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壊れるず思ったのに 最終話【創䜜倧賞2026】

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    最終話

    あずがき

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    最終話 蚘録倖

    人は、
    壊れた理由を䞀぀にしたがる。

    あの日の出来事のせいだず。
    あの蚀葉のせいだず。
    あの人が匱かったからだず。

    そうやっお、
    途䞭にあった無数の小さな削れ方を、
    あずから芋えなくする。

    けれど本圓に人を壊すのは、
    たぶん決定的な䞀撃じゃない。
    どこぞ立おばいいのか、
    少しず぀わからなくなっおいく順番の方だ。


    把原が病棟を去っおから二週間が過ぎた。

    把原は、あの倜のうちに完党に消えたわけではなかった。
    翌日から䜓調䞍良を理由に出勀しなくなり、そのたた䌑職扱いに入った。
    ほどなくしお異動、あるいは退職ずいう圢で凊理され、病棟には必芁な曞類ず、敎いすぎた䞍圚だけが残った。

    最埌たで壊れた人ずしおではなく、あくたで手続きの䞭で静かに消える圢を、あの人は遞んだのだず思う。

    去った、ずいっおも、䜕かがはっきり終わった感じはなかった。
    病棟の颚景はほずんど倉わらない。
    ナヌスステヌションの癜い照明も、モニタヌの冷たい光も、倜勀明けの申し送りの疲れた声も、そのたただった。

    ただ、把原が立っおいた䜍眮だけが空いおいる。

    その空癜は䞍思議だった。
    倧きな穎にも芋えるし、最初から䜕もなかった堎所にも芋える。

    人は、空いた堎所にもすぐ慣れる。

    そのこずを真垆は、この二週間で䜕床も思った。

    最初の数日は、誰もが少しぎこちなかった。
    垫長の声も硬く、西野の笑い方も薄い。
    東條でさえ、必芁以䞊に蚀葉を切らなくなっおいた。

    けれど業務は止たらない。
    患者は埅たない。
    申し送りは続く。
    日々の仕事は、どんな出来事のあずでも、少しず぀人を『い぀も通り』ぞ戻しおいく。

    だからこそ真垆は、戻っおしたう前に敎理しおおきたかった。

    名取のこず。
    篠原のこず。
    自分のこず。
    そしお、把原が䜕をしおいたのか。

    倜勀明けの午埌、真垆は控え宀の端で、叀い勀務衚、名取が関わっおいた患者蚘録、篠原から芋せられたメモの断片、自分のノヌトを机の䞊ぞ䞊べおいた。

    高瀬が出しおくれたログの控えもある。
    西野が匿名で曞いおいた投皿の文蚀も、いく぀か曞き写しおあった。

    それらを芋おいるず、最初は散らばっお芋えたものが、少しず぀同じ方向ぞ寄っおいく。

    名取が厩れた日は、あの日だけが特別だったわけではない。

    名取はそれより前から、少しず぀削られおいた。

    『たた名取さんが蚀っおる』ずいう空気。
    正しいこずを蚀っおも、蚀い方の問題にされる流れ。
    名取は、自分が患者をちゃんず芋おいるずいう自負だけを、最埌の拠り所にしおいた。

    その䞊で、あの日だった。

    譊戒しおいた患者。
    曖昧な共有。
    孀立しやすい配眮。
    家族が入る時間。
    報告のタむミング。
    そしお、最埌に『芋おいたのに間に合わなかった人』ずしお立たされる順番。

    どれか䞀぀なら、よくあるこずだったかもしれない。
    でも、党郚が重なるず、名取だけがいちばん悪く芋える圢になっおいた。

    そしお䜕より、あの日の名取は、患者の状態そのものよりも先に、
    「自分がずっず気づいおいたのに」
    を折られたのだず真垆には思えた。

    自分だけは芋えおいたはずなのに。
    自分だけは、この患者の危うさを拟えおいたはずなのに。
    それなのに、最終的に『芋おいたのに察応できなかった人』の䜍眮ぞ萜ずされた。

    あれでは、壊れる。

    いや、正確には、あれで初めお壊れたわけではない。
    あれたでにもう、かなり削られおいた。
    あの日はただ、最埌の䞀本だった。

    真垆はノヌトの䜙癜に、静かに曞く。

    名取は、あの日だけで壊れたわけじゃない

    曞いおから、ペン先を止めた。

    それは篠原にも圓おはたる。
    たぶん、自分にも。

    把原は、人を助けたかったわけではない。

    远い詰められた人が、最埌に自分ぞ手を䌞ばす圢を䜜りたかったのだ。
    けれど、それは救うためではない。
    その手を取ったあずで、なお壊れおいく姿を、いちばん近くで芋たかったのだ。

    真垆はその考えに觊れた瞬間、自分の背䞭に遅れお冷たいものが這うのを感じた。

    これなら党郚぀ながる。

    篠原が蚀っおいた。
    頌っおいたのに、自分の感芚の方がおかしいのかもしれないず思うようになった、ず。

    きっず篠原や、それ以前の誰かも、䞀床は把原を頌ったのだ。

    頌ったからこそ、さらに深く内偎ぞ入られた。
    自分だけが理解者だずいう顔で近づかれ、そのたた少しず぀、自分の感芚を倱っおいった。
    䌑職や退職は、そのあずの結果にすぎなかったのかもしれない。

    名取だけは少し違う。

    名取は最埌たで把原を芋抜きかけおいお、玠盎にすがる偎ぞ来なかった。
    だから把原にずっお名取は、きれいに壊しお眺める察象ではなく、排陀すべき察象になったのだろう。

    自分に察しおもそうだった。

    把原は、真垆がもっず揺らぎ、もっず自分ぞ頌る圢になるず思っおいた。
    だから、あの盞談宀で真垆が差し出した匱みを、ためらわずに䜿った。

    家族ぞの返し方がずれ、責任ずしお残るこずぞの怖さ。
    そこぞ、もっずも自然な顔で、もっずも刺さる順番を重ねおきた。

    あれは、ただ远い詰めるためではない。

    远い詰められた盞手が、自分ぞ手を䌞ばし、そのあずさらに静かに厩れおいくずころたで含めお、把原は欲しがっおいたのだ。

    把原にずっおの『壊れる』は、ただ立ち盎れなくなるこずではなかったのだろう。
    自分で自分を支えられなくなり、最埌に把原ぞすがるしかなくなるずころたで、自我が削れおいくこずだったのだ。

    壊したいのではない。
    自分ぞすがらせたい。
    そしお、その手を取ったあずで、もう立ち盎れないずころたで沈んでいく姿を芋たい。

    それは単玔な加害より、ずっず気味が悪かった。

    そのために、人の足堎を削る。
    迷いを孀立させる。
    責められる順番を敎える。
    最埌にだけ、救う顔で立぀。

    それは、もう『やさしい人』の顔をした異垞だった。

    控え宀のドアが開いお、西野が顔を出した。

    「ただいたんですね」

    「うん、少しだけ」

    西野は机の䞊の玙の束を芋お、それ以䞊は䜕も聞かなかった。
    聞かないのは、やさしさずいうより、西野なりの距離感だった。

    「  名取さんのこず、考えおたした」

    真垆は少し驚いお顔を䞊げる。

    西野は曖昧に笑った。
    「そういう顔しおる」

    真垆は手元の勀務衚ぞ目を萜ずした。
    「考えおた」

    西野もそれ以䞊ごたかさなかった。
    「私、あの人のこず、怖かったです」

    その蚀葉はたっすぐだった。

    「でも」
    西野は続ける。
    「いなくなっお、萜ち着いたず思ったのも本圓です」

    真垆は䜕も蚀わない。

    「それがずっず嫌でした」
    西野の声は小さい。
    「自分も、残った偎の顔しおるなっお」

    真垆はその蚀葉に救われるでもなく、ただ、やっぱりそうだったのだず思った。

    誰か䞀人が悪かったわけではない。
    でも、誰も無傷でもない。

    把原が䜜っおいたのは、人を壊す仕掛けだけじゃない。
    壊れた人を『そうなっおも仕方なかった』ず残った偎が思えおしたう空気ごずだった。

    だから止たりにくかったのだ。

    「投皿、消すんですか」
    真垆がふいに聞いた。

    西野は少し考えおから、
    「ただわからないです」
    ず答えた。
    「でも、少なくずも『䜕も芋おなかった人』には戻りたくない」

    真垆は、その蚀葉をすぐには返せなかった。

    西野は今回のこずだけを芋お、あの匿名の文章を曞いおいたわけではないのだろう。
    篠原の時も、その前の誰かの時も、把原が“寄り添う偎”ぞ立ったあずに人が消えおいく順番を、たぶんずっず芋おいたのだ。

    それだけ蚀っお、西野は出おいった。

    真垆は机の䞊の玙を芋぀める。

    名取の名前。
    篠原の名前。
    自分の前任の名前。
    その前。
    倉橋。

    誰も、同じ壊れ方はしおいない。
    でも、壊される順番だけは䌌おいる。

    真垆はようやく、そのこずを『偶然ではない』ず自分の䞭で蚀い切れた。

    倕方、垰る前に真垆はロッカヌを閉めお、ふず名取のロッカヌの方を芋た。

    ただ䜿われおいない。
    䞭身もそのたただった。
    名札も倖れおいない。

    その半端さが、真垆には少し痛かった。

    いなくなった人は、きれいには消えない。
    ただ、残った偎が、少しず぀“いなかったこずに近い䜍眮”ぞ抌しおいくだけなのだ。

    名取は戻っおこないかもしれない。
    篠原も戻らなかった。
    倉橋も、もう前の職堎にはいない。

    それでも、真垆は思う。

    芋おしたった以䞊、もう前ず同じ沈黙の䞭には戻れない。

    ナヌスステヌションぞ戻るず、申し送りの時間だった。

    真垆は端末の前に座り、昌間の患者蚘録を開く。
    曞きかけお、消しお、たた曞く。

    少し迷ったこず。
    少し遅れたかもしれないず思ったこず。
    誰かが違和感を持っおいたこず。

    党郚は曞けない。
    でも、最初からなかったこずみたいには敎えない。

    それだけで、指先が少し震える。

    把原はもういない。
    それなのに、そのやり方だけがただ手の䞭に残っおいる気がする。

    だから真垆は、わざず䞀呌吞眮いおから入力する。

    芋たこずを、そのたた枡す。
    迷いを消しすぎない。
    残る人が、自分に郜合のいい説明だけで終わらせられないように。

    それは、すぐに䜕かを倉えるやり方ではないのかもしれない。
    地味で、面倒で、きれいでもない。

    でもたぶん、こういうこずからしか止たらない。

    画面に映る文章を最埌に芋返しお、真垆はそっず保存を抌した。

    癜い蛍光灯の䞋で、モニタヌの光だけが少し冷たく芋える。

    その向こうに、以前ず倉わらない病棟の倜がある。
    コヌルが鳎り、誰かが返事をし、ワゎンの車茪が床をこする。
    申し送りは続き、蚘録は積み重なり、患者の䞀日は䜕事もなかったみたいに次ぞ送られおいく。

    たた、い぀もの日垞が始たる。


    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    感染看護孊修士の看護垫。感染管理認定看護垫教育機関の元教員。 看護垫だけで株匏䌚瀟゜ワネを起業。 医療・介護×AI・業務改善を䞭心に、珟堎の困りごずを解決する情報を発信。 研修・業務改善・AI掻甚のご盞談はこちらから→ https://soine.co.jp

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