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秘められた花園 <第五話>

    【登場人物】
    神花 璃月(3年生)  ……生徒会長
    黒崎 紬(3年生)   ……生徒会副会長
    小鳥遊 真白(1年生) ……生徒会書記
    鷹宮 ユナ(2年生)   ……不良生徒

    何故、人は万引きをするのか……3つの理由……
    紬はアゴに人差し指を当て斜め上を見る。考えるときの癖のようだ。
     
    「欲しいものがあるけど、お金がないから?」
    「確かにそれはあるわね。他には?」
    「ストレス発散とか?」
    「そう、心の問題。緊張からくるスリル。成功したときの快感。残り1つは?」
    「なんだろ……」
    「怨みですか?」
     
    紬が声の方を見ると、真白が顔を真っ赤にしてうつむいている。思わず口を挟んでしまった自分に驚いているのだろう。
     
    「その通りよ」
     
    璃月が声をかけると、真白は安心したように顔を上げた。
     
    「その店に怨みがある。あるいは、店員に怨みがある。その怨みを晴らすため、万引きをする。そういう理由だってあるわね」
    「私はやってない」
     
    ユナがカーテンを凝視したまま低い声を出す。
     
    「本当に?」
     
    璃月は、まるで子供のいたずらを問い正すように聞く。
     
    「やってない」
    「おばさんに仕返ししようと思ったんじゃないの?」
    「思ってない」
    「店に大損害を与えてやろうと思ったんでしょ?」
    「なんで保湿クリーム1個で大損害を受けるのよ。バカじゃないの?」
    「よくわかったわね」
     
    冷ややかな声。空気が凍る。
     
    ユナは、自分が “何かをしでかした” と分かった。“何か大きな失敗” を。だが、それが何かすぐには理解できない。せめてそのヒントを読み取ろうと、横目で璃月の表情を見る。
    璃月は相変わらず微笑みを浮かべている。だがこれまでの親密さはそこには無い。足元に倒れた惨めな敗者を見下ろすような、圧倒的な微笑みだ。
     
    「私は今まで、あなたが万引きしたのは『化粧品』だと言ってきた。それが『保湿クリーム』だなんて一度もも口にしていない。もちろん、紬もね」
    「言ってないわ」
     
    紬は胸を張って応える。
    璃月は話を続けた。蜘蛛の巣にかかった獲物にじわじわと寄るように。
     
    「もちろん、薬局店員のおばさんも言ってないハズよ? おばさんは、あなたがカバンの中に入れたのが何かよく分からなかった。あとで在庫を整理して、保湿クリームが1つ減っているのに気づいたの」
     
    ユナはじっとカーテンを見続けている。そうすればそこに、この状況を突破できる答えが浮かび上がってくると思っているのかもしれない。
     
    「どうしてあなたは、『化粧品』が『保湿クリーム』だと分かったのかしら?」
    「違う、違うの……」
     
    ユナはかろうじて言葉を発した。まだ璃月を見ることはできない。
     
    「あなたは知っていたの。万引きされたのが『保湿クリーム』だってことを」
    「待って……」
    「どうして知ってたの? あなたが万引きしたからでしょう?」
    「違う……」
    「目的は何? おばさんに赤っ恥をかかせるため?」
    「だから……」
    「だとしたら成功ね。おばさんは悔しかったと思うわ」
    「違うって言ってるでしょ!」
     
    ユナは机を叩いて、璃月を睨む。
     
    「だったら証明してみなさい!」
     
    璃月が初めて声を荒げた。とはいえ、ヒステリックではなくキレているわけでもない。その声は、罪人の言い訳に正義の鉄槌を下す最高判事のように、威厳と高潔さを湛えている。それは、ユナの悪あがきを軽々と叩き潰した。
     
    「さぁ、証明しなさい! 違っていう証明を! 私が言ってることが間違ってる、あなたは何もやっていないという証明! 私がヒザを叩いて『ああそうか!』『なるほど!』と納得するような、そんな証明をしてみなさい!」
     
    ユナは打ち上げられた魚のように口をぱくぱくさせている。
     
    「できないでしょう? できないのよ。『やっていない』という証明は不可能なの。だからもしあなたが冤罪を主張しても、それが認められる可能性は限りなくゼロに近い。ましてやあなたは日頃の行いが悪すぎる。評判が良くないわよ? 学校は休みがちなくせに、暴走族の集まりには出席してる。そうでしょう? ハッキリ言うわね。あなた、うちの学校に向いてないのよ。もっと違う学校に通った方があなたらしくいられると思うわ。例えばそうね……クズ高なんていいんじゃないかしら?」
    「この学園を辞めろってこと……?」
     
    璃月はそれには答えず、黙って微笑んだ。
     
    「そうそう、さっきあなた学園ドラマがどうとか言ってたわね? 紬のことを、主役になれない脇役だって。ということは、ドラマの主役はあなたってことかしら? 確かにああいうドラマは不良が活躍する傾向にあるわ。夢にトキメいて野球をやったり、バスケに青春を燃やしたり、はたまた東大を目指したり。でもね……刑事ドラマと一緒。現実では、そんなこと絶対にあり得ない。負け犬は負け犬のまま。地面を這いつくばって生きるの」
     
    璃月の顔から、いつの間にか微笑みが消えている。
     
    「あなたは、私に絶対に勝てない。絶対に。
    苦しみ続けるの。永遠に」
     
    真白はドキドキしていた。なんだか変だ。
    思っていたのと違う。



     
     
    こつこつなにかを書いています。 『どん底のまま終わるより、一夜の王になりたい』

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