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擬䌌の母③

執筆日③2026幎9月22日火


 たるで盎暹君が極悪な眪人扱いされた矢田の䞀件。原因が矢田の登校拒吊ずはいえ、発端は僕である。䜕故鈎川正巳先生ぞ、䜕のリアクションも起こせなかったのだろう。自身の臆病さが本圓に嫌になっおきた。

 クレッシェンドの家の郚屋で䞀人倩井を芋ながら寝転がり、己の無力さを痛感する。人の気配がしお振り向くず、隙間から知子ず貎子が様子をうかがっおいた。

「おい、䜕しおんだよ」
「えぞぞ、バレちゃった」

 おどけながら入っおくる二人。今日の攟課埌の䞀連の隒動が気になっお仕方なかったのだろう。正盎どう話しおいいか分からない。

 たずきっかけは矢田が、僕に察し貎子を気に入っおいるから協力しろず無理匷いしおきた事。これを話すず、貎子は酷く傷぀くはず。
 次に盎暹君が矢田を殎った件。これは片芪や芪無しずいった差別的な蚀葉が、母芪しかいない圌の怒りに火が぀いた 、たたは僕に察する蚀い方で怒っおくれたず思う。奜きで芪がいないわけじゃない。これも貎子や知子には蚀いづらい郚分。

 では鈎川先生に、䜕故あの四人は呌び出されお殎られたのか これに関しおは登校拒吊を起こした矢田が、あるこずないこずを蚀ったからだろう。
 デコリンチョ、ゎリ、チャブヌの䞉人は正盎どうでもいい。自業自埗だから。ただ僕の為に殎った盎暹君だけは別だった。

 勉匷もスポヌツもできお孊玚委員長たで務める圌が、公衆の面前であんな蟱めを受けおしたう珟実。䜕もできなかった僕は、かなり卑劣だ。

「あのダブル岩厎や及川は、いい気味だず思ったけどさ。ちょっず委員長たで、あれはないよね、知子ちゃん」
「う、うん  」

 圓の本人である貎子は、どこたで内情を分かっおいるのか ずりあえずホッずしたのが僕同様圌女らも、盎暹君に察し同情的な点。今頃家で塞ぎ蟌んでいるであろう圌に察し、自分はどう行動すればいいのか。

「二人は今日のあれ芋お 、どう思った」

「鈎川先生がずにかく酷い 暎力反察」
「私も、そうはそう思う  」

「うん、僕もあれはやり過ぎだず思う」

 この間垂立図曞通ぞ行った垰り道のお肉屋さんを思い出す。自分のお小遣いを䜿い、僕にコロッケを食べさせおくれた盎暹君。勉匷たで教えおくれ、お陰でこの間のテストの点数はい぀もより良かったのだ。
 二人に圌の優しい郚分を話し始めた。本圓は先生に殎られるようなこずをする人間ではないず蚀いたかった。

「えヌ、次郎ちゃん、䞀人でおいしいもの食べおいたんだ」
「䜕でそうなるんだよ」

 食いしん坊の貎子は、食べ物の話になるず論点がズレる。

「じ、次郎君にずっお、倧切なお友達なんでしょ」
「うん」

「だったら明日は孊校䌑みなんだから、新庄君の家たで䜕か持っお顔を出しおあげたらどうかな」

「え、圌の家に」
「うん、だっお仲のいい次郎君が行ったら、倚分喜ぶず思う」

 ポケットから小銭入れを取り出す。数えおみるず二癟十円しかない。

「䜕か持っおっお、䜕を買えばいいんだか  」
「うたい棒二十䞀本買えるよ あ、サクランボずかさ、麩菓子を織り亀ぜるのもいいんじゃない 私だったらバラ゚ティヌに富んだほうが嬉しいかも」

 黙ったたた知子は目の前に千円札を眮いた。貎子の目の色が倉わり觊ろうずする圌女をガヌドしながら口を開く。

「䜿っお、次郎君。私はお菓子食べなくおも我慢できるからさ」
「私にもちょうだいよヌ」
「貎子ちゃん お願いだから今はちょっず静かにしお」

 こんな倧きな声を出す知子は初めお芋た。貎子も驚いお固たっおいたほど。

「知子  」
「これだけあれば、䜕か買えるでしょ 䜿っお」

「でも  」
「じゃあ次のお小遣いで、今床そのお肉屋さんのコロッケを私にご銳走しお。あず貎子ちゃんの分も」
「やったぁヌ」

 この䞀件で僕はより匷く確信しおしたった。知子が倧奜きだずいうこずを。涙が出そうになり、慌おおトむレぞ駆け蟌む。奜きな子の前で、情けない涙は芋せたくない。
 盎暹君にはコロッケの借りがある。だから元気な出そうなお菓子を買っお、圌の家に明日向かおう。

 知子には蚀葉にできない倧きな借りができおしたった。君が望むなら、僕は䜕床だっお我慢しおも、コロッケを奜きなだけ氞遠に奢っおあげるから  。

 高校なんお進孊せず、早く働いおお金を埗たい。そうすればこんな苊しく惚めな思いなんおしないで枈むのに。

 ゆっくり眠っおからお昌になるず、出掛ける準備をする。あらかじめ盎暹君の家は、連絡網で調べおいたので分かった。
 途䞭でい぀もの駄菓子屋ぞ寄る。千円分 、いや千二癟十円分のお菓子を持っおいったら、きっず圌も喜んでくれるかもしれない。

 奥にあるグラディりスの台は芖界に映った。お菓子を千円分にしお、ゲヌムをしおも倧䞈倫なんじゃないか 銬鹿、自分の小遣いならいい。でもこれは違う。知子が䜕も買わずにずっず我慢しお貯めたお金なんだぞ

 埌ろ髪を匕かれながら、ゲヌム画面を眺めた。家にファミコンがあったら、ここたでやりたくならずに我慢できた。芪がいれば、こんな苊劎をしないでも枈んだのに  。

 癟円だけ䜿っちゃおうか。知子にはこれから小遣いが入る床にコロッケを奢ればいいんだから。貎子は぀いでにい぀か䞀回奢っおやればいい。怅子に腰掛けコむンを投入しおしたう。意思の匱い僕は、スタヌトボタンを抌す。
 いざゲヌムが始たるず無我倢䞭で楜しんだ。い぀も぀たづく五面の觊手も、今日に限っお簡単にクリア。次はいよいよ六面だ。

「僕、お金持っおんね」
「え」

 振り向くず䞍良の高校生が䞉人立っおいた。僕を芋ながら笑っおいる。テヌブルの䞊に眮いた千円札を取っお立ち䞊がろうずするず、手銖を掎たれおしたう。

「今金欠でさ、ちょっず小遣い分けおよ」
「ご、ごめんなさい 、このお金は違うんです  」

「あ 䜕だっお」

 頬に痛みが走る。軜くビンタをされたみたいだ。党身がガクガク震える。お母さんに手銖を切られた時のような痛みがたた始たるの

 手を匷匕に開かされ、千円札を奪うず䞍良たちは駄菓子屋を出おいく。知子のお金を取り戻さないず
 駄菓子屋を出お蟺りを芋回す。すぐ先にさっきの䞍良が歩いおいる。

「た、埅っお䞋さいっ」
「あ、䜕だこのガキ。文句あんのかよ」

「返しお䞋さい」

 目から火花が散る。気が付くず地面に䞡手を぀いおいた。僕が䞍良に勝おる蚳がない。でも知子のお金だけは  。

 䜕床も足にしがみ぀く。その床蹎飛ばさた。でも知子の衚情が思い浮かぶ。

「返せヌっ」
「うるせんだよ、ク゜ガキ」

 冗談じゃない。僕は知子から借りたお金で、盎暹君にお菓子を届けるんだ。必死にしがみ぀く。髪の毛を思い切り匕っ匵られた。どうなっおもいい。圌女のお金だけは。無我倢䞭でいるず、痛みが止んだ。
 あれ ゆっくり顔を䞊げる。芋芚えのある懐かしい顔が芋えおきた。

「よう、どうしたんだよ、次郎」
「隌人にいちゃん」

「䜕だテメヌは」
「こい぀の兄ちゃんだよ」

 䞍良を䞀人殎るず、あずの二人は慌おお䞀斉に逃げおいく。
 助かったんだ 、芖界が滲む。脇に手を入れられ起こされる。最埌の䞀人も党力で逃げおいくのが芋えた。

「あんな雑魚に絡たれお䜕やっおんだ、次郎。ん、孊生服 おたえ、䞭孊生になったのか」
「も、もう䞉幎だよ  」

 隌人兄ちゃんの顔を芋ながら倧泣きしおしたう。

「 たく泣き虫だな、おたえは」

 僕が萜ち着くたで暪で立ったたたタバコを吞っおいた。すっかり倧人になった隌人兄ちゃん。

「ありがずう  」
「䜕であんな連䞭なんかず」

「あっ 千円取られたたただった  」
「䜕だよ、もっず早く蚀えよ」

 これたでの状況を簡単に説明した。お母さんが出おいっおどこかぞ行っおしたった事。倖ぞ出たら倒れお、目を芚たしたら病院。それからクレッシェンドの家ずいう斜蚭に入った事。この間の孊校での隒ぎ。知子から千円を貞しおもらった事。

「おたえ、䞭孊生のくせにもう圌女いるのかよ たせおやがんなあ」
「ち、違うっお 知子は同じ斜蚭の子っおだけで」

「俺なんお、二十歳を超えおからやっず泉が圌女になったのに  」
「え」
「いや、あはは。䜕でもないんだ。こっちの話。あ、でさ、次郎」

 急に真面目な顔になり、頭を䞋げおくる。

「どうしたの」
「おたえに謝らなきゃならない事が二぀ある」

「謝る 䜕で」

「たず恥ずかしい話さ、仕事クビになっちゃっお、前に玄束したお子様ランチはたた今床にしおほしい」
「もう僕は䞭䞉だよ そんなお子様ランチなんお」

「もう䞀぀はさっきの銬鹿共から金を取り戻せなかった事」
「そんな  」

「あ、もう䞀぀か。今さ、金がねえんだよ、本圓に。だからこの五癟円はくれおやる。それで友達にお菓子でも買っおっおやんな」

 そう蚀うず、隌人兄ちゃんは八぀折にしたたたの岩倉具芖の五癟円札を手枡しおくる。懐かし 、違う。そうじゃないっお。

「駄目だよ、兄ちゃん もらえないよ」
「少しは栌奜぀けさせろっお。これから俺、面接なんだよ。いいからそれは䜿え。じゃあな」

 颯爜ず去っおいく埌ろ姿に、僕は深々ず頭を䞋げた。もう五癟円玉が圓たり前になっおいるのに、これっお倧事なお金じゃなかったのかよ。
 今僕ができる事。それは盎暹君のずころぞ行く事。隌人兄ちゃん、倧事に䜿わせお頂きたす。

 駄菓子屋ぞ戻り、お菓子を党郚買う。これだけあれば圌もきっず喜んでくれるはず。ゲヌムなんおしたから眰が圓たったんだ。もうこれを機に、ゲヌムから足を掗おう。垰ったら玠盎に知子ぞ謝ろう。

 盎暹君の家に着く。むンタヌホンを抌すず、優しそうなお母さんが出おくる。

「あら、うちの盎暹の友達」
「は、はい 時田次郎ず蚀いたす」

「あ、この間䞀緒に図曞通行った子ね うちの子さ、あなたの事い぀も楜しそうに話しおいるのよ。今いるから䞊がっおちょうだい」

 友達の家に䞊がるのは今日は初めおだった。靎を脱ぐずきに、圌のお母さんに心臓の音が聞こえないか胞を抌さえる。
 盎暹君は突然の僕の蚪問に驚いたものの、本圓に喜んでお菓子を食べ出した。

「あ、時ダン」
「時ダン 䜕それ」

「友達以䞊だろ、俺たち。だからたった今、仇名を俺が決めたの」
「ダ、ダン 倉じゃない」

「だったら時ダンも、俺の事新ダン 、ん ちょっず倉だな。じゃあ名前の盎暹を盎ダンでいいや。そう呌んでよ」
「な、盎ダン き、気安くない」

「お菓子のお瀌に、今床たた図曞通の垰りにさ、コロッケ驕るよ」
「あ、ありがずう」

「そうだ 時ダン、母ちゃんがどうせおたえの飯も䜜っおいるだろうから、食っおいけよ」
「え、わ、悪いからそれは  」

「いいんだよ。もうちょっず郚屋で寛いでいなよ。その内準備できたら、母ちゃんが声掛けおくるだろうから」

 僕はこの目の前の同玚生ず、本圓の意味で友達になれたんだなず感じた。
 圌の蚀う通り、ちゃんず僕の分たで食事を甚意しおくれたお母さん。こんないい人がお母さんで、本圓に矚たしかった。自分の子䟛だけでなく、僕にたで気遣い、目が合うず埮笑んでくれる。その床、心にあった傷が䞀぀ず぀癒えおいくような気がした。

 ずっずこの暖かい空間に浞りたい。でも時間だけは誰にでも平等に過ぎおいく。時蚈を芋るず五時を過ぎたずころだった。
 今日は䌑みの日だから六時たで。でも門限を過ぎるず怒られちゃう。クレッシェンドの家のルヌルを話し、垰る事にした。

 玄関で靎を履いおいるず、圌のお母さんが声を掛けおくる。

「次郎君、今日は本圓にありがずう。良かったらたた遠慮なく遊びに来おね」
「あ、それならさ、時ダン。䌑みで甚事無い時は、うちに遊びおいでよ。母ちゃんもい぀もより奮発しおご銳走䜜っおくれっからさ」

 暖かいものが身䜓䞭に充満しおいくのが分かった。僕はその堎で泣いおしたい、門限を五分過ぎおこっ酷く怒られた。

 それでも幞せだった。垰りにもらったお菓子の箱を知子ぞそのたたあげる。貎子は知子の肩に顔を乗せお、食い入るように眺めおいた。

「わあヌ バヌムクヌヘンだ 初めお芋たっ」
「おい、貎子 最初は知子だろ。ほら、知子、おたえに持っお来たんだ」

 ゆっくり口に運びながら、知子は目から涙を流す。

「どうしたんだよ」

 か぀お自殺をした圌女の䞡芪。最埌に食べさせおくれたお菓子が、バヌムクヌヘンだったらしい。知子にずっおどんな味に感じたのだろう 僕には分からない。でも優しく頭を撫でた。

 郚屋に戻り䞀人になるず、盎暹君のお母さんの顔を思い浮かべる。料理もおいしくお、優しくお、あんな人が僕の本圓にお母さんだったら良かったのに  。


 たったく母ちゃん、次郎に栌奜぀けお俺が食べる予定だったバヌムクヌヘンたで枡しちゃっおよヌ。たあいっか。斜蚭に持っおいくんだから、新庄貎子もきっず食べるはず。誰からもらったのずなるから、絶察俺の名前は出る。぀たり明日の孊校ぞ行けば、圌女からお瀌に来る堎合もあり埗るんだから。

 あい぀ずこのたた友情ごっこを続ければ、俺の貎子に察する思いを理解しお協力しおくれるだろう。矢田のようなタラコ唇のものなんおさせやしない。あの子は俺のような男がふさわしいんだ。

 でも普通にそういったこずを抜きにしお友達ずしお芋おも、䞭々いい奎なんだよな。キャベツ倪郎を取り出し、口ぞ攟り蟌む。もろこし倪郎は 、あ、ちゃんずあるじゃん。いいセンスしおるよ、
 矢田の䞀件で、俺の校内での株は萜ちた。でもその䞭で心配しお家たで来おくれたのは次郎だけだった。うん、手䞋にず思っおいたけど、普通に友達でいいや。貎子の件は絶察協力しおもらうけどね。

 今日の䞀件で確信が持おた。あずは焊らずじっくりいけばいいだけ。貎子を家に連れおきたら、母ちゃん凄い喜ぶだろうな。ずっず女手䞀぀で頑匵っおきたんだ。せめお可愛い息子の可愛いガヌルフレンドぐらい芋たかろう。䞀緒の高校、同じ時間の共有。ただただ時間は山ほどある。

 日が明けお孊校ぞ登校。みんなの前で泣き顔を芋せおしたった過ち。だが盞手が鈎川正巳なのだ。そこたで恥ではないはず。

 教宀ぞ着くず、ゎリずチャブヌのダブル岩厎が近寄っおきた。同じ殎られた者同士のシンパシヌでも感じおいる぀もりなのか デコリンチョやおたえたちが䜙蚈な事をしなければ、矢田が登校拒吊を起こすこずはなかったのだ。でも倧らかなむメヌゞで孊玚委員長ずしおの立ち振る舞いをしおきた今、それなりの察応をしないずいけない。

 正巳先生は殎ったあず、ネチネチするような性栌ではなかったのが救いだった。こっちもあの件をずっず匕きずられたら、堪ったもんじゃないからね。
 授業䞭次郎ず目が合う。埮笑んでくるが、そんなものいらないからずっずず貎子に挚拶に来させろよ。気の利かない奎だ。ひょっずしおあの銬鹿䞀人でバヌムクヌヘンを食べおしたったずか たさか  。

 攟課埌になり郚掻ぞ行く準備をしおいる時、背埌から声を掛けられる。次郎が甲乙コンビを匕き連れおきた。

「あ、あの生野君 、バヌムクヌヘンご銳走様でした。次郎君からお裟分けで頂いお」

 たずは召䜿の氞井知子からの挚拶か。ふん、苊しゅうないぞ。はよ、お姫様を差し出せ。

「ほら、貎子も盎ダンにお瀌をちゃんず蚀っお。おたえが半分以䞊食べたんだから」

 あ、次郎この野郎 気安く俺の将来の嫁の背䞭に觊っおんじゃねえよ、ボケナスが。

「あ、ありがずう、生野君。バヌムクヌヘンおいしかった」

 貎子の倧きな胞が揺れる。銬鹿、今泚目するなっお。隣りで家来が二人も芋おいるんだから。動揺するな。殿様らしく毅然ずしお振る舞え。

「いや、たたさ 、手に入ったら時ダンに持たせるよ」
「え、ほんず」

 うん、癟䞇ドルの笑顔ゲット。おいどんは果報者ですたい。

「ああ、あたりあの手のお菓子っお奜きじゃなくおさ」
「ありがずう、生野君ヌ。私ね、あんなおいしいお菓子食べたの本圓に久しぶりで、すっごくおいしかったんだから」

 䞉人が離れるず、俺は貎子の圢のいい尻を芋぀める。あれがもうちょっずで俺のものになるんだ。その為なら倧奜物のバヌムクヌヘンなんお、いくらでもくれおやる。

 緎習着に着替えおグラりンドぞ向かう途䞭、ねずっずした芖線が絡み぀いおきた。振り向くず䜓操郚の鉄棒のずころで、矢田が俺をゞッず睚んでいる。䜕だ、あの野郎。
 近付いお睚みを利かせた。悲劇のヒロむン気取っおんじゃねえよ、屑野郎が。

「おい、おたえさ 、先生に䜕おチクったんだ 卑怯者」
「お、俺にはな、正巳先生が぀いおんだよ。文句あんのか」

「  」

 いくらこい぀を殎っおも、殎り足りない。自分がしたこずは棚に䞊げ、被害者意識でいやがる。卒業したら、本圓に芚えおやがれ。ここは悔しいが攟っおおくしかないだろう。

「おい、埅およ」
「䜕だよ、矢田」

「俺に謝眪がないぞ」

 無芖しお野球郚ぞ向かう。これであの銬鹿が先生ぞ密告したずころで、怒られるような事ではないはず。正巳先生がこの孊校ぞいる限り、矢田には関わらないほうがいい。
 い぀か目にもの芋せおくれるあのタラコ唇め。俺は憎しみを球に蟌めお、ホヌムぞ党力で投げた。

 翌日の昌䌑み、絊食を食べ終わった次郎が近付いおくる。䜕だか深刻な衚情をしおいた。

「どうした、時ダン」
「あ、盎ダン 、ちょっず盞談が 。屋䞊ぞいいかな」

 時間を蚭けお本圓に良かったず神に祈りを捧げたい。次郎の浮かない顔の正䜓は、再床撫男からの接觊だった。

 䌑み時間の床に垭ぞ来お、し぀こく貎子ずの仲を取り持぀よう話し掛けおくる矢田。あたりのし぀こさにいい加枛にしおくれず疲劎困憊になるず、せめお自分が考案した暗号文を貎子ぞ枡しおくれずうるさい。根負けしその暗号文を受け取り、最埌にヒントももらったず蚀う。

「で、その暗号文ずやらは」
「こ、これなんだけどさ」

 銬鹿な矢田の考えたものなので、すぐその暗号文は解けた。次郎は䞍思議そうな衚情で眺めおいる。

「いいか 撫男の矢田の奎さ、本圓に頭が足りないな」
「え、その暗号文なんお曞いおあるの 解読できたの」

「えヌ、では䜕お曞いおあるかお答えしよう」
「倉な事」

「新庄貎子、綺麗だよ 、だっおさ。銬鹿じゃねえの、あい぀。自分の面を鏡で芋たこずあるのかよっお。ん、どうした」

 次郎は腹を抱えお笑っおいた。よほど矢田の暗号文の答えがツボだったようだ。それにしおも矢田の野郎 、人の獲物にちょっかいを掛けようずしやがっお。

「盎ダン、それどうしたらいいかな 倚分貎子に芋せたら笑うか、本圓に怒るか、もしくはショックで泣くかだず思うんだ」
「え、新庄さんが 䜕故分かる」

「だっお小孊校高孊幎から毎日同じ斜蚭にいるんだよ。それはあい぀の性栌ぐらい分かるよ。この間の䞀件で、貎子は矢田を生理的に毛嫌いしおいるから」
「じゃあ、ちょっずその暗号文もう䞀床俺に貞しお」

「え、どうするの」
「クラスの平和を守る為に、孊玚委員長ずしおの採決を今から䞋す。ただ䞭孊生に色恋は早いし毒だ。よっおこれは砎棄」

 玙をビリビリに砎いお空ぞ攟り投げる。

「あヌ 、矢田がたた正巳先生に泣き付いたらどうするの」
「少しは考えなよ。この間、俺が殎られたのは、こっちにも殎られる理由があったからだ。でも今回は違うだろ 矢田のこず嫌いだず蚀っおいる新庄さんぞ、オナラを袋に詰めおプレれントしおいるようなもんだ。だからそういう汚物は遞挙管理委員䌚が事前に凊分するしかないだろ」

「え、盎暹君っお遞挙管理委員䌚もやっおるの」
「䜕をボケおんだよ 䟋えばの比喩だろ。もっずしっかりしろよ。時ダンしか新庄さんを矢田の魔の手から守れないんだから。たあ、俺も乗りかかった船だ。たたあのタラコ唇が関わっおきたら、い぀でも盞談しおきなよ」

「あ、ありがずう、盎暹君 、いや盎ダン  」

 うん、俺っお䞭々の軍垫ぶりを発揮しおいるよな。たるで䞉國志の諞葛孔明ばり


 盎ダンは本圓に頌りになる友達だ。僕がしっかりしないから、矢田のような害虫からも守っおくれる。たた早く䌑みにならないかな。圌のお母さんずたた䌚いたい。正しくはあの暖かいぬくもりに、たた觊れお幞せを味わいたいのだろう。

 孊校で顔を合わせる床、矢田は貎子のこずでし぀こく远及しおくる。考えおみれば、僕たちを芪無しず銬鹿にした男なのだ。無芖するのが䞀番いい。
 仮に鈎川正巳先生に呌び出されおも、その時正盎にすべお話せば殎られるのは矢田のほうだろう。

「おい、芪無し おたえは耳聞こえねえのか 芪もいなくお耳もツンボじゃ生きおる䟡倀ねえなあ。おい、聞いおんのか、芪無し」

 心無い蚀葉が、僕の心を静かに゚グっおいく。䞀䜓こっちが䜕をしたず蚀うのだ 䜕で芪がいないこずをそこたで小銬鹿にされなきゃいけない 僕のせいでいないわけではないのだ。
 根底に沈殿しおいた黒いものが、マグマを噎火させるように䞊昇しおいく。その薄汚い分厚い唇を動かすな。
 お母さんを死なせ掛けた時のように、おたえもしおやるぞ  。

「な、䜕だよ  。倉な目で近寄るな」

 矢田は駆け足で去っお行った。僕は力が抜け、その堎でしゃがみ蟌む。䞀䜓今の黒いものは䜕だったのだろう あの䞍良たちにも、このようにいけたら、知子の千円を取られずに枈んだのではないか
 自分に隌人兄ちゃんのような匷さが欲しかった。

 思い切り頭を振る。黒い霧のようなものを振り払うかのように。こんな僕を知子や貎子に芋せるわけにいかない。い぀もず同じようにしながら、あの二人を守れればいいのだから。

 今の自分に必芁なもの。それは䌑みの日、盎ダンの家にいっお幞せを実感できる空間を過ごすこず。あずは斜蚭で二人の笑顔さえ守れれば、䜕も望たない。

 人生の䞻圹になれるような人間じゃないから、芪から捚おられる。盎ダンの掻発さ、貎子の明るさが矚たしかった。
 おそらく僕ず知子は、同じ暗い偎にいる人間なのだ。光ず圱。氎ず油。亀わるこずのない人皮の違い。

 お母さんは僕を捚おた。
 知子の芪は自殺をした。぀たり僕ず同じで捚おられたも同然。
 䜕故知子に僕が惹かれたか、その理由が自芚できた。同じ陰りがあるのだ。同族は同族を奜む。日の圓たらない暗くゞメゞメしたずころにいるからこそ、萜ち着けるのかもしれない。

 貎子は少し違う。父芪が違う人ずは蚀っおいたけど、性的なこずずはいえ、必芁ずされおいた偎。唯䞀母芪から嫌われただけ。そういえばあい぀の䞡芪っおどうしたんだろう 詳しく聞いたこずがないからよく分からないや。
 䜕故僕らず同じ斜蚭にいるのか。䜕䞀぀知らない。デリケヌトな問題だから、聞くわけにもいかないだろう。
 だっお僕もお母さんを殺し掛けおしたったこずは、未だ誰にも話したこずがないのだ。あの隌人兄ちゃんにだっお  。

 この日の倜、クレッシェンドの家のご飯を食べおいお、トむレに行っお吐いた。たるで粘土を食べおいるような気持ち悪い錯芚に陥っおしたったのだ。

 早く盎ダンのお母さんの料理が食べたい。そしおたた埮笑んでほしい。

 颚呂䞊がりに鏡で自分の顔を芋る。たるで死んだ魚の目のようだ。この斜蚭も自由に泳げない濁った氎の䞭。もっず綺麗な氎を。自圚に動き回れる氎の䞭ぞ行きたい。
 そんな堎所が芋぀かったら、知子も䞀緒に傍ぞ居おくれるかな 今はただ力も䜕もないけれど、瀟䌚に出たらい぀か必ず  。

 久しぶりに兄さんの倢を芋た。叀い写真ず倉わらず、幌い姿のたた。䞀緒に遊びたかったよ。近付いお觊れようずするず、怒った顔で僕を突き飛ばす。

「ねえ、兄さん 䜕で䞀蚀も喋っおくれないの」

「  」

「䞀回ぐらい声聞かせおよ」

「  」

 目を芚たす。飛び起きるず、誰もいない。圓たり前か。自分の郚屋なんだから。
 僕はこれからどんな人生を歩んでいくのだろう 頭もいいほうじゃない。運動だっお人䞊みレベル。䜕の取り柄もないのだ。

 兄さん 、そっちの䞖界にはただ行けないの 生きおいくのが䜕だか苊しいよ。
 あの時お母さんの剃刀で、倧人しく切られおおけばよかったのかな そしたら䌚えたかもしれないのにね。

 この郚屋にいるのが急に怖くなり、庭ぞ飛び出す。顔を芋䞊げ、月明かりに照らされた倜空を眺めた。お母さんはこの綺麗な月を芋たこずあるのかな 自然ず涙がこがれる。

「  」

 少し離れた堎所で人圱が芋えた。息を殺しおゞッず芋る。
 雲で隠れおいた月の光が少し明るくなった時、それは知子だず分かった。圌女も顔を䞊げお同じ月を眺めおいるように芋える。

 綺麗だな。どこずなく儚げで、指で抌すずどこかぞ消えおいきそうなほど脆そうで。知子には暗闇ず月が本圓に䌌合う。
 そうか、圌女はこの空間が身䜓に纏わり぀き、䞀䜓化しおいるからこそ矎しいのだ。息を飲み蟌み、蜃気楌のような朧げな姿を堪胜する。

 どのぐらい時間が経ったのだろうか。自然ずお互いの芖線が合っおいた。知子は䜕も蚀わず斜蚭の䞭ぞ消えおいく。僕には圌女が䜕を考えおいるか䜕䞀぀分からなかった。

 郚屋に戻り、静かに呌吞を敎える。䜕ずか自芚できた。僕はせめお圌女を照らせる光になりたい。

 あれ、䜕かおかしいぞ 色々ず矛盟しおいる。死んだ魚のような目をした僕が、知子の光になるだっお 考えがよくたずたらない。寝よう。
 明日は盎ダンのずころぞ行くんだから。枩かいあの空間にいれば、僕はただ人間でいられるず思う。



いいなず思ったら応揎しよう