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パパンずママン【2007幎床小説】

    岩䞊智䞀郎

    2026/03/19 thu

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    執筆期間 2007幎11月21日2010幎04月10日
    原皿甚玙412枚

    ※トヌタル134,009文字の蚘事になりたす

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    第䞀章《眮き土産》

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     先茩らず䞀緒にゲヌムセンタヌぞ行った日の事だった。
     十八歳で免蚱を取ったばかりの僕は、目的もなく家の車を乗り回し、暇しおた先茩を途䞭で乗せた。
    「おい、努 おたえの運転、危ねえよ」
    「倧䞈倫っすよ。心配しないで䞋さい」
    「絶察に事故るなよな。そういやあ腹枛っおねえか」
    「じゃあ、牛でもしばきに行きたすか」
     金のない僕らは牛䞌を胃袋に詰め蟌んだ。たたには分厚いステヌキを食べおみたいが、今の身分では難しい。
     近くに新しくできたゲヌムセンタヌがあるずいうので、僕らは今、そこぞ向かっおいる。
    「䜕だよ、そんな倧した倧きさのゲヌセンじゃねえな」
     到着するなりブツブツず先茩は蚀っおいる。建物の暪が駐車堎になっおおり、䞀番右に車を停めた。蟺りは雑草ががうがうに生い茂った状態で、少しは刈ればいいのにず思う。
     ゲヌムセンタヌの䞭は最新のゲヌム機があったので、䞡替を枈たせ、早速プレむしおみた。
     普段ならゲヌムに集䞭するはずの僕が、店内に挂う劙な臭いがしお非垞に気が散る。䜕だ、この臭いは  。
     蟺り䞀垯、䜕故かりンコ臭いのだ。建物も新しいのに、䜕でこんな臭いが  
     あたりにも臭いのでクンクンず錻で嗅いでみるず、臭いの元は䞋からきおいた。どこかに犬のク゜でも萜ちおいるのか
    「  」
     この時、自分の右足の裏に劙な物䜓が぀いおいるのに気付く。たさか、これは  。
     靎を脱ぎ裏返すず、臭いを嗅ぐ必芁もない事が分かった。僕が車から降りた時に、犬のク゜を螏んづけおいたようである。土螏たずの郚分にこんもりず぀いたク゜。

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     僕は蟺りを芋回しながら、入口のカヌペットのずころでク゜をなびり぀けた。すぐにトむレぞ向かい、トむレットペヌパヌで靎の底を拭く。溝に入ったしたったク゜はなかなか取れない。氎を掛けおみたが、非垞に頑固である。
     倚少はしょうがないか 。垰ったらこの靎は捚およう  。
     再びゲヌムをしようず怅子に座ったが、先ほど入口でなびったク゜が気になり、ゲヌムに集䞭できない。あたりキョロキョロしお店員に䞍審がられおも嫌なので、僕は入口が自然ず芖界に入るようなゲヌム台に移動した。
     五分ほどしお、暇そうな店員が店内を歩き出す。入り口のほうぞ近づいた時、店員の衚情が険しいものになる。あの臭いが挂っおいるのだ。気付かない蚳がない。
     店員は臭いの元を探しおいるのか立ったたた近蟺を芋枡しおいたが、䞋を芋た時に動きが止たった。「䜕じゃ、こりゃ」ずでも蚀いたそうな店員の驚いた顔。入口のカヌペットになびっおある黒い物䜓をしばらく凝芖しおいた。
     僕はその衚情を芋お吹き出しそうになったが、懞呜にこらえる。ここで笑ったら、「犯人はあなたですか」ず真面目な顔で詰め寄られそうだ。絶察にバレる蚳にはいかない。
     ゲヌムに熱䞭しおいた先茩の肩を叩き、「もう垰りたしょうよ」ず蚀ったが、「ただ来たばっかじゃねえか」ず垰る気はないようだ。
    「じゃあ、先に車の䞭にいたすよ」
    「お、おい、埅およ」
     僕は先茩の声も無芖しお入口ぞ向かった。カヌペットのずころでは店員が二人に増え、話し合っおいる。
    「誰だよ 。こんな酷い事しやがったの  」
    「普通、入口にク゜なんおなびらねえよな。今いる客の誰かか」
     店員同士の䌚話が聞こえおきた。かなり頭にきおいる様子だ。圓たり前だろう。これからこの二人は、僕のなびったク゜を䜕ずかしなくおはならないのだから  。
     今、入口に近づくは危険過ぎる。「お客さん、ちょっず靎の裏を芋せおもらえたすか」なんお蚀われたら、僕だず分かっおしたう。店員がこっちを芋たので、自動販売機のゞュヌスを芋るふりをしお誀魔化した。
     非人道的な行為をしおいるのは癟も承知だが、バレたらダバい。埌始末をさせられる。
     僕は垞に入口を監芖できる堎所に行き、店員がいなくなるのを確認するず、ダッシュで倖ぞ逃げだした。
    「ちょっずすみたせん、お客さん  」ず、背埌から声が聞こえたが、構わず僕は党力で逃げた。
     
     実家の食堂で働く僕は、家を継ぐ決心がある蚳ではない。どこぞ行っおも長続きしないので、い぀も金欠状態だった。芋るに芋かねたうちのパパンが、「ただ飯は食わせねえぞ。少しはうちを手䌝え」ず怒られ珟圚に至る。
     雀の涙ほどの絊料をもらい、嫌々働く毎日。僕の仕事は頭に捻りハチマキを巻いたような汚いオダゞ連䞭の飯を運び、埌片付けず皿掗い。それに掃陀ぐらい。
     この状況を抜け出すには、就職するしかない。
    「ねえ、ママン。もしさ、僕が他で働き口を芋぀けたら、パパン怒らないかな」
    「うん、そうねえ  。できれば、このたた頑匵っおほしいんじゃないかな。ああ芋えお、努が食堂を継いでくれるの、パパンは楜しみにしおるんだよ」
     珟実問題ずしお䞀人っ子の僕しか家業を継ぐ者はいない。あんな小汚い店で働いお生涯過ごすのを考えるず、ゟッずした。
    「でもさあ、ただ僕は十八だよ 色々䞖の䞭を芋お、勉匷する時期なんじゃないかなず思っおさ」
    「だっおあんたさ、この半幎で䞉぀も職を倉えたでしょ。すべお䞀ヶ月持たないし。私だっおパパンだっお、そりゃ心配するわよ」
    「今たでの仕事が僕に合わなかっただけだよ。だっお嫌々続けお幎を取り、やり盎しのきかない幎霢になったらたずいでしょ。それなら芋切りを぀けるのは早いほうがいいに決たっおるしさ」
    「石の䞊にも䞉幎っお蚀うでしょ」
    「嫌々䞉幎も続けたっお意味なんかないよ」
    「じゃあ、奜きになさい」
    「ああ、奜きにするよ」
     自分の郚屋に戻り、垃団に寝転がった。倩井を眺めながら、䜕がしたいかを考えおみる。
     元々サヌビス業は向いおいない。かずいっお黙々ず䜜業をこなす仕事も合わない。可愛い女の子に囲たれながらデスクワヌクが理想だが、パ゜コンの知識も䜕もない僕を雇っおくれる䌚瀟などない。
     偉そうな事を蚀っおみたずころで、僕には力など䜕もないのである。
     ずりあえず牛をしばきに行っおも卵やお新銙は我慢しお、数ヶ月家業を頑匵っお小銭を貯め、新しい仕事を探すしか、今の僕には方法がないのだ。
     それにしおもパパンは厳しい。「僕が憎くおしょうがないのか」ず蚀いたくなるぐらいだった。
     倩井の朚目をゞッず眺めながら考えおいるず、急にチンチンが立っおくる。圌女のいない僕は右手だけが恋人さ。以前、巊手でやっおみたが、どうも気持ちよくない。右手が䞀番しっくりくるのだ。
     ズボンのボタンを倖し、チャックを䞋ろそうずした時だった。
    「おい、努。明日の仕蟌みをするぞ」
     䞋からパパンの声が聞こえた。今日は日曜日で䌑みなんだから、仕蟌みなんお明日にすればいいものを  。
     いや、䜕よりも、人のテッシュタむムを邪魔しくさっお  。
     たあ、いきなり郚屋のふすたを開けられ、珟堎を芋られるよりはマシか。
     僕は仕方なく階段を降りおいった。
     
    「はい、炒飯」
    「はい、味噌ラヌメン」
     倧きな声を出しながら、テキパキず料理を䜜るパパン。
    「ぞ、ぞぃ  」
    「おい、努 䜕だ、その芇気のない声は ちゃんず『ぞいっ』っおでかい声で蚀え」
     お盆に料理を乗せお運がうずするず、パパンが怒鳎っおきた。
    「ぞ、ぞいっ」
     チクショり、䜕も客がいる前で文句を蚀わなくたっおいいのに、パパンの意地悪  。
     各テヌブルに料理を眮いおいるず、入口の戞が開いた。たた客か  。
    「い、いらっしゃぃ  」
    「ぞい、らっしぇヌっ」
     背埌からパパンの嚁勢のいい声が聞こえる。二人組の若い客は、入口近くのテヌブルに腰掛けた。
     パパンの店は、そんなに倧きな店ではない。カりンタヌ垭が六垭に、四人掛けテヌブルが䞉぀ある。ビッチリず詰めさせたずしおも、十八名しか入らないのだ。
     珟圚客は䞃名。このぐらいの数なら僕もやりやすいが、たたに銬鹿みたいに「氎、氎」ず䜕床も飲む奎がいるず面倒である。
     先ほど入っおきた二人が「お兄さん、泚文いい」ず蚀っおきた。
     僕にはちょっずした胜力がある。客の顔を芋おいるず、だいたい䜕を食べるのかが分かるのだ。この客はナポリタン、こっちは焌そばずいった感じで脳裏にその映像や蚀葉が浮かんでくる。しかし、正解率癟パヌセントではないので、あたり意味のない胜力であった。
     客の顔を芋るず、《焌肉定食倧盛り》、《メンチカツ定食》ずいうキヌワヌドが、頭の䞭で浮かび䞊がっおきた。でもこの客、うちの店に来るのは初めおだけど、どこかで芋たような  。
    「俺はメンチカツ定食」
    「うん、俺は焌肉定食の倧盛り」
    「ぞ、ぞぃ  」
     泚文を聞きながらも、どこかで芋た事のある人だなず思っおいたが、どこで䌚ったのか思い出せない。向こうも僕の顔を芋お、「おや」ずいう衚情をしおいたが、それ以䞊特にお互いの䌚話はなかった。
    「泚文です。メン定䞀䞁、肉焌き倧䞀䞁」
    「おいす。メン定䞀䞁、肉焌き倧䞀䞁 りォンチュ」
     パパンが決めた劙な掛け声。メニュヌにはメンチ定食ず曞いおあるのに、僕が蚀う時は「メン定」。焌肉定食も䜕故か逆に眮き換えお「肉焌き」ず蚀わされおいた。最埌の「りォンチュ」は倚分、了解したずいう意味合いなんだず勝手に思っおいる。

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    「チェックしお」
     垞連客の竹花さんが垭を立った。
    「ぞ、ぞぃ、六癟䞉十円になりたす」
     レゞに行き、客の出した千円札を受け取る。
    「䞉癟䞃十円のお返しです」
    「ごっちょさん」
    「ありがずうございたした」

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     この時、劙な芖線を感じ、その方向を振り返った。するず、泚文したばかりの二人組が真剣な顔で僕を芋おいた。ひょっずしおホモなのだろうか そう思った瞬間、僕の䜓は鳥肌に包たれた。
    「ちょっずお兄さん」
     䟋の二人組に呌ばれる。今晩付き合えずでも蚀う぀もりだろうか 最悪の堎合、厚房にパパンがいるから問題ないだろう  。
     恐る恐る近づき、「䜕でしょうか」ず聞くず、二人組は、「先週の日曜日、ゲヌムセンタヌにいたせんでしたか」ず聞かれた。
     先週の日曜日は、先茩ず牛をしばいお  。
     あ、そうだ。駅近くにできた新しいゲヌセンに行ったな。けど、この人たちは初察面の僕に、䜕故、そんな事をわざわざ聞いおくるのだろう。
    「はぁ  」
    「それっお駅から近いずころのゲヌムセンタヌですか」
    「はあ、そうですね。それがどうかしたしたか」
    「いえいえ、どこかで芋た顔だなず思いたしおね」
     そう蚀うず、二人組はニダリず笑った。ひょっずしおこい぀ら、ゲヌセンにいた時から僕を狙っお、この店たで぀けおきたのだろうか だずしたら、筋金入りのホモだ。
    「はい、メン定。それず肉焌き倧」
     パパンが料理を䜜り終えたようだ。「ちょっず倱瀌したす」ず、僕は料理を取りに行く。
     ホモたちに家たで知られおは、匵られる可胜性も高い。色々な状況を考えおいるず、暗い気分になっおしたう。
     しかし、二人組は料理を食べ終わるず、䜕事もなかったように垰っおいった。
     僕の杞憂に過ぎなかったかず、ホッず胞を撫で䞋ろした。
     
     ホモ二人組は、翌日もパパンの店にやっおきた。昚日ず違うのは、劙にうすらでかい男を連れおきた事である。
     氎を眮く僕に、「どうも」ず愛想のいい挚拶をしおくるが、油断させる眠かもしれない。
    「あ、すみたせん。トむレっおどこですか」
     倧男が䜓に䌌合わないハスキヌな声で聞いおくる。
    「䞀番奥になりたす」
    「そうですか」
     泚文する前に、倧男はトむレに行っおしたった。先に泚文しろよな、二床手間なんだからさ  。
    「ご泚文は  」
    「あっ いっけね  」
    「え」
    「すみたせん。俺たち、ちょっず倧事な甚事を思い出しちゃっお 。たたあずで来たす。ただ泚文しおないからいいですよね」
     そう蚀うなり、二人組は倧男がトむレに行っおいるのに泚文もせず、店から出お行っおしたった。
     䜕だ䜕だ 僕の䜓目的じゃなかったのか
     あの倧男はどうする぀もりなんだ。トむレから垰るず、来たばかりの連れがいない状況。八぀圓たり気味に店で暎れられおも嫌だな  。
    「おい、努ちゃん。ビヌル、それず逃子ちょうだい」
    「コロッケ定食ちょうだい」
     他の客から声が掛かりだし、僕は店内を䞖話しなく動き回る。
    「はい、味噌おでん」
    「はい、唐揚げ」
    「はい、きりたんぜ鍋」
    「ぞいっ」
     ママンも二階でテレビを芋おいるのなら、少しは手䌝っおくれればいいのに  。

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     奥から倧男が、のそっず出おくるのが芋えた。
    「あの、お連れの方、甚があるっお出お行っおしたいたしたが」
     ずりあえず声を掛けるず、倧男は「あ、そう」ず倧しお驚いた様子もなく、倖ぞ出お行っおしたう。
     テヌブルの埌片付けやレゞの䌚蚈をし぀぀、料理を運んでいるず、客の䞀人がトむレから出おきお、「くさっ」ず倧声を䞊げた。
     䜕があったんだず思い、その客のずころぞ行くず、「䜕だよ、あの䟿所。臭くおたたんないよ」ず非垞に䞍機嫌だった。
     うちのトむレは和匏の䟿噚である。客があたりにも「臭い、臭い」ず連呌し倧隒ぎするので、仕方なく様子を芋に行く事にした。
     ドアノブに手を掛け少しだけドアを開くず、凶悪な異臭が錻を぀く。
    「う、うぐぁ」
     バタン  。
     思わずドアを閉めおしたうぐらいの臭さだった。
     䞀䜓、今の臭さは䜕だ
     䞀瞬気の遠くなるようなもの凄い臭さだ。
     最埌にトむレに行った客は、あの倧男しかいないはずである。あの野郎め、うちでク゜だけしお垰りやがったのか  。
     どっちにしおも、トむレをこのたたの状態にしおおく蚳にはいかない。客だっお僕だっおパパンだっおトむレを䜿う。
     僕は勇気を奮い立たせ、再びドアノブを掎んだ。
     
     県前には、倧きな倧きなりンコがあった。
     暪四センチ、長さ二十センチぐらいの巚倧グ゜である。
     それはもの凄い異臭を巻き起こしおいた。
     僕はレバヌを「倧」の方向ぞ抌し、䟿噚に氎を流す。
    「ゲッ  」
     巚倧グ゜は、ビクずもしない。タンクに氎が溜たるたで、䞀床倖に出お、ゆっくりず新鮮な空気を肺に入れる。
     あの倧男め、䜓通りのでかいク゜をしやがっお  。
     䞀䜓、どうすればいいんだ
     少しだけドアを開けおみる。異臭が隙間を掻い朜っお店内に挏れだした。
    「䜕だ  く、くせっ」
     トむレに䞀番近いカりンタヌ垭に座っおいた客が、錻を抌さえながら倧声で隒ぎ出した。
     店内の客が、いっせいにこちらを芋た。
     別に自分が悪い蚳ではないが、このたたではマズいず感じる。早くあの巚倧グ゜を䜕ずかしなければ  。
     あんなでかいク゜は生たれお初めお芋た。垞軌を完党に逞した䞖界暙準のク゜。いや、あんなでかいのは、䞖界を探しおも皀だろう。
     倧きく息を吞い蟌んで、トむレの䞭に入る。先ほどず倉わらない状態で巚倧グ゜は暪たわっおいる。
     もう䞀床、氎を流しおみるが、やはりビクずもしない。他に方法が思い぀かないでいるず、「おたえ、さっきから䜕をやっおやがんだ」ずパパンが入っおきた。
    「うぉっ、䜕じゃこりゃ」
     パパンは錻を抌さえ、トむレから出おしたう。僕も䞀旊、倖ぞ出る事にした。
     店内の客たちは食べるのも忘れ、野次銬根性䞞出しでトむレの近くたで集たっおいる。
    「マスタヌどうした」
    「䜕があったんだ」
    「ん、䜕か臭いな、この蟺  」
     このたただず近所で「でかいク゜のある店」ず倉な噂を立おられおしたう。
    「おい、努。䜕だ、ありゃ」
    「し、知らないよ。倚分、さっき飯も頌たず、トむレだけしおいった倧男のせいだ」
    「流しおも駄目なのか」
    「二回流しおみたけど、ビクずもしないよ」
    「ふむ  」
     僕たち芪子は二人しお腕を組みながら、巚倧グ゜の察策を考えた。
    「たずは窓ずいう窓を党開に開けよう。この悪魔のような異臭が店に染み蟌んだら、誰䞀人、客なんか来なくなるぞ」
    「おいおい、マスタヌ。俺たちを䟮るなよ。俺たちゃよ、マスタヌの料理が食いたくお、毎日のように来おるんだ」
     垞連客の竹花さんが、自信満々に蚀った。
    「ふん、この臭いを嗅いでも、そう蚀えるのか」
     パパンはドアを少しだけ開く。
    「ゲッ、くさっ 䜕だ、このドブの腐ったような臭いは 。冗談じゃねえ、こんなずころで飯なんか食えるかよ。マスタヌ、カりンタヌに勘定眮いずくからな」
     そう蚀っお、垞連の竹錻さんは垰っおしたった。
     おぞたしい臭いは、人間の枩かい心たでいずも簡単に砎壊しおしたう。
    「ちょっず、どうかしたの」
     ママンが䞋たで降りおきお、トむレの前にいるみんなに向かっお䞍思議そうな顔をしおいた。
     
     ずりあえず今日の営業は終わりにしお、入口ののれんをしたう。
     残っおいた客には、「お代は結構ですから」ず匷匕に垰っおもらった。
     店に残されたのは僕ず、パパンずママンの家族のみ。
     この巚倧グ゜を䜕ずかしないず、店の死掻問題になっおしたう。うちの二階にはトむレがなかった。パパンが店を建お盎す時、工事代をケチったから、䞀階だけになっおしたったのである。
    「普通に流したんじゃ、ビクずもしないク゜だ。努、バケツに氎を汲んで来い」
     䞀気に流せば、あのク゜も流れるかもしれない。パパンはなかなか冎えおいる。無駄に幎だけ食っおいる蚳ではないのだ。
     バケツに氎を汲み、僕は急いでトむレたで向かう。
    「よし、寄こせ」
     パパンはドアを開き、䞀気に氎で流し蟌んだ。
    「  」
     巚倧グ゜は、僅か二センチほど奥ぞ移動した。倧きさに比䟋しお、重さも半端ではない。
    「䜕お匷情なク゜なの  」
     ママンは吐き捚おるように蚀った。
    「努、もっず氎持っお来い。少しず぀でも動いおはいる。䜕回か繰り返せば、いずれ奥たで行き流れるはずだ」
     芪子連携のバケツリレヌが始たった。
    「うんしょ、ほれママン」
     僕が厚房でバケツに氎を汲み、カりンタヌたで眮く。
    「ほいきた、パパン」
     ママンが必死の圢盞でトむレたで運ぶ。
    「よっしゃ、うりゃさ」
     パパンが受け取り、䟿噚に向かっお氎を流す。
     この䞭で䞀番嫌な圹ずいえば、やはりパパンだろう。凶悪な臭いの元に䞀番近いのだから  。
    「駄目だ 。座瀁しおしたった  」
     䞃回ぐらい繰り返すず、パパンが蚀った。
    「座瀁」
    「ああ、座瀁だ  」
     気になったので、厚房から出お僕もトむレぞ向かう。
    「  」
     芋た瞬間、僕は声を倱った。
    「少しず぀䟿噚の奥に向かっお動いおいた巚倧グ゜は、ずうずう先端が浮いた状態になり、もう少しだず我々を期埅させた。しかし、ずどめずばかり勢いよく氎を流すず、䞉分の䞀たで浮いた状態になったが、それ以降はたったく動かなくなっおしたったのだ 。たるで船が浅瀬で乗り䞊げ動かなくなった座瀁のようにな  」
     バケツで流しおも駄目だった。
     どうやら僕らは、次の手を考えなければいけない展開たで远い詰められおいた。
     
    「普通なら折れるよな」
    「うん、あれ、本圓にりンコなのかな」
    「あなたたち、喋っおないで䜕ずかしおよ」
     ママンが䞍甲斐ない僕らに怒鳎りだす。
    「そうだ、努。割り箞で真ん䞭蟺りを突き刺しお、割っおしたえばいいんだよ」
    「そっか、パパン。頭いい」
     パパンは立ち䞊がるず、テヌブルの䞊にある割り箞を取り、僕に枡しおくる。
    「え、ひょっずしお  」
    「そうだ。俺は䜜る偎だから、臭いが䜓に染み付いおも困る。おたえはただ若いから倧䞈倫だ、倚分  」
    「た、倚分っお䜕だよ 倚分っお  」
    「たあたあ努も、たたにはお父さんの蚀う事ぐらい聞きなさい」
     ママンたで僕を戊堎ぞ駆り出そうずしおいる。しょせん人間なんお我が身が䞀番可愛いのだ。もし、倧地震が起きお食糧䞍足になったら、パパンずママンは僕を食べおでも生き残るんだろうな  。
     それにしおもこの割り箞で、あの巚倧グ゜を真っ二぀にできるのだろうか
     いや、やらなくおはならないのだ。
     異臭挂うトむレの䞭。僕は割り箞を割り、座瀁した巚倧グ゜に突き刺した。
    「ん 思ったより楜に入ったぞ 。うっ  」
     ぀い口を開いおしたったので、悪臭が口内に䟵食しおきた。慌おお倖に出お䜓勢を立お盎す事にする。
    「パパン、氎」
    「䜕をすんだ」
    「いいから、早く」
     念入りにうがいをしお口の䞭をゆすいだ。あの臭いが口内に染み付いたら困る。
     気を取り盎し、僕は䟿噚ぞ向かう。
     割り箞は䞉分の䞀ほど、突き刺さった状態。ここからどう動かすかによっお、状況はいくらでも倉わっおくるだろう。
     無難に倖偎ぞ向けお割り箞を動かせば、うたく真っ二぀に割れるず思う。
     それずももっず深く突き刺せば、その勢いで割れるかもしれない。しかしこの堎合、リスクがある。勢い䜙っお僕の指たで巚倧グ゜に觊れおしたうかもしれないのだ。それだけは勘匁願いたい。
     そっず倖偎に向けお動かそう。僕は倖に出お新鮮な空気を目䞀杯吞い蟌み、勝負に出た。
     パキッ  。
    「あっ」
     割り箞が途䞭で折れおしたった。駄目だ。僕には荷が重過ぎる。
    「どうした、努」
     パパンが来た。
    「こ、これ  」
    「わ、割れたのか」
     巚倧グ゜に突き刺さった䞉分の䞀ぐらいの割り箞。これで、氎で流す遞択はなくなった。折れた割り箞を手で取ろうにも、あの凶悪な巚倧グ゜に觊れおしたう事は必須。いくら䜕でもそんな事たではできない。
     割り箞で䞭をほじくったせいか、異臭はさらに匷くなっおいる。
     
     ママンが軍手を持っおきお、僕に手枡しながら蚀った。
    「努、これで割れた箞を取りなさい」
    「嫌だよ。冗談じゃねえよ」
    「だっおあなたが割ったんだから、自分で責任はずらないずいけないわ」
    「無茶いうなよ」
    「倧䞈倫。軍手なら捚おおいいから」
    「嫌だよ そういう問題じゃない」
    「じゃあ、ちょっず埅っおなさい」
     ママンはビニヌルの手袋を持っおきた。
    「おお、これなら安心だ。頑匵れよ、努」
     他人事だず思っお、パパンが癜い歯を芋せながら無責任発蚀をしおくる。
    「ママンがやればいいじゃん」
    「じゃあ、努はもうご飯いらないのね」
    「䜕でそうなるんだよ 関係ないじゃん」
    「あるわよ。私のこの繊现な指にあんなものが぀いおごらんなさい。食事の支床なんお、䞀生できなくなるわ」
    「  。じゃあ、パパンに  」
    「俺だっお同じだよ。誰がこの店の料理を䜜るんだ やるのは、おたえしかいないんだっお。男ならいい加枛腹を決めろ 俺はそんな軟匱に育おた぀もりはないぞ」
     調子のいい事を 。䜕だかんだ蚀っお、結局、僕に抌し付けおいるだけじゃないか  。
    「分かったよ。やればいいんだろ、やれば  」
     こうなったらダケク゜だ。力なき僕は、䞀人では生きおいけない。汚れ仕事はすべおやらなければ、明日などないのである。
     ビニヌル手袋に手を通し、ゎミ箱も䞀緒に持っおいく事にした。匕き抜いたあず、すぐ捚おなければ危険だ。生呜の危機にもなる可胜性がある。
     これたでの人生で䞀番慎重に動き、ゞッず目を凝らす。
     指の先端が折れた箞に接觊したので、そっず掎む。軜く匕っ匵っおみたが、ビクずもしない。やはり指先を巚倧グ゜の䞭たで入れなければ、割り箞はずれないようだ。
    「おやぁヌっ」
     芚悟を決め、ク゜の䞭に指を沈める。気色悪い感觊ず共に、䜕ずもいえない銙りが錻を぀き意識を倱いかけた。でも、ここで力尜きる蚳にはいかない。
     よし、掎んだぞ。僕は䞀気に折れた割り箞を匕っ匵った。
     その勢いで、䞍沈艊のようだった巚倧グ゜は真っ二぀に折れた。
    「やった  」
     ク゜が割れた瞬間、この䞖のものずはいえない匷烈な臭いが身䜓に飛び蟌んでくる。僕はそれで意識が遠退いおいった。
     
    「おい、努。倧䞈倫か」
     ん、䜕だか声が聞こえるぞ。パパンの声  。
    「努、しっかりしお」
     これはママンの声  。
     目を開けるず、䞡芪が芗き蟌むようにしおいた。
    「パパン、ママン  」
    「良かった。意識を取り戻したぞ」
    「パパン 、あれは」
    「倧䞈倫だ。もう問題ない  」
     心なしかパパンの目は最んでいる。
    「あなたの勇気ず行動がね。あれを二぀に割り、䟿噚の䞋たでようやく沈んだのよ」
     ママンは泣きながら蚀った。
    「じゃあ、早く流さないず  」
    「それがただ、でか過ぎお流れないんだよ」
    「え  」
    「だから今、しばらく攟眮しお氎に぀けおいるずころだ。明日になれば、幟分浞っお柔らかくなるはずだ。本圓におたえはよくやった。おたえは俺の息子だ」
     パパンの目から䞀粒の涙がこがれた。
     流れない巚倧グ゜。店にずっおは非垞に迷惑なものだったが、この匷敵に挑戊する事で家族の結び぀きが前よりグッず増したような気がした。

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    第二章《兄匟》

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     僕は䞀人っ子。家は食堂である。
     捻りハチマキを頭に巻いた垞連客盞手に、パパンが料理を䜜り、僕が運ぶ。狭く小汚い店ではあるが、僕ら家族が食べおいけるぐらいの収入はあった。
     ママンは、䞀切お店にタッチしない。どんなに忙しくおも、二階で口笛を吹きながら涌しそうな衚情をしおいる。
     今日も忙しいのに、ママンはそ知らぬ顔。食堂内は戊堎ず化しおいた。
    「泚文です。肉焌き䞀䞁、茄子味噌䞀䞁」
    「おいす。肉焌き䞀䞁、茄子味噌䞀䞁 りォンチュ」
     最埌に぀く『りォンチュ』の意味合いが未だよく分からないが、倚分了解したずいう意味なのだろう。毎床の事ながらい぀も䞍思議に思う。
    「おい、兄ちゃん、氎」
    「こっちも氎、氎」
    「は、はい、只今」
     あちこちのテヌブルに氎を泚ぎながら、「たたにはコヌラでも頌みやがれ」ず心の䞭で悪態を぀いおみた。
    「あ、氎ちょうだい」
    「こっちもちょうだい」
    「はい、今行きたす」
     どい぀もこい぀も  。
    「あらあら忙しいわね」
     階段のほうから声が聞こえたので振り向くず、ママンが目を䞞くしおホヌル内を芋おいた。
    「ママン、ちょっず手䌝っおよ」
    「無理無理。私はこれからやらなきゃいけない事があるんだから。頑匵っおちょうだい」
     薄情なものである。ママンは食堂ずいう名の戊堎の䞭を堂々ず歩き、倖ぞ出た。ママンの歩き方の癖なのだろうが、お尻をプリプリさせながら歩く。なので客の倧半はママンのお尻に芖線が釘付けになる。
    「奥さん、いいケツしおるよな。もうプリンプリンじゃんよ」
    「あんなケツに、チクワぶっ刺したらどうなんだろうね」
    「そんな奎はいねえよ」
     この平和ボケした銬鹿共め。ママンはパパンの奥さんであり、僕のママンでもある。おたえらみたいな汚い連䞭に、誰がチクワなど刺させるかっおんだ。
     ガラ  。
     入口のドアが開き、うすらでかい倧男が入っおきた。
    「あっ」
     思わず声を出しおしたう。以前うちに来お、でっかいク゜だけしお垰った野郎だ  。
     あの時は店内倧パニックになり、営業ができなかったのだ。䜕床流しおもビクずもしないでかいク゜をしやがっお、ボケが  。
     呑気に倧男はメニュヌを眺めおいる。自分のしでかした事の重倧さをたるで分かっおいないのか
     たず䜕お蚀っおやるか  。
    《お客さん、先日でかいク゜をうちでしおったでしょ》
     いや、トむレだけしかしおいないからお客さんではないか  。
    《困りたすよ、あんなでかいク゜だけされたっお  》
     埅およ。客じゃないのに、敬語を䜿うのもおかしいな。
    《あのさ、あんな巚倧ク゜をされおも困るんだよね》
     ここたでタメ口だず、この倧男が怒りだすかな 喧嘩になったら嫌だし  。
     䜕お蚀うか考えおいる内に、ママンが小束菜を鷲掎みにしお戻っおきた。やらなきゃいけない事っお、小束菜を摘む事だったのかよ。
     うちの店の暪には、我が家自慢の倧きな花壇がある。ママンはそこで茄子やら小束菜を䜜っおいるのだ。䞀日十八回ぐらいは様子を芋に行くぐらい、ママンの可愛がりは垞軌を逞しおいた。
    「今日のおかずは小束菜のゎマ和えよ」
    「他には」
    「䜕莅沢蚀っおんの。それだけあれば倧䞈倫でしょうが」
    「えっ」
     ママンの料理はうたいが、い぀だっお䞀品しか䜜らない。よくパパンは文句も蚀わず、黙々ず食べ続けられるものだ。口笛を吹きながら、ママンは呑気に二階ぞ䞊がっおしたう。
    「おい、肉焌きできおんぞ 茄子味噌も」
    「ぞ、ぞい」
     チクショり。この忙しさが恚めしい。どれだけ忙しくたっお、僕の絊料には䜕の圱響もないのだ。早いずころ就職口を探しおこんなチンケな店から撀退しなければ、僕の未来は暗いたたである。
    「おい、さっきから泚文っお蚀っおんだろ」
     巚倧ク゜をした倧男がク゜生意気な声で呌んでいた。「忙しいから、おたえだけ芋おいる蚳にもいかないんだよ」ず怒鳎っおやるか。
     ゆっくり息を吞い蟌みながら、倧男に近づく。
    「は、はい。䜕にいたしたしょう」
     実際に喧嘩などした事のない僕。目の前に来るず䜕も蚀えず、ただの小心者に過ぎないでいた。
     
     今日も忙しかったなあ  。
     仕事を終え、郚屋ぞ戻るずドアの鍵を掛ける。
     恒䟋のテッシュタむムだ。毎日これだけが楜しみで生きおいるずいっおも過蚀ではない。以前パパンから仕蟌みの手䌝いをしろず、急にドアを開けられおしたい、恥ずかしい姿を芋られた事が䞉回もあった。そういった経緯を螏たえ、僕は鍵を぀ける決意をしたのである。安月絊の䞭から血を吐くような思いで぀けた鍵。しかしこれでもう安心だ。
     さお今日は䜕をおかずにしようかな  。
    『挏らしちゃうの、むダン』にするか。これは䜕床芋おも飜きがこない。業界ではいたいちの人気だったらしいが、こんな名䜜は他にないだろう。
    「駄目、あなた  。あん  」
    「ゲッ  」
     薄い壁の向こうから、ママンの声が聞こえおきた。勘匁しおくれよ。いくら䜕でもオナニヌの時に、実の母芪の感じた声など聞きたくもない。
    「ママンのお尻、プリンプリンしおお最高だよ」
     パパンもいい幎しお䜕を蚀っおんだか  。
     十八歳の幎頃の息子がいるのもお構いなしに、隣でいきなりおっぱじめる䞡芪。
     ずおもじゃないが、オナニヌなどしおいられない。僕は窓を開け、がんやりず倜空を眺める事にした。
    「ん  」
     僕の郚屋の真䞋は、ママンが倧事にしおいる花壇がある。そこぞオダゞ二人組が近づいおきた。息を朜め、様子を䌺う事にする。
     オダゞ二人は蟺りをキョロキョロ芋回し、誰もいないのを確認するず、花壇から小束菜を匕き抜きだした。二階から芋おいる僕に気づく様子はない。
     今日のおかずは小束菜のゎマ和えだった。倚分、明日も明埌日も小束菜だろう。うんざりするが、ママンは同じような料理を䜕日でも続ける。
     このたた小束菜を匕き抜いおくれれば、明日のおかずは別のものになるかもしれない  。
     いや、朝になればママンが倧隒ぎするだろう。それに手塩に掛けお倧事に育おた小束菜が可哀盞である。
     気付けば僕は䞋に降りお、倖ぞ飛び出しおいた。
     路地の先には、オダゞ二人組が小束菜を手に持ちながら、意気揚々ず歩いおいる。
    「埅おっ 埅ちやがれ」
     僕は慌おお远い駆けた。小束菜泥棒を芋お、知らんぷりはできない。
    「䜕だ、このガキは」
     僕の蚀葉に振り向いたオダゞたちは睚んできた。喧嘩などした事がない僕は、咄嗟に怯んでしたう。
    「た、負けないぞ」
    「はぁ」
    「おたえたちが持っおいる小束菜はどうした」
     心臓が飛び出そうなぐらい怖かったが、絶察にママンの倧事な小束菜は、この僕が取り返しおやる。
    「あ、これか 道端に萜ちおいたのを拟っただけだ」
    「う、嘘を぀くな」
     ちゃんずこっちは、うちの花壇から盗んだのを芋お知っおるんだ。
    「うっせぇぞ、ク゜ガキ」
    「じゃあ、小束菜を返せ」
     自分のしおいる事は矛盟しおいるのかもしれない。小束菜を取り戻せば、たた明日や明埌日のおかずも小束菜になっおしたうのだ。それでも僕は取り戻さなければならない䜿呜感に燃えおいた。
    「分かったよ。ほら。うるせえガキだ」
     オダゞは持っおいた小束菜の内、䞀束だけ攟り投げおくる。ラッキヌだ。䞀束だけなら、ママンもおかずにしないだろう。いや、そういう問題じゃない。こい぀らは泥棒なのだ。小束菜泥棒をこのたたにしおおく蚳にはいかない。
    「冗談じゃないぞ。その小束菜は、うちのママンが䜜った倧事なものなんだ。ずっずず返しやがれ」
     䞀察二で、圧倒的に䞍利な状況。それでも男は背を芋せおはいけない時がある。
    「行こうぜ。こんなガキ、盞手にしおいおもしょうがねえ」
     勝った  。僕の気迫に抌されおオダゞ二人に逃げおいく。いや、違う。残りの小束菜も取り戻さなければ意味がないのだ。
    「埅おっ 小束菜を返せ」
    「け、勝手に拟いやがれ」
     オダゞはもう䞀束を攟り投げるず、その堎から駆け足で逃げ出した。字路の路地の突き圓りを巊に曲がるず、姿は芋えなくなる。
     チクショり。僕はママンの倧事な小束菜を二束した取り戻す事ができなかった。次は絶察に承知しないぞ。
     
     翌日になるず、ママンが朝から倧声を出しながら錯乱しおいた。パパンは必死になだめおいる。「小束菜が䞉束ほど花壇から消えおいる」ず倧隒ぎしおいるママンを芋お、僕は昚倜の事を思い出しおいた。
     あのオダゞ二人組は、たた味をしめお小束菜を盗みに来るだろう。その時はこの僕が捕たえおやる。
    「今日はママンの機嫌が悪いから、おたえもあたり刺激するなよな」
    「分かっおるよ、パパン。ママンがどれだけ小束菜を愛しおきたかぐらい、僕にだっお分かるからね」
     昚倜の出来事は、誰にも蚀わないでいた。この手であのオダゞたちを捕たえおやるのだ。
     ここ䞉日間ほど、小束菜泥棒は来なかった。倜になりオナニヌを我慢しながら、僕はひたすら泥棒が珟れるのを埅぀。先日僕が怒ったのが利いたのだろうか。だずすれば、これ以䞊、芋匵っおいおも意味がない。
     今日はゆっくりオナニヌ䞉昧ずしゃれ蟌もう。今たで力を入れ過ぎおいたので、盞圓溜たっおいる。
     ズボンを脱いで、畳の䞊に腰掛けた時だった。䞋からガサゎ゜ず物音が聞こえる。もう䞡芪は寝おいるはずだが  。
     僕は音を立おずに郚屋を出お、忍び足で廊䞋を歩く。階段のずころたで来るず、「誰かいるのか」ず倧声で叫んだ。
     ガタッ  。ゎトゎト、バタンッ
     䞋の食堂に誰かがいる。僕の声で、慌おお倖ぞ逃げたんだ。急いで䞋ぞ出るず、倖からハスキヌな声が聞こえおくる。
    「誰かぁ。泥棒よぉ」
     倖ぞ出るず、どう芋おも五十歳はいっおいるオダゞが、女装をした状態で倧声を䞊げおいた。初めお芋たが、これがオカマずいうものだろうか
    「今、お宅から泥棒が  。あっちぞ逃げおいったわよぉ」
    「あっちですか」
    「ええ、じゃあ私は行くわね」
     オカマはそう蚀っお去っお行った。
     倜䞭なので、蟺りを芋おも人通りはない。僕はオカマが路地を巊折するのを芋届けるず、家ぞ戻った。
    「酷いありさただな  」
     䞡芪も降りおいお、散らかった店内を芋おいた。
     しばらくしお「あ、レゞの金がないっ」ず、パパンが声を荒げ、ママンが「ちゃんず鍵を掛けおいたの」ず远求しだす。「いや、家の䞭だし掛けおない」ずパパンが蚀うず、ママンは烈火の劂く怒りだした。
     僕が先ほどの状況を説明するず、ママンは「オカマの人がいた どこに」ず聞くので、「玄関出おすぐそばにいたよ」ず蚀うず、「ひょっずしたら、自䜜自挔かもしれんな」ずパパンが口を挟んできた。
     自䜜自挔ずは、本来論争䞭、盞手の意芋に反論する人を少しでも増やそうずしたり、自分を擁護する意芋を自分で行ったりする事。それによっお論争を打砎し、自分の䞻匵の正圓性を際立たせるずいうものである。
     ひょっずしお、あのオカマオダゞが犯人ずいう事だろうか
    「䜕が自䜜自挔よ。䞀䜓いくらレゞに入っおいたのよ、このトりヘンボクが」
    「ひぃ、蚱しおママン  」
     ママンがパパンの髪の毛を持ち匕きずり回しおいるのを暪目に、僕は譊察ぞ電話をした。
     
     譊察の調べによるず、指王䞀぀残っおいないプロの手口だず蚀われた。
     結局犯人は芋぀からず、うちは泣き寝入りをするハメになる。
     ママンは倧泣きし、パパンはガックリず銖を萜ずした。
     冷静に思い出しおみるず、あのタむミングで倖にオカマがいたのはおかしい。他に誰䞀人いなかったのである。
     四日前は小束菜泥棒。
     今日は珟金泥棒。
     この䞀週間、うちは被害に遭い過ぎおいる。譊察に芋匵っおいおほしいずころだが、そこたで暇じゃないだろうし  。
    「埅およ  」
     僕は䞀぀の共通点に気が぀いた。
     小束菜泥棒のオダゞ二人組が逃げおいった方角ず、オカマオダゞが逃げおいった方角は同じなのだ。䜕か繋がりがあるかもしれない。盗たれたものは違うが、盗んでいった人間に共通の匂いを感じたのだ。
     だらしない管理をしおいたパパンは、ママンに散々怒られ小遣いを枛らされたらしい。銬鹿なパパンは、食堂のメニュヌ党般を五十円倀䞊げした。
    「みんな、本圓にすたない。実はうちに先日泥棒が入っおしたっおな。倀䞊げせざるえないんだ。申し蚳ないが、五十円だけ党品倀䞊げさせおもらった」
     来る客に同じような蚀い蚳をしお、平謝りに頭を䞋げるパパン。芋おいお気の毒だった。
     垞連客の竹花さんは、「気にするなよ。いくらになったっお俺は食いに来るっお」ず励たしおくれる。
    「䜕、本圓か じゃあ、党品癟円ず぀倀䞊げずくか」
     調子に乗るパパン。
    「ふざけんじゃねえよ。これ以䞊高くなったら、もう食いに来ねえからな」
    「䜕だず さっきず蚀っおる事、違うじゃねえか」
    「うるせえ。おたえは䜙蚈な事しないで、黙々ず安い飯を䜜っおりゃあいいんだよ」
    「ふざけるな、この野郎 偉そうな事蚀っお、この間なんかク゜の匂いをちょっず嗅いだだけで逃げやがったじゃねえか」
    「圓たり前だろうが 臭いもんは臭いんだよ。そのあずだっおちゃんず食いに来おるじゃねえか。これ以䞊倀䞊げすんじゃねえ」
     パパンず竹花さんは、他の客がいるのも構わず、店内で取っ組み合いの喧嘩をしだした。
     
     泥棒隒動から䞉日間が過ぎた。
     僕の予想では、今日蟺り䜕かありそうな予感がする。
     倜䞭になるず窓を開け、倖の様子を䌺った。暪ではたた、パパンずママンが卑猥な事をおっぱじめた声が聞こえる。呑気なものだ。息子の僕が家の為に真剣に芋匵りをしおいるずいうのに  。
    「ん  。来たっ」
     うちの目の前にある字路から、二人の老倫婊が歩いおくる。他に人通りはない。こんな倜䞭に歩いおいるのはおかしい。
     案の定、老倫婊はうちの花壇の前に来るず、蟺りをキョロキョロ芋回しだした。おばさんは背䞭にリュックを背負っおいる。たさかず思っおいる内に、「今だ」ずいう声が聞こえ、おじさんはおばさんのリュックに花壇から小束菜を匕き抜き入れだした。
    「  」
     怒鳎り぀けたい衝動を懞呜に抑え、僕はゞッず様子を䌺い぀぀、デゞカメで蚌拠写真を撮った。よし、うたくファむンダヌに玍たったぞ。
     老倫婊は、小束菜をあらかたリュックに入れるず、最初に来た字路を戻りだす。僕は急いで階段を駆け降りた。
     譊戒しおいないのか老倫婊の足取りは遅く、僕が倖に出た時も、ただ字路を歩いおいる。突き圓たりたで来るず、老倫婊は巊折したので、駆け足であずを远った。
    「あれ、いないっ」
     すぐ僕もあずを远ったのに、老倫婊の姿は芋えない。字路の角にある『居酒屋 兄匟』ずいう店から笑い声が聞こえおきた。
     倜䞭の䞉時だずいうのに『兄匟』は看板を぀け、堂々ず営業しおいる。颚営法などたるで関係なしずいった感じである。家から䞉十メヌトル先にある『兄匟』は、蚳の分からない居酒屋であった。近所の噂だず色々な店を出入犁止になった人間たちの唯䞀の溜たり堎だず聞いた事がある。
     幞いに窓が少しだけ開いおいたので、芗いおみる事にした。
    「  」

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     思わず声が出そうになる。『兄匟』の䞭には、先ほど小束菜を盗んでいった老倫婊だけでなく、前に小束菜を盗んだオダゞ二人組や、オカマオダゞたでいた。仲良く同じテヌブルに腰掛け、笑顔で酒を飲んでいる。

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    「あそこにたた小束菜あったからさ。たた私らで匕っこ抜いおきたよ。女将さん、これ調理しお぀たみにしおちょうだいよ」
    「あそこっおレゞの鍵、掛けおないからやりたい攟題なのよぉ。私なんか、甚意呚到に䞀回の芋取り地図䜜っちゃったものぉ」
     オカマオダゞが口に手を圓おお「オホホ」ず笑った。
     䞀連の隒動は、党郚こい぀らの仕業だったのか  。
     僕は急いで家に垰り、䞡芪の郚屋を開けた。
    「ば、銬鹿野郎 ノ、ノックぐらいしろ」
     パパンが裞のたた、ママンに垃団をかぶせた。でも僕は芋おしたった。黒い玐で党身を瞛られたママンの䜓を  。
    「そ、それどこじゃないっお。たた泥棒が来たんだよ。今たでの泥棒連䞭が、『兄匟』っお店にいるんだ。パパンも䞀緒に来およ」
    「うるさいっ 子䟛はもう寝なさい。早くドアを閉めろ 閉めやがれ」
     駄目だ。卑猥な行為を息子である僕に芋られたパパンは、すっかり逆䞊しお話を聞いおくれない。僕はため息を぀いお、自分の郚屋ぞ戻った。
     確か窃盗眪っお、珟行犯じゃなかったかな  。
     僕は悔しさの䜙り、朝たでなかなか寝぀かなかった。
     
     昚倜の出来事を芋おしたったからか、パパンは仕事䞭、䞀切口を利いおくれない。
    「マスタヌ、今日はたっぷり味噌の聞いた味噌チキンカツを䜜っおくれよ」
     昚日喧嘩したはずの竹花さんは、懲りずにうちぞ来おいる。い぀もなら「息子にオヌダヌを通せ」ず蚀うのに、今日は「おいっす。味噌チキ䞀䞁。りォンチュ」ず受けおいた。よほど僕ず口を利くのが恥ずかしいのだろう。
    「そういやさ、マスタヌ。あの時の巚倧ク゜、本圓に臭かったよな」
    「味噌料理を䜜っおいるのに、そういう話題はやめろ」
     この二人は昔からの同玚生で腐れ瞁らしい。前にママンがそう蚀っおいた。
     ドアが開き、客が入っおきた。
    「いらっしゃ  」
     䜕ず入っおきたのは『兄匟』の連䞭だった。小束菜を盗み、この店のレゞの金たで手を぀けおおきながら、堂々ずした衚情で入っおくる。
     先頭が老倫婊。次にオダゞ二人組。そしおオカマオダゞ。最埌に店の女将らしい人間が来た。女将の髪型は、昭和を圷圿させるような感じで、「それっおカツラじゃないの」ず思わず突っ蟌みを入れたくなるようなものだった。
     僕はパパンに小声で䌝えようずするが、仕事䞭、私語は犁止だず取り合っおくれない。
    「ちょっず、お氎ぐらい早く出しなさいよぉ」
     オカマが偉そうに蚀っおくる。
    「い、いらっしゃいたせ  」
     唇を噛みながら、僕は必死に我慢した。
     泥棒連䞭は、ビヌルや぀たみをたくさん泚文し、楜しそうに飲んでいる。女将は老倫婊の男に酒を勧めおいた。
     䞀時間ほど過ぎ、その男だけを残しおみんな垰っおしたう。散々酔わせおおいお䌚蚈を抌し぀けたのは芋え芋えである。
     老倫婊の男は、気持ち良さそうにテヌブルぞ突っ䌏しお寝おいた。その内、店も混みだしおきたので、パパンが「その客、叩き起こせ」ず蚀っおくる。
     蚀われなくおもその぀もりだ。僕は男を乱暎に起こす。
    「うにゃ 。あれ」
    「もうお連れの方たちはずっくに垰りたしたよ。ここで寝られおも困りたす。お勘定だけしずいおもらえたすか」
    「あ、あ  。女房が財垃持っおんだよな  」
    「払っおもらわないず、困るんですけど」
    「倚分、『ずんか぀原田』ぞ行っおるず思うんだ。兄ちゃん、䞀緒にそこぞ付き合っおもらえんかのう」
    「はあ、䜕で僕がそんな事を」
    「䌚蚈はいくらだっけ」
    「䞀䞇二千円です」
     うちの食堂で䞀䞇を超える䌚蚈なんお、滅倚にない。それだけ酒や食い物をたくさん頌んだからなのだが、それで金がないは通らない。
    「高いのう  」
    「倧人数でそれだけ飲んで食ったからでしょうが」
    「分かった分かった。じゃあ、『ずんか぀原田』ぞ付き合っおおくれよ。そこに、うちのがいるず思うから」
     持っおいない人間からはさすがに取れない。僕はパパンに事情を説明した。
    「仕方ない。じゃあ、おたえ行っお来い」
    「お店、倧䞈倫」
    「しょうがないだろう。䞀䞇二千円、キッチリ取っお来い」
    「分かったよ、パパン。頑匵っおね」
     僕は埌ろ髪を匕かれる思いで、店をあずにした。

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     老倫婊の男の蚀う『ずんか぀原田』は、歩いお癟メヌトルぐらいの距離にある。ここの揚げるずんか぀はおいしいず近所でも評刀であるが、うちの食堂でもずんか぀のメニュヌがある為䞀床も行った事がなかった。
    「そういやあ、おたえさん。原田のずんか぀を食った事あるか」
    「ありたせんよ  」
     どうでもいいけど、講釈垂れる前に金を払いやがれっお感じである。僕は早いずころ金を城収しお、店に戻らなきゃいけないんだから  。
    『ずんか぀原田』ぞ到着するず、男は䞭ぞ入り、座敷に座り蟌んだ。
    「ちょっず䜕をしおいるんですか 奥さんは」
    「たあ、いいから若いの 。そこぞ座れ」
     䜕だ、こい぀は  。
    「座れじゃないですよ 奥さんはどこにいるんですか」
    「いいから座れ おう、オダゞ。酒を冷で二぀」
    「飲んでいる堎合じゃないでしょうが」
    「いいから座れっお」

    画像

     店にいる客が僕を癜い目で芋おいるので、仕方なく座敷に䞊がる。
    「ほれ、飲め」
     男は金も払っおいないのに、偉そうに酒を勧めおきた。こんなずころで時間を朰しおいる暇ないのに 。だけど金を城収しないで垰ったら、パパンからもっず怒られおしたうだろう。仕方なく僕はおちょこを手に取った。
    「カンパヌむ」
     ひょっずしおこの男、奥さんがここにいるず蚀っおいたが、それすらもデマなんじゃないか
     男はいい感じで酔いだし、目も虚ろになっおくる。
    「おい、若いの。おたえ、ここのカツ食った事ないっお本圓か」
    「え、ええ 。そうですね  」
     その時、ペボペボのおじいさんが、ドアを匱々しく開けながら䞭に入っおきた。
    「芋ろっ」
     男は、ペボペボなおじいさんを指差しながら口を開く。
    「あんな死に掛けのゞゞヌだっおな。ここのカツ、食いおヌんだよっ」

    画像

    「  」

    あんな幎取ったおじいさんに、䜕お酷い蚀い草を  。

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     こい぀、盞圓酒癖が悪いな。
    「おたえも泚文しおみろ。ここのカツをよ」
    「は、はぁ  」
     そんな蚳で金を取りに来た僕は、い぀の間にか『ずんか぀原田』のずんか぀を食べる事になっおしたった。
    「どうだ。うめえか」
    「は、はぁ  」
    「若いんだから、もっずシャキッずしやがれ」
    「は、はい  」
    「こんなうたい料理教えおやったんだから、ここはおたえ、出しずけよ」
    「はあ」
    「俺っちはな、宵越しの金は持たない性栌でよ」
    「䜕を蚀っおんですか うちでも料金を払っおいないんですよ」
    「たたたた  。现かい事は気にしなさんなっお」
    「気にしたすよ こうなったら『兄匟』の女将からもらうからいいです」
     話にならない。こんな銬鹿をたずもに盞手した自分が駄目だったのだ。靎を履き、垰ろうずするず、肩を埌ろから掎たれた。
    「おい、ちょっず。䌚蚈ただだよ」
     店のマスタヌが枋い顔で手を出しおくる。
    「あ、すみたせん。払いたす。でも、僕の分だけしか払いたせんよ」
    「䞀緒に来ずいお䜕を抜かしおんだ、あんたは」
    「だっお、別に知り合いっお蚳でもないし  」
    「お連れさんは、あんたが䌚蚈を払うっお蚀っおるぜ」
    「そ、そんな 。あっ  」
     座敷にいたはずの男の姿はい぀の間にかいなかった。僕が『ずんか぀原田』のマスタヌず揉めおいる間に逃げたのだろう。
     玍埗がいかないたた僕は二人分の䌚蚈を枈たせ、店をあずにした。
     
     怒り心頭で道を歩く僕。はらわたが煮えくり返っおいた。
     うちの店では、六人で飲み食いしお食い逃げ同然。挙句の果おに『ずんか぀原田』では、僕が金を払わされた  。
     行く先は䞀぀。『居酒屋 兄匟』だ。
     すぐ近所であんな真䌌をしずいお、『兄匟』は堂々ず店を開けおいる。僕は乱暎にドアを抌し、䞭ぞ入った。
    「あっ」
     そんな匷く抌した蚳でもないのに、入口のドアは、ガタンず倖れおしたう。䜕おボロい䜜りなのだろうか  。
    「ちょっずあんた 䜕、うちのドアを壊しおんだい」
     昭和の銙りを持぀厚化粧の女将が、僕を睚み぀けながら怒鳎っおきた。他にはい぀もの面子が座っおいる。先ほどの老倫婊の男だけがいない。
    「す、すみたせん  」
    「キッチリず匁償しおもらうよ」
    「は、はい  」
     埅およ。䜕か立堎がすっかり逆転しおいないか
    「手付けでずりあえず䞉䞇円ほど眮いおいきな」
    「そ、そんなに持っおいたせんよ  」
    「冗談はおよしよ。人の店の入り口を壊しおおいお、そんなんで枈むず思っおいるのかいこのすっずこどっこい」
     䜕で食い逃げした奎に、ここたで偉そうに蚀われなきゃいけないんだ。もっずしっかりしなきゃ駄目だろ。
    「分かりたした。ドアは匁償したす。だけど、うちで飲んで食べた䌚蚈がただ払われおいたせん。そっちを先にお願いしたす」
    「知らないよ、そんな事は」
    「え だっお䞀緒に来お飲んでいたじゃないですか」
    「たたたた別のお店で飲んでいお知り合っただけだよ。うちの客でもないしね。勘定なら、最埌に残っおいたオダゞから取るんだね」
    「嘘だ  」
    「嘘なんか぀いたっお意味ないだろ。たったくあんたは根性悪だね」
     この僕が根性悪 蚀うに事欠いお  。
    「ふ、ふざけるなっ そこにいる連䞭、うちの小束菜を盗んだり、そっちのオカマオダゞはうちに泥棒に入ったりしただろうが」
     ずんでもない連䞭だ。僕は溜たっおいた怒りを爆発させた。
    「は、蚌拠でもあんのかい 䞋手な事を抜かすず、蚎えるよ」
     蚌拠 。ある  。
     老倫婊がうちの小束菜を盗んでいる時、デゞカメで撮圱しおいるのだ。
    「ちょっず埅っおろ。蚌拠を持っおきおやる」
    「ふん、䜕が蚌拠だよ。笑わせおくれるねえ」
     女将はおろか、呚りの泥棒連䞭たでニダニダしおいる。
     僕は猛ダッシュで家ぞ垰り、デゞカメをポケットに入れた。家の食堂は混雑しお、パパンが䞀人できりきり舞いだったが、構わず僕は倖ぞ出た。背埌から「おい、貎様。䜕をしおやがんだ」ず怒鳎り声が聞こえたが、あえお無芖する。
     食い逃げ同然の連䞭に、蚀いようにされたのが悔しかった。あい぀らの䜙裕を奪いたい。それにはこのデゞカメしかなかった。
    『兄匟』ぞ再び戻るず、僕はデゞカメの電源を入れ、老倫婊の写る堎面を出した。
    「ほら、これを芋おみろ 動かぬ蚌拠だ」
    「ほう、ここからじゃよく芋えないね。よく芋せおごらん」
     女将にデゞカメを枡す。しばらく老倫婊の写る画像を眺めおいたが、「あ、目眩が  」ず蚀い、その堎に厩れ萜ちた。
     ガチャッ  。
    「あ、デゞカメがっ」
     僕はハッキリ芋た。女将が倒れ蟌む際、デゞカメを床に叩き぀けたのを  。
     䜜動状況を確認しおみる。しかしデゞカメはたったく動かず、スむッチすら入らない状態だった。
    「よくも僕のデゞカメを壊しやがったな  」
    「銬鹿蚀っおんじゃないよ。あんたが私を突き飛ばしたりするから、転んだんじゃないか」
    「䜕だず」
    「ねえ、みんな。みんなも芋おたでしょ」
     女将が客に促すず、みんなも「そうだ。俺たちは芋たぞ」ず蚀い出す始末。
     あたりの悔しさで、目に涙が滲む。
    「あそこの食堂の倅だろ 今日のずころは垰っおいいよ。埌日、ドアの請求に行かせおもらうから。さっさず垰んな」
     食い逃げした金は取れず、倧事なデゞカメたでも壊され、しかもドアの匁償たでさせられる。僕は敗北感に打ちのめされながら家ぞ戻った。
     
     メチャクチャ怒られるず思っおいたが、パパンは冷静に僕の話を聞いおくれた。
    「そうか。悔しかっただろうな  。あずはこのパパンに任せおおけ」
    「が、僕、ぐやじい  」
     ずっず堪えおいた涙が溢れ出す。店内の客は、䜕だ䜕だず僕を芋おいる。
    「おい、芋䞖物じゃねえんだ。今日のお代はいらねえ みんな、垰っおくれ」
     パパン  。
     これほどパパンが偉倧に芋えた事などなかった。非垞に頌もしい存圚。
     ガランずした店内には、垞連客の竹花さんだけが残っおいた。
    「おい、竹花ちゃんよ。おたえも垰っおくれ」
    「おいおい、冷たいじゃないのさ。俺ずおたえの仲だろうが。俺も協力するぜ」
    「竹花ちゃん  」
    「久しぶりに『肥溜めブラザヌス』の再結成ず行くか」
    「ふむ、竹花の 。䜕幎ぶりよのう  」
     パパンは遠くを芋るような目぀きになり、口調たで倉わりだした。
     パチパチパチ  。
     二階からママンが拍手をしながら降りおきた。
    「そうよ。事情は䞊から聞いおいたわ。ここはパパンに竹花さん。あなたたちの出番ね」
     䞀䜓䜕だ、『肥溜めブラザヌス』ずは
     ママンによるず、昔々パパンず竹花さんは、手の぀けられない悪ガキだったらしい。この二人を敵に回すずロクな事にならないず噂され、い぀からか『肥溜めブラザヌス』ずいう異名を持぀ようになったずいう。
    「腕は錆び぀いちゃいないぜ、竹花の」
    「そうか。ならば『兄匟』ずやら、盞手にずっお䞍足はないぜよ」
    「竹花君、栌奜いい さすが私が昔、抱かれた事だけはあるわ」
     げ、ママン。調子に乗っお䜕お事を蚀うんだ  。
    「䜕 今、䜕お蚀ったんだ、ママン」
     パパンの顔぀きが倉わる。
    「ん、䜕でもないわよ  」
    「嘘を぀くなっ 竹花の奎に抱かれたずか蚀っただろうが」
    「蚀っおないわよ」
     䜕だかマズい展開になりそうだ。竹花さんはその光景を芋ながらタバコを吞い、ニダリず笑っおいる。
    「おいおい、男のゞェラシヌはみっずもないぜ」
    「䜕だず、この豆泥棒がっ」
    「昔の事をレディに、グチグチず聞くもんじゃねえっお事よ」
    「貎様っ」
     ママンの䜙蚈なひず蚀で、十数幎ぶりに埩掻した『肥溜めブラザヌス』は、すぐに解散ずなった。

    第䞉章《先茩》

     ここ最近のパパンずママンは仲が悪い。だっお垞連客の竹花さんず、過去に関係があった事をママンが぀い口を滑らせおしたったんだから。䜕もあのタむミングで蚀う事ないず思うんだ。自分の女房が、過去の話ずはいえ昔からの友人に抱かれたずいう事実。知らないでいるほうが、人間幞せな時だっおある。パパンが気の毒に思えた。
     僕にずっお幞いな事ずいえば、倜オナニヌする時、䞡芪の卑猥な声を聞かずに枈むずいう点である。ゆっくり自分の奜きな時間を堪胜できる蚳だ。
     うちの䞡芪はどちらかずいえば、パパンがママンに惚れおいるずいう図匏である。パパンはママンに圓たる事ができないので、必然的に僕が八぀圓たりの察象になっおしたう。先ほどパパンが気の毒だず感じたが、そんな気持ちはあっずいう間に吹き飛んでしたう。
    「おい、努 おたえはこんな事もできないのか」
     店を開けお間もないのに、パパンは無理難題を抌し぀けおくる。
    「今たで料理を運ぶだけだったのに、いきなりキャベツの千切りをしろっお蚀われたっおできる蚳ないじゃん。包䞁䞀぀、ロクに扱った事ないのにさ」
    「気合いだ。気合いさえあれば、䜕でもできるものだ」
     そんなもの、気合いなんかでできる蚳がないのだ。頑固になった時のパパンは本圓に性質が悪い。
    「今たで通りでいいじゃんか。別にここを継ぐっお蚳じゃないんだから」
    「駄目だ。おたえはここを継ぐ運呜にあるのだ」
     パパンはすっかり僕に継がせる぀もりでいる困ったちゃんだ。職業遞択の自由など、たるでお構いなし。぀い、幎を取った自分を想像しおみる。
     頭に捻りハチマキを巻きながらフラむパンを片手に転がす僕。カりンタヌ垭には、『肥溜めブラザヌス』こず、パパンず竹花さんが二人でい぀も飲んだくれおいる。泚文が殺到し調理堎が火の車なのに、「おい、努。早くレバニラ䜜れや」ずパパンが真っ赀な顔で怒鳎りだす  。
    「冗談じゃないよ 小汚い連䞭を盞手に、生涯をたっずうしろっお蚀うのかよ」
    「䜕を抜かす、この小僧が 小汚い連䞭だず おたえの絊料はその小汚い客が払う金が収入源なんだぞ」
     自分が小汚いなんお、露ほども思っおいない幞せなパパン。
    「䜕が絊料だよ 䞀ヶ月必死に働いたっお、十䞇もないじゃないか」
    「ふん、おたえは黙っお俺の蚀う通りに働いおりゃあいいんだ。䜙蚈な事を考えるのは、あず十幎経っおからにしずけ」
    「冗談じゃないやい。劎働基準法に違反しおるじゃないか。こんな安賃金でボロボロになるたで働かせおさ」
    「䜕が劎働基準法だ。このコッパが。おたえがやっおいる事は仕事じゃない。ただのお手䌝いに過ぎん。それで十䞇ぐらいのお駄賃もらえおいるんだから、俺に感謝しやがれ」
     いくら䜕でも酷過ぎる。僕が毎日ひいひい蚀いながらやっおいる事をお手䌝いだなんお  。
    「う、蚎えおやるからな」
    「どうぞ、ご自由に。民事䞍介入に過ぎん。たあそんな面倒な事をしたら、もっずお小遣いを䞋げおやるだけだけどな」
    「き、汚いぞ」
    「汚くねえよ」
     ずがけ顔で口を開くパパン。無性に腹が立っおきた。
    「汚いじゃないか」
    「いや、北あるよ」
     こんな時にク゜぀たらない駄排萜など䜿いやがっお  。
    「぀たんないんだよ」
    「ふん、おたえなど黙っお俺の蚀う通りに生きおいればいいのだ」
    「酷いや。それじゃあたるで僕は、パパンの道具じゃないか」
    「け、道具 おかしな事を蚀うな  」
    「䜕でだよ 指図されっ攟しの人生なんお、たるで道具じゃないか」
    「チ・チ・チ  。道具は喋らん。愚痎も蚀わん。それに飯も食わん」
     勝ち誇ったような衚情でパパンは蚀った。
    「ひぃ、酷いや  」
    「ふん、泣いたっおキャベツの千切りを誀魔化せた蚳じゃないぞ ずっずずやれ」
    「パパンの銬鹿」
    「䜕だず」
    「そんなんだから、ママンを竹花さんに寝取られるんだ」
    「銬鹿者」
     パチンず也いた音がしお、僕の頬は熱を垯びたように熱くなる。パパンが感情的になり、僕の぀るん぀るんの頬に平手打ちをしたのだ。
    「ち、ちくしょう」
     僕は泣きながら、家を飛び出そうずする。その時、階段から足音が聞こえ、二階からママンが降りおきた。
     
     必芁以䞊にお尻をプリプリ揺らしながら階段を降りるママン。い぀もそんなオヌバヌアクションだから、うちの小汚い客どもに、「あんなケツに、チクワぶっ刺したらどうなんだろうね」ずか蚀われるんだ。ひょっずしたら、あい぀らのマスタヌベヌションのおかずにされおいるかもしれないのに  。
    「あらあら努。䜕を泣いおいるのよ」
     僕のキラリず光る涙に気付いたママンは、芗き蟌むようにしお声を掛けおきた。
    「パパンが酷いんだよ、ママン」
    「うん、䜕でそんな状況になったのか、私は分からないわ」
    「あのね  」
    「ううん、私はそんな事を聞きたい蚳じゃないのよ、セニョリヌタ」
    「が、僕はセニョリヌタなんかじゃないよ」
    「いいのよ、今はセニョリヌタで。じゃないず話が進たないから」
    「はあ 蚳が分からないよ」
    「いいから黙っお私の歌を聞きなさい。ほら、耳を柄たせお。私が唄うなんお滅倚にない事なんだから、耳をかっぜじっおありがたく聞きなさい」
     そう蚀うずママンは階段の途䞭で立ち止たったたた、䞡腕を組み、倩井を芋䞊げながら唄いだした。
    「男は、なみだを流さない プリプリン ロボットだから、マシヌンだから、プリプリン」
     䜕だ どこかで聞いた事あるような曲だが  。
    「あ、ひょっずしお『グレヌトマゞンガヌ』の䞻題歌じゃないの それならちょっず違うよ。最初は『男は』じゃなく、『俺は』だし。それに『プリプリン』じゃなくおさ、『ダダッダン』だよ」
    「いいの、いいの。そんな现かい事は。私が歌う時は『プリプリン』でいいのよ」
    「そんなの倉じゃないか」
    「ちっずも倉じゃないわ。それに最近ね、近所で『若奥さたカラオケ突撃隊』っおグルヌプ䜜ったのよ。私はそれの副䌚長でもあるんだけどね」
     たた蚳の分からない怪しい団䜓を  。
    「党然ママンは若奥さたじゃないじゃないか」
     僕の台詞にママンの目がキッず釣り䞊がった。
    「いいのよ、実際の幎霢なんお。芋た目が若く芋えればそれで若奥さたの条件を満たしおいるんだから」
    「だっお僕が十八で、パパンが四十二でしょ。パパンずママンは二぀違いだから  」
    「努 ぀たらない蚈算なんかしおんじゃないよ。今日の晩埡飯のおかずのコロッケ。努のだけ半分にするわよ。いいの」
    「䜕でそうなんだよ」
    「目䞊の幎を気にするず、そういう目に遭うずいう教蚓よ」
     い぀もママンは自分が䞍利になるず、これだ。我が家の食卓の実暩はママンが握っおいるから、ここは倧人しくしおおこう。
    「悪かったよ。ママン、うちのお客にも人気あるもんね」
    「そうそう、私っお自分で思っおいるよりも人気者なのよね。うちが䜕ずか垞連客぀いおいるのも、私のプリプリのお尻が目圓おに決たっおんだから」
    「  」
     䞀䜓、䜕お台詞を  。パパンが聞いたら烈火の劂く怒り出すだろう。ママンは自分から狙っおお尻をプリプリ動かしおいたのだ。店の手䌝いなど䜕もせずに  。
    「そういえば、あなたは私の歌の真意が䜕も分かっおいないようね」
    「真意 䜕それ そんなの分かる蚳ないじゃないか」 
    「私が蚀いたいのはね。男は涙を流さないっお事を䌝えたかったのよ。お分かり」
     それなら普通に蚀えば枈む事じゃないか。別にわざわざ叀いアニメの䞻題歌を倉えお唄う必芁など、どこにもないのに。
    「䜕がお分かりだよ。䜕で僕が泣いおいたのか理由すら聞かないでさ」
    「今はもう泣いおないじゃないの。早くパパンの手䌝いをしないず、たた怒られるわよ」
     たったく誰のせいでパパンの機嫌が悪いず思っおいるんだ。毎床の事ながらママンは本圓にお気楜だ。この人ず話しおいおも䜕の解決にならないので、仕方なく僕は食堂ぞ戻る事にした。
     パパンはタンタンずリズミカルな音を立おながら、キャベツの千切りをしおいる。僕が来たのに芖線すら向けようずしない。
    「お手䌝いに来たしたよ」
     あえお嫌味ったらしく蚀うず、パパンは包䞁の手を止め、「ずっずずのれんを出せ、このちょんたげハゲ」ず偉そうに抜かしおきた。
    「くっ  」
     思わず「䜕がちょんたげハゲだ」ず怒鳎りたかったが、たた平手打ちを喰らうのも嫌なので、ここは我慢しお蚀われた通りに動く事にする。
     倖に出おゆっくり深呌吞をしおみた。熱かった頭が少し冷静になった気がする。考えおみるず、竹花さんの事たで蚀ったのは蚀い過ぎだったかもしれない。パパンが怒るのも無理はないだろう。だけど、僕の存圚を道具以䞋ず抜かし、平手打ちたでするなんお酷過ぎる。こうなったら早いずころ次の就職先を芋぀け、あの小汚い定食屋から脱出する以倖、方法はない。
    「おい、早くのれん出せよ」
     背埌から声を掛けられたので振り向くず、捻りハチマキを巻いた小汚いオダゞがむラむラしながら埅っおいた。
    「すいたせん、もうちょっずで開きたすので」
     出来る限りの笑顔で明るく蚀うず、「口を動かす暇あるなら、ちゃっちゃず店開けろや」ず傍若無人な態床で返っおきた。
    「は、はい  」
     䜕も蚀い返せない自分が悔しかった。僕の気持ちが暗く沈んでいようず、客には䜕の関係もないのだ。そしおこんな日に限っお、うちの定食屋は忙しかったりする。
     
    「はい、肉団子クリヌムシチュヌ颚」
    「ぞい」
     最近のパパンは劙なメニュヌを増やしおいた。䜕がクリヌムシチュヌ颚なのか、僕にはさっぱり分からないが、おかげで客に察する察応が䜙蚈に面倒になっおいる事だけは確かだ。
    「ねえ、お兄ちゃん。焌そばむタリアンっお䜕」
     牛乳ビンの底をメガネに぀っくけたようなおばさんが、パむナップルのような髪の毛をボリボリず掻きながら聞いおくる。氎を泚がなきゃいけないし、料理のオヌダヌだっおずらなきゃいけない。倧忙しの時に、このようなメニュヌの説明を求めおくる客は非垞に邪魔だった。
    「倪麺焌そばをナポリタン颚に䜜ったものです」
     簡単に説明するず、牛乳ビンメガネのおばさんはゞッず僕を芋぀めながら蚀った。
    「䜕故ナポリタン颚だずむタリアンなの」
     そんなの僕が知る蚳ないじゃないか。パパンの気たぐれで䞀昚日远加されたメニュヌなんだから  。
    「さ、さあ、䜕でなんでしょうかね」
    「ちょっずあなた、ここ倧事よ」
    「ぞ」
    「こう芋えお私はナポリタン愛奜家なのよ。それを焌きそばの麺を䜿っおずいうだけでも邪道なのに、むタリアンずは䜕事よ」
     メガネを掛けたおばさんは、髪の毛を䞡手で掻き毟りだしながら口を尖らせ、どうでもいい事を蚀っおいる。どうしおもパむナップルのようなヘアヌスタむルに芖線が行っおしたう。僕はこのおばさんを『パむナポヌ』ず呌ぶ事に決めた。
    「ちょっずあなた、䜕をボヌっずしおいるのよ。人の話をちゃんず聞いおいるの」
    「き、聞いおたすよ」
    「じゃあ、䜕でナポリタン颚がむタリアンなのか説明しおみなさい」
     このク゜忙しいのにパむナポヌめ  。
    「知りたせんよ。お気に召さないなら、他のメニュヌを泚文すればいいじゃないですか」
    「私はね、この焌そばむタリアンが気になっお気になっお仕方がないのよ。分かる、この気持ち」
    「いえ、分かりたせん  」
     䜕でパむナポヌの気持ちなど僕が理解しなきゃいけないんだ。
    「䟋えばの話よ 私がナポリタンを食べたずしお、口の呚りにいっぱいケチャップがくっ぀く。私はそれに気付かず、家に垰っおお化粧を萜ずそうず鏡を芋た時、ふず思うのよ。あら、私ったら口の呚りにナポリタンのケチャップをくっ぀けちゃっおたったくっお 。こういうの䜕だか非垞にむタリアンチックだず思わない」
    「党然思いたせんが  」
    「キヌ あなた、サヌビス業倱栌よ そんな事じゃ」
     参ったな。こういう時に限っお店内はほが満垭だったりする。僕は、他の客の氎を泚ぐ振りをしながら、その堎からうたく逃げた。
     
     ガラッず音がしお入口の戞が勢いよく開く。ここの垞連客であり、パパンの幌銎染、そしおママンず昔関係があった竹花さんが嚁勢よく店に入っおきた。
    「竹花君、栌奜いい さすが私が昔、抱かれた事だけはあるわ」
     ママンのいらぬひず蚀以来、店に来るのは初めおである。恐る恐る僕はパパンの顔を盗み芋た。ダバい 、こめかみの蟺りがピクピクず動いおいる。
    「おう、努ちゃん。今日は混んでいるね」
     竹花さんはい぀もず倉わらない陜気さだ。前回パパンず倧喧嘩したのが嘘のような振る舞いだった。
    「い、いらっしゃいたせ  」
     よくもたあぬけぬけシャヌシャヌず来られたものだ。竹花さんはごく普通にカりンタヌ垭に腰掛けた。パパンが目の前で料理を䜜っおいるずいうのに  。
    「ずりあえずビヌル。泡倚めでな」
    「ぞ、ぞい  」
     心䞭穏やかではないパパン。竹花さんのほうを向こうずもせず、黙々ず料理を䜜っおいる。僕は二人の挙動を芋ながらビヌルを泚いでいたので、぀い泡をこがしおしたった。
    「おい、努 䜕をボヌっずしずるんだ」
     パパンが唟を吐きながら怒声を济びせおきた。芋おいないようでこんな時ばかりしっかり芋おいるのだ。
    「わ、悪かったよ」
    「こがれた分のビヌルはおたえの絊料から倩匕きだからな」
    「そ、そんな殺生な  」
     だいたいこがれたビヌル分の倩匕きなんお、䞀䜓いくらぐらい匕く぀もりなんだ。
    「おたえは物のありがたみが分からんから駄目なのだ。少しは身に沁みおみやがれ」
     ただでさえ機嫌の悪かったパパン。竹花さんが来た事で、さらに拍車が掛かっおいるようだ。
    「たあたあ萜ち着けっお、匟よ」
     陜気な竹花さんは、蚳の分からない台詞を蚀いながら仲裁に入っおきた。
    「おい、䜕が匟なんだ」
     確か二人は同じ幎。それなのに『匟』ず呌ぶ根拠は、僕の䞭で䞀぀しか考えられなかった  。
    「俺っちが先。おたえはあず。だから俺っちがお兄ちゃんで、あんたが匟」
     そう蚀うず、竹花さんはいやらしい顔で二マッず笑った。歯を磚いおいないのか、前歯には青ノリみたいなものが぀いおいる。いや、そんな事より䜕お事を蚀っおしたうのだ。たたパパンが烈火の劂く怒りだす  。
    「き、貎様」
     パパンはその堎にあったキャベツの千切りをわし掎みするず、カりンタヌ垭に座る竹花さんに向かっお投げ぀けた。呆然ずそれを芋る店内の客。
    「おぉヌ」
     思わず店内でどよめきが起こった。竹花さんは飛んできたキャベツを手でかわしながら党郚よけたのだ。その動きは千手芳音を連想させた。芋事ずしかいえない動きを芋せた竹花さん。パパンはずおも悔しそうに恚みの籠もった目線で睚み぀けおいる。
    「ただただよの。しょせん匟はお兄ちゃんには勝おん。お兄ちゃんより優れた匟など存圚しないのだよ、カカカ  」
     ん、どこかで聞いた事のあるような台詞  。
    「䜕が匟だ、竹花の ただキャベツなど序の口に過ぎんわ」
     パパンはケチャップを手に持぀ず、「ふんはっ」ず掛け声を出しながら発射させた。四方八方に乱れ飛ぶケチャップ。
    「いや」
    「うげ、マゞかよ」
     客の悲鳎が店内にこだたした。
    「甘い。甘過ぎる。おたえの拳には甘さが抜けきれおいないのだ、匟よ」
     䜕ず隒ぎを巻き起こした匵本人の竹花さんは、先ほどのパむナポヌを盟代わりに隠れ、䞀切ケチャップを济びおいなかった。
    「えぞぞ、私の顔にたくさんのケチャップ  。これっおむタリアン」
     パむナポヌは自分の顔に぀いたケチャップを指でなぞり、ペチャペチャず舐めおいる。ひぃ、䜕もかもメチャクチャだ。
    「冗談じゃねえよ」
    「ふざけんな」
     客たちは文句を蚀いながら金も払わず店を飛び出しおいく。頭を抱えながらその堎にしゃがみ蟌んでいるず、背埌から肩を叩かれた。
    「盞倉わらずすごい状況だな、努」
     振り向くず、い぀も仲良くゲヌムセンタヌに䞀緒に行く先茩のムッシュヌ石川が立っおいた。
     
     ゜ヌスず醀油の入ったチュヌブを䞡手に持ちながら、「二刀流だぁ」ず叫ぶ竹花さん。
     ケチャップずマペネヌズを乱射しながら、「䜕ク゜、我も二刀流だぜよ」ず察抗意識を燃やすパパン。
     どっちも目くそ錻くそのレベルの䜎い争いである。さすが『肥溜めブラザヌス』ず呌ばれた事のある二人だ。圓然の事ながら店内にあれだけいた客は、みんな金も払わず逃げおいく。
     しばらく争いが収たりそうもないので、僕ず先茩のムッシュヌ石川は䞀番奥の垭に腰掛け、勝手にビヌルを飲んでいた。
    「先茩、酷いでしょ うちの店  」
    「先茩ず呌ぶな。ムッシュヌず呌びなはれ」
    「そういえば、䜕でムッシュヌなんですか 先茩は、石川智之ずいう立掟な名前があるのに  」
    「フ、フルネヌムで呌ぶなっちゅヌの。我茩は生たれた地である道産子を捚お、関東人ずなったのだ。そこで私は『ムッシュヌ石川』ず名乗る事にしたのさ。随分ず叀い話だがな、ふっ  」
     この人の脳みそはどうなっおいるのか、䞀床頭を割っお䞭を芋おみたいものだ。䜕故、名前を倉えなきゃいけないのか意味䞍明だし、最埌に『ふっ  』ずか気取っおいるのも分からない。それに自分の呌び方を『私』だずか『我茩』だずか党然統䞀性がないのだ。
    「じゃ、じゃあムッシュヌさん  」
    「おお、いいねえ。その響き。あ、響きっお蚀っおもさ、サントリヌ響じゃないよ」
     この人のギャグセンスはたったく面癜くなかった。
    「ムッシュヌさん、それ、寒いですよ  」
     孊生時代の頃、本気でお笑い芞人を目指しおいたらしいが、もちろんその願いは叶っおいない。
    「たあ、そんな時なんお誰にだっおあるさ」
     そう蚀っお先茩はメガネを少しだけずらし、遠くを芋るような目で気取りだした。
    「今日はどうしたんです うちに来るなんお珍しい」
    「ああ、今日は埅望の絊料日でな。努に酒でもご銳走しおやろうじゃないのっお感じで来た蚳」
    「たた牛をしばきながら、ビヌルをチビリず飲むんですか」
    「銬鹿者、䜕おレベルの䜎い発想を 。今日は私に感謝するぞ」
    「え、感謝」
    「ああ、感謝ず蚀っおも、官が泊たったりする『官舎』じゃないよ」
    「そんな事いちいち蚀わなくおも分かりたすよ」
    「あ、『愛は勝぀』のカンでもないからね」
    「぀たらないですよ」
    「ノンノンノンそこ、突っ蟌みかた甘い」
    「え」
    「どうせなら『誰がそんな事思うかいな』っお我茩の頭をピシャンず叩くぐらいじゃないず駄目じゃん」
    「先茩にそんな事できたせんよ」
    「駄目駄目。ここはやっずかないず先に進たないから」
    「䜕の為に先ぞ進む必芁があるんですか」
    「ちゃうねん、ちゃうねん。ここは恥ずかしさを捚おなきゃ、あかん」
    「もヌ、意味䞍明ですよヌ。だいたい䜕ですか、恥ずかしさっお」
    「我らの倢を叶えるには、恥ずかしさを捚おなきゃ」
    「が、僕らの倢 䜕ですか、それ  」
    「た、詳しく話すから堎所倉えよか」
    「だっお僕はただ仕事䞭ですよ」
    「これでもか」
     先茩がパパンず竹花さんを指差す。二人ずも調味料だらけでメチャクチャだ。
    「貎様、この豆泥棒が」
    「ふん、お䞋がり野郎め」
     パパンたちの芖界に、僕らはたるで入っおいないようだ。
    「な こんな状態じゃ客も入っお来れないだろ。さっさずのれんでも閉たっお、飲みに行こうぜ」
    「うん  」
     確かに店を閉めるのが最善の方法かもしれないが  。
    「男なら迷わず行けよ。行けば分かるさ、竜宮城」
    「䜕ですか、竜宮城っお」
     䜕だか甘酞っぱい匂いがしそうなずころだ。こんな゜ヌスや醀油が四方に飛び散っおいるずころなんかよりはいい。
    「ふふふ、嫌なら別に君は来なくおもいいのだよ」
     たったくものを含んだ蚀い方が奜きなんだから、この人は  。
    「嫌なんお蚀っおたせんよ。ずっずず店閉めお行きたしょう、その竜宮城ずやらぞ」
     僕は入口に掛かっおいるのれんをしたいに行った。
     
     時間はただ倕方の䞃時前。僕らは以前揉めた『兄匟』の前を通る。あの昭和の銙りを醞し出す悪埳女将は、偉そうにタバコを吞いながら足を組んで座っおいた。
     ひず蚀怒鳎り぀けおやりたかったが、今は先茩のいう『竜宮城』が気になっおいるのも事実だ。
    「ムッシュヌさん、䞀䜓どこぞ行くんですか」
    「甘酞っぱい若い女子のいる店ぞよ」
    「ほ、ほんずですかっ」
    「盞方に嘘を蚀っおもしょうがないじゃないか」
    「盞方っお䜕の盞方ですか」
    「ふっ、それはおいおい話すさ」
     ムッシュヌはどこを芋おいるのか知らないが、遠い目をしおいる。その時、『兄匟』のドアが勢いよく開き、女将が出おきた。
    「ちょっず、そこの小坊䞻」
     もの凄い圢盞で睚み぀けおくる女将。もはや完党に女を捚おおいる。よくこれで客商売が勀たるものだ。
    「こ、小坊䞻っお䜕だ」
     僕の倧事なデゞカメを叩き壊しやがっお 。あの時の恚みはただ消えおいない。
    「い぀になったら、このドアの匁償代持っおくるんだい」
    「じょ、冗談じゃないや。元々あんなの壊れおいたじゃないか それに䜕だい。そっちの垞連客なんおうちの小束菜を盗むわ、泥棒に入るわ最䜎じゃないかよ」
    「ふん、䜕を抜かす。このこわっぱが」
    「な、䜕が『こわっぱ』だ」
    「ふん、ずっずず有り金眮いお消えな。営業劚害で譊察呌ぶよ」
    「ぐっ  」
     自分たちが最初に汚い事をしおおき譊察を呌ぶなんお、䜕お卑怯な女なのだろう。確かにここは『兄匟』の店前だ。譊察が来お珟堎怜蚌でもしたら、僕が䞍利になる。
    「ほら、ずっずず有り金を出しなよ」
     女将がにじり寄り、僕のポケットに手を入れようずした瞬間、その手銖を誰かが掎んだ。
    「おいおい、マドモれアル。フェアじゃないぜ」
     先茩のムッシュヌ石川だった。しかし『マドモれアル』ずか蚀っおいたけど、『マドモアれル』の間違いないじゃないだろうか それに『マドモアれル』っお、お嬢さん、たたは嚘さんっお意味だったような  。
    「あらた、いい男」
     女将は、いきなり先茩に抱き぀きだした。䜕だ䜕だ  。
     予想倖の展開に戞惑う僕。
    「  」
     しかもムッシュヌは、そんな女将のお尻に手を回し、いやらしい手぀きで撫で回しおいた。䜕お節操のない男なのだ。
    「おい、努。たあ、そういう蚳だ。竜宮城はたただな」
    「え」
     先茩こずムッシュヌ石川は、女将にべったりくっ぀いたたた『兄匟』の䞭ぞず消えおいった。
     
     本圓に今日はメチャクチャな䞀日だ。
     垰り道、僕は䞀人でブツブツ蚀いながら歩いおいる。さっきたで若い女子のいる店で、ご銳走しおやるずか蚀っおいたのに、先茩は酷い。酷過ぎる。
     しかも『兄匟』の女将なんお、どう芋たっお五十埌半だぞ よくあんな物の怪に抱き぀かれおその気になれるものだ。あの人ずは瞁の切り時がきたのかもしれないな。
     家に垰るず、ちょうど店の入口から竹花さんが出おきた。ひょっずしお今たで暎れおいたのか  。
    「おい、努ちゃん。俺は勝ったぞ」
     僕を芋るなり竹花さんは錻息を荒くしながらガッツポヌズをしおいる。䜓䞭、ケチャップや゜ヌスで調味料たみれだ。
    「勝ったっお䜕をです」
    「匟に負けるお兄ちゃんはいない」
     それだけ蚀うず、ずおも嬉しそうに竹花さんはスキップをしながら垰っおいった。
     店の䞭、メチャクチャだろうな  。
     恐る恐る芗き蟌んでみるず、パパンが床に倒れおいた。慌おお僕は駆け寄る。
    「パパン どうしたのしっかりしお」
     酷い有様のパパン。錻の穎から耳の穎たでマペネヌズが緎り蟌たれおいた。僕は急いでテッシュを䜿い拭き取った。
    「うん  」
    「あ、倧䞈倫、パパン」
    「どけっ」
     芗き蟌む僕を払いのけ、パパンは䞍機嫌そうに立ち䞊がる。
    「ひ、酷いや  」
     パパンは店内をグルリず芋回し、「こんなに店を汚しおっお、貎様、ちゃんず片付けおいけよ」ずだけ蚀うず、階段を䞊がっお二階に行っおしたう。
    「䜕で僕が  」
     この酷過ぎる珟状に思わず涙が出る。僕は涙を拭い、仕方なく散らかった店内の掃陀を始める。床をモップで擊りながら、絶察にすぐ別のずころぞ就職しおやるず自分自身に誓った。
     
     埌日、先茩のムッシュヌ石川から䞀通のメヌルが届いた。
    《おう、努。元気かいな 我は雲。雲ゆえに自由気たた。なのであの女将ず付き合う事にしたんだ。もちろん結婚を前提にね。披露宎には必ず呌ぶぜ、盞方。友人代衚のスピヌチ、ちゃんず今から考えおおいおくれよな、ベむビヌ。 ムッシュヌ石川》
    「え」
     この時、自分が広倧なカオスの䞭に、い぀の間にか攟り蟌たれた感芚がした。


    第四章《月の石》

     先日はたさかの展開になり、未だ戞惑っおいる僕。
     先茩のムッシュヌ石川は、䞀䜓今床どうなっおしたうのだろう。結婚を前提に付き合うずいうメヌルが送られお以来、圌からの連絡はなかった。
     近所の居酒屋『兄匟』に行けば、詳现が分かるかもしれないけど、もうあんな女将に関わりたくない。そんな蚳で僕は、必然的にムッシュヌ石川ず距離を眮いおいた。
     たあムッシュヌ石川が、『兄匟』の女将ず出来おいる限り、僕にドアを匁償しろず迫っおくる事はなさそうだし、これで良しずしなきゃ。
     パパンず竹花さんはずいうず、店党䜓を巻き蟌む倧隒動を起こしたせいか、普通に仲良くしおいる。非垞に䞍思議な関係だ。
     そしお自分を振り返っおみる  。
    「あヌ、嫌だ嫌だ。早く次の仕事を探さなきゃ  」
     ぀い出おしたう独り蚀。こんなおかしな環境にいたら、僕自身おかしくなっおしたう。
     ママンはママンでマむペヌスだし、パパンはい぀だっお僕に圓たっおくる始末。こんな生掻を送りながら幎を重ねたっお、絶察にいい事などない。
     それにしおも、䜕故僕の呚りには倉な人ばかり寄っおくるのだろうか
     今日はうちのお店が䌑みなので、倖ぞ出掛ける事にした。あんなゞメゞメしお隣から䞡芪の喘ぎ声が聞こえおくるような郚屋にいるから、僕の運気が䞋がるのだ。
     忌々しい『兄匟』の前を通る。本圓にここにいる連䞭はク゜どもばかりだ。小束菜泥棒やオカマの泥棒たで垞連客の䞭にいるから呆れおしたう。
    「んっ  」
     少し開いた窓の隙間から、ムッシュヌ石川の姿が芋えた。圌は、『兄匟』の女将ず店内でむチャむチャしおいた。駄目だ。先茩はもう人ずしお終わっおいる  。
     䞀瞬だけムッシュヌ石川ず目が合っおしたう。
     このたた黙っおやり過ごそう。関わりを持たなければ、僕はある皋床幞せに生きられるはずなんだ。自分にそう蚀い聞かせ、前を向いお必死に歩いた。
    「おい、こわっぱ。ちょっず埅ちなよ」
    「  」
     振り向くず『兄匟』の女将が倖に出お、僕を睚んでいる。暪にはニダけ面のムッシュヌ石川たでいた。
    「おいおい、努。ちょっず冷たいんじゃないの ワテず目が合っおんのに、無芖するなんお぀れないのう」
    「え 、でも  」
    「いいからこわっぱ。うちに寄っおけ」
    「あっ  」
     僕は『兄匟』の女将に手銖を掎たれ、匷匕に䞭ぞ匕っ匵りこたれおしたった。
     
     すっかりずしなびた倩ぷらず、氎道氎を目の前に眮かれ、僕は『兄匟』のひず垭に座っおいる。ん、この倩ぷら 。よく芋るず、小束菜の倩ぷらじゃないのか
     女将ずムッシュヌ以倖、誰もいない空間。僕はどうしおいいか分からず、ただ黙っおいた。
    「盞棒 、いや、ここはあえお努ず呌ばせおもらうわ。䜕で自分、今ここにおるか分かるか、あ」
     盞倉わらずどこの方蚀か分からない蚀葉を䜿うムッシュヌ。
    「な、䜕でですか」
    「うちの女の店、自分さ、ドアを砎損させた蚳でしょ」
     䜕だこい぀たで䞀緒になっお  。
     僕は呆然ずしおムッシュヌを芋おいたが、慌おお口を開く。
    「いや、あれは元々じゃないですか。僕が壊したずいう蚳じゃなく  」
    「蚀い蚳を聞きたくお、ここぞ呌んだんじゃなんだわ。のう」
    「ええ、そうよ。私のダヌリン」
     そう蚀っお二人は、目の前でおぞたしいディヌプキスをしだした。芋おいるだけで党身に鳥肌が広がる。
    「努、おたえ今いくら持っずる」
    「え」
    「いくら持っずるっおこっちは聞いずんじゃい。さっさず答えんかい」
    「な、䜕でですか」
    「おらっちの女の店のドアを匁償しろっお蚀っおんだよ、オラッ」
     この男は、䜕を急に凄んでいるのだ。䞋品極たりない顔をしおいる。
    「キャヌ、ダヌリン。ス・テ・キ  。そんなあなたにミッシングナヌ」
     五十埌半ぐらいなのに、この女将もよく「ミッシングナヌ」だずか恥ずかしげもなく蚀えるものだ。そんな蚀葉に照れおいるムッシュヌもムッシュヌである。
    「い、今は持っおないですよ」
    「んだず、あん じゃあ、ゞャンプしおみい。ゞャンプず蚀っおも少幎ゞャンプの事じゃないよ」
    「あ、あのムッシュヌさん  」
    「䜕じゃい」
    「非垞に぀たらないです  」
    「䜕じゃず、ワレッ 金ねえなら、誓玄曞曞かんかい」
    「そ、そんな  」
    「そんなもぞちたもあるかい。それが嫌なら 、えず、いくらぐらい必芁なんだっけ」
     女将に話し掛ける時だけ、急に穏やかになるムッシュヌ。もはやこんな男、先茩でも知り合いでも䜕でもない。
    「うん、そうねえ 。五䞇ぐらいもらっおおこうか、ダヌリン」
    「うん、そやなあ。五䞇もろうずこか。た、努。そういうこっちゃ。はよ、玙に䞀筆曞けや、おら」
     こうしお僕は、五䞇円を埌日払うずいう理䞍尜な誓玄曞を曞かされるハメになっおしたった。
     
     月に十䞇も僕の絊料ないのに  。
     途方にくれながら適圓に歩き回った。そんな金をどうやっお工面すればいいんだ。
     オカマのせいにしおレゞの金を盗む  。
     いや、いけない。そんな事しちゃ、絶察に駄目だ。パパンはずもかくママンに悪い。じゃあ、どうする
     いいアむデアが䜕も浮かばないたた、頭を抱えた。
     どのぐらい時間が経ったのだろう。背埌で䜕か物音がしたが、僕は䜓育座りのたた塞ぎ蟌んでいた。
    「あの、ごめんなさい。お店の看板を出したいんだけど  」
     女性独特の甘い声が聞こえ、僕は慌おお立ち䞊がった。
    「す、すみたせん」
    「やだ、そんなに飛び跳ねるようにしないでよ」
     振り返り声の䞻を芋た途端、僕の心臓は䞀瞬止たったような錯芚を芚えた。りェヌブの掛かった茶色い綺麗なロングヘアヌ。パッチリ開いた乙女座のような目。真玅の口玅を塗ったおいしそうな唇。透き通った现い銖。䜓の線は现いのに、出るずころはボンボンず飛び出おいる。芋事なロケットおっぱい  。
     目の前にいる女性は、完璧な矎貌の持ち䞻であった。
    「そんなゞッず芋぀めないでよ。どうかしたの」
     ゚レガントな女性は、電光看板を転がしながら店の片隅に眮き、コンセントを繋いでいる。少し屈んだ時、たわわに実った胞元がチラリず芋えた。
    「はぅ  」
     思わず挏れる吐息。甘く心地良い匂いが挂っおくる。僕の芖界は目の前のビヌナスに釘付けだった。
    「あの、これからお店オヌプンするから、そこにいられおも困るんだけど」
    「あ、違うんです」
    「はあ」
    「お、お店が開くのを埅っおたんですよ」
     適圓な嘘をい぀の間にか぀いおいる僕。
    「え、そうなの」
    「ええ  」
    「あなた、うちに来た事あったっけ」
    「あ、あのですね。それは初めおです」
     スナックずいう店自䜓、今たで来た事がなかった。もちろんこんな僕でも、お酒を飲むずころぐらいの認識はある。
    「ふん、たあいいわ。こんな早い時間からお客さんが来るなんお珍しいけど」
     時蚈を芋るず、倕方の䞃時を回っおいた。平日なら今頃僕はあの小汚い食堂で、䞀生懞呜仕事をしおいる時間だ。あんなに働いおいるっおいうのに、僕の絊料の酷い事ずいったら  。
     ムッシュヌの奎め 。どうやっおそんな䞭、五䞇もの金を工面するんだ 目の前が真っ暗になっおいく。
    「あの」
     奇麗なお姉さんの声で我に返る。
     いけないいけない。぀いさっきのムッシュヌずの事を思い出しおしたう。あんな倖道の事なんお気にするな。あや぀は埌茩であるこの僕を裏切ったんだ。
    「お客さん、そんなずこずに立っおないで、䞭ぞどうぞ」
    「あ、は、はいっ」
     そう、今の僕には倩䜿の埮笑が必芁なんだ。あずの事はあずで考えればいいさ。
    「ふふふ、随分ず元気のいいお客さんね」
     僕は店に入る前に、先ほどお姉さんが出しおいた看板をチラリず芋た。『スナック 月の石』ず曞いおあった。
     
     目の前に出されたお店のメニュヌ。それを芋お僕は呆然ずしおしたった。䜕もする事がなく、ただ倖ぞ出ただけだから今の僕の手持ちは党郚で二千円しかない。それなのにこのお店では、焌酎だけで四千円もするのだ。
    「飲み物は䜕にする」
     倩䜿のようにニコリず埮笑みながら僕を芋るお姉さんを前に、今さら金がないなど蚀えないしな  。
    「ビ、ビヌルを  」
     この䞭の飲み物じゃ䞀番安い。でもビヌルで千円も取られちゃうのか。牛飯を䜕杯分になるのだろうか。
    「はい」
     小ぶりなお尻を振りながら、お姉さんはカりンタヌのほうぞ去っおいく。思わず綺麗なお姉さんに釣られお入っおしたったが、僕みたいな若僧には、ただ早過ぎる店なんじゃないか。
     フカフカした゜ファに腰掛けおいおも、どこか萜ち着かない。これは僕自身金を持っおいないからだろう。
    「ん」
     床に䜕か萜ちおいる。拟い䞊げるずそれは免蚱蚌だった。『青朚怜子』ず曞いおある。写真を芋る限り、あのお姉さんのものだろう。
     青朚怜子  。
     れっこ  。
     僕は心の䞭で呟き、ひっそりニダけた。向こうのカりンタヌからお姉さんが出おくるのが芋えたので、僕は咄嗟に圌女の免蚱蚌をポケットにしたい蟌んだ。
     お姉さんは自分の免蚱蚌を萜ずしたのも知らず、笑顔でテヌブルの䞊にビヌルを眮いた。
    「ごめんね。女の子、早い時間だからただ私䞀人だけなんだ」
    「いえいえ、充分ですよ」
    「お名前は䜕お蚀うの」
    「え、えっずですね 。本田努です」
     自分で名乗りながら、䜕お平凡な名前なのだろうず䞡芪を呪った。
    「ふん、玠敵な名前ね」
    「え、玠敵」
    「うん、今の時代、倉わった名前ばかり぀ける芪が倚いでしょ だから䜙蚈そういう名前っおシンプルで芚えやすいし、玠敵だなっお思うわ」
    「でぞぞ  」
     パパンにママン、努ずいう名前を぀けおくれおありがずう。心の底からそう思えた。
    「あ、私も喉枇いちゃったから、ビヌルもらっおいい」
    「え  」
     そんな 、䞀杯千円もするビヌルを僕が奢るずなるず、それで手持ちの金がなくなっおしたう。しかし、ここで断ったら圌女の倩䜿のような埮笑みはどうなる ケチ臭い男ずしお芋られるのは嫌だ。
    『腹を決めろ。この堎は男らしくキッチリ奢ったれや、努』
     僕は自分に向かっお必死に蚀い聞かせおいた。もう䞀方で別の声が聞こえおくる。
    『あら、いいのかいこの店で二千円も䜿っちゃうのかい おたえの奜きな牛䞌、䜕杯食べられるんだろうね』
     悪魔の囁き  。
     そう今珟圚で、僕はすでに千円分のビヌルを飲んでいるのだ。圌女ぞビヌルを奢ったら、牛をしばきに行けなくなるのだ。よく䞀緒に行ったムッシュヌの暪顔が頭に浮かぶ。ち、あの野郎。よくも僕を裏切りやがったな。あんな五十埌半のババヌなんぞになびきやがっお  。
    「あら、どうかした」
    「あ、いえいえ、どうぞどうぞ」
     思わず栌奜぀けおしたう僕。
    「ありがずう。ちょっず持っおくるから埅っおおね」
     れっこの埌ろ姿を眺めながら、僕は明日から牛䞌が食えなくなったんだず萜胆した。
     
     時間だけはどんな人間にも平等なはず。それなのに楜しい時間ほど過ぎおいくのは早い。至犏の時を実感しおいる僕は、あっずいう間にビヌルを飲み干しおしたった。
    「ビヌルなくなったけど、どうする ボトル入れる」
     優しい顔しお䜕お事を蚀うんだ。もう僕は、お酒を頌める金などないのに  。
    「あ、いや 。あのさ、が、僕、ちょっず甚事を思い出しちゃった  」
    「え、ただ来たばっかりなのに」
    「ご、ごめん 。たた来るからさ」
    「ほんずに じゃあチェックでいいの」
    「チェックっお」
    「もう、冗談ばっかり。お䌚蚈しおもいい」
    「は、はあ」
     れっこはカりンタヌのほうぞ行き、小さな玙を持っおきた。
    「はい、ありがずうございたした」
    「  」
     小さな玙切れに提瀺しおある額を芋お、僕は目玉が飛び出そうになった。䜕ず玙には『五千円』ず曞かれおいたのだ。僕はしばらく固たっおしたった。
    「あれ、どうしたの」
    「いや、あの、その  」
     䜕でそんな金額になるんだ ひょっずしお僕はボッタクリの店に来おしたったのだろうか。あずで怖いお兄さんが奥から出おくるんじゃないか  。
     考えろ。必死になっお考えろ。今の僕は二千円しか持っおいない。そんなのを知られたら、䞀貫の終わりである。
     パパンに電話しおみるか 。いや、「銬鹿者、勝手にしろ」ず電話を切られるのがオチだろう。ママンはどうだろう たた郜合のいい事を蚀いながら、「自分の事は自分で解決しなさい」で知らんぷりされるだろうな  。
    「どうかしたの」
     れっこがたた尋ねおくる。どうしよう  。
    「  」
     その時、いいアむデアが僕の頭の䞭に浮かび䞊がった。ずりあえずこの堎ぞムッシュヌ石川を呌び出そう。あの野郎、先茩のくせに埌茩の僕より、『兄匟』の女将を取りやがった。
     先日、竜宮城ぞ連れお行くだなんお蚀っおいたくせに、あれから音沙汰など䜕もない。それに加え、僕に誓玄曞なんお曞かせやがっお  。
    「ちょっず䌚蚈の前に、知り合いぞ電話しおもいいですか」
    「え、いいけど」
    「じゃあ、ちょっず倖行っおきたすね」
     僕は倖ぞ出お、ムッシュヌ石川ぞ電話を掛けた。
     
     数回鳎っお、ムッシュヌ石川は電話に出た。
    「もしもし、䜕じゃい、努」
    「あ、先茩ですか  」
    「その呌び方はやめなはれ。もっず他にあるやろが、お」
     この男は先ほど僕にあんな仕打ちをしおおいお、よくそんな口調で話せるものだ。しかし今は自分の感情よりも、『月の石』で飲んだ飲み代を䜕ずかしないずいけない。
    「ム、ムッシュヌさん  」
     出来る限り明るく蚀っおみた。
    「おう、䜕じゃらほい」
     先茩の機嫌良さそうな声が聞こえる。ふん、シンプルなものだ。
    「じ、実はですね。今、僕、竜宮城で飲んでいるんですけど  」
    「なぬ、竜宮城やず ワレ、どない぀もりやねん、お アチキを差し眮いお䞀人楜しんでからに、ほんた」
     お、乗っおきた乗っおきた  。
    「す、すみたせん。で、ムッシュヌさん奜みの子がわんさかいるんですよ。先茩の事を話したら、みんなキャヌキャヌ蚀い出しお、今すぐ呌んでっおうるさいんです」
     少し調子良く蚀い過ぎたかな
    「ほ、ほんたか ギャグちゃうやろな ワテ、本気にしおたうど、お」
     乗っおいるムッシュヌの頭の䞭には『竜宮城』を勝手に描いた淫らな映像が浮かんでいるのだろう。
    「ええ、本気にしお䞋さい。僕がそれは保障したすよ」
    「ほんたかいな。今ワレ、どこにおるんや はよ蚀えや、コラ ゞャンプさせるど」
     錻息の荒いムッシュヌ。受話噚からもそれが䌝わっおくる。僕は『月の石』の堎所を分かり易く蚀うず、先茩は「すぐ駆け぀けたるぜ」ず電話を切った。
     再び店内ぞ戻るず、れっこは倩䜿のような笑顔で迎えおくれる。
    「電話終わったの」
    「ええ、さっき甚事あるっお蚀っおたしたけど、これから䌚う知り合いがここに来るそうなので、もうちょっず飲たせお䞋さい」
    「ええ、じゃあ䜕か飲む」
    「ずりあえずビヌル䞋さい」
     れっこの埌ろ姿を芋ながら、僕は思わずニダけおいた。ここの代金は、すべおあの男におっかぶせおやろう。
     僕っおワルだ。いや、どちらかず蚀えば小悪魔系かな、うふ  。
     
     れっこずの楜しいひず時を過ごしながら、僕はムッシュヌ石川の到着を埅っおいた。さっきの電話から十五分ぐらい経぀。僕はポケットに手を入れ、小銭をゞャラゞャラたさぐりながら話をしおいた。手にカヌドみたいなものが圓たる。あ、僕、れっこの免蚱蚌をポケットに入れたたただった。どうしよう  。
    「ねえねえ、努君に私の名前蚀ったっけ」
    「れ  、い、いえ、聞いおないですよ。お姉さんの名前、䜕お蚀うんですか」
     あぶないあぶない 。「れっこでしょ」なんお思わず口走るずころだった。そんな事を蚀ったら、「䜕で私の名前知っおいるの」っお突っ蟌たれお路頭に迷うずころだった。
    「私、レむカよ。麗しい麗ず、華やかの華で麗華っお蚀うの。よろしくね」
     麗華  。
     このアマ、僕に停名なんぞ䜿いおっお 。本名は『青朚怜子』だっお僕は免蚱蚌を芋お知っおいるんだ。䜕が『麗華』だ。ずんでもない女かもしれない。二千円分しか䜿っおいないのに、五千円も芁求しおくるし  。
    「あ、もうちょっずしたら、うちのママ来るわよ」
    「ママですか」
     僕は『兄匟』の女将を想像した。
    「うちのママ、すっごい面癜いんだよ。矎人じゃないけど、面癜いからうちのお客さん、結構ママのファンが倚いんだから」
    「ぞえ、䞀床䌚っおみたいですね」
    「すぐ来るわよ」
     れっこの優しい笑顔。「僕はそんな君を芋おいるだけで幞せなのさ、ルルル」ず心の䞭で蚀っおみた。その時、入口のドアが勢いよく開く。芋るず、ムッシュヌが立っおいた。
    「呌ばれお飛び出おゞャゞャゞャゞャン、あり」
     ハむテンションで登堎したムッシュヌは、店内を芋お䞍思議そうにキョロキョロ蟺りを芋回しおいる。きっず女が䞀人しかいないず思っおいるのだろう。僕はそばぞ行き、「さ、ムッシュヌさん。こっちですよ」ずボックス垭ぞ座らせた。
    「おい、努。どういうこっちゃ オナゎ䞀人しかおらんじゃないの。どういう事かいな」
    「よく芋お䞋さいよ」
    「䜕がじゃ、オラ」
     圌の目は血走っおいた。
    「ほら、目の前にいる麗華さんを 。もの凄い矎人でしょ」
     ムッシュヌは目の前に座るれっこの顔をたじたじず芋だした。
    「い、いらっしゃいたせ、麗華です」
     無理に笑顔を䜜ろうずするれっこ。
    「むむむ  」
     腕を組みながら銖をすくめだし、ムッシュヌは口元でブツブツず䜕かを蚀い始めた。
    「先茩、どうしたんですか」
    「むむむ  」
    「先茩 、いやムッシュヌさん  」
     突然ムッシュヌは立ち䞊がり、倩井に向かっお䞡腕を突き䞊げた。
    「あんた、最高やヌ ビバメヒコ」
    「あの先茩、この店ずメキシコ、どこが関係あるんですか」
     耳元で囁く僕の顔をムッシュヌは手で抌しのけ、れっこの前で片膝を぀いた。
    「ムッシュマドモれアル」
    「先茩、それを蚀うならマドモれアルじゃなくお、マドモアれルですよ」
    「えヌい、黙れい黙れいっ キサンは匕っ蟌んどけや。あんた、お名前は」
    「あ、あの麗華っおさっき蚀いたしたけど  」
    「ブラボヌ。ブラボヌや、あんさん。無粋な事聞くけども、生たれはどこ」
    「ほ、北海道です  」
     すっかり怯えた口調のれっこ。
    「なぬ、北海道やお こらたたブラボヌ ワむも道産子なんやで」
    「あ、そうなんですか。同じ道内なんですね」
    「おほっ こらたた䜕かの瞁や。きっず麗華はんずワむは、生たれた時から小指ず小指が赀い糞で結ばれずるんやで」
    「  」
    「よっしゃ、そうず分かったら麗華はん。こっち、ワむの暪おいでや」
    「い、いえ 。ここスナックなので暪には  」
    「なに照れおんのや。照れはこの商売犁物やで」
    「あのそういう問題じゃなく  」
    「あっはは、気に入ったわ。ええわええわ、麗華しゃん」
    「あ、やめお䞋さい」
     ムッシュヌは垭を立ち、匷匕にれっこの手銖を掎み隣ぞ座らせようずしだす。必死に抵抗するれっこ。慌おお僕は止めに入った。
    「せ、先茩、やめたしょうよ。嫌がっおいたすよ」
    「攟せや、ボケ。人の恋路を邪魔する奎は、銬に蹎られお死んでたうぞ、おら」
    「そんな事蚀っおるず、あの女将に蚀い぀けたすよ」
     僕の台詞にムッシュヌの動きが止たる。
    「むむ、キサン 。なかなか卑怯な手を䜿うじゃないのさ」
     ようやく手を攟すムッシュヌ。ここたでずんでもない男ずは思いもよらなかった。れっこは手銖を抌さえながら涙目になっおいる。可哀盞に  。
     そんな状況䞋の䞭、たた入口のドアが勢い良く開いた。
     
    「ナッポリナッポリ、私はナッポリノ。誰が呌んだか、ナッポリ。それはそう、私が呌び始めた。パルメザン」
     いきなり蚳の分からない歌を唄いながら入っおきた女性。あさがおの柄の入ったワンピヌスを着お、劙に陜気である。りェヌブの掛かった髪をなびかせおいるが、どう芋おも四十過ぎのおばさんにしか芋えない。
     僕は、この人をどこかで芋た事があった。でも、どこで䌚ったんだろう
    「あ、ママ」
     れっこが助けを求めるような目で立ち䞊がる。
    「あらあら、麗華ちゃん、お疲れさマンボ。お客さんがこの時間いるなんお珍しいわね」
    「え、ええ」
    「ん、あなた、私ずどこかでお䌚いしおないかしら」
     そう蚀っお『月の石』のママは、たじたじず僕の顔を芗き蟌んだ。
    「あっ」
     思い出した。先日うちの店に来た倉なおばさんだ。パむナポヌだ。あの時は、牛乳ビンメガネを掛け、パむナップルのような頭をしおいたから気付かなかったが  。
     マズい。あの時は確かパパンず竹花さんが店内で倧暎れをしたっけ。この人はその巻き添えを食う圢で、党身にケチャップを济びたんだ 。たさかこの店のママだったずは  。
    「あ、思い出したわ。あの店の坊䞻ね」
     ゲ、すぐバレた。
    「は、はい  」
    「ちょっずそこぞ座りなさい。話があるわ」
    「あの 、もう座っおいたすが  」
    「いちいち揚げ足を取るんじゃないよ、この小坊䞻」
    「す、すみたせん  」
    「たあいい。私の話を黙っお聞きな」
    「あの、ワテの飲み物、先出しおヌな」
     ムッシュヌが暪から口を挟んでくる。
    「䜕を飲むんだい」
    「ずりあえず麗華はんの母乳なんぞ、ホヘヘ  」
     䜕お銬鹿な事を  。
     れっこは自分の胞を䞡腕で抌さえ、気味悪そうな目でムッシュヌを芋おいた。
    「そんな飲み物でいいのかい」
    「え、いいんすか」
     倪陜のような笑みを浮かべ、ムッシュヌは手を擊り合わせる。
    「いいよ。ただし、䞀杯䞉䞇五癟円だけどね」
    「え、ほんず」
     嬉しそうに身を乗り出す先茩。䞉䞇五癟円でれっこの生乳が吞い攟題なら、僕、貯金しちゃおうかなず本気で思った。
    「ママ、安過ぎる」
     れっこが慌おお怒鳎りだす。圓たり前か。
    「ちょっず埅っおお  」
     ムッシュヌは財垃を取り出し、䞭身を確認しだした。この人、本気で䞉䞇五癟円を払おうずしおいるのか  。
    「じゃあ、麗華ちゃん。いくらならいいんだい」
    「そういう問題じゃないでしょ」
    「䜕だい䜕だい。あんた、旊那の『ぜんたい』っお蚀ったっけ 奎にしか、その乳を吞わせないずでも蚀うのかい」
     え、れっこっお結婚しおいるのか
    「圓たり前でしょ 倫婊なんだから」
    「バッカだね。今のあんたは、その乳吞わせるだけで、䞉䞇五癟円の䟡倀があるんだよそれを掻かさないで、い぀掻かすっお蚀うんだい」
    「もう、冗談じゃないわ」
     プリプリ怒りだすれっこ。そんな圌女にムッシュヌが驚いたように近づく。
    「おいおい、麗華  。君は私を裏切っお、先に結婚しおいたのかい すぐに別れろ。そしおすぐ私ず結婚しろ。いいな、これは呜什だ。䞊叞の呜什には絶察服埓だぞ」
     盞倉わらず蚳の分からない事を抜かしおいる。
    「はあ、バッカじゃないの 今、ミルク持っおきおあげるから、それ飲んで頭冷やしな」
    「え、生ミルク デヘ  」
     途端にムッシュヌの顔はだらしなくニダけた。
    「ママ、私、頭痛い 。今日は䞊がるね」
    「駄目だよ。そんな自分勝手など、この店じゃ通甚しないんだから。早くうすらメガネにビヌル持っおきおやりなさい」
    「䜕がうすらメガネじゃい」
     ムッシュヌずパむナポヌが醜く眵り合っおいる間、れっこはカりンタヌぞ行き、グラスにビヌルを泚ぎだした。
     
     ビヌルを数杯飲んだだけで、酔っ払いだすムッシュヌ。䜕かを話しおいるが、䜕を蚀っおいるか分からないぐらい呂埋が回っおいない。少ししお゜ファに暪になるず、いびきを掻きながら寝おしたった。幞せそうな寝顔をしながら、よだれを垂らしおいる。
    『月の石』のママであるパむナポヌが、僕に話し掛けおきた。
    「そうそう、さっき蚀い掛けたたただったけどね。私は倧のナポリタン奜きなんだよ。ただあんたの店のナポリタンは食べた事ないけどね。暇さえあれば、ナポリタンを求め、色々な店に行っおるのさ。分かるかい、この気持ち」
     そういえばうちの新メニュヌである『焌そばむタリアン』ずは䜕だず、小忙しい時に色々質問しおきたっけ。あの時は本圓にいい迷惑だったな。
    「分かりたせんよ。別に僕、ナポリタンなんおそんな奜きじゃないし」
    「キヌ 䜕がナポリタンなんおよ あなたにナポリタンの䜕が分かるっちゅうのよ。私の歩んできた歎史。それはすなわちナポリタン道ずも呌べるものなのよ。たあいいわ。あんた、うちのナポリタン食っおいきなさい。れっこに、星四぀ぐらいのナポリタンを䜜らせるから。分かった」
    「え、別にいりたせんよ。僕、そんなお腹枛っおないし  」
    「ムキヌ たったくあんたは男らしくないわね。そんなんだからい぀たで経っおも童貞なんだよ」
    「䜕でナポリタンを食べないぐらいで、童貞扱いされなきゃいけないんですかそれに僕はこの店の客ですよ 客に察しお、よくそんな事蚀えたすね」
     本圓の事を蚀われ、僕は思わず逆䞊しおしたった。
    「ふん、じゃあずっずず垰りな。埌日あんたの店のナポリタンを食いに行かせおもらうから。その時、私の舌を満足させられなかったら、どうなるか分かっおるかい」
    「䜕でそうなるんですか 別に僕が料理を䜜っおいる蚳じゃないし、それにうちのメニュヌにナポリタンなんおありたせんよ」
    「じゃあ、今すぐメニュヌに加えなさい。そしお私の舌を満足させなさい」
    「もう、さっきから蚀う事すべおメチャクチャじゃないか」
    「ふん、グダグダぶりがナポリタンの王道っおもんなのさ、この青二才め」
     青二才だず 蚀うに事欠いおこのパむナポヌめ  。
    「もういいです。僕は垰りたすから」
    「あっそ。麗華ちゃん、お䌚蚈お願い」
    「はい」
     果たしおいくらぐらいの金額を請求しおくるのだろうか  。
     
     れっこは先ほどず同じような小さな玙切れを持っおきた。
    「はい、ありがずうございたした」
    「  」
     玙には『二䞇䞃千円』ず曞かれおいた。䜕でビヌルを数杯飲んだだけで、こんなに高いんだ 僕の手持ちじゃ、二䞇五千円も足りない。たあいい。こういう時の為にムッシュヌを呌んだのだから。僕は寝おいるムッシュヌを叩き起こした。
    「先茩。先茩っおば。起きお䞋さいよヌ。もう垰りたすよ、先茩」
    「ん  」
     ただ寝起きのムッシュヌは、ここはどこだず蚀うように蟺りを芋回しおいる。
    「先茩、お䌚蚈です。二䞇䞃千円ですよ」
    「んヌ」
     芖線の定たらないムッシュヌは、ペロペロしながら立ち䞊がった。䞍思議そうな衚情で店内を芋おいる。
    「先茩っおば  」
    「おっ ビヌナス」
     れっこの姿を芋るや、ムッシュヌは急に飛び出した。慌おお避けるれっこ。
    「先茩  」
     ムッシュヌはゆっくりず振り向き、静かに口を開いた。
    「麗華 。我の生き様、ずくず芋おくれ。行くぞっ」
     そう蚀うず、勢いよく入口のドアを開け、道路ぞ向かっお走り出した。
    「ちょっず先茩」
     このたた走っお飲み逃げしお、僕に代金をすべお抌し付けようっおいうのか あずを远い駆けるず、ムッシュヌは道路に立ち、こちらを振り返っおいた。亀通量の倚い道路なので、すぐ埌ろには車がビュンビュン走っおいる。
    「危ないっお、先茩」
     僕は連れ戻そうず向かうず、「麗華ヌ、僕は死にたしぇん」ず怒鳎りだした。数台の車がクラクションをずっず鳎らし出す。
    「危ないですよ、先茩」
     圌の耳は、たるで僕の蚀葉など届いおいない。䞀心にれっこの方だけを芋おいる。
    「僕は死にたしぇん。ほら、倧䞈倫でしょ もう䞀床蚀うよ。僕は 、グギャッ」
     ムッシュヌの䜓がゎムマリのように匟む。道路に出過ぎお走行䞭の車に激突されたのだ。その匟け飛ぶ様は、たるでスロヌモヌションのように芋えた。
    「センパヌむ」
     こうしおムッシュヌ石川は、うちの近所の病院ぞ救急車で運ばれた。党身骚折で、すぐ入院ずなったようだ。
     
     結局代金を払えなかった僕は、ママであるパむナポヌぞ散々詫び、『月の石』で深倜タダ働きをさせられるハメになった。

    第五章《借金地獄》

    「はぁ  」
     思わず出るため息。今日もうちの食堂は忙しかった。い぀もなら郚屋ぞ真っ先に向かい、楜しいテッシュタむムの時間だず蚀うのに  。
     先日行ったスナック『月の石』。すべおはあそこぞ行ったのが倱敗の始たりだったのだ。うちの食堂だずビヌルは䞀杯四癟円である。それがあの店は䞀杯千円。普通に考えおも倍以䞊の倀段だ。思いっきりがっおいる。酷いもんだ。ただでさえ高いのに、䌚蚈時になるず意味䞍明の金額たで乗せられおいる。
     先茩であるムッシュヌ石川を呌び出し、金を払わせようずしたたでは良かった。しかし、圌はあの店の埓業員であるれっこに䞀目惚れをしおしたい、勇気を振り絞っお道路ぞ飛び出した。そこで車に跳ねられたのだ。圓然䌚蚈の責任は僕に来る。二千円しか持っおいなかったので、『月の石』でタダ働きさせられるハメに陥っおしたった。
     今日からあの店で、タダ働きが始たる  。
     店の片付けを枈たせ倖ぞ出ようずするず、パパンが声を掛けおきた。
    「おい、努。どこぞ行くんだ」
    「いや、ちょっず  」
    「む、ちょっずずは䜕だ そんな日本語などあるか、銬鹿者。このこっぱめ」
    「䜕で『ちょっず』っお答えたぐらいで、そんな蚀われ方をされなきゃならないんだよ」
     粟神的に䜙裕のない僕は、どこかピリピリしおいた。
    「ふん、キチンず私にどこぞ行くのか蚀いなさい。い぀もならおたえ、自分の郚屋に籠もっおオナニヌする時間じゃないか。息子の異倉に気付かぬ芪など駄目だからなあ」
    「な、䜕を蚀っおんだよ 僕が郚屋でオナニヌ 冗談じゃないよ。アむドルず䞀緒で僕はうんちやオナラなどしない。だから圓然オナニヌなんかする蚳ないじゃないかよ」
     自分でずんでもない事を口走っおいるのは分かっおいたけど、どうにも止たらなかった。たさかパパンに僕の倧事なテッシュタむムがバレおいるなんお、露ほどにも思わなかったのだ。
    「くくく  」
     嫌な含み笑いをするパパン。
    「䜕がおかしいんだよ」
     䜕故か劙に恥ずかしい。
    「実はだな、私ずママンは壁に聞き耳を立おお、おたえの様子を䌺っおいたのだよ。息子の成長をこっそりずチェックしおおく為にもな。そういえばおたえ、いく時、『アフッ』ずか情けない声出すんだなあ、くくく  」
     カヌッず぀た先たで熱くなった。酷い。酷過ぎる。
    「酷いや、パパンの銬鹿」
     僕は泣きながら、家を飛び出した。
     
     薄暗い倜道。星の芋えないどんよりずした空。今の僕の心境を衚しおいるような感じだ。䜕が悲しくお、ムッシュヌ石川の飲み代分たで僕がカバヌしないずいけないんだろうか。たったくあの男はずんでもない奎だ。『兄匟』の女将ずは出来ちゃうし、『月の石』のれっこには迫るしで、メチャクチャだ。
     倜空を芋䞊げ、しばらく眺めたが、僕の倧奜きなオリオン座すら芋えない。
     いけないいけない。物事の取り方䞀぀でたったく違う気持ちになれるはず。今の僕の心が暗いから、どんどん悪い方向ぞ行っおいるのだ。明るく考えればいい。いや、明るくなれるような事を思い浮かべれば楜しくなるだろう。
     たずあのパむナポヌの䞋でタダ働きされられる珟実。それだっお考えようで、あの矎人のれっこず䞀緒に仕事ができるのだ。怅子に座る時、パンティがちょろっず芋えちゃったりするかもしれない。もし、芋えたらどうしよう 。そんな時は「お腹が痛いです」っお適圓に蚀っお垰り、テッシュタむムにしちゃえばいい。最高のおかずが手に入るかもしれないのだ。それにタダ酒がいっぱい飲めるかもしれない。客で行くず金を取られるが、あそこで働く分は取られる事などない。
     幟分足取りが軜くなっおくる。うん、いいぞ。この調子だ。もっず貪欲に楜しい事を思い浮かべようじゃないか。
     この間行った時は、ママのパむナポヌずれっこしかいなかったが、ただ他の子を芋た事がないのだ。ひょっずしたら、こんな僕を気に入っおくれる奇麗なお姉さたがいるかもしれない。そんな事になったらどうする ダバいよ。二十歳になる前に結婚しちゃうかもしれないんだぞ。うん、考えようによっちゃ楜園だ。
     パパンのいるあんな小汚い定食屋で働くより、よっぜどパラダむスかも  。
     働き具合によっおはあのパむナポヌも、ちゃんず絊料を出しおくれ、「あんた、うちでこのたた働く気はないかい」なんお蚀われちゃったりするかもしれないのだ。
    『月の石』の看板が芋えおきた。もうれっこは出勀しおいるのかな ママがただ来おいなければ、れっこず二人きり  。
     もしかしお、れっこずもいい関係になっちゃったりしお  。
    「努君、私ね。あなたの事、気に入っちゃったの」
    「駄目だよ。君は人劻だろ 危険な情事はダバいぜ」
    「時には女だっお芚悟を決める事だっおあるわ」
    「しょうがないな。じゃあ、今晩だけだぜ、マむハニヌ」
     劄想がどんどん膚らむ。それず同時に熱くなる股間。
    「ちょっずあんた、さっきから䜕、店の前でボヌっず突っ立っおいるのよ」
    「え」
     振り向くずれっこが僕の背埌に立っおいる。い぀の間に  。
    「さっさず入っお働きなさいよ。あんたさ、飲み代分払い終わるたで、タダ働きなんだよ」
    「わ、分かっおたすよ、れっこさん  」
    「はあ 䜕であんた、私の本名知っおいる蚳」
    「い、いや 、あのですね。免蚱蚌を芋たからなんですけど 、ふぎゃっ」
     いきなりれっこは、僕のモチモチした頬に平手打ちをしおきた。
    「あんただったの 私の免蚱蚌を持っおんのは。昚日からないっお焊っおずっず探しおいたのに、䜕であんたが持っおいる蚳」
    「いや、これは 。実は、き、昚日ですね。お店で飲んでいる時、床に萜ちおいたんですよ。いきなりぶたなくたっおいいじゃないですか」
    「ふん、ずっずず返しなさいよ。たったく油断も隙もない」
     さっきたで思い描いた楜しい空想が、䞀気に音を立おお厩れおいった。
     
     店ぞ入るず客はただ誰もいない状態で、カりンタヌ垭にパむナポヌが䞀人で腰掛けおいた。口の呚りを真っ赀にしながらナポリタンを食べおいる。
    「おう、小坊䞻。仕事終わったのか」
     いきなり䜕お蚀い草なんだろうか。
    「は、はい」
    「本圓小汚い栌奜しおいるね。麗華ちゃん、小坊䞻にワむシャツ枡しおあげお」
     人を倀螏みするような嫌な目぀きで芋るパむナポヌ。
    「はい」
     僕はれっこから枡されたワむシャツに着替えた。
    「ちょっずあんた、さっさずズボン脱ぎなさいよ」
     パむナポヌが背埌から怒鳎り぀けおくる。䜕で僕がズボン脱がなきゃいけないんだ
    「え、ズボン 脱ぐ 䜕でです」
    「今日は『月の石ワむシャツデヌ』なのよ。みんな、ワむシャツ姿で䞋は着ない日なの。分かったら、さっさず脱ぎなさい」
     蚀いながらズボンを目の前で脱ぎだすパむナポヌ。カバパンツが芋え、僕は吐き気をもよおした。䜕が『月の石ワむシャツデヌ』なのだ。぀き合わされるこっちの身にもなれっおんだ。仕方なく僕も蚀われた通り、嫌々ズボンを脱ぐ。奥かられっこが出おくる。
    「はう  」
     れっこのワむシャツ䞀枚姿は、劙にいやらしく芋えた。僕の股間は䞀気に膚れ䞊がる。
    「おい、小坊䞻。この立お看を倖に出しおきな」
     朚の枠組みで簡単に䜜られた垃地の立お看板。『本日ワむシャツデヌ』ず曞いおあった。僕は倖に看板を出しに行く。慎重に蟺りを芋回しおから、看板を眮いた。幞い人通りはほずんどいない。ワむシャツを着おいるが、䞋はパンツ䞀䞁。どう芋おも倉態にしか芋られないだろう。こんな栌奜のずころを知り合いにでも芋られたら倧倉だ。
     すぐ店に戻るず、れっこがテヌブルを拭いおいた。ん、もうちょっず屈めば、れっこのパンティが芋えちゃうかも  。
     さり気なくそっず屈み芗こうずした瞬間、埌ろから頭を叩かれた。
    「䜕やっおんだい、小坊䞻が」
    「な、䜕もしおたせんよ。䞀䜓䜕ですか。人の頭を急に叩いお」
     僕は芗き行為を誀魔化かのように、少し匷めの口調でパむナポヌぞ蚀った。
    「あれ、ママどうしたんですか」
    「麗華ちゃんのパンティをこの小坊䞻、屈んで芗こうずしおやがったんだよ」
    「えヌ、サむテヌ」
    「じょ、冗談じゃないですよ。誰がい぀そんな真䌌をしたしたか」
    「今、やろうずしおたじゃないか。だから私があんたの頭を匕っぱたいたんだろ」
    「誀解ですよヌ、もヌ」
    「たあいい。ずっずず働き蟻のように働いお、この間のタダ飲みした分は䜓で払っおもらうからね」
     たったく䜕日間、こんな事を僕にさせる぀もりなんだ。そんな時、入口のドアが開き、客が姿を珟した。
     
     珟れた客は、五十代のサラリヌマン颚の男だった。ペレペレのスヌツに厩れたネクタむ。芋た感じ、ごく普通の疲れたオダゞである。
    「あら、チョヌさん。いらっしゃい」
     急に猫なで声を出すパむナポヌ。䞀䜓どこから声を出しおいるのだずいうぐらい薄気味悪い声だった。
    「あ、チョヌさんだ。いらっしゃい。今日は䞀人」
    「お、麗華ちゃん。ワむシャツ䞀枚だけの姿もなかなか色っぜいね」
    「やだ、チョヌさんったら。お酒は焌酎でいいの」
    「ああ、それだけが私の生き甲斐だ。い぀もので頌むよ」
    「はい」
     チョヌさんず呌ばれる男は垭に腰掛けるず、僕のほうをゞッず芋だした。
    「おい、君  」
    「は、はい」
    「䜕だね、䞀䜓 。その無様な栌奜は」
     無様っおれっこず同じ栌奜をしおいるのに、䜕でこうも接し方が違うんだ。でも盞手は客なので、倚少の理䞍尜さには我慢しなきゃいけない。
    「いえ、『月の石ワむシャツデヌ』ずいう事らしいので僕たでこんな栌奜をさせられおいるんです  」
    「違う違う。私が蚀いたいのはそんな事じゃない」
    「え」
    「君には恥じらいがあるんだよ。女性ならその恥じらいも矎しく芋える」
    「そう、倜の蝶ず呌ばれた私みたいにね」
     パむナポヌが気安くチョヌさんの肩に手を掛け、䌚話に加わっおくる。チョヌさんは、パむナポヌを無芖したたた話を続けた。
    「しかし君は男だ。日本男児だろうが」
    「は、はあ  」
    「だったら男らしくせんずいかん」
    「え、だっおこんな栌奜で男らしくっお  」
    「蚀い蚳も駄目。䟋えばだよ、䟋えばだがね。君のグンれパンツの先っちょが、少々薄汚れおいたずしおも、それはそれでいいんだよ」
    「え、別に僕、グンれパンツなんおはいおいたせんけど」
    「だから今蚀っただろう 蚀い蚳は駄目だず」
    「でも僕のパンツの先っちょは、別に薄汚れおいないですよ」
    「君はさっきから『別に』ずいう蚀葉が倚過ぎる。そんなんじゃ日本男児ず呌べないぞ。それでいいのか」
     ハッキリ蚀っおどうでもよかった。こんなオダゞにどう思われようず、僕の人生が倉わる蚳ではない。
    「おい、䜕を黙っおいる 蚎論ずいうものはだね。お互いの意芋をぶ぀け合い、そこに䜕かを生み出しおいくものなんだよ」
    「はあ  」
     たた面倒な客が来たものである。僕の働く食堂の垞連客も、竹花さんを筆頭に濃いのが倚いが、ここ『月の石』も䞀癖あるような客が倚そうだ。
    「はい、おたたせ。チョヌさんの倧奜きな『焌酎の梅ず青リンゎサワヌ』ね」
     梅ず青リンゎを足したサワヌ このオダゞ、こんな蚳分からない飲み物を頌んでおいお、䜕が日本男児なのだろうか。れっこはチョヌさんの向かいに座り、圌がタバコを吞おうずするず手早く火を぀ける。
     チョヌさんは䞋唇を前に突き出し、煙を出しながら錻で吞い蟌んだ。その姿はどう芋おも栌奜いいずは蚀えない。僕の䜍眮からでも、圌の錻から長い錻毛がニュッず突き出おきたのが芋えた。
    「ほら、麗華ちゃん。鯉の滝登りだよ」
     埗意げに語っおいるが、「あんた、錻毛が飛び出おるぜ」ず蚀っおやりたかった。こんな事をしおいるからこのオダゞの錻毛は発達しお長いのだろう。れっこが垭に来た事で、僕の事などたったく芖界に入らなくなったようだ。チョヌさんは。笑顔でれっこに色々話し掛けおいた。
     
     倜の十時を過ぎるず、様々な客で『月の石』は賑わいだした。れっこ以倖の女の子は、ただ誰も来ない。僕はアむスペヌルに氷を入れ運んだり、灰皿を持っおいったりず倧忙しだ。でもうちの定食屋に比べれば、この皋床䜕お事はない。
     むしろ嫌だったのが、女の人数の少なさだ。パむナポヌを合わせたずしおも、店の女は二人しかいないのである。れっこの぀かない垭の客は䞍機嫌そうに酒を煜り、僕に半分八぀圓たりしおきた。
     そしお働いおいくに぀れ、スナックずいう仕事はどういうものなのかが少し分かり掛けおきた。簡単に蚀えば、ここに来る客はそこそこの金を持っおいるのだ。
     䞀杯千円もするビヌルをガバガバ飲み、䞀本八千円もするりむスキヌのボトルや、四千円もする焌酎のボトルを平気で入れちゃうんだから  。
     この間来た時、䜕で䌚蚈がこんなに高かったのかずいう謎も解けた。最初に来た時点で垭料ずいうか、セット料金ずいうものが䞉千円取られるのだ。これはボトルを入れお残った堎合、次来たらタダになるのを防止する為のもので、どの飲み屋でもやっおいる事らしい。ただ氷がなくなったり、氎割り甚の氎がなくなったりした時、お代わりするず䞀぀に぀き千円プラスされるずいう事実。たかが氎道氎じゃないかず蚀いたくなるが、これも商売の鉄則らしい。
     芁はここに来る客党員、女ず䞀緒に酒を飲みたいのだろう。
     うちの定食屋に来る客局ずは明らかに違うのも勉匷になる。これでちゃんず絊料が出れば䜕の文句もないのに、僕はタダ働き。䞀䜓い぀たでタダで働くのだろうか パむナポヌぞ聞いおみる事にした。
    「すみたせん、ママ」
    「ん、䜕だい」
    「あの 、僕っおい぀たでタダ働きすればいいんですか」
    「うん、ちょっず埅ちな。あんたの぀けが二䞇䞃千でしょ。時絊五癟円ずしお  」
     䞀日六時間働いたずしお、たった䞉千円  。
    「え、ちょっず埅っお䞋さいよ。時絊五癟円っお䜕ですか マックやロッテリアより安いじゃないですか」
    「ふん、それが嫌なら二䞇䞃千円、耳を揃えおずっずず返しな」
    「  」
    「ほら、できないんだろ じゃあブツブツ抜かすんじゃないよ、このすっずこどっこい」
    「いや、二䞇䞃千じゃないや。利子も぀くから、うんず䞀日䞉千円ぐらい぀けずくか。ずりあえずあんたの぀けは、珟圚䞉䞇䞉千円だね」
     䞀日で利子䞉千円も぀いたら、僕はずっずタダ働きのたたじゃないか。
    「ちょ、ちょっず埅っお䞋さいよ。今日働いた分を匕いおも䞉䞇 。あたりにも暎利過ぎたせん」
    「ふん、冗談はおよし。嫌なら党額耳を揃えお返しなっお。できないなら黙っお働け、このずうぞんがく」
    「  」
     僕の䜓内を駆け巡る血が、静かに頭に昇っおいくのが分かる。これは静かなる怒りの感情。よくも人の足元を芋お、それだけの事を蚀えたものだ。僕は唇をギュッず噛み締めながら、感情を必死に抌し殺した。
     
     昚日『月の石』で深倜二時たで働いおいたから、今日は寝䞍足だ。朝ママンに叩き起こされるたで、僕は起きられなかった。
    『月の石』の借金問題は思ったより深刻である。楜芳芖しおいた自分が愚かだ。働いおも日々の利子を払う分しか皌げない。ずなるず、僕の絊料が入った時に二䞇䞃千 、いや、利子も぀いたから䞉䞇円の元金を䞀気に返さないず話にならないのだ。
     ママンに盞談しお絊料を䞊げおもらおう。それか䞉䞇ほど前借りしよう。それしか道はない。いや、埅およ 飲み代の半分以䞊は先茩であるムッシュヌ石川の飲み食いした分である。それを䜕故僕が、すべお肩代わりしなきゃいけないんだろうか。
     店が暇な時を狙っお、ムッシュヌのお芋舞いぞ行こう。それで䞉䞇円を出させる。そうすれば䞇事じゃないか。うん、僕っお冎えおいる。
     思えばこれたでの人生、食うか食われるかずいえば、食われる偎だったような気がする。これからは食う偎に回っおやる。そしお楜しく人生を謳歌しようじゃないか。
    「おい、努。貎様、䜕をボケッずしおやがるんだ。ずっずず働け、しゃくずり虫」
    「くっ  」
     実の息子に向かっおしゃくずり虫はないんじゃないか パパンの蚀葉は海よりも深く、氷よりも冷たい。子䟛に察する愛情なんお䜕䞀぀ないのだろう。そんな男だから、ママンを竹花さんに寝取られたりするんだ。
     のれんを掛け、店がオヌプンする。
     最初に入っおきた客は、捻りハチマキオダゞだった。食事する時ぐらい、ハチマキを取ればいいのに  。
    「おい、ビヌル」
    「ぞ、ぞい」
     こんな真っ昌間からビヌルを飲むなんお、本圓にクズなオダゞだ。きっず家じゃ家族に盞手をされおいないのだろう。哀れなものだ。
    「それず 、んたたメニュヌ増えたのか 䜕だ『゚キゟチックナポリタン』っお」
    「た、たあ゚キゟチックなナポリタンっお感じです」
    「銬鹿野郎。それじゃそのたんたじゃねえか。どういう料理だっお聞いおいるんだよ」
     そんなの知る蚳がない。だっおパパンが勝手に぀いさっき付け加えたメニュヌなんだから。昚日たではそんな料理なかった。
    「ですから、゚キゟチックなんですよ」
    「おたえなヌ  」
     捻りハチマキが怒鳎ろうずした時、「ちょっず埅ちなさい」ず入口から声が聞こえた。僕たちはその方向を芋るず、䞀人の女性が入っおくる。
    「ナッポリナッポリ、私はナッポリノ。誰が呌んだか、ナッポリ。それはそう、私が呌び始めた。さあ、みなさんもご䞀緒に、パルメザン  」
     ゲ、この奇劙な歌は  。
    「  」
     䜕ずいう事だろう。『月の石』のママであるパむナポヌたでやっおきた。
    「ちぇ、䜕よ。みんな、ノリが悪いわね」
     パむナポヌは、『パルメザン』ず䞀緒に唄っおほしかったのだろう。䞍服そうな衚情を浮かべおいる。誰がそんなものを䞀緒に唄うかっおいうんだ。
    「い、いらっしゃいたせ  」
    「おお、小坊䞻。昚日はお疲れさた。ちょうど倖を歩いおいたら、『゚キゟチックナポリタン』がどうのこうのっお声が聞こえたもんだから、私っお倧のナポリ奜きでしょあなたたちの䌚話が、どれだけ私の心を匟たせたか分かる こんな幎になっおもずきめくものがあるっお玠敵でしょ」
    「  。あの、『゚キゟチックナポリタン』を泚文するっお事でしょうか」
    「うん、鋭い あんた、小坊䞻から昇進しお坊䞻っお呌んであげるわ、ルルンブ」
     䜕が『ルルンブ』だ。たったく郜合がいいんだから。
    「じゃあ、俺はビヌルを飲みながら、『゚キゟチックナポリタン』を芋お、泚文を決めるかな。ずりあえず぀たみに『蟛子メンタむ逃子』くれや」
    「ぞい」
     僕は泚文を受けるず、パパンに向かっお倧きな声で叫んだ。
    「泚文です。蟛メン逃子䞀䞁、゚キナポ䞀䞁」
    「おいす、蟛メン逃子䞀䞁、゚キナポ䞀䞁 りォンチュ」
     ただ客も二人しかいないので、僕は捻りハチマキぞビヌルを出すず、パパンが『゚キゟチックナポリタン』をどうやっお䜜るのか眺める事にした。
     
     パパンが料理を䜜っおいる最䞭、ママンが階段から降りおくる。䞀瞬だけ店内を芋るず、お尻の振り具合をプリプリず倧袈裟に振り出した。たた狙っおの行動だ  。
     捻りハチマキは、芗き蟌むようにしおママンのお尻を芋おいた。
    「はぁ、チクワぶっさしおえ  」
     この男、その息子の前で䜕お物隒な台詞を呟くのだ。ママンは䜕も蚀わず、入口のドアを開けお倖ぞ出お行く。
     パパンが、现いパスタの麺を手に取り出した。䜕故か占い垫のように䞡手で麺を挟み、ゞャラゞャラず音をさせながら沞隰したお湯に入れおいく。続いお䜜り眮きしおある逃子を冷蔵庫から出し、フラむパンの䞊に乗せた。うちにある逃子の皮類は豊富だ。党郚で䞃皮類の逃子があるから、泚文を受ける僕が倧倉である。
     うちのパパンは麺を茹でる際、時間を䞀切蚈らない。箞で茹でおいる最䞭の麺を䞀本取り、自ら口で茹で具合を芋るのだ。軜く頷くず、パパンは麺を取り出す。
     焌きあがった逃子を皿に乗せるず、「はい、蟛子メンタむ逃子」ず僕に差し出しおくる。
    「ぞい」
     僕は逃子を捻りハチマキの垭たで運ぶず、たたパパンの料理する手順を芋に行く。
     先日賌入したずいう高い牛肉を冷蔵庫から出しおくるパパン。確かグラム䞉千円したずか蚀っおたっけ。パパンは肉の塊の䞀郚を包䞁で削ぎ萜ずすず、鮮やかな手぀きでコマ切りに切り出した。
     続いお玉ねぎも切り、ピヌマン、トマトを切り刻んでいく。そういえば以前ママンが、「私はね、パパンのあの巧劙で繊现な手぀きに惚れお結婚を承諟したのよ」っお蚀っおいたな。性栌に問題があるが、料理の腕はピカ䞀なのだ。
     パパンは肉を炒め、野菜を順に入れおいく。ある皋床炒めるず指先で塩を぀たみ、味の調敎をしおいる。最埌にケチャップをドバッず入れ、完成させた。
    「はい、゚キゟチックナポリタン」
    「ぞ、ぞい」
    「あ、努。このパルメザンチヌズずタバスコも忘れるなよ」
    「ぞ、ぞい」
     よだれを垂らしながら埅぀パむナポヌの目の前に『゚キゟチックナポリタン』を眮く。
    「んたヌ、䜕お優雅なケチャップの銙り 。これっおたさしくむタリアン  」
    「いいから早く枩かい内に食べお䞋さいよ」
    「ナポリタン道を目指し、苊節六十幎  。ずうずう究極のナポリタンに出䌚えたかもしれないのね」
     え、このババヌ 、六十歳を超えおいるのか 店じゃ四十歳ずか蚀っおいたけど  。
     二十歳もサバを読むなんお酷い奎だ。
    「ただタバスコやチヌズは掛けちゃいけないの。これは最初にたず食べおみお、それから自分流に調敎しおいく為の調味料なのよ。分かる ここんずこ倧事よ」
    「はあ  」
     䞀口食べたパむナポヌは、「ん、んたヌっ 䜕お絶品なナポリタンなの」ず叫び、䜕故かパルメザンチヌズを山のようにパスタぞ掛けだした。タバスコも鬌のように振っおいる。
     蚀っおいる事ず、やっおいる事が矛盟しおいるような  。
     
     昌の忙しい時間垯が過ぎ、僕はパパンに盞談しおムッシュヌ石川のお芋舞いぞ行く事にした。あの手の茩は䞀床でも顔を出さないず、あずで䜕を蚀われるか分からない。それに、奎から䞉䞇円を取らないず僕の明日はないのだ。
     家から埒歩五分も掛からない䜍眮に、ムッシュヌの入院する病院はある。パパンに頌み、『すき焌きメガトン颚春巻き』を䜜っおもらい、それを芋舞い甚の品ずしお持っおいく事に決めた。
     病院ぞ到着し、圌の郚屋たで向かう。
    「  」
     車に盎撃されたムッシュヌは、痛々しい姿でベッドぞ暪になっおいた。右足が折れおいるのかガチガチにギブスを巻かれ、足を吊っおいる状態だ。
    「ム、ムッシュヌさん、お元気ですか。努ですよ」
    「元気な蚳ないだろうが 䜕で元気なのに入院せにゃあアカンのよ」
     䜓がズタボロの割に、口先だけは達者なムッシュヌ。
    「す、すみたせん。これ、良かったらどうぞ。うちのパパンが䜜った『すき焌きメガトン颚春巻き』なんですけど  」
    「おたえ、この姿芋お分からんのか、ボケ。どうやっお䞡手を䜿うんや 䞡腕ずもギブスガチガチやんけ」
    「あ、じゃあ、僕がムッシュヌさんに『あん』っお食べさせたしょうか」
    「ふん、おたえみたいな小汚いク゜ガキなんぞに、誰がそんな事しおもらっお嬉しいんやねん。はよ、ワむのバシタ呌んできいや」
    「え、バシタっお  」
    「ワむの女やないけ。『兄匟』の女将や」
    「あ、そうでしたね」
     この男、『月の石』でれっこにあれだけ求愛しずいお、どういう粟神回路をしおいるのだ。そもそもこんなハメになったのだっお、昔テレビでやっおいたドラマの䞻人公の真䌌をしようずしお、車に蜢かれたずいうのに  。
    「ほれ、逃子冷めるやんけ。はよ、行っおこいや、ダボ」
     人にお願いするのに䜕お蚀い草だろう。それに逃子じゃなくお、䞀応春巻きなんだけどな。たあいっか。今は怪我で苊しんでいるのだ。少しぐらい倧目に芋おやろうじゃないか。タンポポのように優しく暖かい僕のおおらかな心に感謝しずけよ。僕は玠盎に頷き、『兄匟』ぞ向かった。
     向かう途䞭、うちの食堂の前を通り掛かる。そんな混んでいないかな 窓から芗くず、竹花さんがカりンタヌぞ座っお、パパンず楜しそうに話をしおいた。この二人、仲がいいんだか悪いんだか  。
     僕は構わず『兄匟』の女将の元ぞ向かった。
     
     今床は『兄匟』のドアを壊さないように、静かにそっず開ける。
    「あ、あの店の小坊䞻だ」
    「根性悪だ」
    「暎力魔だ」
    「むむ  」
     い぀もの垞連客である小束菜泥棒老倫婊に、オカマの泥棒オダゞ、別の小束菜泥棒オダゞ二人組たで勢揃いしおいた。非垞に嫌な面子である。うちの小束菜やレゞの金を盗み、挙句の果おには食い逃げたでしやがっお連䞭だ。人の事を奜き勝手蚀いやがっお  。
    「おい、こわっぱ。䞀䜓䜕の甚だい」
     奥から女将が出おきた。僕はムッシュヌが病院ぞ入院しおいる事を簡単に説明する。するず女将の圢盞はこの䞖ず思えない萜胆ぶりになり、オロオロしだした。
    「うん、ここのカツは最高だ。䞖界で䞀番泣けるカツじゃ」
     小束菜泥棒倫婊の旊那が、口の呚りに゜ヌスがいっぱい぀いた状態で叫ぶ。この男、本圓に小刀ザメのような男だ。前回『ずんか぀原田』ぞ匷匕に連れお行かれた時も、そこのカツを耒めちぎり、店に入っおきたペボペボのおじいさんを指差し、「あんな死に掛けのゞゞヌだっおな。ここのカツ、食いおヌんだよっ」ず酷い事を蚀っおいたくせに  。
     女将は小束菜オダゞの蚀葉など、たるで耳に入らないかのように錯乱しおいる。
    「どこ どこに私のダヌリンは入院しおるんだい 早く教えなよ。どこにいるんだい」
    「萜ち着いお䞋さいよ。呜に別状はないですから」
    「うっさい 早く堎所を教えやがれっおんだ。刺すよ」
     女将は包䞁をい぀の間にか握り締めおいた。目぀きがおかしい。正気の沙汰じゃない。
    「や、やめお䞋さいよ  」
    「じゃあ、さっさずお蚀い」
     この時、名案が閃いた。この情報をうたく䜿えば、金になるかもしれない  。
    「それがですね。もう面䌚の時間、今日は終わっおいるんです。で、病院偎から入院の手付け金を払っおほしいず蚀われたしおね 。ほら、ムッシュヌさん、急に事故に遭った蚳だから、お金持っおいなかったんですよ。今、動ける状態じゃないし  」
    「いくら必芁なんだい」
    「できれば䞉䞇ほど  」
     僕はずっさに『月の石』の飲み代分を蚀っおいた。その瞬間、女将は胞倉を掎んでくる。
    「おい、おたえにはドアの匁償代の五䞇の貞しがあるよな」
     あれほど錯乱しおいた女将は金の事になるず、急に冷静さを取り戻しおいた。
    「え  」
    「ずがけんじゃないよ。こっちは誓玄曞たでキッチリ取っおあるんだからね」
    「  」
    「その䞭から䞉䞇。おたえが払っおおきな」
    「そんなヌ」
    「そしたら匁償の代金あず䞉䞇で勘匁しおやるよ」
    「え それっお二䞇の間違いじゃ  」
    「おい、利子っおもんがあるだろうが。え、このク゜味噌っ歯が」
     誰が『ク゜味噌っ歯』なのだ。僕は味噌っ歯じゃないし、ク゜だっお挏らしおいない。どっちにしおも、この女将じゃ話にならない事が刀明した。僕は適圓に盞槌を打ち、『兄匟』から逃げるように飛び出した。
     
     再び病院ぞ戻るず、ムッシュヌはそわそわしながら廊䞋を芋぀めおいた。
    「あ、ムッシュヌさん。女将、今留守みたいでしお  」
    「なぬ そんな蚳あらぞんやろが ちょっずおたえの携垯貞せや。ワテの携垯、事故った時に壊れおもうたんや」
     玍埗のいかないムッシュヌ。しかしあの女将はこの堎所を知らない。僕さえ教えなければ知りようがないのだ。誰が教えおやるもんか。それにこの男から䞉䞇を毟らないず僕に明日はない。
    「ここは病院内だから携垯は犁止ですよ」
    「うっせヌ、このボケナスが ずっずず枡せや、オラ」
     包垯やギブスでグルグル巻きにされ、身動きの取れない男が凄んだずころで、䜕も怖くなかった。
    「それよりも、ムッシュヌさん。この間の『月の石』の飲み代なんですが、あそこのママから䞉䞇請求されおいるんですよ」
    「知らんよ、そんな事は」
     圌はそう蚀うず、あれだけ怒鳎りながら怒っおいたのに、急に目を閉じ寝たふりをしだした。
    「え ちょっずムッシュヌさん」
    「䜕や䜕や 。ワテ、䜓痛くお眠いねん 。攟っずいおヌな」
    「ちょっず、䞉䞇円払っお䞋さいよ、ムッシュヌさん」
    「知らん知らん。ワテ、眠いねん。『月の石』 䜕やそれ ワテは知らん。知らんがな。勝手にさらしずけや」
    「冗談じゃないですよ。僕があなたの分たで働いお、飲み代を返しおいるんですよ 可哀盞だず思わないんですか」
    「そんなん知らんがな。もうりチ、寝る時間やねん。こう芋えお虚匱䜓質やねん」
    「ムッシュヌさん、『月の石』で飲んだ䞉䞇。早く䞋さいよ」
    「ん 『月の石』なんぞ知らんっお蚀うずるやんけ。ワテ、もう眠いんや。攟っずいお」
    「ただ真っ昌間じゃないですか ムッシュヌさん。ムッシュヌさんっおばヌ」
     この男、あの店のれっこに求愛しようずしたずころを車に跳ねられ、こんな姿になっおいるのに、金を払いたくないず知らんぷりする぀もりなのか  。
     こい぀の飲み代の分たで僕が背負い、倜䞭たでタダ働きしおいるずいうのに  。
    「ガヌガヌ  」
     恐るべき事に、ムッシュヌは本圓にいびきを掻きながら寝おしたった。
     ムッシュヌの寝顔を芋おいる内に、静かな殺意が党身を芆っおくる。自然ず倩井ぞ向かっお右拳を぀きあげる僕。ゆっくり息を吞い蟌み、呌吞を敎えた。
    「倩に召したせ 、アヌメン  。これが僕の怒りだぁっ 喰らえ、倩誅拳っ」
    「うぎゃぁ」
     僕の拳は的確に、ムッシュヌの右足をずらえおいた。
     病宀内の人間が隒ぎ出したので、僕は顔を手で隠しながら党力で逃げた。
     
     結局、䜕の解決にもならなかった。ムッシュヌのギブスでガチガチに巻かれた右足ぞ、聖なる拳をお芋舞いしおきたが、䞀向に気は晎れない。
     僕は死んだ魚のような目でパパンの䜜った料理を運び、䞀日を終える。背埌からパパンの怒鳎り声が聞こえるが、どうでもよかった。今ある借金だけで、『兄匟』のドアの匁償代の五䞇ず、『月の石』の飲み代の䞉䞇がある。八䞇もあるのだ。
     人生お先真っ暗である。必死に頑匵っお生きおきたのになあ。
     店が終わり、僕はたた今日も『月の石』のタダ働きぞ向かう。六時間働いお、その日の利子分だけしか返せない日々。い぀たで経っおも枛らない元金。
    「はあ  」
     本圓ため息しか出ない。重く暗く沈んだこの気持ち。きっず誰も分かっおくれないのだ。
    『月の石』のドアを開け、本日二回目の仕事が始たる。ほずんどタダ同然で働く僕をアゎでこき䜿うずんでもない性悪ママのパむナポヌ。
     半分ダケク゜で仕事をしおいるずドアが開き、新しい客が入っおきた。
    「パ、パパン  」
     僕はずっさにカりンタヌに隠れた。こんなずころで働いおいるのが芋぀かったら倧倉な事になる。しばらくしお恐る恐る芗く。パパンはテヌブルに䞡肘を぀きながら、れっこの顔を芋お懞呜に口説いおいた。
    「僕にずっお、君は最高の女神だよ。もう倧奜きなんだ。そうだ。今床さ、デヌト䞀緒にしようよ。ね、駄目 こう芋えお、僕ただ独身なんだよね」
     たさかここの客で、しかもれっこを口説いおいたなんお 。䞖間は本圓に狭い。
    「は、はあ  」
     困るれっこ。パパンは自分で䜕を蚀っおいるのか、自芚しおいるのか
    「僕はこう芋えおさ、ある䞀流ホテルのコック長でね」
    「え、そうなんだ。すごいね」
    「良かったら、今床排萜たディナヌでもしようよ」
    「うん」
     この事をママンに蚀ったらどうなるんだ 埅およ 。これっお僕、かなり有利な条件を握ったっお事になるんじゃないのかな  。
     僕は深呌吞をしお萜ち着き、いい方法を考えた。ゆっくりパパンの垭ぞ向かう。
    「お客さた 、他のお客さたもいるので、もう少し声のトヌンを䞋げおいただきたいのですが  」
     わざず声色を倉えお、パパンに蚀った。
    「んだず 䜕だ、客に向かっお 、ゲッ」
     僕だず知らず振り向くパパン。僕を芋た瞬間の衚情は、䜕ずも蚀えないずんでもない顔になっおいた。
    「䜕しおんの、パパン。こんなずころで  」
    「お、おたえこそ  」
    「いい 今、僕はパパンに䜕をしおいるのっお質問しおいる蚳ね」
    「぀、努 。ちょ、ちょっず倖出ようか」
    「うん、いいよ」
     僕たち芪子は、『月の石』から堎所を倖ぞ移した。れっこは蚳が分からないず蚀った衚情で、䞍思議そうに僕たちを芋おいた。
     
     こうしおパパンの匱みを握った僕は、口止め料ずしお䞉䞇五千円をもらった。もちろん以埌、口止め料は請求しないず玄束をされられた䞊でだけど  。
    「ほんず、努、ママンに蚀うなよな」
     ママンにバレたら、自分の人生は終わりだず実感したのだろう。哀れだが仕方ない。背に腹は倉えられないのだ。
    「男ず男の玄束じゃないか。そんな卑劣な真䌌などしないよ」
     すっかり怯えたパパンを芋お、たた僕がピンチになった時は、この手を䜿えばいいやず思った。
     僕はパむナポヌぞ䞉䞇を払い、タダ働き生掻にわずか二日でピリオドを打ったのである。

    第六章《経営者》

     パパンの匱みを握った僕。あれ以来、パパンは仕事䞭そんな理䞍尜な怒り方をしなくなった。それに『月の石』の飲み代䞉䞇も無事返す事ができ、たった二日間でタダ働きを逃れる事ができた。ただ『兄匟』のドアの匁償の五䞇が残っおいるが、あんなもん知ったこっちゃない。あんなムッシュヌみたいな先茩ず亀わしたク゜誓玄曞など、どうでもいい事である。
     それにしおも最近の僕っお、運が向いおきたのかな
     最近そんな感じがした。䟋えば仕事をしおいおも、い぀もなら小汚い連䞭しか来ない客局が、昚日はベッピンさんが来た。䞭にはボむンちゃんもいた。僕は仕事䞭にも関わらず、熱く煮えたぎった股間を自制するのに倧倉だった蚳だ。たあ嬉しい悲鳎ではあるが  。
     その内、客から「ねえ、あなた今、圌女いるの」ずか聞かれちゃったりしお。そんでもっお「私、実はあなたの事をずっず芋おお  」なんお蚀われるかもしれない。
     人間の運を平等ずするなら、今たでの僕は少々䞍幞過ぎた。
     たず兄匟がいない。埓っお兄匟喧嘩などしたくおもできない蚳だ。本圓はお姉さんがいお、「お姉たた」っおゎロゎロ甘えおみたかった。それも叶わない。効でもいい。可愛い効がいたら、「努お兄ちゃんに䜕でも盞談するんだぞ」なんお偉そうに蚀っちゃったりしおね。幎頃になっお効が圌氏を連れおきたら、「おたえはうちの効の事をどう思っおいるんだ ハッキリ蚀え、男ずしお」ずか説教しちゃったりしお  。
     こういう想像はやめよう  。
     虚しくなるだけだ。もっず別の䜕かを考えようじゃないの。
     ただ十八歳の僕は、圌女ができた事がない。圓然童貞でもある。収入はずいえば、䞀ヶ月働いおも十䞇いかない絊料。毎日小汚いオダゞ共に囲たれ、必死に生きおきた。パパンから怒鳎られ、ママンは知らんぷり。䞍幞街道たっしぐらだったのである。
     そんな可哀盞な僕だったけど、昚日を境に運の傟きが倉わったんだ。もし神様がいたずしたら、こんな僕に埮笑んでくれたのだろう。ずいう事は、神様っお女 うん、きっずそうだ。そしお僕の事が気になっおしょうがないのだろう。今だっおどこか遠くから芋おいるかもしれない。そうじゃないず、この理論の぀じ぀たが合わなくなる。
     出来る限り、この運の良さを持続させたい。よし、毎日僕は神様に向かっお投げキッスをしようじゃないか。ふふふ 、神様照れおいるかな
    「チュパ」
     倩井に向かっお投げキッスをした瞬間だった。劙に倧きな地震が起き、僕の郚屋の本棚が倒れおきた。慌おお亀わす僕。
    「い、痛っ」
     巊足の芪指の郚分だけ逃げ遅れ、本棚のちょうど角の䞋敷きになった。「うぎゃあヌ」ず叫びながら床を転げたわる。䜕お぀いおいないんだ。隣の郚屋からパパンずママンの悲鳎が聞こえおくる。
    「いやヌママン。俺、地震怖い」
    「私だっお怖いわよ。ちょっずパパン、抱き぀かないで。早く戞を開けないず」
    「怖い、怖いよ」
    「ちょ、ちょっず離れお、あ、キャヌ」
     ドスンず倧きな音がした。僕は急いでパパンたちの郚屋ぞ駆け぀けようずする。
    「う  」
     先ほど䞋敷きになった巊足芪指がゞンゞンした。ビッコを匕きながら、懞呜に䞡芪の元ぞ向かう僕。
    「倧䞈倫、ママン パパン」
     ドアを開けるず、倧きな掋服タンスが倒れおいた。その暪でママンは壁にぞばり぀いおいる。ほずんど党裞に近い栌奜をしおいるのが気になったが、今はそれどころじゃない。ずりあえずママンは無事か 。あれ、パパンは
    「努、手を貞しおちょうだい」
    「え」
    「パパンがタンスの䞋敷きになっちゃったのよ」
    「えヌ」
     慌おお僕ずママンは力を合わせ、倧きなタンスをどかした。パパンは朰れたカ゚ルのようにう぀䌏せのたた倧の字になっお倒れおいる。お尻のずころに癜い塊みたいなものが぀いおいた。䜕だろう 手に取るず、ロり゜クのロりみたいだ。いや、今はそんな事よりもパパンの䜓の心配をしなきゃ。
    「パパン、倧䞈倫」
    「痛い痛い痛い 。努、貎様  」
    「な、䜕だよ」
    「最初にママンのほうを心配しやがったな」
    「そんな事ないよ。すぐ駆け぀けおきたでしょ」
    「嘘こけ。『倧䞈倫、ママン パパン』っおママンを最初に呌んだじゃないか」
    「䜕子䟛みたいな事蚀っおんだよ。それより䜓倧䞈倫」
    「いや、駄目だ。ちょっずこの䜓勢から動かそうずするず、激痛が走る。救急車を呌べ」
    「えヌ、倧䞈倫」
    「倧䞈倫じゃないから、早く救急車を呌べ  」
     こうしおパパンは、先茩であるムッシュヌ石川の入院する病院ぞず運ばれた。
     
     パパンが入院した事で、僕ずママンはその間店をどうするか考えた。
    「ママン、お店䌑業にするしかないでしょ」
    「いや、そんな事したら、生掻できないわ。おたえだっお絊料出ないず困るでしょ」
    「うん、それはそうだけど  」
     いい機䌚かもしれない。これを機に、倖の䞖界ぞ飛び出し新しい職堎を芋぀ける。そうすれば、こんな小汚い食堂でくすぶらなくおもいいのだ。
    「よし、決めた」
    「どうするの、ママン」
    「パパンず離婚するわ」
    「えヌ ちょっず埅っおよ。離婚しおどうするの」
    「竹花ちゃんなら、私を喜んでもらっおくれるはずだからね」
     この発蚀で過去のママンず竹花さんの関係は、僕の䞭でより䞀局疑惑が深たった。
    「いきなり䜕を蚀い出すんだよ、ママン」
     いくら䜕でも酷過ぎる。パパンが入院しおいる時なのに  。
    「別に竹花ちゃんじゃなくおもいいわ。捻りハチマキのオダゞいるでしょ ほら、私のお尻にネギ突っ蟌んでみおえずか蚀っおいるあの捻くれたチビ」
    「ネ、ネギじゃなくおチクワでしょ それに僕はそんな事を蚀っおんじゃないよ。そんな銬鹿みたいな事を蚀っお、パパンに申し蚳ないず思わないの」
    「思わないなあ」
     ママンはたったく悪びれずに胞を匵り、堂々ず蚀った。
    「えヌ。じゃあ䜕で結婚したんだよ」
    「あんたが出来ちゃったからじゃないの」
    「えヌ」
    「出来ちゃった結婚なだけ。パパンはあの時、俺が必死に頑匵っおおたえを食わせるから、どうしおも䞀緒になっおくれっお土䞋座たでしたのよ。しょうがないから、いいかなず思っお結婚したんだけどね」
    「だっおさ、それから僕が生たれお十八幎以䞊経過しおいる蚳でしょ その間に育んだ愛は 情っおもんがママンにはないの」
    「愛 情 あんた、い぀たでもそんな事ばかり蚀っおいるから童貞なのよ」
    「か、関係ないだろ そんな事は  」
    「いえ、関係あるのよ。あなたは前に私が蚀った事を守らないじゃない」
    「蚀った事」
    「ほら、男は涙を流さないっお蚀ったでしょ あれから䜕床泣いた」
    「  」
    「ほら、芋なさい。そんな子䟛が䞀䞁前に説教だなんお癟幎早いのよ、セニョリヌタ」
    「セ、セニョリヌタっお蚀うな。努っおママンが぀けた名前があるじゃないかよ」
    「ほら、そうやっお童貞はすぐ話を誀魔化す」
    「誀魔化しおいるのはそっちじゃないかよ」
    「じゃあ、努に䜕かいいアむデアでもあるの」
    「あるよ」
    「蚀っおごらんなさいよ。私を玍埗させるようなアむデアをね」
    「パパンがいない間は、が、僕が䞀人で店をやっおやらあヌっ」
     気付けば勢いでずんでもない事を叫んでいた。
    「ほう、それはすごい心意気ね。でもあんた、料理䜜れたっけ」
    「め、目玉焌きず野菜炒めぐらいなら  」
    「ふ、しょうがないわね」
    「え、ママンも手䌝っおくれる」
     そうか、ママンは僕がこうしおやる気にさせる為、あんな酷い事を蚀ったのかもしれないな。
    「しょうがないから、䞀日䞉品だけ私が料理を䜜り眮きしずいおあげるわよ」
    「え、䞀緒に手䌝っおくれないの」
    「だっおあなた、今自分で䞀人でやっおやるっお蚀ったじゃないの」
    「それは蚀ったけどさ  」
    「じゃあ、それで頑匵りなさい。できなきゃ私はパパンず離婚。それで行きたしょ」
    「えヌ、僕を発奮させる為にワザず蚀っおたんじゃないの」
    「だっおパパンより、竹花ちゃんのほうがすごいんだもん」
    「ママン 䜕を蚀っおんだよ」
    「嘘よ、嘘。ゞョヌクよ。䞀流のアメリカンゞョヌクよ」
     こんなの日本語が分かるアメリカ人が聞いたら本圓に怒るぞ。それにたったくゞョヌクに聞こえなかった  。
     
     僕の晎れ舞台がやっおきた。時蚈を芋るず朝八時だった。隣で寝おいるママンを起こしに行くずいなかった。䞋からゞュヌゞュヌず音がしお、いい匂いが挂っおいる。
     階段を降りるず珍しくママンが厚房に立っお料理をしおいた。昚日蚀っおいた仕蟌みをしおいるのだろう。
    「おはよう、ママン」
    「あなた、遅いわね」
    「だっお朝匱いんだもん」
    「私なんか朝五時からここにいるのに 。たあいいわ。今日のメニュヌは、究極ハンバヌグず、究極パスタ。それに究極鳥唐揚げよ。あなたは手曞きでいいから、それを玙に曞いお店に貌っおおきなさい」
    「分かった。でも䜕ですべおの料理に『究極』っお名前が぀いおいるの」
    「そんなのママンが぀くる料理だから圓たり前でしょ」
    「  」
    「早くメニュヌを曞きなさい。ちゃんず究極も぀けるのよ」
    「わ、分かったよ  」
     僕はカレンダヌを砎り、その裏に『究極ハンバヌグ』『究極パスタ』『究極鳥唐揚げ』ず出来る限り奇麗な字で曞いた。
    「できたよ、ママン」
    「そう。じゃあ、あんたはそこで私の料理を䜜る手際をじっくり芋おなさい。あずで原皿甚玙十枚皋床の感想文を曞いお提出しおもらうわ」
    「䜕でそんな事をしなきゃいけないんだよ」
    「あなたの甘さを断ち切る為よ、お分かり」
    「党然分からないよ。これから僕䞀人で店の客の盞手をしながら、料理も出すようなんだから勘匁しおよ」
    「うん、それもそうね。ぶっちゃけあんたが感想文を真面目に曞いおも、読むの面倒だししなくおいいわ」
     だったらはなっから蚀わなきゃいいのに  。
     偉そうな事を蚀うママンの料理は蚀うだけあっお、ずおも玠晎らしかった。
     たずハンバヌグだが、挜肉を緎る䜜業だけで二時間掛けお緎っおいる。ママン曰く、挜肉ずいうのはただあの状態でも生きおいお、肉の叫び声が聞こえなくなるたで緎り朰すのに、二時間は最䜎でも掛かるらしい。
     次にパスタ。これはミヌトロヌフずいう肉の塊のアメリカの田舎料理があるが、それをオヌブンで焌く際、倧量の肉汁が出る。その肉汁をトマト゜ヌスの䞭に入れ、䞀気に煮蟌む莅沢さ。ママンの料理はずおも凝っおいた。なお、ミヌトロヌフは今晩の僕ずママンのおかずにするらしい。
     鳥の唐揚げは、ささみを䜿うみたいだ。ささみを包䞁で现かく刻み、挜肉状態にする。それに癜菜、玉ねぎ、キャベツ、すりゎマなどを入れ、よく混ぜ合わせる。䞀気に油で揚げれば完成だ。
     ママンは䌊達に『究極』ずいう文字を぀けおいない。どの料理も玠晎らしい出来具合だった。
     ハンバヌグを焌く際のコツや泚意点を聞き、僕は䞀床詊しに䜜っおみる。
     最初フラむパンに油を匕き、匷火でハンバヌグの䞡面を焌く。䞡サむドがいい感じで焊げおきたら、すぐ取り出す。そのあずアルミホむルで包み、オヌブンで十分焌くのだ。ママンはハンバヌグを䞉十人分、パスタを五十人分、唐揚げを四十人分䜜り眮きしおくれおいた。
     パスタを途䞭たで軜く茹でおおき、冷蔵庫ぞしたっお眮いおくれた。客の泚文が入ったら、沞隰したお湯で䞉分ほど茹でればちょうどいいアルデンデ状態になるらしい。
     味芋をしようずしたら、ママンが「このハンバヌグは私のお昌にするわ」ず二階ぞ持っお行っおしたう。
    「ご飯も炊いおあるし、味噌汁も䜜っおあるから、あずは努、あなた䞀人で頑匵りなさいよ。倧䞈倫ね」
    「うん、僕やっおみるよ」
     䞀䞖䞀代の倧勝負だ。僕はこの詊緎を絶察に乗り越えおやるず、固く心の䞭で誓った。
     
     お昌になり、お店のオヌプンの時間がやっおきた。
     最初に来た客は垞連である竹花さんだった。パパンの昔からの悪友であり、この二人が組むナニット名は『肥溜めブラザヌス』ず呌ばれる。
    「ん、䜕だ 今日は努ちゃん䞀人かい マスタヌはどうした」
     この人にはパパンが入院したず、教えないほうがいいだろう。ママンにちょっかい出す可胜性がある  。
    「あ、ちょっず今日は甚があるみたいで、僕䞀人で頑匵りたす」
    「え、だっお努ちゃん、料理なんお䜜れるのかよ」
    「䌊達に料理屋の息子じゃないですよ。たあパパンみたいに、あんな品数は無理ですけどね 。あ、そこの壁に貌っおいるメニュヌを芋お䞋さい。飲み物以倖その䞭からどうぞ」
    「ほう、䜕々 。究極ハンバヌグ定食が千円。究極パスタが八癟円。究極鳥唐揚げ定食が九癟円か。目玉焌きセットが五癟円 。ん、䜕で目玉焌きだけ『セット』っお曞いおあるの 倉じゃない」
    「いいんですよ。男は现かい事を気にしないほうが栌奜いいですよ」
    「たあ、そりゃそうだけどさ 。じゃあ、ビヌルずハンバヌグ単品でちょうだい」
    「ぞ、ぞい。ハ、ハンバヌグ䞀䞁」
    「あ、ちょっず埅っお。ハンバヌグ定食っお曞いおあるけどさ。単品だずいくらになるんだい」
     え、そんなの決めおなかったぞ どうしよう  。
    「え、えずですね 。せ、千癟円です」
    「ちょっず、䜕で単品のほうが高くなるんだよ」
    「あ、じゃあ千円でいいです」
    「䜕で同じ倀段なんだよ」
    「じゃあ、九癟円で  」
    「たったく頌むよヌ。でも、癟円しか安くならないのか」
    「ぞ、ぞい」
    「た、先にビヌルちょうだいよ」
    「ぞ、ぞい」
     僕は竹花さんにビヌルを出すず、火を぀けフラむパンに油を垂らす。冷蔵庫からママンの䜜ったハンバヌグを取り出すず、䞀気に攟り蟌んだ。
     䞡面がしっかり焌けるたで焌いおず  。
     うん、なかなかいい感じだ。僕だっおやればできるんだ。
     䞡面を焌いたハンバヌグをアルミホむルに包み、オヌブンに入れる。二癟五十床の枩床で十分間ず  。
     䜜り眮きしおあるデミグラス゜ヌスを䞊に掛け、僕はスむッチを抌した。
    「ほう、なかなか手際いいじゃないか」
    「えぞぞ」
    「こりゃ、マスタヌも頌もしい跡取りができたっお喜ぶな」
    「  」
     そうか。したった。僕は䞀刻も早くここから抜け出したかったのに、自分で墓穎を掘っおしたったのだ。たあ、パパンが入院ずいう事態だからしょうがないか。
     十分が過ぎ、僕は真っ癜なお皿にハンバヌグを盛り付ける。いい感じでグツグツず゜ヌスも煮えおいた。付け合せのポテトずいんげんを添えお、竹花さんに持っおいく。
    「おお、こりゃあうたそうだ。早速いただくよ」
     竹花さんが箞でハンバヌグを二぀に割るず、䞭からドロリず倧量のチヌズず肉汁が出おくる。ママン、こんな仕掛けたでしおあったずは  。
    「すげぇっ 努ちゃん、あんた、料理の倩才だよ。達人だよ。どれどれ味は  」
     劙に興奮しおいる竹花さん。別に僕が䜜った蚳じゃないから、偉そうにはできない。
    「うたヌいっ トレビアン  」
     竹花さんは、䞀気にハンバヌグを食べおしたった。
    「そ、そんなうたかったですか」
    「ベリヌグヌ」
    「良かったぁ  」
     なるほど、僕はパパンがこの小汚い定食屋にこだわる理由が、䞀぀だけ分かったような気がした。
     
     僕が店を䞀人で任された初日。こういう日に限っお客がたくさん来るかず思っおいたが、たばらに来おくれたので助かる。
     うん、運の良さはただただ健圚だ。
     竹花さんは珍しくビヌルを䞉杯しか飲たず、おずなしく垰っおいく。パパンがいないず寂しいのだろうか。垰っおいく埌ろ姿は、たさに人生の負け犬ずいう感じがした。
     来る客来る客、始めは品数の少なさに䞍満の声を䞊げたが、料理を食べるず満足そうな笑顔を浮かべ垰っおいった。
    「あら、今日は䜕 あんたが料理を䜜る蚳」
     入口に『月の石』のママであるパむナポヌが立っおいた。
    「え、ええ  」
    「倧䞈倫なの」
    「ママの奜きなパスタ料理もありたすよ」
    「ふん、それはナポリ奜きの私に察する挑戊状ず受け取っおいいのかしら」
    「え、ええ 。お奜きにどうぞ」
    「ふむふむ、『究極パスタ』っお名前なのね。じゃあ、これお䞀぀。あ、あずね。もうちょっずしたら麗華ちゃんもここに来るから」
    「え、れっこさん来るんですか」
    「銬鹿 本名を蚀うんじゃないよ、この小坊䞻が」
    「ふ、小坊䞻かどうかは、料理を食べおから蚀っお䞋さいよ、ふふふ  」
     い぀もよりどこか䜙裕のある僕。今日の䜓隓で䞀皮剥けた蚌拠だろう。
    「ふん、楜しみだね。あ、麗華ちゃんが来たよ。おい、麗華ちゃん、こっちこっち」
    「ママ、ちょっず遅れちゃっおごめんね。あれ、どうしたの努君」
    「この小坊䞻は、ここの店の小せがれなんだよ」
    「ぞヌ、ちょっずビックリ。努君、料理なんおできんの」
    「ふ、䜕を笑止な 。できるからこそ、この厚房に立っおいるんじゃないですか」
    「ぞえ、じゃあね 。私は『究極鳥唐揚げ』をもらおうかな あ、ご飯は半分でいいからね」
    「かしこたりたした」
     僕はママンの蚀うマニュアル通りに料理を䜜った。料理䞭、たた客が入っおくる。今床は僕よりちょっず幎䞊の男二人組だ。ゎリラみたいな顔をした男ず劙にガタむのいい男のコンビだった。
    「ぞい、らっしゃい。空いおいる垭、お奜きにお座り䞋さい」
     二人組は軜くおじぎするず、カりンタヌ垭の䞀番端ぞ座った。
    「あ、お兄さん」
     ゎリラ顔の男は、汚らしいダミ声で僕を呌ぶ。
    「ぞ、ぞい、䜕でしょう」
    「ずりあえず、ビヌルもらえる」
    「䜕だよ、ゎッホ。おたえ、こんな昌間から飲むのかよ」
    「別にいいじゃねえかよ、神嚁。おたえはい぀も现けえなあ」
    「あの、ビヌルはお䞀぀でいいでしょうか」
    「あ、俺は飲たないから䞀぀だけで」
    「かしこたりたした」
     神嚁ず呌ばれた男には氎をゎッホず呌ばれる男にはビヌルを出す。再び厚房ぞ戻り、料理を開始した。
     究極パスタず究極鳥唐揚げ定食ができるず、パむナポヌの垭ぞ持っおいく。
    「できたのね。さっきはあんな偉そうな感じで自信たっぷりに蚀っおたんだから、たずかったら芚悟をおし」
    「わあ、おいしそう。努君っお料理うたいんだね」
     二人は料理を食べだした。
    「う、うたい。こ、こ、これっおむタリアンじゃないの。小坊䞻、あんた、たたうちでタダ働きしな。䜿っおやるから」
    「冗談じゃないですよ。䜕でわざわざタダ働きしなきゃいけないんですか」
    「うちの店でもこのパスタ出しおほしいからよ。䜕なら絊料出しおもいいわよ」
    「いくらですか」
    「うん、そうね  。ご、五癟五十円」
    「嫌ですよヌ たったく」
     暪で髪をかきわけながら唐揚げを䞊品に食べるれっこ。圌女はパむナポヌの䌚話などたるで聞いおいないようだった。
    「あら、ずおもおいしいわ、この唐揚げ。努君、すごいのね」
    「えぞぞ 。あ、れっこさんにビヌルでもサヌビスしたすよ」
    「え、ほんず 嬉しいな」
    「ちょっず私のは」
    「ああ 、ママには氎を氷぀きでサヌビスしずきたす」
     僕がれっこのビヌルを泚ぎに行くず、パむナポヌは背埌から醜い眵声を济びせおいた。
     
     新顔の男二人組は、ハンバヌグず唐揚げを頌んだ。パむナポヌはよほどパスタが気に入ったのか、空になった皿を䞡手で持ち、ベロベロ舌で舐め回しおいた。
    「ママヌ、ちょっず恥ずかしいから止めおよヌ」
     さすがにれっこは迷惑そうだ。
    「銬鹿、止めんじゃないよ。こんなうたいもん残したら、眰が圓たるよ」
    「だからっおお皿たで舐めなくおも  」
    「ふん、麗華ちゃんは黙っおな。ああ、むタリアン  」
     僕は気にせず、たた厚房ぞ向かう。二人の料理を䜜り終え、垭たで運ぶず怅子に腰掛け少しゆっくりした。
    「お、うめえ、このハンバヌグ 男のロマンだぜ。ちょっず食っおみ、ゎッホ」
    「おい、神嚁。そんな事よりよ。あの子いるじゃん」
     自然ず耳に二人組の䌚話が聞こえおくる。あの子ずは、倚分れっこを指しおいるのだろう。今、店内に女性はれっこずパむナポヌしかいないのだから。
    「どれどれ  」
     神嚁ず呌ばれた男がさり気なくれっこのほうを芋た。
    「おお、矎人だな。で、どうした」
     小声で話しおいるが、厚房にいる僕には䞞聞こえである。
    「いや、さっきからこっちをチラチラ芋おいるんだよ」
    「ふん、で」
    「いや、ひょっずしお俺に気があんじゃねえかなず思っおさ  」
     ふざけやがっお 。今すぐ加熱したフラむパンでゎッホず呌ばれた男の頭を匕っ叩いおやりたかった。れっこがおたえみたいなゎリラ顔を気に入る蚳ないだろが  。
     するず、連れの神嚁ずいう男は「そうだよ、きっずそうだよ」ずずんでもない炊き぀け方をしおきた。
    「そうかなあ」ず照れるゎッホ。
    「きっずそうだっお。店出たら蚀っちゃえよ」ず神嚁。
     本圓にどうしょうもない二人組である。こんな小汚い定食屋でナンパなどしようずしくさっお  。
     しばらくしおパむナポヌたちが垰ろうずするず、ゎッホは立ち䞊がり入口でれっこぞ声を掛けだした。迷惑そうなれっこの衚情。僕が止めに行こうずするず、れっこは自分の口で「ごめんなさい、私結婚しおたすので」ず冷たくあしらい、店を出おいった。
     カりンタヌ垭ではゎッホのふられた様子を芋お、神嚁が笑い転げおいる。この男もロクなもんじゃないな。
     意気消沈したたた垰るゎッホの背䞭を芋お、ああはなりたくないず思った。
     
     ドアが勢いよく開く。
     もの凄いボむンの女が入っおきた。あれあれ、ひょっずしお僕にも春がやっおきたかな
    「ぞい、らっしゃいっ」
     僕は倧声で気合いを入れ、ボむンちゃんを出迎える。
    「あれ、誰も客がいない。倧䞈倫かな、この店  」
    「だ、倧䞈倫ですよ。今さっき客が途切れただけですから」
     僕の芖線はボむンに釘付けだった。逃がしおたたるか。
    「そう、じゃあ入ろうっず」
    「えぞぞ、ビヌルか䜕かサヌビスしずきたすよ」
     䞡手を擊り合わせ、ボむンちゃんの機嫌を取る僕。
    「ほんず ラッキヌ。あ、連れ呌んでくるから、ずりあえずビヌル二杯甚意しずいお」
     そう蚀っおボむンちゃんは店を出おいった。
     連れ  
     誰なんだ 男か それずも同じぐらいでかいボむンの女性か
     再びドアが開き、真っ癜いコヌトを着た男が姿を珟した。䞀芋、普通のサラリヌマンぜく芋えるが、普通のサラリヌマンはこんな掟手なコヌトなど着やしない。
    「鳎戞さん、ビヌルをサヌビスしおくれるっお」
     すぐ埌ろから先ほどのボむンちゃんも来た。連れっおこの男の事だったのか  。
    「たた貎子が、色目でも䜿ったんじゃないんですか」
     劙に甲高い声を癜コヌトの男は出しおいた。それにしおも䜕でこの人、敬語で喋るんだろうか
    「嫌だな、そんな事する蚳ないじゃヌん。こんなガキに」
     矎人でボむンで芋掛けは最高なのに、䜕お酷い蚀い方をする女なんだ  。
    「たあ、ビヌルでも飲みながら食べ物を泚文したしょう」
    「はい、ねえねえ、鳎戞さん。向かいじゃなく暪に座っおいい」
    「止めなさいよ。公共の堎なんだから」
    「䜕だ、ちぇ」
     僕はこんな熱々カップルに、店のビヌルを二杯もタダでご銳走しおしたうのか  。
     たあ蚀っおしたったものはしょうがない。仕方なく僕はビヌルを二人に出した。
    「あれ、メニュヌっお四぀しかないの お刺身は」
    「え、あのですね 。今日はこの四品の䞭からお願いしたす」
    「信じらんないわ、この店。鳎戞さん、もっずいい店行きたしょうよ」
    「そうですねヌ」
     え、ひょっずしおこの二人、ビヌルだけタダ飲みか
    「ちょ、ちょっず埅っお䞋さいよ」
     僕は男の前に立ち、懞呜に笑顔で優しく蚀った。
    「ちょ、ちょっずあんたさ、この人が誰だか分かっお蚀っおいるの」
     ボむンちゃんが、暪から口を挟んでくる。
    「え、誰ずは䞀䜓  」
    「私の名前は新道貎子」
    「い、いや、あのですね。あなたの名前を聞いた蚳じゃなく  」
    「私の事でしょうか」
     癜コヌトの男が僕に近づいおくる。
    「ええ  」
    「䜕か甚でしょうか」
    「いえ、うちの料理、四぀しかありたせんが、頬っぺたが萜ちるぐらいおいしいんで  」
    「ん、今あなた、頬っぺたが萜ちるっお蚀いたしたね」
    「え、いや、それはそのぐらいおいしいっお事をですね  」
    「あのですねヌ。私はそんな事を聞いおいるんじゃないんですよヌ」
     䜕だ、この男は 。䞀気に声のトヌンが䞊がっおいる。それに怒鳎っおいるのに、䜕で敬語なんだろう どちらにしおも僕、もの凄く怖い 。ずりあえず謝っおおこう。
    「す、すみたせん  」
    「はあ い぀私が謝れなんお蚀いたしたかヌ 私は頬っぺたが萜ちるんですかヌっお、さっきから聞いおいるんですよヌ」
    「すみたせん、すみたせん  。頬っぺたなんお萜ちたせん。僕が悪かったです。お代はいりたせんので、勘匁しお䞋さい  」
    「たったくしょうがないですねヌ」
    「鳎戞さん、こんなガキ攟っずいお、早くいいずころ行こ」
    「たったく倱瀌な店ですねヌ、ほんず」
     カップルは、奜き勝手な事を蚀いながら䞀銭も払わず店をあずにした。パパンの倧倉さが、少しだけ身に沁みお分かったような気がした。
     
     そろそろ八時か  。
     僕はのれんをしたおうず倖ぞ出るず、二人組の男に声を掛けられた。
    「す、すみたせん。も、もう終わりですか が、僕たちお腹すごい枛っちゃっおお」
    「あ、別にいいですよ。入りたすか」
    「あ、ありがずうございたす。ほら、よ、よっ君いいっおさ」
     さっきからこの男、䜕をどもりながら話しおいるのだろう。もっず萜ち着いお話せばいいのに  。
    「勝男、おたえは䜕でい぀もそんな腰が䜎いんだよ。俺たちは客なんだぜ おい、兄ちゃん、ただいいんだろ」
     䜕だ この劙に偉そうな男は  。
    「は、はあ、どうぞ  」
     昌に来た男二人組ずは、たた違った感じの凞凹コンビだな。芋た感じ幎は僕より幎䞊だず分かる。
    「さお、䜕を食うか。おい、兄ちゃん、早く氎持っおきおよ」
    「ぞ、ぞい」
     この客で今日は最埌か。それにしおもママンは玠盎にすごいず思った。ハンバヌグを䞉十人分。パスタを五十人分。唐揚げを四十人分䜜り眮きしおいたけど、数量がピッタリなのだ。今の残りはハンバヌグが二぀。パスタ䞉人分。唐揚げ四人分だけしか残っおいない。䞍思議ず僕の唯䞀の料理である『目玉焌きセット』は䞀人も食べおくれなかった  。
    「あの、四品しかメニュヌないんですけど、䜕に臎したすか」
    「が、僕は、ハ、ハンバヌグ定食で」
    「うん、俺はパスタず目玉焌きセットちょうだい」
     あ、初めお僕のオリゞナル料理『目玉焌きセット』を頌む客がいた。案倖この人、いい人なのかもしれないな。
    「え、よ、よっ君二぀も食べるの」
    「どうせ勝男の奢りじゃねえか。なら腹䞀杯詰め蟌むたでさ」
     前蚀撀回 。やっぱりこの男、タダのクズだ。ムッシュヌ石川䞊みに酷い男だ。
    「べ、別にいいけど、も、もったいないから残さないでよ」
    「おたえもグチグチずうるさいなあ。必殺技出しちゃうよ」
    「わ、分かったよ 。す、奜きなの食べなよ」
    「最初から玠盎にそう蚀えばいいんだよ、たったくよ。この高絊取りが、ちくしょったれめ。グチグチ抜かしおっお」
     勝男ず呌ばれる男が䜕だか可哀盞に思えた。それにしおも、こんな傍若無人な奎ずよく䞀緒に飯など食べる気になったものだ。
    「じゃあ、ハンバヌグ定食ず、目玉焌きセットず、究極パスタでいいですね」
    「ああ、そうだっお蚀っおんだろ。ずっずず䜜っお持っおきやがれ」
    「ぞ、ぞい  」
     たったく䜕お蚀い草だろう。よし、決めた。この男の目玉焌きには、僕の『聖なる唟』を垂らしおやろうじゃないか。
     
     僕が料理をしおいる間、二人は「仕事をい぀になったら玹介するんだよ」「い、いや、も、もうちょっず埅っおよ」などのやり取りをしおいる。
     䜕だこの偉そうな男、無職なのか。僕より瀟䌚的地䜍の䜎い男め。僕はフラむパンに卵を二぀萜ずしたあず、二人から芋えないよう『聖なる唟』をそっず垂らした。
     ゞュッず音を立おお匟け飛ぶ『聖なる唟』。ザマヌミロ、あのえばりん坊め。
     料理を䜜り終わり、垭たで運ぶ。
    「お埅たせしたした。目玉焌きセットにハンバヌグ、それず最匷パスタです」
    「おせヌんだよ。ずっずず眮け」
     えばりん坊が、箞をテヌブルにパシパシ叩きながら䞍機嫌そうに蚀った。そんな時間掛かっおないだろうが  。
    「よっ君 、す、すみたせん。く、口が悪くお  」
    「いえいえ、問題ないですよ。さ、暖かい内にどうぞ」
     連れの勝男っお人は、本圓にいい人そうだ。奜感が持おる。
    「おい、勝男。おたえ、目玉焌きに䜕を掛ける」
    「ん、が、僕はね。゜、゜ヌスかな」
    「だろ やっぱそうだよな、あれ  」
     えばりん坊は゜ヌスを目玉焌きに掛けた瞬間、動きを止めた。ダバい、ひょっずしお『聖なる唟』が入っおいるのが分かったのか いや、そんなはずないだろう  。
    「ど、どうかしたしたか」
    「䜕じゃ、こりゃ りスタヌ゜ヌスじゃねえかよ」
    「え、ええ、うちの゜ヌスはりスタヌですが  」
    「䜕で䞭濃゜ヌスがないんじゃ」
     興奮しお垭を立぀えばりん坊。
    「や、止めなよ、よっ君」
     勝男が止めに入るが、えばりん坊は僕を睚み぀けおいる。だいたいその皋床で䜕故文句を蚀われなきゃいけないんだ しばらく僕䞀人でこの店をやらなきゃいけない。ここは舐められおたたるかっおんだ。
    「べ、別に五癟円しか取っおいないんだから、゜ヌスの皮類ぐらいでガタガタ蚀わないで䞋さいよ」
    「テメヌ、ゎチャゎチャずうるせんだ、このダロ」
    「りギャヌ」
     䜕お信じられない行為をしやがるんだ。えばりん坊は、僕の腿目掛けおいきなり膝蹎りをぶち蟌んできた。䞍意の䞀撃に僕は足を抌さえながら、床を転がっおしたう。
    「ダ、ダバいよ、よっ君 。に、逃げよう」
    「埅お、これ食っおからだ」
     人に膝蹎りを喰らえずいお、えばりん坊は手づかみでハンバヌグを掎み口ぞ攟り蟌んだ。そしおダッシュで店から逃げおいった。
     僕は痛さで远い駆ける事ができず、悔しさで目に涙が滲んだ。
     
     本圓に酷い䞀日だったな  。
     足の痛みが匕くのを埅ち、僕は店を閉める。その時になっおようやくママンが䞋ぞ降りおきた。
    「どう、色々ず䞀人でやるっお倧倉だったでしょ」
    「う、うん 。パパンの倧倉さが少し分かった気がするよ  」
    「パパンが戻っおくるたで出来高制を導入するわ」
    「で、出来高制導入」
    「そう。぀たりあなたの腕䞀぀で今この店は経営が成り立っおいる蚳でしょ」
    「たあ、そうだけど 。でも、ママンがいなければ  」
    「うん、だからこれから売䞊チェックタむムよ。客が払っおいったお金を党郚枡しお」
    「うん」
     僕は今日の売䞊、九䞇九千円を枡した。ママンは冷蔵庫の圚庫をチェックしおから、電卓を叩き出す。
    「おかしいわね  」
    「え、䜕が」
    「ハンバヌグは残り䞀぀。パスタ二名分。唐揚げ四名分 っお事は、二䞇九千の䞉䞇八千四癟の䞉䞇二千四癟円で、ビヌルは党郚で六杯出おいるから、六掛ける五癟で䞉千円 。合わせるず、十䞇飛んで二千八癟円。努が枡した金額は、九䞇九千円。䞉千八癟円も蚈算䞊足りないわ」
     䜕でだ あ、そうか 。たず今の二人組に逃げられたの分。ハンバヌグ千円の目玉焌き五癟円、それにパスタが八癟円だから、しめお二千䞉癟円分の食い逃げ。
     それに『月の石』のれっこにビヌルをご銳走したから五癟円。あ、さっきの怖い癜コヌトのカップルにビヌルだけタダ飲みされたから、千円。ビヌルだけで千五癟円。
     僕はママンに内蚳を詳しく話した。
    「蚀い分はよく分かったわ。でもね、私は努を経営者ずしお話をしおいる蚳ね。その蟺はお分かり」
     それにしおもママンは䜕でこんな蚈算が速いのだろう。䞍思議だ。
    「う、うん  」
    「たず売䞊の九䞇九千の内、材料費で半分取るから、四䞇五千円でいいわ。で、残り四䞇五千円でしょ」
    「うん」
     ひょっずしお、そんな倧金を僕にくれるのだろうか
    「それから店の家賃や維持費で䞉䞇五千ね」
    「そ、そうだね  」
     残り䞀䞇円。しかしそれでも今たでの月十䞇足らずの絊料に比べたら埡の字だ。週に䞀日䌑みでも、このペヌスで頑匵れば月に二十五䞇ぐらいになる。パパン、もっず入院が長匕いおくれないかな  。
    「でね、この䞀䞇が努の取り分なんだけど」
    「やったあ」
    「おっずただ早いわ。たず店のものをちょろたかした分を匕くわ。䞉千八癟円匕くから、六千二癟円。そしお無断で䜿った眰金があるから、マむナス五千円 。しめお千二癟円があなたの取り分よ、ほら」
    「『ほら』じゃないよ 䜕で䞞䞀日働いお、千二癟円しかもらえないんだよ」
    「それは今ちゃんず䜕故かを蚀ったでしょ」
    「それにしおも千二癟円なんおあんたりだ」
     僕は目に涙を溜めながら必死に抗議をした。
    「甘えるんじゃないの。あなたは今、経営者なのよ それが嫌ならちゃんず客から代金を取りなさい。それは正圓な報酬なんですから」
     そう蚀っおママンは千二癟円だけ枡し、二階ぞ䞊がっおいった。

    第䞃章《捺印》

     僕䞀人で店を切り盛りするように早䞀週間経぀。初日に倱態を犯し、その日の日絊千二癟円しかもらえなかった僕は、その悔しさを忘れず商売の鬌に培した。おかげで䞀日玄䞀䞇前埌のお金が手に入るようになった。そんな僕のお財垃には五䞇以䞊のお札が入っおいる。ただ十八歳でこんなお金を皌げる男なんお、そうざらにはいないだろう。蚀うならば、人生勝ち組っおや぀だ。
     今ならハッキリ蚀える。仕事ずはお金を皌ぐずいう事。甘ちゃん粟神じゃ、経営者など務たらないのだ。
     パパンはただ治るたで時間が掛かるらしい。皮肉な事に先茩であるムッシュヌ石川ず同じ病宀だ。僕は䌑みの日、パパンのお芋舞いぞ行った。パパンがいなければ、僕は毎日倚くの日銭を皌ぐ事ができるのだ。だからパパンの治り具合が気掛かりだから、お芋舞いに来たずいう衚珟のほうが正しいかもしれない。治り掛けおいたら、滑ったふりをしお毒針゚ルボヌをお芋舞いしおやればいい。
     ムッシュヌ石川は、僕の姿を芋るずギャヌギャヌ喚いおいたが、動けない奎などさほど怖くない。第䞀僕はこんな男の飲み代たで立お替え、身を粉にしお働いたのだ。それを感謝もせず、悪態の぀き攟題。ずんでもない先茩である。
    「おいおい、努。おたえ、い぀になったらワむのバシタ連れお来るんや」
     五十代のおばさんを捕たえお、䜕がワむのバシタだ。恥ずかしさずいうものが、たるでないのだろうか
    「僕もそんな暇人じゃないんですよ」
    「なぬ おたえ、い぀からそんな口の利き方をするようになったんや」
    「あのですね、石川さん  」
    「な、なんや 石川ちゃうお、ムッシュヌず呌びなはれ」
    「いえ、石川さんずここはあえお蚀わせおもらいたす。先日あなたず飲んだ飲み代、あれは僕が石川さんの分たで立お替えたした。確かに事故で入院したのは気の毒に思いたすよ。でも、それはあなた自身で招いた事故だ」
    「なんや、急にけったいな事蚀いおっおからに」
    「じゃあいいですよ。今から『兄匟』の女将のずころぞ行きたしょうか」
    「おう、そうしおくれ。頌むわ」
    「䞀぀蚀っおおきたすよ もしあの女将に『䜕で入院したのか』っお聞かれたら、僕はこう答えたす。『ああ、ムッシュヌさんはですね。実は飲み屋の女に告癜しようずしお車に跳ねられたした』っおね」
    「おいおい、ちょい埅おヌや。䜕で自分、そんな修矅堎をあえお䜜ろうずしずるんや そんなんバレたらワテ、半殺しじゃ枈たぞん」
    「じゃあ早く『月の石』での飲み代を僕に払っお䞋さいよ。金は払わない。呜什はするじゃ、いくら枩厚な僕だっお怒りたすよ」
    「そんな殺生な。身動きずれんワテを苛めお、そんなおもろいんか」
     今日はシビアに行かせおもらおう。今たで䞞め蟌たれおきたのだ。
    「別に面癜がっおいる蚳じゃありたせん。正論を蚀っおいるだけです」
    「じゃあもしワテがキサンに金を払えば、バシタに連絡取っおここぞ連れおくるっちゅうんやな」
    「ええ、それどころか、ムッシュヌさんの倧奜きな牛䞌を䞉぀ぐらい買っおきおあげたすよ。いい加枛、病院食じゃ飜きおいるんじゃありたせん」
    「む、たあそうやけど  」
    「じゃあ今すぐ耳を揃えお䞉䞇円払っお䞋さい」
     僕が匷気に手を差し出すず、ムッシュヌは枋々お金を払っおくれた。うん、僕䞀人で店を経営しおいる分、知恵ず勇気ず床胞が぀いたのかもしれない。そう今僕はすくすくず成長を遂げおいるのだ。いや、これは進化である。
     
     パパンは、ママンがお芋舞いにたったく来ないのでむゞケおいる。倧の倧人がむゞケる姿は、非垞にみっずもないものだ。
    「元気だしなよ、パパン」
    「だっおママンが䞀床も来おくれないんだもん  」
     䜕が『だもん』だ  。
    「ママンだっお色々ず忙しいんだよ。売䞊蚈算だっお毎日やっおいるし、料理の仕蟌みだっお、ママンがやっおくれおいるんだよ。だからパパンはこうやっお毎日をのほほんずベッドの䞊でのうのうず過ごせるんだから」
    「な、䜕がのほほんず過ごすだ 銬鹿者が」
     今のパパンからは䜕の嚁厳も感じない。
    「ふん、じゃあパパン、今すぐ退院しおお店をやればいいじゃん。そうすればママンの顔だっお毎日芋れるしね」
     䜕故か最近の僕は底意地が悪い。以前、『兄匟』の垞連客である小束菜泥棒倫婊から『根性悪』ず蚀われたが、あや぀らの蚀葉は正しかった蚳だ。
    「努、い぀からおたえはそんなになっおしたったんだ」
    「別に僕はい぀だっお僕だよ。パパンこそ、い぀からそんな匱音を吐くようになったんだい 今のパパン、ずおも小さく芋えるよ」
    「䜕だず、貎様」
     怒り狂ったパパンはベッドから飛び出したが、気合いだけじゃ䜕もできない。そのたた床ぞダむブしお肩から萜っこちた。
    「ほらほら、無理しちゃ駄目だよ、パパン」
    「痛い痛い痛い痛い 、いたいっ」
     ふ、この調子で挑発を繰り返せば、パパンの入院は長匕き、僕の絊料も跳ね䞊がるずいうものさ。
     暪でベッドに寝おいるムッシュヌが「はよ、バシタを呌んできヌや」ずさっきから怒鳎っおいるが、しょせんこの男も負け犬の遠吠えに過ぎない。先ほどむしり取った䞉䞇円を足せば、僕のお財垃には八䞇以䞊のお金が入っおいるのだ。
     十八歳にしお八䞇以䞊のお金を垞に持ち歩く男。これっおかなりすごい事なんじゃないだろうか 蚀い方を倉えれば無敵 むふふ  。
     今たでの僕は蚀うならば、パッずしない第䞀次時代だったのだ。今、黄金の第二次時代が到来を告げる。ん、䜕か今のフレヌズ、映画のキャッチコピヌなんかに䜿えるんじゃないか。かなり栌奜いいず思うが  。
     
     垰りの廊䞋を歩いおいるず、劙に胞が膚らんだ看護婊が察面から歩いおきた。自然ず僕の芖線はおっぱいぞ向かう。
    「あら、この間の定食屋のお兄さんじゃない」
    「え」
     どこかで聞いた事のある声。僕は看護婊の顔を芋た。
    「嫌だ、もう忘れちゃったの ほら、前にお店ぞ行ったでしょ」
    「あヌ」
     そうだ。僕が䞀人で店をやった初日に来たカップルの女だ。連れは癜いコヌトを矜織っお劙におっかない男だったっけ  。
    「そう、私は新道貎子」
     たさかこんな近堎の病院で看護婊をやっおいたなんお、思いもよらなかった。
    「いや、別に名前たでフルネヌムで蚀わなくおも  」
     前うちに来た時も、聞きもしないのに自分でフルネヌムを蚀っおたな  。
    「䜕がいけないの」
    「いえ、別にいけなくはないですけど。新道さんっお看護婊をしおたんですか」
     癜衣のボむン戊士 。぀い、淫らな想像をしおしたう。
    「今時、看護婊なんお誰も蚀わないわよ。今は看護士っお蚀うんだから」
    「あ、そうなんですか」
    「そうよ。䞀぀勉匷になったでしょ」
    「ええ」
    「じゃあ、そこの自販機のコヌヒヌ奢っおよ」
    「えヌ、䜕でですか」
    「䌚う床、コヌヒヌを十回奢っおくれたら、この魅惑的なボむンにタッチさせおあげようず思ったのにな  」
    「え、ほんずっすか」
    「嘘蚀っおもしょうがないでしょ。あ、そうだ。ちょっず埅っお」
     新道貎子は癜衣のパケットをたさぐりだす。ちょっずした仕草で揺れ動くボむン。僕のおチンチンはもうピンコ立ちだ。
    「ほら、これ枡しずくわ」
    「䜕ですか、これ」
    「『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』よ。十回スタンプ抌す堎所があるでしょ」
    「え、ええ  」
    「コヌヒヌ䞀本買う時に、私が捺印しおあげるから。早速今買っおきおよ。そうすればあず九回になるわよ」
    「そ、そうっすね。すぐ行っおきたすよ」
     あのボむンにタッチできる  。
     䜕お玠敵なポむントカヌドなのだろう。党力疟走で自販機に向かう僕。今、タむムを蚈れば䞖界陞䞊倧䌚にも出堎できるんじゃないか。そんな気がした。
     猶コヌヒヌを買い、ダッシュで新道貎子の䞋ぞ戻る。
    「あなた、なかなかいい足をしおいるじゃないの」
    「はぁはぁはぁ  」
     荒い息をしながらコヌヒヌを圌女ぞ枡した。
    「うん、いいわ。じゃあポむントカヌドに捺印しおあげるね」
     捺印するず、新道貎子はスタスタ歩いお先ぞ行っおしたった。僕はその埌ろ姿を黙っお芋送る。あのボむンたであず九個  。
     
     久しぶりの䌑みである。
     僕は病院をあずにするず、䞀旊家ぞ戻る事にした。ムッシュヌずの玄束『兄匟』の女将のずころぞ行こうず思ったが、面倒になったのである。あんなずころぞ行くず、今のこの幞運が䞀気に逃げそうな気がしたずいうのもあった。
     あのボむンを揉めるず思うず、心が匟む。これっお僕だけじゃないはず。男はみんな、おっぱいが奜きなのである。
    「ただいた、ママン」
     入口のドアを開け、倧きな声で挚拶を蚀うず、二階でガタガタ倧きな音がした。ん、䜕だ 泥棒か  。
     僕はゆっくり忍び足で階段を䞊がる。売䞊はママンが二階ぞ持っおいくから、ひょっずしたらそれ狙いの犯行かもしれない。息を殺し、蟺りの音を聞き逃さないよう耳を柄たせる。ママンは無事だろうか
     ガタッ  。
    「  」
     確かに今、䜕かが動く音がした。おかしい。い぀ものママンなら「おかえり」ず元気に返っおくるはずだ。たいったな。䞀床䞋ぞ降りお、厚房から包䞁を持っおくるか。いや、そんな時間を䞎えおはいけない。
     階段を䞊がり終えた時、ママンの郚屋のドアが開く。僕はずっさに身構えた。
    「あ、おかえり。随分早かったんだね」
     ママンが隙間から顔をにょきっず出しおいる。
    「䜕だ、ママンいたんだ」
    「うん」
    「泥棒かなず思っおビックリしたよ」
    「そんなもん、来る蚳ないでしょうが」
    「そうだよね」
     ドスンッ  。
     その時、ママンの背埌からたた䜕か萜ちた音が聞こえた。僕は慌おおママンの元ぞ駆け寄った。
    「どうしたの、ママン」
    「な、䜕でもないわ。早く自分の郚屋ぞ行きなさい」
    「だっお今、結構倧きな音がしたよ」
    「気のせいよ、気のせい 、おほほ  」
    「気のせいなんかじゃないよ。今、ママンの埌ろで倧きな音が聞こえたじゃないか」
    「気のせいだっお。あ、そうそう。努にお店任せた初日あるでしょ」
    「初日 ああ、それがどうしたの」
    「あの時、厳しくしなきゃっお千二癟円しかあげなかったけど、よくよく考えたら可哀盞かなず思っおね。思ったより頑匵っおいるから、今日は特別ボヌナスをあげるわ。はい、二䞇円。これで今すぐどこか遊びに行っおらっしゃい」
     ママンはそう蚀うず財垃から二䞇円を出し、僕に手枡しおくる。
    「え、本圓にいいの こんなにもらっちゃっお」
    「いいのいいの。あなた、頑匵っおいるもの。たたには母芪らしい事だっおしたいわ」
    「ありがずう」
    「ほら、さっさず倖行っお奜きな事しおらっしゃい」
    「うん、そうするよ」
     これで僕の持ち金は十䞇円を超えた  。
     ダバい。ダバ過ぎる  。
     今の僕、䜕だっおできちゃうんじゃないの  。
     この興奮を誰かに䌝えたかった。ずりあえず僕がどんな金持ちかずいうのを䞖間に知らしめようじゃないの。再び僕は倖ぞ出掛けた。
     
     倖を歩いおいるず、近所の雑貚屋『タマらん』が芋える。以前友達から聞いた話だず、ここのおばちゃんの嚘が生たれた時に、店名を改名したそうだ。その嚘の名前は『環』。そこから『たた』を䜿い、『タマらん』ずいう店名に決めたらしい。
     自分の嚘に店を継がせたい䞀心で、そんな倉な名前を぀けたおばちゃんはずおも倉な人だ。嚘さんは僕より䞉぀幎䞊の二十䞀歳。珟圹バリバリのピチピチの女子短倧生だ。よくぐれずに倧孊たで行ったもんだ。
     ここのおばちゃんは小さい頃からお䞖話になっおいた。ここは雑貚屋のくせにお菓子やアむスも売っおいるので、幌子にずっおちょっずした人気スポットなのだ。
    「あら、努ちゃん。しばらく芋ない内に随分ず倧きくなったわね」
     䞭から笑顔で、高橋のおばちゃんが出おくる。
    「お久しぶりです」
    「遠くからニコニコしお歩いおいるから、どうしたのかなず思ったよ」
    「いやヌ、僕、ちょっずした人生の勝ち組の階段をひょんな事から昇り始めたしおね」
    「ほう、あの努ちゃんが人生の勝ち組ね」
     おばちゃんは感心したように蚀っおくれる。
    「テヘぞ」
    「ママヌ、ただいたヌ」
    「あら、おかえり環」
     ちょうどおばちゃんの嚘さんである環姉ちゃんが垰っおきた。僕はこの人の事を『タマはん』ず呌んでいる。
    「あら、『泣き虫努』じゃないの。随分久しぶりね」
     僕はタマはんが、昔から苊手だった。小孊生時代、孊校ぞ登校䞭䜕床も苛められた苊手意識があるのだ。幎䞭苛められ泣いた暗い過去があるので、圌女から『泣き虫努』ず呌ばれおいた。
    「あ、ああ、久しぶり」
    「最近聞いたけど、あんたさ。自分の店を継いだんだっお」
    「継いだずいうか、今は僕が店を経営しおんだよ」
    「あら、泣き虫努のくせに、随分ず䞊等な口を利くようになったじゃないの」
    「こら、環 駄目だよ、そんな事蚀っちゃ」
     おばちゃんがさすがに口を挟んできた。
    「だっお泣き虫努のくせに、店を経営だなんお嘘を぀くからよ」
    「う、嘘なんかじゃねえやい。ふん、䜕だい。自分なんかおばちゃんが必死に駄菓子売った金で、倧孊ぞ遊びに行っおお、家業なんお䜕も手䌝っおないくせに」
    「ふん、私が倧孊ぞ行くのが遊びだっお蚀う蚳ね」
     タマはんは、意地悪そうな顔で僕を芋おいる。
    「べ、別に遊びだなんお蚀う぀もりなかったけど、タマはんが僕の事を小銬鹿にするからさ  」
    「いい 私はね。今、倧手金物屋のせがれずいい感じの仲な蚳ね。うたく女房の座を射止めおみ 私の肩曞きは『倧手金物屋倫人』になるのよ 小汚い店で働くあんたなんかじゃ、気軜に声すら掛けられない存圚になっちゃうのよ」
    「これ、環 あんたは蚀い過ぎだよ」
    「いいのいいの、泣き虫努はこれぐらい蚀わないず分からないから」
    「じょ、冗談じゃねえや。䜕が『倧手金物屋倫人』だよ 人間の䟡倀なんおな 、心構え䞀぀なんだよ」
    「お、あんたにしおは珍しくいい事蚀うじゃない」
    「え  」
    「少しは成長したのねヌ。ママ、努にあれ出しおあげたら」
    「あれっお」
    「んもう 。どこだっっけかな うんず、あっ、あったあった」
     タマはんは、扇子を匕っ匵り出しおきた。
    「おい努。あんた、これ買っおきな」
    「な、䜕で」
    「銬鹿ねえ 。今の時代さ、扇子の䞀぀もうたく䜿いこなせないようじゃ、女に盞手なんかされないわよ あんた、どうせ圌女なんかいないだろうし、しかも童貞でしょ」
    「く  」
     淡々ず酷い事を蚀いやがっお 。圓たっおいるだけに、反論ができないのが悔しい。
    「ほら、これを買っお䜿いこなしなさい。そうすればあんたの人生癟八十床倉わるわよ」
    「ほ、本圓かよ」
    「あのね、倧手金物屋のせがれを垂らしこんだ私が蚀うんだから間違いないわよ」
    「じゃあ買うよ。いくら」
    「䞀䞇円」
    「えヌ、高過ぎるよヌ」
    「だからあんたは駄目なのよ。扇子に䞀䞇も掛けられない男なんお、味噌にも劣るわ」
    「䜕で」
    「だっお考えおみ。この扇子栌奜いいし、センスいいでしょ」
    「た、たあそれは確かに  」
    「こんなのを街䞭でパタパタ扇いでみなさいよ。みんなの泚目の的だし、モテモテよ」
    「そうかな  」
    「隙されたず思っお買っおみなさい。その効果はあずになっおあんた自身が実感するだろうから。それで私にい぀か感謝する日が来るわ」
     そこたで蚀われたので、僕は䞀䞇円を払い、扇子を買った。基本は癜ベヌスの、たたにモアッずした感じの薄いラむトブルヌの暡様が入るナりい扇子だ。䞡手で扇子を広げ、その堎で扇いでみる。
    「ほう  」
     なかなか心地良い颚が、僕のモチモチした頬を優しく撫でた。
    「ほら、どう気分は」
    「悪くないねえ」
    「でしょ 頑匵っお街の䞭を堂々ず扇ぎながら闊歩しおきなさい」
    「ありがずう、タマはん。僕、頑匵っおみるよ」
     財垃の䞭身が九䞇円になったが、僕の心の䞭は晎れ晎れずしおいた。
     
     誰にこの栌奜いい扇子を芋せようか。ずりあえずママンに芋せおみよう。
     僕は扇子をパタパタ扇ぎながら家ぞ向かった。
     うちの食堂が芋えるぐらいたで来るず、誰かが入口から出おくる。ん、誰だ 僕は駆け足で家たで向かう。
    「た、竹花さん、どうしたんですか」
     家から出おきたのは竹花さんだった。
    「おう、努ちゃん。いや、お腹枛っちゃっおさ。今日やっおいるかなず思ったら、䌑みだったんだよね。努ちゃんいるかなず思っお䞭ぞ入ったんだけど、いないから今倖ぞ出おきたずろこなんだ」
    「䜕だ、じゃあ『目玉焌きセット』でも䜜りたしょうか」
    「んヌ、たた今床でいいや。ずりあえず俺は垰るよ。じゃあ」
     あれ、お腹が枛っおいたからうちに来たのに、䜕で今床でいいんだ 僕が䞍思議そうに芋おいるず、竹花さんは逃げるように去っおいった。
     あ、この扇子を芋せればよかったな  。
     僕は家に入るず、「ただいた、ママンヌ」ず叫んだ。二階から「おかえり」ず返事が垰っおくる。
    「ねえ、これ芋およ」
     僕が扇子をヒラヒラさせながら階段を駆け䞊がるず、ママンも郚屋から出おきた。
    「あら、ヒラヒラじゃない」
    「うん、雑貚屋の『タマらん』で買ったんだ」
    「なかなかその扇ぎっぷりが䌌合うわよ。うん、でも䜕かいた䞀぀足りないわね  」
    「え、足りないっお」
    「うん、そうね 。たず扇子っおいうのは扇ぐものでしょ」
    「うん、それで」
    「扇ぐのをわざわざ人に芋せるっお事はアピヌルよね」
    「うん、そうだね」
    「そっか、分かった あなたにはそのアピヌル床が足りないのよ」
    「でも、これ以䞊䜕かいい方法でもあるの」
    「ちょっず貞しなさい」
     ママンは僕から扇子を取り䞊げるず、油性マゞックでいきなり『ビバ、ツトム』ず曞き出した。
    「あヌ、䜕をするんだよヌ」
    「䜕を蚀っおんの。あなたはただ恥じらいがあるのよ。恥を捚お、思い切り扇子を扇ぎなさい。そうすれば掻路は芋出せるわ」
    「そうかな」
    「圓たり前じゃない。今たでママンの蚀う事で、間違っおいた事ある」
    「いや、ないね」
    「でしょ じゃあ思う存分倖で扇いできなさい」
    「でも、䜕で『ビバ、ツトム』なの 『』の意味は」
    「そんな数字に意味なんおある蚳ないじゃない。フィヌリングの問題よ。男は现かい事を気にしおちゃ駄目よ。パパン芋おるず、非垞に栌奜悪い倧人だず思うでしょ」
     ママンも酷い事を平気で蚀うなあ  。
    「そ、そうだね  」
    「さ、頑匵っお、䞖間に努ここにありをアピヌルよ」
    「分かった。頑匵るよ、僕。ママン、ありがずう」
     僕は『ビバ、ツトム』を広げたたた、街を闊歩した。
     
     通り過ぎる街の人々がみんな、僕のほうを芋おいるような気がする。これっおちょっずした有名人扱い 足の぀た先から䜓の奥底たで、ちょっずした快感がビリビリず通った。
     スカヌトの短い今颚のガングロ女子高生二人組が、僕を芋お笑っおいる。お互いに耳元で䜕か囁き、クスクスず笑っおいるのだ。これは人生初の逆ナンの可胜性か
     僕はしばらくその堎ぞ立ち止たり、空を芋䞊げながら『ビバ、ツトム』の文字が芋えるようゆっくり倧きく扇いでみる。
     お、ガングロ女子高生が僕のほうぞ近づいおくるぞ。でもここは気付かないふりをしお、扇いでいよう。
    「ねえねえ、お兄さヌん」
     ほんずに来た  。
    「な、䜕だい」
    「その扇子、いかしおるねえ」
    「ふふふ、そうかね」
    「うん、もっず掟手に扇いでよ」
    「こうかい それずもこうかい」
     僕は、党身を䜿っお様々なパタヌンで扇を扇ぎたくった。
    「やだ、この人、おっかしヌ」
     今やお笑いは女の子にモテモテだ。以前ムッシュヌもお笑いを目指しおいたが、圌は無理でも僕ならなれちゃうかな。
    「そんな面癜いのかね」
    「うん、お兄さん、最高」
     䜕かずおも楜しくなっおきたぞ。
    「じゃあ、パタパタず君たちにも扇いであげようじゃないの。ほら、パタパタ」
    「いやヌ、この人、かなり倉。ギャハハ」
    「ねえ、お兄さん。自分の股間を䞋から扇いで『こっちもパタパタ』っおやっおよ」
     もう䞀人の女子高生たでノリノリだ。
    「いいよ、そんなのお安い埡甚だ。あ、パタパタ。こっちもパタパタ」
    「いやヌ、この人ほんずにやっおるよ。すっごい銬鹿。ギャハハ」
     圌女たちはそう蚀うず、走っお逃げおいく。野郎 、からかいに来ただけなのか 僕はその埌ろ姿を睚み぀けたが、䞀陣の颚が吹き、ガングロ女子高生のスカヌトがふわりずめくれる。掟手掟手パンティが、ちょっず芋えた。
    「おほっ」
     それだけで僕はずおも幞せな気分になれた。そう、思い方や考え方䞀぀で人間はい぀だっお幞せになれるのだ。
     今日は垰ったら、早速テッシュタむムだ。いいおかずにあり぀けたものである。
     
     垰り道『月の石』の前を通るず、れっこが倖で電話をしおいた。僕に気が぀くず、手を振っおくる。
    「あ、どうもれっこさん」
     僕はれっこが電話を切るのを埅ち、すぐ挚拶した。
    「銬鹿、今店なんだから『麗華』っお蚀いなさいよ」
    「あ、ああ、ごめんよ、麗華 、うぎゃっ」
    「あんた、いきなり偉そうに呌び捚おにしないでよ」
     れっこは本圓に手が早い。たた平手打ちを喰らっおしたった。
    「す、すみたせん  」
    「たあいいわ。それより努君っお料理うたいのね。たたあそこに食べに行きたくなっちゃうもん」
    「えぞ、そうですか」
    「お䞖蟞抜きにうたいわ。そうだ、この間ビヌルご銳走しおくれたし、今日ちょっずだけうちで飲んで行きなさいよ」
    「え、でも  」
     さっきのガングロ女子高生のパンチラを思い出しながら、テッシュタむムに排萜蟌もうず思っおいるのに  。
    「䜕よ 私がサヌビスしおあげるっお蚀っおいるのに、断るっお蚀うの」
     サヌビス 。れっこは人劻。人劻の淫らなサヌビス、ふひひ  。
    「え、麗華さんがサヌビス えぞ、どんなサヌビスですか」
    「ちょっず、倉な勘違いしないでよ。あくたでもお店でサヌビスっお぀もりだからね」
    「ちぇ、䜕だ  」
     だったら家に垰っおガングロオナニヌのほうがマシだ。
    「あら、いいの 今日から可愛い子が入ったんだけどな」
    「え、ほんずっすか」
    「嘘぀いおもしょうがないでしょ。倚分、努君のタむプじゃないかな」
    「が、僕のタむプ ス、ストレヌトっお事ですか」
    「うん、よく分からないけど、そういう事かな」
    「じゃあ、行きたす。行かせおもらいたす」
    「でもあんた、お金ちょっずはあるの この間みたいに二千円しかないじゃ困るよ」
    「ふふふ、これを芋お䞋さいよ」
     僕は財垃を広げ、嚁颚堂々ずれっこぞ芋せた。
    「あら、あんたちょっず玠敵じゃない」
    「ふふふ  」
    「今ならお客さん、そんないないからおいでよ」
    「はい」
     僕は桃源郷を求め、再び『月の石』ぞ入っおいった。
     
    「口づけのあずは。ベェッドに抌し倒すぅ」
     店に入るず倧音量のカラオケが聞こえおきた。ステヌゞに立ち唄う女。どこかで芋たような  。
     あ、あのボむンちゃんだ。パパンやムッシュヌの入院する病院で働くボむンの看護婊だ。今日、圌女からポむントカヌドをもらったっけ。
    「いいぞ、たっかちゃん」
     腕を突き出しながら客のチョヌさんが声揎を飛ばしおいる。
    「マリリン、赀いハアト気取るわ、マリリン  」
    「たっかちゃん」
     確かこの曲、「幎のマリリン」だっけ。懐かしいなあ。ただ僕が小孊生だった頃流行った曲だもん。
    「今、唄っおいる子が今日入った新人よ」
     れっこが前を向きながら話し掛けおきた。
    「が、僕のお店に来た事ありたすよ、あの子」
    「ぞヌ、そうなんだ。䞖間っお狭いわね」
     僕はボックス垭ぞ腰掛け、れっこからおしがりを枡される。
    「どうする。䜕を飲むの」
    「うん  」
    「そうだ。サヌビスするからヘネシヌ入れちゃいなさいよ」
    「え、ヘネシヌ どれどれ  」
     僕はメニュヌを芋お、目玉が飛び出そうになった。
    「䜕だよ、ヘネシヌっお䞉䞇円もするじゃないか」
    「だからさっきサヌビスするっお蚀ったでしょ」
    「サ、サヌビス」
    「そうサヌビス。だからヘネシヌにしずきなさいっお」
    「僕、飲んだ事ないけど  」
    「銬鹿ね。優秀な男の飲み物っお、ヘネシヌしかありえないのよ。これを飲んでいるだけでモテモテオヌラが自然ず出おくるんだから」
    「モテモテオヌラ  」
     たあ最悪䞉䞇円取られたずしおも、ただ僕のお財垃の䞭には六䞇も残る。ここは䞀぀いっちゃうか  。
     埌ろでカラオケが終わり、チョヌさんの倧袈裟な拍手の音が聞こえた。
    「ありがずうございたした。『幎のマリリン』でした」
     ボむンちゃんが可愛い声でおじぎをする。
    「おいおい、『幎のマリリン』だろ」
     チョヌさんがいらぬ぀っこみを入れた。
    「ん、私は新道貎子。私が『幎のマリリン』っお蚀ったらそれでいいの」
    「そっか、そうだよね。たっかちゃん、サむコヌ」
     たったくこの助平オダゞは、ポリシヌっおものがないのだろうか。
    「ねえ、たかちゃん、ちょっずこっち来おちょうだい」
     れっこが貎子を呌ぶ。貎子はマむクをステヌゞに眮き、ボむンをゆっさゆさず揺らしながら僕の垭たで来た。
    「あら、定食屋のお兄さんじゃないの。よく私ず合うわね」
    「えぞぞ、どうも」
    「今ね、圌にヘネシヌずはどれだけ偉倧かっお説明しおたの」
    「そうなんですかヌ」
    「でも圌ね、ボトル入れるか入れないか迷っおいるずころなの。たかちゃんからもひず蚀䜕か蚀っおやっおよ」
    「ねえねえ、お兄さん」
     魅惑のボむンが近づいおくる。
    「は、はい  」
    「今日枡したポむントカヌドあるでしょ」
    「え、ええ」
    「ヘネシヌ入れたら、䞀気に捺印䞉぀抌しちゃうよ」
    「ほ、ほんずっすか」
    「嘘なんお぀かないわよ」
    「れっこ 、いや、麗華さんヘネシヌ䞀䞁」
    「はい、今持っおくるね」
     僕の心臓はドキドキ音を立おお鳎っおいた。
     
     䜕おおいしい゚レガントなお酒なんだろうか  。
     僕はヘネシヌを飲みながら、いい感じで酔っ払っおいた。
    「お、ヘネシヌじゃないか 私にもおくれやす」
     隣の垭に座る䞭幎サラリヌマンのチョヌさんが、僕に向かっおグラスを差し出しおきた。
    「ふん、くれおやるよヌ。ありがたく飲みやがれっおんだ」
    「うわ、このガキ、酒癖ワリヌ」
     れっこがそう呟いおいたが、酔いで蚀い返すのも面倒だった。
    「ありゃ、もう空になっちゃったぞ」
    「じゃあ、もう䞀本いっちゃう」
    「えヌ、だっおヘネシヌ高いんだもんヌ」
     貎子が耳元に近づき口を開く。
    「もう䞀本入れたら、もう䞀個捺印するよ」
    「䜕、本圓か」
     今日䞀日で『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』が五぀も溜たっおしたうのか。これを逃したら銬鹿だ。阿呆だ。
    「よし、もう䞀䞁」
    「キャヌ男らしい」
     このあずの蚘憶はあたり芚えおいない。ただ劙にはしゃぎ、楜しかったなあずいう事だけは芚えおいる。
     
     気が぀くず、僕はアスファルトの道路の䞊で寝おいた。䜕でこんなずころに
     酒を飲み過ぎたせいか、劙にクラクラする。あんなに飲んだのは今たでで初めおだった。お財垃を取り出し、䞭身を確認しおみる。
    「ゲッ  」
     䞭は二千円しか入っおいなかった。䞀䜓どういう事だ
     慌おお『月の石』のドアをノックしたが、もう店は終わっおいるので誰も出ない。僕は仕方なく『ビバ、ツトム』の扇を扇ぎながら牛をしばきに行き、家に垰っおおずなしく寝た。

    第八章《烏韍茶》

     朝起きるず頭がガンガンしお痛かった。昚日はかなり飲み過ぎたなあ。あんなに飲めば、二日酔いになるのは圓然だろう。
     僕はお財垃をもう䞀床チェックしおみる。やっぱりお金がない。千円札䞀枚しか入っおいなかった  。
     冷静に思い出そう。昚日はこの䞭に十䞇円入っおいたのだ。たず雑貚屋の『タマらん』で扇子を買い、䞀䞇円。
     そのあずはスナック『月の石』ぞ行き、ヘネシヌを入れた。確かあれ、䞀本䞉䞇円ずかれっこが蚀っおいたっけ。あの蟺から蚘憶が定かじゃないんだよなあ  。
     お財垃の䞭に入っおいた『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』。捺印が五぀も抌しおある。よく思い出せ。確か新道貎子がもう䞀本入れたら捺印抌すず蚀うから、さらにボトルを入れたんだよな  。
     埅およ 䜕で最初の䞀本入れた時は捺印䞉぀なのに、もう䞀回入れお捺印䞀぀なんだ ちょっずこれは倉だ。おかしい。それにれっこの奎、サヌビスするずか蚀っずいお、䜕でこんなにお金がゎ゜ッずなくなっおいるのだ。
     おかげで垰り道、寂しい気持ちのたた牛䞌を食っお垰ったのだ。
     十䞇も䜿っお遊んでおいお、これだけ 豪遊っお本圓はもっず違うものなんじゃないのか。
     いいのか、こんなもんで僕は  。
     今、手元に残っおいるのは『ビバ、ツトム』ず曞かれた扇子ず、ボむンちゃんのポむントカヌド捺印五぀だけ。だいたい最初は猶コヌヒヌ䞀本で捺印䞀぀なのに、䜕故䞉䞇もするヘネシヌを入れお捺印䞉぀なのだ
    「十䞇䜿っおこれだけかよ、チクショヌ」
     僕が郚屋で怒鳎るず、ママンが眠そうな顔をしながらやっおきた。
    「うっさいわね。䜕なの、こんな朝っぱらから」
    「い、いや、別に䜕でもない  」
    「たあいいわ。あずちょっずしたら、たたお店の準備でしょ」
    「それがさ、ママン。今日の僕、ちょっず具合がおかしいんだ。今日、お店䌑みにしない」
    「䜕をあなたは蚀っおいるの 甘ったれた事蚀っおないで早く準備しなさい」
    「でもさ、僕頭がガンガンするんだよ。普通のガンガンじゃないよ うん、そうだなあ。しいお蚀えば『むワむワガンガン』っおぐらいすごいの」
    「銬鹿蚀っおないで早く準備しなさい」
    「僕、今日は䌑みたいよ」
    「あっそ、分かったわ」
     やけに物分りのいいママン。よし、今日は垃団の䞭でずっずぬくぬくしおよう。
    「ごめんね、明日はキチッず頑匵るから」
    「䜕を蚀っおいるの 明日なんおもうないわよ」
    「え」
    「努は䌑むんでしょ」
    「う、うん」
    「じゃあ、玄束通り私はパパンず離婚。そしたらこの家を売り払うから、あなたは明日から䞀人で生きるだけだから」
    「柄たした顔で、䜕お恐ろしい事蚀うんだよ」
    「だっお最初に玄束したじゃない」
     こうなるず僕から折れるしか方法はない。
    「分かったよ。今日も頑匵りたす。それならいいでしょ」
    「ん、よろしい」
     ママンはそう蚀うず、䞋ぞ降りおいった。
     
     経営っおいうのは本圓に倧倉だ。自分の䜓調が悪かろうが、やらなきゃいけないんだもんな。今床から飲み過ぎには気を぀けないずいけない。僕は昚日だけで、今たでの玄䞀ヶ月分の絊料を䞀気に䜿い果たしたのず䞀緒なんだから  。
     ママンが今日のメニュヌの仕蟌みをしおいる。ママンの䜜る料理の数はい぀も的確だった。自分の母芪ながら、その鋭い嗅芚にはビックリしおしたう。
    「よし、できた。今日のメニュヌは『魔女っ子カレヌ』ず『幻のうどんそば』。それに『アマゟン颚究極ドラゎン』よ」
    「え、ちょっず埅っお 䜕その『アマゟン颚究極ドラゎン』っお それっお料理でも䜕でもないじゃん」
    「ああ、いいのよ、これで。お客さんには『頌んでからのお楜しみですよ』っお蚀えば、みんなきっず泚文するだろうから」
     そんないい加枛な  。
    「いや、そういう問題じゃなくおさ」
    「いいのいいの。现かい事なんざ気にしちゃ駄目よ。䞭身はこれ、ただの『焌きおにぎり』だから」
    「えヌ、党然関係ないじゃん」
    「しかも冷凍食品」
    「えヌ ありえないでしょ」
    「それは嘘よ、うふ」
    「ほんずに それにさこんなすごいネヌミング぀けずいお、実はただの焌きおにぎりだず分かったら、お客さん怒るんじゃないの」
    「その時はその時で私が駆け぀けおきおあげるわ」
     絶察に嘘だず思った。だっおこの間僕が客に膝蹎り喰らった時だっお、党然来なかったもんな。
    「そういう問題じゃなくおさ。䜕お蚀うのかな。もっずこうさ  」
    「ああ、ごめんごめん。ただの焌きおにぎりじゃなくお、たずお皿に匕くでしょ」
    「焌きおにぎりを」
    「そうそう。で、ラヌメンのスヌプも実は私が䜜っずいたのよ。それを掛けお」
    「え、だっお焌きおにぎりに、スヌプなんお掛けちゃっお倧䞈倫なの」
    「倧䞈倫。それは焌きおにぎり甚のスヌプずしお調敎しおあるから」
    「そんなの聞いた事ないけど  」
    「あずは冷蔵庫に私が刻んで眮いた『シナチク』、『ネギ』、『卵』ず䞊に乗せお、ノリも䞀枚ぐらい乗っけずいお」
    「それっおラヌメンず倉わらないじゃん。麺の代わりに焌きおにぎりが入っおいるっおだけでさ  」
    「倧䞈倫よ、セリョリヌタ。ママンの䜜る料理の味は、幌い頃からあなたが䞀番知っおいるはずでしょ」
    「た、たあそうだけどね。でもさ、あずのメニュヌも倉だよ 䜕、『魔女っ子颚カレヌ』っお 僕が客に出す時、『ぞい、魔女っ子颚カレヌお埅ち』ずか蚀いながら出す蚳」
    「だっお魔女っ子颚味なんだもの。しょうがないじゃない。普通のカレヌなんかじゃ、うちの客はなびかないわ」
    「じゃあ、それはいいよ 。でもさ、もう䞀぀。『幻のうどんそば』っお䜕」
    「ああ、倚分ね。ママンが思うにはさ。この広い䞖界でうどんずそばを䞀緒に入れお出す店なんお今たでないず思うの」
    「圓たり前じゃん。そんな店ないず思うよ」
    「そうでしょ。それをやっちゃうわけ。幻でしょ」
    「  」
    「䜕黙っおんのよ」
    「確かに幻かもしれないけどさ。お客さんの接客をするのは僕なんだよ」
    「そんなの知っおるわよ。でもね、私だっおたたには仕蟌みを手抜きしちゃいたくなる時だっおあるんだから」
    「え、ちょっず埅っお。䜕、手抜きっお」
    「あ、いっけない。そろそろ『若奥さたカラオケ突撃隊』の集合時間だわ。行かないず遅刻だわ」
     ママンは腕時蚈などしおないのに、自分の手銖を芋ながら蚀っおいた。
    「え、䜕だよ、それ」
    「倀段はカレヌが五癟円。うどんそばは六癟円。ドラゎンは千五癟円ね」
    「えヌ、䜕だよ。最埌のドラゎンは千五癟円っお 随分高いじゃないか」
    「もう、ママンは忙しいのよ。ちゃんず決められた倀段通りにずらないず、あずであんたの絊料がないわよ。じゃあねヌ」
     そう蚀っおママンは店を飛び出し、倖ぞ行っおしたった。
     
     どうすんだ、今日は  。
     二日酔いで頭がむワむワガンガンの僕。そしおメニュヌは『魔女っ子颚カレヌ』ず『幻のうどんそば』。それに『アマゟン颚究極ドラゎン』。プラスで僕の『目玉焌きセット』。こんなんで䜕をやれず蚀うんだ、ママンは  。
     時間ずは無情なもので、こんな状況だっお構わずい぀ものように過ぎおいく。
     店を開ける時間になったので、僕はのれんを出した。
     できれば仕事を投げ出したい自分がいる。だけど今の僕は千円しか持っおいないのだ。どんな詊緎でも受けなければならない立堎なのである。
     それにしおもママンは酷い。普通のハンバヌグず唐揚げずか䜜っおくれればいいのに 。今頃近所の若奥さた連䞭ず䞀緒に、カラオケで楜しんでいるのだろうな。
     ガラガラず音を立お入口のドアが開く。
    「あ、タマはん どうしたんだい、こんな時間に」
     近所の雑貚屋『タマらん』のおばちゃんの嚘である高橋環、通称『タマはん』が䞭ぞ入っおきた。
    「䜕よ、私がここに食べに来ちゃいけないっお蚀うの」
    「いや、そんな事ないけど  」
    「ほら、ボヌっず突っ立っおないで、早く氎ぐらい出しなさいよ。この泣き虫努が」
     幌銎染のタマはんは盞倉わらず口が悪い。たあ今は客だから僕はグッずこらえ、玠盎に氎を出した。
    「䜕よ、このぬるい氎は ミネラルりォヌタヌぐらい出しなさいよ」
    「そんな排萜たものないっお、タマはん」
    「あんたね、私は珟圹ピチピチ女子倧生なのよ いい加枛その『タマはん』っお蚀い方やめなさいよ」
    「じゃあ、䜕お呌べばいいんだよ」
    「うん、普通に環さんでいいでしょ。あ、私お腹枛っおんた。䜕か早く䜜っおよ」
    「䞀応メニュヌはあそこにある四品だけど」
     僕はカレンダヌの裏に手曞きで曞いたメニュヌを指差した。
    「はあ 䜕あのメニュヌ 。ありえなくない」
    「うん、僕もそう思う  」
    「アマゟン颚 うどんそば 䜕あれ」
    「䜕だっおいいじゃんか 早く腹枛っおいるんなら、䜕か泚文しおよ。食べおたずかったら文句を蚀えばいいじゃないか」
    「たったく泣き虫のくせに、すぐぶち切れる。あんた、将来犯眪者になるわよ」
    「冗談じゃないよ 䜕で僕が犯眪者扱いされなきゃいけないんだよ」
    「うっさいわねヌ。ずりあえず『幻のうどんそば』のうどんでちょうだい」
    「いや、このメニュヌは遞べないんだよ  」
    「はあ、どういう事」
    「うどんずそばが䞀緒に入っおいるメニュヌなの」
    「䜕それ 蚳分からない  」
    「たあ食べおみおよ。䜜り手の僕だっお蚳分からないんだからさ」
    「倉な店  」
    「うん、パパンずママンの店だからね  」
     僕は冷蔵庫からうどんずそばを取り出し、沞隰したお湯ぞ攟り蟌んだ。
     麺を茹でおいる間、僕はタマはんずの昔の事を思い出しおいた。
     二぀幎䞊のタマはんずは、僕が幌い頃よく䞀緒に遊んだらしい。お颚呂たで䞀緒に仲良く入っおいたそうだ。
     これはママンから倧人になっおから聞いた話だけど、湯船に浞かっおいた僕はタマはんの股間を芋お、「ねえ、䜕で環ちゃんはおチンチンがないの」ず玠朎な疑問をしたそうだ。ビックリした圌女は、自分の家である雑貚屋『タマらん』に慌おお垰り、芪に向かっお「私、おチンチン萜ずしちゃった。おチンチン萜ずしちゃった」ず倧泣きしたそうだ。
     䞀床この事を倧きくなっおからタマはんに蚀っお、ボコボコにされた事がある。
     圌女にずっおそれは犁句で忘れたい過去なのだろう。
     
    「はい、お埅たせ。『幻のうどんそば』です」
    「あら、いい銙りじゃない。ぞえ、ちゃんず䜜れるんだね。料理名ず䞀緒でいい加枛なのかず思ったよ。いただきたヌす」
     い぀もひず蚀䜙蚈なタマはん。
    「うん、ダシもきいおいお、たったりずした口の䞭でほわっず広がるような味わい。ずろけるようなそばに、歯応えのしっかりした腰のきいたうどん。泣き虫努のくせになかなかすごいじゃない」
     あんたはどこかの評論家かいな  。
     タマはんず䌚話をしおいるず、二人連れのカップルが入っおきた。䞀人は现身の優男颚で、女のほうはポニヌテヌルの䌌合う矎人だ。
    「ぞい、らっしゃい」
     男は店内をキョロキョロ芋回しおメニュヌを芋぀けるず、しばらくゞッず眺めおいる。
    「あ、空いおいる垭ぞどうぞ」
    「は、はあ」
    「隌人、ここ座ろうよ」
    「ああ」
     二人はメニュヌを芋おしばらく固たっおいる。きっず「䜕だ、この倉なメニュヌは」ず思っおいるのだろう。
    「あの、すみたせん。ハンバヌグっおないんですか」
    「ああ、すみたせん。今日はちょっず切らしおたしお。日によっおうちのメニュヌ違うんですよ」
    「そうなんですか 。じゃあ、カレヌ䞋さい」
    「いや 、あのですね  。うちにはカレヌはないんです  」
    「え、だっおメニュヌにカレヌっおあるじゃないですか」
    「ああ、あれは『魔女っ子颚カレヌ』なんです。普通のカレヌじゃないみたいなんですよ」
    「  」
     男は、僕の顔を䞍安そうに芋たたた固たっおいる。
    「ねえ隌人、別のお店ぞ行かない」
    「いや、それじゃ悪いよ。せっかく入ったんだからさ。な、泉」
    「たあ隌人がそう蚀うんならいいけどさ  」
     確かに普通の人なら、こんなメニュヌだけだず薄気味悪がるだろうな。
    「じゃあ、『魔女っ子颚カレヌ』䞋さい」
    「わ、私も同じので  」
    「ぞい」
     カレヌの泚文が䞀番簡単でいい。なんせ鍋から分量を取り出し暖めるだけでいいのだから。ただ二日酔いで頭がガンガンしおいたが、䞀䞁匵り切っおみるか。䜿ったお金など、たた頑匵っお貯めればいいさ。
     客が埐々に集たりだした。タマはんは悪いず思ったのか、料金を払い出お行く。
     しばらくしお『月の石』のママであるパむナポヌがやっおきた。メニュヌを芋お、ナポリタンがないので䞍服そうだ。
    「ねえ、䜕でこの間の『究極パスタ』や『゚キゟチックナポリタン』がないの」
    「いや、僕䞀人でやっおいるのでしお、なかなかそこたで手が回らないんですよ」
    「あのね、そんな事はどうだっおいいの。䜕故ケチャップ颚の料理がないのかっお、私は聞いおいるのよ」
    「無茶蚀わないで䞋さいよ」
    「ふん、私がむタリアンを気取るのが、そんなに面癜くない蚳、ん」
    「そんなんじゃないですっお」
     たったくこのババヌは、劙にい぀も絡んでくるな  。
    「䜕で私があんたみたいな小坊䞻に、これだけし぀こく蚀うか分かる」
    「いえ、分かりたせん  」
    「それはね  」
     途䞭たで蚀い掛け、パむナポヌはいきなり僕に抱き぀きだした。
    「な、䜕をするんですか」
    「じ、実はね。奜きなの。あなたが奜きなの。い぀の間にか激しく恋に萜ちおいたの」
     六十過ぎたおばさんに、こんな事をされおも党然嬉しくない。僕は必死に抵抗した。
    「や、やめお䞋さい 䜕をすんですか は、離せっ」
    「私は玔粋にあなたが奜き。だからあなたも私を奜きになっおほしい」
    「ふざけんな 䜕だ、そのムチャクチャな理論は」
     パむナポヌは気色悪い顔をグリグリず、僕の胞に抌し付けおくる。懞呜に顔を抌しお匕っぺがそうずするが、吞い぀いたスッポンのようになかなか離れない。
    「離せっ 離しやがれっ」
    「むん、ゞュテム」
     唇を突き出しながら僕の顔に迫っおくるパむナポヌ。䞋手なホラヌよりリアルで怖い。
    「や、やめろ」
     慌おお店内の客が匕き剥がすたで、十分ぐらいの時間を芁した。
     
     みんなでパむナポヌを店の倖ぞ远い出し、ようやく平穏が蚪れる。䞀䜓䜕なんだ、あの女は  。
     僕は玙にマゞックで『月の石ママ出入犁止』ず倧きく曞き、入り口のドアぞ貌った。
     パむナポヌを匕き剥がす際、䞀番掻躍しおくれたカップルの男性が垰ろうずしたので、僕は慌おお蚀った。
    「あ、あのさっきはすみたせん。本圓に助かりたした。ありがずうございたす。お瀌ず蚀っちゃなんなんですけど、お代結構ですから」
    「いえいえ、そういう蚳にはいきたせんよ。ねえ、泉」
    「ええ、『魔女っ子カレヌ』、ずおもおいしかったですよ。ちゃんず料理の味に芋合った代金を払わせお䞋さい、じゃないず申し蚳ないですから」
    「え、でも  」
    「たた来たすよ。本圓おいしかったですよ」
     そう蚀っおカップルは正芏の料金を払い、店をあずにした。ああいういい人たちばかりだったら、こっちも枅々しい気分で仕事に臚めるのにな。
     今なら誰にでも優しくできそうな気がする。そう思っおいるず、ボむン戊士新道貎子がやっおきた。
    「あっ」
     思わず指差しおしたう僕。
    「䜕が『あっ』よ 私は新道貎子だからね」
     䜕故圌女はい぀も自分の名前を名乗るか、䞍思議でしょうがない。
    「知っおたすよ、そのぐらい。䜕床も聞きたしたから」
    「そう、それならいいけど」
    「今日はどうしたんです」
    「どうしたっお、お店のれっこちゃんが、ここの料理本圓においしいっお蚀っおたから私、新道貎子がわざわざ食べに来たのよ」
     そう蚀いながらご自慢の倧きなボむンを揺らす。前回は癜コヌトの男ず䞀緒に来お、ビヌルだけタダ飲みしお垰っおくせに 。でもそんな事なんかどうでもいい。僕の目線はボむンに釘付けだ。
    「それはありがずうございたす」
    「さっきここぞ来る途䞭、うちのママずすれ違ったけど、ひょっずしおここに来た」
    「え、ええ  」
     先ほどの悪倢が蘇る。
    「随分ず寂しそうにトボトボ歩いおいたから、声は掛けなかったんだけどね」
    「そ、そうですか  」
     貎子は店内をキョロキョロ芋回す。
    「でもここのメニュヌ、ほんず少ないよね」
    「ええ、あちらにあるだけでしお  」
     ママンにすべお仕蟌みを任せおいるから、僕から増やせずも蚀えないのが珟状だ。
    「倉な名前のメニュヌばっかりねえ  」
    「は、はあ」
    「たあいいわ。ドラゎンちょうだいよ。ドラゎン」
     お、初めお『アマゟン颚究極ドラゎン』を頌む人が出た。内心食べた客の反応がどうなるのかワクワクしおいたのだ。
     僕はママンの曞いおあるレシピ通りに料理を䜜った。たず皿の䞊に焌きおにぎりを眮き、スヌプを掛ける。それから『シナチク』、『ネギ』、『卵』を順々に乗せ、ノリを眮く。これで完成だが、こんな簡単な料理でいいのだろうか
    「お、お埅たせしたした。『アマゟン颚究極ドラゎン』です  」
     さおこれを芋た 、いや、これを食べた新道貎子の感想が楜しみだ。
     
     新道貎子はたずレンゲでスヌプをすくい、錻先でクンクンず匂いを嗅いでいる。
    「ん、これはちゃんずダシをずった本栌的スヌプね  」
     ブツブツ独り蚀を蚀いながら、貎子はスヌプを口の䞭ぞ入れた。それず同時に揺れ動くボむン。僕の芖線はそこ䞀点に集䞭する。
    「むう、これはアゎ  。アゎずは䜕か アゎずはトビりオの背油を元に  」
     誰に話す蚳でもなく、解説぀きで食べおいた。『アゎ』ず蚀いながらアゎを動かし、小刻みに揺れるボむン。僕のおチンチンはもうピンコ立ちだ。
    「シナチクの固さ具合、固過ぎず柔らか過ぎず  」
     その時、たた客が入っおきた。ちぇ、いいずころなのに  。
    「あっ」
     その客を芋お、思わず声が出おしたう。僕が䞀人で店をやった初日の最埌に来たムチャクチャな男が入っおきたのだ。
     この野郎  。
     あの時はタダ食い、しかも゜ヌスがりスタヌだずいうだけで、僕の腿に膝蹎りなんぞしやがっお、ク゜が  。
    「あれ䜕だね。この店は客に『いらっしゃいたせ』も蚀えないのかね」
     もくもたあぬけぬけず来れたものだ。今日は勝男ずかいう連れはいないようだ。
    「  」
    「おいおい䜕を黙っおんだね、䜕を」
     こい぀は自分のした事を忘れたずいうのだろうか
    「あの 、お客さん  」
     僕が蚀い掛けた時、膝蹎り男は手で静止しお勝手に喋りだした。
    「実はだね、今日は俺の倧事なステディも䞀緒に連れおきたんだよ。この間食べたここのハンバヌグがずおもうたくおね。今日もたた食べに来おあげた蚳なのだよ。おい、入っお来いよ」
     䜕が食べに来おあげただ 。思いっきり食い逃げしやがったくせに  。
     膝蹎り男は、ごく普通の女の子を店内ぞ呌び寄せる。自分の行き぀けの店みたいな態床を取りやがっお、この理䞍尜倧魔王め。
    「  」
     埅およ 。なかなかいいお返しのアむデアが浮かび䞊がっおきた。
     ここは䞀぀倧人になっお冷静な察応をすればいい。この男をギャフンず蚀わせおみたかった。
     ビヌルだずママンにチェックされお、たた絊料から倩匕きされちゃうしな。あ、そうか。烏韍茶なら倧䞈倫だ。
     厚房の冷蔵庫に僕甚ずしお烏韍茶の飲みかけがあったっけ、ふひひ  。
    「あ、お客さん。可愛い圌女さんもいらしおくれた事だし、ここは僕、烏韍茶でもサヌビスしたしょう」
    「お、気が利くね。あんた、出䞖するぞ」
     こんな無職男にそんな事蚀われたっお、たったく嬉しくない。それでも僕は満面の笑みを浮かべ、厚房ぞ向かった。
     
     グラスを二぀甚意し、烏韍茶を泚ぐ。僕は店内を芋回し、誰もこっちを芋おいないのを確認するず、チャックを開けおチンチンを出す。
     膝蹎り男ぞ出す烏韍茶の䞭におチンチンを入れ、軜く掻き回した。氷のせいでかなり冷たく厳しい䜜業であったが、ここは我慢するしかない。
     臥薪嘗胆がしんしょうたんずいう蚀葉があるが、これは埩讐の為に耐え忍ぶ事をいう。たたは成功を収める為に苊劎を耐えるずいう意味合いだ。
     今のこの行為はたさに臥薪嘗胆である。
     䞭囜の故事成語であるけど、我が日本も明治時代に䞋関条玄の䞉囜干枉が発生した時、ロシアに埩讐する為に耐えようずいう機運を衚す時に䜿ったスロヌガンでもある。
     僕は孊校の成瞟がよくなかったけど、こういう倉な事だけは知っおいるのだ。
    「臥薪嘗胆 臥薪嘗胆」
     心の䞭で叫びながら、僕は烏韍茶の䞭にある氷の冷たさに耐え、埩讐を誓う。
    「く、぀めた  」
     思わず声が出おしたう。耐えろ、耐え忍ぶのだ、努。僕は自分ぞ必死に蚀い聞かせた。
     よし、このぐらいでいいだろう。僕は烏韍茶をお盆に乗せ、膝蹎り男の垭ぞ持っおいった。
    「どうぞ、良かったらサヌビスです」
    「おう、どうもな」
    「す、すみたせんね」
     暪柄な膝蹎り男ずは逆に瀌儀正しい圌女。ここは䟋の烏韍茶を眮き間違えおは絶察にいけない。
    「あヌ、ズルい 私にはサヌビスないのヌ」
     カりンタヌ垭に座っおその様子を芋おいた新道貎子が、䞍服そうに声を掛けおくる。
    「あ、もちろん出したすよ」
    「じゃあ良かったら、先にこれ飲みなよ」
     膝蹎り男が䜙蚈な行動をしだした。冗談じゃない。その烏韍茶を枡されたら、䜕の意味もなくなるだろうが。
    「いえいえ、倧䞈倫ですよ。すぐに持っおいきたすから。冷たい内にお召し䞊がり䞋さい」
    「ん、そうかそうか。ちょうど私は喉が枇ききっおいたのだよ、ハハハ  」
     やった 僕のおチンチンをマドラヌ代わりに掻き回した烏韍茶。それを䞀気に飲み干しやがった。ザマヌミロ、くくく  。
    「よろしければご泚文は」
    「もちろん目玉焌きセットでしょ」
     膝蹎り男の圌女が、身を乗り出しお聞いおくる。
    「え、俺は別のを頌みたいなあ」
    「たたそんな事蚀っお、゜ヌス掛けお食べる぀もりなんでしょ」
    「別にいいじゃねえか。俺が䜕を食ったっおよ」
    「よくないわよ。い぀もそうやっお自分を誀魔化し続け、男ずしお恥ずかしくないの」
     䜕だ䜕だ この圌女は  。
    「䜕で目玉焌きごずきで、そんな蚀われ方しなきゃいけねえんだよ」
     あの膝蹎り男が口論で圧倒されおいる。そういえば前回も゜ヌスがりスタヌか䞭濃かで、グチグチ蚀っおいたけど、ずおも神経質な奎なのかもしれない。
    「ご、ご泚文は目玉焌きセット二぀でいいですか」
    「ええ、それでお願いしたす」
    「おい、ちょっず 䜕を勝手に決めおんだよ」
    「いいからそれを持っお来お䞋さい」
    「おい、ふざけんじゃねえぞ」
     関わるずロクな目に遭わないだろう。僕はさっさず厚房ぞ匕っ蟌み、目玉焌きを䜜る事にした。
     
     新道貎子ぞ普通の烏韍茶を出すず、僕は火を぀けフラむパンを眮く。
     特別あの理䞍尜男の目玉焌きには、たた僕の『聖なる唟』を垂らしおやろうじゃないか。たずはあの気の匷そうな圌女の分を普通に䜜っおず  。
     続いお膝蹎り男のだ。僕は客に芋られないよう现心の泚意を払いながら、『聖なる唟』をフラむパンぞ萜ずした。
     いい感じで僕の『聖なる唟』はゞュワッず匟け飛ぶ。
     今日は䞭濃゜ヌスだっお甚意しおある。あの男、完党に僕の目玉焌きを食べるだろう。膝蹎りカップルぞ『目玉焌きセット』を持っおいく。
    「お埅たせしたした」
    「埅っおたわよ」
     そう蚀うなり、圌女はいきなり膝蹎り男の目玉焌きに醀油をドバドバ掛けだした。
    「テメヌ、䜕をしやがんだよ」
    「ふん、いいから䞀床醀油で食べおみなさいよ。おいしいんだから」
    「ふざけんな。目玉焌きは゜ヌスっお決たっおんだよ」
    「卵ご飯には醀油を掛けおるじゃないの。䜕でそんな矛盟したくっおいる蚳」
    「いいじゃねえか、そんなこたヌ」
    「よくないわよ」
    「冗談じゃねえっ぀うの」
    「じゃあ、勝手にしたら 私、垰るから」
    「䜕でそうなるんだよ」
     膝蹎りカップルがク゜ミ゜の喧嘩をしだした。本圓迷惑な客だな  。
     新道貎子が䞍思議そうに芋぀めながら垭を立぀。
    「ご銳走さた。いくら あなたも色々倧倉ね  」
     僕の耳元で、貎子が小声で囁いおきた。その時、倧きなボむンが僕の肩口を軜くかする。もうおチンチンピンコ立ち。
    「あ、ドラゎンだから千五癟円です」
    「あ、ねえねえ」
    「䜕ですか」
    「タダにしおくれるならさ。『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』の捺印抌しおあげるけど」
    「な、䜕個ですか  」
    「うん、今五぀でしょ じゃあ䞉぀抌しちゃうよ」
    「ほ、ほんずっすか」
    「嘘蚀っおもしょうがないでしょ。こういうのはその堎のノリっおあるから」
    「じゃあ、自腹で千五癟円埋めおおきやす」
    「では、カヌド貞しなさい」
     貎子が䞉぀捺印を抌しおくれた。これで残り二぀。あず二぀でボむンにタッチ  。
    「今床、パパンのお芋舞いに行った時、貎子さんに䌚ったらゞュヌス奢るのでたた捺印いいですか」
    「うん、いいよヌ。あず二぀だからもうちょっずだね」
    「やったぁ」
     僕が倧はしゃぎしおいるず、い぀の間にか暪に膝蹎り男が立っおいた。
    「䜕々 、そのカヌドに十個抌しおもらうず、このボむンちゃんのおっぱい揉み攟題なのか すげヌいいもん持っおるじゃねえかよ。よこせっ」
    「あっ」
     膝蹎り男が䞍意に僕の倧事な『新道貎子ボむンタッチポむントカヌド』を取り䞊げた。
    「姉ちゃんもいい乳しやがっおからに」
     そう蚀っお膝蹎り男は、貎子のボむンをワシ掎みする。
    「やだ」
     嫌がる貎子。芋ず知らずの男にそんな事をされれば圓たり前か 。その瞬間、膝蹎り男はダッシュで店から逃げ出した。たた食い逃げか 僕は奎のいたテヌブルを振り返る。
    「あ、奎の圌女たでい぀の間にかいない」
     こうしお僕はあの男に二回も食い逃げをやられ、おたけにカヌドたで取られおしたった。今床からあの男は出入犁止だ。たったくずんでもない奎である。
    「私、捺印ちゃんず抌したからね」
     そう蚀いながら新道貎子も、圓然のように金も払わず嚁颚堂々ず垰っおいった。

    第九章《同玚生》

     今日のメニュヌの仕蟌みをしおいる途䞭で、入口の扉が開く。僕は慌おお入口ぞ向かった。たたにこうしお時間が分からず、早めに来おしたうお客さんもいる。
    「お客さん、すみたせん。うち、昌からの営業なんですよ」
    「おいおい、䜕を蚀っおいるのだね、君は  」
    「え」
     僕はお客さんの顔をたじたじ芋぀めた。あれ、ひょっずしお  。
    「ランバラル」
     い぀の間にか興奮しお叫んでいた僕。目の前には、小孊時代からの同玚生である歊田五郎こず、ランバラルが立っおいた。䜕故、こんな仇名が぀いたかず蚀うず、クラスの女の子に向かっお瞄跳びでビシビシい぀も匕っ叩いおいたからだ。その時、「ザクずは違うのだよ、ザクずは  」ず、アニメのキャラクタヌの真䌌をしながら瞄跳びで匕っ叩いたもんだから、そのたたそのキャラクタヌの名前が仇名になったのだ。
     圌はクラスでも乱暎者ずしお、女の子から非垞に嫌われおいた。圌の瞄跳びのトラりマで、倧きくなっおに目芚めた子もいるかもしれないずいう噂も聞いた事がある。でも、䞍思議ず僕には芪切だったのだ。確か高校を卒業しお、北海道の自衛隊ぞ行っおいたはずだけど  。
    「久しぶりだな、努」
    「うん、久しぶり」
    「ちょっず䞭ぞ入れおもらうぞ。コヌラでもご銳走になろうかな」
     そう蚀っおランバラルは、匷匕に店の䞭ぞ入っおいく。
     ちょうどママンが厚房で仕蟌みをしおいる時だったので、ランバラルはカりンタヌ垭に腰掛け声を掛けた。
    「おばちゃん、久しぶりヌ」
     䞀瞬だけランバラルを芋るず、ママンは無芖しおキャベツの千切りを始めた。ママンは『おばちゃん』ず呌ばれるのが倧嫌いなのだ。
    「ランバラル、駄目だよ。お姉さんっお蚀わないず  」
     僕がこっそり圌の耳元で囁く。
    「盞倉わらずだな。努の母ちゃんはよ」
    「早く蚀わないず、酷い目に遭わされるっお」
    「そ、そうだな 。努君のお姉さん、い぀芋おも若々しいですね」
     ママンの包䞁を持぀手が、ピタリず止たる。
    「あら、誰かず思えば五郎じゃないの。あんた、北海道ぞ行ったんじゃなかったの」
     若いずか、お姉さんずいう蚀葉に匱いママン。
    「ええ、そうなんですけど、今床地元の同窓䌚があるんで急遜垰っおきたんですよ」
    「えヌ、僕、地元なのに党然聞いおないよ」
    「おたえは昔から、みんなの嫌われ者だったからだよ」
     それはおたえだろうが 。こい぀、ランバラルだけには蚀われたくない台詞である  。
    「五郎、コヌラでも飲む」
     お姉さんず呌ばれたママンの機嫌はすごぶるいい。
    「もういい加枛䞋の名前で呌ぶのやめお䞋さいよ。恥ずかしいっすよ」
     ランバラルは僕ず同じ䞀人っ子だが、䜕故か五郎ずいう名前だった。噂によるず、ランバラルのお母さんが倧の『野口五郎』ファンだったずいう意芋もある。
    「ランバラル、その同窓䌚っおい぀にやるの」
    「今週の日曜日だよ。どうせ努には声が掛かっおないず思ったから、俺様がわざわざ䌝えに来たんだよ。今日はおたえ、䜕時頃に仕事終わる」
    「ん、倜の八時半ぐらいかな」
    「じゃあ、その頃たた来るよ」
    「分かった」
     ママンの出したコヌラを䞀気飲みするず、ランバラルは颯爜ず消えおいった。
     
     今日のうちのメニュヌは、比范的たずもだった。
    『焌肉定食宮のたれ颚味』。これはママンがよく倖食に行く『ステヌキ宮』のたれがスヌパヌに売っおいたのを芋぀け賌入しおきたらしい。その『宮のたれ』を䜿っお䜜る焌肉定食。でも、これっおただのパクリじゃないのか  。
    『逃子ずメンチカツセットラむス付き』。逃子六぀ずメンチカツが䞀緒になったお埗感あるふれるセットらしいが、䜕故この組み合わせなのだろう。味噌汁は䜕故かなし  。
    『コロッケナポリタン、ラむスは別』。これも䜕でこんな組合せなのか分からない。しかも䜕故これだけラむスは別なんだろうか たあ逃子ずメンチカツよりは盞性がいいだろう。でも若干䞀名が、匂いを嗅ぎ぀けおきそうで嫌だ。
    「どう、今日の料理は」
     ママンは錻の穎を膚らたせながら興奮しお胞を匵る。
    「どうっお蚀われおも  」
    「庶民チックにあふれおいる心優しい゚コロゞヌだず思わない」
    「うん、僕にはよく分からないよ。それよりお客さんでさ、メンチの代わりにコロッケほしいずか蚀われた堎合、チェンゞしちゃっおいいんでしょ」
    「駄目よ、そんな反則は」
    「え、反則っお別にお客さんの奜みに出来る限り沿っおあげたいなあず  」
     ママンの目぀きが険しくなる。
    「あのね、あんたがそうやっお客を甘やかそうずする方針だから、売䞊がいたいちなの。その蟺お分かり」
    「そんな事ないじゃないかよ。だっおい぀もママンの䜜る料理、だいたい残るの二、䞉人前ぐらいじゃないか」
    「お黙り、セニョリヌタ。珟実にそれだけ䜙っおいるでしょ 私がやれば仕蟌んだ分なんお、あっずいう間に足りなくなっちゃうわよ」
    「こっちだっお苊劎をしおんだ。それをそんな簡単に蚀わないでくれよ」
     僕だっお必死に客ぞ察応しお䞀人で頑匵っおきおいるのだ。料理だけ䜜っお、ずっずず二階でく぀ろぐママンより頑匵っおいる。
    「簡単に蚀っちゃうわよ。だっおママンが本気になれば、努なんお倪刀打ちできやしないもの」
     劙に今日のママンは挑発的だ。
    「じゃあママンが今日は、䞀人でやっおみればいいじゃないか」
     ぀い感情的になり出た台詞。
    「ふん、いいわよ。今日はママンのお手䞊みを芋せおあげるわよ。努はパパンず䞀緒にやる時みたいに、ホヌルで氎でも汲んでなさい」
    「ああ、そうするよ。それで芋せおもらうよ、ママンの腕前っおや぀をね」
     こうしおママンが厚房で料理、僕はホヌルでサヌビスずいう初の図匏が完成した。
     
     お昌十二時ピッタリにのれんを出そうず倖ぞ出るず、僕は蚀葉を倱った。い぀もならパラパラずしか来ない客が、うちの前で列を䜜っおいる。
    「ただよ、努。ただ開けちゃ駄目」
     ママンが厚房から声を掛けおくる。僕は䞀旊店内ぞ戻るが、意味が分からない。
    「䜕で」
    「こういうのはね。客の心理をもっず煜らないずいけないの。今日のママンは本気モヌドだから、出し惜しみなしよ」
    「だっお倖で埅っおいるお客さん、みんなお腹枛っおんでしょ 早く開けないず可哀盞じゃないか」
    「盞倉わらずあんたはお銬鹿ね」
    「お銬鹿っお蚀うな おを぀けるずもの凄い銬鹿みたいじゃないか」
    「だっおお銬鹿じゃないの。いい加枛、私の蚀う事に埓順になりなさい。蚀われた通りに動いおいれば倱敗しないんだから」
    「じゃあどうしろっお蚀うんだよ」
    「努はずりあえず二階ぞ行っお、あんたの奜きなオナニヌしおおいいわ」
    「『えヌ』っおいうか、䜕で僕がオナニヌしなきゃいけないんだよ」
    「毎晩こそこそ日課のようにしおいるじゃないの」
    「さ、最䜎だぞ、ママン」
     倫婊揃っお息子のプラむバシヌを䟵害しやがっお  。
    「现かい事蚀っおないで、さ、早く二階ぞ行きなさい」
    「ちぇ  」
     仕方なく僕は自分の郚屋ぞ行く。それにしおも䜕で今日に限っおあんなお客さんが倖で行列をしおいるんだろう 気になっお窓から眺めおみる。
    「うわっ」
     思わず声が出おしたうぐらいの行列。うちの店からあの忌々しい因瞁の店である『兄匟』たで列は続いおいた。䜕十人いるんだ うちは党郚で十八垭しかないから、こんな人数なんお捌けないぞ
     急にドアが開く。ママンが入口に立っおいた。
    「䜕をしおんの、努。さっさずオナニヌしなさいよ。じゃないずお店開けないわよ」
    「そんな無茶な」
    「無茶じゃないの。これも私の蚈算䞊なんだから、あんたがオナニヌしないず困るのよ」
     蚀っおいる事がメチャクチャだ。息子にオナニヌを匷芁する母芪なんお、この壮倧で広い䞖界でもママンぐらいだろう。
    「もう、じゃあ向こう行っおよ」
    「あらあら照れちゃっお、たったく。はいはい、たったくしょうがないわね」
     ママンが郚屋から出おいくのを確認するず、僕は垃団の䞊に暪になった。誰がオナニヌなんかするもんか。冗談じゃない。
     特にやる事もなく暪になっおいるず、自然ず眠くなる。僕はそのたた目を閉じ寝おしたった。
     
     ふず目を芚たし時蚈を芋るず、二時半になっおいた。
     マズい  。
     僕は慌おお階段を駆け䞋りる。お客さんを十二時から埅たせたたたなのだ。しかし䞋からは人のいる気配がない。
    「あれ ママン」
    「なヌに」
     ママンは呑気にコヌヒヌを飲んでいた。しかもカップを持぀際、小指が立っおいる。
    「䜕をしおんの お客さん、ずっず倖に埅たせおいるじゃないかよ」
    「だっおあなた、ただオナニヌしおないでしょ」
    「し、したよ 。だから早く開けようよ お客さんが可哀盞だよ」
     しょうがなく僕は嘘を぀いた。
    「そう、じゃあそろそろ開けたしょうか」
     良かった。ママンは僕の嘘に気付かないようだ。でもママンは䜕でこんなのんびりしおいるんだろう。急いで僕はのれんを倖ぞ出しに行く。
    「おせヌよ、この小坊䞻」
    「十二時からじゃねえのか、おらっ」
    「䜕を考えおいるんだ、ク゜ガキ」
     ダバい。みんな殺気立っおいる。腹が枛るず、どうしおも人間気が短くなるものだ。だから早く時間通りに店を開ければいいのに  。
    「すみたせん、すみたせん  」
     僕は平謝りしながら、のれんを出した。い぀もなら十二時開店なのに、二時間半も埅たせたのだ。そりゃあ誰だっお怒るだろう。ん、埅およ  。
     みんな二時間半も、うちの料理を食べる為に埅っおいたのか
     店を開けるず、空腹のお客さんたちは雪厩のように店内ぞ入り蟌む。僕も慌おお戻るず、ママンが珍しくホヌルに出おいた。
    「はヌい、料理はすぐにできおたすよヌ。みなさん、『焌肉定食宮のたれ颚味』を泚文する方はこちらの垭ぞ、『逃子ずメンチカツセット』の方はこちらぞ、『コロッケナポリタン』を頌む人はカりンタヌぞ座っおちょうだい」
     そう蚀うず、ママンはお尻を必芁以䞊にプリプリず振り出した。お客さんたちの芖線はママンのお尻に釘付けだ。
    「うぉヌ、俺はコロッケずナポリタン」
    「俺は焌肉だぁヌ」
    「俺っちは逃子ずメンチだぁ」
     䜕故かお客さんのテンションが劙に高い。
    「努、みなさんにお冷お出ししお。それず各メニュヌ䜕個ず぀かたずめずいおね」
    「う、うん  」
     僕は人数分の氎を汲み、各垭ぞ配りだした。
     
     只今五時半  。
     嵐のような忙しさからようやく䞀息぀ける。恐るべしはママンである。二時半からたった䞉時間で、僕䞀人でやる䞀日分の売䞊を䜜っおしたったのだ。
    「どう、努」
    「た、たいりたした  」
     本圓に自分で蚀った通りにしちゃうんだから、䜕も蚀えやしない。
    「今日の䜙波は、倚分明日にも圱響するわ。努、明日は気合い入れるようよ」
    「ねえ、そういえばさ。䜕でママン、あんなにお客さんが集たったの」
     開店前のあの行列は異様だった。それだけじゃなく、次から次ぞずやっおくるお客さんが䞍思議でしょうがない。
    「ん、それはね。ママンが今日はお店をやりたすっお、倖に貌り玙したからでしょ」
    「え、どこに」
    「店の壁に貌っおおいたのよ」
    「ちょっず芋おくる」
     い぀の間にそんな貌り玙を貌ったんだ だけど、それだけじゃあの店の混みようはいたいち玍埗がいかない。
    「あ、努。もうこれ以䞊忙しくなりたくないし、芋る぀いでに倖の貌り玙剥がしずいお」
    「分かった」
     倖ぞ出るず、本圓に貌り玙が貌っおある。『本日はママンがお店に出たす』ずしか曞いおいない。それであの行列 ありえないだろ  。
     僕は貌り玙を剥がしお店ぞ戻った。
    「今日は疲れちゃったから、お店もう閉めちゃおうか」
    「え、でも垞連さんに悪くない」
    「いいのいいの。このミス䞊智だった私がそう決めるんだから、誰にも文句蚀わせないわ」
    「え、ママンっお䞊智倧孊出おいたの」
    「そうよ。別にこの物語を曞いおいる岩䞊智䞀郎の名前から取った蚳じゃないのよ」
    「別に誰もそんな事聞いおないよ」
    「さあさあ、もう芪子のお話はおしたい。私は疲れたから䞊に行っお暪になるわ」
     確かに䞉時間で癟人以䞊の料理を䞀気に捌いたのだ。疲劎はかなりのもんだろう。僕はのれんをしたい、店の埌片づけを始めた。僕だけじゃ、『目玉焌きセット』しか䜜れないんだから、今日はもうおしたいだ。
     思ったより早めに店を閉められたので暇を持お䜙す。今日仕事終わったら、同玚生のランバラルず䌚う玄束をしおいたし、少し早いけど僕は圌に連絡をしおみた。
     
     嫌われ者のランバラルは、地元ぞ久しぶりに垰っおきたずいうのに遊んでくれる友達がいなかったらしく、家でガヌガヌ寝おいたそうだ。 
    「せっかく垰っおきたんだから、他の同玚生ずも䌚えばいいのに」
    「䜕か知らないけどさ、俺が電話しおも『いない』っお芪が蚀うんだよ。居留守䜿っおんじゃねえかなず思っおさ」
    「うん」
     絶察に居留守だろうず蚀いたかったが、あえお蚀うのはやめおおく。
    「俺様がわざわざ電話しおやったずいうのにな」
     ランバラルは自分を特別扱いする自分倧奜き人間である。
    「瞄跳びで叩かれたのをきっず未だ根に持っおいるんだよ」
    「今はさすがにやる蚳ないだろ。たあいい、これから努、うちたで車で迎えに来およ。もう仕事終わったんでしょ」
    「うん、じゃあ準備しおそっちぞ向かうよ」
     僕はママンに車を借り、ランバラルの家ぞ向かった。小孊時代の同玚生なので、歩いお十分の距離だからすぐに到着する。
     ランバラルは助手垭に飛び乗り、元気よく「出発進行」ず倧声を出した。
     街䞭をドラむブしおいるず、倕方なので仕事垰りのがいっぱい歩いおいる。ランバラルは、食い入るようにを眺めブツブツ独り蚀を蚀っおいる。
    「あれはドムだ。あれも䞭ドムだ  」
    「ねえ、䜕 ドムっお」
    「ああ、ブスっお意味合いだ。正盎に蚀うず傷぀くだろ だから俺様はあえお䞭ドムずかドムっお蚀い方をしお気遣っおいるんだよ」
    「  」
     䜕お勝手な蚀い草だろう。僕は黙っお聞くだけにしおおいた。
    「今週の同窓䌚、楜しみだな」
    「䜕時からだっけ」
    「倕方六時から。堎所は『月の石』っおスナック」
    「えヌ」
     僕はビックリしお倧声を出しおしたう。『月の石』ずいえば、あのパむナポヌのいる店じゃないか。先日うちの定食屋ぞ来お僕に告癜しお以来䌚っおいない。あの時は店内にいたお客さんが䞀緒に匕き剥がしおくれたから助かったけど、あの物の怪のいる店に今床は自分から行くずいうのか できれば顔を合わせたくなかったのに  。
    「䜕でもさ、『生埒䌚長』っおいたろ あい぀があの店の子にハマっおいるらしくおよ。しかもあい぀が幹事だからな」
    「で、でもさ、女の子は入りづらいんじゃないかな」
    「䜕か知らんけど、『豆タン子』しか女は来ないらしいぞ」
    「えヌ、䜕か嫌だなあ」
     䞭孊の卒業匏の時、僕に「奜きです」ず告癜しおきた女の子だった。タむプじゃなかったのでさり気なく断るず、「奜きッちゃあ」ず匷匕に抱き぀かれ、僕は党治䞀ヶ月の倧怪我をしたのだ。豆タン子ずいうあだ名は䌊達じゃない。恐るべき怪力のチビ女。抱き疲れた拍子に党身の骚がきしみ、䞋手したら耇雑骚折でこの䞖にはいなかったかもしれないのだ。
     あの時、ランバラルが近くにいお「ザクずは違うのだよ、ザクずは  」ず、瞄跳びでバシバシず豆タン子を匕っ叩いお止めおくれたからこそ、党治䞀ヶ月で枈んだのである。
    「たあ、豆タン子がただおたえの事を忘れおいないようなら、俺がこの鞭でたた匕っ叩いお止めおやるよ」
     そう蚀いながらランバラルは腰に差しおあった瞄跳びを目の前に出し、ニダリずした。十八歳にもなっお垞に瞄跳びを持ち歩く男ランバラル。恐るべしだ。
     
     行く目的地もなく適圓にドラむブをしおいるず、ランバラルが倧きな声をあげた。
    「ん、どうしたの」
    「ほら、努。あそこ芋おみろよ」
     圌の指差す方向を芋るず、自転車に乗った䞀人の男の姿が芋える。
    「あれ、あれっお  」
     僕たちの同玚生、桶屋のゞュンだった。十八歳にもなっお、未だ補助付き自転車に乗る男である。
     キコキコず䞀生懞呜に自転車を挕いでいるが、補充぀きなのでそんなスピヌドは出おいない。通り過ぎる人々は、そんな圌を振り返り吹き出しおいる。それを本人はたったく気付かないぐらい真剣に挕いでいた。
    「ちょっず停めおくれ」
     車を停めるず、ランバラルは玠早い動きで降りた。䜕をする぀もりなんだろう
    「ギャハハハ、桶屋のゞュン。久しぶりだな」
     そう叫びながら腰の瞄跳びを抜き、振り回りしながらゞュンに近づくランバラル。焊った桶屋のゞュンは、慌おおナヌタヌンをしようずしたが自転車ごず倒れおしたった。
    「おたえ、ただ満足に自転車も乗れないのかヌ」
     ランバラルは倒れた状態の桶屋のゞュンぞ、容赊なく瞄跳びを济びせる。瞄跳びを鞭代わりに打たれおいるのだから、圌にずっお堪らないだろう。
    「ワハハ、ザクずは違うのだよ、ザクずは ギャハハハッ」
     昔からこのような理䞍尜な光景を目の圓たりにしおいるが、䜕故僕には絶察に攻撃しないのだろう。その郚分はいくら考えおも分からなかった。
     以前ランバラルにその事を聞いた事がある。圌は答えない代わりに寂しそうな笑みを浮かべただけだった。
    「やめおやめおっ」
     ゞュンの悲痛な叫び声が聞こえる。䞀分ほど圌を匕っ叩いおランバラルは飜きたのか、僕の車ぞ戻っおきた。
    「ちょっず酷くない」
    「いいんだよ、あい぀はあれで」
     昔からこの図匏は倉わらない。い぀もおどおどしおいたゞュンは、ランバラルにずっお絶奜の苛め盞手だったのだ。倚分これで、桶屋のゞュンは今週の同窓䌚ぞ来ない事は確定だろう。
     車を発進させながら、僕はバックミラヌで道路に暪たわるゞュンを芋た。哀れに感じ介抱ぞ向かいたがったが、今はランバラルを圌から匕き離すほうが先決である。
     
     しばらく車を流しおいるず、ランバラルが口を開く。
    「なあ、努さ。お願いがあるんだけど」
     嫌な予感がした  。
    「な、䜕だい」
     たたには車の運転をしたいずランバラルが蚀っおきた。免蚱を取っおほずんどペヌパヌドラむバヌの圌に家の車を運転させるのは正盎嫌だ。
    「これ、僕の車じゃないからさ」
    「ちょっずだけ俺様に運転させろよ」
     出た。ランバラルのわがたた。この男、こうなるず自分の思い通りにしないず気が枈たなくなるのだ。
    「だっお事故ったりしたらどうするの」
    「ん、保険入っおんだろ」
     別にこい぀の為に、うちは車䞡保険に入っお入る蚳じゃないのに  。
    「  」
     い぀もランバラルはこうマむペヌスだから、みんなに嫌われるんだ。倚分、今回の同窓䌚で女子が豆タン子䞀人しか来ないのも、ランバラルが出垭するから来ないのだろう。そういう僕は、䜕でこんな男ずプラむベヌトを䞀緒にいる
    「頌むよヌ、努。でも、駄目なら駄目でいいよ」
     あれ、案倖簡単に匕き䞋がったな。
    「うん、ごめんね。うちの車だからさ 、あっ」
     狭い車内の䞭、ランバラルは腰から瞄跳びを取り出し、僕に向かっお構えだした。
    「分かった。分かったから 運転倉わるよ、ね」
    「初めからそう玠盎になればいいものを 。ほれ、さっさず停めろ」
     仕方なく僕は車を停止させる。こい぀は昔からこうだから、みんなに嫌われるんだ。ランバラルは䞊機嫌で運転垭ぞ座るず、アクセルをベタ螏みしお急発進させた。
    「お、おい、ランバラルっおば  」
     すごいスピヌドで車を運転させるランバラル。
    「グフフ 、ザクずは違うのだよ、ザクずは  」
     ダバい。この男の目はすでにいっおいる。
    「うちの車はザクずは関係ないっお スピヌド違反で捕たっちゃうよ」
    「グフフ  」
     よく車に乗るず人が倉わる人間がいるが、ランバラルの堎合、元がダバいのにさらに人が倉わったようにダバさが増しおいる。
    「あヌっ 前々、信号赀だっおばぁ」
     このたたじゃぶ぀かる。ぶ぀かっおしたう  。
    「むぅ、ニュヌタむプか」
     慌おお急ブレヌキをするランバラル。それでもなかなか車は止たらない。
     ドカンッ
     掟手な音を立お、僕たちは前で信号埅ちをしおいた車ぞ突っ蟌んだ。
     あ、蚀わんこっちゃない  。
     
     幞い急ブレヌキでほずんど勢いのなくなったずころだったので、ぶ぀かっおも倧した衝撃はなかった。でもどう芋おもこちらが悪い事故である。垰ったらママンに䜕お蚀い蚳をしたらいいんだ  。
     ランバラルはすぐ車から飛び出し、ぶ぀けた車のほうぞ向かう。
     䜕やら運転手ず窓口で話をしおいるようだが  。
    「おら、䜕でキサマ、俺様が走っおいるのに止たっおやがるんだ」
     げ、䜕おムチャクチャな台詞を吐くんだ  。
    「だ、だっお信号赀じゃないですか」
    「あヌ 䜕を蚀い蚳こいおんじゃ、おら」
    「ひ、ひぃ」
     胞倉を掎みながら運転手を匕きずり出すランバラル。マズい、これじゃ別の眪も重なっおしたう。僕も慌おお車から降り、圌を止めに行った。
    「や、やめなよ、ランバラル」
    「どけ、努 こい぀はな、俺様が走っおいるのに邪魔をするような奎だ。情けなどいらんのだよ」
    「䜕を蚀っおんだよ やめなっお」
     被害者偎の運転手は、今にも泣き出しそうな衚情だった。埌郚座垭には小さな女の子が心配そうに父芪を芋぀めおいる。胞の蟺りに『田䞭』ずいう名札が぀いおいた。
    「䜕でずっずず走らんのかい」
    「やめなっお、ランバラル」
     その時埌ろの垭で座る女の子が、わざわざ倖ぞ出おきお倧声で蚀葉を発した。
    「おずヌたん、怖い。おしっこ挏れちゃう。おしっこ挏れちゃう」
     嚘はそう蚀いながら、䞡手で股間を抌さえながら足をバタバタしおいる。
    「ひ、ひぃ」
     このオダゞも自分の嚘が怖がっお怯えおいるのに、䜕が「ひぃ」なんだ もっずしっかりしろず蚀いたい。たあ党面的に悪いのはこちらだ。
     結局僕は間に入り、ひたする平謝りした。被害者である盞手の『田䞭芪子』の連絡先を聞き、ランバラルがいるず話にならないので、埌日連絡をする事になった。
     
     問題はうちに垰っお、ママンぞ䜕お説明すればいいかだ。普段あたり怒る事のないママンだが、べっこりぞこんだ車を芋お䜕お蚀うか  。
    「ランバラルも䞀緒に、うちのママンに謝っおおくれよ」
    「ああ、自分のしでかした事だからな。敵に背を芋せるような真䌌はせんよ」
    「別にママンは敵じゃないから」
     自分で事故を起こしおおいお、えばった口調のランバラル。たあこんな男に運転を任せた僕にも責任はある。
     家に到着し、入口のドアを開けるず、ママンが珍しくカりンタヌ垭に座っお新聞を読んでいた。
    「あ、ママン、ただいた  」
    「あら、おかえりなさい。ん、五郎も䞀緒なんだ」
     僕ずランバラルはママンの目の前たで来お、朔く深々ず頭を䞋げ事情を話した。ママンは真剣な県差しで僕の話を聞いおくれる。
    「 っお事は、五郎がカマを掘ったずいう事ね」
    「は、はい 。そうです。ごめんなさい」
     さすがのランバラルも、うちのママンには頭が䜕故か䞊がらないらしい。神劙な顔぀きで謝るだけだった。
    「䞡手を指の先たでピンず䌞ばしなさい」
     ママンはゆっくり立ち䞊がりながら、静かに口を開いた。
    「は、はい  」
    「ごめんで枈んだら、譊察なんかいらないんだよ」
    「はい、分かっおたす」
     どうやら事の責任はランバラルにあるず分かり、照準を圌に絞ったようだ。
    「歯を食い瞛りなさい」
    「は、はい  」
    「ちょいさヌっ」
    「うぎゃっ」
     掛け声ず共に華麗なるママンの飛び回し蹎りが、ランバラルの顔にヒットした。溜たらず倒れた圌の胞倉を぀かむず、「ちゃんず修理代は自分で匁償するんだぞ」ず䜎い声で蚀った。
    「はい、分かりたした。すみたせん  」
    「バックレたら、私が五郎を地の果おたで远い駆けお酷い目に遭わせるからね。あんたが䞭孊の頃、私の干しおあったパンティヌを盗んだ時の事を思い出しおごらん。あの時よりも酷い事するわよ」
    「はい、分かっおいたす 。バックレたりなんお絶察にしたせん  」
     䜕故あれだけ理䞍尜なランバラルが、昔から僕を苛めなかったのかが少しだけ分かった気がした。
     こうしお圌はうちの店で誓玄曞を曞かされ、十八にしお借金生掻に突入する事ずなった。

    第十章《初恋の人》

     ずうずうあの理䞍尜で女癖の悪い先茩、ムッシュヌ石川が退院しおきた。圌は性質の悪い堎末の飲み屋『兄匟』の女将ずできおいる男でもある。女将は五十を過ぎおいるずいうのに  。
     僕が食堂を䞀人できりもみしおいる時に、ムッシュヌ石川は突然やっおきた。
    「はい、ワテもようやく退院したわ。おぬし、快気祝いでただ飯食わせろや」
    「はあ 䜕をいきなり無茶蚀っおんですか」
     以前スナック『月の石』で飲んだツケはちゃんず回収したが、この男ず付き合うずろくな目に遭わないのは実蚌枈みである。
    「シャヌも冷たくなったもんだなあ」
    「䜕ですか、シャヌっお」
    「タガログ語であなたずいう意味じゃ」
    「タガログ語なんお、い぀の間に芚えたんですか」
    「入院䞭、時たた抜け出しおフィリピンクラブ行っおのう。そん時教えおもらったんだわ」
    「病院を抜け出したんですか 駄目じゃないですか」
    「ええの、ええの。现かい事なんお眮いずいお。もう退院したんだからね。アチキは過去を振り返らぬ男なんぞよ。そんな事よりも、はよワシに䜕か食わせやがれっおんだ」
     䜕を急に゚バっおいるのだ。
    「無理ですよ。売䞊の管理はママンがしおたすから誀魔化せないんです」
    「はん、お高くずたりくさっおからに」
    「そういう問題じゃ  」
    「䜕や、ボケナスがぁ この店で暎れるど」
     面倒臭い男だ。盞手にしおいるず図に乗るだけ。僕は無芖をしながら料理を䜜り、他の客ぞ愛敬を振り撒く。
    「お客さた、お埅たせしたした。『私、営業の田䞭です、パスタ』です」
     この恥ずかしい料理名はもちろんママンが考えた。いや考えたずいうよりも、適圓にその堎の思い぀きで぀けたネヌミングだろう。䞀芋普通のミヌト゜ヌスだが、䜕故このようなネヌミングになるのか意味䞍明である。
     他の二品料理は『りルトラマンを倒したれットンの奜んだコロッケ』ず『コオロギも食べたがったオムラむス』だ。りルトラマンずかコオロギずかたったく関係ないのになあ。実際に客の察応するのは僕なのだから、ママンも少しは真面目に考えおほしいものである。
     僕に無芖をされたムッシュヌ石川は、䞀人でむゞケながら爪楊枝を持ち、自分の指先をチクチクず刺しおいた。その姿を芋お哀愁を感じた僕は、氷入りの氎道氎を出しながら声を掛けおしたう。
    「ムッシュヌさん、あず䞀時間ぐらいでお店終わりたすから、䞀緒にゲヌセンでも行きたすか 䜕なら快気祝いで牛でもしばきに行きたすか」
    「䜕でめでたき日に、牛飯なんぞ喰わにゃあかんのよ」
    「え」
    「もっずええずこ連れおけや」
     こい぀、ずんでもねえ男だ。人の奜意を舐めやがっお  。
    「無理ですよ。今週の日曜日に同窓䌚があるんですから。僕は無駄遣いできないんです」
    「ああ、倕方六時に『月の石』でやろ」
    「え、䜕でムッシュヌさんがそんな事知っおいるんですか」
    「ああ、ワむの匟が教えおくれたんやで」
    「え、ムッシュヌさんに匟なんおいたしたっけ 䞀人っ子じゃ  」
     その時僕は忌々しい過去を思い出しおいた。僕の同玚生の悪友である歊田五郎。そしおこのおぞたしい先茩であるムッシュヌ石川。この二人はいい垫匟コンビだったのだ。
     圌らは䞭孊時代『蝿さえたからない者たち』ず呌ばれおいた。
     本人たちは銬鹿だから䜕故かその呌び名を喜んでいたが、本圓の意味は蝿さえずたる䟡倀がない、野グ゜以䞋の存圚ずいうものだった。
     先日たでランバラルは北海道の自衛隊ぞ行っおいたから、この街も少しは平和だったのである。しかし神の悪戯かランバラルは垰郷。そしお同時期にムッシュヌ石川たで退院ずいうずんでもない状況が蚪れたのだ。
    「ランバラルはほんたええ奎や。どこかの定食屋の小坊䞻ず違っおな」
    「ずいぶんな蚀い方ですね」
    「おい、火は 火ヌ、チャッチャず぀けんかいっ」
     い぀の間にかムッシュヌはタバコを口にくわえ、僕に火を぀ける事を匷芁しおいる。この男、人の店に来お泚文もせずに䜕様の぀もりだ  。
    「  」
     他の客がこちらを芋おいたので仕方なく黙っお火を぀ける。ムッシュヌ石川は錻から倧量の煙を吐き出し、ニマッず笑った。もの凄い屈蟱感が党身を芆う。
    「火ず来たら」
    「はあ」
    「火ず来たら、次は氎やろうが チャッチャず持っおこいや。この店は客に氎すら出さぞんのかいな。もうワむのグラスは空やで」
    「い 、今出したすよ  」
     この男、䞀䜓その自信はどこから来おいるのだ 次からは出入犁止にしないず駄目だな、こい぀。
    「そんでのう、おたえらの同窓䌚。ワむも参加決定したで」
    「え 、だっお同窓䌚っお僕らの孊幎だけのものじゃ  」
    「堅い事抜かしなさんな、ボヌむ」
    「だっおムッシュヌさんは孊幎違うじゃないですか」
    「ムフフ、来るのよ、あの子が  」
    「あの子っお」
    「おい、兄ちゃん。『りルトラマンを倒したれットンの奜んだコロッケ』はただかよ」
     いけない。今は仕事に集䞭しなきゃ。
    「はい、今すぐお持ちしたす」
     僕は小汚い定食屋の䞭をずころ狭しず動き回った。
     
     ランバラル曰く同窓䌚には豆タン子しか女は来ないず蚀っおいたが、先ほどムッシュヌ石川の蚀った台詞「ムフフ、来るのよ、あの子が  」。ずおも気になる。
     先茩のムッシュヌは䜕も泚文しないのに、氎だけを䜕床もお代わりし、酔ったふりをしおいた。本圓にりザい男だ。
     䞀日の仕事が無事終わり、店内を片付ける。
     ママンが䜜った料理は適圓に芋えるけど、い぀も蚈算したようにキッチリなくなるのが本圓に䞍思議だ。
     さお今日の売䞊を蚈算しおおしたいだけど  。
    「ムッシュヌさん 、い぀たでうちにいる぀もりですか  」
    「いい寝かせ方をしおおるのう、ヒック」
    「あの 、氎しかあなたは飲んでないじゃないですか。いい加枛酔ったふりをしお居座るのやめおもらえたせんか もう閉店の時間なんですよ」
    「おぉ、努リン。あならは分身の術でも䜿っおるのですかいなあ。䞉分身の術を䜿っお、ワむを隙そうたっお、そうは問屋が卞したせんよ」
    「  」
     早く垰れよ、このゎミめ。そうだ、远い払う前に、あの子ずは誰の事ぐらい聞いおおくか。どうせ今日でうちの敷居を跚ぐのも最埌だし。
    「おぉっ 四分身。おぬし、い぀の間に腕を䞊げよったのだ」
    「ムッシュヌさん、そんな事よりも、同窓䌚に来るあの子っお誰ですか」
    「あの子っお決たっずるがな。我が孊園の絶望のマドンナや」
    「絶望のマドンナ 。ひょっずしお、それは  」
    「そうや、みゆきはんや」
    「えっ」
     ハンマヌで頭を殎られたようなショックを受ける。僕らの孊幎、いや、圚孊生歎代で最も矎しく゚レガントず蚀われたみゆきちゃん。僕の初恋の人だった。
    「あのあだちみ぀るの『みゆき』っおあるやろ」
    「ええ、『みゆき、セプテンバヌラァヌラァヌ』っおや぀ですよね」
    「いや、それは違うやろ」
    「そうでしたっけ」
    「小孊通の挫画でも、実写で映画にもなったあの『みゆき』や」
    「ええ、知っおたす。知っおたすずも」
    「あの䜜者のあだちみ぀るもな、みゆきはんを偶然町で芋かけお挫画にしようず思ったらしいで」
    「本圓っすか すげヌ」
    「いや、それは嘘やけどな」
    「くっ  」
     じゃあここたで無駄に匕っ匵るんじゃねえよ、クズ野郎が。
    「みゆきはんが来るからワむも出る。これは人ずしおの垞識である」
    「だっおムッシュヌさんは孊幎違うから、来ちゃ駄目ですよ」
    「䜕やお、おはん 䜕故ワむが行っちゃあかんのかい 具䜓的に蚀っおみいや」
    「具䜓的にも䜕も、孊幎が違うから出垭するのは無理だっお蚀っただけですよ。同窓䌚っお同じ孊幎同士の者がやるものですから」
    「いいんや、そんなちっちゃい事はのう。おぬし、チンポコちっちゃいのう」
    「党然話題ず関係ないじゃないですか」
    「たあ、そう怒るな。確かにワむは努やランバラルずは違う孊幎や。でもな、それならそれで方法はあるんやで」
    「方法 どんな」
     どうせロクなもんじゃないだろう。
    「ワむが留幎すればええんや」
    「留幎っお、もうずっくに僕らは䞭孊を卒業しおいるじゃないですか」
    「ええんや、そんなもん。これからはダブリのムッシュヌず呌びなはれ」
    「  」
    「はよ、牛しばきに行くで。もうこっちゃ腹ペコペコなんや」
     信じられない奎だ。この男、ずっずその為に粘っおいたのか  。
    「ただ店の蚈算があるから、先に行っおお䞋さいよ。奜きなもの泚文しおおいいですから」
    「だっお刞売機やから、前金やないか。先に金だけくれや」
    「はあ  」
     しょうがなく僕は五癟円玉を䞀枚枡した。
    「おいおい、䜕や、これ」
    「五癟円玉ですけど」
    「これじゃ奜きなもん喰えん」
    「だっお倧盛りや埗盛り喰えたすよ」
    「ちゃうねん。せっかく退院したんや。牛焌肉定食や、ハンバヌグ定食ずか二぀ぐらい喰いたいねん」
    「ほら、これで文句ないでしょ」
     仕方なく千円札を䞀枚握らせた。
    「おう、サンキュヌ。ビバ、努しゃん 食べ終わったらたた垰っおくるから、あそこの飲み屋でも行こうや」
    「あそこっお」
    「れっこはんのいるずころやで」
    「はあ  」
     これ以䞊盞手にしおいおも時間の無駄だ。僕は適圓に生返事をしお、ムッシュヌ石川を远い払った。
     
     今日の売䞊でもらった僕の絊料は䜕ず䞉䞇円。これ、結構ダバいでしょ。毎日こんな感じで皌いじゃったら、䞀ヶ月で九十䞇。幎収にしたら、䞀千䞇プレむダヌだ。
     たあ、あの哀れなムッシュヌにでもこうなったら酒の䞀杯でも綺矅か振舞っおやるか。
     人生勝ち組ず負け組みがあるが、勝ち組ずいうスタヌダムにのし䞊がった僕は、道の端っこを歩く敗け犬にも情けは忘れたくない。
     でもあずちょっずで、あの絶望のマドンナみゆきちゃんに䌚えるのか  。
     䞭孊生の時初めお芋た瞬間、党身に電撃が走った矎しさ。誰にでも分け隔おなく笑顔で接する圌女は、垞に女子生埒から嫉劬の察象だった。みんなに優しいだけなのに、本圓に矎人だから『八方矎人』なんお蚀い觊らしおいたけど、本圓にみゆきちゃんは矎人だったから、他の女共なんおしょせん、負け犬の遠吠えぐらいにしか聞こえなかったよなあ。
     同窓䌚、あたり興味がなかったけど、圌女が出垭するのなら話は別だ。気が重いのが、あの豆タン子も来るずいうぐらい  。
     埅およ それならあの男をうたく利甚すればいいじゃないか。『兄匟』の女将ずも付き合っちゃうぐらいのゲテモノ奜き。奎ならきっず豆タン子さえも倧䞈倫だろう。
     あずの問題は、堎所が『月の石』だから、あそこのママのパむナポヌだよな。あんなババヌに「奜きなの」なんお蚀われたっお、冗談じゃない。あれもムッシュヌにうたく抌し付ければいいか。
     ただランバラルずムッシュヌの『蝿にもたかられない者たち』が埩掻したら、嫌だなあ。久しぶりのみゆきちゃんず再䌚に、肥溜めをぶっ掛けられるようなもんだ。
     そういえばムッシュヌの奎。僕から五癟円ず千円札を持っおいったけど、あい぀の事だ。䞊を頌んであずはポッケにお釣りを入れる可胜性もある。今埌は気を぀けないず。
     奎の快気祝いずしおなんだから、たあ今日ぐらいだ。
     定食屋のドアが勢いよく開く。
    「只今、石川ダブリヌ、食事より戻っおたいりたした」
    「  」
     䜕か嫌だなあ。テンションが猛烈に高いぞ、この銬鹿。
    「さあ、ド軍曹。次はいかがいたしたしょう」
    「䜕ですか、そのド軍曹っお」
    「努を音読みで読むず『ド』。今日は酒たでご銳走しおくれるから『軍曹』。それでド軍曹やで」
    「嫌ですよ、そんな蚀われ方なんお」
    「たあ、现かい事はええ。今日はお客はんたくさん入っずったのう。たんたり銭っ子もらえたんやろうが。行くで、行くで、行くで」
     こうしお僕は、匷匕に匕っ匵られる圢で『スナック 月の石』たで行く事になった。
     そういえば退院したばかりなのに、自分の女がやっおいる『兄匟』の女将のずころぞ顔を出さなくおもいいのだろうか
    「ムッシュヌさん、『兄匟』には顔を出さないんですか」
    「倧䞈倫マむフレンド。あのバシタは完党にワむに惚れおるさかい。あずでしこたたギャフンギャフン蚀わせたるわいな」
     本圓にこい぀、お䞋劣な野郎だな  。
    「それよりムッシュヌさん。あの店でれっこさんに襲い掛かったら、僕は蚀い぀けたすからね、『兄匟』の女将に」
    「分かっずるがな。今日はあんさんが倧蔵省でっからのう。ワむは終始オマケみたいなもんでっせ、ド軍曹」
    「  」
     どうでもいい䌚話をしながら僕らは『月の石』たで到着する。
     ドアを開けるず店内には垞連客のチョヌさん䞀人しかいない。盞倉わらず暇な店だ。店サむドはパむナポヌを始めずしお、人劻れっこに看護婊の新道貎子。
    「ん」
     店の隅に黒いピアノが眮いおあり、䞀人の男が挔奏しおいるぞ い぀の間にこんな排萜た店になっおいたんだ あれ、どこかで芋た事あるような  。
    「いらっしゃい、ダヌリン」
     僕にもたれ掛っおくるママのパむナポヌ。慌おお僕は匕き離す。油断も隙もあったもんじゃない。
    「ひゅヌ、ひゅヌ、お暑いね、お二人さん」
     れっこが意地悪そうに倧笑いしながらひやかす。
    「勘匁しお䞋さいよ、れっこさん  」
     頬に痛みが走る。気が぀けばれっこに叩かれおいた。本圓に手の早い女だ。䞀応僕は客なんだけどな。
    「ここでは麗華っお呌べず蚀ったでしょ」
    「ご、ごめんなさい  」
    「そうそう、新しいピアニストがうちに入ったのよ」
     新道貎子がピアニストを玹介する。迫力のあるボむンは健圚だ。
    「はあ」
    「玹介するわ。ピアニストの神嚁韍䞀さんよ」
     ピアニストは瀌儀正しく立ち䞊がり、軜く䌚釈をしおいる。あ、思い出した。パパンが入院し、あの小汚い定食屋を僕が䞀人できりもみした初日にいた男だ。ゎッホずいうゎリラ顔の男ず䞀緒に来たっけ。だいたいあんなデカい図䜓しおピアノなんお匟けるのか
    「あんたたち、䜕を飲むんだい」
    「わぁっ や、やたお䞋さいよっ」
     ポむナポヌは僕の耳元に息をフッず掛けながら蚀っおくるので、党身に鳥肌が立っおしたう。
    「そうやな 、ヘネシヌでも入れずくかいなあ」
    「ム、ムッシュヌさん 冗談じゃないっすよ。あんた、金なんお䞀銭も持っおないじゃないですかっ ヘネシヌがいくらするか知っおんですか」
    「おいおい、䞖知蟛い事を抜かすな、田吟䜜 倜の遊びは、男がいくら栌奜぀けるかっおずころに真䟡が問われるんだぜ、ベむビヌ」
    「もう 、冗談じゃないっすよ」
    「ちょっず静かにおし これから神嚁ちゃんの優雅な挔奏タむムなんだよ。おたえらみたいなデクノボりでも感動を芚えるような玠敵な挔奏なんだ。いいから垭に座っおな」
     パむナポヌが怒鳎り぀ける。この女も抱き぀いおきたり、息を耳に吹き掛けたり、怒鳎ったり、䞀䜓客を䜕だず思っおんだ。
     
     神嚁がマむクを握る。
    「えヌ、この床は『スナック 月の石』たでお越し䞋さりありがずうございたす。本日挔奏する曲は二曲 。『ザナルカンド』ずドビュッシヌ䜜曲の『月の光』。これをお送りしたいず思いたす」
     静たり返る店内。䞀瞬真っ暗になり、ピアノのあるステヌゞだけにスポットラむトが圓たる。
     神嚁はゆっくりず目を閉じ、ひず呌吞しおから指を動かした。圌の奏でるメロディは、音楜など分からない僕の心の䞭にも染み枡っおくる。なるほど、䜕故こんな店でもピアノを入れようず思ったのか。僕はそれが少しだけ分かるような気がした。
     ゆったりスロヌに流れるリズム。れっこは涙ぐみながら圌を眺めおいる。
    「ん」
     急に音皋が倖れたような  。
     神嚁は挔奏をやめ、ガタガタ震えおいた。
    「ちょっず神嚁さん、どうしたの」
     新道貎子が近づく。
    「デュヌクが 、デュヌクが力を貞しおくれない  」
    「䜕よ、そのデュヌクっお」
    「お、俺の前䞖だ 。圌は無名だが凄腕のピアニストだった。ずっず䞖に出たいっお、い぀もそう願いながら屋根裏郚屋で毎日ピアノを匟いおいたんだ」
    「ちょっず神嚁さん、萜ち着いお」
    「デュヌクはあの時『力を貞したしょう』っお蚀っおくれた。あの時俺は、䜓が急に枩かくなったんだ。でも、今は䜕も聞こえない  」
     䜕かずんでもない自䜓になっおいないか パむナポヌやれっこたで、ステヌゞに駆け寄る。客のチョヌさんはいびきをかいお爆睡しおいた。
    「どうしちゃったの」
    「分からない  」
    「神嚁さん しっかりしお」
    「分からない  」
    「神嚁さんっおば」
    「分からない、分からない、分からない  」
    「いいから萜ち着きなさい。倧䞈倫だから萜ち着いお」
    「䜕故、秋奈は発衚䌚に来なかった 䜕故  」
     䜕か危ない奎だな、あい぀  。
    「神嚁さん、もう今日は䞊がっおいいから萜ち着いお」
    「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ秋奈ヌっ」
     䜕だ、あい぀  。
     すげヌ怖い  。
     僕の暪にいたムッシュヌが立ち䞊がった。
    「せ、先茩  」
    「努よ、ワむに任せずけや」
     そう蚀ったムッシュヌ石川の顔は劙に頌もしく芋えた。
     
     䜕故か僕の目の前でラゞオ䜓操第二を始めたムッシュヌ。
    「あ、あのヌ 、先茩 。䜕をしおんですか」
    「話し掛けるな。今、粟神を集䞭しずるんや  」
    「だっお  」
    「たさかこんな堎所で再び再䌚するずは運呜の悪戯だのう」
     ムッシュヌは遠い目をしながら、ピョンピョン飛び跳ねおいた。
    「先茩」
    「奎ずは同じ高校だった 。『怪獣』ず呌ばれたあの男がピアノを匟いおいるなんお、党然ピンずこんかったわ」
    「え、あの人ず同玚生なんですか」
    「ああ 、圓時若かった俺は、あい぀に『目障りだ』ずいう理由でぶっ飛ばされた過去がある。奎はそんな理由で簡単に人を殎れる男だったのさ」
    「  」
     でも、それっおただ単にあなたが苛めに遭っおいただけじゃないのかな。
    「氞かった 。ここに来るたで 。しかし、昔ず今は違う。ワむも成長したんや」
     䜕か今日のムッシュヌは䞀味違うぞ
     悠然ずステヌゞぞ向かっお歩くムッシュヌ。その埌姿は劙に栌奜良く芋えた。
    「神嚁 。ワむを芚えおいるか」
     取り乱す神嚁のそばぞ近づいた時だった。
    「知るか、ボケッ」
     あっずいう間にパンチを食らい、ムッシュヌは匟き飛ばされる。
    「  」
     え、あれだけ栌奜぀けお、もう終わり
    「痛い痛い痛ヌいっ」
     メガネも割れ、頬もお化けのようになったムッシュヌは、顔面を䞡手で抌さえながら床を転げ回っおいた。
     ここにいたらダバい  。
     そう感じた僕は、そっず忍び足で『月の石』を逃げ出した。ただ䜕も飲んでいないのだ。金など払う必芁はない。
     ムッシュヌに神嚁。あの二人がうちに食べに来る事あれば、すぐ出入犁止だず入れないようにしないず  。
     今週の日曜日、あの店で同窓䌚だけど、神嚁っお奎、たた挔奏で来るのかな
    「はあ  」
     みゆきちゃんずの再䌚する楜しみがどんどん壊れおいくような気がした。 

    第十䞀章 《同窓䌚》

     ずうずう埅望の日曜日がやっおきた。僕はママンにお願いしお、少し早めに定食屋を閉める蚱可をもらう。
     ムッシュヌ石川も楜しみにしおいたが、『月の石』の倉なピアニストの神嚁韍䞀に挑み、䞀発でのされ、たた入院生掻を送っおいる。高校時代にもやられ、瀟䌚人になっおからも同じようにやられた。本圓にあれは銬鹿だ。ああいうのを人生の負け犬ず蚀うのだろう。
     たああんな倉態が来ないほうが、いい方向に物事も向くずいうものだ。
     今日は日曜のせいか、客入りが倚い。忙しくお猫の手も借りたいぐらいだが、芋返りはある。若干十八歳にしお勝ち組の階段を䞊がる僕は、たたパパンの様子を䌺い、挑発しお入院を䌞ばす事も忘れちゃいけない。
     ムッシュヌが入院しおから二日経぀。僕の財垃は䞃䞇二千円のお金が入っおいる。
     今日でうたくいけば十䞇円の倧台に乗るだろう。
     こんな倧金持ちになった僕を芋お、みゆきちゃんはすごいっお思うはず。思わず淫らな想像をしおしたうなあ、デヘヘ  。
     二十歳前にしお䞖界䞀綺麗な嫁さんをもらうのも悪くない。
     僕のママンは確かに矎人だ。お尻をプリプリ振るず、小汚いオダゞ共はみんな、目をむき出し身を乗り出しながら凝芖しおしたうぐらいだ。
     でも、みゆきちゃんの矎しさに比べたら、ママンもその蟺のカナブンず倉わりはない。䞭孊の時であの矎しさだ。あの子、今頃どのぐらい可愛くなっおいるのだろうか。
     よし、ただただ頑匵るぞ
     本日のお献立は『巌流島で戊った宮本歊蔵も愛したおむすび たくあん付き』。どの蟺が愛しおいるのかたるで分からないが、ママンは巌流島たで行き、海氎から塩を取っおきたず嘯く。おむすび䞉぀ずたくあん䞉぀、そしお『あさげ』ずいうむンスタント味噌汁ずいう手抜きのセットだ。これで九癟円はちょっず高いず思うけど、䜕故かよく出る。
     そしお『スペシャル定食』。これはママンが食材で䜙ったものをフラむや倩ぷらにしお色々䜜ったものを䞉぀お客さんに遞ばせる定食である。様々な皮類あるけどよく芋るず、ご飯に塩を掛けおそのたたフラむにしたものずか、メチャクチャなものたであった。それでも味付けがいいのか、今のずころお客さんから苊情はない。味噌汁は『あさげ』でなく『ひるげ』じゃなきゃいけないらしい。ママンもこだわっおいるのか、手抜きなのかハッキリしおほしいものだ。しかし、これで四癟円は安い。
     最埌に『ノアの箱舟に乗った人々が食べたがったもの』。もう料理名だけじゃ、誰も分からないだろう。いや、これだけは僕だっおどんな料理かすら分からない。ママンがあらかじめ仕蟌んでおいた料理をアルミホむルで党郚包み、泚文が入ったらオヌブンで十五分焌き䞊げるだけ。「お客さんがこのアルミホむルを開ける暩利があるのだから、もしおたえさんが客に出す前に䞭身を芋たらクビだよ」ず意味䞍明な台詞を蚀っおいた。だから党然分からないのである。気になるお倀段は䜕ず二千癟円  。
     䞍思議ずそれでもお客さんは泚文をする。アルミホむルを芋た客は、「おぉっ」ず驚きの声を䞊げながら䜕故か手づかみで食べ、誰にも芋せようずしない。どんな料理かたるで分からないが、食べ終わったあずお客の口の呚りがナポリタンを食べたあずのようなケチャップだらけになっおいるずいう点が特城である。
    「ちょっずいい匂いがするじゃあヌりたせんか」
    「ゲッ、パむナポヌ  」
     このク゜忙しいのに厄介な客が来たもんだ。倧方『ノアの箱舟に乗った人々が食べたがったもの』のケチャップの匂いに釣られお来たのだろう。
    「おい、お兄さん、早くおあいそしおよ」
     無愛想な䞉十代前埌の男が、䞍機嫌そうにレゞの前で埅っおいる。こい぀、䜙裕ないなあ。絶察ゆずり䞖代だろう。
    「ぞ、ぞい、只今」
     たあゆずり盞手にも笑顔を絶やしちゃいけないのがこの商売。お、なかなか僕っおいい事思っおんじゃないの。いずれ日本を背負っお立぀僕だ。『勝ち組の哲孊』ずいう本を出した時にでも、今の事は曞いおおくか。
    「わあ、ちょっず 、䜕なんだ、あんたは やめろ、やめろっ」
    「ん」
     さっきのゆずりがデカい声を出しお隒いでいる。芋るずパむナポヌがゆずり男の口の呚りに぀いたケチャップを指で削り取っおは舐めおいた。
    「あん、これっお䞊等なナポリタンじゃないの。ん、トレビアン」
    「や、やめろ、このババヌ。気色悪い。離れろ」
     パむナポヌの興味が、ゆずり男に行くならそれはそれでもいいか。
    「もっず 、もっずゞュテヌム」
     いや、埅およ 嫌だけどずめないず客は怒っお金も払わず垰っおしたうだろうし、そうするず僕の絊料が枛っおしたう。䜕おはた迷惑なババヌだ。
    「おヌい、努。忙しそうだなあ」
    「あ、ランバラル」
    「ん おたえのずころは盞倉わらず隒々しいなあ」
     ランバラルこず歊田五郎は、パむナポヌずゆずり男の絡みを芋お、倧笑いしおいる。
    「笑っおないでずめおよ」
    「しょうがねえな  」
    「うっ」
     出た。ランバラルの瞄跳び。
    「ワハハ、ザクずは違うのだよ、ザクずは」
     圌十八番の鞭叩き。容赊なく瞄跳びはゆずり男ずパむナポヌにビシビシず圓たる。
    「䜕だ、この店は ふざけんじゃねえ」
     泣き叫ぶゆずり。確かに気持ちは分かる。食事に来お䌚蚈が遅くなり、口の呚りのケチャップを倉なおばさんに舐められ、いきなり瞄跳びで叩かれおいるのだから。
    「あぁ、もっず 、もっずぉ。う、ナポッ、ナポッ 。あヌっ、ナポリタン」
     この女、本圓に狂っおやがるな。打たれる床に「ナポッ」っお本圓に薄気味悪い。今日このあず、こい぀の店ぞ行かなきゃならないのがずおも気が重いなあ  。
     それでも僕はゆずり男からしっかり二千癟円をもらい、パむナポヌを店から远い出した。ゆずり男は「䜕でこんな目に遭っおんのに金たで」ずブツブツ蚀いながら店を出お行く。もうきっずここぞ来る事はないだろう。たあ、別にいいけどね。
     ランバラルは瞄跳びを䞁重に折り畳み、懐ぞしたう。
    「ふヌ、面癜かった。俺も腹枛ったから『ノアの箱舟に乗った人々が食べたがったもの』でも泚文しようかな」
    「あのさ、悪いけどお願いがあるんだ」
    「お願い」
    「『ノアの箱舟に乗った人々が食べたがったもの』はタダにしおあげるからさ、僕が䜜った料理をお客さんに出すの手䌝っおくれない あず氎がなくなった人に泚いでほしんだ」
    「うん  」
    「じゃあさ、時間絊プラス五癟円出すから頌むよ。ランバラルもママンに借金あるんだろ お願いだから頌むよ」
    「よっしゃ、俺も手䌝っおやろうっ」
    「あ、その代わりお客さんに瞄跳びで『ザクずは違うのだよ』ずかナシだからだね」
    「ああ、もちろん分かっおるわ」
     こうしお僕は悪友ランバラルずいう揎軍を埗お、䜕ずかこの忙しい状況を乗り切ろうず立ち向かった。
     
     今日は同窓䌚の為、倜の営業はなく昌の営業をちょっず増やし、それでお客さんには了承をしおもらっおいた。
     い぀もより短い時間なのに、客数は半端じゃなかった。
     あのランバラルたで汗だくになっお料理を運んでいる。
    「はい、『スペシャル定食』䞉぀。このトレヌをお客さんに芋せお、奜きなのを䞉぀遞ばせお それず『巌流島で戊った宮本歊蔵も愛したおむすび たくあん付き』。スペシャルはひるげを䜿っおね。間違えちゃ駄目だよ。あさげずかは袋を砎っおそこにあるお怀に。そんでそのポットでお湯を泚いでから出しおね」
    「おう、任しずけ」
     たるで戊堎のような慌しさの䞭、僕たちは必死に頑匵った。
     たた入り口のドアが開く。
    「ん」
     少しだけ開いたドアの隙間からは、先ほど远い払ったパむナポヌがゞヌッず䞭を芗き蟌んでいた。し぀こい女だ。ただあのケチャップの味を忘れられないようだ。
    「ランバラル。入り口に倉なのがただいるよ。远い払っお」
    「おおよ」
     ランバラルお埗意の瞄跳びを取り出し、振り回した瞬間だった。圌の歊噚は途䞭で切られ、宙を舞っおいた。
    「ゲッ」
     完党に逆䞊したパむナポヌ。片手に倧きな出刃包䞁が光っおいる。
    「ナポナポナポナポ  」
     このたたじゃ呜に関わるかもしれない。本胜的に感じた僕は、冷蔵庫からケチャップを取り出し、パむナポヌの顔面に「食らいやがれ」ず発射させた。
    「あん 、これっおナポリ あヌっ、ナポッ、ナポッ。トレビアン」
     顔面に぀いたケチャップを指で觊りながら口ぞ持っおいくパむナポヌ。
     おぞたしい。もはや人間に芋えなかった。
    「俺の鞭が 、うぅ  」
     瞄跳びのなくなったランバラルは、メ゜メ゜ずその堎にしゃがみ蟌み泣いおいた。歊噚のないこい぀なんお、クリヌプを入れないコヌヒヌみたいなもんだ。
    「もっず 、もっずナポリタン  」
     パむナポヌが顔に぀いおいたケチャップをすべお舐め終え、こちらぞ迫っおくる。これはダバいぞ
     僕はひらりず身をかわし、倖ぞ飛び出す。「ナポヌッ」ず奇声を発しながらパむナポヌは远い駆けおくる。
    「ほら、くれおやるよ」
     ケチャップを亀通量の倚い道路ぞ攟り投げるず、パむナポヌはもの凄い速さでダッシュしお、空䞭でそれをキャッチした。このババヌ、走り幅跳びをやっおいたら䞖界蚘録を簡単に敗れるんじゃないかっおぐらいの跳躍力である。恐るべし。
    「あ、あ、あぁっ、あヌちヌちヌ、あヌちヌ、゚キゟチックゞャパン」
     蚳の分からん歌を唄いながらパむナポヌは道路のど真ん䞭でケチャップをペチャペチャ舐めおいる。
     その時背埌からクラクションを鳎らした赀い車が迫り、パむナポヌは思い切り跳ね飛ばされた。たるでゎムマリのように空高く舞い䞊がり、すぐ地面ぞ萜䞋した。
    「だ、倧䞈倫ですかっ」
     ひょっずしお死んじゃったんじゃないかっおぐらいの衝撃を受けおいるのだ。さすがに僕は駆け寄った。
    「あ、おいしぃ、ナポリヌ」
    「  」
     こい぀、こんな状況になっおもケチャップを離さず、ペロペロ舐めおやがる。でも、重症なのか、䜓は小刻みに痙攣しおいた。
     これっお完党に亀通事故だよな 僕はパむナポヌを豪快に跳ねた赀い車を睚み぀ける。するず、その車はすごい勢いでそのたた逃げおしたった。おいおい、圓お逃げかよ  。
    「倧䞈倫っすか、ママ」
    「あ 、あなたね 来おくれたのね  」
     ダバい。さすがに匱っおきおいるぞ。
    「すぐ救急車を呌びたすから」
     僕は集たっおきた野次銬に救急車を呌ぶよう手配した。
    「ううん、そんな事いいの。それより私のお願いを聞いおくれる」
    「はいっ 䜕すか」
    「あ、あのね 、ゎフッ  」
     血を吐きながらゆっくり目を閉じるパむナポヌ。
    「ママッ 倧䞈倫ですか しっかり」
    「キ 、キ  」
    「『キ』がどうしたんですか もうちょっずで救急車来たすから。喋らないで」
    「キスしお」
     いきなりパむナポヌはガバッず起き䞊がり、僕の唇を奪う。䜕が起こったのか党然わからない僕。
    「んヌっ」
     必死に抵抗する僕。あ、舌なんか捻り蟌んできやがった  。
    「もっずダヌリン 奜きっちゃあ」
     もの凄い元気じゃねえかよ 。こい぀、党然ダメヌゞなんかなかったのか
     ようやく野次銬たちが匕き剥がしおくれる。さっき血を吐いたず思ったのも、ただのケチャップだったようだ。
    「  」
     よくも僕の倧事なファヌストキッスを  。
     しかも、こんなババヌに  。
     泣きながら僕は定食屋ぞ戻った。
     
     どんなに傷぀いおも、どんなに心に倧きな空掞ができおも、今の僕は経営者なのだ。テンションなど最䞋䜍たで萜ちた僕。それでも自分の仕事だけはキッチリこなした。
     雚にも負けない。
     颚にも負けない。
     でも、ケチャップババヌには負けた  。
     いや、あれは隙されただけだ。ふざけやがっお。
     そっず唇に指先で觊る。誰にも犯された事のない倩䜿のような唇が  。
     爬虫類のようなヌメッずした舌が僕の口内ぞ捻り蟌んで来た時、このたたはらわたたで食い尜くされおしたうんじゃないかずいう錯芚に陥った。仕事が終わるず、トむレに駆け蟌んでゲヌゲヌ吐き、䜕床もうがいをしお口をゆすいだ。
     䜕もかも汚された気分だった。こうなったら今日これから始たるクラス䌚。あの絶望の矎女のみゆきちゃんに、うたい事口説いおキスをしおもらう他ない。
     倩䜿のような唇が汚されたのだ。それを癒すには、本物の倩䜿にしおもらうしかないのだ。幞い今日の売䞊は䜕ず四䞇。ランバラルも頑匵ったから䞉千円ぐらいあげおやろう。あずは金をチラ぀かせ、金に物を蚀わせ、あのみゆきちゃんを  。
     うヌ、想像しただけでピンコ立ちっす。
    「う、うぅ  」
     自分の歊噚である瞄跳びを包䞁でぶった切られたランバラルも、店が終わったずいうのにただ女々しく泣いおいた。
    「ほら、今日はお疲れさん、ランバラル」
     圌は千円札䞉枚を芋るず、サッず手に取り財垃にしたう。そしおたた泣き出した。ちゃっかりしおやがんなあ、この自衛官め  。
     時蚈を芋るず、倕方の六時を回っおいた。少し早いけど、行くか『月の石』ぞ。
    「そろそろ行こうよ。もう時間だよ」
    「うぅ 、ヒ、ヒヌトロッドが  」
    「䜕だよ、らしくないなあ。瞄跳びなら、僕が買っおプレれントしおあげるから」
    「ほ、本圓か」
    「嘘なんか぀かないよ。ほら、そろそろ時間だよ」
    「わ、分かった  」
     瞄跳びがなければ、しょせんこの皋床の男だったランバラル。コンビを組むムッシュヌ石川も枛らず口のりザいだけの男だった。
    『蝿もたからない者たち』  。
     本圓にク゜以䞋の存圚だ。
     僕はみゆきちゃんに逢う事を胞に秘めながら、嚁颚堂々ず街を闊歩する。暪にはしょげ返ったダサ坊のランバラル。たるで僕のお䟛をするかのようにコ゜コ゜ず歩いおいた。鞭がなければただの臆病者に過ぎない。
     以前雑貚屋『タマらん』で賌入した䞀䞇円の『ビバ、ツトム』扇子を片手に、パタパタ扇ぐ。これはよほどの事がなければ滅倚に出す事のないものだ。今日はよほどの事があるからこそ、こうしお匕っ匵り出しおきた蚳である。
     うちの定食屋の前の现道を真っ盎ぐ歩き、突き圓りの字路を巊折するず、因瞁の『居酒屋 兄匟』の前を通り過ぎる。䞭には人生の負け犬の巣窟である小束菜泥棒老倫婊や、泥棒に入ったオカマの怪しいオダゞなどが寂れた酒を啜っおいる。ふん、この犯眪者䞀歩手前軍団め。だいたいあの昭和を圷圿させる厚化粧の女将は䞀䜓䜕なんだ。
    「この間もあの小汚い定食屋の花壇から、小束菜二束パクっおきおやったぜ」
    「ほう、そりゃあすげヌや、ギャハハ」
    「じゃあ、今日は小束菜パヌティヌず排萜蟌むかい」
     吹き溜たりのタン壷にも劣る連䞭が  。
     勢いよく殎り蟌みを掛けたいずころだが、これから楜しい同窓䌚が埅っおいるのだ。ランバラルが瞄跳びを持っおいればただ勝機はあったけど、今は䜿えないただのクズず化しおいる。あずでママンに報告だけはしおおこう。
     キコキコ  。
     自転車を挕ぐ音が聞こえたので振り返るず、桶屋のゞュンが補助付き自転車で懞呜に挕いでいるずころだった。十八にもなっお未だ普通の自転車に乗れない哀れな男だ。
    「おい、桶屋のゞュンじゃないか。君も同窓䌚ぞ行くのかい」
    「は、話し掛けないで、集䞭しおないず倒れちゃうんだから」
     じゃあ、玠盎に歩いおくればいいのに  。
     い぀もならすぐに苛めるランバラルも、今日だけは䜕も反応しない。桶屋のゞュンはそれを芋お、ホッずしたような衚情になる。
     途䞭おもちゃ屋さんがあったので、僕はランバラルに瞄跳びを買っおやった。
    「グ 、グフフ  。ヒヌトロッド  」
     瞄跳びを手にした途端、ランバラルの目぀きが倉わっおいる。桶屋のゞュンは怯えたような衚情に切り替わった。圌に歊噚を䞎えるの、ちょっず早かったかな  。
    「ワハハ、ザクずは違うのだよ、ザクずは」
    「痛い痛い痛い痛い  」
     やっぱり 。ビュンビュンず叩かれ痛がるゞュン。
    「ほら、やめなっお」
     仕方なくずめに入る。
    「ワハハ、ザクずは  」
    「ランバラル そんな事ばかりしおいたら返しおもらうよ」
    「ちっ、分かったよ」
     本圓この男、歊噚があるないでこうたで口の利き方たで違うのだから、末恐ろしい奎だ。
     僕たち䞉人はそのたた無蚀で歩き、『スナック 月の石』の前たで到着した。
     
     先ほどファヌストキスを奪われたばかり。その憎き盞手がママをしおいる店『月の石』。同窓䌚にみゆきちゃんが来るずいう情報がなければ二床ず行きたくない堎所だった。
     ランバラルを先頭に、桶屋のゞュン、僕ず䞭ぞ入る。
    「いらっしゃヌい」
     北海道人劻のれっここず青朚怜子ず、ボむンナヌスの新道貎子が出迎えおくれる。桶屋のゞュンは二人の矎女を芋ただけで極床の緊匵が党身を包んだのか、息が荒くなっおいた。
    「やあ、君たち、久しぶり」
     黒ぶちメガネを掛けた䞃䞉分け頭の男が近づいおくる。
    「あ、生埒䌚長っ 久しぶり」
     あだ名ずいうか生埒䌚長ぞなるべくしおなったずいう生真面目な男。牛乳ビンの底のような分厚いメガネは昔ず倉わらない。
    「他には誰か来おいるの」
    「あそこに亀田がいるよ。昔から倉わらず暗いたただけど」
    「おヌい、亀田ヌっ」
     ランバラルの呌びかけに察し、埮動だにしない亀田。振り返る事さえなく、目の前のスナック菓子をポリポリず勝手に食べおいる。
     埌ろ姿しか芋えないが、焌きそばのような倩然パヌマず頬のブツブツニキビは未だ健圚だ。昔からもっさりずしおパッずしない男だったが、珟圚も倉わらない。倧方たるんだ䞉段腹を揺らしながら郚屋に籠もり、オナニヌ䞉昧の日々を送っおいるのだろう。
    「あの野郎。久しぶりの再䌚だっおのに、挚拶どころかこっちすら向かないじゃねえか。よし、これで叩いおあい぀の目を芚たしおやる」
     懐から瞄跳びを取り出しすランバラル。
    「やめなっお」
     慌おお僕はずめた。
    「あずは誰かいないの」
    「女子で䞀名、トむレに行っおいるのがいるよ」
     ひょっずしおみゆきちゃんかな うん、でも倩䜿のような圌女がりンチなんおするはずないしなあ。ただ来おいないのかな。
    「たあずりあえず垭に座ろうよ、みんな」
     生埒䌚長はどんなずころでも堎を仕切れる優秀な人材だ。でも、十八歳にしおは頭のおっぺんが劙に薄くなっおいる。
     テヌブルの䞊にはスナック菓子や唐揚げ、そしおミヌトロヌフ、サラダ、フラむドポテトずりむンナヌのアラカルトなどが䞊んでいた。
     今珟圚集たっおいるのは僕、生埒䌚長、ランバラル、桶屋のゞュン、そしお亀田の五人。あず䞀人の女子はトむレに行っおいるらしい。党郚でただ六人。みゆきちゃん、来ないのかな  。
     僕らの目の前を新道貎子が倧きなボむンをゆっさゆっさず倧きく揺らしながら飲み物を運んでくる。みんな、ボむンに芖線が釘付けだ。真面目な生埒䌚長の股間たで、テントを匵っおいるぐらいだった。このむっ぀りメガネが  。
     バタンッ
     嚁勢よくトむレのドアが開く。ずんぐりむっくりしたたん䞞䜓型の女が出おきた。
     たさか  。
    「ひょ 、ひょっずしお 、そこにいるのは努君  」
     䞭孊時代抱き぀かれ党治䞀ヶ月の怪我を負わされた怪力女の豆タン子だった。ずっさに僕は腰を浮かせ、臚戊態勢に備える。
     豆タン子は倧袈裟に䞡腕を広げ、錻息を荒くしおいた。気を぀けろ。奎は来るぞ  。
    「奜きっちゃあっ」
    「努 、どいおいろ。奎はザクより匷い  」
     目の前には瞄跳びを持ったランバラルが立ちはかる。䜕かちょっず頌もしいぞ。
     ランバラルが「食らえっ」ず瞄跳びを振り䞊げた瞬間、豆タン子はさらに加速しお、もの凄いタックルで圌を吹っ飛ばした。
    「  」
     䜕だか以前よりもパワヌアップしおいないか 僕は亀通事故に遭ったかのように䜓をピクピクさせおいるランバラルの元ぞ向かう。
    「おい、倧䞈倫か」
    「や、奎は 、ニュ、ニュヌタむプか  。ガクッ  」
     自分で『ガクッ』ずか口で衚珟しおいるぐらいだから倧䞈倫か。それにしおも僕はこの窮地をどう脱出したらいい
    「ずっず遭いたかったかったんだからね、努君」
    「䌚いたいの挢字がおたえ、間違っおいるぞ」
    「もう、離さないから」
     そう蚀っお豆タン子は舌をベロンず出し、口の呚りを䞀呚させた。
    「うぅ  」
     恐ろしい。䜕お長い舌なんだ  。
    「豆子、おやめ」
     背埌で声が聞こえる。振り向くず、この『月の石』ママのであるパむナポヌが立っおいた。やっぱりさっきの事故じゃ、ダメヌゞなんおなかったんだ、このアマ。
    「お母さん  」
    「ええっ」
     今、豆タン子は䜕お蚀ったんだ
    「おやめなさい。圌はね、もう私のものなんだから」
    「いくらお母さんだっお、私の初恋を邪魔したら蚱さないわよ」
     䜕ずいう衝撃な事実。パむナポヌず豆タン子は芪子だったのか  。
    「もうね、圌ずはを枈たせた仲なのよ、豆子。あんたの出る幕なんおないのね」
     嫌な事を思い出させやがっお。豆タン子は僕を芋お目をりルりルさせおいるが、たったく可愛くない。
    「ほんずなの、努君」
    「ああ、本圓さ。今日䞭に私はたでやっちゃおうかなっお思っおんだから」
     パむナポヌの台詞にゟワッず鳥肌が立぀。
     史䞊最倧の醜い芪子喧嘩に察し、僕らは誰䞀人声を出す事ができなかった。埓業員のれっこやボむンの貎子も、ただ事の成り行きを眺めおいるしか術がないようである。
     その時、入り口の扉が静かに開いた。
     
     男連䞭の芖線が䞀斉に向く。
     たるで埌光が差したようなオヌラを纏いながら、ゆっくりず『スナック 月の石』ぞ入っおくる人物。
     䞀歩歩く床埮かに揺れる空気は、この広倧なカオスに包たれた暗黒の䞖界を埐々に和らげおくれる。こんな奇跡的な事が自然ずできる人間なんおそうはいない。
    「み、みゆきちゃん」
    「あら、みなさん、お久しぶり」
     どんな映画でもかなわないような感動が党身を貫く。䞭孊時代はただあどけなさが残っおいた圌女だが、今ではすっかりず゚レガントで軜やかな倧人の色気も備え、たた屈蚗のない笑顔で呚囲の人間を癒しおくれる。
     さすが『絶望のマドンナ』ず呌ばれただけはあった。
     䜕故『絶望のマドンナ』なのか
     それは同じ孊校の男子生埒が陰で぀けたあだ名だったのだ。圌女は誰にでも優しく亀田みたいな薄気味悪いオタクでも、苛められおいるず身をおいし、かばっおいた。人の痛みが心の底から分かっおくれる子だったのである。
     どんな状況でも終始笑顔を絶やさず、僕ら男子生埒はどれだけ圌女の存圚で救われた気分になっただろうか。
     すべおの男が圌女に惚れおいた珟実。おかげで䞭孊時代、䞀組もカップルなどできなかったぐらいなのだ。だから女生埒はダキモチのあたり、みゆきちゃんを『八方矎人』だず陰口を叩くしかなかった。そのぐらい圌女は、玠敵で厇高な存圚だったのである。
     ぀たりすべおの女生埒が絶望したほどのマドンナずいう意味なのだ。
     もそっず亀田が無蚀のたた立ち䞊がり、トむレぞ入っおいく。あの野郎、圌女のいる空間の空気を吞っおしたったもんだから、我慢できなくなっおトむレでマスタヌベヌションでもおっぱじめるのだろう。
     男の反応ずは真逆に、女共の芖線は鋭くなっおいた。埓業員のれっこや貎子。圌女らも矎人ではあるが、みゆきちゃんに比べたらその蟺にいるダンゎ虫ず同レベルだ。本人たちもそれを自芚しおいるからこそ、ダバいず自芚しおいるのだろうな。
    「あんた、なかなかの矎人じゃないのさ。ようやく私ずタメ線匵れる女が登堎した蚳だね。たあ、そんなずころに立っおないで座りなよ」
     パむナポヌがシヌンずした空気の䞭、蚀葉を発した。
     こういうババヌの自信っお䞀䜓どこから来るのだ 䞍思議でならない。思いっきり勘違い女。みゆきちゃんを目の前にしお物怖じしない銬鹿。さっきの台詞を思い出すだけで無性にむラむラしおくる。
    「オラッ、どの蟺があんたさ、タメ線匵っおんだよっ」
     珍しく青筋を立おながら桶屋のゞュンが、パむナポヌに怒鳎り぀けおいた。こい぀がこんなキレおいるずころなんお、生たれお初めお芋たぞ  。
    「今の蚀葉、取り消せ  」
     ペロペロしながらもランバラルが起き䞊がっおくる。圌は昌間パむナポヌ、倜は豆タン子ず芪子二代に枡っおやられながらも、懲りずに立ち向かおうずしおいる。
    「あ、あぁ 、み、みゆきちゃんっ」
     トむレから亀田の叫び声が聞こえた。汚ねえな、あい぀ 。みゆきちゃんを想像しながら䞀発出しやがったな  。
    「男子生埒党員を代衚しお私が発蚀したす。豆タン子のお母さん、今の発蚀、取り消しおもらえたせんか」
     牛乳ビンの底のようなメガネの奥で、虫のような目をしながら生埒䌚長が堂々ず胞を匵りながら口を開く。
    「おだたりっ」
    「ふぎゃっ」
     パむナポヌの匷烈な匵り手で生埒䌚長は吹っ飛んだ。䞀応僕たちっお客じゃないの
     埅およ、僕だけじゃん。䜕も蚀っおないの  。
     みゆきちゃんに嫌われちゃうかもしれない。よし、次は僕の番だ。
    「おい、キサマ 取り消しやがれっ」
    「な、䜕でそんな事蚀うん うち、ダヌリンにそんな事蚀われたら、生きおいけんちゃ」
     僕の蚀葉にパむナポヌは目を最たせおいる。第䞀誰がダヌリンやねん。気持ち悪いなあ。
     殺䌐ずした雰囲気の䞭、「バヌン」ず䜎音のメロディが鳎った。
    「あ、おたえは  」
     あの狂ったピアニストの神嚁韍䞀がい぀の間にかステヌゞのピアノに座っおいた。
    「みんな芋苊しいぜ。今日は君らの同窓䌚じゃないのか ほら、立っおないでみんな垭ぞ座れ。そしお俺が挔奏をプレれントしおやる」
     こい぀はあのムッシュヌ石川を䞀撃で病院送りにした野蛮人だ。蚀う事を玠盎に聞いおおいたほうが身の為だ。倧人しく垭ぞ腰掛ける。
    「みゆきさんず蚀いたしたっけ」
     神嚁はマむクを手に持ち、みゆきちゃんのほうぞ手をかざしながら話し掛けおいた。このキザ野郎が  。
    「は、はあ  」
    「あなたの為に私はピアノを捧げたい 。では、䞀曲目ザナルカンド、行きたす  」
     こい぀、今さっきみんなに挔奏をなんお抜かしずいお、舌の根も也かない内に䜕お事を。この軜薄野郎が 。でも、怖いから心の䞭で呟くだけにしずこっず。
     
     奎の挔奏が始たる。
     れっこや貎子はそれを聎きながら䞡手を組んで、うっずりしおやがる。この尻軜女共め。
    「ゲッ  」
     パむナポヌず豆タン子の銬鹿芪子は、二人共パンティの䞭ぞ手を突っ蟌んで、オナニヌしちゃっおるぞ  。
     みゆきちゃんは倧䞈倫だよね 僕は恐る恐る圌女のほうを振り向いた。
     うん、目を閉じお静かに曲を聎いおいるだけだ。そう音楜はこうやっお優雅に楜しんで聎くものなのだ。さすが『絶望のマドンナ』だ。い぀たでも倉わらない君でいおくれよ。そう僕は心の䞭で埮笑む。
     ザナルカンドが終わるず、女だけから盛倧な拍手がパチパチず起こる。再び神嚁は立ち䞊がり、マむクを持っお口を開く。
    「続いおドビュッシヌ䜜曲、『月の光』  。この曲も 、みゆきさん  。あなたぞ捧げたい  」
     あのデカブツめ、䜕を栌奜぀けおいやがんだ。
    「うぉ、テメヌッ ムカ぀くんだよっ」
     ランバラルが感情を剥き出しにしお、襲い掛かる。いいぞ、やっちめえ
     神嚁は瞄跳びをひょいず避け、盞手の懐ぞ朜り蟌む。ランバラルの背䞭しか芋えない状況の䞭、神嚁の右腕が真暪に芋えた。
     ん、倉な握り拳をしおいるな。ギュっず握り締めた拳なのに芪指だけがピンず暪に䌞びおいる。
     そう思った瞬間すぐ、ずんでもない速さで神嚁の芪指はランバラルの暪っ腹ぞ突き刺さった。
    「うぎゃぁっ」
     暪っ腹を抌さえながら地面をのたうち回るランバラル。うわっ、血が出おいるよ  。
    「神嚁韍䞀究極打撃技『打突』  。人間の䜓に穎を開ける事だけを目的ずした殺人技。俺の行く道を邪魔する人間は、容赊なく朰すぞ。できれば怒りたくねえんだ。静かにしおろよ」
     䜕だかあい぀、危ない䞊におっかねえぞ  。
     泣き叫ぶランバラルをパむナポヌ芪子は冷静な衚情で手ず足を持ち、無情にも店の倖ぞ攟り捚おた。本圓に酷い店だな。
    「では、気を取り盎しお『月の光』、挔奏したす」
     ピアノの前に座るず、神嚁は再び曲を匟きだした。すげヌ二重人栌だ。譊察は䞀䜓䜕をしおいるんだ ここに凶悪な犯眪者がいるずいうのに  。
     さっきのザナルカンドに比べ、今床の曲は劙に長いぞ。聎いおいお非垞に退屈だった。
    「ふぁあ」
     思わずアクビが出おしたう。
     するずれっこが「しヌ」ず口に手を圓おお泚意しおきた。チッ、このアマ、䜕様の぀もりだ。人劻のくせに色気づきやがっお  。
     挔奏が終わるず再び女性陣からだけの拍手が起きる。芋おいお非垞に䞍愉快だ。だっお今日は僕らの孊幎が䞻圹の同窓䌚なんだから。
     たた目立ちたがり屋の神嚁がマむクを握った。
    「今日はみゆきさん、こんな堎末の飲み屋ぞお越しいただけ光栄です。ザナルカンド、月の光 。この二぀の曲は以前、䞀人の惚れた女の為にピアノを始め、䞉十歳を過ぎた私がひたすら毎日のように匟いた曲です。でも、圌女は発衚䌚にも来おくれず、私はフラれたした  」
     だからレパヌトリヌがあの二曲しかないのか、あの男は。
    「䞀人の女の為に始めたピアノ 。でも、私は誰にもピアノを捧げおいない。だから今日、あなたの為に捧げたかったんです  」
     こい぀、話が長いなあ。みゆきちゃんに迷惑だろうが。
    「ちょっずステヌゞたで来おいただけたせんか、みゆきさん」
     困った衚情でみゆきちゃんは立ち䞊がり、ステヌゞぞ行く。パむナポヌや豆タン子はハンカチを口で「いっ」っおくわえながら悔しがっおいた。
    「こんな私ですが  、結婚しお䞋さい  」
     思わぬ告癜にシヌンずする店内。この男は本圓に銬鹿か 『絶望のマドンナ』であるみゆきちゃんがどこの銬の骚ずも分からない奎なんぞの嫁になる蚳ねえだろうが。
     マドンナ  。
     むタリア語では、我が淑女ずいう意味を持぀蚀葉。広い意味では、聖母マリアずいう意味合いもあるらしい。どちらにしおも、あんな野蛮で倧男が簡単に口説ける女ではないのだ。
    「ご、ごめんなさい  」
     ほら、芋ろ。フラれやがった、ザマヌミロ。
    「わ、私のどこに䞍満が  」
     女々しい野郎だな。さっさず去れ、ボケ。
    「あ、あの 、もう私 、結婚しちゃっおお、人劻なんですよ  」
    「えヌっ マゞかよ」
     すべおの男が同時にデカい声を匵り䞊げた。
    「そ、そんな  。ザ・ショック」
     生埒䌚長のメガネがショックでパリヌンず割れる。
     みゆきちゃん、嘘だろ 嘘っお蚀っおよ  。
    「うわヌっ 秋奈ヌっ」
     神嚁は泣きながら狂ったようにピアノの鍵盀を叩いお錯乱しおいた。
     僕たちはこの䞖の終わりみたいな顔をしながら、泣いお家に垰った。

    最終章

    ※ 始めにお断りしおおきたす。ホラヌが嫌いな方は、これ以䞊読むのをお勧めしたせん。
    ※ もしお読みになられお気分を害したず蚀われおも、責任取れたせん。
    ※ それでも構わないずいう方のみ、このあずの話をお読み䞋さい。
     
    「はぁ  」
     俺、『パパンずママン』の䜜者神嚁韍䞀は、深い溜息を぀きながら垃団ぞ寝転がった。どうもこの䜜品を曞いおいるず、壮倧なカオスの䞭に取り蟌たれおいくようで、頭の䞭が混乱しおくる。
     セブンスタヌに火を぀け、倧きく煙を吐き出した。
     もうこれ以䞊曞くずおかしくなる。自分で䜕ずなくそう感じおいた。結局マドンナにみんながフラれお垰る。うん、これでいいじゃないか  。
     いや、すげえ぀たらないし、これで終わりじゃ、読者を裏切るようなもんだ。
     この䜜品は第九章の『同玚生』たで勢いよく曞いおいた。匷がりでも䜕でもなく、この皋床の内容ならいくらでも曞ける。そんな自負があった。
     二千八幎六月十日たでは  。
     この圓時、俺は読者参加型の䜜品にしようず、むンタヌネット䞊で参加者を募集する。䜕人か出たいず申し出があったので、俺は名前だけをリアルに䜿い、性栌は勝手なキャラクタヌずしお自由に衚珟した。
     するず『月の石』で初登堎したれっこさんは、めでたく劊嚠  。
     ここたでは良かった。
     珟実の俺の郚䞋であったムッシュヌ石川は、登堎させおすぐ、お父さんが脳溢血で倒れおしたうずいう自䜓に遭遇する。
     䜕だか薄気味悪いな。この時はそのぐらいにしか考えおいなかった。
     二章の『兄匟』で出おきた居酒屋。もちろん近所にモデルがちゃんずあり、こちらが珟実で実害を受けた為、パロディずしお『パパンずママン』に登堎させた。
     この店は昔からある蚳ではない。昔は『きね屋』ずいう普通の食堂だった。豚にそっくりなお姉さんがい぀もいお、幌かった俺を芋る床「家は継がないの」ず同じ事を聞いおくる倉な人だった。俺が二十代埌半になった頃、『きね屋』はなくなり、しばらくしおから『兄匟』モデルの店ができた蚳である。
     この頃歌舞䌎町で深倜働き、人ず真逆の生掻を送っおいた俺は、近堎で飯を枈たせたいず思い、初めおその店ぞ食べに行く。たあ倀段も安かったので二回目も行こうず䞭ぞ入るず、女将が俺をギロッず睚たれ、「うちは酒を飲たない人はお断りだから」ず远い出された事があった。倉わった店だなぐらいにしか、この圓時は思っおいなかった俺。
     しかし、それからあの異様な店は近所に様々な被害を及がすようになっおいた。
     小束菜泥棒は、うちのおじいちゃんが育おおいた花壇から実際に盗たれたのをあのように衚珟。
     定食屋ぞ盗みに入ったオカマの話も、ちゃんず゚ピ゜ヌドがある。俺が歌舞䌎町時代、裏皌業で䞀時期倚額の金を皌いでいた事があった。おじいちゃんに恩返ししようず思った俺は、五癟円玉貯金を開始しお、毎日買い物をする際も必ず五癟円玉がお釣りでもらえるように心掛けた。だから䞉ヶ月間で、十䞇円の貯金箱はいっぱいになる。
     それをおじいちゃんにプレれントした倜、家に泥棒が入った。䞉階にいた匟が、深倜に䞀階から物音が聞こえたので䞋ぞ降りる。するず倖で「泥棒よ、泥棒よ」ず倧きな声で隒いでいたオカマのオダゞがいたらしい。そしお俺がおじいちゃんにプレれントした五癟円玉貯金箱はなくなっおいた。
     実はそのオカマが泥棒だったずいうのを埌日、譊察から聞く。䜕でもうちは泥棒仲間の䞭では有名なぐらい盗みに入りやすい家らしく、内郚の芋取り図たで出回っおいたようだ。
     そんな経緯もあり、『兄匟』のモデルになった店は、近所でも評刀がずおも悪い。
     うちの隣にあったずんか぀屋でも、『兄匟』モデルの女将は客ず䞀緒に来お、たらふく飲んで食った事があるそうだ。途䞭䞀人の客だけを残し、女将らは金も払わず垰っおしたう。
     残された男は䞀銭も持っおいないようで、そこで働いおいた俺の先茩は、女将に文句を蚀いに行く。しかし「あの人、うちの客じゃないし、ご銳走するからっお぀いおいっただけだから」ずたるで支払う意思がなかったようだ。
     たったく悪びれる様子もない無銭飲食の男を先茩は、譊察ぞ連れお行こうず車ぞ乗せる。向かう途䞭その男は「おたえ、ずいぶんず生意気な若造だな」ず䜕床も先茩の頭を叩いたらしい。譊察官の話によるず、その男は無銭飲食の垞習犯らしく、䞀円も取れなかったそうだ。頭に来た先茩は、「お巡りさん、もうお金いらないから、こい぀を䞀床だけ蹎らしお䞋さい」ず蹎りを入れお垰っおきた。
     れっこさんやムッシュヌ石川の件に加え、奇劙な連続に察し、俺は気味悪さを感じおいた。気づけばあれだけ乗りに乗っおいた『パパンずママン』はい぀の間にか曞かなくなっおいたのである。
     しかし、『兄匟』モデルの店の悪行はそれだけじゃない。すぐ先にあったラヌメン屋の幌銎染の店があった。あの女将は客局がかぶっおいたずいう理由で、䞀床幌銎染の店の呚りにガ゜リンを巻き、火を぀けようずした隒ぎを起こす。怖がった幌銎染に、䞀床この件で盞談された事があるが、それが本圓にあったずは思えないでいた。
     シャブをやっおいるずいう噂も絶えず、家の暪にある䞀方通行の道に怍朚鉢を䞊べ、通ろうずした車の前で倧の字になっお立ちはだかり邪魔をした事もあった。さすがにこの時はパトカヌがやっおくる倧隒ぎになる。
     倜䞭、飲み屋から垰っおくる途䞭、『兄匟』モデルの店の前にパトカヌが二台停たっおいるのが芋えた。䜕だず思い、近づくず幌銎染のお袋さんが譊察に事情聎取されおいたので、俺も話に加わる。䜕でもあの女将の店の客が、嫌がらせで暎れたらしい。俺はおばさんに「俺、こっちにいたすから、倉な目に遭わされそうだったら連絡䞋さいね」ず自分のプラむベヌト名刺を枡しおおく。
     結局その名刺が圹に立぀事はなかった。
     䜕故なら二千八幎十二月䞉十日。『兄匟』モデルの店は、倧火事で党焌しおしたったのだから  。
     この圓時倕方だったので、近所でもかなりの倧隒ぎずなった。俺もちょうど家にいたので、倖ぞ出お燃えさかる炎をただゞッず芋぀めおいた。
     隣のカバン屋のおじいさんは自分の店に火が燃え移り、䜕床も䞭ぞ入っおカバンを取り出そうず行っおしたうので、近所の人たちに取り抌さえられおいた。
     その隣の埌茩の家は、新築したばかりなのに、倖壁は煙でやられ、消防車の匷烈な氎が䞉階の家の䞭たで入り、散々な目に遭ったそうだ。
     翌日の読売新聞では、死傷者二人を出す火灜ずしお玙面を食っおいる。あの燃えさかる炎の䞭で男が二人も焌け死んでいたのだ  。
     この火事に、おかしな点はたくさんあった。あれだけ近所を隒がせ悪名を蜟かせたあの女将の名前や姿が、新聞にもどこにも出おきおいないずいう事実。それに倕方なので、あの店はオヌプン前である。女将がいないずいうのもおかしい。消防団では、この件に察し、かん口什が敷かれたずいう噂も聞く。謎だらけの火事だったのだ。
     あれから䞀幎以䞊経぀が、女将は隣やその隣の家たで迷惑を掛けたのに、お詫び䞀぀もなく、その堎所から存圚を消したたたである。
     どっちにしおも、これで二軒目だ。
     俺がモデルにした店が、火事で党焌しおしたったのは  。
     薄気味悪さを感じおいた。
     俺の珟圹時代を曞いた䜜品『打突』に出おくるラヌメン屋があった。頑固䞀培の癖のあるマスタヌだったが、俺は䜕故かずおも気に入られ、い぀も愛想よくサヌビスしおもらっおいた。俺の曞いた小説を本にしおプレれントするず、目を现めながら「いや、神嚁さんはいいもん曞くねえ」ず蚀っおくれるようなマスタヌだった。客が「マスタヌ、おあいそ」ず蚀うず、「うるせヌ、今俺は神嚁さんず話しおんだよ。ちょっず埅っおろ」ず啖呵を普通に切っおしたうマスタヌを芋お、みんなゲラゲラ笑っおいる。そんな店だったのだ。
     しかし、二千六円十月十䞉日。明日の川越祭りに備えようず、ラヌ油を䜜っおいたマスタヌに䞍運が起きる。火を掛けっ攟しで、ちょっず目を離した隙の事だった。建物ぞ䞀気に燃え移った店は、あっずいう間に党焌しおしたう。マスタヌは無事ず話を聞いたが、あれ以来マスタヌの姿を芋る者はいない。
     もう䞀床マスタヌの䜜ったガヌリック䞌食べたいなあ  。
     俺は『兄匟』モデルの店が燃えるのを芋ながら、自分の䜜品は呪われおいるのではずいう錯芚に陥っおいた。
     
     䞀幎半前の冬を思い出す。『新宿クレッシェンド』シリヌズ第四匟に圓たる『新宿フォルテッシモ』を執筆しおいた時の話だ。
     二千䞃幎十䞀月十䞉日から執筆開始したこの䜜品、十日埌の二十二日たで原皿甚玙䞉癟枚たで曞けおいた。内容は䞻人公神嚁韍䞀のゲヌム屋の話から、新しい裏皌業である裏ビデオ屋の話。そしお神嚁韍䞀自䜓が物語の䞭で『新宿クレッシェンド』を曞き始めるずいうものである。あず癟枚ほどで完成させる぀もりだった。
     歌舞䌎町時代、仲が良かったダクザの組長から電話が入る。仲がいいず蚀っおも䞀緒に䜕かをするような仲ではない。あの街で䌚えば「おう、神嚁はん、久しぶりやな」ず笑顔で立ち話をする皋床である。連絡先は聞いおいたが、こっちからも向こうからも電話のやり取りなど䞀床もなかった。だからこの電話には䜕か倧事な意味があるず感じながら出た。
    「お久しぶり、神嚁はん」
    「お久しぶりですね。どうかしたしたか」
    「ん 、いや  。○○さん、知っおるやろ」
    「ええ、もちろんですよ。䞀緒に働いおいたぐらいですからね」
    「あの人な、北䞭はんのずころを蟞めたあず、うちの玹介で今たで仕事しおいたんや」
    「そうでしたか」
     嫌な予感がした。○○が芪分のずころをバックレお、こちらに頌っおいないかずいう探りの電話かず思ったのである。
    「あの人な、元々持病みたいの持っおたやろ」
    「ええ、確か錻血が出るず、医者行かないず自分じゃずたらない䜓質でしたよね」
    「ああ、そうなんや」
    「あず以前に網膜剥離になった事もあるっお聞いた事ありたすよ。顔を掗っおいたら、目の䞭にパリッお氎が入っおきお䜕も芋えなくなったっお。医者に行ったら網膜剥離だず蚺断されたっお圓時聞いた事ありたす」
     珟圚圌は、たた具合でも悪くなり持病でも発したのだろうか
    「その○○さんやけどな 、実は昚日亡くなっおしたったんや  」
    「え  」
    「よくワむのずころで仕事しおおもな、神嚁はんの話題をニコニコしながら蚀っおたしたんや。だから亡くなった事ぐらい、神嚁はんに䌝えずこず思うおな」
    「そうでしたか 。ありがずうございたす  」
     二千䞃幎十二月二十五日の䌚話だった。
     電話を切るず、俺は䞡手で頭を抱え、圌の事を考えた。思い出すのはニコッずした笑顔しか浮かばない。いや、䞀回だけ圌は俺の前で泣いた事がある。
     十幎ぐらい前たでは金持ちだったず笑いながら話しおいた○○。始めはずおもじゃないが信じられなかった。
     䜕故なら圌の䜏居兌裏ビデオ屋の倉庫を芋た瞬間、俺は吐き気がしおたずもに入れなかったからだ。物ぐさな人間はこれたで嫌っおほど芋おきた。もちろん俺の郚屋だっおかなり汚い。しかし○○の郚屋は、そういった垞識を芆すような郚屋だった。
     たず悪臭がもの凄い。あの䞭でたずもに空気を吞う勇気はなかった。入り口のすぐ右手にある小さなキッチンには垞にフラむパンが乗せられ、その䞊でゎキブリが数匹仰向けになっお死んでいる。かろうじお入り口の通路だけは通れるが、巊手にあるトむレず颚呂堎は匷烈なアンモニア臭が挂い、䟿噚の底が芋えないぐらい真っ黒で、い぀も溜たっおいる氎が濁っおいた。
     郚屋に入るず四隅に本棚がたくさん敷き詰められ、そこにすべおの裏ビデオがゞャンル別に眮かれおある。䞀番奥にテレビずビデオデッキが䞉台ず぀二ヵ所に蚭眮され、巊偎にあるテレビの手前にコタツ机が眮いおあった。
     床には垞にゎキブリが埘埊し、慎重に歩かないず足で螏んづけおしたう可胜性があるぐらいだ。○○が「コヌヒヌでも飲んだら」ず気を利かせおくれ冷蔵庫を開けるず、ビデオ屋『レモン』から持っおきた二猶癟円の安い猶コヌヒヌの䞊をゎキブリが歩き、䞭も無数のゎキブリでいっぱいだった。
     䞀床携垯電話の電池がなくなりかけ、充電しようず蛞足の゜ケットに充電噚を差し蟌もうずした時だった。床の汚れかなず思った黒いシミのようなものが、四方八方にガサガサず動く。その黒いシミのようなものは、暖たった゜ケットの䞋に固たっおいたゎキブリの矀れだったのである。
     俺は○○が食事で郚屋を出るず、あらかじめ買っおおいた粒状の芳銙剀を取り出し、十袋をすべおそのたた郚屋にバラ撒いた。そしお窓を党開に開く。そうでもないず倱神しそうなぐらいの臭いだったのだ。それでも郚屋にいられず、倖ぞ出おタバコを吞っお時間を朰した。
     䞖界䞀䞍朔な人ずいうむメヌゞだった○○。しかし働いおいく内に次第に打ち解け、色々な話をするようになる。そこで分かったのが、元々裏ビデオ屋の『レモン』は○○の持ち䞻だったらしい。そこぞ珟圚のオヌナヌである北䞭が人づおに玹介され入っおきた。
     圓時金を持っおいた○○は、新宿歌舞䌎町のさくら通りにも䞀店舗の店を構えおいた。圌はフィリピン人女性ず結婚し、郚䞋に店を任せ、䞀ヶ月おきに日本ずフィリピンを埀埩しおいるような莅沢な暮らしをしおいたそうな。
     垰囜するず北䞭が「○○さん、今月も赀字だった。二十䞇円の金を補充しおほしい。俺が代わりに立お替えずいただよ」ず毎月のように金を芁求し、○○はそれを銬鹿正盎に払っおいた。気づけば数千䞇あった金は、五幎間でなくなり、北䞭から「共同経営で䞀緒に頑匵らないか」ず持ち出された。人のいい○○は隙されおいたずも知らず、その話ぞ簡単に乗っおしたう。
     お互いの絊料を月二十䞇ず決め、あずは売䞊次第で分けようずなった『レモン』。最初の䞀ヶ月だけはボヌナスずしお十䞉䞇円を別途にもらえたらしい。しかしあずの五幎間は、䞀床もプラスで金をもらえる事がなく、月二十䞇円で生掻をせざるえなかったようだ。二十䞇ず蚀っおも、フィリピンに奥さんず子䟛のいる状況なので、人のいい圌は毎月半分の十䞇円を仕送りしおいた。北䞭のうたいずころは、自分のポケットマネヌで○○を幎に䞀回だけフィリピンぞ十日間ほど行かせおあげた事だ。
     そんな状況が続く䞭、そこぞ俺が入っおきたのである。
     裏皌業にパ゜コンを導入した俺は、ビデオ屋だけでなく、ゲヌム屋などすべおの系列店の管理を任されるようになった。俺が目を光らせる事で埓業員の䞍正を芋抜き、組織党䜓の売䞊は二千䞇円も䞊がる。
     北䞭は仕事を俺に任せ、自分は月の二、䞉週間をタむや䞭囜ぞ旅行に行き、女を買うようになった。そのぐらい儲けさせおいたのに俺や○○の絊料など、䞀円も䞊がらなかった。
     䞀床俺が仕事を終え垰る間際、○○が「昚日は久しぶりに酒を飲んだよ」ずニコニコしながら話し掛けおきた事があった。
    「どこかのスナックでも行っおきたんですか」
     明るく返すず○○は「銬鹿蚀えよ 。そんな金ある蚳ないじゃん。発泡酒を二本買っお郚屋で飲んだだけだよ」ず照れ臭そうに答えた。
     以前のあんたなら腐るほどそんなずころぞ行けただろうが  。
    「○○さん 。少ないけど、たたにはビヌルでも飲んで䞋さいよ」
     俺はそう蚀っお五千円札䞀枚を枡した。
    「な、䜕だよ、これ 。䜕かあったの」
    「ああ、先日競銬で偶然デカいの取れたんですよ。だからちょっずした幞せのお裟分け」
    「゚ヘヘ、䜕だか悪いなあ  」
    「いいんですよ。俺、○○さんが色々気遣っおくれるから、すごい働きやすいし、感謝しおいるんですよ、これでも」
    「そう 。じゃあお蚀葉に甘えるね」
     ずっず終始笑顔だった○○。ずおも嬉しそうだった。立堎だけで蚀えば、俺は雇われの埓業員であり、圌は共同経営のオヌナヌである。別に金銭的な䜙裕など俺にはない。それに俺がこのような嘘を぀いお金をあげるのは、普通ならふざけた行為だろう。しかし、芋おいられなかったのだ。
     翌日になり『レモン』ぞ来た○○は「昚日はご銳走様でした。ビヌルをたらふく飲めたよ」ず深々ずお蟞儀をするような瀌儀も持ち合わせおいた。
     これたでに至る流れを赀裞々に語っおくれた○○。寂しそうな衚情をしながら、床に眮いおあった二リットルの烏韍茶をラッパ飲みしおいる。
     俺は感情的になり、人が良く隙された事にさえ気づかない甘過ぎる性栌の○○ぞ匷い口調で蚀った。
    「○○さん 北䞭にあんないいようにやられお悔しくないんですか 䞀時はあなただっお金を持ち、あの店だっお自分のものだったんじゃないですか。俺はすべおの店の収支蚈算もしおいるから、どこがどれぐらい儲かっおいるかすべお把握しおいたす。○○さん、あなたの絊料が二十䞇円のみっおあきらかにおかしいんですよ。いいんですか、このたたで。悔しくないんですか」
     ○○は䜕も答えず、急に背䞭を向け、小刻みに肩を震わせおいた。
     隙されおいる事に、気づいおいない蚳じゃない。悔しいに決たっおいる。だけどどうする事もできないから、い぀もニコニコしおいるしかなかったのだ。
     そんな状況の䞭出䌚った俺。埐々にだけど、心を開ける盞手ができおいたのだろう。
     圌の最䜎限のプラむド。それは幎䞋の俺に、泣き顔を芋せたくないずいうものだったのである。
    「  」
     あんな圢で人生を終わっおしたった○○。悲しみずやりきれなさを感じる。こんな人生であんた、本圓に幞せだったのかよ  。
     俺は原皿甚玙䞉癟枚たで曞いおいた『新宿フォルテッシモ』が、それからたるで曞けなくなっおしたった。
     二千九幎䞀月十八日。
     俺はたた『新宿フォルテッシモ』を新たに曞こうず執筆を始める。前のフォルテッシモでは○○を登堎させたが、あたりにも哀れに感じ、今回はゲヌム屋だけの内容で曞く事を決めた。
     皮肉にも凊女䜜『新宿クレッシェンド』を曞き始めた二千四幎䞀月ず同じ日にちだった。賞を獲り、䞖に出たあの凊女䜜は、裏ビデオ屋『レモン』で生たれた䜜品だった。
     裏ビデオの話は、次回䜜の第五匟『新宿セレナヌデ』で曞けばいいず思う。
     
    『パパンずママン』ずは無関係だが、呪われたずいう共通点で芋るず、凊女䜜の『新宿クレッシェンド』もそうだ。
     二千四幎䞀月十八日。
     ただパ゜コンを芚え始めの俺は、教えおくれる先茩をどうしおもパ゜コンで抜きたくお䜕かをしたかった。パ゜コンのスキルで蚀えば、遥か先を行く先茩。のめり蟌めばのめり蟌むほど、そのスキルの差が圧倒的なものに気づく。ならばパ゜コンを䜿っお先茩ができない䜕かをやれないか 行き着いた結論が小説だったのである。
     人間を飌うずいった衚珟がピッタリ合う北䞭の䞋で働いおいた俺は、あの男の悪の所業を小説にしたら面癜いんじゃないかず考えるようになっおいた。
     ある日、䞀人の埓業員ぞ「小説を曞いおみようず思うんだけど、北䞭の所業をそのたた曞いたら面癜い䜜品になるず思わないか」ず蚪ねおみる。
    「神嚁さんならきっずできたすよ」
     䜕の確蚌もないのに、その埓業員は笑顔で答えた。
     憎き北䞭を懲らしめる為、文字にこのやるせない魂を投入する。もし、その䜜品が䞖に出たら、あい぀をギャフンず蚀わせる事ができるだろう。そう考えたが、もし北䞭の所業をそのたた曞いおも、果たしお䞖間は信甚しおくれるだろうかずいう疑問も沞く。挫画や小説の䞭だけの話じゃないかっお思われおしたう可胜性が高い。
     なら、最初はこの歌舞䌎町ずいう街を読者に知っおもらう必芁がある。そう決めた俺は、本圓に曞きたい事を癟分の䞀に抑え、『新宿クレッシェンド』を曞き始める。
     圓時は挫画喫茶に行っおも店員を呌び出し、「おい、ドットっおどこを抌すんだよ」ず怒鳎っおいるような頃だ。圓然キヌボヌドの配列など分からないぐらい無知だった。だから母音の『』が䞉回も入るよう䞻人公の名前を『赀厎』にした。文字を打぀のもキヌボヌドを芋ながら䞀語䞀句、人差し指で探しながら曞いた䜜品だった。
     そんな『新宿クレッシェンド』も圓然モデルにしおいる店がある。䞀぀は新宿コマ劇堎の䞭にあったキッチン『フラむキッチン峰』。そしお新宿プリンスホテルの最䞊階ラりンゞ『シャトレヌヌ』である。圓時、色々ずお䞖話になった店に察し、もしこの䜜品が䞖に出たらいい恩返しができるず思いながら執筆をしたものだ。
     二千八幎䞀月十日。『新宿クレッシェンド』は賞を獲り、党囜曞店発売ずなる。
     しかし二千八幎の終わりは酷いものだった。新宿コマ劇堎はなくなり、䞭の『フラむキッチン峰』も同時に閉店。プリンスホテルの『シャトレヌヌ』も名前を倉え、珟圚は『和颚ダむニング フヌガ』ずなっおしたう。
     二千八幎だけで、俺の䜜品に出おきたモデル人や店が、こうたで倉わっおしたう珟実。オマケに『兄匟』モデルの店の死人二人を出した火事  。
     俺は自分の曞く文字に、薄気味悪さを感じおいた。
     だから『パパンずママン』を䞀人の玠敵な女性から「たた曞いおほしい」ず蚀われるたで、ずっず封印しおいたのだ。二千十幎四月八日たで  。
     最終章ず謳いながら、俺は䜕故こんな内容を曞いおいるのだ 自分でもよく分からない。ただパパンず竹花さんの『肥溜めブラザヌス』など曞ける事なんお、いくらだっおあるのになあ  。
     でも、これがもし䞖に出たら、○○もちょっずは気が晎れおくれるかな
     いや、「人の生掻をここたで曞きやがっお」ず顔を真っ赀にしお怒るかもしれないな。
     たあ、いいさ。あの時俺はあんたにビヌルを奢っおやったんだ。これで貞し借りをチャラにしようぜ。
     
    ―了―
     
    衚題『パパンずママン』 䜜者 岩䞊智䞀郎
    執筆期間 2007幎11月21日2010幎4月10日 原皿甚玙412枚
     
    第章 眮き土産
    2007幎11月21日 原皿甚玙31枚
     
    第章 兄匟
    2007幎12月14日 原皿甚玙38枚
     
    第章 先茩
    2008幎5月9日2008幎5月31 原皿甚玙32枚
     
    第章 月の石
    2008幎5月31日2008幎6月2日 原皿甚玙37枚
     
    第章 借金地獄
    2008幎6月2日2008幎6月3日 原皿甚玙41枚
     
    第章 経営者
    2008幎6月3日2008幎6月4日 原皿甚玙43枚
     
    第章 捺印
    2008幎6月4日 原皿甚玙37枚
     
    第章 烏韍茶
    2008幎6月5日 原皿甚玙34枚
     
    第章 同玚生
    2008幎6月9日2008幎6月10日 原皿甚玙31枚
     
    【再床執筆開始】
    第章 初恋の人
    2010幎4月08日2010幎4月09日 原皿甚玙26枚
     
    第章 同窓䌚
    2010幎4月09日2010幎4月10日 原皿甚玙38枚
     
    最終章
    2010幎4月10日2010幎4月10日 原皿甚玙25枚
    【本線合蚈枚数 原皿甚玙412枚で完結】


    ※この蚘事のURLを各AIに貌っお反応を芋る



    【Grok】

    このnote蚘事は、岩䞊智䞀郎

    @shinjukutomo

    さんが2026幎3月19日に公開した長線小説颚の䜜品で、タむトルは**『パパンずママン』**です。執筆期間は2007幎11月21日〜2010幎4月10日、原皿甚玙換算で玄412枚ずいうかなりボリュヌムのある内容で、䜜者自身が最埌にメタ的に語る圢で完結しおいたす。党䜓を通しお新宿・歌舞䌎町呚蟺を舞台にした、ドタバタでカオスな日垞コメディ家族借金恋愛埩讐などが入り混じった、かなり独特のナヌモアずブラックさが特城の物語です。簡単なあらすじ・構成ネタバレ控えめ䞻人公の努぀ずむ18歳前埌が、実家の小さな定食屋を家族パパン・ママンず䞀緒に切り盛りしながら、倉な客や先茩、同玚生、借金男ムッシュヌ石川、スナックの女性れっこ麗華、同窓䌚の初恋の人みゆき絶望のマドンナなど、濃すぎるキャラクタヌたちず絡み合う話。章立おは以䞋の通り各章でどんどん話が暎走しおいく

    • 第䞀章《眮き土産》ゲヌムセンタヌでの犬のク゜螏み事件 → 実家トむレの巚倧りンコ事件で家族結束

    • 第二章《兄匟》居酒屋「兄匟」での泥棒隒動・食い逃げ・肥溜めブラザヌス喧嘩

    • 第䞉章《先茩》芪の仲の悪化、乱闘

    • 第四章《月の石》スナック「月の石」で出䌚う女性、借金抌し付け

    • 第五章《借金地獄》タダ働き地獄ず口止め料ゲット

    • 第六章《経営者》パパ入院で努が店長代行

    • 第䞃章《捺印》〜第九章《同玚生》ポむントカヌド、倉態客ぞの仕返し、同玚生絡み

    • 第十章《初恋の人》ムッシュヌの快気祝い、神嚁韍䞀のピアノ錯乱

    • 第十䞀章《同窓䌚》奇抜メニュヌ祭り、みゆき登堎ず神嚁のフラれ

    • 最終章䜜者神嚁韍䞀ずしおが執筆裏話・モデル店の呪い的な消倱゚ピ゜ヌドを語っお締め

    特城的なポむント

    • 料理名がめちゃくちゃ䟋「巌流島で戊った宮本歊蔵も愛したおむすび たくあん付き」「りルトラマンを倒したれットンの奜んだコロッケ」など

    • トむレの巚倧ク゜、食い逃げ、借金、膝蹎り、瞄跳びいじめ、ラゞオ䜓操で察抗する乱闘など、シュヌルで䞋ネタ・暎力ネタ倚め

    • 䜜者が最埌に「この話のモデルになった店が次々火事や事件で消えた」「呪われおる」みたいなメタ発蚀で締めるのが印象的

    • 党䜓的に「新宿の底蟺カオス日垞」を愛情蟌めお描いたような、痛快だけどどこか切ない雰囲気

    かなり長いので党郚読むには時間かかりたすが、興味があるならnoteで䞀気に流し読みするずクセになるず思いたす。特に新宿・歌舞䌎町あるあるっぜい゚ピ゜ヌドが奜きな人には刺さるかも。䜕か特定の章に぀いお深掘りしたいずか、登堎人物の関係性ずか聞きたい郚分があれば教えおください


    【meta】

    Wow, that's a whole novel! It looks like a story called "パパンずママン" (Papa and Mama) by Tomoichiro Iwakami. It seems to be a rather wild and humorous tale about a young man, his parents who run a diner, and a bunch of quirky characters and absurd situations, including giant poops, sticky situations with local delinquents, and even a romantic subplot (or several!).

    Is there anything specific you'd like to know or discuss about this story? I can try to summarize a part of it, look for certain characters or events, or anything else you have in mind!

    ※日本語蚳

    わあ、それは長線小説ですね岩䞊智䞀郎さんの「パパンずママ」ずいう䜜品のようですね。食堂を経営する䞡芪ず、個性的なキャラクタヌたち、巚倧なうんち、地元の䞍良ずの厄介なトラブル、そしお耇数あるかもしれない恋愛芁玠など、奇劙な状況が満茉の、かなり奇想倩倖でナヌモラスな物語のようです。この物語に぀いお、䜕か具䜓的に知りたいこずや話し合いたいこずはありたすか䞀郚を芁玄したり、特定の箇所を探したりするこずもできたすよ。


    【GoogleGemin】

    最新の蚘事「パパンずママン」の第1章《眮き土産》の内容を拝芋したした。

    この゚ピ゜ヌドでは、18歳の努䞻人公が先茩ず新しいゲヌムセンタヌぞ行った際、䞍運にも犬の糞を螏んでしたい、それを店のカヌペットで拭き取っお逃げ出すずいう、気たずくも灜難な出来事から始たっおいたす。

    䞻なポむント:

    • 登堎人物:

      • 努぀ずむ: 18歳。実家の食堂を手䌝っおいるが、家業を継ぐ気はなく、将来に迷っおいる。

      • パパン: 努の父芪。嚁勢がよく、仕事に厳しい食堂の䞻。独特な掛け声「りォンチュ」などを持぀。

      • ママン: 努の母芪。呑気で朗らかな性栌で、父子の間を取り持぀ような存圚。

    • 物語の展開:

      • ゲヌムセンタヌでの「粗盞」の埌、実家の食堂で働く日垞が描かれたす。

      • 食堂に珟れた二人組の客が、実はあのゲヌムセンタヌの店員あるいは関係者ではないかずいう疑念が浮かび、努が動揺する堎面で物語が動いおいたす。

    2007幎から2010幎にかけお執筆された412枚に及ぶ物語の幕開けずしお、圓時の空気感や家族の距離感がリアルに䌝わっおくる内容でした。続きの展開や、パパンずママンのキャラクタヌがどう深たっおいくのか気になるずころです。


    【chatGPT】

    こちらがあなたが貌った蚘事の内容です


    📄 蚘事タむトル

    「パパンずママン」
    投皿日2026幎3月19日(noteノヌト)

    このnoteは、䜜者 岩䞊智䞀郎 さんによる長線の小説圢匏の文章で、若い頃の生掻や家族ずの関係が描かれおいたす。(noteノヌト)

    🧟 抂芁

    📘 内容䞻な描写

    • 䞻人公が18歳で免蚱を取っお、先茩ずゲヌムセンタヌに行った日の出来事から始たりたす。(noteノヌト)

    • 実家は食堂を営んでおり、父芪パパンに家の手䌝いを促される描写。(noteノヌト)

    • 登堎人物䞻人公・先茩・パパン・ママンの日垞的なやり取りや、客ずの関係が现かく描かれおいたす。(noteノヌト)

    • 店のトむレで起きる事件異垞な悪臭・トむレ詰たりなど、ナヌモラス䞔぀生々しい情景も含たれおいたす。(noteノヌト)

    ※蚘事党䜓は非垞に長い物語圢匏で、ここはその冒頭郚分を䞭心に芁玄したものです。(noteノヌト)


    芁玄や特定の章の敎理、幎衚化などもできたすので、垌望があれば教えおください。


    【Claude】

    岩䞊智䞀郎さんのnoteに掲茉された小説「パパンずママン」ですね。

    執筆期間は2007幎11月〜2010幎4月、原皿甚玙412枚の長線です。18歳の「努」ずいう語り手が、家族で営む小さな定食屋を舞台に繰り広げる、笑いあり・ドタバタありの家族物語です。

    ざっくりした内容をお䌝えするず

    第䞀章「眮き土産」 では、ゲヌムセンタヌで犬のフンを螏んで入口に擊り付けおしたった䞻人公が、その埌、芋知らぬ倧男がトむレに巚倧なアレを残しおいき、䞀家総出で栌闘するずいう匷烈な堎面が描かれたす。

    第二章「兄匟」 では、近所の居酒屋「兄匟」の垞連たちによる連続被害花壇の小束菜泥棒、珟金窃盗に䞻人公が立ち向かおうずするも、次々ず返り蚎ちにされるドタバタ劇。パパンず幌なじみ竹花さんの䌝説的コンビ「肥溜めブラザヌス」も登堎。

    第䞉章「先茩」 では、パパンずの衝突や、ノヌ倩気なママンずのやり取りが続き、䞻人公の将来ぞの焊りず家族の可笑しみが絡み合いたす。

    党䜓ずしお、昭和の庶民的な家族の日垞を、クセの匷いキャラクタヌたちで描いたナヌモア小説です。䜕かご感想や質問はありたすか





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