芋出し画像

ブランコで銖を吊った男【2006幎執筆小説】

2026/03/22 sun

※トヌタル97,598文字の蚘事になりたす

・『ブランコで銖を吊った男』を
幎月日より執筆開始
幎月日の日間で
原皿甚玙枚ずしお完成

・続線の『䜕故、この俺が 』を執筆
幎月日より執筆開始
幎月日の日間で
原皿甚玙枚ずしお完成

䞊蚘二䜜品を合䜜ずしお線集
・『ブランコで銖を吊った男』
幎月日より執筆開始
幎月日の日間で
原皿甚玙枚ずしお加筆

・『ブランコで銖を吊った男』
幎月日にさらに加筆し
原皿甚玙枚ずしお完成

・『ブランコで銖を吊った男』
最終調敎日時幎月日
原皿甚玙枚ずしお完成だったが
䞊蚘日付ず原皿甚玙枚数が同じで
薄気味悪くなり
枚たで加筆しお終わりにする


題名『ブランコで銖を吊った男』

岩䞊 智䞀郎 

プロロヌグ

 自分で敎䜓を経営するかたわら、小説を執筆しおいる私。
 今日は仕事も䌑みで、気分転換にホラヌ映画を芋おいた。
 今たで『新宿クレッシェンド』『でっぱり』『打突』など、倚数の䜜品を執筆しおきたが、同じゞャンルしか曞けおいない珟状に頭を抱えおいる。
 違うゞャンルの䜜品を曞いおみたい  。
 いくら考えおも、いいアむデアは出なかった。
 ようは珟実逃避をしおいる蚳である。
 䞀䜓、䜕䜜ぐらいのを借りたのだろうか。最近のや぀は、「ワヌ」ずか「ギャヌ」ばかり目立っお、心底、怖いものが䜕もない。
 霊的な映像を芋おいるず、぀い、これは合成か䜕かでやらせなんじゃないかず、勘繰っおしたう。私なら、ここをこういじっお、もっず怖くするんだけどな  。
「そうかっ」
 䜕かが頭の䞭で閃いた。
 私は、パ゜コンに向かい、ワヌドを起動する。
 キヌワヌドは  。
 そしお映像  。
 䜜品名も、自然ず頭に浮かんだ。
『ブランコで銖を吊った男』
 うん、これならむンパクトある名前だ。
 様々な構想が浮かび䞊がり、䞀぀の物語に混ざっおいく。
 今なら、この閃きをうたい具合に、䜜品を曞けるだろう。
 自分にずっお未知の新たなゞャンル、ホラヌ小説  。
 私なら、心底怖いホラヌを曞ける。
 そう静かに心の䞭で呟いた。
 私は、䞀心䞍乱に䞡手でキヌボヌドを打ち出した。

亀田の章 

 二階の郚屋の窓から芋える小さな公園。僕はたたにそこぞ䞀人で行く事がしばしある。䜕でかっお
 だっお恋人がいるわけじゃない。友達もいるわけじゃない。仕事にしたっお圚宅でできるから、たずもな人付き合いさえない。
 でも、それでいいんだ。煩わしい人間関係など面倒なだけ。ただでさえ家から出る機䌚が少ない僕は、たたに気分転換で公園ぞ行く。
 自分でも臭いず感じるぐらい汚れた郚屋。
 勝手に転げ萜ちるの山になった空き猶のゎミ箱。
 すぐそばには燃える甚のゎミ箱があるのだが、䞭身はほずんどティッシュばかりだった。すえたかび臭い匂いが錻を぀く。
 続いお山枈みにされたたくさんの゚ロ本。カラヌボックスにぱロビデオず゚ロだらけだ。
 郚屋の片隅には䞇幎床があっお、目の前にはパ゜コン関連のものばかり。十畳の郚屋がずおも狭く圧迫感を芚える。圌女の䞀人でもいれば、掃陀しおくれ少しはマシにしおくれるんだろうな。でもそんな事は倢であり、珟実でそんな奇特な事をしおくれる女性なんおいやしない。
 ふず机の䞊にある小さな鏡を手に取っお、自分の顔を芋おみる。濁った鏡に、僕の醜い顔が映し出された。
 倩然パヌマのせいで焌きそばのように瞮れた髪の毛。しかも倩蟺は薄くなっおきおいる。芋事に垂れ䞋がった现い䞀重の目。錻もだんごっぱなだ。肥満を感じさせる二重アゎ。四十歳になっおも消えない頬のニキビ。これを吹き出物ずか蚀う茩もいるが、僕はニキビなのだず思っおいる。醜く突き出た䞉段腹。運動をろくすっぜしおいないので、どんどん倪っおいく毎日だ。
 チビでデブでちょっずハゲ  。
 そしお四十歳の独身䞭幎  。
 郚屋に匕きこもるオタク  。
 僕に察する䞖間の評䟡なんおこんなものだろう。
 パ゜コンを䜿う以倖は、マスタヌベヌションぐらいしかやる事がない。日課の䞭に必ずマスタヌベヌションが入る四十男。惚めなものだ。
 孊生時代は垞にいじめの察象だった。こんな僕だけど、怚みはキッチリず自分なりの流儀で仕返ししおきた。
 パ゜コン以倖、友達のいなかった僕はずこずんスキルを远及した。
 僕をいじめた同玚生をこっそり隠し撮りし、合成写真を䜜成しお孊校の至る所に貌っおやった事もある。どんな内容の合成写真を䜜ったかっお
 それは人ず人が醜く争うな物を䜜るように心掛けた。
 䟋えばずがい぀も぀るんでいる仲のいい友人だったずする。の圌女ずを暗い教宀の片隅で抱き合っおキスしたりしおいる合成写真を䜜り、至る所に貌りたくる。圓然ずは殎り合いの喧嘩になった。身に芚えがないのに远求される。自分の女に手を出され怒り狂う。男同士の信頌関係など厩すのは容易い。この間僕もいじめに遭わず、仕返しも出来る最高の蚈画である。
 人為的に盞手ぞ䞍幞を巻き起こす。それが自分の思い通りにいったら気分は最高である。僕は人間同士を砎滅に远い蟌む、砎壊工䜜のプロフェッショナルだ。
 生たれおから四十幎経぀が、誰䞀人、僕の正䜓を知らない。
 
 ゚ロビデオの男優にモザむクをかけるくだらない仕事を枈たせ、垃団に寝転がる。日課であるマスタヌベヌションを枈たせるず空腹感を芚えた。
「ああ 、面倒臭ぇ  」
 立ち䞊がるのも、近所のスヌパヌぞ行くのも億劫だが、人間、空腹感には勝おないものである。モ゜モ゜ず着替えを枈たせ、食料の買出しに行く事にした。
 圓たり前だが、倖は倜䞭なので真っ暗だった。
 アパヌトを出おすぐ近くにある公園の前に差し掛かる。気分転換にブランコでも乗っお行こうかな  。
 どうせ二十四時間営業のスヌパヌなので、時間は気にしなくおいい。僕は暗い公園の䞭に入っおいった。
 ブランコ䞀台にシヌ゜ヌ、滑り台付きのゞャングルゞム、砂堎ぐらいしかない小さな公園。赀いベンチがポツンず䞀぀だけあるのが、い぀もの事ながら薄気味悪く感じる。気味悪く人から疎たれる僕ず薄気味悪い公園。いい組み合わせだ。
 深倜なので、人䞀人いない静寂に包たれた公園。空を芋䞊げるず、今日は星がよく芋えた。この柄んだ空を汚しおやりたい気分だった。
 赀いベンチに腰掛け、煙草を吞う。
 吐き出す煙がゆっくりず倜空ぞ溶け蟌んでいく。僕はそれをゆっくりず眺めた。
 今この時間だけは、僕䞀人の公園なのだ。
 たたに僕はひず気ののいない倜䞭、孀独感を癒す為この公園のブランコに乗っお、䜕も考えずただブラブラず挕ぐ。ブランコに揺られおいる間は惚めな気分にならない。
 乱暎に吞殻を投げ捚おるず、ブランコのほうぞ向かった。途䞭で劙な違和感を芚える。
 おかしい  。
 䜕だかい぀もず様子が違う。
 ここは僕䞀人しかいないはずだ。それなのに誰か他にいるような気配がする。蟺りを芋回しおみたが、誰もいる様子はない。
 単なる気のせいだ  。
 自分に蚀い聞かせ、ブランコの方ぞ向かう。近づくに぀れ、劙な嫌な臭いがしおきた。
「うっ  」
 人間本圓に驚いた時は声が出ないずよく蚀われるが、正にその通りだった。
 芖力の悪い僕は、ブランコの目の前たで来お、初めお自分以倖に誰かいる事に気が぀いた。僕は蚀葉を倱ったたた、正面をゞッず芋た。
 目の前にサラリヌマン颚の男がいる。芖線は地面のどこか䞀点を芋据えおいるようで、僕などたるで芖界に入っおいないみたいだ。
 その男は、党身の力が抜けたかのように䞡腕をダランず垂らしおいた。頭の䞊に芋える玐。その玐を䞊に远っおいくず、ブランコの䞊の棒にくくり぀けおある。
 静寂に包たれた空間の䞭での異質な状況。
 頭の䞭がどうにかなりそうだった。
 僕はその堎に汚物をぶちたけたかったが、懞呜に堪えた。しばらく地面に座り蟌んでから、もう䞀床ゆっくり男のほうぞ振り返った。
 グレヌのスヌツの男はブランコの堎所で、こんな倜䞭に銖を吊っおいたのだ。
 地面から䞉十センチほど宙に浮いた足。その足元には糞尿など様々な老廃物でいっぱいだった。異臭の元はこれだったのだ。
 譊察に通報しなくちゃ  。
 電話ボックスに向かいながら頭の䞭で敎理した。
 通報したらどうなるか  。
 たず譊察に第䞀発芋者ずしお事情聎取されるのが面倒だ。口䞋手な僕は、どうせうたく説明できないだろうし、䞋手したら、こっちが容疑者にされる恐れもある。僕が最初から芋なかった事にしたずしおも、この公園には誰もいないし分かるはずがない。面倒はごめんだ。
 それにしおもこのような堎面に出くわすなんお、人生でそう䜕床もないだろう。
 蚘念に僕は携垯のカメラで、ぶら䞋がった男を䜕床も角床を倉えお撮った。
 
 郚屋に戻り、パ゜コンぞ撮った画像を送る。
 あの堎では冷静に男の顔ずかを芋られなかったが、モニタヌを通しおの画像なら普通に芋られた。こんな事をしたら眰が圓たるかもしれない。だけど僕は神も仏も霊魂も信じおいないから、別段、問題ないだろう。
 幎霢は五十代だろうか。いや老けおいるように芋えるだけで、僕ず倉わらない四十ぐらいかもしれない。
 癜髪が混じった黒髪。
 あの公園で深倜、自殺するぐらいだから、盞圓嫌な思いをしおきたのであろう。
 カッず芋開いた䞡目。
 歯の間からは舌がはみ出しおいた。顔色は鬱血しおいるせいか、かなり醜い。
 あんな糞や尿たで挏らしお  。
 これを芋たら自殺したいず思っおも、銖吊りだけはやめおおこうずいう気持ちになる。十枚ほどの銖吊り画像を䞹念に芋おいるず、党身鳥肌が立っおきた。『公園』ずいうフォルダを䜜り画像を玍める。
 僕が芋た時は、死埌どのくらい経過しおいたのだろう。窓を開ければ、あの公園はすぐ芋える。
 ただあの男は、ブランコに吊られおいるたたなのだろう。
 さっきたでの空腹感など、どこかぞいっおしたったようだ。こんな状況で食欲があるほど、僕はタフではない。
「キャヌッ  」
 倖から悲鳎が聞こえた。
 窓を少しだけ開けお芗いおみる。
 倚分、近所の䞻婊が銖吊り男を発芋したのであろう。
 こっそり様子を芋おいるず、倜䞭にもかかわらず近所の野次銬が続々ず集たっおきおいる。僕の郚屋からだず、公園のブランコの堎所は朚が邪魔でハッキリ芋えない。ただ公園に集たる異様な数の野次銬を芋お、銖吊り男が発芋されたのが分かった。構わず倧声で叫ぶ連䞭や悲鳎を䞊げる女性たでいる。そんな嫌なら芋に行かなければいいのに。
 それにしおも銖吊り男は䜕故、あんな薄暗い公園なんかで自殺したのだろう。
 自殺者の真意など到底理解できそうもなかった。よほど远い詰められおいたのかな  。
 たあ、僕には関係のない事だ。
 あんなに倧隒ぎするような件を実は䞀番初めに僕が目撃しおいる。しかも蚌拠写真たで撮っおパ゜コンに収めおあるのだ。
 ゟクゟクずした劙な興奮が党身を包む。
 遠くでパトカヌのサむレンの音が聞こえる。
 誰かが通報したのだろう。野次銬を芋物しおいるず、パトカヌがようやく到着する。そこたで芋お、僕は睡魔に襲われたので寝る事にした。
 
 あの銖吊り隒動から䞀週間が経った。銖吊り男は自殺だった事が譊察の調べで刀明したらしい。
 今日は仕事をい぀もくれるデザむン䌚瀟の担圓線集者の早乙女ず打ち合わせ。新しい仕事の床に駅前の喫茶店で行う。どうも生理的に僕はこの早乙女ずいう男が嫌いである。理由は特にない。でも、嫌いなタむプの男だった。
 どうでもいい話だが、昚日、隣に新しい䜏人が匕っ越しおきたようだ。
「すみたせヌん。隣に越しおきたした銙田ずいう者ですが  」
 ご䞁寧に挚拶呚りの぀もりか僕の郚屋のチャむムを鳎らしおきたが、挚拶するのが億劫なので無芖する事にする。
 その事以倖、僕の生掻は䜕も倉わりがなかった。い぀ものように淡々ず仕事を枈たせ、マスタヌベヌションをするだけの日々。
 四十幎間生きおきお、䜕も代わりばえのない生掻。
 女に盞手にされないどころか、男からも盞手にされない珟実。僕は人ずのコミュニケヌション胜力がほずんどないのだろう。
 週に䞀床は行くファッションヘルスも、僕が客だず颚俗嬢は露骚に嫌な態床をする。もらっおいる金は䞀緒じゃねヌかず、䜕床心の䞭で叫んだ事か  。
 キャバクラは䞀回行っおすぐに懲りた。
 あれは金をドブに捚おるようなものだ。金で買う疑䌌䜓隓は、その時間が終わるずい぀も虚しさだけが残る。それでも僕は金を皌ぎ、食料ず疑䌌䜓隓にほずんど費やしお生きおいる。
 人間は平等であるず誰かが蚀っおいたが、あれは嘘っぱちだ。ルックスのいい男に生たれた奎らはそれだけで勝ち組だ。
 僕ら醜い男は金を皌ぐしかない。金で恋愛ずセックスを買うしかなのだ。
 それでも僕は、自殺を考えた事はなかった。性欲だっおあるし、食欲だっおある。人間は生きおいくのが最倧の目的なのであるず僕は蚀いたい。
 䟋の銖吊り事件があっおから、深倜買い物ぞ行くのは避けるようにしおいた。倜にあそこの公園前を通るのは、正盎気味のいいものではない。あの男のせいで、公園に行く習慣がなくなったのも事実だ。
 さすがに近所の人々も、あの公園には誰も寄り付かない。たたにあの事件を知らない人たちが蚪れるぐらいであった。
 
 スヌパヌに食料の買出しぞ行く。
 䟋の公園も、昌間に通ればそんなに怖くなかった。
 買い物カゎを持ちながら、適圓に食料品を攟り蟌む。倧抵はカップラヌメンがメむンだ。それずお菓子。栄逊のバランスもク゜もあったものじゃない。でも誰に迷惑を掛けおいる蚳じゃないのだから、それでいいのだ。
 向こうのほうで、うなぎの特売セヌルか䜕かで人が集たっおいる。
 うなぎか  。
 しらばく食べおいなかった。たたにはいいかもしれない。人だかりの合間から手を䌞ばしパックを぀かむ。
 その時、パックを掎んだ僕の手に、誰かの手が觊れる。柔らかくしっずりずした小気味いい感觊の手だった。
「あら、ごめんなさい  」
 暪で声が聞こえた。振り返るず、二十代半ばの女がこちらを芋お埮笑んでいる。
「この人混みであなたが掎んでいたの気付きたせんでした。ごめんなさい」
「い 、いや 。いえ 。そんな  」
 身近でこんなに玠晎らしい女に接したのは生たれお初めおだった。
 もちろん声を掛けられたのも初めおだ。
 りェヌブの掛かった綺麗な茶色のロングヘアヌ。
 薄緑のワンピヌスが非情に䌌合っおいる。
 パッチリず開いた綺麗な二重たぶたの瞳は、䞭に星でも入っおいるじゃないかず思うぐらい茝いおいた。
 芋事なたでに敎った端正な顔立ちは、テレビに出おいる芞胜人ず倉わらない。
 淡いピンク色の唇は、優しく僕に埮笑み掛けおいる。
 心臓がバクバクず激しい音を立おお鳎っおいた。
「よ、よかったらどうぞ」
 僕はうなぎのパックを慌おお離す。
「すみたせん。気を䜿っおいただいお  」
 その女は軜く䌚釈をしおその堎から消えおいく。
 僕はしばらくその゚レガントな埌姿を眺めおいた。あのような気品に満ち溢れた女もいるのだ。ストヌカヌになる男の心理が、少しだけ分かるような気がする。
 他のコヌナヌを意味なく歩きながら、芖線を先ほどの女に合わせた。スタむルも顔立ちも喋り口調も優しく完璧な女だ。やがおその女はレゞに䞊びだしたので、僕も隣のレゞにさりげなく䞊ぶ事にした。
 
 スヌパヌで買い物を枈たせるず、アパヌトぞ向かう。
 偶然にもあの女が僕の前を歩いおいる。目線は埌姿に釘付けだった。ほんの数分でアパヌトだが、圌女はこの近くに䜏んでいるのだろうか
 䟋の公園を通り過ぎ、もうじき到着しおしたう。
 できれば䜏んでいる所を調べたかった。女性に察し、このような気持ちになったのは、ずいぶんず昔のような気がする。
「あっ  」
 目の前の女が買い物袋から野菜を萜ずしたのに、気付かずに歩いおいく。これはチャンスだ。僕は倧きく息を吞い蟌んでから声を掛けた。
「す、すいたせヌん。野菜、萜ずしたしたよ」
 僕の声で女は振り向き、慌おお野菜を拟う。それからゆっくり埮笑んできた。
「やだ、私ったら 。私、すごいおっちょこちょいなんです。党然、気付きたせんでしたわ。ご䞁寧にありがずうございたす」
 笑い顔もすごくチャヌミングだ。心臓は爆発寞前になっおいる。
「い、いえ  」
 どもりながら声を出すのが粟䞀杯だった。ずっず女性に瞁がないず思っおいた。それでもいいず虚勢を匵っお生きおきた。
 こんな僕に神様が恵んでくれた最倧のチャンスかもしれない。
 この女の裞が芋たい  。
 自分のものにしおメチャクチャにしおみたい  。
 歪んだ欲望が衚情ずは裏腹に増殖しおいく。
 いや無理だ  。
 こんな醜い男など盞手にしおくれるわけがない。珟実ずは非情なものなのだ。懞呜にもう䞀人の自分が話し掛けおくる。
「あのヌ 、どうかしたしたか」
「い、いえ 。僕のアパヌトここなんで  」
 この堎所に䜏んでいる事を怚めしく思った。
「あら、偶然ですねヌ。私もここなんですよ。ほんずに奇遇ですねヌ。昚日、匕っ越ししおきたばっかりなんですけどね」
 頭をハンマヌで殎られたような衝撃を受けた。
 昚日、隣に匕っ越しおきた䜏人。
 僕の郚屋に挚拶呚りにきた銙田ずいう男。
 もし、予想が正しければ  。
「今埌もご近所のよしみでよろしくお願いしたすね」
「は、はい  」
 ポケットから鍵を取り出しおドアの前に行くず、続けお圌女は話し掛けおくる。
「あら、しかもお隣さんだったんですね」
「はは、そうみたいですね  」
「銙田 、銙田静銙です。よろしくお願いしたす」
「こ、こちらこそ 。僕は亀田です」
 最埌たで優しい笑顔で圌女は郚屋に入っおいった。
 倩囜から地獄ずはこの事だ。䞀目惚れした盞手が寄りによっお隣に越しおきた人劻だったずは  。
 泣きたい気分だった。
 
 倜になっお隣の䞻人が垰っおきたようだ。薄壁䞀枚なので倚少の声は聞こえおくる。
 銙田静銙に出䌚っおから、自分自身に萜ち着きがない。仕事もどこかうわの空でたったく進たなかった。
 小さい男の子の声も聞こえおくるので、おそらく䞉人家族なのだろう。
 あの枅楚な静銙が人劻。子䟛がいるずいう事はセックスを䜕床もやったのか ただ旊那の顔を芋おいないが、あのドア越しの声を思い出しただけで悔しくなっおきた。
 パ゜コンを起動しお、銖吊り男の画像を意味なく芋おみる。
 おぞたしいグロ画像  。
 芋おいお気分が悪くなっおきたので、゚ロを入れた。モニタヌには有名な女優の流出物が映りだす。
 こんな人気女優ず比べおも、隣に䜏む銙田静銙は数倍矎しかった。幞いに䜓の線は同じような感じに芋える。僕はたたマスタヌベヌションを始めた。顔の郚分だけは銙田静銙の顔を思い浮かべる。
 いい感じのずころでチャむムが鳎った。
「すみたせヌん。昚日、隣に越しおきたした銙田ですけど  」
 昚日ず同じ男の声、あの銙田静銙の旊那なのであろう。
 いいずころを邪魔しやがっお  。
 本来、男に興味はないが、静銙の旊那だず話は別である。僕はズボンを急いではき、玄関に向かう。
「はい  」
 思わず絶句する僕。正面に立぀静銙の旊那は、男から芋おも栌奜いいず蚀わざるえなかった。
 敗北感が心の䞭を支配しおいく。
 旊那はずおも爜やかな笑顔でお蟞儀をした。ただ䞉十前埌だろうか 悔しいが、静銙ずはお䌌合いの倫婊だ。自分の存圚が惚めに感じる。
「あ、亀田さんですか。私、昚日越しおきた銙田ず蚀いたす。぀たらないものですが、お近づきの印に良かったらもらっお䞋さい」
 そう蚀っお旊那は包装玙に包んだものを枡しおきた。
「それずうちの家内がキンピラゎボり䜜ったので、もしお口に合えば  」
「あ、わざわざ気を䜿っおいただいお申し蚳ないです」
「ずんでもないです。お隣同士なので今埌も仲良くしお䞋さい。うち、䞉歳の子䟛がいるので、倚少うるさくしおしたう堎合があるかもしれたせん」
「いえいえ、子䟛は無邪気で元気なほうがいいですよ」
「そう蚀っおいただけるず、ずおも嬉しいです。お隣が亀田さんみたいな方で本圓に良かったです」
 瀟亀蟞什なはずの台詞も圌が蚀うず、非情に枅々しく感じる。これも矎男子の利点なのだろう。いい男は埗をするものだ。
 簡単な挚拶を終え、銙田は䌚釈しお垰っおいった。
 玠盎に銙田が矚たしかった。矎しい静銙が、い぀もご飯を䜜っお出迎えおくれるのだから。
 早速キンピラゎボりを食べおみる。
 圌女は料理の腕前も抜矀だった。
 このような料理を毎日食べられる銙田  。
 静銙の肉䜓を自由にもおあそべる銙田  。
 想像するず矚たしさから、静かな憎悪に倉わっおいくのが分かる。
 しょせんどの女も顔か 。どい぀もこい぀も面ばかりで刀断しやがっお。僕は匕っ越しおきたばかりの初察面の男に察し、静かなる殺意を抱いおいた。
 そしお食べながら䜕故か泣いおいた。
 この涙は䜕の為の涙なのか 悔しさ それずも憎悪 自分の感情なのに分からないでいた。
 
 その日から垞にマむペヌスだった僕の日垞に倉化が蚪れた。
 䞀日の内、䞀時間は壁に耳をあおお、隣の郚屋の音を聞くようになった。静銙の声が聞こえおくるず、それだけで幞せな気持ちになれる。反察に旊那や子䟛の声が聞こえおくるず、むラむラしおくるばかりであった。
「あの幞せな家庭を壊しおやりたい  」
 小声で呟いおみた。あの幞せそうな銙田家が憎い。旊那ずうたくいっおいなければ、僕にもチャンスが蚪れるかもしれない。
 頭の䞭は静銙の姿をい぀も想い浮かべおいる。
 笑顔を向けおくる静銙  。
 少し悲しそうな衚情を芋せる静銙  。
 怒っおいる静銙  。
 楜しそうにはしゃぐ静銙  。
 どの顔も玠敵だった。できる事ならこの壁を壊しお、い぀でも奜きな時に静銙を芗いおみたい。
「ほら、隆志。早く食べちゃっお。じゃないず遊びに連れお行かないぞ」
 薄い壁から静銙の声が聞こえおくる。どうやら子䟛を連れお、どこかぞ出掛けるみたいだ。静銙ずあの旊那の間で生たれた子䟛。その小さな存圚ですら憎しみの察象になっおしたう。
 やりかけの仕事を始める。
 パ゜コンの画面に映る女。グラビア女優の卵が極小のビキニを着お、砂浜に暪たわっおいる。モデルの女は䜜り笑顔で䞋を向いおいた。
 僕は画像を䞹念にチェックしながら、ホクロを消しおいく。よくこの皋床で雑誌に出ようずいう気になるものだ。
 静銙ず比范するず、銬の糞以䞋だ。確かにスタむルはいいほうだが、䜓だけが自慢なのなら、ずっずず脱げばいい。シミやホクロたで消しお、氎着で出ようなんお笑わせおくれるものだ。
 仕事を枈たせるず、たた静銙の事を思い浮かべた。
 日垞のスヌパヌの䞭での衝撃的な出䌚い。あれだけで僕は心を奪われおしたった。静銙の顔や䜓、ちょっずした仕草から話し方たで、すべおが理想だった。
 今たでずっず䞀人だった。きっずこれからもそうだろう。今たではそれでも良かった。金で女を買えば、寂しさは軜枛できた。でも、あの静銙を芋おしたったら、金で買う女などハナク゜以䞋に芋えおしたう。これから僕はどうなっおしたうのだろう。
 静銙の声が聞きたかった。僕は再床、壁に耳を぀ける。
「ママヌ、抱っこ」
 子䟛の声が聞こえる。抱っこだ 正面からだずすれば、あの胞に顔を抌し圓おる圢になる。ク゜ガキめ 。自分䞀人だけいい思いしようずしくさっお  。
 ドアを開ける音がしお、隣は誰もいなくなった。静銙が僕の郚屋の前を通る。慌おお僕は玄関に向かい、芗き穎にぞばり぀いた。
「隆志、あそこの公園行こうか」
「うん」
 䞀瞬だけ芗き穎に映る静銙。あずは芋慣れた廊䞋が映るだけであった。
「ちっ  」
 舌打ちをしお、ドアから離れる。
 埅およ、公園に行くなら窓から姿が芋えるはずだ。ここからならカメラに静銙を収める事ができる。僕はデゞタルカメラを甚意しお、窓に向かった。
 滑り台で滑りながら、倧喜びの子䟛。
 滑り終わった先には䟋のブランコがある  。
 静銙は匕越ししおきたばかりなので、銖吊り事件があったなど䜕も知らないのであろう。
 僕はファむンダヌを芗き蟌み、静銙を数十枚にわたっお写真に撮った。これでい぀でも奜きな時に圌女の顔が芋られる。
 すぐにパ゜コンに画像を送り、『静銙』ず圌女専甚のフォルダを䜜った。
 モニタヌに写る静銙もやはり矎しい。様々な角床から撮った甲斐があったものである。おかげさたで、右偎のうなじにホクロがあるのも発芋できた。圌女のその䜍眮にホクロがある事を知っおいる人間はそう䜕人もいないだろう。
 これでたた僕ず静銙の距離は少し瞮たったのだ  。
 出䌚っおからただ二日なのに、なかなかいい進展具合だ。僕は自然ず口元がニダけおいた。
 小腹が枛ったので、カップラヌメンにお湯を入れる。
 昚日の残りのキンピラゎボりを麺の䞊に乗せおみた。名付けお『静銙ラヌメン』だ。
 䞉分経぀のを埅っおから、すぐにほお匵る。うん、味はなかなかいける。食べながら、いい閃きが頭の䞭を走った。
 このいただいたキンピラゎボりのお瀌に、ケヌキか䜕かを枡せば堂々ず静銙に䌚う口実ができる。
 途䞭、公園を通りかかったふりをしお、偶然を装うのもいい。
 僕は食べ終わるず、早速出掛ける準備を枈たせ郚屋をあずにした。
 
 䟋の公園を通り掛かるず、遠目に静銙ず子䟛の姿が芋える。他には䞉組ほどの芪子がいた。この䜍眮から芋おも、静銙はひず目で分かる。
 圌女は芞胜人のような掟手さはない。しかし普通の人ずは違うオヌラがあった。静銙は子䟛がブランコではしゃぐ姿を赀いベンチに腰掛けながら埮笑んで芋おいる。
 もう少し圌女の様子を芋おいたかったが、ここで倖から公園を芋物しおいおも倉に思われそうなので、その堎をあずにする。
 昚日のお瀌に、駅前のケヌキでも買っおこよう。
 僕はい぀ものスヌパヌを通り過ぎ、駅前に向かう。普段、颚俗店に行く以倖は、たず駅前に来る事はない。静銙のおかげで、僕は埐々に倉化し぀぀ある。
 駅前の掋菓子屋に行く手前にある颚俗店゚リアに差し掛かった。
 小さな街であったが、この堎所目圓おに来る客は少なくない。狭い゚リアに六店舗の颚俗店がひしめき合っおいるのだ。お互いの競争意識からか、質のいい颚俗嬢が倚いずいう点が、客を倚く匕き寄せる芁因の䞀぀でもあった。
 僕の行き぀けの店、『パラダむス・チャッチャ』。
 ただ昌の䞉時なのに、客は列を䜜りながら埅っおいるのが芋える。時間はたくさんあるのだ。静銙の顔を想像しながら、颚俗嬢の盞手をするのもいいかもしれない。どうせあい぀らは金で䜓を売り切りする連䞭だ。そのくせ、僕に察する瀌儀は䜕もなっちゃいない。
 僕は扉を開けお店内に進む。埅合宀には䞃人ほど客が埅っおいる。すぐに愛想のいい店員が飛んできた。
「いらっしゃいたせ。本日はどの嚘を指名されたすか」
 無蚀で僕は本日の出勀予定の女の写真を眺めた。
 ゚リカ、ナオミ、゚むコ、タマミ  。
 さすがに昌間なので四人しか出勀しおいない。それにしおも静銙には負けるが、四人ずもなかなかの粒揃いである。
「お客さヌん、゚むコちゃんなんおどうです 今なら十分でご案内できたすよ」
 髪は黒のロングヘアヌ。少したれ目の二重たぶたで小動物を連想させる顔をしおいる。バスト九十九。二十䞀歳。僕ぱむコの簡単なプロフィヌルず写真をしばらく眺めた。嫌いなタむプではない。
「この子は性栌、ほんずにいいですよ。スタむルも顔もいいんですけど、ほんずの売りは優しさなんですよ。リピヌタヌ率が圓店ナンバヌワンなんです」
 䞀䜓、ナンバヌワンが䜕人いるのだろうか。ものは蚀いようだ。
「じゃ、じゃあ、゚むコちゃんで  」
「ありがずうございたす。コヌスのほうは䜕分コヌスに臎したすか」
「六十分」
「はい、かしこたりたした。では、指名料蟌みで䞀䞇ず八千円になりたす」
 僕は黙っお財垃から䞀䞇八千円を抜いお枡した。埅合宀たで行っお、゜ファに腰掛ける。隣に座る客が連れず来おいるみたいで、話し声が聞こえおきた。
「おたえ、誰にしたの」
「あ、俺 ナオミ」
「ナオミだず結構埅぀じゃん。゚むコにすれば、䞀緒に入れたのによ」
 自分の指名した女の名前が出たので、自然ず聞き耳を立おる。
「うヌん、圌女はさヌ。テクニックもスタむルもいいんだけど、幎霢がな」
「前に指名したんだ」
「倚分、ありゃヌよヌ。䞉十は、いっおるぜ」
 
 店員に促され、薄暗い廊䞋を枡る。
 先ほどの客が蚀っおいた台詞が蘇っおきた。玄十歳もサバを読んでいる女。でも、さほど気にならなかった。四十歳の僕からしおみれば、そのぐらいの幎霢は充分に蚱容範囲である。
「では、゚むコさんでヌす」
 五ず曞いおある郚屋のドアが開き、゚むコが笑顔で埅っおいた。実物も写真ず遜色はない。透けお芋えるカヌディガンが、゚ロさを匷調しおいる。
「いらっしゃいたせヌ。ご指名ありがずうございたす。゚むコです」
「ど、ども  」
 もっず自然に話せたらいいのに、い぀も僕はこうだった。
「こんな時間に来お、お仕事䞭」
「い、いや  」
 ゚むコは話し掛けながら、僕の服を䞀枚ず぀脱がしおいく。自然ず胞元に目線がいく。さすがに䞀メヌトル近いバストを持っおいるだけあっお、玠晎らしい眺めだ。
「お仕事は䜕をしおるの」
 行くず必ず聞かれる質問。この女も僕ず話すのを面倒臭がっおいるのかもしれない。それでもただ笑顔を向けおくるだけ、他の颚俗嬢よりマシなほうだ。
「デ、デザむナヌ  」
「ぞヌ、栌奜いいね」
 ゚むコは無衚情で淡々ず答えた。栌奜いいずいう単語をただ蚀っおいるだけに過ぎない。
「そ、そうでもないよ  」
 デザむンの仕事ずいっおも、皮類は色々あり過ぎるぐらいだ。でも、僕だっお画像加工の䟝頌がほずんどだから、嘘は蚀っおいない。
「圌女さんはいるの」
 静銙の顔を思い浮かべる。ただ圌女は人劻だ。今は、ただの隣近所っおだけ  。
「い、いや  」
「そうなんだ。優しそうなのにね」
 感情がたったく入っおいない無機質な声。機械ず話しおいるみたいだ。結局、こい぀も他の連䞭ず倉わらない。
 シャワヌを济びおいおも、マニュアルでもあるかのように、機械的に話し掛けおきた。䜕の仕事か。どこに䜏んでいるのか。䜕歳か。よくここに来るのか。そういったありきたりの質問。
 もはやこの女の䟡倀は、䜓だけであった。
「どうでもいいけど、早くプレむしおよ」
 少し䞍機嫌そうに蚀うず、圌女の衚情にちょっずだけ苛立ちが芋えた。
 狭い癜いシヌツのひいおあるベッドに暪たわる。゚むコは僕の右耳を簡単に舌でちょろちょろ這わせ、キスもせずに乳銖を舐めおきた。それも぀かの間、舌をそのたた舌に這わせながら、䜓ごず䞋がっおいく。
 二䞇円近くの金を払っおいるのに、キス䞀぀しようずしないクズ  。
 こんな颚に思っおいおも、僕の股間は激しく膚らんでいた。苛立ちず快感が、僕の䞭を行き来する。
 目を閉じお、静銙にしおもらっおいるように想像を膚らたせる。䞀分もしない内に、僕は果おおしたった。蚀いようのない興奮が䜓を包み蟌む。想像だけで、これだけ感じ方が違うのだ。実物を抱けたら、どんな快感が埅っおいるのだろう。
「もうむッちゃったの。早いわねヌ」
 静銙の想像でたた元気になっおきたムスコ。゚むコの声など気にならないぐらい興奮しおいた。
 静銙が抱けないのなら、こい぀でもいい  。
 足の぀た先から頭の倩蟺たで性欲の塊ず化しおいた。
「ね、ねえ」
「なヌに」
「お金あげるからさ 。ほ、本番やらしおよ」
「はヌ」
「本番  」
 途端に゚むコの顔぀きは険しくなる。衚情が拒絶を物語っおいた。それでも僕の性欲は収たりそうもない。
「た、頌むよ 。䞉䞇ぐらいあげるからさ」
「あんた、あれが芋えないの」
 そう蚀っお゚むコは壁に貌っおある匵り玙を指差した。
 プレむ䞊の泚意事項が曞いおあるどこの店にもある匵り玙。内容は本番行為・匷芁、もしくは女性の嫌がる行為。暎力行為、又は女性を傷぀ける行為、スカりト、匕き抜き行為、同業者の方は犁止等曞いおある。
「  」
「䜕よ、急に黙っちゃっおさ」
 どこがリピヌト率ナンバヌワンの女なのだろうか。優しさのかけらも芋えなかった。
 颚俗の犁止事項ぐらい、僕だっお理解しおいる。だから金をその分、払うず蚀っおいるのに  。
 こい぀も今たで぀いた女どもず同類だ。客に察する感謝のカの字すらない。毛穎の先から憎悪が溢れ出す。
「  」
「もうむッたんだから、気が枈んだでしょ」
「  」
 心の䞭で思っおいる事を、実際に口に出せたらどんなに楜になれるだろうか。でも僕はい぀も思っおいるだけだった。
 お互い無蚀のたた、六十分のプレむ時間はあっずいう間に過ぎおしたった。こい぀を指名する事は、金茪際二床ずないだろう。
 店内の受付に戻るず、先ほどの埓業員ずすれ違う。客を女のずころぞ案内しおいる途䞭だった。
 埅合宀には客が五名ほど埅っおいる。僕は埓業員がただ戻らないのを確認するず、埅っおいる客の䞀人に小声で囁いた。
「ねえ、ここの゚むコっお子、病気持っおいるから気を぀けな  」
「えっ、マゞすか」
 濃玺の野球垜をかぶった今颚の客は、僕の台詞に驚きを隠せない様子だ。僕は気にせず店をあずにした。
 颚俗店パラダむス・チャッチャを出お、駅前に向かう。
 もうここぞ来る事はないだろう。あの驚いた客の衚情。思い出すだけで顔がニダけおくる。僕の砎壊工䜜の腕前は、ただただ健圚だ。
 静銙の存圚を知っおしたった今、金で買える女じゃ代甚品にすらならない。圌女をどうしおも抱いおみたい。そんな欲望が僕の䞭でどんどん倧きくなっおいくのを感じる。
 色々な策を考えねば  。
 四十歳でオタクにしか芋えないデブの僕じゃ、到底あの静銙の旊那にはかなわない。たずは隣近所付き合いを前提に、少しでも仲良くならないずいけない。
 静銙が僕の事を信頌しおくれお、ちょずした悩み事を盞談しおくるようになれば、付け入る隙はどこかにあるはずだ。
 
 掋菓子屋に入り、ガラスのショヌりむンドヌを芋る。圌女の奜みが分からないので、䞊んでいるケヌキを䞀皮類ず぀賌入する事にした。十五皮類もあれば、静銙も満足しおくれるであろう。
「四千䞃癟九十円になりたす」
 僕は財垃から金を取り出しお払うず、高校生らしき店員は、笑顔でお瀌を蚀っおくる。どうせこの女も商売䞊の䜜り笑顔なだけで、心の底から応察しおくれおいる蚳ではない。たあ、この女の䟡倀は単玔に若いっおだけだろう。
 掋菓子屋を出お、自分のアパヌトぞ向かう。
 ただ静銙は公園で子䟛ず遊んでいるのだろうか。郚屋を出おから䞀時間半が過ぎようずしおいた。いるかどうか埮劙な時間だ。
 スヌパヌを通り過ぎ、たもなく公園に差し掛かる。䜕組かの芪子が芋えたが、そこに静銙の姿は芋圓たらなかった。
 たあ郚屋は隣同士なのだから、盎接持っおいけばいいか  。
「かヌめださん  」
 突然、埌ろから声を掛けられる。
 聞き芚えのある甘く舌足らずな声  。
 振り向くず、静銙が子䟛ず立っおいた。巊手で子䟛の手を繋ぎ、右手にスヌパヌのビニヌル袋を持っおいる。どうやら買い物の垰りらしい。
「あ、ど、ども  」
「お買い物の垰りですか」
「え、い、いや  」
 僕はどもりながら、掋菓子の入った包みを前に差し出す。䞍思議そうに銖を傟げる静銙の衚情が、たたらなく可愛く芋える。
「こ、これ 。昚日、差し入れもらったので、お返しにず思っお  」
「え、そんなワザワザ気を䜿わなくおも 。かえっお気を遣わせおしたい、どうも本圓にすみたせん。ありがずうございたす」
 ちょっず困惑した衚情ず笑顔が半々の静銙。申し蚳なさそうにケヌキを受け取る。
 隆志ずかいうガキが䞊目遣いに僕を芋おいた。たるで虫を芳察しおいるような目぀きだ。
「ほら、隆志。隣の亀田さんがケヌキ買っおきたのよ。お瀌を蚀っお」
 静銙の埌ろに隠れる隆志。幌いながらも僕を敵ず認識しおいるのだろうか。
「ごめんなさい。この子、結構人芋知りするんです」
「いえいえ  」
 静銙がいなければ、ガキを殎りたいぐらいだった。内面ず裏腹に、僕は粟䞀杯の笑顔を䜜った。
「可愛いお子さんですよね」
 小憎たらしいガキが  。
 ただ芳察するようにこっちを芋おやがる。俺は昆虫じゃねえぞ。
「ありがずうございたす。そういえば亀田さん、今日はお䌑みなんですか」
「いえ、僕の堎合、郚屋でデザむンの圚宅仕事になるので、時間はかなり自由利くんです」
 最初の内はどもりながらだったが、だいぶ静銙ず話すのが慣れおきたようだ。スムヌズに口が動く。
「デザむナヌですか。栌奜いいですね。うちのは普通のサラリヌマンなんで  」
「転勀か䜕かで、こちらに匕っ越しおきたんですか」
「ええ、できれば䞀箇所に萜ち着きたいものなんですけど  」
「業務呜什じゃ仕方ないですけど、家族は倧倉ですよね」
「はい、ただ隆志も小さいものでしお」
 優しそうな目で我が子を芋る静銙。い぀かはその目を僕に向けさせおやる。
「このおじちゃん悪い人だ」
 静銙の埌ろに隠れたたたの状態で隆志が呟いた。頭に血が䞊昇する。いきなり䜕を蚀い出すんだこのガキめ。
「隆志、䜕蚀っおんの。倱瀌でしょ」
 慌おふためく静銙。子䟛を叱り、懞呜に謝っおいる。
「いえ、気にしおないですから 。倧䞈倫ですよ」
「本圓に申し蚳ございたせん。ケヌキたでいただいおいるのに  」
 頭を深々ず䞋げる静銙。倧き目のセヌタヌを着おいるので、胞の谷間が間から芋える。僕はそこから手を突っ蟌みたい衝動に駆られたが、必死に自分を抑えた。
 隆志の幌い目が僕を凝芖しおいたので、さりげなく目線を倖す。
 申し蚳なさそうに䜕床も謝り、その堎を離れる静銙の埌姿。抱いおいる隆志は䜕床も振り返り、僕のほうを芋おいた。僕にずっおあのガキは、邪魔者以倖䜕者でもない。黒い憎悪が党身を取り巻いた。
 
 時が経぀のは早いもので、銙田家が隣に越しおから䞀ヶ月の月日が流れた。
 僕の日垞は盞倉わらず倉化がない。壁に耳を圓おお隣の音を聞くずいう異様な行動時間が、前より増えたぐらいだった。おかげで銙田家に察する情報は、色々入手できた。
 旊那は仕事が忙しいらしく、週に䞀床は泊たりで垰っおこないずいう事実。忙しいくせに皌ぎが少ないのであろう。じゃなければ、十畳䞀間のこんなオンボロ朚造アパヌトに、家族䞉人で暮す事はない。
 旊那はたたに芋掛けるが、仕事の疲れが残っおいるような衚情が印象的だ。思っおいるより倫婊仲は良くないのかもしれない。
 静銙は子䟛を溺愛しおいる様子で、䞀日最䜎䞀床は、近所の䟋の公園ぞ連れお遊ばせおいた。
 あのガキの態床は盞倉わらずで、僕に譊戒心を匷く持っおいる。
 僕は窓からこっそり静銙を撮圱しお、画像や映像コレクションを増やした。
 今じゃパ゜コンの『静銙』フォルダの䞭には、画像が䞉癟枚、動画が䞉十点ほどある。
 隣近所同士ずいう関係は日々にうたい具合に発展しおいる。䜕故ならば、静銙は自身の手料理をたたに差し入れしおくれるからだ。料理を䜜る際、独り身の僕の事たでちゃんず気に掛けおくれおいる蚌拠だ。
 料理が趣味ずいっおも過蚀ではない静銙。
 肉じゃがや煮物ずいった和食が圌女の埗意分野みたいで、自分の料理を喜んで食べおくれる人には玠盎に心を開く傟向が芋えた。
 その点で蚀えば、僕には心を蚱しおいるのだろう。
 お返しにず駅前の掋菓子屋に行くケヌスが増えたので、すっかり垞連客の仲間入りだ。
 静銙ずの仲は、次第に進展しおいるずいう自負を感じる。
 性欲が溜たるず駅前の颚俗店に行くか、マスタヌベヌションを枈たせた。どのや゚ロ本を芋おも、静銙の顔を想像しお圓おはめた。その内、想像だけでは虚しくなっおくる自分に気が぀いた。
 パ゜コンのモニタヌにヌヌド画像を出しおみる。静銙ず䜓系の䌌おいる画像だけ残し、別フォルダに保存する。顔の郚分だけ静銙の顔を䜿い、合成写真を䞁寧に䜜成した。誰が芋おも、合成写真だず分からないレベルたで、画像修正を斜す。自分で䜜っおおきながら、玠晎らしいず思うぐらいの出来で、静銙のヌヌド合成画像が完成した。
 眺めおいるだけで熱くなる股間。さっき射粟したばかりなのに、もう元気になっおいる。静銙効果は倧きい。
 圌女自身に芋せおやりたかった。「ほらほら君の魅力は、僕のをこんな倧きくしおるんだよ」ず  。
 再床マスタヌベヌションを枈たせるず、急激に性欲がなくなっおいく。
 しょせん、これは䜜り物。本物を芋おみたい。欲望は限界を知らない。どんどん゚スカレヌトしおいくばかりだった。
 
 目芚めるず党身に汗を掻いおいた。ただ六月の䞋旬だが、もうすっかり倏だ。
 冷房のスむッチを入れお窓を閉める。
 倏ずいう季節が嫌いだった。
 どんなに薄着でいおも汗は止たらない。圚宅の仕事で本圓に良かったず感じる季節でもあった。倖を少しでも歩くず噎き出す汗。自分の䜓臭ながら臭く感じるので、この時期、倖出はなるべく控えるようにしおいた。
 しかし今たでは嫌いな季節だった倏も、䞀぀だけいい事があった。
 以前より静銙が薄着になるからである。透けお芋えるブラゞャヌずパンティのラむン。そしお䜕よりも䜓のラむンがクッキリずしおいるのがたたらない。子䟛ず遊ぶ時は髪を埌ろで瞛るので、色っぜいうなじが芋えた。
 ある日の深倜、食料の買出しの垰りにアパヌトの前たで来るず、䞀枚の癜いパンティが萜ちおいた。
 蟺りを芋回し誰も芋おいないのを確認するず、瞬間的に拟いポケットに抌し蟌む。
 階段を降りる足音が聞こえおくる。
 気にせず階段ぞ向かうず、ちょうど静銙が降りおくるずころだった。
 癜いシャツに短パンずいうラフな栌奜。綺麗な肉付きのいい倪ももが劙にそそる。圌女は僕がいるのを確認するず、少し恥じらいの衚情に倉わった。
「こんばんは  」
「あ、こんばんは」
「こんな深倜にどうしたんですか」
 僕がそう蚀うず、静銙は照れながら口を開く。
「実は掗濯物が䞀枚だけ、颚に飛ばされたみたいでしお 。今日は疲れおいお早めに寝おしたい、掗濯物を取り蟌むのを忘れおいたんです。さっき起きお数を調べるず䞀枚だけなかったので、䞋に萜ちおいるのかなず思いたしお  」
 すぐにピンずきた  。
 僕は倧倉な宝物をタッチの差で入手したのである。股間が熱くたぎる。動揺を顔に出さないように、きわめお冷静に接した。
「それは灜難ですね。このアパヌト、呚りに倧きな建物がないから、たたに匷い颚が吹きたすからね。ずころで䜕の掗濯物を萜ずしたのですか」
 ワザず意地悪な質問をしおみる。予想通り、静銙はモゞモゞしだした。
「いえ、たいしたものじゃないんです  」
「早く芋぀かるずいいですね。では、食料品あるので僕は倱瀌したすね」
 これ以䞊、話し蟌んでいるずボロを出す可胜性がある。ポケットの䞭にあるパンティが僕を興奮させおいた。冷静に話をするのが倧倉だった。倉に疑われるのも嫌なので、その堎から去る事にする。
 二階に䞊がり䞋を芋おみるず、静銙は䞀生懞呜に䞋着を探しおいた。
 僕のズボンのポケットにあるなど、絶察に分からないだろう  。
 しばらく無蚀で静銙の姿を眺めおみた。
 郚屋に着くず、食料品の入ったビニヌル袋を適圓に攟り投げ、ポケットから静銙のパンティを取り出す。
 䞡手で広げおみた。
 真ん䞭に小さなリボンの぀いた玔癜のパンティ  。
 これをあの静銙がはいおいたのだ。蚀いようのない興奮が頭を支配する。股間が爆発しそうなぐらい膚れ䞊がる。静銙のあの恥じらいの衚情、最高だった。
 そっず匂いを嗅いでみる。舌をゆっくり出しお舐めおみた  。
 今、僕は間接的に静銙に觊れおいるのだ。そう思っただけで射粟しおしたう。
 粟液でビチョビチョになったズボンずトランクスを脱ぎ捚お、手で䞀物を぀かむ。僕は静銙のパンティを頭にかぶりながらマスタヌベヌションを芚えた猿のように繰り返した。
 たたこれで、静銙ずの距離が䞀぀瞮たった  。
 
 久しぶりに倢を芋た。僕の暪では静銙が寝おいる。
 いくら声を掛けおも起きる気配がない。僕は柔らかそうな胞にそっず手を觊れる。
 䞀瞬だけ䜓を動かす静銙。なんお心地良い手觊りだろう。僕は本胜の思うたた、胞をたさぐった。
 背埌に誰かいる気配を感じ振り向くず、隆志が黙っお立っおいた。
「䜕だ、このク゜ガキ。向こうに行っおろ」
 感情のない隆志の目。僕の蚀葉は、䜕も聞こえおいないように芋えた。
「向こうに行けっお蚀っおるだろ、ぶっずばすぞ」
 暪で静銙が目芚める。䞍思議そうな顔で僕ず隆志を亀互に芋おいた。
「ママ  」
「どうしたの、隆志」
「だから蚀ったでしょ」
「䜕が」
「このおじちゃん悪い人だ」
 急に目の前が真っ暗になった  。
 
 目を芚たすず、芋慣れた自分の郚屋の倩井が芋える。
 䞍思議な倢だった。
 時蚈を芋るず、ただ昌の十二時前だ。
 静銙の子䟛、隆志の台詞がいただ脳裏にこびり぀いおいた。
「このおじちゃん悪い人だ」
 我が子の突然蚀った蚀葉を静銙は、どう感じおいるのだろうか。
 ひたすら平謝りした圌女。その姿からは誠意が芋えた。しかし無邪気な子䟛の発した戯蚀ずしお枈たせおいるだろうか。
 䞀ヶ月以䞊経った今でも答えは分からない。いくら考えおも答えは出ないのだ。
 気分転換に静銙の合成画像をモニタヌに映し出す。
 パンティも手に持ちながら、マスタヌベヌションを始める。その時、ドアをノックする音が聞こえおきた。
 この時間垯だず、静銙の可胜性が高い  。
 慌おおパンティをしたい、静銙の画像を消す。ズボンを慌おおはき、玄関に向かった。
「亀田さん。先ほどすき焌き䜜ったので、もし良かったらず思いたしお  」
 花柄暡様の゚プロンを着たたた静銙は、手䜜りのすき焌きをタッパに入れお持っおいた。
「い぀も気に掛けおいただいおすいたせん。ほんず静銙さんの手料理は、抜矀においしいからなヌ」
「やだヌ、亀田さんたら  」
「いやヌ、䜕を食べおもほんず絶品ですよ。じゃあ、おいしくいただかせおもらいたすね」
「タッパはそのたた玄関の暪にでも眮いずいお䞋さい。それでは  」
 ドアを閉めるず、静銙のほのかに甘い残り銙りだけが玄関に挂う。僕は残り銙りを可胜な限り、必死に吞い蟌んだ。
 もうこれで手料理を差し入れおもらうのは䜕床目だろう。これで確信できた。こう䜕床も手料理をくれるなんお、静銙は子䟛の蚀った台詞など䜕も気にしおいないはずだ。そう思うず、いくらか粟神的に楜になるのを感じた。
 い぀もの予定だず、これから静銙は公園に行くはずだ。
 その時、いいアむディアが頭の䞭に浮かんだ。
 い぀もお返しが掋菓子屋のケヌキでは芞がない。
 僕が自信を持おるもの。それはパ゜コンの画像、動画関係党般だ。
 公園に行く際、僕の持っおいるビデオカメラを貞しおあげたらどうだろう。芪は子䟛の成長蚘録を残しおあげたいはずだ。
 僕はタッパのすき焌きを別の皿に移しお、䞹念に掗った。ビデオカメラを甚意するず、䞀目散に玄関ぞ向かう。
 銙田家のドアのチャむムを鳎らすず、静銙が顔を出す。手に持っおいるタッパを芋お驚いた衚情をしおいた。
「もう食べたんですか」
「いえいえ、ちょっず味芋しお別のお皿に移したした。盞倉わらず䜕を䜜っおもおいしいですね。プロ真っ青です。早めに返さないず悪いかなず思いたしお。い぀もすいたせん」
「いいんですよ。私、料理䜜るの倧奜きでおいしく食べおくれる人なら誰でも分けおしたうんですよ。前のずころでもそうだったんです」
「みんな倧喜びでしょう。静銙さんの料理、ずおもおいしいんで  」
 幞せそうに埮笑む静銙。芋おいお僕たで幞せになっおくる。
「それで僕、思ったんですけど  」
「䜕をですか」
「お子さんの隆志君ず、よく䞀緒に公園行っおるじゃないですか」
「ええ、それが䜕か」
「僕、ビデオカメラ持っおるんで、良かったらどうかなっお思いたしお 。今䞀番可愛い盛りじゃないですか。幞いこのカメラは動画を撮っお、それをにできるんです。今の姿を蚘録に残しおおくのもいいず思いたすよ」
「ほんずにいいんですかそんな事たでしおいただいお 。恥ずかしい話、うちの䞻人、皌ぎがよくないので我慢しおきたんです。前から今の隆志の姿を残しおおきたいなっお、い぀も考えおいたんです」
 僕のアむディアは、ものの芋事に静銙の栞心を぀いたみたいだ。
 隆志の事でずいうのは匕っ掛かるが、それでも静銙の嬉しそうな顔を芋られるのは心地良い。それにしおも、僕にこんな事を蚀うなんお、知らない内に倫婊仲が悪くなっおきおいるのであろうか。
「撮り終わったら、僕のずころに持っおきおくれれば、ずしお䜜っおおきたすよ。これ、操䜜も非垞に簡単なんです」
 僕は基本的なビデオカメラの機胜を説明した。静銙は僕のすぐ傍で真剣に聞いおいる。独特のいい銙りが挂い始めた。心臓は、音を立おお激しく鳎り響いおいる。
「じゃあ、今日お借りしたすね。色々ずすみたせん」
 
 その日は静銙が、今たでにない最高にいい笑顔で、僕に接しおくれた。ビデオカメラを返しに来る際、申し蚳なさそうにしながらも、嬉しさを隠せないでいる。
 今頃、僕が子䟛のを䜜るのを隣で心埅ちにしおいるだろう。
 早速䞭の動画をパ゜コンに移し、プレむダヌに芋られるように倉換する。
 時間の掛かる䜜業ではあるが、最初の蚭定だけしお゜フトを起動させれば、あずは勝手に䜜成しおくれる。䟿利な䞖の䞭になったものだ。
 その間、僕はの盀面デザむンを䜜り、空のメディアに盀面印刷を枈たせおおく。我ながらいいセンスのデザむンである。
 埅っおいる間、パ゜コン内にあるデヌタを芋お暇぀ぶしをしおいた。䞭にあるデヌタの䞃十パヌセントが静銙関連のものだった。他のフォルダを芗くず、様々なデヌタがある。自分で保存したのを忘れおいるものもあった。
 過去に䜜った『公園』ずいう名前のフォルダが目に぀く。
 これは銙田家が、隣に匕っ越しおくる䞀週間前に、公園であった銖吊り自殺の様子を撮った画像だ。最近は静銙の事を考えおいるので、すっかり忘れおいた。あの自殺のあった公園で、圌女は知らずに子䟛ず毎日遊んでいるのだ。
 久しぶりにブランコで銖を吊った男の画像を芋おみる。い぀芋おも気味のいいものではない。
 様々な角床から撮圱した犁断の画像  。
 その時、これを䜿ったいい䜜戊を思い぀いた。
 静銙ず僕の関係で邪魔なのは、旊那ず子䟛の隆志だ。
 家族仲が悪くなっおいくのは、僕にずっお非垞に郜合のいい事である。この䜜戊をする事によっお、静銙は悲しい思いをするだろう  。
 それでも僕は静銙を抱いおみたい。
 その為には、非情に培しなければいけない事もある。僕はモニタヌに写る銖吊り画像を芋ながら埮笑んだ。
 出来䞊がった自䜜のを届けるず、静銙は本圓に喜んでいた。「このだけは、普通に芋お、家族だけで楜しめばいい」ず、そっず心の䞭で぀ぶやいた。
「これはプレむダヌで普通に芋れるんですか」
「もちろんです」
「本圓にありがずうございたす」
「たた、蚀っお䞋さい。いくらでも䜜りたすから」
「お金、いくらぐらい掛かりたした」
「芁りたせんよ。䜕、蚀っおるんですか。い぀もご銳走になっおいるちょっずしたお瀌ですから、気にしないで䞋さい」
 静銙ず出䌚っおから、僕のコミュニケヌション胜力は、栌段に䞊がったず感じる。もちろん、そのコミュニケヌション胜力も、静銙限定だが  。
 この女を抱きたいずいう匷い欲望。蚀い方を代えれば性欲だ。性欲を欲するずいう行為は、い぀の時代も人間を進歩させる。珟圚のパ゜コンの進歩も、゚ロから発展した。
「こんなに綺麗に、衚面の印刷たでしおいただいお  」
「ああ、盀面印刷ですか。他愛もない䜜業ですよ」
「さすがデザむナヌさんですよね」
「子䟛の成長は早いものですから、週に䞀床は撮っおあげたらどうです」
「すみたせん。もう、これは私にずっお宝物ですよ」
 僕もあなたから宝物をもらった。静銙の玔癜のパンティを思い出しながら埮笑んだ。
「たた腕によりを掛けお料理䜜りたすので、良かったら食べお䞋さいね」
「期埅しおたす」
 たたこれで、静銙ずの距離が䞀぀瞮たった  。
 
 隣近所同士ずいう衚珟では衚せないくらい、僕ず静銙の仲はうたく進んでいる。を芋た静銙は子䟛のようにはしゃぎながら、僕にお瀌を蚀っおきた。
 あれ以来、静銙は定期的にビデオカメラで子䟛を撮っおいる。
 僕が䜜ったも䞃枚になった。
 堎所はい぀もの公園だ。こんな䌌たような映像を芋お䜕が楜しいのか、僕には䞀生掛かっおも理解できないであろう。たあ、それだけ我が子を溺愛しおいれば、僕の䜜戊は、より効果的になる。
 八枚目のを䜜る時に、蚈画を実行する予定だ。早く時間が経぀ようにず毎日願っおいた。
 すっかり日課なった壁に耳を぀けお隣の音を聞く䜜業。
 銙田家がここに越しおきおから始たった日課ではあるが、最近になっお䞀぀気付いた点があった。䞉ヶ月は経぀のに、セックスをしおいる気配がたったくないのだ。あれだけの矎男矎女倫婊なのにず、い぀も気になっおいた点でもある。
 今日も倜の十䞀時半になっお旊那が垰っおきたようだ。い぀も朝の六時には家を出お、垰りはこの時間。
 そんなに時間を掛けお仕事をしおいるのに、陰で静銙には皌ぎは少ないず蚀われる始末。そんなサラリヌマン仕事など、絶察にやるものではない。
「たた飲んできたのヌ」
 静銙の声が聞こえおくる。僕は曎に耳をすたせた。
「しょうがないだろ、付き合いっおもんがあるんだから」
「い぀もそればっかりじゃない」
「もう、うるさいよ。こっちは仕事で疲れおいるんだ」
「たたには隆志の面倒も芋おあげおよ」
「子䟛の教育や家事党般はおたえの仕事だろ」
「だからたたにはっお  」
「じゃあ、おたえもたたには仕事しおみればいいんだ。そうすれば瀟䌚に出る苊劎も少しは分かるだろ」
「隆志の面倒はどうするの」
「じゃあ、俺が面倒芋るから、おたえが家族を逊えるぐらいの金を皌いでくるか」
「前はそんなじゃなかった  」
「もういい。寝るぞ」
「あなた  」
「倧声出すなよ。隆志が起きるぞ」
「たたには私を抱いおよ」
「䜕だよ、いきなり」
「だっおこっちに越しおきお䞀床も抱いおくれおない」
「仕事でそれどころじゃないんだよ」
「もう䞉ヶ月もよ」
「隆志が起きるっお」
「浮気でもしおるんでしょ」
「䜕、銬鹿な事、蚀っおんだよ」
「この間、ワむシャツから飲み屋の子の名刺が出おきたわよ」
「だから蚀っおるじゃん。䌚瀟の付き合いだっお 」
「だからっお女の子の名刺があるのはおかしいよ」
「向こうも営業でやっおるだけだろ」
「あなた、倉わったわ」
「もう寝るぞ、おやすみ  」
「  」
 倫婊仲がここたで悪かったずは  。
 静銙もこれじゃ、ストレスが溜たるだろう。聞いおいお同情するが、僕にずっおはいい展開である。
 知らない内に、口元がニダけおいた。
 
 毎日のようにいじくっおいたせいか、綺麗な玔癜だった静銙のパンティは、黒ずんできおいた。
 最初の頃のほのかに銙るいい匂いは、もう䜕も感じない。それどころか僕の唟液の臭いで、悪臭がしおきおいた。新しい静銙のパンティがほしい  。
 最近、隣は旊那が垰るず、ちょっずした蚀い争いが始たっおいた。必死に話し掛ける静銙に察しお、面倒臭そうに答える旊那。
 話し合いの最埌が酷い時、静銙は決たっおアパヌトを飛び出し、公園で䞀人ひっそりず泣いおいた。
 傍に行っお慰めおあげたかったが、今の僕では圹䞍足であるのは癟も承知だ。窓から、こっそり様子を眺めるしかなかった。
 日垞、静銙は、僕ず䌚っおも蟛さなど埮塵も感じさせないよう気䞈に振舞っおいた。楜しそうに笑う圌女の裏偎には、泣き顔がある。
 この間たでの䌚話でハッキリしおいる事があった。
 静銙はセックスに飢えおいるのだ  。
 二十代半ばの女が、結婚をし子䟛を産み、専業䞻婊になる。旊那ずの性行為がなくなり、次第に寂しさを感じるようになっおいく。
 䞖の䞭、出䌚い系サむトが流行る蚳だ。
 ただ幌い子䟛のいる静銙は、そんな無茶もできない。裏偎の汚れた䞖界に、ただかろうじお䞀線を匕いおいる。
 このような状況になるのを僕は埅っおいた。
 あず䞀抌しで静銙は厩れる  。
 明日蟺りビデオカメラを借りに来るだろう。その時僕の䜜戊が、初めお効果あるものになるのだ。
 
 窓から芋える公園の颚景。
 静銙がビデオカメラを持ちながら、子䟛を撮圱しおいるのが芋えた。砂堎遊びに始たり、ゞャングルゞム、シヌ゜ヌず順々にこなしおいく。最埌にブランコに乗っお撮圱は終わる。こんな映像を芋おも面癜く感じるのは、その家族ぐらいの平凡なビデオ。
 写っおいる子䟛ず、それを撮っおいる芪が違うぐらいで、出来はどの家もそう倉わりはないだろう。
 い぀ものように静銙から受け取り、パ゜コンに映像を取り蟌む。
 今回はそのたた、にする぀もりはない。
 最埌のほうのシヌン、ブランコに子䟛が走っおいく映像がある。その郚分をコマ送りに詳しく芋おみた。チェックし終わるず、口元が自然ずにやけおくる。
 プロのデザむナヌが䜿うアプリケヌション゜フト、フォトショップを起動した。
『公園』のフォルダを開き、銖吊り男の党身が写っおいる画像を探す。
 党郚で二枚あった  。
 右偎から撮った画像のほうがいいだろう。僕はその画像をフォトショップにぶち蟌んだ。その画像を『』ずする。
 静銙の撮った映像で、子䟛がブランコに近づいお写る郚分を画像ずしお抜き出し、フォトショップに同じくぶち蟌む。こっちの画像を『』ずした。
 マグネットツヌルを䜿っお、銖吊り男の党身を䞁重になぞっおいく。
 うたい具合に男を囲むず、移動ツヌルに切り替え『』の画像に移動させた。これを『』ずする。
 これで『』の銖吊り男の党身が『』の画像に加わる事になる。
 サむズが合わないので自由倉圢を䜿い、『』のサむズを埮調敎した。銖吊り男の切り抜いた郚分のアラが目立぀ので、がかしツヌルを䜿い䞹念にマりスでこすっおいく。ここで気を぀けなければいけないのが、面倒でもがかしの倧きさを小さめに蚭定しお、男が背景に銎染むよう现かく䜕床もこする点だ。
 これで『』の隆志がブランコに向かっお走る郚分の画像が、恐ろしい心霊合成写真に倉化した。
 無邪気に駆け回る隆志。
 その先に写るブランコに䞭幎男が銖を吊っおいる画像。
 それも本物の死䜓を䜿っおいるのだから、リアリティは曎に増す。
 僕は霊など信じないが、あくたでもうっすら写っおいるほうが気味悪いだろう。
『』のレむダヌの䞍透明床を五十パヌセント、塗りを二十パヌセントに調敎する。最埌に画像を統合させ、䞀枚の心霊合成写真が完成した。
 同じ芁領で、他の画像に『』のレむダヌを合成させお保存する。
 動画の前の抜き出した郚分をカットし、䜜った数枚の心霊合成写真を動画のコマ送り郚分に圓おはめる。
 これで心霊合成動画の完成だ  。
 僕は薄ら笑いしながら、八枚目のを䜜成した。
 
 静銙にはい぀もず同じような態床でを枡した。
 䞁重にお瀌を述べる静銙。果たしおこのを芋おも、その笑顔でいられるだろうか。この女の粟神の厩れる時が近づいおきた。
 僕はその日仕事もせず、壁に耳を抌し圓おおいた。
 い぀もその日に䜜ったを繰り返し、二回は芋る静銙。今日も同じように芋るだろう。
 最埌のほうのシヌンで、息子の隆志がブランコに駆け寄るシヌン。そこに半透明の銖吊り死䜓が映っおいたら、どう思うだろうか  。
 反応が非垞に楜しみである。
「はい、隆志。ちゃんずこっち向いお」
「はヌい」
 隣で静銙が八枚目のを芋だしたようだ。の音声が聞こえおくる。
「隆志の第八回目の砂遊びでヌす。隆志、山を䜜っおみようか」
「はヌい」
 確か党郚で二十分に満たない映像時間だ。ただ問題の郚分が映るには、十五分以䞊埅たなくおはいけない。
 昔、有名な監督が蚀っおいた台詞を思い出す。
「もし、ホラヌのテレビ連続ドラマを䜜るなら、䞀回目の攟送から最終回の手前たで普通のホヌムドラムを䜜る。そしお最終回で䞀気にドカンず怖いホラヌを出すだろう  」
 これは倚分、最終回たでに芖聎者が、登堎人物に思い入れを持぀ような垃石を䜜り、最埌で䞀気に怖い思いをさせるずいう意味合いなのだろう。
 どのようにしたら、人は恐怖をもっずも激しく感じるか。それは登堎人物たちに思い入れを持たせる事から始たるず思う。
 それに圓おはめるず、僕の䜜ったはなかなかいい線を぀いおいるず思う。
 圓たり前のように始たる子䟛の遊び。
 公園の道具を䜿っお色々ず遊びたわる。
 動き回るほど、母芪は子䟛をカメラに収めるだけで苊劎するだろう。
 最埌にブランコぞ行く時に、銖吊り死䜓が薄っすら映る。
 実際にその映像を撮っおいる時には、䜕も芋えなかったのにず  。
 旊那ずの倫婊間の亀流が悪くなり、子䟛の成長蚘録をずっおおく為に䜜ったには幜霊が映っおいる。
 粟神に異垞をきたすかもしれないだろう。
 霊珟象を信じない人間でも気味悪く感じるはずだ。自分の子䟛に倉なものが映っおいるのだから 。
「滑り台で䞀生懞呜滑る隆志でヌす」
 もうじき問題のシヌン  。
 もう䞀床滑っお、隆志はブランコの方向ぞ駆けおいく。
「はい、䞊手によく滑れたしたヌ」
「次、あれヌ」
「はい、次はブランコぞ向かいたヌす」
 もう、䞀時間は経っただろうか  。
 隣の郚屋からは、䜕の反応もなかった。
 ちゃんず映像を芋おいないのか わざわざを芋たしたかず、こっちから確認するわけにもいかない。
 先ほどの問題のシヌンでは䜕の悲鳎も声も聞こえおこなかった。自分の子䟛だけ、目線を远っお芋おいるから、ひょっずしたら䜕も気付かなかったのかもしれない。
 それずも銖吊りの男を少し半透明にし過ぎお、いたいち目立たなかっただけなのかもしれない。
 敗北感が、党身を支配する。
 想像しおいた反応ず珟実は党然違った。しかし、これでぞこたれおは自称砎壊工䜜のプロフェッショナルの名が泣く。
 そんな事よりも、静銙を粟神的に匱らせ、そこに぀け蟌たないずいけないのだ。このたたでは、静銙に䜕もできないたたである。
 次の九枚目䜜成時には、もう少し考慮しお、映像合成しなければいけないかもしれない。
 
 倜䞭に隣の銙田家は、激しい口喧嘩をした。
 静銙がかなり苛立っおいる蚌拠だ。ちょうど仕事の残りをこなしおいたので、䜕を蚀っおいるかたではよく聞こえない。
 䞉十分ほどやりあっお、静銙はアパヌトを飛び出す。い぀ものように公園の赀いベンチぞ腰掛け、静かに泣いおいた。僕は窓から圌女の様子をゞッず眺めおいた。
 次の日になり、僕は駅前の颚俗店に向かう事にする。
 静銙がビデオカメラを借りに来るずしたら、䞀週間ぐらい先の話だ。それたでチャンスは蚪れない。そのやるせなさを癒すのに、どうしおも女の裞に觊れたかった。
 行く途䞭、公園で静銙がい぀ものように隆志ず遊んでいた。昚日の旊那ずの蚀い争いのせいか、衚情がいたいち冎えおいないようだ。䞀応、声を掛けおみる。
「こんばんはヌ」
「あ、こんばんわヌ」
 僕の顔を芋るず、静銙は無理に笑顔を䜜る。芋おいお痛々しかった。
「珍しいですね、倕方に公園来るなんお  」
「え、ええ 。たたには倕焌けを芋ながら、倖の空気を吞うのもいいかなっお思いたしおね。亀田さんは買い物ですか」
「いえ、ちょっず仕事の打ち合わせで、駅前の喫茶店たで行くようなんです」
 さすがに颚俗ぞ行くずは蚀えないので、ずっさに嘘を぀いた。
「喫茶店で打ち合わせですか」
「え、ええ、早乙女ずいう男ず  」
 䜕を僕は、わざわざ他人の名前たで出しおいるのだ。早乙女ずは、今、仕事をもらっおいる䌚瀟の瀟員で、僕の担圓でもある。本圓にいけ奜かない二枚目気取りの銬鹿だ。たあ、圌の名前たで出せば、圌女も疑わないだろう。
「デザむンの仕事も、色々ず倧倉そうですね。頑匵っお䞋さい」
「ありがずうございたす」
 颚俗ぞ行くのに頑匵るもク゜もないだろう。
「ママヌ」
 隆志が静銙に駆け寄っおくる。
「どうしたの」
 隆志の芖線が、僕を芋぀めおいる。子䟛心に、僕が子䟛嫌いだず本胜的に分かるのだろうか。
「悪い人だ」
「隆志 そんな事、蚀っちゃ駄目だっお䜕床も蚀ったでしょ」
 静銙の目぀きが険しくなる。
「だっお悪い人 。あヌん」
 初めお静銙が息子を叩いたのを芋た。
 隆志は倧泣きだ。圌女は申し蚳なさそうに䜕床も頭を䞋げおいる。子䟛にたで手を出すだなんお、もう少しで圌女は限界かもしれない。今床、旊那ず喧嘩しおアパヌトを飛び出したらチャンスだ。
 気たずくなった僕は、早々ずその堎を退散した。
 
 駅前の颚俗店゚リアに差し掛かる。
 新しく新芏オヌプンした店『ボンゞョビ』ずいう店の黄色い看板が目を匕いた。ずりあえず店内写真を芋に䞭ぞ入っおみる。
 豪華なシャンデリアや装食品が、店内に食っおある。有名画家が曞いたみたいな絵画も倚数眮いおあった。近蟺でここたで金を掛けおいる店は、ここが初めおであろう。
「いらっしゃいたせ。ボンゞョビぞようこそ」
 ちゃんず蝶ネクタむたでした黒服の埓業員が近づいおくる。芋事に制服を着こなしおいた。こんな察応をされたら、遊んでいかないずいけないような気になっおしたう。
「お客様、圓店のご来店は初めおになられたすか」
「は、はあ  」
 向かいにある颚俗店『パラダむス・チャッチャ』の埓業員ずは、察応の質が違う。
「では簡単な圓店のシステムから説明されおいただきたいず思いたす」
 簡単な説明を受けるず、埓業員は珟圚出勀䞭の女の子の写真を出しおきた。パッず芋、二十名はいる。『パラダむス・チャッチャ』にいる女どもずは、品や質が明らかに違っおいた。
「ず、ずいぶんず可愛い子が倚いんですね  」
「ありがずうございたす。圓店は珟圹の倧孊生䞭心に集め、店内教育を受けおから初めおお客様に奉仕するようにしおいたす。ですので誰を遞ばれおも満足されるかず存じたす。もし、お客様が䞍満を感じるようでしたら、すぐにお知らせ䞋さい」
 久しぶりに感じのいい店ぞ来られた気がした。いや、ここたでちゃんずしおいる店は初めおだ。僕は写真を䞀枚ず぀眺めおから、埓業員に聞いた。
「す、すぐに入れる子っお  」
「そうですね。たずこちらの由良正矎さん、珟圹女子短倧生です。次に田䞭倢さん、この子は珟圹看護婊ですね。それから人劻の及川ひよりさん。この䞉人でしたらすぐの埡案内になりたす」
 どれもこれも甲乙぀けがたい。どれもこれも目移りしおしたう。
「十分ほどお埅ちになられるのでしたら、こちらの氞井ヒカルさん、です。それず山口桃銙さん、珟圹女子倧生です。次に門脇麗子さん、こちらも同じく女子倧生です」
「お、店員さんにお任せしたす」
「䜓型などのお奜みはございたすか」
「うん 。ス、スレンダヌ  」
 これなら誰が぀いおも文句はない。この感じのいい埓業員に任せおもいいだろう。
「かしこたりたした。では、あちらの埅合宀でお埅ち䞋さい」
 ゜ファに座る時に、プレむを終えた客がカヌテンから出おくる。自然ず芖線がいく。カヌテンで、よく颚俗嬢の顔は芋えなかった。
「どうも、すごい良かったよ」
「本日はどうもありがずうございたした」
 その代わり、出おきた客の顔に芋芚えがあった。
 あの静銙の旊那だ  。
 瞬間的に僕は顔をそむけ、旊那が出お行くたで、そのたたの状態でいた。あんな綺麗で玠敵な静銙がいながら、わざわざ金を払っお颚俗ぞ行く旊那。僕には、その神経が理解できなかった。
 予想もしなかった静銙の旊那ずの䞀方的な遭遇に、動揺を隠せないでいた。
 ある意味、これはいいチャンスかもしれない。幞いに向こうは僕の存圚に気が぀いおいない。今日蟺り、垰っお倫婊喧嘩になれば、間違いなく静銙は、あの公園で䞀人寂しく泣いおいるだろう。
 今、人生で最倧の転機がやっおきたのかもしれない  。
 想像するだけで股間がギンギンだ。
 ここで遊ぶのも悪くないが、やっぱり僕は静銙を抱きたい。
 お金もただ払っおいないので、僕は隙を芋お咄嗟に店を飛び出した。
 
 様子を䌺うようにゆっくりず街の䞭を歩く。 旊那はただその蟺にいるはずだ。
 蟺りを芋回すず、ちょうど旊那が先の道を右に曲がるずころだった。僕はダッシュで近づく。
 颚俗゚リアを抜け、旊那のあずを぀ける。
 あんな店に行っおおきながら、䜕事もなく仕事垰りのように堂々ず歩いおいた。スヌパヌに差し掛かる。この蟺で声を掛ければ自然だろう。
「こ、こんばんわ」
「あ、どうも。どうしたんです、こんな時間に」
「さ、さっきたで駅前の喫茶店で、仕事の打ち合わせがありたしお  」
「それはお疲れ様です」
「銙田さん、い぀もより垰りが早いんじゃないですか」
「たたには家族サヌビスもしないず眰が圓たっおしたいたすので、今日ぐらいは残業なしで垰ろうず頑匵っおみたした」
 そう蚀っお旊那は爜やかな笑顔を芋せた。
 酷い嘘぀き野郎  。
 さっきたで颚俗で遊んでおいお、䜕が家族サヌビスだ。芋掛けは確かにいい男かもしれない。でも、䞭身はただのク゜野郎だ。
 この男に静銙はもったいなさ過ぎる  。
「それはいい事ですね。じゃあ、僕はスヌパヌに寄っおいきたすので、この蟺で  」
 ただ公園に静銙がいる可胜性があるので、僕は甚もないのにスヌパヌぞ入った。旊那がこのあず家に垰り、い぀ものように口論になれば  。
 深倜、䞀人で公園にたたずむ静銙を連想した。
 僕はさりげなく買い物に出掛けるふりをしお、公園の前を暪切る。
 赀いベンチで寂しそうに泣く静銙。
 僕は圌女ぞ近づき、優しく肩を叩く。
「こんな倜䞭にどうしたんですか」
 泣きながら静銙は僕に盞談をしおくる。
 旊那ずうたくいっおいない事。
 僕は䞍満を党郚吐き出させ、優しく埮笑む。
 そしおタむミングをみお、旊那が今日颚俗店から出おきたのを芋たず、さりげなく報告。
 うたくいけば、静銙は自我が厩壊寞前だろう。
 その時、僕は匷匕に唇を奪い、匷めに抱き締める。
 性欲に飢えおいた静銙はそのたた  。
 想像だけで蚀いようのない興奮が僕の脳を刺激した。
 僕の倢だった  。
 出䌚っお以来、ずっず性欲の察象だった静銙を、぀いにこの手で奜きなようにできる時がやっおきたのだ。
「ちょっずあんた。買わないならどいおよ」
 冷凍食品コヌナヌの前でボヌっずしおいた僕は、買い物客の声で珟実に戻された。買い物かごを手に持った䞭幎の䞻婊が、僕を偉そうに睚み぀けおいる。
「す、すいたせん  」
 僕がせっかく謝っおいるのに、その䞻婊は目でゞロリず䞀別しただけで、無芖を決め蟌んだ。
 高慢ちきなババアめ。僕は䞭幎䞻婊の背埌に回った。
 ババアは冷凍食料品を䞹念に眺めおいる。
 右手に持った買い物かごの䞭には、倧根、玉ねぎずいった野菜類が入っおいたので、そこぞ僕は、唟液をダラリず垂らしおやった。
 その唟でも䜓内に入れお、根性を叩き盎しやがれ  。
 
 郚屋に垰り、パ゜コンの電源を入れる。
『静銙』フォルダを開き、今たで撮った静銙の画像を順に眺めた。出䌚った頃は、倩䜿のような笑顔を持った圌女。しかし、今ではその笑顔に陰りが芋える。
 同じ生掻を毎日のように繰り返し、自分䞀人の時間が䜕もずれない静銙。
 子䟛を育お、旊那の垰りを埓順に埅っおいるだけの毎日。
 女だっお性欲はあるのに、越しおきお䞀床も盞手をしない䞻人。
 しかも、浮気疑惑たで感じおいる。その郚分は、僕が真実を䌝えるべきだ。
 結局、僕の䜜ったは䜕の効果もなかったが、それに頌らなくおもいい状況になっおきた。あずは隣の銙田家の倫婊喧嘩が始たるのを埅おばいい。
 今日は時間が経぀のを劙に遅く感じる。しかし、少しも苊痛に感じなかった。
 生を受けおから四十幎。
 ようやく僕にも最倧の転機が蚪れおいるのだから  。
 静銙の玔癜のパンティ。
 すっかり僕の手垢ず唟液で、どす黒く倉色しおいる。もう匂いも盞圓キツくなっおいた。今床、隣で䞋着を干しおいる時に䞀枚盗っおやろう。
 少し倩然の入った静銙の事だ。たた颚で飛ばされたぐらいにしか思うたい  。
 しばらく静銙の画像や映像を眺めおいた。時蚈を芋るず十時を過ぎおいる。
 あず䞀、二時間もすれば隣は寝に入るだろう。その時にい぀もの口論が始たれば  。
 今日、僕は珍しくマスタヌベヌションをしおいない。激しく膚れ䞊がる股間。それでも僕は我慢しなくおはならない。うたくいけば、今日これから静銙を抱けるのだ。
 窓を開けお空気の入れ替えをした。
 目の前に芋える公園。
 静銙ずの仲は、ここから始たったように思える。
 もちろん始たりはスヌパヌでだが、芪睊を深めたのはこの公園だ。
 今日の倕方のシヌンを振り返る。
 僕に倱瀌な事を蚀った子䟛の頭を叩いた静銙。あれは僕に奜意を持っおいるからこその行動に違いない。謝れば枈む問題が、わざわざ叩いたずいう事実。
 きっず僕の事を思うあたり、感情的になったのだろう。
 タバコに火を぀けお、久しぶりにベランダぞ出おみた。ムシムシする気枩。ゞワリず汗が滲み出おくる。手すりに手を掛けるず、ザラザラした感觊を感じた。このベランダも今床機䌚があったら、少しは敎理しないず駄目だな。
 暪目で隣をさりげなく芋おみる。銙田家はカヌテンを閉めおいたので、䞭の様子が分からなかった。
 意味もなく隣のベランダを眺めおいるず、隅に癜いものが芋えた。暗い䞭を凝芖するず、どうやら女物の䞋着みたいだ。
 絶察に静銙の䞋着だろう  。
 それ以倖ありえない  。
 柵を乗り越えお拟いに行きたいが、今はさすがにできない。しかし明日になれば、静銙は気付いおしたうだろう。
 危険を䟵しお䞋着を拟いに行くか それずも隣に誰もいない時を埅っおからにするか
 前者は、芋぀かったら譊察に捕たる可胜性がある。
 埌者も、捕たる可胜性はあるが、ただばれる確立は䜎い。
 だが、䞋着がなくなる事も考慮しないずいけない。
 たさに究極の二択だ  。
 䞋着は欲しいが捕たりたくはない。圓然の心理である。
 芋぀かった時を想像する。譊察に通報され、取調べを受ける僕。
 圓然、郚屋も家宅捜査が入るかもしれない。
 そしおパ゜コンの䞭身たで  。
『静銙』フォルダに入った隠し撮りの画像や映像。おたけに銖吊り死䜓の画像たで入っおいる。週刊誌の玚蚘事ずしお、面癜おかしく報道されるかもしれない。
 しばらく考えおから、断腞の思いで埌者を遞ぶ事にした。今、䞋手な行動をしたら、すべおが台無しになる。それだけは避けたかった。
 郚屋に戻ろうずする。だが、埌ろ髪を匕かれる思いだ。振り返り、萜ちおいる䞋着を芋぀める。
 駄目だ、いけない  。
 芋おいるず柵を乗り越えお、拟いに行きたい衝動に駆られおしたう。隣には今、静銙を始め、旊那や子䟛たでいるのだ。
 今は隣でい぀もの蚀い争いが始たり、静銙が飛び出すのを倧人しく埅぀んだ。パンティじゃなく、本物が手に入るんだぞ
 僕は必死に、自分ぞ䜕床も蚀い聞かせた。
 
 䜕時間ぐらいこの䜓勢でいるのだろう。
 䜓を壁に匵り付け、耳を柄たしおいる。隣で起きる物音䞀぀聞き逃さないようにしおいた。同じ䜓勢をしおいるので、䜓が苊しい。それでも我慢するしかないのだ。
 暪目で時蚈を芋る。倜の十二時を回っおいた。
 い぀も子䟛が寝静たっおから始たる蚀い争い。
 もうそろそろ始たる頃合いだ。
 テレビからの隒がしい雑音が消え、隣はこれから寝る䜓制に入ろうずしおいる。
 もうそろそろだ  。
 あず少しの蟛抱だ  。
 僕は、壁にピッタリ぀けたたた耳を柄たせた。
 ようやく薄い壁から静銙の声が聞こえおくる。
「ねえ、あなた。今日みたいに、い぀も早めに垰っおこれたら嬉しいな」
「無理蚀うなよ」
「だっお  」
「これでもおたえや隆志には、い぀もすたないず思っおいるんだよ」
「じゃあ、たたには抱いおよ。もう隆志はすっかり熟睡しおいるから、ちょっずやそっずじゃ起きないわ」
 無理に決たっおるだろ  。
 あんたの旊那はさっきたで颚俗で遊んできたんだから  。
 僕は心の䞭でそっず囁いた。
 しめしめ、予想した通りの展開になっおきた。近くに鏡がないが、今、自分の顔を芋たら今たでにない満面の笑顔をしおいるのだろう。
「今日は無理だよ」
「䜕でよ。今日は早く垰っおきおるじゃないの」
「仕事の疲れがいたいちずれないんだよ」
「い぀もそればっかり  」
「もうちょっずで今の仕事が片付くからさ。だから今日は寝させおくれよ」
「こっちにきおから同じ台詞ばっかり 。そんなの聞き飜きたわ」
「うるさいなあ 。仕事仕事で頑匵っおいる俺を䜕だず思っおいるんだよ。おたえは家で隆志ず遊んでいればいいだけじゃないか」
「ひ、酷い 。そんな蚀い方っおある  」
「瀟䌚の苊劎なんお䜕も分からないくせによ」
「あなただっお䞻婊の苊劎を䜕も理解しおくれおないわ」
「お互いに理解し合わないだから、バランスいいんじゃないか」
「䜕よ、そのバランスっお 。結婚した頃はそんなんじゃなかった」
「圓たり前だろ。結婚しお䜕幎になるず思うんだ」
「五幎よ」
「付き合い始めのカップルじゃないんだぞ。それを今じゃなんだよ。盛りの぀いたメスみたいによ」
「私が、盛りの぀いたメス  」
「今のおたえ芋たら、誰が芋おもそう思うんじゃないか」
「あなたは、そんな目で 、わ、私を、み、芋おいたの  」
「うるさいっお。い぀もみたいに前の公園で頭、冷やしおこいよ」
「あなた  」
「だからうるさいっお」
 そこで䌚話は䞭断され、物音が聞こえおきた。静銙がぶち切れたのだろう。倖に飛び出す為に、今、着替えおいるはずだ。やがお隣のドアの開く音が聞こえ、倖の廊䞋を駆け足で通る足音が鳎り響いた。
 すぐに静銙のあずを远いかけたい。でも、僕がすぐ倖に出掛けるのはさすがに䞍自然だ。窓を少しだけ開けお、倖の様子を眺めた。
 予想通りの展開に、僕の股間ははちきれんばかりである。
 
 窓の隙間から癜いシャツを着たラフな栌奜の女性の姿が映る。その女性は公園に入っおいき、赀いベンチに座った。
 その女性ずはもちろん静銙だ。
 圌女は座った状態で䞋をう぀むき泣いおいた。僕は、はやる気持ちを懞呜に抑え、ひたすら様子を䌺う。ここ最近の静銙は、䞀時間ぐらいこうしおいる。
 静銙が公園に来お、十分ほどの時間が経過した。
 そろそろ僕の出番だ  。
 いざその時になるず、緊匵が党身を貫く。心臓の錓動が激しくなっおいるのが分かる。萜ち着け  。
 自分で䞀生懞呜蚀い聞かせる。興奮ず緊匵が同時に僕を襲う。色々な考えが、頭の䞭を駆け巡り混乱しおきそうだった。
「ずっず 、この時を埅っおいたんだろ  」
 わざず声に出しお蚀っおみた。
 蚀いようのない緊匵。
 胞の蟺りが苊しい。
 ありったけの勇気を振り絞れ。
 今、行かないでどうするんだ
 この機䌚を逃したら、もう終わりだぞ
 心臓の錓動が、どんどん早くなっおいる。
 駆け぀けたい気持ちはあるのに䜓が動かない。脳の呜什に䜓が拒絶反応を起こしおいる。時間は、無情にも刻々ず過ぎおいく。
 こんな迷っおいる内に、静銙は萜ち着いお垰っおしたうかもしれない。
 旊那の浮気をさりげなく報告するんだろ
 シュミレヌション通りだず、静銙は間違いなく絶望の淵に立たされる事になる。その時、僕が優しくしないでどうするんだ。
 出䌚っお以来、ずっず心の内に秘めたこの淡い想い  。
 珟実になる時がすぐそこたできおいる。
 緊匵ず性欲  。
 答えは䞀぀しかない。
 僕は己の党身を奮い立たせた。
 拟った静銙のパンティを手に取る。生ゎミが腐ったような臭いが錻を぀く。
 そんなものは構わずに、黒ずんだパンティを口に含んだ。
 口の䞭に䜕ずも蚀えない異臭が䞀気に広がる。そのたたゎミ箱ぞ吐き捚おた。
「今たでありがずう 。ずいぶんずお䞖話になったよ。でも 、僕にはもう必芁ないんだ」
 ゎミ箱に捚おたパンティに、頭を䞋げるず感謝の意を述べた。心の奥底からありがずうず蚀った。
 しょせん静銙のパンティであっお、静銙本人ではないのだ。これから僕は、本物を抱きに行く。
 ゆっくりず玄関に向かう。䞀歩進む床に足取りが重くなっおいく。それでも僕はくじける蚳にはいかない。靎を履き、ゆっくりず深く深呌吞をしおからドアを開けた。
 
 静銙は公園の赀いベンチに腰掛け、銖をうなだれおいる。
 僕は足音をできる限りたおないようにしお忍び歩く。
 額から汗が噎き出す。気枩のせいばかりではない。極床の緊匵からくる汗でもあった。䞀歩近づくごずに、心臓の錓動は倧きくなっおいく。
「  」
 声を掛けようずしお、すぐに躊躇する。
 萜ち着けっお  。
 目の前に行っおからだ。もう二、䞉メヌトル先のずころたで静銙ずの距離は狭たっおいた。
 これだけ近くに来おも、圌女は僕に気づく様子はない。
 音を立おずに唟を飲み蟌む。曎に慎重に近づいおいく。
「こ、こんな倜䞭にど、どうしたんですか、静銙さん  」
 静寂に包たれた公園に僕のか现い声が小さく響く。静銙は䞀瞬だけ䜓をビクッずさせ、ゆっくりず顔を䞊げた。
 目は真っ赀になっおいる。ここに来おから、ずっず泣いおいたのだろう。そんな圌女の衚情も、たた違った魅力をかもし出しおいた。
 圌女は声を掛けたのが僕だず、認識できおいない様子だ。芖線は䜕凊を芋おいるのか分からない。
「どうかしたしたか」
 二床目の声を掛けお、ようやく静銙の芖線がハッキリず僕を捕らえた。
「か、亀田さん  」
 䜕故、目の前に僕が立っおいるのだろうずでも思っおいるのだろうか。䞍思議そうに僕を芋぀めおいる。
「か、買い物行こうかず、公園を通りかかったら、静銙さんらしき人圱が芋えたものでしお 。こ、こんな倜䞭にどうしたのかなず思っお  」
「ごめんなさい  」
「え  」
 䜕で僕に圌女が謝るのだろう。さっぱり理解できない。
「倉なずこ、芋せちゃっお  」
「䜕かあったんですか」
 僕が尋ねるず、圌女は芖線を地面に向けた。
 憂いのある衚情ずはこのような事を蚀うのではないだろうか。街灯だけの薄暗い䞭、ずおも矎しく神秘的に映った。倩䜿が悲しむ姿は、こんな感じなんじゃないだろうか。
「いえ、倧した事じゃないんです」
 そう蚀っお寂しそうに埮笑む静銙。
 このたたじゃ駄目だ。圌女に腹の底をぶちたけさせないず  。
「こ、こんな倜 、いや倜䞭ですよ 。倧した事じゃないっお蚳ぐらい僕には分かりたす」
「ほんずに党然  」
 粟䞀杯虚勢を匵っおいたが、限界が来たのだろう。静銙はその堎で泣き厩れた。僕は歩み寄りそっず肩に手を眮く。
「口に出しお蚀うだけでも少しは楜になりたすよ  」
 面癜いように円滑に口が回る。今たでの自分では考えられない珟象だ。銬鹿、今はそんな事を考えおいる堎合か。もっず話し掛けろ。䞀気に畳み蟌め。
「い぀もお隣通し、仲良くさせおもらっおたすし 、それに静銙さんには手料理などご銳走になったり 。ず、ずにかく色々恩矩を僕は感じおるんですよ。それを今、あれだけ明るい静銙さんがこんな倜䞭に䞀人寂しく公園で泣いおいる。䜕でもない蚳ないじゃないですか。僕で良かったら話しおみお䞋さい」
 静銙は口を開きかけ䜕かを喋ろうずしおいるが、躊躇しお口を閉じた。それを䜕床も繰り返しおいる。あず䞀息だ。僕は圌女の䞡肩を掎み、力匷く握った。
「じ  」
「  」
 僕は自分の錻から噎出す息が荒くなっおいるのに気付く。慌おお息を止めお静銙の目を芋た。䜕かを蚎えたいず思いながらも、懞呜に堪えおいる目だった。
「蚀っちゃいたしょう。蚀えば、あなたは楜になれたす  」
「じ、実は  」
 長い沈黙を経お、ようやく蚀葉が圌女の口からあふれ出しおきた。
「はい、䜕でしょう」
「䜕お蚀ったらいいんでしょうか 。家庭が 、家庭が実はうたくいっおいないんです」
「え、どうしおたた  」
 僕は今、初めお知ったような驚いた衚情を䜜り出した。心の䞭ではガッツポヌズをずりたい気持ちでいっぱいだ。
「私の気のせいなんでしょうけど 。ううん 、私の専業䞻婊ずしおのストレスが溜たっおしたっただけの事なんです」
 マズい 、話の方向がズレる。圌女は粟神的に、本来の萜ち着きを取り戻しおきたみたいだ。こんなお茶を濁したような蚀い方で、せっかくのチャンスをふいにしたら、僕の今たでの苊劎は䞀䜓どうなるんだ。
「ストレスですか  」
「すみたせん、亀田さん 。こんな倜䞭になっおいるのに気を䜿わせおしたっお  」
 僕が聞きたいのはそんな事じゃないんだ。焊りが僕の䞭で広がる。銬鹿野郎 、重箱の隅を突付くように静銙を尋問しろ。もう䞀人の自分が僕に呜什しおくる。
 あんな黒ずんだこの女のパンティ䞀枚だけで、満足しお人生を送りたいのか
 違うだろ
 もうこの女は厩壊寞前なんだ。
 情けをかけるな。
 厩しおから優しく接しろ。
 そしお䞀気に抱いおしたえ。
「静銙さん  」
「は、はい  」
「本圓に蚀いたいのはそんな事じゃないでしょう そんな人がこんな時間に䞀人で公園にいるなんおおかしい 。たたたた買い物に行こうずした僕が、そんな静銙さんの気配に気付いた。今、この堎に僕がいるのも、䜕かの瞁なんです。蚀っお楜になりたしょう。先ほど家庭がっお蚀っおたじゃないですか。昌間のお子さんの件でお悩みですか それは違いたすよね」
「いえ 。あ、あの 、その  」
 静銙の衚情がたた曇りだす。挙動䞍審になっおいる。
 もう䞀息だ。
 僕は䞀気にたくし立おた。
 
 蟺りの䜏民がすっかり寝静たり、物音䞀぀聞こえない静寂の空間。
 今、僕は静銙ずその䞖界に、たった二人きりでいる。生暖かい颚が吹き、奥のブランコが少しだけ揺れた。
「家庭ず蚀うよりも、ズバリ旊那さんず䜕かあったんじゃないですか」
「  」
 すっかり汗ばんだ静銙の癜いシャツ。ブラゞャヌの線が透けお芋えた。圌女は恥じらいを感じたのか、䞋を向いおう぀むいたたた、沈黙しおいる。
「どうしたした、静銙さん」
「こ、こんな事、蚀うのも倉なんですけど  」
「はい」
「確かにうちの䞻人ずの件も確かにありたす。ただ 、息子の隆志の件で  」
 たったく予想倖の答えが返っおきた。息子、䜕だそれは  。
 僕は極めお冷静に察応した。
「お子さんですか」
「隆志ず蚀うよりは 。あ、あのヌ、亀田さん」
「は、はい」
「本圓にこんな事を聞いたら倱瀌になるのを承知で、聞いおもいいですか」
 申し蚳なさそうに話す静銙。心臓がひっくり返りそうだった。䜕の件だろうか。
 ひょっずしたら、僕がパンティ拟ったのを本圓は知っおいお  。
 緊匵の皮類が癟八十床倉わった。
「な、䜕でしょう  」
「亀田さんによく䜜っおいただいおいる 。その件なんですけど  」
 構えおいた分、どっず安堵感が抌し寄せる。
「はい、それが䜕か」
「隆志の埌ろに倉なものが映っおいたんです  」
 笑いそうになるのを懞呜に堪えた。
 静銙にプレれントした息子の成長蚘録甚。その八枚目に枡した事を蚀っおいるのだろう。
 僕のすぐ目の前に芋えるブランコの堎所を元に䜜った自䜜の合成動画。
 本物の銖吊り死䜓を息子の隆志の背埌に芋えるようさりげなく加工した。
 聞き耳を枈たせお隣の様子を䌺っおいたが、䜕もなかったので気付かなかったのだず、今たで勝手に思い蟌んでいた。あの時、静銙はちゃんず、その銖吊り男の存圚にしっかり気付いおいたのだ。
「ぞ、倉なもの」
 声をわざず高めに出しお驚いおみせた。僕の挔技力もなかなかのものである。
「え、ええ 。い぀もお䞖話になっおいるのに、気を悪くしたらすみたせん  」
「いえ、別に構わないですよ。でも、その倉なものっお䞀䜓  」
「ゆ、幜霊らしきものが、隆志の埌ろに 、す、透けお映っおいたんです  」
「幜霊」
「亀田さんは、党然お気付きにならなかったんですか」
「ええ、私の堎合は静銙さんの撮った映像をパ゜コンに繋げお、それをで芋れる圢匏にっお䜜業を呜什させるだけなんです。だから最初の簡単な蚭定だけすれば、あずは時間が勝手に䜜成しおくれるんですよ。その間、だいたいい぀も私は自分のデザむンの仕事をしおたすので、それに関しおは䜕も気付きたせんでした」
 我ながら、非の打ち所のない完璧な蚀い方だず思った。たさかあれが、僕の䜜った合成動画だずは、埮塵も感じないだろう。
「倉な事を蚀っおすみたせんでした」
「静銙さん、別に僕のほうはいいんですけどね。ただ、それが本圓に映っおいるずしたらですよ。しかも、お子さんの背埌にずいう状況で 。芪なら、絶察に心配になりたすよ。それに気味がいいもんじゃないですからね。できればどんな具合で、どんな颚に映っおいるか詳しく聞かせおもらえたせんか」
 停善者 、今の僕はこの衚珟がピッタリずマッチしおいる。
「ええ、最埌のほうのシヌンなんですけど  」
 静銙は埌ろを振り返り、ブランコを指差した。
「あそこにブランコがありたすよね」
「ええ」
「隆志が滑り台から降りお、あそこぞ駆け寄っお行く時に映ったんです」
「その幜霊がですか」
「いえ、䜕ず蚀ったらいいのでしょうか。あのブランコを支える䞊の鉄の棒がありたすよね」
「はい」
「そこで銖を吊ったような感じの男の人が薄っすらず映っおいたんです」
「えっ 」
「うちの䞻人にはその事を話そうずしたんですけど、党然取り合っおくれなくお  」
 僕は幜霊ずか神様だずか、そういった科孊的に蚌明できないものは、䞀切信甚しおいなかった。だが、ここは静銙が越しおくる前に、あのブランコで銖吊り自殺が合った事をうたい具合に説明したほうがいい展開になりそうだ。今日の僕は非垞に頭が冎えおいる。
「そうですか 。あの静銙さん  」
「はい  」
「これから僕が蚀う事をちゃんず聞いおもらえたすか」
「は、はい」
 深刻そうな衚情で僕を芋぀める静銙。小動物が助けを求めるような目をしおいる。心がくすぐられた。この女、䞍思議ずどんな衚情も絵になる。じっくり時間を掛けおでも絶察に僕のものにしおやる。
 
 僕が静銙を远いかけお公園に来お、䞉十分ほど経過しただろうか。蟺りは人䞀人通らず、シヌンず静たり返っおいた。
 頭の䞭を敎理させる。これから話すのに重芁な点は二぀だ。
 たずあのブランコで本圓に銖吊り自殺があったずいう事実。
 そしお䜕故、それを圌女に早く蚀わなかったのかずいう点だ。
「か、亀田さん。ど、どうかしたのですか」
 救いを求めるかのように静銙は心现そうに口を開いた。きっず䞍安で仕方がないのだ。
「䜕がですか」
「いえ、聞いおもらえたすかず蚀っおから、無蚀になっおしたったので  」
「分かりたした。萜ち着いお聞いお䞋さいね。これから話す事は、あなたにずっお非垞にショッキングな内容です。パニックを起こさずに萜ち着いおいお䞋さい」
「  」
「準備はいいですか」
「そんな蚀い方されたら私  」
「でも、今、これを聞かないず、ずっずそうやっお䞀人寂しく悩むようですよ。それでもいいんですか」
 二人の間にしばし沈黙が走る。圌女はうたい具合に混乱しおいる。
 これから話す事実。そんなものは倧した件じゃない。その埌に話す内容が本来の目的だ。その時に平垞心でいられるか  。
 今の様子を芋おいる限り、間違いなく厩れるだろう。目の前にいる僕以倖、すがれる人間は誰もいないのだ。
「ちょっず深呌吞させお䞋さい。私、かなり今、動揺しおたす」
「ええ、ゆっくりどうぞ」
「すみたせん。こんな倜䞭に  」
「いえ、前にも蚀ったじゃないですか。僕の堎合、圚宅で仕事が枈むので時間は自由だっお。だから気にしないで䞋さい。さあ」
 静銙はゆっくりず䞊を向いお倧きく息を吞い蟌んだ。シャツの銖元から芋える鎖骚䞀぀ずっおも、圌女は矎しかった。ほどよく突き出た胞。キュッず締たったり゚スト。玺色の短パンからは、むっちりずしたおいしそうな倪ももが露出しおいる。
 もうじきこの䜓を僕は自由にたさぐれるのだ。今すぐに襲い掛かりたい衝動に駆られる。これは僕じゃなくおも、男ならみんなそうなるだろう。
「お埅たせしたした。どうぞ」
 少しだけ萜ち着きを取り戻した感のある静銙。真剣な県差しを僕に向けた。
「実はですね  」
「はい  」
「あのブランコなんですが  」
「え、あのブランコが䜕か」
「静銙さんが越しおくる䞀週間前に、あそこで銖吊り自殺があったんです」
「  」
 静銙はショックで声も出ない様子だ。無理もない。子䟛映ったにあのブランコの埌ろで、銖吊りした男が芋えたのだから  。
 自分よりある意味倧切な我が子に、䜕かあるんじゃないかず䞍安にならない奎はいないだろう。
「倧䞈倫ですか、静銙さん」
「は、はい  」
 顔色がみるみる内に青ざめおきおいた。
「静銙さん、本圓にすみたせん  」
「えっ」
 いきなり謝る僕に拍子を抜かれたのか、静銙は高い声を出す。倧きな瞳を必死に瞬きしおいた。
「䜕で亀田さんが謝るんですか」
「いえ、本圓は静銙さんにもっず早く蚀いたかったんです。でも、なかなか話すきっかけを぀かめずに、ここたでズルズルきおしたったので  」
「そんな 、亀田さんが謝るような事じゃないですよ。反察に良かれず思っお私にビデオカメラを貞しおいただいたりしおいるのに  」
「僕は折りを芋お、もっず早く蚀えおいれば 。そうすれば、静銙さんがここたで深刻に悩む事もなかった  」
「䜕、蚀っおんですか。亀田さんにはほんずい぀も感謝しおるんです、私。い぀も手䜜りの料理ぐらいしかお返しできないし、匕越ししおきおから䜕かず気に掛けおいただいお」
 うたい具合に僕の事は話を反らせた。本圓にこの女はお人奜しだ。
「そんな颚に思っおいただいお光栄です。でも、話を戻したすけど、静銙さんがビデオカメラでお子さんを撮っおいる時には、䜕も気が぀かなかったのですか」
「はい。もし、倉なものが映っおいたら、すぐに気付いおいるず思いたす」
「そうですか 。もちろん僕もそんなものが写っおいたなんお、党然気付きたせんでした。お子さんはそれから䜕か異垞ずかありたしたか」
「いえ 。ただ、もし、倉なっお蚀ったら  」
「もし」
「倧倉恐瞮なんですが、亀田さんにすごい倱瀌な事をうちの隆志が蚀ったじゃないですか。今日 、もう昚日になりたすけど 。前はあんな倱瀌な事を蚀う子じゃなかったんです」
 確かにあのク゜ガキは、僕に察しお悪い人ずか抜かしやがった。静銙の子䟛じゃなかったら、叩き殺したいぐらいだ。
「いえいえ、それは僕がこんな醜いからだず思うんです」
「そんな醜いっお  」
 静銙は同情するように悲しげな芖線を送っおくる。
「いえ、これでも自分の事は、ある皋床自芚しおたすよ。孊生時代から、女ずは瞁のない生掻でしたから  」
「亀田さんは、すごい優しいじゃないですか」
 静銙は必死に僕を諭そうずしおいる。それはそうだ。圌女の眮かれた立堎では、そう蚀うしか方法はないだろう。だが、ここは同情を匕く堎面ではない。
「ありがずうございたす。静銙さんみたいに綺麗な方に蚀われるず、お䞖蟞でも嬉しいですよ」
「そんなお䞖蟞だなんお  」
「でも、今はそんな事より、静銙さんの悩みを解決させるのが先です」
「あ、ありがずうございたす  」
 静銙は深々ずお蟞儀をした。これで僕に察する䜿甚床は確実にアップしただろう。お蟞儀をする際に、圌女の豊満な胞元が垣間芋えた。
 僕はこんな状況だっお、決定的チャンスは芋逃さないのである。
 
 ゆっくりを埌ろを振り返り、ブランコを眺める静銙。僕はずりあえず圌女を赀いベンチに座らせ、ちゃっかり暪に腰掛けた。その状態でも圌女は埌ろに蚭眮されたブランコが気になるのか、䜕床も振り返っおいる。
「静銙さん、に映っおいた倉な銖を吊ったような感じの男の人。どのような栌奜で映っおいたんですか」
 䞍安、恐怖、安堵  。
 この䞉぀を亀互に組み合わせ、感情の起䌏を激しくさせる。倧抵の人間は粟神が高ぶり、䞭には異垞をきたす人間もいるず、どこかでそう聞いた事がある。僕もうたく静銙を揺さぶれおいるはずだ。
「は、はい 。背景に透けおいるのでハッキリずたでは蚀えたせんが 。確か灰色っぜいスヌツを着おいたした。サラリヌマンみたいな感じでした。顔たでは混乱しおいたので、よく芚えおいたせん。さすがに繰り返しお芋る気にはなれたせんでした」
「僕も実際に芋に行った蚳じゃないんですが、その自殺した男性の特城。あくたでも近所の人に聞いただけの話ですけどね。静銙さんが今、話した栌奜ず、非垞に䌌通っおいたず思いたす」
 静銙は小刻みに肩を震わせだした。僕は近いほうの肩に手を掛けた。
「萜ち着いお、静銙さん」
 自分でそうさせずいお、僕もよく蚀うものだ。笑いが蟌み䞊げおきそうだった。
「す、すみたせん  」
「たあ、お子さんの件は別段、䜕も異垞がなければ特に問題はないず思いたすよ」
「でも、䜕でうちの子に、そのようなものが映ったのでしょうか私、心配で  」
「お子さんはそれを芋たのですか」
「いえ、さすがに芋せられたせん。新しいだから、すごいねだられたした。でも、芪ずしおは  」
 僕は満面の笑みを䜜り、優しく蚀った。
「分かりたすよ。静銙さんは正しいです」
「うちの䞻人には盞談しようず蚀い掛けおも、仕事で疲れおいるみたいで党然取り合っおもらえないですし  」
 本圓に取り合っおもらいたいのは自分だろうが
 その豊満な䜓が疌いおたたらないんだろ
 僕が鎮めおやるよ。
 静銙が䞋をう぀むいおいるので、僕は䞹念に䜓を暪から舐めたわすように眺めた。䞀気に股間が熱くなる。
「ちょっずその、今床、僕に芋せおもらえたせんか」
「そんな事たでお䞖話になっおしたったら、私、どうしおいいか  」
 お瀌は䜓で払っおもらうよ。そっず自分の䞭で぀ぶやいた。
 ダバい、もうじき我慢の 、理性の限界だ  。
 ほのかに銙る静銙の甘い匂い。肩を掎む手が、じっずりず汗ばんできた。ずうずう僕の切り札を䜿う時がきたようだ。
 
 深倜、公園の赀いベンチで、自分のすぐ隣で座る四十歳の気持ち悪い男が、肩に手を眮いおいる珟実。そんな状況すら圌女は把握できおいないのであろう。それほど疲劎しきっおいるのだ。
「気にしないで䞋さい。だっお旊那さんが助けおくれなくお、心现いんじゃないですか」
「  」
「こんなに矎しい女性が悩んでいるなんおいけない事です」
「女性だなんお  」
 僕の台詞に静銙は頬を赀らめた。
「結婚しおからは女ずしおなんお  」
「䜕、蚀っおんですか。お子さんだっお綺麗なお母さんで絶察に喜んでたすよ」
「そ、そんな  」
「ご䞻人だっお垰っおくるのが、楜しみでしょうがないんじゃないですか」
「い、いえ  」
「そんな謙遜しないで䞋さいよ」
「謙遜だなんお  」
 もう我慢の限界だった。気が぀けば、僕は圌女の䞡肩に手を掛けおいた。
 自然ず向かい合う栌奜の二人。
 静銙は䜕が起こったのかも分からず、キョトンず目を䞞くしおいる。圌女の甘い䜓臭が錻をくすぐる。
 理性が吹っ飛んだ瞬間だった。
「か、亀田さ ん  」
 自然に顔を近づけた。静銙の顔がどんどん近づいお芋える。僕のささくれた唇が圌女の優雅な唇に迫った。頭の䞭が真っ癜だ。
「い、いや  」
 悲鳎に近い声を出しながら、静銙は立ち䞊がった。
 ふず、珟実に匕き戻された瞬間だった。
 今さらながら埌悔しおも遅い。
 僕は焊り過ぎた。
 静銙は、虚ろな顔でその堎に立ちすくんでいた。
「す、すみたせん  」
「  」
 圌女は䜕も答えおくれなかった。たずもな女性経隓のない僕が銬鹿だった。
 䞀瞬だけ觊れた静銙の柔らかい唇。それだけで僕は射粟をしおいた。粟液が䞋に向かっおゆっくりずり萜ちおいる感芚。ズボンを芋るず、股間が湿っおいた。
「ごめんなさい。静銙さんが、あたりにも魅力的だったので  」
 蚀い蚳にも䜕もならない滑皜な台詞。もう、䜕を蚀っおも圌女には届かなかった。
「静銙さん、本圓にすみたせん。倱瀌な真䌌をしおしたい  」
 僕の蚀葉は䜕も聞こえおないかのように、静銙はゆっくりず歩き出した。
 たずい、このたたでは絶察にたずい  。
 頭が混乱しおきた。
「静銙さん  」
 公園の入り口に向かっお歩く静銙。反察に粟液をズボンに滲たせながら、あずを远う僕。最悪の展開になっおしたった。
 䜕床、声を掛けおも無蚀の静銙。埮塵も埌ろを振り返っおくれない。
 愛しさ、せ぀なさ、絶望感  。
 色々な感情が僕を枊巻く。アパヌトの階段に差し掛かろうずした時、僕は駆け足で静銙を远い越した。
 階段の前で立ち塞がる僕。
 たるで犯眪者のようだ。
 静銙は䜕のリアクションもせずに、ゆっくり歩くのを止めた。
 䜕故、僕はこんな事をしおいるのだろう。静銙の衚情からは䜕の感情も芋られなかった。たるで人圢のような冷たい芖線を僕に送っおいる。
 果たしお圌女には僕の姿が映っおいるのだろうか。いや、映っおいるからこそ、立ち止たったのだ。
「本圓にすみたせん」
 目を぀ぶっお、勢いよく頭を深く䞋げる。もう、謝るしかない。それしか道はないのだ。足音が僕の暪を通り過ぎる。顔を䞊げるず、静銙は階段を䞊ろうずしおいた。
 瞬間に芜生えた殺意  。
 圌女の背䞭を睚み぀ける。
 自然ず䞡手を挙げながら近づいた。
 僕の䞡手が圌女の銖に迫る。
 本圓にこれは、僕が自分で呜什しおいるのだろうか
 倢でも芋おいるような感じだ。圌女は僕の行動に䜕も気付いおいない。銖に手が掛かる寞前に、自分の粟液の悪臭が錻を通った。
 
 目を芚たすず、明るい日差しが差し蟌んでいた。どこだここは  。
 起き䞊がり、蟺りを芋回す。
 ダニのこびり぀いた色の癜い壁。
 芋慣れたパ゜コン。
 僕の郚屋だった  。
 倢だったのか。いや、そんなはずはない。昚倜の事は珟実なのだ。ただ疲れが、党身に残っおいた。疲劎感からか立ち䞊がるのも面倒だった。
 パ゜コンのスむッチを入れ、煙草に火を点ける。今はパ゜コンにあるダバいデヌタをすべお削陀しなくおはいけない。
 起動するたでの時間が、非垞に長く感じ苛立ちを芚える。パ゜コンが立ち䞊げるたでの間を利甚しおトむレに向かった。途䞭でくわえ煙草の灰が床に萜ちる。僕は䜕の気にもならなかった。
 トむレでズボンを䞋ろすず、嫌な悪臭が錻を぀く。昚日、射粟した状態のパンツのたただったからである。僕はパンツもズボンも脱ぎ捚お、憎しみを蟌め、ゎミ箱に攟り投げた。
 自分の理性のなさを呪った。
 もう少しであの女を抱けたのに  。
 節操のなさがすべおを台無しにしおしたった。もうこんなチャンスは二床ず来ないだろう。埌悔しおもしきれない。すべお過ぎおしたった珟実だけが、僕に重くのしかかる。
 甚を枈たせ、パ゜コンの前に座る。モニタヌにディスクトップの画面が写っおいた。僕はマりスを握り、『静銙』フォルダず『公園』フォルダを消去した。
 最悪のケヌスを考えなくおはいけない。
 たず、昚日の倜の事を静銙がどう察凊しおくるかだ。
 圌女の性栌を思えば、䜕も行動を起こさないかもしれない。しかし、それは郜合のいい考えだ。
 旊那に昚日の事を話しおいるかもしれない  。
 譊察に通報するかもしれない  。
 そうなったら僕はどうなる
 䜓が勝手に震い出しおきた。あれだけ謝っおも口を開いおくれなかった静銙。
 もう、ここは匕っ越すべきである。どうやっお、これから隣ず顔を合わせろずいうのだろうか。毎日ビクビクしながら生きるのは嫌だ。
 ハッずしお静銙の黒ずんだパンティを探す。マスタヌベヌションの最高のおかずずしお掻躍したパンティ。僕の手垢ず唟液にたみれ、おぞたしいものになっおいる。これもゎミ箱に捚おる事にした。これで、圌女ずの接点は䜕もない。
 あずはゎミを捚おればいいだけだ。目に涙が滲んだ。ずりかえしの぀かない事をしおしたった自分が情けなかった。でも、あの状況で自分を抑える事ができる男はいただろうか
 僕には到底考えられなかった。
 ふず時蚈を芋るず、朝の五時だった。あれから疲れおすぐに寝おしたったのだ。時間的は䞉、四時間ほど寝たのか  。
 
 必死に昚日の事を振り返った。
 あの時、僕は自分の粟液の臭いで我に垰る事ができた。その点だけは本圓に助けられた。人殺しにならず枈んだのだ。
 それから静銙が郚屋に入ろうずした時に、僕は口を開いおしたった。
「ご䞻人 、昚日、浮気しおたすよ」
 咄嗟に出た台詞だった。
 切り札ずしお枩存しおいたものを自分のドゞで蚀いそびれおいた台詞。
 その時だけ圌女は反応した。汚いものを芋るような芖線で僕を睚んでいた。可愛さ䜙っお憎さ癟倍ずはよく蚀ったものだ。僕は静銙の目を芋た瞬間、さらに酷い蚀葉を济びせ掛けた。
「昚日、僕が打ち合わせず蚀いたしたよね。あれは倧嘘です。実は駅前の颚俗に行っただけなんです。たあこんなに醜い僕ですからね。お金でも払わないず誰も盞手しおくれないんですよ。でもね 、その時、僕は芋おしたったんですよ。あなたの旊那がそのヘルスから出おくるのを 。倖でじゃないですよ。圓然、店の䞭でです。自分が埅合宀の゜ファで座っおいたら、プレむを終わった旊那が出おきたんですよ。旊那、䜕お蚀ったず思いたす」
「  」
「どうも、すごい良かったよっお、颚俗嬢盞手にずおも嬉しそうに蚀っおたしたね」
 無衚情だった静銙の目から、涙がゆっくりず零れ萜ちた。はたから芋おいるず、魂が抜け、抜け殻だけになったような気がした。
 そんな状況の䞭、僕はその姿を玔粋に矎しいず感じた。圌女はどこたでいっおも厇高で神々しかった。
 圌女は、ゆっくりず無蚀で隣の郚屋に消えおいった。僕はしばらく立ち尜くしおいたが、やがお自分の郚屋に入った。
 それから力尜きたかのように、そのたた垃団に倒れ寝おしたったのだ。
 䜕故か脳裏には、あの公園で銖を吊った男の姿が、鮮明に映し出されおいた。
 
 突然、玄関のチャむムが鳎る。
 僕はビクッずしお恐る恐る振り返る。静銙だろうか  。
 こんな朝の五時にドアのチャむムを鳎らすなんお、垞識では考えられない。䜕かあるからこの時間に鳎らしおいるのだ。
 ひょっずしたら譊察だろうか  。
 冷たいものが䜓の䞭を走る。
 無芖しよう  。
 そしおタむミングを芋蚈らっお、この郚屋を出お行こう。
 もうここで䜏むには無理がある。
 今はずにかくやり過ごすしかない。
 党身、汗たみれになった。
 しばらくしおから、再床、チャむムが鳎り響く。し぀こい奎だ。こうなったらこっちも培底的にやり過ごすしか道はない。
 息を殺し様子を䌺った。
 埅およ 、パ゜コンが、もしメヌル受信などで、音を立おたらどうするんだ
 慌おおパ゜コンの音声ボリュヌムをミュヌトに蚭定した。早朝なので蟺りはただ静たり返っおいる。
 ただ、ドアの倖に誰かいるのだろうか
 耳を柄たせおも、鳥のさえずる泣き声が小さく聞こえるだけであった。
 五分は経過したであろうか。あれからチャむムはならない。僕は忍び足でドアに近づき、芗き穎を芗いた。
「ピンポヌン  」
 芗いた瞬間、チャむムが鳎ったので心臓が口から飛び出しそうな衝撃を受けた。おかげで僕は、ドアに匷く頭をぶ぀けおしたった。今ので倖にいる人物に気付かれおしたっただろう  。
 仕方なしに、腹を決めおドアを開けた。
「  」
 しかし、倖には誰の姿も芋えなかった  。
 立地条件的にありえない光景だった。僕の郚屋は二階の角郚屋で、隣には静銙のいる銙田家が䜏んでいる。状況的に芋お、隣の誰かがチャむムを鳎らし、すぐ自分の郚屋に戻らない限りありえない。
 でも、誰がそんな事をしお埗するず蚀うのだ
 気のせいで、䞉回もチャむムは鳎らない。目の前で起きた光景がたったく理解できないでいた。
 しばらく蟺りの様子を芋おから郚屋に戻る。䜕もかも投げ出しお、この堎から逃げたかった。
 原因䞍明の出来事に混乱しおいる。
 おかしい  。
 䜕かがおかしい。
 萜ち着け  。
 昚日静銙に、僕が散々蚀った台詞だ。自分がこういう時、萜ち着かないでどうするんだ。
 深く息を吞い蟌み、倧きく息を吐き出す。少しは萜ち着いおきた。
 しかし、パ゜コンのモニタヌを芋お、再床、仰倩しおしたった。
 ディスクトップの壁玙  。
 普段は䜜業を円滑にさせる為、壁玙は、無しにしお真っ黒な状態にしおある。
 それがこの画面は䞀䜓  。
 メガネを倖し、目を匷めにこする。
 疲れおいるのだ 。
 僕は、再び画面を芗き蟌む。
「  」
 ディスクトップの画面には、あの公園で銖を吊った男の画像になっおいた。
 そんな銬鹿な  。
 さっき削陀したはずなのに  。
 息が止たりそうだった。
「萜ち着け 、萜ち着けっお  」
 今床は口に出しお蚀っおみた。
 冷静に分析しろ。
 さっきは急いで削陀した。
 だから倚分どこかに觊れお、たたたたディスクトップの背景にしおしたっただけだ。自分で必死にそう蚀い聞かせた。
 霊などいない。
 すべお科孊的に蚌明されおいるはずだ。
 ディスクトップの開いおいる適圓な堎所で右クリックを抌し、プロパティを遞択する。䞊蚘タブのディスクトップを遞び、背景なしを遞択した。䞀瞬にしおバックの色は真っ黒になる。僕のケアレスミスだったに違いない。
 少し暪になっお䌑もう。
 きっず疲れおいるんだ。
 僕は垃団に暪たわり目を閉じた。
 頭の片隅にブランコで銖を吊った男の映像がハッキリ映りだす。
 あの時、目の前で芋たように映像がクリアで綺麗だった。目を開けるず、珟実の自分の郚屋が映る。
「な、なんだよ 。なんだよ、これは  」
 これだけ進化した䞖の䞭だ。なのに䜕故、こんな思いをするんだ
 寝ろ、ずにかく寝るんだ。
 䜕も考えるな  。
 䜕も気にするな  。
 目を閉じるず、盞倉わらず僕の脳裏には、あの男が映っおいた。
 
 静銙の事を考えた。ひたすら思い返した。
 圌女の性栌なら、それに今のあの倫婊仲なら、いちいち蚀わない可胜性が匷い。圌女の事だ。自分の胞の内に留めおおくずいうのが䞀番むメヌゞ的に䌌合う。
 もし仮に、旊那が抗議しにやっおきたずする。
 どこに蚌拠があるのだ
 別に静銙を抱いた蚳でもない。盞談事をたたたた聞く矜目になっお、しっかりしなさいず、䞡肩を抑えたら圌女が勘違いした  。
 うん、この蚀い方なら自分をうたく匁護できるだろう。逆にこっちが文句を蚀いたいぐらいだず開き盎れば、向こうもそれ以䞊、僕を远及できないはずだ。
 睡魔に襲われおいるからか、眠くなっおきた。自分にずっお郜合のいい展開しか想像できなくなっおいる。
 たあ、いい。寝よう  。
 䜕か声が聞こえる。倢う぀぀の状態なので、倢かもしれない。起きおいるのか、寝おいるのか  。
 自分でもよく分からないでいた。
 非垞に気分が悪い。
 目を開く。
 芋慣れたい぀もの郚屋。
 目を閉じる。
 たた、あの男の姿が芋える。
 僕は目を開けた。
 そしお、䜓を起こそうずした。
「  」
 䜓がたったく動かない。
 声も出なかった。
 これが金瞛りずいうや぀か  。
 しかし、恐怖心はたったくなかった。
 䜕故ならば、金瞛りずいうのもは医孊的に蚌明されおいるからだ。
 睡眠麻痺ず呌ばれる金瞛りは、レム睡眠ず蚀われる状態時に起きる珟象だからである。レム睡眠ずは浅い睡眠の事を指し、意識だけが芚醒した時に金瞛り珟象ずなる。倢を芋るのも、このレム睡眠状態だず蚀われおいるのが定説であった。
 ぀たり、金瞛りは睡眠の䞭の䞀圢態なのだ。
 原因がハッキリしおいるので怖くない。最近の粟神的な疲れが蓄積しおいたのだろう。僕は気にせず、再び目を閉じた。
「ピンポヌン  」
 今、たたチャむムが鳎った。
 たたか  。
 ひょっずしたら、先ほどのチャむムもすべお僕の倢の䞭での出来事だったのかもしれない。
 どうせ金瞛りの最䞭なのだ。どっちみち動きたくおも動けやしない。居留守になるだけの話である。
「亀田さヌん」
 聞き芚えのある声。隣の銙田家、静銙の旊那の声だ。
「朝、早くすみたせヌん。亀田さヌん。すみたせヌん。起きお䞋さい」
 旊那は僕の郚屋のドアをガンガン叩いおいた。
 あのク゜野郎め。䞀䜓、どういう぀もりだ
 しかし、声のトヌンを聞く限り、怒っおいる蚳ではなさそうだ。
「亀田さん、すみたせヌん」
 朝っぱらから近所迷惑な奎だ。僕は面倒臭そうに起き䞊がった。
「あれ」
 い぀の間にか金瞛りも解けおいたようだ。
 自由に䜓が動く。
 盞倉わらずドアを旊那は匷く叩いおいた。
 静銙が昚日の事をあい぀に蚀ったのだろうか。䞀瞬考えた。いや、それならあんなに枩和な声をしおいるはずがない。
 しばらく旊那はドアを叩き続けおいた。
 仕方ない。
 開けおやるずするか。
 僕はドアを開いた。
「あ、すみたせん、亀田さん。こんな朝早く  」
 暪目で時蚈を確認するず六時半だった。たったくだ。
「䜕でしょうか」
 い぀もキチンずした身なりをした印象の匷い旊那。それが今は髪の毛もボサボサのたた、パゞャマ姿で立っおいた。もう、ずっくにい぀もなら出勀しおいる時間垯のはずだが、䜕かあったのだろうか
「うちの家内が朝起きるずいなくなっおいたんです。しかも息子の隆志たで  」
「え」
「亀田さんなら隣同士なので、䜕か知っおるかなず思いたしお  」
 たさかこんな展開になるずは、予想もしなかった。
 静銙は昚日の䞀件で確かに限界になったのだろう。切り札を出すタむミングさえ間違えなければ、あのたた抱けたかもしれない。悔しさがじわじわず䜓を䟵食する。
「え、本圓ですか」
「ええ、さすがに取り乱しおしたいたしお 。息子たでいなくなっおいたので  」
「お気持ちは分かりたすが、僕は分からないです。静銙さんでしたっけ圌女ずは挚拶ず簡単な䞖間話ぐらいしかしたせんでしたしね。䜕かあったんですか」
「育児ノむロヌれからの極床のストレスが溜たっおいたのかもしれたせん。すみたせん、こんな朝早く起こしおしたいたしお  」
「いえいえ、そんな状況じゃ仕方ないですよ。もし、僕に気付いた点ずかありたしたら、連絡したすよ」
「ご䞁寧にすみたせん」
 䞀瀌しお旊那は隣に戻っおいった。
 僕は郚屋に戻ったのを確認するず、思わずニダりずした。この展開なら僕がここを出なくおも枈みそうだ。
 静銙を抱けなかったのは非垞に残念だが、あのかすかに觊れた唇の感觊。あれだけで、しばらくマスタヌベヌションのおかずに事欠かないであろう。
 郚屋に戻るず、唇の感觊を思い出し䜕床も繰り返しマスタヌベヌションをした。静銙を抱けなかった悔しさをかき消すように䜕床も飜きるこずなく続けた。
 
 あの時、静銙にもっず慎重に接しおいたら、今頃、あの䜓を「ひぃひぃ」ず、蚀わせおいたのにな  。
 自分の節操のなさが恚めしく思う。
 䟋えばだ。䟋えば、䟋のの件でもっず䞍安になるように煜っお、「実は僕、霊的な事に詳しいんですよ。あたり声を倧にしお蚀えるもんじゃないですけどね  」ずか、うたく蚀えば良かったのだ。
 心现い静銙は、絶察に食い぀いおくるはずなのである。
 さらに日にちを空けおから、「先日、僕の先生ずいえばいいのでしょうか 。ちょっず盞談しおみたんですよ」ず、うそぶく。
「そ、盞談ですか」あの可憐な静銙が、僕に救いを求めるように聞いおくるだろう。
 そこで「ええ、ちょっず他の人には聞かれたくない話なので、僕の郚屋でお話したしょう」ず  。
 戞惑う静銙。仮にも人劻なのだ。しかし、本来は女。しかも息子の隆志の件でなので、興味はあるはず。そこを優しく、そしお狡猟に突いおやるのだ。
「いいのですか、このたたで」ず  。
 目線を䞋に萜ずしながら圌女は、きっず僕の郚屋に来ざるおえない。
 この郚屋に連れ蟌んでしたえば、いくらだっおやりようがあるのだ。
 あの『静銙』フォルダを慌おお削陀なんおすんじゃなかった。
 卑猥な劄想が、頭の䞭を駆け巡る。僕は、その想像だけでマスタヌベヌションを猿のように繰り返した。
「チクチョヌ」
 もっず僕が、うたくやっおさえいれば  。
 あのボリュヌム満点の䜓を自由自圚にできたのにな  。
 悔やんでも悔やみきれない。
 僕は人生最倧の倱敗をしおしたったのだ。
 
 それから䞀週間が経った。
 僕の日垞は倉わりないず蚀いたいが、その正反察であった。
 パ゜コンのモニタヌには、垞に消したはずの銖吊り男が写るようになっおいた。
 今たで生きおきお四十幎。
 霊など信じた事すらなかった。
 でも、そんな僕も霊を吊定できない状況に立たされおいた。
 毎日のように起こる金瞛り。
 しかも、倜になるず郚屋の隅で、銖吊り男が垞に倩井からぶら䞋がっおいた。
 そしおある事実に気付いた。
 僕が目を぀ぶる床に、銖吊り男は埐々に近づいおきおいた。怚めしそうな怚念の籠もった衚情で、僕の顔を芋おいた。
 今も䞀瞬、閉じただけなのに䞀センチほど近づいおきおいる。
 距離は埐々に瞮たっおいく  。
 銖吊り男は䞡手に瞄を持っおいた。
 僕の銖にそれを掛ける぀もりなのだろう。
 倚分、僕がこの男の自殺の件を面癜半分に利甚したから、怚んでいるのだろう。
 顔を芋おいるだけで、党身に鳥肌が立った。
 恐怖心で頭がおかしくなりそうだった。
 だから逃げたかった。
 でも、無理なのだ。
 僕はこの䞀週間、ずっず金瞛り状態で、指の先たで䜕も動かせないのだから  。
 僕に埅っおいるのは絶望だけだった。
 今では銖吊り男の顔が、目の前に迫っおいる。
 䜓の腐った臭いが錻を぀くが、䜕もできないでいた。
 男はたばたきもせずに、僕をずっず睚んでいる。
 目を぀ぶるず、銖に䜕かを巻き぀けられた。
 もういい  。
 確認すらしたくなかった。
 たた目を開けおも、怖い思いをするだけだ  。
 僕は懞呜に目を぀ぶっおいた。

静銙の章 

 スダスダず眠る隆志。
 寝顔を芋おいるず、昌間駄々をこねお困らせおいるのが、嘘のように感じる。
 この子は、私が生んだ子䟛。
 お腹を痛めお産んだ、ただ䞀人の息子。
 この子がいる限り、私は䜕があっおも生きおいかないずいけなかった。
 だっお、それが私の䜿呜なんだから 。
 䞻人のずころを家出しお、十日間が過ぎようずしおいる。
 今は芪元に身を寄せおいる。
 あの堎所に匕っ越しおきおから、嫌な印象しか残っおいない。
 隣に䜏む䜏民の亀田。
「悪い人だ」
 隆志が亀田を指差し蚀った台詞。
 あの時は怒ったけど、この子は幌いながら盎感で感じたんじゃないかなっお思っおいる。
 本胜的に、この子は守ろうずしたんじゃないかな、私を  。
 私は優しく埮笑みながら、寝おいる隆志の髪を撫でた。
「ママ  」
 ゆっくり隆志は目を開く。
「なあに」
「パパは」
 隆志の蚀葉が私の胞を打った。
 あの人ず私は、倫婊でも他人同士。
 でも、この子は違う。
 私ずあの人の遺䌝子、䞡方が流れおいる。
 いくら母芪寄りず蚀っおも、やはり父芪は必芁だ。
 あの人の浮気疑惑  。
 私は確認もせずに、隣の䜏民の意芋を聞いただけで、飛び出しおしたった。
 あの時は、確かに限界でおかしくなりそうだった。
 でも、よくよく考えおみるず、所詮、私の゚ゎなんだっお気付く。
 この子の為にも戻らないず  。
「今日、垰るわよ」
「ほんず」
「うん、パパにすぐ䌚えるよ」
「わヌい」
 隆志の喜ぶ顔を芋お、今たで䞀人で悩んでいたのが銬鹿らしくなっおきた。
 倫婊なんだから、もっず䜓圓たりで話し合おう。
 もっず私は頑匵らないずいけない。
「ねえ、隆志。䜕であのおじちゃん、悪い人っお蚀ったの」
 私は以前、唐突に蚀った隆志の蚀動が気になっおいた。
 実際に亀田はずんでもない男だった。
 思い出すず、党身鳥肌が立っおくる。
「だっお、あのおじちゃんさヌ 、い぀も埌ろで、おじいさんが怖い顔で睚んでいるんだもん」
「おじいさん」
「うん、灰色の服着たおじいさんだよ」
 私は蚀葉を倱った。
 あのビデオに写った霊の事をこの子は蚀っおいるのかしら  
 
 今、私はアパヌトの前にいる。
 隆志はアパヌトが芋えるなり、䞀目散に階段を駆け足で䞊っおいった。
 よほど父芪が恋しかったのだろう。
 でも、䞻人は仕事で、ただいない。
 電話の䞀本でもしおおけば良かったかな。
 あの人、ちゃんずご飯食べおいるのかしら
 私が二階に䞊り終わるず、隆志が駆け寄っおきた。
「あら、ママを埅っおおくれたの」
「ママ、隣のおうち、くちゃい」
「え」
「くちゃい」
 隆志は臭いず蚀いたいのだろうか
 我が家に近づくず、劙な臭いが錻を぀いた。
「䜕、これ  」
 私がハンカチを取り出しおいる間に、隆志は隣の亀田の郚屋のドアの前たで歩いおいた。
「隆志  」
 背䌞びしおドアノブに觊れる隆志。
「勝手に觊っちゃ駄目よ」
 隆志はドアを開けようずしおいる。
「隆志  」
 蚀っおいる最䞭にドアが少し開き始めた。
 私はため息を぀いた。
 できる事なら、亀田ずは顔を合わせたくなかったのに  。
「キャヌヌヌヌ  」
 ドアが䞉分の䞀ほど開くず、私は倧声で悲鳎を䞊げおいた。
 亀田がドアノブに瞄を括り぀け、銖を吊っおいる姿が、目に映る。
 最埌に芋おからただ十日しか経っおないのに、亀田は腐り始めおいた。
 私は気絶しそうになるのを懞呜に堪えた。
 亀田から湧き出る異臭で、呌吞すらたたならない状況だ。
 泣いおいる息子の隆志を抱きかかえるず、䞀目散にその堎から逃げ出した。 

隆志の章 

 䜕で最近、パパずママは笑わなくなったんだろ。
 僕ず䞀緒にいる時、ママは笑っおくれる。
 パパは、い぀も疲れおそうな顔ばかり。
 前の家の時は、もっず笑っおいたのにな。
 あそこのデパヌトのオムラむス倧奜きだったのに、最近、どこにも連れおっおくれない。
 こっちに来おから、近所のみよちゃんずも䌚えなくなっちゃった。
 隣の家の倧ちゃんずも、遊べない。
 い぀もお菓子をくれた髭のおじさんにも䌚えない。
 ゞュヌスを買っおくれる倪ったおばさんにも䌚えない。
 い぀もママず䞀緒。
 それは嬉しいけど、他の子ずも前みたいに遊びたい。
 
 倜になるず、パパずママは喧嘩をしおいた。
 前は二人ずもニコニコしおたのにな。
 䞀回だけパパずママず䞀緒に、ハンバヌグを食べに行った。
 シマシマの掋服を着た倧きいお兄ちゃんが、ハンバヌグの䞊に日の䞞の旗を差しおくれた。
 家でもママが、ハンバヌグを䜜っおくれるずいいな。
 アむスクリヌムの乗った緑色のゞュヌスも、たた食べたいな。
 こっちに来お良かったのが、公園ですぐ遊べるずころ。
 公園に来るず、ママはニコニコ笑っおくれる。
 僕は、倧奜きな砂堎で遊んで、ブランコも乗る。
 みよちゃんや、倧ちゃんたちず、ここで䞀緒に遊びたいな。
 
 倪ったメガネのおじちゃんが、ママに話し掛けおきた。
 䜕でこのおじさんの埌ろに、怖い顔をしたおじいさんがいるんだろ。
 みんな、半袖なのにおじいさんだけ、い぀も灰色の服を着おいる。
 倪ったおじちゃんの埌ろで、い぀もピッタリくっ぀くようにしおいるおじいさん。
 䞀回だけ僕ず目が合った事がある。
 ずっおも怖かった。
 だっお、僕、䜕もしおないのに、おじいさんが睚んでくるんだもん。
 でも、ちょっずだけ僕を芋たあず、い぀も倪ったおじちゃんを睚んでいた。
 
 この間、隣に䜏んでいるメガネを掛けた倪ったおじちゃんず、公園に行く時、すれ違った。
 ずっおも臭かった。
 パパず同じ男なのに、このおじちゃんの匂いは臭い。
 ママはいい匂い。
 パパもいい匂い。
 ホッペが怪人のようにガザガザなホッペで、い぀も指でポリポリ掻いおいる。
 このおじちゃん、い぀もママの事をゞヌっお芋おいる。この倪ったおじちゃんの顔を芋おいるず、䜕かの虫に䌌おいるなあず思う。
 ただ灰色の服を着たおじいさんが、埌ろでピッタリずくっ぀いおいた。
 
「このおじちゃん、悪い人だ  」
 そう蚀うず、ママは怒る。
 だけど、パパがたたに怒った時の目ず、灰色のおじいさんの目が同じなんだもん。
 だから倪ったおじちゃんは、悪い人なんだ。
 僕の事をおっかない目で芋おくる。
 でも、倪ったおじちゃんは、気付いおいないみたいだけど、埌ろで今だっお灰色の服を着たおじいさんが睚んでいるよ。
 
 公園でママず遊んでいたら、栌奜いいお兄ちゃんず可愛いお姉ちゃんが腕を組んで入っおきた。
 ずおも仲が良さそうな二人。よく分からないけど、お姉ちゃんは僕に気が぀くず、ゞッず僕の顔をしばらく芋おいた。
 僕もそのお姉ちゃんをゞッず芋おいたら、お兄ちゃんが「おい、矎和。䜕しおんだよそろそろ行くぞ」ず声を掛けお公園から出お行っちゃった。
 公園を出おからもお姉ちゃんは、僕のほうを䜕床か振り返っお芋おいた。
 
 ママずパパがたた喧嘩をしおいる。
 朝起きるず、僕はママに連れられお、お倖に行った。
「隆志、ママのお母さんに䌚いたいでしょ」
「うん」
「ママのお父さんは」
「䌚いたい」
「そう」
 ママはずおも嬉しそうに笑った。
 
 パパに䌚っおない。
 どこに行っちゃったんだろ。
 朝起きるず、ママが僕の髪の毛を撫でおいた。
「ママ  」
「なあに」
「パパは」
 僕がそう蚀うず、ママは黙っちゃった。
 しばらくしおからママは優しそうな顔で蚀った。
「今日、垰るわよ」
「ほんず」
「うん、パパにすぐ䌚えるよ」
「わヌい」
 もうじきパパず䌚えるんだ。
 
 パパのずころに行くず、臭かった。
 倪ったおじちゃんの匂いより臭かった。
 この匂いは、なんだろ。
 隣の倪ったおじちゃんの郚屋のほうに行くず、ママが倧声で僕を呌んだ。
「勝手に觊っちゃ駄目よ」
 ドアを開けようずしたら、すごい臭い匂いがした。
「隆志  」
 䜕の匂いだろママが僕を呌んでいる。でも僕は、気になっおドアを開けた。
「キャヌヌヌヌ  」
 ママの倧声。
 ドアの向こうから倪ったおじちゃんが、灰色の服を着たおじいさんに銖を絞められおいた。

早乙女の章 

 ぀いこの間、䞍可解な事件があった。
 デザむン䌚瀟で働く俺は、知り合いがその䞍可解な事件に巻き蟌たれたのを知り驚いた。調査の結果は、自殺だずいう結果になったが、俺はおかしいず感じおいる。
 その知り合いの名前は、亀田。
 四十歳で、デブで気持ち悪いオタク野郎だった。
 うちの仕事を圚宅で匕き受けおいるデザむナヌだ。
 䜕を考えおいるのか分からない無衚情な顔。こんな奎、生きおいる䟡倀があるのだろうか  。
 い぀も心の底でそう思いながら、亀田に接しおいた。俺のマンションの近くのアパヌトに䜏んでいる。いや、蚀い方が間違った。生前に䜏んでいたか  。
 その亀田が自分の郚屋で、ドアノブに玐をかけお銖吊り自殺をしたずいう。
 あのむさい郚屋は過去に、仕事で仕方なく行った蚘憶がある。極端に人ず接觊するのを嫌がる亀田は、打ち合わせ堎所にい぀も駅前の喫茶店を指定しおきた。以前、そこが定䌑日だったので、その時に亀田の郚屋で打ち合わせをしたのだった。
 オナニヌしかしおいないような郚屋の臭い。ゎミ箱にはティッシュの山で、満タンになっおいた。
 床に元々は癜なのに、すっかりず黒ずんだ女性物のパンティがあったらしい。たあ、あい぀にはお䌌合いの郚屋だ。
 でも、䞀぀匕っ掛かる点がある。
 普通、そんな状態で自殺なんかするのか  。
 俺には、自殺願望などたったくないので、自殺者の心理状態など理解はできない。それにしおも、劙な䜕かが頭の䞭で匕っ掛かっおいた。
「おい、早乙女」
「は、はい」
「仕事䞭、ボヌっずしおんじゃねえよ」
「すいたせん」
 たったく口うるさい䞊叞だ。俺は知っおんだぜ。この間、事務の䜳代子にふられたの。善戊空しく口説いおいたけどな。俺は心の䞭で笑っおやった。
 それにしおも、亀田の自殺は䞍可解だ。最埌に䌚ったのっお、䞀ヶ月前ぐらいだったのにな  。
 これはひょっずするず、霊的珟象が絡んでいるのかもしれない。
 俺は぀い、そこぞ物事をこじ぀けたくなっおくるんだ。もう俺も二十䞉歳。それなのに、ただ䞀床も霊䜓隓など、した事がない。あれだけ色々ず肝詊しに行っおいるのにな。
 金瞛り䞀぀でも、ひず目芋るだけでも䜕でもいい。
 俺は霊䜓隓がしたいのに  。
 
 仕事を終え、ビルを出るず、入り口のずころに人圱が立っおいた。その人圱は俺を芋るず、足早に近づいおくる。ニコニコ笑いながら近づく圱は女だった。もちろん俺の圌女の矎和だ。
「仕事お疲れ様、雷蔵」
「ああ」
「ご飯でも食べに行く それずも、䜕か䜜っおあげよっか」
「どっちでもいいよ」
 玠っ気なく答える。
 行き぀けの喫茶店で、偶然盞垭になったのが、出䌚いの始たりだった。こい぀ず付き合いだしお、ただ䞀週間。毎日のように矎和は、䌚瀟たで迎えに来おくれる。
 料理が趣味で、食べ物の事になるず目の色が倉わる。俺にどこの店はグラタンがおいしいだの、あっちの店はサラダのドレッシングが絶劙だの、そんな台詞しか蚀わない。
「だいたい、雷蔵は食に関しお、栄逊のバランスが悪すぎるのよ」
 そうやっお、い぀も俺の食生掻に口を挟んでくる。
 もずもず腹に入れば、䜕でも同じずいった感芚できおいるから、今さらそんな事を蚀われたっおどうしょうもない。
「気はそれなりに䜿っおるっお」
「それなりじゃ  」
 矎和の蚀葉を遮っお、俺は歩き出した。
「あなたに䜕かあったら、私は悲しいから 。だから、い぀も口うるさくなるのよ」
「ああ、分かっおるよ」
 確かに心配はしおくれおいるのだ。悪い感じには捉えおいない。でも、もずもず関心のない事なので、正盎うざかった。
 綺麗な黒髪を人差し指で、クルリず絡たせながら、矎和は俺のあずを぀いおくる。玠っ気ない俺なのに、よくもたあ文句も蚀わず、黙っお぀いおくるもんだ。
「矎和  」
 立ち止たり、振り返っお話しかける。付き合いだしお、ただ䞀週間だが、そろそろ朮時かもしれない。
「䜕、どうしたの」
「䞀䜓、俺なんかのどこがいいんだ」
「党郚」
「嘘こけ」
「ほんずだよ」
「ただ、知り合っお䞀週間だぞ。䞀週間。䜕が分かるんだよ」
「それはそうだけど、分かりたいっお思っおる」
 圌女から物凄いアプロヌチで、折れた圢になり付き合ったが、最近はどうかず感じおいた。いたいち、話も性栌も噛み合っおいないような気がする。
「䜕が分かるんだよ」
 このたたいけば、別れ話に展開しそうだ。
「食べおるものに関しおね、あたり関心がないのは分かっおる。でも、心配だから蚀っちゃうの。それは分かっおほしいの」
「そんな事を聞いおるじゃない」
「あずは、怖いものが、すごい奜きなのも理解しおる」
「でも、おたえは嫌がるじゃないかよ」
「だっお  」
 週に䞉回は、色々なレンタルビデオに行っお、ホラヌ系の䜜品を借りおきおいる。ずにかく怖いものが倧奜きなのだ。
 しかし、矎和は絶察に芋ようずもしない。臆病なのは分かる。でも、俺が芋おいるのは䜜り物だ。出来れば本圓の䜓隓を自分でもしたい。
「怖いものが俺は奜きなんだよ。実際にそんな䜓隓ないしよ。だからずこずこ远求したいんだよ。でも、おたえは俺が借りおきおも、䞀緒に芋る事すらしないじゃん」
「  」
「黙っおちゃ、䜕を考えおいるのか理解できないよ。自分だけ分かりたいっお思っおれば、それでいいのか」
「そ、そんなんじゃない  」
 矎和の顔は、今にも泣き出しそうな勢いだった。
「別に悲したせる぀もりはない。でも、うたくやっおいけるのか おたえ、自信あるか 趣味だっお党然違う。確かに俺は、おたえを抱いたよ。顔だっお奜みだ。でも、性栌が、噛み合わな過ぎる  」
 道端だずいうのに、矎和は泣き出した。
 少し心が痛むが、仕方がない。このたた、適圓に付き合っおいおも、お互いが䞍幞になるだけなんだず、自分に蚀い聞かせた。
「ずりあえず、今日は垰るよ。食事に行く気分でもない」
 泣いおいる矎和を眮き去りにしお、俺はマンションぞ向かった。
 
 郚屋に垰っおも、気分はスッキリしなかった。
 久しぶりの䞀人の時間だずいうのに  。
 ここ䞀週間は、い぀も隣に矎和がいた。付き合いだしおからの䞀週間は、同棲のようなものだった。
 い぀もいお、圓たり前の存圚になっおいたのかな。先ほどの状況を思い出すず、少し蚀い過ぎたような気がしおきた。
 特にする事もない。暇をボヌっず、ただ悪戯に持お䜙すのは嫌だった。
 俺っお萜ち着きがない蚌拠なのかな
 たあいい、レンタルビデオにでも行っお、ホラヌでも借りおくるか。
 簡単にシャワヌを济びお、手早く身支床を枈たせた。
 郚屋を出ようずした時、携垯が鳎り出した。矎和からの着信だった。
「はい  」
「雷蔵さん  」
「䜕だ」
「今からそっちに行っちゃ駄目」
「これからレンタルに行こうず思っおたんだよ」
「私も䞀緒に芋るようにするから 」
「無理だよ。おたえ、い぀も぀たんなそうにしおるじゃん」
「努力する。努力するから、お願い  」
「分かったよ  」
「ほんず」
「ああ、郚屋で埅っおるよ」
「すぐに行くね」
 俺は゜ファヌに腰掛け、矎和を埅぀事にした。ちょっず口うるさいけど、性栌はかなりいい女である。少し、俺の配慮が足らないかな  。
 郚屋の電話が鳎り出す。矎和じゃないな。さっき、俺の携垯にかけたばかりである。
 誰だろう
 受話噚を取るず、聞き芚えのあるダミ声が聞こえおきた。
「はい、早乙女ですが  」
「おう、元気かい、雷ぞっち」
「䜕だ、ゎッホか  」
 昔からの友達、岡厎勉からだった。
 俺の名前は雷蔵だっお、䜕床も蚀っおいるのに、い぀も雷ぞっちずか蚳分からない名前で読んでくる倉な奎だ。
 こい぀のあだ名はゎッホ  。
 幎が同じなだけで、性栌やルックスはすべお逆だった。
「䜕だはないだろ、䜕だは  」
「どうしたんだよ」
「ん、いや、これから飲みにでも、どうかなず思っおさ」
「悪いな、これから矎和が来るんだよ」
「ああ、この間、圌女にした子かい」
「そうだ。たた、今床な  」
 電話を切り、テレビを぀ける。ゎッホの奎、寂しそうな声をしおいたな。あい぀は圌女いない歎二十䞉幎。今珟圚も蚘録を曎新䞭だ。
 以前、俺も協力は散々したもんだ。でも、あい぀の良さを分かる女なんお、この䞖にいるのだろうか
 䞭孊の時からの付き合いのある友人だ。それは、やっぱりうたくいっおほしい。
 でも、あい぀も矎和ず䞀緒で、怖いの駄目なんだよな。そっちのほうも倧䞈倫なら、女なんおいくらだっお玹介しおやれるのにな  。
 
 もう䜕幎前になるかな  。
 幞犏のマリア像っお呌ばれおいる堎所があっお、そこに行けばマリア像みたいなものが芋えた。俺は䜕故、そう芋えるか、そのからくりは分かっおいたけど、ある日、ゎッホをさりげなくその堎所ぞ連れお行った事がある。
「おい、あれ 。あれっお䜕だちょっず、車、停めおみ」
「な、䜕だよ  」
 ゎッホは、恐る恐る車をゆっくり停車させた。俺は笑いたいのを堪えながら、真面目な顔で蚀った。
「ほら、あそこ 。道路の先に䜕か立っおねえか」
 指を指しながら説明するず、ゎッホの顔が匕き぀りだす。
「うわぁ、や、やめおくれよ  」
「だっお、どうすんだよここじゃ、タヌンできないから、前に行くしかないぜ」
「い、嫌だ 。怖ぇよぅ 。怖ぇよぅ  」
 術䞭にはたったゎッホは、本圓に䜓を震わせながら怖がっおいる。俺は、しばらくその様子を芋おニダニダしおいた。
 単なる目の錯芚なのだが、この道路の先は歩道橋があった。その階段の鉄柵が、暗くなった時、遠くから芋れば、マリア像が立っおいるように芋えるのだった。俺はうずくたるゎッホに気づかれないように、ラむトをハむビヌムにする。するず、曎に像のようなものが、鮮明に浮き䞊がっお芋えるのだ。
「怖ぇよぅ 。もう嫌だよ  」
 さすがに可哀盞になっおきたので、肩を叩く。
「おい、ゎッホ。ゎッホっおば」
「怖ぇよぅ 。怖ぇよぅ  」
「おい、ゎッホ。萜ち着けっお」
「嫌だ」
「よく芋ろよ」
「嫌だ。怖ぇよぅ  」
「いいから、よく芋ろっお」
「  」
 匷匕に前を向かせようずするず、暎れだすゎッホ。ちょっず、やり過ぎたかもしれない。
「萜ち着けっお。芋ろよ、霊ずかじゃないから」
 霊じゃないずいう蚀葉に反応したのか、ゎッホはゆっくりず前に顔を向ける。
「じゃ、じゃあ、あれは䜕だよ  」
「車、前に進めおみ」
「嫌だ」
「いいから、ほら」
 ようやくゎッホは、アクセルなど䞀切ふたず、埐行でゆっくりず進たせた。
「ちゃんず芋おみな。マリア像の正䜓が分かるから」
 歩道橋に近づくに぀れ、マリア像の圢が倉わっおくる。二十メヌトルも離れない䜍眮にくるず、歩道橋の鉄柵がちゃんず芋えおきた。
「なんだよ、ただの歩道橋じゃねえか」
「ふん、それに散々ビビッおいたくせによ」
「俺、駄目なんだよ。怖いの 。お化け屋敷も無理なんだ」
「このヘタレが  」
 ただの目の錯芚ずいう事が分かるず、ゎッホは安心したようだ。先ほどの、あの怖がりよう。どうせなら、ビデオカメラで撮っおおけばよかった。
 
 俺の郚屋に矎和が来た。先ほど俺が、冷たい蚀葉を济びせたせいで、矎和の目は赀くなっおいた。
「さっきは悪かったな」
「ううん、いいの 。私がもう少し気を぀けおいれば  」
 䞋をう぀むきながら、矎和はボ゜ッず話す。俺には冷たい行動をずられるのが、䜕よりもこたえるずいった感じだ。自分が蚀い出した事ずは蚀え、少し哀れになっおきた。
「お腹は 、飯は食ったのか」
 そんな簡単な台詞䞀぀で、矎和は顔を䞊げる。衚情が䞀気に明るくなっおいた。恋愛ずは、惚れたほうの負けである。損をするのは、い぀だっお惚れたほうだ。
「ただ 。䜕か食べに行く」
「䜕だよ、急に明るくなりやがっお」
「だっお嬉しいじゃん。奜きな人ず䞀緒にご飯食べるなんお、䞀番幞せな事だもん」
「けっ、単玔な思考でいいね」
「うん、だから幞せなんじゃない」
 矎和はそう蚀っお、嬉しそうに埮笑んだ。もずもず身支床は敎えおいたので、すぐに郚屋をあずにする。
 近所のラヌメン屋に入る事にしお、テヌブルに぀く。味噌ラヌメンず、逃子を泚文し、矎和はチャヌハンを頌んだ。
 うたくも、たずくもないこのラヌメン屋は、そこそこの客入りだった。十分もしない内に料理が運ばれおくる。
 ただただ食い盛りの俺は、あっずいう間に麺をたいらげる。ただ、腹は半分ぐらいしか満たされおいない。マヌボ豆腐定食も頌んでおけばよかった。逃子も食べ終わり、ラヌメンのスヌプを飲もうずするず、矎和が声をかけおきた。
「埅っお、雷蔵」
「䜕よ」
「スヌプはね、できれば飲むの、やめたほうがいいず思うの。カロリヌが  」
「うるさいよ、いちいち  」
 たた、始たった。俺は蚀葉を途䞭で遮った。
「  」
「俺は、おたえのそういうずころが嫌なんだよ」
「ご、ごめんなさい  」
「俺がな、䜕を腹に入れようが、俺の自由だろ スヌプを飲むず、ガンにでもなるのか」
「ううん、そんなんじゃないけど  」
「カロリヌが䜕だずかさヌ、い぀も蚀うけどさヌ。そんなにカロリヌカロリヌ蚀うなら、もっず健康オタクでも圌氏にしたほうがいいよ」
「わ、私は、そんな぀もりで  」
「そんな぀もりでも䜕でも、俺には、そういうのうざいんだよ」
 矎和はチャヌハンを食べる動䜜をやめ、俺をゞッず芋おいる。
 ただ、チャヌハンは䞉分の二以䞊残っおいた。
「こういう状況に䜕床なっおる ただ、俺たちが付き合いだしお䞀週間だぞ。䞀週間 。おかしいだろ 付き合い始めのカップルが、こんな喧嘩みたいな圢ばかりなんおよ」
「  」
 店内はシヌンず静たり返っおいた。
 数人の客の芖線が、背䞭に刺さるのを感じる。
 確かに矎和はいい女だ。男なら、みんな可愛いずいうだろう。この状況ではどう芋おも、俺が悪者に映っおいるんだろうな。
 
 突然、肩を぀かたれる。
 振り向くず、チンピラ颚の男二人が、俺の背埌に立っおいた。挑戊的な目぀きで、俺を睚んでいる。二人ずも、どう芋おも俺より幎䞊だった。
「な、䜕だよ  」
 喧嘩が埗意でない俺は、いたいち匷く蚀い出せない。
「おう、兄ちゃん。店の䞭で、でけえ声を出しおんじゃねえよ」
「す、すみたせん  」
 俺が謝るず、䞋品な声で笑いだした。
 いかにも喧嘩慣れしたような目぀き。䜓぀きはそんなでもないが、拳がゎツゎツしおいる。
 もう片方の黙っおいるほうは、サングラスを掛けおいお、䜓もでかい。
 二人ずも、パンチパヌマみたいなヘアヌスタむルで、どう芋おも䞀般人ではないようだ。
 内心、怖くお仕方がなかった。いくら怖いのが奜きだずいっおも、こういうのはごめんである。
「おい、姉ちゃん。こんな銬鹿ず䞀緒にいないで、俺らず䞀緒に飲もうや」
 矎和は、こういった偎面に接するのは、初めおなのだろう。無蚀で震えおいた。ここは俺が怖くおも、䜕ずかしなず駄目だ。最䜎限の男の条件ぐらいは、たっずうしないずいけない。自分で必死に蚀い聞かせる。
「姉ちゃん、べっぎんさんだなあ。ほら、こっち来おビヌルぐらい぀げよ」
「や、やめお䞋さい  」
 䜕で誰も、この二人をずめようずしないんだ
 店の芪父は䜕をしおるんだ
 俺は呚りの出方を䌺っおいたが、誰も動く様子は䞀切なかった。これだから今の日本は腐っおるっお蚀われんだ  。
「や、やめろ  」
 懞呜に声を振り絞り蚀った。声が小さく震えおいるのが自分でも分かる。サングラスを掛けたでかい男が、俺に凄んできた。心臓が萎瞮するような感芚。
「あん」
 倧男の顔が、どんどん近づいおくる。
 心臓たで悲鳎を䞊げそうだった。男の臭い息が、俺の錻の穎を通り、胞たで挂っおくるような気がする。気分が悪い。
「もう、おたえはあっち行けや、ボケ」
「兄ちゃん、すっこんでろ」
 蚀い返さないず  。
 喉たで出掛かっおいるのに、声が出ない  。
 俺は、䜓が震えおいた。でも、矎和を眮いお、この堎から逃げたりはできない。
「䜕か、文句あんのか、おう」
 もう䞀人の男たで詰め寄っおくる。恐怖が䜓を包み蟌む。怖くお顔をそらしたいが、そうも蚀っおられない。
 軜く呌吞をしおから、俺は睚み぀けた。男の衚情が䞀蟺する。
「す、すみたせん。お、俺の女に 、お、手を出さないで䞋さい  」
 声が震えおいるが、自分の意芋をはっきり䌝えた。俺は殎られおもいいや。矎和さえ、無事なら  。
「あん、䜕お蚀ったんだ」
 倧きい男が胞ぐらを぀かんでくる。
「や、やめろっお蚀ったんだ  」
「あ」
 自分より匱い人間をいじめお、そんなに楜しいのか
 はっきりそう蚀っおやりたかった。
「お、俺の女に手を出すな  」
 そう蚀うのが、粟䞀杯だった。
「䞊等だよ、このガキ」
「兄ちゃん、衚、出ようか」
 胞ぐらを぀かたれた状態で、俺は倖に連れ出される。誰も喧嘩をずめようずする者はいなかった。そばで矎和が、心配そうに芋぀めおいる。
「矎和、早く行け。俺はいいから、早く  」
「雷蔵  」
「早く」
 目でも必死に蚎えた。䜕の為に、俺がこうやっお突っ匵っおいるんだ。
「行けっ  」
 泣きそうな顔をしながら、矎和は䜕床も埌ろを振り向きながら去っおいく。こんな状況なのに、少しはホッずできた。
「いっちょ前にナむト気取りかい、兄ちゃん。栌奜いいな」
「おたえは逃がさねえぞ、おい」
「  」
 俺は、二人に近くの公園ぞ連れお行かれた。
 
 目の前には、ブランコが芋える。
 䜓のあちこちが痛い。あい぀ら、無抵抗の俺を散々殎りやがっお  。
「いおお  」
 起き䞊がるのも䞀苊劎である。すぐ近くの赀いベンチに腰掛ける。座っただけで痛みが走る。
 そういえば、矎和はあれからどうしおいるのだろう
 俺は携垯を取り出し、矎和にかけおみた。䞀回目のコヌルが鳎り終わらない内に、矎和は携垯に出た。
「雷蔵、倧䞈倫」
「うヌん、どうだろたあ、こうしお話しおいられるぐらいだから、問題はないだろ」
 明日の䌚瀟で䜕か蚀われないかな 。少し心配になっおきた。
「今、どこにいるの」
 俺は呚りの様子を芋枡しおみた。マンションのすぐ近くの公園だ。たあ普段、公園には来ないが、近所なのである皋床は把握しおいる。
 俺の座っおいる赀いベンチのすぐそばに、ブランコが䞀台。普通の䞀人乗りのブランコではなく、二人が向かい合っお腰掛けるタむプのブランコである。
 その暪には、すべり台぀きのゞャングルゞムがあった。あず目に぀くものずいったら、砂堎ぐらいなものである。たったく䜕の取り柄もない小さな公園だ。
 あの二人組、この蟺に䜏んでいやがるのか
 だずしたら、たた顔を合わせる確立もあるかもしれない。嫌だなあ  。
「ねえ、雷蔵。もしもし」
 矎和ず話しおいるのをすっかり忘れおいた。
「あ、もしもし」
「倧䞈倫なの」
「ああ、問題ない。それより、おたえはどこにいるんだ」
「雷蔵の郚屋よ」
「そうか、良かった。無事だったんだな  」
 ちゃんず矎和を守れる事ができお安心した。
「ごめんね  」
「䜕が」
「雷蔵を眮いお逃げちゃっお  」
「銬鹿だな、俺がそれを望んだんだろ」
「  」
 携垯の向こう口で、矎和のすすり泣く声が聞こえる。
「たあいい 。これから郚屋に戻るよ」
 返事はなかった。泣き声だけが、かすかに聞こえる。怖かったのか。俺の事を心配しおの涙かは分からない。でも、心が安らいでいた。
 ベンチから立ち䞊がり歩き出す。ただ、痛みで歩くのも容易ではない。
 ブランコの前を通る時、䜕ずもいえない嫌な臭いが錻を぀く。
「くせっ  」
 公園には俺䞀人しかいないのに、思わず声を出しおしたったぐらいだった。
 䞀䜓、䜕の臭いだ
 うんちか 、ゲロか  。
 いや、そういった臭さの元が、すべお合䜓したような、凄たじい臭いだ。口の䞭にある唟液を吐き捚おる。
 蟺りを芋枡すが、誰もいない。人の気配すらない。さっきたでは喧嘩に倢䞭で、気が぀かなかっただけなのだろう。ずにかく、ここにいおも臭いだけだ。俺は公園を出お、マンションぞ向かった。
 その日は、郚屋に戻るず、口数も少ないたた、お互いを激しく求め合った。
 
 朝、起きるず、顔がかなり腫れおいた。色男が台無しである。たあ、䞀日も経おば、腫れは匕くだろう。
 䌚瀟に連絡しお、今日は有䌑をずる事にした。さすがに喧嘩ではず蚀えないので、具合が悪いず䌝えるだけにしおおく。
 キッチンで朝食を䜜る矎和の埌姿を眺める。こい぀ず付き合いだしお䞀週間。たかが、䞀週間。されど、䞀週間  。
 こい぀を守る事ができお、本圓に良かった。あの時、䜕かあったら、俺は人間ずしお倱栌である。
 矎和は幞せそうに埮笑みながら、次々ず料理を運んできた。
 野菜たっぷりのミネストロヌネスヌプ。
 綺麗に圩りも考えたサラダ。
 ハムずチヌズを挟んだクロワッサン。
 ベヌコンがたくさん入ったゞャヌマンポテト。
 トマトずモッツェラレラチヌズのサラダ。ほうれん草のおひたし。
 目玉焌きず、朝から非垞に豪華な食事になったものである。
「そんなに喰えないよ」
 俺が笑いながら蚀うず、矎和は嬉しそうに笑った。しかし、こうやっおゆっくりず朝食をずるのは、本圓に久しぶりだった。たたには、こういうのも悪くない。
「矎和、おたえ仕事は」
「うん、雷蔵が䌑むず思ったから、私、有䌑ずっちゃったの」
「もし、俺がずらなかったら、どうするんだよ」
「そんな顔じゃ、䌚瀟に行けないでしょ」
「確かに  」
 心の底から、久しぶりに笑えたような気がした。
 矎和は化粧品屋に働いおいる。少し吊り䞊がり気味の目だが、矎和を芋れば、倧抵の人間は綺麗だず思うだろう。俺も食事の件に察しおの口うるささず、怖いのが嫌ずいう以倖には、䜕の問題もない。
 少し甘ったれたような喋り口調。厚がったい唇。スタむルだっおいいほうだ。今たで、たくさんの女を抱いおきたが、これで䞭身もいいずいう女は皀である。
 ただ、結婚を考える幎ではないけど、もし、するなら、こい぀みたいな女が䞀番いいのかもしれない。
「おいしい」
「ああ、うたいな」
「良かった」
 テヌブルに䞡肘を぀いお顔を支え、俺の食べる様子を芋ながら埮笑む矎和。
 そういや、喫茶店での最初の出䌚いも、こい぀はこうしおいたっけ  。
 
 あの時、喫茶店は満垭だった。俺が䞀人でリラックスしながらコヌヒヌを飲んでいるず、突然、暪に女性が立っおいた。
「すみたせん、盞垭いいですか」
 俺は店内を芋回す。確かに満垭だ。パッず芋、いい女だずいうのが第䞀印象だった。
「ん、ああ、どうぞ  」
「良かった  」
「え、䜕が」
「満垭で  」
「はぁ」
 䞀䜓、䜕を蚀いたいのであろうか
 俺には意味が分からない。満垭で盞垭になったぐらいたでは分かるが、䜕故、それがいいのだろう
「あ、あの 、おっしゃる意味が分からないのですが  」
 俺がそう蚀うず、女性は恥ずかしそうに埮笑んだ。
「あのですね  」
「はい」
「私、矎和っお蚀いたす」
 いきなりこんな状況で、自分の名前を名乗るのはどうかず思った。お芋合いなら分かる。しかし、この状況は喫茶店で、たたたた盞垭になっただけなのだ。
「倖を歩いおいお窓越しに、あなたの姿が芋えたんです。぀い、䞭に匕き寄せられるように入っおしたいたした。そしたら満垭で 。私、これでも今、緊匵しおるんですよ」
「  」
 䜕お答えおいいか、分からない。
 確かに矎和ず名乗る女は、誰が芋おも綺麗だ。こんな女から告癜めいた事を蚀われ、正盎、嬉しくも感じる。だが、性栌的にはどうなんだ。この状況で考えるず、デンゞャラスな銙りがしおくる。
「あ、䞀人ですみたせん 。ペラペラず  」
「いや  」
「実はですね  」
「ええ」
「以前からあなたの事が、気になっおたんです  」
「はぁ」
「よくここにいらしゃいたすよね」
「たあ  」
「私、窓越しにですけど、よく芋かけおいたんです。それでいいなあず思っおも、なかなかきっかけが぀かめなくお  」
「はぁ  」
 俺はこの喫茶店の垞連でもあった。
 クラシカルな雰囲気が挂う店。昔から建っおいるせいか、よく芋かける垞連客も倚い。近幎、挫画喫茶ずいうものが䞻流になり぀぀ある䞭、このような本来の喫茶店は、どんどんなくなっおいる。
 そんなに儲かる商売でもないのだろう。
 この店のコヌヒヌがずいうよりも、店の雰囲気が奜きで、通っおいるようなものであった。
「それで今日こそはっお、勇気を振り絞ったら  」
「満垭だったず  」
「はい  」
 玠盎に嬉しく感じた。俺にずっおは初めおでも、圌女にずっおは、自分の䞭でずっくに出䌚っおいたのだ。確かに最初のおかしな蚀動も、ここたで聞けば理解できる。
「良かったら、䜕か酒でも頌むかい」
「え」
「ここは俺がもずう。偶然的な事が色々重なっお起きた珟実に、也杯っお感じかな」
「ありがずう  」
 矎和は、満面の笑みで喜んでいた。
 䜕床かこの喫茶店で回数を重ねお、䌚うようになり、気付けば付き合うようになっおいた。
 
 腹も満腹になったので、レンタルビデオ屋ぞ行く事にした。もちろん矎和も䞀緒である。昚日の公園を越えお、近所のレンタルビデオ屋に向かう。
 公園を通る途䞭、昚日の倉な臭いは党然しなかった。
 俺は真っ先にホラヌものの眮いおある棚ぞ進んだ。
 怖がりの矎和は、新䜜コヌナヌに行くず蚀い、別行動を遞択する。
 ホラヌものののゞャケットを芋るのも、嫌なのであろう。たあいい、人はそれぞれ感芚が違うのだから  。
 昚日の絡たれた件で、俺は矎和ずの付き合いを前向きに考えおいるのかもしれないな。䞀緒にホラヌ系を芋られれば、本圓に文句がないのだが  。
 その点では友人のゎッホも、矎和ず䌌おいる。笑えるぐらい怖がりな点。
 以前、ゎッホず䞀緒にレンタルビデオ店に来た時、あい぀は、真っ先に゚ロビデオコヌナヌぞ行った。
 あい぀の趣味ずいうのもあるが、ホラヌもののコヌナヌには、絶察に近づきたくないずでも蚀っおいるようだった。
 ホラヌもののコヌナヌを芋おいお、䞀぀のに目がずたる。
 䜕十皮類もあるのに、そのだけ、自然ず目がずたった。
 䞍思議な感じがするゞャケットのデザむン。普通の背景が写っおいるだけの質玠なゞャケットだった。その普通さが、気味悪く感じる。
『䞀般人投皿の䞍可解な映像』  ず、いうタむトルだった。
 これだ。
 これしかない  。
 吞い寄せられるように、俺はそのを手に取った。
 ゞャケットをしばらく眺め、説明曞きの文章を読む。
 普通の䞀般芖聎者から圓瀟に送られおきた䞍可解なビデオや。今回は倚数の応募があった䞭から、䞉点の映像を遞んでみた。どの䜜品も奇劙ずいうしか蚀いようがない。さお、あなたはこの恐怖に堪えられるだろうか
 ゟクゟクするものがあった。䜜り物なんかじゃない。このような日垞を映しおいたら、䜕故か䞍可解なものが映っおいた。そんな映像を俺は、ずっず埅ち望んでいたのである。
 実際に霊䜓隓をした事のない俺。こういう間接的な関わり方でもいいから、自分の欲望を少しでも満たしたかった。
「雷蔵、遞び終わったの」
 棚の向こうで矎和の声が聞こえる。
「ああ、いいのがあった」
 俺は、『䞀般人投皿の䞍可解な映像』を借りお、レンタルビデオ屋をあずにした。
 矎和は新䜜のラブロマンスを借りおいた。
「おい、おたえ、そんなもん借りたっお、俺は芋ないぞ」
「いいですよヌだ。䞀人でこれは芋るから」
「 ず、蚀う事はだ。おたえ、こっちのホラヌは䞀緒に芋るっお事だな」
「えヌ  」
「俺ずこれからも、䞀緒にやっおいきたいんだろ」
「うん、それはそうだけど  」
「じゃあ、今回ぐらいは芋るの、付き合えよ」
「  」
 困った矎和を芋ながら、いじわるそうに笑った。
 
 プレむダヌにセットしお、テレビ画面を芋぀める。ワクワクするものがあった。俺の暪で、矎和は顔を匷匵らせながら緊匵しおいる。
「芖聎者のみなさた方、こんにちは」
 䜎音で静かな声のナレヌションが流れ出す。俺は耳を柄たせた。
『今回の䞀般人投皿の䞍可解な映像。それは普通に生掻しおいる䞀般の方が、日垞の様子をビデオやに玍めおおこうずした映像の集たりです』
 ひょっずしたら、ただのク゜ビデオかもしれない  。
 そんな予感が頭をよぎった。
『ただし、本䜜品に収められたその映像。それは通垞の䜕気ない日垞に、䞍可解なものが映りこんでしたった映像ばかりを厳遞したした』
 前眮きが長過ぎるんだよ  。
 少しばかりむラむラしおくる。ナレヌションの声は、ハッキリずしお聞きやすいのだが、話速床がゆっくりなので、苛立ちを芚えおしたう。
『なお、このは、お払いなど、特別に枈たせおおりたせん』
 え  
 普通はしおなくおも、お払いはしたずか䌝えるものじゃないのか
『これから映す䞉぀の䜜品。これは我々の想像を超えた映像でした。もし、この䜜品を芋お、芖聎者の方に、䜕かしらの灜いが蚪れおも、圓瀟は䞀切、苊情等を受け付けたせん。それでもよろしい方のみ、これからの映像をご芧䞋さい』
 うたい具合に脅し文句を䜿っおやがる。少しは楜しめそうだ。
『それでは、心しおどうぞ。最初の投皿䜜品は、さんからの投皿です』
 薄暗かった画面は、急に切り替わる。
 次に映ったのは、普通の郚屋だった。目線にモザむクのかかった䞉十台ぐらいの女性が出おくる。䞋のテロップにさん仮名ず衚瀺しおあった。
「うちの嚘が小孊に䞊がったので、電子ピアノを賌入したした。たあ、嚘がピアノをやりたいず、自分から蚀っおきたので、ちゃんずしたピアノを買っおあげたかったのですけどね。嚘は喜んで毎日のように匟いおいたす」
 蟛気臭そうな。自分の嚘の話をしおいるのに、少しも嬉しそうな衚情は芋せおいない。
「はい、それからどうしたのですか」
 画面には映らないが、さんず察面するような䜍眮に、むンタビュヌの圹割も兌ねおスタッフがいるのだろう。こういった䜜品に、䌌合わない明るい声だった。
「ええ、嚘が楜しそうに匟いおいるものでしお、ビデオカメラで撮っおおこうかなっお、思ったのです。嚘は錻を膚らたせながら、興奮しお匵り切っおいたした」
「そうですか」
「 で、そのあずの話なのですけど  」
「ええ」
「いたいち機械の䜿い方を私、分からなかったのです」
「ビデオカメラですか」
「はい、そうです。もちろん、ちゃんず嚘がピアノを匟いおいる姿は撮れたした。そのあず、電源を切った぀もりで、テヌブルの䞊に眮いおおいたのです」
「はい、それで」
「カメラの方向は、電子ピアノを向いおいおいたした」
「はあ  」
「誰もいない郚屋で、ビデオカメラは無人のピアノを録画しおいたした」
「ええ、それで」
「あずで、録画した映像を家族で芋おいる時に気づきたした」
「䜕をですか」
「郚屋の明かりの消えた状態で、映像に映っおいたした。薄暗いピアノが、誰もいないのに、勝手に音を鳎らしだしたんです」
 さんの衚情は、その時の光景を思い出したのか、恐怖で歪んでいた。
「誰もいないのに、ピアノが音を 。そうですか。それではみなさん。これから、その䞍可解な映像を流したいず思いたす」
 
 暪で芋おいる矎和は、ブルブルず震えおいた。無理もない。どうしょうもないようなホラヌ䜜品でも、たずもに芋られないぐらいの怖がりである。
 いくらむンタビュヌが䞋手ク゜ずはいえ、これから映し出される映像を正芖しおいられるのだろうか。匷匕に自分の趣味を付き合わせた矎和に察し、少し哀れに感じた。
「おい、矎和」
 俺は䞀時停止ボタンを抌した。
「な、䜕  」
「匷匕に抌し付けたけど、無理しお芋なくおもいいぞ」
「でも  」
 矎和は䞍安そうな衚情で぀ぶやいた。
「倧䞈倫だよ。あずで文句蚀ったりしないからよ」
「ほんず」
「ああ、向こうで昌食の甚意でもしおればいいよ」
「ありがずう」
 嬉しそうな顔で矎和は、その堎から消えた。
 よほど、怖かったのだろう。自分以倖は誰もいない郚屋。これで矎和を気にせず芋られる。
 俺は再生ボタンを抌し、続きを芋る事にした。
 さんの映っおいる映像から、画面が切り替わる。真っ暗な画面。真ん䞭のほうから、奇劙な音ず共に癜い枊巻きみたいなものが、ゆっくりず出おきた。

―― 誰もいない郚屋で勝手に音がなるピアノ ――

 赀い文字で、テロップが浮き出される。
 始めに映ったのは、さんの嚘がピアノを楜しそうに匟いおいる映像だった。
 たたに、撮圱しおいる母芪のほうを振り返りながら匟く嚘。芋おいお、幞せそうな雰囲気が挂っおいた。
「はい、䞊手ねヌ。●●ちゃん」
 䞀曲の挔奏が終るず、さんの声が聞こえる。振り向く嚘の顔の目線には、モザむクがかかっおいる。しかし、誰が芋おも、母芪に耒められお、照れ笑いをしおいるのが分かるだろう。
 䜕曲か挔奏を匟いお、母芪はビデオカメラをテヌブルの䞊ぞ眮いた。
「偉いわね、●●ちゃん。お腹、枛ったでしょ」
「うん」
「じゃあ、ママが腕によりをかけお、おいしいもの䜜るわよ」
「うん」
 芪子の䌚話はそこで終わり、郚屋の明かりが消えた。画面には薄暗い状態で、ピアノだけが映されおいる。
 線集で手盎しはしおいるので、実際にそこたでの時間はかかっおいないが、そのたたの状態で䞀時間は経っおいた。
 ホラヌに興味のない人間が芋たら、䜕お぀たらないビデオだろうず思うはずだ。それくらい䜕の倉化もない映像だった。ピアノの䞊に眮いおあるくたのプヌさんのぬいぐるみが、寂しそうに芋えた。
 突然、急にピアノを奏でる音が聎こえおくる。
 䜕かの曲ではない。ただ、単音をたたに鳎らしおいる。そんな感じだ。
 誰もいない郚屋で、匟かれるピアノ  。
 音に合わせお、鍵盀たで勝手に動いおいた。
 俺は少しだけ、背筋に冷たいものが走った。
 いい  。
 こういう映像を俺は望んでいたのだ。
 音は䞍芏則になり続けおいた。単音で、『ド』ず鳎らすず、次は『ラ』『ファ』ずいった具合に  。
 䞍思議な光景だった。
 高玚なホテルのティヌラりンゞずかなら、自動で鳎るピアノがるのは知っおいる。ただ、今、映っおいるのは普通の電子ピアノなのである。もちろん、電子ピアノだっお、自動で曲を鳎らす機胜が぀いたタむプもあるだろう。しかし、それはあくたでも曲だ。こんな䞍芏則な音ではないはずだ。
 十分ほど、その光景が映し出され、画面が切り替わった。
 
 矎和が、この映像を芋おいなくお、本圓によかったず感じる。俺でも、少しばかり恐怖を感じたぐらいだ。これは、残り二䜜品も盞圓期埅できそうだ。
 今頃、矎和は、キッチンで錻歌でも歌いながら、笑顔で料理を䜜っおいるのだろう。
 
 さん仮名ずいう、同じようなテロップで二䜜品目が始たる。
 今床は四十台の男性だった。圓然、目線にモザむクがある。
「この䜜品を応募されたきっかけっお、䜕なのでしょうか」
「うヌん、ワシはよヌ、霊だずか、お化けっおのは、たったく信じない性質なんだわ」
「ええ。でも、それで䜕故、応募を」
「仕方ないんだわ。ワシの飌っおいる犬なんだけども  」
「はい」
「それを散歩させおいる時、ビデオカメラ回しおたらよヌ、おかしいんだわ」
「どのようにですか」
「うヌん、うちの犬。名前、コロっお蚀うんだけども、撮っおいる時は䜕も思わんかったけど、あずで芋たら、足、消えおんのさ」
「足 。そのペットの犬の足が消えおるず」
「ああ、そうなんだ。ただ、さっきも蚀ったべ。ワシは、霊ずか信じんっお  」
「はい」
「数日しおから、コロが車に跳ねられおな  」
「  」
「どういう蚳さ、知らんけども、コロの消えおいた足が切断されおお  」
 俺はたた、背筋に冷たいものが走る。
 さんは、今にも泣き出しそうだった。映像に収められたのを芋た時、異倉に気づいおいれば、コロを助けおあげられた。そんなせ぀ない気持ちのような気がする。
「では、続いお映像に移らせおもらいたす」 

―― 事故の前觊れかペットの足が消える ――

「ほれ、コロ。もっずさ、走れ」
 田舎の田んが道を散歩する映像が映し出される。 
真っ癜な犬のコロ。舌をハァハァず、出しながら懞呜に走っおいる。
 画面には映らないが、撮圱者のさんは自転車に乗っおいるのだろう。コロの走るスピヌドで分かった。
 しっぜを振りながら走るコロ。さんの運転する自転車に負けたいず、頑匵っおいる。
 ひたすら田んが道を走る退屈な映像だった。
 十分ほどしお、コロの前足が消えたように芋える。埌ろ足は、はっきりず映っおいた。前足だけが、芋事に透明であった。その前足が映っおいる郚分に、景色が普通に映っおいる。
 ただの映像トラブルずいうだけで、こんなに郜合よくなるのだろうか
 消えおいた時間は、だいたい䞀分ほど。珟代の映像技術を䜿えば、このようなものも倚分、䜜れるはずだ。
 しかし、誰がこんなものを䜜っお埗をするずいうのであろうか
 実際にコロは、この数日埌に車で跳ねられ、前足を切断しお亡くなっおいるのである。
 たるで、これから䜕かがあるず、譊告しおいるようにも芋えた。
 かなり倧きめの犬だったが、さんは非垞にショックだったであろう。
 この映像のあず、コロがこれから事故に遭い、䞡足を切断されるのだ。
 
 芋おいお奇劙に感じる。
 玠盎にそう感じた。
 投皿䜜品自䜓は、䞍可解なものばかりだ。
 ただ、そのあず、どうなったのか。スタッフは投皿者に、䜕のアドバむスもしおいない。これじゃ、芋䞖物にされたのも同然だ。あずで、謝瀌でも枡しおいるのだろうか
 しかし、これを借りおきお正解だった。ベタなホラヌなどよりも、このような䜜りのほうが面癜い堎合もある。俺はそう感じた。
 近幎、ワヌずか、ギャヌずいった驚かせばいいずいう䜜品が倚くなっおいる。ホラヌ奜きの俺は、それでも楜しく思う。それでも俺は䜕故、もっずホラヌを求めるのか
 それは俺が、本圓の霊䜓隓を味わいたいからだ。
 その点では、この䜜品はかなり合栌ラむンに達しおいる。少し、物足りないずいえば、実際に霊が映っおいないずころである。
 薄暗い䞭、勝手に音を奏でるピアノ  。
 散歩䞭に、前足が消えた犬  。
 それだけなのだ。あずは無駄な映像があるだけの。
 䞉぀目の投皿䜜品は、是非ずも霊が映っおいおほしい。
 真剣に心の䞭で祈った。
 
 今床の投皿者は、モザむクがかけおいなかった。
 幎霢は二十台半ばずいった感じの綺麗な女性。矎和ず比べおも、遜色がないくらい、いい女だ。ただ、どこか陰りがあるような衚情。たあ、このようなに投皿するぐらいだから、本人にずっおはいい思いではないはずである。藁にもすがる思いなのであろう。
 さん仮名ずいうテロップが衚瀺され、スタッフずの䌚話が始たった。
「こ、こんにちは 、はじめたしお」
「はじめたしお 。さお、今回はどのような経緯で、䜜品を投皿したのでしょうか」
「はい 。私には、䞉歳の子䟛がいたす。男の子なんですけど、元気がいっぱいな盛りです」
「ちょうど、可愛い時ですよね」
「あ、ありがずうございたす」
 りェヌブの掛かった綺麗な茶色いロングヘアヌ。パッチリずした二重たぶたの瞳。敎った端正な顔立ち。どれをずっおも、いい女である。
 だけど、陰りのせいか、暗いむメヌゞしか湧いおこない。内面にかかえおいる問題からか、そのすべおが綺麗さを台無しにしおしたっおいる気がした。陰湿な黒いオヌラが、圌女を包んでいるみたいに感じる。
「それで」
「ええ、実はアパヌトに䜏んでいるんですけど、隣の䜏民の方に、ビデオカメラをお借りたんです」
「それは、芪切な方ですね」
「  」
 さんの衚情は、さらに暗くなったように芋えた。これだけの女だ。
 隣の䜏民ずは男で、䞋心䞞出しだったか䜕かに違いない。
 いや、埅およ  。
 隣の䜏民ず蚀っおいるだけだから、男ず決たった蚳じゃないのか。俺は自分勝手な想像をしおいた。
「おや、どうしたした」
「あ、はい 、芪切な方でした。その人、向こうから私に蚀っおくれたした」
「䜕おです」
「お子さんが可愛い盛りだし、映像に収めおおいたらどうですかず  」
「きっず、子䟛奜きな方なんですよ」
「はぁ  」
「はい、続きをどうぞ」
「ええ、それで録画したら、隣の人がにしおあげるず蚀っおくれたので、その奜意に玠盎に甘えたした。やっぱり自分の子䟛の成長蚘録がほしいっお  」
「党然、悪い事じゃないですよ。䞖の䞭の芪、すべおそう思いたすよ。子䟛が恋しくない芪なんおいたせんよ。目に入れたっお、痛くないんですからね。だから、日本は平和な囜なんですよ」
 勝手な事、蚀っおやがる。俺は、むンタビュヌでペラペラず話す軜薄そうなスタッフを睚んだ。
 だったら、䜕で䞖の䞭、子䟛の虐埅があるんだ
 䞭にはずんでもない芪だっおいる。無責任な発蚀を簡単にしやがっお  。
「ありがずうございたす」
「はいはい、それで」
「はい、䜕床か、その方にはを䜜っおもらいたした」
「ほう、それは良かったじゃないですか」
「はい 、その点はずおも嬉しかったでした  」
 そう語る衚情はずおもじゃないが、嬉しそうには党然芋えない。その点はず、短い台詞の䞭で、わざわざそれを自己䞻匵しおいるような  。
 しかも、過去圢で話しおいる。
 嬉しいではなく、嬉しかったず 。
「では、本題に進めたしょう。その䞭で䜕かがあったのですね」
「  」
 䞋をう぀むきながら、考え蟌んでいるさん。
「●●さん」
「あ、はい 。そうです  」
 実際、さんの受けた衝撃はそれほど、匷かったのであろう。前の二䜜品ずは、比べものにならないほど、物凄いものが映っおいるのだろうか
 䞍謹慎ながら、俺はワクワクしおきた。
「䜕があったんですか」
「子䟛が、い぀ものように近所の公園で、遊んでいるずころなんですけど  」
「ええ」
 公園で、昚日殎られた事を思い出す。ちっ、あの二人組め  。
「すべり台でうちの子が遊んだあず、ブランコほうぞ行く時に  」
「はい」
「ブランコで銖を吊っおいたようなサラリヌマン颚の男が  」
「え、ハッキリず映っおいたんですか」
「ハッキリずいうよりかは、うっすら透明にずいった感じです」
「でも、●●さんは、それを芋ながら撮圱しおいた蚳ですよね」
「もちろんです ただ、私からはその時、䜕も気づきたせんし、䜕もなかったんです本圓ですよ 信じお䞋さい」
「萜ち着いお、萜ち着いお  」
 急に取り乱すさん。スタッフは、慌おおなだめおいた。
「す、すみたせん  」
「では、その問題のシヌンを拝芋いたしたしょう」
 慌おたスタッフは、半ば匷匕に、画面を切り替えたようだった。

―― 公園に映るブランコで銖を吊った男 ――

 近所の公園で無邪気に遊びたわる男の子。䞉歳ずいうだけあっお、芋おいるだけで埮笑たしい光景である。
 母芪にビデオカメラで撮られるのを嬉しそうに、元気いっぱいはしゃぐ子䟛。
 砂堎で山を䜜っお遊び。
 ゞャングルゞムを頑匵っお必死に登る。
 どこかで芋たような颚景である。気のせいだろうが、芋おいお他人事のように芋えない。䞍思議な気持ちだった。
 ゞャングルゞムに぀いおいるすべり台から、倧声を䞊げながら滑り降りる男の子。
 すべり台぀きのゞャングルゞム  。
 これも芋芚えが  。
 子䟛は、ブランコのほうぞ駆けおいく。
 確かにブランコの䞊の棒で、玐をくくっお、䞀人の男の姿が芋える。うっすらず透明に  。
 俺がびっくりしたのは、幜霊みたいな銖吊り男を芋たからではなかった。
 この公園  。
 俺のマンションのすぐ近くの公園じゃないのか  。
 子䟛が走っおいる際、右から映りこむブランコ。通垞の䞀人乗りのブランコではない。二人が向かい合っお座るタむプのブランコだ。
 そしお、少しだけ映った赀いベンチ。
 間違いない  。
 この公園は、うちの近くの公園だ。昚日、ラヌメン屋で揉めた二人組に連れお行かれたあの公園だ。思わぬ展開に、鳥肌が立぀。
 䜕ずいう偶然だろうか。
 怖さも感じおいるが、それ以䞊に感動があった。こんな近堎に霊の出た堎所があったなんお  。
 俺はもう䞀床、映像を芋盎した。
 ブランコでうっすら映るサラリヌマン颚の男。
 どう芋おも䞍自然な映像だ。俺はデザむン䌚瀟で働いおいるから、このぐらいの映像を䜜ろうず思えば、䜜れるスキルはある。
 パ゜コンのフォトショップを䜿えば、心霊写真を䜜るこずなど、容易いものだ。それを動画にうたくはめ蟌めば、この映像は人工的にでも䜜れる。ただ、誰がこんな事をするずいうのだ
 いくら䜕でも、こんな事は、誰も考え぀かないだろう。
 この映像は間違いなく霊が映ったものである。俺はそう信じたい。興奮で䜓が震えおいた。
 それに昚日、公園で匂った臭い  。
 あれは気のせいではなかったのだ。
 あず少しで、このブランコで銖を吊った男ず、遭遇できたのかもしれない。もっずよく確認すれば良かった。非垞に昚日の行動が悔やたれる。
 俺の頭の䞭は、この公園に察する奜奇心でいっぱいだった。あんな堎所に霊がいたなんお  。
 
 矎和が昌食を䜜り、テヌブルに運んできた。
「もう、芋終わったの」
「ああ、すごい  」
 蚀い掛けお、思わずやめた。この事を矎和に話しおも、いたずらに怖がらせるだけだ。
「すごい 。すごいどうしたの」
 銖を傟げながら、矎和は笑顔で聞いおきた。
「すごい 、ク゜ビデオだったよ  」
「ありゃ」
「たあいい、充分に暇぀ぶしはできたしな」
「なら、いいけどね」
「お、昌はパスタか」
「うん」
 テヌブルに次々ずおかれる料理。本圓に料理が奜きな女である。
 クリヌミヌなカルボナヌラのパスタ。
 様々な野菜を䜿ったシヌザヌサラダ。
 䞭に入っおいる材料は、玉ねぎずわかめだけのシンプルなコン゜メスヌプ。
 デミグラス゜ヌスをかけた王道のハンバヌグ。
 ゞャガむモから、ちゃんず䜜ったフラむドポテト。
 甘く煮たニンゞン。
 おいしそうな湯気を出す炊き立おのご飯。
 毎床の事ながら、よくもあれだけの時間で、こんなに䜜れるものである。玠盎に感心する。これだけ尜くしおくれる矎和に察しお、俺はかなり酷い台詞を吐いたものだ。
 心の䞭で頭を䞋げた。人間、なかなか蚀い出せない蚀葉があるものである。
「雷蔵が喜んでくれお嬉しいわ」
 そう蚀っお、矎和は嬉しそうに喜んだ。
 
 その日は結局、䞀日䞭二人で䞀緒に過ごした。
 たくさん話し、たくさんセックスをした。だけど、俺の頭の事は、あのにも映った公園の事しかなかった。䜕をしおも、䞊の空になっおしたう。
 倜になるず、矎和は明日の準備があるからず、垰り仕床をしだした。俺は矎和を送り぀いでに、あの公園ぞ行こうず思っおいた。
「雷蔵、悪いから倧䞈倫よ」
「いいから、いいから 。昚日のラヌメン屋の件で、おたえに䜕かあったら嫌だっお俺は思ったんだ」
「ありがずう。昚日の雷蔵、栌奜良かったよ。ずおも  」
 濃密なキスをしお、俺たちは郚屋を出た。
 時間垯は九時を回っおいる。圓たり前だが、倖に出るず、すっかり真っ暗になっおいた。わりず近所に䜏んでいる矎和は、俺のマンションから歩いお十五分ぐらいの堎所にいる。マンションを出るず、五分ぐらいで䟋の公園を通る。
「ねえ、雷蔵。私、䜕かこの公園っお気味悪く思うのよ」
「そうか」
 わざずおどけお蚀った。
 矎和の感芚は間違っおいない。本圓にあのを芋せなくお良かった  。
「䜕か、蟛気臭いっお蚀ったらいいのかな 。できれば、この前を通りたくないもん」
「䜕か感じるの」
「うヌん、特には 。でも、私っお倚少、霊感があるず思うんだ  」
 初耳だった。ただの怖がりでホラヌものを避けおいただけなのかず、今たでそう思い蟌んでいた。
「霊感」
「うん 。最近はそうでもないけど  」
「ちょっず、近くの喫茶店で話しようか」
「やだ、䜕、そのニダけ顔」
「仕方ないだろ。俺のラむフワヌクでもあるんだから」
 矎和は苊笑いをしお、軜く錻で息をはいた。
「たったくもう 。ただ、あそこの喫茶店おやっおいるの」
「ああ、確か倜の十䞀時たでだったかな  」
 矎和を送る予定が、思わぬ展開になっおきた。
 俺もひょったしたら、実際に霊䜓隓をできる時が、近づいおきたのかもしれないな。俺たちは出䌚ったきっかけでもある喫茶店に向かった。
 
 二人ずもコヌヒヌを泚文する。
 矎和は䞊を芋ながら、前の事を思い出しおいるみたいだった。
「早くおたえの霊䜓隓、䜕か話しおよ」
「うヌんずねヌ  」
 俺はワクワクしながら、矎和が口を開くのを埅った。こんな身近な存圚に貎重な䜓隓をした人間がいたずは  。
 嬉しい誀算である。
「私がただ小さくおね。芪元にいた頃の話なんだけど、それでいい」
「ああ、い぀ぐらいの頃」
「うヌん、小孊六幎の時なんだけどね」
「ああ」
「友達の家に遊びに行ったの」
「ふんふん」
「かくれんがしお遊んでいおね。私は友達の郚屋のタンスに、隠れようず思ったの」
「それで」
「タンスの扉を開けるず、䞀人の女の子がいたの」
「友達の効さん」
「ううん、その子 。䞀人っ子だったから、それはない」
「ぞヌ  」
「栌奜は蚀い方悪いけど、酷く薄汚れた栌奜をしおいお、顔もげっそりず痩せおいたんだ」
「うん」
「私ず目が合うず、䜕か蚀いたそうにしおいるの」
 マスタヌがコヌヒヌを運んできた。ここのブレンドは、キリマンゞャロがメむンになっおいるので奜きだった。
「それで、どうしたの」
「うん、それで私、その子に話しかけたの。こんなずころで、どうしおいるのっお」
「ああ」
「そしたら、その子。口は開いおいないんだけど、私の脳ぞ盎接声が聞こえおきたの」
「はぁ」
「戊争の空襲譊報が鳎っお逃げおきたけど、母芪ずはぐれおしたい、逃げる人のあずを必死に぀いお行ったら、防空壕に到着したんたっお  」
 俺たちは、戊争を知らない䞖代だ。
 その圓時の曞物は、䜕冊か読んだ蚘憶がある。
 防空壕ずは、戊争時、敵の攻撃から非難する為に、䜜られた斜蚭だずいう知識ぐらいは持っおいた。広島、長厎に原子爆匟が萜ずされ、たくさんの呜を倱い、日本は降䌏をした。英囜、アメリカ、䞭華民囜の䞉カ囜銖脳の共同声明ずしお、圓時の日本倧日本垝囜は、ポツダム宣蚀を受け入れた。
 悲しい俺たちの囜の過去。
「食べるものも、氎もなく飢えお苊しいっお、必死に私に䌝えおきたの」
「怖くはなかったのか」
「うん、䞍思議ずね。その子は亡くなっおいるのを自分で気が付いおいないの。ずにかくお腹が枛っお、苊しんで亡くなったんだず思うんだけどね  」
 矎和は寂しそうに蚀った。気持ちは分かる。俺たちじゃ、想像もできないぐらいの苊しみがあった時代なのだ。今の日本は䟿利になった代わりに、すっかり平和ボケしおいる。
「だから、友達に蚀ったの。タンスにコップ䞀杯のお氎を眮いおあげおっお」
「うん  」
「それず、お菓子ずかあったら、䞀緒にっお  」
「そうか」
「うん。もし、お氎がなくなるようなら、必ずたた入れおあげおっおね」
「成仏できたかな  」
「倚分 、しばらくしお、私がその子の家に遊びに行った時、ちゃんずお氎も、お菓子もお䟛えしおあったんだ」
「そっか  」
 俺はできる限り、優しく埮笑んだ。
 
 矎和ず付き合い始めの頃を思い出した。
 䞀床だけデヌトをしおいお歩き疲れ、あの公園ぞ入った事がある。
「なあ、矎和」
「ん、䜕」
「おたえさ、俺ずあの公園に䞀床デヌト䞭に入った事あるの芚えおる」
「う、うん  」
「あの時、ベンチに芪子連れがいたから、すぐ出ようずしたけど、おたえ䜕故か子䟛の顔をゞッず芋おいたでしょ」
「え、そうだったっけ」
「うん、だっお俺がさ、『おい、矎和。䜕しおんだよ そろそろ行くぞ』っお声を掛けたぐらいじゃん」
「あ、そうだったね」
「子䟛の顔を芋おたけど、䜕か感じるものあったの」
「うん、よく分からないけど私ずその子、同じような胜力があったような感じがしたの」
「え、そうだったの あの公園じゃん。だから䜕か䞍思議なもんがあったかなず思っおさ」
「え、あの公園じゃんっお」
 したった。矎和は『䞀般人投皿の䞍可解な映像』を䞀緒に芋おいないから、あの公園が曰く憑きだなんお知らないんだっけ  。
「いや、䜕ずなく」
「䜕か隠しおるでしょ、雷蔵」
「いやさっき俺が借りたあるだろ あの件なんだけどさ、話すず矎和怖がるかなっお思っおさ」
「  」
 芋る芋る内に矎和の衚情が青癜くなっおいく。
「この話はやめずこう」
「うん 、ごめんね」
「いいよいいよ。こんな話を振った俺が悪かった」
 少し気たずい空気が流れる。コヌヒヌを飲み干すず、俺たちは喫茶店をあずにした。
 別れ際になっお矎和が真剣な衚情で口を開く。
「ねえ、雷蔵。お願いだから、あの公園には近づかないで」
「ん、急にどうしたんだよ」
「よく分からないけど、あそこには近づかないほうがいいっおすごい感じるの」
「え、じゃあひょっずしお俺、初の霊䜓隓ができるかもしれないじゃん」
 俺は飛び䞊がっお喜んだ。矎和の衚情がさらに曇る。
「雷蔵  」
「䜕だよ」
「そんな霊䜓隓だずか簡単に蚀わないで、お願いだから  」
「急にどうしたんだよ」
「ホラヌビデオを芋おいるぐらいなら、私は䜕も蚀わなかった。でもあの公園は本圓に蚀っちゃ行けない堎所のような気がする。霊䜓隓っおそんな簡単なものじゃ枈たない気がするの  」
「矎和  」
 これだけ匷く蚀う矎和を初めお芋た。心の底からお願いしおいるのだ。
 霊䜓隓なんお遭った事がないから楜しみず思っおいたが、実際に遭ったらそんな事蚀っおいられないだろう。
 
 矎和を送ったあず、䟋の公園に差し掛かる。あんな話を聞いたばかりなので、いたずらに近づくのはやめようず思った。
 今の日本  。
 確かに腐りきっおやがる。戊争時の日本か  。
 倧倉だったんだろうな  。
 そう思うず、簡単に霊だ䜕だっお喜ぶのは、間違いのような気がした。俺の先祖も戊争は䜓隓しおきたのだ。今床、久しぶりに墓参りでも行っおこようかな。
 マンションに到着するず、鏡を芋おみた。ただ、顔の腫れはそんなに匕いおいない。これじゃ、明日、䌚瀟ぞ行ったら色々ず突っ蟌たれそうだ。明日も有䌑を぀かうか  。
 湯船にお湯をためお、ゆっくりず颚呂ぞ浞かった。
 人間っお、どう生きるのが正しいのだろうか
 そんな事を考えおしたう。今の日本が豊かなのは、戊争埌の人たちが頑匵っお築きあげおきたからである。
 俺を始めずしお、今の連䞭は䞀䜓なんなのだろう
 楜しい事だけ、远求しお生きるのもいい。だが、そんな姿を芋お、昔の人たちはどう思うのだろうか。
 今の連䞭は、呜っおものを簡単に考えすぎおいる。自殺する奎も、幎間で䞉䞇人を越えおいるずいう。それも日本だけの数字だ。驚異的な数字である。
 日本は法埋で、自殺や自殺未遂に察し、犯眪ずしお扱うこずがないようだ。昔は違ったらしいけど  。
 自殺者は、女より、男のほうが圧倒的に倚いのも知っおいる。
 䜕でこんな䞖の䞭になっおいるのかな。今じゃ、瀟䌚っおもおはやされおいるけど、パ゜コンが䜿えなくなった時の被害っお、どのぐらいになるんだろうか
 昔は違った。
 少なくおもパ゜コンや携垯がなくおも、みんな、普通に生きおきた。
 特に携垯の機胜の充実さは異垞である。あれば確かに䟿利だ。でも、通話ずメヌルができるぐらいで、ちょうどいいんじゃないかず、俺は考えおいる。
 各メヌカヌがこぞっお色々な開発をしおいるが、それが正しいのかずいうず、間違っおいるような気がする。
 そもそも携垯っお䜕だ  
 携垯ずは、手軜に持ち運びができるものを指すんじゃないのか
 携垯で持ち運びができる電話だから、携垯電話。でも、今、携垯ずいうず、みんな、俺も含めお携垯電話の事だず思っおしたう。
 テレビもそうだ。芖聎率、芖聎率ず蚀いながら、それをずるのが正論なんだみたいな颚朮になっおいる。
 あのくだらないお笑い芞人たちを芋おいおも、面癜くもなんずもない。
 女は敎圢しおも、倖芋だけ良ければいいみたいな感じだし、明らかにおかしくなっおいる。
 サッカヌだっおそうだ。ワヌルドカップず盛り䞊がっおいるが、日本代衚を芋た時、がっかりした。䞖界に日本代衚ずしおいく蚳なんだから、日本人らしくいればいいのにず、思っおしたう。日本人は黒い目、黒い髪なんだから  。
 代衚の䞭で日本人らしい遞手っお、どのくらいいるんだろう。茶髪にした遞手が非垞に倚い気がする。
 䞖界にずっお、日本は匷い囜ではない。髪を染める暇があるのなら、ボヌルを蹎ればいいのになっお普通に思う。
 たあ、サッカヌだけではないのだが  。
 色々な事を考えおいお、すっかり長颚呂になっおしたった。指の先がふやけおいる。颚呂を出る時、䜕か思いかけたのを感じた。だが、それはすぐに消えおしたった。䜕だろう。
 たあいい  。
 顔の腫れもあるし、明日も䌚瀟を䌑む事にしよう。幞い今の仕事状況は、そこたで忙しくない。きっず䞊叞も文句は蚀わないはずだ。
 珍しく真面目な事を考えおしたった。
 䞀䜓、俺に䜕ができるずいうのだろう
 個人で芋れば、ちっぜけな存圚である。そんな俺に  。
 いや、䌌合わないな  。
 真面目な事を考えるのはやめよう。
 
 気が付くず、朝になっおいた。颚呂から出お、ベッドに寝転がるず、そのたた寝おしたったみたいだ。
 鏡を芋る。ただ顔は腫れおいる。俺は䞊叞に連絡をしお、䌚瀟を䌑む事にした。䞀応、矎和にも䌝えないずな。携垯を手に取る。
「もしもし」
「おはよう」
「うん、おはよう」
「ただ、いたいち腫れが匕かないから、今日も䌑む事にするよ」
「そう、倧䞈倫」
「たあね。たたにはゆっくり䌑むのもいい」
「そうね。でも、私はさすがに今日は行かないず  」
「党然、かたわないっお、いっおらっしゃい」
 携垯を切り、再びベッドに寝転がる。昚日、䞀瞬だけ思い぀いた事。それが䜕かはすぐに消えおしたったが、ずっず気になっおいた。
 う぀䌏せになる時、顔の腫れおいる郚分をかすり、痛みを芚える。
「いたたた  」
 䞀昚日の二人組  。
 ちくしょう。痛みを感じるたびに、あい぀らを思い出す。もっず俺に力があったらな。
 ん、埅およ。そうだ。
 俺は、起き䞊がった。昚日の事で、思い぀いた事。それが分かったのだ。
 䟋の公園の事だった。近くにあのさん仮名が、䜏んでいる可胜性がある。䌚っお盎接、話を聞きたい。そんな欲望があった。
 埅およ、以前、自殺した亀田。あい぀も確か、銖吊りで亡くなったず聞いおいる。䜕か繋がりがあるのだろうか
 俺のマンションず、あい぀のアパヌトはすぐ近く。その間に䟋の公園がある。
 幞いに今日は䞀日暇だ。亀田の䜏んでいたアパヌトぞ行き、隣近所に、聞き蟌みをしおみるのもいいかもしれない。
 普通に考えお、亀田の自殺は䞍可解だ。
 女には絶察に瞁がない。
 䞀生独身確定のオタク。
 でも、女を抱くだけなら颚俗がある。
 うちのデザむン䌚瀟ず、契玄を結んでいた亀田は、金にはそんな困っおいないはずである。それだけの金をうちの䌚瀟は、あい぀に払っおいた。
 亡くなった時、郚屋に萜ちおいた䞀枚のパンティ。前にも思ったが、これから自殺するような奎が、そんなずころに攟っおおくのはおかしい。
 いいチャンスだ。
 あのを芋なければ、思い぀かなかったず思う。
 矎和から聞いた防空壕の女の子の話。そしおあの公園には近づかないでずいう忠告。
 思い出すず少し気味が悪かったが、仕方ない。亀田の件で探りを入れれば、䜕か䞍可解な出来事に遭遇するかもしれないのだ。
 霊䜓隓を俺はした事がない。そんなんじゃ枈たないっお矎和は蚀ったけど、やっぱり䞀床は経隓しおみたいのだ。しかも家の近所でこんなネタが転がっおいるのである。
 俺はワクワクした。
 ただ、出掛けるには早い時間垯だ。俺は゜ファヌに腰掛け、時間が早く過ぎるのをそわそわしお埅った。
 
 もう䞀床、『䞀般人投皿の䞍可解な映像』を芋た。
 俺は、公園のシヌンで䜕床も映像をずめ、䞹念に画面を眺める。うん、絶察にあの公園だ。こんな近所で、䞍可解な事があったのである。
 亀田のアパヌトは前に行った事があるので、堎所は芚えおいた。
 時蚈は十時を回った。
 もういいだろう。俺は、マンションをあずにした。
 たずは䟋の公園に行く。
 芪子連れが䞀組いるだけで、公園はシヌンずしおいた。四、五歳ぐらいの子䟛ず、それを芋守る母芪。
 俺が䞭ぞ入るず、母芪が䞀瞬だけ、こっちを芋た。怪蚝な目぀きだった。無理もない。こんな時間垯に䞀人で公園に入っおくる男。少しは譊戒するだろう。
 俺は、ブランコのそばに行きたかったが、やめおおく事にした。芪子のほのがのずした空間を壊したくなかった。
 公園を出お、亀田のアパヌトぞ向かう。どちらかずいうず、そっちのほうが興味あった。
 小さな公園のすぐ目の前に立぀亀田の䜏んでいたアパヌト。あのに出挔しおいた人劻も、この蟺にいるのだろうか
 確か、亀田の郚屋は二階だ。俺は静かに階段を䞊がる。二階に䞊がっお巊。䞀番角郚屋が、あい぀の郚屋だった。
 軜く呌吞をする。䞻のいない郚屋をノックしおみた。圓たり前だが、䜕の返答もない。ドアノブに手をかける。圓然の劂く鍵が、かかっおいた。
 亀田は、このドアを䞀枚挟んだ向こうのドアノブで玐をくくっお銖を吊ったのだ。
 今、郚屋の䞭はどうなっおいるのか
 衚札も䜕もかかっおいない寂れた郚屋。新聞受けのずころには、チラシや封筒が、倚数突っ蟌んである。
 亀田の自殺埌、ただ誰もこの郚屋を借りおいない蚌拠のように芋えた。
 さお、これからどうするか。思い぀いおきたものの、他に方法がなかった。䜕かしら、あるず思ったのにな  。
 廊䞋から、公園の颚景を眺める。先ほどの芪子が、ブランコに乗り遊んでいた。倚分、あの母芪は、䟋のを芋おいないのだろう。たあ、圓たり前か。
 こうしお亀田も、よく公園の景色を芋おいたのか。車通りも少なく静かなので、䜏むにはいい環境だ。俺のマンションずすぐ近くなのに、党然、違う堎所に来たみたいだった。
 この蟺りの環境や空気が矚たしかった。俺もこのような堎所に  。
 ん  
 埅およ  。
 俺が亀田の郚屋にもし、匕っ越したらどうなるんだ
 䞍可解な銖吊り自殺のあった郚屋  。
 目の前の公園  。
 ひょっずしたら俺自身、霊䜓隓ができるかもしれない。
 心が躍った。䜕でこんな事、今たで思い぀かなかったんだろうか。確かに亀田の䜏んでいた郚屋ずいうのは気持ち悪いが、業者に頌めばいくらだっお綺麗にしおくれる。そんな事よりも、たず、霊䜓隓できそうな条件が揃っおいるのが玠敵だ。
 隣の䜏民に、䞍動産の連絡先を聞いおみるか。頭の䞭は、この自殺のあった郚屋に匕っ越したいずいう気持ちでいっぱいになっおいた。
 矎和の蚀っおいた忠告など、ずっくに頭から離れおいた。
 
 ずりあえずここを管理する䞍動産に連絡しないず 。亀田の隣の郚屋。俺はむンタヌホンを鳎らしおみた。衚札は『銙田』ず曞いおある。
「はヌい」
 しばらくしおドアが開く。俺は出おきた女を芋お、初察面でないような気がした。
「はい、䜕でしょうか」
 どこかで䌚ったような気が  。
 䞀䜓、どこで  。
「  」
「あの  」
 うヌんず、どこで䌚っおいるだっけ。最近、䌚ったような  。
「あっ」
 髪を束ねおいたが、俺には分かった。
 出おきた女は、『䞀般人投皿の䞍可解な映像』に、出挔しおいたあのさんだ。あの䞍可解な公園の投皿者。
 もちろん、向こうは俺の事など知る蚳がない。テレビのモニタを通しお、こっちが䞀方的に知っおいるだけなのだから  。
 䜕ず切り出せばいいのだろう。たさかこんな圢でさんず出䌚えるずは、埮塵にも感じおいなかったのだ。俺はただ、さんの顔を芋おいるだけだった。
「あの、すみたせん 。䜕かご甚でしょうか」
「あ、はい 。すみたせん 。実はこのアパヌトに空き郚屋があるず、人づおに聞きたしお 。それで実際の堎所を確認に来たした。それで䞍動産に借りたいず、連絡をしたいず思いたしお  」
 適圓にでっちあげた。だが、さんは俺の話に顔をしかめおいる。䜕かそんな倉な事を蚀ったのだろうか。
「あ、あの 、どうかしたしたか」
「あなた、知らないんですか  」
「は」
 さんは、目の前にある公園を指差した。
「あの公園っお、以前の事ですけど 。ブランコで銖を吊り、自殺した方がいたんです」
「え」
「たあ、こんな目の前で䜏んでいる私が、蚀うのもおかしいですけどね」
「いえいえ、そんな事はないですよ」
 あの公園で本圓に自殺があった  。
 あのの映像ず、実際の公園を亀互に考える。あのを実は芋たんですず、さんに切り出すべきか
 いや、それじゃ気味悪くずられるかもしれない。やめおおこう。
 俺は、心の底から出る奜奇心を抑えるのに苊劎した。
 知りたい。
 䜕があったのか、ずこずん知りたい  。
「それに私たちの隣の角郚屋  」
 そう蚀っおさんは、ずおも嫌そうに隣を芋た。
「あそこ、隣の䜏人が、銖を吊っお自殺したばかりなんです  」
 さんはそれだけ蚀うず、暗く沈んだような衚情になった。で芋た通り、本圓に綺麗な女だ。ただ、劙な陰りが、矎人さを台無しにしおいる。
 確かに暗くなるのも無理はない。自分の䜏むアパヌトのすぐ近くで、二回も自殺があったのだ。金銭的に䜙裕があるなら、匕っ越したいずころであろう。
 さんには子䟛がいた。映像で芋お、䜕ずなく顔も芚えおいる。子䟛の教育䞊、どう考えたっおここは非垞に良くない。それでもただ、ここにいるずいう事は、生掻が倧倉なのかもしれない。さたざたな苊劎が重なり、さんの衚情に、陰りがあるように感じるのかもしれない。
「うヌん、小さいお子さんがいるのに、環境が良くないですよね」
 俺の台詞に、さんは奇抜な衚情をした。
「な、䜕故、私に、子䟛がいたなんお分かるんですか」
 さんの声は、譊戒を含んだ冷たいものになっおいた。
 したった  。
 頭の䞭で考えおいた事ず、話しおいる事の隔おを忘れ、぀い口走っおしたったのだ。圓然、譊戒するだろう。初察面で、いきなりそんな事を蚀われおは  。
「いえ 、あ、あのですね  」
「し、倱瀌したす」
 さんは気味悪そうにドアをバタンず閉めた。
 
 䜕床、むンタヌホンを鳎らしおも、さんは応察しおくれなかった。完党に、俺を無芖しおいる。
 こうなったら持久戊だ。俺は真実が知りたいだけである。霊䜓隓をしたい為に  。
 しばらく通路で埅぀事にした。もし、圌女が出おきたら、ちゃんずあのを芋たっお話そう。隣で自殺した亀田は、仕事の兌ね合いで知り合いだったずいう事も。
 俺に察しお抱いた誀解を解きたかった。
「銙田さん、お願いしたす。話を聞いお䞋さい。銙田さん」
 衚札に曞いおある名前を芋ながら、倧きな声で呌びかけた。
「お願いしたすよ、銙田さん」
 時蚈を芋るず、十二時を回っおいた。俺はずっず同じ行為を繰り返した。必死に呌びかけにドアが開く。さんの顔が芋えた。ただ、譊戒を抱いた衚情である。
「譊察を呌びたすよ」
 冷静に蚀われた。冗談じゃない。そんな事になる為に、俺は来たんじゃない。
「埅っお䞋さい。萜ち着いお 。話を聞いお䞋さい」
「  」
「『䞀般人投皿の䞍可解な映像』っお、ご存知ですよね」
 甚件をいきなり繰り出す事にした。
「  」
 さんの衚情が、驚きの顔に倉わる。
「この間、レンタルビデオで俺、それを借りお芋たんです」
「  」
 さんは無蚀だった。かたわず続けた。
「俺、実はホラヌ系の事、倧奜きなんです」
「  」
 俺の目をさんは真剣に芋おいた。
「あのに映っおいた映像。あれっお、あの公園ですよね」
 俺は公園を指差しながら蚀った。
「自分もすぐ近くに䜏んでいたので分かったんです。たさか、こうしおさんに䌚えたのは思いたせんでした。それは本圓に偶然です」
「そう  」
「ええ」
「芋たんだ  」
 䞋をう぀むいたたた、静かに口を開くさん。
「はい、芋たした。それに驚かないで䞋さい」
「䜕を」
「隣で自殺があった郚屋。その人間を自分は知っおいるんです」
「え」
「萜ち着いお䞋さい。自分は珟圚デザむン䌚瀟にいたす。仕事を発泚しおいたのが、偶然にも、隣に䜏んでいた亀田さんなんです」
「そ、そうなの」
「ええ、だから自殺したずいうのも、䌚瀟で人づおに聞きたした」
「  」
「俺、亀田さんの担圓の䞀人だったんです。䞍思議だったんです。圌が急に自殺したなんお 。䜕故か、䞍可解に思いたした」
 ドアが倧きく開き、さんが通路に出おきた。
「ねえ、少し時間ずれる」
「はい」
「ここじゃなんだから、近くでコヌヒヌ飲みながら話をしたいわ」
「はい、いいんですか」
「うん、䜕かあなたなら、色々ず話できるかなず思っお  」
「すみたせん、さん  」
「さんはやめおよ。静銙っお名前があるんだから  」
 
 い぀もの喫茶店たで、䜕も話さずに黙々ず歩いた。
 聞きたい事、話した事は山ほどある。でも、頭の䞭で敎理をしおいた。倚分、静銙もそうなのだろう。
 色々なものが今、繋がろうずしおいる。非垞に俺はワクワクしおいた。
 喫茶店に到着しお、コヌヒヌを泚文する。静銙は玅茶を頌んだ。
「さん 、いや、静銙さんっお呌んでもいいでしょうか」
「はい」
「どちらから先に話したすか」
「どうぞ」
「分かりたした。たず、自分から蚀いたす。を芋たずいうのず、亀田さんずは仕事の繋がりでずいうずころたでは、話したず思いたす」
「ええ」
 静銙の顔を芋おいお、䞍思議な気分だった。昚日、テレビのモニタで芋た知らない他人が、今、こうしお目の前で俺ず話しおいる。偶然ずはいえ、䜕かを感じる。
「䜕故、圌の死因が䞍可解かずいう点です」
「他殺だったずか」
「それは分かりたせん。ただ、自殺はおかしいなっお、玠盎に思ったんです」
「䜕故」
「た、たあ、女性には蚀いづらいですけど、ドアノブに玐をくくり぀けお銖を吊ったずいう点から蚀いたす」
「はい」
「普通、銖を吊るずしたら、どこでず考えたすか」
「うヌん、やっぱり倩井ずか、朚の枝からずかじゃないかしら」
「ええ、自分もそう思いたす。自分の身長よりも、高い堎所からっお思うのが普通です」
「うん、そうね」
「でも、圌はドアノブから銖を吊りたした」
「それはあの人は、䜓重も重そうだし、倩井からっおいうのを避けたんじゃないの」
「その仮説もありたすよ、もちろん。ただ、匕っ掛かるのは次の事なんです」
「次」
「た぀鳥あずを濁さずっお、蚀うじゃないですか」
「はい」
「普通、郚屋で自殺するなら、身蟺の敎理ぐらいはするず思うんです」
「うヌん、そうかも  」
 唇を尖らせながら、考え事をする静銙の顔は、魅力的に映った。
「圌の郚屋には、女物の癜いパンティが䞀枚萜ちおいたそうです。床に  」
 䞀瞬だけだが、圌女は䜓をピクッず反応させた。
「そこが䞍可解に感じるんですよ。確かに圌は男から芋おも、女にもおないなっお感じた人です。でも 、いや、だからこそなんです」
「だからこそ」
「倧抵の人は、亀田さんの事を容姿で気味悪がりたす。自分も正盎に蚀うず、そう思っおたした  」
「  」
「芋かけはどう芋おもオタク。䞍快感を芚えるような感じです。本人は溜たったもんじゃないず思いたすよ。芋かけで刀断しやがっおず、いった感情もあったかもしれたせん」
「うん」
「だずしたら、自殺するずしおも、そんなパンティずかは、最初に凊分するんじゃないかなっお 。そんなものがあったら、倉態っぜく芋られるの仕方ないじゃないですか」
「そこたでの䜙裕が、なかっただけかもしれないじゃない」
「かもしれたせん。どうせ、死ぬんだから、どう芋られおもいいずいう開き盎り」
「ええ、私は隣で、少しは接しおたから、倚少、亀田さんの事は分かるわ」
 静銙の衚情は、店に入った頃ずは違っおいた。
 怒っおいるような、それでいお悲しみも感じさせるような衚情。䜕か、静銙ず亀田の間に合ったのかもしれない。
 
 コヌヒヌず玅茶が運ばれおくる。俺はそのたた、ブラックで䞀口飲んだ。静銙は砂糖を五杯も入れおいた。極端な甘党なんだず思う。
「䜕か、亀田さんずあったんですか」
「  」
 静銙は黙っお唇を噛んでいた。
 亀田ず静銙がセックスする想像をしおみる。ずおもじゃないが、思い぀かない。矎女ず野獣。䞍釣合い過ぎる。
 亀田が静銙の私生掻を芗き芋。リアルに想像できた。亀田は倉態ずいう蚀葉が、ずおもよく䌌合う。
「あなた、あのを借りお芋たっお蚀ったでしょ」
「ええ、それが䜕か」
「あの子䟛の映っおいる映像。亀田さんが、私に持ちかけた事なの  」
「え  」
 頭の䞭に䞀瞬の閃きがあった。亀田があのビデオカメラをに倉換したずしたら、充分にあの映像は合成できるんじゃないか。銖吊り映像を  。
「自分の子だから、楜しく芋おいたわ。亀田さんの䜜っおくれたは  」
「ええ」
「だから、あの銖吊り死䜓みたいなものが映っおいたのを芋た時、あたりのショックに声も出たせんでした」
「分かりたすよ」
「うちの䞻人にも、盞談したけど取り合っおくれなくお  」
「亀田さんに盞談したず」
「ええ、圌は知らないず蚀っおたした。そんなものが映っおいたんですかず、逆に驚いたぐらいで  」
 静銙はこの時点で隙されおいる。そう感じた。でも、黙っお話を聞く事にする。
「それで、あの映像を送ったんです。䜕ずかならないかなっお  」
「それはそうですね。気味が悪いたただず、今埌の生掻に圱響がありたす」
「でも、あのビデオ䌚瀟。ただ映像を商品化しただけで、䜕の解決にもならなかったの」
「向こうはただの商売ぐらいにしか、考えおいないんですよ」
「ええ、そう思ったわ。送った私が銬鹿だったっお 。話は戻るけど  」
「はい」
「恥ずかしい話だけど、亀田さんに盞談したあず、あの人は私に迫っおきたの」
 確信できた。あの映像は亀田が、意識しお䜜った合成映像であるず  。
「はい、それでどうしたんですか」
「圓然、払いのけたした。確かに䞻人ずはうたくいっおない。でも、だからっお䜕であんな人に、身を預けないずいけないの」
「そりゃそうですよね」
 静銙は感情的になっおいた。その時の光景を思い出しおいるのだろう。頬が玅朮しおいた。亀田みたいなオタクに迫られたら、誰だっお嫌だろう。気持ちは分かる。
「それで、その堎は去ったの」
「ええ」
「それから䜕か疲れちゃっお、実家に垰っお  」
「その時にを」
「うん、でも、子䟛の事もあるし、䞻人にはな぀いおいたので垰りたした」
「ええ」
「そしたら子䟛が、亀田さんを発芋しお  」
 途䞭で圌女の目に涙が溜たっおいた。自分の子䟛が、亀田の自殺の第䞀発芋者。むごい珟実である。
「それで今に繋がるず  」
 静銙は、テヌブルに突っ䌏しお泣き出しおいた。力のない小動物を芋るような感芚を芚える。
 
 初察面の俺の前で、テヌブルに突っ䌏しお泣く静銙。
 芋おいお哀れに思う。
 店内の数人の客が、こっちに泚目しおいた。マスタヌのほうを芋るず、気づいおいないふりをしおいた。
 亀田の性栌を考えるず、あの銖吊り映像は䜜り物だず感じる。その時点で、冷めたような感芚はあった。
 あずの話はどうでもよかった。でも、目の前で泣いおいる静銙を芋るず、悪い気がしおくる。自分の興味的な事だけで、過去の嫌な蚘憶を蘇らせた。少なくおも今、泣いおいるのは、俺のせいでもある。
 仕方ない。ここたで乗りかかった船だ。ずこずん付き合おう。俺は静銙が泣きやむたで黙っお埅っおいた。
 そういえば、䞻人は仕事だずしおも、子䟛は攟っおおいおいいのだろうか
 ここに来お䞉十分は経぀。昌寝をしおいるだけかもしれないが、あのアパヌトに䞀人でいる状況には代わりがない。
 静銙は今、自分の事で、いっぱいいっぱいなのは分かる。でも、子䟛の事を蚀っおやらないず  。
「あの、静銙さん」
「  」
「いいんですか、お子さん。䞀人でアパヌトにいるんでしょ」
 俺の蚀葉に反応しおくれたのか、静銙は顔を䞊げた。目が真っ赀になっおいる。
「お願いがあるの  」
「ええ、䜕ですか」
「付き合っおほしいずころが  」
「どこぞです」
「それは返事を聞いおから  」
 どこぞ行こうずいうのだろう。たあ、どこでもいいか。さっき、ずこずん付き合うず決めたのだ。
「分かりたした。いいですよ」
 子䟛の事はいいのだろうか。それ以䞊は远求せずに、俺はコヌヒヌ代を払っお店を出た。
 
 賑やかな駅前通から、離れおいくように歩く静銙。俺は、黙っおあずを぀いおいくだけだった。
 圌女は今、䜕を考えおいるのだろう。明らかにアパヌトずの方角ずは、違ったほうぞ歩いおいく。埌ろ姿は、寂しさやせ぀なさを蚎えおいるようにも芋える。
 どんどん人気のないほうぞ向かう。ずりあえず、声をかけようず、暪に早歩きで䞊ぶ。
「亀田さんが亡くなったあずね  」
 突然、話を切り出されたので、心の準備がうたくできおいなかった。
「  」
「譊察の人が、䜕床も聞き蟌みに来たわ」
「それは、そうですね」
「それで私、知ったの  」
「䜕をです」
「さっき、あなたが蚀っおたでしょ」
「え」
「床にパンティが萜ちおいたっお  」
「ええ」
「それ、私のパンティだったの  」
 亀田の奎、隣のベランダから忍び蟌み、静銙のパンティを盗み取ったのか。
「  」
 䜕お声をかければいいか、分からなかった。
「お気に入りのや぀だったのよ。真っ癜で  」
 もずもず癜いものが、あい぀の手垢などで陵蟱され、どす黒く倉色したパンティ。持ち䞻の静銙は、どれだけ傷぀いたのだろうか。想像も぀かないほどのショックを受けるだろう。
「蟛かったら、無理にはいいですよ」
「ありがずう」
 悲しげな静銙は、無理に笑顔を䜜った。抱きしめおやりたい衝動に駆られる。でも無理だ。俺には矎和がいる。
 俺たちは、そのたた黙っお歩いた。
 やがおお寺が芋えおくる。静銙は真っ盎ぐ進み、寺内ぞ入った。
 䞀䜓、俺をどこに連れお行こうずしおいるんだ
「ごめんね、倉なずころに案内しちゃっお  」
「い、いえ  」
 静銙は墓堎に入り、奥に歩いおいく。
「  」
 銙田隆志ず曞かれた墓石の前で、静銙は立ち止たった。ご先祖の墓だろうか。
「私の子䟛のお墓なんだ  」
 衝撃的な事実に、蚀葉が出なかった。
 あのに映っおいた子䟛  。
 あの子が亡くなっおいた。
 あんなに元気にはしゃいでいたのに  。
 静銙はしゃがみ蟌んで泣いおいた。小刻みに肩を震わせながら  。
 䜕ずもいえない気分だ。䞀䜓、䜕があったのだろう。
 俺はしゃがみ蟌む静銙の肩に手を眮いた。
「色々ず蟛い事が、連続であったんですね  」
 確かに䞻人ずは、うたくいっおない。さっき喫茶店で、圌女が蚀った台詞が思い出される。こんな小さな背䞭で、䞀人ですべお背負い蟌んできたのだろう。
 そういえば、䜕で最初に気付かなかったのだろう  。
「な、䜕故、私に、子䟛がいたなんお分かるんですか」
 あの時、静銙は「子䟛がいた」ず過去圢で話しおいたのだ。
 静銙は俺に抱き぀いおきた。俺は䞡腕を䞋に垂らしたたた、立ち尜くすしかなかった。俺の胞を借りお泣く静銙の頭を優しく撫でおやる。
 携垯が鳎る。矎和からだった。俺は音が鳎らないように、バむブにしお再びポケットに入れた。
 
 裞の静銙が、䞊半身を起こす。圢のいい胞が揺れる。俺は圌女を抱いおしたった。俺も静銙も䜕も蚀わず、自然ずホテルに向かっおいた。
 旊那ずも、しばらくしおいなかったのであろう。静銙は貪欲に俺を求めた。俺も圌女の心境を理解し、それに答えた。いけない事なのは分かっおいた。でも、自分を抑えられなかった。
 今、圌女の顔は、すっきりしたような感じに芋える。
「ただ、名前も聞いおなかったね  」
「早乙女雷蔵 。二十䞉歳」
「ぞヌ、雷蔵っお蚀うんだ」
「うん、叀臭い名前だず思うけど、自分じゃ気に入っおいる。俺も、静銙さんっお、名前しか聞いおいない」
「倱瀌ね。女に幎を蚀わせるの」
「抱いた女には、倱瀌でも聞くようにしおいる」
 俺がそう蚀うず、静銙は声を出しお笑った。心から笑っおいるように芋える。
「二十五」
「二぀䞊なんだ。もっず、若そうに芋えたけどね」
「ありがず」
 静銙は、俺の頬にキスをしおきた。
「旊那がいるのに、良かったのかい埌悔しおないの」
「少し長くなるけど、聞いおくれる」
「もちろん」
「あのアパヌト、匕っ越しおきたのっお、ただ数ヶ月前だったの。亀田さんずは、偶然近くのスヌパヌで知り合っおね。最初の頃は、いい近所付き合いをしおたわ。ただ、うちの䞻人っお䞀床も私を抱いおくれなかったの。䜕床も蚀ったけど、い぀も疲れおいるっおばかり 。子䟛を撮ったに、あんなものが映っおいるのに、党然感心すら抱いおくれなかったの」
「それは酷いな」
 静銙は甘えるように、俺の腕に頭を乗せおきた。
「あの公園で私が悩んでいるず、亀田さんが偶然、通りかかったんだ。芪切にしおくれるから、盞談しちゃっおね 。そしたら私に迫っおきお 。これが目的で、芪切にしおたんだっお思っちゃった」
「倧抵の男っお、そんなもんだよ」
「そうね。心を少しでも蚱した私が、銬鹿だったんだなっお思ったよ。それで、子䟛ず実家に垰ったっお蚀ったでしょ」
「ああ」
「もう二人で生きおいこうっお思っおたけど、隆志が、䞻人を恋しがっおいたから、仕方なく戻っおね」
「子䟛の気持ちがやっぱり優先だよね。間違っおないず思うよ」
「うん、そしたら、亀田さんがドアノブで銖を吊っおいるのを隆志が芋お  」
「そっか 」
「最初、あのアパヌトに戻った時、すごい嫌な臭いがしおね。その時で、劙な感じはしたんだけど、隆志は亀田さんの郚屋のほうぞ行っおたの」
 すごい嫌な臭い  。
 俺が公園で嗅いだ臭いず同じような気がした。
「それで」
「ドアノブに手をかけおたから、やめなさいっお蚀ったら、ドアが開きだしお  」
 静銙の肌は鳥肌が立っおいた。
「蟛かったら、その蟺は無理に話さなくおもいいよ」
「うん、ありがず。それから譊察に通報しお、䜕床も聞き蟌み調査が来お、すごい疲れたわ」
「そりゃそうだろうね」
「旊那は私に謝っおきたわ。でも、それっお圢だけだったの」
「䜕故」
「息子の隆志が原因䞍明で、䜓の具合が急に悪くなり、病院に連れお行っおも医者は分からないっお  」
「  」
「色々な医者にすがり぀いたけど、原因䞍明のたた、隆志は䞉歳で亡くなったの」
「うん  」
「ただ、二週間前の話  」
「そうか」
「隆志が亡くなったその日 。旊那は、別の女ず浮気しおたんだ」
「  」
「私、隆志の葬儀ずか色々あっお、䜕も蚀わなかったけど、終っおから実家に戻ったの」
「うん」
「その時、あの出したずころから、連絡があっおね。隆志が亡くなった原因が、分かるんじゃないかなず思っお出挔したんだ」
「では、子䟛が亡くなった事、蚀っおなかったじゃない」
「話しおいる内に、この人たちっお䜕か違うんだなっお思っお  」
「そうだね。俺も芋おいお、それは感じたよ」
「芪に蚀われたわ。おたえの䞻人も蟛さは同じなんだから、家に戻りたい気持ちは分かるけど、䞀緒にいなっお  」
「確かに事情を知らないず、そう無責任に蚀うかもな  」
「もう䜕も考えられなくお 。私の居堎所っお、どこにもないんだっお思ったの」
「  」
「家にもいられないし、働いおないから、私は今のずころに戻るしかなかったんだ  」
「倧倉だったな  」
「隆志が亡くなったの、ただ信じられなくお  」
 静銙は、涙声になっおいた。俺はギュッず抱きしめおやる。
 
 ホテルの䌑憩時間がきお、俺たちは出る事にした。
「送っおいくよ」
「ううん 。倧䞈倫  」
 静銙は寂しそうに笑った。
「そうか」
「ごめんね」
「䜕が」
「もう逢う事、ないず思う」
「  」
「ありがずう  」
 静銙は振り向いお、歩いおいった。ただ時間は䞉時半だった。
 携垯を取り出すず、矎和から着信が䞉回ほどあった。
 矎和に察しおの眪悪感がのしかかっおくる。俺はどんな蚀い蚳をしたずしおも、あの女をさっき抱いおしたったのだ。
 でも、䜕故か気分はすっきりしおいた。矎和に、この事だけは黙っおおこう。
 俺はマンションに向かっお歩き出す。䞀床も静銙のほうを振り向かずに歩いた。
 
 垰り道、公園に差し掛かる。今は誰もいなかった。この近所の人々は、この堎所で自殺があったのを知っおいるせいだろうか。
 ブランコぞ近づいおみる。あの映像は亀田が合成したず仮定しおも、ここでサラリヌマン颚の男が銖吊り自殺をしたのは、本圓の事実だったのである。
 ここで自殺をした  。
 俺はブランコを支える鉄の棒に觊れおみた。䜕も感じない。どんな気持ちで自殺をしたのだろうか
 俺には分からない。
 もう前みたいな倉な臭いはしなかった。あの時、嗅いだ臭いは䞀䜓、䜕だったのであろう
 赀いベンチに腰掛け、静銙が䜏むアパヌトを芋る。もう、圌女は垰っお䞭にいるのか。色々ず考えおみたが、もうどうでもいい事だった。
 圌女ずは、二床ず䌚う事はないのだ。
 さっきお互いを求め合ったのが、幻だったように思えおきた。
 垰るか  。
 俺は立ち䞊がり、公園をあずにした。
 自分のマンションに垰るず、ドアの新聞受けのずころに、倧き目の封筒が入っおいた。手に取るず、非垞に薄っぺらい封筒だった。
 差出人も䜕も曞いおいない、ただの封筒。
 䜕だろう、これは  。
 䞭に䜕か入っおいる。俺は封を切っお、取り出しおみた。
 真っ癜い䞀枚の。䞭にはそれしか入っおいない。のロゎしかない、無地のメディア。郵䟿物で届いたものじゃないずするず、誰からだろう。この郚屋に来た事があるのは、友人のゎッホず矎和ぐらいだ。
 矎和は、ただ仕事しおいるだろうしな  。
 ずりあえずゎッホに連絡しおみる。
「なんだい、雷ぞっち」
 盞倉わらずのダミ声が聞こえおくる。
「あれ、今日は仕事䌑み」
「ああ、先週の日曜日仕事だったから、今日はその代わり」
「そうなんだ」
「雷ぞっちは」
「今日、仕事を䌑んだんだけど、今たで倖に出掛けおおさ」
「うん」
「それで今、垰るず、倉な封筒があったんだよ。差出人もないし、おたえが届けたのかなず思っおさ」
「はぁ そんなの知らないよ」
「そっか  」
「䞭は芋たの」
「の真っ癜なメディアが䞀枚だけ」
「䜕、メディアっお」
「うヌん、分かりやすく蚀うず、だよ」
「ああ、なるほどね」
「たあ、プレヌダヌで芋おみるよ。ゎッホも䞀緒に芋るかい」
「俺はいいよ。遠慮しずくよ」
「䜕で」
「だっお薄気味悪いじゃん」
「それはそうだけど、䞭身、気にはなるだろ」
「そうだけど、俺が怖いの嫌いなの、知っおるだろ」
「ああ、そうだな。でも、䞭身が゚ロいや぀だったずしおも、あずでじゃ、芋せおやらないぞ。いいのか」
「それはたた別の話だろ」
「郜合いいや぀だな」
「いいじゃねヌか。そん時はちゃんず教えおくれよ」
「分かったよ。これから芋るから切るぞ」
「ちゃんず゚ロいのなら、教えおくれよな」
「分かったよ」
「絶察だよ」
「うるせっお、し぀こいなぁ」
「いいじゃん。あずで少ししたら、俺から電話するよ」
「はいはい、じゃあね」
 封筒はゎッホからではなかった。では、矎和からだろうか
 俺はメヌルを打っお、返事を埅぀事にした。
 
 䞀䜓、䜕のだろうか
 差出人䞍明の無地の  。
 内容はどうなっおいるのだろう
 ずりあえず、矎和からの返事を埅っおから拝芋しよう。
 すぐにメヌルの返事がきた。
『ただいた、仕事䞭。封筒 䜕それ 私は仕事で、今日は雷蔵のずこ行っおないよ。さっき電話したのは、ちょっず声が聞きたかっただけでした。寝ちゃっおたかな でもメヌルが来たので、職堎でニコニコしおたす。終ったら連絡するね』
 矎和からでもない。
 じゃあ、䞀䜓、誰がこんなものを  。
 矎和のメヌルを芋お、胞が痛んだ。さっきたで、静銙を抱いおいたのだ。完党な裏切り行為。でも、この分では気づいおいないようである。
 このを芋おみよう。
 考えおも結論は䜕もでない。
 俺はプレむダヌぞメディアを入れた。

―― 公園に映るブランコで銖を吊った男 ―― 

 ん、䜕だ、これは  。
 この間、借りた『䞀般人投皿の䞍可解な映像』ず、同じ映像じゃないか。俺は借りおいるほうの『䞀般人投皿の䞍可解な映像』を芋た。テレビの暪に眮いおある。間違っお入れた蚳ではない。
 䜕だ、このは  。
 薄気味悪いものを感じる。借りたものず違う点は、スタヌトの時点で、静銙がいきなり出おきおいるずころだ。誰がこんなものを  。
 静銙ずスタッフの話す内容は、前ず䜕も倉わらない。話す台詞たですっかり同じだ。
「すべり台でうちの子が遊んだあず、ブランコほうぞ行く時に  」
「はい」
「ブランコで銖を吊っおいたようなサラリヌマン颚の男が  」
「え、はっきりず映っおいたんですか」
「はっきりず蚀うよりかは、うっすら透明にずいった感じです」
「でも、●●さんは、それを芋ながら撮圱しおいた蚳ですよね」
「もちろんです ただ、私からはその時、䜕も気づきたせんし、䜕もなかったんです本圓ですよ。信じお䞋さい」
「萜ち着いお、萜ち着いお  」
 急に取り乱す静銙。スタッフは、慌おおなだめおいる。ここたで䜕も倉わっおいない。
「す、すみたせん  」
「では、その問題のシヌンを拝芋いたしたしょう」
 慌おたスタッフは、半ば匷匕に、画面を切り替える。俺の思考など気にせず、テレビのモニタはかたわず進めおいく。
 問題の映像シヌンが始たる。
 近所の公園で無邪気に遊びたわる男の子。俺はこの子が隆志ずいう名前だず知っおいる。そしお亡くなったのも  。
 静銙にビデオカメラで撮られるのを嬉しそうに、元気いっぱいはしゃぐ隆志。
 砂堎で山を䜜っお遊び。
 ゞャングルゞムを頑匵っお必死に登る。
 本圓にこの子が、原因䞍明の病気で亡くなったのか。こんなに元気なのに 。でも、俺は隆志の墓たで、実際にこの目で芋おいる。
 ゞャングルゞムに぀いおいるすべり台から、倧声を䞊げながら滑り降りる隆志。
 すべり台぀きのゞャングルゞム  。
 隆志がブランコのほうぞ駆けおいく。ここで、亀田の合成した停者動画が出る。ブランコで銖を吊った男が映しだされる。
「ん」
 䜕か、前よりハッキリず鮮明に映っおないか  。
 俺は身を乗り出しお、さらにテレビぞ近づく。
 間違いない。前、芋た時よりもハッキリず映っおいる。頭が混乱しおきた。気が぀くず息䜿いが荒くなっおいる。
「ホラヌビデオを芋おいるぐらいなら、私は䜕も蚀わなかった。でもあの公園は本圓に蚀っちゃ行けない堎所のような気がする。霊䜓隓っおそんな簡単なものじゃ枈たない気がするの  」
 矎和の忠告した蚀葉が鮮明に頭の䞭で蘇っおいた。
 
 画面が切り替わる。すっかり俺は画面に芋入っおいた。砂嵐がザヌッず音を立おながら流れる。これで終わりなのか  。
 プレむダヌからメディアを取り出そうずする。その時、たた画面が切り替わった。俺は手を止め、その䜓勢のたた画面を芋る。
 映っおいるのは、ニュヌスみたいな映像。芋た事もないような、アナりンサヌが攟送垭に座っおいる。
「本日、午埌四時のニュヌスをお䌝えしたす。以前、公園で銖を吊ったサラリヌマンがいたした。その埌、たた近くのアパヌトで、ドアノブに玐をかけ、銖を吊っお亡くなった方もいたす」
 䜕だ、このニュヌスは  。
 党身鳥肌が立った。
「そしおたた、その隣の郚屋で䞀人の女性が、窓のずころから玐をかけ、銖を吊っおぶら䞋っおいるのを発芋したした」
 隣の女性  。
 静銙の事か  。
 そんな銬鹿な  。
 萜ち着けっお  。
 これはただのプレむダヌが再生しお映っおいる画面だ。通垞のテレビ攟送で流れおいる蚳ではない。
「それでは、その暡様をお䌝えする映像があるので芋おみたしょう」
 俺は時蚈を芋た。四時ちょうどだった。
 䜕だ、これは  。
 これ以䞊、芋おはいけない気がした。あれほど怖いものを芋おいる俺が、ビビっおいるのか。本胜がやめろず、危険信号を送っおいる。
 額に手をやるず、汗を掻いおいた。俺は冷や汗を掻いおいるのか  。
 たずい、これ以䞊、芋おはたずい  。
 俺はプレむダヌの停止ボタンを抌した。
「無駄ですよ」
 テレビから声が聞こえた。
 びっくりしお画面を芋る。
 画面の䞭にいるアナりンサヌず、目が合った。
 銬鹿な、今、俺に蚀ったのか  。
「もう、停止ボタンを抌しおも無駄なんです」
「  」
 明らかにアナりンサヌは、俺のほうを向いおそう蚀っおいる。
 䜕だ、このは  。
「しっかりず画面を芋お䞋さい。私も仕事䞭ですので、正面を向いおアナりンスしないず怒られおしたうのです」
 ダバい。頭の䞭で譊告音が、やかたしいぐらい音を立おお鳎っおいる。
「では、どうぞ」
 アナりンサヌが蚀うず、画面が切り替わる。
 映ったのは、叀いアパヌト。どこの 、いや、静銙が䜏んでいるアパヌトだ。公園ずは逆から撮った角床で収たっおいる。
 二階の䞀宀の窓から、人みたいなものが垂れ䞋がっお芋える。遠くからの映像なので、よく芋えないが  。
 カメラはアパヌトに埐々に近づいおいる。俺は衝撃を受けた。人みたいなものではなく、人間が銖を吊っおいる。髪の長いロングヘアヌ。顔も吊るされたショックからか、かなり倉圢しお醜く映し出されおいる。俺はそれが静銙だず分かった。
 目から䞀筋の涙が零れ萜ちる。
 䜕故、圌女がこんな真䌌を  。
 
 郚屋の電話がなる。矎和からか  。
 俺は立ち䞊がり、受話噚を取った。
「もしもし、早乙女です」
「困りたすよ、早乙女さん。ちゃんず画面を芋おもらわなくおは  」
 聞き芚えのある声。しかし、誰からか分からない。
「誰だ、おたえは」
 俺は叫んでいた。
「静かにしお䞋さい。埌ろを振り向いお、画面を芋お䞋さいよ」
 俺は振り返り、テレビ画面を芋た。さっきのアナりンサヌが受話噚を耳に圓おながら、俺を凝芖しおいた。
「そう、そうやっお、ちゃんず芋お䞋さいよ」
 受話噚からず、テレビのスピヌカヌから、同じ声が聞こえおくる。思わず俺は受話噚を萜ずしおしたった。
 俺が䜓隓したかったのは、こんなんじゃない。怖くおこの堎から逃げ出したい。でも、動こうず思っおも動けないでいた。これが、金瞛りずいうものか  。
「  」
 叫がうずしおも、声すら出せない。
「では、匕き続き、映像をご芧䞋さい」
 アナりンサヌが笑顔で蚀い、再び、画面が切り替わる。
 公園で無邪気に遊びたわる隆志が映し出される。
 さっき芋た映像じゃないか。
 遊んでいる隆志を撮る静銙。䜕も倉わらない。
 もう芋たくない。目を閉じたくおもできなかった。
 すべり台を滑った隆志がブランコのほうぞ走る。そこぞ映る銖を吊った男。さらに前よりもハッキリず映っおいた。
 銖を吊った男の顔が動く。
 俺の方向を芋おいるのが分かった。
 助けおくれ。
 誰か助けおくれ  。
 神様、仏様  。
 䜕でもいい。
 俺を助けおくれ  。
「  」
 銖を吊った男が、俺に向かっお近づいおくる。限界だ 、意識が薄れおいく。
 
 目を芚たすず、倩井が芋えた。
 俺は気を倱っおいたのか  。
 郚屋の床で寝おいたようだ。
 テレビ画面を芋る。䜕も映っおいなかった。
 さっきのは倢だったのか  。
 しかし、それにしおは、リアル過ぎる。
 玄関のチャむムが鳎った。
 矎和だろうか
 俺は玄関ぞ向かう。
 これ以䞊、䞀人でいるのは嫌だった。
 霊䜓隓をしたいずか思っおいた俺が、銬鹿だった。
 ドアを開ける。
「うわぁヌっ  」
 倖には、銖を吊った男がぶら䞋がっおいた。
 ゞトッず怚みの籠もった芖線で、俺を芋぀めおいた。
「  」
 たた、䜓が動かない  。
「  」
 声すら出ない。
 誰にも助けを呌べない  。
 銖に玐のようなものを巻かれる感芚を感じる。
 あの時、公園で嗅いだ倉な臭いが錻を぀く。
 その嫌な臭いだけしか、感じ取れるものはない。
 頭のヒュヌズが、プチンず音を立おお鳎ったような気がした。
 䜕故、この俺が  。
 目の前が、真っ暗になった。
 䜕も芋えない。
 䜕も聞こえない  。
 疲れた  。
 もう、どうなっおもいいや  。

゚ピロヌグ 

「やっず終わったぜ  」
 私は、『ブランコで銖を吊った男』の執筆を終え、倧きく䌞びをする。
 原皿甚玙で䞉癟䞀枚。そこそこの長さだ。
 私の初のホラヌ小説が、今ここに完成したのである。ひず仕事終えたような気だるさを感じ、その日はゆっくり䌑んだ。
 明日は、前から圌女が蚀っおいた物凄い霊媒垫のずころぞ行く予定だった。
 霊など䜕も芋た事ない私が、よくもたあ、こんなホラヌ小説を考えながら曞けたものである。我ながら、玠盎に感心した。
 埌線の䞻人公、早乙女には、私の霊に察する興味本䜍な性栌をプレれントしたので、非垞に曞きやすく、サクサクず執筆も進んだ。
 今、付き合っおいる圌女も、早乙女の圌女圹である矎和のモデルになっおいた。あい぀は、劙に勘が鋭い時がある。
 そんな圌女が、ある霊媒垫のずころぞ行こうず蚀い出した時は、ビックリしたものの、楜しみでしょうがなかった。
 時蚈を芋るず、倜䞭の二時を回っおいる。
「草朚も眠る䞑䞉぀時っおか  」
 明日、寝坊したら倧倉だ。私は倧人しく垃団ぞ暪になり、目を閉じた。
 
 今、私は、䟋の霊媒垫のずころぞいる。
 芋掛けは単なるそこら蟺にいるおじさんだ  。
 過床な期埅をしおいた分、ガッカリしおいた。䜕かしら面癜い事があるかもず思っおいたが、この分では期埅できない。
 圌女から、この霊媒垫は先の事たで䞞芋えだず聞いおいたが、どう芋おも胡散臭い。ずりあえず、自分の執筆した『でっぱり』ず『ブランコで銖を吊った男』を印刷し、補本した状態で持っおきた。私の䜜品が今埌、どうなるのか知りたかったからである。
「あの、先生  」
「䜕ですか」
「これ、芋おもらえたす 私の執筆した小説なんですが  」
「ほうほう  」
「衚玙の扉絵ずかも、党郚、自分でデザむンしお描いたんですよ。私の小説、どうですかね 䞖に出るべき䜜品だず思いたすか」
 床の匷そうな䞞いメガネを掛けながら、霊媒垫は私の小説をゞッず芋入っおいる。
「この『でっぱり』ずいう䜜品 。䜕だか暖かいですね 。あなた、これはある人の為に曞きたしたね」
「え  」
 私の心臓は、倧きな音を立おおいた。
 䜕でそんな事が分かるんだ
「あなたの根っ子の郚分が、この䜜品には䌝わっおいたすよ」
「は、はぁ  」
 実はこの『でっぱり』ずいう䜜品を曞くにあたっお、ある人間を励たしたいずいう想いから、始めたものだったのである。
 仲のいい埌茩がいお、幞せな家庭を築いおいた。小さな可愛い子䟛ず、矎人の奥さんに囲たれた埌茩は、ずおも幞せそうだった。
 ある日、病気で子䟛が亡くなっおしたい、矎人だった奥さんはゲッ゜リ痩せおしたう。芋おいられないほどの痩せようだった。
 私は、近所で仲も良かったので、時間できる床、埌茩のずころぞ顔を出した。
 銬鹿話でも䜕でもいい。ずにかく笑わせおあげたい  。
 そんな想いから、この『でっぱり』の構想は始たった。
 執筆を終え、印刷し本にする。最初に埌茩の奥さんにこの䜜品を芋せた。読んでいる内に、たったく笑わなかった奥さんの口元がにやけるのを確認した時、私はこれを曞いお本圓に良かったず心から思えた䜜品でもあった。
 思ったより、この霊媒垫は鋭い人なのかもしれないな  。
 そのあずで霊媒垫は『新宿クレッシェンド』を手に取る。
「これがあなたが初めお小説を曞いたずいう凊女䜜でしょうか」
「ええ」
「ふむ  」
「どうかしたしたか」
「いや、近い未来かもしれないですが 。いいんじゃないでしょうか、この䜜品」
「 ず蚀うず」
「静かでクヌルな陰の䜜品なんですね」
「はあ あの 、この䜜品をただ読んでないですよね」
「だいたい手に取れば分かりたすよ」
「え  」
 そう蚀っお霊媒垫は『新宿クレッシェンド』の衚玙をゞヌっず芋぀めおいた。
「この䜜品が陰なら、続線の『でっぱり』は陜。ふむ、衚裏䞀䜓の䜜品に仕䞊げおいる蚳ですね。陰の郚分で己の過去を吐き出し、陜でフォロヌに回っおいる」
「  」
 私は蚀葉を倱っおいた。䜕でこの人は、䜜品を読んでもないのにそんな事が分かるんだ 心の奥底に眠っおいた過去の忌々しい蚘憶。それを私はこの『新宿クレッシェンド』の䞻人公である赀厎隌人で衚珟した぀もりだ。もし、この䜜品が䞖に出たずしたら、私はちょっずした眪悪感を芚えるであろう。そういった事も螏たえ、続線の『でっぱり』は逆に明るくテンポ良くスムヌズに曞き、そしお前䜜ずのテヌマを盞察するものずしお仕䞊げた぀もりだった。
 二぀の䜜品を読んだのなら、ただ分かる。しかしこの先生は本を手に取り、衚玙を芋ただけなのである 。埐々に恐ろしささえ感じおいた。
「では、先生 。この『ブランコで銖を吊った男』はどうです」
 昚日、完成したばかりの䜜品を手枡した。
 先ほどの陜気な衚情ずは打っお倉わり、難しい顔をしだす霊媒垫。
「あなた、これ 。本物のホラヌを曞いたんですね  」
「はぁ」
 䜕が蚀いたいのか分からなかった。これは私が閃いお、初挑戊したホラヌ小説である。構想からキャラクタヌたですべお自分で考えたものだ。それを本物のホラヌずは、たるで意味が分からない。
「お蚀葉ですが、この䜜品は私が、䞀から最埌たで考えお䜜ったものです」
「あれ、分からないで曞いおいたんだ」
「は」
「あなた、これ 、ある霊の力を借りお出来䞊がった䜜品ですよ」
「䜕を蚀っおんですか これは自分ですべお考えた䜜品です」
 いきなり䜕お事を蚀い出すのだ。さすがに私はむラむラしおいた。
「この䜜品のタむトル 。すごいこだわりがあったでしょ」
「『ブランコで銖を吊った男』ですか それはありたすよ でもですね、他の䜜品のタむトルだっお同じようにこだわりありたすよ。自分自身が生み出したものですからね」
「うん、私の蚀い方が分かり蟛かったか。蚀い方倉えるけど、じゃあ䜕で『ブランコで銖を吊った男』なの」
「そんなのは読めば分かりたすよ」
「いや、そうじゃなくおね 。䜕であなた、銖を吊るのにブランコなんだっお」
「えっ  」
「普通に銖を吊るずしたら、どこを連想したす」
 銖を吊る堎所  。
 それでパッず普通に思い぀くのが、朚の枝や、郚屋の倩井などだった。
「あっ  」
「普通、ブランコでなんお連想は出おこないですよ」
「  」
「それにね、この扉絵 。普通、ブランコっお蚀ったら、䞀人乗りのポピュラヌなものを思うでしょ」
「た、たあ  」
「䜕であなたは、この扉絵のブランコ、二人乗りの向かい合うタむプにしたの」
「わ、分かりたせん 。䜕の意識もせず、普通に違和感なく描いおたした  」
「過去を振り返っおごらんなさい」
 振り返る必芁など䜕もなかった。私は、過去の忌々しい蚘憶を思い出しおいた。
 
 家のすぐ近所にあったお寺。
 今、考えるず䞍思議な寺で、境内にゲヌムセンタヌがあり、ブランコやゞャングルゞムなどがあった。
 幌き頃、匟ずそのお寺で二人乗りのブランコを向かい合わせで挕いで遊んでいた。やっおいる内に物足りなさを感じ、二人ずも立ち挕ぎでブランコを挕ぎだす。物凄い反動が぀いた時、匟がブランコから攟り出された。
 ブランコの軌道䞊に萜ちた匟。その額目掛け、非垞にもブランコは匟に向かう。
「ギャヌ  」
 恐ろしいほどの恐怖に歪んだ悲鳎ず、おびただしい出血。
 匟は、額に五針を瞫う重症ずなった事がある。
 調子に乗っお挕いでいた兄である私のせいだった  。
 その埌、そのお寺では自然ず遊ばなくなっおいた。
 私が䞭孊生に䞊がる前だっただろうか。その二人乗りのブランコで自殺があったず噂で聞いた。
 その事件以来、お寺にあったブランコは撀去され、今では桜の朚が埋たっおいる。
 
「灰色のスヌツを着たサラリヌマン颚の男性 。なるほど 。あなたに自分の存圚を曞いおもらい、䞖に知っおほしかったんだね  」
「えっ」
「たあ、あなたはいい事をした蚳ですな」
「あ、あの 、先生っお『ブランコで銖を吊った男』、読んでないですよね 衚玙を芋ただけですよね」
「ええ」
「じゃあ、䜕で灰色に人っお分かるんですか」
「ああ、それは今さっきあなたから、その人が離れたのを芋たからですよ」
 私は『ブランコで銖を吊った男』の冒頭の郚分を思い出しおいた  。
 
 目の前にサラリヌマン颚の男がいる。芖線は地面のどこか䞀点を芋据えおいるようで、僕などたるで芖界に入っおいないみたいだ。
 その男は、党身の力が抜けたかのように䞡腕をダランず垂らしおいた。頭の䞊に芋える玐。その玐を䞊に远っおいくず、ブランコの䞊の棒にくくり぀けおあった。
 静寂に包たれた空間の䞭での異質な状況。
 頭の䞭がどうにかなりそうだった。
 僕はその堎に汚物をぶちたけたかったが、懞呜に堪えた。しばらく地面に座り蟌んでから、ゆっくりず男のほうぞ振り返った。
 グレヌのスヌツの男はブランコの堎所で、こんな倜䞭に銖を吊っおいたのだ。
 地面から䞉十センチほど宙に浮いた足。その足元には糞尿など様々な老廃物でいっぱいだった。異臭の元はこれだったのだ。
 
「  」
 その霊媒垫に察し、䜕の蚀葉も出なかった。
「たあ、あなたはいい事をしたんですよ。人助け 、いや、霊だから、霊助けっおずこですかね」
 そう蚀っお霊媒垫は、倧袈裟に笑った。
 私の䜓党身には、ブルブルず鳥肌が立っおいた。
 
 この䜜品を曞くに圓たっお、メむンの違う䞻人公を二人考えた。
 䞀人は「亀田の章」に出おくる四十歳男の亀田である。
 圌に関しおは、ずにかく自分にないものをず考えながら、気味の悪い男を曞いおいった。
 こんなのがもし身近にいたら、嫌だな  。
 女性が読んだら、気持ち悪いずいう䜜品にしたい。
 盞手が嫌がるには、どうすればいいだろうか。
 そんな事を䞀生懞呜考えながら執筆した。
 逆に「早乙女の章」に出おくる二十䞉歳の早乙女は、女にモテるように蚭定し、亀田ずは正反察のキャラクタヌずしお考えた。
 だが、それさえも私は、ブランコで銖を吊った男に、曞かされおいたずいうのだろうか  。
 私には、䜕が本圓なのか、未だに分からないでいる。

゚ピロヌグ

 ふず『銖吊り』ずいう繋がりで、自分自身を振り返っおみた。
 私が生たれる前、いや、お袋が小さかった頃、お袋の芪父぀たり私にずっおおじいちゃんだが、颚呂堎で湯船に浞かろうずしお心臓麻痺を起こし亡くなったらしい。
 幌い頃、私は母方のおばあちゃんからそう聞いおいた。
 小孊校二幎生の冬、お袋は俺を捚おお家を出お行った。
 私が二十五歳の時、おばあちゃんが亡くなり、密葬をするず聞いたので駆け぀けた。
「ねえ、このおばあちゃんの旊那さんっお若い頃、自殺したんでしょ」
「うん、近所には黙っおいたけど、そうらしいんだよね」
 その時参加しおいた人たちが、小さな声で囁いおいたのが聞こえた。私は密葬が終わるのを埅ち、その人たちに聞いおみる事にした。
「あの、すみたせん  」
「はい、䜕でしょう」
「先ほどおばあちゃんの旊那さんが自殺っお蚀っおたしたが  」
「ええ、かなり前らしいけど」
「本圓に自殺だったんですか」
「ええ、自分で銖を吊っお亡くなったらしいわ」
「  」
 ここでも『銖吊り』  。
「ちょっず、この子、お孫さんでしょ 䜙蚈な事蚀わないほうがいいわよ」
 もう䞀人のおばさんが小声で私に聞こえないよう話をしおいた。
 䜕故おばあちゃんは、生前、私に心臓麻痺だなんお誀魔化しお蚀っおいたのだろう。湯船に浞かっお心臓麻痺だなんお、滅倚にないはずだ。幌いながら䞍思議にずっず思っおいた事でもあった。
 この人たちの噂話を聞き、芋た事もない母方のおじいちゃんは銖を吊っお亡くなったんだず感じる自分がいた。思い出せば、おばあちゃんは䞀床だっお私におじいちゃんの生前の写真を芋せおくれた事がなかったのだ。
 自分の身内が自殺だなんお、孫に蚀えなかったのだろう。
 そう思うず、秘密を䞀人で抱えながら亡くなったおばあちゃんが、ずおも䞍憫に感じた。
 
 おばあちゃんが亡くなっおから十幎以䞊経぀。
 私は敎䜓を開業し、日々患者さんを斜術しおいた。
 ある日、よく来る垞連患者さんず酒を飲む機䌚があり、色々ずお互いの事を話し合った。その患者さんは、私よりひず回り䞊である。しかし、生掻感がたったく感じられなかった。ちょうどいい機䌚だず思い、結婚をしおいるのか聞いおみた。
「そういえば、波田さんっおご結婚されおいるんですか」
「あ、私ですか。実は今、独り者なんですよ」
 実は今ずいう蚀い方が劙に匕っ掛かった。
「倱瀌ですが、離婚されたっおいう事でしょうか」
「  」
 波田さんはそこでしばらく黙っおしたった。
「すみたせん。倱瀌な事を聞いおしたっお  」
「いえ、実は女房、自殺しおしたったんですよ」
「  。そうだったんですか  」
 波田さんは、ずおも暗い衚情になっおいた。圓時を思い出しおいるのだろうか深い悲しみ。それは私がいくら考えおも到底及ばない。沈んだ瞳は、蟛さを物語っおいた。
「普通に仕事しお垰っおきたら、郚屋で銖を吊っおいたんです  」
 そう蚀っお波田さんは黙々ず酒を飲み続けた。
 
 波田さんず知り合った同時期に、ネット䞊を通じお知り合いになった小説家がいた。その人も偶然な事に波田さんず同じ幎で、私よりひず回り幎䞊である。
 䟡倀芳が合うずいうか性栌が䌌おいるので、よくお互いの近況を話し合った。䞍思議に思ったのが、奥さんの話がたったく出おこない点である。倱瀌を承知で聞いたが、波田さん同様、過去に奥さんが銖を吊っお亡くなったず、その小説家は静かに蚀った。
 同時期に知り合ったひず回り幎䞊の二人。
 その二人ずも、奥さんが銖を吊っお亡くなったずいう事実。
 私はここたで曞いお『銖吊り』ずいうキヌワヌドが繋がっおいくのが怖くなった。
『ブランコで銖を吊った男』。この䜜品は、どうやらこの蟺で執筆をやめおおいたほうがよさそうだ  。
 私はそうしたほうがいいず本胜的にそう感じ、この䜜品に぀いお関わるのをやめた。
 
 埌日、䟋の霊媒垫から蚀われた事があった。
「ただ数幎埌でしょうけど、あなたはいずれ『倩䜿の矜を持぀子』、そしおさらに先の話ですが、『神の棲む家』ずいう䜜品を曞くでしょう」
 圓然心圓たりはあった。己の過去を振り返り、自分ず向き合う為の䜜品が『倩䜿の矜を持぀子』。本圓のテヌマは私の根底に深く根付いおいる憎悪の浄化である。以前この題名で䜜品に挑戊した事があったが、原皿甚玙千六癟十枚たで曞きながら途䞭で頓挫した。自分をテヌマにしおしたうず、いくら曞いたずころでキリがない事に気付き、『新宿クレッシェンド』の続線である『新宿プレリュヌド』以降の䜜品などず話が被っおしたう恐れがある。よっお今は断念しおいた。
 そしお『神の棲む家』  。
 過去二床に枡っお茪廻転生をテヌマに曞いおみた事がある。䞀぀は『矀銬の家』であり、原皿甚玙癟五十二枚たで曞きながら䜕故か途䞭で断念。次に『その先に芋えるもの』ず題名を倉え、原皿甚玙で九十二枚たで曞くも、今の自分ではただこのテヌマを曞くには早過ぎるず感じ、たた断念する圢ずなっおいたのだ。
 ただただ他の䜜品を曞き続けおいる内に、自然ずこの二䜜品は勝手に生み出されるのだろう。そんな気がする。
 いずれにせよ、『倩䜿の矜を持぀子』ず『神の棲む家』は、ただ今の俺では完成たでもっお行けないのだ。ただただ粟進が必芁である。
 
 ここたで曞いお原皿甚玙䞉癟十䞉枚。曎新した日時は䞉月十䞉日  。
 奇劙な偶然に、劙な薄気味悪さを芚えた。
 䜕か嫌だな  。
 私はもう少しだけ加筆する事にする。
 
 珟圚、霊媒垫のずころぞ行った圌女ずは別れ、今も俺は小説を曞き続けおいる。そんなある日、幌銎染の同玚生ずバッタリ出くわした。
 その幌銎染ず食事ぞ行った時の事である。
「ねえ、岩䞊。あなたの埓兄匟で○○さんっおいたでしょ」
「ああ、それが」
「私さ、○○さんが岩䞊の埓兄匟だなんお子䟛の頃知らなかったんだけどさ。倉な噂を聞いたの」
「噂 䜕の」
「いや、ちょっず蚀いづらいんだけど  」
「䜕だよ ここたで蚀っおおいお」
「いや、○○さんの 、あ、岩䞊のおばあさんでもあるんだっけ。その旊那さんの話なんだけど  」
「  」
 幌銎染の話を聞いた俺は非垞にショックを受けた。たたこれで䞀぀䜕かが繋がった。そんな気がする。ここでそれを曞こうずは思わない。この話は俺が心の奥底にしたっおおき、墓堎たで持っおいく事にしよう  。
 もうこれ以䞊、この䜜品に関わるのはやめたず決めたはずである。やるせなさを感じた。
 
 この埌、䜙談ではあるが、私の凊女䜜である『新宿クレッシェンド』は、霊媒垫の予蚀した通り、二千䞃幎の倏に『第二回䞖界で䞀番泣きたい小説グランプリ』を運良く受賞し、珟圚、党囜曞店やむンタヌネットにお発売されおいる  。 


―了―

䜜者 岩䞊 智䞀郎

 ãƒ»ã€Žãƒ–ランコで銖を吊った男』を幎月日より執筆開始
幎月日の日間で原皿甚玙枚ずしお完成
 
・続線の『䜕故、この俺が 』を執筆
幎月日より執筆開始
幎月日の日間で原皿甚玙枚ずしお完成
 
䞊蚘二䜜品を合䜜ずしお線集
・『ブランコで銖を吊った男』
幎月日より執筆開始
幎月日の日間で原皿甚玙枚ずしお加筆
 
・『ブランコで銖を吊った男』
幎月日にさらに加筆し原皿甚玙枚ずしお完成
 
・『ブランコで銖を吊った男』
最終調敎日時幎月日
原皿甚玙枚ずしお完成だったが、䞊蚘日付ず原皿甚玙枚数が同じで薄気味悪くなり、枚たで加筆しお終わりにする



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