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メイドの飛脚⑥

    山根あきら | 哲学者


    前話はこちら(↓)



    メイドの飛脚⑥


     第五章を書き終えた私は、便箋を手に、夕陽が部屋を茜色に染めるのを眺めていた。霧の町の少女が届けた「おじいちゃん、ありがとう」の手紙は、まるで私が亡魂のおじいさんに言えなかった言葉のようだった。

     メイドさんの語ったエピソード。
     小さな女の子からおじいさんへの「おじいちゃん、はやく元気になってね」という手紙。それが、なぜかおじいさんの温かい声と重なる。おじいさんは、子どもの頃の私に、「手紙は心を届ける魔法なんだよ」と教えてくれた。その声が、今も耳に響くことがある。

     ふと、夢想が頭をよぎった。メイドさんが届ける手紙は、まるでタイムマシンのように、過去と現在をつなぐ。もしかして、彼女の手紙は、私とおじいさんをまた繋いでくれるんじゃないか?
     そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

    「ご主人様、ただいま戻りました!」
     メイドさんの声は、いつも通り明るく、町の風を運んでくるようだった。ドアを開けると、彼女は少し息を切らしながら、いつもの笑顔で立っていた。メイド服の裾には、町の埃と遠くの香りが漂っている。

    「おかえりなさい、メイドさん。ちょうど第五章を書き終わったところだよ」
     私は便箋の束を手に、彼女に微笑んだ。
    「これ、君に預けたい。文通相手に届けてくれるかい?」

    「かしこまりました、ご主人様!」
     メイドさんは封筒を受け取り、まるで宝物のように胸に抱いた。
    「霧の町の少女の物語、どんな心を繋ぐのか、私も楽しみです! 心を込めてお届けいたします!」
     彼女の目がキラリと光り、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。

    「実はさ、書きながら、君の話したおじいさんのエピソードで、亡くなった私のおじいさんを思い出したんだ」
     私は少し照れながら言った。
    「君の手紙が、まるで私とおじいさんを繋いでくれてるみたいでさ。…霧の町の少女、君にそっくりだよ」

     メイドさんはくすっと笑い、軽く首をかしげた。
    「ご主人様、そんな風に感じてくださるなんて、飛脚冥利に尽きます。手紙は、時を超えて心を繋ぐものですからね。もかもしたら、ご主人様のおじいさまの想いも、どこかで届いているのかもしれませんね」

    「君、図書館で何か特別な手紙を見つけたこと、あるかい? たとえば、誰かへの未投函の手紙とか…。」
     私は思わず尋ねた。

     メイドさんは一瞬、目を細めて私を見た。まるで、物語の秘密を知っているかのような笑みだった。

    「ふふふ、ご主人様。飛脚の守秘義務がございますから、肯定も否定いたしません。ただ…図書館には、たくさんの物語が眠っています。誰かの想いが、時を超えて届くのを待っている手紙もあるかもしれませんよ」

    「君らしい答えだな。」
     私は笑い、封筒を彼女に手渡した。「じゃあ、この第五章、よろしくね。どんな第六章が返ってくるか、楽しみにしてるよ。」

    「ふふ、ご主人様。物語の共演者として、楽しんでいただけるなら、私も嬉しいです!」
     メイドさんは軽くお辞儀をし、夕暮れの町へと走り出した。彼女の足音が遠ざかる中、私は思った。メイドさんが運ぶ手紙は、まるで魔法だ。もしかしたら、彼女がどこかで、おじいさんの手紙を見つけて、私に届けてくれているのかもしれない。


     数日後の昼下がり、玄関のチャイムが再び鳴った。メイドさんが、厚めの封筒を手に、目をキラキラさせながら現れた。

    「ご主人様、お手紙が届きました!」
     メイドさんは弾む声で言った。
    「お相手の方から、第六章が届いたようですよ!」

    「本当かい? 早く見せてくれ!」
     私は封筒を受け取り、胸が高鳴った。メイドさんはソファに腰掛け、私が封を切るのをワクワクした様子で見守った。

    「メイドさん、今回も私が読むよ。声に出して読むから」
     私は彼女に微笑み、便箋を手に持った。

    「ありがとうございます、ご主人様! 私、飛脚として、この物語の続きが楽しみで仕方ありません!」
     メイドさんは手を軽く叩き、まるで舞台の幕が上がるのを待つ観客のようだった。

     私は深呼吸して、第六章を読み始めた。


    第六章

     ご主人様の第五章は、まるで私の遠い記憶をそっと呼び起こすようでした。霧の町の少女が届けた「おじいちゃん、ありがとう」の手紙は、なぜか胸の奥に響きます。昔、誰かにそんな手紙を書きたかったのに、書けなかったことがあったような…。いや、書いたのに届かなかった手紙だったかもしれません。

     ご主人様の手紙を読むたびに、昔の自分が生き返るような気がします。あなたの書く物語は、まるで私の心の奥に眠っていた言葉を、そっと拾い上げてくれる。メイドさんの飛脚の魔法がなければ、この手紙も、こんな気持ちも、届かなかったでしょう。

     少女の物語を続けましょう。少女は、老人の家で手紙を届けた後、町の図書館に戻ります。そこで、彼女は埃をかぶった一通の手紙を見つけます。封は切られていないが、差出人の名前は薄れ、ただ「孫へ」とだけ書かれていました。少女は、その手紙を届ける使命を感じ、霧の町を再び走り始めます。手紙の中には、こう書かれていました。

    「お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいい」

     ご主人様、この物語は、私にとって特別なものです。メイドさんが運ぶ手紙は、まるで過去の私が書けなかった想いを、今のあなたに届けてくれるようです。どうか、第七章で、少女の新たな冒険を教えてください。楽しみにしています。

     草々


     読み終えた後、私は便箋を手に、しばらく言葉を失った。文通相手の言葉には、なぜかおじいさんの声が重なった。

    「お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいい」
     おじいさんが生きていた頃、よくそう言ってくれた。まさか…この文通相手は、本当におじいさんなのだろうか? いや、おじいさんはもう亡くなっている。でも、この手紙の言葉は、まるで時を超えておじいさんが私に語りかけているようだった。

    「メイドさん、この第六章…なんだか、おじいさんの声みたいだ。」
     私は彼女の方を向いて、感慨深く言った。
    「君が届けてくれた手紙が、まるで私とおじいさんをまた繋いでくれてるみたいだよ」

     メイドさんは、いつものニコニコした笑顔で、軽く首をかしげた。

    「ご主人様、そんな風に感じてくださるなんて、飛脚冥利に尽きます。手紙は、時を超えて心を繋ぐものですから…もかもしたら、ご主人様のおじいさまの想いも、どこかで届いているのかもしれませんね」

    「君、本当に図書館で何か見つけたんだろ? たとえば、おじいさんが書いた手紙とか…。」
     私はまた思わず尋ねてしまった。

     メイドさんもまた、さきほどと同じように、目を細めて私を見た。

    「ふふふ、ご主人様。繰り返し同じお返事になり申し訳ありませんが、飛脚の守秘義務がございますから。肯定も否定いたしかねます。ただ…」
     彼女は封筒をそっと胸に当て、柔らかく続けた。

    「図書館には、たくさんの物語が眠っております。誰かの想いが、時を超えて届くのを待っているかもしれません。それ以上のことは私には申し上げることができません」

    「君はやはり、メイドの飛脚のプロだな」
     私は笑い、便箋を手に取った。

    「よし、第七章を書こう。霧の町の少女は、図書館で見つけた『孫へ』の手紙を届けるんだ。…でも、メイドさん、君がその手紙を私に届けてくれているような気がしてならないよ」

    「ふふ、ご主人様。物語の共演者として、楽しんでいただけるなら、それだけで嬉しいです」
     メイドさんはいたずらっぽく笑い、玄関に向かった。

    「第七章、楽しみにしております! 心を込めてお届けいたします!」

    …つづく



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    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

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