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秘められた花園 <第七話>

    【登場人物】
    神花 璃月(3年生)  ……生徒会長
    黒崎 紬(3年生)   ……生徒会副会長
    小鳥遊 真白(1年生) ……生徒会書記
    鷹宮 ユナ(2年生)   ……不良生徒

    「でも……」
     
    ユナは動揺しながらたどたどしく言葉を発する。
     
    「防犯カメラに万引きしていないって証拠が映っていれば……」
    「だったら何?」
     
    璃月は教室のドアへ、つかつかと歩きながら言う。
     
    「それがどうしたの? そんなのいくらでも揉み消すことができる」
     
    璃月は教室のドアを開けて廊下の様子を見る。誰もいないのを確認するとドアを閉めて、静かにこう言った。
     
    「いい? 私が目をつけた人は100%罪を自白する。そして自主的に退学するの。あなたも例外じゃない」
     
    真白は理解が追いつかない。璃月さんは何を言ってるんだろう? 頭がボーッとする。そのため璃月が何度も、真白、真白、と名前を呼んでいるのにも気づかなかった。
     
    「え……あ、はい!」
     
    真白は我に返ると慌てて返事をする。
     
    「これから起きることは記録しなくていいわ」
     
    真白はやはり璃月の意図が理解できず、ポカンとするだけだった。
    璃月は優しい姉のように、親密な笑みを浮かべる。
     
    「あなたは私の後継者になるの。再来年には、立派な生徒会長になる」
    「私が、璃月さんの後継者……」
    「そのために、今から特別授業をしてあげる」
     
    璃月は教室の片隅に生けてあった黄色い花を一輪手に取る。その、ヒマワリを一回り小さくしたような可愛らしい花は、学園長から生徒会に贈られたルドベキアだった。
    花言葉は……『正義』
     
    「統治する側が『正義』を唱えると、途端に管理が滞る。学園に害を及ぼす反乱分子は、何が何でも排除しなければならない。例え、非情な手段を用いたとしても……」
    「何を言ってるの……?」
     
    まるでユナの言葉など聞こえなかったかのように、璃月はルドベキアの香りを嗅ぐ。
     
    「……私が黒と言えば、例え白いものでも黒になる。ここは私の学園なの。この学園にあなたは必要ない」
     
    璃月は手にした一輪のルドベキアをその手で握り潰す。
     
    「私、あなたみたいな人、大っ嫌いなの」
     
    そして潰れたルドベキアをゴミ箱に捨てると、ポケットからハンカチを取り出し自分の手を拭いた。
     
    こんなの記録できるはずがない……真白は汗で湿った両手をスカートでぬぐった。すると目の前にスッとハンカチが差し出される。顔を上げると、そこに璃月がいた。
     
    「使って」
    「あ……ありがとうございます……」
     
    真白が恐る恐る手を差し出しハンカチを受け取ったそのとき、
     
    「なるほど……」
     
    と、ユナの声がする。
     
    「そうやって何人も、気に食わない生徒を退学させてきたわけね……」
    「なんですって?」
     
    と、璃月。
     
    「平凡な家庭に生まれ育ったあなたは、お嬢様ばかりが通うこの学園で常にコンプレックスを抱いてる。裕福な家庭に生まれただけで、何の努力もせず気ままに過ごしている生徒が許せない。この学園はあなたの全てだ。だから、いい加減な生徒に穢(けが)されるのがどうしても許せない」
     
    険しい顔の璃月だったが、やがてフッと息を吐く。
     
    「……言うじゃない。
    いいわ。あなたの最後の言葉として、覚えておきましょう」
     
    璃月はポケットから小さな折り畳みナイフを取り出した。
    ハンカチを手に固まっていた真白が「え……?」と思わず声を出す。
     
    「何をするの?」
     
    ユナは動じる様子がない。
     
    「何をするかって? ……こうするのよ!」
     
    璃月はナイフで自分の手の平を切る。
     
    「璃月さん!」
     
    真白が思わず叫ぶ。璃月は真白からハンカチを奪い取ると、傷口を押さえた。純白のハンカチはみるみる赤く染まってゆく。
     
    「だ、大丈夫ですか……!?」
     
    璃月は傷口を押さえたまま、真白の目を真っ直ぐに見る。
     
    「あなたは私の味方よ。私に話を合わせて」
    「え……?」
    「誰か! 誰か来て!」
     
    璃月は大声で叫ぶ。
    ユナは冷ややかな目でそれを見ていた。
     
    その時、教室のドアが開いて紬が駆け込んでくる。
     
    「どうしたんですか……!」
     
    真っ赤に染まったハンカチを見て、思わず息を飲む。
     
    「彼女にやられたの……」
    「え……?」
    「とうとう本性を表したのよ……突然、ナイフを取り出して切りつけてきたの。あなたも見てたわよね?」
     
    璃月は、真白に同意を求める。
     
    「え、ええ……」
     
    真白は何が何だかわからないままとりあえず応えた。
    呆れて、ユナが言う。
     
    「そんな嘘、すぐバレるのに……」
    「この期に及んでまだしらばっくれるつもり? そんなことしても無駄よ? 先生たちはあなたと私と、どちらを信じるかしら? あなたの言葉と私の言葉の、どちらが重いかしら? あなたはもう終わりよ。無駄な抵抗はやめて大人しく観念しなさい」
     
    続いて璃月は、緊迫した硬い口調で紬に指示を出す。
     
    「すぐに先生を呼んできて」
     
    しかし紬は押し黙ったまま、動こうとしない。
     
    「早く!」
    「もういい……」
    「もういい? 何が?」
    「もう証拠は揃ったじゃない……もうやめにしよう」
     
    璃月は何が何だか分からない。紬は何を言っているの? まるで聞いたことのない外国語で話しかけられたみたい。璃月はぽかんと口を開けて紬を見つめている。
     
    「そうですね」
     
    背後から声がして、璃月はガバッと反射的に振り返る。
    ユナが、ポケットからスマホを取り出し操作している。
     
    <学園に害を及ぼす反乱分子は、何が何でも排除しなければならない>
     
    スマホからは、璃月の声が聞こえる。
     
    <例え、非常な手段を用いたとしても……>
     
    「大丈夫。ちゃんと録れてる」
     
    ユナはスマホをポケットに戻すと、璃月の前につかつか歩み出る。
    そして片手を胸に当て自己紹介をした。
     
    「改めまして。新聞部の2年生。鷹宮ユナです」



     
     
    こつこつなにかを書いています。 『どん底のまま終わるより、一夜の王になりたい』

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