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​朚接原祭 第6話「共犯者」

    第䞀章 芋匵られおいる

    ​䞀、静寂の䞍圚

    ​スマヌトフォンの画面に衚瀺された、倧畑凌のシステムからの譊告――【窓際に立぀な】。

    その血の気が匕くような掻字を目にした刹那、高梚陜䞀は反射的に身䜓をリビングの床ぞず投げ出しおいた。

    盎埌、凄たじい衝撃音が闇を切り裂いた。

    バリン、ず激しい音を立おおリビングの分厚い窓ガラスが粉砕される。銃撃ではない。庭から投げ蟌たれたのは、ずっしりず重い叀い鉄補の工具だった。もしあのたた画面を凝芖しお窓際に立ち尜くしおいたら、確実に頭郚を盎撃しおいた。

    割れたガラスの砎片が床に飛び散るなか、鬱蒌ずした裏庭の暗闇から、慌ただしく遠ざかっおいく耇数の足音が聞こえた。

    床に䌏せたたた、陜䞀のシステム゚ンゞニアずしおの脳が、激しい譊報を鳎らしながらも冷培にロゞックを組み立お始める。

      倧畑凌は、俺を殺そうずしおいるんじゃない。俺を『生かしお、パズルを解かせよう』ずしおいる。だから譊告を送っおきた。だずしたら、今、倖で俺を殺そう口封じしようずしおいる“別の誰か”がいる――

    ​幌銎染の安藀が息を切らせお高梚家に飛び蟌んできたのは、その衝撃から数分埌、ブレヌカヌが萜ちお完党な暗黒が家を支配しおから十分が経過した頃だった。

    陜䞀がスマヌトフォンの震える画面から
    「すぐ来おくれ」ずだけ短文を送るず、安藀からは「䞉分で行く」ず即座にラリヌが返っおきたのだった。

    二人はそれぞれ手に匷力なLED懐䞭電灯を握り締め、互いの死角を補うようにしお、叀い日本家屋の倖呚を静かに䞀呚した。

    だが、そこにはすでに人圱の䞀片すら残されおいなかった。

    鬱蒌ず草の生い茂る裏庭。砂利の敷かれた玄関前。安藀の軜トラックが停たった駐車スペヌス。確実にあるはずの襲撃者の足跡を求めお、背の高い雑草が䞍気味に揺れる隣の空き地たで、土の柔らかい堎所を念入りに癜光で照らし出したが、倏の容赊ない日差しで也ききった地面は、䟵入者の足跡を䜕䞀぀留めおはいなかった。

    ​「  誰もいないな」安藀が緊匵で匷匵った声を挏らす。

    「いない、ずいうこずは  奎は足音も立おずに、この暗闇のなかに消えたっおいうのか」

    「足音も立おずに、っお  お前、さっきはハッキリ足音が聞こえたっお」

    「䞀昚日の倜、神瀟の地䞋通路で気配が消えた時もそうだった。足音が途絶えるんだ」

    ​安藀は抌し黙り、懐䞭電灯の光を呚囲の暗がりに泳がせた。

    陜䞀は䞀床玄関に戻り、真鍮の鍵が内偎から確実に閉たっおいるこずを確認した。それから脱衣所の暪にある叀い分電盀を開き、䞍自然にパチンず萜ちおいた䞻幹ブレヌカヌのスむッチを抌し䞊げた。䞀瞬のタむムラグの埌、家電補品のハミングず共に、リビングに眩い蛍光灯の明かりが蘇る。

    ​「ブレヌカヌが萜ちた正確な原因はなんだ」安藀が尋ねる。

    「単なる電力の過負荷か、さもなければ倖郚から意図的に萜ずされたかだ。だが、この叀い家に倖郚からスマヌトメヌタヌをハッキングできるようなシステムはない。ずいうこずは、過負荷の心圓たりがない以䞊、誰かが盎接、倖にあるボックスを物理的に操䜜したずしか考えられない」

    「倖のボックスに觊るっお  そんなこず可胜か」

    「うちのボックスには鍵がかかっおないんだ。芪父の代に䜜られた昔の仕様だからな。倖壁の隙間から回線に接觊すれば、玠人でも䞻電源を遮断できる」

    ​安藀が「なるほどな」ず玍埗しかけたその時、圌の芖線が玄関のドアに取り付けられた叀い郵䟿受けの受け皿で止たった。

    そこには、昌間には確かになかったはずのものが滑り蟌んでいた。现かく折りたたたれた、䞀枚の癜い玙。

    陜䞀は内臓を冷たい手で掎たれたような錯芚を芚えながら、その玙を取り出しお慎重に開いた。

    それは、芋慣れたクロスワヌドパズルの盀面だった。ただし、今回はわずかマス目が六぀しかない、極小のパズル。

    パズルの最䞋郚には、手曞きではなく、レヌザヌプリンタヌで鮮明に印字された䞀行の文字列があった。

    ​『秘密を守る偎は、ただいる』

    ​陜䞀はその冷培な掻字を、二床、䞉床ず繰り返し凝芖した。安藀が背埌からその画面を芗き蟌んでくる。

    「  『ただいる』、か」

    「過去の遺物の話じゃない。倧畑健䞉が死んだ二十九幎前の話でも、倧畑凌が消えた䞉幎前の話でもないんだ」陜䞀の指先が玙の端を匷く巻き蟌む。「珟圚進行圢で、今この瞬間も、この町のどこかで『秘密を守ろうずしおいる人間』が、珟に俺の呜を狙っお牙を剥いおいる」

    庭の防颚林の向こうから、狂ったような倏の虫の声が、再び二人を嘲笑うように響き始めおいた。

    ​二、監芖の包囲網

    翌朝、重苊しい空気の挂う公民通の第䞉䌚議宀。

    届けられたパズルの玙を䞀瞥した詩音は、「パズルは埌で解く」ずだけ短く告げた。圌女の小さな瞳には、それよりも優先すべき臎呜的なロゞックが組み䞊がっおいるようだった。

    ​「犯人は、昚日の倜、確実に陜䞀さんの家の前に朜んでいたわ」

    「ああ、あの足音ずメッセヌゞのタむミング、そしお窓ぞのガラス砎りからしお、間違いなくそうだ」

    「昚日の倜、陜䞀さんが安藀さんず䞀緒に居酒屋から垰宅したのは䜕時」

    「十時を少し過ぎた頃だったず思う」

    「私が陜䞀さんの家を蚪れたのが十時半で、そこを出たのが十䞀時少し前。ブレヌカヌが萜ずされ、工具が投げ蟌たれたのはその盎埌。぀たり、この犯人は、陜䞀さんたちが居酒屋でどのような䌚話をし、䜕時に垰宅したかを完党に『リアルタむムで把握しおいた』こずになるわ」

    「埅およ、あの居酒屋は事前に蚈画しおいた堎所じゃない」陜䞀は蚘憶を反芻する。「安藀から急に連絡が来お、その堎の思い぀きで入った店だ」

    「奎は、それすらも捕捉しおいたのよ」

    ​詩音はホワむトボヌドに、黒いマヌカヌで冷酷なタむムラむンを曞き加えおいった。

    「居酒屋の正確なロケヌション。陜䞀さんの垰宅時間。昚日の行動のほがすべおを、犯人は最初から知っおいた。䞀昚日の倜の、神瀟の地䞋通路の件も党く同じ構造よ。私たちが倜になっお『神瀟に行く』ず決め、実際に行動を起こしたそのわずかな隙に、地䞋の人骚は跡圢もなく回収されおいた」

    「垞に、こちらの先手を打たれおいるずいうこずか」

    「先手を打おるだけの、物理的な『距離』にいるのよ。遠隔地からカメラで远跡しおいるのではないわ。もっず執拗で、決定的な監芖の県が、私たちの極めお近い堎所に匵り付いおいる」

    ​それたで黙っおコヌヒヌを淹れおいたみどりが、青ざめた顔で口を開いた。

    「町の監芖カメラの映像をハッキングしおいるずか  」

    「カメラの映像を芋おいるだけじゃ、人間の『次の行動の先読み』たではできないわ」詩音は銖を振った。「芋おいるだけじゃない。私たちの動きを、その郜床、犯人のネットワヌク偎に『䌝達しおいる人間』がいる。私たちの呚囲で、情報がリアルタむムで挏掩しおいるのよ」

    陜䞀は、詩音の冷培な宣告を頭の䞭で反芻した。

    私たちの呚囲。情報が流れおいる――。たさか、この䞭に  

    ​䞉、猜疑心の毒

    ​公民通を出た埌、陜䞀は蝉時雚の降り泚ぐ商店街の歩道を、䞀人で目的もなく歩いおいた。

    い぀もず倉わらない、実家からコンビニぞず続く芋慣れた䞀本道。ベンチで暇を朰しおいる老人たちの姿も、シャッタヌの半開きになった金物屋の店構えも、すべおは日垞の颚景のはずだった。

    しかし、今日のその景色は、昚日たでずは決定的に違っお芋えた。

    閉ざされたガラス戞の奥から、誰かがじっずこちらの動向を品定めしおいるような気がした。曲がり角の死角に、カメラを構えた人間が朜んでいるような䞍気味な錯芚が付きたずう。

    䞀床でも他者を疑い始めたら、その猜疑心の泥濘には底がない。陜䞀のシステム゚ンゞニアずしおの思考は、制埡を倱った無限ルヌプのように、冷培に「身近な人間」のバグを探し始めおいた。

    ​  安藀はどうだ

    子䟛の頃からの長い付き合い。昚倜、メッセヌゞを送っおから「分で行く」ず珟れた。早すぎる。もし、あい぀自身が最初から高梚家の近くに朜んでいお、自分でブレヌカヌを萜ずし、工具を投げ蟌んだ盎埌に、アリバむを䜜るために衚から飛び蟌んできたのだずしたら

    ​  みどりは

    東京での生掻を突然捚おお、この閉塞した町に䞍自然に垰っおきたタむミングが良すぎる。倧畑凌が倱螪した䞉幎前、あい぀は本圓に東京にいたのか 今回の爆匟隒ぎのタむムラむンに、圌女の存圚そのものが奇劙に同期しおいる。

    ​  それなら、詩音は

    わずか九歳の子䟛。だが、その幎霢自䜓が、圌女が犯人の甚意した「狂蚀回し」や「監芖圹」ではないずいう絶察的な根拠になるだろうか。そもそも、地方の平凡な小孊生が、なぜ倧畑凌のシステムず互角に枡り合えるほどのハッキング技術を持っおいるのか 圌女が提瀺するログや解析結果自䜓が、俺たちを特定の結論ぞ誘導するためのフェむクデヌタだずしたら――。

    ​陜䞀は、コンビニの自動ドアの前で、凍り぀いたように立ち止たった。

    誰も信じられない。自分の脳が、呚囲の人間党員を「スタンドアロン孀立」ずしお凊理しおいく。動悞が激しくなり、冷や汗が銖筋に䌝った。疑うこずず、信じるこずの境界線が、完党に霧の圌方に消え去っおいた。

    りィヌン、ず自動ドアが無機質な音を立おお開く。陜䞀は、冷気の吹き出す店内ぞず、逃げ蟌むように足を螏み入れた。

    ​第二章 消された蚌拠

    ​䞀、完党なる空癜

    ​正午盎前。

    陜䞀たち四人は、再び朚接原神瀟の境内ぞず集たり、呚囲の目を盗んであの地䞋通路ぞず足を螏み入れた。

    鉄補の重い扉は、なぜか塞がれおいなかった。前回、停装工䜜で塞がれたように芋せかけただけだったのか、あるいは譊察の珟堎怜蚌が圢匏的に終わった埌、関係者がわざわざ元に戻したのかは刀別が぀かなかった。

    急な石段をラむトで照らしながら䞋り、あの秘密の郚屋ぞず䟵入する。

    ​しかし、懐䞭電灯の光が映し出したのは、完党なる「虚無」だった。

    スチヌル補の叀い棚は残されおいたが、そこに䞊んでいたはずの祭具や叀い曞類の類は、䞀枚残らず消倱しおいた。それだけではない。床の隅に転がっおいたはずの、あの血に汚れた消防団の制服も、癜く䞍気味に固たっおいた骚の砎片も  。

    「  信じられないな。掃陀たでされおやがる」安藀が懐䞭電灯の光を床に這わせながら、愕然ずした声を挏らした。

    石床の䞊には、埃ひず぀萜ちおいなかった。それどころか、石ず石の継ぎ目の目地に詰たった汚れたで、高圧掗浄機でもかけたかのように培底的に磚き䞊げられおいる。

    ​「昚倜から、今朝にかけおの犯行だな」陜䞀は冷え切った空間を芋぀めた。「昚倜、俺の家のブレヌカヌを萜ずしお足止めした人間ず、完党に連携しおいる別の誰かがここを片付けたんだ。俺が家で孀立しおいる間にな」

    「蚌拠を、分子レベルで消し去ったわけか」

    「ああ、完璧にだ」

    みどりが、あたりの䞍気味さに身震いしながら郚屋を芋回す。

    「宮原さんの制服も、あの人骚も、党郚なかったこずにされたのね  」

    「今から譊察に通報したずころで、珟堎の蚘録も映像も、最初の通報の段階で圹堎に握り朰されおいる。俺ず安藀が『芋た』ずいう口頭の蚌蚀だけじゃ、公的な蚌拠胜力はれロだ」

    「慣れおるな、ク゜ッ」安藀が壁を殎り぀ける。「完璧すぎる隠滅工䜜だ」

    「慣れおいるはずさ」陜䞀が凍り぀いた声で蚀った。「今から二十五幎前にも、党く同じ方法で、䞍郜合な真実を闇に葬った奎らの仕業だからな」

    ​郚屋の空気が、墓地のような沈黙ぞず沈み蟌んでいく。

    その重苊しい静寂を砎ったのは、床に膝を぀いおいた詩音の、鋭い䞀蚀だった。

    「――ちょっず埅っお。ただ、終わっおいないわ」

    ​二、タむムカプセルの目地

    ​詩音は床の最果おの隅に小さくしゃがみ蟌み、石床の耇雑な継ぎ目を、现い指先で慎重にトレヌスしおいた。

    「ここよ、陜䞀さん」

    陜䞀が慌おお近づき、圌女の指先をラむトで照らす。

    よく芋るず、敷石の䞀枚が、呚囲の床からわずか数ミリメヌトルほど浮き䞊がっおいた。犯人グルヌプによる突貫の掃陀の際に圧力がかかっおズレたのか、あるいは最初から隠し蓋ずしお蚭蚈されおいたのか。

    陜䞀は手袋をはめた䞡手を石の隙間にねじ蟌み、枟身の力でそれを匕き䞊げた。ずしりずした花厗岩の重みが腕に䌝わる。

    石を持ち䞊げるず、その䞋には、倧人の拳が二぀ほど入る、小さな暗い空間が口を開けおいた。

    底に、䜕かが眮かれおいる。

    陜䞀が指を䌞ばしお取り出したのは、埃に塗れた小さな透明のプラスチックケヌスだった。ケヌスの倉色したプラスチック越しに、䞭の構造が芋える。

    ​「  SDカヌド」安藀が声を䞊げた。

    それは、珟圚のスマヌトフォンの䞻流であるマむクロ芏栌ではなく、数䞖代ほど前の、倧柄で分厚い初期型のSDカヌドだった。珟圚のデゞタル機噚には、スロットのサむズが合わず盎接挿入するこずすらできない骚董品だ。

    ​詩音はピンセットを䜿うように慎重にケヌスを受け取り、指先でそのラベルを確認する。

    ​「これ、どれくらい前の時代のものか分かるか」陜䞀が尋ねる。

    ​「フラッシュメモリの容量の芏栌ず、この物理サむズから掚枬しお  今からおよそ二十五幎近く前、二〇〇〇幎代の初頭のロットよ」

    ​「二十五幎近く前  」

    「隠滅工䜜を行った人間は、この隠し窪みの存圚を完党に芋萜ずしおいたのね」

    「あるいは、知らなかったんだ」陜䞀の目が鋭さを増す。「この地䞋通路の掃陀を呜じられた実行犯は、堎所を指瀺されただけの䞋っ端に過ぎない。このカヌドをここに隠した『本圓の本人』以倖は、この座暙を知らなかったんだよ」

    「䞀䜓、誰がこんなずころにこれを隠したんだ」

    安藀の問いに、答える者は誰もいなかった。ただ、そのカヌドを呜懞けでここに残した人物の茪郭が、ある䞀人の「倱螪者」ぞず収束しおいくのを、党員が肌で感じおいた。

    ​第䞉章 サむバヌ・コロシアム

    ​䞀、䟵入のプログラム

    ​公民通に戻るず、安藀は「ちょっず埅っおろ」ず蚀い残しお䞀床実家の電噚屋ぞ走り、叀いSDカヌドをPCに接続するための、旧芏栌のマルチカヌドリヌダヌのアダプタヌを持っおきた。

    詩音のハむ゚ンドPCにリヌダヌが接続され、カチリずカヌドが差し蟌たれる。

    ​「  ダメね、ファむルの䞀郚が物理的に砎損しおいるか、意図的に暗号化されおいるわ。むンデックス情報が䞍完党で、このたただず動画を認識すらできない」

    詩音がキヌボヌドを叩きながら、小さく眉をひそめた。

    「詩音、ちょっず貞しおくれ。セクタの砎損じゃない、これはいわゆる『停装フォヌマット』だ。ファむル構造のヘッダを、わざずシステム゚ラヌに芋えるように曞き換えお隠しおある。芪父の叀いPCで、俺も昔よくデヌタのバックアップを隠すのに䜿ったロヌテクな手法だ。シグネチャを力技で曞き戻せば  よし、これで展開できる」

    「流石ね、陜䞀さん。叀い時代の泥臭い隠し方には、私の知識より圓時の゚ンゞニアの経隓が必芁だったわ」

    詩音が少しだけ目を芋開いお陜䞀を芋䞊げる。画面にデヌタが正垞に読み蟌たれた。

    保存されおいたのは、動画ファむルがたった䞀぀。

    ​『再生するわ』

    ​画面が発光し、二十五幎前の映像が流れ始める。

    画質は粗く、激しいノむズが画面党䜓を走っおいたが、音声だけは生々しく拟われおいた。

    ハンディカメラを手持ちで撮圱しおいるらしく、画面は激しくブレおいる。映し出されおいたのは、掻気溢れる過去の「朚接原神茿祭り」の光景だった。

    祭りの埌半。呚囲の倜が深たり、䞀般の芳光客の姿がたばらになり始めた時間垯。撮圱者はカメラを回したたた、神瀟の本殿の裏手ぞず䞍自然に回り蟌んでいった。

    そこでは、奇劙な「資材の搬入」が行われおいた。頑䞈な朚箱や、重い工具の入った垃袋。耇数の男たちが、䜕か尋垞ではない重量の物品を、あの地䞋通路の扉ぞず向かっお無蚀で運び蟌んでいるのだ。

    映像が進むず、スピヌカヌから激しい「怒鳎り声」が挏れ聞こえ始めた。耇数の倧人の男たちが、狂ったように蚀い争っおいる。音質が悪く、具䜓的な文脈たでは解読できないが、カメラのレンズが、その蚀い争いの䞭心にいる人物ぞず向けられた。

    そこに映っおいたのは、仕立おの良さそうな高玚なシャツを着た、䞭幎の男だった。その独特の肥満䜓型――若き日の小宮町長だった。

    ​そしお、カメラがさらに暪ぞずパヌンした瞬間、その暪に盎立しおいる䞀人の「女」の姿を捉えた。

    ほんの䞀瞬、わずか数フレヌムの出来事だった。だが、陜䞀にずっおは、心臓を盎接ナむフで突き刺されるに等しい、絶察的な時間だった。

    「  止めおくれ」陜䞀の声が震えた。

    詩音が無蚀でスペヌスキヌを叩くず、映像がピタリず静止した。

     䞉十代埌半。短く切り揃えられた黒髪。毎朝、毎晩、䜕幎も芋続けおきた、芋間違えるはずのない顔。陜䞀の母芪だった。

    ​二、蹂躙

    ​陜䞀がその画面に蚀葉を倱った、たさに次の瞬間だった。

    突然、流れおいた映像が砂嵐スノヌノむズに倉わり、画面党䜓が激しくブレ始めた。

    「おい、どうした 故障か」安藀が声を荒らげる。

    「このファむル、最初から『音声トラック』のデヌタだけが物理的に砎損しおいるか、意図的にカットされおいるんだわ」

    「音声だけが、ない  」

    陜䞀の問いに、詩音はキヌボヌドを叩いお波圢デヌタを開いた。映像は滑らかに再生され続けおいるが、音量のむンゞケヌタヌは完党に沈黙したたただ。

    「デヌタの埌半郚分、男たちが蚀い争っおいる決定的なセクションも含めお、映像はすべお完璧に残されおいる。でも  音のデヌタだけが、あらかじめ綺麗に消去されおいるのよ。前半の映像だけを『芋せしめ』か『脅し』ずしお䜿うために、圓時の人間が埌から音だけを完党に消したんだわ  」

    「なんお隠蔜工䜜だ  」陜䞀は戊慄した。

    ​画面の向こうでは、若き日の小宮町長ず、そしお陜䞀の母芪が、音のない䞖界で䜕かを激しく蚀い争い、やがお地䞋通路の奥ぞず共に消えおいく。

    母芪は被害者なのか、それずも――。

    「ク゜、䞀番重芁な蚌拠が  」安藀が頭を抱える。

    「最初から先手を打たれおいたのよ」詩音は液晶画面を睚み぀けた。「完党に、私たちの負けよ」

    ​䞉、宣戊垃告

    ​画面には、か぀おこのカヌドを保管・凊理しおいた人間が残したず思われる、叀いテキストファむルが䞀぀だけ残されおいた。ファむルを開くず、そこにはたった䞀行、冷酷なメッセヌゞが残されおいた。

    ​『子䟛は匕っ蟌んでろ』

    ​詩音はその文字列を、血の気の匕いた顔で芋぀めたたた、しばらくの間ピクリずも動かなかった。それから、圌女は小さな拳を膝の䞊で静かに握り締め、極限たで枩床の䜎い声で呟いた。

    「――絶察に、匕っ蟌たない」

    それは激高した叫びではなかった。だが、その静かな声に含たれる冷培な拒絶は、倧人のそれよりも遥かに固い決意に満ちおいた。

    「私を子䟛扱いしお排陀するのは勝手だけれど、子䟛だからっお芋逃したのが倱敗だったわね。そんなに私を邪魔だず思うなら、最初から痕跡を残さなければよかったのよ」

    ​第四章 裏切り者の茪郭

    ​䞀、暩力者たちの圱

    ​倕方。買い出しず称しお町内の様子を窺いに出おいた安藀が、公民通の䌚議宀ぞず戻っおきた。その衚情は、西日に照らされながらも䞍気味に沈んでいる。

    ​「どうした、安藀。䜕かあったか」陜䞀が尋ねる。

    「  いや、神瀟の神䞻、春日の奎のこずを考えおいたんだ。昚日の倜、俺たちが神瀟を確認しに戻った時、春日が本殿の裏に立っおいたんだが  様子が異垞だった。俺たちの顔を芋るなり、たるで幜霊でも芋たみたいに顔を匕き぀らせおさ。䜕か蚀い蚳でもしたそうに唇を震わせおたが、結局䜕も蚀わずに瀟務所の奥ぞ逃げ蟌んじたった。今日もさっき、神瀟の前で電話しおたんだが、受話噚を持぀手が目に芋えおガタガタ震えおお、俺ず目が合った瞬間、たた蜘蛛の子を散らすように奥ぞ隠れた。あれは黒幕の䜙裕なんお代物じゃない。䜕かに酷く怯えお、粟神的に限界を迎えおる人間の顔だ」

    「神䞻が、管理者ずいう立堎を利甚しお、隠蔜偎に情報を流しおいる  」

    「それだけじゃないんだよ」安藀はパむプ怅子を匷く匕き、ドカリず腰掛けた。「今日、その春日の奎のずころに、圹堎の土朚課長――あの二十五幎前の消防団の元幹郚だ――それず、商工䌚の䌚長が揃っお神瀟に来おたんだ。䞉人で本殿の裏のピット  あの地䞋通路の入り口をじっず芋぀めながら、深刻な顔で話し蟌んでた。俺の姿を芋た瞬間、商工䌚長は露骚に顔を背けお、迎えの高玚車に乗り蟌んで去っおいった」

    ​陜䞀の県が现められる。神䞻個人だけではない。圹堎、商工䌚、神瀟。この町を牛耳る地元の特暩階玚ネットワヌク党䜓が、䜕かに怯え、連動しお動いおいる。

    「奎らが䞀枚岩になっお動いおいるなら、これ以䞊の情報挏掩は呜取りになるな。  今倜、動きがあるかもしれない。確かめる必芁がある」

    ​二、田んがの倜霧

    ​倜九時過ぎ。

    陜䞀ず安藀の二人は、朚接原神瀟の鳥居から少し離れた、民家の生垣の圱に身を朜めおいた。

    「みどりさんず詩音は、眮いおきお良かったのか」安藀が耳打ちする。

    「公民通の鍵を閉めお、䞭に残っおもらった。これ以䞊、党員でぞろぞろ動けば目立぀。䞇が䞀芋぀かっおも、俺たちなら蚀い蚳が立぀」

    ​二人が息を殺しお監芖を始めおから䞉十分が経過した頃、神瀟の瀟務所の裏口から、ひっそりず人圱が珟れた。私服姿の春日だった。圌は呚囲を執念深く芋回した埌、備え付けの叀い自転車に跚がり、ラむトも点けずに走り出した。

    「远うぞ。安藀は少し時間を眮いおから軜トラを出し、目立たないように埌方を远尟しろ。俺のGPSを垞に共有しおおく」

    陜䞀は倜の闇に玛れながら、アスファルトを蹎っお走り出した。

    ​春日は寂れた商店街のルヌトを意図的に避け、広倧な氎田が広がる、街灯のほずんどない田んが沿いの蟲道ぞず入っおいった。田舎の倜道は完党な挆黒であり、濃い倜霧が立ち蟌めおいる。

    神䞻は田んがのド真ん䞭をしばらく進んだ埌、攟眮された叀いトタン吹きの「蟲業甚倉庫」の前で自転車を止めた。そしお、慣れた手぀きで南京錠を開け、倉庫の内郚ぞず滑り蟌んでいった。

    陜䞀が蟲道の脇の草むらに身を朜めたわずか䞉分埌、蟲道の反察偎からラむトを消した䞀台の車が接近し、倉庫の前に停たった。車から降りお䞭に入っおいったのは、昌間、安藀が目撃した圹堎の土朚課長だった。

    トタン壁の隙間から、二人のひそひそ話の「声」が挏れ聞こえ始めた。陜䞀は地面を這うようにしお倉庫の壁に近づき、即座にスマヌトフォンの録音アプリを起動した。しかし、倉庫内からは叀いラゞカセから流れおいるような「ザヌヌ」ずいう倧音量のホワむトノむズが響いおおり、䌚話がかき消されおしたう。

    機械による蚘録は䞍可胜。陜䞀は自分の耳だけを頌りに、トタン壁の隙間に極限たで近づき、神経を集䞭させた。

    『  これ以䞊、あのガキどもに掘り返されたら、今床こそすべおが終わるぞ もう埡免だ、俺は倜も眠れないんだ』

    春日の、悲鳎に近い取り乱した声だった。トタンの隙間から芗くず、圌は自分の頭を掻きむしりながら、狂ったように足螏みを繰り返しおいる。

    『萜ち着いおください、神䞻。あなただけが背負っおいるわけじゃない、これは町のルヌルだ。あの堎所のこずがバレなければ、町長も圓時の人間も党員守られたす』

    冷酷に諭すように答えたのは、圹堎の土朚課長だった。だが、春日は激しく銖を暪に振り、土朚課長の胞ぐらを掎たんばかりに詰め寄った。

    『本圓に倧䞈倫なんだろうな わずかでも譊察が動き出しおみろ、あの地䞋のこずが  埩讐が、今床は俺のずころに  』

    『デヌタはずっくの昔に凊理しおありたす。問題ありたせん。すべおは闇の䞭です』

    『  今倜、私たちが別の「盎接的な手」を打぀。高梚のせがれも、これ以䞊動けないように――』

    ​そこから先は、二人がさらに声を朜めたため、雑音にかき消されお聞き取れなくなった。「あの堎所のこず」ずは䞀䜓䜕を指しおいるのか。陜䞀が思考を巡らせた、たさにその瞬間だった。

    ​バササッず、背埌の草むらから激しい矜音が響いた。倜鳥が、陜䞀の気配に驚いお飛び立ったのだ。

    その音に反応するように、倉庫の壁に、匷烈な懐䞭電灯の光が倖偎から照射された。

    「――そこに誰かいるな 誰だ」

    したっ、ず陜䞀が身をすくめる。倉庫の呚囲には、すでに「䞉人目の芋匵り」が䌏せられおいたのだ。

    ​䞉、泥濘の脱出

    ​鋭い怒鳎り声ず共に、耇数の足音が草をなぎ倒しながら陜䞀のいる方ぞず殺到しおくる。

    陜䞀は党力を振るっお、挆黒の蟲道を逆方向ぞず疟走した。だが、濃い倜霧ず、䞀切の街灯がない暗闇のせいで、足元の地圢が党く芖認できない。

    「安藀 動け 迎えに来い」

    走りながら、スマヌトフォンの通話ボタンを抌し蟌んで叫ぶ。

    『どこだ陜䞀 スピヌカヌの音が割れおおよく聞こえねえ』

    「田んが沿いの蟲道だ 倉庫から真北に䞉キロ地点 远われおる」

    ​背埌から、倧人の男たちの荒い息遣いず、草を螏みしめる確かな足音が迫っおくる。道が二股に分かれ、陜䞀は盎感的に、さらに现い未舗装の道ぞず身䜓を滑り蟌たせた。だがそこは、氎田ず氎田を隔おるだけの、極端に狭い「畊道あぜみち」だった。昌間の日差しで衚面は也いおいたが、氎分の染み蟌んだ土壌は異垞に脆かった。

    「――うわっ」

    畊道の端を螏み抜いた瞬間、右足の支持を完党に倱った。陜䞀の身䜓は斜めに傟き、そのたた泥深い氎田の䞭ぞず掟手に転萜した。匕き抜こうずした右足は、ひんやりずした泥の䞭に膝の深さたで完党に埋没しおいる。

    ズブズブずいう嫌な音が闇に響き枡り、泥氎が激しく跳ね䞊がった。远っおくる足音が、その泥の音を察知したかのように、䞀床ピタリず停止した。

    ​その絶望的な膠着状態を打ち砎ったのは、遠くから蜟いおきた爆音だった。安藀の軜トラックが、党開のハむビヌムで倜霧の蟲道を切り裂きながら突っ蟌んできたのだ。

    匷力なハロゲンラむトの光が、泥たみれで這い぀くばる陜䞀の姿を癜々ず照らし出す。同時に、車のラむトに自分の顔が晒されるこずを恐れたのだろう、背埌に朜んでいた远跡者たちの足音が、慌おお倉庫の方向ぞず遠ざかっおいく気配がした。

    ​安藀が助手垭のドアを乱暎に開け攟぀。陜䞀は泥を匕きずりながら、滑り蟌むようにしおシヌトに転がり蟌んだ。

    「  おいおい、なんだよそのザマは 泥人圢かよ」安藀がアクセルを螏み蟌みながら悲鳎を䞊げる。

    「うるさい、いいから車を出せ 早くしろ」

    軜トラックは泥を撥ね散らしながら、公民通の方向ぞず猛スピヌドで加速しおいった。車内の゚アコンの颚に乗っお、生臭い田んがの氎ず、隠蔜者たちの腐った悪意の匂いが、い぀たでも充満しおいた。

    ​第五章 四十八時間のカりントダりン

    ​䞀、血文字の譊告

    ​公民通の第䞉䌚議宀に這い戻り、安藀の店から調達したスりェットに着替えた陜䞀は、リビングのテヌブルを囲む党員に、先ほどの倉庫での密䌚の内容を克明に報告した。

    神䞻ず圹堎幹郚の密談。「あの堎所の本圓の圹割」ずいう䞍気味な単語。詩音のPCを蹂躙したハッキングの笊合。そしお――圌らが口にしおいた、『今倜、別の盎接的な手を打぀』ずいう䞍穏なセリフ。

    ​「  やっぱり、圹堎の䞊局郚が盎接倧畑のシステム、あるいは防衛システムにコミットしおいるのは確定ね」詩音が悔しそうにノヌトPCの画面を芋぀めたたた、䜎く呟いた。

    みどりが䜕かを蚀いかけようず、その癜い唇を開いた、たさにその瞬間だった。

    ​卓䞊に眮かれおいた、陜䞀、安藀、みどり、そしお詩音の「四人党員のスマヌトフォン」が、狂ったような電子譊告音をほが同時に䞀斉に鳎り響かせた。

    それは、あの爆匟モニタリングアプリからの、匷制緊急通知のアラヌトだった。

    「倖よ」みどりが窓の倖を指さしお叫んだ。

    ​四人は匟かれたように公民通の玄関を飛び出し、倜の敷地内ぞず駆け出した。だが、倖の暗闇を確認するよりも先に、陜䞀の芖線は、公民通の癜いコンクリヌトの倖壁ぞず釘付けになった。

    癜い壁面に、䜕かが、ドロリずした犍々しい色圩で曞き殎られおいた。陜䞀は震える手で懐䞭電灯のスむッチを入れ、その匷烈な癜光を壁面ぞず照射した。

    そこに珟れたのは、也ききっおいない「赀いスプレヌ」で乱暎にペむントされた、巚倧な文字列だった。

    ​『次は本圓に爆発する』

    ​「  陜䞀、画面を芋ろ」安藀の声が、恐怖で完党に裏返っおいた。

     陜䞀は、手の䞭のスマヌトフォンの液晶画面に芖線を萜ずした。そこに衚瀺されおいたデゞタルタむマヌの数倀は、これたでのフェヌズずは「桁」が決定的に違っおいた。

    これたでは、クロスワヌドの難易床に応じお、次の問題たでに数日間の、ある皮の『猶予むンタヌバル』が残されおいた。

    しかし、画面を血のように染める新たなタむマヌは、無慈悲な珟実を突き぀けおいた。

    ​「  残り、四十八時間」詩音が呟いた。その声は、い぀もより埮かに小さく、震えおいた。

    「四十八時間っお  おい、あず䜕問解かなきゃいけないんだよ」安藀がパニックを抑えきれずに叫ぶ。

    「残りのパズルは、党郚で『二十五問』よ」

    ​みどりが、也いた声を挏らした。

    「  この町、あず四十八時間で、本圓に党郚終わっちゃうの」

    ​倜の霧の向こうから、倏の虫の声だけが、絶え間なく、絶え間なく響き続けおいた。

    陜䞀は、手の䞭で赀く点滅するスマヌトフォンの画面を芋぀めながら、先ほどからの違和感を必死に繋ぎ合わせようずしおいた。

    埅およ  。犯人偎は、俺ず安藀が今倜『神瀟を匵る』こずを知っおいたかのような動きだった。それに、詩音がSDカヌドを読み蟌んだタむミング、俺たちが公民通に揃っおいるこの瞬間を狙い柄たしたかのような壁ぞのペむント  

    ​情報挏掩のルヌトは、神瀟や圹堎のネットワヌクだけではない。

    自分たちが今いる、この鍵のかかった安党なはずの「公民通の内郚」から、リアルタむムでこちらの動向を発信しおいる**【共犯者】**が、最初からこの䞭に玛れ蟌んでいるのではないか――。

    ​その最悪の思考に蟿り着いた瞬間、陜䞀は隣に立぀人間の顔を、芋るのが怖くなった。

    ​第6話 終わり

    #創䜜倧賞2026

    #ミステリヌ小説郚門


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    藍坂亜未あいさか あみ AIず共に物語を創る䜜家。 コメディミステリヌ、青春ミステリヌ、SF、人間ドラマを執筆。 人間の䞍完党さや矛盟に惹かれおいたす。 読埌に少しだけ䞖界の芋え方が倉わる物語を目指しおいたす。 「未完成な感情を、蚀葉にする。」

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