
竹中半兵衛は二度殺される 第11章
あらすじ
稀代の軍師・竹中半兵衛は病死ではなく、殺害されていた!?
全て実在の古文書を引用し、戦国時代の裏側を推理する歴史ミステリー。
竹中半兵衛を卒論のテーマに選んだ大学生とその友人の会話。
『黒田家譜』と古文書を突き合わせた時に生まれた些細な疑問。
史料を探し研究を進めると竹中半兵衛の殺害疑惑が浮上する。
さらには『豊鏡』の不自然さ。『信長公記』に隠された謎。
そこから浮かび上がるひとりの武将。
忖度された通説が覆い隠す、本能寺の変直前までの歴史の謎に迫る。
第11章 忖度される歴史・卒業論文
死後、創作物に英雄として描かれるのは嬉しいだろう。
しかし真実が隠され、必死に生きた軌跡が抹殺される。
本来の人格が消され、嘘に置き換わる。
これもまた、歴史における殺人と言えるのではないだろうか。
◇
「それにしてもさ。信長や秀吉、竹中半兵衛や黒田官兵衛、それを取り巻く人たち。実際にはどんな人たちだったと思う?」
「信長は冷酷な第六天魔王で、太閤秀吉は知恵が回る人たらし。そうでないとテレビではウケないかな」
「ウケるウケないは関係なく、リアルに生きた人間としてだよ」
「ウケない真実は抹殺されるんだよ。テレビや雑誌は金にならなきゃ存在できない。学会だって地動説を受け入れるのに時間がかかるもんさ。たいてい恩師に忖度するからな」
「いまだ『信長公記』がバイブルなんだもんな。疑うべからずか。はぁ~」
「そのラスボスがお前の指導教官だろ」
「何で僕の ”始まりの村” にラスボスがいんだよ。理不尽だろ」
「ゲームバランス崩れてンな。はは」
「桶狭間前の信長はこんな気分だったのかな」
「おっ、まだ勝つ気なんだ」
「ほっとけ。お前はどうなんだよ?」
「家康。いや違うな。今川氏真。俺は文化人だからな。長い物に巻かれる」
「嘘つけ」
「冗談はそれくらいにして、信長って中小企業の経営者って感じだったんだろうな。それも結構なやり手」
「それは間違いないだろうね。で、組織を大きくした良い経営者」
「良い経営者か、それはどうかな」
「どういうこと?」
「中小零細だった時は自分で戦略を立てて自分で実行した。戦場に立って指揮した。でも多分、大きくなり過ぎたんだよ」
「大きくして何が悪いの?」
「領地が増えるってことは、企業で言えば、お得意様が増えて、それぞれ個別の対応が必要になる。手間が増えるってこと。
それなのに世間が放っておいてくれなくなる。足利義昭を追放した後は、信長は嫌でも、朝廷に関わる仕事をしなければならなくなるだろ?これって有識者会議やら経団連、他社の社外取締役やらを兼任するようなもの。自分の領地に割く時間がどんどん少なくなる」
「そうか、だから、官職をする代わりに家督を織田信忠に譲った」
「ところが織田信忠は力不足。そこで古参の番頭達がサポートする体裁で実権を握っていく。派閥争いが本格化する。
織田信忠に上がってくる情報は番頭達の都合の良い情報だけ。それで秀吉の横暴な本性が剥き出しになったんだろうな」
「だから、別所長治や荒木村重の謀反が起きた」
「多分な。人数の少ない中小企業なら現場の情報は正確だし社員も把握できる。社長判断で何でもできる。しないといけない。
しかし、大企業になると社員一人ひとりの顔や性格まで把握できないし、情報はフィルタがかかる。細かい戦術にも口出しできなくなる」
「信長の強みは領地経営や戦術指揮、局地戦。それすら情報が偏っていたら議論にならなかっただろうね。番頭達、宿老達から報告を受けるだけ」
「あぁ、さらにその宿老達の影響力が大きくなると、大きな派閥ができる。謀反が怖くて強権発動できなくなるだろ」
「それを象徴したのが、柴田勝家と秀吉が喧嘩して戻ってきた一件ってことなのか」
「多分そういうこと。その一件は天正五年だったよな。信長が家督を譲って2年後。松永久秀の謀反もその直後だよな。
だから本来、組織がある規模を超えるとマネジメントの仕組みが必要になるんだ。それなのに中小企業のマネジメントのまま織田信忠に放り投げた。2年もあれば、織田家は変わってしまっただろうな」
「トップが変わって、織田家は信頼できなくなったということか」
「派閥争いで分裂しかねない状況だったかもしれないな」
「それで別所長治が謀反をおこした。
”羽柴筑前守にたいし存分之れ有り” ってね」
「そういうことだろうな。やり手社長が引退して、二代目社長が引き継いだけど力不足。一部の古参を贔屓して、優秀な人材を活かせない。その上、先代との約束は反故にされて、組織全体に不満が溜まっていった」
「だから信長は右大臣を辞めて、織田家に戻った」
「多分な。しかし別所長治謀反の後だよな。遅いよ。もはや以前のようにはできなかったんだろう」
「言われてみれば、中国攻めでの信長は裸の王様。信長が三木まで来たという話はなかった。行こうとしたけど家来衆に止められてる。桶狭間や村木砦の時は強行したのに、この頃は家来衆に止められて動けない」
「力関係が変わってしまったんだろうな。そんな状況で竹中半兵衛は与力なんだろ。お飾り社長の直下から派遣されたプロジェクトのサポート要員ってところだよな。厳しいよな」
「そうだろうね」
「指示は秀吉からで逆らえない。その上、社長に報告義務があるような感じかな。ただし、秀吉をスキップして織田信忠や信長に直接報告するのはリスクがあっただろう」
「どうして?」
「佐久間信盛は監視されていた、行動を報告されていただろ。もし、佐久間信盛をハメたのが秀吉なら、竹中半兵衛が直接報告するのを嫌う筈なんだ」「でも、それは仕事の一部だよね?」
「自分が悪意で仕向けていたことを自分にされると、誰かの悪意だと認識するんだよ。それが規則でも。
簡単に言えば、例年通り会計監査しますって言ったら、俺を信用できないのかって怒りだすような相手ってこと」
「うわぁ。嫌な感じ」
「それができるのが戦国時代だろ」
「まぁ、・・・そうだね」
「それでこれまでの推理に、何か矛盾する史料とかないのか?」
「無いと思うけど」
「軽くレビューしてみるか」
「そうだね。まず信長が家督を譲って、秀吉が好きに横暴をはたらける状況になった。それで別所長治や荒木村重が謀反を起こした。
そんな状況で荒木村重に黒田官兵衛が幽閉される。秀吉は裏切られたと激怒して、信長に報告する。”裏切られた”って。
報告を受けた信長は、”人質を処刑するのは仕方無い”と了承する。そして秀吉は竹中半兵衛に松壽丸を殺すように命令した。
竹中半兵衛は秀吉の指示に従わないといけない。でも、その指示が間違っているという確信が竹中半兵衛にはあった。
そこで竹中半兵衛は松壽丸を殺さず、自ら命を絶った別の子供の首を秀吉に渡した。秀吉は裏切り者に罰を与えたと、得意満面に信長に報告し、信長もそれを信じた」
「そうだろうな」
「ところが、そこへ黒田氏家臣が起請文を出してきた。それが十一月五日。松壽丸を処刑した事がバレたら、黒田氏家臣団が寝返る。これはマズイと、十一月十一日秀吉は嘘の書状をしたためた。
もし、黒田官兵衛が裏切っていない時には、竹中半兵衛に責任を負わせれば良いと思っていた」
「ああ、ところが翌年の四月、シナリオが狂った」
「竹中半兵衛は京都に戻ると信長に直訴して説得してしまう。信長は黒田官兵衛の忠義を信じるようになり、涙を流す。そして松壽丸の生存を知った」
「ここまでが書状の示す流れだな。
それで竹中半兵衛が秀吉の知らないところで信長を直接説得してしまっただけでなく、松壽丸の首も偽物だったことを知る。秀吉が先に出した書状の嘘もばれてしまう。立場がない。
秀吉はひどくプライドを傷付けられ、竹中半兵衛に殺意を持った」
「丁度その頃、毛利方から寝返ろうとしていた宇喜多直家の配下として小西行長が秀吉の配下になる」
「そうだな、例えば、寝返る条件として宇喜多直家に竹中半兵衛を殺させた。『信長公記』の謎解きが正しいなら、実際の実行犯は宇喜多直家の配下の小西行長」
「それで斬った跡を見られるとバレる。遺族に遺体を見せられないから近くの寺に埋葬した。遺品も分配してしまう。証拠隠滅」
「それって、誰に何を分配したんだ?」
「秀吉には金の切り裂き馬印。山内一豊に虎御前の太刀。黒田長政に采配。福島正則には一の谷兜。って言われている。
でも、これも変だよね。黒田長政は松壽丸。まだこの時、美濃に匿われている。死んだことになっている。黒田官兵衛は荒木村重に囚われたまま。だから竹中半兵衛の死に際して分配したと言われているけど、それはない。
秀吉が全部持っていて、その後の武功に合わせて分配しただけ。死に際して分配したというのは嘘」
「そっか。そして遺体が戻ってこない。それが安藤守就に疑念を持たせた」
「僕だったら遺品の分配だけでも疑うよ。自分が相続すべき遺産を盗まれたって思う。で、安藤守就は、織田信忠の教育係の林秀貞にも相談した。羽柴秀吉の上司は織田家棟梁の織田信忠だからね」
「後任の弟、竹中久作も疑問を持ったかもしれないな。”雑説” を聞いただろうしな。安藤守就は竹中久作から話を聞いたのかもしれない」
「でも、その竹中久作も本能寺の変のどさくさの中で死んでしまって、真実は分からない」
「竹中久作は『豊鏡』で秀吉に貶されているから、暗殺かもしれないな」
「かもしれない」
「で、天正七年十月には佐久間信盛が、別所長治と荒木村重の助命を進言したんだよな。でも助命は却下」
「うん。秀吉が助命を認めないからね。秀吉は自分に逆らった別所長治が苦しむのを眺めてざまぁみろと思っていた」
「言い方ぁ・・・」
「それで荒木村重も別所長治も落ちて、物資の補給ができなくなった本願寺は石山本願寺から退去。一連の戦いが終結した」
「秀吉はこれを織田家の派閥抗争に利用した、って考えてるんだよな」
「うん。別所長治と荒木村重の助命を進言した佐久間信盛は本願寺と通じていると讒言し、それを信じた信長は佐久間信盛とその子・信栄を追放した。本願寺との長期戦を、佐久間信盛が本願寺と通じてたからだと断罪した。
同時に、竹中半兵衛の死因に疑問を呈した安藤守就と林秀貞を追放した」「結局、どちらも秀吉に関係している話になるんだよな」
「佐久間信盛の追放に明智光秀は異議を申し立てたんじゃないかな。確か、佐久間信盛の部下は、ほとんど明智光秀の下に入ったから、話の真偽は知っていただろうから」
「多分そうだろうな」
「信長が意固地になっている間に、いや、秀吉を擁護している間に1年近く経って天正九年八月、佐久間信盛が十津川村で死んでしまう。佐久間信盛が死んで、取り返しがつかなくなった。
信長にも ”もしかして” っていう思いがあったのかもしれないね。慌てた信長は高野山に証拠を求めて使者を送るけど殺害される」
「どうせ、送られた使者は秀吉の息のかかった者たちだっただろうけどな。そのために証拠隠滅を企てて逆に討たれたとか」
「有り得るね。信長の周りは秀吉派閥だから。それで遺品回収できなくて怒った信長は、佐久間信盛の冤罪を主張する明智光秀を引き連れて高野山を攻めた。物的証拠で白黒はっきりさせようとした」
「しかし、佐久間信盛の残した書状を見て信長はガックリ。後悔する」
「苦しい時を一緒に乗り越えてきた幼馴染ですら信用しない。そんな信長に明智光秀は強い不信感を持っただろうね」
「信頼関係を築くのは時間がかかるけど、失うのは一瞬だからな」
「それで結局冤罪だったから、佐久間信盛の子・信栄の帰参は許され、織田信忠の直下についた。
追放された理由が違うから、安藤守就や林秀貞は帰参が許されなかった」
「一応、理屈は合うな」
「一方で、次に派閥争いで殺されるのは自分だと思った明智光秀は、その後の天正十年二月、武田勝頼に内通を打診している。でも無視された」
「えっ、そんな話があったの?」
「甲陽軍鑑にある」
とかく名門の家で武道が衰えるのは、その家が滅亡する前兆である。勝頼公も、明智十兵衛がこの二月より謀反を企てる旨を伝えてきていたのに、長坂長閑の判断で謀略をたくらんで明智と一つに組み実行に移さなかったために、武田勝頼公の御滅亡となったのだ。
「ふーん。そうなんだ。俺も甲陽軍鑑も読まないといけないな」
「そして、本能寺の変が起きた。本能寺の変が起きて織田信長が殺される。娘聟を秀吉に殺されたと疑う安藤守就は明智光秀につこうとしたが、稲葉良通に討たれてしまう」
「黒田官兵衛は秀吉についているよな?おかしくはないか?」
「もし、黒田官兵衛が十分な人数の独立部隊を率いていたなら可能性はあったかもしれないけど、秀吉の幕閣にいて、隣の席で反旗を翻すことはさすがにできないだろ?」
「それはそうだな」
「それに竹中半兵衛が殺されたかもしれないという噂があっても、それを秀吉の指示という事までは考えていなかったのかも」
「そうか。俺たちは秀吉の動機に気付いたことから始めて、『信長公記』の記述から小西行長実行犯を推理した。
しかし、黒田官兵衛は違う。まず、幽閉の後遺症からのリハビリ。それから竹中半兵衛殺害の噂を知って気を使いながらの調査。黒田官兵衛の手元には『信長公記』はない。実行犯や黒幕まで辿りつけたかどうか分からない」
「”雑説”を知る牢人たちは磔にされて殺されてるしね。話を聞こうにも聞けない」
「いや、むしろ、秀吉が黒幕と気付いたとしたら、家族や一族が人質みたいなものだから従わざるを得ないだろ。あの秀吉の書状は、噂をしただけで磔にすると脅しているのと同じなんだから。
松壽丸を助けるために竹中半兵衛が命を落としたのに、松壽丸や一族が殺されてしまったら無駄死にになってしまう」
「黒田官兵衛は合理的に考える人だから、秀吉の嘘に乗っかって機会を待つことにしたとすれば、分かる気がする」
「そうだな。黒田官兵衛は、噂は聞いたけど確証を得られないまま時間が過ぎていった、と考える方が自然だな」
「うん。そして、すぐに秀吉の天下になる。秀吉は天下を取ると、太田牛一に『太かうさまぐんきのうち』を書かせ、竹中重門に『豊鏡』を書かせる。太田牛一は忖度して『信長公記』にいろいろ手を加えて改ざんした。秀吉の機嫌を損ねたら処刑されるからね。
それでも太田牛一は、トピックスのように話を作って、いくつかの噂話を潜り込ませた。もしかしたら、噂ではなく豊臣秀吉から何か聞いていたかもしれないしね」
「それで今の人たちは、改ざんされた『信長公記』や、秀吉によって作られた『豊鏡』が正しい歴史だと思い込んでいる。そう言いたいんだろ」
「うん。もっと前から先入観や忖度無しに・・・、いや違うか。当時の忖度を考慮して古文書やその内容を検証する習慣があったら、歴史認識は大きく変わってたかもしれないとね。
まぁそれはおいといて、おそらく当時、竹中半兵衛が小西行長に殺されたかもしれないって噂は残った。少なくとも竹中家と黒田家には」
「いや、竹中家は違うだろう。当初、西軍だったのが、黒田長政に説得されて関ケ原の合戦直前に東軍に移ったからな」
「えっそうなんだ。まだまだ僕も勉強不足だね。じゃぁ、やっぱり竹中重門は秀吉に恩義を感じてたんだ。安藤守就も弟の竹中久作も死んでるから話は残らなかったんだ。
それで『豊鏡』つまり豊臣秀吉の自慢話を事実だと信じた竹中重門は西軍だった。でも黒田長政は黒田氏家臣から話を聞いて経緯や、竹中半兵衛暗殺疑惑を知ってる。その黒田長政が幼馴染の竹中重門を説得した。それで竹中重門は東軍についた」
「そんな感じだな。それでようやく、関ケ原の合戦で黒田官兵衛と竹中重門が東軍。小西行長は西軍」
「黒田官兵衛は小西行長の居城の宇土城を攻め落とし、小西行長は関ケ原の合戦で負けると竹中家に自首、六条河原で処刑された」
「納得できたか?」
「うん。スッキリした」
「でもこうして振り返ると、太田牛一に感謝だな。『信長公記』にヒントを潜り込ませてくれたんだ。それも命がけだったはずだろ」
「そうだね。それがなければ小西行長に行き当たらなかった。モヤっと感はモヤっとしたままだった。まぁ、また新たに古文書が発見されたりしたら、また変わるかもしれないけどね」
「そう言えば、太田牛一を詐欺師なんて、ほざいたのは誰だっけかな」
「そうだったね。ごめんなさい」
「ふっ、ははは」
「・・・はははっ」
「それにしても織田信長と豊臣秀吉のイメージが随分崩れたな」
「いいだろ?こんな織田信長のイメージ。小説やドラマになったら、それなりにインパクトはないのかな?」
「インパクトはあるかもな。しかし、そういう織田信長はウケないだろな。織田信長はエラそうで、頭が良くて合理的で、冷酷で残酷な英雄。そういうステレオタイプな織田信長。雑誌だけでなく、マンガも小説も、そうでないとウケないんだよ。織田信長は一種のブランドだからな。出来上がったイメージを守りたいんだ」
「ウケないか。『信長公記』はバイブル。疑う事勿れ、だったね」
「それでどうするんだ。この考察」
「そうだねぇ、当面はフィールドワーク、史料探し。でも、卒論は稲葉山城奪取が中心かな」
「どうして?」
「決定的な証拠がないからだよ。それに『信長公記』批判。これでは卒業できない。指導教官は太閤様。忖度しないと無期限の晒し首になる」
「それで納得できるのか?」
「モヤモヤがスッキリしたから、とりあえず満足」
「お前が満足したなら良いけど。
なぁ別の先生に相談したら?良い先生はいるだろ?」
「いるね。うちの大学じゃないけど」
「だったらさぁ」
「いいんだよ。別の大学行ったら、グダグダ相手してくれるおバカがいるとは限らないし。そもそも決定打になる証拠がないんだから同じだよ」
「もし、竹中半兵衛の遺骨から刀傷が発見されたら?」
「それが見つかったら大発見だよね。その時は論文発表するよ。でも、それはないと思う」
「何故?」
「必要性がないから。墓を掘り返したら英雄に対する冒涜だって反対されるよ。それに遺骨はもう掘り返されて存在してないかもしれない。仮にあったとして、本人の遺骨かどうか、どう判断したらいいか分からない」
「そうか。そもそも隠すつもりなら、本物の遺体は別の場所に埋めるよな。『信長公記』の糸屋の娘は宗派の違う寺に運んだんだったな。それは確認できるとは限らない。
でも、もし本当に竹中半兵衛が殺されていたら、救われないな」
「たしかに。歴史的にも殺された事実が消されてることになるしね」
「俺だったら嫌だな。自分を殺した嫌な上司が、”あいつはいい奴だったのに病気で死ぬなんて” って、仲間面してウソ泣きするんだろ。うぇぇ、最悪」
「それでもまだ、歴史的には英雄扱いされているからマシなんじゃないか。実行犯の小西行長は、嫡男の竹中重門が捕まえているし。きっともう救われているよ」
「それはそうだけどさ。お前は良いのか?結構手間かけたよな」
「僕はゼミの隠れキリシタンだから」
「は?バイブルを信じない隠れキリシタン?」
「言われてみれば、そうだな。ジョークがきいてて悪くない」
「チクショー、何を踏み絵にすりゃいいんだぁ」
「うわぁ棒読み」
「指導教官が太閤殿下だっていうならお前は太田牛一だよな。太田牛一が『信長公記』に暗号を隠したんだから、卒論に暗号を仕込むとか、何かやってみたら面白いんじゃないか?」
「そうだな。それ面白いな。なんか、太田牛一が好きになってきた」
「俺もだ」
「ははは。とりあえず、飯にするか」
「だな」
(おわり)
目次:竹中半兵衛は二度殺される
第1章 生まれる疑問・貝原益軒
第2章 創られる冷酷・織田信長
第3章 隠される残虐・豊臣秀吉
第4章 流される涕・松壽丸
第5章 立たされる窮地・竹中半兵衛
第6章 利用される嫡子・竹中重門
第7章 隠される暗号・太田牛一
第8章 疑われる切支丹・小西行長
第9章 追放される義父・安藤守就
第10章 操作される情報・佐久間信盛
第11章 忖度される歴史・卒業論文
・戦国歴史小説:現代の経営戦略で視る新解釈 織田信長「歸蝶の戦国記」
『竹中半兵衛は二度殺される』の背景となる物語。
古文書などを200回以上引用しながら(特に3章以後)
戦国時代と(覇王ではない)織田信長の真の姿を読み解く。
・科学エッセイ:科学と哲学の間で道草してみた 全編目次
創作大賞2026応募版 : 観測する孤独 、 生命の物語
参考資料・引用文献
『信長公記』 太田牛一・著、中川太古・訳
『甲陽軍鑑』 腰原哲朗・訳
『大日本史料 第十篇』 東京帝國大學文学部 史料編纂所編集
『多聞院日記』 多聞院・著
『豊鏡』(『群書類従 合戦部十一』) 竹中重門・著
『織田軍記』(『総見記』) 遠山信春・著
『太かうさまぐんきのうち』 太田牛一・著
『佐久間軍記』Wikisource
『播州三木別所記』 加古川総合文化センター図書館蔵
『黒田家文書』 福岡市博物館・編
『黒田家譜』 貝原益軒・著
『織田信長文書の研究』 奥野高廣・著
『織田信長文書の世界』 永青文庫/熊本大学永青文庫研究センター・編
『織田信長文書の古文書』 山本博文・堀新・曽根勇二・編
『豊臣秀吉文書集1』
『戦国大名の古文書』 山本博文・堀新・曽根勇二・編
『岐阜県史 史料編 古代中世』
『兵庫県史 史料編 中世』
『新三木市史 第四巻 資料編 古代・中世』
『不破郡史 上』
『「戦国武将書翰集」の世界』 水戸市立博物館 特別公開 配布資料
『小西行長』 鳥津亮二・著