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【疟颚の春】第四章 遞ばれた先鋒

    総圓たり戊の最終戊。
    巧の盞手は凜だった。

    開始線に立぀前、巧は深く息を吐いた。
    竹刀を握る手の䞭にじんわりず汗がにじんでいる。
    さっきたでの詊合ずは空気がたるで違った。

    健倪ずの詊合では、反則を取られながらも立お盎した。
    五幎生には、堎倖を意識しながらも螏ん匵った。
    六幎生には負けたが、䜕もできなかったわけじゃない。
    剣道のルヌルや䜜法の面倒くささに頭をかき回されながらも、前よりは確実に戊えおいた。

    巧は前回の察戊で凜から蚀われた蚀葉を思い出しおいた。

    ヌヌただ前に出るだけじゃダメ。盞手の䜓や心の動きを感じ取っおその䞊で打぀ 

    あの時は、䜕を蚀われおいるのか理解できなかった。
    だけど今なら少しだけ分かる気がした。

    ヌヌ集䞭。竹刀の先だけじゃない。県、足、間合い、力み 。

    楓に蚀われたこずを心の䞭で䞀぀ず぀䞊べる。

    凜は開始線の向こうでい぀も通り静かに立っおいた。
    盞倉わらず気負っおいる様子は無いが、静かな闘志を感じる。
    そういう時ほど凜は匷い。

    監督「最終戊、はじめっ」

    ふたりが同時に前ぞ出る。

    最初に感じたのは速さでも力匷さでもなかった。
    凜の䜓から攟たれる「圧」だった。

    凜はむやみに飛び蟌んでこない。
    だが、じりじりず間合いを詰めおくる。
    竹刀の先が少しず぀巧の䞭心を抌さえようずしおいるのが分かった。

    巧来るか いや、ただ来ない。

    前の巧なら、その圧に抌されお先に飛び蟌んでいただろう。
    だが今は違う。
    「盞手に動かされるな」
    ず自分に蚀い聞かせる。

    凜の剣先がわずかに䞋がる。

    巧小手か

    そう思った瞬間に巧は反応しかけた。
    だが、すぐに螏みずどたった。

    巧違うこれは誘っおるんだっ

    次の瞬間、凜の剣先はすっず䞊がり、今床はメンにいくぞず竹刀をチラ぀かせた。
    䞊を芋せお䞋、䞋を芋せお䞊。
    どこかを空けたように芋せながら、実際はどこも空けおいない。

    巧はその堎で打たず、足捌きで間合いをずらした。
    芋おいる郚員たちが、わずかにざわめいた。

    健倪「おっ」
    守「今ので飛び蟌たなかったのかっ」

    凜の目がほんの少しだけ现くなる。

    凜前みたいに簡単に乗っおこなくなったわね 。

    その倉化を凜も感じおいた。

    仕切り盎しお二床目の攻め合いが始たる。
    今床は巧の方からほんの少しだけ剣先を動かし、凜の竹刀をはじいた。
    倧きな攻めではない。
    自分から「芋おいるだけでは終わらない」ずいう意思を芋せる。

    凜前よりやりにくくなっおる 。

    凜は無蚀のたた、剣先が觊れる間合いから半歩だけスヌッず入った。
    しかし巧は䞋がらない。
    竹刀の『䞭結なかゆい』が亀差する前の絶劙な距離。

    巧ここで䞋がれば抌し蟌たれる。でも、軜く出れば取られる

    巧の心臓が「ドクンっ」ず鳎った。

    巧ただ ただだっ

    その瞬間だった。
    凜の右肩がわずかに動く。
    呌吞も倉わったように感じた。
    巧は芚悟を決めお前ぞ飛んだ。

    巧「今だっメヌヌンッ」

    今たでより速い螏み蟌みだった。
    自分でも「䞀本取った」ず思った。

    だが、凜はその先を読んでいた。
    巧が『決たった』ず思った瞬間、凜の䜓ず竹刀の軌道は予想しおいない向きに倉わった。

    巧あれっ凜が消えた

    盎埌、巧の胎蟺りから也いた竹刀のパヌンずいう音が聞こえた。

    凜「ドォォォォォォォヌッ」

    監督「ドりあり」

    巧は息をのんだ。

    巧 やられた。

    だが、完党に䜕もできなかったわけではない。
    今の䞀瞬、自分の打ちが『入りかけた』感芚があった。

    開始線に戻りながら、凜は少しだけ驚いおいた。

    凜今のメン 危なかった。以前の巧なら勢いだけで飛び蟌んできた印象があったけど、今の䞀本は党然違う。盞手を芋お、我慢しお、打぀気配を感じお入っおきた

    未完成ではある。
    でも確かに、巧の剣道は圢になり始めおいた。

    監督「二本目」

    詊合再開。

    巧は䞀本先取されおいるため、普通なら焊る堎面。
    だが、前ほど頭に血が䞊っおいなかった。
    むしろ、最初の䞀本で芋えたものを䜕ずか繋ぎずめようずしおいた。

    凜は䞀気に決めに来なかった。
    むしろ慎重になったようにさえ芋える。
    そこに、巧はほんの少しだけ手ごたえを感じた。

    巧凜が譊戒しおる

    これは巧の思い䞊がりかもしれない。
    だがそう感じた瞬間、胞の奥に火が灯った。

    凜が䞭心を攻める。
    巧は竹刀で受けすぎず、足を䜿っお右に䜓をさばく。
    曎に凜が間を詰める。
    今床は巧が巊に䜓をさばく。

    さっきたで飲たれおいた圧の䞭で、ようやく冷静になっおいた。

    健倪「巧が粘っおる」
    守「前より党然いいぞっ」

    凜は䞉床目の攻めで、わずかに調子を倉えた。
    同じ攻め方では通甚しない。
    巧が詊合の感芚を぀かみ始めおいるず分かったからだ。

    巧には凜の竹刀の先がふっず消えたように芋えた。
    盎埌、凜の䜓が䜎く沈む。

    巧コテ いや、メンかっ

    巧の刀断が凜の半歩遅れた。

    凜・巧「メヌヌヌヌンッ」

    監督「メンあり」

    無情にも凜のメンに旗が䞊がった 。
    今回の打突は䞀本目よりも曎に綺麗に決められた。
    凜が自ら䞭心を取っおいた竹刀を倖し、巧が驚いた瞬間に間合いを支配され、迷ったずころにメンを打ち抜かれた 。

    監督「メンあり 勝負ありっ」

    詊合終了。

    道堎に匵り぀めおいた空気が、フッずほどけた。
    巧はその堎で息を切らしながら、しばらく動けなかった。

     悔しい。
    でも、䞍思議ず前に察戊した時のような『䜕もできない悔しさ』ではない。

    巧が面を倖す。
    顔から䞀気に汗が流れ萜ちた。

    巧「 くそっ」

    声は小さい。
    でも、その䞀蚀には前よりずっず重みがあった。

    凜も面を倖した。
    額に匵り぀いた髪を指で払っお、巧を芋る。

    凜「前より、ずっずやりにくかった。」

    巧は思わず顔を䞊げた。

    巧「 え」

    凜「前は、勝手に突っ蟌んできおたでしょ。でも今回はちゃんず盞手を芋お動こうずしおた。」
    巧「だったら䞀本くらい取らせろよっ」
    凜「アンタッそんなこずしたら盞手に倱瀌になるでしょっ」
    巧「 それもそうか」

    そう蚀っおから、二人は笑った。
    そしお凜は少しだけ真顔になる。

    凜「でも、䞀本目は本圓に危なかった。」

    その䞀蚀で、巧の胞が高鳎った。
    二本負けだったが、悔しさの䞭に少しだけ違う熱が混じる。

    巧「 本圓に」
    凜「お䞖蟞蚀うくらいなら最初から黙っおるわよっ」

    い぀もの蚀い方だった。
    けれど、その蚀葉はたっすぐだった。

    凜「ただ、今のあんたは『芋えおきた』だけ。そこから繋げお自分の䞀本にできおない。」
    巧「自分の䞀本 。」
    凜「盞手の䜓や心の動きは、前より芋えおきおる。でも最埌に『今だ』っお決めるずころで迷いが残っおるように思う。そこで私は打おるし、アンタはただ打ち切れおない。」

    巧は䜕も蚀い返せなかった。
    でも、初めお「次に䜕が足りないのか」が、少しだけ芋えた気がした。

    その埌、党員の詊合が終わり道堎の真ん䞭に敎列した。
    監督が腕を組み、䞀人ひずりを芋回す。

    監督「県倧䌚䜎孊幎のメンバヌを発衚するっ」

    道堎がシヌンず静たり返る。

    監督「倧将は凜。副将は倧暹。䞭堅は守。次鋒は健倪」

    ここたでは、みんなの予想通りだった。

    監督「そしお、先鋒はヌヌ巧」

    巧「 えっ」

    自分の名前が出た瞬間、頭が真っ癜になった。

    健倪「マゞかよっ」
    守「おおっ」
    倧暹「やったなヌっ」

    だが、巧はすぐには笑えなかった。
    嬉しい。
    でも、それ以䞊に信じられなかった。

    巧「オレ、負けたのに 。」

    監督はうなずいた。

    監督「巧は負けた。だが、お前は今たでず違っお䞀番良くなっおた。」

    巧は黙っお監督を芋た。

    監督「ルヌルに戞惑い、反則を取られ、䜜法でも匕っかかった。なのに最埌たでめげなかった。」

    ヌヌ監督は続けた。

    監督「凜盞手にもただ負けたワケじゃない。詊合の流れを読んで、喰らい぀いお、盞手に『危ない』ず思わせたんだ。」

    凜が小さく目を䌏せる。
    吊定はしない。

    監督「先鋒に必芁なのは、ただ匷いだけじゃない。勝ち負けもあるが、最初に立っおチヌムに勢いを぀けるこずだ。今のお前には゜レがある。」

    巧の胞が熱くなった。
    文句ばかり蚀っおいた自分が、防具が臭いだの暑いだのずふおくされおいた自分が、チヌムの先鋒 。

    巧「 はいっ」

    声は少し裏返った。
    それでも、今たででいちばんたっすぐな返事だった。

    垰り道。
    道堎を出るころには、空は倕焌けで赀く染たっおいた。

    巧はランドセルを肩にかけたたた、神瀟の前で立ち止たった。
    石段の䞊には、芋慣れた癜い犬がちょこんず座っおいる。

    その少し暪に楓がいた。

    巧「いたのかよっ」
    楓「芋おた。」
    巧「 先鋒になった。」
    楓「聞こえおた。」

    巧は少し笑っおから、すぐ真顔になった。

    巧「でも凜には負けた。しかも二本取られたんだ。」

    楓はすぐには答えなかった。
    石段の䞊から倕焌け色の空を䞀床芋䞊げた。

    楓「 負け方が倉わった。」
    巧「はぁっ」
    楓「昔のお前は負けた理由が倚すぎた。勢いだけ、焊りだけ、知らないだけ。でも今日は違う。ルヌルや䜜法を知っお、䜕を芋お、どこで遅れお、どこで打たれたかが蚘憶に残っおる。」

    巧は黙った。

    楓「それは次に぀ながる負け方だ。」

    癜い犬がフサフサのしっぜを䞀床だけ振る。
    巧は石段の䞊の犬を芋おフッず息を吐いた。

    巧「 なんか悔しいけど、確かに少しだけ分かった気がする。」
    楓「なら、明日からたた緎習すればいい。」
    巧「簡単に蚀うなよ。」
    楓「簡単じゃない。だから䟡倀があるんだ。」
    巧 なるほど
    楓「俺は垰る。」

    神瀟の朚々の間を方の颚が抜けおいく。
    巧はランドセルを背負い盎した。

    先鋒になった。
    でも、ただ凜には届かない。
    その事実は悔しかった。
    それでも、前みたいに遠すぎお芋えない背䞭ではなくなっおいた。

    楓が石段を䞋りおくる䞭、巧はもう䞀床だけ境内を芋䞊げた。
    癜い犬は盞倉わらずこちらを芋おいる。
    たるで『ここからだ』ずでも蚀うように。


    「第五章 春の県倧䌚」に぀づく 。






     
     

    189Jury

     
     
    柎犬ゞュリヌ団長を無理矢理擬人化しお色々なこずをする蚘事ですw

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