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『オむルマネヌ・コヌド』第八章 監芖

『オむルマネヌ・コヌド』

第八章 監芖

 その倜、玲叞は、サヌバヌ宀にこもった。

 机の端に、ナセフの玙を眮いた。䜕床も開かれお、折り目の擊り切れた、あの䞀枚だ。玲叞は、そこに曞かれた名前ず数字を、䞀぀ず぀、AIONに打ち蟌んでいった。消えた地区。枛らされた予算。名簿から消えた人の名。ナセフが、䜕幎もかけお、勘で集めたものを、玲叞は、䞀晩で、圢に倉える぀もりだった。

 打ち蟌みながら、玲叞は、い぀もず少しちがう気持ちでいた。これたで、玲叞がAIONに読たせおきたのは、い぀も、ただの数字だった。今回は、ちがう。この数字の䞀぀䞀぀には、ナセフが䌚った人の顔が、貌り぀いおいる。玲叞は、初めお、顔の぀いた数字を、AIONに読たせおいた。

 玙には、ナセフの字が、びっしりず䞊んでいた。几垳面な、小さな字だった。同じ地区の名前が、䜕床も出おくる。そのたびに、日付が、少しず぀新しくなっおいた。ナセフは、䞀床で曞いたのではない。䜕幎も、同じ玙を内ポケットから出しおは、たた䞀行、足しおいったのだ。玲叞は、その䞀行ず぀の積み重ねを、指でたどった。玲叞なら䞀晩でできるこずを、ナセフは、䜕幎もかけお、手でやっおいた。速さでは、玲叞が勝぀。ただ、この玙の、擊り切れた折り目には、玲叞の䞀晩にはないものがあった。玲叞は、それが䜕なのか、うたく蚀えなかった。ただ、粗末に扱っおはいけない、ずいうこずだけは分かった。

 AIONは、い぀もの静けさで、線を匕きはじめた。

 最初に芋えたのは、玲叞の予想した通りの圢だった。消された地区は、ばらばらに芋えお、同じ癖を持っおいた。どこも、いなくなる少し前から、静かに、予算を现らされおいた。人がいなくなっおから切るのではない。いなくなるように仕向けおから、いなくなったこずにする。順番が、逆だった。

 䞀぀、玲叞の目を長く匕きずめた地区があった。䞉幎前たで、そこには二䞇人が暮らしおいた。枯の近くの、叀い劎働者の町だ。統蚈の䞊では、その町は、ある幎を境に、するするず人口を枛らし、去幎、れロになっおいた。圹所の蚘録では、䜏民が自然に、別の街ぞ移った、ずいうこずになっおいた。ただ、玲叞が、電力ず、氎ず、通信のデヌタを重ねおみるず、話が合わなかった。人が自然に出おいくなら、明かりは、少しず぀、たばらに消える。この町の明かりは、ある月に、たずめお消えおいた。䞀晩で、二䞇人がいなくなるように、消えおいた。玲叞は、その月の、その町のニュヌスを探した。䜕も、なかった。二䞇人が消えた月に、その町のこずを曞いた蚘事は、䞀぀もなかった。

 玲叞は、その範囲を、囜の倖ぞ広げた。

 同じ圢が、ほかの囜にもあった。名前も、蚀葉も、通貚もちがう。それなのに、消え方の癖だけが、同じだった。ちょうど、あのサミットで芋せた、䞖界じゅうの予枬が䞀点に぀ながる、あの図ず、重なった。䞖界は、同じ未来を芋おいるだけではなかった。同じ未来を芋お、その未来の絵から、同じやり方で、同じ皮類の人間を、消しおいた。

 玲叞は、AIONに、消された人の数を、ざっず数えさせた。数字が出るたでに、少し時間がかかった。それだけ、倚かった。出おきた数を芋お、玲叞は、それを䞀床で飲み蟌めなかった。囜䞀぀の人口ではきかない。いく぀もの囜の、いく぀もの町の、消された人を足し合わせた数だった。その䞀人䞀人に、あの、氎を埅぀列に䞊んでいた老人のような顔が、あったはずだった。玲叞は、その数を、しばらく芋おいた。数が倧きすぎるず、人は、それを、たた、ただの数字ずしお芋おしたう。玲叞は、自分がいたたさに、そうしかけおいるこずに気づいお、目をそらした。

 玲叞は、その、消す仕組みの、䞭心を探した。

 どの囜の政府でもなかった。どの䌁業でも、なかった。それは、囜ず䌁業の、あいだにあった。䞖界じゅうの予枬モデルに、静かに、同じ前提を配っおいる、䞀぀の局。玲叞の集めたデヌタの䞭で、その局は、名前を持っおいなかった。ただ、いく぀もの契玄曞ず、いく぀もの報告曞の、いちばん䞋の隅に、同じ短い文字が、繰り返し珟れおいた。

 THE CONSORTIUM。

 玲叞は、その文字を、しばらく芋おいた。

 コン゜ヌシアム。共同事業䜓。名前ずしおは、どこにでもある蚀葉だった。だからこそ、誰も、気に留めない。䞖界を、同じ未来ぞ歩かせおいる手は、いちばん目立たない名前の䞋に、隠れおいた。玲叞が、あの倜、匁圓の廃棄からたどりはじめた線の、いちばん奥に、その名前は、座っおいた。

 玲叞は、コン゜ヌシアムが䜕をしおいるのかを、少しず぀組み立おおいった。

 コン゜ヌシアムは、呜什を出しおいるわけではなかった。どこかの地区を消せ、ず蚀うのではない。もっず静かなこずをしおいた。䞖界じゅうの予枬モデルに、同じ「前提」を配っおいるだけだった。この地域は、これから衰える。この産業は、もう䌞びない。この人たちは、投資に芋合わない。そういう前提を、そっず、みんなのモデルに入れおおく。するず、あずは、䞖界が勝手に動く。衰えるず予枬された地区には、金が来ない。金が来なければ、本圓に衰える。予枬が、珟実を䜜る。誰も、手を䞋しおいない。それなのに、予枬どおりに、人が消えおいく。玲叞がサミットで瀺した、あの仕組みの、いちばん暗い䜿い道が、そこにあった。

 玲叞は、その仕組みを芋お、気分が悪くなった。

 これは、玲叞の考え方ず、同じだった。数字を぀なぐ。関係を芋぀ける。未来を先に読む。玲叞が、あの六畳の郚屋で、面癜がっおやっおいたこずず、コン゜ヌシアムがやっおいるこずは、根っこが同じだった。ちがうのは、䜿い道だけだ。玲叞は、倱敗の理由を探すために、それをやった。コン゜ヌシアムは、誰を倱敗させるかを決めるために、それをやっおいた。同じ道具が、片方では問いになり、片方では刃になっおいた。玲叞は、自分の䜜ったAIONが、もし、あちら偎にあったら、ず考えお、その先を考えるのをやめた。

 もう䞀぀、繰り返し珟れる名前があった。

 ヘリックス・グロヌバル。玲叞に、あの、気前のよすぎるオファヌを送っおきた䌚瀟だ。ヘリックスは、コン゜ヌシアムの、あちこちに、顔を出しおいた。消された地区の、次に土地を買った䌚瀟。现らされた予算の、行き先。ヘリックスは、囜が人を切るたびに、その空いた堎所で、静かに儲けおいた。改革されおも、されなくおも、損をしない。玲叞が、いちばんこわいず思った盞手が、この仕組みの、いちばん埗をする堎所に、座っおいた。

 ヘリックスは、予枬を信じおいるのではなかった。予枬を䜿っおいた。どの地区が消えるず予枬されおいるかを、いちばん早く知り、その土地を、消える前に、安く買う。消えたあずで、そこに、デヌタセンタヌを建お、発電所を建お、枯を䜜る。予枬が圓たれば、安く買った土地が宝になる。予枬が倖れおも、建おたものは残る。ヘリックスにずっお、未来がどうなるかは、どうでもよかった。未来を、誰よりも早く知っおいるこずだけが、倧事だった。そしお、その未来を、いちばん早く配っおいるのが、コン゜ヌシアムだった。

 玲叞は、そこたでを、䞀枚の図にたずめた。

 図の䞊で、すべおが、぀ながっおいた。消された人々。䞖界じゅうの予枬。コン゜ヌシアム。ヘリックス。玲叞が、この囜に埋めに来た、あの空癜の正䜓が、初めお、茪郭を持っお、目の前にあった。玲叞は、その図を、しばらく、動かずに芋おいた。

 そのずき、画面の隅で、小さなこずが、起きた。

 玲叞の開いおいたファむルの、曎新時刻が、倉わった。玲叞は、そのファむルに、䜕も曞き蟌んでいなかった。ただ、開いお、芋おいただけだ。それなのに、曎新の時刻が、たったいた、曞き換わっおいた。玲叞ではない、誰かが、同じファむルを、同じ瞬間に、觊っおいた。

 玲叞は、手を止めた。

 郚屋の音が、倉わったように感じた。実際には、䜕も倉わっおいない。サヌバヌは、さっきず同じようにうなっおいる。ただ、玲叞の耳が、その音の、奥のほうを、聞こうずしはじめおいた。この音のどこかに、玲叞ではない誰かの、指の動きが、混じっおいるのではないか。玲叞は、そんなはずはない、ず思った。思いながら、キヌボヌドから、そっず手を離した。

 AIONは、この囜のサヌバヌで、動いおいる。玲叞の曞いた基幹コヌドの、所有暩は、囜家にある。契玄曞の、あの䞀行。玲叞が、たいしたこずではない、ず通り過ぎた、あの䞀行だ。玲叞の䜜るものは、すべお、ファむサルのずころぞ䞊がっおいく。玲叞は、それを、知っおいた。ただ、今倜たで、玲叞は、その意味を、本圓には、分かっおいなかった。

 玲叞が、コン゜ヌシアムを芋぀けたその瞬間に、コン゜ヌシアムのほうも、玲叞が芋぀けたこずを、芋おいた。

 玲叞は、詊すこずにした。

 わざず、意味のない怜玢を、䞀぀、走らせた。ある地区の、去幎の降氎量。誰も気に留めない、どうでもいい数字だ。玲叞は、その怜玢を投げお、AIONの、別のログを、じっず芋匵った。

 数秒埌、玲叞の投げおいない堎所で、同じ地区の、同じ数字が、呌び出された。玲叞の怜玢を、どこか別の堎所が、鏡のように、なぞっおいた。玲叞が䜕を芋おいるかを、誰かが、リアルタむムで、芋おいた。

 詊しお、分かった。分からなければよかった、ず、玲叞は思った。

 玲叞は、もう䞀床詊した。今床は、少しだけ際どい怜玢を投げた。コン゜ヌシアム、ずいう蚀葉そのものを、AIONに探させた。投げた瞬間、玲叞の背筋を、いやなものが走った。これは、降氎量ずはわけがちがう。これは、玲叞が䜕を探しおいるかを、はっきりず盞手に告げる怜玢だった。

 数秒、䜕も起きなかった。

 それから、玲叞の画面の、いちばん䞊に、小さな通知が出た。システムからの、事務的な䞀行だった。䞀郚のデヌタぞのアクセスが、制限されたした。理由は、曞いおいなかった。玲叞が、たったいた、その名前に觊れた、それだけが理由だった。玲叞が近づいた堎所には、もう壁が䞋りおいた。玲叞が名前を口にする前から、その壁は、䞋りる準備をしお、埅っおいた。

 玲叞は、AIONの前で、しばらく、動けなかった。この郚屋は、玲叞が、䞖界でたった䞀぀、迷わずにいられる堎所のはずだった。知っおいる音のする、安党な郚屋。今倜、その郚屋の壁が、透けおいるこずを、玲叞は知った。玲叞の芗いおいる画面を、壁の向こうから、誰かが、ずっず、芗き返しおいた。

 そしお、玲叞の頭に、いちばん最埌に、ナセフの顔が浮かんだ。

 あの玙を、玲叞に枡したのは、ナセフだった。玲叞が、いたなぞっおいる線の、最初の䞀本を匕いたのは、ナセフだった。もし、この郚屋の壁が透けおいるなら、壁の向こうの誰かは、もう、知っおいる。この調査が、どこから始たったのかを。玲叞が、誰ず、これを、始めたのかを。

 玲叞は、急いで、ナセフに連絡を取ろうずした。それから、手を止めた。連絡そのものが、芋られおいる。玲叞が、ナセフを心配しお連絡すれば、それは、ナセフが、この件の、玲叞の盞棒だず、教えるのず、同じこずだった。

 玲叞は、携垯を、机に眮いた。眮いたたた、しばらく、それを芋おいた。ナセフに、逃げろ、ずも、気を぀けろ、ずも蚀えない。蚀えば、それが、ナセフを指すこずになる。玲叞は、生たれお初めお、誰かを守りたい、ず思った。そしお、同じ瞬間に、守る方法が、䜕もない、ずいうこずも知った。玲叞の力は、遠くの、芋えないものを芋぀けるこずには長けおいた。すぐ隣にいる、たった䞀人を守るこずには、たるで圹に立たなかった。

 玲叞は、初めお、自分の力を、うらやたしいずも、こわいずも思った。玲叞は、数字を、぀なぐこずができる。誰も芋おいないものを、芋぀けるこずができる。ただ、その力は、玲叞が芋た瞬間に、玲叞が䜕を芋たかを、盞手にも、教えおしたう。

 画面の䞭で、コン゜ヌシアムの図は、静かに、光っおいた。

 玲叞は、その図を、消さなかった。消せば、消したこずも、芋られる。玲叞は、図を、開いたたた、怅子の背に、䜓を預けた。冷华ファンの音が、い぀もの、あの音が、今倜だけは、誰かの息のように、聞こえた。



コラボ小説䌁画『オむルマネヌ・コヌド』にお、yukariyajp / Hiroki Kon さんが早くも第21話を執筆しおくださいたした

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