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フェロモン感知課長ヒミコ「貴女、香ってますよ」|第10話『御前の乱』

    前回のお話

    西日が入る応接室。
    机の上に置かれた見慣れた会社の様式の書類。

    『辞令』

    その下に書かれた名前を見て、

    私は息を止めた。


    「後藤 義江 殿」


    「サンディエゴ支部 支部長に任命する」


    私が机の上の書類に気づき、フリーズしていると、御前様が「バレちゃった」と言いながら、書類を隠すように引き出しにしまった。

    「サンディエゴって…。県外ですらないじゃないですか」

    「そ。一応県外もいくつか見てきたのよ?愛知、大阪、静岡、埼玉。でももう英会話スクールはどこも飽和状態。だからね、駐在さん家庭向けのスクールを西海岸で立ち上げることになったの。社長のお姉さんがそこにいるのよ」

    「会社の新しい体制って…」

    海外進出のことだったのか…。

    「ううん、違うの。それはもう立ち消え」

    私は、現実を受け入れられないでいた。御前様がアメリカに行ってしまったら、人事部はどうなるの…。

    「ヒミコ、あとはよろしくね」

    「え??」

    まさか、私が部長に?
    それは、だめじゃないけど、きつい。

    「うーーん、今日は飲みに行くか!」

    御前様に誘われて、私たちは飲みに行った。
    御前様の奢りだと言って、ホテル最上階のバーに連れて行ってくれた。

    「ここね、旦那と私の御用達だったの」

    「え、そんな大切な場所に、いいんですか」

    「もっちろん♡私とヒミコの仲でしょ」

    御前様は静かに笑った。

    「ヒミコ、高田をアメリカに連れてっちゃってもいい?」

    「高田は何と言っているんです?もちろん私は、反対する理由はありません」

    「ついてくるって言うんだよ」

    高田も、御前様のことが好きだったのか。
    両想い、すごいな。

    「私はね、止めた。会社から私が抜けただけじゃなく、高田も抜けたら、さすがに大痛手でしょ。高田は稼ぎ頭でもあるわけだし。若くて将来もあるし」

    「サンディエゴは将来性ありそうじゃないですか」

    私が聞くと、御前様は首を振った。

    「片道切符」

    「え?」

    私は胸を刺されたような気持ちになった。

    「どうして。どういうことです?期待の海外進出ですよね?」

    御前様が頼んだ『ブラディマリー』がきて、グラスの中に塩を撒きながら、御前様は淡々と話す。

    「体よく左遷されたのよ」

    「え??理由は??だって、こんなに会社に貢献してる人がおかしいですよね」

    「銀行の取引の名義も私。サンディエゴの物件の名義も私。うまくいけば私は社長。下手を打ったら借金女王よ(笑)」

    「でも、成功する見込みがあって後藤さんが抜擢されたんですよね」

    御前様はカクテルを一気に飲み干す。
    こんなカクテルの飲み方、普通じゃない。

    「ふーっ!」


    「今回は、私が自爆」


    「”新体制”。バレたのよ。社長に」

    「別にいいじゃないですか、会社の発展のために必要なことでしょう」

    御前様は次のカクテルを頼んで、私に微笑みかけた。

    「ヒーちゃんは、まだまだね」

    なぜか私は泣きそうになった。
    行かないでよ。御前様。

    「いやです。やめましょう。アメリカ」

    ぐすん。
    泣いてしまった。

    御前様は優しく私の頭をなでて、少し目を潤ませながら、言った。

    「ごめんねぇ、ヒーちゃん。私が宮崎とヒーちゃんの恋を邪魔したんだよ」

    「…いいです、それは別に」

    「あれ?気づいてた?」

    「気づいてないけど、そうだと思いました!」

    「ごめんごめん。だって、宮崎にヒーちゃん取られるの嫌だったんだもん。それに、あの男と一緒にいたら、ヒミコの能力の半分しか発揮できないからさ」

    御前様の言うこと、半分はわかってたけど、半分はそんなことないって思った。

    「現に今回の福原の件だって、あんなの本当は宮崎が処理することなんだよ。労災になるまでほっといたのかって話よ。ま、仮病だろうけどさ。でも通院されるとなると、傷病手当も検討しなきゃいけなくなるわけ。そうなる前にもっと早く報告しろってんの」

    いつもの御前様だ。

    「でも今回は、宮崎さん動いてくれたんですよ。福原に通院するように言ってくれていたので、私たちが動かなくても、宮崎さんの方で手を打つつもりだったと思います」

    「なるほどね。あの男もやっと、少しは男前になったってわけ。ヒーちゃんもさ、一皮むけたじゃん。そういう意味では、宮崎に感謝してるんだよね。二人で成長できたんなら、あえて、引き離した甲斐があったというか。やっと、雛鳥たちが巣立ったって感じかな!あとのことは頼んだよ、ヒミコ」

    御前様は私の肩にポンと手を置いて言った。

    「日野未子なら、できる!」

    私はまたグスンと涙が出た。

    結局、そのあと御前様は多くを語ることはなく、疑問も多く残ったままだった。

    なぜ、左遷なのか。
    なぜ、新体制がダメなのか。
    なぜ、高田も一緒に飛ぶのか。

    それは、近いうちに知ることになる。
    とんでもない、御前様の秘密を。


    御前様の秘密


    ハッキリしたのは、御前様と高田の関係だ。

    以前から一緒に出勤することは多々あったが、「高田のスクールに寄ってからきた」というアリバイを御前様は使わなくなった。

    堂々とカップル出勤だ。

    あの時から二人はできていたようだ。

    不倫だった。

    さらに、御前様が異動を受け入れてから、引継ぎのみに徹すると言い、時短勤務となった。

    御前様が受理した辞令と同時に、社内ではもう3枚辞令が発行された。

    1枚は高田。
    サンディエゴ校 スクール長

    もう1枚は私。
    人事部長。

    最後の1枚は福原。
    人事部 事務員。

    福原が私の下につくことになった。
    福原については最初からこうしていれば、トラブルもなかったかもしれないと思いつつ、御前様の異動が決定したという事実に、高田という戦力を失うことよりも、御前様を失うことに対する受け入れがたい思いを抱いていた。

    時短勤務になった御前様は、私に後半休をとって家に遊びに来いと呼んだ。

    御前様が退勤する午後4時に、私も一緒に彼女の車に乗り込んだ。

    「ちょっと、寄るところあるんだ」

    そういって到着した先は、御前様の自宅近くだという学童施設だ。

    そこから御前様と一緒に一人の男の子が出てくる。

    「タケル、ママの大事なお友達のヒーちゃん。今日は晩御飯一緒に食べるからね」

    「こんにちは!ヒーちゃんさん!」

    「息子なの。今8歳。ずっとうちの両親に育ててもらってたんだけど、週末はちゃんと母親してたのよ?私も」

    驚きすぎて、鼻血がでそうだった。
    御前様、最強の秘密は、息子さんだった。

    でもどうして。旦那さんとは最近離婚したばかりだよね?実家で育ててたって…。それについては、さすがに聞くことができなかった。

    そのまま、タケル君と一緒に御前様の家に着いた。

    質素なアパートで、旦那さんと別居してからは、そこで一人暮らししていたらしい。今は高田が一緒に住んでるとか。さすがに、いつから?なんて聞けないけど。あの一緒に出勤してた時にはすでに同棲してたんだろうな。

    そっか、別居してたから、仕事の都合でタケル君を実家に預けてたのか。

    タケル君の宿題を見てあげている間に、御前様はせっせと夕飯の支度をした。隣の部屋は段ボールが山積みになっていて、本当にアメリカに行ってしまうんだな、と実感した。

    「今日、鍋でいい??夏に鍋もオツなもんよ~」

    「ママ、もう秋だよ!9月は秋になるんだよ」

    タケルくんがすかさず突っ込む。
    可愛いな。利発なところがさすが御前様の子供だ。
    高田は、タケル君込みで御前様との暮らしを受け入れたようだった。

    高田が早上がりしてきて、18時には4人で食卓を囲むことができた。

    私だけ異色だったけど、タケル君が高田にすごくなついていて、一家団欒がそこにあった。御前様も、ただのママ、ただの奥さんになっていた。

    「いいわよねぇ。男同士はさ、言葉にしなくても通じることがあるんだから」

    食後にタケル君とゲームしながら子供みたいに盛り上がる高田をみながら、御前様は幸せそうな顔で言った。

    「タケル君もアメリカに行くんですか」

    「うん。向こうではベビーシッターさんもハウスキーパーさんもつけるから、私も仕事と両立できるし、そもそも現場には入らず、基本的には在宅で仕事するつもり」

    「なるほど、今時の働き方ですね。さすが後藤さんです」

    御前様は笑顔で、「ほら、ヒーちゃんはもっと食べて」と言いながら、締めのうどんを追加した。

    食後に食器の片付けを手伝い、御前様の手作りザッハトルテをごちそうになった。正直、御前様がこんな家事力高いと思ってなくて、感心してしまった。

    彼女もひとたび”将軍”のスーツを脱いでしまえば、”女性”だったんだな、と思った。離婚はつらい経験だったかもしれないけど、今幸せそうな御前様をみて、再出発なんだと、やっと私の中でも整理ができた。

    高田が家まで私を送ってくれて、少し話をした。

    「高田、かっこいいね。覚悟の決め方が潔くて」

    「いえいえ、後藤さんやヒミコさんにはまだまだ及ばないっすよ。俺、本当に二人とも尊敬していて」

    「え?じゃあ、私も恋愛対象だった(笑)??」

    「あ、それはあの、別次元というか…」

    「ひっど。次元レベルでタイプじゃないって、まぁそこも潔くて高田らしくて好きだけどね!別次元で」

    二人で笑いながら、楽しい夜のドライブになった。

    夜景がきれいで、少し静かに過ごしていると、高田が語り出した。

    「俺、本当に後藤さんのこと好きで。一目ぼれもあったんすけど、人としてもこんなすごい人初めてだなって思って。一生ついてくって決めたんすよ」

    私は夜景を眺めながら、「うん、うん」とただうなづいて聞いていた。

    「だけど、後藤さん既婚者だったじゃないですか。知ってたのに俺…。止められなくて。…結果、彼女を転落させてしまったなって」

    「…ばーーーーーーか!!馬鹿者!!高田、おまえ、今運転中じゃなかったら胸倉つかんでひっぱたいたからね!」

    「え?え?マジすか?」

    嬉しそうな高田。こいつМだったかw。

    「あのさ、それ後藤さんにも失礼じゃない?転落って、あんた、自分の愛する人の何を見てるの!今日の後藤さん、あんたは毎日見てるわけでしょ?」

    言いながら少し涙がでてきた。

    「…幸せそうだったじゃん…グスン」

    そしたら、高田が号泣し始めた。
    さすが脳筋。こういう単純なとこ、本当にいい奴だと思う。

    「後藤さんと一緒に幸せになってください!タケル君も一緒に、素敵な家庭を作れるから、高田なら」

    「それと、サンディエゴ校は絶対に成功させて。下手うつなよ。今はこの会社の傘下かもしれないけど、後藤さんと一緒に独立して、成功させて、日本支部つくればいい」

    私がそういうと、高田は「おおおーーー!!さすがヒーちゃん、言うこと違いますねー!!俺、それ目指しますわ」と大喜びした。

    「頑張れ、高田!そのうちヘッドハントしてくれw」

    笑いながら盛り上がっているうちに、家についた。

    高田にお礼を言うと、高田が運転席の窓から顔出して「ヒミコさんも、宮崎さんにアタックしたらどうですかー」と捨て台詞を残して帰って行った。

    嵐はまだ終わらない


    福原の辞令が下りたものの、福原が拒否した。

    お互いフロア違えど、本社内で宮崎さんとも完全に離れるわけじゃないんだから、かなりの情状酌量だと思うけど。

    本人がいうに、「私はもう体調は問題ありません」だから、異動の必要もない、と。

    会議の前に応接室に呼び出して、関と私と福原で面談をすることに。

    すると、福原が私と二人きりで話がしたい、という。

    応接室から関が退室し、私と福原の二人になった。

    福原は淡々と営業スマイルで語った。

    「私、宮崎さんととっても相性がいいんです。仕事でもプライベートでも」

    「うんうん、そうみたいね」

    「宮崎さんは私のことをとても大事にしてくれて、食事も一緒に行く仲なんです」

    「うん、でもそれは仕事とは関係ないね」

    「仕事中も、抱いてくれるんです」

    「それが、業務不履行だってことなのよ。抱っこしてもらわないと仕事ができない状態は、人事部として看過できないって話なんだ」

    私は優しく諭すように話した。
    ちなみに、ここでの会話は録音している。
    この女は、あとから何を吹聴するかわからないからだ。

    「いえ、違うんです。それは、なくても仕事できます。私が言いたいのは、…その、宮崎さんがそれくらい、私を大事にしてくれてるってことなんで、私を異動させるのは、宮崎さんにとっても不利益なのでは?ということを伝えたかったんです」

    なるほど、ただのバカじゃないね。
    この女。

    「あのね、宮崎さんがあなたをどう思っていても、あなたが宮崎さんをどう思っていても、会社として判断しなくてはいけないのは、社員が健やかに仕事ができているかってことなのよ。でも事実として、あなたは体調不良を何度も訴えてきたし、同期に相談もしてる。宮崎さんや事務さんからも辛そうだと報告を受けている。事情はさておいて、事実起きてることをみて、人事部として判断しています。役員や社長も同じ判断です」

    「それは本当ですか?」

    はい?この女、頭沸いてんの??

    「私が体調不良だということを、誰がそんなこと言ったんですか?」

    「だから、宮崎さん、事務さん、同期のみんなから話は聞いています」

    ここに至るまでに、福原以外の同期たちの証言はすでに取っている。

    「嘘です。同期はそんなこと言いませんし、私、同期にそんなこと相談したことありません」

    すごい女だねぇ。
    嘘がこんなに息吐くように言えるなんてさ。

    「そっか、みんな福原さんのこと心配してたのに、嘘つきって言われちゃったか。悲しいね。同期のみんなには、今の話言わないようにするね」

    「だから、私は同期に仕事の話はしてないです」

    「そっか、今から呼んでいい?みんなのこと」

    「え、それは…必要ないと思います」

    「どうして?」

    「そこまですることじゃないからです」

    「それはあなたが判断することじゃないからね?でもまぁ、福原さんの言う通り、そこまで重要なソースではない」

    福原はホッとした様子。

    「異動は決定です。これ以上、無理させられないから。人事部は広報と違って大量の作業もないし、ゆっくり働けると思うんだ。通院やお休みの融通も利かせられるし」

    「引っ越します!そう、通勤が大変だったんです!もっと近いところから通勤すれば、体調崩すこともなくなりますから」

    「なるほど、産業医の先生も、とりわけ身体的問題はなさそうだと診断されて、過労って判断されてたのでね。引っ越しは良い案かもね。でもあくまで、人事異動を決定するのは、人事部であり、最終決裁は役員と社長なのね。私だけじゃどうすることもできないから、一旦、話を預からせて?」

    そう言って私は話を終わらせた。
    なるほどね。こうやって、この女は世間を渡ってきた、というわけか。

    福原は始終笑顔で落ち着いて話していた。
    ゴリ押しが通じると思ったのかな。

    話し合いが終わり、会議室に戻ると、変な注目を浴びた。席に座るや否や、後ろに座っていた三木が「泣かしたんですかw」と言ってきた。

    どうやら、私より先に会議室に戻った福原は、泣きながら会議室に入室したらしい。
    やるじゃん。クソ女。

    テンペスト

    数日後、なぜか私が社長室に呼ばれる。

    スピーカーから、ベートヴェンの『ピアノソナタ第17番』通称『テンペスト』(激しい嵐)が流れている。
    わざとか?

    「日野さん、ずいぶん、色々と世話をかけてるみたいだね」

    社長は細見だけど筋肉質なダンディな60代。
    イケおじだ。
    息子さんは海外のコンサル会社の幹部。
    娘さんは音楽家でプロのフルート奏者。
    末っ子の娘さんは、絵本作家らしい。
    奥さんも元ピアニストで、ピアノ教室をしている。

    家族は会社とは一切関わっていないようで、社長のご家族を見た人はほとんどいない。いたとしても、御前様や関くらいか。

    「福原?という新卒の女子社員が私に異議申し立てをしてきてね」

    あの女、そんな大胆なところもあったのか。

    「異動を取り消してほしい、と」

    「社長はどのようにお考えでしょうか」

    「ははは、さすがヒミコと言われるだけの女傑だねぇ、君は」

    社長は私の問いに答えることなく、世間話を始めた。

    「いや、君のことは、後藤くんや関くんからよく聞いてるよ。会社のために良い働きをしてくれるって、非常に優秀だと」

    「過分なお言葉に大変恐縮です」

    「わたしも君のことはよく覚えているよ。入社した時から、突出して目立ってたから、うちの家内もほめててね」

    え?奥様に会ったことあったっけ?

    「ほら、毎年うちでバーベキューしてた頃にさ、関くんに連れてこられていたでしょ。その時に家内が君と話をしたら、楽しかったって褒めていてね」

    あ、思い出した。あんまり話やすいから、社長夫人とは思ってなかった。確かに出で立ちは貴婦人だったから、招待された取引先の方か誰かかと思ってたわ。

    「その君が判断したことだ。今回の異動の件に話を戻すが」

    「いえ、決めたのは後藤さんです」

    「いや、君だ」

    社長の目が光った。
    怖かった。
    何かの陰謀?

    「君はもう人事部長になるんだよ。人のせいにするんじゃない」

    「はい。私が運んだことでございます」

    怖い、社長怖い。
    帰りたい。
    人事部長なんて、なりたくてなってない!

    社長は、満足げに「ふふん」と笑い、急に優しい笑顔を私に向けた。

    「後藤くんの後釜は君だ。しっかりやりなさい」

    「はい」

    「社長の意見など聞かなくていい。人事部長としてこの件は処理しなさい」

    「はい」

    怖くて足が震えた。
    何が起きてるんだ、この会社は。
    話が終わったと思って、社長室を出ようとした時。

    「それと、もう一つ重大な話がある」

    社長に引き留められた。

    「まだ後藤くんと関くんしか知らない。今、君に話したらこの3人だけの話で、ここでとどめておいてほしいんだが」

    「はい」

    「2ヶ月後、社長を交代する」

    「はい」

    ひぃーーー!!と叫びたい気持ちを隠しながら、軍隊のように気を付けの姿勢で微動だにせず、私は社長の言葉に集中した。

    「私の息子が帰国する。向こうで経営をしっかり学んできているから、この会社もまたより発展するだろう。社長という役職もあらため、CEOとして迎える予定だ」

    「はい、新しいCEOの元で、さらに邁進いたします」

    「そんなに固くならんでいい(笑)」

    社長が緊張した私を見て、ほっこりした笑顔を向けた。

    「後藤くんが、どうやら去年から新しい組織作りをしていたようだ」

    「はい」

    「それは忘れなさい」

    「はい?」

    社長に対して、間抜けな態度を取ってしまった。

    「それは、反故しなさい、ということだ」

    「承知しました」

    「CEOが新しい体制をつくるから、君には関と一緒に、その指揮をとってほしい」

    「光栄でございます」

    「よかった。期待してるよ」

    「はい!」

    やっと話が終わったようで、深々とお辞儀をして、社長室を後にした。

    私が退室すると同時に、ずっとかかっていた『テンペスト』のボリュームが上がった。

    そういや、社長と話している時、ぜんぜん音楽聞こえてなかったな。

    怖かった。
    緊張した。

    そして…。


    御前様の左遷の意味をようやく理解した。
    足がガクガク震えるのを抑えながら、しばらく廊下に立ち尽くした。
    考えるんだ。落ち着いて。


    まず、私が今やること。


    福原に、いよいよ

    チェックメイトする。


    次回に続く




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