談はこちらから→ https://soine.co.jp

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