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『オむルマネヌ・コヌド』第十䞀章 共犯

『オむルマネヌ・コヌド』

第十䞀章 共犯

 返事は、䞉日埌に来た。

 玲叞は、あの叀い掲瀺板を、毎晩開いおいた。誰も来ない、埃をかぶった堎所だ。

 毎晩、玲叞は、その堎所を開いお、䜕もないのを確かめお、閉じた。䞀日目。二日目。返事は、なかった。玲叞は、少しず぀、芚悟をしはじめおいた。あの人は、もう出おこない。䞉幎守っおきた沈黙を、玲叞ごずきのために砎る理由は、ない。それでも、玲叞は、毎晩、その堎所を開いた。開くこず自䜓が、玲叞にずっお、たった䞀぀、できるこずだった。䞉日目の倜、そこに、䞀行だけ、新しい曞き蟌みがあった。玲叞の合図に応える圢の、短い䞀行だった。

 ――どうしお、いた。

 それだけだった。名前も、挚拶もない。ただ、その問いの䞭に、長いあいだ口を぀ぐんできた人間の重さがあった。どうしお、いた。䞉幎黙っおいた人が、玲叞に聞いおいた。䞉幎黙っおいられたのに、なぜ、いたさら、その静けさを壊しにくるのか、ず。

 玲叞は、食らずに答えた。

 ――人が、死んだからです。僕の、たった䞀人の味方が。

 しばらく、返事はなかった。玲叞は、画面の前で埅った。盞手が、たた黙るなら、それでも仕方がない、ず思った。玲叞は、この人に、黙る理由があるこずを、知っおいた。

 やがお、次の䞀行が珟れた。

 ――私も、そうだった。䞉幎前。

 玲叞は、その䞀行だけでは、信じなかった。信じるこずに、慣れおいない。玲叞は、盞手に、䞀぀確かめた。䞉幎前、あなたが、僕の文章に最初に぀けた返事を、䞀字䞀句、そのたた曞いおください。

 しばらくしお、返事が来た。私も、䞉幎前に同じ空癜を芋た。そしお、黙るこずにした。䞀字も、違わなかった。玲叞の蚘憶ず、ぎたりず重なった。この掲瀺板のやり取りは、圓時、どこにも蚘録されおいない。二人しか、知らない。玲叞は、そこで、初めお肩の力を抜いた。盞手は、本物だった。少なくずも、あのずき返事をくれた、あの人だった。

 それから、少しず぀、その人は話しはじめた。名前は、アストリッド、ずいった。北欧の、小さな研究所で、経枈予枬のモデルを怜蚌する仕事をしおいた。䞉幎前、アストリッドは、いく぀もの囜の予枬が、同じ圢で倖れるこずに気づいた。玲叞ず、同じ空癜を芋぀けた。そしお、それを、論文に曞こうずした。

 曞きあげる前に、共同研究者が、䞀人、死んだ。

 心臓の発䜜だった、ず蚘録された。ただ、四十代の、健康な男だった。

 その男は、アストリッドの恩垫だった。孊生のころから、アストリッドに、数字の芋方を教えおくれた人だずいう。䌑みの日には、よく、二人で山を歩いた。その人が、論文の、いちばん危ないずころに、名前を茉せようずした矢先に、山でもない、ただの、自分の郚屋で倒れた。アストリッドは、その死を疑った。疑っお、そしお、こわくなった。論文を、机の奥にしたった。それから䞉幎、アストリッドは、圓たり障りのない仕事だけをしお、生きおきた。

 ――あなたのメッセヌゞを芋お、ず、アストリッドは曞いた。

 ――私は、䞉幎前の自分に、戻りたくない、ず思った。あのずき、私はこわくお、黙った。黙っお、生き延びた。生き延びお、毎朝、鏡を芋るのが、いやになった。

 玲叞は、その蚀葉を読んだ。玲叞には、アストリッドを責める気持ちが、もう、なかった。黙るこずが、どれだけの重さか、玲叞も、いたは知っおいた。

 劙な関係だった。二人は、顔を知らない。声も、聞いたこずがない。盞手が、本圓にどこにいるのかも、玲叞には確かめようがなかった。それでも、玲叞は、毎晩、その叀い堎所ぞ通った。昌のあいだ、斜蚭で誰ずも口をきかない玲叞にずっお、倜の、その、文字だけのやり取りが、い぀のたにか、䞀日の、いちばん息のできる時間になっおいた。玲叞は、ナセフのこずを、少しだけ、アストリッドに話した。アストリッドは、恩垫のこずを、少しだけ話した。二人は、それぞれの、死んだ人のこずを芚えおいる者どうしずしお、぀ながっおいた。

 二人は、それから、毎晩、その叀い堎所で、少しず぀話した。

 玲叞にないものを、アストリッドは持っおいた。名前ず、信甚だ。アストリッドは、その䞖界では、名の知られた研究者だった。アストリッドが、䜕かを正しい、ず蚀えば、少なくずも、専門家たちは耳を傟ける。玲叞は、匿名の、顔のない少幎だ。玲叞が、いくら正しくおも、玲叞の声は、誰にも届かない。アストリッドの声は、届く。

 玲叞は、自分の蚈画を、少しず぀、アストリッドに話した。監芖を、逆に䜿う。囮の未来を、盞手に信じ蟌たせる。そしお、本物の未来を、みんなの芋おいる前で、倖しおみせる。アストリッドは、その蚈画を、静かに聞いおいた。それから、䞀぀、いちばん倧事なこずを聞いた。

 ――倖した、その瞬間を、誰が、䞖界に䌝えるの。

 玲叞は、答えた。

 ――あなたです。

 しばらく、間があった。玲叞は、その間の䞭で、アストリッドが迷っおいるのを感じた。玲叞は、この人に、たた、こわい堎所ぞ出おこい、ず蚀っおいる。䞉幎前、この人の恩垫を消した盞手の、たっただ䞭ぞ。

 ――私が、それを䌝えお、ず、アストリッドは曞いた。――私も、恩垫ず同じ死に方を、するかもしれない。

 ――したす、ず玲叞は曞いた。嘘は、぀きたくなかった。――たぶん、危ないです。

 返事は、少し遅れた。それから、こう来た。――正盎な人ね。䞉幎前の、あなたの文章も、そうだった。分からない、を、分からない、ず曞いおいた。私が返事をしたのは、それが理由。

 玲叞は、その䞀行を、長く芋おいた。䞉幎前、玲叞の、ためらいだらけの文章が、この人䞀人には届いおいた。䞖界じゅうが、玲叞のためらいを削り萜ずしたなかで、この人だけが、そのためらいを、信じおくれおいた。

 次の日から、玲叞は、囮を動かしはじめた。

 玲叞は、囜のサヌバヌの䞊で、䞀぀の、倧きな蚈画を組み立おた。この囜の、次の目玉になる、゚ネルギヌの改革だ。倪陜ず、颚ず、海の力を䞀぀に぀なぐ、巚倧な蚈画。数字は、本物らしく。日皋も、现かく。玲叞は、その蚈画に手を抜かなかった。抜けば、盞手に芋抜かれる。玲叞は、本気で、その嘘の蚈画を䜜った。

 いちばんむずかしかったのは、本気に芋せるこずではなかった。玲叞自身が、その蚈画を、少しだけ、本圓に䜜りたくなっおしたうこずだった。玲叞の匕いた、その嘘の改革は、うたくいけば、たくさんの人の暮らしを、よくするはずだった。玲叞は、ずきどき、これを本圓にやれたら、ず思った。思っお、そのたびに、ナセフの、擊り切れた玙を芋た。玲叞のやるべきこずは、暮らしをよくするこずではなかった。仕組みを、壊すこずだった。

 玲叞は、その線匕きを、䜕床も自分に蚀い聞かせた。玲叞の䜜る囮が、うたくできればできるほど、それは危なかった。うたくできた囮は、盞手をだたすだけでなく、玲叞自身をも、だたしかけた。これは、いい蚈画だ。これを、本圓にやるべきだ。玲叞の䞭の、技術者の郚分が、そうささやいた。玲叞は、そのささやきを、聞かないふりをするのに苊劎した。ナセフなら、ず玲叞は思った。ナセフなら、こんなずき、なんず蚀うだろう。たぶん、ナセフは、笑っお、こう蚀う。お前は、そういう男だよ、ず。玲叞は、その、いない盞棒の声を、想像で埋めながら、囮を䜜り぀づけた。

 囮は、効いた。

 数週間で、玲叞の䜜った、嘘の蚈画のたわりが、動きはじめた。玲叞の蚈画では、ある地域が、これから倧きく䌞びるこずになっおいた。するず、その地域の土地が、静かに買われはじめた。買っおいたのは、い぀もの、ヘリックスの子䌚瀟だった。盞手は、玲叞の描いた未来を信じた。信じお、その未来に、金を賭けはじめた。

 玲叞は、その動きを、AIONで远った。盞手が、玲叞の嘘に深く賭ければ賭けるほど、その未来が倖れたずきの痛手は、倧きくなる。玲叞は、眠に逌がかかっおいくのを、静かに芋おいた。うれしくは、なかった。ただ、ナセフの玙が、少しず぀圢になっおいく、その手ごたえだけが、あった。

 ただ、䞀぀、玲叞の想定しおいなかったこずがあった。

 囮の未来を信じたのは、ヘリックスだけではなかった。この囜の、ふ぀うの人たちも、その未来を信じはじめおいた。玲叞の描いた、䌞びる地域には、人が匕っ越しはじめた。新しい店ができた。若い倫婊が、家を買った。玲叞の、嘘の未来を信じお。玲叞は、その光景を芋お、胃の奥のほうが重くなった。玲叞が、この未来を倖したずき、痛手を受けるのは、ヘリックスだけではなくなっおいた。あの、若い倫婊も、玲叞の嘘の巻き添えになる。

 残っおいるのは、䞀぀だけだった。

 い぀、どこで、その未来を倖しおみせるか。

 倖し方は、掟手でなければならない。誰の目にも、はっきりず分からなければならない。専門家だけが気づくような、倖れ方では、だめだ。䞖界じゅうの、ふ぀うの人が、あれは倖れた、ず、自分の目で分かる、倖れ方。玲叞は、その舞台を探しはじめた。

 舞台だけでは、足りなかった。舞台の䞊で、䜕を倖すのか。玲叞は、それも決めなければならなかった。コン゜ヌシアムが、いちばん自信を持っお配る未来。䞖界じゅうが、それを疑わずに信じおいる、倧きな予枬。その、いちばん確からしいものが、いちばん掟手に倖れたずき、信甚は、いちばん倧きく厩れる。玲叞は、AIONに、コン゜ヌシアムの予枬の䞭で、いちばん倚くの金ず人が乗っおいるものを探させた。䞀぀の数字が、浮かび䞊がっおきた。゚ネルギヌの、䞖界的な䟡栌。石油ず、その先の未来の倀段だ。䞖界じゅうの囜ず䌁業が、その䞀぀の予枬の䞊に、自分たちの明日を乗せおいた。玲叞は、その、いちばん重い䞀点を倖すこずに決めた。

 ある倜、アストリッドが、玲叞に、䞀぀聞いた。

 ――もし、これがうたくいったら。䞖界が、コン゜ヌシアムの未来を、信じなくなったら。そのあず、䞖界は、どうなるの。

 玲叞は、すぐには答えられなかった。

 考えおいなかったわけではない。ただ、玲叞は、その先を、ただ芋たくなかった。信甚が厩れれば、䞖界は混乱する。誰も、明日を信じられなくなる。金も、人も、しばらくは迷子になる。玲叞が壊そうずしおいるのは、たくさんの人を消しおきた、悪い仕組みだ。ただ、その悪い仕組みは、同時に、䞖界を動かしおもいた。

 玲叞の頭に、あの、若い倫婊が浮かんだ。玲叞の嘘を信じお、家を買った、あの人たちだ。玲叞は、コン゜ヌシアムを憎んでいた。人を数字にしお、消す仕組みを。ただ、玲叞が、いたやろうずしおいるこずも、誰かを、自分の描いた未来の巻き添えにするこずだった。ちがう、ず、玲叞は自分に蚀った。ちがうはずだ。ただ、そのちがいを、玲叞は、ただうたく蚀葉にできなかった。

 ――分かりたせん、ず、玲叞は正盎に曞いた。

 ――ただ、間違った未来を信じ぀づけるより、いちど、みんなが、自分の目で、空を芋䞊げたほうが、いいず思いたす。

 アストリッドの返事は、しばらくなかった。それから、䞀行だけ来た。

 ――わかった。あなたが、空を、倖す。その空を、私が、䞖界に指さす。

 玲叞は、その䞀行を、䜕床か読んだ。䞉幎、黙っおいた人が、玲叞の隣に立぀こずを、決めた。玲叞は、もう、䞀人ではなかった。

 玲叞は、AIONに、最埌の問いを打ち蟌んだ。䞖界じゅうが、コン゜ヌシアムの未来を、いちばん匷く信じる瞬間は、い぀か。どこか。

 答えは、すぐに出た。玲叞の、知っおいる堎所だった。䞀幎前、玲叞が、制服を着お立った、あの壇䞊。䞖界じゅうの、金ず暩力が集たる、あの䌚議。次の、囜際サミット。

 玲叞は、そこで、空を倖すこずに決めた。すべおが始たった堎所で。

 サミットたでは、半幎あった。

 半幎のあいだ、玲叞は、二぀の顔で生きるこずになる。昌は、囜のために、たっずうな改革を進める、若き蚭蚈者。倜は、その改革を、䞞ごず囮にしお、䞖界の仕組みを壊そうずする、たった䞀人の男。玲叞は、その半幎を、生き延びられるかどうか、分からなかった。ナセフは、もっず小さなこずを調べただけで、消された。玲叞は、いた、その䜕十倍も倧きなこずを、しようずしおいる。

 それでも、玲叞は、こわくなかった。正しくは、こわさより倧きいものが、玲叞の䞭にあった。ナセフが残した玙。アストリッドが砎った沈黙。その二぀を、玲叞は、もう、なかったこずにはできなかった。玲叞は、机の䞊の、擊り切れた玙に、いちど手を眮いた。それから、囮の続きを、曞きはじめた。




コラボ小説䌁画『オむルマネヌ・コヌド』にお、yukariyajp / Hiroki Kon さんが早くも第21話を執筆しおくださいたした
緻密な䞖界芳ず息をのむ展開で倧人気の超倧䜜シリヌズです。䜜品の䞭に散りばめられた「䞖界の瞫い目」を巡る深い考察ずスリリングな物語を、ぜひご芧ください









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LaLaLa はぁ、はぁ  っ お願い、です   『怪獣の腹の䞭で』を  どうしおも、私の手で「玙の本」にしたいんです  っ あなたの、そのサポヌトが  本の、䞀ペヌゞに、なりたす  っ。 はぁ  応揎、しおくれたせんか  っ

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