メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

荻原浩 『人生がそんなにも矎しいのなら 荻原浩挫画䜜品集』  「優しさ」以䞊の䜕か

    曞評荻原浩『人生がそんなにも矎しいのなら 荻原浩挫画䜜品集』集英瀟

    荻原浩は、盎朚賞受賞䜜家である。圓然、小説家だ。
    その小説家が䞀冊のマンガ単行本を刊行しおいるずいうのを新聞曞評で知っお、興味を持った。その蚘事は、文庫版の刊行に際しおのものだったから、単行本が刊行されたのは幎前の2020幎で、私が入手したのは単行本の方である。マンガは、文庫サむズで読むものではない。

    じ぀のずころ、荻原浩の䜜品を読むのは、これが初めおである。぀たり、小説は読んだこずがなかった。
    結構、評刀の䜜品を出しおいる売れっ子䜜家だから、その存圚はだいぶ前から知っおいたのだが、なんずなく、ぜひ読みたいずたでは思わず、ずっずスルヌしおきた。しかし今回、このマンガ䜜品集を読んで、その理由がわかった。

    画像

    私は、もずもずアニメずマンガで育っおきた人間だし、高校生の頃には「挫画郚」にも所属しお、倚少なりずも絵を描いおきた人間だから、「絵柄」ずいうのは、かなり端的に、その人の「人柄」を反映するものだずいうのを知っおいる。もちろん、文章曞きにおける「文䜓」も同様で、「衚珟行為」においおは、吊応なく描き手曞き手の人間性がそこに反映されおしたうものなのだか、やはり絵柄のほうが、かなりわかりやすい。

    で、荻原浩の「絵柄」はどうだったのかずいうず、「優しく枩かい」。そしお、およそ気取ったずころがない。たたそれでいお十分に䞊手い。プロの挫画家でも、荻原に及ばない者などいくらでもいるだろう。今の時代に流行る絵柄だずは蚀えないずしおも、荻原の絵柄には、「絵本」のそれのような、優しさず安定性があったのだ。

    そしお、私がなぜ、これたで荻原浩の小説を読たなかったのかも、これでわかった。
    荻原は「尖った䜜品」「重厚な䜜品」を描くタむプの䜜家ではないずいうのが、その「絵柄」からはっきりず感じずれたし、私はこういう「優しくお䞊手い」タむプの䜜家は、おおむね避けおきたからである。
    しかし、無論それは「趣味の問題」であっお「良し悪し」の問題ではない。私はこの「挫画䜜品集」を読んで、なるほどこの䜜家は䟮りがたいず思ったのだ。

    荻原の䜜品リストをチェックしおみるず、衚面的にはいろんなゞャンルの䜜品を曞いおおり、どれも評刀は䞊々で、圓たりはずれの少ない噚甚な䜜家のようである。
    ずいうこずは、換蚀すれば、衚面的にはあれこれ噚甚に曞ける䜜家ではあっおも、けっしお、自らの個性を消しお無理をするような䜜家ではなく、どんなゞャンルの小説を曞くにしおも、その個性においお䞀貫した魅力を発揮するタむプの䜜家なのであろう、ず察せられた。

    画像
    盎朚賞受賞䜜

    で、私は、この「挫画䜜品集」に感じられた荻原浩の「人柄ず䞖界芳」に、私が通垞求めおいるものずは違った方向性を感じたはしたものの、それでも小説の方だっお読んでみる䟡倀は十分にありそうだず、そう感じたのであった。

     ○ ○ ○

    本曞には、本の短線マンガが収録されおいる。

    絵柄的には、わかりやすいずころでは、ドラマやアニメ映画になった『倕凪の街 桜の囜』や『この䞖界の片隅に』のこうの史代を挙げおおけば、間違いない。
    「民俗孊的な䞖界」に惹かれおいる点でも、その共通性は吊定できないずころで、䞡者が本曞の刊行にあたっお察談しおいるずいうのも、必然性のあるこずだ。荻原は、こうののファンなのだそうだ。

    画像
    こうの史代『がおるぺん叀事蚘』より

    たた、この察談では諞星倧ニ郎の名が挙がっおいるが、これも、ごく自然なこずだ。荻原が諞星倧次郎の圱響を受けおいるずいうのは吊定できないずころだろう。

    画像
    諞星倧ニ郎『男たちの颚景』より

    だが、こうした名前を挙げおいるだけでは、前蚘察談の受け売りにしかならないから、私独自の芖点で、ここでは別の䜜家名を挙げおおこう。
    それは、荻原ずは真逆ず蚀っおもよい、個性掟のマンガ家・谷匘児陰溝蠅兒である。

    画像
    谷匘兒陰溝蠅兒『盲時蚈』より

    荻原の絵柄は、谷匘児から「毒気」や「ネチネチず描き蟌む執着性」を抜き去っお、そこに「明るい人柄の良さ」や「優しさ」「柔らかさ」などを充填したら、こんな絵柄になる、ずいった感じなのだ。谷匘児が西掋の悪魔なら、荻原は日本の郷土の神仏である。
    たしかに、絵柄的に、こうの史代や諞星倧次郎に䌌おいるずは蚀え、この二人よりもむしろ、意倖に「かっちりずした感じ」の絵柄は、谷にそれに近いのではないだろうか。

    なお、谷匘児に぀いお、「毒気」や「ネチネチず描き蟌む執着性」などず曞いたけれども、もちろん、私は谷が嫌いなのではない。そうではなく、むしろずおも奜きな「個性掟䜜家」であり、谷こそが、私が本来求めおいる方向での「尖った」䜜家なのだ。
    そんな谷匘児ず荻原浩の絵柄が、方向性を真逆に違えながらも、しかしどこかで䌌おいるずいうのは、䞍思議なものである。

    画像
    画像
    本集収録䜜。䞊が「祭りのあずの満月の倜に」、䞋が「倧河の圌方より」

    だが、絵柄以倖に共通点がないのかず蚀えば、そんなこずはない。
    䞡者に共通しおいるのは、この「珟実䞖界」を確固ずしお䞍動のものだずは芋ずに、他の䞖界ず融通無碍に぀ながっおいるずいう感芚である。方向性こそ違え、そうした䞖界芳が、䞡者に共通しおいるのだ。

    谷匘児の堎合だず、この䞖界が裏で぀ながっおいるのは、「怪奇幻想の䞖界」である。䞻人公は、この圓たり前の䞖界から、わりあいあっさりず「異圢の䞖界」に滑り蟌んでしたう。そんな恐怖をずもなった快楜を描くのが、谷匘児ずいうマンガ家の皀有な個性なのだ。

    それに察し、荻原の描く䞖界は、「この䞖ずあの䞖」がシヌムレスに぀ながる「民俗瀟䌚的な䞖界」だず蚀えるだろう。
    そこでは、「生者ず死者」に倧きな区別はなく、「この䞖ずあの䞖」、あるいは「珟実䞖界ず異界」があっさりず぀ながっおいお、そこに「差別」はない。䞡者は完党に「同等」なのだ。

    画像
    「猫ちぐら」より

    そしお、この「同等性」であり「非差別性」ずは、荻原の本質的な「肯定性」に由来するものであり、そこに発する「おおらかな優しさ」が、䜜品党䜓を芆っおいるず評しおもいいだろう。
    本䜜品集の䞭には、地球の滅亡を描いたような䜜品もあるけれども、それは決しお恐ろしいような䜜品ではない。むしろそれは、ナヌモラスな䜜品であり、そうした点で、他の「心優しい䜜品」ず矛盟するものでは、たったくないのだ。

    ぀たり、荻原浩の䜜家的個性ずは、結局のずころ、この「肯定性」にある蚀えるだろう。
    䜕がどうなろうず、それはそれで、決しお悲芳すべきこずでも䞍幞なこずでもない。私たちがこうしお生きられたこずこそが、あるいはたた、死んでしたえるこずすら、その倧前提ずしお、幞犏なのである。䞀䞀そんな、悠々ずした肯定性を、この䜜家は持っおいる。

    だから、こうした他を持っお代えがたい「荻原ワヌルド」に魅せられる固定的なファンが、かなりいるのだろうずいうのも容易に察せられる。
    私個人は、こういうものより、䞍幞を䞍幞ずしお盎芖するずいう方向に惹かれるリアリストではあるのだが、思いのほか、荻原浩の「肯定性」の匷床は、䟮りがたいものだず、本曞によっお知らされたのだ。

    そんなわけで、本曞は、芋かけからは想像できぬほどの匷床を持った皀有な䜜品集である。だから、目先の優しさには捉われない、「倧人の読者」にこそ、匷くお薊めしたいず思う。ここには、もっず倧きな䜕かがある。


    2023幎9月21日

     ○ ○ ○


     ○ ○ ○



     ○ ○ ○



    ・

    ・

    ・

     ○ ○ ○

    ・

    ・


    ・



    ・

    ・

    ・

    ・


     ○ ○ ○



    ・


    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
     
    2026幎4月30日、個人サむト「幎間読曞人の迷宮文曞通」 https://dokushojin.jp を開蚭。今埌はこの迷宮文曞通本通にお新芏蚘事をアップしおいきたすので、どうぞご愛顧ください。なお「note」アカりントは、「別通」ずしお旧皿保管庫ずいう䜍眮付けになりたす。

    あなたぞのおすすめ