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Photo byaoi_soryu

メイドの飛脚①

    山根あきら | 哲学者


    「メイドの飛脚」あらすじ

     夕暮れの町を軽やかな足音で駆けるメイドさん。
     彼女は「メイドの飛脚」として手紙を届ける仕事に情熱を注ぐ。
     ご主人様は彼女の謎めいた過去に惹かれ、海辺の町のメイドを主人公にした物語を綴り始める。
     メイドさんが漏らす届かなかった手紙や取り戻したい笑顔のヒントが物語に彩りを添える。
     飛脚の「守秘義務」からこぼれる記憶の断片とご主人様の空想が交錯し、秘密が徐々に浮かび上がっていく。
     手紙に込めた想いと物語の魔法は時を超えて心を繋げることができるのか。メイドさんの真実とご主人様の物語が織りなす温かく切ない冒険が始まる。


    #創作大賞2025
    #お仕事小説部門

    ⚠️ヘッダーのイラストは、全話(15話)とも、蒼龍葵さんの「みんフォト」を使わせていただきます。作品のメイドさんのイメージにピッタリでした。


    メイドの飛脚①


    「ご主人様、お手紙が届きました」

    「おお、いつもご苦労様です、メイドさん」

     諸事情により、最近、郵便配達が遅れがちになった現在、私はメイド宅急便を利用するようになった。
     スマホもSNSもやらない私は、手紙だけが生きがいだった。ただ、今では、私に毎日手紙を届けてくれるメイドさんと会うことが秘かな楽しみになっていた。

    「ご主人様、いまお返事をお書きになりますか?よろしければ、お返事を相手様に今すぐに届けますが、いかがなさいますか?」
     メイドさんが汗をぬぐいながら言った。

    「どうしようかの。もしよかったら、今日は暑いから、私が返事を書き終わるまで、ゆっくりと冷たい飲み物でも飲みながら待っていてくれかの」

    「ありがとうございます。けれども私はメイドです。お飲み物をいただいたらどちらがメイドなのかわかりません。私がご主人様に冷たい物をお届けしたいのですが…」

    「いや、それは気にするに及びません。あなたが一生懸命に飛脚の仕事をなさっているから、私のほうがお礼をしたいのですよ」

    「ふふ、ご主人様のお心遣い、誠にありがたく存じます」
     メイドさんはそう言うと、軽くスカートの裾をつまんでお辞儀をした。彼女の頬は、走ってきた熱気と照れでほんのり赤い。

    「それでは、遠慮なくお言葉に甘えさせていただきます。ですが、ご主人様、お返事は急がれますか? 次の配達先が少々遠方でして…」

    「次の配達先? どこだね?」
     私は冷蔵庫から冷えた麦茶の入ったガラス瓶を取り出しながら尋ねた。

    「はい、隣町の山の上にある古い屋敷でございます。そこのおじい様が、毎週、遠くに住むお孫さんからの手紙を楽しみにしておられます。ですが、坂道が急で、少々骨が折れるのです。」
     メイドさんは少し困ったように微笑んだ。

    「ほう、それは大変だ。なら、なおさらここで一息ついていきなさい。返事は急がないよ。今日は君と少し話したい気分なんだ。」
     私は麦茶を注いだグラスを彼女に差し出した。

     メイドさんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「かしこまりました」と答えてグラスを受け取った。彼女がグラスを手に持つ姿は、まるで高級なティーカップを持つように優雅だった。さすがメイドだな、と私は内心感心した。

    「ところで、メイドさん、君はいつもこんな風に町中を走り回っているのかい? 毎日、いろんな人の手紙を届けて、いろんな物語を見ているんだろう?」

     メイドさんは麦茶を一口飲むと、目を細めて少し遠くを見るような表情になった。

    「はい、ご主人様。お手紙には、人の心がたくさん詰まっております。恋の告白、家族への感謝、時には誰かを励ます言葉。私のようなメイドの飛脚は、それを届けることで、ほんの少しその方々こ物語の一部になれるのです。とても幸せな仕事でございます」

    「なるほど、君はただのメイドじゃない。まるで物語の運び屋だね。印象に残っている手紙の話でも聞かせてもらってもいいかい?」

     メイドさんは少し考えるように首をかしげ、ふっと笑った。

    「そうですね…。守秘義務がありますが、一つだけ、特別な手紙のお話をいたしましょうか。詳しくは申し上げられませんが。実は、先週、ご主人様の近所にお住まいのお方が、遠くの友人に宛てた手紙をお預かりしました。その手紙には、こう書かれておりました。『君が送ってくれた手紙が、僕の毎日の楽しみだ。まるで君がそばにいるようだ』と」

    「ほう、それは素敵な話だ。で、その手紙の送り主は誰だい?」

     メイドさんはにこりと笑い、いたずらっぽく目を輝かせた。

    「ご主人様、それは内緒でございます。メイド飛脚の掟として、手紙の秘密は守らねばなりません。でも…ヒントを差し上げますと、ご主人様が毎日楽しみにしている手紙と、どこか似た気持ちが込められていたように思いますよ」

    「なんだと? まさか…」
     私は思わず身を乗り出した。メイドさんの言葉に、なぜか心がざわついた。私の手紙を待つ誰か。私の手紙が、誰かの物語の一部になっているかもしれない。そんなことを考えると、胸の奥がくすぐったくなるようだった。

    「さて、ご主人様。」
     メイドさんがグラスを置いて立ち上がった。
    「そろそろお返事をお書きになりますか? それとも、もう少しお話を続けましょうか? 次の配達まで、少しだけ時間がありますよ」

     私は笑ってペンと便箋を手に取った。「よし、今日は特別に長文の手紙を書いてみるか。君が次の配達から戻ってくるまでに仕上げておくよ。どうだ、楽しみにしていてくれるかい?」

    「ふふ、楽しみでございます、ご主人様。」
     メイドさんは軽くウインクし、玄関に向かって歩き出した。
    「では、行ってまいります!」

     彼女の軽やかな足音が遠ざかるのを聞きながら、私は便箋にペンを走らせ始めた。今日は、いつもより少しだけ心を込めて、誰かに届く物語を書いてみようと思った。


    …つづく


    第2話~第15話(最終話)


    ②
    https://note.com/piccolotakamura/n/na898ce8fb025


    ③
    https://note.com/piccolotakamura/n/ncc007cec197f


    ④
    https://note.com/piccolotakamura/n/nbe211af370b5


    ⑤
    https://note.com/piccolotakamura/n/n634eb7bcacc1


    ⑥
    https://note.com/piccolotakamura/n/nc8605539f445


    ⑦
    https://note.com/piccolotakamura/n/nec06a4236d46


    ⑧
    https://note.com/piccolotakamura/n/n74cdfd8fee61


    ⑨
    https://note.com/piccolotakamura/n/n39bd11b66370


    ⑩
    https://note.com/piccolotakamura/n/nbd86f36d7b56


    ⑪
    https://note.com/piccolotakamura/n/n4b310c986a4c


    ⑫
    https://note.com/piccolotakamura/n/ndafd0e589b22


    ⑬
    https://note.com/piccolotakamura/n/n84175cf09d88


    ⑭
    https://note.com/piccolotakamura/n/nd0939d43273d


    ⑮(最終話)

    https://note.com/piccolotakamura/n/ne2414bc297b4


    #メイドの飛脚
    #創作大賞2025
    #お仕事小説部門
    #みんフォト
    #蒼龍葵さん


     
     
     
    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

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