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【連載】 『初恋』 第5章「路上ライブ」


    ※本文 約7,000字(読了目安:約15分)


    僕は、琴音の歌をダウンロードしてから、何度も何度も聴き返した。買ったばかりのイヤホンを耳に差し込んで、ベッドに仰向けになり、目を閉じる。再生回数は、もう二桁を超えている。

    静かな前奏のあと、琴音の声が、そっと流れ出す。その声は、強くもなく、派手でもない。けれど、不思議な力があった。音として耳に届く前に、感情として胸に触れてくる。まるで、だれかの心の奥を、そっとノックするみたいに。本当に、心の奥底まで染み入ってくる。


    一年前。
    全国ロードショーで公開され、大ヒットし、社会現象ともなった映画『いつか、この空の下で。』。その主題歌に、この『初恋』が使われた。
    監督が、たまたま見かけた琴音の路上ライブ動画に心を打たれ、本人を探し出し、オファーしたという話は、ファンの間ではもはや伝説だ。そこから一気に話が進み、大手芸能事務所との契約、映画の大成功、そしてブレーク。現代のサクセスストーリーだ。

    その主題歌こそが、『初恋』だった。装飾を削ぎ落とした、ストレートすぎるほどストレートな歌詞。それが、経験したことのある者、あるいは現在進行形で恋をする者たちの心に、鋭く、そして優しく突き刺さった。

     

    一
    私は今日も 明日も
    あなたを探し続ける
    人波のなか すれ違う肩
    ふいに似た背中を追って
    まだ一度も 言葉は交わせない
    でも なぜだろう
    あなたの優しさを 知っている

    あなたは私を知らない
    それでも 私は探してる
    初めて会った あの日から
    ずっと ずっと 探してる
    私の初恋……

     

    二
    私はこれからも 探し続ける
    あなたの声を あなたの影を
    駅のホーム 冷たい風
    ほどけたマフラー 結び直す手
    不器用なまま だれかを守る
    そんなあなたを 見ていた気がする

    あなたは私を知らない
    それでも 私は信じてる
    初めて会った あの日から
    ずっと ずっと 想ってる
    私の初恋……

     

    三
    私はいつまでも 探し続ける
    夕焼けの街 滲むライト
    名前も知らない だけど忘れない
    胸の奥に残る 笑顔だけ
    好き 大好き
    言えないまま 強くなる

    あなたに私を 知ってほしい
    あなたにこの想い 届けたい
    初めて会った あの日から
    ずっと ずっと ここにある
    私の初恋……

     

    初めて聴き終えたあと、僕は、しばらく動けなかった。胸の奥が、じん、と熱を持っている。切ないのに、どこかあたたかい。言葉を交わしたこともない相手を、探し続ける気持ち。あまりにも一途で切ない恋心。その一途さが、痛いほど伝わってきた。

    駅のホーム、冷たい風、ほどけたマフラー。歌詞の中に散りばめられた断片的な記憶が、僕の脳裏にも映像として浮かんでくる。

    この歌は、きっと、琴音の初恋なのだ。琴音の記憶に刻まれた「あの日」の情景そのものなのだろう。そう思うと、胸がぎゅっと締めつけられた。

    相手はいったい、どんな男だったのだろう。
    もう、見つかったのだろうか。
    それとも、いまも、その背中を、どこかで探し続けているのだろうか。

    もしも、時間を五分だけでなく、もっと過去へ戻せるのなら。
    そして、その日、その場所にいたのが、僕だったなら……

    そんな、叶うはずのない不条理な願いが頭をよぎった瞬間、心臓が握りつぶされたような痛みを感じた。それは、これまで味わったことのない、嫉妬に似た、しかしもっと純粋で苦しい感情だった。目の奥が熱くなって、慌てて瞬きをした。

    ──ああ、そうか。

    僕は、そのとき、はっきりと自覚した。

    僕は、琴音に恋をしている。
    これが、僕の初恋だ。


    数日後、僕は琴音に連れられ、青山にある彼女の所属事務所を訪れていた。重厚なガラス扉の向こう側は、僕のような大学生が足を踏み入れるにはあまりにも場違いな、洗練された空間だった。

    応接室で僕を待っていたのは、マネージャーの松下さんと、この事務所の舵を取る女性社長だった。松下さんは、先日ミニコンサートを台無しにした僕のことを、鋭い眼差しでじっと見つめている。

    二人を前にして、僕は、背筋を伸ばして座っていた。緊張で、手のひらが少し汗ばんでいる。

    琴音が、友人たちに説明したのと同じ内容を、落ち着いた口調で話す。
    不思議な力のこと。
    秋葉原で感じた違和感のこと。
    フードをかぶった男のこと。

    話し終えたあと、沈黙が落ちた。だが、社長はデスクの上で指先を組みながら、意外なほどあっさりとうなずいた。

    「……事情は、わかったわ」

    それには僕たちのほうが驚いてしまった。

    社長は松下さんに目配せし、軽くうなずいてから静かに口を開いた。

    「実は、事務所のほうにも、少し前から不審なメールやFAXが届いていたの。
    『琴音を汚すな』
    『芸能界になどいたら、琴音の魂が汚れていく』
    『そうなる前に、おれが彼女の魂を、きよいまま守る』……。
    私たちは琴音を不安にさせたくなかったから、伏せていたけれど」

    社長の言葉に、隣の琴音が小さく肩を震わせる。僕は反射的に彼女の側に手を伸ばしかけ、踏みとどまった。

    松下さんが、社長の言葉を引き継いだ。

    「琴音を不安にさせたくなかったし、相手が本気かどうかもわからなかったから、まさに具体的な対応を検討しているところだったの。特に、今後の警備について……。あの秋葉原の件もあったしね」

    心がチクッとしたが、琴音の警備が強化されることにつながったのなら、それはそれでよかったんだと、自分に言い聞かせた。

    社長が確認するように尋ねた。

    「で、琴音は、そのフードの男が犯人だと確信したのね?」

    「はい。……理屈ではありません。あくまでも、私の直感ですが……。でも、フードの奥のあの男の目を見たとき、じっとりと体にまとわりつくようなものを感じたんです」

    琴音の声は震えているようにも感じられた。社長はその言葉を吟味するようにうなずいた。

    「アーティストの直感は、ときに何百万語の論理を凌駕する──。それに、本人が現に危険を感じているなら、話は別。いいわ、信じましょう」

    そして、松下さんに指示を出した。

    「当日のスタッフが撮っていた記録映像をすべて洗って。フードの男が映っているものがあれば、私に見せて。それを持って警察に行くわ。
     それから、イベント時の警備は強化。警備会社とも連携して」

    僕と琴音は顔を見合わせた。琴音がホッとしている。


    社長は、一息ついてから、僕のほうを見た。視線が突き刺さった。

    「さて、問題は、あなたのことよ、時任響くん。警備会社にはイベント時の警備強化の依頼は出すけれど、普段の大学生活などプライベートにまで、ボディガードを張り付かせるわけにはいかない。

    そこで、頼みの綱が、あなたということになるのだけれど……」

    そう言って、僕のことを、頭のてっぺんからつま先まで、舐めるようにまじまじと見た。

    「腕っ節は、正直、全然期待してないけど」

    ごもっともだった。

    「すみません……」

    そう言って謝る僕の目をまっすぐに見て、社長は言った。

    「でも、琴音のあなたへの信頼と、あなたの……その危険察知能力というものに、私は賭けてみたいと思っているの」

    その言葉に、場の空気が少し和む。

    「はい!」

    僕は背筋を伸ばし、社長の目を見返した。琴音が横で少しだけうれしそうに微笑んだ。

    「もちろん、アルバイト代は出すわ」

    「お金は……」

    そう言いかけた僕を遮るように、社長は、きっぱりと言った。

    「仕事は、仕事よ」

    「ただし……」と、釘を刺すことは忘れなかった。

    「ただし。ひとつだけ、覚えておいて。琴音はいま、とても注目されている存在よ。軽率な行動は、彼女を傷つけることになる。スキャンダルは命取り……わかるわね?」

    要は、恋愛関係は御法度ということだ。言葉にされなくても、伝わってきた。

    「はい。理解しています」

    そう答えながら、胸の奥が、少しだけ痛んだ。けれど、当たり前のことだ。


    帰り際、IDカードを渡された。そこには、こう書かれていた。

    【マネージャー見習い・アルバイト】

    妙に、現実味のある肩書きだった。プラスチックのカードは、僕の手のひらで、ずっしりと重く感じられた。それが、人生で初めて知った「責任の重さ」だった。

     

    帰り道、琴音に聞いた。

    「ご家族……特にお父さんとお母さんには、脅迫メールやFAXのこと、どうする?」

    「余計な心配させたくないけど……、黙ってて事がもっと大きくなったら、そのほうがショックが大きいと思うから、家族みんなには、折を見て、私から話すわ」

    「僕もそれがいいと思う」

    「一応、家族みんなに、響のスマホの番号を教えておこうと思うんだけど、いい? で、家族みんなの許可をもらってから、私の家族の番号も教えるね」

    「了解」

    「どうか、私のこと守ってください」

    琴音があらたまって、ペコリと頭を下げた。愛おしくてたまらなくなったが、僕ははぐらかすようにおどけてみせた。

    「僕をだれだと思ってるの? 腕っ節はからっきしだけど、なんてったって、“ファイヴ・ミニッツ・マン”だよ。
     僕が一緒にいる限り、なにがあっても大丈夫だから! 五分だけだけど、ね」

    そう言って、僕と琴音は顔を見合わせて笑った。


    翌日、学食で、琴音と並んで一緒にランチを食べていたとき、LINEが飛んできた。

    「聡からだ。『今度の土曜日、十一時、吉祥寺駅集合! 特に、響は必ず来い!』だって」

    「聡くんって、秋葉原のとき一緒にいた幼馴染の?」

    ただ、あいにく、その日は琴音の「ゲリラライブ」が予定されていた。

    ブレークした彼女が、今でも路上に立ち続ける理由を、彼女は僕にこう話してくれた。

    「だって、私の原点だもん。通行人は正直だよ。本当に良い歌なら立ち止まってくれるけど、心に響かなければだれも足を止めない。素通りされる。

    私は、有名人になるために歌っているんじゃない。売れるためでもない。私の歌がだれかの心に届いて、なにかを感じてほしい。そして、少しでも心が元気になるのなら……。そのために、私は歌っている。そのことを、絶対に忘れないためにも、路上で歌うの」

    その覚悟が、眩しかった。


    僕は、その日は無理だと、断りの返信を打とうとしたが、隣で琴音が、「私も行きたい!」と言い出した。

    「十一時集合なら、夕方まで時間あるから大丈夫じゃない? 行こ、行こ!」

    「え?」

    聞き返す僕に、琴音が言った。

    「私も一緒に行きたい! 響の幼馴染みに会ってみたい!

     ……ダメ?」

    全然ダメじゃない。断る理由などなかった。むしろ、うれしかった。きっと、仲良くなれるに違いないと思っていたから。

     

    当日。吉祥寺駅の広場で、達也、香、聡、結衣の四人は、文字通り石像のように固まっていた。

    「……え、本物?」

    結衣が震える指で琴音を指差す。

    「……あの琴音、だよね?」

    ようやく声を出す。

    「はい。柊琴音です。よろしくお願いします」

    琴音が深々と頭を下げると、ようやく聡が我に返った。

    「まじで……?」

    香が、なおも唖然としながら口を開く。

    「いったいどうなってんの? 響?」

    「あの秋葉原でのライブのあと、大学でも会ったりして、気づいたら、仲良くなっていたというか……」

    「いやいや。大学で仲良くなったってレベルじゃねーだろ!」

    達也が言う。

    「まあ、いろいろ事情があってさ……」

    琴音が、四人の反応を楽しむように言う。

    「今日、響の幼馴染み五人で集まるって聞いて、私もお邪魔しちゃいました」

    「まさか……、ふたり、付き合ってるの?」

    香の質問に、「それは、なんとも……」と言葉を濁した僕だったが、琴音がさらりと爆弾を投下した。

    「もう、私の家族にも紹介してあります」

    「はあぁ!?」

    四人の叫び声が駅前に響き渡る。僕は慌てて否定しようとしたが、四人の反応がおもしろかったのと、否定せず、楽しそうに笑う琴音の横顔を見て、言葉を飲み込んだ。たとえ今日一日だけの勘違いだとしても、彼女の特別になれたような気がして、悪い気はしなかった。むしろ、うれしかった。

    「で、十一時に吉祥寺に集合して、どうする予定だったんだよ?」

    僕が聡に尋ねると、聡は困った顔をした。

    「いや、実はさ、今日の夕方、琴音……さんの路上ライブがあるって情報を得てさ、浮世離れした響をぜひ連れて行ってやろうと思ったんだけど……。
     まさか、響と琴音さんがそんな関係になっていようものとは思わず……」

    僕はおかしくて、大笑いしてしまった。琴音がうれしそうに言った。

    「琴音でいいですよ。
     ぜひ、みんなで見に来てください!」

     

    ファミレスでの昼食中、琴音は驚くほど早く四人に溶け込んでいった。

    「響の昔の話、もっと聞かせてほしい」

    そんな彼女の要望に応えて、四人が、僕の幼稚園や小学生時代のいろいろな失敗談を面白おかしく披露する。

    子犬に追いかけられたときのこと。

    カブトムシを捕まえようとして、大きな樹の下に空いていた穴に手を突っ込んだら、ヒキガエルがいて、それ以来カエルが大の苦手になったこと。

    水泳が苦手なのに、学校対抗の水泳大会の選手に選ばれて、大惨敗したこと。
    あのときの観客席の沈黙は、今でも忘れられないし、一つのトラウマになっている。

    琴音がクスクスと笑いながら、僕を見る。その瞳は、どこか懐かしんでいるような、温かい光を宿していた。

    「そんな響が、琴音のマネージャー見習いのバイトしてるんだから、驚きだよ」

    「まあ……ね」

    「うらやましい!」と香。すかさず達也が言った。

    「じゃあ、少しくらい鍛えたほうがいいんじゃないか? マネージャー見習いなら、最低限の護身術は必要だろ? もしものときのために。
     おれが手ほどきしてやるよ」

    「お手柔らかに頼むよ」

    「達也君は、なにかやってたの?」

    「うん。達也のとこは、家族で中国武術やってるんだ。けっこう本格的なんだよ。八極拳っていったっけ? な、達也」

    達也の行動力と正義感は、きっと、そこで培われたものだった。

    そんな他愛もない会話が、嵐の前の静けさのように、僕には心地よかった。

    そして、あっというまにライブの時間が迫ってきた。


    午後五時。吉祥寺のホコ天は、異様な熱気に包まれていた。事前の告知はないはずなのに、どこからか情報を聞きつけた人々が、みるみるうちに人垣を作っていく。琴音の路上ライブと知って、通行人も足を止める。下校時の学生たちは、眼をキラキラさせて友だちを呼び合い、あるいは手招きし合っている。

    僕はスタッフの腕章を巻き、琴音の背後数メートルの位置に陣取った。

    意識を極限まで研ぎ澄ます。不自然な視線はないか……。

    通行人の視線、ポケットに手を入れる男、不自然に距離を詰める男──困ったことに、注意深く観察すればするほど、全員が怪しく見えてくる。


    そんな中、琴音が、チラッと僕のほうを見て、小さくうなずくと、ギターの弦を爪弾いた。

    ざわついていた街が、一瞬で静まり返る。

    「……聴いてください。『初恋』」

    歌が始まった。イヤホンで聴くのとは、まったく違う迫力だった。琴音の歌声は、ひんやりとし始めた秋の夕方の空気を切り裂き、聴く者の胸の奥底に直接手を伸ばしてくる。

     

    私はこれからも 探し続ける

    あなたの声を あなたの影を

    駅のホーム 冷たい風

    ほどけたマフラー 結び直す手

    不器用なまま だれかを守る

    そんなあなたを 見ていた気がする

     

    最前列で聴いていた達也や香が、息を呑むのがわかった。周囲の観客の中には、涙を流している者もいる。

    僕は彼女の背中を見つめながら、歌詞の意味を噛みしめていた。

    (不器用なまま、だれかを守る……)

    そのフレーズが、なぜか僕自身の記憶のどこかに、小さく共鳴したような気がした。

     

    ライブは何事もなく終了した。けれど、何事も起こらないことが、逆に怖かった。僕の胸には拭いきれない違和感が残っていた。撤収作業をしている僕のところに、四人が挨拶に来たので、聡に尋ねた。

    「そういえばさ、今日の路上ライブの情報って、どこで知った?」

    「ああ、これだよ。ファンの間じゃ有名なまとめサイト」

    聡が見せてくれたスマホの画面には、『琴音人(ことねびと)ドットネット』という見出し。そこには今日の吉祥寺ライブの時間と場所が、正確に書き込まれていた。胸がざわついた。

    「……管理人、『フード男』?」

    その名を目にした瞬間、背筋に氷を押し当てられたような感覚が走った。

    「なにかあるのか?」

    「ちょっとね。今度みんなに話すよ」


    「松下さん、これを見てください」

    僕が報告すると、マネージャーの松下さんの顔色が変わった。

    「……この情報の精度はおかしいわ。警察や警備会社の一部しか知らないはずの情報よ。身内か、あるいは……。それに、フード男って……」

    帰りの車の中で、僕も琴音に確認してみた。

    「今日の吉祥寺でのライブ情報って、事前に知ることはできるの? ほら、聡もその情報を得て、今日、僕を誘うつもりだったって言ってたでしょ?
     ほら、このサイト。琴音は知ってた?」

    「ううん、知らなかった。私も引っかかってたんだ。路上ライブはゲリラ的にやるから、前もって知っている人はそれほど多くない。社長も、そこまで把握はしていないだろうし」

    サイトの管理人が、「フード男」ということを知ったとき、琴音が、少しだけブルっと震え、拳をぎゅっと握りしめたのを、僕は見逃さなかった。


    数日後、事態は奇妙な決着を見せる。サイトの管理人は、契約していた警備会社の若手社員だったことが判明した。警察の調べによれば、彼は琴音の路上ライブの情報だけでなく、複数のサイトやYouTubeを使い、業務で関わった芸能人や有名人の情報を無断で流していたという。それが広告収入につながり、一度味わった“うま味”から抜け出せなくなっていたらしい。

    あまりにも稚拙な動機。彼は逮捕され、サイトは閉鎖された。

    ただ、警察の取り調べに対し、彼は琴音への脅迫状への関与は一切否定した。事実、彼の端末からはそれらしき証拠は見つからなかった。

    脅迫メールの本当の差出人は、今も海外のサーバーを経由し、追跡不能。闇の中から琴音を見つめ続けている。

    事件は、まだなに一つ終わっていなかった。

     

    数日後、琴音のスマホに、一通のメールが届いた。

    『このあいだも、良い歌だった。
     でも、まだだよ。
     僕は、ずっと、探してる』

    引用されていたのは、『初恋』の、最後の一行だった。

    ──私の初恋。

    僕は、琴音のそばに立ち、その小さな肩にそっと手を置いた。大丈夫と。

    逃げない。
    守る。

    そう、もう一度、心の中で誓いながら。


    (第6章へつづく)


    ※本作はフィクションです。
    本作に関するすべての著作権は、著者・蒼顕(SOHKEN)に帰属します。
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