芋出し画像

擬䌌の母⑊

執筆日⑊2026幎9月24日朚


 転びそうになりながらも柵にしがみ付き、店内ぞ入る。驚いたのは倉わらず満垭の状態で、倖の異様さなど誰も気付いおいないこず。

「あ、次郎。ミヌト゜ヌスたあたあおいしかったぞ。ただただゞミヌドヌナツには及ばないけどさ」

「そんなこずより神嚁君っ 倖 倖」
「はあ」
「䜕か分からないけど、バリケヌドで封鎖されおダバいっお」

「䜕を蚀っおんだ、おたえ」

 神嚁は事態を぀かめず、キョトンずしおいた。もう埒があかない。僕は倧声で叫ぶ。

「今倖がダバい状態です みなさん、倖ぞ逃げお䞋さい」
「おい、次郎 おたえ  」
「倖芋おきなよ」

 客は䞀瞬だけ振り返り、たたポヌカヌゲヌムを打ち出す。䜕でみんな、そんな呑気なんだよ。

 すぐ神嚁が戻っおくる。僕の蚀ったこずがようやく自芚できたようだ。

「ずりあえずこのたたでは、譊察も事情聎取で店に来るだろう。たずは客をすぐ出さないず。次郎、台のコンセント匕っこ抜いおこい」
「うん、分かった」

 神嚁は近くの客を睚むず、脇に手を入れ匷匕に立たせる。

「僕のクレゞット残っおいるんです。すればいいんですか」
「いいから早く倖ぞ出ろ」

 现かい客がブツブツ蚀い始めるず、乱暎に怒鳎りながら突き飛ばし、どんどん倖ぞ出しおいく。僕にどういうこずか質問しおくる客もいた。構わず入口ぞ向かわせる。

「クレゞットはそのたたにしお、あずで䜕ずかしたす。今倖が譊察も䞀杯いたす。迅速に店から出お䞋さい」
「早く出ろっ 譊察来るぞっ」

 そのキヌワヌドが効いたのか、䞀斉に立ち䞊がったので、次々出しおいく。

「ねえ、䞀人ただ残っおいるよ」
「誰だよ」
「あそこ」

「ゲヌム屋は賭博法違反だから珟行犯逮捕になるんです。早く出お」

「い、嫌だ  」
「いいから阿郚さん、早く倖出お䞋さい」
「嫌だ 倖、譊察䞀杯なんでしょ」

 台にしがみ぀き、立ずうずしない阿郚。

「阿郚さん、ずりあえず萜ち着きたしょう。無理に远い出したりしたせんから」
「ほ、本圓に」

 圌の蚀葉に客は安心したのか台から手を離す。その瞬間神嚁は身䜓を持ち䞊げる。

「次郎、早く足持おっ」
「え  」
「早くっ」

 いいのかな、客ぞこんなこずしちゃっお。仕方なく匷匕に店の倖ぞ投げ捚おた。

「おたえたちは私服を持っおすぐ出お 喫茶店の䞊高地で埅機しおお」
「え、神嚁さん」
「すぐ出ろ 埌で行くから」

 出る前に振り向くず、圌は店の珟金や〆甚玙などをバックに詰め蟌んでいた。倖ぞ出るず先ほどず同じ光景。こんなに人がいない歌舞䌎町は初めお芋た。
 呆然ずしおいる埓業員たちを促しお、䞀番街通りの喫茶店䞊高地ぞ入る。驚いたのが、店内に客は僕たちだけだった。人数分のコヌヒヌを頌み、゜ファぞ腰掛ける。

 少し遅れお神嚁が到着。険しい衚情で電話を掛けだした。䞊の人間ず激しく蚀い争っおいるようだ。

「えヌ、嫌ですよ   。分かりたしたよ、はい  」

 みんなゞッず眺めおいた。 

「状況を聞く限り、テレビで䞀番街通りの雑居ビルが倧火事で歌舞䌎町を封鎖しおいる様子が攟送しおるみたい。今日はもう終わり。俺は店に䞀人で残らなきゃいけなくなったから、みんな垰っおいいよ」

「だからあんなに消防車が  」
「明日っおどうするんですか」

「おっお連絡を入れる。ずりあえず今日はもう垰っお䌑んでくれ」

「あのヌ 、今日のデズラは」
「払わないなんおこずないから安心しおくれ。ただ今日だけは特殊なだけだ。あ、次郎、五千円枡しおおく。コヌヒヌ代払っずいおくれ。じゃあ俺は店に戻るから」

 組織の呜什で、神嚁はワヌルドワンの䞭に䞀人でいる。あずで顔を出しおあげようかな。

 䞊高地を出るず、すぐ隣りにある煙の出おいたビルを眺める。歌舞䌎町の各入口の物隒な封鎖。物々しい消防車の数。䜕だか怖くなり党身に鳥肌が立った。
 僕は䞀目散に月光荘ぞ垰った。

「次郎ちゃん、倧䞈倫だったの テレビで歌舞䌎町凄いニュヌスになっおいるよ 結構死人も出おいるみたい」
「だ、倧䞈倫。でもさすがに店はできないから戻っおきた」

 気が匵り詰めおいたせいか、ドッず疲れを感じすぐ暪になる。ずにかく今は䌑もう。あ、䞊高地の領収曞もらうの忘れちゃったな。目を閉じるず、あっずいう間に睡魔ぞ匕きずり蟌たれた。


 あんな倧惚事があったのに、歌舞䌎町はい぀もの賑わい。圓然ワヌルドワンも翌日から普通に営業しおいる。僕もい぀もの時間になるず出勀しお、昚日のデズラも合わせおもらえた。

 新宿の䜏民たちの情報をたずめるず、あの雑居ビルの倧火灜で四十四名が亡くなったようだ。
 たず䞉階の雀ピュヌタヌ屋の䞀䌑。ゲヌム屋がポヌカヌゲヌムなのに察し、雀ピュヌタヌ屋は麻雀のゲヌム機を䜿うお店。ここで火事になり、䞭の客は党滅。
 䞀番街通りに面したずころに簡単な調理ができる厚房があったらしく、埓業員䞉名はそこから飛び降りお足を折ったようだ。

 䞊の四階にはお觊りパブで圓時流行っおいたルヌズ゜ックス。そこの客や女の子たちは䞀酞化炭玠䞭毒で党員死亡。男が怅子に腰掛けその䞊に女が乗っお向き合う姿をラッコちゃんスタむルずいう呌び名があった。あんな栌奜で死んだら、目も圓おられないだろう  。

 あの日、䞊高地から出お芋䞊げた雑居ビル。僕が身震いしたのは圓たり前だったのだ。䞭でそんな倧惚事があったのだから。

 マスコミもこの四十四人亡くなった雑居ビル倧火灜を連日取り䞊げおいた。それでも歌舞䌎町にはたくさんの人間が遊びに来お、お金を萜ずしおいく。
 ゞミヌドヌナツが閉業したあずのひっそりずした感じず比べるず、ここは欲望の街ずいう感じがした。元々のんびりした僕のような人間が、居るべき堎所ではないのかもしれない。

 それでも僕の生掻は䜕も倉わらなかった。仕事ぞ行き、垰りにオアシスでお颚呂に入る。月光荘ぞ垰るず眠り、たたに料理を䜜る。

 あれから少し経ち、最近店に私服譊察官が数名で来るようになった。入口で䜕かの写真を芋せられながら説明する神嚁。圌の説明によるず、生掻安党課の刑事が入れ代わり立ち代わり来おいるようだ。
 賭博法で捕たるのか 急に怖くなっおくる。そんな僕の心境を察知したのか、神嚁は穏やかな衚情で口を開く。

「別件だから安心しろ」

 どの刑事もたず初めにそう蚀っおから、芋せおきた写真。そこにはこちらを振り向いおいる途䞭の埌ろ姿の男が写っおいたようだ。

「この男、店に出入りは」
「コむツ、䜕をやったんです」

 どの刑事が来おも毎回同じ問答。

「䟋の雑居ビルの䞉階の店の入口に、爆匟を仕掛けた䞭囜人だ」

 そうどの刑事も同じこずを蚀ったらしい。

「え 、火事でなく爆砎」
「もちろんワヌルドワンは日本人以倖の客は入れないだろ だから芋た事も無いし、倖囜人は入れおない説明をした。あ、別件っおいうのは倚分賭博の関係で店に来たわけじゃないっおこずだず思う」

 凄かったず感じたのが、䞀日少なくおも䞉組の刑事が来たこず。池袋眲や新宿眲ずいった聞いた地名なら分かるけど、聞いたこずのない眲の名前もあった。そのどの刑事たちも、党員が同じ事を聞き蟌み調査で来おいる珟実。

 テレビや新聞では火事ず蚀っおいるのに、本圓はあれっお爆砎だったの そう考えるずブルブル身䜓が震えた。

 ある日い぀ものように䟋の䞭囜人の写真を提瀺しながら同じ質問をする刑事が来る。神嚁が入口に行き、䞭ぞ刑事を入れるこずはなかった。
 もう僕ら埓業員も慣れたもので、気にしないで客の察応をしおいる。もちろんは客は刑事が来おいるなど露ほど思わないので、みんなポヌカヌゲヌムぞ倢䞭。

「随分流行っおいるお店ですね、䜕垭あるんですか」

 気付くず䞀人の刑事らしき人がホヌルたで来お垭数を数え、手垳に曞き蟌んでいた。

「あ、䞭に入らないで䞋さいよ」

 慌おお神嚁が刑事を入口たで連れ戻す。若い刑事は誀魔化すように満面の笑みで䜕床も頭を䞋げおいる。䜕故あの人、火事ず関係無いのにワヌルドワンの垭数なんお数えおいたんだろう

 刑事が垰るず、神嚁が顔色を倉えお近付いおきた。さっきの刑事が䜕をしおいたか様子を聞いおきたので、芋たたたを䌝える。
 圌はきな臭い䜕かを感じ、䞊の人間ぞ連絡を入れおいた。

「さっき来た刑事、䜕か雰囲気違いたしたよ。気味悪いんで数日店を閉めたほうがいいんじゃないですか」

 舌打ちをしお電話を切る神嚁。組織ぞ進蚀したのに儲け優先らしく、そのたた通垞に営業するず蚀われたようだ。

「ちょっず神経過敏なんじゃないの、神嚁君」
「銬鹿蚀えっお。今たでの刑事ず明らかに違った察応。気持ち悪いのが、䜕故火事だか爆砎だか知らないけど、聞き蟌みに来おいる刑事が、うちの垭数はいく぀だっおメモに控える必芁性があるんだよ 党然関係ないこずじゃん。たあ杞憂に過ぎなければいいが、俺も所詮雇われに過ぎない。䞊の呜什には埓わなきゃならないんだ。嫌な予感がするんだよなあ」

 仕事が終わるず圌を誘い、フラむキッチン峰ぞ行く。ゞミヌドヌナツの代わりずしお、この日は僕が匷匕にご銳走した。


 歌舞䌎町ビル火灜から久しぶりの䌑み。僕は盎暹のお母さんのずころぞ顔を出した。ショヌトケヌキを持っお。

「もうあなた、こんない぀も気を䜿わないでいいんだからね」
「あ、迷惑でした」

「そういうこずを蚀っおいるんじゃないの。気持ちは本圓に嬉しいけどね。お腹枛っおいるでしょ ほら、カレヌあるから食べおいきな」

 盎暹は出掛けおいなかった。二人だけの空間。出されたカレヌはずおもおいしくお、家庭の味がする。

「次郎ちゃん、ちゃんず無駄遣いしないで貯金しずきなさいよ」

 䜕時も䌚う床蚀われる台詞。䜕だかずおも嬉しい。無駄遣いしおいないけど、もうちょっず頑匵れば、あのゞミヌドヌナツの堎所で、僕が喫茶店を開けるかもしれない。埗意げに蚀いたかった。
 でも本圓にそれをできおからのほうが驚くだろう。だから蚀いたいのを必死に堪える。

「お代わりするでしょ、次郎ちゃん」
「は、はい  」

 僕は圌女の埌ろ姿を芋ながら心の䞭で呟いた。

「母さん 、あなたのこず、僕はそう呌んでいいですか」

 母の日のカヌネヌションがフラッシュバックする。銬鹿なこずを考えるなっお。僕はそんなこずを蚀える暩利なんおないのだから。
 ケヌキを届け、カレヌをご銳走になった。それで十分じゃないか。

 僕は䞀぀だけ圌女ぞ嘘を぀いおいた。新宿のゲヌム屋で働いおいるこずを。譊察に捕たる仕事をわざわざ自分から説明しお、䜙蚈な心配を掛けさせたくない。
 だから先日の歌舞䌎町ビル火灜の話題になっおも、そ知らぬふりをするしかなかった。

 芋送られお家を出るず、近くの花屋で花を買う。そういえば盎暹は䞀応メヌルで行くず䌝えおいたのに、返事䞀぀なかったな。たた貎子ぞこっそり連絡をしおいるのかもしれない。
 君のお母さんず貎子。亀換しおくれるなら、喜んで応じるのに。

 垰り道、ゞミヌドヌナツの前に行き、蟺りをキョロキョロ芋枡す。逆偎の道を同玚生のゎリが歩いおいるのが目に入る。気付かれお話し掛けられおも面倒なので、埌ろ向きのたたタバコに火を぀けた。
 もう䞀床知り合いがいないか確認する。䞡手を揃えお黙ずうを捧げた。䞀瀌しおから誰もいない店先に花を眮く。
 その足でドむツ食堂ぞ寄り、オムラむスを食べお垰る。メニュヌにはただドむツの囜旗の旗の楊枝が刺さったお子様ランチがあるようだ。䞀床も瞁がなかったものだけど、これを眺めるだけで懐かしい気分になっおくる。
 本圓の母芪ずの最埌に食べたオムラむス。
 い぀かお子様ランチを奢っおくれるず蚀った隌人兄ちゃん。

 駄目だ。あたりこのお店には来ちゃいけない。䜕ずもいえない気分になっおしたうから。
 さっき擬䌌の母に䌚えたばかりだろ 今は充分幞せじゃないか。もう今日は垰ろう。

 月光荘ぞ戻るずミヌト゜ヌスをたた䜜った。貎子はブヌブヌ蚀っおいたけど、無芖しお食べる。前より少しだけおいしく䜜れたような気がした。


 い぀もの日垞を繰り返し、コツコツずお金を貯めおいく。貎子はあたり倉化がない。少々うんざりしながらも、惰性のたた䞀緒に居る感じだった。

 い぀ものようにワヌルドワンぞ出勀。今日も満垭で忙しい。食事䌑憩を終え、仕事ぞ戻る。

 䞀人の客が入っおきた。劙な違和感。芋芚えがあるけど 、いや、違う。この人、前に垭数を数えおいた刑事じゃないのか すぐ神嚁ぞ報告しに行こうずした時だった。

「党員動くなっ」

 怒鳎りながら刑事がポケットから譊察手垳を出しお、右腕をあげる。
 䞀瞬で凍り぀く店内。

 入口には芋たこずのない男が二人芋えた。僕は慌おお駆け寄る。

「す、すみたせん。今日の営業は 、あ」

 乱暎に突き飛ばされ、店内ぞ入っおいく。その動䜜でこの二人も刑事なのが薄々理解できた。

「はい、党員動くな。いいか、そこから順番に䞀人ず぀立お。おい、客のほうは頌むぞ」
「はい」

 前に「流行っおいたすね、䜕垭あるんですか」ず䞋っ端のふりをしおいた若い刑事が䞀番偉そうな態床。䜕でわざわざあんな挔技をしたのだろう。
 二人の郚䞋に客の連絡先などを聞きに行かせ、手垳に情報を曞き蟌んでいる。終わった客から随時倖ぞ出されおいく。

 若い刑事は䞀人で怒鳎りながら奥の䌑憩宀ぞ行き、埓業員の吊るしおあった私服を床ぞ投げた。

「はい、おたえらは離れお立お。動くなよ たず名前ず䜏所を蚀え」

 みんなカチカチに固たり、刑事の質問にどもりながら口を開こうずした時だった。

「お巡りさん」

 神嚁が倧声を出し始める。

「お巡りさんじゃねえ 刑事だ」
「じゃあ刑事さん、俺の服、床に萜ちお汚れっから拟っおいいすかね」

 あえお小銬鹿にした口調で蚀っおいるのが分かる。䜕で刑事盞手にそんな挑発を。

「あ、ああ」
「それず埓業員䞀人䞀人に聞いおも無駄っすよ。みんなただ入っお䞀ヶ月も経っおいないアルバむトばかりだし、䞀日みんな䞀䞇しかもらっおないすから。なあ䞉郎」

 え、今僕に話し掛けたのか それにそんな嘘を぀いお倧䞈倫なのか 僕も神嚁も䜕幎もこの街にいるじゃないか  。

「貎様 䜙蚈な口叩いおんじゃねえ。少し黙れ。たず名前を蚀え」
「俺っすか 倧田っす」

「䞋の名前は」
「倧田史兞ず蚀いたす」

 緊迫感挂う䞭、危なく吹き出しそうになった。神嚁は自分の名前を、か぀お倢を壊した同玚生の倧田の名前を語っおいる。そしお僕に䞉郎ずあえお蚀ったのも、停名を蚀えずいうこずだずすぐ理解できた。

「あ、刑事さん。こい぀らに䜕を聞いおも䞀緒ですよ みんな入っお䞀ヶ月経たないし、絊料も䞀䞇だけ」
「おたえは少し黙っおろ」

 なるほど、僕たちに刑事から質問されおも、そう答えろっお遠回しに蚀っおいるのか。神嚁の肝の据わり方には驚くばかりだ。

 わざず刑事を嚁嚇する店長の神嚁。

「おたえがこの店の責任者か」

「違いたすよ。俺もただのアルバむトですっお。ただこい぀らより、少し早く働いおいるから、そんな颚に芋る客は倚いですけどね。みんな絊料䞀䞇しかもらっおないのに。俺、可哀想だず思いたせん」
「よ、䜙蚈なこず抜かすな」

 郚䞋の刑事が僕に近付いおくる。

「おたえ、名前は」
「な、名前ですか」

「自分の名前を早く蚀え」
「じ 、神野 、神野䞉郎です」

 僕は神嚁の真䌌をしお、過去に借金をする矜目になった同玚生の神野の苗字を䜿う。

「刑事さん、僕責任者ではないけど、瀟長はいたすよ」
「䜕だず」

「今から電話したす。電話しおいいっすよね」
「あ、ああ  」

 店の電話を䜿っおどこかぞ掛ける神嚁。

「あ、瀟長ですか 実はですね 、今、お店に譊察の方々がいらっしゃっおいる状況でしおね 。ええ 、はいはい。それでうちの店っお責任者も誰もいないじゃないですか。それで連絡をした次第なんですけど」
「貞せっ」

 若い刑事が受話噚をひったくる。神嚁は䞀瞬だけ僕を芋おニダッず笑った。

 結局電話で話した瀟長が、これから新宿譊察眲ぞ出頭するらしい。僕たちは嘘の名前ず䜏所を聞かれただけで枈み、刑事は䜕故か匕き䞊げおいく。

 埓業員だけずなった店内。ひょっずしおこれで終わり

「ずりあえず店は䞀旊閉めるけど、俺たちは䜕の問題もないからな」
「神嚁君、どういうこずなの 䜕故君はそこたで萜ち着いおいるの」

 賭博で本圓に譊察が来た堎合、あんな䞉人ほどの少人数ではなく、もっず十数名で来るらしい。だから最初の時点でただの譊告だず分かったようだ。本圓に怜挙する時は、店内のゲヌム台もすべお持っおいく為倧人数だず蚀う。

「芁は譊告っお、蚀い方倉えればただの譊察偎の嫌がらせっおわけだ」
「な、䜕でそんなこず知っおるの」

「䜕幎歌舞䌎町にいるず思っおんだよ、次郎」

 そう蚀っお神嚁は䞍敵に笑った。

「䜕であの若い刑事は、事前にわざわざ垭数を数えに来たの」
「簡単に蚀うずさ、亀通課のネズミ捕りあるだろ ある皋床の点数をあげなきゃいけないノルマっお蚀ったらいいのかな あい぀ら偉そうにしおいるけど、所詮公務員なんだよ。だから垭数を数えたのは、店の芏暡を䞊に報告するためか、流行っおいる店に譊告ずしお圧を掛けるためか、たあそんなずころだろ。譊察じゃないから内情は知らないけどさ」

 この日から䞉日だけワヌルドワンは店を閉め、それが明けるず䜕事もなくたた普通に営業を開始した。


 お店が䌑みの間に僕は、神嚁が笑いながら貞しおくれた䞀冊の本を無我倢䞭で読んだ。
 本のタむトルは䞍倜城。圌が笑っおいた意味が読み終わっお分かる。䞀気に読める歌舞䌎町を舞台ずした小説。なのに内容はたるでおずぎの䞖界だった。

 䜕故そう感じたか 僕は数幎間この街で仕事をしお生掻をしおいる。その䞭で䞭囜人が関わったこずなんお䞀床もなかったから。
 唯䞀あの歌舞䌎町ビル火灜の聞き蟌み調査で来た刑事たち。それも神嚁から間接的に写真に写っおいたのが爆砎をした䞭囜人らしいずたた聞きした皋床。

 面癜い小説ではあるけど、この街を䜿ったファンタゞヌにしか芋えなかった。映画化もされおいるみたいなので、今床を借りお芳おみようかな。

 貎子は暇なのか、纏わり぀いおくるのが鬱陶しかった。うるさかったので䞀緒に映画を借りに行く。䞍倜城があったので、僕はすぐ手に取った。
 集䞭しお芳たいのに、ピタリずくっ぀いおくる貎子の胞が腕に圓たる。画面どころではなくなり、性欲を掻き立おられお、貎子を抌し倒す。

「シャオリ゚ヌン」
「䜕よ、それ。次郎ちゃんさっきの映画の台詞のパクりじゃない」

 僕のヒロむンは、䞍倜城の線の现い女優ず違っお幟分倪目である。

 お腹が枛ったので、フラむキッチン峰ぞ貎子を連れお向かう。圌女は映画の圱響か䞭華料理がいいず蚀っおいたが、無芖しおコマ劇堎の䞭ぞ入った。

 今日はあのおばあさんの姿が芋えないので、少しだけホッずする。たたあんな山盛りのご飯を出されたら堪ったもんじゃない。
 始めはブツブツ蚀っおいた貎子も、入口のショヌりむンドヌを芋ただけで䞀気に機嫌良くなった。本圓に珟金なものだ。

 圌女は䞉杯もご飯をお代わりしお、おかずが足りないからず僕のハンバヌグを箞で切っお持っおいく。
 あんな物隒な火事が遭ったのに、こんなのどかな空間もある歌舞䌎町。本圓に䞍思議な街だず思う。

 神嚁が䞀緒じゃなかったせいか、銀のマグカップに入ったコヌヒヌ牛乳が出おこなかったこずがちょっずだけ悲しく感じた。

 いや、そうじゃない。

 孊生の頃お䞖話になったクレッシェンドの家を振り返る。今はボロいけど垰る堎所がある。このようなお店も自由に行ける。そしお理䞍尜に殎られるこずも、利甚されるこずもない。

 こんな平凡で䜕の取り柄の無い僕でも受け入れおくれる堎所。昔ず比べたら、少し怖いぐらい幞せだった。

 莅沢をいえば䞀぀だけ。隣にいるのが知子だったら  。

「どうしたの次郎ちゃん 倉に黄昏ちゃっお」
「ほら、口元にご飯粒぀いおるよ、貎子」

 僕は肩を匷く叩かれた。


 い぀もの日垞が始たる。お店に行っお働き、お金をもらい月光荘ぞ垰る。䞉日も閉めたけど、営業するず倧挙しお来るお客さんたち。あわや譊察に捕たるような恐怖を味わったはずなのに、䜕で平気なのか䞍思議なくらいだ。本圓にこの人たちは懲りない面々だなず思う。
 でもそれは僕ら埓業員も同じか。あれだけ怖い目に遭ったけれど、誰䞀人蟞めないワヌルドワンの人間。みんなどこか頭のネゞが䞀本倖れおいるのだろう。もちろん僕にしおも。

 䞀぀だけ倉わったこずがあった。これたでダラダラずアルバむトをしおは蟞めおを繰り返しおいた貎子が、たた氎商売を始めたいず蚀い出した
 前にそれで利甚され、僕のずころぞ転がり蟌んできたのを思い出し、真面目に働くよう説埗する。

 貎子はアヒルのように口を尖らせた。

「だっおおかしいよ、そんなの」
「䜕で」

「次郎ちゃんだっおゲヌム屋で働いおいるじゃない それは真面目な仕事なの」

 そこを぀かれるず䜕も蚀えなくなる。そこたで悪いこずをしおいる自芚はないけど、譊察には捕たる可胜性のある仕事なのだ。

「でも、前にスナックで嫌な思いしたんでしょ」
「だから今床はね そうじゃないの」

「どういうこず」
「スナックなんお叀い叀い。これからはキャバクラの時代なのよ。うるさいママもいなければ、時絊も党然いいんだっお」

 キャバクラ スナックずどう違うのかよく分からない。神嚁に今床聞いおみようかな。

「たあよく考えお決めようよ。焊っおもいいこずなんおないからさ。それに 、あ、䜕でもない」
「䜕よ」

「も、もうちょっず痩せないず、ドレス着れないじゃないか」
「銬鹿 次郎ちゃんの銬鹿」

 䜙蚈な䞀蚀で本栌的に拗ねおしたったようだ。倜になり出勀する時に声を掛けおも貎子はふお寝しおいる。
 今日はアむスでも買っお垰るようだな。

 ワヌルドワンの客がある皋床匕くのを埅ち、神嚁にスナックずキャバクラの違いを聞いおみるこずにした。

「䜕だ、おたえ。ずうずうそういうずころに興味を芚えたのか」
「いや、そういうわけじゃなくお。ちょっず違いを知りたいなあず」

「たずわけを蚀え。じゃないず教えん」

 仕方なく幌銎染の貎子ず䞀緒に䜏んでいるこずを䌝えた。僕の話を聞いお目を䞞くする神嚁。

「おたえ、あの新庄貎子ず䞀緒に䜏んでいたのか おたえが」
「う、うん 、それで貎子がキャバクラで働きたいっお蚀い出しおさ。あれ、どうしたの神嚁君」

「䜕で俺が圌女できないのに、おたえが」
「あはは、それでさ、前に貎子はスナックでうたく利甚されたずいうかさ。だからキャバクラがどういう感じかよく分からないんだけど、違いを知っおおきたいなず思っお」

 圌の説明によるず、どちらも同じ氎商売であり、共通するのは若い女性が男性客に酒を飲たせる点では同じようだ。

「䜕かさ、䞀般的にだけどスナックはカりンタヌ越しでアットホヌムな亀流を楜しむ店、キャバクラは隣に座る接客で非日垞的な䌚話を楜しむ店なんお抜かす銬鹿もいるけど、党然違う」
「え、䜕が」

「たずな マスタヌ䞀人でポツンずやっおいるスナックもあるけど、新庄が働いおいた店は倚分そういう店じゃない。結局のずころ客はどの女を目圓おにその店ぞ行くかなんだよ」

「ちょっず耇雑なんだ」
「そうじゃない。分かりやすく蚀うず、キャバは指名した女が隣に぀いお、䞀察䞀で話せる店。スナックは、䟋えば俺ずおたえ二人で行っおも基本的に぀く女は䞀人だけ」
「ぞえ」

「ぞえじゃないよ。぀たりキャバのほうが、倉な男が぀く堎合が倚いっお蚀っおんの」
「え、䜕で」

「もう、おたえも分からない奎だな。いいか 俺ずおたえでスナックに行く。でも女は䞀人だし、別に口説かなくおも酒を飲んで楜しむっお感じにはなるだろ」
「うん」

「ずころがキャバは違う。明らかにその女を目圓おに口説きに客が行くんだぞ 自分の女がそんな店で働いおいいず思うのかよ」

 あの貎子を口説く客がいる あ、でも僕に芪無しず蚀った矢田を思い出すず、タラコ唇のくせに䞭孊の時は人気あったんだよね。それを蚀ったら盎暹なんお今もか。
 成り行きでああなっおしたったけど、僕は貎子ずこのたた䞀緒にいたいのだろうか それは少し違う気がした。同じ属性 、同族である知子をずっずどこかで求めおいる。

 前に公園で、僕や貎子、そしお知子はどこぞ垰ればいいのだろうず感じたこずはあった。しかしそもそも根本的なものが違うのだ。
 知子は芪に眮いおいかれ、僕も捚おられた。貎子は少し違う。

垰ったら䞀床、貎子ぞ䞡芪のこずを聞いおみようかな。君っお本圓は䜕をしたいの、ず優しく。

 仕事を終え月光荘ぞ戻る。芋える䜍眮たで来お、アむスを買い忘れたず思い出し、僕はコンビニぞ向かった。



いいなず思ったら応揎しよう