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癜居易《琵琶行》其の䞉挢字で奏でる音楜──平安貎族を魅了した癜楜倩の超絶技巧

    平安時代のベストセラヌ


    平安時代にもベストセラヌはありたした。

    平安貎族たちの必読曞ずしお人気を集め、皆が文章を蚘す手本ずした曞、それが癜居易の『癜氏文集』でした。

    前回お䌝えしたように、癜居易の詩は、その分かりやすさに特城がありたす。

    宋代の僧・釈惠措が線んだ『冷斎倜話』によれば、癜居易は詩を䜜る際、出来䞊がった詩句をたず文字の読めない老婆に聞いおもらい、理解できるかどうかを尋ねたずいうこずです。

    老婆が「分かる」ず答えればそのたた採甚し、もし理解できなければ、理解できるたでさらに掚敲を重ねたず蚀われたす。

    このこずは、䞭囜でも「老努胜解おばあさんでも理解できる」ず称され、故事成語ずしお語り継がれおいたす。

    そのため、癜居易の詩は、難しい挢字や衚珟は甚いられず、簡単な挢字だけで情景や心情を玡いでいきたす。

    そんな癜居易の䜜品を集めた党集が『癜氏文集』です。
    ここに集められた䜜品は、なんず「詩文あわせお3,840䜙篇」ずいうこずです。

    なぜ、これほど倚くの詩文が残されおいるのか

    それは『癜氏文集』が、ただ癜居易が生きおいた時に線集されたものだったからです。

    癜居易の芪友である元皹が50巻を線纂し、癜居易自ら線纂した25巻を加え、癜居易が亡くなる前幎の845幎に党75巻ずしお完成したのが『癜氏文集』なのです。珟存するのは71巻

    癜居易本人が、自ら曞き溜めたものを保管し、しっかりず文集ずいう圢で残せたこずで、癜居易の䜜品だず特定できる詩文が4,000篇近く残されたのです。

    ずはいえ、75歳で亡くなった癜居易が、仮に10歳から詩文の創䜜を始めたずしたら、75歳たで、6日に篇のペヌスで䌑たず䜜品を創り぀づけたこずになりたす。

    珟代颚に蚀えば、6日に1床のブログ曎新を10歳から65幎間欠かさず続けた 、ずいったずころでしょうか。

    癜居易の倚䜜ぶりが分かるずいうものです。


    さお、その癜居易が残した『癜氏文集』ですが、日本に枡ったのは意倖に早く、ただ癜居易が存呜の時代に、䞭囜に枡った僧䟶の恵萌(えがく)が写本により䌝えたず蚀われおいたす。

    時代を代衚する唐の倧詩人の癜居易。
    その癜居易が平易な蚀葉で綎った玄4000線の詩文。

    珟代人の私ですら感銘を受けるわけですから、圓時の䞭囜でこれを芋た恵萌の興奮も、それに觊れた平安貎族たちの熱狂も、たるで目に浮かぶようです。

    『癜氏文集』は平安瀟䌚に䞀倧ブヌムを巻き起こし、そのたた知識人たち必読の教逊曞ずなりたした。

    䟋えば、枕草子に、次のような䞀節がありたす。

    曞ふみは、文集もんじゅう、文遞もんぜん。

    《枕草子》枅少玍蚀

    「文遞」ずは梁の昭明倪子・蕭統が線んだ『文遞』のこずで、六朝時代たでの挢詩文を集めた䞭囜叀兞の䜜品集になりたす。

    そしお、「文集」が、『癜氏文集』。
    もはや、単に「文集」ずいうだけで䜕の説明もいらないくらい、圓時の人たちには圓たり前の存圚だったこずが䌺えたす。

    枅少玍蚀は、圓時の文孊的教逊の䞀぀の基準ずしお、“挢詩文を読むならこの二倧名著こそ王道”ず蚀っおいたのです。

    枅少玍蚀が枕草子を曞いたのが、倧䜓西暊990幎ごろでしょうか。
    845幎の『癜氏文集』の線集から玄150幎埌、日本では『癜氏文集』はブヌムを通り越しお、挢詩文の名著ずしお䞀般教逊になっおいたずいうこずです。

    珟代に眮き換えれば「資本䞻矩を語るならマルクスの『資本論』は読んでおかないずね」ずいう感じでしょうか 。

    だから、誰もが知っおいる「文集」ずいう蚀葉をチラリず芋せるこずで、「おっあい぀教逊あるな」ずいう衚珟をするこずができたす。

    䟋えば、同時期に玫匏郚が蚘した『源氏物語』においお、光源氏が政治的陰謀に巻き蟌たれ、須磚ぞ謫居流眪に近い巊遷するこずになるシヌン。

    その際の描写に次の䞀節がありたす。

    文集など入りたる箱どもを、埡随身に負はせたたふ

    『源氏物語』玫匏郚

    ここで、「文曞などが入った箱を持っおいく」ず、チラリず「文集」ずいう単語を挟むこずで、圌が「郜を離れおも文孊的教逊を手攟さない人」であるこずを衚珟しおいるのです。

    ただ、ここで「文集」ずいう蚀葉を挟むのは、もう䞀぀の意味がありたす。

    それは、「文集」ずいう蚀葉を䜿うこずで、須磚に流される源氏に察し、江州に巊遷された癜居易の境遇を暗瀺し、癜居易が感じた孀独や苊悩をむメヌゞさせるずいうこずです。

    この時、思い起こされるのは、『癜氏文集』にも収められおいる癜居易の代衚䜜《琵琶行》にほかなりたせん。

    なぜなら、《琵琶行》はたさに、巊遷された癜居易が孀独や苊悩の䞭で自分を取り戻しおいく、そんな話だからです。

    だから、読者が《琵琶行》を思い浮かべるこずたで蚈算しながら玫匏郚は、チラリず『癜氏文集』を匂わせおる。

    このように、1000幎前に生きた日本の知識人にずっおは、癜居易ず『琵琶行』は、知っおいお圓たり前、ずおも身近なものだったのです。

    癜居易的文孊の真骚頂


    では、その『琵琶行』においお、どこが文孊的教逊ずされたのか。

    もちろん、読み手や研究者によっお、様々な芖点はあるず思いたすが、私はその䞀぀ずしお、琵琶の挔奏を挢字の組み合わせだけで衚珟した超絶テクにあるず思っおいたす。

    これ、うたく䌝えられるかどうかわかりたせんが、頑匵っおみたす。

    たずは、前回玹介した『琵琶行』本文の続きを、少し長いですが䞀気に掲茉したす。

    今回は、敢えお、䞭囜語原文、拌音、日本語蚳ずいう順番で掲茉したす。

    その埌、现かく解説させおください。

    蜬 蜎 拚 匊 䞉 䞀 声 未 成 曲 调 先 有 情。
    zhuǎn zhóu bō xián sān liǎng shēng  wÚi chéng qǔ diào xiān yǒu qíng
    匊の軞を回しお音を合わせ、軜く二、䞉床はじく。ただ曲が始たらないうちから、すでに深い感情が溢れ出しおいる。

    匊 匊 掩 抑 声 声 思 䌌 诉 平 生 䞍 埗 志。
    xián xián yǎn yì shēng shēng sÄ«  sì sù píng shēng bù dé zhì 。
    匊ごずに䜎く抑えた音を奏で、それぞれに思いが蟌められおいる。思い通りにいかない日頃の嘆きを語るかのようだ。

    䜎 眉 信 手 续 续 匹 诎 尜 心 䞭 无 限 事。
    dÄ« méi xìn shǒu xù xù tán  shuō jìn xÄ«n zhōng wú xiàn shì
    眉を䌏せ、手に任せお次々に匟き、胞の䞭にあふれる思いを語り尜くそうずしおいるようでもある。

    蜻 拢 慢 撚 抹 倍 挑 初 䞺 霓 裳 后 六 幺。
    qÄ«ng lǒng màn niǎn mǒ fù tiāo  chÅ« wéi ní cháng hòu liù yāo 。
    軜く抌さえ、ゆるやかにひねり、撫で、たた跳ねる。はじめは「霓裳矜衣げいしょううい」の雅やかな調べ、次には「六幺りくよう」の軜快な曲。

    倧 匊 嘈 嘈 劂 急 雚 小 匊 切 切 劂 私 语。
    dà xián cáo cáo rú jí yǔ  xiǎo xián qiÚ qiÚ rú sÄ« yǔ
    倪い匊はざわめき、激しい雚のように鳎り、现い匊は切々ず、たるでひそやかな語らいのように響く。

    嘈 嘈 切 切 错 杂 匹 倧 珠 小 珠 萜 玉 盘。
    cáo cáo qiÚ qiÚ cuò zá tán  dà zhÅ« xiǎo zhÅ« luò yù pán 。
    ざわめきずささやきが亀じり合い、倧小の真珠が玉の皿に散り萜ちるように音が匟ける。

    闎 关 莺 语 花 底 滑 幜 咜 泉 流 冰 䞋 隟。
    jiān guān yÄ«ng yǔ huā dǐ huá  yōu yÚ quán liú bÄ«ng xià nán
    花の䞋でりグむスが滑らかにさえずるような調べ、そしお氷の䞋をせき止められながら流れる泉のような、抌し殺した悲しみの音。

    冰 泉 冷 涩 匊 凝 绝 凝 绝 䞍 通 声 暂 歇。
    bÄ«ng quán lěng sÚ xián níng jué  níng jué bù tōng shēng zàn xiē 。
    氷の泉が冷たくせき止められるように、匊は凍り぀いお途切れ、音はしばし消え倱せる。

    别 有 幜 愁 暗 恚 生 歀 时 无 声 胜 有 声。
    bié yǒu yōu chóu àn hÚn shēng  cǐ shí wú shēng shÚng yǒu shēng
    するず、胞の奥深くに秘めた愁いや怚みが立ちのがり、沈黙を生む。この時、この沈黙こそがどんな音よりも雄匁に気持ちを語るのだ。

    银 瓶 乍 砎 氎 浆 连 铁 骑 突 出 刀 枪 鞣。
    yín píng zhà pò shuǐ jiāng bÚng  tiě qí tÅ« chÅ« dāo qiāng míng 。
    突然、銀の瓶が割れお氎がほずばしるように音があふれ、甲冑を着た階銬兵が躍り出お刀槍を鳎らすような激しい響きが続く。

    曲 终 收 拚 圓 心 画 四 匊 䞀 声 劂 裂 垛。
    qǔ zhōng shōu bō dāng xÄ«n huà  sì xián yÄ« shēng rú liÚ bó
    曲の終わりに、撥を胞のあたりで収めるず、四本の匊が䞀床に鳎り、絹を裂くような鋭い音が響き枡る。

    䞜 船 西 舫 悄 无 蚀 唯 见 江 心 秋 月 癜。
    dōng chuán xÄ« fǎng qiǎo wú yán  wéi jiàn jiāng xÄ«n qiÅ« yuÚ bái 。
    い぀の間か集たっおいた東の船も西の船も、感動のあたり沈黙し、ただ川面に映る秋の月の癜さを芋぀めるばかりだった。

    《琵琶行》癜居易

    挢字から聞こえる音楜


    それでは、少しず぀现かく芋おいきたす。

    たずは、癜居易に挔奏を頌たれた琵琶女が、挔奏前に調埋を始めるシヌンから。

    蜬 蜎 拚 匊 䞉 䞀 声 未 成 曲 调 先 有 情。
    匊の軞を回しお音を合わせ、軜く二、䞉床はじく。ただ曲が始たらないうちから、すでに深い感情が溢れ出しおいる。

    匊 匊 掩 抑 声 声 思 䌌 诉 平 生 䞍 埗 志。
    匊ごずに䜎く抑えた音を奏で、それぞれに思いが蟌められおいる。思い通りにいかない日頃の嘆きを語るかのようだ。

    䜎 眉 信 手 续 续 匹 诎 尜 心 䞭 无 限 事。
    眉を䌏せ、手に任せお次々に匟き、胞の䞭にあふれる思いを語り尜くそうずしおいるようでもある。

    蜻 拢 慢 撚 抹 倍 挑 初 䞺 霓 裳 后 六 幺。
    軜く抌さえ、ゆるやかにひねり、撫で、たた跳ねる。はじめは「霓裳矜衣げいしょううい」の雅やかな調べ、次には「六幺りくよう」の軜快な曲。

    ここは、音楜が始たる前の段階なので、ただ情景描写ずいったずころ。

    しかし、これだけの句を䜿っお、挔奏前の様子を描写しおいるこずが、この埌の物語に効いおきたす。

    調埋をしながらも、䜕か怚念のようなものが溢れ出おいるような琵琶女の描写は、続く琵琶の挔奏の凄みず重なり、読み手の興味をかきたおおくるのです。

    そしお、鬌気迫るような調埋を終え、静かに挔奏する曲名を䌝える琵琶女。

    「はじめは『霓裳矜衣』、぀づいお『六幺』を挔奏したす。」

    この「霓裳矜衣」ず「六幺」ですが、実は、珟代では、䞡曲ずも旋埋は倱われおいるようです。

    「霓裳矜衣」の方は、玄宗皇垝が楊貎劃のために䜜らせたずされる舞曲で、「六幺」の方は、軜快なリズムの曲だったずいうこずですが、今では、1200幎前の音楜を想像するしかありたせん。

    そしお、その前振りを経お、いよいよ挔奏が始たりたす。

    倧 匊 嘈 嘈 劂 急 雚 小 匊 切 切 劂 私 语。
    dà xián cáo cáo rú jí yǔ  xiǎo xián qiÚ qiÚ rú sÄ« yǔ
    倪い匊はざわめき、激しい雚のように鳎り、现い匊は切々ず、たるでひそやかな語らいのように響く。

    さお、ここからは、もし少しでも䞭囜語の知識がある方は、ぜひ拌音の音を読みながら芋おいただきたいです。

    「嘈」は“ツァオ”ず読みたす。
    珟代の声調だず、二声で、䞊に䞊がっおいくように読みたす。
    そしお、それを二぀重ねるず、「嘈嘈」は“ツァオツァオ”ずなりたす。

    「倪い匊は“ツァオツァオ”ずいう音を鳎らし、たるで激しい雚のようだ」

    それに察しお、「切」は、“チ゚”です。
    珟代の声調だず、四声で、思いっきり䞋がる音です。
    「切切」は、“チ゚チ゚”ず、歯切れ良く䞋がる音が䞊びたす。

    「现い匊は“チ゚チ゚”ずいう音を鳎らし、たるでひそひそ話のようだ」

    ここでの「嘈嘈」ず「切切」は、蚀わばオノマトペ。
    抑えた琵琶の匊の違いで、䜎い音ず高い音が鳎らされおいるこずが䌝わりたす。

    加えお、「激しい雚」ず「ひそひそ話」ずいう比喩を入れるこずで、読み手の頭には、激しい雚の喧隒ず、ひそひそ話の静寂が亀互に珟れたす。

    もう、この句だけで、琵琶女の䞍気味な描写から、䞀気に音のある䞖界ぞず匕き蟌むのです。

    嘈 嘈 切 切 错 杂 匹 倧 珠 小 珠 萜 玉 盘。
    cáo cáo qiÚ qiÚ cuò zá tán  dà zhÅ« xiǎo zhÅ« luò yù pán 。
    ざわめきずささやきが亀じり合い、倧小の真珠が玉の皿に散り萜ちるように音が匟ける。

    そしお、畳み掛けるように、この句。

    オノマトペ「嘈嘈」ず「切切」が「錯雑入り乱れる」しおいたす。

    ぀たり、䜎音ず高音、「激しい雚」ず「ひそひそ話」が、亀互に入れ替わる動きのある挔奏の䞖界を衚珟しおいたす。

    さらに、詩を朗読するず、「嘈嘈」「切切」を“ツァオツァオチ゚チ゚”ず繰り返すこずで、音のリズムを生み出したす。

    通垞、䞭囜の詩では、限られた文字数の䞭で同じ蚀葉を䜿っおリズムを厩すこずはしたせん。

    しかし、癜居易は、敢えお、前の句から匕き続き「嘈嘈」ず「切切」を倚甚するこずでリズムを生み、たるで挔奏を聎いおいるような気持ちにさせるのです。

    さらに圧巻なのは、癜居易はそれを「倧珠小珠萜玉盀」ず衚珟し盎したす。

    倚くの人は「倧小の真珠を皿に萜ずす」ずいう動䜜をしたこずはないず思いたすが、それでも、それを想像しおみるず聞こえおくる䞍揃いな音があるず思いたす。

    癜居易は、そんなむメヌゞを読み手の脳内に想起させ、耳だけではなく、芖芚的にも挔奏を聞かせおくるのです。

    ここでは、聎芚芖芚のダブルむメヌゞで、䞀気に臚堎感を高めおきたす。

    画像

    闎 关 莺 语 花 底 滑 幜 咜 泉 流 冰 䞋 隟。
    jiān guān yÄ«ng yǔ huā dǐ huá  yōu yÚ quán liú bÄ«ng xià nán
    花の䞋でりグむスが滑らかにさえずるような調べ、そしお氷の䞋をせき止められながら流れる泉のような、抌し殺した悲しみの音。

    この句からは、実際の挔奏にのっお、旋埋が次々に倉化しおいく様子が描写されおいきたす。

    そしお、この比喩がすごい。

    「花」「りグむス」ず聞いたら、䜕を思い浮かべたすか
    春の明るい庭で景色を愛でおいるような、そんな華やかなむメヌゞが思い浮かぶず思いたす。

    察しお、「氷」「泉」ずきたら、どうでしょう
    冬の寒さで凍り぀いた氷で、動きを止めおしたった冬の泉、そんな冬の閉ざされた暗いむメヌゞが湧いおくるず思いたす。

    「春の明るさ」ず、「冬の暗さ」の察比、そしお、それらを象城する「りグむスのさえずり」「氷の隙間から流れ出る氎の音」ずいう音を提瀺するこずで、曲の挔奏の䞭に含たれおいる、喜びず悲しみを読み手に䌝えおきたす。

    冰 泉 冷 涩 匊 凝 绝 凝 绝 䞍 通 声 暂 歇。
    bÄ«ng quán lěng sÚ xián níng jué  níng jué bù tōng shēng zàn xiē 。
    氷の泉が冷たくせき止められるように、匊は凍り぀いお途切れ、音はしばし消え倱せる。

    そしお、ここも圧巻。

    前の句で䜿った「氷」「泉」ずいう挢字を敢えお再び䜿うこずで、読むず、挔奏が続くように、詩が䞀぀の流れの䞭で続いおいるような感じを受けたす。

    さらに、冬の寒さで泉が凍ったように、匊が突然「凝絶途切れる」し、音が止たりたす。

    ず思ったら、次の句の冒頭も「凝絶」ではじたるので、挔奏が続くように音が止たった䜙韻を感じさせ、加えお、挔奏ず「凝絶」のメリハリを぀けおくるのです。

    别 有 幜 愁 暗 恚 生 歀 时 无 声 胜 有 声。
    bié yǒu yōu chóu àn hÚn shēng  cǐ shí wú shēng shÚng yǒu shēng
    するず、胞の奥深くに秘めた愁いや怚みが立ちのがり、沈黙を生む。この時、この沈黙こそがどんな音よりも雄匁に気持ちを語るのだ。

    そしお、ここの句

    この句を芋たら、癜居易の才胜の前に、以埌の文孊者たちが皆んな裞足で逃げ出したくなるず思うような倩才的な発想が蟌められた句です。

    ここたでの流れでは、「春のうぐいすのさえずり」から、「冬の凍った泉から抌し出される氎」ずいう暗い音に代わり、そのたた、凍り぀いたかのように匊を止めおいたした。

    そこに、癜居易は「别有幜愁暗恚生」ず、蚀葉にならないような匷い恚み぀らみを感じたす。

    挔奏の途䞭で、音を止める、䞀瞬の「間」。
    そこに立ち昇る怚念の炎。

    「歀時無声勝有声」

    この時、音のない沈黙は、どんな音にも優っおいる。

    癜居易は、こう断じたす。

    通垞は「音音楜」ずしお認識したすが、癜居易は無音そのものも音楜ずしお昇華し、それも琵琶女の挔奏の玠晎らしさの䞀぀ず讃えおいるのです。

    そしお、挔奏で生たれる音の玠晎らしさを衚珟するだけではなく、音がない沈黙にこそ芞術があるず蚀う逆転の発想を提瀺しおくるのです。

    さらに蚀うず、癜居易はこの衚珟で、琵琶女の挔奏における、高い音ず䜎い音、明るいリズムず暗いリズム、それに加えお動きず沈黙たで描写しおいたす。

    シヌンず静たり返った䞀瞬の静寂。
    琵琶女の怚念がグッず抌し殺されおいるような挆黒の間 。

    银 瓶 乍 砎 氎 浆 连 铁 骑 突 出 刀 枪 鞣。
    yín píng zhà pò shuǐ jiāng bÚng  tiě qí tÅ« chÅ« dāo qiāng míng 。
    突然、銀の瓶が割れお氎がほずばしるように音があふれ、甲冑を着た階銬兵が躍り出お刀槍を鳎らすような激しい響きが続く。

    そこを目掛けお䞀気に音が鳎り響きたす。

    銀の瓶がパリヌンず割れお、氎が蟺りに飛び散るように、䞀斉に音がほずばしっおきたす。

    この衚珟も、震えたす。

    静寂から琵琶の音が䞀気に鳎り響く様子を、銀の瓶が割れる比喩を芖芚的に提瀺しおくるこずで、読み手の頭にも䞀気に音が広がっおいきたす。

    しかも、䞭囜語では“zha”、“po”、“beng”ず匷い音で、勢いのある第四声で発音する挢字を䜿い、䞀気に読たせたす。

    ただ声に出しお読み䞊げるだけでも、急に音が匷くなったような印象を受けるのです。

    そしお、その埌に、ガシャガシャず、様々な音が入り乱れお盛り䞊がりを芋せおいく様を、今床は、戊堎の階銬兵たちが鉄の刀槍を鳎らしあっおいる様子で衚珟するこずで䌝えたす。

    どうですか

    ここでも、芖芚ず聎芚の重構造です。

    コップが割れお䞀気に氎が匟け飛ぶ様子、戊堎で階銬兵が刀や槍を鳎り響かせおいる様子、これを日本語で䌝えるだけでも、頭の䞭に、沈黙から䞀気に琵琶の音が鳎り響き、激しく挔奏が盛り䞊がっおいく音が聞こえおきたせんか

    曲 终 收 拚 圓 心 画 四 匊 䞀 声 劂 裂 垛。
    qǔ zhōng shōu bō dāng xÄ«n huà  sì xián yÄ« shēng rú liÚ bó
    曲の終わりに、撥を胞のあたりで収めるず、四本の匊が䞀床に鳎り、絹を裂くような鋭い音が響き枡る。

    そしお、挔奏はクラむマックスを迎えたす。

    ここで、癜居易は、䞀旊、挔奏を比喩で䟋えるのをやめ、琵琶女の姿に画面を切り替えたす。

    「曲終收抜圓心画撥を胞のあたりで払うように収める」

    ず、琵琶を匟く最埌の手の動きを映像的に切り取っおいたす。

    ここで、読み手は、目の前で琵琶女の手が止たるのを想像できたす。
    いわば、最埌の溜めです。

    そしお、䞀気に「四匊䞀声劂裂垛」ず党おの匊を開攟した匷烈な和音を、「絹を裂くような音」ずいう比喩ずずもに鳎らしおきたす。

    聎芚、芖芚に加えお、絹を割く手觊りのような觊芚たで䌝わっおくるようです。

    曲党䜓を締めくくり、党身に響く䞀撃を、このたった7文字で描写しきっおしたう癜居易。

    たるで亀響曲のフィナヌレのような構成です。

    䞜 船 西 舫 悄 无 蚀 唯 见 江 心 秋 月 癜。
    dōng chuán xÄ« fǎng qiǎo wú yán  wéi jiàn jiāng xÄ«n qiÅ« yuÚ bái 。
    い぀の間か集たっおいた東の船も西の船も、感動のあたり沈黙し、ただ川面に映る秋の月の癜さを芋぀めるばかりだった。

    玠晎らしい亀響楜団の挔奏を聞いた埌ずいうのは、たるで慣性の法則がはたらいおいるかのように、しばらくは䜙韻から冷められないものです。

    琵琶行を読んでいる読み手も、ここたで芖芚、聎芚、觊芚を䞊䞋巊右にブンブン振りたわされ、たるでゞェットコヌスタヌに乗った埌のように、心地よい疲劎感があるこずでしょう。

    もちろん、1200幎前に長江のほずりで、実際に琵琶女の挔奏に耳を傟けおいた人たちも党く同じです。

    皆、あたりに壮絶な挔奏に蚀葉も出ず、蟺り䞀垯がシヌンず静たり返っおしたいたした。

    ただ川面にきれいな月が揺らめいおいるだけだった 。

    いやぁ、本圓に、なんずいう衚珟でしょうか。

    比喩を甚いお目たぐるしく色んな情景を芋せ、その情景ごずに繰り出される様々な音を頭の䞭に溢れかえらせ、ごちゃごちゃになった脳内を沈静化させるように、スッず差し蟌たれる「川面に映る秋の月」。

    そしお、それは同時に、音楜の䞖界から、文孊の䞖界ぞず読者を匕き戻しおくる圹割も果たしおいるのです。

    本圓に玠晎らしい

    琵琶の音に銎染みの薄い珟代人ですら魅了しおしたうような癜居易の超絶テクです。

    これは、文孊に目芚めた平安貎族たちが教逊ずするのも玍埗。
    なんなら、この癜居易の才胜があったから、日本の文孊も倧きく飛躍したのではないかず勘ぐりたくなるほどの圧倒的な技巧。

    私自身は、専門家ではないので、感じられるのはこの皋床のこずですが、恐らく圓時の知識人や、珟代の挢詩の専門的な知識を持぀人だず、もっずもっず沢山のテクニックに気づくはずです。

    ただ、挢字ずいう数に限りがある文字を組み合わせお、ここたで音楜を衚珟できるずは。

    文孊ずは玠晎らしい

    少なくずも、少し䞭囜語を霧った皋床の自分には、ただひれ䌏すしかできない、そんな感動に包たれるのです。

    画像
    江西省「琵琶亭」にある《琵琶行》を再珟した暡型

    今回は、琵琶女の玠晎らしい挔奏ず、それを衚珟する癜居易の玠晎らしい超絶テクに぀いお玹介しおきたした。

    興奮をしおしたいたしお、文章が倧倉長くなっおしたいたした。
    ここたでお読みいただいおいる方がいらっしゃるのなら、本圓にお疲れ様でした。

    そしお、お付き合いいただき、誠にありがずうございたす。

    ただ、申し蚳ないこずに、《琵琶行》の本線は、ただただ続くので、このシリヌズはもう少し続かせおください。

    折角の機䌚なので、党郚吐き出しおおきたいですからね〜。

    次号の【癜居易・琵琶行】では、いよいよ、琵琶女の1人語りが始たりたす。

    怚念がこもったような鬌気迫る琵琶女の挔奏。
    琵琶女の孀独な境遇ずは 。

    どうぞ楜しみにお埅ちください。


    たた、この蚘事を気に入っおくださった方は、ぜひマガゞンのフォロヌもお願いしたす。


    ※こちらの蚘事でも癜居易や《琵琶行》に぀いお玹介しおいたす。

    《癜居易・琵琶行シリヌズ》
    【癜居易・琵琶行】地球をうたく歩けないなら──孀独にひびく共感の力

    【癜居易・琵琶行】䞖界ず぀ながれない倜に──暗闇にひびく琵琶の音

    【癜居易・琵琶行】挢字で奏でる音楜──平安貎族を魅了した癜楜倩の超絶技巧

    【癜居易・琵琶行】1200幎前の或る悩み──あなたの悩みは、あなただけのものではない

    【癜居易・琵琶行】語らぬこずが䌝える感動──なぜ癜居易の服は濡れおいたのか

    【癜居易・琵琶行 最終回】孀独の教科曞──“同是倩涯淪萜人”ずいう共感に救われる䞖界


    《関連蚘事》
    再䌚した挢詩に救われた話

    廬山をゆく──銀河の果おから降り泚ぐ滝ず遅れおきた春 【含鄱口・䞉叠泉・癜居易草堂】

    九江をゆく──癜居易の《琵琶行》ず呚瑜の点将台 【江西省_琵琶亭・煙氎亭】


     
     
    犏岡圚䜏䞭囜滞圚歎10幎䞭囜党省・自治区・盎蜄垂・特別行政区を螏砎。 『犏岡人、䞭囜をゆく』運営。 䞭囜、犏岡、東アゞアの街を歩きながら、歎史・挢詩・文化・食・人々の営みを綎っおいたす。 䞭囜ず犏岡、その぀ながりの䞭にある物語を探しおいたす。

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