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フェロモン感知課長ヒミコ「貴女、香ってますよ」|第9話『お前はもう詰んでいる―水面下の舞』

    前回のお話

    宮崎さんとの電話のあと、眠れなくなって、結局布団の中で朝まで覚醒していた。寝不足の頭は、健全には働かず、いかにして福原を干すか、綿密な計画を立てていた。

    クマだらけの顔で、変な汗をかいていて、一度シャワーを浴びた。

    少しスッキリした。

    その日は面接も入っていないので、午後出勤だった。

    仮眠を取ることにした。

    コールタールの中にドボンと入れられたように、真っ暗な世界に、深く痛みを伴いながら沈んだ。

    一時間で目が覚めて、今一度気持ちを整理した。

    変わらない。


    焦らず、確実に、丁寧に、冷静さをもって、私は動くと決めた。


    出勤途中の電車でスマホをみると、安藤からLINE。

    「ヒミコさん、今週土曜、あ、明日か、夜空いてます?」

    新卒発表会の一件から、安藤とは飲み友になっていた。
    飲みの誘いだ。

    何か情報が得られるかもと思い、私は快諾した。

    土曜の夜。安藤と待ち合わせして、個室のあるオシャレな居酒屋に入った。私にしか話せないことらしい。

    「ヒミコさん、ヒミコさんって付き合ってる人いますかぁ?」

    「紹介待ち(笑)」

    「ウケるぅ~www!なんかいい合コンあったら紹介しますね♡」

    安藤、若いな。このノリに少し癒された。

    「で、で、聞いてください。これ、ほんっとーに!誰にも言わないでくださいよ??ぜったいに!!」

    「わかった」

    あまりにヤバい話だったら御前様に黙ってるのは難しいなと思いながらも、とりあえず聞くことにした。

    「私ぃ、川本さんと付き合っててぇ」

    う…。また社内恋愛…。さすがカルメン、肉食すぎるだろ。

    川本というのは、若手社員で、社内でもイケメンで通ってる。あまりにも女っ気がないなと思っていたら、ちゃっかり、やることやってんのね。

    「でも、喧嘩ばっかりで、フラれちゃったんです」

    早っ!入社してまだ半年しか経ってないのに、付き合って、もう別れてんのかよ(笑)

    「なんか、川本さん的に、私の会いたい攻撃が気に入らないらしくって」

    「どれくらいのレベルなの、それ」

    「うーん。LINEで即レスないと『寂しい』『大好き』って5回くらい入れます(笑)あと、仕事帰りに、付き合いたての時は、毎晩うちに来てくれたんですよ?でも、だんだん疲れたとか言って、来なくなって、『会いたい』ってLINEしまくったら、怒られました、てゆうかフラれましたw」

    そ、それは、フラれるかも…。

    「そもそもさ、川本はさ、もともと女っ気ない硬派なわけ。顔がイケメンすぎて女は寄ってくるけどな?でもさ、本人は仕事と趣味のバイクにしか興味ないんだからさ」

    私が川本のキャラについて考えろと安藤にアドバイスしてる途中。

    「いえ、ヒミコさん。違うんです。あの男」

    「へ?」

    「あの男は、下半身で生きてます!」

    「何それwww」

    久々にビール吹いた。川本が?ま、顔がいいから、ヤろうと思えば、いくらでもできるわな。でも、あいつは仕事とバイクを愛する…

    「実は、付き合いたての時、あまりにも激しくて、朝までずっとの時もあったし、一回、疲れたって言って、家に入れなかったことあったんです。その時から距離おかれ始めちゃって。それで『会いたい』攻撃したら、来たんですね。で、話も聞かないで、下半身の処理だけして帰っていきました」

    「クソ野郎じゃん」

    「そうなんです、クソ野郎なんです!でも、好きだから、会いたいんですよ~。でも、毎回、処理だけなのが嫌で、何もしないで一緒に寝てほしい、って泣きながら言ったら、フラれました」

    「クソ野郎、しか出てこないんだが」

    「はい。クソ野郎です」

    マジか…。フェロ女にばっか気を取られてたけど、フェロ男も存在するわな。そりゃ。しかし、川本がそんなに絶倫だったら、安藤と付き合う前はどうしてたんだろ。気になっていると、安藤は別のカミングアウトも。

    「それでですね。それを、長澤に相談してたんです」

    「まぁ、きみたち仲いいしね」

    「そしたら、長澤が最近、私を避けるようになったから、気になって、ランチ誘って話したんです」

    オチがわかってしまった…。
    めんどくさいことになったな。

    「長澤に泣きながら、『川本さんのこと好きになった』って言われて」

    ビンゴ。
    だけど、あれ?
    長澤ってここ最近付き合いだした彼氏いるとかなんとか聞いたけど…うわぁ…。最悪。

    「すっごいムカついたけど、長澤と喧嘩したくないし、まぁいちおう話してくれたし、でも悔しいから、川本さんがクソ野郎ってことは伝えておきました!」

    そっか、安藤は、長澤と川本がつき合ってること知らないんだ。
    いや、あくまで私の推測だから、長澤の彼氏がまだ川本かどうかはわからんが…。

    「ムカつきません??ヒミコさん!!」

    「ムカつくねぇ。でも、これを機にクソ野郎と縁切りな。連絡もしない。家にも入れない。ね?」

    「ふぁい…」

    ほんとに大丈夫か?この子は…。
    しかし長澤も心配だな。

    「ね、誰にも言うつもりはないけど、あんまりにも社内ひっかき回すようだと、私もこれ個人の話として聞けないわけ。安藤と私は飲み仲間で仲良しだけど、あくまで、私は役職のある人間。それはプライベートでも変わらないわけ。役職のある人間に、こういう話をした、ということには責任が伴うわけよ」

    「はい」

    安藤が急にしゅんとする。

    「問題に発展しそうだと判断したら、もちろん安藤のプライバシーは守るから、川本にそれなりの対処してもいいかな。その時は御前様にも当然話すことになると思う」

    「大丈夫です!むしろ、やっつけちゃってください」

    「え?秘密じゃないの?」

    「話してスッキリしたんで♡」

    安藤、こいつも大概な女だな。でもよかった。
    スッキリした安藤が、急に福原の話を出す。

    「宮崎さんって、福原のこと好きですよねw?福原にいっつもご飯奢ってあげてるらしいですよ。いいなぁ、大人の男ぉ」

    「それって、福原、みんなに言いまわってるの?」

    「いえ、福原は、織田の家にもよく遊びに行ってるんですよ。もちろん同期の集まりで、ですけどね?その時に話すんで、同期しか知らないです」

    ふぅん。そういうことになってるんだ。
    さすがにこれは福原の吹聴だとわかる。
    いくら嫉妬に狂った私でも。

    「で、福原はどういう風にその話するわけ?」

    「えっとぉ、宮崎さんがすごく優しくて、いつも勤務中に背中をさすってくれる、とか、ご飯もしょちゅう奢ってくれて、尽くしてくれる、みたいな。それで、織田はともかくとして、他の男子二人が、『俺も奢ってあげるし、悩み聞くよ』とか競いだしたりして、絶対、福原それ誘導してますよねw」

    「なるほどね」

    どうするのが正解か。悩んだけど、私は容赦しないと決めた。悪手かもしれないけど、地雷は置いておこう。

    「これ、福原には言わないでほしいんだけど…」

    「え?なんですか」

    釣れた。

    「実は、毎晩、宮崎さんから電話きてて」

    「え?ヒミコさんにですか?」

    「…うん。というのもね、困ってるって」

    「なにがですか??」

    そう、焦らして焦らして、関心がマックスになったところで、釣り上げるからね。

    「うーん。これ、言っていいのかな。ほんと、ここだけの話にできる?」

    「はい、約束は守ります!こんなキャラだけど、口は堅いんで!」

    怪しいけどw
    でも、むしろ拡散して、いいんだよ、安藤。
    秘密を「ここだけの話」って話すのって、快感でしょ。

    「福原が、仕事中に泣くんだって。その対応で一時間取られることもあったみたいで。それで、少しでも慣れてもらえるように、食事しながら話をきいてあげたみたいで。背中さすったっていうのは、「気持ち悪い」って福原が吐きそうになったことがあって、事務さんが汚物袋を福原と一緒にもって、事務さんの指示で宮崎さんが背中をさすっただけなんだよね」

    この話は本当だ。宮崎さんの毎晩の報告で聞いてたから。バックハグの印象がすごすぎて忘れてたけど。

    「なにそれーーー!やばくないすか、福原」

    そう、その調子だ、安藤。

    「宮崎さんも心配してて。勤務中に泣くことも多いし、気持ち悪いって体調崩すことも多いし、結局吐いたことはないんだけど、しょちゅうそんなことあっても困るよね。だから、新卒のみんなで集まって話す機会があるなら安心した。ほかにもなんか、福原が悩んでるとか、困ってることとか聞いてない?」

    「えーー、それ仮病じゃないですか??だって福原、普通に元気ですよ?シェアハウスにイケメンがいるって自慢してたこともあったし、織田以外の男子新卒はべらして、肩もみとかさせてましたし」

    すげーな、福原。
    あっぱれだよ。
    でも、これでわかった。

    容赦しなくて大丈夫ってことがね。

    「うーーん。でも、スクールに来ると具合悪くなったり悲しくなるっていうのは、仕事で悩んでたりするんじゃないかな」

    私がカマをかけると、安藤が何かを思い出した。

    「あ!そういえば、夏のDMのシーズンに、画像処理とか?なんかの作業が多くて辛い、ついていけない、納期納期って言われて目が回るって愚痴ってました!」

    よしきた!
    材料がそろった。
    思いがけぬ、安藤との飲み会。
    まるで棚ぼたのような収穫があった。

    「ありがとう、安藤。福原のこと、心配だから、気を付けて見ておくね。もしまた、福原が何か困ってそうだったり、辛そうだったら教えて」

    「それより、宮崎さんの方が心配ですーー。ハゲちゃったらどうしよう~」

    「はは!まぁ、安藤はとにかく、新しい出会いを見つけること。川本のことは無視。長澤は放っておく。川本のことも注意して見ておくから。教えてくれてありがと。安藤も何かあったら、すぐ言うんだよ」

    「もう言ってます♡」

    「たしかにw」

    安藤のおかげで、次の手を得た私。
    発動、するぞっと。

    そうはいっても。
    急いては事をし損じるからね。

    私は週明け、宮崎さんがいない午前中に、広報部の事務さんに電話を入れた。今の状況は、宮崎さんより事務さんの方が、目に余る思いを抱えているだろうから。

    「お久しぶりですー、日野ですー」

    事務さんは久々の私からの電話に喜んでいた。
    私からの電話は、いつも宮崎さんがとってたから。

    広報部にいた頃、よく事務さんと二人で、宮崎さんをからかったりして、楽しんでたな。懐かしい。あの頃は幸せだった。

    「まだ、宮崎さん出勤してないんですよー」

    「いいんです、全然。それより、実はお願いがありまして。福原さんの同期から、福原さんが仕事で悩んでるって聞きまして、こないだ宮崎さんからも、よく勤務中に泣いたり、具合を悪くして吐きそうになったり、と聞いたので、ご様子お伺いしたくて」

    「はい、そのとおりです。福原さん、ちょっとしたことで泣いてしまうんですよ。だから、仕事もなかなか振れなくて、宮崎さんとても困ってました」

    「なんか、夏のDMの作業が大変すぎて、しんどいって聞きましたけど」

    「はい、宮崎さん、倒れそうでした。福原さんに頼める仕事も少ないですし、泣かれると何時間も対応しなきゃいけなくなりますし、それで仕事がストップしてしまうので…」

    なるほど…。思ったより宮崎さんと広報部の状況の方が深刻だった。

    私は、福原が大変なのでは?という意味で聞いたのに、事務さんからみたら、福原は仕事もせずに邪魔ばかりしてるってことか。

    「それは困りましたね。その件は、宮崎さんとまた相談してみますね。で、私がお願いしたかったのは、福原さんがまた体調崩されるようなことがあったら、人事部にすぐご連絡いただきたいんです。そんなに頻繁に体調崩されてるのなら、会社としてもケアしていかなくてはならないので、できれば、ほんの些細なことでも、すぐ知らせてください。産業医を手配することも検討しますので」

    私がそういうと、事務さんは全て悟ったような口調で、「承知しました!」とわかってくれた。

    さて、次。

    御前様に連絡。

    「すみません、報告です。週末に安藤に相談を持ちかけられて、新卒同士で少しもめているようなんです。それで、関係してる子たちに事情聴取したいんで、今日は遅めの出勤でいいですか」

    「なに、なによ、もめてるって」

    「男がらみですね。川本、あいつ注意した方がいいです」

    私は、安藤からの相談を全て御前様に話をした。この件は、御前様の方で処理してもらえばよい。福原と宮崎さんのことは一切触れなかった。

    「わかった。どうしようかな、長澤の話も聞いてもらった方がいいな。高田とヒミコで長澤と話してくれる?本社は今日、お客さんがくるから、ヒミコがスクール行って。高田には私から話しておく」

    よし、予定通りだ。今日、本社にお客様がくることはわかっていた。安藤や川本、長澤の件は本来、まだ据え置きでも良かった。ただ、今日は遅めに出勤しなくてはならない理由があった。その時間に、私が本社にいてはいけない理由が。

    そして、私が想像したより、美味しい展開に事は進んだ。

    高田と一緒に長澤と話が終わった後、内線で、御前様から私宛に電話。

    「ヒミコ。福原のこと聞いた?」

    「ええ、安藤から聞いて心配になったんで、もし福原の様子に不安があったら、『人事部』に連絡がほしいと事務さんに伝えていました」

    「聞いた。完璧な対応よ。でさ、早速、福原が今日、体調不良で病院行くから遅刻するって連絡があったって、事務さんから今聞いたのよ。その程度でなんでわざわざと思ったら、今までの福原の状況やヒミコが動いてくれたこと聞いたのね。私、あと15分で銀行の人来るから、何もできないから…」

    「ヒミコ、関と一緒に広報部行ってきて!」

    よっしゃーー!!
    こんなに簡単に事が運ぶとはね。

    長澤と川本の件は、高田に全て任せることにした。
    話を聞いたところ、今のところ何かトラブルに発展する様子もなく、川本との関係は少しにごしていたが認めた。

    さて、広報部へ、いざ出陣。

    …の予定だけど、関に電話。

    「関さん、すみません。私、スクールに財布を忘れてきてしまって、電車に乗れないので、先に広報部に行って、お話進めてて頂いて良いですか?申し訳ありません!!」

    関は快諾し、先に広報部に行ってもらった。

    そして、私はわざと忘れた財布を取りに行った。

    私が広報部に到着した時には、すでに関が、宮崎さんと遅刻してきた福原から話を聞いていた。

    「すみません、遅くなりました、ハァハァ!」

    わざと息を切らせて合流した。

    「あ、もうお話終わってましたか?すみません、じゃあ、あとで関さんから伺えば良いですかね」

    すると福原が、いつにない恐ろしい形相で私を見て言った。

    「ヒミコさんが、言ったんですか?」

    「何を」

    私も負けじと上から冷たく見下ろしてやった。

    「私が体調悪いことです」

    「誰に」

    「後藤さんに」

    「それが問題でも?」

    「私は毎日体調悪いわけじゃないんです。元気です。普段は」

    「それはあなただけが判断することじゃありません。一緒に働く宮崎さん、事務さんから見てどうなのか、それが職場の仲間と働くということです」

    私が淡々と怒りをぶつけながら話しているのを、少しきまずそうに関が止めた。

    「いや、後藤に言ったのはヒミコじゃないからね?事務さんが心配して、人事部に相談してくれたって言ったじゃん、俺。ヒミコもちゃんと事実を伝えずに喧嘩腰に話するな、まず座れ」

    関が良い働きをして、福原はふてくされていたが、「私が」仕組んだことではない、ということをわからせることはできた。
    ふふふ、ここまで、仕組んだんだけどね、実際は。

    結局のところ、そのあと私が一言も発することなく、福原の休養が決まり、1週間、有給を取らせることに。その間、彼女の人事異動も検討する旨が関から言い渡された。

    福原は泣き出した。

    「私は、広報部にいたいです!体調が悪いのは、そう、女性ホルモンの関係で、実は通院もしていて。広報部だから今まで頑張れたので、スクール勤務になると、もっと状態が悪化すると思うんです」

    関と私は顔を見合わせた。

    宮崎さんが、まさかの一言。

    「聞いてた話と違うな。女性特有の事情なら、男性社員である俺に話しにくかったかもしれないけど、君は事務さんにも、胃が痛い、精神的な問題かもって相談してたよな。それで通院を勧めたのは俺だったはずだけど」

    マジ?
    宮崎さんが、動いてくれてたの?
    じゃあ、私1人で動かしてたと思ってたこの流れも、宮崎さんも同時に動かしてくれていたってこと?
    このタイミングの良すぎる、福原の通院と遅刻は、宮崎さんのおかげだったんだ…。
    やばい、泣く。
    宮崎さんの顔見れない。

    そして、宮崎さんはさらに一手を打つ。

    「関さん。ここまで症状が続いているなら、産業医の先生に診てもらった方がいいと思います。手配できますか」

    関は、すごく納得した反応で「そうしよう」と言って、その場で御前様に電話をし、話を通した。

    私が事務さんに「産業医」という言葉を出した、そのバトンを、宮崎さんはしっかり受け取っていた。
    阿吽の呼吸かと思うくらい、胸が高鳴った。
    かつて、宮崎さんが教育係で私の上司だった時や、広報部で一緒に仕事をしてた時のことを思い出した。
    彼はいつも、私の発信を上手に使ってくれる上司だった。


    シナリオは最高の方向に進んだ。

    私の手を下さずして、状況がどんどん福原を追い込んでいく。


    さて、ここまでは順調だ。
    でも、まだ油断してはいけない。

    勝って兜の緒を締める、だ。

    福原を帰宅させたあと、宮崎さんは憑き物が取れたような顔で、私と関にお礼を言った。事務さんも、「ずっとヒミコさんに相談したかったんです」と言った。

    関がいたので、宮崎さんとゆっくり話ができなかったけど、私は宮崎さんに深々と頭を下げた。


    宮崎さんは何か言いたげだったが、凛とした表情で、「人事部の”英断”に、広報部は従います」と言った。

    ”英断”という言葉に、彼の強い意志を感じた。

    どうして急に、彼はかつての強さを取り戻したんだろう。
    そもそも、彼の牙が取れたのはいつからだったのか。
    サリーか。
    あそこで陥れられ、表向きは昇格の形になったとはいえ、実際は左遷。
    あれが効いていたのか。

    私は福原ばかり見ていた。
    一番疲弊していたのは宮崎さんだったのか。

    「好き」とか呑気な感情でフェロモンまでだして、大事なことが見えてなかった。こんな自分、福原と何が違うんだろ。悔しいな。


    福原にカウントダウンが迫っていた。

    一方、銀行との打ち合わせを終えた御前様は、また一層疲れた様子で、ソファに倒れるように横たわっていた。

    「お疲れさまです」

    「…。ヒミコぉ、どうだったぁ?」

    「全て順調にいきました。関さんが進めてくださり、後藤さんの指示もあったとのことで、ありがとうございました」

    「ふふふ。ヒーちゃんも、悪い女になったねぇ(笑)」

    ソファに寝そべったまま、御前様は私に優しく笑いかける。
    御前様、全てお見通しでしたか。

    「私は何もしてませんよ?何も」

    「そうね、ヒーちゃんは、何もしてない。そこがあなたの、ワルいところ♡褒めてんのよ!」

    「ありがとうございます」

    そして、御前様は急にソファから立ち上がって私に言った。

    「私、離婚することになったのよ」

    「え?」

    「やっと、ね」

    「え?」

    「ずっと不仲でさ~。色々あって離婚できなかったんだけど、やっと、片付いた、というか」

    「じゃあ」

    「うーん。それはわからない。だからって、高田にダイブするってほど、単純じゃないのよね、状況は」

    御前様の抱える状況がいまいち把握はできなかったが、どこか寂し気だった。いまにも消えてしまいそうな御前様に、ふと、口がすべった。

    「後藤さん、ずっと、いてくださいますよね?」

    御前様は何も言わずにニッコリわらった。
    西日が後ろから差して後光のように御前様を照らし、その姿は神々しくもあり、どこか消えてしまいそうにも見えた。

    ふと、応接室の机の上に置かれた書類が目に入る。

    見慣れた会社の様式。

    一番上の文字だけが視界に飛び込んできた。

    『辞令』

    その下に書かれた名前を見て、

    私は息を止めた。

    次回に続く


    【他のお話】



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    youtube漫画動画の漫画起こしを5年ほどしていました。 AI生成イラスト研究中。 漫画配信していきたいところですが、 なかなか制作時間がないので、 小説やプロットで配信したり、 時にイラストでコラム描いたりします♪

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