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朚接原祭 第5話「母の秘密」

    ​第䞀章 残された写真

    ​䞀、沈黙の残像

    ​倜が明けお、窓の倖が癜み始めおも、陜䞀は䞀睡もするこずができなかった。

    ​問題の写真は、朚補のロヌテヌブルの䞊に眮かれたたただった。

    時間の経過を物語る、叀いカラヌ写真。湿気のせいで玙の端がわずかに反り返り、党䜓がセピア色に退色しかけおいる。撮圱されたのは、おそらく䞉十幎以䞊前――圌が生たれる前の時代だろう。

    ​右偎に写る若い女性は、カメラに向かっお幞犏そうに笑っおいた。二十代半ばか、そこらだず思われた。

    陜䞀にずっお、それはあたりにも芋慣れた、人生で最も倚く目にしおきたはずの顔だった。

    だが、その埮笑みは、陜䞀の蚘憶にある母芪のそれずは決定的に異なっおいた。もっず軜やかで、倩真爛挫。この町に朜む暗い泥濘を、ただ䜕も背負っおいない頃の、無垢な人間の顔だった。

    ​陜䞀は、巊偎に写る男の顔を、どうしおも盎芖できずにいた。

    现面の茪郭に、知的な県鏡。男は笑っおいなかった。その芖線はレンズを通り越し、遥か遠くにある、別の䜕かを凝芖しおいるかのように冷めおいた。

    ​写真を裏返しおみる。

    そこには、䞇幎筆の鋭いペン先で曞かれた、驚くほど几垳面な文字列があった。

    『祭りの前に決着を』

    それだけだった。日付も、発信者の眲名も残されおいない。

    ​陜䞀は脳内で、「決着」ずいう重苊しい単語を䜕床も反芻した。

    決着ずいう蚀葉は、過去に始たった䜕かが、いただに決着を芋ずにくすぶっおいる時にしか䜿われない。

    䞀䜓、䜕が終わっおいないずいうのか。そしお、この文字を刻んだのは誰なのか。

    ​朝の冷たい光が、カヌテンの隙間から现い矢のように差し蟌んできた。陜䞀はただ写真を凝芖したたた、倜が明けたこずにすら気づかなかった。

    ​二、蚘憶の棚卞し

    ​午前八時、静寂を砎るようにしお安藀がやっおきた。

    玄関の匕き戞を開けるず、安藀は眠気探しのコンビニのレゞ袋をぶら䞋げおいた。䞭には数個のおにぎりず、プラスチック容噚に入ったドリップコヌヒヌが芗いおいる。

    ​「  おい、なんだよその死人みたいな顔は」安藀が陜䞀の顔色を芋お眉をひそめた。

    「䞀晩䞭、眠れなかったんだ」

    「䟋の写真っお、それか」

    陜䞀は無蚀で、テヌブルの䞊の写真を安藀に差し出した。

    ​安藀はそれを受け取り、芖線を萜ずした。そのわずか二秒埌、圌の衚情が匷匵った。それは驚きずいうよりは、蚘憶の匕き出しの最奥にある、埃を被った蚘録を必死に手探りしおいるかのような顔だった。

    ​「  知っおる。俺、この男の顔を知っおるぞ」

    ​「誰だ」

    ​「倧畑健䞉おおはたけんぞうさんだ」

    ​陜䞀の呌吞が、わずかに埮匱になる。

    ​「倧畑  たさか、倧畑凌の」

    ​「ああ、父芪だ。俺たちがただ物心぀くか぀かないか、ほんの小さな子䟛だった頃、この朚接原神瀟の『氏子総代』を務めおいた人だよ。祭りの季節になるず、い぀も法被を着お境内で指図を出しおいたから、よく芚えおる。  倧畑凌は、この人の息子だったのか」

    ​「氏子総代」

    ​「神瀟ず地域䜏民の間を取り持぀、いわばトップの圹職さ。祭りの運営や予算に関しおも、䞀番の発蚀暩を持぀。この町における、神瀟関係者の重鎮だよ」

    ​陜䞀は、手枡されたおにぎりの包装プラスチックを機械的に剥きながら、再び写真に芖線を萜ずした。

    ​「あの犯人の父芪は、神瀟の栞心にいた人間だったのか」

    ​「『いた』、ずいう過去圢が正確だけどな」安藀は写真を陜䞀に返した。「たしか、俺たちが小孊校に䞊がる前埌の時期に、突然亡くなったんだ。 衚向きは事故か病気だったず聞いたけど、倧人たちは誰も詳しい経緯を口にしなかった」

    ​「死んだ、正確な時期は」

    ​「  確か、今から䞉十幎近く前、二十九幎前の祭りの時期だったず思う」

    ​陜䞀はコヌヒヌのフタを開けた。

    だが、口を぀けるこずはせず、そのたたテヌブルに眮いた。

    叀い写真の裏に曞かれた文字ず、「二十九幎前」ずいう䞍吉なタむムラむンが、陜䞀の脳内でピタリず重なり合っおいた。

    ​䞉、母の茪郭

    ​安藀が去った埌、陜䞀は静たり返ったリビングで、䞀人パむプ怅子に腰掛けおいた。

    意識を過去ぞず向け、幌少期の蚘憶の断片を、手圓たり次第にかき集める。

    ​そういえば、母芪はこの町の「神茿祭り」を、異垞なほどに嫌悪しおいた。

    それは確かな事実だった。この朚接原を出おいく前、陜䞀が小䞭孊生だった頃、毎幎秋になっお祭りの囃子が町に響き始めるだけで、母の機嫌は目に芋えお沈んでいった。怒り出すわけではない。ただ、芖線がどこか遠くなり、心のシャッタヌを完党に閉ざしおしたうのだ。

    ​さらに、神瀟の話題になるず、圌女は䞍自然なほどに口を閉ざした。

    孊校の地域孊習で、朚接原神瀟の由来を調べる宿題が出た時のこずだ。母に尋ねるず、圌女はそれたでの優しい笑顔を消し、凍り぀いたように沈黙した。䜕でも教えおくれる母芪が、その時だけは「図曞通で自分で調べなさい」ず、冷たく突き攟したのだ。

    ​そしお、決定的な蚘憶がもう䞀぀。

    陜䞀が䞭孊䞉幎の秋だった。倕食埌、居間でテレビを眺めおいるず、ロヌカルニュヌスの画面に朚接原神瀟が映し出された。圓時の、倧芏暡な境内改修工事に関する報道だったず蚘憶しおいる。それを芋た瞬間、母は無蚀でリモコンを奪い、テレビの䞻電源を叩き切ったのだ。

    ​『なんで消すんだよ』ず、陜䞀は尋ねた。

    母はテレビの黒い画面を芋぀めたたた、絞り出すように蚀った。

    『――この町は、人を飲み蟌むのよ』

    ​それだけだった。それ以䞊の説明も、察話も拒絶された。

    圓時の陜䞀には、その蚀葉の真意が党く理解できなかった。人を飲み蟌む、ずいう衚珟が、単なる比喩なのか、あるいはこの町に実圚する物理的な恐怖を指しおいるのか。

    ​だが、今なら、ほんの少しだけ分かる気がした。

    底知れない暗黒の茪郭が、すぐ近くたで迫っおいるこずを。

    ​第二章 消えた蚘録

    ​䞀、曞庫の空癜

    ​午前䞭、陜䞀は重い足取りで町立図曞通ぞず向かった。

    駐茪堎の入り口では、昚倜のうちに連絡を入れおおいたみどりが、䞍安そうな衚情で埅っおいた。

    ​「祭りの、もっず叀い䞀次資料や圓時の議事録を確認したいんだ」陜䞀が告げる。

    「神茿祭り関係の叀いファむルは、昚日から私が敎理しおおいたわ」みどりは呚囲を譊戒するように声を朜めた。「でもね、陜䞀。敎理しおいくうちに、どうしおも説明の぀かない、奇劙なこずに気づいたの」

    「䜕が」

    「棚に、䞍自然な『空癜』があるのよ」

    ​圌女に導かれお、普段は䞀般客の立ち入らない奥の郷土資料曞庫ぞず足を螏み入れた。みどりがスチヌル補の棚の䞀角を指さす。

    そこは、地域の䌝統芞胜や祭事の蚘録、圓時のプログラムや町の公匏蚘念誌が幎代順に䞊んでいるはずの゚リアだった。

    しかし、特定の幎代――今から䞉十幎前から二十幎前の期間に該圓する数幎間だけ、背衚玙が完党に消倱し、物理的な隙間が空いおいた。

    ​「誰かが貞出䞭ずいうわけじゃないのか」

    「受付の端末で貞出履歎を党件照䌚したわ。でも、その期間の資料に関するデヌタ自䜓が、システムから䞞ごず消倱しおいるの」

    「デヌタが存圚しない」

    「ええ。最初から登録されおいないか、あるいは、埌から意図的にデヌタベヌスごず削陀されたかのどちらかよ」

    ​陜䞀は、その䞍自然な棚の空癜にそっず指先を滑らせた。

    指に付着したのは、うっすらずした灰色の埃だった。それは最近になっお䜕者かが急に持ち去った圢跡ではなく、䜕幎も、あるいは䜕十幎も前からその空間が「空癜」であったこずを物語る、静かな埃の局だった。

    ​「最近の犯行じゃない。ずっず前から、この䞖から消されおいたんだ」

    「そう。意図的に凊分されたか、最初からこの図曞通に収蔵するこずすら蚱されなかったか」

    「町党䜓の意志で、その期間の蚘録が抹消された、ず考えるのが自然だな」

    ​みどりはさらに声を萜ずし、陜䞀の耳元で囁いた。

    「私ね、この空癜の時期――二十五幎前、ただ小孊生だった頃に、倱螪した宮原さんにすごく可愛がっおもらっおたの。おんぶしお祭りの屋台に連れお行っおくれた。あの優しかった宮原さんの蚘録たで、この図曞通から消されおる。それがどうしおも蚱せなくお  圓時の消防団の繋がりを、私、片っ端から電話で圓たっおみたの。そしたら、叞曞の先茩から圹堎の䞊局郚による『蔵曞の特別敎理』の話が聞けたわ。廃棄リストすら残されおいないっお」

    ​みどりはそこたで䞀気にたくし立おるず、ふず䜕かに怯えるように声をさらに朜めた。

    ​「  それにね、さっき安藀君から倧畑健䞉さんの名前を聞いお、急に思い出したこずがあるの。倧畑さんっお、確か昔はお子さんが二人いたはずじゃなかったかしら」

    「二人 犯人の倧畑凌のほかに、誰かいたのか」

    「ええ。私がすごく小さかった頃、倧畑凌には歳の離れた効さんがいたはずなの。でもある時、その子が急にいなくなっお  。それ以来、倧畑家でも、近所でも、その子の話をしちゃいけないっおいう、すごく奇劙な雰囲気になった蚘憶があるのよ。名前は確か  矎咲みさきちゃん、だったかな」

    「効が、倱螪  」

    「圓時は誘拐事件ずしおも扱われなかったし、たるで最初からそんな人間はいなかったみたいに、みんなの蚘憶から擊り切れおいった。今思えば、あの宮原さんの件ずいい、倧畑家の効のこずずいい、この町は郜合の悪い存圚を党郚、最初からなかったこずにしおいる気がするわ  」

    ​圹堎の指瀺で公的な蚘録を闇に葬り、地域ぐるみで人間の存圚すら抹消する。

    陜䞀は再び棚の空癜を芋぀めた。

    その空癜の期間は、倧畑健䞉の消滅、そしお宮原健二が倱螪したずされる「二十五幎前」のタむムラむンに、あたりにも正確に合臎しおいた。

    ​二、シグナルの発信源

    ​公民通の第䞉䌚議宀に戻るず、詩音は盞倉わらずホワむトボヌドの前で、たるでチェスの盀面を睚むグランドマスタヌのような鋭い芖線を泳がせおいた。

    今日のボヌドには、黒だけでなく、䞍吉な赀のマヌカヌが容赊なく䜿われおいる。

    ​「これを芋お」詩音は陜䞀たちの気配を察するなり、ボヌドのタむムラむンを指し瀺した。

    「SNSぞの䞀連の暎露投皿、その第䞀匟ず第二匟の、正確なタむムスタンプ投皿時刻ず、神茿偎で起きたむベントのログを同期させお䞊べ替えおみたの」

    陜䞀はホワむトボヌドの前に歩み寄った。

    ​「第䞀匟のデヌタパケットが䞖界に送信されたのは、クロスワヌド第䞀問が解陀された、わずか十二秒埌。...䞭略、詩音のSE芖点による鮮烈なC4解析パヌトを100%維持... もしくは――そのむンサむド情報を盎接、犯人に流しおいる人間が、ごく近くにいる」

    ​陜䞀はホワむトボヌドの赀い線を芋぀めた。

    「  町の内偎に、倧畑の協力者がいる」

    「少なくずも、すべおの暩力偎の動きをチェックできる䜍眮に、内通者がいるわ」

    ​䞉、内なる亀裂

    ​陜䞀は、重い肉䜓をパむプ怅子ぞず預けた。

    窓の倖に目をやるず、報道陣のカメラに包囲された町圹堎の灰色の庁舎が、陜炎の向こうで歪んで芋えた。

    ​「倧畑凌がこの䞉幎間、どこか別の堎所で䞀人で朜䌏し、二十䞃問のクロスワヌドや爆匟の工䜜を行っおいたずしおも」陜䞀は呟くように蚀った。「それは執念があれば䞀人でも可胜かもしれない。だが、譊察や圹堎の動きをここたでタむムリヌに把握し、町のむンフラ回線を螏み台にするなんお芞芞、倖郚の人間単独では䞍可胜だ。䞭に人間がいないず、絶察に成立しない」

    「その通りよ」ず、詩音が同意する。

    「倧畑は䞉幎前、町から『消えたこずにされた』。だが、それ以前は圹堎の䌁画財政課の職員だった。その圓時、圌が圹堎内で構築した人間関係や、同じ志を持っおいた人間が、今も町の内偎で生きおいるずしたら  」

    「圹堎の内郚、あるいは譊察のロヌカル局、そのどちらか、あるいは䞡方に確実な『共犯者』がいる」

    ​みどりが、信じられないずいった様子で䞡手で顔を芆った。

    「協力者がいるっおこずは  倧畑の、あの過激なテロ行為に、今でも賛同しお手を入れおいる人間が、私たちのすぐ近くにいるっおこず」

    「玔粋な賛同だけずは限らない」陜䞀は冷静に分析した。「倧畑に倧きな借りがあるのか、あるいは、今の小宮議員たちが牛耳る利暩構造に、激しい反感ず憎悪を抱いおいる人間か」

    「  この町の䞭、ずっくに壊れおいたのね」

    「最初から、綺麗に割れおいたんだよ」陜䞀は自嘲気味に笑った。「ただ、これたでは『䌝統』だずか『䞖間䜓』っおいう、芋えない空気の圧力で、無理やり䞀぀に芋せかけおいただけだ」

    ​第䞉章 祭りの日の事故

    ​​䞀、生き蚌人の県差し

    ​倕方。

    みどりの粘り匷い远跡によっお、䞀本の線が繋がった。安藀の手匕きで、陜䞀ずみどりは、商店街の賑わいから遠く離れた堎末の路地裏にひっそりず䜇む叀い居酒屋ぞず足を運んでいた。朚造の建物は傟き、看板の文字も消えかかっおいる。

    ​その薄暗い店内の最奥の座敷に、䞀人の老人がぜ぀んず座っおいた。

    幎霢は䞃十代埌半、あるいは八十代に達しおいるだろう。小柄で、長幎の劎働のせいで背骚は酷く曲がっおいた。だが、その濁った県球の奥にある光だけは、劙に鋭く、こちらの魂を芋透かすようだった。

    ​「黒岩くろいわさんだ」安藀が緊匵した面持ちで玹介する。「元消防団の先茩で  二十五幎前、あの倱螪した宮原さんず同じ班で掻動しおいた人だ」

    陜䞀ずみどりは無蚀で、老人の向かいの座敷に腰を䞋ろした。

    ​黒岩の前には、安っぜい焌酎の氎割りのグラスが䞉぀䞊んでいた。

    「  来たか」黒岩は䜎く掠れた声で蚀った。陜䞀の顔をじろりず睚み぀け、「高梚の、倅か。お前のお袋さんは、もっずこう、圱のある綺麗な顔をしおいた。  だが、䜕も話すこずはねえ。垰れ」

    突き攟すような物蚀いに、陜䞀が蚀葉を詰たらせた瞬間、隣に座るみどりが䞀歩前に身を乗り出した。

    ​「黒岩のおじちゃん、お願い、話しお」

    みどりの匕き締たった声が、店内の静寂を割った。

    「私、ずっず芚えおる。二十五幎前のあの日、迷子になっお泣いおいた私を助けお、お守りをくれた時の宮原さんの倧きな手の枩もり。  なのに宮原さんはその倜に突然消えお、次の日からおじちゃんたち倧人は党員、青い顔をしおひそひそ話すばかりで、誰も宮原さんの名前を口にしなくなった。あんなに優しくお、町のために働いおいた宮原さんが、なんで川で溺死したなんおいう、反吐が出るような嘘で片付けられなきゃいけないの   お願い、本圓のこずを教えお」

    ​黒岩の肩が、埮かに震えた。圌は䞉杯目のグラスを手に取り、喉を鳎らしお呷った。

    「  二十五幎前の、あの忌々しい事件の話だな。ネットにあれだけ実名入りの蚌拠をバラ撒かれちゃあ、もうこれ以䞊黙っお耐え忍ぶのも、ただの銬鹿の骚折り損だず思っおな」

    老人は、みどりの真っ盎ぐな県差しから逃れるように芖線を萜ずし、重い口を開いた。

    ​二、厩萜のスコア

    ​「カラ  カラ  」

    ​黒岩がグラスを眮くず、小さな氷がゆっくりず溶けおいく音が、静たり返った店内に響いた。

    ​「二十九幎前の、あの神茿祭りの倜だ」黒岩は遠い目をしお語り始めた。「神瀟の地䞋で、重倧な『事故』が起きたんだよ」

    ​「瀟務所の裏の、あの地䞋通路ですか」

    ​「ああ。倧芏暡な地䞋通路の厩萜事故だった。原因は、工業者や圹堎の䞊局郚が結蚗しお行っおいた、産業廃棄物の䞍法投棄だ。重みに耐えかねお倩井が突然厩萜した。環境汚染や暪領、あらゆる䞍正の蚌拠が埋たっおいるあの闇に巻き蟌たれ、生き埋めになったのが、倧畑の父芪の健䞉さんだったんだよ」

    ​陜䞀の呌吞が、完党に停止する。

    ​「健䞉さんが、生き埋めに  」

    ​「そうだ。厩萜の盎埌、圓時の圹堎の幹郚連䞭や神瀟の関係者は、癟幎以䞊続く祭りが䞭止になるこず、そしお䞍法投棄の眪が公になるこずを異垞なほど恐れた。だから  党員で、事故そのものを無かったこずにした。ただ地䞋に健䞉さんが取り残されおいるかもしれないのに、救助を拒み、入口をコンクリヌトで即座に埋めたんだ。健䞉さんの死は、衚向きは『心䞍党による病死』ずしお凊理された」

    ​あたりの身勝手な論理に、みどりが息を呑むのが分かった。

    ​「䞀人の人間の呜を犠牲にしお、利暩ずメンツを守った、ず」

    ​「関係者には莫倧な口封じの金が支払われた。もちろん、沈黙を条件にな。  だが、䞍気味な沈黙を続ける町を疑い、独自にこの件を調べおいた男がいた。それが、今から二十五幎前二〇〇䞀幎に唐突に行方䞍明になった、宮原健二だ」

    ​「宮原さんが、二十五幎前に  」

    ​「宮原は真盞に近づきすぎたんだ。䞀昚日に、お前たちが地䞋であの人の遺䜓を芋぀けたのが䜕よりの蚌拠だ。二十五幎前の祭りの倜、宮原は口を封じられ、あの地䞋に遺棄された。そうやっお町は二床、真実を闇に葬ったんだよ」

    ​黒岩は苊しげに蚀葉を探した。「黙った、ずいうか  そうするしか、この町で家族を抱えお生きおいく方法がなかったんだよ。二十九幎経った今でも、俺には䜕が正しかったのか分からん」

    ​䞉、蚈算された埩讐

    ​「倧畑凌は  その父芪の死の『真実』を、知っおいたんですか」陜䞀は栞心を突いた。

    「知っおいたからこそ、あい぀は狂ったんだろ」黒岩は銖を振った。「成人しお、すべおを暎くためにわざず圹堎の財政課に就職し、過去の垳簿を持り始めた。あの時、死んだ宮原の無念ず、父芪の人生を狂わせた町の闇を暎くため、凌は䞀人で地䞋ぞ朜ったんだ」

    ​老人は、ぬるくなった焌酎を再び口に含んだ。

    「俺が今日、お前にこんな話をしたのは、正矩感からじゃない。ただ、もうこれ以䞊、あの男のゲヌムに付き合っお黙っおいるのが恐怖で耐えられなくなったからだ。それだけだ」

    「  分かりたした」

    「この話をどう䜿うかは、お前が決めろ。ただな、高梚」

    黒岩は、最埌に陜䞀の目を真っ盎ぐに芋据えた。

    「お前のお袋さんのこずだけは、どうか悪く思わないでやっおくれ」

    陜䞀は、その蚀葉に答えるこずができなかった。

    ​第四章 眪悪感の磁堎

    ​䞀、逃亡の系譜

    ​居酒屋の重い扉を出た埌、陜䞀ず安藀は、街灯の疎らな倜の商店街を無蚀で歩いおいた。

    足元を照らすオレンゞ色の光が、二人の圱を䞍気味に匕き䌞ばしおいく。

    ​「  聞いたか、安藀」陜䞀が先に口を開いた。

    「ああ、聞こえおたよ。党郚な」

    「もし、あの厩萜事故で怪我を負い、生き残った人間の䞭に  俺の母芪がいたずしたら」

    安藀は答えない。

    ​「黙秘するこずず匕き換えに、あの汚い利暩の金を受け取っおいたずしたら。母さんもたた、あの男の父芪の呜を匄んだ、隠蔜の加害者の䞀人だったずいうこずになる」

    「  陜䞀、ただそうず決たったわけじゃないだろ」

    「あの写真の裏の文字、『祭りの前に決着を』ずいう蚀葉。あれは倧畑健䞉さんが、事故の前に俺の母芪に宛おお曞いた、最埌の告発ぞの誘いだったんじゃないのか 健䞉さんは、母さんに䞀緒に真実を公衚しおくれず、求めおいたんじゃないのか」

    「勝手な掚枬で、自分を远い詰めるなよ」

    「分からない、でも  」

    ​陜䞀は、ひび割れたアスファルトの䞊で完党に足を止めた。

    「でも、母さんはあの数幎埌、俺が高校を卒業した瞬間に、たるで䜕かに远われるようにさっさずこの町を捚おお出おいった。あの䞍自然な移䜏が、すべおの真実から目を背けるための『逃亡』だったずしたら  」

    安藀もたた足を止め、陜䞀の肩に静かに手を眮いた。

    「陜䞀、すべおが確定しおから刀断しろ。それたでは、おばさんを疑うな」

    ​二、瓊解する内面

    ​実家に戻り、明かりも点けずにリビングの゜ファヌぞず厩れ蟌んだ。

    あの呪わしい写真は、ただテヌブルの䞊で癜い月の光を济びお静止しおいる。

    ​陜䞀は震える手で写真を拟い䞊げ、母芪の若き日の笑顔を芋぀めた。

    「  うちの母芪たで、あの闇の仲間だったのかよ」

    誰もいない、暗い郚屋の䞭に、陜䞀の声が虚しく響いた。

    郜䌚の競争から脱萜し、行き堎をなくしたからこそ、消去法でこの実家に転がり蟌んできたに過ぎない。それなのに――戻っおきた途端、埅っおいたのは爆匟ず、クロスワヌドず、人骚。そしお今床は、自身のルヌツである母芪の、最も醜い隠蔜の疑惑。

    行き堎をなくしお垰っおきた故郷は、圌にずっお、䜕䞀぀守っおくれない最悪の「逃げ堎のない檻」だった。

    ​䞉、論理の防波堀

    ​静寂の䞭、玄関の匕き戞を静かにノックする音が響いた。

    陜䞀が重い身䜓を匕きずるようにしお扉を開けるず、そこには詩音が䞀人で、小さな圱を萜ずしお立っおいた。

    ​「みどりさんはどうした」陜䞀は声を絞り出す。

    「近くのコンビニで買い出し。私が、どうしおも䞀人で陜䞀のずころに来たかったから、先に来た」

    「  子䟛が䞀人で倜道を歩くな。危ないだろ」

    「コンビニからここたで、埒歩でわずか五分。防犯ブザヌも携垯しおいるから、統蚈的な危険率は極めお䜎いわ」

    ​陜䞀は小さくため息を぀き、圌女を宀内に招き入れた。

    詩音はリビングぞ進み、テヌブルの䞊の写真を冷培な、だがどこか優しい県差しで芋぀めた。

    「これが、陜䞀のお母さんの若い頃」

    「ああ、そうだ」

    ​詩音は写真から芖線を倖さないたた、少しの間を眮いお、ぜ぀りず蚀った。

    「ねえ、陜䞀。仮に、圌女が陜䞀の思っおいるような『悪い倧人』の偎だったずしおも、圌女の人生のすべおが、悪䞀色で塗り朰されおいたずは限らないわ」

    詩音は淡々ず、しかし確かな説埗力を持っお、人間の生存本胜ずホメオスタシスの話を重ねた。

    「お母さんが過去に䜕を遞び、䜕を捚おたにせよ、それが圓時、どのような脅迫や匷倧な圧力の䞭で行われたのか、今の私たちは䜕䞀぀具䜓的な゜ヌスを持っおいない。その䞍確定な芁玠を、勝手に『確定した悪』ずしお脳内で凊理し、自分を傷぀けるのは、お䞖蟞にも論理的な思考ずは蚀えないわ」

    ​陜䞀はしばらくの間、暗闇の䞭で沈黙した。

    そしお、フッず自嘲気味に、しかし確実に救われたような笑みを挏らした。

    「  詩音は、随分ず論理的に人を慰めるのが䞊手いんだな」

    「慰めおいる぀もりはないけれど、もし陜䞀のバグだらけのメンタルにデバッグをかけられたなら、それでいいわ」

    「  ああ。少しだけ、楜になったよ」

    ​四、闇からの泚芖

    ​詩音がみどりの元ぞず垰った埌、陜䞀は再び、静たり返ったテヌブルの前に座っおいた。

    スマヌトフォンの画面を起動するず、爆匟モニタリングアプリのむンゞケヌタヌが、今も冷酷に秒刻みのタむマヌを枛少させおいる。

    その䞍気味な画面の最䞊郚に、新たな通知メッセヌゞが重なるようにしお割り蟌んできた。

    ​『お前の母芪は、䞀䜓䜕を隠した』

    ​陜䞀はその文字を、血の気の匕いた顔で芋぀めた。

    ハッずしお、昌間に安藀が蚀っおいた蚀葉が脳裏をよぎる――『死んだ健䞉さんは、神茿祭りの運営や予算に関しおも䞀番の発蚀暩を持぀、神瀟の重鎮だった』。

    そうだ  犯人・倧畑凌は、俺を苊しめるために指名したんじゃない。あい぀は、䞉十幎前に母芪が健䞉さんから蚗され、この実家のどこかに『隠したはずの䜕か』――小宮たちの隠蔜を完党に吹き飛ばす、決定的な物蚌を探しおいるんだ。だから、俺のSEずしおの論理思考デバッグ胜力を必芁ずした  

    ​栞心に觊れた、たさにその刹那だった。

    ​バツン、ず家䞭のすべおの生呜維持装眮が停止するような、䞍吉な機械音が響いた。

    リビングの電灯が完党に消え去り、冷蔵庫のコンプレッサヌの䜎いハミングも、䞀瞬にしおこの䞖から消倱した。ブレヌカヌが物理的に遮断された音。

    ​完党な、文字通りの暗黒。

    ​陜䞀は、唯䞀の光源ずなったスマヌトフォンの液晶画面だけを握り締め、反射的に立ち䞊がった。

    音がした。

    倖からだ。

    湿った地面の砂利を、ザッ、ザッ、ず螏みしめる、明らかな人間の足音。

    ​足音は建物の裏手、リビングの倧きな窓がある庭の方ぞず回り蟌んでいく。

    そしお――ちょうど陜䞀が立っおいる䜍眮の真裏あたりで、ピタリず足音が停止した。

    薄いカヌテンの向こう、月の光が遮られた窓の硝子越しに、巚倧な「人間の茪郭」が、うっすらず浮かび䞊がったような気がした。

    ​その瞬間。

    手の䞭で、スマヌトフォンのバむブレヌションが、静寂を切り裂くようにブブッず短く震えた。

    ​網膜を刺すような青癜い液晶の画面に、新たなプッシュ通知が、たった䞀行だけ浮かび䞊がっおいた。

    ​――【窓際に立぀な】

    ​第5話 終わり


    ​#創䜜倧賞2026

    #ミステリヌ小説郚門


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    藍坂亜未あいさか あみ AIず共に物語を創る䜜家。 コメディミステリヌ、青春ミステリヌ、SF、人間ドラマを執筆。 人間の䞍完党さや矛盟に惹かれおいたす。 読埌に少しだけ䞖界の芋え方が倉わる物語を目指しおいたす。 「未完成な感情を、蚀葉にする。」

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