
メイドの飛脚⑪
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メイドの飛脚⑪
私は机に向かい、便箋に新たな物語を書き進めていた。海辺の町のメイドは、手紙を胸に走り続ける。彼女が「メイドの飛脚」になったのは、誰かの笑顔を取り戻すためだと、私は想像した。
メイドさんのヒント、「私が走り始めたのは、誰かの笑顔を取り戻したかったから。手紙は、そのための魔法だったんです」が、物語に深い色を添える。
だが、彼女の真の物語は、どんなものなのだろう? 彼女が手紙にこだわる理由、その笑顔は誰のものだったのか。ペンを握りながら、胸が高鳴った。
私の物語は、こんな風に進んだ。海辺の町のメイドは、毎夜、夢を見る。夢の中では、彼女が手紙を届けるために走るが、相手の家は空っぽで、霧に消える。
「君の笑顔を、もう一度見たい」
彼女はそう呟きながら、走り続ける。だが、目覚めるたびに、手紙は届かず、胸に切なさが残る。ある日、彼女は古い図書館で一通の手紙を見つける。
「君が走り続けるなら、想いは必ず届く」
その言葉に背中を押され、彼女は「メイドの飛脚」として走り始めた…。
書き終えた頃、夕暮れのチャイムが鳴った。玄関を開けると、メイドさんがいつもの笑顔で立っていた。
「ご主人様、ただいま参りました!」
彼女はメイド服の裾を揺らし、町の風を運んできた。軽く息を切らしながら、目はキラキラと輝いていた。
「新しい物語、進んでいらっしゃいますか? 海辺の町のメイド、どんな冒険をしてるんです?」
「メイドさん、ちょうどいいところだよ」
私は便箋の束を手に、微笑んだ。
「君の物語、だいぶ形になってきた。海辺のメイドが、届かなかった手紙を夢に見るシーンを書いたんだけど…君が『笑顔を取り戻したかった』って言ってた、あの笑顔って、どんな人のものだったんだろう?」
メイドさんは目を丸くし、くすっと笑った。
「まあ、ご主人様! 夢の中の手紙だなんて、なんだか切ないです! 素敵な物語でございますね!」
彼女は軽く首をかしげ、いつもの軽やかな口調で続けた。
「でも、飛脚の守秘義務がありますから、ただ…」
だが、そこで彼女の言葉が一瞬止まった。私の便箋をちらりと見つめ、彼女の瞳に、ほのかな影が揺れた。思わず、ポロっと言葉がこぼれた。
「ただ、昔、私が手紙を届けたかった人が、突然引っ越してしまって…その笑顔を、二度と見られなかったんです。だから、今は、償うように走ってるんです」
私はメイドさんの言葉に息を呑んだ。メイドさんの声は、いつもより低く、どこか遠い記憶を辿るようだった。彼女がこんな風に、過去を口にするのは初めてではないだろうか?
「引っ越した…? それって、どんな…?」
私は思わず身を乗り出した。
「飛脚の守秘義務で、これ以上はダメですよ!」
メイドさんは慌てて手を振って笑顔を取り戻した。
「ご主人様、ついポロっと言っちゃいましたけど、忘れてくださいね! さ、物語の続き、どんな風になるか楽しみにしてますよ!」
彼女の明るい声には、いつもの軽やかさが戻っていたが、その一瞬の表情には、深い後悔と優しさが宿っていた。
「メイドさん…」
私は静かに言った。
「君が走り続けてるのって、そういう想いがあったからなんだね」
私の心は、彼女の言葉で熱くなっていた。彼女が飛脚として走る姿、その情熱の裏に、こんな切ない物語があったなんて。私の空想のメイドが、彼女の真実に少しだけ近づけた気がした。
メイドさんは照れたように笑い、いたずらっぽく目を細めた。
「ふふふ、ご主人様。物語のヒント、今日はちょっと出しすぎちゃいましたよね。でも、ご主人様の物語が、どんな魔法を紡ぐのか、飛脚として心から楽しみにしております!」
彼女は軽くお辞儀をし、封筒を胸に抱いて、夕暮れの町へと走り出した。
彼女の足音が遠ざかるのを聞きながら、私は再び便箋に向かった。メイドさんの秘密—引っ越してしまった誰か、届かなかった手紙、償うために走り続ける想い—が、私の物語に新たなページを加える。海辺の町のメイドは、夢の中で、引っ越した相手の笑顔を探し続ける。だが、ある日、彼女は新たな手紙を見つける。
「君が走り続けるなら、笑顔は必ず戻る」
その言葉に、彼女はまた走り出す…。
ペンを走らせながら、私は思った。メイドさんの物語は、私の空想を超えて、彼女の心に触れているかもしれない。彼女が償うために走る、その想いは、どんな笑顔を求めているのだろう? 私の物語が、彼女の真実にたどり着けるかどうか。次のページをめくりながら、私は書き続けた。
…つづく
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