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誘導の旗 ―ご安全に!― 第12話 ご安全に

    #創作大賞2026 #お仕事小説部門


    【目次】
    第1話 港区再開発、200台の生コン搬入
    第2話 緊急断水の修羅場 
    第3話 視線 
    第4話 来訪者
    第5話 接触 
    第6話 現場
    第7話 再起
    第8話 選択
    第9話 祭りの雑踏、見えない波
    第10話 オレンジの規制線
    第11話 残る
    第12話 ご安全に →(本記事)


     朝から雨だった。

     細い雨が、アパートの窓をずっと同じ角度で叩いている。土砂降りではない。だが、こういう半端な雨がいちばん厄介だと、朔太はもう知っていた。路面に薄い膜を作り、視界を曇らせ、運転手の判断をわずかに遅らせる。工事も警備も中止になるほどではない。だからこそ、現場は普通に始まる。

     スマートフォンの画面には、昨夜のまま御堂のメッセージが残っていた。

     ――残るんですね。

     ――なら、最後まで見てください。

     相沢へはもう返さないと決めた。御堂にも返していない。返したところで、あの手の人間は返事の文面ではなく、返事をしたという事実だけを利用する。そういう確信があった。

     朔太は画面を閉じ、机の上へ伏せた。作業服に袖を通し、反射ベストを持つ。最初にこの服を着たときの、輪郭を塗り替えられるような違和感は、もうない。代わりにあるのは、これを着るときだけは考える順番が決まるという感覚だった。足元。目線。流れ。外から来る余計なものは、そのあとだ。

     だが、今日はその順番が最初から揺さぶられている。

     部屋を出る直前、スマートフォンが震えた。知らない番号。開かなくてもわかる。御堂だろう。朔太は見なかった。電源を落とそうとして、一瞬だけ迷った。だが、今日は主催や営業所からの連絡もあるかもしれない。切れば終わるほど単純でもない。

     結局、通知だけを切り、スマートフォンをポケットへ入れた。

     完全には消せない。なら、少なくとも鳴らない形で持つしかない。現場の人間らしい、あまり格好のよくない折り合い方だった。

         *

     営業所の空気は、雨の日のそれだった。

     濡れた作業着の匂い。傘立てに増えたビニール傘。床に持ち込まれた水の跡。誰も口にしないが、雨の日は全員の動作が半歩だけ慎重になる。滑るからだ。視界も狭い。運転手も苛立ちやすい。何もかもが、ほんの少しずつ悪い方へ寄る。

     白石玲子が配置表を持ったまま言った。

    「今日は臨時の大型案件です」

    「大型案件」

    「再開発現場の打設日程が雨でずれ込んで、昼から一気に搬入が集中するそうです。周辺道路も一本潰れています。混みます」

     土門が横から口を挟む。

    「港区A街区。お前の初日の現場だ」

     その言葉に、朔太は一瞬だけ息を止めた。

     あの現場。最初に黒岩へ襟首を掴まれ、死角を叩き込まれた場所。故障車を押して、流れを戻した場所。そこへ戻るのか。

    「雨で搬入が重なると、ろくなことにならん」

     土門はホワイトボードの時間帯に赤線を引いた。

    「歩行者は傘で視界が狭い。運転手も焦る。現場監督は工程が押してるから急がせる。再開発現場の悪いとこ全部出る日だ」

     白石が書類を差し出す。

    「黒岩さんが頭です。神代さんが中。長峰さんは一般道側の片交。小泉さんは搬入ゲート側の受け。午後から休憩回しも増えます」

     そこまで聞いて、朔太はようやく理解した。今日は総力戦なのだ。通常の一現場ではなく、会社として主力を厚く入れる日。営業所側も最初から、そのつもりで組んでいる。

     白石が一度だけ、まっすぐこちらを見た。

    「小泉さん」

    「はい」

    「今日は、たぶん長いです」

    「はい」

    「長い上に、いろいろ重なると思います」

     それは雨のことだけを指していなかった。朔太にもそれはわかった。

    「でも、順番は一つです。目の前から片づけてください」

     白石はそう言って書類を引っ込めた。

     土門が新聞を置く。

    「現場で、誰と何があってもな」

     その言い方は雑だったが、視線だけは珍しく真面目だった。

    「最後に問われるのは、旗を振るか振らないかだけだ。そっちを先にしろ」

     朔太は短く頷いた。

    「はい」

     答えた瞬間、自分の中で何かが少しだけ定まった。御堂が何を仕掛けてこようと、結局こちらが問われるのはそこなのだろう。旗を出すか、止めるか。持ち場へ戻るか。仕事とはたぶん、そういう残酷な単純さを持っている。

         *

     港区A街区の空気は、初日に見たものとはまた違っていた。

     大規模再開発の巨大な谷間。重機。クレーン。ポンプ車。生コン車。鉄骨。仮囲い。白い雨。あらゆるものが濡れて光っている。路面には泥が広がり、タイヤ痕の溝に雨水が細くたまる。作業員たちは雨合羽のフードを被り、監督の怒鳴り声だけが雨粒を突き抜けてくる。

    「今日中に打ち切るぞ! 遅れたらまたずれ込む!」

     工程が押している現場の声だった。押している現場は、いつも声が近い。

     黒岩は現着するとすぐ全体を見た。搬入導線、一般車の逃がし、歩行者の抜け道、ポンプ車位置、重機旋回、排水のたまり、仮設フェンス際のぬかるみ。目線の順番が速い。速いのに焦りがない。

    「今日は、雨で全部が遅れる」

     黒岩が全員へ言った。

    「だから急がせる声が増える。聞け。でも従うな。危ないなら止めろ」

     神代が中位置から補足する。

    「歩行者の傘、搬入車のミラー、ぬかるみ、全部見ます。一般車は長峰さん側で噛みます。搬入受けは小泉。流れを切らさないより、接触を出さない方が先です」

     長峰が片手を上げる。

    「今日はクラクション増えるよ。気にしないで」

    「気にすると遅れます」

     神代が言う。

    「遅れると危ない」

     久我も今日は入っていた。搬入導線の外側、仮設フェンス寄りで歩行者と作業員の交差を見る位置だ。規模の大きい日には、久我のような人間がいるだけで現場の幅が違うのだろう。

     朔太は搬入ゲート脇へ立った。初日と同じ場所。だが、見えているものはあのときよりずっと多い。車体だけではない。ミラー、泥、タイヤの滑り、運転手の目、横切る作業員、ぬかるみへ入りそうな歩行者の靴。見えるものが増えた分だけ、怖さも増していた。

         *

     昼前までは、現場は何とか保っていた。

     雨は弱くなったり強くなったりを繰り返し、そのたびに路面の表情が変わる。重機の旋回に合わせて全止めが入り、生コン車が数分単位で来る。一般道側では長峰の無線が切れず、神代の声が中で全体のズレを拾う。

    「中、歩行者二名寄ります。搬入、五秒待って」

    「搬入了解」

    「西、一般一台寝かせます」

    「了解」

     声は短い。だが、それぞれが自分の持ち場を確実に返している。片交A、片交B、中、歩行者捌き、休憩回し。第6話で見た現場構造が、今日はもっと密な形で動いていた。

     午後に入ると、予報通り搬入が増えた。

     午前に遅れた分を取り戻すため、生コン車が詰めて入ってくる。現場監督の声はさらに近くなる。打設のリズムと搬入のリズムを合わせる必要がある。だが、雨で一般車の流れも鈍く、歩行者は傘で視界を切られている。悪い条件が重なる日だった。

     朔太はその中で、自分が以前よりも冷静に立てていることを感じていた。焦っていない、という意味ではない。焦りが来ても、その焦りを表に出さずに手を先へ出せる、という意味だ。前なら焦りそのものが体を動かしていた。今は、焦りが来ても、その一段外側に手順がある。

     そのとき、ポケットの中のスマートフォンが一度だけ震えた。

     見なかった。

     視界の端で、仮設フェンスの向こう側を誰かが歩いていくのが見えた。黒い傘。濃いジャケット。顔までは見えない。だが、それが御堂であろうとなかろうと、いまは同じだった。

     次の生コン車が来ている。

     それだけで十分だった。

         *

     午後三時を回った頃、現場の空気が急に変わった。

     それは大きな異変としてではなく、小さいズレとして始まった。一般道側の車列が思ったより伸びている。歩行者の抜け道に、工事関係者の臨時車両が一台だけ余分に頭を出している。中で神代が全止めを一度多く入れる。搬入監督が「まだ行けるだろ」と声を荒げる。

     雨は細くなったが、路面の泥はむしろ滑りやすくなっていた。

    「小泉」

     黒岩の声が低く飛ぶ。

    「はい」

    「次の生コン、左が浅い。ミラー見ろ」

     朔太はすぐに運転手の顔と左ミラーの位置を見る。確かに寄りが浅い。まだ大丈夫だが、このまま入ればフェンス寄りの仮設足場へ近づきすぎる。

    「少し右です」

     手を出す。運転手が修正する。通る。

     問題は、その直後だった。

     仮設フェンスの外、歩行者導線のところで、黒い傘の男が立ち止まった。今度は顔が見えた。御堂啓介だった。

     濡れた傘を閉じもせず、こちらを見ている。

     その位置が悪かった。現場に直接入っているわけではない。だが、歩行者導線の視界の先に、ぴたりと居座るには十分に悪い位置だ。通行人が一人、男を避けて横へ膨らむ。その膨らみが、ちょうど搬入車の導線へ近づく。

     久我がすぐに動いた。

    「歩行者、こちらへ」

     声をかけ、膨らんだ歩行者を内側へ戻す。

     御堂は動かない。警備員の声に従わない客のような顔でもない。ただ、そこにいること自体が仕事の邪魔になる位置を選んで立っている。

     黒岩が気づいた。

    「誰だ」

     朔太は一瞬だけ躊躇した。その一拍の間にも、現場は動いている。

     御堂が、仮設フェンス越しに口を開いた。

    「見えてますか、小泉さん」

     大きい声ではない。だが、近い。近すぎる。

    「切る場所を間違えると、また落ちますよ」

     その瞬間、搬入監督が怒鳴った。

    「入れろ! 止めるな!」

     神代の無線が重なる。

    「中、全止め!」

     すべてが同時だった。

     場内ではバックホウが旋回半径を広げようとしている。歩行者導線の一人が御堂を避けてまた半歩外へ出る。生コン車の運転手が監督の声に引かれて前へ出たがっている。一般道側では長峰がクラクションを受けている。

     朔太の中で、時間が一瞬だけ裂けた。

     御堂を見るか。

     監督の声を取るか。

     神代の全止めを優先するか。

     歩行者を戻すか。

     ミラーを見るか。

     全部が一度に来る。

     そして、その中心にあるのはいつも一つだけだと、体が先に思い出した。

     朔太は振り切るように大きく手を上げた。

    「止まれ!」

     声は御堂ではなく、生コン車へ向けて出た。

     もう一度。

    「全止め!」

     今度は周囲へも聞こえる声だった。運転手が即座にブレーキを踏む。バックホウも神代の停止で止まる。久我が歩行者を内側へ押し戻す。長峰の無線が飛ぶ。

    「西、一般止めました!」

     黒岩がその一秒で前へ出た。御堂の方は見ない。生コン車の鼻先と歩行者導線の切れ目だけを見る。そこが頭だ。

    「監督、待て! いま入れたら全部死ぬ!」

     声の重さが違った。搬入監督が一瞬だけ黙る。

     神代が中から入れる。

    「歩行者クリア取ります。小泉、そのまま保持。久我さん、外押し戻しお願いします」

    「了解」

     久我が導線を押し戻す。工事関係者の臨時車両を丹治が後ろへ引く。場内の作業員が半歩下がる。ほんの十数秒だった。だが、もしあそこで一台でも前へ出していれば、歩行者か仮設足場か、何かが終わっていた。

     御堂は、フェンスの外でそれを見ていた。

     見ていただけではない。明らかに狙っていた。現場に最も悪い瞬間を作るために、最も悪い位置へ立ったのだと、朔太にはわかった。

     神代の声が入る。

    「中、クリア。小泉、搬入いける」

     朔太は御堂を見なかった。

    「入ります」

     運転手の顔を見る。ミラーを見る。歩行者は久我が押し戻している。場内もクリアだ。

    「そのまま前、少し右。はい、前。止める。前」

     声が戻る。手も戻る。生コン車が入る。現場の流れが、ぎりぎりでまた繋がる。

         *

     御堂がいなくなったのは、その数分後だった。

     いつ去ったのかは、誰にもわからなかった。振り返ったときにはもういなかった。黒い傘も、濃いジャケットも、フェンス際の嫌な影も消えている。

     だが、残したものは大きかった。

     現場監督は顔を青くしていた。もし今のズレで事故が起きていれば、打設の遅れどころでは済まない。神代は何も言わず、中へ戻って全体を立て直している。黒岩は一度だけ朔太を見た。その視線には、褒めるでも責めるでもない重さがあった。

     すべてが片づき、短い休憩の隙ができたとき、黒岩が朔太を呼んだ。

    「小泉」

    「はい」

    「あれ、誰だ」

     朔太は少しだけ黙った。もう誤魔化す段階ではないと思った。

    「昔の仕事の相手です」

    「客か」

    「そういう言い方もできるかもしれません」

    「敵か」

     黒岩の言葉は乱暴だった。だが、必要な整理だけをしていた。

    「......わかりません」

    「わからなくていい」

     黒岩は即答した。

    「現場に立ったとき、敵か味方かわからないやつは、全部危険物だ」

     その一言は、妙にしっくり来た。

     御堂が何者か。何を知っているか。何を狙っているか。そういう説明より先に、今の現場で邪魔になるなら危険物だ。警備の論理で言えば、それで十分だった。

    「今日、止めたのは正しかった」

     黒岩は続けた。

    「監督の声でも、そいつの顔でもなく、車を止めた。そこだけでいい」

     朔太は息を吐いた。

    「でも、僕があいつに気を取られたせいで」

    「違う」

     黒岩は切った。

    「気を取られても、止めた。そこが答えだ」

     それ以上、何も言わなかった。

     神代が少し離れたところからこちらへ来た。

    「本部へ一報だけ入れます。外部妨害あり。主催側にも共有して、導線外へ立ち止まる人間は今後即動かします」

     仕事の言葉だった。御堂という名前ではなく、「外部妨害」として処理する。そうしないと現場は守れない。朔太は頷いた。

    「お願いします」

    「名前はあとでいいです。今は現場です」

     神代もまた、必要なことしか言わなかった。

         *

     夕方、打設が終わるころには雨はほとんど止んでいた。

     雲は低いままだが、空の端に少しだけ薄い明るさが戻っている。現場は疲れていた。監督も、作業員も、警備員も、全員が今日の危うさを身体で知っている顔をしていた。それでも最後まで流れを切らさず、事故も接触も出さず、持たせた。その事実だけが残る。

     カラーコーンが回収される。矢印板が畳まれる。搬入が終わり、一般車両の列が元の道路へ戻る。初日に見た「何事もなかったように街が動く」光景が、今日は別の意味で胸へ来た。

     何事もなかったわけではない。

     危なかった。かなり危なかった。

     それでも、何事もなかった形まで戻したのだ。

     久我が撤収の途中で言う。

    「今日は、外が悪かったですね」

    「外、ですか」

     朔太が聞くと、久我は頷いた。

    「雨も、歩行者も、立ち位置も。全部、外から崩す方向でした」

     そして、少しだけ目を細めて付け加えた。

    「でも、戻せた」

     それは工藤とも白石とも神代とも違う、久我なりの評価だった。

     長峰は一般道側から戻ってきて、ぐしゃぐしゃのタオルで首を拭きながら言った。

    「クラクション、今日は過去最高だったよ」

    「それでも止めてたじゃないですか」

    「止めるのが仕事だからね」

     そう言ってから、朔太を見た。

    「お前も今日は止めた。ちゃんと」

     その軽い口調の中に、珍しく真面目な芯があった。

         *

     営業所へ戻ると、白石が珍しく先に立ち上がった。

    「お疲れさまでした」

     声の温度が、いつもより少しだけ違う。

    「本部無線、神代さんから受けました。導線外妨害、主催側共有済みです。現場写真も回収しています」

     仕事の後始末が、もう始まっている。御堂の存在は、営業所へ戻った瞬間に「嫌な過去」ではなく「現場で起きた事案」へ変換される。その変換の冷たさが、今日はありがたかった。

     土門が新聞を置いてこちらを見た。

    「社長さん」

    「はい」

    「まだ元社長か?」

     唐突だった。だが、問いの芯はわかる。

     朔太は少しだけ考えた。考えてから答えた。

    「もう、違うと思います」

     土門は頷いた。

    「ならいい」

     それで会話は終わった。説明も拍手もない。だが、その短さがかえってちょうどよかった。

         *

     夜。アパートへ戻る道で、朔太は一度だけスマートフォンを取り出した。

     御堂から新しい連絡は来ていない。相沢からも、もう何もない。画面は静かだ。静かだが、その静けさは前と違う。いつ壊れるかわからない静けさではなく、こちらが一度持ち場を選んだあとの静けさだった。

     部屋へ入り、反射ベストを畳み、誘導灯を壁に立てかける。部屋は狭い。生活は豊かではない。戻った世界の方が楽だったかもしれない。そういう現実は、何も消えていない。

     だが、今日、自分は現場で何を選んだのかを知っている。

     御堂を追わなかった。

     監督の声にも流されなかった。

     止めるべきものを止めた。

     戻すべき流れを戻した。

     それはたぶん、黒岩が最初に言った「死角を見る」という言葉の、今の自分なりの答えだったのだと思う。

     朔太は床に座り、壁に背中を預けた。疲れている。だが、最初の頃のように「自分はこんな場所の人間ではない」と思う気持ちは、もう湧いてこなかった。

     こんな場所。

     その言い方自体が、もう違うのだろう。道路の端、工事帯の際、雑踏の外周、橋の欄干の横、高速の流入側。どこも誰かが立たなければならない場所で、そこに立つ人間がいるから街は何事もなかったように動いている。

     自分も、その一人になった。

     立派な警備員だ、とはまだ言えない。だが、少なくとも仮のつもりではない。逃げ場としてでも、時間つなぎとしてでもない。ここで、自分の持ち場を持つ人間として立っている。

     スマートフォンを伏せる。部屋は静かだ。窓の外では、夜の道路を車が一台通り過ぎていく。

     朔太は小さく息を吐いた。

    「ご安全に」

     誰に向けた言葉でもない。だが、その言葉は今度、胸の奥で自然におさまった。

     挨拶ではない。願いでも、祈りでも、命令でもある。

     そしてたぶん、自分自身へ向ける言葉でもある。

     明日も現場はある。

     御堂の問いはまだ答えが出ていない。過去に自分が何を「切った」のか、それがいまの誰かにとってどんな意味を持つのか、朔太はまだ知らない。だがそれは、現場の外で向き合う問題だ。持ち場を選んだ以上、向き合う場所も自分で決める。

     その事実が、いまは少しだけ嬉しかった。

     
     
    日本映画学校出身。劇場映画・テレビアニメの編集を経て、映像・Web・音楽をワンストップで手がけて25年。SF/ミステリー小説・脚本原案を執筆中。noteでは映像編集ノウハウと創作の記録を発信。

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