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メイドの飛脚⑦

    山根あきら | 哲学者


    前話はこちら(↓)



    メイドの飛脚⑦


     メイドさんが夕暮れの町へと走り去った後、私は机に戻り、第七章を書き始めた。第六章の言葉が、頭の中で響き続ける。

    「お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいい」

     おじいさんが、いつもそう言ってくれた。あの温かい笑顔が、霧の町の少女の物語に重なる。メイドさんが運ぶ手紙は、まるで時を超えて、おじいさんの想いを私に届けてくれる。彼女がどこかで、おじいさんの書いた手紙を見つけたのかもしれない。そして、それを私に届けるために、文通を始めたのかもしれない。そんな夢想が、物語に新たな魔法をかける。

     霧の町の少女は、図書館で見つけた「孫へ」の手紙を手に、町の外れの小さな家に向かう。霧の中、彼女は一軒の家にたどり着く。ドアを開けたのは、若い少年だった。少年は手紙を受け取り、目を丸くする。「これは…おじいちゃんからの手紙?」と呟く。少女は微笑み、こう言う。「この手紙は、時を超えて、君に届くはずだったものだよ。」少年が封を切ると、中には、震える文字で書かれた言葉。「お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいい。」少年は手紙を胸に抱き、涙を浮かべながら笑った。

     書きながら、私は胸が熱くなった。この少年は、まるで子どもの頃の私だ。霧の町の少女は、メイドさんのように、私とおじいさんの想いを繋いでくれる。メイドさんが、図書館で、おじいさんの未投函の手紙を見つけたのかもしれない。そして、それを私に届けるために、文通相手に扮しているのかもしれない。真相はわからない。でも、彼女の手紙が、私とおじいさんの心を繋いでくれる。それだけで、この物語は、まるで魔法のようだ。


     書き終えた頃、夕暮れのチャイムが鳴った。メイドさんが戻ってきたのだ。

    「ご主人様、ただいま戻りました!」
     彼女はいつもの笑顔で、軽く息を切らしながら立っていた。メイド服の裾には、町の埃と遠くの風の香りが漂っている。

    「メイドさん、ちょうど第七章を書き終わったところだよ。」
     私は便箋の束を手に、彼女に微笑んだ。
    「今回は、霧の町の少女が、おじいさんの手紙を届けたんだ。…なんだか、君が私とおじいさんを繋いでくれてるみたいでさ。」

    「まあ、ご主人様! そんな素敵な物語、どんなお話になったんですか?」
     メイドさんは目を輝かせ、軽く手を叩いた。
    「私、飛脚として、ますますやりがいを感じます!」

    「ふふ、せっかくだから、読んでみるかい? でも、その前に…君、本当に図書館で何か見つけたんだろ?」
     私は冗談めかして、彼女の反応をうかがった。

     メイドさんはくすっと笑い、いつものミステリアスな眼差しで答えた。

    「ご主人様、飛脚の守秘義務がございますから、肯定も否定いたしません。ただ…」

     彼女は便箋の束をそっと受け取り、柔らかく続けた。
    「手紙は、時を超えて、誰かの心を繋ぐ魔法。ご主人様の物語も、おじいさまの想いも、きっとどこかで繋がっていると思いますよ」

    「いつも通り、君らしいな。」
     私は笑い、封筒に第七章を入れた。「じゃあ、この第七章、君に預けるよ。文通相手に届けてくれるかい? どんな返事が来るか、楽しみにしてる」

    「かしこまりました、ご主人様!」
     メイドさんは封筒を胸に抱き、いたずらっぽく笑った。
    「この物語の続き、どんな心を繋ぐのか、私も楽しみです! 心を込めてお届けいたします!」

     彼女が夕暮れの町へと走り出すのを見送りながら、私は思った。メイドさんが運ぶ手紙は、まるで一冊の魔法の本のページだ。霧の町の少女が、おじいさんの想いを届けたように、この手紙も、私の心に何かを届けてくれるはずだ。
     文通相手からの返事は、どんな物語を紡いでくれるのだろう? そして、メイドさんが、どこかで、おじいさんの手紙を見つけて私に届けてくれているのだとしたら…。真相はわからない。でも、この物語は、私とおじいさんを、永遠に繋いでくれる。


    …つづく



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    初投稿2021/08/08。毎日投稿。2023年から個人企画「青ブラ文学部」。英語、ことば、文学、哲学、数学、時々noteのことなどを書いています。 『星空の恋の方程式』で創作大賞2025中間選考通過。『算数の時間 | 分数を理解しよう!』で「今日の注目記事」に選出。

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