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秘められた花園 <第二話>

    【登場人物】
    神花 璃月(3年生)  ……生徒会長
    黒崎 紬(3年生)   ……生徒会副会長
    小鳥遊 真白(1年生) ……生徒会書記
    鷹宮 ユナ(2年生)   ……不良生徒

    「では、そろそろ本題に入りましょう」
     
    璃月は紬に目配せをすると、ユナから少し離れた場所に座る。その代わりに、紬がユナの正面の椅子に座った。まるで若手刑事とベテラン刑事の取り調べの様子だ。
     
    「待って待って。さっきの質問にまだ答えてもらってないんだけど」
     
    ユナの言葉に、正面に座った紬は眉根を寄せる。
     
    「質問?」
    「だからぁ……何で私を待たせたのかってこと」
    「言ったでしょう? 準備よ」
    「だ! か! ら! 何の準備かって聞いてんの!」
     
    ユナは語気を強め合わせて机をバンバンと叩く。
    紬は冷静さを保ちながら応える。
     
    「言う必要は無いわ」
     
    ユナは大きく舌打ちをして机を蹴った。
    紬は思わず身をすくめる。離れたところで見守っていた真白も息を呑んだ。
     
    「あなたのことを調べていたの」
     
    璃月だけが何事もなかったように、涼しげな微笑を浮かべている。
     
    「私のこと?」
    「あなたは私のことを知っている。でも私は、あなたのことを何も知らない。同じ学園にいても、私とあなたには全く接点が無い。まるで住む世界が違うみたいに。もちろん生徒会長として、由緒ある我が学園にもあなたのような人がいるということは把握しているわ。でも私は教師じゃない。無理やりあなたたちの世界に首を突っ込むようなことはしない」
    「だから何?」
    「だから私は、あなたのことを調べていたの。どこで生まれてどこで育ったのか。ご兄弟はいるのか。ご両親は何をされているのか。成績はどれくらいなのか。何が好きで何が嫌いなのか。交友関係はどうなっているのか」
    「まるで警察ね」
    「気を悪くしたならごめんなさい」
    「で? 何がわかったの?」
     
    ユナは蹴飛ばした机に両足を乗せ、挑発的に腕を組んだ。
    璃月は立ち上がり、ゆっくりユナに近づいてくる。
     
    「あなた、ずいぶん裕福なご家庭に育ったのね。お金持ちの一人娘。いわゆるお嬢様」
     
    そしてユナを見下ろしながら、「羨ましいわ」と言った。
     
    「うちなんて自営業よ? 小さな食堂をやってるの」
    「うちはしがない公務員です」
     
    と、紬が同調する。
     
    「あなたは?」
     
    璃月は、書記としてパソコンをタイプしている真白に尋ねる。
     
    「あ、うちは……銀行員です」
     
    銀行員……璃月と紬は少し気になったが、もう少し深掘りするかスルーするか迷う一瞬の隙に、太々しくユナが質問をする。
     
    「役職は?」
     
    真白は言葉に詰まったが、璃月と紬が黙ってこちらを見ているので、遠慮気味に答えた。
     
    「頭取です……」
    「!」
     
    紬が露骨に驚愕の表情を浮かべる。
    慌てて真白は、
     
    「あ、でも、しがない頭取です」
     
    と取り繕う。
     
    「あーっはっはっはっは!」
     
    ユナが手を叩いて楽しそうに笑う。
     
    「すいません……」
    「謝ることはないわ。恵まれた環境に感謝しなさい」
     
    璃月はそう言うと、ユナから離れて窓に向かい、カーテンの隙間から外の様子を見た。
    紬が同調して、横目でユナを睨みながら、真白に言う。
     
    「そうよ? 間違ってもこんな風にならないように」
    「こんな風って私のこと?」

    と、ユナ。

    「何不自由なく育ててもらったのに、何が気に入らないのか……」
    「貧乏人にはわかんないでしょうね」
     
    紬は、カッとなって言い返しそうになるのをグッと飲み込み、フフフと笑った。
     
    「若いうちの苦労は買ってでもしろっていうのは本当ね。贅沢ばかりしてると、人の気持ちの分からないロクデナシになるのよ。いっぱしの不良を気取ってるけど、要は人として不良品てことじゃない」
    「今、なんつった?」
    「あら、怒ったの? 私は事実を言ったまでよ?」
    「あんた、夜道の一人歩きには気をつけた方がいいよ?」
    「そんな脅しに怯むと思って?」
    「脅しなんかじゃない。警告よ。調べたのなら知ってるでしょ? 私には久住(くずみ)高校に友達がたくさんいる。通称・クズ高。どうしようもないクズばかりが通う、クズ高。あそこの不良たちは、犯罪を犯して前科がつくことなんて全く気にしてない。むしろ勲章だと思ってる。あんたがどうなろうが、知ったこっちゃない」
     
    紬は明らかに怯えている。しかし脅しには屈しないという強い意志を表明する。
     
    「警察に言うわ」
    「無駄よ。事件が起きてからじゃないと、警察は動かない」
    「いいの? あなたにも前科がつくのよ?」
    「私は何もしない」
    「命令するんでしょ? その、クズ高のお友達に。だったら、あなたも同罪なの」
    「私は命令なんてしない。ただ、あんたにイジメられたって話をするだけ。あとは、あいつらが勝手にやること。私は関係ない」
    「そんなの……」
     
    紬は絶句するが、必死に言葉を探す。
     
    「……そんな言い訳は通じない」
    「言い訳じゃ無い。事実よ」
    「これはれっきとした脅しよ? ここに証人だっている。璃月と真白が証人になってくれる。そうよね?」
     
    紬は、真白に同意を求める。だが、突然話を振られた真白は何も言葉が出てこない。
    ユナはフッと鼻で笑う。
     
    「この二人の証言なんて、何の信憑性もない。だってあなたの仲間なんだから。せめて私の言葉を録音して、ちゃんと証拠を残しておけばよかったのにね」
    「わかった。もう一度、私を脅しなさい。さっきと同じことを言いなさい」
     
    紬は慌ててスマホを取り出す。録音しようとしているらしい。
     
    「OKわかった! もう一度言うね! て言うと思った? あんたバカなの?」
    「言いなさいよ!」
    「あーっはっはっはっは!」
     
    紬は必死の形相で、ユナにスマホを向ける。
    その様子を見て、ユナは体をのけぞらせて大笑いしている。
     
    「紬、落ち着いて」
     
    カーテンの隙間から外の様子を見ていた璃月が、落ち着いた声でたしなめる。
    紬は「だって……」と今にも泣きそうな声を出す。
     
    「大丈夫。ただの脅しよ。彼女は、あなたが怯える様子を見て楽しんでるの。本当に、あなたをどうこうしようなんて思ってない」
    「さぁ、どうでしょうね」
     
    ユナは不敵な笑みを浮かべる。
    璃月は外を見たまま、天気の話でもするように尋ねる。
     
    「そもそも、久住高校の不良たちが、あなたのためにそこまでするかしら?」
    「疑ってるの?」
    「あなたにそれほどの人望があるとは思えないけど」
    「残念だけど、あいつらは私を信用してる。私のためなら平気で悪いことをする。私はあいつらを動かすことができる」
    「悪いことって?」
    「だから……この女を襲うってことよ!」
     
    ユナは紬の方をアゴでしゃくった。
     
    「もうやめて!」
     
    と紬は絶叫する。
    ユナは追い討ちをかけるように、体をぐいっとのり出す。
     
    「せいぜい恐怖に震えながら暮らしなさい。私にあんな口を利いたことを後悔しながらね」
     
    <私はあいつらを動かすことができる>
     
    どこからか、ユナの声がする。
    ユナが声の方を見ると、そこには背を向けて窓の外を見ている璃月がいる。
     
    <悪いことって?>
    <だから……この女を襲うってことよ!>
     
    「うん。ちゃんと録れてる」
     
    璃月が振り返ると、その手にスマホが握られている。スマホに録音されたユナの言葉を確認し終えると、璃月は柔らかな微笑みを浮かべてユナを見た。
     
    「これで、あなたが指示したという証拠が手に入ったわ」
    「璃月……!」
     
    紬は涙を浮かべたまま、畏敬の眼差しを璃月に向ける。
    真白は今にも立ち上がり拍手しそうなほど感動しながら、
     
    「さすが璃月さん……」
     
    と感嘆の声を漏らした。
     
    「あなた、随分と自分に自信がおありね。自分が切れ者だと思ってる。まぁ、うちに入学するくらいだから頭は悪くないんでしょう。でも忘れないで。上には上がいるってこと」
     
    ユナは不満を隠そうともせず、手足を組んだまま、ぶすっと黙っている。
    璃月は、ユナにゆっくり近づいて行く。
     
    「マトリョーシカって知ってる? ロシアの民芸品。大きな立派な人形のように見えるんだけど、でも外面を一つ一つ剥いでいくと違うの。真の姿はこーんなちっぽけな人形なの」
     
    璃月は指で小さな小さな大きさを示す。
    そして顔をユナに近づけると、小さくささやいた。
     
    「それが、あなたよ」
     
    ユナは何も言い返すことができず、正面を睨むだけだ。
    璃月は満足そうな笑みを浮かべると、
     
    「さ、そろそろ本題に入りましょう」
     
    と紬に言いながら、ユナから離れ元々座っていた椅子に戻って行く。
    そして、生徒会による、ユナへの取り調べが始まった。



     
     
    こつこつなにかを書いています。 『どん底のまま終わるより、一夜の王になりたい』

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