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忌み嫌われし子【2006幎執筆小説】

 幌少時代、私は幞せか䞍幞せかずいったら、間違いなく埌者だった。
 父芪はよそで女を䜜り、私ず母芪を捚おお出お行った。残されたもの、それは借金だけ。
 ただ、私が五歳の頃だった。
 色耪せた思い出ではあるが、母芪が狂ったように泣きじゃくっおいたのをゞッず芋぀めおいた過去の蚘憶。そう 、怖い顔をした知らない男の人たちが毎日のように家の䞭ぞ䞊がり蟌み、泣きじゃくる母芪に乱暎を働いおいた。
 今にしお思えば、あれは借金のカタずしお匷匕に䜓を芁求されおいたのだろう。
 そんな悲しみに満ち溢れた衚情の母芪に、高校を卒業するたで私は育おられた。
「いい あなたのお父さんは、私たちを捚おたのよ。あんな颚にだけはならないでね」
 䜕かある床に、繰り返し蚀われた母芪のそんな台詞。確かに正論だず思った。
 実際にこの幎になった今でも、父芪の事は憎んでいる。
 出お行っおから、連絡䞀぀ない父芪。どこかで自由を満喫しおいるのだろう。自分で䜜り䞊げた矩務を攟棄しお  。
 反面教垫ずいう蚀葉がある。
 人のふり芋お、我ふり盎せ。
 このような蚀葉の意味合い。身を持っお理解しおいる぀もりだ。
 だから自分で家庭を䜜る時は、思い描いた暖かい幞せな家庭にしたかったずいう想いが匷い。
 䜕人かの女性ず亀際し、傷぀け、傷぀けられおきた。今の劻、みゆきず出䌚い、初めお女性ずいうものが信じられるようになった。
 こい぀ずなら私の子䟛を産んでもいい。そう本胜的に感じた。
 そうしお結婚たで、やっずの思いで挕ぎ着けたのだ。
 私にずっお家庭を守り、幞せを維持するのは、矩務である。矩務を遂行しお、初めお暩利が生たれるのだ。
 男に生たれ、家庭を䜜りながらも挫折した奎はクズである。これは誰の前でもハッキリ蚀える。逆に、自分のお腹を痛めお生んだ子を虐埅したり、捚おたりする女もクズだ。
 私の母芪は、どんな皮類の女になるのだろう。
 想像をしただけで未だ身震いがしおくる。
 悲しみず歓喜。この二぀の感情しかなかった母芪。
 いや、正確には、父芪が出お行っおからだが  。
 ずっず 、誰からも必芁ずされない存圚だず、自分で思いながら成長しおきた。
 誰にも必芁ずされない人間。
 誰からも愛されない人間。
 垞に私は、孀独であった。
 俗にいう本圓の母性愛が欲しかった。父の背䞭を芋ながら、楜しく子䟛時代を送りたかった。
 どんなに願っおも、人間のすべおが平等ではない。
 子は、芪を遞べないのだから  。
 だからこそ芪になった人間は、子䟛に愛情を泚いでやらねばならない。これが私の矩であり、䞻匵でもある。
 今の自分を振り返るず、どうか。幞せである。今はハッキリず蚀える。だがい぀たで続くのだろうか、この幞せが  。
 
 朚島さんっお、ほんず、いい人ですよね。
 優しいなあ、朚島さんは  。
 朚島さんっお、面倒芋がいいなあ。
 䜕かあったら、朚島さんに蚀えば倧䞈倫だよ。
 朚島さん、これ、どうやるんですかね。
 䌚瀟で蚀われるそんな台詞  。
 もう、うんざりだ  。
 いい人がどうした。優しいから䜕だずいうのだ。面倒芋がいい 。そんなものは、私に頌っおいるだけだろ。䜕の努力もせずに  。
 疲れた。もう疲れきっおいる。みんながみんな、私に䟝存しおきおいるだけだ。
 最近、䌚瀟の垰り道、そんな事ばかりを考える。
 電車の座垭に座るサラリヌマン連䞭。だらしなく口を開けおペダレを垂らしおいるのもいれば、錟を掻きながら寝おいる銬鹿もいる。共通しおいるのは、みんな、疲れきった顔をしおいるずいう点か。
 その蟺は私も倉わらない。しかし、顔にわざわざ出したりしない。衚情は垞に笑顔で、怒ったりせず、明るい雰囲気でいられるように努める。
 家庭では俺に尜くしおくれる劻ず、父芪にべったりの嚘がいる。
 奜かれるのはいい。だけどみんな、私に䜕を期埅しおいるのだろうか。そんな事を時折考えおしたう。
 どこにいおも、本圓の自分を出しおいないのではないか。衚面的な私の行動や蚀動に、みんなが隙されおいる。
 本圓は私自身、ストレスが䜓の䞭に充満しおいるのだ。
 できれば色々ず奜き勝手に物事を蚀っおみたい。奜き勝手に欲望の思うたた、行動をしおみたい。
 生たれおから、四十幎の月日が流れおいる。
 二十五歳で今の劻、みゆきず結婚。
 五幎埌の䞉十歳で、長女の䜳奈が生たれた。
 䜳奈ずいう名は、劻のみゆきが぀けた名前である。劻が昔、小説家を目指しおいたらしく、その時の䞻人公が、杉本䜳奈。私は反察したが、劻の意芋に抌し切られた圢になった。
 珟圚、䜳奈は可愛らしく十歳の子䟛らしく玠盎に育っおいる。
 近所や䌚瀟でも、矎人だず評刀の劻。料理もうたいし、よく気も利く。
 呚りから芋れば、幞せそうな暖かい家庭に芋えるだろう。
 午埌九時半。ほが、この時間に、私はマむホヌムの玄関先に着く。
 むンタヌホンを抌す前に開くドア。
「おかえりヌ、パパ」
「あなた、今日もお疲れさた」
 家族総出での迎え。いや、本圓なら䞀人足りない。
「ただいた」
 満面の笑みで、家族に埮笑む私。
「今日は、あなたの奜きなハンバヌグよ」
「そうかい。それは楜しみだ」
「䜳奈ねヌ、パパが垰っおくるたで、我慢しお埅っおたんだよ」
「そうか、そうか 。先に食べちゃっおも良かったのに」
 私は、䜳奈の頭を優しく撫でた。
 もしここに卓がいたら  。
 いや、人生に、もしなどないのだ。やめよう。思い出すだけやるせなくなるだけである。
 今日も、普段ず倉わりない䞀日が、終わろうずしおいる。
 
 結婚生掻十五幎も経぀のに、劻は以前ず倉わらなくベタベタしおくるのが奜きである。
 子䟛が寝静たるのを埅぀ず、性行為を誘っおくる。
 確実にみゆきを䜕床もいかせる事だけに没頭し、私たち倫婊の性行為は終わる。
 䌚瀟での出来事などを話しおいる内に、みゆきはい぀の間にか寝おしたった。
 只今、倜の十䞀時。
 ようやく私のプラむベヌトな時間が始たる。
 スヌスヌ静かな寝息を立おるみゆきに、垃団をかけ、音を立おずに起き䞊がる。忍者のように足音を立おず、こっそりず寝宀から出た。
 私たち倫婊の寝宀の暪ず正面には、䜳奈の郚屋がある。
 足の぀た先たで神経を尖らせお、静かにゆっくりず廊䞋を歩く。
 居間にある私のノヌトパ゜コンたで蟿り着くず、ゆっくりず電源を぀ける。
 私専甚のパスワヌドを入れ、起動をさせた。
 真っ暗なディスクトップの画面に、次々ずアむコンが䞊び始める。私はショヌトカットで眮いおある自分のブログのアむコンをダブルクリックしお、自分で䜜ったペヌゞを開いた。
 
『ご機嫌パパ日蚘』
 
 私のホヌムペヌゞタむトルである。家族は、誰䞀人も知らない私だけの仮想空間。最近では、このような圢匏のペヌゞをブログずも呌ぶらしい。
 そもそもホヌムペヌゞなのか、日蚘なのか、掲瀺板なのか、分からないようなゞャンルでもあったが、アメリカで爆発的に流行り、こちらに䞊陞。
 ブログずは、日本でもブレむクしおいる新しい圢のホヌムペヌゞでもある。
 のほほんずした毎日の日垞を、楜しく描く日蚘のブログ。
 ここでは、家族ずの楜しい食事の団らんのひず時などを䞭心に、蚘事を曞き、ネット䞊にアップしおいた。たたに、䌚瀟での、ほのがのずした出来事などをも茉せたりする。
 私のハンドル名は、気たぐれパパ。たあ、ブログ䞊で䜿う仇名のようなものだった。
 顔も名前も知らない人たち、老若男女が、様々なコメントを、私の蚘事に残しおくれる。
 最初はお互いが、手探り状態  。
 ブログの蚘事を曎新するのが、たるで毎日の日課のようになるず、知らない人たちず様々なコメントのやり取りをし出す。
 私の堎合、前日に曞いた自分の蚘事に集たったコメントを眺める。いく぀、コメントが集たったずか、そういうのはあたり気にはしないのだが、倚く集たるず、やはり嬉しくなる。人間、誰だっお寂しい生き物なのだ。倚かれ少なかれ、誰かしらず䟝存し合いたいのである。
 ちょっずしたきっかけから始たったコメントのやり取りから、うん、この人ずは物の䟡倀芳が同じだずか、思えるような人も䞭にはいる。たあ、私だけがそう思っおも、向こうがそう思わないず、䞀方通行ではあるが  。
 お互いの蚘事を行き来しお、気付けば、知らず知らずの内に、絆が深たるケヌスもあった。
 ブログをやり始めお、䞉ヶ月が経ずうずしおいた。䞍思議なものである。
 
 幞せだが、平凡な家庭を築き䞊げ、このたた幎だけをずっおいく。
 嚘の成長を芋守りながら、日々を過ごしお行く内に、毎日の行動蚘録を぀けたくなったのである。
 日蚘垳を買っおきお、぀けるずいう習慣はなかった。今さら、䌚瀟が終わったあずで、いちいち日蚘を぀けるのも面倒であった。
 そんな時、䌚瀟の郚䞋からブログの話を聞いたのだ。
 仕事䞭でも、携垯電話を幎がら幎䞭いじっおいた郚䞋。さすがに私が泚意するず、携垯をしたっおはいたが、それでも暇を芋぀けおはこっそりず眺めおいた。
 人間をあれほど倢䞭にさせる䜕かがある。その事に興味を芚えた私は、郚䞋に盎接聞いおみる事にしおみた。
「河合君 。君は䞀䜓、䜕をそんなに倢䞭になっおいるのだね」
 瀟員食堂でランチタむム䞭、私はコヌヒヌを圌の分たで買っお、隣に座った。
「いや、自分、ブログ、持っおるんですよ」
「ブログ 䜕だね、それは 」
「簡単にいうず、自分の日蚘みたいなホヌムペヌゞですね」
「ほう、それは携垯でも芋られるのかい」
「もちろんですよ。最近のパ゜コンの進化は、すごいですよ」
「うん、難しいから苊手なんだよね、そういうのは  」
「簡単ですよ。課長も、やっおみおはどうですか」
 ただ、郚䞋の河合は二十歳そこそこである。色々なものが吞収できる矚たしい幎頃でもあった。
「いや、満足にパ゜コンも䜿いこなせないしね」
「そんな事ないですよ。ほんず、簡単なんですから。今、ちょうど倉なブログあったんで携垯から眺めおいたずころなんですよ。課長も芋おみお䞋さいよ、ほら」
「分からないよ。私には  」
「携垯で芋るだけですから」
 河合はそう蚀いながら匷匕に私ぞ携垯電話を手枡しおくる。
 仕方ない。こっちから声を掛けた手前もあるし、少しぐらい圌に付き合っおみるか。
 私は携垯電話が衚瀺する画面を芗き蟌んだ。
 
『忌み嫌われし子のスペヌス』 忌み嫌われし子
 我、孀高なり
 
 善人面にはもう飜き飜きだ。
 自分の奜きなように生き、奜きなように発蚀しよう。
 それにしおも本圓にりザむ奎が倚い。うんざりだ。
 いずれこの我が、この䞖を君臚しおやるぜ。
 
 䜕なんだ、こい぀は  。
 背筋にゟッずするものが走る。
 䞖間を賑わすおかしな犯眪など、こういった蚳の分からない茩が巻き起こすのではないだろうか
「こい぀、危ない奎でしょ、課長」
「䞀䜓これは䜕なんだ」
「いわゆるブログっおや぀ですよ。知りたせんか」
「たったく。䜕しろアナログ人間だからね」
「課長もやっおみたらどうです」
「いや、䞀応パ゜コンを買っおはあるけど、家族の人間誰䞀人いじろうずしないしね。それにこんな危ない奎ずかたでやっおいるような䞖界でしょ」
「最初にこんな倉なブログを芋せた俺が悪かったんですねえ。課長、すごい勘違いしおいたすけど、ブログっおその人次第でいくらだっお楜しいものにできるんですよ」
「君の蚀う意味合いがいたいち分からないよ」
「䟋えば嚘さんの成長日蚘を曞いおみるずか、あずは課長の奥さんのうたい手料理を玹介しおいくブログを䜜るずか」
「そんな事をしお䜕になるんだ」
「もう、課長ったら冷たいなあ。分かりやすいブログを芋せたすから、ぢょっず埅っおいお䞋さい」
 そう蚀いながら河合は噚甚に携垯電話を操䜜し、ゞッず画面を芋぀めおいる。その集䞭力を少しは仕事に掻かしおもらいたいものだ。
「はい、課長。お埅たせしたした。これを芋おみお䞋さい」
 
『小鳥のお料理奮戊蚘』 チャヌミヌ小鳥
 お手軜パスタの巻
 
 はい、このブログを読んでくれおいるみなさん、ちゃお
 今日は簡単お手軜パスタのレシピを玹介するっす。
 たずは垂販で売っおいるミヌト゜ヌスの猶詰ず、トマトゞュヌスず、赀ワむン、それず塩コショりだけで、おいしくパスタが食べられおしたうのだ。
 これらの材料をフラむパンで煮蟌んで茹でたパスタの䞊に掛けるだけ。
 みなさん、是非詊しおみおね。
 
「課長、どうです こういうのもあるんですよ」
「それは分かったけど、䜕が面癜いの」
「それは自分で面癜さを探しながら䜜っおいくんじゃないですか」
「うん  」
「これからは少しはパ゜コンを䜿えないず、時代に眮いおいかれたすよ」
「でもな」
「嚘さん䞖代だず、これからは必須になるだろうし、そんな時分からないで枈たせる父芪でいるのか、それずも教えおあげようっお頌もしい父芪でいるのかは、朚島課長次第ですけどね」
「痛いずころを぀くなあ」
「いい機䌚だからチャレンゞしおみたしょうよ、ね」
「でも、どうやったらいいか  」
 河合は目を茝かせながら立ち䞊がった。
「じゃあ、朚島課長。こうしたしょうよ」
「うん」
「今日から曜日決めお、俺が課長の家に行っお、色々レクチャヌしたすよ」
「おいおい、随分ず急だな」
「い぀も課長には、䞖話になっおるんで、少しは圹に立ちたいじゃないですか」
 そう蚀いながら、満面の笑みを浮かべる河合。たあ、パ゜コンを芚えるにはいい機䌚なのかもしれない。
「課長、その代わり  」
「ん、䜕だね」
「課長の奥さんのうたい料理を、たた、ご銳走させお䞋さいね」
「ははは、前に来おくれたもんな。新築祝いの時だったっけ」
「そうですね。もう、二幎ぐらい経ちたすかね」
「そうだね。時間が経぀のは、本圓に早いものだ」
 少し無理しお劻のみゆきの垌望通りマむホヌムを賌入しおから、玄二幎の時間が過ぎおいた。
「可愛いお子さんに、矎人の奥さん。しかも料理の腕はプロ玚ずきおたす。ほんず、課長っお人々が望むものすべお䜕でも手に入れたんだなっお、みんな蚀っおたすよ」
「お䞖蟞のうたい奎だな」
「ほんずですっお。お䞖蟞なんかじゃないですよ。だから課長、いいっすか」
「たあ、いいけど、今日はさすがに無理だよ。劻に聞いおみないずね」
「了解です。いい返事、埅っおたすよ」
 こうしお郚䞋の河合ず私の、奇劙な逆垫匟関係が始たった。
 
 この晩倢を芋た。い぀もの忌々しいものではない。息子の卓の倢だった。
 い぀になっおも卓は幌い頃のたたである。圓たり前だ。卓の成長した姿など、私は芋おいないのだから  。
 念願の初の子䟛。結婚しお䞀幎埌に卓は生たれた。私が二十六歳の時だ。
 キン肉マンが奜きだった私は初の男の子の名前に『卓』ず名付けた。もちろん劻のみゆきは反察した。しかし自分の意芋をごり抌しする圢で匷匕に決めたっけなあ  。
 目に入れおも痛くないほど、私たち倫婊は卓を溺愛した。
 無邪気に笑う姿を芋おいるだけで幞せな気分になれた。
 䞀日の疲れなど吹っ飛んでしたう。子䟛には自然ず倧人を癒す力があるのである。
 そんな明るい毎日を過ごす䞭、悪倢は突然やっおきた。
 ただ卓が二歳になった頃。
 突然䜕者かに卓はさらわれた。
 倜泣きがすごかった卓をあやそうず、深倜倖ぞ散歩に出掛けた最䞭に起きた悲劇だった。
 背埌から埌頭郚を叩かれ気を倱いかけるみゆき。
 薄れゆく意識の䞭、卓を奪い取られ逃げおいく人間の埌ろ姿を芋たず蚀う。
 譊察ぞ駆け蟌みすぐ動いおもらったが、息子は芋぀からず時間だけが過ぎおいった。
 さらった犯人からの動きはなく䞀週間埌、川に浮かんだ卓が発芋された。
 譊察は愉快犯ずしお決め぀け、結局犯人は分からずじたい。
 こうしお私たち倫婊はただ䞀人の息子を倱ったのだ  。
 卓を倱ったみゆきの粟神的な憔悎の仕方は酷かった。
 私もすべおを捚おお逃げ出したかったが、たず自分がしっかりしないずず䜕ずか冷静を装い、毎日のように慰めの蚀葉をみゆきに掛けた。
 倫婊ずいうもののスタヌトは二人から。子䟛ができるず家族ずいう蚀い方に代わる。私たちは家族から再び倫婊になっおしたったのだ。
 䜕故人間は生きるのか。
 卓が生たれた時、その答えが分かったような気がした。芪に支えられながら人間は成長し、倧人になっおいく。人生の䌎䟶を芋぀けたら新しい生呜を生み出し、今床は自分が支える立堎になっおいく。未来氞劫ずっずその繰り返し。その䞭に真の人ずしおの幞せを感じる事ができる。ずっずそう思っおいた。
 息子を倱うたでは  。
 今の私たちはどうすればいいのか
 そこに明るさなどない。あるのは深い悲しみのみである。
 いくら声を掛けおも死んだ魚のような目である䞀点をボヌっず芋おいる劻。
 芪しい友人に色々ず盞談をしおみた。いい答えは芋぀からないでいた。
 ある日、友人の䞀人がこんな事を蚀い出した。
「いいかい、朚島。女にふられた時っおさ、いくら仲のいい男友達が慰めたっおその堎凌ぎだろ 女の傷を癒すには女じゃなきゃ駄目なんだ。おたえにしおも、奥さんのみゆきさんにしおもさ。最愛の子䟛を倱った傷は蚈り知れないだろう。俺じゃその傷の深さは分からない。でもさ、子䟛を倱った事でできた傷は、新しく子䟛を䜜る事で必ず癒せるはず。少なくおも俺はそう思うんだ」
 圌の蚀葉が正しいかどうかなんお分からない。しかし今のみゆきの状況を考えるず他に方法はないような気がした。
 その晩必死に抵抗するみゆきを半ば匷匕に犯すように私は抱いた。
 その行為が終わっおも、みゆきはただ泣きじゃくっおいた。
 酷い眪悪感が私を芆う。だが仕方がない事なのだ。
 このたた時間だけ経っおいくのをこれ以䞊堪えられなかったのである。
 そしおみゆきは再びお腹の䞭に新たな生呜を宿した。
 ちょうど私が䞉十歳になった時、嚘の䜳奈が生たれたのだ。
 子䟛を倱った傷は子䟛が癒しおくれる。その通りだった。
 憔悎しきっおいたのが嘘のように劻のみゆきは元気を取り戻しおいき、再び明るい笑顔で笑うようになった。
 今の我が家が笑顔でいられるのも嚘の䜳奈のおかげである。
 もし、ここに息子の卓たでいたらどんなに楜しいだろうか  。
 ぀い、そんな想像をしおしたう。
「あなた、どうしたの」
 気付くずみゆきが私を芗き蟌むように芋おいた。
「ん、いや 。色々あったなあっお  」
「  。そうね  」
 私の巊腕にそっず頭を乗せながらみゆきは呟いた。孀立した薄暗い空間にいた私に察し、光を差し䌞べおくれた最愛の劻。
 ランチタむムの時、河合が蚀っおいた事を思い出す。
「嚘さん䞖代だず、これからは必須になるだろうし、そんな時分からないで枈たせる父芪でいるのか、それずも教えおあげようっお頌もしい父芪でいるのかは、朚島課長次第ですけどね」
 い぀だっお嚘の䜳奈の前では、頌もしい父芪でいたいに決たっおいるだろう。
 私は今床、郚䞋の河合にパ゜コンを教わろうず思っおいる事を劻のみゆきぞ䌝えた。
「そうね、私もそういうの苊手だし、い぀たでも頌もしいパパさんでいお䞋さいな」
 みゆきは笑顔で了承しおくれた。
 
 家族の蚱可をずった私は、週に䞀床のパ゜コン家庭教垫を家に招くようになった。
 毎週氎曜日になるず、郚䞋の河合がやっおくるようになり、我が家は賑やかになる。
 でかい口を叩くだけあっお、河合のパ゜コンの腕ずいうか知識は、なかなかのものであった。
「いいですか ここで、たず、右クリック。ここでこのファむルを開くんです。それから、コントロヌルキヌプラス、⅀を抌しお貌り付け。分かりたす」
「い、いや  」
 䜕を蚀っおいるのか、さっぱり分からない。宇宙人語にしか聞こえない私はおかしいのだろうか。
「ほら、課長。そこじゃないっお」
「あ、ああ  」
「それを遞択しお 。違いたすよヌ。そこじゃなくお、そこ」
 い぀の間にか、䌚瀟での立堎が、完党に逆転しおいる。
「あヌ、違う、違う。たったくヌ」
「あ、すたん、すたん  」
 こんな感じで私は、パ゜コンのブログずいうものを始めだした。
 二時間ぐらい掛けおパ゜コンのレッスンが終わるず、劻のみゆきが、普段より豪華な手料理をたくさん䜜っお埅っおいた。
「おほ、さすが課長の奥さん。玠晎らしいご銳走じゃないですかヌ」
「今日は河合さんがいらっしゃるからっお、うちの䞻人、あれこれ䜜れっおうるさかったんですよ」
 い぀もより䞊機嫌なみゆき。マンネリ化した日垞に倉化があったのが、嬉しかったらしい。
 嚘の䜳奈も、顔芋知りするこずなく河合に自然ず溶け蟌んでいる。芪しみやすいお兄さんができたように思っおくれおいるみたいで、非垞に楜しそうだった。
 これは河合本来の持぀独特の明るさが、そうさせおいるのかもしれない。
 もし卓が順調に育っお倧きくなっおいたら、私の暪にこうしお座る河合のようにパ゜コンを教えおくれたかもしれないのだ  。
 これで私がパ゜コンを意のたたに䜿いこなせたら、倧きくなった䜳奈にも同じように教えおやれるかもしれない。
 週に䞀床のパ゜コンレッスンも、なかなかいいものなのかもしれないな。
 勝手な事を想像し、い぀の間にかニダけおいる自分に気が぀いた。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その䞀』 気たぐれパパ
 
 はじめたしお、初めおブログずいうものをいじる、気たぐれパパずいいたす。
 パ゜コン自䜓、慣れおいたせんが、みなさた、今埌ずもよろしくお願い臎したす。
 次回から、我が家の楜しい出来事などを、発衚できたらなっお思いたす。
 
 最初は蚳が分からない状況でも、自然ず慣れはやっおくるもの。キヌボヌドを打぀のも、たたならなかった私が、四苊八苊しながらも、どうにか打おるようになっおきた。
 こんなに面癜いものを私は今たで䜕故、やろうずもしなかったのだろうか。
 誰かがパ゜コンは䜕でもできるず蚀っおいたが、色々な事を芚えれば芚えるほど、そう実感する。
 週に䞀床だけ曎新する私のブログ。もちろん河合がそばにいおこそできる曎新であった。
 普段の䌚瀟内でも自然ず芪近感を河合に芚え、぀い優しくなっおしたう自分がいた。
 仕事䞭は真面目に受け答えする河合であったが、昌䌑みになるず積極的に私の垭の隣にやっおくる。
「先日はご銳走さたです。最近、仕事のほう、順調じゃないですか」
「ありがずう。君が色々ず、サポヌトしおくれおいるからね」
「どうです、最近は䞀人でもブログ、曎新、できるようになりたしたか」
「いやいや、君が来おくれおいる時限定だから、ただ、その四のたただよ」
「たたには䞀人でやっおみればいいのに 。コメントはありたしたか」
「コメントっお」
「嫌だな、課長は 。コメントですよ、コメント」
「分からないよ。䜕だね、それは」
「ハ  」
 倧袈裟な溜め息を぀く河合。
「おいおい、䜕だよ」
「いいですか 課長が、曞いおいる蚘事あるじゃないですか」
「ああ」
「その蚘事の䞋に、コメントっおあるじゃないですか」
「  」
 コメント 。そんなもの、あったか パ゜コンの操䜜に必死に食らい぀くのがやっずで、そう蚀われおも分からない。
「課長のブログで、蚘事を芋た人の感想ですよ。コメントがあれば、コメントっお曞いおある欄に、数字が出るんです」
「数字」
「もらったコメントの数です」
「ほほう 。でも、私のブログなど、芋る者がいるものかね」
「ちょっず埅っお䞋さいね  」
 そう蚀うず、河合はポケットから携垯を取り出し、画面を芋ながら现かい操䜜しおいた。
「ほら、課長。コメントあるじゃないですか。芋おみお䞋さいよ」
 圌の携垯画面を芋るず、ご機嫌パパ日蚘ずいう文字が芋えた。
「これは」
「前にも蚀ったじゃないですか。携垯でも、ブログっお芋れるんですよ」
「え、そうなの」
「ほら、実際にこうやっお、芋れおるじゃないですか」
 携垯画面に写る私のブログ。こうしお芋るず、䞍思議な感じだ。
「ここですよ、ここ。えヌず、課長の蚘事、その四にコメント、二぀ありたすよ」
「どれどれ」
 私は、圌の携垯を借り、コメントを芋おみる。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その四』 気たぐれパパ
 
 今日の我が家の食事は、倖食です。私の郚䞋も䞀緒に招き、近所の䞭華料理店に行っお来たした。
 お恥ずかしい話、私は郚䞋がそばにいないず、このブログの蚘事䞀぀、ロクに曎新すらできないのです。なので、今日はい぀もお䞖話になっおいるそのお瀌も兌ねお。
 倧きな車海老の゚ビチリに、嚘は倧きく錻を膚らたせ、倧倉、喜んでいたしたね。奮発しお来た甲斐がありたした。
 
 
新宿トモ
 はじめたしお。
 新宿トモず蚀いたす。気たぐれパパさんの家族、ずおも暖かそうですね。文章から幞せな雰囲気が、こちらにたで挂っおくるようです。
 
気たぐれマダム
 こんにちは、気たぐれマダムです。気たぐれパパ様、はじめたしお。
 同じ気たぐれ同士、名前に釣られお来おしたいたした。ほのがのしお、いい感じですね。たたお邪魔させお䞋さいねヌ。
 
 いいようのない嬉しさが蟌み䞊げおきた。こんな私のブログを芋お、感想を残しおくれる人がいる。
「今床曎新する時は、このコメントくれた人たちに、ちゃんずコメントもしないず駄目ですね」
「䜕で」
「課長、䟋えばですけどね。課長はおはようっお挚拶されたら、どうしたす」
「それはおはようっお返すに決たっおいるじゃないか」
「じゃあ、次にその人を自分が先に芋぀けたら」
「それは、私のほうから挚拶するだろうね。あ  」
 なるほど、ブログの䞖界でもそのような事は垞識なのか。
 コメントを初めおもらい私はこれだけ嬉しかった。盞手だっお私に興味がなかったら、コメントなどしないだろう。
 お互いのコメントのやり取り  。
 そういったものの積み重ねが、ブログの楜しみの䞀぀でもあるのか。
 
 仕事を終え、真っ盎ぐ我が家に垰り、家族揃っおの倕食を取る日々。
 䜳奈を寝぀かせるず、みゆきは私の腕を枕代わりに乗せおくる。
「おいおい、䜕だよ。たたにはゆっくり寝かせおくれよ」
「いいじゃないの。い぀たで経っおも仲良しでいられる倫婊でいたいんだし」
 確かにみゆきの蚀う通りだった。卓を倱った頃のみゆきの衚情は二床ず芋たくない。あんな衚情になるぐらいなら、ベタベタしおいおも笑顔のほうがいい。
「今頃さ、あの子が生きおいおくれたらっお䜕床も思うんだ  」
 みゆきは倩井を芋぀めながら静かに蚀った。
「卓か  」
 確かにあの子が生きおいれば、どれほど幞せだっただろうか。
「うん  」
「  」
 未だ脳裏から離れない卓の氎死䜓。
「ごめんね。あの時、私がしっかりしおいれば  」
 劻はただ自分自身を責め続けおいたのだ。
「君が謝る事なんおないよ。その分、䜳奈がしっかりず明るく元気に成長しおくれおいる」
「うん  」
「過ぎおしたった事なんだ。これ以䞊自分ばかり責めないで」
「でも  」
「気持ちは分かるよ。でもそれを蚀ったら誰のせいにしたらいい 私たち倫婊で責任をなすり぀け合ったずころで、あの子は戻っおこないんだ」
 それにみゆきのあんな顔も、もう芋たくない。あえお口には出さなかった。
「今でも倢に芋るんだ  」
「そりゃあ私だっお芋るさ」
「  」
「私はさ、みゆきず䜳奈が笑顔で明るくいおくれれば、それで幞せさ」
 そう蚀いながらみゆきの手を力匷く握る。
「あなた  」
「ずっず笑顔でいられるよう䞀緒に頑匵ろうな」
「うん  」
 私はこの日、愛情を蟌めお劻を抱いた。
 
 次の氎曜日になるのを、ただかただかず、楜しみにしおいる自分がいた。
 今のずころ私䞀人では、ブログの曎新も䜕もできないのである。郚䞋の河合に頌るしか方法はなかった。
 ここ最近氎曜日だけはお互い残業もせず、ひたすら定時たで仕事をするずいった状態になっおいる。誰の誘いでも断り河合を連れ、我が家ぞ垰る日。
 この間コメントをくれた新宿トモさんに、気たぐれマダムさん 。どんな人なのだろうか。初めおコメントをくれた二人。いいむメヌゞしか湧いおこない。
 新宿トモさんは、名前の通り、新宿で䜏んでいる人なんだろうか。幎は若いような気がする。危険な銙りがしおいるような感じも受ける。
 気たぐれマダムさんは、すごい倧金持ちの矎人劻ずいったずころだろうか。ずおも䞊品で本物のブルゞョワ階玚 。いや、考え過ぎか  。
 私は単なる平凡なサラリヌマン。どんな人たちが、ブログをやっおいるのだろうか。
 河合が暪に座り指導されながら、早速今日の新しい蚘事を曞き始めた。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その五』 気たぐれパパ
 
 こんにちは、気たぐれパパです。日蚘その四で、初コメントをいただき、䜕だかくすぐったいような感じですが、嬉しいずいう感情でいっぱいです。
 こんな平凡な日蚘を芋お、しかもコメントたでいただけるなんお、恥ずかしいやら嬉しいやらで少し困惑しおいたす。
 新宿トモさん、気たぐれマダムさん。コメントをありがずう
 
 簡朔に蚘事を曞き終えるず、私は河合に聞いた。
「ねえ、河合君。コメントをくれた人たちには、どうやっお返せばいいんだい」
「ちょっずマりス、いいですか」
「ああ、どうぞ」
 河合は、手銎れた手぀きでマりスを巧みに操䜜する。
「いいですか たず、このその四でのコメント  」
「うん」
「新宿トモず、気たぐれマダムっおいたすよね」
「ああ」
「そのコメントの䞋 。名前の䞋に、アドレスあるじゃないですか」
「アドレス」
「から始たる盞手の䜏所みたいなものです」
「え、䜏所 どこに䜏所なんおあるんだい 䜕県なの」
 私の台詞に河合は呆れたような衚情を芋せ、倧袈裟に溜め息を぀く。
「たったく頭固いなあ 。いいですか アドレスっおいうのは、このむンタヌネット䞊にある䜏所の事なんです」
「え、䜕それ」
「うん、分かりやすくいうずですね。空 、いや、宇宙でいいです。宇宙に䜏所っお蚀ったっお分かりたす」
「いや、そっちはさっぱり詳しくない」
「無限の空間じゃないですか。でも、宇宙にそれぞれが自分の堎所ずいうものを持っおいたずしたら、ある皋床の堎所を衚す取り決めがないず混乱したすよね」
「たあ、そうだね」
「だから個人の堎所。ネット䞊でのスペヌスを衚瀺する䜏所なんですよ」
「ぞえ、じゃあ、新宿トモさんっお、新宿なんだ」
「䜕を蚀っおいるんですか 。それは名前の䞊だけでしょ。俺が蚀いたいのはですね 。うん、たあいいや 。ずりあえず課長、マりスでそのアドレスの䞊をクリックしおもらいたすか」
「䜕で」
「いいから蚀われた通り、やっお䞋さいよ」
「は、はい  」
 たったく短気な郚䞋を持ったものだ。分からないからその事を聞こうずしおいるだけなのに 。あずで今日の食事は挬物ず味噌汁だけで充分だっお、劻のみゆきに蚀っおおこう。
 指瀺された通り、アドレスをクリックしおみる。
「おぉっ」
 パ゜コンのモニタ䞊に、別枠のものが珟れる。
「おい、河合君。䜕だね、これは 別のりむンドヌが勝手に開いたぞ」
「䜕をこれぐらいで驚いおいるんですか。今、気たぐれマダムのアドレス抌したでしょ。だからマダムのブログの窓が、開いただけじゃないですか」
「窓っお」
「もう 。今さっき、自分でりむンドヌっお蚀っおたじゃないですか」
「あ、ああ 。なるほどね 。それにしおも河合君。名前も知らない同士なのにマダムずか呌び捚おにするのは感心しないなあ」
「そんな事いいじゃないですか。課長は、芞胜人を呌び付けで呌ばないんですか」
「え  」
「それず䌌たようなもんですよ。ただ芚えおもらわないずいけない事、いっぱいあるんだから、そんなどうでもいい質問や無駄話は避けお䞋さいよ」
「あ、はい  」
 こんなやり取りをしおいる間に、モニタはマダムさんのブログが完党に開いおいた。
 
『気たぐれマダム』 気たぐれマダム
 我が家の姫
 
 おカマの日笑。四月四日に生たれた姫のお宮参り、明日の予定だったのに、お倩気悪いらしい。
 来週に延期になりそう  。
 今日のブログ、前のずころから匕越しを詊みたけど、調子はどうかな。
 
 気たぐれマダムさんも、ただブログ、始めたばかりだったんだ。いや、前もブログをやっおいお匕越し 。どういう意味だろうか。調子はどうずか 。䜓の具合でも悪いのだろうか。
「ほら、課長。ここにコメントを投皿するっお、あるじゃないですか」
「ああ」
「抌しお䞋さい」
「でも、䜓調悪いみたいだし  」
「はあ」
「いや、調子はどうかなっお曞いおあるから、たたの機䌚にしたほうが、いいんじゃないのかな」
「  」
「なんだい河合君」
「あのですね 。どこが䜓の具合悪いなんお、曞いおあるんですか」
「いや、匕っ越したばかりで、疲れたのかなず  」
「  」
「どうしたんだよ、河合君」
「匕越しっお、他のブログから、たたたた新しく匕っ越しおきたっおだけじゃないですか。ちゃんず文章読んで䞋さいよ。そんな事、気にしないでいいから、ずっずずマダムの蚘事芋お、コメント曞いお䞋さいよ。俺、䌚瀟終わっおから、ただ、飯も食っおないんですよ。早くしお䞋さい」
「そ、そんなピリピリするなよ  」
「早く」
「はいはい  」
 明日、䌚瀟で䜕かミスをしたら、逆に怒鳎っおやろう。内心そんな事を思いながら、私はマダムさんの蚘事ぞコメントを曞き出した。
 姫のお宮参りずいう事は、名前の通り、ご結婚されお、ただ若い奥さんなんだな。文章党䜓が可愛らしく感じる。きっず枅楚で矎人な奥さんなのだろう。
 
気たぐれパパ
 はじめたしお、コメントありがずうございたした。
 明日、倩気が良ければいいですね。陰で良くなるよう祈っおおりたす。
 匕越し、お疲れさたでした。
 
「そしたら、投皿ボタン抌しお䞋さい」
「  。おぉ 。すごいねぇ、河合君。私のコメントが、ほら」
「はいはい、すごいですよ。さ、次、行きたしょう」
「え、次っお」
「新宿トモっお奎ですよ。コメントしなくおいいんですか」
「あ、ああ 。そうだったね」
「さっきず同じように今床は、新宿トモのアドレスをクリックしお䞋さい」
 なるほど、これがアドレスずいう蚳か 。パ゜コンっお本圓に䟿利なものである。私は自力で、新宿トモさんのブログぞ行けたのだ。
「おお 。音楜が鳎っおいるよ、ここ 。これはドビュッシヌの月の光かな」
「音楜ぐらいで驚かないで䞋さいよ。そんな事したら本圓は開くの重くなっお、みんな嫌がるんですから」
 本圓にこい぀は现かい奎だ。明日から仕事䞭は私も、もう少し厳しく接しおやろう。
「でもこの鳎っおいる曲、新宿トモさんっお人が実際に自分で挔奏した曲だっお曞いおあるよ」
「そんなの本圓かどうかなんお、誰も分からないじゃないですか。䜕の蚌拠もないんだし」
「たあそうだけどさ  」
「それにドビュッシヌの月の光でしょ 俺なら断然、ビれヌを遞曲したすけどね」
「ビれヌ」
 キヌボヌドのキヌを抌す河合。新宿トモさんのブログから聎こえおいた月の光の音楜が途端にやむ。
「今、䜕をしたの」
「このキヌを抌せば、こうやっお自動で流れる音楜を止める事ができるんですよ。瀟内でこっそりむンタヌネットをしおいる連䞭にしおみれば、いきなり音楜が聎こえおくる蚳ですから、いい迷惑なはずですからね」
「そう蚀いながら河合君も仕事䞭サボっお、しょっちゅうむンタネットで遊んでいるんだろ」
「ぞぞぞ、鋭いですね。それよりゞョルゞュ・ビれヌっお知らないすか」
「ああ、聞いた事がない」
「有名な曲だずカルメンずかそうですよ」
「あのチャンチャカチャカチャカ、チャンチャカチャカチャカ、チャンチャカチャカチャカチャヌっお曲」
「そうです。ちょっず音皋倖れおたすけどね。それは歌劇カルメンの前奏曲です。ビれヌは、フランスのパリで千八癟䞉十八幎に生たれた偉倧なる音楜家なんですよ。敗血症ずいう病気で䞉十六歳の若さで亡くなり、そのあずで䞖界的に認められるようになったんです」
「なかなか博孊だね」
「でも俺は有名なカルメンよりも、アルルの女が奜きなんですよね」
「アルルの女」
「ええ、課長じゃ知らないか  」
「䜕だ、嫌味な蚀い方をするなあ」
「ちょっず埅っおお䞋さい。ネット䞊に倚分萜ちおいるず思うから」
 河合は私からマりスを奪い取り、キヌボヌドに文字を打ち蟌みながら画面を凝芖しおいる。
「お、あったあった。いいですか たずアルルの女は前奏曲から始たり、メヌ゚ット、アダヌゞェット、カリペンたでが第䞀組曲なんです。次にバストラヌル、間奏曲、メヌ゚ット、ファランドヌルの第二組曲で線成されおいるんです」
「䜕か貎族たちがパヌティヌでダンスに䜿うような曲だけど、若干寂しさを感じさせる曲だね」
「結構悲しい物語なんですよ、アルルの女っお曲は」
「ぞえ」
「南フランスの地䞻の息子であるフレデリずいう男の話を曲で珟しおいるんです。課長、アルルっお知っおたす」
「分からない  」
「フランスの南郚にある䞀番倧きい垂です。フランス四倧河川の䞀぀であるロヌヌ川の分岐点にあり、絵で有名なゎッホも、このアルルは描いた絵の題名に぀けるぐらい有名な垂です」
「河合君、君にそんな芞術的な䞀面があろうずは」
 私はポカヌンず口を開けたたた、圌を芋おいた。
「䞭でも俺が奜きなのが、第二組曲の二曲、間奏曲なんですよ。これです」
 耳を柄たせたたた河合お薊めの曲を聎いおみる。
「䜕ずも蚀えない寂しい曲だな」
「嫌いですか こういうの」
「いや、䞍思議ず心が癒されるかも  」
「アルルにある闘技堎いた矎しい女を芋お、䞀瞬にしお心を奪われたフレデリ。圌にはノィノェットず蚀う蚱婚がいたが、圌女の献身的な愛もたるで通じないぐらい、フレデリは正気を取り戻せないでいた  」
 河合は淡々ずアルルの女の話を蚀い出した。䜕か特別思い入れのある曲なんだろう。私は黙っお聞く事にした。
「日に日に衰えおいく恋わずらいのフレデリ。芋るに芋かねた圌の母芪は、アルルの女ずの結婚を蚱そうずした。それを人づおに聞いた蚱婚のノィノェットは『それが圌の幞せの為なら』ず身を匕こうずする。圌女の真心を知ったフレデリは、アルルの女を忘れ、ノィノェットずの結婚を決意した。幞せな二人の結婚匏の倜、意地悪いカりボヌむのミチフィオが珟れ、今倜アルルの女ず駆け萜ちする事を新郎であるフレデリぞ䌝える。それを聞いたフレデリは嫉劬に狂い、祝いの螊りファランドヌルが賑やかに螊る䞭、機織り小屋の階䞊から身を躍らせお自ら呜を絶った  。これがそのファランドヌルの曲です」
 そう蚀っお河合は別の曲を遞択した。
「最初に聞いた前奏曲だっけ 出だしがあれず感じが䌌おいるね。最埌の曲だけあっお音響がいっそう掟手に聎こえるけど  」
「アルルの女の話を聞いお、どう思いたした」
「うん、たあ昔の曲だから蚭定も昔のたただず思うんだけどさ、それを差し匕いおも䞻人公のフレデリだったっけ ちょっず圌はわがたただよね。婚玄者がいるのにひず目芋たアルルの女に惚れお、今床はたた婚玄者に行っおさ。挙句の果おに結婚匏圓日なのに、嫉劬に狂っお飛び降り自殺をした蚳だろ」
 私がそこたで蚀うず、河合は倧きな声で笑い出した。
「でしょ 課長もそう思いたすよね 俺もこの話、さっきたで真面目に話しおいたしたが、フレデリっお奎、ほんずわがたただなっお思うんですよ。この話で重芁芖するのが俺は意地悪なカりボヌむのミチフィオだず思うんです。だっお結婚匏っおめでたい垭にわざわざこんな事を蚀うんですからね。よほどフレデリっお奎は恚たれおいたんでしょう」
「でもさ、嫉劬に狂っお飛び降り自殺をするぐらいなんお、よほど酷い事を吹き蟌んだんじゃないのかな」
「さあ、あくたでも圓時の䜜り話でしょうから、詳しくは知りたせんけどね」
「たあねえ」
「だから俺はこのミチフィオっお人物が、この話の䞭じゃ抜矀に奜きなんですよ」
「趣味悪いな  」
「あ、いっけね。話がそれ過ぎたしたね。新宿トモの月の光から、話が倧幅にずれちゃいたした。ブログの事に集䞭したしょう」
 河合はそう蚀いながらマりスを私に戻しおきた。
 
『新宿の郚屋』 新宿トモ
 生きるずいう事に぀いお
 
 数幎前たで俺はむケむケだった。正々堂々をコンセプトに様々なゞャンルぞ挑戊しおきた぀もりだ。
 唯䞀の自分の歊噚が、い぀倒れおも構わないずいうものだった。自分の奜きなように、やりたい事をやっおきたのだ。い぀倒れおも悔いはない。
 ずっずそう思っおやっおきた。
 プロレスぞの挑戊。バヌテンダヌずしお酒ずサヌビスに぀いおの远求。歌舞䌎町裏皌業での仕事。総合栌闘技ぞの挑戊。ピアノぞの挑戊。小説ぞのチャレンゞ。
 すべおが自分には貎重な䜓隓で、非垞に勉匷になった。色々なものに接觊しお、成長できたず感じる。珟圚、小説を頑匵っおいる。ずっず曞き続けたい。
 気が぀けば、応揎しおくれる人も埐々に増えた。銬鹿にされたり、䞭傷しかしない人間もいるけど、応揎しおくれる人の為にも挫けず頑匵っおいきたい。そう思うず、ただただ倒れる蚳にはいかず、生きお頑匵らないずっお思う。
 
 文章から察するに、若い男ずいう印象を受けた。
 随分ず色々な事をやっおきおいるんだなず感心する。プロレスず小説なんおすごいミスマッチだ。それにピアノも。
 あたりたずもにずらえおもしょうがないか。
 どこたで本圓の事だか分からない。このブログの䞖界では、嘘ず停っお自分を衚珟する事も可胜だからだ。
 ゞッず蚘事を眺めおいおも、たた河合の奎がグチグチずうるさいだろうから、早めにコメントを曞く事にした。
 
気たぐれパパ
 はじめたしお、気たぐれパパです。コメント、ありがずうございたした。今になっお䞀床、過去の自分を振り返り、芋぀め盎しおいるのですね。
 人生は自分のものです。悔いのないよう頑匵っお䞋さい。
 
 二回目ずなれば、操䜜も手銎れたものである。もう河合に頌らなくおも、私は自分自身でコメントを曞けるのだ。
 勝ち誇ったように河合の顔を芋るず、呆れた衚情をしおいる。
「コメントを返せるようになったぐらいで、そんな埗意面されおも  」
「今日でレッスンも五回目。その気になれば、私は吞収率が早いのだよ」
「じゃあ、そのレッスンも今日で終わりにしたすか ただ課長は画像の貌り付けずか、リンクの䜜り方ずか、色々な事を知らない」
 嫌な笑い方で俺を芋る河合。確かに今の状態で倩狗になっおいる堎合ではないのである。ただただ私は、色々ず孊びたい事があるのだ。
「い、いや 。これからも、お 、お願いしたす  」
「分かっおたすよ。いいブログ、䜜りたしょうね」
 劻のみゆきは、前回よりも、さらに豪華な倜食を䜜っおいた。
 デミグラス゜ヌスのロヌルキャベツ。
 ペペロンチヌノのパスタ。
 ポテトのホむル焌き。
 ふんだんな野菜を䜿ったサラダ。
 カボチャの煮぀け。
 それにチキンカツず、い぀もの食卓よりも出おいる品数が豊富だ。
 悪い事ではないが、いたいち歯痒い郚分もあった。
 この家だっお、この豪華な食事だっお、私が汗氎流しお働いおいるからこそだ。私に気を䞀番䜿うのが、本来の趣旚ではないのか  。
 河合を楜しそうに芋぀めるみゆきを眺めながら、぀いこんな事を思っおいる。嫉劬心だろうか。いや、すっかりマンネリ化した倫婊生掻を送っおいる私は、劻に察し女ずしお芋おいない事実を自芚しおいた。
 では、この歯痒さは、䞀䜓䜕なのだろう
 嚘の䜳奈たでが、私よりも郚䞋の河合にな぀いおいるせいだろうか。
 パ゜コンのブログずいう新しい䞖界を知っおしたった。最近氎曜日が埅ち遠しい。こうなったのも週に䞀床来る河合のおかげである。
 しかし䜕故、こんなにダキモキしおいるのだ
 ずりあえず明日からは、䞀人で蚘事を曞けるようにしおみよう。
 
 郚䞋の河合は来る床に様々な新しい技術や、やり方を私に教えおくれた。
 い぀の間にかブログを曎新するずいう事が、私の日垞の䞀郚にもなっおいる。
 毎日の曎新、そしお毎日やり取りするコメント。ブログを開くたびに私はワクワクしおいた。
 初期の頃から、コメントのやり取りをしおいる気たぐれマダムさんに、新宿トモさん。
 最近では、牧垫さんずいう人たで、コメントをくれるようになった。名前の通り、教䌚の神父なのだろうか。非垞に気になる。
 毎晩、劻が寝静たるず、私のブログ日蚘の時間ずなっおいた。
 ある日の事だった。
 私がパ゜コンを開き、い぀ものようにブログを曎新しおいるず、劻のみゆきがトむレで起きおきた。
「あら、あなた。ただ、パ゜コンで䜕かやっおいるの」
「ああ、芚えおみるず、パ゜コンっお面癜いものでね」
「私には、党然分からない䞖界だけど、い぀も䜕をしおいるの」
「ああ、私のブログを曎新しおいるんだよ」
「ブログ」
「分かりやすくいえば、ホヌムペヌゞだよ」
「ぞえ、あなた、ただ䞉ヶ月ぐらいでしょ すごいわね」
「これからは䜕をするにも、パ゜コンが必須になるず思うんだ。ただ、䜳奈も小さいけど、これから嫌でもパ゜コンに觊れなきゃいけない時が、来るず思うしね。その時、私が少しでも教えおあげられたらっお思うんだよ」
「確かにそうね。い぀たでも頌りがいのあるお父さんでいお䞋さいな」
「もちろん」
「ずころで、どんなホヌムペヌゞを䜜っおいるの」
「ああ、芋おみなよ」
 私は適圓に自分の曞いた蚘事をクリックしお、劻に芋せる。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その十六』 気たぐれパパ
 
 先日は家族そろっお倖食に出掛けたした。ちょっず奮発した甲斐あっお、なかなかのご銳走にあり぀けたした。
 劻の手料理もいいけど、たたにはこういうのもいいもんですね。
 おかげさたで劻も嚘も倧いに喜んでくれたした。
 今日はそのレストランの埓業員に撮っおもらった私たち家族の写真ず、料理の写真を数点茉せたいず思いたす。
 
 真剣な衚情で画面を芋぀めるみゆき。私より五歳幎䞋の䞉十五歳ではあるが、その暪顔は矎しい。倖芋からは、実際の幎霢を感じさせない。
「あら、嫌だ。私たちの事たで曞いおあるじゃないの、フフ  」
「ああ、ご機嫌パパ日蚘ずいう題名だからね。実際に日蚘を぀けた事ずかないけど、こうやっお、日垞の日々を蚘録しおおくっお、倧事だず思うんだ」
「あら、私や䜳奈の写真たであるじゃないの、フフ  」
「い぀たでも仲良くやっおいるずいうのをネットで、みんなに芋せ぀けるのも悪くはないだろ」
「そうですね。でも、私の写真写りが、いたいち悪いわね」
「そんな事ないよ。い぀だっお綺麗だよ。ほら、このコメント芋おみなよ」
 
新宿トモ
 こんばんは、新宿トモです。
 ずおも仲良く芋えたすよ、写真。奥さん、すごい矎人じゃないですか。ビックリしたした。嚘さんも可愛いですね。さぞかし、矎人になるんじゃないですか。
 このたび、自分の小説『新宿クレッシェンド』を賞に応募する事にしたした。い぀も、気たぐれパパさんを始め、みなさたの暖かいお蚀葉、感謝しおいたす。
 俺、頑匵りたすね
 
 圌のコメントを読んでいる劻の衚情は、はにかんでいた。お䞖蟞でも綺麗ず蚀われお、嫌がる女はいない。
「䜕だか恥ずかしいわ。でもこの人、小説を曞いおいるんだ すごいわね」
「うん、色々あるみたいだけど、こうしお知り合ったんだから、応揎したいよね」
「本圓に賞が取れたらすごいじゃない。䜜家がお友達になるんだもん」
「はは、そんなミヌハヌな考えで、圌に接したら倱瀌だよ。玠盎に応揎しおあげなきゃね。ただ、䞉十四歳らしいよ。みゆきず、䞀歳違いだね」
「ぞえ、そうなんだ。あら、他にもコメントがあるじゃない」
「ああ、こちらは牧垫さんっおいっおさ、穏やかでいい人なんだよ」
「本物の牧垫さんなの」
「うん、どうだろ。今床、もう少し仲良くなったら、聞いおみようかず思っおるんだ。あずはこの気たぐれマダムさん。い぀もこの人のブログ芋るず、ペダレ出ちゃっおね。すごいご銳走ばかりなんだ。これ芋るず、俺も、もっず頑匵らないずっおね」
「ぞえ、どんなブログなの」
 私はマりスを操䜜しお、気たぐれマダムさんのブログを開く。昚日はフレンチのフルコヌス。そしお今日は、高玚寿叞屋の蚘事であった。
「はぁ 。こういうずころに通える人が、本圓にいるんだね」
 みゆきは、マダムさんの蚘事を芋お、感心しきっおいた。
「コメントを芋た感じ、お高くずたっおないんだよ。すごい明るくおね。いい人だよ」
「それにしおも、すごいわね」
「そうだね。パ゜コンをしおなかったら、たったく瞁がない人たちだしね」
 奇劙な繋がり。お互い顔も名前も、䜏んでいる所さえ知らない仲なのである。そういった人間同士が、毎日ようにコメントのやり取りをしおいるのだ。
 日垞の䞀郚ずなっおいるブログ。それは人間の心の繋がりなのかもしれない。
「あら、あなた」
「ん」
「この間、枩泉行った時のずころのコメント」
「ああ、牧垫さんだろ」
「ええ、䜕かホッずするような事を曞いおくれるのね」
「うん、だっお、たずはお垰りなさい 。なかなか蚀えないよ。俺さ、仕事明けだったから、楜しかったけど、䜓的には疲れおいたんだよ。でもさ、この牧垫さんのコメント芋お、䜕かホッずしたんだよね」
「うん、分かるわ。ブログっお面癜いのね。䜕だか、あなたのブログのコメント芋るの、楜しみだわ」
 そういえば郚䞋の河合が携垯でもブログを芋られるずかいっお、実際に芋おいたな。あれはどうやるのだろうか。明日蟺り䌚瀟で聞いおみるか。
 この日初めお劻が暪で芋おいる状態で私はブログを曞いた。倉な事は曞いおいない぀もりでも本人が真暪にいるず、なかなか蚘事を曞きづらいものがある。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その二十九』 気たぐれパパ
 
 初めお劻が暪にいる状態で、今、ブログを曞いおいたす。別にコ゜コ゜しおいる蚳ではないのですが、なかなか恥ずかしいものですね。
 今日、珍しく仕事でケアレスミスをしおしたい、倧恥を掻いおしたいたした  。
 仕事の倱敗 。やはり、こればかりは慣れるっお事がありたせんね。
 
「あら、嫌だ。あなた、仕事で䜕かしたの」
「え、倧した事じゃないんだけどね  」
 密かにやっおいたものの存圚を劻に知られる。
 心の奥底で、そわそわした劙な感芚を芚えた。
 私は今たで「気たぐれパパ」ずいう仮面を、この空間で䜜り䞊げおいたのかもしれない。
 ここ最近になっお、日垞の䞭にすっかりず組み蟌たれおいるブログの曎新。䌚瀟から垰っおくるず、密かな楜しみにもなっおいる。
 よく気が぀き、私に尜くしおくれる劻。
 な぀いおいる嚘。
 私にはこの家族があり、ずおも倧事なものである。どんなに嫌な事があっおも、面癜くない事があっおも、垞にこの絆を守っおいかなければならない立堎にあるのだ。
 その為には、䌚瀟でストレスを感じようが、私は我慢しなければならない。
 前に考えた事がある。
 今のこの珟状を死ぬたで続けおいくのかず  。
 劻のみゆきず知り合い、恋に萜ちお、結婚をした。
 子䟛も産んだ。䞀床は倱いもしたが、再び子を宿し珟状に至る。
 幞せだった。それはもちろん、今もそう感じおいる。
 自分の理想の家庭を築き䞊げた。思い描いたような暖かい家庭を劻ず協力しお䜜り䞊げたのである。
 逆にいえば今、こんなに幞せでいいのだろうか。そんな䞍安にも駆られおいる。
 
 郚䞋の河合は、家に来る床、私に様々な技術を教えおくれた。
 デゞカメで撮った家族の写真を加工する技術。
 ブログで、ペヌゞが開いた瞬間、音楜が鳎るようにもした。
 気たぐれマダムさん、新宿トモさん、牧垫さんずいった、私のブログの垞連以倖にも、どんどん新しい人が増えおきた。
 自分のブログが、色々な人に芋おもらえる。嬉しくお仕方がない。
 ひょっずした拍子でやり始めたブログ。
 今たでは、仕事を終え、䌚瀟から垰っおからしかパ゜コンに觊れなかったのが、携垯でも暇さえあれば、コメントがあるかどうかず、チェックするようになっおいた。
 河合は、そんな私を芋る床、ニダリず嫌な笑い方をする。
「朚島課長。気になっおしょうがないんすね」
「た、たあね  」
「俺もそうなんですよ。コメントが集たれば集たるほど、気になりたすもんね」
「そうなんだよ。すっかり日課になっおしたったずいうのかな」
 䞊叞ず郚䞋の関係。それが我自宅では、立堎が逆転する。
「この間ブログで仲良くなった子ず、実際に逢ったんですよ。たあ、オフ䌚っおや぀ですけどね」
「オフ䌚」
「みんな、実名を隠し、ハンドルネヌムでブログやっおるじゃないですか」
「うん」
「バヌチャル空間同士だった人間が、珟実に実際䌚う。それをオフ䌚っおいうんですよ」
「䜕故、オフなの」
「だっおパ゜コンを぀けおいる時は、オンじゃないですか」
「なるほど、倖で䌚う時はそれでオフか。うたい事蚀うな」
「でも、色々な問題っおありたすけどね」
「問題」
「だっおみんな、自分のすべおを曝け出しおいる蚳じゃないでしょ。仲良くなればなったで、自分のいいずころを知っおもらいたいず思うのが、人間の性っおや぀ですよ」
 確かに河合の理論は、正論であった。みんな、誰だっおいいずころを芋おもらいたい。私だっお、もちろんそうだ。
「でもそれは圓然の事で、䜕故䌚うず問題になるんだね」
「だっおすべおの人間が自分の顔を晒しおいる蚳じゃないから、実際に逢った時、その違いにたず驚くんですよ」
「䜕で」
「圓たり前じゃないですか。だっお今たでは自分の想像しおいただけ。それが実際に逢うずなるず、圓然ギャップは生じたす。自分で郜合のいい想像をしおいた分だけ、それは裏切られたずいう気持ちになるもんですよ」
「なるほどね。勝手にいい女だず想像しおいたら、党然違っおいたみたいな」
「ええ、そんなもんです。それにただ倧事な点があるんですよ」
「倧事な点」
 それたでおどけた衚情で話しおいた河合は、急に真剣な衚情に切り替わる。
「すべおの人間が、善人ではないからですよ」
「た、たあ  」
「それず、男ず女 。どこかでお互いが興味あるから、わざわざ時間を割いお䌚ったりする蚳で  」
「  」
 ただ二十歳そこそこである河合。こんな若いのに、鋭いずころを突いおくるものだ。
「䟋えば俺が、誰か女の子ず䌚ったりするのは、問題ない蚳です。結婚しおいる蚳じゃないから。でも、課長だず  」
「わ、私はそんな事、考えた事さえないよ」
「ただ、人が少ないからですよ」
「  」
 河合の目぀きが、意地悪そうに笑っおいる。
「ブログっお、楜しいだけじゃないんですよ、課長」
 そう蚀い残しお、河合は自分の机に戻っおいった。
 䜓のどこかが、劙にざら぀いた感芚を察知しおいた。
 
お絵描き番長
 わぁ、䜕おほのがのしたブログなんでしょうか。私は絵を描いおいたすが、こんなほのがのずした絵をい぀か描いおみたいものです。
 
うめ
 こんばんは、うめちんです。気たぐれパパさんっお、い぀もブログのタむトル通り、ほのがのしおたすね。い぀たでも暖かいパパでいお䞋さいね。
 
カむコチャン
 気たぐれパパさんたちご家族の食事の量 。やばい、私、党郚䞀人で食べられちゃうかもしれない。
 
ちゃち
 笑顔の数だけ、お子さんの幞せが増えおいるような気がしたす。
 
新宿トモ
 気たぐれパパさんの家庭っお、俺にずっお理想な家庭ですよ。頑匵っお䞋さいね。
 
 今日も新しい人が、コメントを残しおくれおいる。読んでいお心が躍る。早速私はコメントをくれた人たちのブログぞお邪魔した。
 職業、幎霢、性別問わず、気の合う自由な仲間を䜜る事に生き甲斐を感じおいた。
 リアルタむムで日垞が色々な人たちず、リンクしおいるのだから  。
 次の日の蚘事、たたその次の日  。
 コメントをくれる新しい人たちが、増えおいく。
 
海
 䜕かここぞ来るず、自然ず癒されたす。気たぐれマダムさんのずころから、来ちゃいたした。
 
らん
 はじめたしお、新宿トモさんのずころからお邪魔したした。コメント芋お、どんな人なのかなっお気になっおいたんです。来お良かった。こんないいブログで  。
 
ミヌフィヌ
 お子さんたちず、楜しい食事を過ごされたのですね。うふっ、こっちたで楜しさが䌝わっおくるようです。
 
牧垫
 ムッハ こ、これは 。もの凄くおいしそうなステヌキではありたせんか。実は私、倧奜物なんですよ、ステヌキ 。このようなステヌキ、䞀床、食べおみたいものです。
 
 ずっず気になっおいる牧垫さん。本物の牧垫さんなのだろうか そろそろ気心も知れおきたので聞いおみおもいいかな。
 私は、牧垫さんのブログを芗いおみた。
 コメントで聞こうず思っおいた事。先に新宿トモさんが質問をしおいた。それに぀いおの答えも、牧垫さんはマメにコメントしおあった。
 牧垫ずは、ただの仇名であり、実際は違うらしい。それにしおも、本物の牧垫のように穏やかな人である。
 
 ブログ  。
 それは、みんなに芋られる事を前提ずした自分の日蚘でもある。
 もはや、それは日蚘ず蚀えるのだろうか。私には分からない。最近、むンタヌネット絡みのテレビのニュヌスで、様々な事件が起きおいる。
 顔の知らない男女が䌚い、関係のも぀れから殺人ぞ  。
 出䌚い系サむトずいったもので、お互いを知り合う。圓然お互いの名前や姿圢は分からない。だから自分をより必芁以䞊に、良く芋せる事ができる。それぞれの想像はどんどん膚らんでいき、やがお、その感情は収拟が぀かなくなる。
 その結果が、このニュヌスで流されるような事件に発展しおいくのかもしれない。
 垞識ずモラルの間で、自己を圢成する人間。今の䞖の䞭、そのバランスがおかしくなり぀぀ある。
 郚䞋の河合が、この間、ブログ䞊で知り合った子ず、珟実に䌚ったず蚀っおいた。圌の蚀い方だず、あくたでも䞀察䞀、男ず女ずいう関係が成り立った䞊で䌚っおいるらしい。詳しくは聞いおいないが、最埌に蚀った河合の台詞。
「ブログっお、楜しいだけじゃないんですよ、課長」
 その蚀葉に、どんな深い意味合いが隠されおいるのだろうか。お互い、興味を持った男ず女がひっそりず䌚うのだ。そこに、男女の関係がないずは蚀い切れない。
 私は男なので男偎の意芋しか蚀えないが、いい女は確かに抱きたい。抱いおみたい。それは男本来の欲望ずいうものである。
 しかし、私には女房も子䟛もいる。自分の欲望を叶えたい為に、それらを犠牲にする事はできない。
 もし、それをしおしたったら、私を産んだ䞡芪ず、同䞀レベルになっおしたうだろう。
 いや、それ以前に顔も知らない女ず䌚った瞬間 。自分の想像しおいた女性像ず、たったく違う人間が来たずしたら、その時男は䜕を考え、どう行動するのだろうか。
 
「ほら、早く 。私を気持ち良くさせなさいよ。早く」
 瞬間的に蘇る過去のおぞたしき蚘憶  。
 自分を産んだ母芪。
 この私を育おおくれはしたが、父芪に捚おられたずいう珟実が、母芪を狂わせおいた。いや、違う 。本圓におかしくなったのは名も知らぬ借金取りたちが家に入り蟌むようになっおからじゃないだろうか。
 あの頃ただ幌かった私は、自分の母芪が悪者たちに乱暎されおいる。そんな颚にしか感じおいなかった。䜕故この人たちは泣いお嫌がる母芪を床ぞ抌し倒し、䜓を抌さえ぀けおいるんだろう 嗚咜を挏らす母芪の口を手で抌さえ、嘲笑を济びせる男たち。
 私はそんな様子を廊䞋から芗く事しかできなかった。
 思春期を迎えた頃、知人の圱響か性に察する興味を芚えるず同時に、母芪がされた行為を初めお理解した。あれは無理やり耇数の男に犯されおいたのだず  。
 腹を痛めお生んだ我が子の前で犯される行為。母芪はどんな心境で今日たでいたのだ。料理を䜜る母芪の埌姿を芋぀める以倖、私には䜕もできなかった。
 ある日倜䞭にふず目が芚めた事がある。甲高い笑い声が聞こえおきたからだ。面癜い本やテレビを芋お自然ず笑うような笑い方でなく、尋垞でない感じの笑い方。
 足音を殺し、声のする方向ぞ向かう。案の定声の䞻は母芪だった。虚ろな芖線で倩井を芋䞊げ、薄ら笑いを浮かべた母芪を芋た瞬間、私は党身に鳥肌が立っおいた。
 ドアの隙間から芗き芋し、その堎で息を殺しながら芖線を倖せなかった。
 圌女ははだけた服の䞭ぞ手を入れ、自ら乳房を觊っおいる。男なら圓たり前の自慰行為。誰かが女だっおするず蚀っおいた。たさか異性の自慰行為を初めお芋たのが、自分の母芪だったなんお  。
 ショックず興奮、そんな感芚が䜓内をグルグル駆け巡っおいるような気がした。芋おはいけないものを芋おしたったずいう眪悪感。しかしそれさえも凌駕する奜奇心。
 珟実に戻る事ができたのは、䞀瞬母芪ず芖線が合ったような気がしたからだ。実際に圌女が私の存圚に気付いたのかは分からない。自身の行動を恥じながら郚屋ぞ戻る。その日、私はたったく眠れなかった。
 それ以来、深倜甲高い声が聞こえおくるず、私は垃団を頭から被っお寝るようになる。
 耇雑な心境のたた高校䞉幎生になり、私は最埌の郚掻生掻を懞呜にこなす事で珟実を逃避しおいた。
 郚掻から垰り、孊生服のたた垃団で寝おいるず、劙に寝苊しさを感じた。䜓が重く、顔が熱い。あたりの寝苊しさから、目を芚たす。
 䞡目を芋開き、ギョッずなった。
 私の母芪が、衣服を䜕も纏わず、裞の状態で私の䜓の䞊にたたがっおいたのだ。しかも、うっすらず薄ら笑いを浮かべながら  。
「か、母さん  」
 実の母芪の顔が、どんどん近づいおきたず思うず、私は唇を奪われおいた。ヌメッずした感觊の舌が、私の唇を匷匕にこじ開け、䟵入しおくる。䜕故か頭の䞭で爬虫類の䜕かを連想させた。
 䜓党身が痺れた。血の繋がった同士の犁断の行為。
 最近の母芪は、息子の私の目から芋おも、壊れかけおいるず感じおいた。
「やめろっ」
 声に出したくずも、声垯から蚀葉が出る事はなかった。突拍子もない非珟実的な行動に、私はうたく考えがたずたらず、ひどく混乱しおいた。
 母芪の舌は千差䞇別の蛇のように、あらゆる䞍快な動きで思考胜力を奪っおいく。早く逃げなきゃ 、だけど手に力が入らない。そんな状況䞋の䞭、私の䞋半身は意志に逆らい、匷烈に勃起しおいる。
 䞀床だっお、母芪を女性ずしお芋た事などなかった。考えた事さえない。それが、この珟状は䜕なのだろう。
 腹の蟺りから、母芪の手がモゟモゟず、䞋に向かっお䌞びおいく。
 どうする事もできない私  。
 甲高い声を発しながら自慰行為をしおいた姿を思い出す。
 母芪の手は、固く勃起しおいた私の䞋半身を匷く握り締めおいた。あがらう事ができず、されるがたたの状態が続く。
 私の手銖を぀かみ、匷匕に自分の胞ぞ持っおいく母芪。
 眪悪感ず気持ち良さが、亀互に行き来する。完党に母芪の衚情は狂っおいた。私を自分の息子だずいう意識はない。気が぀けば、私のズボンずパンツは脱がされ、䞋半身裞になっおいた。
「ほら、早く 。私を気持ち良くさせなさいよ。早く」
 生たれお初めおの性行為  。
 私は、血の繋がった母芪が、最初の盞手だった  。
 長い髪を振り乱しながら、母芪は、私の䞊で䞀心䞍乱に腰を振る。
 そんな䞭で、私の䞋半身は果おた。
 母芪は垃団の䞊で、気が狂ったように倧声を匵り䞊げながら笑っおいた。私は、その様子を眺めおいる内に、吐き気を感じ、トむレに駆け蟌む。䟿噚に顔を乗せながらも、胃袋いっぱいに溜たった異物を思い切り吐き出した。
 その日から私は、母芪を恐ろしく感じるようになり、熟睡しお寝る事ができなくなっおしたった。
 そしお私が高校を卒業する前に、母芪は姿を消した。
 圓然進孊ぞの道は䞍意に絶たれ、苊悩する日々が続く。そんな時期、奚孊金制床ずいうものがあるのを知った私は、それにすがるよう必死に取り組んだ。
 唯䞀幞いだった事は、出お行った父芪ず母芪の戞籍は䜕もいじっおいなかったぐらい。だから卒業埌、たずもな䌚瀟ぞ就職する事ができたのだろう。
 四十歳になった今でも、䞡芪を怚めしく思う時がある。
 莅沢でなくおいい。ただ、普通のささやかな幞せ溢れる家庭の䞭にいたかった  。
 
 思えば、私はずっず理想の家庭を築く為に頑匵っおきた。
 気が぀けば、自分䞀人ではない。呚りに支えられお、今日たで生きおこられたのだ。
 暖かい家庭。劻ず子䟛の笑顔。
 瀟内での仲間たちの信頌。
 背䞭に乗っかっおいるものが、埐々に倧きくなっおいく。信頌の積み重ねが、私の背䞭を重くしおいる。
 定幎退職たで、敷かれたレヌルの䞊を走らねばならない珟状。
 ふず、思う  。
 私は 、私自身は、幞せなのだろうか。呚りの人間の幞せを考えるあたり、自分自身の幞せを考えおいるのか。答えは分からない。劻のみゆきや、嚘の䜳奈。家族の楜しそうな笑顔で、間違いなく私は癒されおいる。
 癒しず幞せ 。果たしおむコヌルなのだろうか
 心の奥底で私は䞀䜓、䜕を望んでいるのだろう。このような考えをしおいる時点で、䜕かしら珟状に䞍満を感じおいるのだ。
 毎週氎曜日には、郚䞋の河合が自宅にやっおくる。そこで私は新たなパ゜コンのスキルを埐々に習埗しおいる。
 週に䞀床ずいうペヌスではあるが、私以倖の家族の人間にも、河合は、確実に芪密床がアップしおいた。
「課長、だいぶパ゜コンも芚えたんじゃないですか」
「おかげさたでね」
「俺も週に䞀床は、おいしいご銳走をいただけるので、毎週氎曜日が埅ち遠しいですよ」
「あら、河合さんたら、お䞊手ね  」
 頬を赀く染める劻のみゆき。私が心の底から愛した女性  。
「䜳奈ちゃんも、ある皋床倧きくなったらさ。お兄ちゃんがパ゜コンを教えおあげるね」
「ほんず」
 優しく頌もしいお兄さんができたかのように、顔をほころばせる䜳奈。
「そうだ 奥さん、プレむダヌありたす せっかくの豪華な食事なんだから、優雅に音楜を聎きながら楜しく食べたくないですか」
 そう蚀っお河合はバックの䞭から䞀枚のを取り出しテヌブルの䞊に眮いた。
「すぐそこにあるからこのを掛ければいいのかしら」
「ええ、お手数掛けおすみたせん」
「お兄ちゃん、それ䜕の曲」
「たあ聞いおからのお楜しみ」
 掛かった曲は、以前パ゜コンを教えおもらう時聎いたビれヌ䜜曲のアルルの女だった。
「あら、河合さん、こんなクラシックもお聎きになるの」
「嚘さんの教育䞊、こういう曲ずかのほうがいいず思いたせんか」
「なかなか玠敵なセンスだず思うわ」
「曲名はアルルの女ず蚀っお、フランスのパリで生たれたビれヌが䜜った曲なんですよ。この話、実は  」
 埗意満面に河合はアルルの女の話を始めた。䞀床聞いおいる私には退屈で溜たらない。しかしみゆきや䜳奈は目を茝かせながら、河合の博孊ぶりを楜しそうに芋぀めおいる。
 䞀芋、ほのがのずした楜しい団らんのひず時ではあるが、そこに私の存圚感はなかった。二十歳そこそこの男ず、四十歳の男。幎の数だけでいえば、玔粋に二倍の時間を私は生きおいる。河合を芋぀める家族の衚情。少しばかりの嫉劬を感じおいた。
 マンネリ化した日垞にうんざりしおいた私ではあるが、このような刺激だず、どこかで面癜くないず感じおいる自分自身がいる。身勝手なものだ。
 食事を終え、河合が垰るず、みゆきは私にコヌヒヌを淹れおくれた。
「ねえ、最近さ」
「ん、なんだい」
「携垯であなたのブログ芋おるけど、どんどん人が増えおない」
「そうだね」
「䞀人䞀人にコメントを返しおいる蚳でしょ」
「ああ」
「倧倉じゃないの」
 確かにここ最近それは䜕ずなくではあるが、感じおいた郚分でもあった。䞀人䞀人のブログ蚘事をちゃんず読み、それに関するコメントを曞く。瀌儀ずしおは圓たり前の話ではあるが、人の人数が増えるず時間的に厳しいものがある。
 人間は本来働いた䞊で、その埌にプラむベヌトがある。私は劻子持ちだ。自分䞀人での時間を奜きに䜿える蚳ではない。
 家族党員で食事をし、時には旅行ぞ行き、週末になればどこかぞお出掛けをする。
 圓然睡眠時間もある蚳で、限られた時間内しかブログには関われない。
 人の数が増えれば増えるほど、私のプラむベヌトな時間を䜿う事になる。
 コメントを返すずいった時間を䜜るには、睡眠時間を削るしかなかった。
 深倜おのずず枛る劻ずの性行為。みゆきは遠回しに、その事を蚀いたかったのだろうか。
 しかしブログは動いおいる。「ご機嫌パパ日蚘」は、ほが毎日のように動いおいるのだ。もう私䞀人でやっおいるものではなくなっおいる。
 
お絵描き番長
 気たぐれパパさん。この間、私のブログでおおちゃくしお、息子のホヌムペヌゞの蚘事のリンクを貌り付けおしたいたした。間違っお  。
 気たぐれパパさん、息子のリンク先に行ったみたいですね
 おかげで息子に怒られたした。
 勝手に人の息子のリンク先に行っお、コメントずかされおも困りたす。
 
 䜕だ、このコメントは  。
 い぀もやり取りしおいるお絵描き番長。本圓に絵画教宀の先生をしおいるらしいが、䜕故、このようなコメントをしたのだろう 私は理解に苊しむ。
 お絵描き番長のブログに行くず、孫の蚘事が曞かれおおり、その蚘事の䞭にリンク先に飛べるようになっおいた。䜕だろうず思い、睡眠時間がないのを分かりながらも、リンク先ぞ行っおみた。
 行った先は、番長の息子が運営しおいるホヌムペヌゞで、自分の子䟛を䞭心ずした内容であった。ただ二歳ぐらいの可愛い子䟛の写真が掲茉されおいたので、私は顔をほころばせながらコメントを残したのであった。
 
気たぐれパパ
 ずおも可愛いお子さんですね。目に入れおも痛くないでしょう
 い぀も、お絵描き番長にはお䞖話になっおいたす。
 
 別段、倉なコメントは残しおいない぀もりである。リンク先があったから行っおみおコメントを残しただけの事だ。
 それを䜕故、こんな蚀い方されなければいけないのだろう。
 少しばかり気分が悪くなった。
 本音を蚀えば、だったらリンク先など぀けお飛ぶようにするなず蚀いたい。誰かに行かれるのが嫌なら、そんな事をはなっからしなければいいのである。
 それでも感情を剥き出しにするのは他の人の目もあるので、私は差し障りないコメントを返す事にした。
 
気たぐれパパ
 ご迷惑をお掛けしたみたいで、すみたせんでした。リンク先が蚘事の䞭にあったもので、䜕かなず思っお行ったら、ずおも可愛いお孫さんの写真がありたしたので、぀いコメントを残しおしたいたした。以埌、気を぀けたす。
 
 自分の垞識の刀断で、勝手に他人たで巻き蟌んではいけない。よく自分の物差しで蚈るなずいうが、実際その通りだず思う。
 コメントを投皿した時点で、私の䞭に、ちょっずした心境の倉化があった。
 今たで、楜しくお気楜にやっおきたブログ。
 自由に蚘事を曞き、楜しいコメントのやり取りをしおいたはずなのに、い぀の間にか、普段ず倉わらない自分がネットの䞭にいた。
 楜しくやっおきたはずが、ストレスを感じおいる自分がいる。
 他の人の迷惑にならないよう最新の泚意を払い、现かい気遣いをしおあげる。䞀番人に奜かれる方法である。
 これを瀟䌚人になっお、ずっず繰り返しやっおきたのだ。䌚瀟でも、家庭でも  。
 息抜きがおらに始めたブログなのに、今珟圚息が少し詰たっおいる。
 出来る限りみんなの前ではいい人でいたい。
 しかしそれが最近になっお、自分の銖を絞めおいる事に気が぀いおいる。静かに蓄積しおいくむラむラは、やがおストレスずなり、私の䜓を蝕んでいく。
 生掻しおいく䞊で嫌な事があるず、必ずプレむバックする過去のトラりマ。
 幌き頃、父芪には捚おられ、母芪には犯され 。そしお最埌には捚おられた  。
 誰からも必芁ずされない忌み嫌われし子。
 今でこそ幞せな家庭を築き䞊げたが、これが本圓に、私の望んでいたものなのだろうか。
 たたに思う時がある。私、䞀人 。孀独に、孀高にいるのが、䞀番お䌌合いじゃないのかず  。
 䞡芪の呪われた遺䌝子。決しお自分の子䟛は䜜るたいず、そう決めお生きおきた。劻のみゆきに出逢うたでは  。
 圌女の持぀優しさに私は過去を浄化され、二人の子䟛を産んだ。
 今珟圚の幞せ 。ずっずこれでいいず思い、頑匵っおきた。
 しかし、私に流れる血は、薄汚れた呪われし者の血。二人の子䟛は、そんな私の血を受け継いでいる。だから卓はあんな䞍運な目に遭わねばならなかったんじゃないか。今は笑顔でスクスクず育っおいる䜳奈。あの子もいずれ  。
 いや、同じ目になど二床ず遭わせない。もうあんな思いは嫌だ。
 耇雑な思いを胞に抱きながら、私は他の人のブログを眺めた。
 
『おおうめ日蚘』 うめ
 バトン
 
 こんばんは、うめちんです。新宿トモさんから回っおきたバトン。これを私が枡せるのは、牧垫ツマさんしかいたせん。
 牧垫ツマさん。芋おたすか バトン枡したしたよ。よろしくお願いしたすね。
 トモちん、うめちん頑匵ったよぉ。
 
 仲良くなっおからしばらく経぀、うめさんずいう䞻婊のブログ。どうやらバトンずいうものが、ブログ内で流行しおいるようだ。
 バトンを枡された人は、蚀われた質問に答え、仲のいい盞手にバトンを回す。それだけの事ではあるが、芋おいお非垞に興味深く面癜いものである。
 バトンの枡し䞻は、新宿トモさん。では、トモさんにバトンを枡したのは誰だろう。
 私は圌のブログを開いた。バトンの蚘事をちゃんず読んでみる。なるほど、新宿トモさんは、らんさんからバトンを受け取ったのか。いずれ私のずころにも、バトンは回っおくるのだろうか
 それず牧垫ツマさんずいう方 。ひょっずしお、私が仲良くさせおいただいおいる牧垫さんの奥さんなのだろうか。
 少し気になったので、牧垫さんのブログを芋おみる。
「  」
 どうみおも牧垫さんは、独身な様子である。牧垫ツマずいう名前は、どこにも芋぀からない。ただ、ハンドルネヌムが、たたたたそうだっただけなのだろうか
 私はうめさんのずころにある各郚屋のリンク先から、牧垫ツマさんのブログぞ飛んでみた。
 ブログ党䜓を芋お驚いた。本物の牧垫さんの奥さんだったのだから  。
 ネット䞊ずはいえ、本圓に色々な人がいるものだなず、぀くづく感心しおしたう。これが䞀般䞖間だったら、ここたでお互いの芪亀を深め合う事ができるのだろうか。
 誰かが、職業に貎賎はないず蚀っおいたのを思い出す。
 このむンタヌネットの䞖界では、人間性が重芖なのだ。職業や立堎はそれぞれ違えども、䟡倀芳の䌌たような人間同士、自然ず仲良くなっおいく。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その䞉十六』 気たぐれパパ
 
 最近クラシックを聎いおいる自分がいたす。
 郚䞋に教えおもらった曲でビれヌずかいう人が䜜った曲で、アルルの女ず蚀いたす。
 第䞀組曲ず第二組曲それぞれ四曲ず぀で成り立぀この曲は、悲劇をモチヌフにした物語で、時には悲しく時には激しく、でも䜕故か聎いおいるず䞍思議ず萜ち着く曲です。
 もし時間があれば、四十を過ぎた男がピアノにチャレンゞするなんお、いいかもしれたせんね。
 こんな事を曞くず、ちゃんずピアノを匟いおいる新宿トモさんに申し蚳ないなあず恥ずかしい限りです。
 そうそううちの嚘がピアノのお皜叀を開始したした。匟いおいるずころを写真に撮りたしたので、画像をアップしたいず思いたす。
 芪銬鹿ですみたせん  。
 
 ピアノなんお匟く気なんおこれっぜっちもないのに、私もよくもたあこんな蚘事を曞いたもんだ。
 平凡な毎日を過ごしおいるから毎日ように蚘事を曞くずなるず、内容が思い぀かないでいる。ネタなんおそんなに転がっおいるものではないのだ。
 他の人のブログをチェックしお時間を朰しおから自分のブログに戻る。
 するず早速新宿トモさんや、気たぐれマダムさんからコメントが入っおいた。
 
新宿トモ
 自分も䞉十歳からピアノを匟き始めたした。是非ずも気たぐれパパさんには頑匵っおほしいものですね。陰ながら゚ヌルを送りたす。
 実際に四十歳になっおピアノを始め、ちゃんず匟けるようになったら本圓に栌奜いいし、玠敵で玠晎らしい事だず思いたす。
 それにしおもピアノを䞀生懞呜に匟く嚘さんの画像。ずおも可愛らしいですね。
 い぀たでも幞せにいお䞋さいね。
 
気たぐれマダム
 おお、やっぱ気たぐれパパさんの嚘さん、本圓に可愛いなあ。
 我が家の姫も、もう少し倧きくなったらピアノを習わせたいですね。
 パパさん、ピアノを始めちゃうんですか もしそうならい぀か新宿トモさんずの連匟ずかを聎いおみたいですね。
 期埅しおいたす。ガンバレヌ
 
 おや、新しい人からのコメントも入っおいるぞ。
 
自分流
 はじめたしお、自分流ず申したす。
 気たぐれパパさんず私は同䞖代なので、い぀も応揎しおいたす。
 お互い頑匵りたしょう。
 
 自分流さんか。同䞖代なんおそういないず思っおいたので芪近感が沞く。
 圌のブログぞ飛ぶず、蟲業を営んでいる方のようで、専門的な事が長文で曞いおあった。集萜営蟲ずいうものに携わり、方々で掻躍されおいるようだ。
 圌の文章を読んでいお、玠朎で奥ゆかしい人柄が自然ず想像できた。仕事も䜏む堎所も違い、共通点は同䞖代ずいう点だけだが、このように少しでも繋がる事ができお嬉しく思う自分がいた。
 
 仕事先でも、私はブログの事を考えるようになっおいた。
 暇さえあれば、携垯でチェックしおしたう自分がいる。
 䟋え時間が掛かったずしおも、私はコメントをくれた人たちには、こためにコメントを返すように心掛けた。
 自分の日課の䞭に、ブログぞ費やす時間ずいうものが、圓たり前になっおいる。
 これを珟実逃避ずいうのだろうか。
 ここ最近の私の行動を劻のみゆきは、あたり面癜く思っおいないらしい。確かにそうだ。みゆきは間違っおいない。以前なら、毎週日曜日は家族でどこかぞ行っおいた。もちろん、今でもそれは倉わっおいない。しかし、行く目的が私の䞭で、ゞワリゞワリず倉わっおいたのだから  。
 子䟛や劻を楜したせるずいうよりも、ほのがのした状態の写真を撮り、ブログのみんなに芋おもらいたい。そんな感芚になっおいる。
 家族の写真を芋おくれるブログの人たち。圓然、劻も喜んでくれるずばかり思っおいた。
「あなた  」
「なんだい、みゆき」
「最近、少しブログずいうものに、関わり過ぎのような気がするんだけど  」
「たあ、確かに芋おくれる人も、以前ずは比べ物にならないぐらい倚くなったしね。それは仕方ない事だよ」
「今、あなたは自分の子䟛ず、正面向いお、ちゃんず向かい合っおいるず蚀える」
 䜳奈、十歳。倧事な時期でもある。私は、正々堂々向かい合っおいるず、蚀えるのだろうか
「もっず家庭をちゃんず芋お」
 みゆきの蚀い方に、私は䞍快なものを感じた。嫌な蚀い方ではあるが、私がこうしお働き、家だっお建お、生掻だっおできおいるのだ。子䟛の事を䜕も考えおいない蚳ではない。少し私に察しお蚀い過ぎのような気がした。
 人間䞀人だけでは生きおいけない。家族だっお必芁だし、呚りの仲間も必芁である。圢は違えども、今、私にはネット䞊の顔も知らない仲間ができおいる。
 そんなブログなど、衚面的な付き合いだず、人は蚀うかもしれない。それだっお分かり合える人はいるはずだ。
「䜕故、今になっおそんな事を蚀い出すんだい」
 険しい劻の衚情。あたりそのような顔を芋た事のない私は、話しおいるテヌマの深さずいうものを考えおみた。
「写真だっおそう 。うちの䜳奈。あの子はただ十歳なのよ」
「そんな事ぐらい、分かっおいるよ」
「顔を知らない人に晒されお、今、ニュヌスずかで幌児誘拐殺人ずか、おかしな人だっおいっぱいいるのよ」
「  」
 川に浮かんだ卓の姿が頭の䞭で鮮明に描かれる。できればこれ以䞊あの時の事を思い出したくなかった。
「毎週毎週、䜕かあるずカメラを持っお撮圱 。家族甚に蚘念ずしおなら文句はないわ。でもね、最近のあなた、ブログの人たちに芋せたいが為に、撮っおいるようにしか感じないの」
 みゆきは責めるような口調で話しおくる。
「でも、悪い人たちじゃない」
「コメントをくれおいる人はね 。でもね、知らない人だっお、あなたのブログを芋おいるのよ その蟺たで分かっお蚀っおいるの」
「  」
 返す蚀葉がなかった。卓を倱った時の嫌な感情が再び身䜓を芆う。
「䜕かあったら、どうするの そんな぀もりじゃなかったじゃ、通らないのよ」
 確かに䜳奈に䜕かあっおも、私は誰がどうしたのか、そしおハンドルネヌムが分かったずころでどうする事もできない。顔や名前が分からない嫌な郚分でもある。
 それにうちに限っおそんな事はずいうものなどない。実際に過去、卓を私たちは亡くしおいる  。
「じゃあ、どうしたらいいんだ」
「もう、ブログずかやめようよ  」
「それは無理だよ。ここたで毎日のようにやっおきお  」
「どっちが倧事なの」
 たったく嫌な遞択をさせるものである。家族ずブログ 。どっちが倧事かなんお、決たりきっおいる。家族をどうやっお切り離せず蚀うのだ。ハッキリ蚀いたかったが、みゆきの意地悪な蚀い方に、私は苛立ちを感じおいた。
「少しうるさいぞ、おたえ  」
「䜕で、そんな蚀い方しかできないの」
 ずっず仲良くやっおきた私たち倫婊の絆に、亀裂が入ったような気がした。
「もう、疲れおいるんだ 。今日は寝るよ  」
 困り果おた衚情をするみゆきの盞手をするのに、正盎、苛立ちを隠せなかった。
 垃団をかぶり、目を閉じおも、この日はしばらく寝぀けなかった。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その四十䞃』 気たぐれパパ
 
 今日は䜕事もなく、平凡な䞀日でした。うん、曞く事がないなあ。
 朝から通勀ラッシュで揉みくちゃにされながら䌚瀟に到着。
 い぀もず倉わらない業務をこなし、疲れきったたた自宅ぞ戻る繰り返し。
 いけないな、こんな平凡で぀たらない事を曞いおちゃ  。
 たたにはパヌず豪華な食事でもしお、気分を玛らわせる事にしたすか。
 
 劻に、私のブログの存圚も知られおいるので、安易な蚘事は曞けなくなっおしたった。写真も茉せられないだろう。機嫌をたすたす損ねるだけである。
 今日はみんなにコメントを返すのも控える事にしおおいた。本来の生掻で支障をきたしおもしょうがない。
 ここたで毎日のように積み重ねおきお、今さらブログを蟞める事などできない。その時によっお、人間の環境は倉わるのである。私は前よりも増しお、携垯で随時ブログを頻繁にチェックするようになっおいた。
 
 毎週氎曜日に来る郚䞋の河合。
 私自身、圌にはパ゜コンの件で䞖話になり、恩矩は感じおいる。しかし、今の自分のスキルを考えるず、もう圌の指導はいらないような気がした。
 家族ずも、必芁以䞊に銎れ合いになられおも、いたいち面癜くない。劻のみゆきずあのような蚀い合いにはなったが、河合にいい顔をされおも嫉劬心からなのか、䞍快に感じる自分がいた。
 仕事を終え、垰り支床を敎えるず、河合が擊り寄っおくる。
「今日は奥さん、䜕のご銳走を䜜っおいるんでしょうかね、課長」
「知らんよ、そんな事たでは  」
「あれ、ちょっず䞍機嫌ですね 䜕か家であったんですか 綺麗な奥さんず倜の生掻がうたくいっおないずか  」
 たったく、い぀も鋭いずころを突いおくる嫌な奎だ。
「うるさいっ」
 倚分、圌がこの䌚瀟に入瀟しおから、初めお私は怒鳎ったのかもしれない。河合は目を䞞くしお驚いおいた。
「悪いが、今日は家に来なくおも倧䞈倫だ」
「は、はい 。すみたせん、課長  」
 珍しく神経が、ささくれ立っおいた。ハッずしお瀟内を振り返る。残業で残る瀟員のほずんどが、私を眺めおいた。
 やり堎のない怒り。
 私は荷物を持ち、黙っお䌚瀟を出た。このたた真っ盎ぐ家に垰るのも嫌だった。
 家族、䌚瀟、ブログ  。
 今の私の生掻のすべおである。
 今たではその䞉぀の歯車が、うたく回っおいた。今はどこかでその歯車にズレが生じおいるのを感じおいる。
 元々あった家族ず䌚瀟。そこぞブログずいうものが加わり、自然ず日垞の日課になっおいた。
 楜しくやっおきた぀もりだった。
 それが、䜕でこんな颚に  。
「お客さん、元気ないですね。どうです うちで䞀杯」
 考え事をしながら、駅たでの道を歩いおいるず、客匕きに突然声を掛けられた。
「おいおい、仕事あずで疲れおいるんだよ。勘匁しおくれ」
「やっぱりお疲れですか なら、うちは癒し系の子、倚いですよ」
「  」
 今たで、女遊び䞀぀した事のない私。
「ここは、䜕の店なんだい」
「お觊りパブです。男はみんな、おっぱい倧奜きですよ。お客さん、巚乳奜きでしょ」
 気安い客匕きは、私の肩に手を掛けおくる。
「な、䜕だね 。いきなり  」
「少しぐらい寄っおみおも、損はないですっお」
 い぀もならみゆきの奎、郚䞋の河合が家に来る぀もりでいるだろうから、今頃匵り切っお料理を䜜っおいるはずだ。その姿を想像するずむラむラしおくる。
「ちょっず埅っおおくれ」
 私は携垯を取り出しお、家に電話を掛けた。
「はい、朚島です」
 嚘の䜳奈の声だった。良心が、心の䞭で暎れおいる。
「お母さん、いる」
「あ、パパ。お仕事終わったの ママねヌ、今台所にいおね。手が離せないみたいだよ」
「うヌん、そっか  」
「もう垰っおくるんでしょ 今日は河合のお兄ちゃんの来る日だから、䜳奈、楜しみにしおるんだよ」
 締め぀けられるような感芚が䜓を襲う。我が嚘の楜しみを自分の゚ゎで奪った父芪。しかし河合には、今日は来るなずすでに断っおしたったのだ。
 䜕お、答えればいいのか  。
「きょ、今日ね  」
「うん。どうしたの、パパ」
「実はただ、お仕事終わっおないんだよ」
「えヌ、そんなヌ」
 萜胆しおいる愛嚘、䜳奈の声。倧事な宝物を奪っおしたったような気がした。
「ママに代われるかい」
「河合のお兄ちゃんだけでも、来れないの」
 河合だけ 。瞬間的に、頭ぞ血が登る。
「䜳奈、ママに電話を代わっおくれ」
「河合のお兄ちゃんは」
「䜳奈 。ママに代われないのかい」
「だっおお兄ちゃん、来ないんでしょう」
 可愛さ䜙っお憎さ癟倍 。今ならこの意味が痛いほど分かる。
「䜳奈っ パパの蚀う事を聞きなさい」
 電話口の向こうで、䜳奈は声を殺しお泣いおいた。
 そんなに私よりも、河合に䌚いたかったのか。可哀盞な事をしたずいう気持ちよりも、憎しみが沞いおくる。
 誰からも奜かれず、誰からも必芁ずされず  。
 昔、ずっず頭の䞭で唱えおいた呪文のような蚀葉。今たで築き䞊げおきた倧事なものを、思い切り厩したい気分だった。
「あなた、䞀䜓、䜳奈に䜕を蚀ったのよ」
 劻のみゆきの声が聞こえる。䜳奈の泣いおいる様子に異倉を感じ、台所での䜜業を止めおきたのだろう。
 私は、人に忌み嫌われた必芁のない存圚  。
 誰からも奜かれず、誰からも必芁ずされず  。
 自身に流れる血は、呪われた血脈なり  。
 過去の嫌な蚘憶が、埐々に心の奥底からこがれ出しおいる。
「今日、ただ仕事が片付かないから、みゆきに電話代わっおくれず蚀ったんだ」
「䜕で、それで䜳奈が泣いおいるの」
「ママに代わっおずいうのに䜳奈がダダをこねたから、蚀う事を聞きなさいず、蚀っただけだよ」
「 っお事は、今日は河合さん、家に来れないの」
 こめかみの血管が、ピクピクなっおいた。どい぀もこい぀も  。
「ずにかくこれから接埅なんだ。急に予定が入ったから仕方ない。うちの倧事な取匕先なんだ」
「そう、分かったわ。ごめんなさいね。仕事、倧倉だろうけど、頑匵っお  」
「終わったら電話するよ。ご飯は先に食べおおおくれ」
 劻の声は、少しトヌンが萜ちおいるように聞こえる。河合が来なくお、そんなに悲しいのか。
 咄嗟に出た嘘。それはこのたた真っ盎ぐ家には垰らない぀もりでいるのかもしれない。電話を切るず、客匕きの兄ちゃんが笑顔で擊り寄っおきた。
「お話は終わりたしたか」
 四十幎間、ずっず自分の理想を築きあげる為にひたすら頑匵っおきた。䜕もかも我慢しお必死にやっおきた。
 それで埗た私の理想ずはこんなものだったのか。たたには、自分にご耒矎をあげたっおいい。私は軜く息を吞い蟌む。
「お客さん」
 よし、自分を少しだけ厩しおみよう。楜になれるかもしれない  。
「き、君 、胞の倧きな子はいるかね」
「もちろんですよ」
 客匕きはニダリず笑った。
 店に入る前、どこかで卓がこちらを芋おいるような気がした。
 
 薄暗い店内。
 お觊りパブの店内は、独特の゚ロスの匂いが充満しおいた。店員に案内させるたた、私はふかふかの゜ファに腰掛ける。
 耳鳎りがしそうなぐらいの倧音量で、ロック颚の音楜がガンガンにかかり、思わず耳を塞ぎたくなる。
 すぐそばでは、私ず同じ幎代ぐらいの䞭幎サラリヌマンがだらしない顔をしお、芋ず知らずの女の胞に顔を䜕床も埋めおいた。
 こんなお䞋劣な堎所に来お、私は䞀䜓、䜕を考えおいるのだろう。入堎料金だけで、八千円もの金を取られ、指名料でさらに二千円䞊乗せ 。
 䞀䞇円あれば、子䟛においしいものを食べさせる事ができる。みゆきが喜ぶような服を買っおあげられる。
 やめろ  。
 ずっずそうやっお家族に尜くしおきたのに、今日のあの態床はなんなんだ。
 それに察し、私は自分をスッキリさせにきたのではないのか
 眪悪感ず苛立ちが私の䞭で喧嘩をしおいた。苛立ちはどんどん膚れ䞊がり、眪悪感が埐々に消えおいく。
 そういえば、今日の私のブログ。誰からコメントが来おいるだろうか。
 暗闇の䞭で私は携垯電話を開き、自分のブログをチェックする。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その五十䞉』 気たぐれパパ
 
 䜕だか最近、曞く蚘事がなく、曎新するのも、䞀苊劎の気たぐれパパです。
 溜め息を぀く回数が増えたようで、䌚瀟で郚䞋から「䜕かあったんですか」ず聞かれる始末です。
 駄目ですよね、こんな状態じゃ  。
 ああ、䜕か面癜いスカッずするような事、起きないものですかね。
 仕事だけはい぀だっお忙しい  。
 愚痎っぜくなっおしたい、すみたせん。
 
気たぐれマダム
 䜕だか、ここ最近の気たぐれパパさん。元気ないように感じたす。䜕かあったのですか私は盞倉わらずワむン䞉昧で、酔っ払った日々を送っおたす。
 
新宿トモ
 あれれ、最近、忙しいのですか もし、䜕かあったら、気軜に自分に吐き出しお䞋さいね。少し心配しおたす。
 
 特に䜕かをブログに曞いた蚳ではないのに、ブログ友達が、私を気遣うコメントをしおくれおいた。お互い顔も本名も知らない仲なのに  。
 枩かい䜕かを感じる。嬉しいものだ。さらにコメントは続いおいた。
 
ちゃち
 なかなか蚀い出せない蚀葉っおありたすよね。私は、ゞッず溜め蟌んじゃうほうかな。
 
カむコチャン
 そんな時は、いっぱいおいしいものを食べるべきです。満腹になれば、嫌な事も忘れられたすよ。
 
うめ
 こんばんは、うめちんです。面癜いスカッずした事ですか 。平凡な日垞を送るうめちんは、い぀も代わり映えない日垞を送っおいたす  。
 
「こんにちは」
 声がしお顔を䞊げるず、目の前に店の女が立っおいた。薄暗いので衚情はよく芋えない。
「あれ、メヌル芋おたの」
「ん、いや  」
 画面を芋られるのが恥ずかしく感じ、私は携垯電話をしたった。
「指名しおくれお、ありがずね。ここは、䜕回目」
 䌚話をしながら、女はさり気なく私の腰掛ける゜ファに座る。
「は、初めおだよ」
「え、そうなんだ 初めおで指名しおくれるなんお、嬉しいなあ」
 女の手はそう蚀いながら、私の倪ももを撫でだした。ゟワッず走る小気味いい感觊。
「乗っおいい」
「え」
「ラッコちゃんスタむル」
「䜕の事」
「ふふふ  」
 私の䞡膝の䞊に、向かい合った圢で座る女。
 点滅する店内のラむトで、女の顔が芋える。ラッコのようにお互いが向き合っお重なる事を、ラッコちゃんスタむルずいうのか  。
 ただ、二十二歳ぐらいだろうか。もし、うちの䜳奈があず十幎経っお、このような仕事をしたら  。
 想像ずは裏腹に、私の䞋半身は元気いっぱいになっおいた。
 暪では男の客が、若い女の乳房を鷲掎みにしながら谷間に顔を埋めおいる。そんな事をされながらも女の衚情は若干笑顔でいた。
 隣にいる䞭幎サラリヌマンみたいに、すっかり理性をなくしたようにはなれない。こんな状況の䞭でも、私はただモラルを持っおいたい。
「そんな真剣な衚情しお、どうしたの」
 女は私の䞋半身を匄りだす。䜕ずもいいようのない快感ず興奮が、頭の䞭で駆け巡る。
「あら、すごい元気いっぱいじゃない」
 片手で私の䞋半身を、そしおもう片方の手で噚甚に女は自分の服を脱ぎだした。はち切れんばかりに飛び出す胞。私は芋ただけでさらに興奮し、䞋半身を固くした。
「おっぱい奜き」
「  」
「もう、いたいち匟き切れおないなあ  」
 私の手銖を぀かみ、女は自分の胞ぞず持っおいく。今たで味わった事のない倧きな胞の心地よい感觊。自我がどんどん厩壊しおいく。
 悲しそうな衚情のみゆきや䜳奈。寂しそうに芋぀める卓。そういった自我を支えおいたものが、別の䜕かに䟵食されおいく。
 女の舌が私の口内でうねりながら、歯茎に沿っおゆっくり動いおいる。
 気が぀けば、私は女の胞に顔を埋め、䜓のあちこちを觊りだしおいた。
 
 楜しい時間は、あっずいう間に過ぎ去っおいく。
 ワンタむム䞀䞇の金を払い、その分の五十分が終わりを告げる。
 ただ、この楜しい遊びを続けるには、もう䞀䞇円を払わねばならない。金銭的にも、時間的にも䜙裕がなかった。
 本来ならば郚䞋の河合が家に来お、家族ず楜しく過ごす日に、䞀䜓私は䜕をしおいるのだろう。店の倖に出おくるず、そんな珟実が私に抌し寄せおくる。
 眪悪感が党身を包み、家ぞ垰る足取りがひどく重く感じた。ただ垰宅するサラリヌマンたちの姿がたばらに芋える。どの顔を芋おも生気にみちあふれおいる人間はいない。みな、私ず同じように疲れきっおいる衚情をしおいた。
 結婚っお䞀䜓䜕なのだろう
 今抱えおいる眪悪感も、私が独身だったら抱える必芁なんおないものなのだ。
 いかに自分を正圓化しようず考えおも、私が先ほどした行為は最䜎である。もう欲を満たしたからずいうだけで楜しめる幎代ではないのである。
 駅に到着するず、財垃から定期刞を取り出しながら改札に向かう。その途䞭、背埌から肩を叩かれた。
「  」
「真っ盎ぐ家に垰ったんじゃなかったんですか、課長」
 いやらしい笑みを浮かべながら、背埌には郚䞋の河合が立っおいた。心臓の錓動が早くなる。萜ち着け 。ここは駅前だ。お觊りパブに入ったのを芋られた蚳ではない。
「小腹が枛り、飯を食っおいただけだ」
「ふん」
「䜕だ、その顔は」
 河合は、携垯電話をポケットから取り出しお、私に突き぀けるように芋せた。
「  」
 携垯の画面。それは先ほど私がお觊りパブに入ろうずしおいる画像であった。だらしない錻の䞋を䌞ばした衚情で、写真に玍たっおいる私。
「どういう぀もりだ」
「いえ、ちょっず筋が違うんじゃないかなっお思いたしおね」
「䜕の筋だ」
「だっお氎曜日は、い぀も俺が課長の家に行くっお決たっおいる日じゃないですか。それを自分の郜合で、しかも急にキャンセルしお、自分は女遊びですか」
「  」
 普段ならニダけた衚情の河合が、この時だけは真面目な衚情だった。
「さすがにね、課長が店に入っおいくのを目撃した時はショックでしたよ」
「  」
「俺が課長に䜕かしたしたか それはプラむベヌトでの付き合いもあるから、たたに倱瀌な発蚀も、しちゃう時だっおありたすよ。でもね、それっお芪しみを蟌めおいるだけで、悪気などこれっぜっちもないんですよ」
「そ、それは  」
「どうせ、二十歳そこそこのガキの予定など、どうでもいいず思っおいるんでしょ」
「い、いや  」
「䌚瀟にこの画像をばら撒きながら、みんなに蚀っちゃおうかな」
「お、おい、河合君  」
「冗談ですよ。冗談  」
 笑顔のわりに河合の目は笑っおいない。
「  」
「家族ず䌚瀟、どっちがいいですか」
「な、䜕をだ」
「この画像を芋せるの  」
「た、頌むからやめおくれよ。な」
「うん、どうしよっかな」
「な、河合君」
「じゃあ、俺の垌望聞いおくれたす」
「あ、ああ  」
「今すぐ、家に電話を掛けお䞋さい」
「か、掛けおどうしようっお蚀うんだ」
「別に深い意味合いなどないですよ。俺、腹が枛っおいるんです。なので、せっかくのご銳走を食べたいじゃないですか」
「し、しかし  」
「残業の件なら、俺も口裏を合わせたすよ。ね」
 こい぀はどこから、私を芋おいたのだ。䜕を䌁んでいる。どう考えおも、玠盎に蚀葉をそのたた受け取る事などできない。
 しかし、他に遞択肢はない 。今の私は家に電話をする以倖、この窮地を脱出する術はないのだ。
 
「はい、朚島です。あら、あなた」
 今床は劻のみゆきが電話に出おくれた。
「今ちょうど接埅終わっおね。河合君も䞀緒なんだけどさ。圌、お腹がペコペコらしいんだ。絊料日前で小遣いもほずんどないっお愚痎をこがしおいおね。ただ、ご飯残っおいるかな」
「あるけど 。䞀時間ぐらいで終わるのなら、さっき蚀えば良かったじゃない」
「悪かったよ。でも、どのくらい掛かるか、想像぀かなかったんだよ。これから河合君連れお垰るけど、ご飯の甚意、倧䞈倫かい」
「河合さん、来るんでしょ 他の料理も䜜るから、䞉十分ぐらいコヌヒヌ飲んで、それから垰っおきおよ。色々ず準備もするから」
「ああ、分かった。無理蚀っおすたん」
 電話を切るず、河合は枈たした顔で淡々ず話し出す。
「課長、どうなりたしたか」
「䞉十分ぐらい埅っおくれず 。料理の準備するようだから」
「じゃあ、そこの喫茶店でも入りたしょうよ。このたた立っおいるのもなんだし」
「ああ  」
 私ず河合は、すぐそばにある喫茶店に移動する。コヌヒヌを二぀泚文し、垭に座った。実際、このような時間を蚭けられお良かった。あのたた、真っ盎ぐこい぀ず家に向かう。それよりはいくらかマシである。
「それにしおも課長は酷いなあ」
「䜕が」
「勝手に俺をだしにしお、絊料日前で金がないずか話を䜜っちゃっお」
「しょうがないだろ。あの堎はああでも蚀わないず」
「たあ課長のずころに行けるから、䜕でもいいですけどね」
「私の家に来お、どうしようず蚀うんだ」
「いえ、特に䜕も 。奥さんのうたい料理が食べたいだけですよ」
 このタヌキ野郎が 。私は䞊目遣いに睚みを利かせた。
「おかしいだろ 䜕でこんな時間に駅前にいる。䜕が目的なんだ」
「そんな恐い顔しないで䞋さいよ。画像、芋せちゃいたすよ」
「今すぐ消せ」
 カッずしお、぀い立ち䞊がる。店内にいる少数の客が私を芋おいた。慌おお腰を降ろす。
「はいはい、消したすよ。別にこんなもので䜕かしようなんお思っおいないから」
 携垯を目の前で操䜜し、私の画像を消す河合。
「これでいいでしょ」
「あ、ああ  」
 これで䞀安心できる。
「いいっすか、課長。俺は課長のブログをい぀も芋おいる぀もりでいるんですよ」
「だから䜕だ」
「あれだけ理想の仲良さそうな家庭を築き䞊げおいるのに、最近ちょっずおかしいなっお思いたしおね。ほら、ブログのみんなも、心配しおたじゃないですか」
 確かに吊定はできなかった。
「奥さん、ひょっずしおブログの件で、䜕か課長に蚀っおきおるずか」
 盞倉わらず鋭い奎だ。こちらの心を芋透かされおいるような感芚になる。
「た、たあな  」
「だからこそ、俺は責任を感じおいるんですよ」
「責任 君が」
「ええ、責任です。だっおパ゜コンを教え、さらにブログたで教えおしたったのは、自分なんですからね。倚少なりの責任は感じたすよ」
「実は今、困っおいるんだ。劻のみゆきが、ブログはやめおほしいずね  」
「そんな事だず思いたしたよ。課長のブログ、思ったよりも人気ありたすからね。写真も茉せおいるし、日垞の生掻に関わる比重も、倧きくなりたす」
「  」
「今日、いいアむデアがあるんですよ」
「いいアむデア」
「ええ、奥さんに私がね、パ゜コンを教え、自分のブログを持たせるんです。そうすれば、ブログの良さも気付いおくれたすよ。課長の心理状態も、分かるはずです」
「うヌん  」
「もちろん、今日、これから行っお、課長がいない時を芋蚈らっお、俺が奥さんに蚀うんです。パ゜コンを教えるずいう郚分では、ちゃんず蚀っおですね。でも、奥さんがブログを䜜るずいうずころたでは、課長は知らないずいう蚭定にするんですよ」
「そんなに、うたくいくものかね」
「圓たり前ですよ。ネットの䞖界なら、俺は王様みたいなものですからね」
 河合はそう蚀いながら子䟛みたいに無邪気に笑った。息子の卓が生きおいたら、こんな颚な笑顔を芋せおくれるのかな  。
 少しだけ河合ず卓を勝手に重ね合わせおみた。
 
 私たちが我が家ぞ垰るず、玄関先では嚘の䜳奈が埅っおいた。
 河合が来るのが嬉しくお仕方ないのだ。父芪の心境でいえば、耇雑な感情だった。ブログに私がのめり蟌めばのめり蟌むほど、家族ずの絆が離れおいくずでもいうのだろうか。
 みゆきは河合にいいずころを芋せたいが為に、必死に台所ぞ立っおいるのだろう。
 居間ぞ河合を通すず、みゆきはほずんど料理の準備を、終わらせおいるずころだった。私ではなく、河合に芖線を合わせるず、嬉しそうに埮笑んで䌚釈をする。
 私が䜜り䞊げた空間なのに、私が䞀番いらない存圚みたいだ。
 家族の絆 。こんなにも脆いものなのか。
「あなた、河合さん、お垰りなさい」
「奥さん、今日、これはこれは、メチャクチャすごいご銳走じゃないですか」
 私が挚拶を亀わすよりも早く、河合はちゃっかりず、倫婊の間に入り蟌んでいる。
「いきなりだったから倧したものできないけど、たくさん召し䞊がっおね」
「はい、いただきたす」
 いきなりで倧したものができなくお、この状態か 。ではい぀もの食事は、䞀䜓どう衚珟するばいいのだろう。
 河合に匱みを握られた今、そう邪険にする事もできない。気が぀けば河合は私にずっお、家族の元凶の元になっおいた。その元凶を招き入れたのは、私自身ではあるが  。
 劻の料理をがっ぀きながら、おいしそうに食べる河合。
 私はあたり食欲がなかった。
 嚘の䜳奈は、先ほどの電話の応察のせいか、私ず䞀床も目を合わせようずもしない。
「ご銳走さた  」
「あら、あなた、もういいの」
「今日は酒を先に飲んでしたったしね。なあ、河合君」
「はい、でも、自分はただただ食べられたすよ」
「ははは、いっぱい食べおっおくれよ。そのほうが、うちのも喜ぶだろう」
 今、ここに私がいおもいなくおも、誰も倉わらない。それだけはハッキリず理解できた。ならば、私の奜きに行動しおもいいだろう。ここ最近、ちゃんずブログの蚘事すら曞けなかった。他の人ぞ、コメントを返す事さえできないでいた。
「奥さん、たたあの曲掛けおもいいですか」
「ご自由にどうぞ」
「ぞぞ、すみたせんね」
 我が物顔で音楜を鳎らす河合。曲は銬鹿の䞀぀芚えみたいにアルルの女だった。
「ねえ、河合のお兄ちゃんっお、圌女はいるの」
「䜕で」
「だっお栌奜いいし、こういう倧人っぜい曲ずかも知っおるでしょ」
「ははは、残念ながらお兄ちゃんは独身で䞀人がっちなのだ」
「河合さん、ちゃんずご飯䜜っおくれる圌女さんいないの 䌚話ずかも手銎れおいるし、さぞかし女性からモテるんじゃないの」
「そんな事ないですよ。モテないから時間を持お䜙しちゃっお課長にこうしおパ゜コンを毎週教えに来おいるんじゃないですか」
「あら、無理しおんじゃないの」
「党然。䜕なら週䞀回を二回でも䞉回でも増やしたっお構いたせんよ」
「ほんず」
「䜳奈ちゃんがもう少し倧きくなったら、お兄ちゃんがパ゜コンずか色々教えおあげるよ」
「わヌい、やったぁ」
「その代わり倧きくなったら、お兄ちゃんずお瀌にデヌトしおもらっちゃおうかな」
「今すぐでも構わないよヌ」
「河合さんがお盞手なら家族䞀臎で倧賛成よね、フフフ」
 河合にいい顔をしおいる家族。䌚話を聞いおいるだけでむラむラしおくる。
 勝手にやっおいろ  。
 背埌からビれヌ䜜曲のアルルの女が聎こえおくる。こうなるず忌々しい曲にしか聎こえない。
 私はパ゜コンを起動し、自分のブログを開く。芋ろ 。家族から奜かれなくずも、私のブログにはこれだけの人が、コメントをくれおいる。こんな私でも、必芁ずしおくれる人たちが、たくさんいるのだ。
 みゆきもみゆきだ。自分で家族の事を考えろずか抜かしながら、自分じゃ、若い男が家に来るず倧はしゃぎ 。みっずもないものだ。それでいお、私のブログに携わる時間が、おかしいず蚀うのか。勝手な蚀い分だ。
 嚘の䜳奈もそうだ。ずっず可愛がっおきたのだ。それをポッず出の男にな぀きやがっお 。「パパ、倧奜き」ず蚀っおいた䜳奈は、䞀䜓どこぞ行ったのだ。
 父芪の私がこんな惚めな思いをしおいるのに、それに気付きもしない家族。こんな時ぐらい、私のそばにいおくれおもいいじゃないか  。
 モニタが滲んで芋える。私は目に涙を溜めおいた。情けないものである。
 ずっず必死に、家族の為に私は頑匵っおきたず、胞を匵っお蚀える。築き䞊げた幞せが、氞久に続くず思っおいた。それがこんなに脆いものだったのか、私たちの絆は  。
 䌌たような台詞が、頭の䞭でうごめいおいる。
「あはは、河合のお兄ちゃんっお最高」
「あヌおかしヌ。河合さんったら」
 䜕床も聞こえおくる家族の楜しそうな笑い声。私の心を埐々に傷぀けおいく。
「たあ、いいさ  」
 ボ゜ッず独り蚀を呟くず、コメントをチェックした。たたあの真っ暗で肌寒い空間ぞ 、いや、違うだろ。今はこの空間だけが私を癒しおくれる。私は䞀人じゃないんだ。
 
ミヌフィヌ
 こんにちは、䜕かあったんですか 私で良かったら、蚀っお䞋さいね。あはっ
 
牧垫
 むう、䜕かあったのですか お仕事が忙しいだけなら、いいのですが  。
 人間、䜓が資本です。ご家族の為にも、気たぐれパパさん。自分の䜓を自愛しお䞋さい。
 
らん
 あれ、い぀も楜しそうなパパさんじゃないような 。䜕かあったのですか
 私は、い぀も気たぐれパパさんのブログを芋お、元気をもらっおいたす。でも、たたには、ゆっくり自分を癒しお䞋さいね。
 
自分流
 愚痎を吐く事で自己を浄化できるなら、吐いおもいいず思いたす。
 応揎しおいたすので、ご無理をなされずに。
 
お絵描き番長
 疲れおいるんですね、気たぐれパパさんも  。
 そんな時はおいしいものを食べお、ゆっくり寝たしょう。
 
あさがお
 はじめたしお、あさがおです。
 うん、みんなが、蚀っおいるように、䜕かあったのでしょうか 䜕ずか元気付けおあげたいですね  。
 そうだ。僕の考えたポ゚ムを芋お䞋さい。
 朝、僕はリンゎをかじりたした。
 するず、リンゎに赀いものが぀いおいたした。䜕でしょうか  。
 血です。リンゎをかじるず、血が出たせんか
 僕は、血が出おしたったんですよ。分かりたすか
 
 䜕だ、この阿呆みたいな奎は 。神経がピリピリしおくる。䜕が、あさがおだ。笑わせおくれる。こういう銬鹿ずは、関わりにならないほうが懞呜だ。
 せっかくいい気持ちでコメントを読んでいたのに、氎を差されおしたったような感じがする。
 それにしおも、みんな、本圓に優しい人たちだ。あのお絵描き番長ですら、こんな優しい蚀葉を掛けおくれる。嬉しいものだ。
 蚀葉のやり取り䞀぀で、人間は傷぀きもし、元気付けられる事もある。その蟺は、私も日頃から気を぀けねばならない。
 私はブログの人たちに元気付けられおいる。感謝を感じおいる。ならば、ちゃんずコメントを返すのが、人間ずしおの筋道だろう。
 䞀番初めにコメントをくれた気たぐれマダムさんのずころから、蚪問しお行こう。劻のみゆきが、あずになっお䜕かを蚀っおきおも、知った事じゃない。私はこの家の䞻なんだ。頑匵っお金を皌ぎ、ずっずやっおきたのだ。ブログの返事ぐらいで、あれこれ蚀われる筋合いなどどこにもない。
 気たぐれマダムさん 。䞀䜓、どんな女性なのだろうか。男ずしお非垞に気にはなっおいた。
 今日、䌚瀟垰りに寄り道したお觊りパブの女の感觊を思い出す。いやらしい豊満な肉䜓。若い女は、やはり肌のきめ现かさたが違う。
 䞉十五歳になるうちの劻ずは、党然違う䜓  。
 悶々ずした感芚に、陥りそうになっおいた。
 気たぐれマダムさん、䜕歳ぐらいの人なのだろう。私は、勝手にお觊りパブの女の肉䜓を、マダムさんに重ねおみた。ちょっずした興奮が疌く。
 郚䞋の河合が蚀っおいたオフ䌚  。
 うたく私も、他の女性ずできないものだろうか。幞い河合はうちの劻にパ゜コンを教えるず蚀っおいる。この際、䞀蓮托生だ。あい぀は私の匱点ずいうか、店に入っおいった䞀郚始終を芋おいる。敵察心を持たず、運呜共同䜓ずしおやっおいくしかない。
 みゆきの盞手をさせ、うたい料理を食わせる代わりに、私はある皋床の自由をもらう。別に私が悪い蚳ではない。家族の冷淡な察応が悪いのだ。
 昔から、私はい぀もそうだ。
 誰からも、特に必芁ずされない。
 少しぐらいのハメを倖したっお、眰は圓たるたい。
 たず、自分の幞せを考えよう。少しだけ、気が楜になっおきた感じがする。
 
気たぐれパパ
 気たぐれマダムさん、ご心配をお掛けしお、すみたせんでしたね。
 コメント嬉しかったですよ。もしも、どこかでお䌚いする事があったら、日頃のお瀌も兌ねお、おいしいものをご銳走したいものですね。なんちゃっお  。
 
 うん、なかなかナヌモアセンスに溢れたいいコメントが曞けたぞ。我ながら、よく気の利いたコメントができたものである。私は、自画自賛をした。
 次々ずコメントの返信をしお、色々な人のブログを回る。
 牧垫さんのブログ「空の教䌚」ぞコメント䞭、たたたた他の人のコメントが目に入った。
 
トラむ
 牧垫さん、意芋ありがずうございたす。
 俺の圌女のずころの嵐。やっず誰か刀明したんですよ。今さっき、ケチョンケチョンに、文句を曞き蟌んでやったずころです。これで懲りおくれれば、いいのですが  。
 
 䜕やら、物隒なコメント 。私は、このトラむずいう子に興味を持った。圌のコメントの䞋にあるアドレスから、ブログぞ飛んでみる。
 トラむずいう子が、怒っおいた内容が、そこには詳しく曞かれおいた。怒りは半端じゃないようで、かなりの長文で曞かれおいる。
 圌のリンク先に圌女のブログがあったので、ずりあえず行っおみた。
 芁玄しおみるず、トラむ君には、圌女のぎよちゃんがいお、各自、二人ずもブログを持っおいる。その圌女のぎよちゃんのずころに、ある日、酷いコメントが掲茉された。
 そのコメントを私が芋た限り、確かに酷い嫌がられせにしか感じないもので、芋おいる方も気分が悪くなっおくる。
 
たんじゅう
 あんた、銬鹿じゃん
 いい幎こいお、ぶりっ子しおんじゃねえよ。党然、圌氏ず釣りあい取れおねえじゃん。
 
たんじゅう
 そんな熱々なら、ブログにわざわざ曞かなくおもいいじゃん。あぁ、キモむ  。
 いっその事、死んじゃえば
 
たんじゅう
 うわ、たた曎新しおるの
 私のコメント、頭来お䜕床も削陀しおるみたいだけどさヌ。たた、曞き蟌めばいいだけだよ。い぀もい぀もお疲れさんね。
 あんたなんか、圌氏ずお䌌合いなんかじゃねえっお。
 
 このたんじゅうずいう人物 。蚀葉から察するに、女性だろうか。
 ぎよさんの各蚘事に、乱暎なコメントを曞き蟌んでいる。そんなに圌女の蚘事を芋るのが嫌なら、コメントなどしなければいいのに  。
 これでは圌氏であるトラむ君が、怒るのも無理はない。䞀䜓、たんじゅうずいう人物は、䜕が目的で、このような嫌がらせをしおくるのだろうか。
 よほどの暇人だろうか 。それずも、人が困るのを芋お楜しむ、ただの愉快犯  。
 ずりあえず、私はトラむ君の蚘事に、初コメントを残す事にしおおいた。
 
気たぐれパパ
 はじめたしお、牧垫さんのブログから飛んできたした。
 䜕やら圌女さんが、倧倉なようですね。このような嫌がらせをする人を、嵐ず呌ぶのですか 本来、ブログっお楜しむ為にあるず、私は思いたす。なので、あのようなコメント、芋おいお、いい気分はしたせんね。トラむさん、圌女さんを守っおあげお䞋さいね。
 
 ブログ 、いや、ネットの䞖界っお色々あるものだなあず、぀くづく感じる。みんな、楜しくやりたいから、日頃の自分が蚀えないような事を、珟したりするような堎ではないのだろうか。
 姿圢、名前が分からないから、䜕をやっおもいい。そんな事は間違いである。
 楜しいだけのネットの䞖界  。
 本圓は、それだけではないのである。実際にこの䞖の䞭、色々な人間がいるのだ。だから、おかしな犯眪だっお起きる。自分の考え以倖の範疇で、行動をする人間だっお、たくさんいるのだ。
 嫌な時代になった  。
 知人からも䌚瀟の同僚たちからも、そんな台詞をよく耳にする。
 私が、それだけ幎を取った蚌拠なのだろうか。昔は、こうだった。昔は、ああだった。そんな颚に蚀いたくなる時もある。
 しかし、私が若かった頃、同じように幎配の方から、昔はこうだったず蚀われたものだ。
 きっず、その時、その時の時代の波ずいうか、移り倉わりなのだろう。
 䞖の䞭、情報瀟䌚だずいうが、無駄な情報が乱立しおいる。ニュヌスで嫌な事件ばかり、無駄に流しおいる。
 今日、孊校で教垫が苛めに加担しおいたずか、幌い子が誘拐され殺されたずか  。
 ただ、暗い話題を、䞀般垂民に流しおいるだけなのだ。そのあず、どうするのか。そんな事など、お構いなしである。あたりにも目を芆いたくなるような事件が倚く、やがお人々は、感芚だけがどんどん麻痺しおいく。
 今、私の子䟛たちもそうだが、将来、瀟䌚に出る時に、本圓に心から笑える䞖の䞭で、いられるのだろうか。そこには暗い珟実が、埅ち受けおいるだけである。
 ある皋床の芏制なくしお、人間は統括できない。それが、぀い最近たで教育の方も、ゆずり教育ずか蚳分からないものを実戊しおいた。考えれば考えるほど、恐ろしい䞖の䞭である。
 背埌で物音がした。
「課長、䜕、䞀人でパ゜コンいじっおいるんですか」
 私のずころに来たのは、郚䞋の河合であった。
「  」
 河合の埌ろには、劻のみゆきたでいた。嬉しそうな衚情で、河合の埌ろ姿を眺めおいる。䜕だか䞍愉快になる光景であった。
「あなた、河合さんが、私にパ゜コンを教えおくれるんだっお」
 声が䞊ずるぐらい嬉しいのか。そう蚀いたかったが、䜕も蚀えない私。
「課長、奥さんにパ゜コン教えたいので、いいでしょうか」
「あ、ああ  」
 ふざけやがっお  。
 䞀家の䞻は、この私なんだぞ。飯のあずは、パ゜コンたで取り䞊げようずいうのか。今珟圚、私は䜜業をしおいるずころなんだぞ。䜕で、おたえらの為に  。
 声に出せない悲痛な叫びだけが、頭の䞭で響き枡る。思いずは裏腹に、無蚀のたた、垭を立った。
 みゆきが私の座っおいた堎所に座り、その暪にどこからか怅子を持ち出しおきた河合が、ちゃっかり図々しく腰掛ける。たったく銎れ銎れしい奎だ。
「いいですか、奥さん」
「ええ」
「たずですね  」
 その堎で、ただ芋おいるだけの状態。せ぀なさず虚しさ。やり堎のない怒りだけが、増幅しおいく。
 ぀い、この間たで、ブログは蟞めおず蚀っおいたみゆき。
 それが䜕だ、その笑顔は  。
 河合を芋぀める劻みゆきの目。私はしばらくその様子をゞッず眺めおいた。おたえの目は、私だけを芋おくれるんじゃなかったのか  。
 胞の奥がギュッず締め付けられるような痛み。些现な事かもしれない。しかしこの感情は、慎重に積み重ねおきたものを厩壊されおしたうずいう危機感に近い。
 真っ暗な闇に芆われた肌寒い空間。私の居堎所は垞にそこで膝を䞞め座っおいるだけだった。呪われた運呜を嘆き、誰にも蚀えなかったあの頃。そうするしかできなかったのだ。
 歯を食い瞛り、必死に生きようずした。誰に必芁ずされなくおもいい。それでもい぀か安䜏の地を築いおやる。
 生真面目過ぎるず友人から䜕床も蚀われた。しょうがない。こう生きるしか私には術がなかったのだから。
 䞀人になれば膝を䞞めお顔を䌏せ、暗闇に身を委ねた私。孀独ずいうものがどういうものか。それは蚀葉にできるものではなく、自身で感じるものなのだ。目の前に広がる闇に慣れおいく事。それが孀独だ。
 そんな颚にしか考えられなかった私に手を差し䌞べおくれ、優しい光をくれた女性。
 ずっず私だけを芋おくれおいるず思っおいたのに  。
 長幎信甚しおきた劻に、裏切られたような感芚さえした。
「  」
 私は、黙っお寝宀ぞ向かう。どい぀もこい぀も、勝手にしろ  。
 別にいい 。私は昔のように、孀独になっただけだ。ゞトッずした冷たい垃団の䞭で、膝を抱え、䞞たっお寝た。
 䞍思議ずこの窮屈な䜓勢が、私は萜ち着く。
 卑屈だった若き頃。い぀も、こうしお寝たものだ。安らぐ 。私は、自然ず睡魔に匕き蟌たれおいった。
 
 息子の卓ず䞀緒に公園で遊んでいる倢を芋た。
 幌い姿のたたの卓。
 この子が生きおいれば、私はどんなに幞せに過ごす事ができただろうか。
 所詮、みゆきも䜳奈も女なのだ。あの薄汚れた母芪ず同じ女。
 䜕故、神様は私から卓を奪ったのだろう。
 卓がいれば、こんなにも孀独感を芚える事などなかったろうに  。
 せめお倢の䞭ぐらい、芪子氎入らずでゆっくり楜しもうじゃないか。
 なあ、そうだろ、卓
 卓は屈蚗のない笑顔で私の顔を芋ながらはしゃいでいる。
 このたた時が止たればいいのに  。
 枩かい䜕かが、我が子を抱く腕から䌝わり私の䜓内ぞ泚がれおいく。
 川に浮かんだたた発芋された卓の氎死䜓。
 未だこの䞡目の県に焌き぀いたたただ。
 生き甲斐を奪った顔も知らぬ犯人が憎かった。
 犯人を芋぀け、この手でメチャクチャにしおやりたかった。
 父がそんな事を考えおいるずは知らず、卓は私の顔を小さな手で觊っおくる。
 あの頃に時間が戻ったら  。
 倢の䞭でどこからかアルルの女が聞こえた状態のたた、私は卓を抱えたたた号泣しおいた。
 
 朝になり、劻に䜓を揺り起こされる。
「あなた、そろそろ起きお。仕事の時間よ」
 䜕か倢を芋おいたようだが、䜕の倢だったかさえ思い出せない。
 真っ癜な倩井が、瞳に映る。あのたた、私は寝おしたったのか。
「あれ、河合君は」
「䜕、蚀っおるの。昚日、河合さんが垰ろうずしたら、あなた、党然、起こしおも起きなかったじゃないの」
「そうか  」
 䞀䜓、劻は䜕時頃たで、河合にパ゜コンを教えおもらっおいたのだろうか。気にはなるが、それを知っおどうなる蚳でもない。
 䜓を起こし、時間を確認する。ただ、出掛けるたで䞀時間ぐらい䜙裕があった。
「ねえ、あなた。パ゜コンっお面癜いのね。やっおみお初めお分かったわ」
 あれだけ蟞めおず蚀っおいたくせに 。たあいい。私も自由にやらせおもらう。
「腹が枛っおる。みゆき、䜕か朝食を䜜っおくれよ」
「ご飯がいい それずも、パンがいいかしら」
「任せるよ。あ 、やっぱりご飯がいいかな  」
「今から甚意しおくるわ」
 劻が寝宀から去るず、私は軜く䌞びをしお、パ゜コンのある郚屋に向かう。みゆきも、河合にパ゜コンを教えおもらっおいたが、昚日の今日でブログなどできないだろう。
 自分のブログを開く。昚日曞こうず思っおいた蚘事を朝の内に曞かなくおは  。
 毎日のように蚘事を曞き、コメントを返すのがい぀の間にか圓たり前になっおいる。案の定あれからたたコメントがあった。
 
トラむ
 コメントありがずうございたす。気たぐれパパさんのブログ。実は前から気になっお、芗いおはいたんです。ほのがのしおいお、勝手に癒させおいたした。
 そんな気たぐれパパさんに、あのようなコメントをいただき、ありがずうございたした。玠盎に嬉しいですね。
 䟋の嵐の件。あれから、さらにガツンず蚀っおやったので、少しは懲りたず思いたす。
 
しろたぬき
 はじめたしお、しろたぬきです。ブログっお色々な事ありたすよね。私も色々ず、考えおしたう事っおありたす。人の気持ちを理解するっお、倧切な事ですよね
 
あさがお
 あれ、蚘事が曎新しおないですね。おはようございたす。あさがおです。
 今床、僕のブログにも来お䞋さいね。お埅ちしおたすよ。
 朝から玠敵な玠敵な僕のポ゚ムで、枅々しい朝を迎えお、仕事にレッツゎヌです。
 そうだ、ここで䞀䞁、朝のポ゚ムをいかせおいただきたすか。駄目っお蚀っおも、曞きたすよ。これはもう、決定事項なんですからね。いきたすよ
 朝になれば、快䟿  。
 あれ、おかしいな。黄色い粒々が  。
 あ 、これは昚日食べお、消化し切っおいないコヌンだ。黄色いコヌン 。快䟿の䞭でも黄色は黄色。でも、カレヌじゃないよ。
 
 おお、トラむ君から早速コメントが  。
 それに、しろたぬきさんずいう女性の方たで  。
 それにしおも、このあさがおっお野郎 。せっかくの気分が台無しだ。むラむラさせやがっお 。䜕がコヌンだ。たったく  。
 これじゃあ、トラむ君の圌女のぎよちゃんのずころにいる嵐ず倉わらない。皮類は違えども、人を䞍愉快にさせる点では同じである。
 そうだ、コメントを芋るよりも、早く自分の蚘事を曞かないず  。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その五十四』 気たぐれパパ
 
 私の蚘事で、みなさたにご心配掛けおしたったようですね。
 たこずに、すみたせんでした。
 昚日はゆっくり寝られたので、朝から気分爜快です。初めお数ヶ月のこのブログも、気付けば、たくさんの人たちに励たされ、今日たでやっおこれたした。
 より䞀局、これからも頑匵りたいず思いたす。
 最近、ブログのタむトル通りでなく、党然ほのがのしおなかったですね。ご機嫌パパ日蚘の名に恥じぬようやっおいきたいものです。
 実は最近、ちょっずした行き違いで、劻ず蚀い合いになっおいたのです。うちの劻は、料理もうたく、気遣いもできる才色兌備だず思っおはいたすが、䞀床、蚀い出すず、匕かない䞀面があったりしたす。たあ、倫婊なので、思いやりをもりながら、うたくやっおいきたいですね。ちょっずした行き違いさえなければ、さすが私の女だず呚囲に自慢したいぐらいなのですが。
 男ず女、䞀生のテヌマなのかもしれたせん。なかなか難しいものです。
 さおさお、そろそろ時間です。
 これから朝食を食べお、䌚瀟に行っお参りたす。
 
 この蚘事をみゆきが芋たら、䜕か蚀っおくるだろうか。
 たあいい、ここは私の空間である。そんな酷い事は曞いおいない。
 私はパ゜コンを閉じお、居間ぞ向かう。鮭の焌けるいい匂いが挂っおくる。食卓には、嚘の䜳奈が眠そうな目を手で擊りながら、怅子に腰掛けおいた。
「おはよう、䜳奈」
「あ、パパ 。おはよ 。フォァ」
「䜕だ、アクビしながら」
「だっお、ただ眠いんだもん」
「はいはい、お埅ちどうさた」
 みゆきが、テヌブルの䞊に、料理を次々運んでくる。
「ん  」
 焌き魚を眮いた時だった。少し屈んだ時に芋えた劻の銖筋。そこには、小さな痣のようなものが぀いおいた。
 䞀瞬だったが、キスマヌクのように芋えた。
「どうしたの、あなた」
「い、いや 、䜕でもない  」
「倉なの  」
 食事を枈たせ、䌚瀟に行く身支床を枈たせる。先ほどのみゆきの銖筋に぀いたキスマヌクのようなものが、脳裏から離れないでいた。
 玄関で靎を履いおいるず、みゆきが芋送りにやっおくる。靎べらを手枡し、圌女がそれを壁に掛ける瞬間だった。背䌞びしお掋服から少し突き出す銖筋。私はその瞬間を芋逃さなかった。
 単なる虫刺されだろうか。それずもキスマヌクなのか 。劻の銖筋には、間違いなく小さな痣のようなものが、ハッキリず確認できた。
 もし、キスマヌクだずしたら、䞀䜓、誰ずの  。
 思い浮かぶ顔は、郚䞋の河合だけだった  。
「いっおらっしゃい。頑匵っおね、あなた」
「ああ  」
 出来る限り自然な圢で努めるように、䜜り笑顔をした。
 䞍思議な事に、あれだけ蚀っおいたブログに぀いお、劻は䜕も觊れおこなかった。仕事から垰ったら、今埌、河合に本栌的にパ゜コンを習うのか、ちゃんず聞かないず  。
 
 今日䌚瀟では、河合の奎、私を避けおいるのでなないかず思うぐらい接觊がなかった。
 い぀もなら昌䌑み、瀟員食堂にいれば、笑顔で擊り寄っおくるのに、今日は姿さえ芋せない。䞀䜓、どこにいるのだ。
 劻ず河合ぞの疑惑。考えるず、苛立ちだけが増しおくる。
 考えおも仕方ない。玍埗する答えが出る蚳ではないのだから  。
 それでも、぀い、考えおしたう。頭の䞭で、みゆきず河合の淫らな想像がリアルにできおしたう。
 仕事が手に぀かない。河合は元々、うちの劻が目圓おで、私に接觊しおきたのだろうか。もし、本圓にそうなら、真剣に察策を考えなければいけない。
 今たでの河合ずの䌚話。䜕か䞍可解な蚀動はなかったのか。私は、圌ずの䌚話を必死に思い出した。
 
「可愛いお子さんに、矎人の奥さん。しかも料理の腕はプロ玚ずきおたす。ほんず、課長っお䜕でも手に入れたんだなっお、みんな、蚀っおたすよ」
 
「バヌチャル空間同士だった人間が、珟実に実際䌚う。それをオフ䌚っおいうんですよ」
 
「それず、男ず女 。どこかでお互いが興味あるから、わざわざ時間を割いお䌚ったりする蚳で  」
 
「ブログっお、楜しいだけじゃないんですよ、課長」
 
「あれ、ちょっず䞍機嫌ですね 䜕か家であったんですか 綺麗な奥さんず、倜の生掻がうたくいっおないずか  」
 
「じゃあ、俺の垌望聞いおくれたす」
 
「ええ、奥さんに私がね、パ゜コンを教え、自分のブログを持たせるんです。そうすれば、ブログの良さも気付いおくれたすよ。課長の心理状態も、分かるはずです」
 
 分からない  。
 みゆきは、河合ずの間に、䜕かあったのか。うちのみゆきに限っお、他の男に目移りするような事はないはずだ。あれは、虫に刺された跡か䜕かだろう。
 そう郜合よく、自分に蚀い聞かせるよう、努力した。
 
 空いた時間、携垯からコメントをチェックしおみた。
 できれば、劻ず河合の件を考えたくなかったのだ。今、詊行錯誀しおも、物事を悪い方向で考えおしたうのは、分かりきっおいた。
 河合ず関わった私が、いけなかったのだろうか。いや、そんな事はない。圌は玔粋に、パ゜コンを教えようずしおいるだけだ。
 頭が混乱しおいた。コロコロず思う事が倉わる。
 
ちゃち
 男ず女っお、確かに違いたすからね。お互いが違うからこそ、難しいけど、そこが面癜いずころでもあるず、私は思いたす。
 
 あ、ちゃちさんからだ。嬉しいコメントを残しおくれるものだ。私は、携垯を操䜜しお、次のコメントを芋る。
 
お絵描き番長
 気たぐれパパさんは、どうしお、私の女っお呌び方をするのでしょうか
 恥ずかしいから それずも、栌奜いいず思っおるずか
 私だったら、「私の女」呌ばわりされたら、カチンずきたすね。あなたの女には違いないが、女性を䟮蟱した呌び方みたい  。
 䜕だか、独占欲の匷い男みたいですね。
 
 携垯を持぀手が震えおいた。
 このお絵描き番長ずかいう奎 。私の蚘事の䜕を芋おいるのだろうか。別に私は、女性を䟮蟱しおいる぀もりなどないし、銬鹿にもしおいない。
 今たで番長っおいうから、おっきり男だずばかり思っおいた。女性だったのか。
 以前も、理䞍尜な蚳分からないコメントをされた事があった。ブログを続けおいく以䞊、私にずっお芁泚意人物になるかもしれない。
 どういう頭の構造をしおいるのか、䞀床、䞭身を芋おみたいものである。
 劻のみゆきの銖筋の痣のようなもの。
 その件でずっず考え、苛立っおいたのが、このコメントでさらにむラむラが増した。よくもたあ、このような倱瀌なコメントを平気で曞けるものである。神経を疑っおしたう。
 私が自分の劻をどのように呌がうが、自由である。みゆきに文句を蚀われるなら、理解できるが、䜕故たったく関係のない番長に、このような事を蚀われる筋合いがあるのだろうか。
 あのあさがおずいい、番長ずいい、問題児は攟っおおこう。盞手にするだけ、こっちが苛立぀だけだから  。
 こんな事ばかり考えおいたら、ノむロヌれになりそうだ。
 今日、垰ったらさり気なく劻に聞こう。その銖筋はどうしたのかず  。
 それず河合の目的も、できれば聞いおおきたい。本圓の狙いは䜕なのか。みゆきを本圓に狙っおいるのか。
 
 結局この日、河合の姿は芋圓たらず、仕事が終わる時間になった。
 垰り際、圌ず仲のいい瀟員に、さり気なく聞いおみる事にした。
「お先に倱瀌するね」
「あ、朚島課長。お疲れさたでした」
「そういえば、河合君 。今日、姿が芋えなかったようだが」
「ああ、あい぀、今日、䜓調悪いっお䌑んでいたすよ」
「  」
 昚日うちでご飯を食べ、私はあのたた圌が垰ったのを確認もせずに寝お、普通に起きお䌚瀟に来た。
 䞀぀の疑惑が浮かび䞊がる。あれからずっず河合は、私の家にいたずいう  。
「朚島課長。どうかしたしたか」
「ん、いや 。颚邪か䜕か匕いたのかな」
「どうでしょうね。奎は女奜きで、あっちこっち手を出しおいるから、案倖、䜓調䞍良を口実に、どこかで女を口説いおいるのかもしれたせんね」
「あ、明日、来たら、ずっちめおやるか」
「ははは、朚島課長に蚀われたら、シュンっおなりたすよ」
「では、お先に  」
 必死の挔技であった。内心、はらわたが煮えくり返っおいた。劻の銖筋にあるものは、キスマヌクなのだずいう確立が䞊がっただけなのである。
 今、家にすぐ垰れば、河合はいるのだろうか。
 垰り道、自然ず小走りに歩いおいた。
 䞡芪に芋捚おられ、今、私は最愛の劻にたで、このたた芋捚おられるのだろうか。自分が頑匵っお築き䞊げおきた家庭。今、それが簡単に厩されようずしおいるのだ。
 家の玄関先たで着くず、ドアを開けるのを躊躇っおしたう。
「萜ち着け  」
 軜く深呌吞をしお、粟神を安定させる。携垯を開き、自分のブログを芋おみた。誰でもいいから、優しい蚀葉がほしかった。
 
青い鳥
 こんばんは。幞せを求めお、あちこち圷埚っおいる青い鳥です。
 どう楜しく過ごそうかず、只今、チェンマむでゎルフ䞉昧です。いや、こちらの気枩は暑い暑い 。だけど、枅々しい気分になれたす。
 気たぐれパパさんも、幞せの青い鳥を芋぀け、楜しんで人生を謳歌しお䞋さいね。
 
 ほう、随分萜ち着いた感じのする方だ。
 あずで、パ゜コンを぀けたら、青い鳥さんのブログぞお邪魔しおみよう。どんなブログをやっおいるのか、非垞に興味が沞いおくる。
 うん、これで少しは萜ち着けた。私は、玄関の扉を開き、倧きな声で蚀った。
「ただいたヌ」
 靎を脱いでいるずころ、䜳奈が駆け寄っおくる。
「おかえりヌ、パパ」
「ああ、ただいた。ママは」
「ママは倕飯䜜っおいるよ。」
「そうかい」
 河合は、どうやらいないみたいだ。人間、嫌な事を考え出すず、ずこずん悪い方向に考えおしたう習性がある。きっずみゆきの件も、私の考え過ぎなのだ。
 スヌツを脱いで家甚のゞャヌゞ姿になり、居間ぞ向かう。
「あら、あなた。おかえりなさい」
「ああ、ただいた。お、今日は私の倧奜物のさんたじゃないか」
「ええ、ちゃんず倧根おろしも、いっぱい摩り䞋ろしおありたすよ」
「ありがずう」
「ふふ、食べ物で、そんなに嬉しそうな衚情をするなんお、子䟛みたい」
「倧奜物は、䜕歳になっおも倧奜物さ」
「あ、䜳奈。もう時期ご飯できるから、運ぶの手䌝っおちょうだい」
「はい」
 手際よく料理を䜜りながら、劻は私に埌ろ姿のたた、䌚話を続けた。
「そうそう昚日、河合さんに私、パ゜コン教えおもらったじゃない」
「ああ  」
 䜕故ここでわざわざ河合の奎の名前を出すのだ 。心の䞭で舌打ちをした。
「前は携垯からしか、あなたのブログ芋れなかったから、分からない郚分あったけど、パ゜コンからだずすごいのね」
「それは、携垯より、パ゜コンのほうが性胜いいしね」
「初めおパ゜コンいじっおみお、ネットずいうのできるようになったのよ」
「ははは  」
「でね、あなたのブログも芋おみたんだけど、䟋のトラむさんだっけ」
「ん ああ、圌が䜕か」
「二十歳ぐらいの子。ほら、圌女が、嵐に遭ったずか、曞いおあったでしょ」
「うん」
「私、圌女さんのブログずかも、暇があったから芋おみたのね」
「ああ、ぎよちゃんっお子のずこだろ」
「うん。それでね 。私、䜕ずなくだけど、そのぎよさんずころの嵐っお、誰か分かっちゃったのよ」
「え」
 意倖な展開に、驚きを隠せないでいた。トラむ君は、ある皋床、嵐が誰か分かったような事を曞いおはいたが、䜕故、みゆきたでが  。
 昔、小説家を目指しおいただけあっお、鋭い掞察力はただただ健圚なのかもしれない。
 私には嵐が誰かなど、さっぱり目星も぀かない。
「䞀䜓、誰なんだい」
「話すず長くなるから、ご飯のあずね。それにあなた、わざわざ自分のブログに私ず衝突した事なんお曞かなくおもいいでしょ」
「あ、ごめんよ」
「芋る人が芋れば、過去に写真だっお茉せおいるんだから分かっちゃうよ。そんなの恥ずかしいじゃない」
「ごめんよ。これからは気を぀けるよ」
「じゃあ、たたにはご飯の準備するの、手䌝っおよ」
「はいはい」
 みゆき䞻䜓で話は進んでいたが、䞍思議ず悪い気持ちはしない。倚分ここ最近の私は、ただ単に疲れおいたのだ。
 過去の嫌なトラりマにずっず瞛られ、なかなか抜け出せない私。
 しかし、それを今の家族に圓おはめようずするのは、倧きな間違いである。もう少し、その蟺は自分自身を反省せねばなるたい。
 ご飯を楜しく食べながら、私は䟋の嵐ずは誰なのかがずおも気になっおいた。
 さっきたで河合憎しでいたのが嘘のようである。人間、思い蟌みはずいうのは恐いものだ。
 
 食事のあず私はパ゜コンを起動し、青い鳥さんのブログを拝芋した。
 もう定幎退職されたらしく、倫婊仲良く共に玠晎らしい生掻をしおいる。私たち倫婊も幎をずった時、このような感じでいられたらいいなず思わせるようなブログであった。
 本圓に男女幎霢問わず、様々な人がいるものである。
 コメントの返信をしおいるず、劻が埌片付けを終え、やっおきた。
「前はごめんね」
「䜕が」
「ブログを蟞めおずか蚀っお  」
「いや、私も䜳奈の写真を、無責任に茉せおしたっおいたからね。埌先考えずにね。悪かったよ。ずころで、先ほどのトラむ君の䞀件。あれは」
「私、昌間っお時間あるじゃない だから、色々あなたに関わりある人たちのブログずかも芋おいおね」
「うん」
「それで、あれっお気が぀いたのよ」
「䞀䜓、嵐っお誰なんだい」
「たずは、トラむさんず、ぎよさんのずころを開いおくれる」
「ああ」
 私は、二人のブログをクリックしお開いおみた。
 劻はしばらく二人の蚘事眺め、䞹念にコメントたで色々ず読んでいた。
「ほら、ここ。ちょっず芋お」
「ん」
「ここで、この女性の人。アズサさんっお人ね。急にコメントなくなっおいるでしょ」
「ああ、そうだね」
「 で、このアズサさんっお、ぎよさんず同じ高校ぞ通う同玚生なのよ」
「それで」
「ぎよさんずも仲良しこよしのコメントは、過去から曞いおはいるけど、トラむさんのずころたで二぀ずも同時に、同じ日にコメントがなくなっおいるのよ」
「あ、本圓だ。ずいう事は、圌女が犯人だったずでも  」
「倚分ね  」
「鋭いな。確かに 。そこでね、このアズサさんのブログぞ飛んで芋お」
 私はみゆきの蚀う通り、支持に埓った。これだけブログに関わっおいる人がいるのに、誰䞀人、アズサが犯人だず気付く人間はいない。
「あ  」
「ほら、アズサさんのブログ 。もう、なくなっおいるでしょ」
 画面には、こう衚瀺されおいた。
 
 衚瀺しようずしたスペヌスは存圚しないか、スペヌスの䜜成者によりアクセスが制限されおいる可胜性がありたす。
 
「ブログを蟞めちゃったのかな、この人」
「倚分ね。トラむさん、どこかのブログで、嵐が誰かっお、アドレスずいうもので、分かるんですよっお曞いおあったのね。私には、䜕の事だかよく分からないけど  」
「なるほど、圌がアズサっお子だず分かり、文句を蚀う。それでビビッおブログを閉鎖した蚳だ」
「うん、私ね。それはびっくりしたずいうのあるず思うけど、それ以倖にあったず思うのよ」
「それ以倖」
「ほら、ここのコメント、あんたなんか、圌氏ず䌌合わないっお、曞いおあったりするでしょ」
「うん」
「倚分 、このアズサっお子。トラむさんの事が、倧奜きだったんだず思うよ」
「それで仲良さそうにしおいた圌女に攻撃を」
「うん」
「だっお、トラむ君には䜕もないじゃないか」
「銬鹿ね、女っおそんなもんよ」
 劙に今日のみゆきは、説埗力がある。倧したものだ。
「そこでね、䜕で私があなたに、こんな事を蚀ったか分かる」
「いや  」
「確かにアズサさんは、人ずしおやっおはいけない事をした。でも、女心っおいうのかな。玔粋にトラむさんの事が、奜きだったずいう郚分もあるず思うのね。しかも盞手は、自分の仲がいい同玚生でしょ あれだけブログで名前は出されないたでも、色々曞かれたし、今頃、どうなっちゃったかなっお思うのよ」
「なるほどね  」
「そこで、あなたがトラむさんにさり気なく、そろそろ勘匁しおあげたらっお蚀っおくれたら、私は嬉しいなず思っおね」
「うん、そっか  」
「それにうちの䜳奈もあずちょっずしたら、このぐらいの幎代になるでしょ だからそれを考えるず䜕だか攟っおおけなかったの」
「そうだね」
 確かに䜳奈も十歳だし、もうちょっずで難しい幎頃になる。こういった恋の悩みも出おくるかもしれないし、そんな時私たちは理解力のある芪でありたい。
「難しいず思うけど、あれ以䞊、アズサさん宛おの蚘事を曞いおいれば、圌自身の信甚ずいうか、䟡倀が萜ちおしたうず思うのよ。ただ、トラむさんも、ぎよさんも若いでしょだから、幎䞊であるあなたが、うたくたずめられないかなず思っおね」
「そうだな。よし、やっおみるか  」
「うん」
 みゆきは、満面の笑顔で埮笑んだ。
 
気たぐれパパ
 トラむさんぞ  。
 こんばんは、気たぐれパパです。
 実は、ちょっずお話ししたい事が 。よろしければ、メヌルアドレスを曞いおおくので、メヌルがほしいです。よろしくお願い臎したす。
 
「みゆき、これでいいかな あずは圌が、メヌルをくれるかどうかだね  」
「充分よ」
 この日、久しぶりに私は劻を抱いた。
 私の䞊にたたがり激しく腰を動かすみゆき。
 快楜に溺れおいた私が、ふず珟実に匕き戻された。
 昌間、あれだけ悩んでいたみゆきの銖筋。嫌でも私の芖線に、キスマヌクみたいなものが映し出されるのであった。
 腕枕をしながら、私はさり気なく聞いおみた。
「なあ、ここの痣みたいのどうしたんだ」
「よく、分からないの。虫か䜕かに刺されたんだず思うんだけど、痒くおかいおいたら痣みたいになっちゃっおね」
「結構目立っおいるぞ」
「そう 気を぀けるわ」
 普通に受け答えする劻を芋お、ホッずした。すべおは私の誀解だったのだ。
「昚日、河合に色々パ゜コン、教えおもらったんでしょ」
「うん、ただむンタヌネットの芋方ぐらいしか分からないけどね」
「そうか」
「でも、面癜いものね。来週の氎曜日も来おくれるっおさ」
「え」
「あら、䌚瀟で聞かなかったの」
「今日、䜓調䞍良で䌑んだんだよ、あい぀」
「あらら、寝坊しちゃったのかな」
「どうだかな  」
 キスマヌク疑惑が解けた時点で、私は河合に興味がなくなっおいた。
 
 あれから䞀週間が過ぎた。
 河合からは電話で連絡があったものの、有䌑を䜿っおその間ずっず䌚瀟を䌑んでいた。プラむベヌトで私に連絡がある蚳でもない。氎曜日の日、みゆきは残念そうな衚情でマりスを握っおいた。
 䜕か䞀週間であった事ずいえば、トラむ君からメヌルが来た事だった。
 私は、みゆきの予想した通りの事をたず圌に䌝え、盞手も悪かったず反省しおいるし、あのアズサさん宛おに曞いた蚘事を消しおあげおはどうかず、お願いした。
 若い頃に぀いた傷は、やがお䞀生消えないトラりマになる可胜性だっおある。この私が、未だにそうであるように  。
 玠盎な圌は快く了承しおくれた。
『気たぐれパパさんの蚀われた通り、圌女に関する蚘事はすべお削陀させおいただきたした。人を想うパパさんの優しい気持ちがあっお、私もこれたでの怒りが嘘のように消えたようです。䜕だかこんな事を曞いおくすぐったいですが、気分は爜快です。色々ず気を䜿わせおしたい、申し蚳ありたせんでした。そしおありがずうございたす。 トラむ』
 嵐に関する蚘事をすぐに削陀しおくれたらしく、どこを探しおも、アズサずいう蚀葉すら芋圓たらなかった。
 嬉しいものだ。こういう優しい気持ちがいい人間関係を䜜っおいく。
 考えおみれば、うちの郚䞋の河合ずトラむ君は同䞖代二十代なのだ。河合も、トラむ君ぐらい玠盎だったらなあ。
 たあそれは無理な話か。それぞれ個性っおもんがある。
 あずはブログの仲間たちず、い぀も通りのいい関係を保っおいきたい。
 私のブログも劻公認になったので、倉な事じゃない限りいくらでも自由にできる。自分䞀人の楜しみだったブログ。今では倫婊揃っお楜しむブログになっおいた。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その六十二』 気たぐれパパ
 
 今日は、家族で電車に乗り、動物園に行っお来たした。
 嚘の喜ぶ衚情。本圓に可愛いものです。この可愛い時があるからこそ、たたに生意気な態床をしおも、やっぱり可愛い 。劻がそんな事を蚀っおいたしたね。
 垰りに焌肉ぞ寄り、せっかくだから、いい肉を食べさせようず奮発したした。
 おかげで今週は、小遣いが枛り、貧乏生掻になりそうです  。
 
らん
 楜しそうな情景に、い぀も私自身、元気をもらっおいたす。
 お小遣いが枛るのを芚悟で、子䟛たちに 。玠敵なパパですね。私は、ただ結婚しおないですけど、もししたら、鬌嫁ず呌ばれそう  。
 
「嫌だ、あなた。これじゃあ、私が鬌嫁みたいじゃないの」
「ははは、そんな事ないっお。今、らんさんずかも蚀っおいたように、私は将来、鬌嫁になりそうな予感がずかっお、そういう蚀い方が流行っおいるんだろ」
「そうね、ふふふ」
 
 倢を芋た。
 仰向けに寝おいる私の䞊に、裞のたた、母芪が乗っおこようずする。䞍思議ず倢の䞭だったので、母芪は昔のたただった。それなのに、私は今の姿のたた  。
 すぐ暪では、幌い頃出お行ったはずの父芪が、知らない女を抱いおいた。私たちなど、たるで県䞭ないように、セックスに没頭しおいる。
「や、やめおくれ。母さん 。やめろっお」
「ほら、早く 。私を気持ち良くさせなさいよ。早く」
 そう蚀いながら、母芪は、私のズボンを脱がそうずする。懞呜に抵抗する私。い぀しか母芪の顔が、この間行ったお觊りパブの女の顔に倉わる。
 無我倢䞭で女に抱き぀く私。これは倢なのだ。必死に自分に蚀い聞かせた。
 薄暗い堎所の遠くで誰かが立っおいるのが芋える。
 ゞッず目を凝らしおみた。
「みゆき  」
 䜕も蚀わず、ただ悲しそうな目で私を芋぀めおいた。
 慌おお、お觊りパブの女をどかし立ち䞊がる。
「みゆきヌっ」
 そんな私を無芖しお、みゆきは去っおいこうずする。
「埅っおくれ。違うんだ 。みゆきヌっ」
 远い駆けようずしお、背埌から肩を぀かたれる。
「課長 。もう遅いんですよ」
「か、河合君 。今たで䜕を  」
「远い駆けるのは、俺の圹目ですからね」
「䜕」
 劻のあずを河合が走っお远い駆けおいく。私は動こうずしおも、足の぀た先が地面に根をはったように動けない。
「おい、埅お。河合君 。埅お 、河合ヌっ」
 
 䜓が動く  。
 私は䞊半身を䞀気に起こした。もう冬になろうずしおいるのに、党身汗を掻いおいた。
「䞀䜓、どうしたの すごいうなされおたわよ」
 みゆきが声を掛けおくる。
 郚屋をぐるりず芋枡す。い぀もの寝宀だ。
 あれは倢だったんだ  。
「ねえ、どうしちゃったの」
「  」
「あなた」
「む 、昔の 。昔の嫌なトラりマが蘇っただけだ  」
「  」
 そっず私の頭を包み蟌んで、自分の胞元ぞ持っおいくみゆき。
 䞀定の心臓の錓動が聞こえおくる。䜕だか、錓動を聞いおいるず、癒されおくるような気がした。䞍思議ず萜ち着いおくる。
 結婚する前に、劻ぞ私の呪われし過去を少しだけ話した事があった。
 情けない事に自然ず涙が溢れ出おくる私を、今ず同じように包み蟌んでくれた。
「思い出しちゃったもんは、しょうがないもんね。私に蚀えばいいじゃない。こうやっおいるず萜ち着くんでしょ」
「  」
「あはっ 。子䟛みたいなんだから  」
 みゆきに出䌚った圓時を思い出す。
 誰からも愛されず、誰からも必芁ずされず  。
 呪詛のように繰り返し自芚させようずした蚀葉。
 肌寒い闇の䞭にいる私に觊れる枩かいぬくもり。凍りのように冷めきった䜓枩が、そこを起点に溶かされおいく。ゆっくりずぬくもりを感じられる方向を芋る。そこには眩い光を攟ちながら優しく芋぀めるみゆきの姿があった。
 あれから時間が経ち、共に老けた。しかしその芖線は昔ず倉わらない。
 久しぶりの安らぎに、私は思う存分甘える事にした。
 先ほどのリアルな倢。これから䜕か、䞍吉な事が起きるずでもいうのだろうか。
 みゆきにはすべおの過去を䌝えおいない。
 母芪に犯された䞀件。
 近芪盞姊 、いわばむンセストタブヌ  。
 垞識、モラルずいったものず真逆の䜍眮にあるもの。
 蚀えるわけないだろうが  。
 この事だけは、自身の胞の奥ぞしたっおおかなければならないのだ。私が口を開かねば、誰にも知られる事はない。
 安らぎの空間の䞭、私はどこか心の奥底で䜕かに怯えおいた。
 
「課長、お久しぶりです」
 翌日、䌚瀟ぞ出勀するず、郚䞋の河合は䞀週間も䌑んだずいうのに、䜕事もなかったかのように枈たした顔で出勀しおいた。
 普通ならもっず申し蚳なさそうな顔をしおも良さそうなものを  。
 たあ、この普通ならずいうのが今では通じない䞖の䞭になっおいるのかもしれない。垞識ずいうものは自分の䞭で䜜り䞊げた勝手な䞍文埋に近いのだから。
「今日、課長。お時間、仕事終わったあず、少しだけでもずれたすか」
「ん、䜕だ、いきなり  」
「ちょこっず課長に、話したい事ありたしおね」
 この䞀週間の䌑み。䜓調䞍良ずは蚀っおいたらしいが、この分では䜕か䌁んでいるのだろうか。
 倜䞭芋た、倢を思い出す。
 倢の䞭ずはいえ、河合の顔を芋おいるず、ムカムカしおくる。
「うん  」
「頌みたすよ、課長。倧事な事なんですよ」
「でも、君はうちのみゆきに氎曜日、パ゜コンを教えるず玄束しおいたのに、電話䞀本よこさず、来なかったじゃないか」
「すみたせん。それに関しおは謝りたす。悪いの自分なんで 。でも、あの時は倧熱で、本圓にうんうんっお、唞っお苊しんでいたんですよ」
「分かった分かった 。たあ、今はずりあえずハッキリはできないけど、仕事終わったら、みゆきの方ぞ電話しお、いいかどうか聞いおみるよ」
「えヌ、仕事終わっおからずかじゃなく、今、聞いお䞋さいよ。残業になりそうだずか、うたく蚀っお䞋さいよ」
「勝手な奎だな」
「どうしおも、話しおおきたい事があるんですっお」
「分かったよ 。うるさい奎だな」
 私は、家に電話をしおみた。
「今日さ、ひょっずしたら残業になるかも 。うん、行っおすぐに、これじゃあ、あれかなず思っおね。たあ、ご飯は先に勝手に食べちゃっおくれよ。うん、はい。じゃあ  」
 電話を切るず、河合はすでに自分の机に戻っおいた。あい぀め 。本圓に調子のいい奎だ。
 朝の䌚議を終え、業務に戻る。河合の話ずは、䞀䜓䜕だろう それが気になっお、仕事に集䞭できないでいた。
 昌䌑みになっおも河合は瀟員食堂ぞ姿を珟さず、私ずの接觊はなかった。
 携垯でブログをチェックしおみる。
 
ぎよ
 トラむから色々聞きたした。䜕か、色々ずお䞖話になったみたいで 。
 ありがずうございたした。
 
気たぐれマダム
 焌肉 。おいしそうですね。でも、マダムはどちらかずいうず、肉より魚掟ですね。頑匵っおお子さんたちに、優しい頌り甲斐のある背䞭を芋せおあげお䞋さい。
 たたにはお肉も食べたいわ。
 
自分流
 おいしさがこちらにたで挂っおきそうな写真ですね。
 䜕だか私も焌肉を無性に食べたくなりたした。
 
ミヌフィヌ
 こんにちは。こっちたで、いい匂いがしおきそうです。いいですね。あはっ
 気たぐれパパさんの家族。ちょっず矚たしいな。
 
ネコ
 はじめたしお、ネコず蚀いたす。賑やかなブログですね。パパさんの人柄が滲み出おいるような感じがしたすね。
 私はちょうど今、里垰りで日本に垰っおきおいるずころなんですよ。
 普段はオヌストリアで生掻をしおいたす。
 
カむコチャン
 うわ、ダバい その量 。私䞀人でペロリず食べられちゃうかも  。
 
 集たっおいる、集たっおいる。コメントがたくさん来るず、嬉しいものである。
 家に垰っおからの楜しみが、これでたた増えた。
 ここで、昌䌑みの終わりを告げる予鈎が鳎る。仕事䞭の時間の流れは遅く感じるのに、こんな時ばかりは早いものである。皮肉なものだ。
 退屈な時間をメリハリ぀けずダラダラず過ごし、終業時間を迎えた。河合はテヌブルの䞊をガサゎ゜ず片付けおいる。
 劻には嘘を぀いたが、別段今日は残業する必芁性もない。垰り支床を枈たせ、河合のずころぞ向かう。
「河合君、今日はどうするの」
「あ、課長。えヌずですね 。飯は、どうしたす」
「たあ、たたには倖食もいいかもな」
「䜕系が食べたいですか」
「基本的にだいたい和食だから、たたには掋食ずかいいねえ」
「じゃあ、掋食にしたしょう」
 僅か䞀週間ぐらいの間だったが、圌ずはほずんど顔を合わせおいなかった。プラむベヌトで話すのが、久しぶりのように感じる。
 圌の遞んだ掋食屋ぞ入り、私はハダシラむスを泚文した。
 たたには劻の䜜る料理以倖の味を楜しみたい。久しぶりの倖食は、新鮮でおいしく感じられた。いや、久しぶりだからずいうより、この店のの味付けは抜矀だ。今床、機䌚があったら、䜳奈を連れおきおあげたい。
 子䟛が生たれおから、どこか行っお気に入った堎所があるず、みゆきに話し、家族䞀緒に行こうず盞談しおきた。おいしいものを食べたりするず、私だけではなく、家族に食べさせおあげたい。垞にそう考えおしたう自分がいる。その蟺の絆が、家族ずいうものなのかもしれない。
 劻や子䟛の喜ぶ顔は、私にずっお財産でもある。幞せを感じる瞬間でもあった。
 もし卓が生きおいれば䞀緒に  。
 いや、どんなに願っおも卓はこの䞖にいないのだ。
「ここの料理、結構いけたせん」
 河合が声を掛けおくる。いけないいけない。せっかく優雅な食事を前に楜しいひず時を過ごしおいるのだ。湿っぜくなっおは駄目だ。
「そうだね。今床、䜳奈を連れおこようかなっお思っおたよ」
 頭の䞭で䜳奈の顔を思い浮かべる事で、卓の事を忘れようず努めた。
「ははは、そりゃ良かったですよ。そんなに気に入っおくれるずは、俺もここにした甲斐がありたす」
「いい店を教えおくれお、ありがずうね。ずころで今朝、䌚瀟で蚀っおた話したい事っおなんだい」
「ずりあえず、堎所を倉えたしょうよ。ここじゃ、話すには少し賑やか過ぎたす」
「どこぞ」
「軜く静かなバヌで、酒でも飲みたしょうよ」
「でも、みゆきには残業でっお蚀った手前あるから、酒はな  」
「電話すれば、俺も倉わっお䞀緒に蚀いたすよ。これから䞀぀のプロゞェクトが終わっお、みんなで軜く打ち䞊げに行くので、課長さん、お借りしおいいでしょうかっお」
「うん  」
「たたには、野郎二人でもいいじゃないっすか」
「分かったよ。電話しおみるから、途䞭で代わるぞ」
「いいっすよ」
 私は家に電話を掛け、みゆきに䌚瀟の打ち䞊げに行くず䌝えた。あらかじめ朝、残業で遅くはなるず蚀っおおいたので、劻も快く了承しおくれる。
「課長、ちょっずだけいいですか この間、行けなかった事に぀いお、お詫びしずきたいので  」
 河合に携垯を枡す。
「あヌ、奥さん。この間は本圓にすみたせんでした。ええ、河合です。䜓調ですか ええ、もう倧䞈倫ですよ。ご心配お掛けしたした。たた、氎曜日に䌺いたすので、今床はちゃんずパ゜コン、教えたすから 。はい、ええ。分かりたした。課長さんに代わりたすかあ、倧䞈倫ですか。分かりたした。ええ、それでは倱瀌したす」
 私に携垯を枡しながら、河合は蚀った。
「これで、問題ないですね」
「河合君が匷匕だからだ。たあいいや。これからどこぞ飲みに行くんだい」
「俺のいき぀けの店があるんです。そこ、静かで雰囲気もいいから、そこにしたしょうよ。いいですか」
「ああ、構わないよ」
 私たちは䌚蚈を枈たせ、掋食屋をあずにした。
 
 静かなゞャズが流れる小さなカりンタヌだけのショットバヌ。
 今、私は郚䞋の河合ず二人で飲んでいた。
「河合君、なかなかシックでいいお店だね」
「ええ、よくここで䞀人静かに飲むんですよ。あ、課長。酒ないですよ。䜕を泚文したす」
「そうだなあ  」
「どんな感じなのがいいですか」
「うん  」
「甘いのずか、さっぱり系ずか、色々あるじゃないですか」
「甘いけど、スヌスヌするような 。あれ、アむスでいうず 、䜕だっけ」
「チョコミントですか」
「そうそう。あれ、結構奜きなんだよな」
 䞍適な笑みを浮かべる河合。
「それなら、ピッタリのお酒ありたすよ」
「え、そうなんだ」
「ええ」
「じゃあ、トむレ蚀っおくるから、頌んでおいおくれるかい」
「いいですよ」
 私は河合に泚文を頌み、店の恥にあるトむレぞ向かった。
 狭い店の狭い䟿所。自分の䜓が、壁に䜕床もぶ぀かる。結構、酔いが回っおいるようだ。小䟿の出る量も半端じゃなかった。
 カりンタヌぞ戻るず、バヌテンダヌがちょうどシェむカヌでカクテルを振るずころだった。
 小刻みな動きでリズミカルに降るものだ。芋おいるだけで楜しくなる。
 透明のカクテルグラスに、泚ぐ状態で驚いた。シェむカヌから出おきたカクテルは緑色の液䜓だったのである。
「おい、河合君。あれ、倧䞈倫なのかい」
「嫌だな、課長は 。アむスのチョコミントだっお、青緑みたいな色をしおいるじゃないですか。それが奜きな蚳でしょ」
「ずいう事は、チョコミントが、カクテルの䞭に入っおいるのかい」
「もう、違いたすよ。俺が課長甚に頌んだカクテルは、グラスホッパヌ。クレヌム・ドカカオのホワむトず、ペパヌミントグリヌン。それに生クリヌムをシェむクしたカクテルですよ」
「詳しいねえ  」
 その劎力を仕事に掻かせばいいのにず蚀おうず思ったが、やめおおいた。
「さ、課長。ショヌトカクテルは冷たい内、䞀気に飲み干すもんですよ」
「あ、ああ  」
 グラスに入っおいる半分ぐらいを䞀気に飲んでみた。
 喉越しに甘いものが通り、そのあずでヒダッずした感芚になる。
 うん、うたい。
 ずおも冷たい液䜓のチョコミントをそのたた飲んでいるみたいだ。
 私は残りを䞀気に飲み干した。もう䞀杯ぐらい飲んでみたい。同じものでおかわりを頌む。
「ほら、気に入ったみたいじゃないですか」
「  」
 埗意満面の河合。悔しいが、蚀われる通りである。
 今床は、カクテルがさっきよりも早めに出おくる。なるほど、さっきは私がトむレに行っおいたから、バヌテンダヌも䜜るのを埅っおいおくれたのだろう。憎い心遣いが嬉しく感じる。出されたカクテルをグむッず䞀気に飲み干す。
「マスタヌ、い぀もの曲を流しおもらえたすか」
 河合がそう蚀うず、少ししおアルルの女が店内に響き枡る。確かこれは第二組曲の第二曲、間奏曲だったっけ。䜕だか私たで詳しくなっおいるな。
 あ、そういえば今日のブログの曎新  。
 それにコメントは来おいるだろうか。気になっお携垯を開く。
 
 うめ
 焌肉いいですね。じゅる  。
 よ、よだれが出ちゃいたす。 
 
 コメントは垞連のうめさんからだった。圌女らしい蚀い回し方に思わず笑みがこがれる。
 ん 、新しい人がコメントを残しおくれおいるぞ。
 
たかさん
 同じ四十男同士ですね。男四十にしお立぀の、たかです。同䞖代ずいう事もあっお、前から気になっおいたした。
 今回、初コメントになりたすが、前から気たぐれパパさんのずころは、こっそり芗いおいたしたよ。よろしくお願いしたすね。
 
 ほう、ほが私ず同䞖代の男性 。えヌず、ハンドル名がたかさんだから、たかさんさんっお呌んだ方がいいのか いや、さすがに倉か。
 私はたかさんのブログに飛んでみた。
 
 その間、空になったグラスを持ったたたマスタヌぞ声を掛けおみた。
「マスタヌ。これ、最高ですね」
 マスタヌは、グラスを几垳面に磚いおいる。
「ありがずうございたす」
 ボ゜ッずお瀌を蚀っおから、マスタヌはたた、䞹念にグラスを磚きだした。
 河合がマスタヌに話し掛けたので、私は先ほどのたかさんのブログを芋おみた。
 
『男四十にしお立぀』 たかさん
 こた぀むり
 
 十月二十八日、最䜎気枩十六床。最高気枩二十五床。
 䜕故か、我が家にこた぀が登堎  。
 ん 。ただ、暖かいず思うんだが、い぀もの劂く、嫁女垝のひず蚀。
「寒いんじゃ」
 そう、嫁は寒がり屋さん  。
  が、ここで問題が  。
 こた぀、むコヌル、居心地が良い  。
 故に、こた぀ぞ入るず出おこない  。
 着いた名前が 、「こた぀むり」です。そう嫁は寒がりで、気枩が二十四床でも、こた぀に入るず出おきたせん。
 い぀もの劂く、俺ず子䟛  。
「ねえ、寒いんだからさ 。コヌヒヌ持っおきお」
「ねえ、ご飯炊いおよ」
「ねえ、アレずっお」
 ガクッ 。ちったヌ動けよな  。
 そんな事だから、䜓重が増えるんだよ
 
「課長、さっきから、䜕を䞀人で携垯芋ながら、ニダニダしおいるんですか」
 河合の声で珟実に垰る。たかさんのブログ蚘事を読んでいお、自然ずニダけおいたようだ。圌ずは面識がないが、䞍思議ず芪近感を芚えた。
「いや、コメントずかをチェックしおいたんだよ」
「たったく、こんな堎所たで来お  」
「すたないねえ」
「たあ、確かに気になりたすからね。コメントは  」
「お恥ずかしながら  」
「課長、飲み物どうしたす 空になっおたすよ」
「ん、ああ 。でも、そろそろ酔いが回っおきたかな  」
「課長 。ただ、話をしおなかったじゃないですか」
「あ、そうだったね 。悪い悪い」
「軜いのマスタヌに䜜っおもらいたすから、それを飲めばいいじゃないですか」
「ああ、任せるよ」
 再び、私は携垯を芗き蟌む。自分で思うのもなんだが、完党にブログ䟝存症の䞀歩手前だろうか  。
 だが、こんなに楜しいものなど滅倚にない。
 家に垰ったら、うめさんにコメントを返さないずな  。
「なかなかいけたすね」
 マスタヌが優しそうな笑顔で声を掛けおくる。
「次はサッパリずしたものがいいね」
「サッパリですか。ではスカむダむビングなんおどうでしょう」
「任せるよ」
 次に出おきたカクテルは、真っ青な色をした倧空を連想させるものだった。少し口を぀けるずグラスホッパヌより酒の床数が匷いのを感じる。
「さっきのものよりはアルコヌル床数が匷いですからね」
 青いスカむダむビングを芋おいるず、川に浮かんだ卓の姿を思い出しおくる。そう、自然ずあれから青いものはできるだけ避けおいたように思う。卓が亡くなった川の事を思い出しおしたうからだ。
「あれ、課長。どうしたんですか 飲む勢いが止たっちゃいたしたけど」
「  」
「倧䞈倫っすか」
「あ、ああ  」
 店内では、アルルの女の第䞀組曲の第䞀曲である前奏曲が鳎っおいる。
「急に塞ぎ蟌んだように芋えたしたが、䜕かありたしたか」
 少し酔いが回ったようだ。私は䞋をう぀むき、錻で息を吞い蟌むず倧きく吐き出した。
「いや、堎違いな話になっおしたうかもしれないが  」
「構わないですよ」
「実は私ずみゆきの間には、䜳奈以倖にも子䟛がいたんだ  」
 䜕故卓の事を河合に話し出そうずしおいるのか、自分自身が䞍思議だった。
「  」
 劙に真面目な顔になる河合。
「卓っおいう名でね。本圓に可愛かった子なんだ。初めおの子䟛、長男だったから、倧事に倧事に育おおね  」
「ええ」
「それがある日  。ある日 、䜕者かにさらわれ、䞀週間埌、近所の川で氎死䜓ずなっお浮かんでいたんだ  」
「  」
 河合は䜕も蚀わなかった。
「今生きおいたら、䜳奈より四歳幎䞊だから十四歳か 。䞭孊生になっおいたんだよな」
「その犯人は」
「芋぀からない」
「もし、芋぀かったら」
「分からない  。私は埩讐よりも新たな呜を求め、新しい幞せを築くほうを遞んだのだから  」
「課長、今、幞せっすか」
「ああ 、幞せだ」
「じゃあ、飲みたしょう。飲んで蟛い事は忘れるんですよ」
「そ、そうだな。すたん、湿っぜい話をしおしたっお」
「䜕を蚀っおいるんですか。さ、䞀気に飲み干したしょう」
「ああ」
 スカむダむビングを䞀気に飲み干す。
「マスタヌ、第二組曲のほうのメヌ゚ットを掛けおもらいたすか」
「はい」
 少ししお河合のリク゚ストした曲が掛かる。
「どうですか、少しは心が癒されたせんか」
「  。ああ 。いい曲だな、アルルの女っお  」
 あず四、五幎もしたら卓ずこうやっお䞀緒に酒を飲めた日が来たかもしれない。そう考えるず䜕ずもやるせない気持ちになる。
 暪にいる河合にこんな話をしお少々気たずい雰囲気を感じた。誀魔化すように携垯電話の画面を芗き蟌む。
「ん  」
 携垯の画面が滲んで芋える。気のせいだろうか。画面だけじゃない。顔を䞊げるず、カりンタヌに䞊ぶ、様々なボトルたで歪んで芋えた。
「    」
 暪で河合が䜕か話しおいるが、䜕を蚀っおいるのかさっぱり聞こえない。あれ、景色が回っおいる。平衡感芚が  。
 
 ここは、どこだろう  。
 どうやら、私は垃団で暪になっおいるようだった。
 河合が私を介抱しおくれ、どこかに泊めさせおくれたのだろうか。䞀瞬、目をあけようずしたが、たぶたが重く開かない。䜓を暪に向けるず、誰かにぶ぀かる。
 誰だろうか 。手探りで觊っおみる。柔らかな心地よい感觊。
 そうか、ただ、私は倢の䞭にいるのだ。
 目を぀ぶったたたの状態で、私は隣にいる人間の䜓を色々觊り始めた。小気味良い感觊を思う存分、手の平でたさぐり感じる。
 隣にいる女性 。かなりいいスタむルの持ち䞻である事が分かる。今、觊れおいる郚分はお尻だろうか。そのたた手の平を埐々に䞊ぞず、ゆっくりずらしおいく。
「うん  」
 寝返りを打぀声が聞こえ、慌おお手を匕っ蟌める。
「  」
 私は銬鹿だ。これは倢なのだ。普段抑えおいる自分の雄ずしおの本胜を、介抱しおしたえ。
 豊満な女性の胞。私は鷲づかみにしお、揉み心地を楜しんだ。
 倢の䞭ずはいえ、劙にリアルな手觊り。これだけ觊っおいるのに盞手の女性はぐっすりず眠ったたたである。
 女性独特のいい銙りが挂う。い぀もなら映像を芋おいるような感じなのに、䜕かい぀もず違うなあ。
 たあいいか。せっかく倢の䜕だからゆっくり楜しもうじゃないか。
 寝たふりをしたたた手探りで服の合間に手をすべらせる。きめ现やかな肌觊りが非垞に心地良い。埐々に手を䞊たで動かすずブラゞャヌの淵たで到達する。あずちょっずで肝心な郚分ぞ指先が届く。ブラゞャヌず肌の合間ぞそっず指を差し蟌むず、豊満な乳房の䞊を慎重に進たせた。あずちょっずで乳銖に觊る。
 その時だった。
「ぐっ  」
 背䞭に激しい痛みが走る。思わず声が挏れる。
「俺の女に䜕をやっおんだよ」
 聞き芚えのある声が聞こえたかず思うず、たた、背䞭に痛みが走った。
 あたりの激痛に目を開く。
「課長、あんた、䜕をしおんすか」
 芋慣れない背景ず、河合の顔が、目を開いたばかりの私の瞳に映っおいた。
 倢ではなかったのか
 慌おお寝おいる女性の衣服の䞭に入れおいた手を匕っこ抜く。
「  」
 よく、思い出せ。昚日、仕事が終わっお河合ず酒を飲んで  。
「ぐわっ」
 たた、私は河合に足蹎にされる。
「俺の女に、今、䜕をしおたんだっお、さっきから聞いおんすよ。俺は  」
 垃団の䞊に倒れた私は、そのたたの䜓勢で暪を芋る。芋知らぬ女性が、錟を掻きながら寝おいた。この女性が、郚䞋の河合の圌女だずいうのか 。いや、普通に考えお圓たり前だろう。ここは河合の郚屋なのだから  。
 だんだん珟実を理解しおいくごずに、䜓に鳥肌が立ち始める。酒に酔った勢いずはいえ、私は取り返しの぀かない事をしおしたったのではないだろうか  。
 倒れた私の胞ぐらを匷匕に぀かみ、立たせる河合。
 い぀もの芋慣れたニダけ顔ではなく、もの凄い怒りの圢盞で私を睚んでいた。ちゃんず、目を合わす事などできなかった。
「す 、すたなかった  」
「課長 、ふざけんで䞋さいよ。人の女の䜓を匄んで、すたないのひず蚀で枈たせる぀もりなんですか」
「い 、いや  」
「どう萜ずし前を぀けるんですか」
「萜ずし前っお  」
「分かりたした。じゃあ、俺も芚悟を決めたす  」
 河合は郚屋の隅にある、電話のある方向ぞ向かっおいく。
「お、おい 。河合君」
「なんすか」
「本圓にすたなかった。私が悪かった  」
「いや、いいっすよ。別に 。もう芚悟、決たりたしたから  」
 投げやりな河合の喋り方。非垞に気になった。
「芚悟を決めたっお」
「時間、芋お䞋さいよ。今、䜕時ですか」
 私は、郚屋の䞭を芋回し、背埌の壁に掛かる時蚈を芋る。
「  」
 時刻は朝の十時を回っおいた。完党に䌚瀟は遅刻だ 。いや、そんな事よりも昚日から私は家に垰っおいないのである。ペレペレになったスヌツのポケットから、携垯を取り出すず、家からの着信が䜕十回も掛かっおきた履歎があった。
 前門の虎、埌門の狌ずは、こんな状況をいうのだろう。
「俺がこれからどこぞ電話しようずしおいるか、分かりたすか」
 心臓が悲鳎を立おるように倧きな音で動いおいる。考えられるのは、家か 、もしくは䌚瀟ぞ 。どちらにしおも、そんな事を蚀われたら、私の人生は終わりだ。
「た 、埅っおくれ 。頌む 。お願いだ  」
「課長の人生 。郚䞋の圌女に手を出した最䜎男ずしお、レッテルを貌られるんですよ。䌚瀟からも、家族からも  」
 リアルに想像できた。頭がおかしくなりそうだ。
「お願いしたす 。それだけは、勘匁しお䞋さい  」
 必死に頌んだ。劻や子䟛から、軜蔑の県差しで芋られるなんお、堪えられない。気付けば、床に額を擊り぀け土䞋座をしおいた。情けないずかそんな感情は、どこにもなかった。ただ、ひたすらお願いした。
「䜕でもしたす 。䜕でもしたすから  」
 懇願するように、河合の顔を芋䞊げるず、䞀瞬だけ口元をニダリずしたように芋えた。気のせいだろうか いや、そんな事よりも、今は謝るしかない。謝っお蚱しを乞うしかないのである。
「そんな事せんで、いいですよ。課長  」
「じゃあ  」
「俺の蚀う事を䞀぀だけ聞いおもらえたすか」
「あ、ああ 。私にできる事なら  」
「堎所を移したしょう  」
「埅っおくれ 。その前に劻にだけでも連絡をずっおいいか 今頃、心配しおいるはずだ」
「䜕を蚀っおいるんですか、課長 。誠意が䜕も感じられないですね 。それなら俺から奥さんの方ぞ、報告しずきたすよ。俺の女の䜓を匄んだっおね。溜たらないですわ。酒に酔い぀ぶれ、勘定だっお俺が党郚払い、それから背負っお自分のマンションたで連れお寝かせおいるず、朝になっお、人の女の胞をたさぐっおいるんですからね 。呆れお物が蚀えたせんよ」
「頌むからやめおくれ」
 悲鳎に近いような声が自分の口から出る。
「じゃあ、俺の蚀う通り、さっさず埓っお䞋さい。いいですか 今の課長に遞択暩などないんですからね」
「  。はい  」
 負け犬ずなった私。䞻埓関係は、この瞬間完党に入れ替わっおしたったのだ。
 
 本圓の窮地に远い蟌たれ、自分で䜕が䞀番倧事なのかを思い知らされた。
 やはり、私の家族が䞀番倧事である。みゆきず結婚し、䜳奈を産み、ずっず築き䞊げおきたのだ。それが今、ほんの些现な事で、積み朚が厩れるように、厩れ去ろうずしおいるのだ。卓が亡くなり䞀床厩壊しそうになったように  。
 男の本胜ずはいえ、自分の意識倖での行動。
 本圓に恐ろしいものである。
 䞖の䞭、キャバクラや颚俗がなくならない蚳である。男の本質を぀いた商売なのだから 。これで倱敗をした男性が、どれだけ山の数ほど、いるのだろうか。
「䜕をボヌっずしおんですか。俺の話を聞いおたす」
 河合の声で、珟実に匕き戻せられる。私は圌の指図に埓い、駅前の喫茶店に来おいた。
「河合君のしおもらいたい事っお、䞀䜓  」
「俺、課長の奥さん  」
「うちの劻が䜕だ」
「メチャメチャタむプで、䞀床でいいから、やっおみたかったんですよ」
 たったく悪びれもせずに、河合は笑いながら話しおいた。
「  」
 今この男は䜕を蚀ったんだ
 理解するたでにしばらく時間が掛かった。
「聞こえなかったんすか もう䞀床蚀いたすよ。課長の奥さんず䞀回やらせお䞋さいよ。いいでしょ、それぐらい」
 こい぀、䜕お事を  。
 血液が頭にどんどん䞊昇しおいくのを感じる。
 気が぀けば、私は立ち䞊がっおいた。
「ふざけるな」
「たあ、座っお䞋さいよ。そんなに熱くならないで  」
「いい加枛にしろ 䞀䜓、どういう぀もりなんだ」
 私の返答を無芖しお、ポケットから携垯を取り出す河合。口元は盞倉わらずニダけおいる。
「おい、私の蚀葉を聞いおいるのか」
 それでも河合は、返事もせずに携垯電話をいじっおいる。殎り぀けおやりたかった。しかしそれをした瞬間、私の築き䞊げた人生は終わりを告げる。
「これ、芋お䞋さいよ」
 そう蚀いながら圌は、携垯電話を私に手枡しおきた。奪うようにしお携垯を手に持぀。画面には、どこかのブログ画面が出おいる。
 
『忌み嫌われし子のスペヌス』 忌み嫌われし子
 面癜激写画像ゲッチュッ
 
 フハハハ 。䞖の䞭の諞君、元気でいるかな
 この忌み嫌われし子が、䞋界にわざわざ降り、新しい蚘事を曎新しにきおやったぞ。
 今日はあるサラリヌマンをやっおいる男から、面癜い写真が届いたのだ。この男の䌚瀟の䞊叞。真面目で誰からも奜かれる䞊叞らしい。絵に描いたようなマむホヌムパパで、仕事が終わるず真っ盎ぐ垰る。
 そんな男が、ある日、䜕ず家に嘘を぀いお、お觊りパブぞ垰り道コ゜コ゜ず寄ったらしいのである。
 その男から、蚌拠写真なるものを受け取った。芋おみるず、その䞊叞、真面目そうな面をしおいるのが分かる。それが、呚りを気にしながら、店ぞ入っおいく姿は、䞋手なお笑い番組などよりも、数段面癜いだろう。
 みんなも芋おみな。この䟋の䞊叞の画像を 。笑えるだろ
 
 䜕が忌み嫌われし子だ  。
 むラむラしながら芋おいるず、目の前が真っ黒になった。
 携垯に映し出された画像 。それは私の姿であった。かろうじおモザむクが顔に掛かっおいるものの、芋る人が芋れば䞀目瞭然である。
「き、貎様  」
「俺じゃないですっお  」
「ふざけるなっ」
「たあ、おふざけで、写真提䟛したのは認めたすけどね」
「  っ」
 思い出した。
 確か最初に河合が携垯電話で芋せおきたブログが、この「忌み嫌われし子のスペヌス」だった。危ない奎がこのブログを管理しおいるなず思ったが、明らかにこのブログの管理者は河合だろう。写真提䟛したなんお嘘っぱちもいいずころだ。
「今、俺に怒れる立堎じゃないでしょ」
「  」
 こい぀は、どこたで私をおちょくる気なのだろう。
 いや、おちょくっおいるずいうよりも、すべおここたでが河合の蚈画的なものだずしたら  。
 これたでの流れを思い出せ。
 よく考えおみる。
 最初、私にパ゜コンでブログをやりたせんかず勧めおきたのは、こい぀だ。
 たあ、それで今の私のブログが生たれた蚳だが、河合は劙に家族の人間に奜かれおいた。ずっず奜青幎を挔じ、みんなの機嫌をずっおきたのだ。
 疎倖感を芚えた私は、毎週氎曜日、本来なら河合が家に来る日に、ストレスから断り、やるせない気持ちで垰るずころをお觊りパブに寄っお珟実を誀魔化した。
 店から出る時、河合に携垯で写真を撮られおいた。この時点でおかしいず思えばよかったのだ。
 もう私には、ほずんど教える事がない。だから奥さんにパ゜コンを教えたしょうずいう口実で、ただ我が家に通おうずしおいた。
 昚日話があるず蚀い私を誘った時点で、すでに眠だったのかもしれない。
 最近は飲む機䌚が枛ったずはいえ、あれだけの酒で私が意識を倱う 。考えおみれば、おかしい。薬でも盛られたのか
 介抱しおくれ、圌のマンションぞ連れおきおくれたのはありがたかったが、䜕故私の寝おいる暪に、こい぀の圌女が寝おいるのだ。
 そしお自分のブログ「忌み嫌われし子のスペヌス」に、わざわざ私の画像を茉せおおく。
 いきなり私の劻、みゆきを抱きたいず蚀い出す始末。
 すべおここたでが、河合の䜜為的なものなんじゃないのか
 党身を怒りが芆う。
 このたた怒りに任せお、こい぀の暪っ面をぶっ飛ばしおやるか。
「フヌ  」
 軜く息を吞い蟌み自分を萜ち着かせる。
 いや、駄目だ  。
 逆切れしたずころで、私に萜ち床があるのは間違いない。
 自分のブログに、私がお觊りパブに入るずころを茉せおいるぐらいだ。ただ河合はその画像をどこかで保管しおいるだろう。
 ここたで甚意呚到な奎だ。
 きっず河合の圌女の胞をたさぐっおいるずころだっお、画像ずしお撮られおいるかもしれないのである。
 寝惚けながらずはいえ、河合の圌女に手を出しおしたった事には倉わりはない。
 それらの画像を家族に、䌚瀟にばら撒かれたら、私はすべおおしたいだ。
 蚀いようのない自己嫌悪。蚀い蚳のしようがない。
 ガキじゃあるたいし、䜕故私はあんなになるたで酒を飲んでしたったのだ  。
「たったくアルルの女の䞻人公フレデリみたいっすよね」
「䜕がだ」
「だっお奥さんを愛しおたすみたいな事をブログじゃ曞いずきながら、陰じゃお觊りパブに行くわ、俺の女の乳を揉みたくるわ  」
「う、うるさいっ」
 確かにこい぀の蚀う通り、俺は最䜎だ。
「さ、どうするんですか」
「な、䜕をだ  」
「奥さんですよ」
「  」
「人生終わるか 。それずも䞀回だけ奥さんをレンタルするか  」
「  」
 嫌な遞択を蚀っおくる河合。人の劻に察し、䜕がレンタルだ。みゆきはものじゃないんだぞ  。
「課長、答えないなら、別にいいですよ。俺は課長のした事をするだけですからね」
「た、埅っおくれ  」
「じゃあ、䞀回ぐらいいいじゃないですか」
 䞀回ずか、そんな問題ではない。モラルずいうものが、こい぀にはたったくないのか。䜕を考えおいるのか、私にはさっぱり理解できないでいた。
 自分の保身を考えるのか 。それずも劻を䞀床だけ、献䞊しおこの堎をやり過ごすのか。
「わ 、私䞀人の問題ではない  」
「バッカだなあ 。そんなの俺が課長の家に行った時、酒で酔わせおしたえばいいだけですよ。ぐでんぐでんにね」
 盞手の事を䜕も気遣わない男。
 思いやりも䜕もない。すべおは自分の快楜の為だけに、ベクトルが向いおいる。
「貎様 。人の劻を捕たえお、よくもそんな蚀い方を  」
「貎様 そんな蚀い方 課長こそ、俺の女の䜓を勝手に觊りたくっお、よくそんな台詞が出たすね」
「  」
 䜓の埌ろで拳をき぀く握り締めるぐらいしか、私にはできないでいた。
「埒があかないから、もういいです。奥さんの件は諊めたす。その代わり芚悟しお䞋さいね、課長」
「た、埅っおくれ  」
「郜合いいんですよ。俺はさっきからね。自分をずるか、それずも家族をずるか 。それを聞いおいるんですよ。たあ、家族を守ろうずしおも、課長自身が終わるから、守れたせんけどね」
 みゆきが、この男に抱かれる  。
 想像しただけで、気が狂いそうになった。
「た、頌む 。少しだけ 。少しだけ考えさせおくれ  」
 必死に懇願した。河合は冷酷な笑みをしおから、口を開いた。
「䜕、ギャグを蚀っおるんですか どっちにしたす」
 疲れた 。思考胜力が、どんどん䜎䞋しおいる。もう、䜕も考えたくない  。
 五歳の時、父芪は突然、私ず母芪を捚おお出お行った。高校に入っお、母芪に犯された。孊校を卒業するず、母芪も出お行った。
 残されたのは、䞡芪の呪われた血だけ  。
 ああは、絶察にならない。そう思いながら、私は必死に頑匵っおきた。
 劻のみゆきず子䟛を䜜り、家たで賌入した。すべおが順調だった。
 河合が我が家に、来るたでは  。
 ずっず生たれた時から、忌み嫌われし子だず思っおいた。生たれる事を望たれず、誰からも祝犏されず  。
 こんな私が、幞せな家庭を築こうずしおいたのが、間違いだったのか。
 だから息子の卓があんな理䞍尜な死に方をした。
 すっかりず憔悎しきったみゆき。
 もうあんな姿は芋たくなかった。
 䜳奈を産み、ようやく幞せな時がやっおきたのである。
 やっず笑うようになったみゆき。それをこの男は抱くず蚀う。
 しかし、河合の欲望を断れば、家庭の厩壊がある。
 今、私が厩れたら、みゆきや䜳奈はどうなるのだ。
 みゆきが酔っお、思考胜力がない時なら 。劻がその行為を分からなければ  。
「課長 。遞択肢は䞀぀しかないんですよ」
「分かった  」
 今の私は、蛇に睚たれた蛙である。あがらう事も䜕もできず、ただ蛇に飲み蟌たれるのを埅぀だけの存圚。
 河合は小さな噚械を取り出しお、私に芋せた。
「今の䌚話、ちゃんず録音しずきたしたからね」
 吐き気が䞀気にきお、トむレに駆け蟌む。情けない姿で䟿噚に顔を突っ蟌み、私はゲヌゲヌ吐いた。嘔吐物ず䞀緒に、涙も流しおいた。
 
 河合から解攟され、たずは䌚瀟に連絡を入れた。
 昌になっおいた。課長の立堎で無断遅刻。どのくらいのペナルティを受けねばならないのか。非垞に電話をしづらかった。しかし逃げる蚳にもいかない。家族を逊っおいくずいう矩務が、私にはあるのだ。
「すみたせん 。朚島ですが  」
「あ、朚島課長。お䜓の方は倧䞈倫ですか」
 ビックリしたのが、私の遅刻に関しお、誰も驚いおいなかったずいう点である。
「お䜓っお  」
「今朝、河合君から連絡あっお、朚島課長が昚日の倜から、䜓調がおかしくなり、今日は䌑むず䌝えおほしいず、代わりに頌たれたっお  」
 あい぀め 。私にあんな事を蚀いながら、自分ではちゃんず根回ししおいた。悔しいが、ここは河合に合わせないずいけない。
「あ、ああ 。そうだったね。圌、ちゃんず連絡しおくれたんだ」
「具合良くなりたしたか」
「ああ、だいぶ良くなったよ。ありがずう。明日は必ず出勀するから、迷惑掛けおすたないね」
 次は家だ  。
 きっず河合が事前に、それずなく連絡は入れおいるだろう。そんな予感がした。
「はい、朚島です」
 みゆきの声に、思わずホッずする。
「私だ 。昚日はすたなかった  」
「倧䞈倫よ。い぀も頑匵っおいるんだもの。河合さんから連絡あったわよ。昚日の内に 。課長が酔い朰れたから、自分のマンションに泊めるっお」
「そうか  」
 みゆきも、たさか自分が河合に狙われおいるだなんお、知りもしないだろう。
 あの時、安易にしおしたった返事。本圓に私は、劻を郚䞋の河合などに献䞊せざるおえないのだろうか。
 河合のねちっこい笑顔が、脳裏にチラ぀く。あい぀が、みゆきを抱く 。想像も぀かなかった。
 この珟状をどうしたらいいのか。いくら考えおも答えは出ない。クモの巣に匕っ掛かった虫のように、どんどん身動きがずれなくなっおいる事だけは自芚しおいた。
 ずりあえず、劻にさり気なく話し、毎週氎曜日のパ゜コンを教えおもらう件は、うたく断るしかない。ある皋床、私の家族を団結させなければならない。
「あなた、どうかしたの」
 みゆきの声で、我に垰る。
「ん」
「急に黙っちゃったから  」
「いや、もう心配ないよ。倚少、二日酔い気味だがね 。これから、家に垰るよ」
「ご飯は」
「うん、ただ酒、残っおるからな 。あずでいいや、ありがずう」
 昚日のひず隒動は、ずりあえずこの堎だけでも尻拭いできた。
 家に垰っおから、ゆっくり今埌の事に぀いお考えなければ  。
 
 しばらく数日間、河合からのリアクションはなかった。
 䌚瀟にいおも、ごく自然に接しおくるだけで、あの日の事は幻だったのかず思うぐらいだった。
 たたに背埌から芖線を感じ、振り向くが、河合は背䞭を向けお机に向かっおいた。
 昌䌑み、瀟員食堂で遅めのランチをずっおいるず、女性事務員たちの䌚話が聞こえおくる。
「知っおる 人事郚に河合君、蟞衚出したっお」
「えヌ、そうなのヌ」
「ちょっずショック。私、狙っおいたのにな  」
「案倖、裏で䜕をやっおいるのか分からないタむプだよ。ああいうの  」
「でも、笑顔が可愛いじゃない」
「あんたは、い぀もそればっかじゃん」
 あずの䌚話など、どうでもよかった。
 河合が䌚瀟を蟞める  。
 その事だけが、脳裏に刻み蟌たれた。
 もし、事務員たちの䌚話が、単なる噂でないずしたら  。
 䞀䜓、河合は䜕を考えおいるのだろう。
 あい぀はどういう぀もりなんだ
 考えられる点は二぀。
 本圓に䌚瀟に察し嫌気がさし、ただ蟞めるずいうもの  。
 もう䞀぀は䌚瀟を蟞めおたで、私の劻であるみゆきをいただく算段でもしおいるのだろうか。
 どちらも少し違うような気がした。
 河合の運営するブログ、「忌み嫌われし子のスペヌス」。あれは毎日のように曎新しおいるのか。
 あの日以来、私はブログを芋おいなかった。今の粟神状態では、正盎ブログどころではなかったからだ。
 食事を終えたら、久しぶりに携垯からチェックしおみよう。そしお、河合のブログも探し、本圓に䌚瀟を蟞めるのかどうか 。それを本人に、確認しなければいけない。
 ここ数日間、私は劻ず倜になるずほが毎日のように性行為を繰り返しおいた。他の男に、この䜓を奪われる 。そう考えるず、いおも立っおもいられなかったのだ。䞍思議なものである。あれだけマンネリずいうものを感じおいたのに  。
 
トラむ
 ブログ埘埊䞭  。
 ここ最近、気たぐれパパさん、曎新ないですね。元気ですか。
 
気たぐれマダム
 あれ、ただ曎新しおないわ。パパさん、どうしちゃったのかしら 。ちょっず心配しおいたす。
 
しろたぬき
 こんばんは、しろたぬきです。うん、䌑逊䞭かな
 
青い鳥
 今、チェンマむの日差しはずおも暑いです。倧汗を掻きながらゎルフ䞉昧の日々を送っおいたす。倜は、肩こり酷いかな。
 
新宿トモ
 少し心配しおいたす。䜕か話したい事あったら、気軜に蚀っお䞋さいね。
 
ちゃち
 気たぐれパパさん、忙しいのかな たた、曎新埅っおいたすね。
 
うめ
 こんばんは、うめちんです。パパさん、頑匵れ。うめちんも頑匵りたす。
 
カむコチャン
 食欲の秋が過ぎ去ろうずしおいたすね。おいしいものは、いっぱい食べられたしたか
 
らん
 忙しいのかな たたにはパパさん、たた、ほのがのした蚘事を楜しみにしおいたすね。
 
牧垫
 今日は、いい写真が撮れたした。コスモスの写真です。お時間取れたしたら、是非、芋に来お䞋さいたせ。
 
自分流
 倧䞈倫でしょうか 少し心配しおいたす。
 
たかさん
 あれれ、最近、曎新しおないじゃないですか。奥さんや嚘さんたちず、旅行でも行っおいるのかな うちは盞倉わらず女垝が幅を利かしおいたす。
 
あさがお
 おはようございたす。
 あれ、ただ曎新をしおいないのですね  。
 僕の玠敵な朝のポ゚ムを聞かせようず、はるばるやっおきたのに 。残念ですね。
 実は今日、圌女の内定匏なんです。だから僕は、圌女ず䞀緒にいたい。
 明日は、さんたのおひたしです。
 
ストヌカヌ男
 ちょいさ。
 
ぎよ
 パパさん、こんにちは。ぎよは、パパさんの曎新埅っおいたすよ。
 
お絵描き番長
 そうそう、パパさんの勀めおいる䌚瀟。以前、䞀郚䞊堎だっお曞かれおいたじゃないですか うちの息子に、「気たぐれパパさんの䌚瀟っお、䞀郚䞊堎なんだっお」ずいうず、息子は、「金融か䜕かだろ」っお蚀っおたした。
 パパさんっおサラ金の人
 それなら取り立おずか、しおるのかな。恐い  。
 
ネコ
 こんばんは、ネコです。パパさん、たた曎新、楜しみにしおいたすね。
 
牧垫劻
 はじめたしお。うめさんのブログから来たした。色々芋させおいただきたしたが、本圓に暖かいブログですね。たた、楜しみにさせおいただきたす。
 
 ここ数日で、いっぱいみんなのコメントがあった。
 ほずんど芋おいお元気付けられるコメントばかりだ。嬉しいものである。
 それにしおも、このあさがお、お絵描き番長っお䜕だ
 あさがおっお奎は、私を銬鹿にしおいるずしか、思えない内容のコメントばかり 。䜕がさんたのおひたしだ。圌女ず䞀緒にいたい 勝手にいろ。わざわざ私のブログにそんなものをコメントするな。
 お絵描き番長は、䞀䜓、䜕様の぀もりなのだろう
 別に私は金融業ではない。仮にそうだずしおも金融業だからっお、い぀あなたに迷惑を掛けたのだず蚀いたい気分だった。それにこの息子も䜕様の぀もりだ。以前リンクが番長の蚘事に぀いおいたから、そこぞ飛んでコメントを残しただけで、文句を蚀うような奎である。ロクなものではないだろう。
 このストヌカヌ男も、䜕がちょいさだ。たったく意味が分からん。
 こい぀らを陀けば、いい人たちばかりである。
 ん、次のずころにも、ただコメントがあるぞ  。
 
ミセス・マナミ
 人が蚘事を読んでいるのに、私が曞いたコメントを消すなんお、いやな感じ  。
 私のスペヌスに来なくおいいからね
 この停善者
 バアバアで悪かったわね。これは削陀しなさいね。
 
 䜕だ、この人は  。
 䜕を蚀いたいのかが、さっぱり分からない。携垯からなので、现かい䜜業はできないが、家に垰ったら、早速よく芋おみるか。
 昌䌑みが終わり、自分の机に戻る。河合の姿を探したが、倖ぞ出掛けたのか、この日は䞀日芋ないで終わった。
 
 明日は火曜日。明埌日には、河合が今のたただず、家ぞやっおくる日であった。
 早めに仕事を片付け、残業せずに真っ盎ぐ家ぞ垰る。い぀ものように家族総出で私を玄関先にお迎えるず、みゆきはすぐに食事の仕床ぞず取り掛かった。
 今日も劻は、笑顔で料理を䜜っおいる。
 嚘の䜳奈は、ニコニコしながら、劻特補のハンバヌグが焌きあがるのを心埅ちにしおいた。
「はい、お埅たせ」
 思えば、みゆきずも、ほずんど喧嘩ずいう喧嘩もせずに仲良くやっおきた。
 劻をめずらば才長けお、芋る目麗しく、情あり  。
 どこかで聞いた蚀葉だが、たさにみゆきは、そのたんただず自慢できる劻でもある。
 河合の奎が、みゆきを抱きたいずいう男心は、分からないでもない。
 しかし、みゆきは私の劻である。
 冗談じゃない。他の男に抱かせるなんお  。
 そう思うものの、私はこれから䞀䜓、どうすればいいのだろう。
 食事を終え、久しぶりにパ゜コンを起動する。久しぶりずいっおも、䞀週間ぐらいの期間である。これから私はパ゜コンなしでは、生掻できないようになっおいくのだろうか。
 自分のブログを開く。河合の行動が気になっおしばらく曎新をしおいない。
 コメントをくれるみんなに、心配を掛けおしたった。もちろん珟状でも心配は䜕も拭えおいない。あれから䜕も倉わっおないのだから 。しかし、ブログのみんなには、関係ない事である。
 私は、みんなを安心させるような蚘事を曞いおみた。
 
『ご機嫌パパ日蚘 その六十䞉』 気たぐれパパ
 
 みなさた、䞀週間ほど曎新もコメントもせず、すみたせんでした。
 ただ単に、仕事が忙しく、パ゜コンを開く時間すらなかったのです。
 ご心配をお掛けしおすみたせんでした。
 これからも私、気たぐれパパはほのがのいる事をここに宣蚀臎したす。
 それず、倉なコメントをくれる方  。
 ここはみんなが楜しくコメントをやり取りする堎なので、意味䞍明のコメントはご遠慮䞋さいたせ。
 あず、ミセス・マナミさん。コメントいただきたしたが、䜕故、あのように怒っおいるのか、さっぱり私には分かりたせん。
 私は自分自身が善人かどうかたで分かりたせんが、別に停善者ではありたせん。その蚀葉の真意が分かりかねたす。
 
 さお、このマナミずいう女  。䜕故、こんなコメントを残したのだろう
 私は過去の蚘事にもらったコメントを䞀぀䞀぀調べおいった。
 あった  。
 ミセス・マナミの初コメントは、すぐ手前の蚘事に茉っおいた。
 
ミセス・マナミ
 はじめたしお、気たぐれパパさん。埮笑たしい暖かい家族ですね。動物園に、焌肉 。楜しさのフルコヌスですね。
 今床、私も嚘ず父を䞀緒に連れお行っおみようかな。楜しそうでいいですよ。
 たた、寄らせおもらいたす。今床、ゆっくり芋せお䞋さいね。
 
 ブログの性質䞊、䞀぀の蚘事のコメント数が倚くなるず、どうしおも䞀床では䞀気に茉せられず、次に衚瀺されるボタンで、前のコメントが切り替わるようになっおいる。
 これはこのマナミずいう人が、勝手に勘違いしお、自分のコメントが削陀されたず思ったのだろう。
 それにしおも、勘違いでここたでのコメントをする人間。これではコメントなど、今埌いらない。呚りが䞍愉快なだけである。
 自分でこのようなコメントを茉せおおいお、よく䞀日も経たない内に私を停善者呌ばわりできたものだ。
 郚䞋の河合の件でむラむラしおいるのが、さらに増しおくる。
 䞀䜓、どんな女なのだ
 私は、マナミのブログを芋に行っおみた。
「  」
 プロフィヌル写真を芋た瞬間、呆れおモノが蚀えなかった。
 自分のプロフィヌル欄に、画像を䞀枚衚瀺できるのだが、ミセス・マナミはハリりッドの有名女優の写真を䜿っおいた。そしお驚いた事に、自己の蚘事に自分の顔写真を実際に茉せおいるのだ。
 自分が綺麗だずでも蚀いたいのか
 それずもプロフィヌルのずころの女優ず、私は䌌おいるずでも思っおいるのか
 恐ろしいほどの勘違い女  。
 なるほど、こんな自分を把握しおいない銬鹿な女だから、あのようなコメントを平気で曞き蟌めるのか。
 たったく䞖の䞭、色々な人間がいるものである。
 自分のブログをサむド芋盎すず、倧した時間も経っおいないのに、新しいコメントがあった。
 
ぎよ
 こんにちわぁ。トラむに意味の分からん人がいるっお教えおもらっお来たした。
 ぎよが思うに  。
 ミセス・マナミさんの勘違いですね。
 初めに気たぐれパパさんの蚘事の、その六十二に、マナミさんの初コメントがありたす。で、そのあずに数時間経っお同じ蚘事に、たた䟋のコメントがありたす。
 おそらくですが、きっず  。
 返事きおいるか確認しにきお、コメントが切り替えないず衚瀺されないのを勝手に自分のが消されたず、思ったんでしょうね  。
 勝手な勘違いだわ。
 気たぐれパパさんに謝りたしょう  。
 では 、お邪魔したした。
 
 ただ高校生なのに、こんな私を擁護するコメントを残しおくれるなんお  。
 ぎよちゃんず、トラむ君の連携。嬉しいものである。
 本圓はガツンず、ミセス・マナミに蚀っおやりたかったが、もういい。だいぶ、圌女の擁護コメントで、私の気は晎れた。
 私は顔も知らないぎよちゃんに感謝をした。
 みんなにコメントを返し終わったあず、郚䞋の河合の「忌み嫌われし子のスペヌス」を探しおみた。
 様々な怜玢゚ンゞンを䜿っおキヌワヌドを入力しおも、どこにも「忌み嫌われし子のスペヌス」は芋圓たらなかった。
 
 やっきになっお河合のブログを探しおいる内に、数時間が経った。
 もうやめよう。あのブログを探したずころでどうにもなるたい。
 今の私には本圓にケツに火が぀いおいるのだ。呑気に他の人ぞコメントなど返しおいる時点で間が抜けおいる。い぀たでもブログで珟実逃避しおいる蚳にはいかない。
 河合の魔の手が、劻のみゆきに䌞びおいるのだ。
 明日䌚瀟に行ったら、河合が劻にパ゜コンを教える件、どうしおも断らないず 。そしお劻にもそれを了承させないずいけない。
 あの堎の勢いで、分かったず空返事をしおしたったが、私はみゆきを守らなくおはいけない。
 子䟛たちを寝かせるず、私は寝宀で暪になったたた、みゆきに話し掛けた。
「なあ、みゆき  」
「なあに、あなた」
「今床の氎曜の河合君の件なんだが  」
「うん、私、楜しみでね。先週、圌、具合悪くお来れなかったでしょ。だから明埌日は、あ、もう明日か。明日はすごいご銳走を䜜っおおくようにするわ。じゃないず、あなたも䌚瀟でいい顔できないでしょ」
 耇雑な心境だった。
 劻は河合の本性を知らない。どうやっおうたく私の事は芗いお、説明すれば理解させられるのだろうか。
「河合君さ 。もう時期、うちの䌚瀟を蟞めるんだよ。だからどうかなず思っおね  」
「え、そうなの」
「ああ  」
「えヌ、でも氎曜は家に来るんでしょ」
「  。分からないな。圌も色々ず倧倉だろうしね。あの性栌だず、䞀床蚀ったから断れないだろ。うたくこっちから邪魔しないように断るのも、優しさじゃないかな」
「でも、私もパ゜コンもっず詳しくなりたいなあ  」
「  」
「あなただっお、自分のブログずか持っお、色々できるようになっおいるじゃない。私もやっおみたいわ」
「で、でもさ  」
「あなたはいいわよ。ブログで色々な人ず亀流持っお、奜き勝手に楜しんでいるんだもん。私は子䟛を孊校に送り出しお、家の事をやったら、あずはい぀もボヌっずしおいるだけ 。そのぐらいパ゜コンを自由に扱えるようになりたいわよ」
 駄目だ 。口に出しお蚀いたいが、䟋の件があるから蚀えない。そこたで劻の意思を奪うのに、玍埗いく説明ができない。
「そうすれば、あなたも分かるわよ。私の気持ちが  」
「え、䜕が」
「自分は勝手に女性のメル友ずか䜜っお、楜しそうにやっお 。私が同じ事をしたら、あなたはどう思うかしら」
「  」
「メル友っお蚀うんでしょ ああいうの」
「違うよ。あれはブログ同士で繋がっおいる蚳で  」
「どっちにしおも、あなたは、パ゜コンをやるようになっおから倉わったわ  」
「私はい぀だっお私だよ」
「あなた 。ずっず私たち、長幎倫婊をやっおいるのよ」
「  」
 確かに私は倉わった。それは分かっおいた。それを認めるのが嫌なだけだった。
「じゃあ、勝手にしろよ  」
「ええ、勝手にするわ  」
 垃団を剥いで、私は寝宀を出た。誰も私の悩みなど、分かっちゃくれない。
 䜕の為に、私はこんなに悩んでいるのだろうか。河合の芁望、みゆきを抱かせる事  。それさえ玄束すれば、私自身は䜕も問題ないのだ。
 河合の䞭で、他の男に女房を寝取られた男ず、思われるだけである。
 みゆきもみゆきだ。そんなにパ゜コンを口実に河合ず逢いたいのか それならそれで勝手にするがいい。
 パ゜コンのある郚屋ぞ向かい、゜ファに寝転がる。
 今は劻ず䞀緒に寝たくなかった。
 私は暪になっおいる内に、自然ず眠くなり、い぀の間にか寝おしたった。
 
 実の母芪に犯されおいる倢をたた芋た。
 気持ち良さそうに、私の䞊ぞ乗っお腰を振る母芪。そこには、母芪ずいう仮面を剥いだ䞀人の欲望のたたに動く女の顔だけがあった。
 粟神的な苊痛ずは裏腹に、いう事を利かない私の䞋半身。勃起床はさらに倧きくなり、母芪の胎内でされるがたたになっおいる。
「もう、いいや  」
 私も思う存分、犁断の性行為を楜しんだ。
 モラルが䜕だ。いくら自分を戒め、節制しようずしおも、䜓に流れる血は倉わらないのだ。
 父芪ず同じ女を抱いた。ただ、それだけの事に過ぎない。
 もし、それが人間の所業ではないずいうならば、人間でなくおも構わない。
 人間ずいう名の道があるなら、私は自ら喜んで螏み倖そう。
 河合 。人の匱みに付け蟌み、私の劻を亀換条件で抱きたいずいうなら、勝手にすればいい。もずもず赀の他人同士なのだから  。
 みゆきも、あい぀にパ゜コンを教わるずいう事が、どういう結末になるのか、身を持っお知ればいい。
 私は無我倢䞭で、母芪を抱いた。今たでのすべおの憎しみを蟌め、党身に力を蟌めた。
「  」
 遠くに人圱が芋える。
 嚘の䜳奈だった。
「パパ  」
 絶望に満ちた衚情の我が子  。
 その暪で、幌い頃私を捚おた父芪が、芋知らぬ女性を抱いおいた。
 醜い性行為を目にしお、私は我に垰る。
 遠くからみゆきが、走っおくるのが芋えた。私は近づこうずするが、䜓が動かない。
「ほら、早く 。私を気持ち良くさせなさいよ。早く」
 母芪は狂ったように、叫ぶ。
 たったく䜓の自由が利かぬたた、私は母芪に犯され続けた。
「  」
 走っおいるみゆきの背埌から、郚䞋の河合が襲い掛かる。着おいる服を千切り取られながら、泣き叫ぶ劻。
 近寄ろうにもたったく動けない。
 みゆきは最初だけ抵抗をしおいたが、やがお河合に身を任せ、気持ち良さそうな衚情に切り替わった。涙で芖界が歪む。
 䜳奈は、寂しそうな埌ろ姿を向けお去っおいく。
「䜳奈  。埅っおくれ。これは違うんだ 。䜳奈  」
 突然目の前に川が珟れる。
「  っ」
 川の䞊に卓の小さな䜓が浮かんでいた。
「もう、たくさんだ 。もう、たくさんだっ」
 私はその堎で力なく座り蟌み、倩を向きながら泣き叫ぶだけだった。
 
 䜓が動く  。
 起き䞊がるず、そこは芋慣れた我が家だった。倢から芚めたようである。
 私の䜓には、二枚の毛垃が掛けられおいた。倧方、劻が私の寝おいる時に掛けおくれたのだろう。
 ゜ファで寝たせいか、䜓のあちこちが痛い。
 それにしおも嫌な倢だった  。
 党身、汗で濡れおいた。
 時蚈を確認するず、ただ朝の五時だった。劻も子䟛も起きおいない。
 軜くシャワヌを济びお、嫌な汗を掗い流す。
 そろそろ劻が起きおきおもおかしくない時間だ。昚日の蚀い合いが、ただ頭の䞭に残っおいた。
 今、みゆきず顔を合わせおも、いい颚には話せないだろう。
 メモで、「今日は早めに䌚瀟ぞ出勀する」ずだけ曞き眮きをしお、家を出た。
 駅前の朝早くからやっおいるコヌヒヌショップで、時間を朰せばいい。コヌヒヌを泚文しおから、さきほど芋た倢に぀いお考えおみた。
 倢の䞭の䞖界、あれは私の願望なのだろうか。
 いや、違う。
 䞡芪共々、私を捚おおいった事に今でも恚みを持っおいる。
 い぀たで経っおも消せない恚み。過去の凄惚なトラりマが、いただに私をその呪瞛から逃しおくれない。
 血の繋がった䞡芪にさえ捚おられた忌み嫌われし子  。
 思わず苊笑した。これじゃ河合の運営しおいる「忌み嫌われし子のスペヌス」ず同じ蚀葉じゃないか  。
 いや、あんな奎のブログを芋る前から私は自分自身、忌み嫌われし存圚ず思う事があった。そんな自分が本圓嫌で嫌で、もっずいい颚に倉えたかった。
 だからこれたで懞呜に努力しお生きおきた。
 みゆきず結婚し、卓を倱い、䜳奈を産み、䌚瀟でも今の地䜍を築き、忌み嫌われし存圚から新しい存圚ぞず倉わっおいった。
 蚀うならば今の私は、新しく自分自身が䜜り䞊げたのだ。
 しかし、その䜜り䞊げたものでさえ、今、こうしお無残に厩れ去ろうずしおいた。
 倢の䞭のみゆきの衚情。
 ずおもリアルに感じた。
 今日は火曜日。このたただず明日になれば、河合は家にやっおくる。
「殺すか  」
 咄嗟に呟いた蚀葉  。
 はっ 、䞀䜓、私は䜕を考えおいるのだ
 しかし、䞀瞬でも河合を殺したいぐらい憎く思ったのは、自問自答しおも、吊定できなかった。
 昔の嫌な思い出を楜しい思い出に塗り替えおくれたのが、今の家族である。劻のみゆき、嚘の䜳奈 。これらの存圚が、私を孀独から救っおくれた。
 卓の死から䜕ずか持ち盎し、築き䞊げた家庭。
 それを厩そうずする奎などは  。
「死んでしたえばいい  」
 物隒な  。
 私が人を殺すなんお、できやしない。できる蚳がない。
 河合のあのいやらしい笑みが脳内をよぎる。
「  」
 どうすれば、この状況を打砎できるのか
 ただ出瀟たで䞀時間はある。気分転換に携垯電話でブログを芋ようずした時、家から電話が入った。
「もしもし  」
「あなた 。私が起きたら、すでにいなくお曞き眮きだけ 。子䟛たちもいるんですから、子䟛みたいな真䌌はやめお䞋さいね」
「  」
 みゆきの蚀葉には棘があった。私はその棘で無性にむラむラしおいた。
「ねえ、あなた  」
「うるさいっ 分かっおるよ、そんな事は  」
「な、䜕よ。その蚀い方は  」
「望み通り、明日、河合を家ぞ連れお行けばいいんだろ」
「ええ、そうしお䞋さい。私たちは楜しみに埅っおたすから」
 感情的に電話を切った。
 私がこんなにも頭を悩たせおいるのに  。
 展開は思いずは裏腹に、どんどん逆方向ぞず進んでいく。
 
 かなり䜙裕を持ち、䌚瀟ぞ出瀟する。
 朝䞀番で、たずは河合を捕たえよう。
 最初に䌚瀟を本圓に蟞めるのかずいう事。
 そしお明日の氎曜日、家ぞみゆきにパ゜コンを教えにくるのか。
 その二点は確認しなければならない。
 あい぀が出瀟するたで、久しぶりに自分の机を敎理した。
「課長、おはようです」
 背埌から河合の声がする。始業時間たでただ十五分はある。少しぐらいなら倧䞈倫だろう。
「おはよう。河合君、ちょっず話す時間あるかな」
「あらら、奇遇ですね。俺も課長に話あったんですよ」
「そ、そうか  」
「ここではマズいですよね。さ、倖ぞ行きたしょう」
 䞍敵な笑みを芋せながら、河合は先に歩いおいく。
 河合の背埌を芋ながら歩いおいるず、自然に殺意が沞いおくる。今、ナむフがポケットにあれば、簡単に刺しおいるかもしれない。静かな殺意が私の䞭で充満しおいた。
 二人で瀟内を出お、誰もいない堎所を芋぀ける。
 ここが正念堎だ。
 みゆきを守れるかどうか。
「河合君、君は䌚瀟を蟞めるのかね」
 ずりあえず私から先手を打぀事にした。
「耳が早いですね。ええ、仰る通りそうですよ。蟞めたす」
「そうか」
「明日、俺の蚀った芁望 。実行したすよ」
「  」
 こい぀め  。
「明日、元々は奥さんにパ゜コンを教える玄束しおたしたしね。酒持っお、お邪魔したすから」
「  」
 淡々ず陜気に話す河合の顔を芋お、憎しみが増加する。
「それで課長  」
「䜕だ」
「食事のあず、子䟛を早めに寝かしお䞋さいね」
「䜕故だ」
「子䟛の教育䞊よくないでしょうが」
 倧きく目を芋開きながらおどけお答える河合。
「貎様  」
「おお、こわっ たあ話を聞いお䞋さいよ。子䟛を眠らせたあず、俺ず課長ず奥さんの䞉人で酒を飲むんです」
 これで確信できた。先日こい぀の誘いでバヌぞ行ったが、あきらかに眠だったのだ。
「この間、私を眠らせた薬を䜿う気か」
「嫌だな。䜕でそんな事たで分かるんですか ひょっずしお課長っお、゚スパヌ」
「ふざけるな」
 無意識に右の拳で殎り掛かっおいた。
「おっず」
 だが、簡単に私の拳は河合に぀かたれる。
「顔はマズいっしょ。顔は  」
「貎様  」
「たあ、続きを聞いお䞋さいよ。それで飲んでいる途䞭、俺が課長に『今日のブログ、曎新ずかいいんですか』っお聞くから、課長は『そうだな』ずか適圓に蚀っお、その堎から消えお䞋さい」
 誰が「はい、そうですか」などず蚀うのだ。自分の劻を寝取ろうずしおいる男に蚀われ  。
「  」
 蚀葉がうたく出なかった。
「あれ、ちょっず芋ない間に、随分ず回埩したしたね。この間たで敬語を䜿いながら土䞋座しお懇願しおいた人間が  」
 そう、こい぀は私に察しお切り札を持っおいる。
「はいっお遞択肢しかありたせんよ、課長」
「おたえっお奎は  」
「ははは、そうするず、䌚瀟に居蟛いじゃないですか だから俺、退職の準備を進めおいたんですよ」
 チェスでいうチェックメむト 。私には河合の芁望に埓うしか、道は残されおいない。
 
 時間など、止たればいいのに  。
 仕事䞭、それだけを考えおいた。それなのに、時間の流れを早く感じおいる。
「課長、今日お昌、䜕を食いたすか」
 河合はワザずらしく声を掛けおくる。完党に勝者の顔をしおいた。
 こんな男に、私の劻であるみゆきは抱かれないずいけないのか。䜕ずかできないのか。
「課長、今日は顔色があたり良くないですよ。どうかしたんですか」
 自分でそうさせおおいお、よく蚀うものだ。
「課長、今日はいいお倩気ですね」
「いい加枛にしろ、貎様  」
 河合の床重なる挑発に、私は堪忍袋の緒が切れた。瀟内にいる人間の芖線が、私に突き刺さる。
 ザワザワしおいた職堎は、シヌンず静たり返った。
「すみたせんでした、課長  」
 ワザずらしく打ちひしがれた様子で、自分の垭ぞ戻る河合。これでは私䞀人が、悪者に芋られおしたう。
 それから終業時間たで、みんな私に察し、どこか敬遠しおいるような空気を感じおいた。
 倚分、河合はこの状況を狙っおいたのだ。
 
 垰り道、今、䞖界で䞀番嫌いな人間ず、私は䞀緒に歩いおいる。
 すべおを投げ出しお、逃げたかった。
「いや、明日、奥さん、どんな料理を䜜っおいるのかな」
「今日は君に、関係ないだろ。どこか行きなさい」
「あれ、時間経っお、たた自信回埩かな 別に今日、いきなり課長の家ぞ蚪ねたっお構いたせんよ、俺は  」
「  」
 たた、殺意が倧きくなる。殺したい 。本圓にこい぀を殺しおやりたい。
「あらら、たた、無口になっちゃっお  」
「䜕が目的で、私にくっ぀いお来るんだ」
「確認事項をず思っお」
「確認事項」
「明日、俺が課長の家に行ったら、どうするんでしたっけ」
 本圓に嫌味な奎である。自分の劻が犯されるたでの手際を、旊那である私に、わざわざ蚀わせようずいうのか。
「蚀わないなら、課長 。あなたの今たで築いおきたものが、ガラガラず音を立おお厩れるだけの話です」
 䞀瞬、目の前が真っ暗になる。あがらっおも無駄だ。すべおは、こい぀の蚀う通りになるだけなのである。
「あ、明日  」
「ええ」
「河合君が家に来たら、食事のあず、子䟛を早めに寝かせ  」
「はい、それから」
「私らで酒を飲む 。き、君の合図で 。あ、合図で  」
「合図で、どうするんですか」
「わ、私は 。私は  」
「え、聞こえたせんよ 倧きな声で、ちゃんず蚀っお䞋さいよ」
「私は、消える  」
「よし、よく芚えられたしたね」
 悔しさで、目に涙が滲む。
 䜕故、法埋では、人を殺めおはいけないのだろうか 䞭にはこういう鬌畜もいる。こんな鬌畜を野攟しにしおおいお、本圓にいいのだろうか  。
「では、俺、明日を楜しみにしおたすから」
 私は、河合の埌ろ姿をずっず睚んでいた。道に曲がり、あい぀の姿が芋えなくなっおも、しばらくその堎から動けないでいた。
 
 その日、私は劻を思う存分抱きたかった。
 しかし昚日の蚀い争いでみゆきの機嫌は悪く、ほずんど口を利けるような状態ではない。
「ねえ、明日は河合さん、来るの」
 寝る前になっお、みゆきはボ゜ッず呟くように質問しおきた。
 劻の口から出る河合ずいう固有名詞。自然ず苛立ちが募る。
「ああ  」
 手短に答えるず、私は劻に背䞭を向けた。
 もう䜕も、みゆきにはしおやれないのだ。明日になれば、河合の魔の手でうたい具合にやられおしたうだけ  。
「やったぁ。嬉しいわ。䜕か圌、食べたいものずかの、リク゚ストなかったの」
 䜕も知らずに喜ぶ劻の姿を芋おいるず、神経がピリピリず唞る。
 そんなにおたえは、河合に逢いたかったのか
 あい぀の食べたいもの 。それはみゆき、おたえだよず答えおやりたかった。
「おたえの埗意料理、すべお䜜っおやればいいじゃないか  」
 もはやダケク゜でしか、答える事ができないでいた。
「あなた 。昚日の態床ずいい、今朝の態床ずいい 、そしお今 。ちょっず酷くないかしら」
「さあね  」
「ひょっずしお、あなた、河合さんにダキモチを焌いおいるの」
「ふざけんな」
 私は、みゆきの頬を叩いおいた。結婚しおから初めお 、いや、生たれおから初めお、暎力ずいうものを振るっおしたったのだ。
「  」
 劻は、頬を抌さえたたた、私に背䞭を向けた。
 肩が小刻みに震えおいる。倚分、泣いおいるのだろう。
 私の右手には叩いた時の感觊が、ただ、ピリピリず残っおいた。
 䞍思議ず悪い事をしたずいう気持ちにはなれないでいる。長幎仲良く過ごしおきた倫婊生掻に、亀裂が入ったのを感じた。
 蚳も分からず叩かれた劻。そしお板ばさみになっおいる私。
 いっその事、河合の件は攟っおおけばいい。あずで泣くのはみゆき自身なのだから  。
 すすり泣く劻の声が気になり眠れない。
 私は寝宀を出お、昚倜のように゜ファで寝た。
 
 䞀぀だけ䞍自然な点をずっず感じおいた。
 河合の奎、みゆきを抱けば䌚瀟に居蟛いから蟞めるず蚀っおいたが、その蚀い方に違和感を芚えおいた。
 あそこたで甚意呚到な奎だ。望み通りみゆきを抱いたあずでも、あの手この手を䜿い、いくらだっお珟状を維持できるような気がする。
 私は眠にハメられたず思っおきたが、もしそうなら䜕故奎はそこたでする必芁性があるのだ
 確かに身内莔屓かもしれないが劻のみゆきは矎人である。しかしみゆきを抱きたいぐらいで、普通あそこたで蚈画を緎れるのだろうか
 ありえないだろう。
 埅およ。発想の転換だ。
 奎がここたでする玍埗のいく心理状態を考えろ。
 䜕故河合は、私たち家族に接觊しおきたんだ
 最初は本圓に芪切心から、私にパ゜コンを教える぀もりで  。
 いや、そんな奎ではない。あそこたで歪んだ奎だ。ここたでの流れは圓初からあい぀の予定通り進められおきたに違いない。
 だずすれば䜕故
 最終目的が劻のみゆきを抱きたいがため
 おそらく違う  。
 私がここたで苊しんでいるのは、河合も自芚しおいるだろう。それでも奎は悪魔のような思想でさらに苊しみを増加させおくる。
 以前奎が蚀った台詞をふず思い出した。
「だから俺はこのミチフィオっお人物が、この話の䞭じゃ抜矀に奜きなんですよ」
 アルルの女に出おくる意地悪なカりボヌむのミチフィオ。あい぀は䞻人公のフレデリに察し、嫉劬に狂っお飛び降り自殺をするぐらいの事を吹き蟌んだ。そんな最䜎な人物をあの時河合は䞀番奜きだず蚀っおいた。
 ミチフィオから河合を連想させる。
 自然ず今の状況を思い描くず、自分がアルルの女の䞻人公であるフレデリになったような錯芚に陥った。状況は違えども、垞に頭を悩たしお錯乱寞前なずころは非垞に共通点がある。
 その図匏で考えるず河合は私を困らせようずしおいるず思うのが自然だ。
 それは䜕故だ
 私を恚んでいるから
 銬鹿な  。
 䜕も恚みを買うような芚えはない。
 仕事で匷く怒る事は過去あったが、それは業務䞊圓たり前の範疇である。それだけでこんなにも恚みを持぀だろうか
 じゃあ䜕で  。
 それ以倖の答えが芋぀からなかった。
 䞀番蟻耄が合うのだ。
 私に恚みを持っおいるからこその凶行ず考えるのが  。
 ふざけるな。逆に恚んでいるのはこっちのほうだ。
 䜕故奎は、私をここたで苊しめる。快楜思考䞻矩の愉快犯か。
「  っ」
 愉快犯  。
 卓を殺した人間をあの時譊察は、愉快犯の犯行ず刀断した。
 たさか  。
 いや、それこそありえない。
 河合は二十歳そこそこ。卓が亡くなったのは二歳の時だから、今から十二幎も経぀。奎はただどう芋おも小孊生だろう。いくら䜕でもこじ぀け過ぎだ。
 銬鹿銬鹿しい  。
 ずりあえず今は寝お、明日考えよう。こんな混乱しながら考えたずころで䜕も名案など浮かばない。
 
 ずうずう氎曜日がやっおきた。
 昚日ず同じく劻が起きる前に、早めに家を出る。
 みゆきず話し合い仲盎りしたずころで、䜕の意味もないのだから  。
 どうせ今日でみゆきは、河合の奎に抱かれおしたうのだ。自分の劻がそのような目に遭うずいうのに、私は共犯者ずしお動かなければいけない。
 䜕ずいう因果なのだろうか。
 十数幎前の楜しかった日々を思い出す。
 ただ、若く綺麗だったみゆき。ひず目芋お、私は心を奪われそうになった。しかし過去のトラりマからか、真に女性を愛する事などできやしない  。
 そう、ずっず思っおいた。
 だけど圌女は違った。
 過去をすべお話した蚳ではなかったが、すべおを受け入れおくれ、優しく私を癒しおくれた。
 䞡芪に捚おられ、惚めに生きおきた私は、い぀もどこかで自分を卑䞋しお、い぀からか忌み嫌われし子なのだず思うようになった。
 根本的な郚分で、人間ずいうものを信じられないのである。
 笑顔で接しおくる人間も、ひず皮剥けば、醜い本性が眠っおいるず思っおいた。母芪に犯されたせいで、歪んだ性癖を芚え、女性自䜓をどこかで恚んでいる自分がいたのだ。
 みゆきは些现な事たで、私にずっお完璧だった。
 本圓にいい劻をもらえた。垞にそう感じおはいる。
 二床目の子も授かり、生掻は順颚満垆だった。
 郚䞋の河合が珟れるたでは  。
 肩を震わせながら、鳎き声を抌し殺しおいたみゆき。いくら䜙裕がなく粟神的にいっぱいいっぱいだったずはいえ、叩いたのはやり過ぎだったのではないか。
 その䞊、今日河合の奎に抱かれおしたうのだ  。
 䜕ずかこの窮地を脱出する方法はないのか
 悲壮な決意で䌚瀟ぞ向かう私。
 玄関ぞ到着するが、ただ時間が早過ぎお䞭には入れない。䞀旊私は近くの公園ぞ向かった。ベンチに腰掛け、色々ず考えおみた。
 これから䌚瀟。
 終われば、河合を連れお家ぞ垰る。
 食事のあず酒を飲む。
 私は河合の合図で消える。
 劻は薬を盛られ眠っおしたう。
 そのたた河合は奜き攟題に  。
 それを私は、ただ指をくわえお芋おいろずいうのか。
 最愛の劻が、自分の䌚瀟の郚䞋に寝取られようずしおいるのだ。
 旊那ずしお、いや、男ずしおそれでいいのか
 このたた河合の蚀いなりで、いいのだろうか
 最初の初䜓隓が、母芪ずいう歪んだ性䜓隓を持぀私は、垞に歪んでいる。
 ならば、いっその事、河合を  。
 駄目だ  。
 殺せたずしおも、そのあずどうなるのだ 間違いなく家庭は厩壊する。䜳奈は、殺人者の子䟛ずしお烙印を抌される。
 ずおも河合が憎かった。殺したくお、うずうずしおいる自分がいた。
 しかし珟実問題、それは䞍可胜な話である。
 人間は、その䞀瞬だけの為に生きおいる蚳ではない。
 生から死たでの間、どれだけ自分らしく、奜きなように生きられたら幞せだろうか。
 自由 。それを望む者は倚いが、そこには混沌ずした詊緎や物事をクリアしおこそ、初めお自由があるのだ。
 どうしおも生きおいく䞊で、モラルや良心ずいったものが芜生えおくる。
 子䟛は残酷であるず誰かが蚀っおいたが、それはただ幌いから人間の本胜に、忠実に埓っおいるだけなのだ。
 蚀い方を代えれば、モラルや良心ずは、成長するに埓っお、育っおいくものなのである。
 もし、私が幌ければ  。
 いや、無理な話だ。
 もう四十歳の男なのだから  。
 芚悟を決めるしかないのか。
 劻が、河合に抱かれるのを  。
 
 仕事もロクに手が぀かぬたた、時間はどんどん過ぎおいく。
 河合は䜕事もないように自然に振舞っおいる。昚日奎ぞ怒鳎ったからなのか、私ぞのみんなの察応が、どこかよそよそしくも感じた。
 河合は私にパ゜コンずいうものを䞎えた代わりに、それ以倖すべおのものを奪おうずしおいるように芋えた。
 ずっず築き䞊げた信頌など、厩れる時は脆いものである。
 疲れた  。
 もう、この先、どうなっおもいいか  。
 劻が抱かれたら、私はそのあずどのようにみゆきぞ接するのだろうか
 自分でも分からない。
 子䟛はどうなる 䜳奈は  。
 完党に壊れようずしおいる䞡芪を目の圓たりにしお、どう育っおいくずいうのだ。
 河合はいい 。あい぀は人の家庭を自己の快楜の為だけにメチャメチャにしお、䌚瀟から去り、新倩地を求めるだけである。
 考えれば考えるほど、答えが遠のいおいくような気がした。
 河合を説埗する  。
 絶察に無理な話である。あい぀は犯人のタむプで蚀ったら完党な愉快犯だ。そんな人間に良心やモラルで蚎えおも通じる蚳がない。
 存圚自䜓を消したいが、珟実では難しい。
 では、どうするのだ。䜕ができる
 河合は殺せない 。では、私は  。
 過去、これ以䞊生きおいおもいい事など䜕もない。そう絶望の淵に䜕床も立たされ、死ずいうものに぀いお色々考えた。
 私は䜕故、生たれおきたのだろう。
 䞡芪は䜕故、私を眮いお捚おおいったのだろう。
 垌望に溢れる事など、みゆきに出逢うたで䜕もなかった。
 今、それさえも厩れようずしおいる。
 䞀床、息子の卓を倱った時、自暎自棄になり掛けた。それでも持ち盎し、ここたで幞せを築いおきたのだ。
 憎い  。
 殺しおやりたいほど、河合が憎い。
 誰からも忌み嫌われ、誰からも必芁ずされず  。
 たた暗黒のあの頃の時代ぞ、私は戻らねばならないのか。
 やっず、普通の人間らしくなれおきたず、自分で思っおいた。
 そんな些现な事すらも、神は蚱しおくれないのか。
 こんな人生の連続。この先、明るい未来などあるのだろうか。
 時間だけが刻々ず過ぎ、終業時間になっおしたう。定時を告げるベルがなった瞬間、河合は私を芋お、いやらしそうに埮笑んでいた。
 
 垰り道、河合は私の暪に䞊んで歩いおいる。
「課長、奥さんには䜕か蚀いたした」
「いや  」
「ふん、たいっか  」
 たいっかずいう台詞で、ブログ仲間のちゃちさんの郚屋を思い出す。確か圌女のブログ名は、「 」だった。
 たいっかずいう蚀葉。今たでいい感じにずらえおいたのに、こい぀がその蚀葉を䜿うず、たるで違う颚に感じるから䞍思議である。
 河合は途䞭で酒屋に寄り、ビヌル䞀ダヌスに、りむスキヌ、焌酎、ブランデヌ、ワむンなど、様々な皮類の酒を賌入しおいる。この酒ず持参した䟋の薬で、私の劻を眠らせようずしおいるのだ。
 数時間埌には、河合の思い描く欲望が実珟する。
 果たしお私はその阿錻叫喚に、堪えられるのだろうか。
 今、暪にいるニダケ面の郚䞋に、自分の劻が抱かれる事に  。
 自宅ぞ蟿り着くず、い぀もず同じように、いや、嚘の䜳奈だけが玄関先たで迎えにくる。
「あヌ、河合のお兄ちゃん」
 河合の姿を芋るなり倧はしゃぎの䜳奈。
 父芪である私に挚拶もせずにいきなり河合か 。ただ十歳の䜳奈の発蚀に察し、苛立っおも仕方ないのは自芚しおいるが、面癜くない。
 こい぀の実態をみんなの前で、思い切り暎露したかった。しかしそんな事をしおも、子䟛は傷぀くだけだし、私は瀟䌚的信甚を倱うだけである。
「久しぶりだね、䜳奈ちゃん。元気だったかい」
「うん、元気ヌ」
 子䟛に芋えぬよう私は、埌ろで拳を握り締めおいた。
 この停善の快楜思考䞻矩者め  。
 居間ぞ向かうず、劻のみゆきは、かなり時間を掛けたような料理をたくさん䜜り埅っおいた。河合を芋掛けるず、嬉しそうに顔が歪む。
「奥さん、久しぶりです。あら、どうしちゃったんですか この料理の数々 。芋おいるだけで癒されたすよ」
「たた、ほんず、河合さんたら、お䞊手ね」
 昚日、私に叩かれた事など、埮塵も出さずにみゆきは笑顔でいた。歯痒い思いで、いっぱいになる。
「河合さん、具合悪いの良くなったの」
「ええ、おかげさたで 。ご心配掛けおすみたせんね」
「䜳奈、お兄ちゃん来るの、楜しみにしおたの」
「そっかあ。お兄ちゃんも䜳奈ちゃんに䌚いたくおねえ。楜しみにしおたよ」
 私だけ存圚感のない寂しい食卓。
 どい぀もこい぀も、いい顔ばかりしやがっお  。
「ほら、河合さん。枩かい内に、たくさん食べお䞋さいな」
「あ、いただきたす。うん、これ、メチャクチャうたいっすよ」
「さ、どんどん召し䞊がっお」
 盞倉わらず調子のいい奎だ。みゆきもこんな奎に愛敬を振り撒きやがっお  。
 疎倖感を芚え、食欲すら倱せる。みゆきは私に察し、料理を䜜ったのではない。郚䞋の河合にいいずころを芋せたくお、䜜っただけなのである。
 䞀芋、はたから芋るず、楜しそうな食卓だ。もちろん私も粟䞀杯の䜜り笑顔をしおいるのだから  。
「おいしいでしょ、このステヌキ。お肉屋さんでね、いいお肉入ったっおいうから、ちょっず奮発しおみたの」
 誰の働いた金で買えたず思っおいるんだ。そう蚀っおテヌブルを匷く叩きたかった。
「課長っお、本圓に幞せですね。こんなにおいしい料理を䜜る奥さんに、可愛いお子さん 。絵に描いたような、ほのがのした家庭ですよ。憧れちゃうなあ」
 䞀瞬、劻の衚情が匷匵ったような気がした。昚日、私が叩いた䞀件を思い出したのだろうか。
「嫌だわ。河合さんたら  」
 みゆきは照れたような衚情を無理しお䜜っおいる。
 このあずで想像もできない惚劇が埅ち受けおいるずも知らず、芋掛けだけの楜しい宎は続く。
 
 すっかり腹も満腹になり、眠気に襲われた子䟛を寝かし぀けるず、河合は持参した酒を食卓の䞊に次々ず眮きだした。
「あら、どうしたの、河合さん」
「たたには、奥さんも楜したないず 。どうですか」
 りむスキヌのボトルを぀かみ、そのたた河合の頭をかち割っおやりたい衝動に駆られる。
「あら、そんな気を䜿っおいただいお、すみたせんねえ」
 すべおの酒を䞊べ終わるず河合はビヌルを䞉猶取り、私ずみゆきの目の前に眮いた。
「ずりあえずは、ビヌルで也杯ずいきたすか」
「ええ 。䜕だか、こういうのっお久しぶりだわ。ちょっずグラスを甚意しおきたすね」
「ええ、お手数掛けおすみたせんね」
 甚意された䞉個のグラスに、ビヌルを楜しそうに泚ぐ河合。さぞかし期埅で胞が倧きく膚らんでいるのだろう。
「課長もビヌルでいいっすか」
「  」
 ずうずう奎のシュミレヌション通り、始たっおしたった。あずは河合からのサむンが出たら、私はこの堎からいなくならないずいけない  。
「あれ、課長 どうしたした」
「あ、ああ  」
 この野郎、ずがけた面をしやがっお。
「せっかくだからアルルの女のファランドヌルでも掛けお、気分を出したしょう」
 こい぀の䞀挙䞀動が酷く嫌味に感じられる。
「では、かんぱい」
 劻が犯される蚈画のゎングが、チヌンず静かな音を立おお鳎り響いた。
 最初の䞀時間は河合も私に䌚話を振り぀぀、通垞の状態でいた。買っおきたビヌルがなくなるず、次はりむスキヌのボトルを開ける。
「私、りむスキヌっお飲んだ事、たったくないのよ。だっおそのお酒、匷いんでしょ」
「そんな事ないですっお。薄く氎割りで䜜りたすから味芋ぐらいどうでしょう」
「うヌん、どうしようかな  」
 断りやがれ。私は心の䞭で叫ぶ。
「いい機䌚です。りむスキヌの味をちょっずでも知っおおくべきですよ」
「じゃあ、ちょっずだけもらっちゃおうかしら」
 この銬鹿が  。
「あ、奥さん」
「なあに」
「図々しい事を蚀っちゃっおいいですか」
「うん」
「できれば぀たみを 。俺、い぀もりむスキヌ飲む時っお軜い぀たみないず、気分出ないんですよ。わがたた蚀っちゃっおいいですか」
 こい぀の策略を倧声でぶちたけたかった。
「チヌズずか簡単なもので良ければ」
「すみたせん。ありがずうございたす」
 劻が再び台所に立぀ず、河合は私にこれ芋よがしにポケットから小さな玙袋を取り出した。そしお粉状の薬みたいなものを劻のりむスキヌの入ったグラスに入れ、ゆっくりず掻き回した。
 パッず芋た目、普通の氎割りにしか芋えない。
「課長は、ロックにしたすか」
「  」
 私の目の前で、よくも抜けぬけずそんな真䌌をしおくれたな  。
「あ、そっか 。課長、今日のブログの様子が気になっおいるんでしょ 今、奥さんも簡単なものを䜜っおたすし、今の内にちょっず芋おくればいいじゃないですか」
 ぀いにきた河合からの悪魔のサむン  。
 自分で立おた蚈画通り、こい぀は寞分の狂いもなく進行させる。
「  っ」
 河合はスヌツの胞ポケットから、䞀枚の写真を取り出し、私に芋せおきた。以前誘惑に負け、お觊りパブぞ入ろうずする私の姿が写っおいる。携垯電話で撮った画像は削陀したず蚀いながら、やはりこのようにプリントしお持ち歩いおいたのだ。
 奎の衚情は底意地悪そうな顔に切り替わり、早く蚀う通りにしろずでも蚀っおいるようだった。
「ね、奥さん。別に構わないでしょう」
「え」
「いや、このあず、俺が奥さんにパ゜コン教えるのに、課長がブログをちょっずやらせおくれずかなるぐらいなら、今の内に先、やっずいおもらえたらどうかなっお」
「そうね。ただ、ちょっず時間掛かるし、どうぞ」
「奥さんの蚱可もずったし、俺は䞀人でりむスキヌをチビリチビリやっおたすから」
 む゚スずしか答えられない状況。もし、ここで私がノヌず蚀ったら、河合はこの堎で色々ずぶちたけるだろう。玠盎に埓うしかないのだ。
「ああ 。では、お蚀葉に甘えお、ちょっず行っおくるよ」
 埌ろ髪を匕かれるような思いで私は垭を立ち、居間から出た。
 䞀瞬振り返るず、河合はいやらしい笑みでこっちを芋ながらピヌスサむンをしおいた。
 どこたでこい぀は私を愚匄する぀もりなのだ。拳を固く握り締め、悔しさを噛み締めながら、ゆっくり居間から離れた。
 
 河合がチェックにくる可胜性もある。ずりあえずパ゜コンを起動させた。
 もうじき劻は薬によっお、うたい具合に眠らせられるのだ。
 䜕もできず、ただ状況を芋おいるだけの情けない私。
 今たで生きおきお、これほど悔しいず思った事はなかった。
 最埌に芋たあの笑い顔。たるで勝ち誇ったように芋えた。
 今埌の展開がリアルに想像できた。
 薬で意識が朊朧ずなるみゆき。
 河合は、普段私たちの眠る寝宀ぞ劻を抱き運び、䞀枚ず぀衣服を脱がせおいく  。
 䜓䞭の血液が、限界点たで沞隰しそうだった。
 圢だけ自分のブログを開きモニタ䞊に出すが、コメントも䜕も目に入らなかった。
 みゆきは私の劻だ。それが  。
 頭を掻き毟りながら、テヌブルの䞊に䞡肘を぀く。
 気が狂いそうだ。私はこのたた、指をくわえおいるしかできない。
 䜕で私ばかりこんな目に遭わねばならないのだ。
 䞖の䞭、本圓に䞍公平だ。
 䜕故私が、こんな嫌な思いを堪えなければいけない。
 理䞍尜だ。
 䞖の䞭、おかしい  。
 あんな奎、別に殺したっおいいじゃないか  。
 そうすれば、私はこの苊悩から解攟される。
 䜳奈の為にも、あのような害虫を生かしおおくず、䜕の為にもならない。
 私は蟺りを芋回し、䜕か凶噚になるものを探した。
 玠手では、あの男に絶察敵わない。以前䞍意に殎りかかった時、あっけなくかわされた。
 幞いのずころ河合は私を舐めきっおいる。
 そこをうたく぀けば  。
 匕き出しを開け、急いで凶噚になりそうなものを探す。
「  」
 私が孊生時代から愛甚しおいた鉛筆削りようのナむフ。匕き出しの奥で、鈍い光を攟ちながら眠っおいた。
 静かにそれを取り出すず、私はゆっくり立ち䞊がり軜く息を吞い蟌んだ。
「ん、埅およ」
 よくよく考えおみるず、いくら河合が私の事をバラしたずころで䜕だず蚀うのだろうか。奎が蚌拠ずしお持っおいるお觊りパブぞ入る写真。そしおただ掚枬の域であるが、先日河合の圌女の胞を匄っおいるずころの蚌拠写真。それらを劻のみゆきに芋せたずころで䜕の効果があるのだろうか。
 確かにみゆきはあずで責めおくるかもしれない。でも自分の劻を寝取られるよりは党然マシだ。それに䜕故、河合がその決定的瞬間でもある写真をわざわざ持っおいるのかずいう郚分。そこがあるからこそ奎の蚈画的犯行ず断定できるのだ。
 あの男の為に今たで頭を悩たせおいたのが銬鹿みたいである。先ほどたで人を殺そうず思っおいた自分に腹が立぀。䞀床は死んでしたおうかずたで悩んだ身だ。ここたで考えられたなら行くしかないだろう。
 ただ私が居間を離れおから十五分ぐらいしか経っおいない。今行けば間に合う。劻を救う事ができる  。
「課長  」
 䞍意に耳元で声が聞こえ、私は飛び䞊がっおその堎を離れた。
「  」
 い぀の間にか、背埌に河合が立っおいる。
「そんなナむフで、䜕をしようっお蚀うんです」
 い぀の間にこい぀は  。
 ここは䜕ずか誀魔化さないずいけない。
「い、いや 。別に  」
 河合は、青ざめる私を芋ながら冷たい芖線で芋぀める。
「くだらん真䌌はせんで䞋さいよ。今なら奥さんだけで、穏䟿に枈むんですから」
「み、みゆきをどうしたんだ」
「テヌブルの䞊で、気持ち良さそうに眠っおたすよ」
「  」
 あの薬を飲たせやがったのか。
「詊しに掋服の䞭に手を぀っ蟌んで乳銖を觊っおも、ぐっすりで反応れロでした」
「き、貎様  」
「あんたが俺の女の服の䞭に手を぀っ蟌んだようにね。ここたではお互い様でしょうが」
「くっ  」
「そうそう、奥さんの乳銖。ビンビンに立っおたしたよ、課長」
 頭の䞭が真っ癜になった。
 気づけば右手に持っおいたナむフで、河合に襲い掛かっおいた。
「ぐっ」
 もの凄い激痛が背䞭に走り、バランスを厩した。
 目を開けるず、目の前には床が芋える。
「人殺しになる぀もりですか たったく  」
 䞊から河合の声が聞こえる。どうやら襲い掛かったが、簡単に避けられ、背䞭に匷烈な打撃を食らったらしい。おかげで指の先たで痛みでゞンゞンしおいた。
 必死に䜓を動かそうずするが、巊肩をガッチリず固められ身動きができない。
「き、貎様  」
「䜕ですか、たったく。そんな恚みの籠もった声なんお出しお」
 巊肩がふっず軜くなる。河合が離れたのだろう。すぐ立ち䞊がろうず右腕を地面に぀いた時、芖界に河合の぀た先が映る。
「がっ」
 その瞬間、急に火花が飛んだ。
 倒れた状態で、顔面を蹎られた  。
 その䞀発で私の意識は遠退いおいった。
 
 深倜のひず気のない公園が映る。
 そこぞ若い頃のみゆきが幌い息子の卓を抱いたたた歩いおきた。
 なかなか泣き止たない卓を懞呜にあやそうず声を掛けるみゆき。
 背埌から人圱が埐々に迫っおくる。
「やめろっ」
 倧声で叫んだ぀もりだが、たったく声が出ない。この倢の䞭ではその光景をただ芋おいるだけしかできない。
 埌頭郚を匷く叩かれ厩れるみゆき。
 人圱は乱暎に卓を抱いたたた、その堎から逃げおいく。
 卓を抱いた人圱は、血だらけの郚屋でひっそりず息を殺し、ただ時間が過ぎおいくのを埅っおいるように芋えた。
 急に芖界が切り替わり、氎の流れる音が聞こえる。
 すっかり衰匱した卓を䞡手に抱え、目の前にゆっくり歩く。
 たさか卓を殺した犯人の芖界を共有しお、䞀緒の颚景を芋おいるのか
「やめろ、貎様っ」
 䜕床叫んでも私の声は聞こえない。
 どんどん川が近づいおくる。
「やめろっ」
 䞡腕で卓を高く持ち䞊げ川に攟り投げるずころたで、ハッキリず私は芋おいるのに䜕䞀぀できない。
 橋の䞊から投げ捚おられた卓は、䜕の抵抗もできないたた、川に流されおいった。
 
 真っ暗な挆黒の暗闇。
 頭がガンガンする。
 劻は 、みゆきはどうなったのだ  。
 党身に力を蟌め、䜕ずか起き䞊がる。
 あの時、右目蟺りを蹎られたのか、芖界に映る景色が倉だ。物が二重に芋え、ピントが合わない。
 指で目の淵を觊っおみるず、赀い血が぀いおいた。
「ク゜野郎が  」
 䜓䞭が痛い。しかしこの怒りに比べたら、そんなもの屁でもなかった。
「河合ヌっ」
 腹の底から絞り䞊げるように、倧声を匵り䞊げた。
 芖界がおかしいせいで、たずもに歩くのも難しいが、そんな事をいっおいる堎合じゃないのだ。
 急いで寝宀ぞ向かう。
 倧きな音を立お、ドアを開ける。
 二重に芋える芖界に映ったのは、衣服のはだけたみゆきのあられもない姿ず、䞋半身裞になっおいる河合の汚い尻だった。
「おいおい、課長さんよ。もうちょっずで、いくずころなんだからさ。いいずころを邪魔すんなや」
 劻の膣に結合しおいるのをハッキリ確認するず、党身が炎に包たれたような怒りで芆われる。怒りで党身が震え、芖界が埐々に狭くなっおいく。
「もう少し倒れおろよ」
 さっきたで垃団の䜍眮にいた河合は、私の目の前たで迫っおいた。
「ぐっ」
 腹に凄たじい衝撃が走る。私は、汚物を口から巻き散らかしながら、床を転げ回った。
 䞡手で腹を抌さえ苊しむ私に、河合は躊躇なく蹎りをぶち蟌む。
「  」
 息すらできない状況での、さらなる激痛 。髪の毛を持たれながら匕きずられ、私は郚屋の隅に動かされた。
「しばらくそこで、俺ず、あんたの奥さんの様子をおずなしく眺めおいろ」
 私に唟を吐きかけ、再び河合はみゆきの元ぞ戻っおいく。
 意識のない劻。そこに奜き攟題腰を振り続ける河合。
 私は無力であった。
 䜕もできず、䜕の圹にも立たず  。
 悲しみで涙が、溢れ出おくる。
 神様、もし、本圓にいるのなら、私に力を䞋さい。
 河合を殺す力を䞋さい  。
 䜓がいう事を利かない私は、床に顔を貌り付けたたた、その光景を芋おいるだけしかできなかった。
 悪魔のような笑い声を立おながら、河合は劻の䜓を自由に匄っおいた。
 私の願いなど、䜕も届かない。
 目の前で、最愛の劻が犯されおいるのに、䜓䞀぀満足に動かせない。
 この恚み、䞀生私は忘れない。
 い぀になっおもいい  。
 䞀生を懞けお、この男ぞ埩讐しおやる。
 よくも平穏無事に暮らしおいた私の家族を 。みゆきを  。
「䜕やっおんの やめお」
 入り口の方から、䜳奈の声がした。
 たさか、この地獄絵図な光景を嚘が目の圓たりにしおいるずでもいうのか  。
「䜕だ、お譲ちゃんか。ビックリさせやがっお  」
 みゆきの䜓から河合が離れる。䞀䜓䜕をする぀もりだ。
「や 、やめ 、ろ  」
 私は立ち䞊がろうずするが、たったく䜓が動かない。声すらも満足に出せない状態だった。懞呜に足掻き、䜳奈のいる方ぞ䜓を向けようずした。
「あ、そっか 。課長 。お譲ちゃん 、奥さんよりもいい䜿い道ありたすよ」
「い、いや  」
「倧人しくしろよ、このク゜ガキが」
 䜳奈の泣き叫ぶ声。情けない 。芪ずしお、私はこんな状況䞋で、䜕もできないのか。
 䞀瞬、劻の目が開いたような気がした。いや、錯芚ではない。みゆきが意識を取り戻したのだ。
「このぐらいの幎が倧奜きっおいう倉態共、結構いるんだよね」
 頌む、みゆき 。䜳奈を助けおくれ  。
「やめおっ」
 芖界に服が舞う。
 たさか、河合の奎 、䜳奈を脱がしおいるのか
「ほら、動くんじゃないよ。君の写真を欲しがる連䞭がいるんだから」
 この鬌畜め。䜳奈たでも  。
「みゆきヌっ」
 自分の吐いた異物の異臭が、錻に浞入するのも構わず、有りっ䞈の声で叫んだ。
「みゆきヌっ」
 私の声で珟実に戻れたのか、みゆきは䞊半身を起こし、虚ろな芖線でボヌっずしおいた。
「みゆきヌっ。みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ みゆきっ」
 䜕床も劻の名前を連呌しお叫び続ける。
 自分でお腹を痛めた子䟛が今、目の前で乱暎されおいる姿を芋お、みゆきは衚情を䞀倉させた。
「か、河合君 。あ、あなた 、䜕をやっおいるの」
 芖界から、みゆきの姿が消えた。河合に向かっお飛び掛ったのだ。
 私はこの地獄絵図のような珟状に察し、祈るしか方法はない。
 自分の力のなさが悔しい。芖界倖の状況を芋る事もたたならず、情けない私。しかし今はそんなものより、みゆきや䜳奈の安吊をひたすら祈るばかりである。
 数人の荒い息遣いだけが、私に状況を物語っおいた。
 みゆき 。䜳奈  。
「おらっ、静かにしろや」
 掟手な物音が立ち、蟺りはシヌンず静たり返る。
「  」
 心臓が激しく動き、倧きな音を立おおいた。䞀䜓、どうなったのだろう
「あらら、奥さん、ぐったりさんですね」
「  」
 河合に抱きかかえられ、再び垃団に運ばれるみゆきの姿が映る。意識を倱っおいるのか、劻は力なく銖をうな垂れおいた。
「か、河合ヌっ」
 乱暎にみゆきを垃団の䞊ぞ寝かせ、着おいる衣服を砎っお脱がしだす河合。
「あぁヌヌヌ」
 旊那である私を嬉しそうに芋ながら、河合は自分の䞋半身をみゆきの膣に挿入しだす。
「課長、最高っすよ。奥さん、いい締たり具合だ」
 目の圓たりで展開される凄惚で屈蟱に満ちた性行為。
 無意識の劻に察し、河合は欲望の赎くたた、激しく腰を振っおいる。
 䜕故、みゆきが、このような目に  。
 䜕で私が、こんな思いをしなければならない  。
「あぁ、気持ち良くお、いっちゃいそうだ。課長、䞭出ししちゃいたすよ」
「殺しおやる  」
 心の底から、その台詞を吐き出した。悔しさず憎悪 。そしお殺意  。
「いきたすよ、いきたすよヌっ」
「殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 。殺しおやる 」
 呪いを蟌めお、私は䜕床も呪文のように呟いおいた。
「あぁ 、いっちゃった  」
 河合の悪意に満ちた笑顔。぀いこの間たで私の郚䞋だった男に今、自分の女房を犯されおいるのだ。
 こい぀は䜕を考え、䜕故こんな行為をしでかしたのか。
 いや、そんな事はどうでもいい。
 私の劻に乱暎な真䌌をし、子䟛の䜳奈にたで手を出し、私にたで  。
 絶察に蚱さない。劻を 、子䟛を  。
 どんなに時間を掛けおも、絶察に蚱さない。
「劊嚠しちゃうかな 課長、奥さん、メチャクチャ気持ちいいじゃないっすか」
 自己の性欲を枈たせ、倒れおいる私の目の前で、河合は裞のたた座り蟌んだ。
「あは、すごい悔しそうな衚情だね。そっか、こりゃあミュヌゞック掛けお気分でも出そうか」
 そう蚀っお河合は芖界から消えた。少ししお居間にあったプレむダヌを持っおきお、目の前で音楜を掛けだした。曲は蚀うたでもない。アルルの女だった。
「こういう地獄絵図みたいなシヌンだず、この曲っおほんず映えるでしょ」
「殺しおやる  」
 この快楜思想䞻矩者め。絶察におたえを蚱さないぞ。
「あ、したった。奥さんずやっおいる時、この曲を掛けずけば、もっず雰囲気出たのになあ。残念だ」
「䜕の恚みがあっおここたでしやがった  」
 今たで生きおきた䞭で味わった悔しさ、悲しみ、憎悪 。負の感情を県力に蟌め、睚み぀けた。
「おぉ、こわっ 課長、そんな目぀きもできるんですね」
「䜕だず」
「本圓にその目を芋るず、お袋に䌌おいるっお思うよ」
「なに」
「䌌たもの倫婊ずはよく蚀ったもんだ。俺のお袋に䌌おいるっお、蚀ったんですよ」
「  」
 冷酷な笑みを浮かべながら、河合は淡々ず口を開いた。
 
 激痛で自由に䜓を動かせない私。
「䜕の恚みがあるっお蚀ったな」
「ああ、答えろ」
「こうたで鈍過ぎるずほんず嫌になっちゃうよ」
「ふざけるなっ」
「おい、ふざけおんのはおたえのほうだろうが」
「䜕だず」
「たあいいや 。ここたで来たんだ。少し長くなるけどちゃんず聞いずけよな」
「私に䜕の恚みがあるんだ 答えろっ」
「以前アルルの女の話をした時の事を芚えおいる」
「だから䜕だ」
「あの時俺は最倧のヒントをあげた぀もりだったんだけどな」
「なに」
「だから俺はこのミチフィオっお人物が、この話の䞭じゃ抜矀に奜きなんですよ。そう蚀わなかったっけ、俺」
「  」
 意地悪なカりボヌむのミチフィオは、フレデリに䜕かを吹き蟌み自殺ぞ远い蟌んだ。自分がミチフィオだずでも蚀いたいのか、この男は
「䜕故ならこの男の凶行っぷりが、自分ず非垞に重なるからね」
「貎様  。䜕故だ 䜕故こんな目に私たちを遭わせたんだ」
「俺が生たれる前の話だけどね  」
 私の声などたったく聞こえおいないかのように気にせず、河合は勝手に話し出した。
「䞀人の女が身籠った状況で、実家に垰っおきた。その女の䞡芪は、䞀床、結婚に倱敗した我が嚘を激しく怒ったらしい。圓たり前だよな。やっず実家に垰っおきたず思ったら、今床は劊嚠しおんだから  」
「だから䜕だ」
 河合の目぀きが鋭くなる。目からたた火花が散った。こい぀に殎られたのだ。
「いいから黙っお聞いおいろよ」
「  」
「䞡芪の反察にあいながらも、その女は身籠った我が子を産んだ。芪父が誰かなんお、呚りは知らねえ状態でだ」
 人の劻を私の目の前で、犯しおおきながら、こい぀は䜕を抜かしおいるんだ。
「その生たれた子っおのが、この俺だよ  」
「それが䜕だっお蚀うんだ、ク゜野郎っ」
 顔面に激痛が走る。こい぀に顔を蹎飛ばされたらしい。錻の奥からドロリず血が出お、うたく呌吞できないでいた。
「人をはらたせおおいお、それが䜕だだず  」
「  」
 今、こい぀は䜕お蚀ったんだ
「それが自分の子䟛に察しお蚀う台詞かよ、芪父っ」
「  っ」
 頭の䞭が真っ癜になった。
「なあ、芪父っ あんた、ずっず俺が、あんたの子だっお気付かなかったよな」
「な 、䜕を銬鹿な  」
「実の母芪を実の子䟛がはらたせるなんお、あんた、䜕を考えおいるんだ そりゃあ、高校生の時じゃ、女ずやりたくお溜たらない時期だろうよ。だからっお、自分の母芪ずセックスする銬鹿がどこにいるんだよ」
 高校時代、母芪に犯されたトラりマ 。あの時から、私は絶望に包たれおいたが、肝心な事を気付かないでいた。
 私は実の母芪の胎内に、自分の粟子を出しおいたずいう過去  。
「実の芪を劊嚠させ、その生たれた子の存圚などずっず気付かずに、自分は枩かい幞せな家庭を築いおいる。どんだけ俺が惚めだったか、おたえに分かるのか」
 この悪魔みたいな男が、私の子  。
 いや、そんなはずがない。
 近芪盞姊 、日本だけでなく倚くの䞖界で犁じられた行為ずしお認知されおいる。それは劣性遺䌝による障害を持った奇圢児が生たれる確率がグンず䞊がるから。通垞の組み合わせよりも埓兄匟同士で四倍になり、もっず身近な芪子、兄匟の堎合は玄十二倍ずいう数字に膚れ䞊がる。そのせいか日本での近芪婚は、盎系血族たたは䞉芪等内の血族間における婚姻届は受理されない。
 しかし芏定ずしお近芪者同士の合意に基づく性亀に぀いおは、ないのが珟状。
 嫡出子ず称される婚姻関係にある男女から生たれた子。
 非嫡出子ず称される近芪盞姊によっお生たれた子。婚姻関係から生たれなかった正統でない子䟛ずいう意味合いが蟌められる。法埋䞊にすら非嫡出子ずいう蚀葉は出おこない。
 それに以前誰かから聞いた事がある。「近芪同士の性行為では、劊嚠をしづらい。九十パヌセント以䞊の確率で子䟛はできない」ず  。
 その根拠的なものは分からない。ひょっずしたらタブヌずしお扱われおきた題材な為、そう語り継いできただけかもしれない。
「おい、䜕を黙っおいる ちゃんず話を聞いおるのか」
「ああ 、聞いおいる。おたえが私の子䟛 でたかせを蚀うのも倧抂にしろ」
「ほう 、面癜い事を抜かすな。自分の母芪の子宮ぞ粟子をぶち撒けおおいお、よくもたあそんな台詞を蚀えたもんだな」
「き、近芪関係における性行為では、劊嚠しづらいはずだ。その数倀は九十パヌセント以䞊だず蚀う」
 こんな男が私の息子 冗談じゃない。絶察に認めない。認める蚳にはいかない。
「ああ、俺も人づおではあるが、そういった関係では劊嚠しづらいず聞いた事があるよ。䜕でも通垞より十分の䞀ぐらいの確率じゃないずならないっおな」
「そうだ。今になっお䜕故そんなでたかせを蚀う」
「でたかせ 人間っおのはよ 、数字じゃねえんだよ。今、自分で答えを蚀ったんじゃねえのか 九十パヌセント生たれないっお。じゃあ、俺がその残りの十パヌセントだったずしたら」
「ありえない  。仮に生たれたずしおも、奇圢児になっおしたう可胜性だっおある」
「ああ、その通りだ。頭のおかしい奎が生たれやすいっおのは定説だよな。だが、それだっおあくたでも数字 、確率の問題に過ぎず、こうしおたずもな人間だっお生たれる蚳だ」
「貎様がたずも ふざけるなっ」
「あははは」
 突然河合は腹を抱えながら倧笑いしだした。
「䜕がおかしい  」
「だっお課長っおさ 、俺の名前知らないでしょ」
「河合 、河合明人。ちゃんず郚䞋の名前ぐらい知っおいる。それが䜕だっお蚀うんだ」
「その名前っおほんずは俺じゃないからさ、あははは」
「䜕がおかしいんだっ」
「だっお河合明人っお人間は実圚しおたけどさ、もうこの䞖にいないから」
「実圚しおた」
「課長もあの䌚瀟入るの苊劎したでしょ 䜕で俺が入れたず思う」
「た、たさか  」
 背䞭に冷たいものが走る。
 河合 、いや河合明人の名を語った男は私の目の前で残虐な笑みを浮かべた。
「うん、そうだよ。俺は非嫡出子ずしおの自分の人生を倉えようず、河合明人に成り代わったのさ」
「こ、殺したずいうのか  」
「お、なかなか冎えおいるじゃん。でもさ、倧倉だったんだよ。䞡芪健圚だけど、芪䞍孝で半ば勘圓されおいるような奎を探すのっお。幎霢もほずんど䞀緒じゃないず䞍郜合な事倚いしさ、血液型だっお」
「䜕故そんな真䌌を  」
「決たっおんだろうがっ あんたに仕返しする為だけにだろうが」
 急に衚情が倉わる。生たれた時から己の運呜を呪い、その捌け口をすべお私に向けおいた珟実。
「今でも俺は、自分の存圚が嫌で溜たらない。すべおおたえのせいだ」
「  」
 これたでの怒りが嘘のように匕いおいく自分がいた。我が遺䌝子を匕いた人間が、目の前にいる。それを自芚しおしたったからかもしれない。
「ずっずさ、俺はアルルの女を聎きながら毎日を過ごした。自分の䞭で勝手に埩讐に誓う曲ずしおな」
「  」
 それでああたでアルルの女にこだわっおいたのか。
「以前バヌであんた、亡くなった息子の話をしおいたよな」
「  」
 あの時もアルルの女をリク゚ストしおいた。ひょっずしたら、遠回しに自分の存圚を私に知らせたかったのかもしれない。歪み過ぎた性栌が、それを玠盎に珟せなかった。
「本圓は長男じゃなく、あんたにずっちゃ次男だったんだ。愉快犯の犯行っお事で譊察には片付けられちたったんだろ 真実を教えおやるよ。あの子を殺したのは腹違いの兄であるこの俺だっ」
「な、䜕  」
 以前私が立おた仮説。あたりにも珟実的に圓おはたらないのですぐに切り捚おたが、たさか  。
「俺を産んだあずの母芪、たあ぀たりあんたの母芪でもあるが、あい぀は神経が完党に狂っおいた。毎日のように酒を飲み、い぀だっお酔っ払っおいた。倜になるず倖をほっ぀き歩き、誰にでも構わず股を開いた。もうああなっちゃ、ただの性欲マシヌンだよな。俺は祖父ず祖母に育おられたんだ」
 それは私にずっおも同じ祖父ず祖母でもある。母芪が家を出お行っおからたるで音沙汰などなかった。それは私が祖父の家の堎所や連絡先を知らなかったせいもある。母芪はそういった事を䜕䞀぀教えおくれなかった。
「そのじヌちゃんもばヌちゃんも早く亡くなっちたっお、狂った母芪だけが残った。そりゃあ孊校じゃ、ほんず酷い苛めに遭ったさ。でも䞀人だけこんな俺に芪切にしおくれた同玚生がいおな。そい぀にだけは俺の出生の秘密を教えた事がある。だけど次の日には孊校䞭その事が知れ枡っおいたんだ。芪友ず称し近づいた同玚生は俺の秘密を聞くず、面癜おかしく他の連䞭に噂を流したっお蚳だ。苛めの察象になるのも圓たり前だ」
「苛め  」
「䜕を驚いおいるんだ 実の母ず息子ずの間に生たれた子䟛なんお、聞いた事もないだろう。日本最倧の䞍道埳の䞭、俺は生たれおきたんだからな。生たれながらにしおタブヌな存圚 、そしお忌み嫌われる存圚だったんだ。それでも孊校には行ったさ。あの狂った母芪ず䞀緒にいる時間が少しでも少なくなるなら、ただ孊校で苛められおいたほうがマシだったんだ。ある日、俺が孊校から垰るず、居間の䞭には真っ赀な血が飛び散っおいた。芋るずあの母芪が自分で手銖を切っおいたんだ。いや、違う。切ったなんおもんじゃねえ。包䞁で手銖を深くたで叩き切った。そんな蚀い方が䞀番適しおいるな。知っおたかい リストカット皋床じゃ、人間っおなかなか死ねないらしいぜ。母芪は身を持っお息子にそれを教えおくれた蚳だ。それでよ 、俺を芋るなり倧粒の涙を流しながら『ごめんね、ごめんね』っお䜕床も泣きながら死んでいった。最埌の最埌で人間らしい郚分を芋せおくれた蚳だ。そんでもっお汚い字で玙に䜕か曞いおあった。課長さん 、いや、芪父よ  。その玙に䜕お曞いおあったず思う」
「  」
 おぞたしい圌の人生のこれたでを私は黙っお聞く事しかできないでいる。
「あんたの名前ず、どこで調べたのか知らないが、あんたの䜏む䜏所が曞いおあったんだよ。そしお最埌に『あなたを産んで本圓にごめんなさい』っおな  」
「  」
 あの狂った母芪が、自分の手で生涯を終わらせおいたずいう衝撃の事実。
「ただ俺が十歳の頃だった。あんたの元ぞ行った時さ、すでに赀子を抱いお幞せそうにしおいる姿が芋えたんだ。本圓銬鹿だったけど、母芪は自分で手銖を切る事によっお萜ずし前を぀けた。俺を産んだ片割れのあんたは、別の女ず幞せそうに過ごしおいるんだもんな。俺を産んだ事すら知らずに  。気が狂いそうだったよ。でもさ、同時に思ったんだ。あの赀ちゃんがいなくなれば、それで俺が名乗り出れば、䞀緒に楜しく暮らせるかなっお」
「そ、それで卓を  」
「ああ、幌い頭で必死に蚈画を緎ったさ。あれ以来孊校なんお行かなかったから、時間はいくらでもあったしね。あずはあんたの奥さんがあやしに家から出おきたずころをバットで頭叩いおさ、赀ちゃんをさらうだけだった」
「  」
 卓を殺した犯人は私の息子  。
「すっかり衰匱したあんたの息子を俺は川ぞ攟り投げ、殺した。自分の腹違いの匟をこの手でな  」
「  」
「本圓は殺す぀もりなんおなかったんだ。家に隠しおおいお、俺があんたの前に名乗り出お䞀緒に楜しく過ごせるなら、それで良かったんだ。でもさ 、倚分芚えおいないんだろうけどさ、あんたが自分の息子がいなくなり町䞭を探し回っおいた時さ。俺、䞀床話し掛けおいるんだぜ どうせ、芚えちゃいないだろうけどさ」
「  」
 あの時に私がこの子ず䌚っおいる
「ほら、䞍思議そうな顔なんおしやがっお。俺、あの時声掛けたんだ、あんたに  。そしおらよ、乱暎に肩を抌され、そのたた行っちたったんだ  。実の父芪の芖界にも入らない存圚なんだ俺っお。そう思った瞬間、あの子には可哀盞だけど殺しちたおうっおね。さすがに自分の手で殺す勇気なんおなかったから、川に投げちゃえばいいやっお。運が良ければ誰かに助けられるだろうし。たあ誰も気付かないから、そのたた溺れ死んじゃったけどさ  。あんた、前䞖じゃ行い、本圓に悪党だったんじゃねえの」
 人間的にも完党に狂った息子。私はこんな男をずっず今たで気付かず野攟しにしおいたのか  。
「たあ、ここたでの事をしたんだ 。呜など、いくらだっお投げ捚おおやるよ。歊士は昔、切腹する事で自分の責任を取ろうずしおたな 無責任でご郜合のいい責任の取り方だよ。いくら悪事を働いたっお、自分で腹を切れば、それで責任枈たせた぀もりなんだからな 。俺ずあんたの母芪もそうだった。切腹っお蚳じゃなかったけどね。自分で手銖を切っちゃった蚳だから。じゃあさ、俺も切腹すればいいだろ 死んじゃえばそれ以䞊、責任の取りようないしね。母芪はそうやっお自分の䜓で教えおくれたぜ。なあ、芪父違うか おい、芪父っ 教えおくれや なあ、俺は間違っおんのか」
 頭の䞭が真っ癜で、䜕を蚀っおいいのか分からなかった。
 私は、ずっず今たで自分自身、被害者ぶった劄想で自己を守っおきたのか。
 私は、ずっず己を忌み嫌われし子ずいう䟋えを䜿う事により、悩んできた぀もりだったのか。
 河合 、いや、我が子 。この子のほうが、私よりもずっず生たれた時からの業が深い。この子に比べれば、私は今たで甘えおきただけだ。
「同じ䌚瀟ぞ入れるように、俺、頑匵っおさ 。あんたず同じ郚眲に配属になった時さ、どんな気分だったず思う」
「  」
「俺が、あんたをどんな気持ちで、課長ず呌んでいたず思う」
 激しい涙を流しながら、河合は叫んでいた。
「積幎の恚みが、今、やっず果たせたんだ 。悔いはねえよ  」
 息子の卓を殺され、劻のみゆきや、嚘の䜳奈にした事を考えるず、殺したいほど河合が憎かった。しかし、䜕だろう。この䞍思議な感情は  。
「すたなかった  」
 自然ず出た蚀葉は、謝りの蚀葉だった。
「䜕がすたなかっただよ 自分の息子を殺した犯人が、そしおあんたの劻を犯した男が目の前にいるんだぜ」
「  」
 人間のモラルずいうものをたったく無芖した男が目の前に立っおいる。
 私はその存圚すら今たで知らなかった。
 その男は、息子の卓を殺し、劻を犯し、効にあたる䜳奈にたで乱暎を働く。
 しかしその原因を䜜ったのは、他でもない。
 この私なのだ  。
「あんたの息子を殺し、䞀床は埩習を遂げたこの俺がさ、い぀、あんたの家庭をメチャクチャにする蚈画を䌁んだか 。どうしお実行しようずしたか、おたえに分かるか」
「私の存圚に気付いた時か  」
「そんなんじゃねえよ 。あんたがブログ名を぀けた時だよっ」
「  。そうか  」
 ご機嫌パパ日蚘  。
 生を受けた時から河合は、ずっず茚の道を歩んできたのだ。ひょっずしたら、私ず同じ䌚瀟に入った時は、ただ血の繋がりずいうものを、どこかで憎しみず䞀緒に期埅しおいたのかもしれない。
 それが、自分の存圚にはたったく気付かず、私はほのがのしお幞せな家庭を築いおいるのだ。圌のやり堎のない怒りは、深い心の奥底にひっそりず積み重なっおいた。
「俺も、死ぬ芚悟はできおいる。ここたでやっちゃあな 。ただ、あんたには䞍幞のどん底に、萜ちおもらいたかったんだよ。死ぬ前に  」
 憎悪の塊ずなっお生きおいた我が子  。
 いや、憎悪だけでない。父芪に察しおどこか甘えおいるような郚分すら感じる。
 人ずしお歪み果おた我が息子。
 この狂気に満ちた行為は、私の責任でもあったのだ。
「  」
 安易な蚀葉を圌に掛けられなかった。
「䜕ずか蚀っおみろよ、芪父っ おめヌの倧事な奥さんは自分の息子に抱かれ、䞭にたで出されおいるんだぞ」
 みゆきにも、そしお䜳奈にもすたない事をした。卓にも  。
 いくら謝っおも蚱される事ではない。以前なら、私を産んだ母芪のせいにしおいただろう。確かに母芪に䞀番責任はある。しかし圌の存圚を今の今たで気付けなかった私も同眪だ。
 やはり私は、この䞖に存圚しおはいけなかった存圚だったのか  。
 私ず圌  。
 父芪ず息子  。
 私ず河合  。
 䞊叞ず郚䞋  。
 被害者ず加害者  。
 母芪の胎内で果おた時から、私の業は始たっおいたのだ。
 私の次男、卓を殺した私の長男  。
「䜕ずか抜かしおみやがれ」
 絶望に満ちた我が子に、父芪ずしお、䜕ずかしおやれないのだろうか。
 心の奥底に、無数の傷を負い、ここたで人栌が壊れおしたった我が子よ  。
 あれほどあった怒りは消え、情けの心だけが私の䞭に残る。
「教えおほしい  」
「䜕をだ」
「君の 、本圓の名前を  」
 私の蚀葉に、圌はギョッずした反応をし、倧粒の涙をボロボロずこがし出した。
 自分でも、ずんでもない事をしおしたったずいう自責の念に包たれおいたのだ。
「うるせヌっ」
 ここたで凶行を繰り返しおしたった圌は、初めお自分の存圚理由でもある名前を父である私に聞かれ、錯乱しおいた。
 圌の懐から飛び出した光る物。右手には鈍い光を攟぀ナむフを持っおいた。
 それは、先ほど私が圌に殺意を抱いた時に芋぀けた孊生時代愛甚しおいたナむフだった。
 私は名も知らぬ息子をこの手で殺そうず考えおいたのだ。
「貎様になど、俺の名前は教えない。絶察に教えない。俺は、ここたでの事をした。だがただ怚みは晎れちゃいねえ」
「どうすればいいんだ、私は  」
 圌は、倧きく目を芋開いた。
「我に流れし血、呪いの血脈なり 。我、忌み嫌われし子。誰からも必芁ずされず、故に䞀人、孀高に生きる  」
 忌み嫌われし子  。
 やはり同じ血が流れおいる。
 䜕床私もそうやっお自分の事を忌み嫌われし子ず蔑んだだろうか。
「  」
 圌に掛ける蚀葉が芋぀からなかった。
「もうここたでされたら、倢も垌望もないだろ このナむフで俺の銖を掻っ切れ。実の息子を殺した殺人犯ずしお、生きながら䞀生苊しみやがれ」
 そう蚀いながら河合は私の手にナむフを握らせおくる。
「ほら、おたえの家庭をメチャクチャにした男の銖を掻っ切れるんだぞ 嬉しいだろうが 早くやれよ。芪子共々䞀緒に殺人鬌になろうぜ、おい」
 ただ圌の埩讐は終わっおいなかったのか。
 私のこの手で自分を殺せずいうのか
 いや、そうする事で、止たらなくなった自分の凶行を私に止めおもらいたかったのではないだろうか。
 だからこそ圌は、アルルの女ずいう間接的な圢で䜕床も私に心の叫びを蚎えおきたのだ。
 自らを意地悪なカりボヌむのミチフィオず重ねる事で、そしお私をフレデリに芋立おた。アルルの女のフレデリず同じように、私は錯乱状態になった。自分の呜を萜ずそうずさえ考えた。
 䜕故もっず早く気付いおやれなかったのだろう。
 圌の存圚を  。
 これたでの圌の所業を思い返す。
 完党に捻じ曲がった心。
 しかし、我が遺䌝子を組む息子なのだ。
 卓たで、その手で殺されおいたずいう事実。
 息子の今たでの蚀動や行動、蚱しがたいものがある。
 私は、ずっず䞡芪を恚み続けおきた。
 圌にずっおは、私以䞊の憎悪があったのかもしれない。
 私は䞡芪ずは違う。
 今たで息子の存圚すら知らなかった眪。
 こんな私が圌に、いや息子に、䜕かできる事はないのだろうか。
 しおやれる事はないのだろうか。
 芪から受け継いだ忌々しい血脈。
 忌み嫌われし血脈。
 できれば私の代で、それを倉えさせたい。
 芪がそうだったからずいっお、私たで、そうしなければいけないずいう蚳でもない。
 私は私  。
 あの䞡芪ずは違うのだ。
 私は私の思うたた、自分の刀断で動こう。
 父芪ずしおの背䞭を私なりに芋せよう。
 呪われた血脈の連鎖をこれ以䞊繰り返しおはならない。
 すべお私が受け止めよう  。
 ナむフの切っ先を自分に向ける。
「おい、䜕をしおんだ 早く俺の銖を掻っ切っおみせろよ」
 ナむフを䞡手で持ち、ゆっくりず振り䞊げる。
 みゆき  。
 䜳奈  。
 そしお卓  。
 本圓にすたなかった。
 でも、これで圌の埩讐は終わるんだ  。
 いや、終わりにさせよう。
 プレむダヌは、アルルの女の第二組曲、第二曲の間奏曲を奏でおいる。
 私は目を閉じ、喉元ぞ向けおナむフを振り䞋ろした。
 
 実の父芪が、幌い私を抱きながら、どこか现長い道を歩いおいた。
 気が぀けば、い぀だっお䞡芪は醜い顔をしながらお互いを眵り合っおいる。
 五歳の私に母芪がしがみ぀き、声を抌し殺しお静かに泣いおいた。父芪が急に家を出お行った日だった。
 怖い顔をした借金取りが家に来るようになり、い぀の日か母芪は匷匕に犯されおいた。
 実の母芪が裞のたた、高校生の姿をした私の䞊で腰を倧きく振り、乳房を揺らしおいた。快楜のみに身を委ねたその目は、もはや母芪の目ではなかった。
 朝起きるず母芪の姿はいなかった。もうここに戻っお来る事はないだろうし、二床ず䌚う事もないのだろう。そう自然ず理解できた。父芪に続き、私は母芪にたで捚おられたのだ。
 奚孊生ずしお日々勉匷に励み、空いた時間をアルバむトに圓おる日垞。䜙裕なんおこれっぜっちもなかったけど、自分の居堎所を䜜る為ず必死に毎日を生きた。
 倧孊生時代、行き぀けだった喫茶店に、新しく入っおきたバむトの子。ひず目で心を奪われそうだった。過去の耇雑な思いを胞にしたい蟌み、勇気を出しおデヌトぞ誘う。照れ臭そうに赀面させながらバむトの子は、自分の名前をみゆきず名乗った。
 入籍も枈たし、結婚匏を終え、みゆきが正匏な私の劻になった。みゆきは、子䟛は二人ほしいず埮笑たしそうに、明るく将来を話しおきた。
 最初の子䟛卓が生たれる。倧きな声で泣く息子が誕生した瞬間、私たち倫婊は家族に倉わった。
 卓が二歳になった時さらわれ、䞀週間埌近所の川で氎死䜓ずなっお発芋された。
 すっかり衰匱した劻を䜕ずか励たしながら日々を過ごすが、私にずっおも地獄絵図のような毎日だった。
 友人のアドバむスを受け、私は匷匕に次の子䟛を䜜る事に決めた。傷心しきっおいたはずのみゆきは䜕床も抵抗したが、匷匕に私は抱いた。
 やがおみゆきは二番目の子䟛をお腹に宿した。
 倫婊から家族。家族から倫婊になっおいた私たちの間にたた新たな生呜が宿るず、みゆきも生きる垌望を芋぀けたのか、少しず぀明るくなっおいった。
 孊生時代、小説家を目指しおいたみゆきは、女の子が生たれるず、䜳奈ずいう名前にこだわった。蚳を聞くず、自分が過去に曞いた䞻人公の名前が、䜳奈だった。
 䜕床も家族仲良く旅行ぞ行った。ただ幌い䜳奈は、どこぞ連れお行ったのか、ちゃんず芚えおいるのだろうか。写真を芋る限りでは、みんな、笑顔でニッコリずしおいた。
 䜳奈の小孊校入孊匏。みゆきは、䜳奈の晎れ舞台に涙を滲たせおいた。
 狭いマンション暮らしから我が家を買おうず、みゆきず盞談した。普段、倧人しいみゆきがこの時ばかりは倧はしゃぎしおいた。
 あちこちでいい人を挔じるのに、疲れを感じるようになった。䌚瀟でも、家でも、私はい぀も笑顔でニコニコしおいる。死ぬたで、この状態を保っおいかねばならないのだろうか。仕事䞭でも、家で䌑んでいおも、そんな事ばかり考えおいた。
 郚䞋の河合が、ひょんな事から接近し、四十歳になっお私はパ゜コンをやり始めた。ブログずいうものを自分で持ち、埐々にパ゜コンにはたっおいくのが分かる。みんなからのコメントが来るのをい぀の間にか、心埅ちにしおいる自分がいた。
 ブログずいうものが、楜しいだけじゃないずいう郚分も芋え始めおきた。嫌なコメントを平気で残す無神経な人間もいるのだ。ただコメントを集めればいいずいうものじゃないのを知った。
 私の家族が、埐々に週䞀で来る河合に銎染み、私は疎倖感を芚えるようになった。
 河合の本性を知った。最初から私のずころぞ近づいおきた目的。それは劻のみゆきを抱いおみたいず、己の欲望だけからくるものであった。
 粟神が䞀定しない私は、劻ずも険悪な仲になっおいた。
 河合が家に来お、ずうずうみゆきを抱く蚈画を始動した。
 嫌味を握られ、䜕もできない私は河合に殺意を芚え、無意識の内にナむフで刺し殺そうずした。
 逆に叩き朰され、目の前でみゆきを犯す堎面を、たざたざず芋せ぀けられた。
 嚘の䜳奈たでが、その光景を目撃し、河合に乱暎された。
 みゆきたで殎られ、意識を倱った状態で犯され続け、䞭出したでされた。
 殺意に満ちおいた私に、河合は、自分を私の息子だず宣蚀し、過去を語った。
 河合明人ずいう人間を殺し、それに成り代わっお生きおきた珟状。
 それから息子の卓を殺した経緯たで話し出した。
 完党なる異垞者ずなった名も知らぬ息子。
 最埌に自分の呜を私の手で終わらせるようナむフたで握らせおきた。
 
 静かに目を閉じる。
 するず昔から慣れ芪しんだ挆黒の肌寒い空間に囲たれおいた。
 膝を抱えお座り蟌む私。党身凍っおいくような感芚。
 こうしお心を塞ぎ蟌む事で、ようやく惚めで暗い珟状を忘れる事ができた。
 䜕もない静かな空間。
 自分は孀独である。
 それを嫌ずいうほど実感させられる。
 肩に觊れる枩かい感觊。そしお眩い光。
 凍結しおいた心を緩やかに溶かしおくれたのは劻のみゆきだった。
 私たちは籍を入れ、䞀぀の倫婊ずなる。
 子䟛ができ倫婊から家族に  。
 䞀床はその幞せを奪われたものの、私は孀独ずはたるで遠い立ち䜍眮を歩いおいた。
 その築いた空間ぞ土足で入っおきた郚䞋の河合。
 自分の子䟛だず 、そしお卓を殺した犯人だず知らずに今たで接しおいた。
 そんな男が今、こうしお私の隣で同じように膝を抱えお蹲っおいる。
 我に流れし血、呪いの血脈なり  。
 我、忌み嫌われし子。
 誰からも必芁ずされず、故に䞀人、孀高に生きる  
 そう 、孀高に生きるず蚀ったんじゃないのか。
 䞊叞ずしお接した時間は長い。父ずしお接した時間はほんの僅か。
 これは私の立ち䜍眮である。
 では圌はどうなのか
 孀独のたた人生を送り、私ぞ埩讐を果たす為だけにこうしお生きおきた。
 もう埩讐は終わったのか
 だからそうやっお黙ったたた膝を抱えお蹲っおいるんだろう。
 孀独っお嫌だよな。蟛いし、寂しいし  。
 私は卑怯だった。
 自身の出生を呪い、誰かを憎む事で珟実逃避しおきたのだ。
 ちゃんず振り返られる䜙裕があったなら 、圌の存圚に察し気付いおあげられたかもしれない。
 非嫡出子ずしお生たれおきたのは君のせいじゃない。
 すべおは私ず母芪のせい  。
 気付いおあげられなくおすたなかった。
 もっずこんな颚になる前に気付いおあげられれば良かったのに。
 君も私も、忌み嫌われし子だったかもしれない。
 でも 、私はもう違う。
 愛する劻のみゆき、嚘の䜳奈がいる。そしお卓も。
 気付けば孀独ではなくなっおいたんだ。
 今たでずっず君は孀独だったかもしれない。
 でも、もう違うじゃないか。
 少なくおも私が 、いやこの父が君の存圚を知った。
 その時点でもう、忌み嫌われし子なんかじゃないんだっお  。
 最埌に私の手で殺されお埩讐は終わる
 駄目だ。そんなんで死なせはしない。
 生きながら己のした行為を悔い改めよ。
 名も知らぬ息子の凶行を止める為、私は自らの呜を差し出しお償いをしよう  。
 
 もの凄い鮮血が芖界に映る。
 もはや痛みも䜕も感じなかった。
 喉の奥が燃えるように熱く、蚀葉を発したかったが䜕も話せない。
 信じられないものを芋るような目で名も知らない息子が、私の喉元を必死に抌さえながら泣きじゃくっおいる。
「芪父ヌっ 和垌だ。俺の名前は、和垌だっ 死なないでくれ、芪父ヌっ  」
 蚀葉が出せない私は最埌の力を振り絞り、床に血を䜿っお文字を曞いた。
『息子よ 、己のした眪を償いながら必死に生き抜いおみせよ』
 そこたで曞き終えるず、走銬灯のように昔からの出来事が䞀瞬にしお頭の䞭で流れ、私は、䜓が軜くなるのを感じた。
 䞍思議な光景だった。真っ赀な鮮血で染たった私が芋える。倧の字に床ぞ倒れおいた。
 裞のたた、意識を倱っおいる劻のみゆき。
 凄惚な状況を目の圓たりにしながら私はどんどん䜓が浮き䞊がり、目に映る光景は小さくなっおいく。
 私は、人生を攟棄しおしたったのだ  。
 劻や子䟛は、これからどう生きおいくのか。
 すたなかった 。
 本圓にすたなかった  。
 努力はした。
 でも、これが私の限界だった。
 みゆき、䜳奈  。
 そしお卓  。
 こうなっおも、ずっず愛しおいる  。
 和垌  。
 ちゃんず眪を償い、生きろ  。
 生たれながらにしお、忌み嫌われし子など、どこにもいない。
 仮にもしそうだったずしおも、人は誰かず接する事で倉わる事ができる。
 我ら母芪は、己の業を自ら手銖を叩き切る事で責任を攟棄した。
 だったら私は、自らの死で 、今たで名も知らなかった息子に分からせよう。
 これたでの深い業は、私がすべお受け止めよう。
 愛ずは䜕か。
 心ずは䜕か。
 人間ずは䜕かを  。
 和垌、生きお、自己の生きざたを倉えおみせろ。
 生き抜く事は、死ぬ事よりも苊しい。
 でも生きおいれば、そこに䜕かしらの光明はある。
 私から莈る最埌の蚀葉だ  。
 私は、匷烈な光のある堎所ぞ蟿り着いた。
 愛する家族よ。
 本圓に、ありがずう  。
 私の芖界には、眩い光だけが映っおいた。
 
 
゚ピロヌグ
 
『ご機嫌パパ日蚘 その六十䞉』 気たぐれパパ
 
 みなさた、䞀週間ほど曎新もコメントもせず、すみたせんでした。
 ただ単に、仕事が忙しく、パ゜コンを開く時間すらなかったのです。
 ご心配をお掛けしおすみたせんでした。
 これからも私、気たぐれパパはほのがのいる事をここに宣蚀臎したす。
 それず、倉なコメントをくれる方  。
 ここはみんなが楜しくコメントをやり取りする堎なので、意味䞍明のコメントはご遠慮䞋さいたせ。
 あず、ミセス・マナミさん。コメントいただきたしたが、䜕故、あのように怒っおいるのか、さっぱり私には分かりたせん。
 私は自分自身が善人かどうかたで分かりたせんが、別に停善者ではありたせん。その蚀葉の真意が分かりかねたす。
 
牧垫
 最近、ここ䞀ヶ月も曎新なく、少し心配しおおりたす。
 気たぐれパパさん、お元気で過ごされおいるでしょうか
 時間できたら、たた元気な姿を芋せお䞋さいね。お埅ちしおおりたす。
 
うめ
 こんばんは、うめちんです。あれれ、ただ曎新しおないですね。
 
自分流
 どうかされたのでしょうか ほのがのずした蚘事をたたお埅ちしおおりたす。
 
気たぐれマダム
 マダムも、これから詊隓䞭で忙しくなりそうです。やっずお尻に火が぀いた状態かな
 気たぐれパパさん、お互い頑匵りたしょうね
 
ミィヌフィヌ
 私も、少し思うずころあっお、ちょっずブログのほうお䌑みしたす。たた、戻っおきたらお盞手しおくださいね、あはっ。
 
青い鳥
 元気で頑匵っおいるでしょうか
 先月の二十五日から、久しぶりのタむ、チェンマむです。
 こちらは暖かく毎日快晎です。その䞭を䞋手なゎルフに明け暮れおいたす。
 気たぐれパパさんも、お䜓に気を぀けお頑匵っお䞋さい。
 
らん
 実は私も、しばらくブログ、お䌑みしようず思っおいたす。ほんたに、みなさたには感謝しおいたす。たた、い぀か再開したいず思っおいたす。
 
トラむ
 よっ 気たぐれパパさん。最近、曎新なくお寂しいですね。たた元気な姿を芋せお䞋さいね。埅っおたすよ。
 あ、そういえば俺、圌女ず結婚する事に決めたした。
 毎日を頑匵っお必死に生きようず想いたす。
 ずりあえずご報告たでに  。
 
牧垫ツマ
 私のブログ、䜕ずか頑匵っお曎新しおいるので、これからも芗いお䞋さいたせ。
 気たぐれパパさん、忙しいですか お互い頑匵りたしょうね。
 
ちゃち
 パパさん、おはよ。
 
ぎよ
 あれから曎新なくお、ぎよは少し寂しいですね。元気でしょうか
 むっ、ギロリ  。
 トラむのお喋り、こんなずころで曞くなんお恥ずかしいじゃんか、バカ  。
 
たかさん
 パパさん、頑匵っおね。ファむト
 
ネコ
 気たぐれパパさん、䜕かありたしたか ネコは、ちょっず心配しおいたす。
 たた、明るいパパさんの姿、楜しみにしおたす。
 
新宿トモ
 こんにちは、気たぐれパパさん。たた、この間、応募した賞 。残念ながら駄目でした。でも、俺は絶察にめげずに頑匵りたす
 曎新、最近しおないですね。忙しいですか
 日垞の生掻あっおこそのブログですから、珟実がそうなら、曎新できないのも仕方ないですよね。
 もし、そうでなく䜕かお困りなら、俺で良かったら、気軜に蚀っお䞋さいね。
 い぀か俺の小説が、この䞖に出るの、楜しみにしおお䞋さいね。
 俺、これからも頑匵っお、ばく進したす
 たた、気たぐれパパさんも元気な姿、芋せお䞋さいね。
 
忌み嫌われし子
 ありがずう。
 頑匵っお生き抜いおいきたす。

―了―

 å¿Œã¿å«Œã‚ã‚Œã—子あずがき 

 幎月日幎月日。
 あれから四幎近い幎月が流れ、今、俺はやっずこのあずがきを曞く事ができるようになった。
 これたで様々な䜜品を曞いおきお、ここで䞀぀、自身のリミッタヌを少し倖しおみようず思った。
 それがこの『忌み嫌われし子』であった。
 
 䞻人公、朚島のブログにハマっおいくやり取りは、圓時『新宿の郚屋』をハンドル名『新宿トモ』の名前で運営し始めた頃の私の感情や状況を正盎に投圱した。
 ぀たり、ヒロむン圹である朚島の劻みゆきは、圓時付き合っおいた圌女ずのやり取りずなる。
 ブログ䞊で登堎する人物たちも、圓時はほずんど生存しおいるリアルな人たちで、この䜜品を曞くに蟺り、䞀人䞀人に名前を䜿っおいいかず確認を取っおみた。
 始めは執筆䞊の敎理の぀もりで始めたブログ  。
 しかし、埐々に倚くの人たちがコメントをくれ、䞭には熱烈なファンメヌルをくれる子が出始めた内に、圓時付き合っおいた圌女は、䜜䞭のみゆきのように䜕床もブログ批刀を繰り返し、関係は悪化しおいく。
 すべおは䜜品の為ず蚀いながらブログぞのめり蟌んでいく私。
 それを嫌い、䜙蚈に意固地になっおいく圌女。
 
 䜜品が完成した日、圌女はすぐに読みたがった。
 私はプリンタヌで䞀枚ず぀䞁重に印刷をし、䞀冊の本を䜜っお枡した。
 
「いいか おたえは明日も仕事があるんだし、そんな無理しお䞀気に読んだりするなよな」
 手枡せたのは、幎月日の倜十䞀時過ぎ。
 この䜜品が完成した日だった。
 
 日にちが倉わっお明け方の時頃になった頃、私の携垯電話が䜕床も鳎り、それで目を芚たした。着信音は圌女から。
 こんな朝方に電話なんかしやがっお 。そう思い぀぀も、嫌な予感はしおいた。
 䜜䞭の朚島ずみゆきのやり取りは、そのたたリアルな私たちの䌚話でもあったのだから。
 
「私はこの䜜品を読んで、あなたの人間性が本圓に嫌になりたした。あなたが䞖に出るたで逢うのはやめたしょう  」
 電話に出た途端、私はそう圌女に蚀われた。
 
 䞀぀の䜜品を完成させるのには、ずお぀もない劎力が掛かる。
 いくら奜きでやっおいるずいう事でも、自身の魂を削りながら䞀語䞀句を曞いおいるのだ。
 必死になっお曞いた䜜品。
 読みたいずいうから、私は面倒なのを承知で本にしお枡した。
 それがこの蚀われよう。さすがに感情的になっおいた。
 電話口で怒鳎り぀けるず、「䜕であなたは私の蚀い分をすべお聞いおくれないの」ず蚀われる。
 産み出したばかりの我が䜜品を読んだ䞊で、いきなりこんな朝っぱらから起こされ貶されたのだ。感情的にはどうしたっおなっおしたう。
 そんな読んで嫌な気持ちになるぐらいなら、䜜品など読たなければいいだけなのだから。
 ただ圌女は䜕かを蚀っおいたが、その堎は感情的になるので私は匷匕に電話を切った。
 
 翌日、地元の知り合いの家で、私が党日本プロレス時代のちゃんこ鍋を䜜る玄束をしおいた。
 その為倚くの人たちが集たり、私は名分のちゃんこ鍋を䜜るようである。
 地元にある倧きな楜噚店の䌚長宅の䞭、集たった面子は倧物が倚い。䞭には党日空の機長たでいた。
 みな、私の䜜ったちゃんこをおいしそうに食べ、楜しい宎は続く。
 しかしそんな䞭、圌女から電話が掛かっおきた。
 予想通り、電話を匷匕に切った私に察する眵倒を散々蚀っおきた。
 
「悪いけどさ、今䌚長の家にいるんだよ。呚りに人がたくさんいる。この事は前から䌝えおあったろ 堎の空気ぐらい読んでくれよ」
 それでも感情的になっおしたっおいる圌女には通じない。
 こちらが聞いおいるだけで、げんなりするような台詞を䜕床も連発しおくる始末である。
 せっかく倚くの人間が楜しい酒ずちゃんこを食べながらいるのだ。私が怒鳎っおその空間を壊す蚳にはいかない。なので電話を切り、電源を萜ずした。
 あずでたたひず悶着なるのを承知でも、そうするしか方法は考えられなかった。
 
 䜕故䜜品を読んだだけで、圌女はああたで怒り、酷い眵倒をしおくるのだろう  。
 家に垰っおから様々な憶枬を立おおみる。最近の圌女の行動は、垞軌を逞しおいた。
 私にブログやメヌル䞊で、し぀こいぐらい迫っおくる女性もいたが、圌女は自分の感じた事を䌝えおくる。
 
「あの○○っお子ね 、私 、䞀番嫌いなタむプの女かも  」
「そう蚀うなよ 、俺の䜜品を玠晎らしいっお応揎しおくれる読者の䞀人なんだし。たあちょっず私が私がっおずころあるけど、俺の女はおたえなんだし、あの子の事なんかでいちいち目くじらなんお立おるなよ」
「私ね 、昚日の倜、トモの家から垰っお、ずっずあの子のブログを隅から隅たで、朝たで掛かったけど読んだの」
「䜕でそんな事たで  」
「あの子 、子䟛や旊那さんいるのに、自分の事しか考えないタむプの女だよ。ああいうの䞀番倧嫌い」
 目に涙を溜めながら私に匷く話す圌女。
 この頃から、私はダキモチを焌く圌女に察し、少し疎たしさを芚えるようになったず思う  。
 朝たで掛かっお嫌な人間の曞いた文章を読み続けるなんお神経が、私にはたるで分からなかった。
 そしお数時間掛けお䜜った『忌み嫌われし子』の本。
 
 あれだっお、付き合っおいる圌女が私の䜜品をすぐに読みたいず垌望するからこそ、すぐにその䜜業に取り掛かったのだ。
 自身の䜜品を読んで、あのような蚀われよう  。
 さすがにそれを笑顔で察応できるほど、私は人間ができおいない。
 この䜜品を読んだネット䞊の人たちからは、暖かい感想をたくさんもらえた。それで自身が䜜家ずしお、今埌もやっおいけるのか、その倧きな自信ず原動力にもなっおいたのだ。
 
 この頃、家ではうんざりするような家族間のトラブルの連続もあり、本圓に苛立っおいた時期でもあった。
 家でもうたくいかず、圌女からは眵倒されるなんお、珟状に察し生きる垌望をたるで芋出せない状況だった。
 倕方になり、再び圌女から電話が掛かっおきた。
 少しは時間を眮いたから、向こうも冷静さを取り戻しただろう。そう思った私は、電話に出た。しかし考えが甘かった。
 圌女は前ず倉わらぬテンションで、『忌み嫌われし子』を眵倒しおきた。
 
「あんな䞉流お笑い芞人がパクったような小説 、よくもあんなものを私に読たせおくれたわね」
 
 パクる
 䜕を
 自身の経隓を䜜品に掻かす事は、パクりずは党然違う。
 
「みんなが䞁重にトモさんトモさんっおくれたコメントずかたで、パクっちゃっおさ」
 
 だからこそ、登堎させる人物党員に私は蚱可を取っおあるのだ。
 䜕がいけない
 聞いおいるのが蟛くなり、私は静かに蚀った。
 
「俺さ 、家でもああで、おたえからもそんな颚に蚀われたら、生きおいくの、本圓に嫌になっおきちゃうよ  」
 同情を買わせる぀もりで蚀ったのではない。䜜品に察する眵倒をやめおもらいたかったのだ。
 俺の分身でもあるのだ、これたで執筆しおきた䜜品たちは  。
 それでも圌女は酷い蚀葉を容赊なく济びせおきた。目の前が暗くなり、心にグサグサず突き刺さる。
 力なく呟くように「もう 、いいよ 。もう、やめおくれ」ず䜕床も懇願するように䌝えた。
 しかし、圌女はあんな䜜品を読たせたわねず、䜕床も眵倒を続けた。
 聞いおいる内に、根底に幌い頃から眠っおいる激しい憎悪が出おくる。
 
「分かった 、よく分かったよ  。結局、俺の人生 、こうたでメチャクチャにしおくれた本圓の珟況は芪父だ  。奜き勝手に生き、みんなに迷惑を掛けおたで、あんな女を家に入れのさばらせやがっお  。毎日が本圓に嫌だった。おたえにそう蚀われ、生きおいくのも嫌になったけど 、自殺する前に、あの元凶の呜を摘んでやる」
「どうせ、口先だけでしょ お父さんを殺せる蚳ないじゃない」
「おい 、こっちはプロのリングにも䞊がり、死ぬほど䜓を鍛え抜いおきたんだ。人間を玠手で壊すなんお容易い事だ。俺が口先だけ できる蚳ない 䞉十になっおから始めたピアノ 。発衚䌚たで出堎できる腕前になった。プロのリングの䞊にだっお、䞊がり戊っおきた。すべお、俺の信念だけで貫き通しおきた  」
「ふん、だから䜕よ 今は䜕なの しょせん昔の事でしょ」
「分かった 、電話を切るなよ 。今 、隣に芪父がいるはずだ。目の前で殺すずころを聞かせおやる。分かったな  」
 過去のトラりマでもある郚分に觊れられ、それを簡単に蚀われ、私は完党に自分を芋倱っおいた。その時あったのは激しい憎悪による怒りの感情だけであった。
 
 小孊二幎生で母芪は家を出お行った。
 芪父は遊び呆け、子䟛の孊費すら出しおくれなかった。そしお浮気を繰り返し、遊ばれた女共が、䜕床だっおこの家に文句を蚀いにやっおきた。
 歳の総合栌闘技埩垰戊の前日  。
 ほずんどの時間をひたすらトレヌニングのみに没頭し、最高のコンディションを䜜っお臚もうずしたあの日。
 芪父にし぀こく぀きたずっおいた女が、倜䞭に私の郚屋たで勝手に䞊がり蟌み、倧きな隒動を巻き起こされた。
 私は寝ずに、詊合ぞ臚たなきゃいけなかった  。
 鶎田垫匠が亡くなり、リングの䞊で恩返しする機䌚を倱った。
 でも、少しでも俺はその意思を受け継いで、戊っお、あの人の偉倧さを倚くの人間に䌝えたいず、ずっずそれだけを思いながら、日々の鍛錬に堪えおきたのに  。
 芪父ずその女のせいで、すべおぶち壊しにされおしたった  。
 時が経った今、その忌々しい女は図々しくも、戞籍䞊私の母芪になっおいる。
 おじいちゃんだっお、私ら䞉兄匟を育おおくれたおばさんだっお 、芪戚だっお、近所のみんなだっお、すべおが反察し、嫌ったあの女が家に入り蟌んできた。
 巻き起こった家のトラブル  。
 すべおあい぀らのせいじゃないか  。
 䜕床も殺意を芚えた。でも、おじいちゃんがそんな事を望んでいない。
 だから、い぀だっお感情を抌し殺し、ずっず我慢しおきたんだ  。
 
 圌女は私ず籍を入れたがっおいた。もちろん私だっお、ただ先の話だけどそれに応える぀もりだった。
 でも、い぀だっお芪父はそんな想いを平気でぶち壊しおきた。玄関で挚拶する圌女を睚み぀け、無芖しお行っおしたう芪父。そんな事を䜕床も繰り返しされたら、圌女だっお私に蚀いたくなるだろう。
 䞀床じゃ䌝えきれない数々の怚念。それが圌女からの眵倒により、䞀気に爆発した瞬間だった。
 
「ちゃんず聞いおおけよ、人が死ぬ断末魔っおや぀を聞かせおやるから」
 そこたで腹を括るず、圌女は焊ったのか、急に私を止め出した。
「今さら遅いんだよ 。おたえの蚀葉が、俺をこうさせた。あずで死ぬほど埌悔しろ」
 今振り返れば、完党に自棄になっおいたのだろう。
 もう、私は自分を止める事ができなかった。
 芪父の郚屋のドアノブに手を掛けた時、持っおいた携垯電話が鳎る。キャッチホンにしおいたので、別の誰かから電話が掛かっおきたのだ。
 電話になど出る぀もりなど毛頭もない。
 これから私は芪父をこの手で殺そうずしおいるのだから  。
 電話口の向こうで泣き叫びながら私を止める圌女。䜕も気にならなかった。ここたでそう远い詰めたのは、コむツなのだから。
 こんなタむミングで掛けたきた着信䞻を確認する。
「  」
 画面を芋お、私は動きを止めた。以前圌女ず䜕床か行った矀銬に䜏む䞍思議な先生だったからだ。たさか、この展開があの人には芋えお、連絡をしおきたずいうのだろうか  。
 先生からの電話なんお、これたでにない。初めおだった。
 䞍思議な先生で、私の過去をズバリ䜕床も蚀い圓おた事がある。気が付けば私は郚屋に戻り、電話に出おいた。
「䞀䜓䜕があったのですか」
 開口䞀番先生はそう聞いおきた。
 やはり䜕かを感じお電話をしおきたのだろう  。
 先生には䞀䜓䜕が芋えおいるのだ
 私はこれたでの展開を詳しく䌝えた。
「怒る気持ちは分かりたす。でも、それをしおあなたは䜕になりたすか」
 そう 、䜕もならない。残った人間がいい迷惑をこうむるだけに過ぎない。
 私は先生に話した時点で、怒りを吐き出させ、冷静になるよう誘導しおいたのだろう。
 膝を抱えたたた、嗚咜を挏らしながら私はしばらく泣いた。
 
 呪われおいるず思っおいた人生。
 小説を曞く事で、埐々にではあるが自身の憎悪を浄化できおいく事には気付いおいた。
 凊女䜜の『新宿クレッシェンド』の䞻人公、赀厎隌人には幌少時代虐埅に遭った頃の想いを䞎えた。
 䜜品を䞀぀、完成させる床、心が軜くなっおいく事にも自芚はしおいた。
 倜になっお圌女が郚屋たでやっおきた。
 私の顔を芋るなり抱き぀いおきお、「良かった 、生きおいお本圓に良かった」ず泣いおいた。
 では、䜕故あんな颚に私の䜜品をけなしたのだ  。
 もう争うのは嫌だったから、私は普通に話をするように努めた。しかし、圌女に察する芋方がこれで倉わっおしたったのは事実である。
 この幎の冬、あの件から玄䞀ヶ月埌、私は『岩䞊敎䜓』を地元で開業した。
 開業しおすぐ、圌女ずはたた口論になり、二幎半ほど続いた付き合いは終わった。
『忌み嫌われし子』  。
 この件が匕き金ずなったのは吊めない
 
 幎月日  。
 これだけの幎月が過ぎお、初めおここたで文字ずしお曞けるようになった自分がいる。 

岩䞊 智䞀郎 

タむトル『忌み嫌われし子』 䜜者 岩䞊智䞀郎
幎月日幎月日 執筆期間日 原皿甚玙枚分
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幎月日幎月日 原皿甚玙枚分
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幎月日 原皿甚玙枚


いいなず思ったら応揎しよう