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『オむルマネヌ・コヌド』第十䞉章 空を倖す

『オむルマネヌ・コヌド』

第十䞉章 空を倖す

 䌚議堎は、䞀幎前より、倧きく芋えた。

 あのずきず同じ、扇圢の客垭。同じ、光の壁。ただ、玲叞の芋え方が、倉わっおいた。䞀幎前、玲叞は、䜕も知らずに、あの光の向こうぞ歩み出た。今日、玲叞は、その光の向こうに、誰が座っおいるかを知っおいる。囜を動かす者。金を動かす者。そしお、その䞭にたぎれた、コン゜ヌシアムの、静かな䞀団。人を、闇に葬っおきた者たち。玲叞は、その党員の前で、話す。

 控宀で、玲叞は、䞊着の内ポケットの、ナセフの玙に、いちど手を圓おた。玙は、ただ、そこにあった。玲叞は、手元のパ゜コンで、アストリッドず぀ながっおいた。画面の隅に、䞀行だけ、文字があった。

 ――準備は、できおる。あなたが、空を倖したら、私が、䞖界に指させる。

 玲叞は、返した。

 ――行きたす。

 玲叞は、パ゜コンを閉じた。

 控宀の倖から、拍手が聞こえた。前の登壇者が、終わったのだ。玲叞の番が、近づいおいた。玲叞は、手のひらが、たた冷たくなっおいるのに気づいた。䞀幎前、同じ堎所で、同じ冷たさを、玲叞は、こわさだ、ず思わないようにした。今日は、ちがった。今日は、こわい、ず、玠盎に思った。こわいのは、分かっおいるからだ。アストリッドの蚀葉が、玲叞を支えた。

 廊䞋で、いちど、ファむサルずすれちがった。ファむサルは、玲叞を呌び止めなかった。ただ、玲叞の顔を、䞀瞬だけ芋お、小さくうなずいた。行っおこい、ずも、やめおおけ、ずも぀かない、うなずきだった。玲叞も、うなずき返した。二人は、それきり、蚀葉を亀わさなかった。亀わせば、ファむサルは、止めなければならなくなる。玲叞は、それを知っおいた。

 サミットの目玉は、玲叞の前にあった。

 コン゜ヌシアムの名で、ではない。衚向きは、いく぀もの、名の知れた研究機関の連名で。これからの十幎の、䞖界の゚ネルギヌ䟡栌の芋通し。䞖界じゅうが埅っおいた、䞀枚の予枬だった。倧きなスクリヌンに、なめらかな、右肩䞊がりの線が映った。䌚堎が、うなずいた。誰も、疑わなかった。この線の通りに、䞖界は動く。みんなが、そう信じおいた。信じおいるから、その通りになる。

 壇䞊で、その予枬を発衚したのは、癜髪の、品のいい男だった。どこかの、名門の研究所の所長だずいう。男は、萜ち着いた声で、これからの十幎を語った。゚ネルギヌは、こう動く。経枈は、こう䌞びる。䞖界は、こういう圢になっおいく。男の声には、迷いがなかった。圓然だった。この男は、未来を予枬しおいるのではない。すでに決たっおいる未来を、読み䞊げおいるだけだ。䌚堎の誰もが、そのこずを知っおいた。知っおいお、安心しお、うなずいおいた。決たっおいる未来ほど、人を安心させるものは、ない。

 玲叞の番が来た。

 名前を呌ばれお、玲叞は壇䞊に出た。䞀幎前ず同じ、照明が顔に圓たる。ただ、今日は、ざわめきはなかった。䞀幎前、制服の少幎を笑った客垭は、いた、この䞀幎で囜を倉えた男を、静かに芋おいた。

 玲叞は、マむクの前に立った。手元のスクリヌンには、玲叞の、゚ネルギヌ改革の蚈画が映る手はずになっおいた。半幎かけお䜜った、あの囮だ。

 玲叞は、その蚈画を映さなかった。

 スクリヌンは、癜いたただった。係の者が、玲叞の合図を埅っおいた。玲叞が、うなずけば、囮の蚈画が映る。玲叞は、うなずかなかった。数秒の沈黙が、䌚堎に流れた。その数秒のあいだに、玲叞は、もう埌戻りできない堎所に、片足を螏み入れおいた。ここで、囮の蚈画を映せば、玲叞は生き延びる。䜕事もなかったこずに、できる。囜の蚭蚈者ずしお、これからも生きおいける。玲叞は、その安党な道を、いちど頭に浮かべた。それから、その道に、背を向けた。

 玲叞は、最初に、こう蚀った。

 「今日、僕がお芋せする蚈画は、嘘です。」

 䌚堎が、ざわ぀いた。玲叞は、続けた。

 「半幎前から、僕が、この囜のために䜜っおきた、゚ネルギヌ改革。あの蚈画は、最初から、実珟する぀もりのないものでした。僕が、䞀人で、でっち䞊げた、嘘の未来です。」

 ざわめきが、倧きくなった。玲叞は、声を匵らなかった。䞀幎前ず同じだ。静けさが、玲叞の声を運んでくれるのを埅った。

 「そしお、その嘘の未来に、この䞀幎、䞖界じゅうが賭けたした。土地が、買われたした。金が、動きたした。みなさんの䜿っおいる予枬も、僕の嘘を、本圓のこずずしお、織り蟌みたした。」

 玲叞は、客垭の、ある䞀団のほうを芋た。ロスがいた。ロスの、い぀もの䜙裕は、少しだけ、消えおいた。

 「たった䞀人の、十䞃歳が、郚屋の䞭ででっち䞊げた嘘に、䞖界の予枬が、だたされた。ずいうこずは。」

 玲叞は、いちど、間を眮いた。

 「みなさんの信じおいる未来は、誰かが読んだ未来では、ありたせん。誰かが曞いた未来です。」

 䌚堎が、いっせいにざわめいた。䜕を蚀っおいるんだ、ずいう顔。あるいは、たさか、ずいう顔。玲叞は、その、ざわめきの䞊から、蚀葉を重ねた。

 「予枬ずいうのは、未来を圓おるこずだず、みなさんは思っおいたす。ちがいたす。いたの予枬は、未来を決めるこずです。みんなが、同じ未来を信じる。信じたずおりに、金を動かす。金が動けば、その未来が、本圓にやっおくる。予枬が、珟実を䜜っおいる。だから、倖れない。倖れないのではなく、倖させない仕組みに、なっおいる。」

 玲叞は、ロスのいる方向を、たっすぐに芋た。

 「僕は、その仕組みに、䞀぀、嘘を食べさせたした。半幎かけお。そしお、いた、その嘘を、匕き抜きたす。」

 䌚堎の、係の者が、玲叞のマむクに手を䌞ばそうずした。玲叞を、壇䞊から䞋ろそうずしたのだ。ただ、間に合わなかった。玲叞は、もう、手元の䞀台に指を眮いおいた。この䞀手だけは、誰にも止めさせない。玲叞は、半幎、そのために生きおきた。玲叞は、指を䞋ろした。

 玲叞は、AIONに、最埌の䞀手を攟った。

 半幎、囮に賭けさせた、その賭けを、いた、玲叞は、いちどに裏返した。玲叞の、本物の䞀手が動いた。玲叞が隠しおいた、本圓のデヌタ、本圓の蚈画。それが、䞖界に攟たれた瞬間、囮の未来は、根拠を倱った。

 玲叞がやったこずは、単玔だった。半幎、玲叞は、囮の未来に、みんなを賭けさせた。その未来が来る、ずいう前提で、䞖界は動いおいた。玲叞は、その前提を、たった䞀぀厩した。囮の蚈画は、実珟しない、ず、蚌拠぀きで、䞖界に告げた。するず、その未来に賭けおいた金が、いっせいに逃げ出した。逃げ出した金が、コン゜ヌシアムの予枬を、内偎から抌し倒した。玲叞は、䞀発の匟も撃っおいない。ただ、みんなが、自分で、自分の信じた未来から逃げ出した。その、逃げ足の速さが、コン゜ヌシアムの、確かな未来を砕いた。

 䌚堎の、倧きなスクリヌンに、さっきの、なめらかな右肩䞊がりの線が映っおいた。䞖界が信じおいた、確かな未来。

 その線が、折れた。

 みんなの芋おいる前で。゚ネルギヌの䞖界䟡栌が、コン゜ヌシアムの予枬ず、逆に動きはじめた。スクリヌンの数字が、赀く倉わっおいく。䌚堎じゅうの、手元の端末が、いっせいに鳎りはじめた。䞖界じゅうの垂堎が、コン゜ヌシアムの、確かな未来が倖れたこずに気づいた音だった。

 最初は、䞀぀の端末だった。次に、十。次に、䌚堎じゅう。着信音ず、通知音が重なっお、倧きな、ざわめきの䞋地になった。スヌツの男たちが、いっせいに、自分の端末を芗きこんだ。誰かが、立ち䞊がった。誰かが、電話をかけはじめた。䞖界じゅうの垂堎で、いた、䜕が起きおいるのかを確かめるために。スクリヌンの、赀い数字は、止たらなかった。䞖界が、確かだず思っおいた未来から、みるみるずれおいった。䞀枚の予枬が、みんなの目の前で、ただの玙切れに倉わっおいった。

 玲叞は、いちど、客垭の前のほうを芋た。ファむサルが、いた。ファむサルは、立ちも、隒ぎもしなかった。たわりの人間が、端末にしがみ぀く䞭で、ファむサルだけが、たっすぐに玲叞を芋おいた。その顔に、初めお、玲叞は、静けさ以倖のものを芋た。ファむサルは、泣いおはいなかった。ただ、十二幎前、守れなかった持村を、この䞀幎、倢に芋぀づけた男の顔が、いた、その倢の続きを芋おいた。ファむサルは、玲叞に向かっお、ほんのわずかにうなずいた。よくやった、ずいう、うなずきだった。壇䞊の、䞋から。

 䌚堎が、揺れた。䞀幎前の、どよめきずは、ちがった。あれは、驚きのどよめきだった。今日のは、こわさのどよめきだった。䞖界じゅうの、金ず暩力を握った人間たちが、初めお、自分たちの信じおきた未来が厩れるのを、自分の目で芋おいた。

 玲叞は、ロスのほうを芋た。ロスは、立ち䞊がっおいた。顔から、あの䜙裕が、消えおいた。䞀床も負けたこずのない男が、初めお負ける、その顔だった。硬すぎるものは、折れる。玲叞の、予想した通りだった。

 ロスは、玲叞を、たっすぐに芋おいた。憎しみでも、怒りでもない目だった。ただ、理解できないものを芋る目だった。ロスの仕組みは、勝぀か、匕き分けるか、しかなかった。負ける、ずいう目が、その仕組みには、初めから入っおいなかった。だから、ロスは、いた、自分の身に、䜕が起きおいるのかを、うたく飲み蟌めずにいた。玲叞は、その顔を、芚えおおこうず思った。ナセフの死を、無駄なこずだ、ず蚀った男の、この顔を。

 玲叞は、䞊着の内ポケットから、䞀枚の玙を取り出した。

 擊り切れた、折り目の、手曞きの玙。ナセフの玙だ。玲叞は、それを開いた。そしお、マむクの前で、その玙に曞かれた名前を、䞀぀ず぀読みはじめた。

 消された、地区の名前。消された、人の名前。䞖界の予枬が、勘定に入れ忘れた——いや、わざず倖した、人たちの名前。玲叞の声は、静かだった。ただ、その静かな声が、䌚堎の、倧きなスクリヌンの、折れた線の䞋で、䞀぀ず぀、名前を眮いおいった。

 玲叞は、名前だけを読んだ。説明はしなかった。ただ、名前ず、その人がいた堎所を読んだ。海沿いの、二䞇人の町。その町の、いく぀かの家族の名。氎を枛らされた地区。仕事を打ち切られた人たち。そしお、いちばん最埌に、玲叞は、䞀぀の名前を読んだ。

 ナセフ・ハラフ。

 玲叞の声が、そこで、初めお、わずかに揺れた。䌚堎の誰も、その名前を知らない。䞖界の誰も、その男が䜕をした人間かを知らない。ただ、玲叞だけが知っおいた。この囜の氎を、生たれお初めお飲んだ男。子どもに、その氎を飲たせたかった男。玲叞に、線の先を芋せおくれた、たった䞀人の盞棒。玲叞は、その名前を、䞖界の、いちばん高い堎所で、声に出した。

 「この人たちは、」

 玲叞は蚀った。

 「みなさんの、正しい未来の、倖偎にいた人たちです。数えおも埗にならない、ずいう理由で、未来の絵から消された人たちです。僕が、今日、みなさんに芋おほしかったのは、この、名前です。」

 玲叞は、顔を䞊げた。

 「未来は、数字じゃありたせん。未来は、この、䞀人ず぀の名前です。」

 䌚堎は、静たりかえっおいた。折れた線ず、少幎の読み䞊げる名前だけが、その広い空間を満たしおいた。

 玲叞の手元の画面に、アストリッドから、䞀行、来た。

 ――䞖界じゅうが、芋おる。いた、あなたを。

 玲叞は、その䞀行を芋お、初めお、自分が䞀人ではないこずを思い出した。この壇䞊には、玲叞ひずりしか立っおいない。ただ、画面の向こうで、アストリッドが芋おいる。䞖界じゅうの、名もない人が芋おいる。玲叞の読み䞊げた名前の、その家族が、どこかで芋おいるかもしれない。玲叞は、もう、䞀人で数える少幎ではなかった。

 玲叞は、息を吐いた。空を、倖した。䞀幎、二幎、玲叞がたどっおきたものの、いちばん高い堎所に、ナセフの玙は届いた。

 ただ、玲叞は知っおいた。ここからが、いちばん危ない。䞖界の未来を倖しおみせた少幎を、これから、䞖界じゅうの、あらゆる力が、消しにかかる。玲叞は、その玙を、そっずたたんだ。

 䌚堎の、埌ろのほうで、動きがあった。黒いスヌツの男たちが、静かに、通路を進みはじめおいた。玲叞のほうぞ。急いでは、いない。急ぐ必芁が、ないからだ。この䌚堎から、玲叞が逃げられる堎所は、どこにもない。玲叞は、それを芋おいた。芋おいお、こわくないず蚀えば、嘘になる。ただ、玲叞は、もう、やるべきこずを、やり終えおいた。空は、倖れた。䞖界は、それを芋た。あずから、玲叞を消しおも、いちど倖れた空は、もう元には戻らない。人々は、もう、自分の目で、空を芋䞊げおしたった。

 玲叞は、ただ、生きお垰らなければ、ならなかった。





コラボ小説䌁画『オむルマネヌ・コヌド』にお、yukariyajp / Hiroki Kon さんが早くも第21話を執筆しおくださいたした
緻密な䞖界芳ず息をのむ展開で倧人気の超倧䜜シリヌズです。䜜品の䞭に散りばめられた「䞖界の瞫い目」を巡る深い考察ずスリリングな物語を、ぜひご芧ください










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LaLaLa はぁ、はぁ  っ お願い、です   『怪獣の腹の䞭で』を  どうしおも、私の手で「玙の本」にしたいんです  っ あなたの、そのサポヌトが  本の、䞀ペヌゞに、なりたす  っ。 はぁ  応揎、しおくれたせんか  っ

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