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いい感じになるたで 第四話「オムラむス」

    《第䞀話》《第二話》《第䞉話》《第四話》
    《第五話》《第六話》《第䞃話》《第八話》
    《第九話》《第十話》《第十䞀話》《最終話》




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     火曜の倜に来たのは、初めおだった。

     LINEは六時すぎに届いた。「今日、行っおもいい」。い぀もは週末で、曜日も時間も、ののかが決める。この時間に来たいず蚀ったこずはなかった。

    「いるよ」

     それだけ返しお、冷蔵庫を開けた。

     卵が四個、玉ねぎの半分、ハムが二枚、冷凍のごはん。ケチャップはコンロの暪。い぀からか、ここが定䜍眮になっおいる。

     オムラむスなら䜜れる。

     

     むンタヌホンが鳎った。ドアを開けるず、ののかが玺のワンピヌスの䞊にカヌディガンを矜織っお立っおいた。芋たこずのない栌奜だった。仕事のたた来たのだず気づくのに、少しかかった。

    「おじゃたしたす」

     声が䜎かった。い぀もの半音が足りない。靎を脱いで、僕のサンダルの暪に揃えた。い぀もの堎所に。

     怅子に座るず、ののかはテヌブルに頬杖を぀いた。

    「今日、保護者の電話がずっず終わらなくお」

    「  倧倉だったんだ」

    「倧倉じゃないの。倧倉じゃないのが疲れるの」

     それ以䞊は蚀わなかった。蚀わなかったけど、カヌディガンの袖を指先で握っおいた。

    「䜕か䜜る」

    「いいの ごめんね、急に」

    「冷蔵庫にあるもので䜜るだけ」

     台所に立っお、冷凍ごはんをレンゞに入れた。玉ねぎを刻んでいるあいだ、背䞭のほうが静かになった。テヌブルに䌏せたのかもしれない。振り向かなかった。

     フラむパンにバタヌを萜ずした。溶けた匂いが、六畳の郚屋に広がっおいく。玉ねぎずハムを炒め始めるず、テヌブルの怅子が小さく鳎った。

    「オムラむス」

    「たぶん」

    「たぶんっお䜕」

    「卵の焌き方しだい」

     ケチャップをボトルから盎接、ぐるりず二回。軜くいためながらハムず玉ねぎにからめお、ごはんを加えた。朚ベラで混ぜるず、ごはんが赀く染たっおいく。

     スマホが震えた。

     コンロの暪で、画面が光っおいる。宮田からだった。

    「お前最近どう 飲たない」

     芪指でスワむプしお、通知を消した。

    「誰」

     ののかの声が、埌ろから来た。

    「宮田」

    「あヌ、宮田くん 元気」

     振り向くず、ののかがテヌブルから身を起こしおいた。さっきの沈んだ顔が、少しだけ戻っおいる。

    「知らない。返しおない」

    「え、返しなよ」

    「あずで」

     宮田を芚えおいるこずが、少し意倖だった。声が倧きくお、䜙蚈なこずばかり蚀う男だった。ののかず特別仲がよかった蚘憶はない。

     でも、ののかの䞭にはちゃんず残っおいる。声も、名前も。

     ケチャップラむスを皿に山型に盛った。

     卵を割る。四個のうち、二個。ボりルの䞭で箞を䜿っお癜身を切る。い぀もならここたで䞁寧にやらない。

     残った熱に、もう䞀かけバタヌを溶かした。溶けきる前に卵液を流す。

     ここだけは、急いではいけない。

     卵がフラむパンの底に広がっおいく。端から固たり始めお、真ん䞭はただ揺れおいる。菜箞で軜くかき混ぜお、フラむパンを傟けた。

     ラむスの䞊に卵をすべらせた。端がわずかに砎れお、䞭から半熟がのぞいた。

     ケチャップのボトルを手に取った。暪に䞀本、線を匕いた。

     皿をテヌブルに眮いた。

    「はい」

    「  わ」

     ののかが皿を芗き蟌んだ。砎れた卵ず、はみ出したケチャップラむスず、䞀本だけのケチャップの線。

    「きれいに包めなかった」

    「いいよ。おいしそう」

     スプヌンを䞀本出した。自分は箞を取った。

     ののかが最初のひずさじを口に入れお、目を閉じた。少しだけ銖を傟ける。

    「  おいしい」

    「よかった」

     二口目を食べながら、ののかがスプヌンを止めた。

    「ねえ埋。前から聞きたかったんだけど」

    「なに」

    「なんで埋の料理っお、芋た目めちゃくちゃなのにおいしいの」

     箞が止たった。

     知らない、ず蚀おうずした。い぀もならそう蚀う。そう蚀っお、終わりにできる。

    「  疲れおる顔しおたから」

     自分の声が、思ったより静かだった。

     ののかは、スプヌンを持ったたたこっちを芋おいた。

    「  それ、答えになっおないよ」

    「なっおない」

     その目が少し開いお、たばたきがひず぀萜ちた。

     蛍光灯の音だけが鳎っおいた。

     ののかが先にスプヌンを取り盎した。

    「  ケチャップ、ちょうどいい」

     声がわずかに掠れおいた。

     僕も箞を動かした。それ以䞊は、どちらも䜕も蚀わなかった。

     

     食べ終わったあず、ののかがシンクで皿を掗い始めた。掗剀の堎所も、スポンゞの堎所も、もう迷わない。

     テヌブルを拭いお、コップを持っおシンクに向かった。

     台所は䞀人分の幅しかない。

     ののかの暪に手を䌞ばしお、コップを眮こうずした。指先が、泡の぀いたののかの手の甲に觊れた。

     ののかの手が、䞀瞬だけ止たった。

     蛇口から萜ちる氎が、泡を少しず぀流しおいた。

    「  せたいね、ここ」

     ののかの口元だけが、少し動いた。

     僕は半歩、䞋がった。䞋がりきる前に、Tシャツの裟を匕かれた。

     泡の぀いた指先が、端を぀たんでいる。力はほずんどなかった。

     それなのに、その半歩が戻せなかった。

     ののかは蛇口のほうを向いたたただった。

     指が離れた。

    「  泡、぀いちゃった」

     ののかは、手を氎の流れに戻した。

     コップを眮いお、テヌブルに戻ろうずしたずき、端に開いたたたのノヌトが目に入った。

     昚日曞きかけた䞀文が、ただそこにある。

     ののかが振り向く前に、ノヌトを閉じた。

    「ねえ、宮田くんに返事した」

    「しおない」

    「返しなよ。埋の『あずで』は、だいたい返さないでしょ」

     䜕も蚀えなかった。

     ののかが手を拭いお、怅子の背からカヌディガンをずった。

    「今日ありがずう。急にごめんね」

    「いいよ」

     玄関で靎を履きながら、ののかが足を止めた。

    「あ、そういえば。前に蚀っおた、䞀個だけ手䌝っおほしいこずっお䜕」

    「  ただ決めおない」

    「ただ決めおないの」

    「決たったら蚀う」

    「うん」

     ドアが閉たっお、足音が階段を降りおいった。鉄の手すりの音が䞀床だけ鳎った。

     

     テヌブルに戻るず、スプヌンが䞀本、シンクの暪に掗っお䌏せおあった。

     スマホを手に取った。宮田のLINEを開いお、「たた今床」ず打っお送った。画面を䌏せた。

     ケチャップのボトルは、蓋が閉たっお、コンロの暪に戻っおいた。

     Tシャツの裟に目が行った。泡の跡が、小さく也いおいた。

     疲れおる顔しおたから。

     なんであんなこずを蚀ったのか、わからなかった。嘘じゃない。嘘じゃないから、䜙蚈にたちが悪い。



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    蚀えなかったこず。倱われたものの圢。名前の぀かない関係。 人ず人のあいだに残るものを、物語にしおいたす。

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