
メイドの飛脚⑨
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メイドの飛脚⑨
メイドさんの軽やかな足音が夕暮れの町に消えていくのを見送りながら、私はおじいさんの手紙をもう一度手に取った。
「お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいい」
その言葉は、まるで霧の町の少女が運んできた魔法のように、私の心に深く刻まれた。メイドさんが図書館でこの手紙を見つけ、私に届けてくれたからこそ、おじいさんとの絆が、時を超えて蘇った。彼女は、ただの飛脚ではない。心を繋ぐ、物語の魔法使いだ。
だが、ふと気づいた。メイドさんがなぜ「メイドの飛脚」になったのか、私はほとんど知らない。彼女の笑顔や「守秘義務」の言葉の裏に、どんな物語が隠れているのだろう? 図書館で未投函の手紙を見つける習慣、いつも軽やかな足取りで町を走る姿、そして、私とおじいさんを繋いでくれたその心。彼女自身にも、きっと、時を超えて届けたい想いがあるのではないか。
数日後の昼下がり、いつものチャイムが鳴った。メイドさんが、いつも通り明るい笑顔で現れた。
「ご主人様、ただいま参りました!」
彼女はメイド服の裾を軽く揺らし、目をキラキラさせていた。
「今日は、新しい手紙はございませんけど…何か面白い物語の続き、書いてらっしゃいますか?」
「おかえり、メイドさん。」
私は微笑み、ソファに腰掛けるよう促した。
「実は、霧の町の物語は一旦区切りをつけて、ちょっと新しいことを考えてるんだ。…君自身の物語さ」
「まあ、ご主人様!」
メイドさんは目を丸くし、軽く手を叩いた。
「私の物語だなんて、飛脚の私には大それた話です! でも、どんな物語を想像なさってるんですか?」
「ふふ、君がいつも『守秘義務』で隠してる何かだよ」
私は冗談めかして言った。
「君が『メイドの飛脚』になった理由って、どんな物語なんだろう? たとえば、図書館で手紙を見つけるようになったきっかけとか…。何か、君自身の『時を超える手紙』みたいなものがあるんじゃない?」
メイドさんは一瞬、目を細めて私を見た。いつものミステリアスな笑みが浮かんだが、その奥に、ほのかに懐かしそうな光が揺れている気がした。
「ご主人様、なかなか鋭いご質問でございますね。飛脚の守秘義務がございますから、全部はお話しできませんけど…」
彼女は少し声を柔らかくして続けた。「手紙を届ける仕事は、誰かの心を繋ぐこと。昔、私も、届けたかった手紙があったのかもしれません」
「届けたかった手紙?」
私は身を乗り出した。
「それって、どんな…?」
「ふふ、ご主人様。そこまで話すと、守秘義務が守れなくなっちゃいます!」
メイドさんはいたずらっぽく笑い、話をかわした。
「でも、ご主人様が私の物語を書いてくれるなら、ちょっとしたヒントくらいは、差し上げてもいいかもしれませんよ」
「よし、じゃあ挑戦してみようかな。」
私は笑い、便箋を手に取った。
「霧の町の少女の物語が終わったなら、次は『メイドの飛脚』の物語を書いてみるよ。君の過去を想像しながら、どんな手紙を届けようとしたのか、考えてみるよ」
「とても楽しみでございます、ご主人様!」
メイドさんは目を輝かせ、軽くお辞儀をした。
「私の物語、どんな風に紡いでくれるのか、飛脚として、ワクワクしながらお待ちしていますね!」
彼女が玄関を飛び出し、町へと走り出すのを見送りながら、私はペンを握った。メイドさんが「メイドの飛脚」になった理由。そこには、きっと、彼女自身の心を繋ぐ物語がある。図書館で手紙を見つけたきっかけ、誰かに届けられなかった想い、そして、飛脚として走り続ける理由。新しい物語は、どんなページを開くのだろう?
便箋に、最初の言葉を書き始めた。霧の町ではない、別の町。そこには、若いメイドが、手紙を手に走り出す姿があった。
…つづく
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