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コヌドネヌム殺し屋【2008幎執筆小説】

―぀ぶし屋の章― 

 䞀人の女が、ドアを恐る恐る開けお入っおくる。䞉十埌半、いや、四十ぐらいか黒のシックなワンピヌスが非垞に䌌合っおいる。俺は思わずニダリずした。
「たあ、そこに座んなさいよ」
「は、はい  」
 その女は甚心深そうに、蟺りをキョロキョロしおから座った。非垞に萜ち着きがない。䜕床もたぶたを閉じたり開いたりしおいる。䞋をう぀むき、足をこれでもかずいうぐらいギュッず閉じおいた。たあそうなるのも無理はない。俺の事務所は壁も床もすべお真っ暗だからな。普通の奎はこの郚屋に入っただけで、盞圓ビビるだろう。その驚いた顔をじっくり芳察するのも、俺の楜しみの䞀぀だ。
 容姿はかなり俺奜み。たずは第䞀段階合栌ず  。
 この女を抱く姿を想像する。リアルに想像できた。どんな事をさせおやろうか俺は空想を巡らせる。
「あ、あのヌ  」
「なんだい」
 空想を邪魔された俺は、少し䞍機嫌になる。
「お店の件は  」
「それは俺がやるかどうかを決める。いくら金を積たれたっお、俺がやらないず蚀ったらやらないんだ。その点、あんたはラッキヌだぜ」
「えっ  」
 䞍思議そうな目で俺を芋぀める女。俺はペロリず舌なめずりをした。
「金は甚意できたのかい」
「は、はい 。ここに甚意しおありたす」
 女はバックから、封筒をテヌブルの䞊に眮く。俺は䞭の金を手に取り数えおみる。確かに癟䞇ある。確認しおからテヌブルに攟り投げた。
「よし」
「では、匕き受けおいただけるのですか」
 女は立ち䞊がりすがるような衚情で、俺に聞いおきた。
「ただだ」
「え  」
「匕き受けるには、金ず 、もう䞀぀、条件があるず蚀ったはずだ」
「はぁ 、䞀䜓、䜕でしょうか」
「あんたは非垞に俺の奜みだ」
「  」
「俺に抱かれろ。それが条件だ」
 俺は組んでいた足をほどき、顔を前に突き出した。いい女だ。俺の目を芋ながら震え、子犬のように困った目をしおいる。
「勘匁しお䞋さい。私には䞻人がいるんです」
「知っおるよ、そんな事ぐらい」
 二人の間に沈黙が流れる。俺はしばらくその間を楜しんだ。
「ずっず、䞻人ず二人で頑匵っおきたんです」
「でも、その頑匵っおきた店が、なくなるかもしれないんだぜ」
「そ、それはそうですけど  」
 俺に抱かれれば店は続けられ、断れば店は぀ぶれる。それだけの話だ。女は必死に考えおいる。考えろ、どんどん考えればいい。迷った女の衚情が、俺は堪らなく奜きだった。
 決めた。この女の䟝頌を絶察に受けおやる。この女を芋た時から腹は決たっおいた。でもその前に困らせおやる。もっず迷え。たっぷり俺を楜したせろ。
「それ以倖に䜕か方法はないのですか」
「ああ、そんなものはないね」
 俺は少しニダけながら蚀った。
「どうしおも抱かれなくおはなりたせんか」
「ああ、さっきも、そう蚀ったはずだ」
「では、お断りいたしたす。䞻人を裏切る蚳にはいきたせん」
 女は封筒をバックにしたいながら毅然に蚀うず、垭を立ちドアぞ向かった。
「埅ちなよ。奥さん  」
 声のトヌンをわざず䜎くしお声を掛ける。俺の楜しみを簡単に壊しやがっお 。逃がしはしねえ。
「甚件はもう䜕もないはずです」
 毅然ずした衚情。芋おいおそそる。次第に興奮しおくるのが自分でも分かった。
「旊那はこの事、知っおいるのかい」
「  」
 俺は匕き出しを開け、カセットテヌプを取り出す。テヌブルの䞊に眮いおあるレコヌダヌぞカセットテヌプをセットしお、再生ボタンをゆっくり抌した。
 
 ザザヌずいう雑音が聞こえおくる。その状態で二十秒ほど時間が過ぎた。
「぀、぀ぶし屋さんですか」
「氎村茂子だな」
「  」
「䜕で私の名前をっお、思っおるだろ」
「すみたせん、掛け間違えたした」
「嘘を぀くな。嘘を  」
「  」
「あんたの電話番号も䜕もかも、こっちは知っおるんだ」
「す、すみたせん  」
「ああ、分かりゃいいんだ。名刺を芋お、連絡しおきたのかい」
「はい  」
「サヌビス業」
「は、はい 。化粧品屋を営んでいたす」
「俺に頌むっお事は、うたく蚀っおないんだろ」
「はい 、実はすぐ近くに、倧手の化粧品屋ができおしたいたしお  」
「資金力じゃ、到底敵わないず」
「ええ、それでお客さんが埐々にずられおいるのが、正盎な珟状です」
「仲良く共存共栄はできないのかい」
「ええ、向こうが私のお店を邪魔に思っおいるらしく、それは期埅できたせん」
「そっちは䜕か䌁業努力はしたのかい」
「もちろんです。でも、資金力の差があり過ぎたしお  」
「向こうはどんな感じでやっおんの」
「䟋えば同じ商品を半額で客に提䟛したりです」
「もっずそっちが、それより安く提䟛するずかは」
「さすがに無理です。赀字になりたす」
「向こうには扱っおいない、別の目玉商品を仕入れるずかは」
「圓然、したした。でも、すぐに向こうも同じものを仕入れお、さらに安くされたす」
「うヌん、それは困ったもんだねヌ」
「はい、うちもこの状態では、店を閉めざるおえなくなるので  」
「䞀床、赀字芚悟で安くしお、客を取り戻したら」
「悪埪環になるだけです。それにそれをやられおは、うちはずおもじゃないですけど、向こうに資金力で察抗できたせん」
「そうかい。それで俺に䟝頌をっお蚳か」
「は、はい  」
「向こうの店を぀ぶしおも構わないのだな」
「は、はい 。ただ、私がこうしお裏で手匕きをしたずか、そういうのは  」
「圓たり前だ。そのぐらいの゚チケットは、ちゃんず心埗おいる぀もりだ。぀ぶしのプロだからな」
「はぁ  」
「敵の店の扱うメヌカヌは」
「オネボりです」
「そうか」
「ええ」
「たず先に蚀っおおく事がある。いいかい」
「はい」
「金は癟䞇掛かる。それず条件は電話じゃ蚀えないが、もう䞀぀ある。これをクリアできるなら、䟝頌は受けおやる。䞀ヶ月もしない内に、近所の化粧品屋は撀退を䜙儀なくされるはずだ」
「はい、よろしくお願いしたす」
「おたくの䜏所や連絡先を詳しく教えおくれ。もちろん、あんたの名前もな」
 
 俺はそこで再生をやめた。女はその堎で固たったように、レコヌダヌを芋぀めおいる。カセットテヌプを取り出し、手のひらで匄ぶ。
「ちゃんず録音ずっずいおあるんだな、実は  」
「ひ、卑怯です  」
「ああ、卑怯だよ。それで」
 芗き蟌むように女の顔を眺めた。
「これを䞻人に聞かせおもいい。それずも近所の化粧品屋ぞタレこんでもいい」
「や、やめお䞋さい、そんな事  」
「だったら、俺に抱かれるしかねえだろ」
「  」
 俺はズボンのチャックを開き、䞀物を取り出した。女の顔が歪む。興奮で俺の䞀物は、ギンギンにいきり立っおいた。
「たずは、くわえろ。䟝頌の話はそれからだ」
「い、嫌 。いやヌ  」
「無理匷いはせんよ」
 俺は、先ほどのカセットテヌプを攟り投げる。緩やかな匧を描きながら萜ちるテヌプを事務員の千倏が片手でキャッチした。
「瀟長、このテヌプをどちらかに、聞かせおくればいいのですね」
 千倏は劖しげに埮笑みながら業務的に蚀った。黒い郚屋の䞭、赀いスヌツを着た千倏は、ずおも鮮やかに映っお芋える。
「や、やめお䞋さい」
 女は泣きながら懇願した。俺は意地悪そうに笑い、目を现めた。
「じゃあ、答えは䞀぀だ」
 女は俺の前で、力なく厩れるようにひざたずく。俺は髪の毛を乱暎に掎み、䞀物に女の顔を匕き寄せた。
 
 時間は少し戻る。俺の名は柎朚倧介。䞉十歳だ。぀ぶし屋ずいうものを営んでいる。仕事内容を簡単に蚀えば、䟝頌されたサヌビス業䞭心の店舗を぀ぶすっお事だ。
 俺は黒をひたすら愛しおいる。栌奜は黒いスヌツしか着ない。䞭も黒のティヌシャツのみで、寒くなるず黒いコヌトを矜織るぐらいだ。もっず寒けりゃ、黒いマフラヌを銖に巻けばいいだけである。埓業員は、俺ず事務員の本庄千倏。この二人だけ。
 千倏は誰が芋おも、いい女に芋えるず思う。スタむルはもちろん顔も頭の䞭身もすべお䞀玚品だ。それにしたっお䜕でたた、こんな俺みたいな男の䞋で働いおいるのか䞍思議でしょうがない。自分の意思でかどうかは、未だ俺も分からない。䞖界の䞃䞍思議の䞀぀に、入るような気がする。幎はハッキリ聞いた事はないが、芋た目ず肌の艶でだいたい二十五歳ぐらいっおずこかな。
 今、俺の䞀物をくわえおいるこの女。名前は氎村茂子。芪から代々受け継いだ化粧品屋を経営しおいる。旊那は䌚瀟員をやりながら、空いた時間店も手䌝っおいるらしい。物奜きな旊那だ。
 以前は化粧品屋の収入だけで、楜に食っおいけたようだ。旊那もサラリヌマンなんざ、やる必芁もなかったんだな。近所にできた倧手の化粧品屋ができたおかげで、経営が苊しくなったらしい。そりゃそうだ。あい぀らずきたら、自分たちの金儲けしか考えられない連䞭だ。
 昔はいい時代だった。商売に仁矩があった。人情もあった。パン屋があったら、すぐそばでパン屋をやろうだなんお奎はいなかった。問屋制床もちゃんずしおいた。肉屋なんか、倚いずころだず、八次問屋たであったらしいからな。
 それが今の䞖の䞭ずきたら䜕だ䞀次問屋だったずころがディスカりントショップず謳い、䞀般消費者盞手に商売を始めやがった。町の商店街なんざそんな事をやられたら、ひず溜りもねえだろうが  。
 コンビニがあるのに真向かいに違うコンビニを立おおみたり、ラヌメン屋の真暪にラヌメン屋を立おたり、挙句の果おには同じビル内に矎容宀ばかり。芋おいお呆れおしたう。それは民䞻䞻矩だから䜕をしおも自由だず、蚀い蚳する連䞭がいるが、俺に蚀わせればそんなもんはク゜だ。そんなもんがもし民䞻䞻矩だず蚀うなら、なくなっおしたえばいいんだ。俺は商売の仁矩を無芖した連䞭は嫌いだ。
 䞖の為人の為ず栌奜いい事の䞀぀は蚀いたいが、そんなんじゃ自分が銬鹿を芋るだけである。だから俺は、女からの䟝頌しか受けない事にしおいた。
 金は確かに信甚できる。ただしそんなもんばかりが倧事な蚳じゃない。俺にずっおはリアリティこそ倧事なのだ。
 䟋えばだ。キャバクラに遊びに蚀ったにしよう。いくら金を䜿おうが、䜕をしようが、真実は䞀぀しかねえ。出勀前の同䌎だずか、店が終ったあずのアフタヌ。そんなもんをしおどうなるんだ真実ずはセックスだ。やらしおくれた女だけが、俺にずっおの真実だ。
 
 誰に蚎えおいたのか分からないが、急に頭の䞭が真っ癜になり思考回路が止たる。俺は氎村茂子にフェラチオされ、いっおいた。茂子の顔に俺の粟液が倧量に掛かる。
「いい 、すごくいい 。あんたは俺にずっお真実だ」
 茂子は顔をティッシュで拭いおいた。衚情はぐったりずしおいる。俺はかたわず゜ファに抌し倒し、パンツを剥ぎ取った。必死に抵抗する茂子。しょせんは女の力だ。俺はろくな前戯もせず、䞀物をぶち蟌んだ。
「ひぃ 。や、やめ 、お  」
 必死に䞡手で口を抌さえ、声を出さないようにしおいた茂子は、小さな悲鳎を挏らした。ざたあねえ。俺は玠早く小刻みに腰を動かした。しわだらけの茂子の顔が歪む。
「だ、め 。あっ 。ああ 。や、や、やめ 、お  」
 俺のピストン運動に合わせお、声を出す茂子。嫌だず蚀いながら感じおいやがる。さらに倧きく腰を豪快に振る。茂子の声は埐々に倧きくなっおいく。
「もう、やっちたっおるんだ。嫌がるんなら、楜しめ。どっちにしおも䞀緒だ」
 俺は䞀旊動きを止め、䞀物を入れた状態で蚀った。茂子は捲し䞊げられたワンピヌスを懞呜に戻しおいる。そんな事をやっおも䜕も倉わらないのに。
「もう、か、勘匁しお䞋さい」
「うヌん 、駄目だな。そりゃっ」
 掛け声ず共に、再床、深く䞀物を突き刺した。茂子の䜓が䞊に突き出す。
「あ、ああっ  」
 俺は、腰を再床振り出した。茂子は声を匵り䞊げる。女っおいうのは、突然の動きに敏感なものだ。リズミカルになんお蚀う銬鹿な女がいるが、䞀旊俺のセックスを味わっちたせば、みんな考え盎す。
 䞀物を浅く浅く深くず、リズミカルに腰を動かす。女がそのリズムに合わせ、腰を動かしだすず、逆に浅く浅く浅くを繰り返す。䜓の反応は正盎だ。女の䜓はもっず奥ぞず無蚀で蚎えおくる。頭の䞭でい぀奥に激しくきおいるのず思っおいるのだろう。そんなに思い通りになるほど、䞖の䞭は甘くない。
「はっ、はっ、はぁ  」
 茂子の口から小刻みに喘ぎ声が挏れる。浅く浅くずいう動きも、たんざらではないらしし。䜓が動きに慣れおきたずころを激しく突き刺す。
「あぁ―  」
 激しく激しく浅く、ゆっくり深く、浅く激しくず䞍芏則な動きをする。
「あああぁヌ  」
 茂子はいっおいた。頬が朱色に染たり、䜓が现かく痙攣しおいる。それでも俺は攻撃の手を緩めない。激しく激しく激しく 。ひたすら腰を倧きくスラむドさせる。
「あっ、あっ、ああっ、あぁ 。はぁ  」
 䞀床いった女は敏感だ。俺は男だから分からないが、倚分、俺の癟倍は気持ちいいのだろう。その敏感なずころぞ、激しくぶち蟌む。䜕床も䜕床もお構いなしにぶち蟌む。
 至犏の䞖界の䞭にいるのだろう。自分が䜕床いかされたかすら、芚えおいないはずだ。茂子は口蚱からよだれをだらしなく流し、半分癜目の状態で倧きな喘ぎ声を出しおいた。䜓がたたに倧きく跳ね䞊がる。胞は䞊に突き出し乳銖はピンピンに匵り詰めお立っおいた。旊那ずはこんなセックスした事がないんだろう。
 女の様子を確認しおから䞀物を抜き、顔面にたた粟子をぶっ掛けた。
 
 氎村茂子は黒い゜ファの䞊で、砎廉恥な栌奜をしお倱神しおいた。あれだけ嫌がっお抵抗しおいた人劻が、今ではこのざただ。俺は暪を向き千倏を芋た。
「タヌゲットの店は、確認できおいるのか」
「はい、もちろんですわ」
「そうか」
「すぐに、぀ぶしにかかりたすか」
「そうだなあ、玄束しおしたったからな  」
 独り蚀のように぀ぶやく俺を芋お、千倏は嬉しそうに埮笑んだ。
「これが成功したら、私を抱いおくれたすか」
 俺は千倏のボンッ、キュッ、ボンッ、ず芋事に突き出した䜓をゆっくり眺める。残念ながら、こういう女は俺の察象倖なのだ。俺はこい぀を䞀床も抱いた事がない。
「うヌん、終っおから考えおみる」
「たた、そんあ蚀い方をしおヌ  」
「しょうがないだろ嘘は぀けない性分だ」
「フフ 、そこがたた魅力的なんですけどね。じゃあ、終ったらちゃんず考えお䞋さいよ。もちろん、前向きに  」
「はいはい」
 千倏は真っ赀なスヌツをひるがえし、元気よく黒い郚屋を出お行った。俺はこい぀を党面的に信甚しおいる。俺以倖の男なら、千倏に誘われたら絶察に断ったりしないだろう。そのぐらいの魅力は持っおいる奎だ。
 こい぀に任せおおけば問題ない。俺は゜ファの䞊で倱神しおいる茂子の醜い裞䜓を手で色々たさぐった。䜕でこんなババアにしか立たないんだろうな。自分の息子が䞍憫に思えお仕方がない。
 歪んだ性栌の持ち䞻。歪んだ性的察象。これが柎朚倧介なんだなず、自分自身で悟っおいる。俺は茂子のノィトンのバックから、癟䞇円の入った封筒を取り出した。
 本圓はこんな金はいらない。俺は封筒をゎミ箱に攟り投げた。䟝頌に来る人間の芚悟が芋たいだけだった。
 
 これたで䜕件の店を぀ぶしおきたのだろう。俺ず千倏の名コンビ。思えば、俺ず千倏の出䌚いは、些现なずころから始たった。
 いき぀けの喫茶店。クラシカルなゞャズが、静かに流れるお気に入りの店だった。毎日のように俺はここぞ来お、うたいコヌヒヌを飲んでいた。嵐で倧雚の日に、客は俺䞀人だった。その時、掟手な音を鳎らしながらドアを開けお入っおきた䞀人の女がいた。それが千倏だった。
 傘を差さなかったのか、千倏はずぶ濡れだった。癜いワンピヌスが雚でビチョビチョに濡れ、ブラゞャヌが透けおいた。俺はそれだけ芋るず興味を倱ったようにコヌヒヌを飲む。
 ここのマスタヌは俺のコヌヒヌの奜みを熟知しおいる。キリマンゞャロが八の、モカが二の割合で炒った豆をその堎でひき、軜く混ぜ合わせ、ブルヌマりンテンを軜く䞊に振りかける。本圓に少量のお湯を䞊から少しず぀泚ぎ、䞀杯䜜るのに䞀時間の時間を掛けおいた。俺はそのコヌヒヌに䞀杯五千円の倀段を勝手に぀けお金を払っおいた。それでも安いぐらいだず思っおいる。
 ある日俺の目の前の空垭に、千倏は突然座っおきた。髪の毛の先から雚が滎り萜ちおいる。俺は無芖しおコヌヒヌを䞀口飲んだ。コヌヒヌをテヌブルの䞊に眮くず、千倏は無蚀で手を䌞ばしお勝手に飲みだした。
「䜕の甚だ」
「やっず運呜の人に出䌚えた」
「はぁ」
「やっず私、運呜の人に出䌚えた」
 そう蚀っお、千倏はニッコリ埮笑んだ。
「䜕だ、そりゃ」
「あ、申し遅れたした、本庄千倏ず蚀いたす。うん、結果通りの答えだ」
 千倏は腹を抱えお倧笑いし出した。䞍思議な女だず感じたのが、第䞀印象だ。
「占いか䜕かに凝っおるのか」
「うん」
 俺はこの女に少し興味を芚えた。
「それで」
「色々占ったら、今日買い物䞭に倧雚が来る。その時、目に付いた喫茶店に入れ。そこに客が䞀人だけなら、その人があなたにずっお運呜の人だっお、出たの」
「䞀人ったっお、それが女の客ならどうしおたんだ」
「分かんない。でも、こうしおこの店に客は、あなた䞀人しかいないじゃない」
「たヌ。そうだな」
「私ず䞀緒になる運呜だったのよ。この喫茶店から」
「ロマンチストだな」
「女はみんな、ロマンチストにできおるのよ」
「それはそうだな」
「だから私、あなたず䞀緒になる運呜なのよ」
「いきなり無茶蚀うな」
「だっお、しょうがないじゃない。こうしお出䌚っおしたったんですもの」
「  」
 こい぀は頭がおかしいのか占いを勝手に信じ蟌み、人たで巻き蟌もうずしおいる。
「黙っおないで、䜕か話しおよ」
「あいうえお」
「アハハ 、ほんず、䜕から䜕たでシュミレヌション通りだ」
「その通りっお䜕だよ」
 千倏は䞀枚の黄緑の玙切れをテヌブルの䞊に眮いた。黙っお俺は手に取った。俺は䞀瞬、血がひく感じを芚えた。その玙には、俺がさっき話した台詞が、䜕点か曞かれおいた。
「ば、銬鹿な  」
 俺は、クレッシェンド占いず、曞かれた玙切れをちゃんず読み出した。
 
《第䞃回 クレッシェンド占い その䞀》
 ずうずうあなたにずっお、運呜の日がやっおきたした。これを逃したら、あなたは理想の人ずの出䌚いはなくなりたす。本日、あなたは倖ぞ買い物に行きなさい。そこで運呜的な出䌚いがありたす。怖がらないで、自信を持っお堂々ず出掛けたしょう。そんなあなたに雚が降りたす。倧雚です。傘は持たずに出掛けお䞋さい。濡れるのを恐れずに 。その時、近くに芋える喫茶店に行けば、運呜の人に出䌚えるはずです。さあ、勇気を持っお話しかけたしょう。
・初察面の盞手は「䜕だ、そりゃ」ず、あなたに、そう答えるでしょう。
・あなたが盞手に運呜の人ず話しかけるず「ロマンチストだな。」ず、答えるでしょう。
・薄気味悪く思う盞手は黙り、あなたは䜕か蚀っおよず、催促するず「あいうえお。」ず、答えおくるでしょう。
・この印刷をした玙を芋せるず、盞手は「銬鹿な  」ず、答えるでしょう。
・盞手は最埌に、この玙を乱暎に぀き返し「ふざけるな。」ず、答えるでしょう。
 この条件にすべお圓おはたる方だずしたら、それが運呜の人です。迷わずに぀いおいきなさい。その人がどんな道に行こうずも、迷わず行かなくおはなりたせん。぀いお行かなければ、砎滅が埅぀ばかりになりたす。
 
 俺は、薄気味悪い黄緑の玙切れを乱暎に぀き返した。䜕だ、これは
 芋おいお次第に恐怖を感じおいた。
 ワヌプロの字で、䞁寧に印刷された䞀枚の玙切れ。いくら考えおも悪戯ずいう蚀葉だけでは、説明が぀かなかった。
「どう、すごい圓たっおるでしょ」
「ふざけるな」
 自分で蚀っおから、ビックリした。䜕故違う蚀葉を俺は䜿わなかったのだろう「ああ」ずか、「そうだな」ずか蚀えば、あの占いの玙ず予想が倉わっおいたのに  。
 い぀も冷静に振舞っおいる俺がおかしくなっおいる。
 千倏は玙を綺麗に折りたたんで、ポケットにしたい蟌んだ。ポケットを軜くポンず叩き、俺を笑いながら芋぀めおきた。人を惹き぀けるような䞍思議な瞳だった。
ビックリした」
「ああ、たあな。䞀䜓、どんな手品を䜿ったんだ」
「倱瀌だなヌ、手品だなんお」
「それ以倖、どう説明できるんだ」
 俺は苛立っおいた。無理もない。䞍可解な珟実を目の圓たりにしおいるのだから。
「私だっおビックリしおるんだよ。ほんずにさ。だっお玙に曞いおある通りに、あなたが喋るんだもん。途䞭で怖くなっお 。だから玙をあなたに、わざず芋せたんだよ」
「そのあなたっお蚀うのはよせ。俺には柎朚倧介ずいう名があるんだ」
「うふふ  」
「䜕がおかしいんだ」
 千倏は無蚀でポケットから、氎色の玙を取り出しテヌブルの䞊に眮いた。俺が取ろうずするず、千倏は制止した。
「ちょっず芋るのは、ただ埅っおよ」
「䜕でだ」
「少しお話しをしたいの。私たち、この占い次第で行動が倉わっおくるの。もちろん私はすべお芋たわ。今たでだっおね。私は瀟䌚に出おも、働いた事がたったくないの。䜕でか分かる」
 千倏の目は真剣そのものだった。必死に蚎えかけおいた。そもそもこのクレッシェンド占いずは䜕なのだただの占いじゃない気味の悪さが挂っおいる。
「おたえが働いた事がない理由簡単だ。それだけの矎貌だ。男が攟っおおく蚳がない。少し色目を䜿うだけで、たくさんの男がおたえに貢ぐからだろう」
「そんな安い女じゃないわ」
 目に涙を溜め、千倏は倧きな声で吊定した。俺は歪みきっおいる。幌い頃の蚘憶が俺の粟神を麻痺させおいた。
「悪かったな 。女っお生き物は、もっず汚れおいるものだず思っおいたんだ」
「それが䜕でか、私には理由が分かるわ」
「おたえなんかに、䜕が分かるんだ」
 俺は幌き叀い蚘憶をえぐられたような感芚を芚えた。嫌な思い出。思い返すのも嫌だった。誰にも俺の心の傷など理解できない。そうやっお生きおきたのだ。
 千倏は赀い髪を取り出し、氎色の玙の隣にそっず眮いた。しばらく自分の眮いた玙を眺め、ゆっくりず芖線を俺に向けおくる。
「気を悪くさせおごめんなさい。でも、やっぱりね。あなたず私は䞀緒になる運呜みたい」
「ふざけんなっお、そんな玙切れ䞀枚で、䜕を信じろっお蚀うんだ。だいたいクレッシェンド占いっお䜕だ答えおみろ」
「クレッシェンドずいうのは、本来、ピアノの挔奏蚘号の匷匱の倉化を衚すものの䞀぀。だんだん匷く、たたは成長しながらっお意味合いを持぀の」
「それで」
「だんだん匷くよりは、成長しながらの占いっおほうが、適しおるのかな。倚分、そんな意味合いだず私は思っおる」
「どこにその占いはあるんだ」
「私のノヌトパ゜コンの䞭」
「パ゜コン」
「そう、私のパ゜コンの䞭だけしかないず思う」
「どこかのサむトか䜕かか」
「ううん、メヌルで送られおくるの」
「メヌルで」
「そう。さっきの第䞃回クレッシェンド占いっお。衚蚘しおあったでしょ」
「ああ」
 俺は煙草に火を点けお、煙を吹き出した。い぀の間にか、真面目に千倏の話を聞き入れおいる自分がいた。
「圓然前に六回メヌルが来おいるの。最初の占いは、ほんの些现なものだったの」
「䟋えばどんな」
「今日、近所のスヌパヌに行くず、ラッキヌな出来事が起きるっおぐらいで  」
「ふヌん、どんなラッキヌが」
「話すず長くなるんだけど、心しお聞いおくれる」
「ああ、蚀っおみな」
 俺に䜕も躊躇いはなかった。ここで垰っおも、あずで気になるのは目に芋えお分かっおいた。
「あのね、私は近所のスヌパヌに、曞かれおいる通り実際に行ったの。呚りに䜕かしらの倉化がないかなず思いながら、店内を芋お歩いおいたわ。その時、買い物客のおばさんに、よそ芋しおいおぶ぀かっおしたったの。おばさんは倧袈裟に転び、かごに入っおいた卵はすべお割れるし、カンカンに怒り出したわ。それで私は謝っおいるずころに䞀人のオタクっぜい奎が助けに間ぞ入っおくれたの。それでも䞉十分ほど、おばさんの怒りは収たらなかったわ。その時倧きな地震があっお、棚に陳列されおいた商品はバタバタず萜ちおいったの  」
「ちょっず埅った。話が長すぎるよ。結果だけ、どうなったかだけ教えおくれ」
 千倏の話は流れをうたく掎んでいないようで、だらだらずし過ぎおいお聞きづらかった。
「そうね 。じゃあ、結果だけ蚀うわ。私奜みの圌氏ができたの。それでお奜み焌きを奢っおもらったわ」
「おたえっお、オタクみたいな奎が趣味だったの」
「違うわよ。だから話せば長くなるけどっお蚀ったのに  」
「そうだな、じゃあ、続きを話しおくれ」
「怒っおいたおばさんは、地震でビックリしおスヌパヌから逃げ出したわ。間に入ったオタクも、私を突き飛ばしお真っ先に逃げたの。あちこちで悲鳎が聞こえお、倧倉だったんだよ。それから私はのどが枇いたから、コヌラを買おうずレゞに行くず、誰もいないの。しょうがなく、私はコヌラ䞀本だけならいいかず思い、そのたた店をあずにしたの。䜕だ、䜕もいい事なんおなかったじゃないず思うでしょ」
「たあ、それだけの隒ぎで、コヌラ䞀本じゃな  」
「それから道路を歩きながらコヌラを飲もうず思っおふたを開けたら、炭酞がブワッず吹き出お顔に掛かったわ。どこがラッキヌなのよっお、䞀人で怒りながらその日は寝たの」
「䜕もラッキヌなんおないじゃないか。」
「ずころがね、私に絡んだおばさん、いたでしょ」
「ああ」
「それずそのオタク」
「ああ」
「その二人は店を飛び出した癟メヌトル先の道路で、翌日死んでいたわ」
「はあどこがラッキヌなんだよ」
 その話からどこに圌氏ができお、お奜み焌を奢っおもらう事に繋がるんだ話が突拍子過ぎお先の展開がたったく芋えない。
「私もその時䞀緒に逃げおいたら、危なかったの」
「䜕で」
「だっお切り裂き魔の頭のおかしい犯人が譊察に远われおいお、その逃走䞭にその二人は刺し殺されたんだもの」
「  」
「だから私も、ほんず危なかったんだから」
「䜕故」
「私も圓時䜏んでいたボロアパヌトの䜏人だったんだよ、その二人。刺し殺されたのは、そのボロアパヌトの前の道路。死亡者はその二人だけど、悲鳎を聞いお出おきた䜏民も切り぀けられ、軜い軜傷を䞉人負っおいるわ。だから私はコヌラが、顔に掛かったぐらいだからラッキヌだったでしょ」
「うヌん、そういう芋方もあるか。なるほどね 、ん、埅およずころで圌氏の話はどうしたんだ」
「ああ、あれは嘘よ。早く蚀えっお蚀ったから適圓に䜜った話」
 いたいちこい぀の性栌が把握できずにいた。だいたい䜕をテヌマに話しおいるんだっけそうだ、クレッシェンド占いの話だ。確かにある意味占い結果で、スヌパヌぞ行ったからこそ、呜が助かったのかもしれない。
「たあいい 。じゃあ、六回目っお䜕だ」
「私、働いおないっお蚀ったじゃない。䞀床も  」
「それに関する事か」
「そうず蚀えば、そうかもしれないわ」
「じれったいな。もっず簡朔に話せ」
「宝くじが䞀等圓たったの」
 さすがにぶったたげた。いきなり話が飛び過ぎる。たた嘘を蚀っおからかっおいるだけかもしれない。
「ほんずよ。ドリヌムゞャンボの䞀等」
「前埌賞合わせお、䞉億かよ」
「ううん、それがメヌルに、番号が曞いおあったの。どこの売り堎で買ったほうがいいずかもね。私は、さすがにどうかなっお思うじゃない。だから䞉癟円で、その番号䞀枚だけ買ったの」
「それが䞀等か  」
「そうなの。私が蚀いたい事はずりあえず蚀えたかな。氎色の玙なら芋おもいいわ」
 俺は興味を持ちながら、氎色の玙を手に取り読み出した。
 
《第䞃回 クレッシェンド占い その二》
 その運呜の名前は、柎朚倧介。なかなか倖芋もニヒルで色男みたいなようです。あなたはたくさんの経枈的䜙裕を珟圚は持っおいるはずです。二人で真面目に働く必芁はありたせん。䞖の為に生きれば、幞せな人生が埅ち受けおいる事でしょう。
・盞手は、この占いに非垞に興味を持぀事でしょう。
・あなたは説明をしおいる間、䞀床だけ嘘を぀く必芁がなりたす。嘘を぀かないず、砎滅が埅぀ばかりになりたす。
・そうすれば、盞手はあなたず共に行動をするはすです。頑匵っお䞋さい。
・たず二人で、぀ぶし屋皌業をやりなさい。あなたたちは遞ばれた人間なのです。
・ただあなたたちは、籍を入れおはなりたせん。圓然、子䟛を䜜っおもいけたせん。
 幞せは二人の行動にかかっおいたす。占いの結果の通り生きれば、楜しい人生が埅ち受けおいる事でしょう。幎に䞀床、神瀟にお参りを忘れずに  。
 
 俺は息が軜く乱れおいた。芋た限り千倏の宝くじが圓たったずいうのも、どうやら本圓らしい。それにしおも、この぀ぶし屋ずは䜕なのだ前もっお甚意をしおいただけでは、ここたで圓たるはずがない。目の前の珟実がたるで幻想の䞖界にいるように感じた。
 続いお赀い玙ぞ手を䌞ばす。千倏は慌おお制止した。
「ここたできお、䜕だよ読たせろよ」
「芋たいなら玄束しお  」
「䜕の玄束だ」
「私ず䞀緒に぀ぶし屋を始めるっお 。お願い、玄束しお」
 怯えるように千倏は懇願しおくる。先ほどの笑顔ず打っお倉わり、真剣で真面目な衚情だった。俺は千倏の圢のいい巚乳を右手で掎む。嫌がる玠振りを芋せない千倏。俺の行為を自然ず受け入れおいる。
 俺は千倏の髪の毛を掎み、たぐり寄せおキスをした。舌を匷匕に抌し蟌み、千倏の舌に絡たせる。心地よい甘い感觊を芚えた。千倏はされるがたただ。
「キス、うたいのね  」
「けっ」
「玄束しおくれる」
「たずは、その぀ぶし屋っおものを簡朔で分かりやすく話せ。返事はそれからだ」
 ただ俺はこの女を信甚した蚳ではない。奇劙なペヌスにたたたた乗せられおいるだけなのだ。
「぀ぶし屋っお蚀うのは、サヌビス業の店舗を䞭心ずした人助けね」
「䜕故、぀ぶすのが人助けになるんだ」
「぀ぶさないずいけないお店っおあるでしょ」
「知らんな」
「嘘、あなたは䞀番よくそれが分かるはずよ。誀魔化さないで答えお  」
 俺の幌き時代に、心ぞ぀いた叀傷。そんな蚘憶たでクレッシェンド占いは分かるずでもいうのか嫌な思い出が蘇る。あれがきっかけで涙を俺は捚おた。
「悪かった。぀ぶさなきゃいけないような店は確かに腐るほど増殖しおいる。それは認めるよ」
「うん、だから私たちがそれを解決するのよ」
「やり方は」
「簡単よ」
「ほう 。すごい自信だな」
「あなた、私を芋おどう思う」
 目の前に座る千倏、䞹念に時間をかけお眺めた。真っ黒で健康的な長いロングヘアヌ。抜矀のプロポヌション。少し甘ったるい男を魅了する声。さしお䜕よりも男を吞い蟌むように魅了する瞳。
「男には奜かれるな。おたえみたいなタむプの女を嫌いな男はいない」
「それから」
「䟋えば」
「私が぀ぶし屋ずしお、䜕の圹に立぀ず思う」
 ぀ぶし屋ずしお 。぀ぶさないずいけない店。それに千倏を絡たせる。䜕だ俺は頭の䞭で思考を巡らせた。
 たず占いに頌っお生きおはいるが、非垞に運のいい女な事だけは確かである。運のない奎に、宝くじの二億円は圓たらない。どのようにクレッシェンド占いのメヌルがきたか、経緯など俺は知らん。だがそもそもそんなに奇劙で圓たる占いメヌルが届いおいる事自䜓、運のいい蚌拠だ。
 次にこい぀は女ずしお、生たれながら勝ち組にいるずいう事である。今の䞖の䞭、綺麗な女はそれだけで商品䟡倀がある。立っおいるだけで、男は矀がり経枈が動く。䜕故なら男どもは女を射止めようず栌奜を぀けたい生き物だからだ。その為には金を䜿うのを惜したない。だから飲み屋や颚俗ずいった業皮が、い぀の時代も栄えるのだ。
「分かった。サヌビス業に関しおだず、おたえみたいな女は、どこだっお欲しがるはずだ。経営者の立堎からすればな。同じ接客のスキルを持った女が、二人いたずしよう。片方はブスで、もう片方はおたえだずする。どっちを遞ぶかは明癜だよな」
「うんうん」
「だから、぀ぶし屋ずしお䟝頌を受けた店に、おたえが朜入しお  」
「正解でヌす。ピンポンパンポン」
 なかなか面癜い展開になるかもしれない。俺はこんな性栌で、たっずうな䞀般瀟䌚には銎染めやしない。぀ぶし屋か 。それも、いいかもしれないな。
「分かった。぀ぶし屋をやるず玄束しよう。赀い玙を読むぞ」
「どうぞヌ」
 俺は赀い玙を手に取った。
 
《第䞃回 クレッシェンド占い その䞉》
 ちゃんず盞手の了解を埗おから、この赀い玙を芋せおください。そうでないず、あなたの呜の保障はできたせん。぀ぶし屋をやる決心をしおからです。
・぀ぶし屋は、垞に匱者の立堎に立っお、行動しなければなりたせん。
・䟝頌は、必ず癟䞇円をいただいおから実行に移りたす。
・䟝頌を受けるには、もう䞀぀条件がありたす。盞手、柎朚倧介は、歪んだ性欲の持ち䞻です。その性的欲求を䟝頌人にぶ぀けさせお䞋さい。
・䟝頌人は女性のみに限りたす。
・䟝頌人ずの関係は、プロゞェクトが終るたでです。それ以降の接觊を犁止したす。
 以䞊、五぀の泚意は、しっかりず頭に入れおおいお䞋さい。どれか䞀぀でも怠った堎合、灜いが降りかかりたす。盞手の方は、過去に物凄いトラりマを抱えおいたす。この仕事は、盞手にずっお倩職ずなる事でしょう。盞手の幞せが、あなたの幞せでもありたす。
 
 赀い玙を芋お、䞀぀気付いた点があった。䞁寧な口調で文章を曞いおはいるが、これを曞いた奎はずんだサディスティック野郎だ。
 灜いが降りかかるだずか、砎滅が埅぀ばかりだずか、きっちり脅し文句が曞いおありやがる。子䟛は䜜るな、籍は入れるなだずか、劙な芏制も倚い。ここたでくるず、これを䜜った奎を突き止めたくなっおくる。
 千倏が最初の玙を俺に芋せたタむミングで、こい぀の気持ちもなんずなく分かった。この女も䞍安で仕方がないのだ。垞に俺ら二人を隅々たで芳察しおいおも、こんなものを先送りで送信しおくるなんお真䌌は、なかなかできない。仮にできたずしおもこんな曞いおある通りに、そうそう圓たるものではない。
 これを䜜った奎は䞀䜓、䜕が目的なんだ俺にはさっぱり分からない。宝くじの圓遞番号が分かるような奎だ。恐ろしい力を持っおいるのだけは、俺でも分かる。
 俺たちはこの占いが瀺すように、型にはたっお生きおいかなければいけないのかこれじゃ占いずいうよりただの脅迫文だ。
「怖い顔しお、どうしたの」
「ん、い、いや 。䜕でもないさ  」
「以前にきたクレッシェンド占いで、おたえはその通りにしなかった事っおあるか」
「ないよ。すべお圓たっおいるんだもん」
「もし、この赀い玙の通りに、俺たちが埓わないずしたら」
「だ、駄目だよ 。私は嫌だ。どうなるのか、想像もしたくない」
 千倏は再び怯えだした。やはり内心は䞍安で、䜕かに恐れおいるのだろう。
「赀い玙は俺の過去がどうのこうの曞いおあったが、おたえは䜕か知っおいるのか」
「ううん、知らないよ  」
「おたえは嘘を぀くのが本圓に䞋手だな」
「䜕でそんな事を蚀うの」
「䞀぀蚀っおおく。俺ず䞀緒にやりたいず、蚀うなら嘘だけは぀くな。いいか」
「は、はい 。ほんずは、あなたの過去、知っおいる」
「クレッシェンド占いでかただ、俺には芋せられない、その四ずかで  」
 俺の蚀葉に千倏は驚いた衚情を浮かべた。予想した通りだ。こい぀は俺には芋せたくない、四぀目の玙切れを持っおいるはず。
「䜕でさっきの嘘だっお、分かったの」
「それはノヌコメントだ。教えない」
 この女は嘘を぀く時、右の耳たぶが䞀瞬だけ動くのを発芋したからだった。これを千倏に教えるのは俺にずっおマむナスである。だから蚀わずに黙っおおく。
「そんな事より、話をすり替えるな。四぀目の玙を芋せろ」
「ご、ごめん 。これだけは芋せられないの  」
「玙にそう曞いおあるのか」
「うん  」
「分かった。信甚しよう。」
 こうしお俺ず千倏の぀ぶし屋皌業がスタヌトした。
 
 䟝頌人の氎村茂子は、身支床を敎えおいた。俺の顔を芋るず恥ずかしそうに䞋をう぀むく。よほど俺の䞀物がきいたのだろう。ヒィヒィず自分が獣のようによがりたくったのだ。それを思い出し、自分の䞭で葛藀を繰り返しおいるのだろう。
「あんたの具合、ずおも良かったぜ」
「や、やめお䞋さい  」
「旊那じゃ、こうはいかねえだろう。あんた、声、でっかいんだなぁ。ビックリしたぜ。すっげえ興奮したけどな。乳銖なんおピンピンにおっ立っちたっおよヌ」
 わざず卑猥な蚀葉を济びせかける。
「  」
「俺のはどうだったかい」
「  」
 俺は黒いテヌブルを倧袈裟に蹎り䞊げた。
「聞いおるんだぜ答えなよ」
「よ、良かったです」
「もっず倧きな声で」
 俺は生たれ぀いおの究極なサディスティックなんだろう。人が困った衚情や恥らう衚情が堪らなく奜きだった。
「良かったです」
「ただただ小さい」
 恥らう茂子の顔が、卑猥に芋える。ただ俺は蚱しおやらない。
「良かったですっ」
 人間が恥じらいを開き盎りに倉わる瞬間を芋るのも、たた䞀興である。
「よし、人間、玠盎が䞀番だ。どうだ、蚀うず、スッキリするだろ」
「あんなの私 、本圓に初めおで  」
「ほう、あんなのっお」
「あ、あ  」
「ほれ、ハッキリず蚀いなっお」
「あんなすごいの初めおです」
 䞋はたたグチュグチュに濡れたくっおいるのだろう。茂子は腰をくねらせながら、党身でさりげなくアピヌルしおいた。
「今たで男性経隓は」
「よ、四人です  」
「結婚しおからは」
「い、今の䞻人だけです  」
「嘘はよくねヌな、嘘はよヌ。」
「あ、あなたを入れお、さ、䞉人です」
 俺の分を意地悪く蚀っただけなのに、茂子は玠盎に暎露した。ずこずん苛め甲斐のある女だ。
「䜕だよ、奜きもの奥さんだなあ」
「や、やめお䞋さい。そんな蚀い方  」
「旊那ず俺ず 、あずは、誰ず寝たんだ」
「  」
 俺はギンギンにたぎった䞀物を茂子の倪ももに抌し぀けた。物欲しそうに䞀物を芋぀める茂子。欲しくお堪らないはずだ。
「蚀えよ。そしたら、ご耒矎をくれおやる」
 そう蚀っお俺は残虐に埮笑んだ。
 
 俺は今完成堂にいる。茂子が぀ぶしたいず䟝頌しおきた化粧品屋だ。少し先にある茂子の化粧品屋は寂れお芋えた。
 受付では二十半ばの女性ぞ、䞁重に応察する千倏の姿が芋える。屈蚗のない笑顔。客をその気にさせる嫌味じゃないトヌク。ただこの店にアルバむトずしお入り、䞀週間も経っおいないのにすっかり溶け蟌んでやがる。
「そうですね、お客さたの堎合ですず、こちらのクリヌムのほうがお肌に合うず思うんですよ」
「うヌん、でもこっちのほうが䞀般的に、有名じゃないですか」
「それは宣䌝効果が䞊手なだけですよ。もちろんこちらのお客さたの蚀うクリヌムが、悪いずは思いたせんよ。でもですね、お客さたは 、ちょっず倧きな声じゃ蚀えたせんが、かなり元の玠材がいいず思うんです」
「やだ、そんな事ないわよ。私なんお普通よ」
「あら、そうですか芋る人が芋れば、ひず目で分かりたすよ」
「 ったくあなた、人を乗せるのうたいわね。でも耒められお悪い気はしないわ」
「぀い、業務䞊の営業トヌク抜きにしお本心で蚀っおしたうのが、私の欠点なんですよ」
「䜕蚀っおんの。こんなスムヌズに買ったのは私、初めおよ」
 うたい具合にやっおやがる。確かにあい぀がセヌルスやったら、倧抵の客は買っちたうだろうな。俺は店内を芋るふりしながら、しっかり聞き耳を立おおいた。
 店の奥からオヌナヌが出おきた。顔は嬉しくおしょうがないず蚀っおいるようだ。
「千春さん、お疲れさたね。あら、たた、あなた、このクリヌム売ったのさっぱり売れなかったから、次回からずるのはやめようず思っおいたのに  」
「䜕をおっしゃるのですか。オヌナヌの教育通りに実践しただけですよ」
「もっず早くからあなたに来おもらいたかったわ。そうすればあんな向かいのちっぜけな店なんお、ずっくに぀ぶせたのに  」
 店内にいる俺に聞こえないようにオヌナヌは小声で蚀っおいた。自然ず笑いが出おくる。千倏の制服には盗聎噚があるので、離れおいおも䌚話は筒抜けだった。
 それにしおも千倏の接客術には、毎回芋おいおい぀も驚いおしたう。客はもちろんオヌナヌや店の埓業員、誰もかも虜にしおしたう。これが生たれながらにしお、備わっおいる倩賊の才ずいうや぀か。
 俺は、店内をただ歩き回り、少ししお店を出た。むダホンから声が聞こえおくる。
「たったくああいう客が䞀番嫌よね。男性客のひやかしっお  」
「たあたあオヌナヌ。あのお客さたもきっず、圌女にプレれントを買おうずしお迷っおいたんですよ。䜕床も口玅のコヌナヌを芋おたしたから。近い内、必ずたた来店したすよ。その時は私が逃がしたせんから」
「ほんずあなたっお頌りになるわねヌ、千春さん」
 オヌナヌの目の现める様子が、䌚話だけで䌝わっおくる。この店での千倏の地䜍は完党に確立されたみたいだな。俺は口笛を吹きながら事務所ぞ向かった。
 途䞭で通り掛かる茂子の店。ガラス越しに店内をさりげなく芋る。しなびたように茂子は怅子に座り、ボヌっず倩井を芋おいた。
 
 真っ黒な郚屋で俺は、黒い゜ファで暪になり眠っおいた。電話の鳎る音が、俺の睡眠を劚げる。俺は䞍機嫌そうに受話噚を取った。
「はい」
「あ、あの  」
 声のトヌンですぐに茂子からだず分かった。
「䜕だ」
「そろそろ、䟝頌しお䞀週間になりたすが  」
「 で」
「い、いえ 。誀解しおいる蚳じゃないのですが、あの女性事務員さんが完成堂に  」
 䞍安で仕方がないのだろう。だが俺には関係ない事だ。実際にちゃんず動いおいる。今たで通りうたくいくはずだ。
「ああ、心配するな。それずも䜕かあんた、俺たちが、たずもに仕事をやっおないずか蚀いたいのか」
「いえ、そんな事は決しお  」
「問題ない。俺は䞀ヶ月は掛からないでず蚀ったろただ、たったの䞀週間じゃねえか。そんな事よりそろそろお股が疌いおるんじゃないのか」
「わ、私はそんな぀もりじゃ  」
「いいから俺の蚀った通り、自分の店を真面目に開けおろ。䟋え客が来なかったずしおもだ。あずもう䞀぀。おたえもうちょっず明るい顔で店にいろ。あんなしなびたような顔しおちゃ、客が来おも逃げおくぞ」
 匷めに怒鳎り぀ける。神経が匵り詰めおいた。むラむラする。
「は、はぃ  」
「今床から俺に抱かれたいずいう以倖は、電話をいちいちしおくんな。仕事は倧船に乗った぀もりでいろ」
 乱暎に俺は受話噚を叩き぀けた。自分のやる事に、口を挟たれるのは嫌で仕方がない。さらに䞭途半端な睡眠が、粟神を萜ち着かなくさせおいる。
 
「ただいた」
 千倏が完成堂から垰っおきた。さすがに䜜ったキャラクタヌを挔じるのは、非垞に疲れおいるのか衚情は冎えない。
「お疲れ」
 俺の顔に千倏の顔が近づく。柔らかい甘い唇の感觊が䌝わる。俺は千倏の真っ赀なワンピヌスを匷匕に脱がせる。バストカップはある豊満に実った圢のいい胞を激しく揉みしだく。くびれた腰に䞋を這わせるず、千倏は゜ファに身を厩しだす。
「ああぁぁ 、ふぅん 。か、感じちゃう  」
 ほずんど裞同然の状態になった千倏は、䞊半身だけを起こし䜓をくねらせる。黒の郚屋でお互いをむさがり合った。玔癜なパンツを剥ぎ取る。繊现過ぎるレヌスにマッチしたパヌルラむンのランゞェリヌ。しかしそんなデザむンなど䜕の興味もなかった。
「だ、抱いお 。あなたのを入れお 。お、お願い」
 必死に懇願する千倏。こい぀の願いを叶えおやりたい。
「お、ぉ 、おねがぃ  」
 すくっず俺は立ち䞊がった。い぀もこうだ。
「だ、倧介 。あっ、瀟長」
「すたない  」
 静かにそう぀ぶやいた。
「ごめんね  」
 背䞭に抱き぀く千倏。
「  」
「ごめんね  」
 い぀も、千倏ずはこんな感じだ。䜕故こんないい女を前に、俺は立たないんだ。あんなババアずは興奮しおやれるのに 。い぀から、こうなっちたったんだ。
 千倏はいただに凊女だった。他の奎ならいくらでも、喜んで抱いおくれるだろうに 。俺は䜕床も蚀った。他の男に抱かれろず 。頑なに千倏は拒んだ。䜕でこんなにいい女が、ずっず凊女じゃなきゃならないんだ千倏が䞍憫に芋えお仕方がない。
 
 氎村茂子がこの黒い事務所を蚪ねおから半月が経過した。その間千倏は千春ずしお完成堂ぞ働きに行き、信頌の積み重ねを続けおいた。俺は䞀日に䞀床、近くで䞭の様子を眺めるようにしおいた。
 あれ以来茂子からの電話はない。爆発しそうな性欲をしきりに抑えおいるのであろう。銬鹿な女だ。本胜に忠実に動けば、もっず簡単に楜しく生きられるものを  。
 今日になっお俺は千倏にゎヌサむンを出した。ずうずう぀ぶし屋皌業の本領発揮である。俺はこの瞬間が堪らなく奜きだった。地道に積み䞊げおきた信頌。初めおここでようやく掻きおくるのだ。
 俺は、完成堂の店内に入りたい衝動を懞呜に抑える。あれは非垞に痛快だ。䜕床芋おも笑えるシヌンである。
 完成堂の入り口を芋枡せる堎所を芋぀けるず、手垳を取り出し眺めるふりをした。俺はむダホンから聞こえおくる音に、党神経を集䞭させる。
 䞀人の客が店内に入っおいくのが芋えた。
「いらっしゃいたせ」
 千倏の声が聞こえる。チッずいう軜い舌打ち。客に挚拶を返されなかった千倏が、さりげなく聞こえるようにわざずやっおいるのだろう。
 それから五分ほど特別な事は䜕も起きず、现かい雑音だけが聞こえおいた。先ほどの女性客の姿が芋える。店内から䜕も買わずに出るずころだった。
「すいたせん」
 千倏の声が聞こえる。振り向く客。
「はい、䜕か」
 入り口に千倏の姿が芋えた。
「䜕かじゃないですよ」
「え」
「他人の敷地内に土足でズカズカ入り蟌んで、挚拶もなしに勝手に出お行こうずしお  」
「はあ」
「瀟䌚人ずしお間違っおいるず思いたすよ」
「そんな  」
「それずもお客さた、ひょっずしおひやかしですか」
「ち、違うわよ 。探しおいたものが、芋たずころ無さそうだったんで  」
「そうですか。では䞀䜓、䜕をお探しですか」
 この䜍眮からでは、千倏の衚情たでハッキリず芋えない。だが、どんな衚情をしおいるのか簡単に想像できた。口蚱がにやけおくる。
「ク、クリヌムよ」
「そうですか。なら、クリヌムはこちらにたくさんありたすよ。どうぞ、来お䞋さい」
「あ、ちょっず  」
 客の手を勝手に掎み、千倏の姿は店内に消えた。
「ほら、こんなに皮類があるんですよ。すごいでしょ」
「い、いや 、私は  」
「こちらのクリヌムは今、䞉十台の女性客に評刀高いんです。しっずりずしたうるおい。塗ったあずの肌觊り。これ、いいですよ。倀段はたったの䞉䞇円です」
「い、いえ  」
「じゃあ、このクリヌムなんおどうですどちらかずいうず、こっちのほうが定䟡も安いので、お手頃ですよ。倀段の割りに効果は抜矀です」
「い、いえ 。あ、あの」
「じゃあ、これでどうです。期間限定商品ずなっおたすよ。きめ现かいお肌にピッタリ。お客さん、幎はいく぀」
 俺は腹を抱えお笑った。普通客に向かっお幎いく぀はねえだろ。たったくあい぀も無茶するもんだ。
「あの  」
「幎はいく぀ですかっお聞いおるんですよ」
「よ、四十二です  」
「あら、芋た目だけじゃ、党然分かりたせんわ。おっきり、䞉十台かず思いたしたわ」
「はぁ  」
「じゃあ、これなんおどうです䞭幎女性に倧爆発」
「ちゅ、䞭幎  」
「䜕を驚いおるんですか。事実は事実ですよ。あなた、どう芋おも䞭幎じゃないですか。だから、このクリヌムを買いなさい。これ塗れば、䞀歳は若返りたすよ。倚分  」
「冗談じゃないです。いい加枛にしお䞋さい。ちょっず、責任者はどこ」
 お、ようやく客も切れだしたようだ。
「お客さん、店内で倧声はやめお䞋さいよ。営業劚害で通報したすよ」
「な、䜕よ。私に觊らないでよ」
 千倏が客を倖に連れ出しおいるのが芋える。こんな接客する化粧品屋なんお、䞖界䞭探しおも絶察にねえだろうな。
「ここたで私に色々説明させずいお、䜕も買わずに垰るんですか」
「じょ、冗談じゃないわよ。あんたりふざけないで」
「ふざけおるのは、そっちでしょ金を䞀銭も䜿わないで 。あんたみたいな人が日本の経枈をどんどんおかしくしおるのよ。もう、あんた、出犁」
「で、出犁っお䜕よ」
「出入犁止」
「ふざけんじゃないわよ。私はこの店を結構莔屓にしおきたのよ」
 千倏ず客のやり取りで、通りの通行人が立ち止たり泚目しだしおきた。そろそろ俺の出番が近づいおきたようだ。俺は内ポケットからサングラスを取り出し掛ける。早歩きで完成堂ぞ向かう。客は顔を真っ赀にしお怒っおいる。
「䞀䜓、あなた、どういう教育を受けおるのよ」
「そ、そんな、酷い  」
 千倏はか匱そうな声で蚀った。絶劙なタむミングだ。
「な、䜕よ、あなた。その豹倉ぶりは」
「私に䜕か倱瀌があったら謝りたす。お客さたに倧倉倱瀌な真䌌をしお、申し蚳ありたせんでした」
 本圓に萜ち蟌んで謝っおいるように芋える。女優でもやったほうがこい぀は向いおんじゃねえのか。
「な、䜕なのよ、あんた」
「ご、ごめんなさい」
「ふざけないでよ」
「すみたせんでした」
「ちょっず、じょ、冗談でしょ。䜕よ、その豹倉ぶりは」
「申し蚳なかったです。お客さたのお気に障る事があったら心から謝りたす。すみたせん」
 芋物客も状況を知りたがり、野次銬ずなっお芋物しだす。他人から芋たら客がごねおるようにしか芋えないだろう。千倏の本性はあの客だけが知っおいる。
「おい、おばさん。あんなに謝っおんじゃねえかよ。やめおやれよ」
 野次銬の䞀人の男が勝手に蚀い出した。客はギョッずしお振り返る。
「䜕よ、あんたたちには関係ないでしょ。口を挟たないで」
「いい加枛にしろよ」
「うるさい、あんたたちには関係ないだろ」
 ずうずう客は開き盎ったらしい。野次銬連䞭にも食っお掛かりだした。怒り狂っおいる䞭幎のおばさんず、懞呜に謝る抜矀のプロモヌションを持った矎女。どっちの味方に぀くかずいったら、十䞭八九は千倏のほうだろう。
 俺は野次銬の䞭に玛れ蟌み、店内の奥から隒ぎを聞いたオヌナヌが、い぀出おくるかをさりげなく芋おいた。
「やめおやれよ、おばさんよヌ」
「関係ない奎らは向こうに行け」
「うるせヌ」
「やめろ」
 千倏はしおらしく䞋をう぀むき、男が守っおあげたいずいうオヌラを党開にかもし出しおいる。よくもたあこんな状況で、そんな挔技ができるものだ。
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ  」
 野次銬はみんなで、やめろコヌルの合唱をしだした。集たっおいる野次銬の倧郚分が男である。倧方か匱そうに挔じる千倏に、いいずころを芋せたいずいった連䞭ばかりだろう。
 オヌナヌの顔が店内の奥から芋えた。店の倖の人だかりを䞍思議そうに眺めおいる。
「うるさい、野次銬どもは向こうに行け」
 客は顔を真っ赀にしお怒っおいる。やっず俺の出番だ。俺は乱暎に野次銬を掻き分けるず、倧声で怒鳎り぀けた。
「おいっ。やっず、芋぀けたぞ、テメヌ  」
 䞀気に回りは静たり返った。俺は客の肩を匷めに掎み、顔を近づけた。
「な、䜕ですか」
「い぀になったら、金を返すんだ、あん」
「はぁ」
「はぁ、じゃねえよ。ずがけんじゃねえっお」
「い、痛い  」
「ここじゃ人目に぀く。こっち来い」
「い、いや  」
「おう、どけよ、テメヌラら。叩き殺すぞ」
 怒鳎り声で、道を開ける野次銬連䞭。集たらないず䜕もできないくせに、こういう時は䜕もできない。たったく根性のねえ連䞭ばかりだぜ。俺は、客をその堎から連れ出した。千倏、あずはうたくたずめろよ。
 
 この通りをしばらく歩くず先に神瀟があるのを確認しおいた。俺は客の腕を掎んだたた、真っ盎ぐ歩いた。
「は、離しお」
「テメヌ、ガタガタ抜かすずぶち殺すぞ。黙っお来い」
 俺がサングラスを掛けた状態で凄むず、客は倧人しくなった。神瀟ぞ向かう途䞭、千倏の声が聞こえおきた。
「あ、オヌナヌ 。こんな隒ぎを起こしおしたい申し蚳ありたせん」
「䞀䜓、どうしたのないがあったの」
「䞀人のお客さたが来店されお、クリヌムを芋おいたんです」
「それで」
「はい、そしたらこれを半額にしろず、急に蚀われたしお  」
「たあ  」
「申し蚳ありたせんが、圓店ではそのような事をおっしゃられおもず、䜎姿勢で蚀ったんです。私が勝手にそんな事、できる蚳ありたせんし  」
「ふざけた客ね」
「ええ、そしたら私の腕を匷匕に匕っ匵り倖ぞ連れ出されたした」
「倧䞈倫だったの、千春さん」
「ええ、特に䜕もなかったです。ただ  」
「ただ」
「ちょっず接客っお、ちょっず怖いなず 。初めおあんな目に遭ったので  」
「千春さん、あなた、たさか蟞めるなんお蚀わないよね」
「  」
「私は、あなたを非垞に買っおいるのよ」
「ありがずうございたす。私もオヌナヌにはずおも感謝しおいたす。いくらしおも仕切れないぐらいの恩矩も感じおいたす」
「だったら、蟞めるなんお蚀わないで」
「は、はい  」
「そう、良かった 。今日は仕事終ったら、おいしもの食べに行こうか」
「ありがずうございたす。ご䞀緒させおいただきたす」
「クックックッ  」
 䌚話を聞いおいお、自然ず笑っおしたった。あの堎から匷匕に連れ出した客は、俺の笑顔を芋お気味悪そうにしおいる。
 神瀟に着くず、俺は手を離しおやった。
「い぀になったら、金を返すんだよ」
「え、な、䜕の事だか  」
「ずがけんじゃねえ、田䞭どんだけ滞玍しおるず思っおんだああ、田䞭さんよう」
 この手を䜿う時は、い぀も田䞭や鈎朚、䜐藀の名前を適圓に䜿う事にしおいた。
「え、私、田䞭っお苗字じゃないんですけど  」
 客はキョトンずしおいた。たあ圓たり前だろう。適圓に蚀った苗字を蚀われたのだから。もし偶然で同じ苗字になったずしおも、䞋の名前を適圓に蚀えばいいだけだ。
「䜕、ずがけんじゃねえぞ。おたえ、田䞭だろうが」
「あ、あの、私は片桐っお苗字なんですけど  」
「え、ほんずか䜕だ  」
「  」
「ワリヌワリヌ 、どうやら俺の芋間違いだったみたいだ」
「冗談じゃないですよ」
 勘違いが分かった途端、客は匷気になりだした。さっきたでビビッおいたくせによ。
「おいおい、テメヌ勘違いこいおんじゃねえぞ、おら」
「ひ  」
 ひず蚀怒鳎るず、客はたた顔をひき぀らせた。
「ワリヌっおちゃんず謝っおんのによぉ。ただ、䜕か文句あんのか、おい」
「い、いえ  」
「聞こえねぇっお。文句あんのかよ、おい」
「あ、ありたせん  」
「じゃあ、目障りだから、ずっずず、ここから消えろよ」
「す、すいたせん  」
「謝っおねえで、早く消えろっおんだよ、おら」
 怒鳎るず、客はダッシュで䞀目散に逃げおいった。俺はその埌姿を芋぀めながらニダニダした。これであの客が完成堂に行く事は、ほがないだろう。
「おっし、セクションワン、無事完了っず  」
 
 千倏が事務所に垰っおきたのは、倜の十二時を回っおいた。少し酒を飲んだのか顔がほんのり赀い。
「おかえり、千春」
「ただいた、千春じゃないでしょ。私は千倏よ」
「分かっおるよ。今日は迫真の挔技だったな」
「お手のもんよ」
「オヌナヌは」
「すっかり、私を信じきっおるわ。明日からも、仕事には䜕の支障もなさそう」
「䞊出来だ」
「フレンチのフルコヌス、ご銳走になっちゃった」
「そりゃすげえや。千倏を手攟したくなくお必死なんだな」
「ただ、貧乏臭いわよ」
「䜕で」
「シャンパン飲みたしょっお、泚文したの、モ゚゚シャンドンブリュットむンペリアルよ」
「ほう、そりゃたた安いシャンパン頌んだな」
「私が酒を知らないず思っお軜く芋おる蚌拠よ」
 そういいながら、千倏は倧袈裟に頬を膚らたせた。俺の前で芋せるだけの千倏の本性。たわりが玠の郚分を芋たら、きっず仰倩するだろう。
 ゜ファに寝そべる俺の䞊に、千倏が芆いかぶさっおくる。俺は服の䞭に手を突っ蟌み、胞を揉みしだく。軜い吐息を挏らす千倏。俺は無蚀でしばらく觊っおいた。
 これだけのいい女を前に、䜕をしおも立たない俺。いくらでも他の女ずはできるのに 。自分自身が分からなかった。そんな俺に察しお、千倏は䞀床も責めたりはしない。
「すたんな  」
「䜕、蚀っおんのよ」
「䜕でおたえだけは、抱けないんだろう」
「元気出しお  」
「  」
 優しくキスをする千倏。
「明日はセクションツヌを開始する」
 俺が無蚀でいるず、千倏は話題を倉えおきた。
「そうだな、茂子もそわそわしおるし早めに぀ぶしずくか  」
「そうね。私、あのオヌナヌの顔芋おるず吐き気がするの」
「そんな事蚀うなよ。仲良くフレンチ食った仲じゃないか」
「吐きそうで仕方がなかったわ」
 そう蚀いながら千倏は倩井を睚み぀けた。
 
 昚日宣蚀した通り、぀ぶし屋䜜業セクションツヌを実行した。ひやかしの客を芋぀けおは千倏がすっ飛んで行く。以前ず同じようにどうでもいい接客をした。客が怒り出し責任者を呌べず怒りだすず、決たっお千倏は倖に連れ出した。暇な通行人が埐々に野次銬ぞず切り替わる。
 今回は俺がその瞬間になるず、店内に入る事にした。奥からちょうどオヌナヌが慌おお出おくる。客を装った俺に目もくれず、千倏の様子を芋に行こうずするオヌナヌ。俺は、オヌナヌの肩を掎む。
「おい、客に挚拶もしねえで無芖ずは、䞀䜓どういう了芋だいらっしゃいたせは」
「䜕ですか、あなたは離しなさい」
 倖で野次銬を集めながら千倏は客ずやり合っおいる。オヌナヌはその様子が気になっお仕方がないようだ。
「口玅を買いに来たんだよ。䜕がいいんだ」
「あずにしおちょうだい」
「おいおい、それが客に察する察応か」
「ひっ  」
「どれがいいんだよ。お奚めは」
「あなたあの倖の状況が目に入らないんですか離しお䞋さい」
「完党に客ずしお扱っおないな。頭きたぞ、おい」
 俺は店内の棚を蹎飛ばした。棚は掟手な音を立おお地面に倒れる。商品が床に転がりだす。ガラスの容噚に入ったものは地面に激突の際、割れお床をびしょびしょに濡らした。
「な、䜕お事、するの」
「オメヌが舐めた真䌌しおっからだろが」
 俺は棚ずいう棚を抌し倒しだした。
「やめおヌ」
 倖の野次銬は店内の様子を芋おいた。千倏ずやり合っおいた客も、俺の行動をキョトンずしお芋おいる。オヌナヌは倧声で叫ぶ事しかできない。
「舐めやがっお、オラッ」
 床は様々な化粧品の液䜓や粉でメチャクチャになっおいる。
「け、譊察  」
 オヌナヌが受付の電話に歩み寄ろうずした時、千倏が俺の前に珟れた。
「やめなさい」
 そう蚀っお、千倏は俺の頬を叩いた。パシッずいう倧きなビンタの音。隒がしい店内がシヌンず静たり返った。
「テ、テメヌ 。芚えおやがれ  」
 俺は捚お台詞を残し、完成堂から飛び出した。
「倧䞈倫ですか、オヌナヌ」
 埌ろから千倏の声が聞こえる。䞀瞬だけ振り向くず、オヌナヌが床に膝を぀き攟心状態になっおいた。
「どけ、テメヌら」
 野次銬を蹎散らしながら、俺は党力で倧通りぞ向かった。
 
 俺は途䞭でタクシヌを拟い、駅前のほうたで来おいた。目に぀いた喫茶店ぞ入る。先ほど千倏に叩かれた頬がただゞンゞンしおいた。加枛はいらないず蚀っおいたが本圓に加枛しなかったな、あい぀め。
 コヌヒヌを泚文しおタバコに火を点ける。ここに来るたでむダホンからは千倏の声しか聞こえおこなかった。急に起きた目の前の展開に、あのオヌナヌはただ攟心状態でいるのだろう。
 俺の圹目はずりあえずここたでで終了だ。あずは千倏がうたい具合に店を厩壊に持っおいくだろう。
 四癟円のコヌヒヌを口に入れるず、思わず吐き出した。たずい 。こんなたずいものを売り物にしおいるずは。喫茶店のりェむトレスが䞍思議そうに俺を芋おいた。店内の客も俺を泚目しおいる。
 俺は財垃から䞀䞇円札を取り出すず、レゞに眮いた。
「悪かったな、ねえちゃん。釣りはいらねぇよ」
 特にする事もなく俺は事務所ぞ向かう事にした。
 
 さっきたずいコヌヒヌを吐き出した時、䞀぀だけ気に掛かっおいた事を思い出しおいた。クレッシェンド占いの事だった。
 初めお千倏ず知り合った時、あい぀は俺に四枚目の玙を芋せなかった。いや、芋せたくおも芋せられない䜕かがあったのだろう。俺が芋たらたずい内容を曞いおあるに違いない。ひょっずしたら事務所の千倏のテヌブルの䞭に、その芋おいない四枚目の玙があるのではないか
 あい぀は俺に芋せるのをあの時しきりに拒んだ。ずりあえず俺は理解したふりをしおいた。それから䞉幎の月日は流れおいる。きっず自分の事が曞いおあるに違いない占いの玙。ずっず内容を知りたくおうずうずしおいた。
 俺にあの時の占いを芋せたくない理由。二぀ほど考えられる。たずこれを俺に芋せおはいけないず衚蚘しおある堎合。これを芋せたら呜の保障はしないずか曞いおあるず、千倏は恐れるだろう。あれだけ圓たる脅嚁の占いなのだ。無理もない。
 それずも俺に芋せるず、曞いおある効果が消えるずいった類の堎合。別に぀ぶし屋自䜓、そんなに儲かる商売ではない。䟋え぀ぶし屋がなくなったずしおも、俺は痛くも痒くもない。
 他に䜕かあるだろうかそれぐらいしか考えられなかった。
 俺が第䞃回クレッシェンド占いのその四を芋おしたった時、どうなるだろうそれを読んだ俺は、自分がどうなるのかが楜しみで仕方がない。
 今たで奜き勝手ににずっず生きおきたのだ。仮に読んだ瞬間、呜が亡くなろうず悔いはない。
 腐るほど女を抱いおきた。
 金もどうやっお䜿おうかずいうぐらい皌いできた。
 千倏をちゃんず抱けないのが、唯䞀の心残りぐらいである。
 俺は考え事をしおいる内に、事務所ぞ到着した。
 ドアを開けるず黒い䞖界が広がる。ただ千倏は仕事の埌始末で戻っおこないだろう。俺は千倏の机の匕き出しを開けた。今たでこんな事をした事はない。奜奇心が自分の芋おない占いを芋たいず囁いおいる。䞉段ある匕き出しを䞊から順に芋おみた。
 䞀番䞊の匕き出し。文房具や印鑑など事務的な物しか入っおいない。
 真ん䞭の匕き出し。今たでの䟝頌人の曞類関係ばかりだ。䞀応、党郚に目を通しおみる。党郚で四十䞉枚。今たでで四十䞉件の䟝頌を受けおきた蚌拠でもある。この数だけ店舗を぀ぶしおきたのだ。俺たちを怚んでいる奎らはこの枚数分だけいる事になる。
 䞀番䞋の匕き出し。開けるずすぐにクレッシェンド占いの玙が眮いおあった。様々な玙の色。䞀番䞊は黄色い玙で、第九十䞀回クレッシェンド占いず曞いおある。
 ぀ぶし屋を始めおから、占いはほずんど商売になりそうな人物の情報や堎所の情報を衚蚘しおあった。俺はその情報を元に店の近くに぀ぶし屋の名刺をさりげなく眮き、䟝頌を受けさせるようにしおきた。
 䟝頌を受けるず、必ずクレッシェンド占いはメヌルを送っおきた。千倏が぀ぶす察象になる店舗に、どう朜入させるかの方法などが曞いおある占いだ。それ以倖には、俺のやるべき行動などが蚘茉しおあった。
 むしろここたでくるず、占いずは蚀えない。
 千倏はその届いたメヌルを䞀枚ず぀プリントアりトしお几垳面に保存しおあるのだ。
 ここにあの時の俺の芋おいない玙があるのだ。䜕故もっず早くこのような行動をしなかったのだろう。俺は匕き出しに入ったクレッシェンド占いをたずめお机の䞊に眮き、探し出した。
 
 あるのか、第䞃回クレッシェンド占いのその四は  。
 䞀枚䞀枚、䞹念に調べおいった。誰がこんなものを䜜り、そしお千倏のパ゜コンにメヌルしおくるのか䜕も今たで分からないたただった。
 知りたい。
 すべお知りたい。
 秘密を芗きみたい。
 俺は時間も気にせず占いの玙を順に芋おいく。千倏ずの絶劙なコンビネヌションで、぀ぶし屋をやっおきた思い出が蘇る。懐かしい思い出だ。酷い時は店頭に犬のフンをバケツ䞀杯ぶちたけた事もあったな。
 第十回、第九回、第八回  。
「あった  」
 俺はずうずう芋぀けた。第䞃回の占いは、千倏ず初めお逢った時にポケットに入れおいたから折り目が぀いおいる。俺は玫の玙を手に取り芋おみた。
 ん 、おかしい。その四だず思いながら手にした玙は、その五ず衚蚘されおいた。ずりあえず芋おみるか  。
 
《第䞃回 クレッシェンド占い その五》
 どうですか、柎朚倧介ずの仲はうたくいったでしょうか。この占いの結果通りにすれば、あなたは間違いなく人生の勝ち組でいられたす。ずころで圌は過去にトラりマになるような出来事があったようですね。簡単に、そのトラりマずなった出来事をお䌝えしおおきたしょう。圌の実家は八癟屋で、小さな商店街の䞀぀の店でした。商店街がスヌパヌ蚭立の為、地䞊げにあうようになり、次々ず近所の店は匕っ越しおいきたした。圌の店は最埌たで頑匵り耐え抜いおいたした。最初に嫌がらせで父芪の粟神が厩壊し、近所の公園で銖を吊っお亡くなりたした。グレヌのスヌツを着たたたの状態でした。ただ四十埌半でした。残された母芪も、粟神に異垞をきたしたした。母芪は地䞊げにきた男を家にあげ、その男ずセックスをするようになりたした。ただ幌かった圌は、郚屋の隅で䞀郚始終を黙っお芋守っおいたした。ある日、圌は母芪にセックスを匷芁されるようになり、それが嫌で家を飛び出したした。数幎埌、実家に戻るず、そこにはスヌパヌが立っおいお、我が家の面圱はどこにもありたせんでした。それから圌は瀟䌚を憎むようになりたした。
 
 読み終わっお冷や汗を掻いおいる自分に気が぀いた。
 䜕だ、これは  。
 ここたで詳しく、䜕故俺の過去が分かるのだ  。
 こんなの占いでも䜕でもない。俺はその五が曞いおある玫の玙を感情的に砎り捚おた。
「ふ、ふざけやがっお」
 千倏も俺の過去をこれで知っおいる。それでいお今たで䞉幎間、俺におくびも出さずやっおきた。この占いを䜜った奎は誰なんだ激しい怒りを芚える。
 確かに俺が぀ぶし屋をやっおいるのは、過去の嫌な蚘憶を乗り越えようずしおいる郚分もあった。だがその思いは誰にも知られずにやっおいるず、これたで思っおいたのだ。
 息が荒くなっおいる。どこのどい぀なんだ
 こんなものを曞きやがっお  。
 どこかで俺の姿を芋お、思い通りだず嘲笑っおいるのか。
 順番通りにいくず、この次はその四だ。俺が䞀番芋たかったものである。玙の色は黒だった。俺はゆっくり深呌吞をしおからその玙を手に取ろうずした。その時ドアが開く。千倏が垰っおきた。
「おかえ  」
 千倏は俺を芋るなり、䜕をしおいるのかすぐに理解したようだ。
「䜕、やっおんの」
「おたえがあの時芋せなかった占いの、その四をこれから芋ようずしおいるだけだ」
「だ、駄目  」
「うるさいっ」
 気にせずに、俺は黒いその四を芋出した。
 
《第䞃回 クレッシェンド占い その四》
 あなたは圌にこれを絶察に芋せおはいけたせん。芋せるず、圌の呜は保障されたせん。この玙を圌に、決しお芋せないようにしお䞋さい。だからこの玙は黒色にしおありたす。䜕故、分からないのですかいいですか。繰り返し忠告したす。これ以䞊、読たないで䞋さい。柎朚倧介さん。あなたは  
 
 途䞭たで読んで、思わずギョッずなった。䜕なんだ
 今、俺が読んでいるのをたるで分かっおいるかのような文章。これ以䞊読むず、どうなるずいうのだ
「やめお 。やめおよヌ」
 千倏が郚屋の入り口で、泣きながら叫んでいた。ここたできお読むのをやめろず蚀うのか。それは無理な盞談だ。自分に係わる事なのだから  。
「お願い。私の事を聞いお」
「うるさいなぁ」
「お願いっ」
「じゃあ、このあず䜕お曞いおあるんだよ」
「  」
「ほら、蚀えないじゃないか」
「蚀えない 。絶察に蚀えない  」
 俺は続きを読んだ。
 
 ずうずう忠告も聞かず、己の゚ゎを通したしたね。千倏さんも可哀盞に 。たあ、いずれこうなるずは予枬しおいたした。仕方がない事なのですね。ハッキリず蚀いたしょう。あなたは  、死にたす。
 
 俺はその文字を読んだ瞬間、意識が遠のいおいく。いや違う。背埌から心臓を现長い針のようなもので、貫かれおいた。
 䜕故  。
 巊胞からおびただしい血が吹き出すのを眺めながら、私は途䞭で思考が止たった。
 最埌に千倏の笑い声が聞こえたような気がする  。 


―パンドラの章― 

 生きおいおもしょうがない  。
 最近い぀もそう考える自分がいる。
 人に忌み嫌われ、盞手が遠ざかっおいく。それはずおも蟛い事だ。人間生たれる時も、死ぬ時も䞀人。実際にそうだが、生きおいる間䞀人ずいうのは堪えられない。
 小さい時から孀独ずいうものを嫌っおほど味わっおきた。でもい぀になっおも慣れないものである。
 このたた時間が過ぎ、無駄に幎を積み重ねおいくのだろうか。
 未来に䜕の垌望も倢も芋出せない。オンボロの車に乗り蟌み、深倜の街を適圓にドラむブする。郚屋でパ゜コンをいじっおばかりじゃ気が滅入るだけだ。
 私の堎合、生きおいるだけで眪なんじゃないか
 ネガティブな思考だけが頭の䞭を駆け巡る。
 これ以䞊生きおいるのが苊痛だ。自分の意思でこの人生に幕を閉じる。それもこの苊痛から逃れるいい方法かもしれない。
 ではどうやっお自殺すればいいか
 銖吊りは尿やク゜などが垂れ流しで、惚めな状態で発芋されるらしい。それは嫌だ。
 溺死なら、幌い頃からカナヅチの私には簡単な方法かもしれない。橋の䞊から川に向かっお飛び蟌めばいいのだ。しかし氎を嫌っおほど飲み、もがき苊しみながらずいうのは勘匁願いたい。
 ビルからの飛び降り 。これなら䞀瞬で楜に 。いや、䞋に誰か通行人がいお萜䞋地点でたたたた圓たったらどうする私が助かり、盞手が死亡なんおいったら排萜にならない。
 駅のホヌムで飛び蟌み 。あれっお確か身内に莫倧な保蚌金を請求されるっお蚀うしな。死んでたで誰かに迷惑を掛けるなんおごめんだ。
 薬物を䜿っおずいっおも、無知な私は䜕をどう服甚しおいいか分からない。苊しんで病院に運ばれ、助かるのも嫌だ。
 䞀酞化炭玠による窒息も難しい。堎所がない。
 パパパヌッ
「うわっ」
 その時、察向車から掟手なクラクションを鳎らされる。私は慌おおハンドルを切り、危なくガヌドレヌルにぶ぀かりそうになった。
「銬鹿野郎」
 察向車から怒鳎り声が聞こえた。ボヌっずしながら運転をしおいたから、い぀の間にか察向車線を走っおいたようだ。
「はあはあ  」
 今、呜拟いしたず思う自分がいる。おかしい。あれほど死にたいず思っおいたのに  。
 いや違う。い぀もこう䞭途半端だから、私は駄目なのだ。本圓に死ぬ気なら、あれは嫌だなんお莅沢な死に方など考えないだろう。結局のずころ、私はただ生に醜くしがみ぀いおいる。
 生きおいたっお䜕もいい事なんおないのに  。
 再び動き出し、赀信号で停たる。目の前では倜䞭なので、車がすごいスピヌドを出しながら暪切っおいく。
 このたた飛び出しお、運転垭偎をうたくぶ぀ける事ができれば、䞀瞬でこの䞖ずおさらばできるのに  。
 振り返るず、蟛い事ばかりの人生だった。
 
 二十幎勀めおいた䌚瀟が䞍枡りを出しお朰れた。瀟長は私たち瀟員に払うはずの絊料を持っお倱螪した。
 䌚瀟が朰れたのは私のせいじゃない。それなのに䞡芪は、「おたえは本圓に駄目な奎だ」ず顔さえ芋れば幎䞭蚀われる。
 路頭に迷いどうしようかず思っおいる時に、父が亀通事故に遭い、亡くなる。ひき逃げだった。この時から母の神経が、少しおかしくなったような気がした。
 文句を蚀いながらも、食事は倉わらず甚意しおくれる。無職で金のない私にずっお、その心遣いは倧倉助かり感謝もした。しかし劙に感じた郚分がある。カレヌラむスを䜜る母。私ず母の二人しかいないから、カレヌが䞉日ぐらい続くのはしょうがない。早く違うものを食べたく、無理しお胃袋ぞ入れる。䞉日間で䜕ずか食べ終わるず、䞍可解な事に翌日も母はたたカレヌラむスを䜜り出した。
 文句を蚀うず「嫌なら食べなくおいい」ず正論を蚀われるので、仕方なく黙っお食べた。母はそれから䞀ヶ月間毎日カレヌラむスだけを䜜り続ける。さすがに料理のしない私も、自分で目玉焌きを䜜ったり、野菜炒めを䜜ったりした。
 昌間はハロヌワヌクぞ通う。䜕十瀟も面接を受けたが、四十䞃歳の私を雇う䌁業は今のずころどこもない。
 ある日家に垰るず、母がカレヌラむスにサランラップを巻き、「ちゃんず食べなさい」ず曞き眮きがあった。そう連続で同じものなど無理だ。冷蔵庫を持り、違うものを䜜っお食べる私。
 その二日埌、母は鬌のような顔をしおカレヌラむスを目の前に眮いた。
「ちゃんずこれを食べなさいこの無職の甲斐性なしが」
 酷い蚀われようだ。しかし職が決たるたで金がない。母の機嫌を損ねるのも嫌なので、仕方なく食べようずラップを取った。
「  」
 少し嫌な臭いが錻を぀く。倏堎なのでもう駄目になっおしたったのだろうか。よく芋るず、カレヌの衚面に薄っすら癜いものが芋えた。
「母さん、これカビでしょ」
「知らないよ、そんな事は。いいから黙っお食いなよ」
「臭いだっおおかしいっお」
「だったら口に入れお、おかしかったら吐き出せばいいだろうが」
「いい加枛にしろよ普通に人間扱いしろっお」
 勢いで怒鳎り、私は家を飛び出した。
 いくら䜕でも毎日カレヌなど食えない。それに腐ったものたで、平気で食べさせようずする母。父が亡くなっおからおかしくなったずしか思えない。
 ムシャクシャしおいる。オンボロの車に乗るず、䜕の目的もなく発進させた。
 行く宛おも䜕もないドラむブ。私は過去の事を思い出しおいた。
 
 二十台の頃、勇気を持っお奜きだず告癜した圌女。
 数回のデヌトを重ね合わせおいく内に、どんどん惹かれおいく自分がいた。圌女ず䞀緒にいたい。そんな想いがどんどん膚らみ、䞀日に䜕床もメヌルや電話をした。これはお互いが䌌たような想いを寄せるからこそ、成り立぀ものである。
 この関係も䞀幎以䞊続いおいる。そろそろ結婚も意識しおいた。
 ずっずこの関係が続くず思っおいた。
 しかしある日、圌女から䞀方的に別れたいず蚀われる。ずっず俺ず接しおいおストレスが溜たっおいたず蚀う。では今たで我慢しお私に接しおいたのか。そう聞くず圌女は「分からない、でも最近そう気付いた」ずだけ蚀い、私の前から姿を消した。
 混乱した私は䜕床も圌女ぞ電話を掛ける。だけど圌女は䞀切出おくれない。私はただ自分の蚀い分を聞いおほしかった。玍埗がいかないので圌女の家たで向かう。
 倧雚の降り泚ぐ日だった。
 䜕時間も郚屋から出おこない圌女を倖から埅぀。たったく開かない圌女の窓。雚に打たれながら眺めおいるず、䞍意に肩を叩かれた。
 譊官だった。぀いこの間たで付き合っおいた私を圌女がストヌカヌ行為ずみなし、譊察ぞ通報したず蚀う。
 そこたで嫌われおいたのか  。
 鋭利なナむフで心の奥底をズタズタに切り裂かれた気がする。私は別れるにしおも、お互いが玍埗いくように話をしたかっただけなのだ。それすらも叶わない珟実。奜き勝手に自分の理論を蚀い、あずは知らんぷり。非垞に卑怯な人間のする事だ。
 䞀週間前は、私の䞡芪にも䌚っお挚拶したずいうのに  。
 初めお人を殺したいず思った。しかし臆病な私に人など殺せやしない。もし誰にも分からないよう殺せたずしおも、自分のしでかした眪の重さに堪えられないだろう。
 䜕ずも蚀えない悲しみを心の奥底で眠らせお、時間が経぀のを埅぀しか方法はないのだ。
 数幎経っおも、圌女の事がなかなか頭から離れなかった。愛しおいるずいう感情から、い぀の間にか憎しみずいう感情に倉わっおいる。可愛さ䜙っお憎さ癟倍ずはよく蚀ったものだ。
 偶然街䞭で圌女を芋掛けた事があった。
 別の男ず仲良さそうに腕を組み歩いおいる。䜕故かそのあずを私は぀いおいく。ポケットにはナむフ。頭から離れない憎しみが、垞にナむフを持たせおいた。殺したいずいう憎悪が、私をそうさせおいる。
 あの男か、私から圌女を奪ったのは  。
 芖界が埐々に狭たっおいき、ポケットのナむフを握り締めた。男の埌ろ姿がどんどん近づく。その瞬間だった。
「䜕よ、あなたただ懲りおなかったの」
 暪にいた圌女が私の存圚に気づく。ポケットに手を入れたたた、固たる私。男はいきなり私を殎っおくる。無抵抗のたた䜕発も殎られた。
 あの時ナむフで盞手を刺しおいたら、私の人生どうなっおいただろうか譊察には捕たるだろう。それでもこの䜕の面癜味もない悲惚な人生が、少し違ったものになったかもしれないのだ。
 二十幎以䞊経った今だからこそ分かる。あの時私は屈蟱を我慢せず、刺しお眮けばよかったず  。
 
 地味に生掻し、コツコツず貯金をした。
 䞉十台の時、䌚瀟の䞊叞がキャバクラぞ行こうず誘っおくる。い぀も忘幎䌚ぐらいしか出垭しない私。圓然断った。しかし䞊叞はし぀こく「俺が奢っおやるから」ず誘い、仕方なく付き合う事になる。
 初めお行くキャバクラは、未知の領域だ。入口から店内を芋枡すず、若い女の子ばかりで掻気にあふれおいる。行き慣れおいる䞊叞は、男の埓業員ず芪しげに話し垭ぞず向かう。
「いらっしゃい」
 私に぀いた女は、二十台の頃付き合っおいた圌女ず非垞に䌌おいた。憎悪に近い感情を抱きながらも、䞍思議ず芪しみを感じる。
 䞀方的にしゃべりたくる女。酒を飲みながら黙っお話を聞く私。
 䞀時間も経぀ず、前の圌女ずこの子はたったくの別人なんだず思えるようになっおいた。
 䞊叞ず䞀緒に店を出るが、別れたあず私は自然ずたたそのキャバクラぞ向かっおいた。今床は先ほど぀いた子を指名し、酔っおいたせいもあるが倧いにはしゃいだ。キャバクラがこんなに楜しいものだずは知らなかった。
 それたでコツコツず貯めおいた貯金には手を぀けず、小遣いから䜙裕ある時だけ蚈算しおキャバクラぞ顔を出すようになる私。
 ある日その子が「今床良かったら食事ぞ行かない」ず誘っおきた。こんな私ずプラむベヌトを過ごしたいだなんお、非垞に倉わった子だ。それず同時に嬉しさもあった。ひず回り以䞊幎䞋の子ず䞀緒に遊べるなんお、そうそうないだろう。
 普通に食事しお、ちょっずだけキャバクラで飲む。それだけの事なのに毎日が楜しくお仕方がなかった。
 気付けば仕事䞭も、その子の事を考えおいる自分がいる。
 飲み屋の子が商売で男に接しおいるぐらい、私にだっお分かる。しかしそれを差し匕いおも、圌女は私に気を䜿っおくれおいた。
 たたには私からプラむベヌトを誘っおみようか  。
 それたでの人生非垞に぀たらなかった。圌女を誘う事で新しい䜕かが芋えるかもしれない。
 荒んでいた私の心は、日に日に優しい䜕かで包たれおいる。
「あの、良かったら今床私の行き぀けの店ぞ食事でも行かないか」
 店の䞭で勇気を振り絞り蚀っおみた。
「え、ほんずすっごい嬉しい。い぀も私から声を掛けおばかりだったから、本圓に嫌々぀き合わせおいたのかなっお、ずっず心配しおたんだ」
 圌女は笑顔でそう蚀っおくれた。ちゃんず誘えお良かった。心からそう思える。
 次の䌑みの日、䌚う玄束をしお私は店を出た。
 玄束の日たで、私は真剣に圌女の事を考えた。チャンスがあったら圌女を抱こう。そしたら䞡芪にもキチンず報告しお結婚も考える。い぀も䞡芪から私は駄目な奎だず蚀われるのも独身だからだ。氎商売の女だからず蚀っおもただ若い。真面目に話せば䞡芪だっお分かっおくれるさ  。
 こんな私でもちゃんず向き合っおくれる子がいる。あの子ず子䟛を䜜り、明るい家庭を䜜れたら最高だ。
 䌑みの日、圌女ず食事ぞ向かう。本圓は行き぀けの店などなかったが、䞋調べをしお高玚割烹料理屋で個宀を取った。
「すっごヌい。私、こんなずころ来たの初めお」
 圌女は劙にはしゃいでいた。食事を枈たせるず、私は今たで秘めた想いを圌女ぞ䌝えた。圌女は嬉しそうに「私なんかで本圓にいいの」ず目に涙を滲たせながら答えおくれる。その日私は圌女を抱いた。今たでの人生の䞭で最も至犏の時だった。
 ずんずん拍子に話は進み、同棲をするようになる。䞡芪にはただ恥ずかしいから、話すのはもうちょっず埅っおほしいず圌女からお願いされた。ただ二十台前半なのだ。気持ちは分かる。
 同棲しお䞀ヶ月ほど経った時だった。仕事から垰るず圌女の姿が芋えない。どうしたのだろうず思い、携垯ぞ電話を掛けおみるず繋がらなかった。呌び出し音すら鳎らない。結局その日、圌女は垰っお来なかった。あずになっお郚屋の䞭に眮いおある通垳ず銀行印が盗たれ、党額匕き出されおいた事に気付く。しばしその堎で魂の抜けた亡骞のように呆然ずした。
 長期間に枡っお私は、これだけの為に隙されおいたのだ。
 情けなくお涙も出ない。生きおいる垌望さえなくなった。
 ほずんど文無しになった私は、䞡芪に頭を䞋げたた実家ぞ戻る事になる。
 
 運は誰にも平等だず誰かが蚀った。果たしお本圓にそうだろうかもしそれが本圓ならこれからの私の人生は、ずおも玠晎らしいものになる。四十䞃幎間もろくな幞せもなく生きおきたのだ。
 幌少期を振り返っおも、嫌な思い出ばかりである。
 クラスの絊食費が盗たれた時も、必ず私のせいにされた。同玚生からは理䞍尜な暎力を受け、先茩からは毎日のように恐喝される日々。芪の財垃から金を盗み、それを先茩に枡すだけだった。
 ある日芪の財垃を盗む時、父に芋぀かった。圓然の事ながら烈火の劂く怒り狂う父。玄関先にあったゎルフクラブで、足や背䞭を滅倚打ちにされた。
 私は泣きながら父ぞやめおくれず懇願する。そしお先茩たちの非道な行為も話した。臆病な父は、私に激怒しながら「己の問題は己で解決しろ」ず蚀うだけで、䜕の解決にもならない。
 家での珟金を盗めなくなった私は、先茩らに連れられお孊校垰りデパヌトぞ寄る。
「あそこの文房具を盗んで来いよ」
 そう呜什された。「できたせん」ず蚀うず、その堎で腹を殎られた。
「できたせんじゃねえんだよ。やれず蚀われたら玠盎に返事しろよ。おたえに遞択肢なんぞねえんだよ。分かったな」
「はい  」
 む゚スノヌでなくむ゚スしか遞択肢のない私。小刻みに震えながら、文房具をカバンに入れようずした時だった。
「君、ちょっず埅ちなさい」
 振り向くず、私の肩に手を眮きながら譊備員の人が冷たい芖線で芋おいた。
 ドゞな私はすぐ窃盗行為が芋぀かっおしたった蚳だ。
 デパヌトの事務所ぞ連れお行かれる途䞭、蟺りを芋たが、先茩たちの姿はどこにも芋えなかった。
「いいかい君のやった事は泥棒ず同じ行為なんだぞ。分かっおんのか」
 ネクタむを締めた偉そうな人が、ギョロリずした目で私を睚んでくる。私は芚えながら必死に「すみたせん」ず謝るしかなかった。
「譊察、孊校、芪 。この䞭からどれかに遞ばせおやる。どれがいい」
「な、䜕をですか」
「デパヌトの物を盗んだんだ。それの報告に決たっおいるだろ」
「か、勘匁しお䞋さい  」
「駄目だ。君ずうちだけの問題にしおも、絶察に懲りない。繰り返したた同じ事をやるだけだ。さ、早く遞びなさい。本圓なら問答無甚でこちらが通報しおいるずころなんだ」
「絶察にもう臎したせん」
「悪いが信甚できない。君ず䌚うのはこれが初めおなんだよ。それがこの窃盗行為でだろどう君の台詞を信甚しろず蚀うんだい」
 先茩たちにそそのかされたず蚀うず、あずで報埩が怖かった。
 私は䞉぀の䞭からどれかを遞ぶしかないのだ。家だけは嫌だった。父がどれほど怒り狂うだろうか想像するだけで怖かった。孊校でもあの陰湿な先生に䜕お蚀われるだろう。䞋手したら䞡芪にたでこの事を報告するかもしれない。だずすれば譊察しか思い圓たらなかった。
「け、譊察でお願いしたす  」
 あずで冷静になるず、自分の出した答えがいかに間違いだったかを思い知る。厳しい衚情で私を尋問する譊官。ひず通り調曞をたずめるず、譊官は躊躇わず孊校ぞ連絡した。孊校偎は私の窃盗を知るず、必然的に家ぞ連絡がいく。自分の出した答えは最悪の遞択だった蚳である。
 あたりにも悔しかったので、窃盗をさせた先茩たちの名前を孊校で蚀った。
 あずで先茩たちにはさらに激しい苛めを受けた。理䞍尜な苛めはその先茩たちが卒業するたで毎日のように続いた。
 
 本圓にろくな人生じゃない。
 䜕故先ほど私は、ガヌドレヌルにあのたた突っ蟌たなかったのだろう。あれでこの忌々しい人生を終わりにできたかもしれないずいうのに  。
 趣味ず蚀えば、むンタヌネットサヌフィンず読曞ぐらい。
 職も金も女も䜕もない幎だけ無駄にずった私。人からは忌み嫌われ、疎たれ、蔑たされる。いい加枛この人生にピリオドを打ちたい。
 意味もなく続くドラむブ。
 人は神が䜜ったず、ギリシア神話では曞いおある。私は車を停めた。埌郚座垭に眮きっ攟しだったギリシア神話の本を手に取る。車内の明かりを぀け、私はその本を適圓に開く。
『パンドラの箱』に぀いお曞かれたペヌゞをちょうど開けたようだ。
 人間を䜜り、れりスの教えを砎っおたで火を倩界から盗み、人類に䞎えたずいわれるプロメテりス。
 そんな兄の忠告を守れない愚匟゚ピメテりス。
 その奥さんずなったパンドラ  。
 パンドラの箱には様々な説があり、たず箱でなく壷だったずいう意芋もある。
 私はギリシア神話の䞭でも、この話がずおも奜きだった。
 れりスはプロメテりスに人間を粘土で䜜れず呜什。プロメテりスは、せっせず人間を䜜る。出来た人間の圢にれりスは呜を吹き蟌み、「知恵を䞎えおもいいが火だけは䞎えるな」ず再床呜什。
 それは火を䞎える事により、人間が神に近づくのをれりスが恐れたから  。
 獣のような毛皮のない人間は寒さに震えながら生掻。それを芋おいられなかったプロメテりスは、れりスの怒りを買うのを承知で、人間に火を䞎える事にした。
 圓然れりスの虐埅に遭うプロメテりス。
 そしおれりスは人類に灜いをもたらす為、「女性」ずいうものを神々に䜜れず呜じた。ヘパむストスが泥からパンドラの圢を䜜る。アフロディテは矎を䞎え、アテナは知恵をアポロンからは音楜ず治療の才胜を最埌にヘルメスが奜奇心ず嘘を教えた。
 こうしおパンドラずいう人類初の女性ができあがる。パンドラずは『すべおを䞎えられた』ずいう意味のようだ。
 そもそも女ずいう生き物は灜いにしかならない。これを芋るず、今たでの私の人生すべおに圓おはたる。私にずっお女ずは灜い以倖䜕者でもない。
『絶察に開けおはならない箱』をパンドラに持たせ、プロメテりスの愚匟゚ピメテりスの元ぞ  。
 以前、兄から「絶察にれりスからの莈り物は受け取るな」ず忠告を受けおいたのにも関わらず、愚匟゚ピメテりスはパンドラを気に入り、結婚たでしおしたう。
 兄プロメテりスの名前はプロ先にメテりス考える人の意味を持぀。逆に匟゚ピメテりスぱピ埌でメテりス考える人ず埌悔の意味を持぀。
「自身の胜力を他の兄匟に奪われた」ず幎䞭愚痎るぐらいの゚ピメテりスだから、仕方なかったのかもしれない。
 䜕ずなくだが、゚ピメテりスが自分ず被る。哀れずいう点では同じだ。いや矎しい女性パンドラを劻ずしおもらえたのだから、圌のほうが私なんかより数段䞊だな  。
 埌に、パンドラにそそのかされ゚ピメテりスは、『開けおはならない箱』をパンドラず䞀緒に開けおしたう。
 箱からは灜いが攟たれ、最埌の残ったものは垌望だず蚀うが、未来をすべお分かっおしたう予兆だずいう説もある。
 こんな真倜䞭に䞀人で、ドラむブ䞭に車内でギリシア神話の本を読む。
 はたから芋れば、おかしな行動にしか芋えないだろう。たあいい。どっちみち無職の私は他にする事など䜕もないのだから  。
 私は続きを読もうずペヌゞをめくった。
《あなたは今、絶望を感じおいたすね》
「ん」
 思わず声をあげおしたう。ペヌゞをめくるず、今たでの文䜓ずはたったく違う文字が曞いおあった。
《こんな深倜の時間垯に䞀人寂しく他にする事がなくドラむブ。やがお車を停め、この本を手に取った。これも䜕かの定めでしょう》
「  。䜕だ、これは  」
 私が読んでいたのはギリシア神話の本じゃないのか本を閉じ、衚玙を確認する。うん、ギリシア神話の本だ。今曞いおあったのは䞀䜓、䜕だったのだろう  。
 先ほどの劙な文章が曞いおあるずころを広げおみるが、『トロむの朚銬』に぀いお曞かれおいるだけだった。おかしい。『パンドラの箱』の話を読んで自然にペヌゞをめくるず、あの奇劙な文章が曞いおあったはずなのに、どのペヌゞを芋おも䜕もない。
 きっず疲れおいるんだ  。
 薄気味悪さを感じた私は、家に垰る事にした。
 
 玄関先でそっず靎を脱ぐ私の前に、母がやっおくる。
「あんたさ、働いおいないのにどこ行っおんだい。ガ゜リン代だっおどんどん倀䞊がっおいるっおいうのに、䜕を考えおいるんだ」
「わ、分かっおいるけどさ。でもたたには気分転換しようず思っお  」
「おたえは気分転換なんお、偉そうに蚀える身分か」
「  」
 私は母のこういう蚀い方が昔から倧嫌いだった。
 父が亡くなっおからも、日課のように倕方になるずプヌルぞ通う母。それたで家に籠もっおいお誰ずも話をしなかったのが、家の䞭でも急に話すようになった。
 二十台の頃、私の同玚生がプロレスのプロテストに合栌しお祝賀䌚ぞ招かれた事がある。その同玚生ず特別芪しい間柄ではなかったが、そのような堎に呌んでくれお、それが玠盎に嬉しかった。心の底から圌に「おめでずう。頑匵っおね」ず蚀えた。家に垰り、その事を興奮しながら母に話すず、「私のプヌルの知り合いはむンタヌハむに出おいる」ず蚳の分からない事を蚀うので、「あのさ、圌はプロになるんだよ」ず蚀った。するず母は、「むンタヌハむに出たほうがすごい事だ」ず䜕の関心も瀺しおくれなかった。
 先日の父の告別匏のあずも酷かった。久しぶりに集たった芪戚䞀同の前で、私が酒を飲もうずしたら、「おたえは無職なのに酒など飲める立堎か」ず眵倒しおきたのだ。
 勝手に自分の分の料理を䜜る私に、「勝手に冷蔵庫のものを䜿うな。このゎキブリが」ず眵られた事もある。
 仮にも自分で腹を痛め生んだ子じゃないか  。
 私は䞀別しただけで、黙っお自分の郚屋ぞ戻った。自分で自分の䟡倀を萜ずしおいる事にすら気付かない母。哀れに思うず同時に憎悪も募っおいる。
 むラむラした時私はパ゜コンを起動し、ワヌドを立ち䞊げる。『絶望』ずいう名の題名で文章を曞いおいる。これは誰にも芋せる぀もりのない自分の醜い思いを綎ったもの。
 ここだけは私だけの䞖界。䜕を曞こうず自由な空間なのだ。
 今たで曞き溜めた文章をざっず読んでみる。
 醜い。あたりにも卑劣な文字の矅列。しかしこれは私自身が抱えたストレスであり、衚に出さない怒りなのだ。
 この行為は時ずしお、自己の感情を抑える方法ずしおはかなり適切である。これをしおいなければ、私は䜕人も人を殺しおいたかもしれない。曞く事で自分の怒りの原点が䜕によっお匕き起こされるものなのか。私はそれに察し、どう怒っおいるのか。どうしたいのか。すべお正盎に曞き綎るのだ。
『絶望』の䞭に、䜕床『殺す』ずいう文字が曞かれおいるのだろうか。もし私が䜕か眪を犯し、このパ゜コンを調べられたら、粟神異垞者だず䞀発で刀断されおしたうんじゃないか。そのぐらいえげ぀ない内容が曞かれおいる。
 今たた私は『絶望』に醜い文章を重ねるのだ。
《今日家に垰るず、たた鬌のような母がムカ぀く事を蚀っおきた。ドラむブできる身分かだずふざけやがっお。奜きで働いおいない蚳じゃない。毎日のようにハロヌワヌクぞ通い、働き口を探しおいる。だけど芋぀からないだけなんだ。そこたで蚀うなら、就職先を䞖話ぐらいしおみろ。次にたた䌌たような事を蚀ったら、私はどうなるか分からない。感情の趣くたた刺し殺せたら、どんなに気持ちいいだろう。今の日本の法埋は間違っおいる。私がすべおの法埋を決める事ができたら、ここたでおかしい䞖の䞭になっおいない。䜕故誰も私を認めようずしないそんなに忌み嫌われる存圚なのだろうか。䜕故ここたで隙され、い぀も損ばかりしなければならないみんな、自分の事を倧事にし過ぎなのだ。少しぐらい他人を思いやる心を持お。そうすれば戊争なんおなくなるし、もっず笑っお楜しく生きる事ができるはずだ。》
 ここたで曞いお小䌑止する。タバコを取ろうずしお、䞀本も残っおいない事に気付く。金がないからタバコすら吞えやしない。灰皿に溜たっおいる吞殻のほずんどは、フィルタヌの先たで吞っおしたい吞える郚分がなかった。私はゎミ箱を持り、ただ少しでも吞えそうなシケモクを探す。
 四十䞃歳にもなっおこんな事をしおいるなんお惚めなものだ。
 さお続きを曞こう。ただ私の苛立ちは玍たっおいない。
「ん 、䜕だこれは  」
 パ゜コンのモニタヌを芋た時だった。思わず画面を芋お声を出しおしたう。
《みんな、自分の事を倧事にし過ぎなのだ。少しぐらい他人を思いやる心を持お。そうすれば戊争なんおなくなるし、もっず笑っお楜しく生きる事ができるはずだ。
□■◇◆
たたここでもお䌚いしたしたね。先ほどは急に本を閉じるから、ビックリしたしたよ。》
 ガタンッ。
 私はビックリしお怅子から転げ萜ちた。先ほどギリシア神話に曞かれおいた奇劙な文章の続きだった。い぀、こんなの曞かれたずいうのだ  。
 
 非珟実的な目の前の光景。薄気味悪くかったが、私はモニタヌをゞッず凝芖しおいる。
《今あなたはこの文章を䞍思議に感じ、怖さを感じながらもゞッず凝芖しおいるでしょう。そんな恐れる必芁などたるでありたせん。䜕故なら私はあなたの味方なのですから。でもいきなりそう蚀っおも信甚などされたせんよねそこであなたにちょっずした行動をしおもらいたす。これはほんの些现なる私からの気持ちです。ではいいですか今あなたの目の前にあるテヌブルの匕き出しを開けお䞋さい。䞭にハサミがありたすよね黒いハサミです。それを窓の倖にただ攟り投げお䞋さい。そしおすぐ倖ぞ出おハサミを拟いに行っお䞋さい。あなたの望むもの、倧したものじゃありたせんが、それが手に入りたす。》
 ここたで読むず、急に郚屋の電話やパ゜コンの電源が消えた。停電か
「いい加枛にしろ早く寝ろ」
 䞋から母の怒鳎り声が聞こえる。嫌がらせでブレヌカヌを萜ずしたのだ。せっかくあそこたで文章を曞いおいたずいうのに  。
 母の嫌がらせずしか思えない行為は䞀床や二床だけじゃない。はらわたが煮えくり返っおいた。でも䞋手に蚀い返すず、食事にすらあり぀けない珟実。ゆっくり深呌吞をしお粟神を萜ち着かせる。
 たあワヌドは䞍意に電源が萜ちおも修埩機胜があるから、デヌタ自䜓消えおいないかもしれない。あずで調べおみればいいか。
 そういえばさっき『絶望』の䞭に曞いおあった奇劙な文章の䞭で、倉な事が曞いおあったな。ハサミをテヌブルから取り、それを倖に投げろだずか  。
 もし倖で誰か通行人が歩いおいたら、どうするんだ䞊からハサミが萜ちおきお頭に刺さるケヌスだっおある。
 しかし冒頭で私の味方だず曞いおあった。読み出すずずたらなくなるような䞍思議な文章だった。
 時蚈を芋る。倜䞭の䞉時半。こんな時間に人など誰も通る蚳ないか。
 ブレヌカヌを萜ずされ䜕もやる事がなかった私は、退屈しのぎにテヌブルから黒いハサミを探し、窓を開けお倖ぞ攟り投げた。これで倖ぞハサミを取りに行けばいいのか。
「うわっ」
 倖から短い男の悲鳎が聞こえる。
「ゲッ」
 今投げたハサミが、たたたた近くを歩いおいた通行人のそばにでも萜ちたずいうのかそんな銬鹿な  。
 ちゃんず倖を確認しおから投げるべきだった。
 私は慌おお郚屋から出お、倖ぞ向かった。
 
 背埌から母の怒鳎り声が聞こえたが、そんな事に構わず私は倖ぞ出た。
「  」
 家のブロック塀のそばに、私が二階から投げた黒いハサミが萜ちおあった。すぐそばには私が愛甚しお吞っおいるマむルドセブンのタバコも萜ちおいる。
 蟺りを芋回したが、こんな倜䞭なので誰䞀人歩いおいない。先ほど声をあげた男性は、どこぞ行ったのか姿圢も芋えない。私はハサミずタバコを拟うず郚屋ぞ戻った。
 あの奇劙な文章には、倧したものじゃないけど私の望むものが手に入るず曞いおあった。それがこのタバコだずいうのだろうか確かにタバコを吞いたいず思っおはいたが  。
 背筋にゟゟッずした䜕かを感じる。䞀䜓䜕なんだ、あの文章は
 母が寝静たるのを埅ち、そっず䞋ぞ降りる。ブレヌカヌを䞊げるず忍び足で郚屋ぞ戻った。パ゜コンを再び起動する。ワヌドファむル『絶望』を立ち䞊げた。自分がこれたで打った文章より、先ほどの奇劙な文章を探す私。䞀番䞋の文章たで持っおいく。
「あ、あったあった」
《今あなたの目の前にあるテヌブルの匕き出しを開けお䞋さい。䞭にハサミがありたすよね黒いハサミです。それを窓の倖にただ攟り投げお䞋さい。そしおすぐ倖ぞ出おハサミを拟いに行っお䞋さい。あなたの望むもの、倧したものじゃありたせんが、それが手に入りたす。》
 うん、良かった。消されおなかったぞ。私は奇劙な文章の続きを読んだ。
《どうやら指瀺通り動き、うたくタバコを手に入れる事ができたようですね。少しは私の事を信甚しおくれたでしょうかこれからも私の蚀う事は信甚しお䞋さい。あなたにずっお幞せが蚪れたす。》
「  」
 どこかで私の行動を逐䞀芋匵っおいるのかそれにしおはおかしい。これがメヌルなら分かる。しかしあくたでも私が䜜った『絶望』ずいうワヌドファむルの䞭に、䜕故こんな曞き蟌みができるのだ信甚の䜕もこんな埗たいの知れない盞手をどうやっお信甚しろず蚀うのだ。
 あのギリシア神話の本で『パンドラの箱』のあずに曞いおあった文章もそうだ。ありえないだろう  。
 いくら考えおも混乱するばかりだった。この非珟実的な状況をどう捉えればいいのか。いや、すでに私はこの奇劙な文章の通り䞀床実践しおいる。リアルな珟実は私の手元にあるタバコだ。ずりあえず続きを読んでみよう。
《今あなたは非垞に混乱し疲れおいたすね。無理は犁物です。人生長いのですから。私の蚀う通りにしおいれば。ゆっくり今日は䌑んで䞋さい。それだけであなたは真の自由が手に入りたす。それではおやすみなさい。》
 䞀䜓この奇劙な文章を曞いた䞻は、こちらの行動をどこで芋おいるのだ宀内を芋回し、開いおいる窓を閉める。薄気味悪い。ひょっずしおこの郚屋に隠しカメラでもあるずいうのかいや、そこたでしお私を監芖する必芁性など、どこにある四十䞃歳無職のこんな男に  。
 もう䞀床文章を読み盎しおみた。
「  」
 枩和な曞き方の文章の䞭に䞀぀だけ脅しずも取れるものがある。「人生長いのですから。私の蚀う通りにしおいれば」これはどういう意味だただこの文章の䞻は私に䜕かメッセヌゞを送っおくるのかこれから䌑たないず䜕が起きるのだろう。
 䜕床も自殺を考えおきた私だ。䜕が起こっおも怖くはない。そんな事はないか  。
 先ほどのドラむブでガヌドレヌルにぶ぀かりそうになった時、私は叫び声をあげ、呜が助かった事にホッずしおいた。こんな惚めで卑屈な暮らしをしながらも、ただ生に執着しおいるのだ。
 生きおいればい぀かはいい事があるなんお、ただ思っおいるのか。逆を考えよう。死んだらどうなる少なくずもこの惚めさからは解攟される。口うるさい小蚀をぶ぀けおくる母も気にならなくなるはずだ。
 そうだ。䜕の為に私は『絶望』を曞いおいる。今のこの気持ちを正盎に曞けばいい。
「うっ  」
 い぀の間にか奇劙な文章の続きが曞かれおいた。
《いたいち信甚されおいないみたいですね。気持ちは分かりたすが、今はずりあえず寝お䞋さい。それだけで真の自由が手に入りたすから。》
 こい぀は、どこで私を芋おいるんだ私はパ゜コンの電源を萜ずし、䞇幎床ぞ暪になる。垃団を頭から被り、䜓を䞞めながらガクガク震えた。
 
 い぀の間にか寝おいたようだ。時蚈を芋るずずっくに昌を過ぎおいた。い぀もなら母が怒鳎り蟌んでくるはずだが  。
 芏則正しい生掻を母は求めた。毎日カレヌずはいえ、ちゃんず私に食事を甚意しおくれる。それに関しおだけは感謝を忘れおはいけない。昌飯の時間は過ぎおいるが、今からでも食べに行こう。
 郚屋を出お階段を降りる。母は出掛けおいるのか気配を感じない。い぀もなら今でテレビをボヌっず芋おいるのにな。
 䞀階の構造を簡単に説明するず、玄関の右手に階段があり、巊手に居間。奥ぞ行き正面にトむレ。巊偎がキッチン、右偎は母の寝宀ずなっおいた。二階には私の郚屋ず、物眮、颚呂トむレがある。
 玄関前に行くず母の靎は眮いおあった。別に出掛けた蚳じゃないのか。そっず居間に入る。「い぀たであんたは寝おんだい」ず私の姿を芋た母が怒鳎っおくるのを芚悟で  。
「あれ」
 食卓にはカレヌラむスがい぀ものように眮いおあるが、母の姿が芋えない。どこぞ行ったんだろう
「母さん」
 呌んでみるが返事はない。颚呂かないやこんな昌間から入らないだろう。ドアを開けキッチンぞ向かうず母の姿が芋えた。
「ごめんよ、遅くたで寝ちゃっおお」
 私が声を掛けおも、母は䞋をう぀むいたたた返事をしおくれない。
「あれ、どうかした」
 母の様子が倉だ。壁にもたれ掛ったたた埮塵も動こうずしない。
「母さん、どうしたのう  」
 近くたで行く。私は蚀葉を倱った。
 壁にもたれるようにしおいる母の足元は、宙に浮いおいた。銖には玐が巻いおある。母は私の目の前で銖を吊っお死んでいたのだ  。
《今はずりあえず寝お䞋さい。それだけで真の自由が手に入りたすから。》
 昚倜の奇劙な文章の䞀郚を思い出す。
 事あるごずに嫌味や小蚀を私にぶ぀けおきた母。確かに疎たしいず感じおいた。死んでしたえず念じた事だっおある。だけど自殺しろだなんお私は䞀床も思った事がない  。
 私はしばらく母をゞッず眺めおいた。憎く思った事もある。しかし幌き頃から私を育おおきおくれた人なのだ。自然ず涙が頬を䌝う。兄匟のいない私はこれで倩倖孀独になった。職がないなどず蚀いながら、家に甘えおいられる状況ではなくなったのだ。
 これは自殺じゃないのでは  。
 最近おかしくなった母だが、銖を吊っおこんな堎所で死ぬずいう事が䞍自然に感じた。
 私は二階の自分の郚屋ぞ向かい、パ゜コンを起動する。
『絶望』をダブルクリックしお開いた。たたあの奇劙な文章が新しく䜕か曞いおあるような気がしたのだ。
《あなたは真の自由を手に入れたようですね。》
 思った通りだ。続きが曞いおある。
《これからがあなたの本圓の人生の始たりです。たずあなたの母芪の死䜓は、そのたた攟眮しお䞋さい。䜕も問題ありたせん。それから䞀階の居間にあるタンスの䞊から二番目の匕き出しを開け、千円札䞀枚を取っお䞋さい。その千円で駅前の本屋の暪にある宝くじ売堎でスクラッチくじを五枚買っお䞋さい。時間は䞉時ピッタリにです。》
 䞉時 。今が二時半だから、そろそろ家を出ないず間に合わない。埅およ、私は銖を吊った母をあのたたにしお、スクラッチくじを買いに行こうずしおいるのかこの文章の通り動けば、倚分くじも圓たるだろう。しかしこれで本圓にいいのか  。
 ここたで先を芋透かす文章に逆らうのが怖くなっおきた。もう考える時間がない。私は急いで二番目のタンスを開ける。千円札がそのたた五枚入っおいた。私はすべおの札を掎むが慌おお四枚の札を戻す。あの文章には千円札䞀枚ず曞いおあった。忠実に守らなければいけない気がする。私はすぐ家を出た。
 
 駅ぞ向かう最䞭、母の銖を吊った姿を思い出し、䜕故自殺などをしたのか考えおいた。あの劙な文章を䞻。ひょっずしおその䞻が母を  。
 いや、どうやっお母をあのように殺せたず蚀うのだギリシア神話の本も、パ゜コンの『絶望』に曞かれた文章も、どんな方法であれをやったすべお先たで芋透かすかのような埗たいの知れない気味悪さ。
 冷静に分析しよう。
 あの文章に曞いおある事は、今たですべお圓たっおいる。しかし䜕かが起きるに぀れお、事前に条件を出しおいた。
 䞀回目はハサミを倖に向かっお投げるずいうもの。タバコが手に入った。
 二回目は今すぐ寝ろずいうもの。自由が手に入るず曞いおあり、母が死んでいた。
 䞉回目は宝くじを買いに行けずいうもの。堎所や時間、買う枚数たでご䞁寧に指摘しおいる。結果が出るのはこれから。今たでの結果を元に考えれば、倧金が圓たる。それ以倖考えられない。
 もし私が指瀺通り動かなかったら
「  」
 先ほどの母のようになる可胜性もある  。
 思わず䜓が震えた。矛盟しおいる。自殺願望は垞にあるくせに、私は死ずいうものに怖がっおいた。今たでの自殺願望は、単なるその時の萜ち蟌みの深さによっお、そう思いたがっただけなのかもしれない。本圓に死ぬ気なら私は今、こうしお生きおいないだろう。しょせん䞀皮の珟実逃避なのだ。嫌な珟実から目を背けたかっただけ  。
 自殺には勇気がいる。私は母のように銖を吊っお自殺する事など、絶察にできない。いくらでも死に方を遞べる状況でありながら、難癖を぀け、ただ生にしがみ぀いおいる。
 自己分析をしお今、初めお分かった。私はただ生きおいたい  。
 この先いい事が起きるかどうかの可胜性なんお分からない。それでも生きおいれば䜕かしらの掻路を芋出せるのではないかず思っおいる。䜕の胜力もない私。唯䞀の歊噚だった継続しお働くずいう事さえ、䌚瀟が぀ぶれ、駄目になっおしたった。無駄に幎だけ重ね、四十䞃幎経぀。それなのにただ垌望を持ずうず蚀うのか。
 いや違う。垌望ずかそんなんじゃない。あの奇劙の文章がこれからも曞かれおいくのなら、玠晎らしい未来が埅っおいるかもしれないのだ。
 私は曞いおある通りに埓い、それに察するご耒矎をもらうだけ。珟に今、宝くじを買いに向かっおいる。癟䞇円ぐらい圓たれば嬉しい。そうすれば、しばらく生掻に困らない。
 埅およ。どこに圓たるなんお保障があるそれにただ、ここ二日間だけの事なのだ。あの文章がずっず続くなんお、私の郜合のいい考えなだけである。
 じゃあどうすればいい
 考えるのはやめよう。ずっずこうしお考えおきたが、それでこの珟実だ。脳みそのない人間が色々考えおも無駄である。
 駅前の宝くじ売堎が芋えおきた。
 二時五十䞃分  。
 今は䞉時ピッタリにスクラッチくじを五枚だけ買う。それだけを考えよう。
 
 じっず腕時蚈を芋぀める。時間が経぀のが遅い。䞀秒䞀秒がずおも長く感じた。
 あず二分  。
 䞉時ピッタリに買わなければいけない。それたでに䜕名かの客が、くじを買うのだろう。䞀人の客が売堎に来る。スクラッチくじを二袋買った。
 あず䞀分半  。
 カップルが幞せそうな衚情を浮かべながら、ナンバヌズの甚玙に蚘入をしおいる。スクラッチは買いそうもない。
 残り䞉十秒  。
 そろそろ行くか。その時五人組の男が売堎に䞊び出した。ひょっずしおこい぀ら、党員買う぀もりなのか
 残り二十五秒、二十秒、十五秒  。
 これじゃ私が䞉時ピッタリに買えないじゃないか。慌おお私は五人組をどかし、「すみたせんおばさん、スクラッチくじ五枚䞋さい」ず千円札を出しおいた。
「ちょっず、ちゃんず䞊んでおくれよ」
 売堎のおばさんが面倒臭そうに蚀う。いや、今買えなければ䜕の意味もない。
「お願いしたす。五枚だけでいいんです早く」
 私の迫力に根負けしたのか、おばさんはブツブツ蚀いながらもスクラッチくじを出しおくれた。すぐポケットにしたいその堎を離れようずするず、背埌から肩を掎たれる。
「おい、おっさん。䜕暪入りしおんだよ」
「キモむおっさんだな」
 五人組が私を囲み睚んでいた。ただ二十歳ぐらいの若い集団だ。
「す、すみたせん  」
「ふざけんじゃねえよ、おっさん」
 面倒は避けたかった。喧嘩もたずもにした事ない私。謝る事で避けられるのならいくらでも謝ればいい。
「本圓にすみたせんでした」
「ごめんで枈んだら譊察いらねえっお」
「そうだ。このおっさんの買ったスクラッチ、もらっちゃおうぜ」
「五枚買っおたから、ちょうど俺たち䞀枚ず぀に分けられるしな」
 たずい。このくじだけは死守しないず  。
「か、勘匁しお䞋さいよ」
「おたえが暪入りするから、こういう目に遭うんだろ」
 目䞊に察する口の利き方も知らない若者たち。きっず䞀人では䜕もできないクズ連䞭だ。
「ちょっず俺らに付き合っおもらうぜ、おっさん」
 私は圌らに囲たれたたた、ひず気のない堎所ぞず移動させられた。四十䞃歳になっお、ふた呚り以䞊幎䞋の連䞭に絡たれるなんお、私は぀いおない男だ。
「おい、さっきのくじ出せよ」
「お願いしたす。勘匁しお䞋さい」
「勘匁できねえっお。安心しなよ。この堎でくじを削っお倖れだったら、くじはちゃんず返すからよ」
「そ、そんなムチャクチャな  」
「先に無茶しおきたのは、あんただろうが違うかよ、おっさん」
「グッ  」
 メガネを掛けた䞀芋真面目そうな男が、私の腹にパンチをしおくる。働いおいる時は猫をかぶり、プラむベヌトで仲間ず集たった時だけはやりたい攟題。きっずこの腐った䞖の䞭で、うたく䞖枡りをしおいる腐った人間なんだろう。
 私は走っお逃げた。しかし若さには勝おない。すぐに捕たった。
「やめなさい、あなたたち」
 その時女性の声が聞こえた。䞀斉に声の䞻を振り返るず、もの凄い矎人な女性が立ち、こちらを睚み぀けおいる。
「姉ちゃんには関係ねえよ。向こう行っおな」
「倚勢に無勢で男ずしお恥ずかしいず思わないのその人から手を攟しなさい。じゃないず倧声をあげお人を呌ぶわ」
「け、うっせえ女だな」
「どっちらけじゃん。こんなおっさん攟っおおいお行こうぜ」
「そうだな」
 五人組はふお腐れたように去っおいく。
「倧䞈倫」
 私の目の前に差し出された癜い奇麗な手。自然ずその手に捕たり立ち䞊がった。目の前の女性を芋る。こんな矎人が䞖の䞭にいるのだろうか。パッチリず開いた倧きな目。端正に敎った錻。魅力的な赀い唇。スタむルも抜矀だ。しばらく芋ずれおしたう。
「ねえ、お瀌ぐらい蚀っおよ」
「あ、ありがずうございたす」
「ちょっずは私に感謝しおる」
「ええ、もちろん」
「じゃあお瀌に、そこでアむスコヌヒヌ奢っおちょうだいよ」
 こんな矎人ず私が喫茶店にこれも䜕かの瞁だ。願っおもない。
「ぜひ、奢らせお䞋さい」
 私はお瀌も兌ね、圌女の垌望通り近くの喫茶店ぞず向かった。
 
 こんな奇麗な女性ず私は今、䞀緒に向かい合っお話をしおいる。これっお倢じゃないよな珟実だよな
 圌女の名前は、本庄千倏。幎は二十五歳。千倏は䞀方的に自分の事を色々ず話しおくれた。話を聞いおいる内に、どんどん圌女ぞ惹かれる私がいる。䞍釣合いなのは承知しおいた。しかしどうにもこの気持ちがずたらない。
 無邪気に話す千倏。私は黙っお笑顔のたた話を聞いた。
 こんな女性ずセックスができるなら、死んでも構わない  。
 いや私がこんな事を考えおも、無駄なのは分かっおいる。あくたでも正矩感から私を助けおくれただけなのだ。私に奜意を持っおいる蚳ではない。
 それにしおも䜕故圌女は、こんな私に自分の事を色々ず話しおくれるのだろう。お瀌でアむスコヌヒヌを奢ったが、もうここに䞀時間以䞊もいる。
「あ  」
 自分の愚かさに気付く。今、私は䞀円も持っおいないのだ。タバコを買う銭もなく、あの文章の通り、匕き出しから千円しか持ち出さなかった。その千円はスクラッチを買っおしたった。それなのに喫茶店に入り、ここぞ座っおいる。どうしよう  。
 ずりあえずこのスクラッチを削っおみよう。千円でも圓たれば、ここのコヌヒヌ代ぐらい䜕ずかなる。
「あら、スクラッチくじ買ったの北斗䞃星スクラッチだっお。面癜そうね」
「え、ええ。滅倚に買わないんですけど、䜕か今日は買わなきゃいけないなあっお気がしたしおね」
 チクショり。そういえば、くじを削るコむンすら持っおいない。圌女の目の前なのに、指で擊る蚳にもいかないだろう。
「ねえ、ちょっずした取匕しない」
 千倏が意地悪そうな衚情で口を開く。そんな仕草を芋るだけで、私は非垞に興奮しおいた。
「取匕」
「うん、取匕。あなた、私の事どう思う」
「え、どうっお  」
「女ずしおの魅力なんおたるで感じない」
「い、いや、そんな事はないです 。こんな奇麗な女性が、私ずこんな颚に話しおくれるなんお思っおもみなかったぐらいですから」
 舌先をちょっずだけ出し、䞊唇を軜く舐める千倏。もしかしおこの女、私を誘っおいるずでも蚀うのかさすがにそれはないだろう  。
「じゃあ私を抱いおみたい」
「え  」
 心臓の音が聞こえるぐらい倧きく高鳎っおいた。この女、どういう぀もりで私にこんな台詞を蚀っおいるのだ
「あなたさえ良ければ抱いおもいいのよ」
「ほ、本圓にですか」
「その代わり、そのスクラッチくじ。党郚私にちょうだい」
「え、このくじを」
「うん」
 ニッコリ埮笑む千倏を芋お、私は迷わずくじを枡した。この女をこの手で抱ける  。
「取匕成立だず思っおいいのね」
「は、はい」
 本圓にこれでこの女を抱けるのか私の頭は性欲でいっぱいになっおいた。
 
 私の目の前で、千倏はスクラッチくじを削り始めた。䞃぀のワクがあり、党郚に星が出れば癟䞇円。六぀で十䞇円。五぀で䞀䞇円。四぀で五癟円。䞉぀で癟円の配圓。星が二぀以䞋なら倖れだ。
 䞀枚目、倖れ。星二぀。
 二枚目、倖れ。これも星二぀。
 䞉枚目、倖れ。たた星二぀。あの文章がいくら先の展開を読むずいっおも、さすがにスクラッチで癟䞇を圓おるなんお無理だろう。私の考え過ぎだったのかもしれない。
 四枚目、䞀぀目のワクに星が出る。二぀目も星。残り五぀。䞉぀目も星。ずりあえず癟円。四぀目もたた星が出た。これで千円。残り䞉぀。
「ふふふ、あず䞉぀。䜕かワクワクしおこない」
 そんなの圓たる蚳がない。早く削り終え、私にその䜓を抱かせろ。
 五぀目、たた星。これで䞀䞇円か  。
「あず二぀。気合いで党郚出しちゃうからね」
 六぀目も星。これで十䞇 。私はスクラッチくじを圌女ぞ枡したのを埌悔した。
「ラスト、えいっ」
 目の前の光景が信じられなかった。星が䞃぀ 。癟䞇
「あ、すっごヌいほんずに癟䞇圓たっちゃった」
 店内の客が千倏の叫び声に反応し、振り向く。
「  」
 癟䞇円ず匕き換えに、私はすべおを倱ったようなものだ。䜕故冷静に考えられなかったのだろう。この金があれば、しばらく生掻の心配はいらないずいうのに  。
 私はしばし声を出せなかった。いくらこの女を抱けるず蚀っおも、䜕の保障もないのだ。
 仮に千倏が玄束をちゃんず守り、私に抱かれるず想定しおも、ホテルぞ連れお行く金もない。それにここのコヌヒヌ代はどうする玠寒貧で冎えない無職の䞭幎男。向こうから持ち出した取匕ずはいえ、私に抱かれるずいう想像すらできない。
「もう、そんな顔しないでよ。䜕か私が悪者になったみたいじゃない」
 千倏がボヌっずしおいた私に声を掛けおくる。今さら返しおくれず蚀っおも通じないだろう。
「い、いえ  」
「じゃあ、残りの䞀枚。これはあなたに返しおあげる。これを削っお気合いで圓おお芋せおよ、ね」
 気合いでくじが圓たるのなら、誰だっお苊劎などしない。それにこんないい女の前で、指で削るのもみっずもないものだ。こんな私でも、チンケなプラむドがある事に驚く。どっちみち喫茶店を出る時、圌女に金がない事を䌝えるしかないのに  。
「もうじゃあこうしようよ。この五枚目も私が削るけどさ。四枚目のは半分こにしよう」
「え」
 この女はせっかく手に入れた癟䞇の内、五十䞇を私に返すず蚀うのか
「あずで私が換金しおくるから、ずりあえず今五十䞇枡すわ。それなら文句ないでしょ」
「でも、本圓にこのくじで癟䞇円になるんですかね  」
「よく芋およ。この北斗䞃星スクラッチは、䞃぀のワクを削っお星が党郚出れば、癟䞇円っお曞いおあるでしょ党郚、赀い星が出おいるじゃない」
「た、たあそうですけど  」
 千倏はセカンドバックから十䞇円の束を五぀取り出し、無造䜜にテヌブルの䞊ぞ眮く。この女、い぀もこんな倧金を持ち歩いおいるのか
「これ、あなたの取り分ね。早くしたっおよ。みんな、こっちを芋おいるじゃない」
「あ、はあ」
 私は五十䞇の札束を鷲掎み、ポケットぞしたう。あずで返しおず蚀われおも絶察に返すものか。
「心配しないで。最初に蚀った取匕はちゃんず守るから」
「え」
「ずりあえずあなたの家ぞ行きたしょ。今、最埌のくじを削るから、ちょっずだけ埅っおおね」
 これからこの女がうちたで来お、私に抱かれる  。
 想像しただけで鳥肌が立぀。どんなポヌズをさせおみるか。いや、それよりもこの女の党裞が早く芋たい。䞋半身がギンギンにいきり立っおいた。
「あ、信じられない。たた星䞃぀だよ」
「え」
「二回連続で癟䞇円圓たったの」
「  」
 もしこれが倢なら醒めないでほしい。
 
 家たで埒歩で玄二十分。超の぀く矎人な女、千倏を暪に連れながら私は歩いおいた。通り過ぎる人々の芖線が刺さる。䞍釣合いなカップルだず蚀いたいのだろうか。䜕ずでも思うがいい。これから私は、この女ずセックスをするのだ。誰もそんな事思わないだろう。
 しかも臚終収入で五十䞇円もの金が、ポケットに入っおいるのだ。それにしおも千倏の匷運ずでも蚀うのか。二回も癟䞇円を圓おるなんお信じられない。いや私が元々賌入したくじなのだから、運がいいのは自分なのだ。しかも千倏をこれから抱く。今たで生きおきお、こんな運がいい事などなかった。
 家に着くなり玄関先で抌し倒しおやるか。それずも手足を瞛り、身動きさせなくしおから、じっくり匄ぶのもいい。こんなゎヌゞャスな女が抱けるなんお、ありえない事だ。
 母もこんな女を連れお返ったら、ビックリするのでは  。
「  」
 違う。母は銖を吊っお死んだたたの状態なのだ。千倏ずの出䌚い。スクラッチが圓たるずいう非珟実的な事で、すっかり忘れおいた。あれを圌女に芋られたらたずい。セックスどころの隒ぎじゃない。
 どうする金はたっぷりあるのだ。ホテルぞ向かえばいいか  。
「あ、あのですね」
「ん、どうしたの」
「家、散らかっおいるので、ホテルかどこかにしたせん」
「別にあなたの家でいいわよ。散らかっおいるのなんお、圓たり前じゃない。芋た感じ、奥さんがいるっお感じでもなさそうだし。独身なんでしょ」
「え、䜕でそれを」
「䜕ずなくだけど、そうなんじゃないかなっお思っただけ。もうちょっずであなたの家に着くんでしょ」
「た、たあそうですけど 。でもせっかくですから、ホテルにしたしょうよ」
「嫌。私はあなたの家に行っおみたいの。私が家に行くず嫌」
 普段ならい぀だっおだ。しかし今だけはたずい。でもこの機䌚を倱うず、絶察にこのクラスの女など生涯抱く事はないだろう。その機䌚をみすみす逃すのは嫌だった。考えろ。䞍謹慎かもしれないが、母の死䜓を䜕ずかするずいう行為より、今はこの女を猛烈に抱きたかった。
「じゃ、じゃあ家でいいです  」
 ずりあえず返事をしずく。母が銖を吊っおいるのがキッチン。玄関からは芋える䜍眮ではない。千倏にはすぐ階段を䞊がらせ私の郚屋ぞ連れ蟌めばいいだけだ。それなら自然だろう。でもこんな事になるなら䞇幎床でなく、垃団ぐらい干しおおけばよかった。
 そうこうしおいる内に、家ぞ到着する。私は蟺りを芋回し近所の人間がいないのを確認するず、千倏を䞭ぞ招き入れた。
「ん、倉な匂いしない」
 確かに劙な匂いが挂っおいる。銖吊りをするず、すべおの汚物が垂れ流し状態になるず聞いた事があった。ひょっしたら母が、糞尿などの老廃物を垂れ流しおいるのかもしれないな。だずすれば、䜙蚈ここにいおはいけない。早く二階ぞ䞊げないず  。
「近くで䞋氎の工事か䜕かしおいるんだず思いたすよ。さ、早く䞊ぞ行きたしょう」
「あなた、家族ず同居しおいるの」
「え、ええ 。母ず二人暮らしなんです」
「ふヌん」
「さ、早く靎を脱いで二階ぞ」
 私は千倏を諭し、階段を䞊がらせた。
 
 六畳の自分の郚屋ぞ千倏を入れるず、私はドアを閉める。圌女は立ったたた、宀内をキョロキョロず芋回しおいた。別段気味悪そうな衚情をしおいる蚳ではなさそうだ。
 このたた䞀気に抌し倒し、服を匕ん剥きたい。しかし圌女から湧き出おいるオヌラは、䞊倧抵のものじゃなかった。性欲だけが頭の䞭でグルグル回っおいる。
「随分ず男臭い郚屋ね。私、ここであなたに抱かれちゃう蚳だ」
「ほ、本圓に僕なんかでいいんですか」
「だっお取匕成立したじゃない。この䜓を奜きにしおいいのよ」
 足の぀た先から頭たでじっくり舐め回すように芋ながら、私は生唟をゎクリず飲み蟌む。
「自分で脱いだほうがいいそれずもあなたが脱がしおく  」
 蚀葉など䜕もいらなかった。千倏の魅惑的な唇を自分の汚らしい口で芆い぀くす。埌頭郚に電気みたいな衝撃が走る。理性など䞀気に吹っ飛んだ。䜕おうっずりする感芚なのだろう。キスをしただけで、いっおしたいそうだ。
 千倏の小さな手が私の股間を服の䞊からたさぐる。その瞬間、私は射粟しおいた。
「あら、早いわね。もうこれでいいの」
 私の䞋半身は静たるどころか、より䞀局ギンギンにたぎっおいた。
 䞇幎床に千倏を抌し倒し、䞊着を䞡手で匕き裂く。あの五十䞇円があれば、こんな服ぐらいい぀だっお匁償できる。ブラりスのボタンずボタンの合間に手を入れ、それも匕き裂いた。癜い高玚そうなブラゞャヌが芋える。この奥に圌女の乳銖があるのか  。
 千倏の胞は反則的な倧きさだった。ブラゞャヌをも剥ぎ取り、䞊半身をあらわにさせる。
 圌女も興奮しおいるのかピンクの乳銖が立っおいた。私は固くなった乳銖に指を這わせる。「あっ」ず千倏が短い声をあげた。その瞬間、再び私は射粟しおいた。パンツの䞭は、私の粟液だらけだ。もうどうなっおもいい。この女の䜓を隅から隅たで芋おみたい。
 黒いスカヌトを巻くりあげる。黒のいやらしい網タむツ。その奥に癜のパンティが透けお芋えた。網タむツを脱がす䜙裕もなく、ビリビリに砎く。千倏のパンティには染みができおいる。圌女の愛液がパンティを濡らしおいるのかこんな私の乱暎な行為で感じおいるずいうのか
 たたそこで䞉回目の射粟をした。若い頃ならいざ知らず、四十䞃にもなっお䜕床いけば気が枈むのだ。それでもただ私の粟力は玍たりそうもない。
 私は千倏のパンティに錻を抌し付け、匂いを思う存分嗅ぐ。薄っすらず湿った郚分に舌を䌞ばし、ゆっくり這わせる。四床目の射粟。
 䜕床も興奮の絶頂が波のように抌し寄せ匕いおいく。
 この蟺りから自分がどう動いたか、あたり芚えおいない。数日間に枡り、千倏の䜓をずっず匄んだ。
 い぀の間にか䞀人で、私はこの郚屋で泥のようにぐっすりず寝おいた。千倏の姿は芋えない。
 今たでの事は倢それずも幻芚だったのか  。
 必死に千倏ずの性行為を思い出そうずした。私は圌女の䞭ぞ挿入したのかそれさえ分からない。すぐ射粟し、ドッず疲れを感じ、たわわに実った千倏の胞の䞊に䜓ごず倒れ蟌む。それの繰り返しだった。
 今、圌女はどこに
 䜕ずなく分かったのが、千倏ずはもう䌚えない気がした。
 おずぎの囜に迷い蟌んだような数日間だった。どのくらい私は圌女ず䞀緒にいたのかさえ、おがろげなのである。
 脱ぎ捚おたポケットに手を入れるず、あの五十䞇円が入ったたただ。この手に未だ残る千倏の䜓の感觊。これは倢じゃない。リアルな出来事だったのだ。
 日にちを確認しようずパ゜コンを起動させる。ただ起動には時間が掛かる。ボヌっずした頭をスッキリさせる為、顔を掗いに向かう。ちょっず䜓を動かすだけで、䜓が重く感じた。
 
 廊䞋ぞ出るず、異臭が挂っおいる。そうだ。私は母をあのたたにしっ攟しだったのだ。急いで階段ぞ向かう。途䞭でよろけ、壁に手を぀く。䜓の調子が倉だ。
 掗面所の前を通り、自然ず鏡を芋る。
 自分の姿を芋おギョッずした。劙に自分の顔がや぀れ、老け蟌んだように芋える。癜髪も増えおいた。
 䜕床出したか分からない射粟。そのせいだろうかそれにしおはおかしい。その堎に立っおいるだけなのに、安定感がない。䜓がだるいのだ。
 ずりあえず顔を掗い、階段ぞ向かう。フラフラしながら壁に手を぀いお歩く。
 ここ数日間、千倏ずのセックスに溺れ、母をそのたたにしおいた。䞍肖の息子。実の母が自殺したずいうのに、芋知らぬ女を家に匕っ匵り蟌んでいるのだ。それにしおも臭い。この異臭は母の䜓が腐っおいく過皋の臭いなのだろうか
 しかし䞋に行ったずしお、私はどうすればいい銖を吊った母を  。
 どちらにしおも、このたたの状態はよくない。錻に぀く異臭。この臭いが家の䞭に染み付くのも嫌だった。
 䞀階ぞ降り、キッチンぞ向かう。臭いはどんどんき぀くなる。私は錻を指で぀たみながら歩いた。
「あれ」
 キッチンの壁に寄り掛かるようにしお、銖を吊っおいた母の姿がない。どこぞ行ったのだあの時母は、どう芋おも死んでいた。
 誰かが家に䟵入したずしか思えない  。
 正盎途方にくれた。
 こんな事、誰にも蚀えない。それに友人のいない私は、盞談すべき盞手さえいないのだ。どうしたらいい頭の䞭が非垞に混乱しおいる。
 ずにかくこの異臭を䜕ずかしよう。私は銖を吊っおいた堎所を芋お、母が垂れ流したず思われる老廃物を芋た。
「  」
 たった数日間で、糞尿が圢ずしおなくなっおいる。床に気味悪い染みのようなものが぀いおいるだけ。異臭の元は、この床から挂っおいるのだろうか。
 母の死䜓はどこに
 この異臭の元はどこから
 埗たいの知れない䜕かに私は恐怖を感じ、怯えた。
 勇気を出しお、家の䞭をくたなく探しおみる。しかし母の姿は芋぀からない。
 䞀旊自分の郚屋ぞ戻る事にした。
 ちょっず敎理しおみよう。すべおのきっかけは、あの劙な文章から  。
 深倜ドラむブに行き、途䞭で停車しお読んだギリシア神話。
 そのあずパ゜コンのワヌドファむルである『絶望』。
 文章の蚀う通りに動き、最初はタバコを手に入れた。
 次にスクラッチくじで二癟䞇が圓たる。いや、その前に自由が手に入るず曞いおあり、母がキッチンで銖を吊っお死んでいたのだ。
 千倏ずの出䌚い。ただ削っおもいないスクラッチくじ五枚ず匕き換えに、圌女は自分の䜓を差し出した。䜙裕があったのか、圌女は私に五十䞇円をくれる。そしお本圓にこの郚屋でセックスをしたのだ。
 信じられない事ばかり起きおいる。あの文章を芋お、それに埓うようになっおから  。
 そうだ。あの文章だ。スクラッチくじを買いに行けずいう以降、私は文章を芋おいない。あのあず䜕か曞き蟌たれおいる可胜性があるだろう。
 私は『絶望』を開き、䞀番䞋たでスクロヌルさせた。
 
《これからがあなたの本圓の人生の始たりです。たずあなたの母芪の死䜓は、そのたた攟眮しお䞋さい。䜕も問題ありたせん。それから䞀階の居間にあるタンスの䞊から二番目の匕き出しを開け、千円札䞀枚を取っお䞋さい。その千円で駅前の本屋の暪にある宝くじ売堎でスクラッチくじを五枚買っお䞋さい。時間は䞉時ピッタリにです。》
「  」
 䜕もこのあず曞いおいないじゃないか  。
「䜕で䜕も曞いおいないんだ人の人生を匄びやがっおおい、答えろ」
 気付けばパ゜コンのモニタヌぞ向かっお叫んでいた。いくら叫んだずころで、盞手はコンピュヌタヌなのだ。䜕も返事などしやしない。
「え  」
 急にモニタヌが真っ暗になった。䜕だスクリヌンセヌバヌが自動で起動するたで、私は埅ち時間を二十分埌に蚭定しおある。ちょっず起動するには早いだろ。
 マりスを軜く動かしおみた。盎らない。キヌボヌドを適圓に抌しおみる。駄目だ。
 䞍思議なのが、ずっず真っ暗な画面のたたずいう事。賌入しおから四幎半以䞊経぀。このパ゜コンも、そろそろ寿呜なのだろうか。
「ん」
 その時、画面右偎から赀い䜕かが、巊に向かっおゆっくりず動いおいる。
 䜕だ䜕だ私はモニタヌをゞッず凝芖した。赀い䜕か 。それは画面いっぱいの倧きな字だった。
『あ』ずいう文字が、ゆったりした速床で巊ぞ動いおいる。続いお『な』。
 あたりにも遅い速床なので、じれったさを感じる。䟋の文章ず䜕か関係でもあるのか今の私は、この遅い速床の文字を我慢しお眺めるしかなかった。
 䞀字ず぀流れる文字を私は、メモ垳に曞いおいった。
《あなたは䜕故蚀われた事だけをできなかったのでしょうか》
 䞀時間ぐらい掛けおようやくこれだけ流れる。でも埅った甲斐があった。これはきっず䟋の文章だ。それにしおも蚀われた事だけをできないあのあず䜕も曞いおなかったじゃないか。
《非垞に残念でなりたせん。》
 残念なのは私だ。本来なら二癟䞇円が今、ここにあったはずなのに  。
《スクラッチくじは、䜕があっおも手攟しおはならなかったのです。》
「  」
 千倏ず取匕した事を指しおいるのかそれにしおももっず早く文字を流せないのか。ここたでで二時間半は経っおいるぞ。
《たあいいです。》
「ん」
 少し文字の速床が速くなったような気がする。
「今床は劙に長いな  」
 文字の速床はどんどん速くなり、ストレスを感じないスピヌドになっおいく。
 私は必死にモニタヌに流れる文字をメモ垳に曞き取っおいった。
 
 オリュンポス十二神の䞀柱でもあり、れりスずヘラの間に生たれた初めおの子である鍛冶の神ヘパむストス。圌は生たれながらにしお䞡足の曲がった醜い奇圢児でした。自分で産んでおきながらヘラはこれに怒り、倩から海に向かっお生たれたばかりの我が子を投げ萜ずしたす。
 この時ヘパむストスの萜ちた堎所が、゚ヌゲ海北郚にあるリムノス島でした。
 それを気の毒に感じた海神テティスず゚りリュノメに拟われたす。
 ヘパむストスは倧倉手先が噚甚でした。成長するに぀れ、工芞に玠晎らしい才胜を芋せたす。育おの芪であるテティスを喜ばせようず、圌は宝石に呜を䞎え、海を泳がせたした。のちにこれが珟圚の熱垯魚ずなりたす。
 こうしお圌は九幎間育おられ、倩に垰りたした。
 オリュンポスの神々に加えられた圌ですが、母であるヘラの冷遇は続きたす。圓然の劂く母ぞの䞍信感を募らせるヘパむストス。
 ある日圌は、ヘラぞ豪華な怅子をプレれントしたした。それは黄金で䜜られ、宝石を無数に散りばめた、倧倉矎しく玠晎らしい怅子だったようです。これに感激したヘラは、早速怅子ぞ座りたした。その途端たったく身動きが取れなくなりたす。この怅子に座った者を瞛り付ける拷問玛いのものだったのです。
 ヘパむストスはヘラに向かっお蚀いたした。
「私のあなたの実の子であるず認め、神々の前で玹介しお䞋さい」
 その醜さゆえに我が子を捚おたヘラ。認めたくない圌女であったが、このたたでいるのは恥です。仕方なく認めたした。
 ただ疑心暗鬌になっおいる圌に、「ならば結婚盞手を玹介したしょう。アフロディデはどうです」ず薊めたす。その矎貌からたくさんの神から求愛されるアフロディデを自分で独り占めできるのならず、圌は了承したした。こうしおヘパむストスは愛ず矎ず性を叞るアフロディデず結婚をしたした。
 圌の醜さを嫌う劻のアフロディデ。圌女はこの生掻に我慢がなりたせん。この事は神々の間でも評刀でした。そんな䞭、圌女はアレスず出䌚いたす。
 れりスずヘラの子である軍神アレス。圌は争いの神であり、非垞に残忍、残酷、無慈悲な性栌で、神々や人々からずおも嫌われおいたした。しかしアレスはオリュンポスの男神の䞭でも䞀、二䜍を争う矎男子でもありたした。
 必然的にアフロディデは、アレスず浮気をし始めたした。こうなる事を芋越したヘラの謀略だったのです。
 もちろんアレスは浮気をする際、埓者であるアレクトリュオンに芋匵りを眮きたした。自分たちの行為が、旊那であるヘパむストスにバレるのを譊戒しおいたのです。埓者アレクトリュオンは芋匵りの最䞭にも関わらず、居眠りをしおしたいたした。その頃ヘパむストスの匟子にあたる倪陜神アポロンが芋回りをしおいる最䞭に、アフロディデずアレスの浮気珟堎を芋぀けおしたいたす。
 この事実を知ったヘパむストスは愛劻に裏切られた事に萜胆し、それず同時に激しい憎悪が芜生えたした。
 圌は仕事堎ぞ行きしばらく戻れないず、劻のアフロディデに䌝え、家を出たす。これを幞いにアレスず䌚い、浮気を始める圌女ですが、二人で寝床ぞ入った途端、特補の芋せない綱で捕らわれ身動きができなくなっおしたいたした。ヘパむストス以倖解く事ができない、劻ぞの埩讐で䜜られたものだったのです。
 ヘパむストスは䌝什の神であるヘルメスに仲人をした母のヘラや他の十二神を呌んでほしいず頌みたした。
 集たった神々の前で、ヘパむストスはこう蚀いたした。
「これから面癜い芋䞖物をご芧にいれたしょう」
 身動きの取れない劻のアフロディデずアレスの姿を晒したした。この密䌚珟堎を芋せられた神々は、みな困った顔をしたした。䜕故なら二人の姿があたりにもおかしく、結婚を取り仕切ったヘラの手前、笑う蚳にはいかなかったのです。
 アポロンが「ヘルメス殿、そなたはアフロディデず臥所を共にしたいず蚀っおいたそうじゃないか。そこのアレス殿ず倉わっおもらったらどうだ」ず蚀いたした。
 ヘルメスは「入りたいのは山々ですが、私の䞀物はアレス殿ず比べ、頑䞈でも逞しくもありたせん」ず返したす。
 それたで我慢しおいた神たちは、思わず吹き出しおしたいたした。
 この䞭で唯䞀笑えなかったヘラに、ヘパむストスは「母䞊。あなたが玹介しおくれた花嫁は、他の神々ず臥所を共にするふしだらな女にございたす。ここにのしを着け、お返し臎したすので、どうぞお匕き取り䞋さい」ず積幎の恚みを返したした。
 倧勢の神の前で恥を掻かされたヘラは、アフロディデを連れ、倱笑の䞭を退散したした。こうしおポセむドンが仲介する元で、ヘパむストスはアフロディデず離婚し、アレスから賠償を受け取りたした。
 
 䜕だ、これは
 ギリシア神話のヘパむストスの物語じゃないか  。
 私が本で芋た話より詳しく曞いおあるが、䜕故今こんなものをわざわざ芋せる必芁があるのだろう。
 この前に觊れたスクラッチくじを手攟すべきではなかった事ず、どう関係ある
 パ゜コンのモニタヌは、ただ䞀字ず぀文字が流れおいた。
 ヘパむストスの次は、その劻であったアフロディデに぀いおの話。
 そしお知恵や戊略の神であるアテナの話。
 倪陜神アポロンの話。
 䌝什の神ヘルメスの話ず、しばらく続く。
 埅およ  。
 ギリシア神話に興味を持ち、たくさんの本を読んだ私だ。これたでに出おきた神の共通のキヌワヌドが頭の䞭に浮かぶ。
「パンドラ  」
 口に出しお呟く。私はギリシア神話の䞀郚分を思い出しおいた。
 れりスは人類に灜いをもたらす為、「女性」ずいうものを神々に䜜れず呜じた。ヘパむストスが泥からパンドラの圢を䜜る。アフロディテは矎を䞎え、アテナは知恵をアポロンからは音楜ず治療の才胜を最埌にヘルメスが奜奇心ず嘘を教えた。
 こうしおパンドラずいう人類初の女性ができあがる。パンドラずは『すべおを䞎えられた』ずいう意味。
 その時、モニタヌがバチバチ音を立お画面が真っ赀になった。
「うわっ」
 驚き慌おお怅子から転げ萜ちおしたう。匷く腰を打ち、しばらくその䜓勢のたたうずくたる。
「いおお  」
 再び起き䞊がり、怅子ぞ腰掛けた。ん、パ゜コンがたた元に戻っおいるぞい぀の間にか、さっきたで私が開いおいた『絶望』の画面になっおいた。
「あっ」
 䟋の奇劙な文章の続きが曞き蟌たれおいた。
《よくキヌワヌドがパンドラだず分かりたしたね。玠晎らしい。正解です。あなたが出䌚った本庄千倏 。圌女はあなたにずっおパンドラでした。パンドラの箱はご存知ですよねそう犁断の箱です。あなたは犁断の箱をその手で開けおしたったんですよ。》
 䜕だ、この文章は
 今たでず明らかに違う  。
「  」
 背埌に人の気配を感じた。慌おお振り向く。
「う  」
 叫び掛けお、私の声はそこで止たる。目の前にはあの千倏が立っおいた。
 喉が激しい熱を垯びおいる。いくら叫がうず声がたるで出ない。
 おびただしい血が吹き出す。
 私の喉からか
 必死に䞡手で喉元を抌さえる私。
 千倏は右手に持った刃物を顔たで持っおくるず、舌を出した。
 刃物に぀いた私の返り血をゆっくり舐め、ゞッずこちらを芋おいる。
 䜕で圌女が私を  。
 埐々に芖界ががやけおいき、私の䜓は前のめりに倒れた。 


―チヌム・クレッシェンドの章― 

「よっしゃ、こりゃあたた最高傑䜜のできあがりだ」
 俺の目の前で『小説家』が倧袈裟に䞡腕を倩井ぞ向かっお突き出しおいる。自分の頭で考えたネタじゃあるたいし 。ここに来るたでは、面癜い䜜品が曞けおいたのにな。
 たったく興味なさそうにシステム班の『プログラマヌ』ず『ハッカヌ』は、パ゜コンの画面を芋ながら黙々ずキヌボヌドを打っおいる。こい぀ら生身の女を愛する事なんお絶察にないんだろう。ある意味こい぀らの班があるから、この『チヌム・クレッシェンド』が成り立っおいるのだが  。
 郚屋の片隅で『殺し屋』が䞡膝を抱えおボヌっずしおいる。こんなボケッずしおいるくせに、い぀だっお殺しの腕だけは䞀流で鮮やかに人の呜を奪う。本圓は女優にでもなればいいんだ。その挔技力ず矎貌だけで、幞せに暮らしおいけるのものを  。
 無粟髭を生やしたたた䞀心䞍乱に挫画を描く『挫画家』。颚呂ぐらい入っお、髭を剃れず蚀いたい。文字だけの『小説家』より、絵を描いおいる分だけ、ただこい぀のほうがただマシかもしれない。それでもネタをもらい続け、それを挫画にしおいるだけのクズ野郎だ。『金持ち』のご機嫌を取る為だけに描いおいる。
 ここにいる人間たち、たあ俺も含むが、信頌や絆ずいったものがたったくない。すべおはオヌナヌ『金持ち』ず契玄しお集たった異垞集団だ。各方面のスペシャリストだけが入る事を蚱された『チヌム・クレッシェンド』。
 倩井に向かっお右腕を䞊げながら、指先をずっず動かしおいる『泥棒』。
 垞に誰かに話し掛けおいる『心理カりンセラヌ』。こい぀ず俺はスキル䞊、よくタッグを組たされた。仕事だから仕方なく話すが、人間的にどうしおもこい぀だけは奜きになれない。『心理カりンセラヌ』ず目が合う。たずい、こっちに近づいおきやがった。
「おや『芗き芋』さん。あなた、今無性にむラむラしおいたせんか健康に良くありたせんよ」
 ここではすべおお互いを呌び合う時、コヌドネヌムで呌び合っおいた。芗きの埗意な俺は、『芗き芋』。目の前のうざいオダゞは『心理カりンセラヌ』ず蚀った具合で。
「別にむラむラしおたせんっお。至っお普通ですよ」
「いえいえ、あなたの性栌䞊色々気になるのは仕方ありたせんが、むラむラは駄目ですよ」
 こい぀のすべおを芋透かしたような蚀い方は、話しおいるだけで非垞にストレスになった。内心、小銬鹿にしおいるんじゃないかずさえ感じる。
「今は仕事䞭じゃないでしょ話し掛けないで䞋さい」
 俺はタバコに火を぀け、煙をゆっくり口から出した。
 早く『金持ち』の奎、次の仕事を蚀っおくれないかな。目の前の壁にはめ蟌たれた無数のモニタヌ。仕事がない時はすべおのモニタヌが真っ暗のたたである。仕事で芳察する人間の私生掻がこの無数のモニタヌに映され、それをずっず芋おいる時が䞀番幞せだった。
 ベッドに寝転がりながら゚ロ本を読む『脚本家』。よく『殺し屋』を眺めおいるが、シナリオを考える胜力は絶品でも女を盎に口説く勇気はないのだ。こい぀の曞くシナリオで䜜られた映画はい぀だっお倧成功を収めた。い぀も実際に関わるのは『殺し屋』。自分の思うように動いおくれるので、い぀の間にか自分でも分からない内に惚れおしたったのだろうな。この間『殺し屋』を脱がせたのだっお『心理カりンセラヌ』曰く、圌女の裞がきっず芋たかったからだず蚀っおいたぐらいだ。
「おそらく『脚本家』さんは、『殺し屋』さんの裞を想像しながらあの本を芋おいるのでしょうね」
 し぀こい『心理カりンセラヌ』。顔を芋るだけでむラむラした。
「そんな人の心理状況なんお、どうだっおいいじゃないですか。倱瀌ですよ」
「おやおや『芗き芋』さんの口からそんな蚀葉が出るだなんお意倖ですね」
「うるさいっ」
 俺は怒鳎り぀け、システム宀を出た。
 確かに『心理カりンセラヌ』の蚀う通り、俺はむラむラしおいた。䞀䜓䜕に苛立っおいるのだ、俺は  。
 開発宀の前を通るず、『博士』が気難しい顔で埗たいの知れない研究をしおいる。この間の䞀分間空気に觊れるず消えるむンクを開発した時は、本圓にビックリした。あんな悪趣味の『金持ち』を満足する為だけに研究を重ねるなんお、非垞にもったいない。たずもな研究をしおいれば、ノヌベル賞ぐらい簡単に獲れそうな気がするが  。
 図曞宀では『読曞家』が、本を山積みにしお黙々ず読みふけっおいる。この間の仕事でようやくこの男の奜きなギリシア神話を䜿えたのだ。さぞかし満足しおいるのだろう。
 ブザヌが鳎る。『金持ち』からの合図だ。
 俺はミヌティング宀ぞ向かった。
 
「よし、党員集たったな。ん、『博士』がただか」
「僕が呌んできたすよ。研究に没頭するあたり、ブザヌが聞こえなかったのでしょう」
「ああ、頌む」
『泥棒』がミヌティング宀から出お行く。
「今床のタヌゲットは男ですか女ですか」
「たあ埅お『脚本家』。みんなが集たっおから蚀うから。そんなせかすな」
 少ししお『博士』が䞍機嫌そうに『泥棒』ずやっおくる。
「おいおい、『博士』の開発する物が䞀流なのは分かるが、私が招集を掛けた時ぐらいすぐに来おくれ」
「もうちょっずで開発しおいたものの成果が、出そうだったんですよ」
「おい、『博士』。オヌナヌである『金持ち』の呜什は絶察だぞ気持ちは分かるがいちいち口答えするな」
 ご機嫌を取りたいのか『小説家』が口を挟んでくる。
「たあたあ『博士』さんの気持ちも察しおあげたしょうよ」
 ラむバル関係にある『挫画家』が、『小説家』に食っお掛かる。
「うるさい。おたえみたいに挫画しか描けない奎が、偉そうに口を挟むな」
「おや、負け惜しみですか」
「䜕が負け惜しみなんだ」
「だっお小説より、挫画のほうがよっぜど売れる時代じゃないですか」
「そんなものはだな、今の時代が䜎俗なだけだ」
「そんなの食えなきゃ意味ないでしょう売れるものを曞く。これが重芁なんです」
「いや、それは違う曞きたいから䜜品を曞く。売れた売れないなどよりも、どれだけ䜜品に魂を詰め蟌んだかが倧事なんだ」
 個性の匷い集団だから、い぀も収拟が぀かない。
「はい、みなさたご静粛に。その蟺にしずいお䞋さい。『小説家』さんに『挫画家』さん」
 マむクを持った『叞䌚者』が倧きな声で蚀った。この銬鹿が圹に立぀時はミヌティングがある時ぐらいだから、必死なのだろう。
 さっきから『情報屋』だけが劙にそわそわしおいる。本業の譊察の仕事でも重芁な䌚議か䜕かに呌び出されおいるのか。
「これから恒䟋のミヌティングを開始臎したす。では『金持ち』さんより話がありたす。みなさたお静かに耳をお柄たせ䞋さい。では『金持ち』さん、どうぞ」
「今床のタヌゲットは『新道貎子』。䞉十䞉歳。島根に䜏む人劻だ」
「どうされるのがお奜みで」
「うるさい黙っおワシの話を最埌たで聞け、『脚本家』」
「す、すみたせん  」
 最近俺は、どうもこの集団に銎染めない。芗き芋ずは本来ひっそりずやるものなのだ。いくら莫倧な報酬をもらえ、莅沢な生掻ができようが、自分自身の心が満たされなければ楜しくも䜕ずもない。
 俺たちの仕事ずは、自分のスキルを掻かし䞀人の人間に携わる事だった。それぞれの持ち味を掻かし、情報を集め、『脚本家』が䞀぀の物語を䜜る。
 それを実珟させる為、『プログラマヌ』や『ハッカヌ』がパ゜コンを巧みに操䜜し、『殺し屋』がその人間ぞ盎に接した。『殺し屋』は垞に物語のヒロむン圹でもある。
 その物語が終わるのを芋届け、『小説家』ず『挫画家』が䜜品ずしお䜜り䞊げる。
 その䜜品を芋られる読者は『金持ち』のみ。俺たちで䜜り䞊げた挫画ず小説を読むのが、圌の最倧の楜しみらしい。それだけの為に『チヌム・クレッシェンド』は䜜られた組織である。
 クレッシェンドずはピアノの語源で、だんだん倧きくなるずいう意味合いを持぀。『金持ち』らしい陳腐な発想だ。おたえなんぞ、どんどん腹回りだけ倧きくなっおいるだけじゃねえか。そんなオヌナヌが集めたくだらないク゜みたいな連䞭の狂集団。
 しかし䞀床『チヌム・クレッシェンド』に入った者は、抜け出る事を蚱されない。生涯を通じ、悪趣味な『金持ち』の為に働かなくおはならなかった。
 仕事の回数を重ねるごずに反吐が出る。俺の芗き芋も悪趣味だが、『金持ち』のほうが、盞圓性質が悪い。金ですべおのものを買えるず勘違いしおいるのだ。
 できれば抜け出したかった。いくら懇願しおも、無理に決たっおいるが  。
 
 俺はミヌティングが終わるず、自分の家ぞ䞀床戻る事にした。
『金持ち』の屋敷を出るず、リムゞンの䞭で埅機しおいた『運転手』が「どこぞ向かいたすか」ず尋ねおくる。
「いや、今日は駅たで歩き、たたには電車に乗っお垰るからいい」
「では駅たで送りたしょうか」
「倧䞈倫。今日は䜕だか自分の足で歩きたい気分なんだ」
「かしこたりたした」
 そうこうやっお自分の足で歩いおいく。この行為だけは俺自身が䞀人でしおいる行為なのだ。本圓は垞にそうやっお生きたかった。
 しばらく歩いおいるず、埌ろから足音が近づいおくる。振り返るず『殺し屋』だった。
「どうしたんだ、『殺し屋』。『運転手』に送っおもらえば良かったのに」
「もう倖なんだから『殺し屋』はやめおよ。私には本庄千倏っお名前があるんだから」
「ふ、悪かったよ、千倏」
 あの建物の䞭にいる時は『殺し屋』ずしお、い぀も無口なキャラクタヌを貫いおいる千倏だが、プラむベヌトでは結構お喋りなのだ。こうしお芋るず、ごく普通の女の子ず倉わりない。
「たったくこの間の『脚本家』のシナリオには本圓参ったわよ」
「ああ、ありゃあ悪趣味過ぎるよな。䞻人公の母芪たで銖吊り自殺に芋せ掛けお、殺しおしたうなんお」
「私なんお玠っ裞で淫乱女を呜じられたのよほんず信じられないわ」
「あい぀はおたえに気があるから、その゚ロい䜓を芋たかったんだろう」
「冗談じゃないわ、たったく  」
 俺も本音を蚀えば、この女を抱いおみたかった。こんないい女は滅倚にいない。ハリりッド映画に出たっおおかしくないぐらいなのだから。䜕故あんな『金持ち』の䞋で働くのかが分からなかった。
 圌女も日頃の鬱憀が溜たっおいるのかもしれない。千倏を飲みに誘っおみるか。うたくいけば、酔わせお抱けるかも  。
「なあ、これから飲みにでも行くか」
「うん、今日は垰っおすぐ寝たいわ」
 千倏の右の耳たぶが動く。
「ずいぶんおたえ、噚甚に耳たぶを動かせるもんだな」
「え、そう自分じゃ䜕も意識しおなかったけど」
「ただの癖か。ちょっずぐらい付き合えよ」
「駄目。たた今床ね。ミヌティングのあずっお、い぀もドッず疲れるんだ」
「疲れおいるんじゃ、俺がマッサヌゞしおやろうか」
「いえ、間に合っおたす」
「そうか」
 さすがに䞋心芋え芋えだったかな今日は無理か  。
「そんな悲しそうな顔しないで。駅たでは䞀緒でしょ」
 埮笑む千倏。本圓にいい女だ。力づくで抌し倒したい。しかしそんな事をしたら、その堎で殺されるのがオチだ。䜕しろこの女、プロの『殺し屋』なのだから。たた次の機䌚を埅぀しかないか。
 駅で切笊を買っおいるず、千倏は封筒を手枡しおきた。
「私は䞊りだからここで別れるけど、これ、あずで読んで。私の正盎な気持ちが曞いおあるから  。あ、恥ずかしいから、あずで読んでよね」
 千倏はそれだけ蚀うず、恥ずかしそうに小走りで改札口に向かった。
 案倖可愛いずころあるじゃないか。俺は埮笑たしい衚情で、千倏の埌ろ姿を芋送った。
 
 切笊を買い、改札口を通る。䞋りのホヌムで電車を埅぀が、ただ来るたで十分もある。
 あの時の千倏の恥ずかしげな衚情。劙にそそるものがあった。『チヌム・クレッシェンド』の䞭で、二十台半ばは俺ず千倏ぐらい。ひょっずしおあい぀、俺に気があるのかもしれないな。同䞖代同士、䜕か通じるものでも感じたのだろう。
 そうなるず䜙蚈今の『芗き芋』をやめたいず思う自分がいた。もちろんそうなれば『殺し屋』である千倏もやめさせたい。
 察面にある䞊がりのホヌムを芋回した。千倏の姿は芋えない。こんなたくさんの人混みの䞭で芋぀けるのは難しいか。
 ホヌムの端から端たで移動し、千倏を探しおいた。さっきの䞊がりの電車で、もう乗っおしたったのかな。圌女を芋぀けたら、俺は駆け寄ろうず思っおいたのに  。
 男なら、あんないい女を䞀床は抱いおみたい。
 そういえば、さっきの封筒には䜕があるんだ
 さっき受け取った封筒をポケットから取り出す。倧方、千倏の気持ちが綎っおある手玙でも入っおいるのだろう。
 俺は䞭から手玙を取り出し、電車が来るたで読んでみる事にした。
《『心理カりンセラヌ』が蚀っおいたした。あなたは私たちの組織である『チヌム・クレッシェンド』を裏切る可胜性があるず。䞀぀の秀でた胜力を持぀集団の䞭で、あなたのその感芚は、ずおも邪魔だずいう刀断を圓組織は䞋したした。蚀い方が悪いですが、『芗き芋』皋床のスキルは、いくらでも代わりなどいたす。玠盎に飌い犬のように埓っおおけばいいものを  。》
 途䞭たで読み、自分の呜が狙われおいた事に気付く。しかし䜕故、千倏はわざわざこの手玙を俺に䞀緒にあの組織から抜ける぀もりで、俺にこれを枡しおくれたのだろうか。それずも『殺し屋』ずしおの職業をたっずうする為に  。
 それならわざわざこんな手玙など、枡す必芁などあるか
 しばらく考えおみたが、答えは出なかった。
 電車が来る。ずりあえず垰っおから、ゆっくり読んで敎理するか。
 ホヌムの先端で電車を埅ずうずした時、背埌から誰かに背䞭を抌された。
「うわっ」
 パヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
 電車のクラクションが鳎る。私は空䞭を泳いでいた。
 千倏からの手玙がヒラヒラず宙に舞っおいる。
《尚、この手玙は『博士』の開発した䞀分間空気に觊れるず消えるむンクを䜿甚しおいたす。筆跡も筆でそっず曞かれおいたすので、蚌拠ずしお残るような事はありたせん。『殺し屋』より》
 私はスロヌモヌションのように、その手玙の内容が読めた。やはりあの女、『殺し屋』のコヌドネヌム通り、私を殺しに来たのだ  。
 そう圌女は倩才的な挔技力を駆䜿しお盞手ぞ接近する。
 私もその術䞭にはたっおしたった蚳だ。
 ホヌムの察面に駅員の栌奜をした『凊理班』の姿が芋えた。物語が終了したあずにしか姿を衚さない奎が、ここにいる珟実。これは組織での決定事項だったのか  。
 気付いた時にはもう遅い。手玙を読んだ時点で、すぐに行動すべきだったのだ。
 い぀もながら、その鮮やかな手口には感心させられる。千倏をこの手で抱けなかった事が、唯䞀心残りであった。『脚本家』の野郎。もうちょっずマシなシナリオを曞きやがれ、チクショり  。
 今頃『金持ち』の屋敷にある無数のモニタヌに、俺の姿が映されおいるのだろう。「今回は短線で仕䞊げたした」ず笑顔で抜かしおそうだな、『脚本家』め。『心理カりンセラヌ』のク゜オダゞは、冷静な玠振りで口元を少しだけ䞊げお喜んでいるんだろうな。
 目前に電車が迫っおいた。
 その瞬間、芖界が倧きくずれる。
 党身に衝撃を受け、私は䞀瞬にしお意識をなくした。

―了― 

題名「仮題぀ぶし屋」 䜜者 岩䞊智䞀郎
執筆期間 幎月日幎月日 日間 原皿甚玙枚


いいなず思ったら応揎しよう