
第15話 「探しもの」
橋の下には、 草が生えている。
春が終わりかけているせいか、 背丈の高いものも増えていた。
虫がいる。
鳥もいる。
時々、 人間もいる。
それぞれ勝手に生きている。
あたしもそうだ。
たぶん。
ある日のことだった。
橋のたもとで、 見慣れない匂いがした。
猫だった。
小さい。
まだ若い。
黒でも白でもない、 曖昧な色をしていた。
向こうも気付いたらしい。
一度だけ目が合う。
それから、 草むらへ消えた。
別に珍しくない。
猫なんて、 どこにでもいる。
次の日。
また見かけた。
今度は橋の下で、 虫を追いかけていた。
下手だった。
飛びついては逃げられる。
また飛びつく。
また逃げられる。
見ていて少し飽きた。
だから、 あたしは昼寝をした。
数日そんなことが続いた。
ある日。
少女が橋へ来た。
欄干にもたれて、 川を見ている。
「あの子?」
少女が橋の下を見た。
小さい猫もいた。
どうやら、 見つかったらしい。
「小さいね」
それだけ言った。
あたしは返事をしない。
猫だから。
少女も別に気にしない。
しばらく川を眺めて、 帰っていった。
夕方だった。
風が吹いていた。
それだけの日だった。
翌日。
小さい猫はいなかった。
別に珍しくない。
猫なんて、 気まぐれだ。
次の日も。
その次の日も。
見かけなかった。
あたしは橋の下を歩いた。
草むらを覗く。
空き地へ行く。
誰もいない。
別に探しているわけじゃない。
ただ、 たまたまだ。
そういう道順だっただけだ。
人間なら、 もっと上手な嘘をつくだろう。
でも。
橋へ戻る途中で、 気付いてしまった。
あたしは、 あの小さい猫を探していた。
理由は分からない。
親でもない。
仲間でもない。
友達でもない。
ただ、 そこにいた。
それだけだ。
橋の真ん中で立ち止まる。
川が流れている。
いつもと同じ景色だった。
だけど。
何かが少しだけ違う気がした。
その時だった。
「どうしたの?」
声がした。
少女だった。
いつの間にか、 すぐ後ろにいた。
あたしは振り向く。
少女は首を傾げている。
もちろん。
あたしが何を考えているかなんて、 分からない。
あたしにも、 うまく分からない。
風が吹いた。
少女の髪が揺れる。
川面が光る。
あたしたちは、 しばらく黙っていた。
何も見つからなかった。
だけど。
探していたことだけは、 分かった。