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フェロモン感知課長ヒミコ「貴女、香ってますよ」|第7話『その香り、彼をモノにできますか』②

    前回のお話

    この春、入社数ヶ月で異例の昇進を果たした中途社員のエース、高田一誠(たかだ いっせい)が、最近よく人事部に現れる。

    高田は私と同い年で、前職は旅行会社に勤めていたという。添乗員だったため、海外旅行も経験豊富で、英語もペラペラ、我が社としては喉から手が出るほど欲しい人材だった。そして、実際、高田の仕事ぶりは非常に優秀だった。

    御前様は彼をかなり買っていて、彼をエリアマネージャーに抜擢したのも御前様だし、高田の下には新卒が二人ついた。織田と長澤だ。この組み合わせはうまいと思う。長澤は安藤ほどギラギラしていないし、織田に対してまんざらでもないように見えて、興味はなさそう。恋愛トラブルに発展する匂いがしない。織田は社外に彼女がいるから、そもそも恋愛には興味がない。帰国子女だから、海外を渡り歩いていた高田との相性も良い。

    そんなこともあり、高田がスクール長をしていたところに、新卒二人が入り、副スクール長だった社員が昇格、高田はエリアマネージャーとして、元私が管理していたエリアに配置された。

    私はというと、完全に運営部門の人間になった。スクールの仕事の方が好きだったから、寂しい気持ちもあるけど。

    「じゃ、スイパラ行くよ!」

    高田との打ち合わせが終わった御前様は、私と高田に声をかけた。高田、甘いもん食べるのか??

    「俺、甘いものにめっちゃ目がないんすよー」

    高田は男子バレーで元国体選手という経歴もあってか、話し方がもろ体育会系だ。たまに脳筋かな?と思うこともあるけど、うちの会社は頭だけはよく回る奴が多いから、彼のとりあえず動く、みたいな能力は貴重だ。

    スイパラでは御前様が、サッサと彼の皿にパスタを盛ってあげたり、ついでに私にカレーを持ってきてくれたり、どうしたん??とツッコミたくなるような尽くしっぷりだ。

    「もう、私はヒミコに高田!あなたたち二人に、ほんとーーに、助られてるの」

    「なに、ヒミコ、変な顔して」

    「あ、いえ、そんなことないですよ。ありがたいお言葉で恐縮です」

    どうしたんだ、御前様。

    「もうね、去年は、転職しちゃおうかな、って思うこともあったわけよ」

    いや、ぶっちゃけすぎでしょ。私だけなら良いけど、高田まだ入社したばっかじゃん。

    「でもね、高田という最強エースの入社、ヒミコという最強右腕の誕生!自分で言うのもなんだけど、私は本当に引きが強いと思ってる」

    一見、私らを誉めているように見せかけて自画自賛してるのが、御前様らしいな。

    「いい、今年一年、いや半年以内に、この会社の体制を変えるよ!今までは社長ワンマンだったけど、私たちで盤石な”組織”を作るの。優秀な社員たちで作り上げる会社を。そのためには、この優秀な二人の存在が必須なわけですよ!」

    御前様、何があったんだろう…。元気だし、いつものようにハツラツとしているけど、ちょっと去勢張ってるようにも思えた。御前様が転職したいとまで思った理由ってなんなんだろう…。

    「よろしく頼んだよ!!」

    大きな声で私たちを𠮟咤し、私と高田の背中をトントンと叩いた。

    ちょっとした違和感を抱きながらも、御前様のいう、新しい体制の中で、宮崎さんはどんな立ち位置になるのか、また宮崎さんのことが頭に浮かんだ。御前様が宮崎さんを部長として育てようとしているのも、その新しい体制のため、ってことなのかな。

    たびたび、私を不安にした、御前様が私と宮崎さんを離そうとしている感覚も、きっと杞憂なんだろうな。でも、根っこには、今大事な時だから、恋愛を持ち込むなって意図もありそうだけど。

    そんなことも、忙しさに追われるうちに忘れていて、特に何もないまま、季節は夏を迎えようとしていた。

    宮崎さんと私の関係も相変わらずで、福原が仕事できないと愚痴の電話がきたり、そうかと思えば、福原が頑張っているという報告のLINEがきたり、私は宮崎さんから連絡が来るたび、一喜一憂する毎日だった。

    夏の陣

    そんなある日、問題が勃発。

    新卒の安藤が、配属先のスクール長とうまくいっておらず、憔悴しているという情報が入った。高田が自分のエリアのスクールでの出来事だったので、人事部に来て、御前様と私に報告してきた。

    「ヒミコ、今からスクール行って様子みてきて。そして、新卒は一時間早上がりでしょ?そのあとにでも、安藤をご飯にでも連れてって、フォローしてちょうだい。私は、今日用があるから」

    御前様の指示のもと、私は、安藤のいる配属先へ向かった。報告にきた高田も一緒に出るかと思ったが、高田は人事部に残っていた。

    ま、いいや。

    安藤のいるスクールに行くと、スクール長である石田が怒号をあげていた。安藤が何度も同じ失敗をするからだそうだ。私が来たことに気づいた石田は、鼻息を荒くして、すごい足音で私のところに来た。

    「ヒミコさん!研修ちゃんとやってくれたんですか!」

    くっそ、どいつもこいつも、何でも研修担当の私に責任転嫁しやがって、現場でもちゃんと教えろよ!…と、宮崎さんに対しては思わなかったのに、石田に対してはイラっとしてしまった。でも、これが私の本音なんだよな。きっと。

    「やーりーまーしーた!!言わせてもらうけどね、研修したのは4月。今7月。現場に入れてからもう2ヶ月経ってんの。研修がどうのじゃなくて、OJTでやることでしょーが!」

    石田は私がかつて教育した社員で、几帳面できっちりしているのは良いが、融通が利かない男。入社した時から、教育係の私とも衝突する仲だ。でも、喧嘩できる仲でもあり、基本的に私たちは仲は良い。

    お互い軽口を言い合いながら、石田は機嫌を直し、私は安藤に手取り足取り教えた。泣きべそをかく安藤の肩に手を置きながら「大丈夫だよ」とささやいた。

    夕方。

    「ヒミコさん、宮崎さんから内線です」

    宮崎さんは、夜も連絡が多いけど、仕事中の電話も多い。一日、5回くらいは内線がくる。私がどこにいても。だから、御前様が宮崎さんのことを、”ヒミコの腰巾着”と呼ぶんだ。今日も例外なく、彼から内線が入り、私は少し浮かれてしまった。

    「ヒミコさん、さっき人事部に用があって行ったらいらっしゃらなかったんで、後藤さんに状況をお聞きしましたら、安藤さんのフォローに行かれていると聞いて、お願いがあって電話しました」

    「なんでしょう?」

    「その、安藤さんの終業後にフォローお食事会をされると聞いたので、もしよければ、うちの福原も行かせてもよろしいでしょうか」

    「あ、でも、今日は安藤さんの話を聞いてあげなきゃかな、と思ってるんで」

    「安藤さんの悩みを、うちの福原も聞いていて心配してるんです」

    ここまで言われて断ることもできず…。宮崎さんが連呼する「うちの福原」という言葉にも、私はザラっとした感情が生まれた。

    安藤の終業後、結局、福原もつれて、個室のある居酒屋に入った。

    「安藤さん、石田はやっぱり厳しいかな」

    「はい、怖いです!」

    「うんうん。そうだよね…。石田はさ、とにかく真面目で几帳面なんだよね。私も石田の教育係だったとき、上司なのに、石田に毎日怒られてたもん(笑)」

    「ええーー??そんなことってあるんですかぁ?!」

    安藤が元気になって、少しホッとする私。福原は、営業スマイルでいかにも「傾聴してます」って態度で話を聞いていた。うまい女だね。

    安藤は緊張が解けたのか、機関銃のように喋り倒し、一通り、話を聞いてもらうと満足した安藤。調子に乗って、石田のことを、「細かすぎなんですー!」とディスりだした。

    「まぁまぁ、気持ちはわかるが、これくらいにしとこ?」

    酔いもあって悪ノリし始めた安藤を私が制止している横で、福原はボソッとつぶやく。

    「石田さん、ネチ男なんですねw」

    安藤は大笑いして元気になった。私は、福原が普段かよわいウサギみたいにしてるくせに、根っこのところは、観察眼も毒も持っていると知り、少し震えた。

    「福原さんは、仕事でもなんでも、困ったことはない?」

    「私はすっごくお仕事楽しいです!宮崎さん、とっても優しいんで♡」

    この惚気はわざとなのか、天然なのか。ちょっとカマかけてみた。石田をネチ男と言うなら、宮崎のことだって神格化はしてないはず。

    「宮崎さんは、やさ男でしょ」

    「いえいえ、ほんとーに、すっごく優しいんで」

    なるほど、宮崎さんのことは線引きしているということか。福原の真意を探ったところで、不意をつかれた私。間髪いれずに彼女は爆弾投下してきた。

    「わたし、宮崎さんのこと、大好きなんです♡」

    これは…、上司として、人として、ってことにしておこうかな…。動揺を見せないように、私は満面の営業スマイルで返した。

    「それなら良かった!安心だわ」

    あくまで、仕事上の好意として受け取ったフリをしてあげる。福原が腹の中で何を考えてるのかわからないけど、確実に、私めがけてこの女はけん制してきた。乗るもんか。その挑発に。

    その夜、宮崎さんからまた電話がきたけど、何を話したかも覚えていない。

    ただ、「福原さん、宮崎さんがよくしてくれているって喜んでましたよ」と伝えると、宮崎さんが「そうなんですね」と甘い声で少し嬉しそうにしていたのだけは覚えてる。

    明日から、もう、彼からのLINEに即レスするのはやめよう。電話も気づかないようにしよう。

    ただの同僚に

    戻るんだ…。

    私はスマホを握ったまま、お風呂も入らずにそのまま寝落ちしていた。


    嵐は目の前に


    福原に、宣戦布告まがいの発言をされたけど、彼女は私の宮崎さんへの想いを知る由はない。

    そうか。

    あの内線の頻度。福原は、宮崎さんが私のことを好きなのだと思っている、ないし、仲が良すぎる、ってにらんでいるわけだ。悪い気はしない。でも、めんどうだな。両想いなら闘う気になっても、片思いの状態で、なんで、こんな無駄な敵意を頂かなくてはならないんだよ…。やれやれ。

    こんなモヤモヤを抱えながら、8月に入り、世の中は夏休みモードに入った。

    このころには、会議のあとのランチはたいてい、御前様が私と高田を連れてどこかしらに行くのが定番になっていた。気になるのは、たまに、御前様と高田が一緒に出勤してくること。高田のスクールに顔出してから来た、と言っているので、新しい体制とやらにむけて、御前様も現場巡りしているのだろう。

    私は、宮崎さんも例にもれず、会議のあとは福原をランチに連れて行っていることが気になって仕方がなかった。

    ある日、御前様が新しい物件の内見に行っていて会議を欠席した日。私はランチに行く相手がいなかったので、あたりを見回していた。そこに、ちょうど宮崎さんと福原が出かけようとしていたので、後ろから声をかけようとしたら、急に二人が小走りに急ぎはじめ、エレベーターのドアが閉まろうとしているタイミングで私と目が合ったのに、福原が閉めるを押したのか、ドアは再び開くことはなく、そのまま二人は消えてしまった。

    私は別にやましいことはないので、次のエレベーターで降りると、まだエントランスにいた二人は、なぜか私の姿をみると、非常口から出て行ってしまった。

    避けられてる?


    その夜、宮崎さんからのLINEは無視した。既読もつけない。早めに寝たことにして、朝に「気づきませんでした」って送ればいい。


    LINEの通知が、ブンブン鳴る。


    でも、今日はスマホは見ない。

    私は布団をかぶって必死に寝ようとした。やっとまどろんで、眠りにつこうとした時。しつこいくらい長い着信音が鳴った。


    宮崎さんだ。


    「どうしてLINE見てくれないんですか」

    一声目がそれかよ?彼氏じゃないんだから。

    「今日はもう疲れて、寝ちゃってました」

    「あ…、すみません…」

    「でも、こんなこと、今までなかったじゃないですか。どうしたんですか」

    私、恋愛なんて得意じゃない。だから、駆け引きとかも向いてない。私は福原みたいに、うまく立ち回ることも、相手を気持ちよくさせるあざとさも持ってないんだ。

    「もう、私と連絡なんて取らなくたって、宮崎さんには福原さんがいるじゃないですか。そっちに連絡してくださいよ」

    「なんで、そんなこと言うんですか?今までずっと、ヒミコさんに、福原に困ってるって相談してましたよね?なんで俺が、仕事明けてまで、福原と連絡取らなきゃいけないんですか」

    「だって、二人でこそこそ、私を置き去りにしてまで、非常口使ってまで、一緒にいたかったわけじゃないですか」

    もう、全部言ってやる。めんどくさいんだよ、もう。

    宮崎さんは、「やっぱり」と急に冷静になった。

    「ヒミコさん、誤解しないでくださいよ。あれは、福原が全部主導でやったんです。だから、なんでヒミコさん避けるの?って言ってやりましたよ」

    こんなんで、私が納得すると思ってたんだ…。エレベーターは仕方ないとして、エントランスで待つとか、非常口に連れていかれそうになっても、福原を止めることくらいできたはずだ。

    「で、福原さんは、なんて答えたんですか?」

    「……」

    急に無言になる宮崎さん。

    ほらね。こういう男なんだよ。自分にもやましいことがあるのに、福原だけのせいにしてさ。もうやめよ、やめよ、こんな男。

    「『邪魔されたくない』って言われました」

    「で、それに応えてあげたってことですね。私が”邪魔”だという、要望に」

    「ち、ちがいますよ!腕を引っ張られたんです。強く」

    これ以上、この人から何か気の利いたことを言ってもらおうとするのは時間の無駄だ。私は、それで納得したフリをした。「わかりました」と気の抜けた答えとともに。

    「ね、だからね、ヒミコさん!」

    急に語気が荒くなる、宮崎さん。
    少し沈黙。



    「俺のこと、無視しないで」


    「今まで通り、俺と連絡とってください」



    あーーーー…、この男も大概だけど、私も甘っちょろいな…。
    宮崎さんの甘い声、甘えたセリフに、もう惑わされないと決めたのに、また、フェロモンが先に噴き出てしまった。

    「…はい」

    「ぜったい、ぜったいですよ!」

    「俺、LINE無視されて、どうにかなるかと思ったんだから」

    これ、両思いだと思っていいかな。どうする?告る?
    でも、ここまで言うんなら、宮崎さんが私に告るべきじゃない?

    「もう、無視はしませんけど…」

    「けど、何?」

    これ、今、チャンスだよね。言うべきじゃない?気持ち。


    「いえ、宮崎さんはどう思ってるのかなって」


    ああ、馬鹿。私。この男とやってること一緒なんだよ。自分から言えないから、相手から言わせたいんだ。


    「好きですよ」


    え??えーーー??ついに??ついに??


    「ヒミコさんのこと、尊敬してるって言ったじゃないですか。だから、無視されたら辛いです」


    ん?あれ?仕事仲間としてってこと??


    「あ、そ、そうですよね。ごめんなさい。仕事、やりずらいですよね、ほんと」

    何をやってるんだか…。

    でも、でも、距離を詰められなくても、これだけは言っておきたい。

    「もう、福原さんと必要以上に距離縮めないでください。食事も一緒に行く必要ないんです」

    「でも、すぐ泣くから、彼女が会社辞めるなんて言い出したら、俺の責任になりますよね」

    ちっさ!ちっさい男だった!
    全開だったフェロモンは、急に引っ込んだ。

    「それは事情によりけりでしょう。宮崎さんは何も落ち度がないんですから、堂々としていればいいんです。逆に、今みたいに、仕事とプライベートの境界が曖昧な距離感は危険だと思いますよ。彼女、はっきりと言ってましたから『宮崎さんのことが好きです』って。サリーの二の舞踏まないように気を付けてくださいね」

    一気に言った。言ってやった。なんなら、福原の告りも伝えてやった。これ余計だった気がするけど。

    「福原が俺を『好き』って…。あの『好き』ですか?」

    そこ?

    「それ以外、何があるんですか」

    「じゃあ、俺とデートしたり、付き合ったりしたいってこと?」

    前に彼氏が、宮崎さんのことを「自分のことしか好きじゃない」って言った意味が良く分かった気がした。

    「そーです、そーです!だったら何だって言うんですか。気持ちに応えるつもりですか?」

    「勘弁してくださいよ。それはないです。本当に」


    そして、私の気持ちに終止符を打たれる一言が投下された。


    「俺は、誰とも付き合う気はないんで」


    そのあと、何を話したのかはわからない。
    私は今まで、彼のなんだったんだろう。お母さんか何かだったのかな。そっか、こんなに甘えても、フェロモン攻撃しなかった私は、「安全な女」として「好き」だったんだな。

    これ以上話していると泣きそうになったので、電話を早々に切り上げた。

    私は宮崎さんの何を見ていたんだろう。

    私は、フェロモンを消すことに必死で、本当に大事なものを見失っていたのかもしれない。

    愕然とした夏。

    ついに、恋愛大波乱が起きる。

    次回に続く。


    【他のお話】


    #創作大賞2026#エンタメ原作部門#お仕事小説部門




     
     
    youtube漫画動画の漫画起こしを5年ほどしていました。 AI生成イラスト研究中。 漫画配信していきたいところですが、 なかなか制作時間がないので、 小説やプロットで配信したり、 時にイラストでコラム描いたりします♪

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