
メイドの飛脚⑮ (最終回)
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メイドの飛脚⑮ (最終回)
私は机に向かい、便箋に物語の最終章を綴った。海辺の町のメイドは、恩師への感謝の手紙を胸に走り続ける。彼女の物語は、妻の教え子、江梨子の過去とあまりにも似ていた。
彼女はやはり江梨子なのではないか? 物語を書き進めるうち、その確信は深まるばかりだった。
物語の結末は、こうなった。海辺の町のメイドは、夜の港で一通の手紙を見つける。
「君の想いは、すでに届いている」
彼女は涙をこらえ、微笑む。届けられなかった手紙の後悔は、飛脚として誰かの笑顔を繋ぐ魔法に変わった。彼女は永遠に走り続けるだろう。私は最後に書いた。
「彼女の心は、時を超えて、誰かに届いた」
夕暮れのチャイムが鳴り、玄関を開けると、メイドさんが立っていた。
「ご主人様、ただいま参りました!」
彼女の笑顔はいつも通りだったが、どこか静かな光を帯びていた。
「物語、完成したんですか?」
「メイドさん、ちょうどいいところだ」
私は便箋を差し出し、微笑んだ。
「君の物語、ついに終わったよ。海辺のメイドが、想いを届ける話。…君、妻の教え子、江梨子さんだよね?」
メイドさんは便箋を手に、読み始めた。ページをめくる手がぶるぶると震え、その瞳に涙が溢れた。
「ご主人様…」
彼女は声を詰まらせ、便箋を胸に押し当てた。号泣と言っていいほど、彼女は泣き崩れた。
「この物語は…。私の心を、全部見透かしているみたいです…」
私は胸が熱くなった。彼女の涙は、まるで江梨子が亡妻、大里先生との別れを思い出したかのようだった。
「やっぱり、君は江梨子さんなんだよね?」
メイドさんは涙を拭い、いつもの口調を取り戻そうとしながら言った。
「飛脚の守秘義務がありますから…」
だが、言葉は止まり、メイドさんの視線は、棚に飾られた妻の写真に留まった。
「大里先生…」
彼女は小さく呟いた。瞳には深い想いが揺れ、大粒の涙が流れた。
私は息を呑んだ。メイドさんは江梨子に間違いない。その瞬間、私は確信した。だが、彼女の涙を見て、問い詰める言葉をのんだ。
私はそっと近づき、彼女を腕に抱き寄せた。
「メイドさん、君の物語が僕の心に確かに届いたよ。ありがとう」
メイドさんは私の腕の中で、声を上げて泣いた。長年秘めていた想いが、物語を通じて解き放たれたのだろう。
しばらくしたあと、ふと彼女は顔を上げ、私を見つめた。涙に濡れた顔を拭いながら、いたずらっぽい微笑みを浮かべた。
「ご主人様…飛脚の守秘義務がありますから。でも、ご主人様の熱いお気持ちは、私の胸の奥に深く届きました」
彼女はウィンクして、軽やかに言った。
私は微笑んだ。彼女が江梨子でも、別人でも、もうそれはどうでもよかった。物語と手紙は、メイドさんと私の心を確かに繋いだ。
「ご主人様、本当にお世話になりました。私の飛脚としてのお仕事は、ここで終わりになります。でも…」
「でも?」
「メイドとしてではなく…」
「江梨子さんとして、かな?」
メイドさんはペコリとお辞儀をしてからこう言った。
「ご主人様、それは守秘義務がございますから…。ではまた。いつかお会いできたら、と思っております」
メイドさんはそう言い残してドアを出た。
彼女の軽やかな足音が夕暮れの町に響きながら、遠ざかっていった。
私はそっと呟いた。
「君の想いは、確かに僕に届いたよ」
~完~
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