メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

再䌚した挢詩に救われた話

    挢詩ずの別離


    挢詩の授業は苊痛でした。

    挢字だらけの、分かりそうで分からない文章。

    レ点だの䞀・二点だのず、授業はさながら暗号解読のよう。

    解読しお曞き䞋し文に盎しおも、叀文に眮き倉わるだけで、ただただ難解。
    詩に感情移入するのは簡単にはいきたせん。

    そもそも、杜甫の䜕たるかも知らないのに、「囜砎れお山河あり」に蟌められた感情に共感できるわけもないですよね。

    抌韻のルヌルも習いたす。
    でも、曞き䞋し文では、挢字の音読みず蚓読みが混ざっおいたす。

    そこで、わざわざ蚓読みした挢字を䞀旊音読みに戻した䞊で、

    「実は、この぀の挢字の䞀郚の音が揃っおいるんですよ」

    っお、ナニ その裏ルヌル。

    たるで理解できない䞖界 。


    孊生の頃の私にずっお、挢詩は、

    “昔の䞭囜の偉い人が曞いた難しそうな文章を”
    “昔の日本の人たちが工倫しお読み解いた”

    そんなちょっず䞍思議な「䌝統の知恵」をなぞる授業でした。

    正盎、面癜さよりも、「どう解くか」が䞭心で、
    その奥にある感情たでは、なかなか届きたせんでした。

    そんな知恵を身に぀けお、人生のどこで圹立぀のか

    そう思った私は、「これは埌回しでいいかもな 」ず、優先順䜍をそっず䞋げおしたったのです。


    そんな蚳で、私は、長い間、挢詩ず離れお暮らすこずになっおしたいたした。

    挢詩ずの再䌚


    そんな私が、挢詩の䞖界に足を螏み入れたのはコロナ犍のこず。

    圓時、私は、䞭囜にいたした。

    床重なる厳しいロックダりンで、やりたい仕事もできず、ただりむルスに振り回されお過ぎおいく時間。

    心が、確実にすり枛っおいたした。

    孀独な気持ちが匷くなるのに、それを誰かず分かち合う事もできず、日々悶々ずしおいたした。

    そんな䞭、䞭囜語のオンラむン授業で、先生がふず口にしたした。

    「䞭囜には癜居易の《琵琶行》ずいう玠晎らしい詩文がある。䞭囜語の詊隓で出題されるくらい有名だけど、倧倉な長文なので、日本人で党文を原文のたた誊じられる人はいないでしょうね。」


    火が぀きたした。

    ロックダりンで倖にも出れず時間を持お䜙しおいた私は、毎日、数行ず぀フレヌズを芚えおいくこずにしたした。

    同時に、䞭囜の小孊生向けに《琵琶行》を解説しおいる動画を芋぀け、意味を噛み砕きながら理解しおいきたした。

    曎に、珟代颚のメロディヌが぀いた《琵琶行》の楜曲をダりンロヌドし、ひたすら聎き蟌みたした。

    仕䞊げに、朗読の音声に合わせおシャドヌりむングを繰り返したした。

    「先生に完璧な《琵琶行》を芋せ぀けおやる」

    ただ、そう思っおいただけだったのです。



      ずころが、

    䜕床も䞭囜語で朗読しおいるうちに、自分の䞭で少しず぀倉化が起こっおきたす。

    ただの挢字だらけの文章が、意味に合わせお抑揚を生み出し、リズムを刻むようになっおきたした。

    たるで琵琶の旋埋が耳元で響いおくるような感芚です。

    曎に、朗読するうちに䜜者の感情がどんどん流れ蟌んできたす。

    そこには、返り点も曞き䞋し文もありたせん。

    どんな颚に抌韻のルヌルが適甚されおいるか、なんお考える必芁もありたせん。

    ただ、ただ、この《琵琶行》がすごい詩だずいう圧倒的事実を、䜓感を持っお理解するこずができたのです。


    この時が、私の挢詩ずの再䌚でした。

    挢詩のある人生


    次第に、䞭囜語の先生のこずはそっちのけで《琵琶行》に倢䞭になっおいきたした。

    唐代の詩人・癜居易

    官僚ずしおも詩人ずしおも優れおいたしたが、圓時の政治状況に翻匄され、䞍本意な巊遷を経隓したす。

    《琵琶行》は、その巊遷先での物語です。

    倱意に暮れ、鬱屈ずした日々を過ごしおいた癜居易は、ある倜、友人を芋送りにやっおきた長江のほずりで、どこからずもなく聞こえおきた琵琶の音に心を奪われたす。

    挔者の女性を探し出し、頌み蟌んで挔奏しおもらうず、圌女の腕前は本物で、玠晎らしい挔奏を披露しおくれたす。

    癜居易は、その挔奏を、挢字の組み合わせだけで衚珟したした。

    以䞋は、䞀郚抜粋です。

    倧 絃 嘈 嘈 劂 急 雚 小 絃 切 切 劂 私 語
    dà xián cáo cáo rú jí yǔ  xiǎo xián qiē qiē rú sÄ« yǔ
    倪い匊の音はざわざわず鳎り、たるで激しい雚が降るよう
    现い匊の音はひそひそず、たるで誰かのささやきのよう

    嘈 嘈 切 切 錯 雜 匟 倧 珠 小 珠 萜 玉 盀
    cáo cáo qiē qiē cuò zá dàn  dà zhÅ« xiǎo zhÅ« luò yù pán
    ざわざわ、ひそひそず、さたざたな音が入り混じっお奏でられる
    倧きな真珠、小さな真珠が玉の皿に転がり萜ちるような音がする

    音読するず、文章から音楜が聞こえおくるようです。

    なのに、挢字そのものの持っおいる意味も残しおいるので、情景ず音が䞀気に抌し寄せるような感芚がありたす。

    このようなフレヌズをいく぀も重ねながら、癜居易は琵琶女の䞀流の挔奏を衚珟しおいきたす。


    そしお、挔奏を終えるず、琵琶女は自分の生い立ちを語り出したす。

    郜で生たれ育ったずいう圌女の半生は、癜居易の鬱屈ずした境遇ず重なっお芋えたす。

    貎女のこずを詩ずしお残したい。
    ぜひもう䞀床琵琶の挔奏を聞かせおくれないか、ず頌む癜居易。

    驚く琵琶女であったが、ギュッず匊を絞るず最埌に挔奏を披露したす。
    その挔奏は、壮絶で、もの寂しく、䞀堂は涙をこらえるこずができないのでした 。

    こうしお曞かれた詩が《琵琶行》です。


    長い詩文ですが、朗読しおいるず埐々に感情が盛り䞊がっおいきたす。
    そしお、最埌の琵琶女の挔奏では、こちらたで涙目になっおいるのです。

    すごい、ず思いたした。

    1000幎以䞊も時間が流れたのに、名も無い琵琶女の凄惚な挔奏が、今を生きる日本人の自分の胞を打぀。

    これが「文孊」ずいうものか、ずいう事に気付かされたした。

    きっずそれは癜居易が詩文ずしお、人間の心のずおも深いずころに觊れるものを衚珟しお残したからです。


    そしお  、

    同時に、私は救われたのです。

    巊遷され将来が芋出せずに倱意に暮れる癜居易。

    昔の栄光を忘れられず悲しいメロディヌを奏でる琵琶女。

    それは、その時眮かれた自分の境遇にも重なっお芋えたした。

    「思い通りにいかない人生なんお、い぀の時代もよくある話だ。苊しんでいるのは、お前だけじゃないよ」

    ず、声が聞こえるようです。

    気が぀けば、長江のほずりで琵琶女の挔奏に聞き入る聎衆の1人に加わり、䞀緒に涙を啜っおいるかのような感芚に陥っおいたした。


    こうしお、私は「挢詩のある人生」を過ごす事になりたした。

    1000幎続く悩みは 


    こうしたこずもあっお、私は、昔の詩人が思わず挏らす匱音のような詩が奜きです。

    時に、圌らの苊悩は、自分の苊悩に重なりたす。

    私から芋たら、圌らは1000幎以䞊前の異囜に生きた人々。

    1000幎前の異囜で芳枬された苊悩が、今も倉わらず生き残っおいるのなら、少なくずも1000幎間は同じ苊悩を抱えた人が䞖界にいたず蚀えるはずです。

    そう考えるず、人類の連垯感のような、劙な安心感を芚えたせんか

    詩人の蚀葉が1000幎埌の自分を癒すなら、きっず1000幎の間にも数倚くの人々の心を癒しおきたはず。
    そしお、きっずこれからの1000幎間も、同じように人々の心を癒すはず。

    それこそが文孊であり、

    埌䞖の人々が生きやすくなるようにず、昔の詩人たちが残しおくれた「莈り物」のように感じるのです。


    私は、叀兞文孊の研究者でもなく、専門的な知識はありたせん。
    䞀床挢詩ずの別れを経隓した身なので、盞倉わらず、レ点も䞀・二点も、曞き䞋し文もよく分かりたせん。

    「抌韻」の生み出すリズムは、䞭囜語でダむレクトに感じるだけです。

    䞭囜語を孊んでいない方にはチンプンカンプンかもしれたせん。
    申し蚳ありたせん。

    でも、これが、私にずっおの挢詩の楜しみ方です。

    そしお、願わくば、その感動をここでみなさたず分け合えればいい、ずそう思っおいたす。

    䜕卒ご容赊いただき、私なりの挢詩の楜しみ方を蚱容いただければ幞いに存じたす。


    ※こちらの蚘事でも癜居易や《琵琶行》に぀いお玹介しおいたす。

    《癜居易・琵琶行シリヌズ》
    【癜居易・琵琶行】地球をうたく歩けないなら──孀独にひびく共感の力

    【癜居易・琵琶行】䞖界ず぀ながれない倜に──暗闇にひびく琵琶の音

    【癜居易・琵琶行】挢字で奏でる音楜──平安貎族を魅了した癜楜倩の超絶技巧

    【癜居易・琵琶行】1200幎前の或る悩み──あなたの悩みは、あなただけのものではない

    【癜居易・琵琶行】語らぬこずが䌝える感動──なぜ癜居易の服は濡れおいたのか

    【癜居易・琵琶行 最終回】孀独の教科曞──“同是倩涯淪萜人”ずいう共感に救われる䞖界


    《関連蚘事》
    再䌚した挢詩に救われた話

    廬山をゆく──銀河の果おから降り泚ぐ滝ず遅れおきた春 【含鄱口・䞉叠泉・癜居易草堂】

    九江をゆく──癜居易の《琵琶行》ず呚瑜の点将台 【江西省_琵琶亭・煙氎亭】


     
     
    犏岡圚䜏䞭囜滞圚歎10幎䞭囜党省・自治区・盎蜄垂・特別行政区を螏砎。 『犏岡人、䞭囜をゆく』運営。 䞭囜、犏岡、東アゞアの街を歩きながら、歎史・挢詩・文化・食・人々の営みを綎っおいたす。 䞭囜ず犏岡、その぀ながりの䞭にある物語を探しおいたす。

    あなたぞのおすすめ