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朚接原祭 第3話 「消えた消防団員」

      第䞀章 町が壊れ始める  

    ​䞀、翌朝の朚接原  

    ​朚接原の名が党囜ニュヌスの電波に乗ったのは、事件発生から十四時間埌のこずだった。  

    朝のワむドショヌが『地方郜垂の祭りで隒然――神茿に䞍審物、謎のクロスワヌド爆匟』ずいうセンセヌショナルなテロップを掲げた。画面の隅には、昚日のお祭りでパニックを起こした矀衆がに投皿した、金箔の神茿の画像が粗く匕き䌞ばされおいる。  

    ​それからわずか六時間の間に、䞉台の街宣取材車が町ぞず滑り蟌んできた。町圹堎、商店街、長幎攟眮された「カネシロ商店」の跡地、そしお朚接原神瀟にそれぞれ䞀台ず぀。しかし、どのクルマの蚘者たちも、カメラを向ければ䞀様に逃げ回る䜏民たちの察応に、すっかり持お䜙しおいる様子だった。  

    ​デゞタル空間の狂隒は、さらに加速しおいく。  

    のトレンドには「朚接原隠蔜」「神茿爆匟事件」、そしお「カネシロ商店」の文字が䞊䜍を占拠し続けた。  

    今から䞉十幎前――䞀九九六幎に起きたカネシロ商店の䞍審な火灜に関する真停䞍明のポストが、濁流のようにタむムラむンを埋めおいく。  

    ​『うちのじいちゃんが圓時の消防団員だったけど、あの時代の火事は絶察に䞊がおかしいっお蚀っおた』ずいう具䜓的な告発から、『あの町は䞉十幎前から因習塗れで異垞だ』ずいう根拠のない誹謗䞭傷たで、あらゆる憶枬が飛び亀っおいた。  

    ​倜が明けた朚接原商店街からは、目に芋えお人の姿が消えおいた。  

    本日の祭りは党面䞭止。圓然の措眮だった。  

    い぀もならベンチに陣取っおいる老人たちの姿もなく、錆び぀いたシャッタヌの前には、ただ虚しい空間だけが広がっおいた。  

    ​二、陜䞀、寝䞍足  

    ​公民通の、ひんやりずした第䞉䌚議宀。  

    昚倜、安藀が「譊察の目が厳しくなる前に、ずりあえずここぞ避難しろ」ず手匕きしおくれた堎所だ。安藀の叀い銎染みがこの公民通の管理を任されおいるらしい。田舎特有の濃密な人間関係は、こういう非垞事態においおのみ、奇劙な救いずしお機胜する。  

    ​陜䞀は冷たい床の䞊で暪になっおいた。  

    正確には、パむプの折りたたみ怅子を䞉脚匷匕に䞊べ、その狭い座面の䞊に身䜓を折り曲げおいたのだ。圓然、怅子の硬いフレヌムが骚に圓たり、腰が最悪の圢に歪んでいた。  

    ​重い瞌を開けた瞬間、芖界に飛び蟌んできたのは、芋慣れない濃玺の制服だった。  

    しかも、それが耇数、自分を芋䞋ろしおいる。  

    ​陜䞀は驚きのあたり、パむプ怅子から床ぞず滑り萜ちた。  

    「いったた  」  

    「高梚陜䞀さんですね」  

    芋䞊げおくる譊官は二人。どちらも昚日、神茿の前で芋かけた顔だ。  

    ​「  䜕の甚ですか、朝っぱらから」  

    陜䞀は床に座り蟌んだたた、痛む腰をさすった。  

    「少し、眲たでご同行願えたすか。お話を聞きたい」  

    「今、䜕時ですか」  

    「午前䞃時四十分です」  

    「  ちなみに俺、䜕時間寝られたず思いたす」  

    「そちらの睡眠事情は、こちらの管蜄倖ですが」  

    譊官は取り合わず、冷淡に手垳を開いた。その顔には、抌し寄せる報道陣や䞊局郚からの圧力による、明らかな疲匊ず焊燥が滲んでいる。  

    「本庁県譊から捜査䞀課の耳の痛いベテランがこっちに向かっおるんだ。悪いが、こちらもこれ以䞊無駄な時間を浪費するわけにはいかないんでね」  

    ​䞉、疑われる陜䞀  

    ​䌚議宀の長机を挟み、陜䞀ず二人の譊官が察峙した。宀内には、倜勀明けの独特な埃っぜさが満ちおいる。  

    ​「単刀盎入に䌺いたす。高梚さん、あなた爆発物に関する専門知識はありたすか」  

    「ないです」  

    「では、ここ最近でネットで爆匟の補造方法などを怜玢した履歎は」  

    「  『爆発物』の定矩によりたすね。殺傷胜力のある本物の爆匟に関する理論的な知識はありたせん。ただ、ラむトず圧電スピヌカヌを組み合わせた、子䟛隙しの『暡擬装眮』の䜜り方なら、熱心に怜玢したした」  

    ​譊官の手元で、ボヌルペンがサラサラず音を立おおメモを走る。  

    「事件前日の深倜、あなたは朚接原神瀟の倉庫付近にいたしたね」  

    「目的は散歩です」  

    譊官はメモを取る手を止め、陜䞀の顔をじっず倀螏みするように芋぀めた。  

    「高梚さん。珟圚のご職業は」  

    「無職です」  

    「前職は」  

    「郜内のベンチャヌで、システム゚ンゞニアをやっおいたした」  

    「なぜ、その䌚瀟を退職されたのですか」  

    「色々、ありたしお。その『色々』ずいう蚀葉のなかに、私のプラむバシヌずドロドロした倧人の事情が぀たっおいたす」  

    ​譊官はあからさたに倧きいため息を぀き、手垳に荒々しくペンを走らせた。  

    「率盎に申し䞊げたしょう。高梚さん、あなたは珟時点で、客芳的に芋お極めお状況が䞍利です。䞍審な電子装眮に関するネットの怜玢履歎。深倜における珟堎ぞの異垞な接近。そしお――珟圚、瀟䌚的な定職をお持ちでないずいう点です」  

    ​陜䞀は数秒の間、完党に沈黙した。  

    「  最埌のや぀、玔粋な悪口ですよね」  

    「プロファむリングにおける事実の確認です」  

    「無職であるこずず、神茿に本物の爆匟を仕掛ける思想犯であるこずに、因果関係はないでしょう」  

    「関係がない、ず蚀い切れる統蚈はありたせん」  

    「なら、そのプロファむリングの有意性を瀺す統蚈的根拠を今すぐ提瀺しおください」  

    ​譊官は苛立ったようにメモ垳を机に叩き぀けた。  

    「高梚さん。もう少し、捜査に察しお協力的な態床をずっおいただけたせんか」  

    「協力する意思は100%ありたす。ただ、やっおいない犯眪を無職だからずいう理由で抌し付けられる぀もりは、毛頭ないず蚀っおいるんです」  

    ​④ 詩音の揎護  

    ​そのずき、䌚議宀の立お付けの悪いドアが勢いよく開き、詩音が小さな足取りで滑り蟌んできた。  

    譊官が「おい、関係者以倖は――」ず制止しようずする。  

    ​「この人の代理人です」  

    詩音は臆するこずなく、透き通った声で蚀い攟った。  

    「芪暩者の正匏な同意曞を埗た䞊での民事的なサポヌト行動です」  

    ​ドアの圱から、みどりが気たずそうな顔で珟れた。  

    「  同意はしおないんだけど、物理的に止められなかったのよ、その子」  

    ​詩音は迷いのない足取りでテヌブルぞ近づくず、陜䞀のすぐ真暪にピタリず立った。  

    「爆発物に関しお、この高梚陜䞀には、今回の神茿の装眮を補造する技術的リテラシヌは存圚したせん」  

    譊官が眉を䞊げる。「なぜ、郚倖者の子䟛にそこたで蚀い切れる」  

    「昚日、珟堎の装眮を芖認したした。䜿甚されおいる基板はMicrochip瀟補の系マむコンであり、斜されおいるタむマヌ回路のクロック構成はアセンブリ蚀語、たたは蚀語による制埡です。ネットのたずめサむトを斜め読みした皋床の玠人に再珟できるレベルではありたせん。仕様曞を芋れば分かりたす」  

    ​この町に垰っおきお初めお遭遇したみどりの嚘だったが、その口から飛び出すあたりに異質な技術甚語の矅列に、元゚ンゞニアの陜䞀すら呆然ず立ち尜くすしかなかった。詩音は淡々ず、しかし確実に、譊察が持っおきた珟堎の「ログデヌタ」の䞍敎合を指摘しおいく。  

    ​「それだけではありたせん。珟堎の装眮の配線および実装凊理は、明らかにハンダ付けの熟緎者によるものです。熱収瞮チュヌブによる絶瞁凊理の矎しさ、コネクタの固定粟床。どれをずっおも、この人が昚日の昌間に安藀電噚の䜜業台で䞍噚甚に組んでいた、むモハンダ塗れの暡擬装眮ずは、構造の次元が違いたす」  

    ​譊官が、鋭い芖線を陜䞀ぞ戻した。  

    「暡擬装眮を  実際に組んでいた、ず」  

    「  そこは、認めたす。ただし」ず、ここで初めお陜䞀が口を開いた。詩音から枡されたスマホの画面を譊官に突き぀ける。  

    「俺が補䜜した無害なプロトタむプは、昚倜のうちに䜕者かによっお『すり替え』られおいたす。ほら、これは安藀が珟堎で撮圱した高解像床の動画デヌタ。そしおこれが、俺がパヌツを賌入したホヌムセンタヌのレシヌトのタむムスタンプです。䜿甚されおいる抵抗のシリアルナンバヌを照合すれば、完党に別物だず蚌明できたす」  

    ​陜䞀はポケットから、クシャクシャになったホヌムセンタヌのレシヌトを差し出した。昚倜、最悪の事態を想定しお安藀ず確認し合っおいたものだ。  

    すかさず詩音が、冷たい目で陜䞀を芋䞋ろしながらトドメを刺した。  

    「結論ずしお、この人は倧人の分際で極めお愚かな悪ふざけをした人です。ですが、今回の凶悪な爆匟犯ではありたせん」  

    ​陜䞀は耇雑な衚情で詩音を芋䞊げた。  

    「  詩音ちゃん、ちょっずトゲが匷すぎないかな」  

    「客芳的な事実の確認です」  

    陜䞀はぐうの音も出ず、そのたた項垂れた。  

    ​第二章 第二の問題  

    ​䞀、新たなクロスワヌド  

    ​譊察による任意の聎取は、昌過ぎに䞀旊䞭断ずなった。  

    陜䞀ず安藀が甚意しおいた「レシヌトず動画の矛盟」ずいう客芳的蚌拠により、確認すべき事項が急増したためだ。地元の譊察も決しお無胜ではない。ただ、専門知識のない圌らでは、想定以䞊の速床で進化しおいくデゞタル犯眪のログを前に、察応胜力の限界を迎えおいるのは明らかだった。  

    ​珟圚、問題の神茿はブルヌシヌトで厳重に芆われ、神瀟の広堎ぞず移動されおいる。呚囲には芏制線が匵られおいたが、爆匟の解䜓に関する専門知識を持぀人間が近隣の譊察眲には䞍圚のため、珟圚は県譊の爆発物凊理班の到着を埅っおいる状態だずいう。  

    ​しかし、犯人の仕掛けた「システム」は、譊察の郜合などお構いなしだった。  

    第䞀問が解陀されおから正確に六時間埌、あのデゞタルむンゞケヌタヌは無慈悲にも再起動を果たしおいた。  

    ​陜䞀がブルヌシヌトの隙間から恐る恐る芗き蟌んだずきには、すでに画面は「第二の問題」ぞず移行しおいた。  

    すぐ隣には、い぀の間にか詩音がしゃがみ蟌んでいた。  

    「次のシヌク゚ンスに入ったね」  

    詩音が呟く。陜䞀も芖線を液晶に集䞭させた。  

    ​画面に映し出されおいたのは、たたしおもこの町の過去を抉るような、䞍気味な䞀条のヒントだった。  

    ​『祭りの日に消えた消防団員』  

    ​それだけだった。  

    陜䞀がその文字列を頭の䞭で読み䞊げた瞬間、背埌でカサリず、䞍自然に足音が止たる気配がした。  

    ​ハッずしお振り返るず、そこには通りすがりず思われる老人が二人、立ち尜くしおいた。  

    二人の濁った瞳は、ブルヌシヌトの隙間から芗く液晶画面を、確かに凝芖しおいた。  

    陜䞀が「  䜕か、心圓たりがありたすか」ず声をかけるより早く、老人たちは匟かれたように向きを倉え、無蚀で歩き去っおいった。その足取りは、幎霢に䌌合わず、奇劙なほど急速に早たっおいた。  

    ​二、みどりの違和感  

    ​公民通の䌚議宀に戻るず、みどりが逆光の差し蟌む窓際に䜇んでいた。  

    じっず倖の寂れた景色を芋぀めるその背䞭は、䜕事かを深く思玢しおいるようだった。  

    ​「どうした、みどり」  

    陜䞀が声をかけるず、圌女は振り返らないたた、蚘憶の糞を解くように話し始めた。  

    ​「  私、芚えおいるのよ。さっきのヒントにあった『消防団員』のこず」  

    「知っおいるのか」  

    陜䞀がパむプ怅子を匕き寄せお腰を䞋ろすず、みどりはゆっくりず陜䞀のほうを振り向いた。その瞳には、圓時の子䟛心が感じ取ったリアルな蚘憶が宿っおいた。  

    ​「宮原さん  宮原健二さんっおいう、他県から移䜏しおきた独身の人だった。私たちがただ九歳か十歳くらいの頃、ちょうど今日みたいな、お祭りの圓日にね、突然姿を消したの」  

    みどりの目が、少しだけ柔らかく现められた。  

    「すごく優しい人だったのよ。よそ者なのに、い぀も町の子䟛たちの名前を芚えおくれお。あの日のお祭りでもね、私が迷子になっお泣いおいたら、露店で買った小さなお守りをくれお、『倧䞈倫、おっちゃんがちゃんずママのずころぞ連れおっおやるからな』っお、倧きな手で頭を撫でおくれたの。  なのに、その日の倜に急にいなくなった」  

    ​みどりの声が、にわかに匷匵る。  

    ​「䞍気味だったのはその翌日よ。倧人たちが党員、急に宮原さんの名前を口にしなくなったの。䞍思議に思っお私が母芪に尋ねたら、ものすごい剣幕で『お前は䜕も聞かなくおいい』っお、口を塞がれた。神茿の前で、倧人たちが顔を青ざめさせお、ひそひそず䜕かを話し合っおいた。

    ​私がただ、本圓に小さかったころのこずよ。 街䞭から䞀人の倧人が消えお、みんなが急に口を閉ざした。あの底冷えするような䞍気味な空気感はね、子䟛の五感にだっお、はっきりず刻たれるものよ。絶察に、普通じゃなかった」  

    ​陜䞀は生唟を飲み蟌み、頭の䞭で思考を回転させた。  

    ​「カネシロ商店が党焌したのが䞉十幎前䞀九九六幎の祭り。そしおそれから五幎が経った、二十五幎前二〇〇䞀幎の祭りの倜にその宮原さんが䞍自然な倱螪を遂げおいる。五幎ずいうむンタヌバル  。おい詩音、圹堎のアヌカむブから、圓時の神瀟関係か消防団のログだけを抜き出せるか」  

    詩音が無蚀でキヌボヌドを叩く。「  抜出完了。生のテキストデヌタだけを画面に出すね」  

    画面を芗き蟌んだ陜䞀の目が、鋭く光った。  

    「なるほど  時系列が完党に重なる。これは偶然じゃないな」  

    ​䞉、聞き蟌み開始  

    ​午埌。  

    陜䞀、安藀、みどりの倧人䞉人は、それぞれ手分けしお圓時の消防団関係者の自宅を回るこずにした。  

    詩音は公民通に残り、デゞタルデヌタの収集――圹堎サヌバヌのログ抜出に専念させる。さすがに九歳の子䟛を連れお、町の䞍穏な闇を暎くような聞き蟌みに歩くのは、安党面でも躊躇われたからだ。  

    ​陜䞀が最初に蚪ねたのは、圓時消防団長を務めおいたずいう束川ずいう老人だった。埡幎八十二歳。珟圚は商店街の喧隒から少し離れた、鬱蒌ずした平屋でひっそりず独居自炊の生掻を送っおいる。  

    ​「――ずいうわけなんです。二十五幎前の祭りの倜に消えた、宮原健二さんに぀いお䜕か知っおいるこずを教えおいただけたせんか」  

    瞁偎に腰掛けた束川は、陜䞀の質問に察しおも顔を向けず、ただ雑草の生い茂る庭を濁った目で芋぀め続けおいた。  

    「  あれは、䞍慮の事故だった」  

    「どんな事故だったんですか、具䜓的に」  

    「祭りの酒が入った倜に、足を螏み倖しお川に萜ちたんだ。運悪くその幎は氎量が倚くおな、遺䜓はずうずう䞊がらなかった」  

    「遺䜓も䞊がっおいないのに、事件性を疑われず、単なる事故ずしお凊理されたんですか」  

    「川が深いんだ、あのあたりは。田舎じゃよくあるこずだ」  

    「よくあるこずで片付けちゃいけないレベルの話だず思いたすが。みどりから聞きたした。宮原さんは、よそ者だったけどすごく真面目で、子䟛思いのいい人だったっお」  

    ​『宮原』ずいう名が出た瞬間、束川がゆっくりず顔を動かし、陜䞀を凝芖した。その现められた目の奥には、明らかな䞍快感ず、嚁嚇の色が混じっおいた。  

    「これ以䞊、昔の事を蒞し返しおも仕方がなかろう。もう䞉十幎近くも前の、終わった話だ」  

    「関係ないず蚀ったら、関係ない。それだけだ  」  

    ​瞁偎に、凍り぀くような沈黙が降りおきた。  

    庭の朚々からは、ワンワンず耳を鳎らすような蝉の鳎き声だけが降るように響いおいる。陜䞀の銖筋を、冷たい汗がじわりず䌝った。  

    束川は再び庭の雑草ぞず芖線を戻し、二床ず口を開くこずはなかった。  

    ​第䞉章 町の異垞性  

    ​䞀、安藀の情報  

    ​倕暮れ時。公民通の第䞉䌚議宀に再び四人が集結した。  

    垰っおきた安藀が、他の二人ずは明らかに異なる、匷匵った衚情を浮かべおいた。  

    ​「  手がかりを掎んできたぞ」  

    安藀が怅子に深く腰掛けながら、声を朜めお蚀った。  

    「田島酒店の芪父さんからだ。あそこは昔から地元の消防団ずズブズブの付き合いがあっお、叀い裏事情に詳しいんだよ。安藀電噚の顧客だからな、少しカマをかけたら喋っおくれた。  宮原さんは、この町に血瞁も地瞁もない『よそ者』だった。だからこそ、この町のタブヌを暎くこずに、䜕の躊躇もなかったんだっおよ」  

    「暎くっお、䞀䜓䜕を調べおたんだよ」  

    ​安藀はゎクリず喉を鳎らし、䞀瞬のタメを䜜った。  

    「――朚接原神瀟の、倧芏暡改修費における組織的な『暪領』だ」  

    ​宀内の枩床が、䞀気に数床䞋がったかのような錯芚を芚えた。  

    「圓時、神瀟は町の予算ず、氏子たちからの倚額の寄付金を䜿っお、平成の倧改修工事を行っおいた。宮原さんは消防団の立堎を利甚しお、その予算の䞍審な流れを独自のルヌトで調査しおいたらしい。実際の工事内容に察しお、垳簿䞊の支出が明らかに過倧すぎる、ず呚囲に挏らしおいたそうだ。​そしお、二十五幎前二〇〇䞀幎の祭りの倜に、圌が唐突に行方䞍明になった」

    ​陜䞀は机の䞊を、指先で芏則正しくトントンず叩いた。これたでの事実が、陜䞀の頭の䞭で䞀぀の線に繋がっおいく。  

    「  もし、その䞉十幎前の暪領に関わっおいた䞻犯栌が、今もこの町で平然ず暩力を握っおいるずしたら」  

    「十分にあり埗る話だ。圓時䞉十代か四十代の䞭堅だったなら、今や五十代、六十代の町の珟圹有力者、あるいは指導者局に収たっおいるはずだ」  

    みどりがハッずしたように口を開いた。「  䟋えば、町議䌚ずか」  

    ​「そこだよ」  

    陜䞀は、詩音が圹堎のサヌバヌから抜出しただけの「未敎理の非公開議事録」の束をスクロヌルした。  

    「芋おみろ。䞉十幎前の神瀟改修工事においお、総額数億円の工事を独占入札で萜札した建蚭䌚瀟がある。圓時の代衚取締圹の名前は――『小宮建蚭』。そしお、今幎の神茿ルヌトに、自分の事務所の前を通るよう䞍自然な圧力をかけた珟職町議の名前は、小宮議員。珟圚の圌のファミリヌ䌁業だ。぀たり、小宮は䞉十幎前の暪領の圓事者、あるいは党貌を知る立堎にいる」  

    ​二、陜䞀の掚理ず執念  

    ​陜䞀は怅子から立ち䞊がり、ゆっくりず窓の倖ぞず目を向けた。  

    倕闇に包たれおいく商店街。歯抜けのように䞊ぶ、閉ざされたシャッタヌ。  

    ​「  䞀぀の共通点に気づいた。これたで出おきた町の闇が、すべお『祭り』ずいうフィルタヌを通しお起きおいる」  

    「カネシロ商店の火灜も、宮原さんの倱螪もか」ず安藀が促す。  

    「カネシロ商店の火灜があったのが䞉十幎前の祭りの日。その五幎埌、お祭りの盎前に消防団員の宮原さんが改修費の暪領調査を始め、たさに祭りの圓日の倜に消えた。すべおが、この町の祭りのタむムラむンに綺麗に合臎しおいる。神瀟の改修費そのものも、元を正せば祭りを存続させるための名目で行われた工事だ」  

    陜䞀は振り返り、その目を鋭く光らせた。  

    「そうだ。犯人はただランダムに町を脅迫しおいるんじゃない。神茿祭りそのものを、極めお明確なタヌゲットにしおいる。爆匟の蚭眮堎所に神茿を遞び、この祭りの日を実行日に遞んだのは、これ以䞊ない必然だ。この神茿祭りそのものが、この朚接原ずいう町に巣食う、すべおの腐敗ず犯眪の『䞭心栞』なんだよ」  

    ​その時、詩音が淡々ずディスプレむを指さした。  

    「圹堎の叀いファむルサヌバヌから、アクセス制限のザルな秘匿資料を発芋。『立入犁止区域管理蚘録.pdf』。朚接原神瀟の粟巧な叀地図。その最䞋局に、点線で囲たれた広倧な未知の領域がある。【旧地䞋通路】ず曞かれおいる。欄倖には『昭和末期に封鎖。以降、厳重に立入犁止。理由構造䞊の深刻な問題に぀き』ず赀線が匕いおある」  

    ​「構造䞊の問題  いかにも䜕かを隠すために封鎖したきり、誰も近づけないように攟眮しおいる蚀い蚳だな」  

    陜䞀の呟きに、安藀がハッずしお声を䞊げた。  

    「埅お  旧地䞋通路 そういえば、第䞀問のパズルのヒントを思い出せ。『蛇神神瀟の裏に埋たったもの』だったろ。蛇神神瀟はこの近くの別の廃神瀟だが、あの廃神瀟の裏手には、昔から厩萜しかけた叀い暪穎があったはずだ。それが朚接原神瀟の地䞋深くぞず繋がっおるんだずしたら  」  

    ​「繋がっおいるはずだ。安藀、そこから入るぞ」  

    陜䞀が即座に蚀い攟った蚀葉に、安藀は露骚に眉間に深い皺を刻んだ。  

    「  お前、本気で蚀っおるのか 譊察を呌べ、譊察を 構造図ず怪しい堎所が分かったんだ、譊察に倧人しく枡せば枈む話だろ」  

    ​「呌んでどうする」  

    陜䞀の口から、冷え切った、しかしドス黒い感情の乗った声が挏れた。  

    「どうするっお  」  

    「たた『無職だから怪しい』、だろ。安藀」  

    「陜䞀  」  

    「俺は確かに銬鹿なこずをした。神茿にあんなものを付けたのも俺だ。それは認める。でもな、だからっお過去の事件だの、人殺しだのたで俺のせいにされるのは真っ平埡免なんだよ」  

    陜䞀は安藀の胞ぐらを掎たんばかりに䞀歩螏み出し、その瞳に宿る、瀟䌚ぞの匷烈な䞍信感ずプラむドを爆発させた。  

    「あい぀らは犯人を探しおるんじゃない。䞊に急かされお、䞀番犯人にしやすい奎を、郜合のいい生莄を探しおるだけだ 本庁から有胜な刑事が来るっお蚀っおたな 来たらおしたいだ。俺は完党に容疑者候補だ。アリバむだの動機だの党郚掗われる。そうなったら真犯人を远うどころじゃなくなる。町の連䞭も、俺に党郚眪を擊り぀けお口を閉ざす。  そんなシナリオ通りに朰されおたたるかよ」  

    「陜䞀  」  

    「だったら、あい぀らが来る前に、俺が先に真実を芋぀ける。あい぀らの錻を明かしお、自分がどれだけ無胜かを思い知らせおやる。  俺の意地だ。行くぞ」  

    ​安藀は、これたでで最も長くお重い、諊めのため息を吐き出した。  

    「  正矩感の欠片もない、最悪の動機だな。でも、お前らしいよ。付き合う。絶察に埌で人生最倧の埌悔をする矜目になるぞ」  

    「おそらく、な」  

    ​䞉、謎の芖線  

    ​その緊迫した決断が䞋されおいるたさにその瞬間、薄暗い商店街の街角に、䞀぀の歪な人圱が䜇んでいた。  

    叀びた建物の死角に身を隠し、じっず息を朜めおいる。  

    その芖線の先にあるのは、陜䞀たちがいる公民通の、明かりの灯った第䞉䌚議宀の窓だった。  

    ​人圱はピクリずも動かず、その䞡手には、䞀冊のクロスワヌド雑誌を握りしめおいた。  

    衚玙は手垢で黒ずみ、角はボロボロに擊り切れおいる。䜕床も、䜕幎も繰り返し読み蟌たれたであろう本の、くたびれた独特の厚み。  

    ​その人物は、しばらくの間、陜䞀たちのいる窓を凝芖し続けおいた。  

    やがお、満足したかのようにゆっくりず角を曲がり、闇の奥ぞず消え去っおいった。  

    倜の静寂に、足音ひず぀、残さなかった。  

    ​第四章 闇の䞭の足音  

    ​䞀、倜の神瀟  

    深倜䞀時。

    朚接原神瀟の境内には、ナトリりム灯の街灯がぜ぀んず䞀本だけ灯り、䞍気味な圱を地面に長く䌞ばしおいた。

    陜䞀ず安藀は、譊察の監芖の目をかいくぐり、安藀の先導で瀟務所の裏手ぞず回り蟌んだ。手には、安藀の店から拝借しおきた匷力な業務甚懐䞭電灯が䞀本ず぀握られおいる。

    ​「埅お、裏口のセキュリティが換わっおる。圹堎の管理区域だな」

    安藀が懐からゞャラリず鍵の束を取り出した。その䞭の䞀぀を懐䞭電灯で照らすず、そこにはくっきりず『朚接原町圹堎』のロゎが刻印されおいる。安藀がそれを鍵穎に差し蟌むず、カチリず小気味いい音がしお瀟務所裏の勝手口が開いた。

    「  お前、なんでそんなもの持っおんだよ」

    陜䞀が眉をひそめお蚊くず、安藀はバツが悪そうに苊笑いした。

    「圹堎の゚アコンや防犯カメラの配線修理を䞞投げされおおさ。祭り期間䞭は䞊局郚からずっず預かりっぱなしなんだよ。『お前なら信甚できるから』っおさ。おかげで圹堎の斜蚭ならどこでも入れる」

    信頌の蚌であるはずのその鍵が、今の状況䞋ではどこか䞍気味に鈍く光っお芋えた。

    ​瀟務所の勝手口のさらに奥、鬱蒌ず茂る朚々に隠されるようにしお、頑䞈な叀い朚補の扉が䜇んでいた。そこには、赀錆びた巚倧な金属の南京錠が厳重にかけられおいる。

    ​陜䞀が懐䞭電灯の光を足元に萜ずした時、安藀が䞍審そうに顔をしかめお、転がっおいる石ころのような塊を爪先で぀぀いた。

    「ここ、劙に新しいコンクリヌトの砎片が萜ちおないか」

    「コンクリヌト」

    蚀われお芋れば、湿った土の䞊に、真新しい癜い粉を吹いたコンクリヌトの现かな瓊瀫が散乱しおいる。たるで、぀い最近、䜕かを匷匕に砎壊したかのように。

    「昔、この蟺に地䞋ぞの入口なんお無かった気がするんだが  。誰か最近、塞がれおた堎所を壊したんじゃないのか」

    「いや、いた考えるのは埌だ。行くぞ」

    陜䞀は違和感を頭の隅に远いやり、目の前の朚補扉ぞず芖線を戻した。

    ​「おい、この錠前どうするんだよ」

    「俺の趣味のツヌルがある」

    陜䞀はゞャヌゞのポケットから、プロ仕様のスチヌル補のピックセットを取り出した。郜内のベンチャヌ時代、物理セキュリティの監査実隓の趣味で買ったものだ。

    ​陜䞀は手際よく鍵穎にピックを差し蟌み、党神経を指先に集䞭させた。自らの意地を通すための犯眪玛いの行為に、心臓がうるさく脈打぀。

    カチャリ。

    䞀分ず経たないうちに、小気味よい金属音が響き、赀錆びた南京錠が解錠された。

    陜䞀は重い扉を、音を立おないよう慎重に抌し開けた。

    ​盎埌、内郚から這い出おきた湿った冷気が、二人の肌を撫でた。

    凝固した土の匂い、そしおカビず腐敗が混ざり合ったような、特異な悪臭。数十幎の間、完党に換気が途絶えおいた空間特有の、濃密な「死の気配」だった。

    懐䞭電灯の匷力な光線で暗黒を切り裂くず、奈萜ぞず続く湿った石段が浮かび䞊がった。

    ​二人は息を殺し、䞀歩ず぀石段を沈んでいった。

    䞋ぞ進むに぀れ、粘り気のある湿気が増しおいく。光線が、濡れた石壁の衚面にギラギラず反射した。

    倩井は䜎く、通路の幅は倧人二人が肩を䞊べるず限界を迎えるほどに狭苊しい。コンクリヌトによる近代的な補匷はなく、明治か倧正期の、職人の手による荒々しい石積みの工法がそのたた露出しおいた。

    ​二人はさらに、暗黒の奥ぞず歩を進めた。

    䞍意に通路が盎角に折れ、その先に、四畳半ほどの小さな空掞――隠し郚屋が珟れた。 

    ​二、発芋  

    ​郚屋の内郚には、埃を厚く被った叀い祭具や、黒ずんで倉色した神茿の装食品が棚に乱雑に䞊んでいた。  

    だが、二人の芖線を釘付けにしたのは、そこにある歎史的遺物ではなかった。  

    ​コンクリヌトの床の䞊に、䞍自然に折りたたたれ、攟眮された垃の塊があった。  

    陜䞀が懐䞭電灯の焊点をそこぞ合わせる。  

    それは、玺色の䞈倫な生地に、鮮やかなオレンゞ色のラむンが走る――玛れもない、消防団の制服だった。  

    ​陜䞀は硬盎した。安藀が、恐る恐るその堎に膝を぀き、制服の胞元に觊れる。  

    「  名札が、残っおる」  

    陜䞀もたた、その暪に屈み蟌んだ。泥ず経幎劣化で激しく汚れおいたが、癜地に染め抜かれた文字は、はっきりず識別できた。  

    ​『宮原』  

    ​二人は、完党に蚀葉を倱った。  

    みどりが蚀っおいた、子䟛思いで優しかった、よそ者の宮原さん。あの祭りの日に、迷子のお守りをくれた男が、䞉十幎近くもの間、こんな光の届かない冷たい地䞋の底に眮き去りにされおいたのだ。  

    取り返しの぀かない凄惚な珟実が、陜䞀の胞に重くのしかかる。  

    ​安藀が、震える手で懐䞭電灯の光をさらに奥――棚の最䞋局の隙間ぞず移動させた。  

    床の隅に、䞍自然な「癜い異物」が転がっおいた。  

    それは、いび぀な曲線を描きながら、暗闇の䞭に暪たわっおいる。  

    懐䞭電灯の匷い光がそれを克明に照らし出した瞬間、それが明らかに、人間の骚栌のシル゚ットを圢䜜っおいるこずに二人は気づいた。  

    ​安藀の持぀懐䞭電灯が、ガタガタず激しく小刻みに震え始めた。  

    「  事故なんかじゃねえ   殺されたんだ、宮原さんは  」  

    その声は完党に掠れ、恐怖に匕き裂かれおいた。  

    陜䞀は答えるこずができなかった。ただ息を詰たらせるのが粟䞀杯だった。  

    ​③ デスゲヌムの足音  

    ​その刹那。  

    ​ゞリリリリリ、ず静寂を切り裂く暎力的な音が、狭い地䞋通路に鳎り響いた。  

    ​陜䞀のスマヌトフォンが、突劂ずしお激しいバむブレヌションず共に着信音を爆発させたのだ。  

    安藀が飛び䞊がり、悲鳎のような声を䞊げる。「誰からだ」  

    陜䞀は恐怖に震える指で画面を掎み、液晶を芋た。  

    ​それは倖郚からの通話ではなく、詩音が構築したモニタリングアプリからの「緊急通知」だった。  

    画面の奥で、第二問のタむマヌが、䞍気味なデゞタルノむズを走らせながら急速にカりントダりンを再開しおいる。  

    ​しかし、二人の心臓を完党に凍り぀かせたのは、そのタむマヌの数字ではなかった。  

    画面の最前面に、アプリの仕様には存圚しない、赀黒いテキストメッセヌゞが盎接䞊曞きされるように衚瀺されたのだ。  

    ​【真実に近づきすぎた】  

    ​盎埌、画面が激しく明滅し、アプリのが匷制的に曞き換えられた。  

    映し出されたのは、新たなクロスワヌドの歪なグリッド。  

    そしお、血のような赀文字で、次の『問い』が刻たれる。  

    ​『骚の隣にある、四桁の暗蚌番号を入力せよ。制限時間、あず五分』  

    ​「  したっ、た」  

    陜䞀の指が凍り぀く。犯人は、自分たちが今この堎所にいるこずを、そしおこの死䜓を芋぀けたこずを、完党に把握しおいる。自らの「意地」で突き進んだ結果、犯人の手のひらの䞊で完党に螊らされおいたのだ。匷烈な自責ず恐怖が陜䞀を襲う。  

    ​カサリ。  

    ​その時、二人が入っおきた背埌の通路の奥から、埮かな、しかし決定的な異音が聞こえおきた。  

    湿った石の床を、䜕かが静かに螏みしめる音。  

    それは、間違いなく――人間の足音だった。  

    ​懐䞭電灯が照らし出す盎線ルヌトの先は、ただの暗黒。  

    その光の届かない闇の向こうから、䜕者かの気配が、確実にこちらぞず近づいおくる。  

    ​安藀が、陜䞀のゞャヌゞの袖を狂ったように掎み、限界たで声を抌し殺しお囁いた。  

    「  いる。そこに、誰かいる  」  

    ​陜䞀は匷力な業務甚懐䞭電灯を暗闇の奥ぞず向けたたた、指䞀本動かすこずができなかった。  

    自らの慢心が招いた絶䜓絶呜の危機。底知れぬ暗黒が、二人の前に立ちはだかっおいた。  

    ​【第3話 終わり】

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    #ミステリヌ小説郚門


    第1話です

    第2話です


     
     
     
    藍坂亜未あいさか あみ AIず共に物語を創る䜜家。 コメディミステリヌ、青春ミステリヌ、SF、人間ドラマを執筆。 人間の䞍完党さや矛盟に惹かれおいたす。 読埌に少しだけ䞖界の芋え方が倉わる物語を目指しおいたす。 「未完成な感情を、蚀葉にする。」

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