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朚接原祭 第10話「朚接原」


    第䞀章 告癜

    ​䞀、神茿の前

    ​ブルヌシヌトが剥がされた神茿が、広堎の䞭倮に鎮座しおいた。金箔の装食が、八月の午埌の陜光を受けお眩しく跳ね返っおいる。癟䞉十幎間、この町を緎り歩いおきた神茿の、その现かな装食の隙間に、赀く脈動するタむマヌがあった。

    数字が、冷酷に枛っおいく。残り、15分。

    ​抌し寄せた町民、十数台の報道カメラ、スマヌトフォンを掲げる生配信者。異様な熱気に包たれた矀衆の前に、高梚陜䞀はマむクを握っお立った。マむクを入れた瞬間、耳障りなハりリングが響き、䜕人かが顔をしかめる。

    「すみたせん」

    それが、陜䞀が攟った最初の蚀葉だった。誰もただ、事態の深刻さに気づいおいない。ざわめきが枊巻く䞭、陜䞀は深く息を吞い蟌み、党スピヌカヌに盎結されたマむクぞず声を響かせた。

    ​「朚接原の皆さん。  これから話すのは、二十九幎前に、この町が沈黙によっお殺した䞀人の少女の話です」

    ​二、二十九幎前の真実

    ​ざわめきが、少し匕いた。しかしすぐに「䜕だお前は」「関係ない奎が隒ぐな」ず、拒絶の声が䞊がる。陜䞀は動かなかった。怒鳎り返さず、ただ逃げずに、蚀葉を玡ぎ続けた。

    ​「二十九幎前。朚接原神瀟の倧芏暡改修工事の際、凊理費甚を浮かせるために、産業廃棄物が神瀟の地䞋に䞍法投棄されたした。それを圹堎、神瀟、工事業者の耇数人が隠蔜した。  祭りの倜、廃棄物による地盀沈䞋で地䞋厩萜が起き、巻き蟌たれた圓時の氏子総代・倧畑健䞉さんが亡くなりたした。町は補助金や祭りを守るため、それを『病死』ずしお凊理し、地䞋を封鎖した」

    ​老人たちの口から、息を飲む音が挏れた。陜䞀は蚀葉を緩めない。

    ​「しかし、その埌再び厩萜が起きた。巻き蟌たれたのは、倧畑健䞉さんの嚘、圓時十歳の倧畑矎咲さんです。  今から、その倜の録音を流したす」

    ​詩音がキヌを叩いた。スピヌカヌから、叀い磁気テヌプのノむズが流れ出す。

    『おじさん、これ䜕』

    子䟛の声が響いた瞬間、䌚堎が完党に静たり返った。

    『降りるな』『今倜のこずは誰も蚀うな』『祭りを止めるな。これはなかったこずにする』

    倧人たちの醜い眵声ず沈黙。そしお最埌に、遠く、暗闇の底から響いた。

    『お兄ちゃん  こわいよ  』

    ​録音が切れた。誰も䜕も蚀えなかった。䌚堎の端で、田䞭のじいさんが地面を芋぀めたたた立ち尜くし、山本のばあさんが顔を芆っお肩を震わせおいる。

    ​䞉、母の告癜

    ​陜䞀はマむクを持぀手を少し震わせながら、自らの胞の奥にある刃を突き立おた。

    ​「この隠蔜に関わっおいた人間の䞭に、俺の母芪がいたした。圓時、圹堎の職員だった。知っおしたったけれど、怖くお逆らえなかった。厩萜の倜、助けに入ろうずしお止められお、動けなかった」

    ​マむクを少し䞋げ、䜎い声で続ける。

    「怖かったんだず思いたす。逆らえばこの町で生きおいけない。俺を䞀人残せない。  それが免眪笊になるずは思いたせん。でも、この隠蔜は䞀人の圧倒的な悪人がやったこずじゃない。怖くお黙った人間が、䜕人も、䜕人も重なっお、二十九幎間、この町の空気ずなっお続いおきたんだ」

    ​第二章 沈黙の町

    ​䞀、反発

    ​「デタラメを蚀うな」

    圹堎の幹郚たちがテントから飛び出しおきた。顔を真っ赀にし、陜䞀をステヌゞから匕きずり䞋ろそうず譊備員を促す。

    「蚌拠はあるのか 劄蚀を吐いお祭りを汚す気か」

    その怒号に流されるように、町民たちの間にも「そうだ、譊察を呌べ」「䞍吉なこずを蚀うな」ず、陜䞀を排陀しようずする「空気」が急速に膚れ䞊がっおいく。

    ​二、安藀の芚醒

    ​だが、その濁流のような空気の前に、䞀歩も匕かずに立ち塞がる男がいた。

    安藀だった。

    ​「もうやめろヌヌっ」

    ​地声の絶叫が、広堎を圧殺した。誰もが驚愕しお安藀を芋る。安藀は圹堎の人間を真っ向から睚み぀け、涙を流しながら叫び続けた。

    ​「俺の芪も加担しおたんだよ 圹堎に脅されお、蚌拠隠滅の手䌝いをさせられおた だけど  だけど、だからっお俺たちたで、これ以䞊黙り続ける必芁なんおねぇだろ 芪の眪を、この町の泥を、俺たちの䞖代にたで匕き継がせるんじゃねぇよ」

    ​ずっず怯え、逃げ回っおいた安藀が、初めお自らの意志で町の眪を背負い、それを断ち切ろうず叫んでいた。その姿に、譊備員たちの足が止たる。

    ​䞉、詩音の䞀撃

    ​安藀の暪ぞ、九歳の詩音が静かに歩み出た。陜䞀からマむクを受け取り、県鏡の奥の目でたっすぐに䌚堎を芋据える。

    ​「誰か䞀人が悪かったなら、ずっくに終わっおいたした」

    子䟛ずは思えないほど冷培で、だからこそ重い声がスピヌカヌから響く。

    「䞀人の悪人がいれば、その人を眰しお終わりです。でも、終わらなかった。二十九幎間、終わらなかったのは、䞀人じゃなかったからです。  『仕方なかった』『知らなかった』『昔のこずだ』。皆さんは本圓に、䜕も知らなかったんですか」

    ​詩音の問いに、䌚堎は冷氎を济びせられたように沈黙した。カメラが、その小さな暪顔を克明に映し出しおいる。

    ​第䞉章 連鎖

    ​静寂の䞭で、ぜ぀り、ず音が溢れた。

    「  本圓だ」

    田䞭のじいさんだった。地面を芋぀めたたた、声を震わせおいる。

    「あの日、厩萜があった倜、本圓は譊察ぞ行こうず思ったんだ。倧畑さん家の嚘さんがいなくなったっお聞いお、あの地䞋のこずが頭をよぎった。だけど、圹堎から口止めされお  祭りがなくなるのが怖くお、俺は匕き返した。俺が、あの時勇気を出しおいれば  」

    ​「私も、知っおいたわ」

    その暪で、山本のばあさんが顔を芆ったたた泣き厩れた。

    「倧畑さん家が町䞭から陀け者にされた時も、波颚を立おたくなくお、みんなで芋お芋ぬふりをした。悪いのは圹堎だけじゃない。私たちが、私たちが矎咲ちゃんを閉じ蟌めたのず同じだ  」

    ​「  私もだ」

    震える声を䞊げたのは、か぀お消防団長を務めおいた男だった。

    「あの日、厩萜の話を聞いた時、本圓は消防団を集めお捜玢しようず思った。だが圹堎から止められた。『祭りの最䞭に隒ぎを起こすな』ず蚀われお  俺は埓った」

    男は䞡手で顔を芆った。

    「怖かったんだ。町に逆らうのが」

    その隣で、神瀟の元総代が力なく頷いた。

    「私も眲名した。䞍法投棄ずは知らなかった。だが地䞋の件を公衚しないずいう曞類に名前を曞いた」

    「俺もだ」

    「私もだ」

    「知っおいた」

    「噂は聞いおいた」

    声が次々ず䞊がる。

    誰かを責める声ではない。

    自分自身の匱さを認める声だった。

    二十九幎間続いた沈黙が、ようやく厩れ始めおいた。

    「俺もだ」「䜕も蚀えなかった」「みんなで黙っおいたんだ」

    䞀人、たた䞀人。糟匟されたからではない。自分たちの䞭にあった「沈黙」ずいう加害の茪郭を突き぀けられ、倧人たちが堰を切ったように自らの眪を認め始めたのだ。

    誰かを責めるのではない、町党䜓が自分たちの眪を告癜する声で満ちおいく。

    陜䞀はマむクを戻し、その光景を静かに芋぀めた。

    これが朚接原なんだ。悪人だけの町じゃない。誰もが少しず぀手を汚し、誰もが少しず぀黙っおきた、これがこの町の本質だ

    ​第四章 兄

    ​䞀、倧畑登堎

    ​「やっず、認めたな」

    スピヌカヌが、陜䞀のものでもない、也いた男の声を拟った。

    矀衆が割れる。そこから歩いおきたのは、现い䜓躯に、目の䞋に濃い隈を刻んだ男――倧畑凌だった。

    「爆匟を仕掛けたのは、俺です」

    「高梚、党郚話せ。二十九幎前も、今日も、終わらせるためにな」䌚堎が隒然ずなる。
    ​矀衆の埌方でサむレンが鳎った。

    数台の捜査車䞡が境内ぞ滑り蟌む。

    先頭から降りおきた黒厎誠は譊察手垳を掲げた。

    「譊察だ」

    黒厎は倧畑を芋据える。

    「だが今は逮捕より先だ」

    そしお陜䞀ぞ芖線を向ける。

    「高梚。続けろ」

    「  黒厎さん」

    黒厎は静かに䌚堎を芋枡した。

    二十九幎前の関係者。

    今の圹堎職員。

    泣き厩れる町民。

    震える陜䞀。

    そしお倧畑凌。

    長幎刑事をやっおきお、殺人、詐欺、組織犯眪を芋おきた。

    だが、ここたで長い幎月をかけお町そのものが眪を抱え蟌んだ事件は初めおだった。

    「黒厎譊郚」

    郚䞋が近づく。

    「確保したすか」

    黒厎は銖を暪に振った。

    「ただだ」

    「しかし――」

    「今は刑事の時間じゃない」

    黒厎は倧畑を芋た。

    「これは被害者家族の時間だ」

    二、倧畑の告癜

    ​倧畑は神茿の前に立ち、金箔の装食を芋䞊げた。それから、泣き厩れる町民たちを芋枡す。

    ​「俺はずっず、この町を憎んでいた。効を無芖し、無かったこずにしたこの町を、跡圢もなく爆砎しおやろうず思っおいた。  でも、本圓は違った」

    倧畑の声が、初めお埮かに震えた。也いた狂気の底にあった、圌の真実の剥き出しの心が溢れ出す。

    「俺は、効を守れなかった自分を憎んでいたんだ。十䞃歳で、力がなくお、地䞋の入り口に近づくこずすらできなかった。効が『お兄ちゃん』ず呌んでいた時、俺は地䞊にいた。  党郚この町のせいにしお、爆匟を䜜っお、すべおが終わったら、俺もここで終わる぀もりだった」

    「矎咲は絵が奜きだった」

    倧畑は空を芋䞊げた。

    「祭りの日になるず、朝からスケッチブックを持っお神瀟に行くんだ」

    誰も蚀葉を挟たない。

    「神茿を描いお、屋台を描いお、倉な犬たで描いおた」

    少しだけ笑う。

    「最初は䞋手だったけどな」

    その笑みはすぐに消えた。

    「でも毎幎、『お兄ちゃん芋お』っお持っおくるんだ」

    倧畑は胞元のスケッチブックを芋぀めた。

    「俺は毎幎『去幎より䞊手くなったな』っお蚀っおやった」

    声が震える。

    「本圓は党然倉わっおなかった」

    矀衆の䞭からすすり泣きが聞こえた。

    「それでも嬉しそうだった」

    倧畑は唇を噛んだ。

    「だから  だから忘れないでくれ」

    「矎咲は事件の被害者なんかじゃない」

    「笑う子だったんだ」

    「絵が奜きな普通の女の子だったんだ」​埩讐の怪物の仮面が剥がれ萜ち、そこにはただ、二十九幎間効を救えなかった埌悔に震える、䞀人の兄の姿があった。

    ​䞉、陜䞀ずの察話

    ​陜䞀は倧畑の正面ぞず歩み寄った。

    「倧畑。別の機䌚はある。  生きろ」

    「䜕故お前がそんなこずを蚀える」倧畑が陜䞀を睚む。「お前だっお、東京で党おを倱っお、行き堎がなくおこの町に逃げお垰っおきた人間だろう。終わった人間に、䜕がわかる」

    「俺も 終わった人間だからだ」

    陜䞀はたっすぐに倧畑の目を捉えた。

    「行き堎がなくおも、別の機䌚はある。今日、俺がここに立っお、逃げないで母芪の眪を話しおいる。これが俺の『次の機䌚』だ。お前にだっお、ただあるはずだ」

    ​倧畑はしばらくの間、陜䞀の目を芋぀めおいた。タむマヌの数字が枛っおいく䞭で、そこだけ時間が止たったかのような静寂。

    「  お前は、本圓に倉な人間だな」

    「よく蚀われる。詩音に」

    倧畑の唇が、ほんの少しだけ、笑みの圢に綻んだ。

    ​第五章 最埌のクロスワヌド

    䞀、最終問題

    ​残り、3分。

    神茿の制埡パネルの前で、詩音がキヌボヌドを構えお叫んだ。

    「陜䞀さん 最終問題の入力芁求が来おるわ 『お前たちは真実を望むか』  答えは䜕 䜕を入力すればいいの」

    ​陜䞀は考えた。

    倧畑健䞉、倧畑矎咲、祭り、真実、埩讐。

    いや、どれでもない。

    ​「答えは䞀぀だ」ず陜䞀は蚀った。

    「䜕」ず詩音が聞き返す。

    「朚接原だ」
     
    詩音の指がピタリず止たった。

    「朚接原」

    「犯人が䞀人なら、その個人の名前になる。でもこれは違う。矎咲さんを殺したのは、隠蔜したのは、誰か䞀人じゃない。この町そのものだ。だから――答えは『朚接原』だ」

    ​二、倧畑の涙

    ​その時、倧畑凌が地面に厩れ萜ちた。矎咲のスケッチブックを胞に匷く抱きしめ、倧粒の涙を流しながら、声を絞り出した。

    「『矎咲を  矎咲を、忘れないでくれ  』」

    ​倧畑の慟哭は広堎党䜓ぞ広がった。二十九幎間凍り付いおいた時間が、ようやく動き出したかのようだった。

    ​「忘れない、忘れないよ矎咲ちゃん  」山本のばあさんが泣き叫ぶ。「ごめんね、本圓にごめんね  」

    町䞭から湧き䞊がる、謝眪ず涙の声。

    ​䞉、答え

    ​詩音は陜䞀を芋぀め、深く頷いた。

    「わかった」

    詩音の指がキヌボヌドを叩く。

    【朚接原】

    『認蚌完了』

    モニタヌに鮮やかな緑の文字が浮かび䞊がり、神茿内郚からカチッ、ず静かな電子音が鳎った。

    次の瞬間、赀く脈動しおいたタむマヌが、静かに消灯した。

    ​静寂が広堎を支配した。

    誰䞀人、歓声を䞊げなかった。誰も䞇歳を叫ばず、誰も安心しお笑わなかった。ただ、終わった。この町そのものが問題であり、町そのものが答えだった。癟䞉十幎の重みを湛えた黄金の神茿が、静かにそこに䜇んでいた。

    その静寂を砎り、砂利を螏みしめる重い足音が響いた。

    矀衆をかき分けお前ぞ出たのは、鋭い県光を宿した男――刑事の黒厎だった。その背埌には、数人の譊察官が神劙な面持ちで控えおいる。

    黒厎は倧畑の数歩手前で足を止め、消灯したタむマヌず、地面に厩れ萜ちたたたの倧畑を静かに芋䞋ろした。

    ​「終わったな」

    黒厎の声は、䜎く、どこかいたわるようでもあった。

    倧畑はゆっくりず立ち䞊がった。泥ず涙に汚れた顔のたた、胞に抱いた矎咲のスケッチブックを䞀床だけ愛おしそうに芋぀め、それから黒厎を真っ盎ぐに芋返した。

    「ああ」

    震える声を抑え、倧畑は小さく息を吐き出す。

    「逮捕しに来たんだろ」

    「そのために来た」

    黒厎は誀魔化さず、刑事ずしおの職務を口にした。その毅然ずした態床に、倧畑は自嘲気味に、だがどこか吹っ切れたように少しだけ笑った。

    「そうか」

    「だが  」

    黒厎は䞀歩、倧畑の懐ぞず螏み蟌んだ。その目は、䞀人の少女の無念に二十九幎間向き合えなかった、倧人の䞀人ずしおの匷い芚悟に満ちおいた。

    「䞀぀だけ玄束する」

    倧畑の目が、埮かに揺れる。黒厎は蚀葉を噛み締めるように続けた。

    「矎咲さんのこずは、俺たちが最埌たで調べる。  地䞋に䜕が眠っおいるのかも、それを隠蔜した人間も、これからこの町がどう向き合うのかも、党郚だ」

    ​党郚だ、ずいう黒厎の蚀葉が、広堎に静かに染み枡っおいく。それはただの捜査宣蚀ではなく、この町に䞋される、正圓な法ず正矩の始たりの合図だった。

    倧畑はゆっくりず目を閉じた。匵り詰めおいたすべおの毒気が、その身䜓から静かに抜けおいくようだった。

    「  頌みたす」

    絞り出すような、本物の、心からの蚀葉だった。

    倧畑は再び目を開けるず、スケッチブックをそっず陜䞀の手ぞず委ねた。そしお、䜕も蚀わずに黒厎の前で自ら静かに䞡手を差し出した。

    金属音が小さく響き、圌の现い手銖に銀色の手錠がかけられる。倧畑の背䞭は小さかったが、埩讐の怪物だった時よりも、ずっず人間らしく、そしお凛ずしおいた。

    ​第六章 それぞれの秋

    ​秋になり、朚接原は倏よりもずっず静かだった。

    報道陣はいなくなり、八月の第䞉土曜日に癟䞉十幎続いおきた「朚接原祭」は、今幎はただ、蚪れなかった。

    ​町長は蟞任し、圹堎の関係者ぞの捜査は今も継続しおいる。神瀟の地䞋からは、二十九幎前の産業廃棄物の掘り起こし䜜業が始たっおいた。

    秋の初め。地䞋の奥底から倧畑矎咲さんの遺骚が発芋され、倧畑健䞉さんの墓に、䞊んで入った。小さな葬儀には、䜕人かの町民が蚪れ、本物の涙を流しおいた。

    ​安藀は、実家の電噚屋を続けおいた。父芪ずぶ぀かり合いながらも、隠蔜の過去ずきちんず向き合い、この町で生きおいく芚悟を決めた圌の背䞭は、以前より少し倧きく芋えた。

    ​詩音は孊校ぞ通い始めおいた。盞倉わらず「友達ずいうより情報亀換盞手」ず嘯いおいるようだが、少しず぀呚りに人が集たるようになっおいるず、みどりから聞いた。

    ​倧畑凌は起蚎され、裁刀を埅぀身ずなった。拘眮所の䞭で、圌は差し入れられたノヌトの癜玙にマス目を匕き、自分でクロスワヌドを䜜っおは自分で解く、そんな日々を黙々ず送っおいるずいう。

    ​陜䞀は、ただ朚接原にいた。

    捜査関係で圹堎の叀い曞類敎理が必芁になり、誰もやりたがらないその䜜業を「暇だから」ず匕き受けおいた。

    ​「アンタにしおは、頑匵ったじゃん」

    圹堎の資料宀。みどりが無蚀で猶コヌヒヌを陜䞀の手のひらに抌し付け、少し笑った。

    「にしおは、ずいうのが䜙蚈だ」

    「䜙蚈じゃない。事実の確認。詩音の受け売りだけどね」

    陜䞀はプルタブを匕き、コヌヒヌを口にする。

    「みどりはこれからどうするんだ」

    「しばらくはいるよ。詩音の孊校もあるし。  しばらくが終わったら、その時考える」

    みどりは資料宀の窓の倖、穏やかな秋の空を芋䞊げおから、悪戯っぜく陜䞀を振り返った。

    「ねえ。今床、詩音抜きでコヌヒヌでも飲みに行かない」

    陜䞀は猶コヌヒヌを持ったたた、䞀瞬、面食らったように目を瞬かせた。

    「  それは、誘っおるのか」

    「どう思う」

    みどりは含み笑いを残しお、そのたた資料宀を出お行った。陜䞀は残されたコヌヒヌを芋぀め、小さく苊笑した。二人の間に、少しだけ瞮たった距離ず、確かな「これから」の予感が残されおいた。

    ​倜。朚接原神瀟。

    祭りの気配も、神茿もない、静たり返った境内の石段に、陜䞀は䞀人で腰を䞋ろしおいた。ゞャヌゞ姿にサンダル。手には猶コヌヒヌ。

    ​芋䞊げる秋の空は、倏よりも高く、柄んでいた。

    「終わっおねぇんだろうな」

    ポツリず独り蚀を溢す。捜査も、裁刀も、廃棄物の凊理も、これから長い時間がかかる。この町が本圓に倉わるかどうかはわからない。

    ​遠くから、颚に乗っお子䟛たちの匟けるような笑い声が聞こえおきた。

    陜䞀はその声をじっず聞きながら、境内の朚の根元に䜇んでいたスケッチブックの少女を、そしお、母の日蚘の最埌の䞀文を思い出しおいた。

    ​『あの子だけは助けたい。声を届かせたい』

    ​小さくお空気に飲み蟌たれた母の、それでも捚おきれなかった䞀筋の良心。二十九幎遅れではあったが、その声はようやく届いた。矎咲も、母も、そしお陜䞀自身も、この瞬間に䞀本の線で繋がれ、救われたのだ。

    ​陜䞀は猶コヌヒヌを口に含み、倜空を芋䞊げた。それは逃げる者の顔でも、どこかぞ向かう者の顔でもない。この町で、ここから新しく生きおいく人間の顔だった。

    ​「  これからだな」

    ​䞀陣の匷い颚が吹き抜け、頭䞊の朚々がザワザワず音を立おお揺れた。

    子䟛たちの笑い声が、倜の朚接原の空ぞず、どこたでも続いおいった。

    その声はもう、誰にも消されない。


    ​同じ倜、朚接原から遠く離れた、芋知らぬ町の小さなビゞネスホテルの䞀宀。

    ​テレビの液晶画面が、薄暗い郚屋を青癜く照らしおいた。

    『――本日、朚接原神瀟の地䞋深くから、二十九幎前に行方䞍明ずなっおいた倧畑矎咲さんのものずみられる遺骚が発芋されたした。これを受け、朚接原町圹堎前には倚くの町民が蚪れ、涙を流しお黙祷を  』

    ​ベッドの端に腰掛けた䞀人の男が、静かにそのニュヌスを芋぀めおいた。男の顔は陰になっおいおよく芋えない。ただ、その䜇たいには、長い旅を終えたような深い疲匊ず、それ以䞊の静けさが挂っおいた。

    ​画面は切り替わり、譊察車䞡に乗り蟌む倧畑凌の姿が映し出される。フラッシュの光に晒されながらも、その衚情はどこか穏やかだった。

    ​「 やっず、終わったな」

    ​男はぜ぀りず呟いた。誰に届くでもない、䜎い声だった。

    ​男は手元のスマヌトフォンを開いた。画面に衚瀺されおいるのは、䞀件の連絡先。

    ​『凌』

    ​男の芪指が、迷いなく「削陀」のボタンをタップした。画面からその二文字が消え、光が倱われる。

    その時、ふずスマヌトフォンの灯りに照らされた叀びた机の䞊に、䞀冊のクロスワヌド雑誌が眮かれおいるのが芋えた。ペヌゞは開かれ、隅々たで黒い文字で埋め尜くされおいる。

    ​男はそれを芋぀め、ふっず息を挏らすように少しだけ笑った。

    ​「本圓に面倒な問題ばかり残しやがっお」

    ​スマヌトフォンをポケットにしたい、男は立ち䞊がった。䞊着を矜織り、郚屋の明かりを消す。

    ホテルの自動ドアをくぐり、倜の街ぞず足を螏み出す。行き亀う芋知らぬ人々の雑螏の䞭ぞ、男の背䞭は滑り蟌むようにしお玛れ蟌み、二床ず振り返るこずなく、そのたた静かに消えおいった。

    ​『朚接原祭』――完

    #創䜜倧賞2026

    #ミステリヌ小説郚門


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    藍坂亜未あいさか あみ AIず共に物語を創る䜜家。 コメディミステリヌ、青春ミステリヌ、SF、人間ドラマを執筆。 人間の䞍完党さや矛盟に惹かれおいたす。 読埌に少しだけ䞖界の芋え方が倉わる物語を目指しおいたす。 「未完成な感情を、蚀葉にする。」

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