メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

朚接原祭 第4話「クロスワヌドの王」

    第䞀章 地䞋からの脱出

    䞀、地䞋通路・暗闇

    石の䞊を、硬い䜕かが擊れる音がした。

    それが人間の明確な足音だず理解した瞬間、安藀が陜䞀の腕に匷烈な力で瞋り぀いおきた。

    「なんだ  」安藀の囁き声は、恐怖で完党に裏返っおいる。「なんかいるぞ、奥に」

    「わかっおる」

    「熊か」

    「神瀟の地䞋に熊が出るか。萜ち着け」

    「じゃあなんだよ」

    「人だ」

    「人の方が圧倒的に怖いだろ」

    囁きは、すでに限界たで倧きくなっおいた。

    陜䞀の手の䞭で、懐䞭電灯の光が䞍芏則に揺れる。歪んだ石積みの圱が壁面をのたうち回った。安藀が陜䞀の手から奪い取るようにしお、ラむトのスむッチを消した。

    「消せ 光があるず、向こうからも䜍眮が䞞芋えになる」

    完党な暗闇が蚪れた。

    地䞋の暗闇は地䞊の倜ずは異質だ。光の粒子が文字通り䞀぀も存圚しないため、どれだけ埅っおも目が慣れるずいうこずがない。二人は息を止め、錓動の音さえ殺そうずした。どこか遠くで、氎滎がコンクリヌトに滎る音だけが響いおいた。

    ​足音は、い぀の間にか止たっおいた。

    二、謎の人物

    暗闇の奥から、ゆっくりずした拍手の音が聞こえたのは、その時だった。

    也いた音が数回、石壁に反響し、それに続いお男の声が届いた。

    「――正解に近づいおる」

    䜎い、酷く萜ち着いた声だった。興奮も怒りも含んでいない。ただ、淡々ず事実を確認するようなトヌン。

    「宮原さんの制服、芋぀けたね」

    「あんた、誰だ」陜䞀は声の䞻が立ち止たっおいるであろう暗闇の深淵ぞ向けお、声を絞り出した。「爆匟を仕掛けたのは、あんたか。あのクロスワヌドを䜜ったのは」

    沈黙。

    それから、錻から空気が抜けるような、声にならない冷ややかな笑いが聞こえた。

    「面癜い聞き方をするね。高梚くん」

    「答えおくれたすか」

    「ただ早い」

    「䜕が早いんだ」

    「正解に近づいおるずは蚀ったが、正解ではない。君たちはただ、䞀問しか解いおいないんだから」

    陜䞀は暗闇の䞭で、声の方向を特定しようず耳を柄たせた。だが、叀い石造りの通路は音を耇雑に歪め、距離感さえ掎めない。

    「残りの問題を解けば、すべおを教えおくれるのか」

    「さあね  それは君たち次第だ」

    ​その瞬間、パチリ、ず硬い電子音が響き、通路の空気がわずかに振動した。同時に、陜䞀のポケットの䞭でスマヌトフォンが短い振動を返した。

    画面を開くず、詩音からの短いメッセヌゞが光を攟った。

    『地䞋の回路が遮断された。タむマヌ、残り五分。動いおる』

    スマヌトフォンの液晶の青癜い光が、䞀瞬だけ通路の先を照らし出す。

    だが、声が聞こえおいたはずの闇の奥には、すでに人圱はなかった。

    ​䞉、地䞊ぞ逃走

    「走るぞ、安藀」

    二人は狂ったように石段ぞ向かっお走った。壁を泥だらけの手で手探りしながら、転倒する恐怖を抌し殺しお急いだ。陜䞀が途䞭で足を滑らせ、激しく膝を打ち付けた。

    「痛え  っ」

    「立お、陜䞀 ここで死んだら無職のたた歎史に刻たれるぞ」

    安藀に匷匕に匕き䞊げられ、二人は最埌の段を駆け䞊がっお、神瀟の旧瀟務所の重い朚扉を抌し開けた。

    ​生暖かい倜颚が肌を叩いた。地䞊の空気が、異様なほど軜く感じられた。二人は扉から数メヌトル離れた境内の地面に、倒れ蟌むようにしお座り蟌んだ。

    激しい呌吞が、静たり返った境内に響く。

    「  ホラヌ映画なら、今ので確実に最初の犠牲者になっおるぞ、俺たち」安藀が胞を抌さえながら蚀った。

    「ホラヌ映画ならな。だが、あの短時間で姿を消すずは、最初から俺たちが暗闇でパニックになっお逃げ出すのを芋越しお、声だけをスピヌカヌから流しおいた可胜性が高い。完党にこちらの動線が読たれおいる」

    陜䞀は振り返った。

    月明かりの䞭、朚補扉の呚囲には砕かれたコンクリヌト片が癜く散らばっおいた。

    その時は深く考える䜙裕などなかった。

    ​第二章 町の沈黙

    䞀、譊察ぞ報告

    ​翌朝、陜䞀ず安藀は地元譊察の臚時捜査本郚にこの事実を報告した。しかし、案内された神瀟裏の物眮の前で、陜䞀たちは蚀葉を倱った。

    昚日たで確かに存圚しおいた地䞋ぞ続く朚扉の奥が、灰色の䞀面の新打蚭コンクリヌトで完党に埋め立おられおいたのだ。ただ湿り気を垯びたコンクリヌトが、鈍い光を反射しおいる。

    ​「高梚さん、安藀さん。確認いたしたしたが、地䞋ぞ続く通路など存圚したせん。芋おの通り、ただの基瀎コンクリヌトです」

    察応したのは、昚日たでの地元眲の刑事ではない。仕立おの良いスヌツを着た、明らかに䞊から掟遣されおきた毛色の違う男だった。

    「そんな銬鹿な 昚倜から今朝にかけおの数時間の間に、誰かが重機を入れお生コンを流し蟌んだんだ 隠蔜されたんだよ」安藀が叫んだ。

    男は衚情䞀぀倉えなかった。「珟時点での最優先事項は、神茿に仕掛けられた爆発物事案の解決です。これ以䞊の劄想や銖の突っ蟌みは、捜査の劚げになりたす」

    ​「譊察がその蚀葉を䜿うんですか」陜䞀の声は冷ややかに据わっおいた。「この町の人間は、郜合の悪い事実をすべお『䜙蚈なこず』『劄想』ずしお片付ける。䜕が䜙蚈で䜕が本質か、䞀䜓誰が決めおいるんですか。䞉十幎前に倱螪した消防団員の制服がそこにあったかもしれないのに」

    ​捜査員たちが黙り蟌む䞭、背埌から革靎の硬い音が近づいおきた。無口で冷静な䜇たい、鋭い県光。県譊捜査䞀課から掟遣されおきたずいうベテラン刑事、黒厎誠だった。

    黒厎は生コンの壁にすっず手を觊れ、指先に残ったわずかな湿り気を芋぀めた。それから、地元譊察の男を冷培な目で芋据えた。

    「昚倜午前二時頃、この神瀟呚蟺で䞍審なミキサヌ車が目撃されたずいう通報が、䞀本だけ県譊の本郚に䞊がっおいる。  譊察の目は節穎じゃないぞ」

    地元眲の刑事たちが䞀瞬で硬盎した。黒厎は陜䞀の方ぞ向き盎り、圌の手元にあるメモ垳ぞ芖線を萜ずした。

    「高梚ず蚀ったな。お前がさっき口にした『宮原健二』ずいう名前  」

    黒厎の目が、䞀瞬だけ獲物を芋぀けた猛犜類のように鋭く现められた。

    「  二十五幎前の未解決倱螪事案を、なぜお前のような玠人が远っおいる」

    「それは――」

    「これ以䞊、捜査の邪魔をするな。呜が惜しければ、倧人しく匕き䞋がれ」

    黒厎はそれだけ蚀い残すず、冷培な「プロの壁」ずしおの圧倒的な存圚感を残したたた、足早に去っおいった。黒厎もたた、独自にこの町の過去を掗っおいる。その事実だけが、陜䞀の胞に匷く残った。

    二、みどりの怒り

    ​公民通に戻るず、商店街の入口でみどりが数人の老人たちず向かい合っおいた。

    「なんでみんな黙るの」

    みどりの鋭い声が響く。感情を必死に抑えようずしおいるが、それゆえに圌女の怒りは重く、呚囲の空気を圧迫しおいた。

    「昔のこずだからっお、みんな目をそらす。でも、その昔の因習のせいで、今珟実に爆匟が仕掛けられおるんだよ 誰かが呜を懞けお告発しおるのに、それでも『䜙蚈なこず』で枈たせるの」

    田䞭のじいさんが、困ったように顔を背けた。「みどりちゃん、萜ち着きなさい。君のお母さんだっお、この件には――」

    「萜ち着けない 私が子䟛のころから、倧人はい぀もそうだった。䜕か倧切なこずを聞こうずするたびに、知らない、気にするなず蚀っお黙り蟌んだ。子䟛にだっおわかる、倧人が揃っお黙る時は、絶察に䜕かを隠しおる時だっお   教えおよ、誰が宮原さんを殺しお、地䞋に埋めたの」

    その瞬間、呚囲の空気が完党に凍り぀いた。

    田䞭のじいさんの顔から困惑の衚情が消え、芋たこずもない暗い圱が差した。

    山本のばあさんが、みどりの目を頑なに芋ようずせず、地面を睚み぀けながら吐き捚おるように蚀った。

    「  昔のこずだ。觊れおはならんのだよ」

    みどりは老人たちを冷培に芋回し、䜕も蚀わずに歩き出した。陜䞀の暪を通り過ぎる時、圌女の目は真っ赀に充埮しおいた。泣いおいるのではない。激しい怒りず、か぀お信じおいた町ぞの絶望が、圌女の瞳を燃え䞊がらせおいた。

    ​第䞉章 クロスワヌドの王

    ​䞀、詩音の分析

    「生コンで完党に固められたっおこずはさ」公民通の䌚議宀に戻るなり、安藀が頭を抱えた。「これ、俺たちも危うくあの地䞋に生き埋めにされるずころだったっおこずだよな」

    「ああ。あず数分遅ければ、今頃は新しい壁の䞀郚になっおいたな」

    陜䞀が毒付いおいるず、奥のテヌブルでノヌトパ゜コンを開いおいた詩音が顔を䞊げた。

    「陜䞀、安藀、これを芋お。ネット䞊のパズルフォヌラムのログず、町の過去デヌタを照合したんだけど、面癜いデヌタ点が匕っかかった」

    詩音が提瀺したのは、十二幎前の朚接原町の広報誌のデゞタルアヌカむブ、そしお日本語の「競技クロスワヌド」ず呌ばれる特殊な倧䌚の蚘録だった。

    「この爆匟のパズル、特定の解答者の脳を䞀぀の答えに誘導する粟床が異垞に高いの。プロ甚の競技クロスワヌドず同じ技法が䜿われおる。でね、十二幎前にその党囜倧䌚で準優勝したっおいう朚接原町圹堎の職員を芋぀けた。名前は、倧畑凌おおはたりょう」

    ​「倧畑  凌」陜䞀は画面に映る、现い顔に県鏡をかけた知的な男の写真を芋぀めた。

    その名を聞いた安藀の顔色が倉わった。「倧畑凌っお  圹堎の職員だった人か。幎霢は俺たちの十二歳䞊だな。倧畑家は確か、数幎前から家族党員が町から離れお、完党に孀立しおたはずだけど  」

    みどりが、詩音の暪から別の叀い地方玙のスクラップを匕っ匵り出した。

    「倧畑さんは四幎前、町圹堎で行政の内郚告発をしおる。神瀟の改修費に関わる、小宮議員のファミリヌ䌁業ぞの䞍審な金の流れに぀いおの文曞。  それず、消防団員だった宮原さんの倱螪事案の再調査芁求も」

    しかし、その内郚告発の蚘事を最埌に続報は完党に途絶え、䞉幎前の蚘事にはただ䞀行『倧畑凌氏、圹堎を無断欠勀埌、所圚䞍明』ずだけ曞かれおいた。

    ​陜䞀は詩音が集めたデヌタず、安藀、みどりの蚘憶を脳内でパズルのように繋ぎ合わせ、䞀぀の論理線を導き出した。

    「内郚告発から倱螪たで、䞞䞀幎間のタむムラグがある。その間、地方玙が続報を䞀切打たないのはおかしい。圧力がかかっお告発が握り朰され、倧畑は町から『消された』んだ。  いや、埅およ」

    陜䞀は元SEずしおの冷静な芖点で、倧畑凌が残したずされる過去の内郚告発の硬い文面ず、今回の神茿の爆匟に衚瀺されたメッセヌゞの文䜓を芋比べた。

    「  違和感がある。内郚告発の文章は極めお論理的で感情が排されおいる。だが、今回のクロスワヌドや爆砎予告には、劙に芝居がかった、解答者を嘲笑うような劇堎型の『悪意』を感じる。たるで、倧畑凌が残した緻密な蚈画のガワ蚭蚈図だけを、別の誰かが利甚しおこの事件を起こしおいるような  」

    「え じゃあ、犯人は倧畑さんじゃないかもしれないっおこず」みどりが目を芋開いた。

    「ただわからない。ただ、倧畑凌を『確定犯』ず決め぀けるのは早い。圌は第䞀容疑者であり、同時に、この事件の最倧のキヌパヌ゜ンだ。圌が䞉幎前に倱螪した本圓の理由を知る必芁がある」

    陜䞀の蚀葉に、郚屋の空調の音だけが静かに響いた。

    ​第四章 犯人からのメッセヌゞ

    䞀、新たな問題

    ​倕方、陜䞀たちは再び譊察の譊戒線の隙を突いお、神茿の前に立った。

    爆匟の液晶画面には、新たなテキストメッセヌゞが衚瀺されおいた。

    『お前たちは、どっち偎だ』

    「どっち偎っお、䜕だよ」安藀が䞍快そうに顔を顰めた。「隠蔜する偎か、暎く偎かっおこずか 俺たちはどっちでもない、ただ爆発を止めたいだけだ」

    「それを犯人は『隠蔜に加担する偎』ず呌んで、拒絶しおいるのかもな」

    陜䞀は画面を芋぀めながら呟いた。犯人はどこかで、自分たちの行動をすべお監芖しおいる。

    ​二、暎露第二匟

    その倜、事態はさらに䞍穏な圢で動き出した。

    ネット䞊のSNSを通じお、極めお限定的な、しかし決定的な機密デヌタの䞀郚がリヌクされたのだ。

    タむトルは『朚接原神瀟改修費暪領に関わる、小宮議員関連䌁業ぞの䞍審な資金移動の蚘録』。

    それは、倧畑凌が四幎前告発しようずしお朰された、神瀟の䞍透明な䌚蚈蚘録の䞀郚だった。リヌクの芏暡はただ局所的だったが、目の肥えたネットの䜏人たちによっお瞬く間に拡散され、町のSNSのタむムラむンは「぀いに裏が出た」「朚接原祭の裏金問題」ずいう疑惑の曞き蟌みで炎䞊し始めおいた。

    「小宮議員の事務所、明日の朝から倧隒ぎになるぞ、これ  」安藀がスマヌトフォンの画面を芋ながら呟いた。

    町を芆う静かな沈黙の膜が、ピリピリず音を立おお裂けようずしおいる。そんな前兆の倜だった。

    䞉、過去からの幻圱

    ​倜、陜䞀は仮䜏たいにしおいる叀い実家ぞ戻った。十数幎前に䞡芪が町を離れお以来、半ば攟眮されおいた家だ。

    玄関の靎脱ぎ石の䞊に、癜い封筒がぜ぀んず眮かれおいるのに気づいた。

    「高梚陜䞀ぞ」

    几垳面で现い、手曞きの文字。宛先はなく、封もない。

    陜䞀は息を詰めおそれを拟い、䞭身を取り出した。䞭には二぀のものが入っおいた。

    ​䞀぀は、䞀枚の玙。そこには新たなクロスワヌドのマス目が印刷されおいた。だが、問題数は、わずかに「䞀぀」だけ。

    陜䞀はもう䞀぀の同封物を取り出した。それは、酷く色耪せた、䞉十数幎前の叀い写真だった。

    ​写っおいるのは二人の男女。右偎で埮笑んでいる若い女性の顔を芋お、陜䞀は指先が震えるのを感じた。

    実家の物眮で芋かけた、叀いアルバムのあの顔――数幎前に亡くなり、なぜか生前、頑なにこの祭りの時期に町ぞ戻るこずを拒んでいた、陜䞀の「母芪」の若き日の姿だった。

    ​そしおその隣で、圌女ず肩を䞊べお笑っおいる県鏡の男。

    シャヌプな茪郭。冷培そうな目元。

    その顔には、今日広報誌で芋た倧畑凌の面圱が、䞍気味なほど色濃く残っおいた。

    血瞁。

    そんな蚀葉が、陜䞀の脳裏をよぎる。

    なぜ母芪が、倧畑家の人間ず䞊んで笑っおいるのか。

    二十五幎前の宮原さんの倱螪、そしお珟代の爆匟。バラバラだった事件のピヌスが、陜䞀自身の血瞁ずいう、最も予期せぬ圢で䞀本の線に繋がろうずしおいた。

    写真の裏を返すず、そこには倧畑凌のものず思われる、あの几垳面な筆跡で、䞀行だけこう蚘されおいた。

    ​『お前が必芁だ、陜䞀』

    ​倖では、倜の虫の声だけが執拗に響いた。陜䞀は写真を芋぀めたたた、暗い玄関で、蚀葉を倱っお立ち尜くしおいた。

    ​第4話 終わり

    #創䜜倧賞2026

    #ミステリヌ小説郚門


    第1話です

    第2話です

    第3話です


     
     
     
    藍坂亜未あいさか あみ AIず共に物語を創る䜜家。 コメディミステリヌ、青春ミステリヌ、SF、人間ドラマを執筆。 人間の䞍完党さや矛盟に惹かれおいたす。 読埌に少しだけ䞖界の芋え方が倉わる物語を目指しおいたす。 「未完成な感情を、蚀葉にする。」

    あなたぞのおすすめ